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グリホサートの有益性と 安全性 共著: エイドリアン・ヘルド、ジェームス・ハドソン、 ラリー・マーティン、ウィリアム・リーブス 2016 7 月発行

グリホサートの有益性と 安全性4 については非常に多くの誤った情報がある。一方、さまざまな主張を詳細に検証すると、それら が再現可能なエビデンスによって裏付けされていないことが分かる。

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Page 1: グリホサートの有益性と 安全性4 については非常に多くの誤った情報がある。一方、さまざまな主張を詳細に検証すると、それら が再現可能なエビデンスによって裏付けされていないことが分かる。

グリホサートの有益性と

安全性

共著:

エイドリアン・ヘルド、ジェームス・ハドソン、

ラリー・マーティン、ウィリアム・リーブス

2016 年 7 月発行

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目次

1. エグゼクティブサマリー ......................................................................................................... 3

2. グリホサートの有益性 ............................................................................................................. 4

2.1 グリホサート耐性作物システムに見る農業における有益性 ............................................ 5

2.1.1 農業における使用場面の拡大と他の除草剤からの転換 ............................................ 5

2.1.2 生産者レベルでの有益性 ............................................................................................ 6

2.1.3 保全耕起への影響 ....................................................................................................... 8

2.1.4 グリホサート耐性作物の米国の農産物輸出における価値 ....................................... 10

2.2 非グリホサート耐性作物に見る農業における有益性 ...................................................... 11

2.2.1 果樹園とブドウ園 ..................................................................................................... 12

2.2.2 コムギ ....................................................................................................................... 13

2.2.3 サトウキビ ................................................................................................................ 14

2.2.4 被覆作物 ................................................................................................................... 15

2.3 農業以外での有益性 ........................................................................................................ 16

2.3.1 幹線道路、線路、ライフラインの敷設用地 ............................................................. 16

2.3.2 レクリエーション関連 .............................................................................................. 18

2.3.3 侵襲性の難防除雑草 ................................................................................................. 19

2.3.4 水生雑草 ................................................................................................................... 21

2.4 除草剤抵抗性雑草の防除 ................................................................................................. 21

2.5 グリホサートが利用できなくなった時に予想される影響 .............................................. 23

2.6 政策に関する考察 ............................................................................................................ 25

3. グリホサートの安全性 ............................................................................................................... 28

3.1 グリホサートの環境動態と毒性 ...................................................................................... 29

3.2 グリホサートの生態毒性 ................................................................................................. 29

3.3 グリホサートとミツバチ ................................................................................................. 30

3.4 グリホサートと土壌細菌 ................................................................................................. 30

3.5 グリホサートに関するよくある主張 ............................................................................... 30

3.5.1 グリホサートはがんの原因にならない .................................................................... 31

3.5.2 グリホサートは内分泌かく乱物質ではない ............................................................. 33

3.5.3 検知可能な量のグリホサートが残留していても健康上の懸念とならない ............. 34

3.5.4 グリホサートは母乳に蓄積しない ........................................................................... 34

3.5.5 グリホサートは腎臓疾患の原因にならない ............................................................. 35

3.5.6 グリホサートは消化器微生物に害を及ぼさない ..................................................... 36

3.5.7 グリホサートはさまざまな障害や疾病の原因にならない ....................................... 36

3.5.8 グリホサート除草剤の界面活性剤は誤解を受けやすい .......................................... 37

3.5.9 グリホサートは金属をキレート化することで作物を傷つけない ............................ 37

3.5.10 グリホサートはミツバチの健康リスクにはならない ............................................... 38

3.5.11 オオカバマダラ蝶の支援のための協力が進行中 ..................................................... 38

3.5.12 グリホサートは両生類の幼生に毒性を持たない ...................................................... 38

4. 結論 ............................................................................................................................................ 40

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1.

エグゼクティブサマリー

グリホサートは、不要な植物を簡単、安全かつ効果的に防除するために、農業生産者や土地管理

者、園芸家に使用されている用途の広い除草剤である。1974 年の発売以来、グリホサートを有効

成分とする除草剤は、米国で最も広く使用される除草剤になった。これほど広く使われるように

なったのは、幅広い雑草を防除できるグリホサートの実力、その大きな経済的・環境的有益性、

そして優れた安全性プロファイルの結果である。グリホサートについては、米国環境保護庁(EPA)

の再登録の手続きが申請中であり、農業生産者、土地管理者、園芸家がこの雑草防除の重要なツ

ールを今後も継続して利用できることが極めて重要である。

米国の作物栽培における除草剤の使用量は、合成除草剤の登場した 20 世紀中頃から 1980 年代ま

で、労働量、燃料および機械の利用を低減できる除草剤の強みを背景に、順調に増加してきた。

1990 年代中頃にグリホサート耐性作物の市場導入が始まるとともに、グリホサートは他の除草剤

に代わって使用されるようになった。特定の除草剤に耐性のある作物がなかった時代、生産者は

耕起または手作業による除草を行ったり複雑な除草剤使用計画に従ったり、一部の雑草について

は防除を諦めざるを得なかった。それが、グリホサートを有効成分とする除草剤はグリホサート

耐性作物と組み合わせることで、使いやすさ、低い毒性、浸透移行性の有効成分が利用できるよ

うになり、雑草防除が簡素化され、農業世帯の必要労働量も軽減した。また、グリホサートを有

効成分とする除草剤によって、不・減耕起栽培を採用しやすくなり、土壌資源の保護、水質の保

全、土壌中からの二酸化炭素の排出削減にも寄与している。グリホサート耐性作物の導入が広が

った結果、グリホサート耐性作物由来の穀物は米国の農産物輸出において年間約 330 億ドルを占

めている。

グリホサートを有効成分とする除草剤は、グリホサート耐性作物との組み合わせで使用されるも

の以外でも、多くの農業・非農業の現場で、経済的かつ効果的な雑草防除を実現している。作物

自体にグリホサート耐性がなくても、多数の作物で容易かつ効果的な雑草防除ができるからであ

る。グリホサートを使えば、換金作物の作付け前に被覆作物を簡単かつ機械に頼らずに除去でき

るため、被覆作物(カバークロップ)も導入しやすくなる。農業以外では、高速道路、鉄道、ラ

イフライン用地等の雑草防除をグリホサートで低コスト化できる。レクリエーションの環境では、

グリホサートによって費用対効果の高い景観保護機能や美観の維持管理が可能になる。侵襲性の

雑草の防除を求められる土地管理者にとっては、野生生物の生息環境の再生の補助策としても欠

くことのできない選択肢である。また、水生雑草の除草剤としてのグリホサートは、レクリエー

ションや航行の妨げとなる水生雑草の防除に有効な、機械に頼らない防除の選択肢となっている。

グリホサートを有効成分とする除草剤の安全性は、農薬製品についてまとめられた世界で最も広

範なヒトの健康と環境への影響に関するデータベースの一つによって、裏付けられている。また、

この 40 年間にわたって行われてきた数々の包括的な毒物学的研究や環境動態研究が、幾度となく、

この広く使用されている除草剤の優れた安全性を立証してきた。グリホサートは、ヒトや動物が

体内で生成できない、植物だけにある酵素を阻害することによって作用する。したがって、ヒト

や非植物の野生生物には長期・短期いずれの暴露でも毒性は低い。がんの原因にならず、内分泌

かく乱物質でもない。環境中ではグリホサートは土壌と強く結びつき、やがて分解され、食物連

鎖の中で濃縮されることはない。この優れた安全性プロファイルにもかかわらず、グリホサート

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については非常に多くの誤った情報がある。一方、さまざまな主張を詳細に検証すると、それら

が再現可能なエビデンスによって裏付けされていないことが分かる。

グリホサートが将来にわたって利用できることは、農業における環境的・経済的持続可能性が促

進されることを意味する。その多用途性は、幅広い環境において雑草防除の形を変えてきた。不

要な植物を効果的に防除できるグリホサートの実力は、個人の農場から世界の貿易へ、国立公園

からゴルフコースまで、地方自治体から園芸家にまでと大きく広がる有益性をもたらす。これら

すべての理由から、グリホサートは「100 年に 1 つの除草剤」と呼ばれるようになった。この重

要な技術を今後も継続的に利用できることは、極めて重要である。

2.

グリホサートの有益性

農業生産者から土地管理者まで、雑草防除を必要とする人なら誰でもグリホサートの有益性を理

解している。効果の点だけでなく、利用が簡単で労働を削減できるという点でも有益である。農

業分野でのグリホサート耐性作物システムの利点は、特に生産者レベルで十分に立証されている。

機械による雑草防除の必要性を減らし生産コスト全般を削減することで、グリホサート耐性作物

は、農業収入にとどまらず農産物輸出市場でもかなりの部分を支えている。グリホサートの有益

性は、グリホサート耐性作物を利用しない農業システムにも広がっている。一方、農業分野以外

では、グリホサートは幹線道路の路肩、地上のライフライン用地や線路の敷設用地等で雑草を防

除する主要な手段になっている。芝生の管理や、陸上・水上に蔓延したりする難防除雑草の拡大

を阻止するのにも重要な役割を果たしている。

グリホサートとその使用に耐えられる作物を組み合わせることで、農業は変化を遂げた。労働力

と機械使用の削減に加えて、この技術の採用によって労働が軽減して農業外所得の増加に結びつ

いている。グリホサート耐性品種は、トウモロコシ、ワタ、ダイズの生産者の雑草防除を大幅に

簡素化した。テンサイ生産者にとっても雑草競合がなくなることと、作物にダメージを与える除

草剤の使用を減らすことで収量が増加した。また、グリホサート耐性作物の採用は、保全耕起の

導入の可能性にもつながる。この保全耕起自体が土壌流亡の防止と水質の改善、二酸化炭素排出

の軽減という利点を持っている。グリホサート抵抗性雑草が出現しているが、この問題は多様な

雑草管理計画の策定・採用により管理が可能である。今日、グリホサート耐性作物は、米国の主

要な畑作物の根幹をなしており、年間輸出で 330 億ドル以上を占めるとされている(Gfk Seed

Service 2016 からの計算; USDA-FAS, 2016)。

グリホサート耐性作物の栽培がない場合でも、グリホサートは雑草管理の簡素化と機械耕起の削

減によって大きな利点を提供している。果樹園やブドウ園では、生産性確保のために効果的な雑

草防除が必要である。このような生産現場では、果樹やブドウの根元に生える植物の防除にグリ

ホサートが不可欠なツールである。コムギ栽培では、グリホサートにより土壌の水分保全に役立

つ不耕起農法が可能になり、より利益の上がる作物との輪作が容易になる。サトウキビ栽培でも、

グリホサートが雑草防除だけでなく収穫の質の改善に役立つ。グリホサートはまた、換金作物の

作付け直前に被覆作物を除去する簡単で効果的な方法であるため、後作物による制約を気にせず

に被覆作物を導入することができる。

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農業以外の環境では、グリホサートは幹線道路等敷設用地での費用対効果の高い雑草管理を可能

にする。例えば、幹線道路の中央分離帯の雑草管理に関する経済分析では、グリホサートは何回

もの草刈り作業と他の除草剤を使用する管理方法よりも 275%低コストであった(Tjosvld and

Smith, 2010)。ゴルフコース管理者にとっては、休眠中の芝へのグリホサートの使用により、フ

ェアウェイの広い部分を更新しなくても各種雑草を管理することができる。また、水の使用を減

らせる景観デザインへと改修するために芝を除去する際の容易な手段ともなる。グリホサートは

侵襲性雑草の管理にも非常に有益である。国立公園で外来植物を徹底して防除するためにグリホ

サートが利用されているほか、水生環境では機械による除草の代わりに除草剤を用いて、航行を

確保したり在来野生生物を締め出してしまう雑草を除去している。

このような幅広い用途を持つグリホサートは、米国内で最も信頼され最も広く利用される除草剤

の一つになっている。グリホサート耐性作物との組み合わせだけでなく非グリホサート耐性作物

に用いることでも農業に有益性を示し、世界の需要を満たす十分な収穫を確保するために必要な

柔軟性を生産者に提供している。そして農業以外の用途でも、地方自治体、ライフライン・鉄道・

環境の管理者にとって、グリホサートの簡単で費用対効果の高い雑草防除が役立っている。この

技術を継続的に利用できることが、こうした有益性を将来にわたって享受するために不可欠であ

る。

2.1 グリホサート耐性作物システムに見る農業における有益性

グリホサートが及ぼしている最も注目すべき、また経済的に重要な影響は、グリホサート耐性作

物との組み合わせによって実現された農業実践の変革である。グリホサートのような非選択性除

草剤とその除草剤に耐性を持つ作物を組み合わせることで、耕起や手作業を削減でき、簡単で効

率的な雑草防除が可能になった。グリホサート耐性作物(ダイズ、ワタ、トウモロコシ、カノー

ラ、アルファルファ、テンサイ)の発売・採用後、グリホサートは他の複数の除草剤に取って代

わり、雑草防除のコストを削減し、これら作物の雑草防除に必要な労力を軽減した。グリホサー

トとグリホサート耐性作物の組み合わせによって、特にダイズ、ワタ、テンサイの生産者の保全

耕起が簡素化された。グリホサート抵抗性雑草の出現はあるものの、グリホサートは今も農業全

般で大いに有用な手段となっている。今日、グリホサート耐性作物は米国のトウモロコシ、ダイ

ズ、カノーラの輸出の基盤であり、米国農業に大きな経済的利益をもたらしている。

2.1.1 農業における使用場面の拡大と他の除草剤からの転換

グリホサートは現在、米国のトウモロコシ、ワタ、テンサイ、カノーラ、ダイズの作付面積の大

半で使用されており、作物によっては他の除草剤と組み合わせて使われる傾向にある。グリホサ

ート耐性作物の発売前、ダイズ生産者には作物へのダメージが少なく広葉雑草を防除できる茎葉

処理除草剤の選択肢はほとんどなかった。現在グリホサートはこれらの作物に最も広く使われる

除草剤であるが、他の雑草防除法と組み合わせて使われることも多い。米国農務省経済研究局

(USDA-ERS)のデータによると、ダイズ栽培におけるグリホサートの単独使用は 2006 年に全

米ダイズ作付面積の 89%とピークを記録したものの、この数字は 2012 年までに約 50%にまで減

少した(Livingston et al., 2015)。トウモロコシでは、アトラジン等の雑草発生前(土壌)処理除

草剤が一般に使用され、単独除草剤としてグリホサートを使用しているのはわずかな面積だけで

ある(Livingston et al., 2015)。ただし、全般的な傾向としては、1990 年中頃からグリホサート

の使用量の増加に伴って、他の除草剤の使用量が減少している。

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米国地質調査所(US Geological Survey:USGS)の分析によると、アラクロール、シアナジン、

フルアジホップ、メトラクロル、メトリブジン、MSMA、ニコスルフロン等の除草剤は、グリホ

サートの使用が増え始めた 1990 年代初めから中頃以降、使用総量が大きく減少する傾向にある

(USGS-NAWQA, 2016)。アトラジンは1990年代中頃までに広く使われていた唯一の除草剤で、

その使用はグリホサート耐性作物の発売後も実質的に変わらなかった。トウモロコシにおいては

今も雑草発生前(土壌)処理除草剤として最も広く使用されている。一方、雑草発生後茎葉処理

が可能なグリホサートによって、重要な雑草種を防除しながら他のほとんどの除草剤の使用をひ

かえるようになった。Nolte 及び Young(2002a)は、1990 年代後半のグリホサートの使用増加

の大きな要因として、アセト乳酸合成酵素(ALS)(イミダゾリノン、スルホニル尿素等)と光合

成系 II 阻害剤(アトラジン等のトリアジン系)に抵抗性のある雑草種の出現を指摘した。Kniss

(2016)は、4~6 種類の除草剤を年に 3~6 回、5~10 日の間隔で使用する方法(一部は環境条

件によってはテンサイに害を与えうる)に代わって、グリホサート耐性テンサイにグリホサート

を 2~3 回使用する方法が用いられていると報告した。入手可能なデータから見る限り、グリホサ

ートの簡便さと他の雑草防除策を補完できることが理由で、グリホサートの採用が進んだことは

明らかである。

2.1.2 生産者レベルでの有益性

グリホサート耐性作物が商業ベースで栽培され始めた最初の 10 年間に、USDA の研究者は、生産

者がこの作物を選ぶ具体的な理由を検証し始めた。研究者らはこの技術を採用した生産者は農業

外所得が高いことを指摘し、農場管理に必要とする労力の削減が農業以外での労働に利用できる

時間を増やしたという仮説を立てた(Fernandez-Cornejo et al., 2005)。その後の USDA の研究で、

除草剤耐性ダイズの採用は農業外世帯所得の増加と関連性があることが明らかになり、グリホサ

ート耐性ダイズに伴う必要労働量の削減がその要因であると結論した(Fernandez-Cornejo et al.,

2007)。Gardner ら(2009)は、USDA の農業資源管理調査のデータを分析することにより、こ

の関連性が事実であることを立証した。517 エーカー(約 210 ha)を有する平均的ダイズ生産者

は、除草剤耐性ダイズの採用によって必要労働量を 14.5%低減していることが分かった。これに

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より生育期の労働時間が合計で 94.5 時間低減して、農業以外の雇用を含め他の活動に利用できる

時間を創出した。Marra 及び Piggott(2006)も、除草剤耐性作物を栽培する生産者は手に入れ

た労力の削減に経済的価値を見出していることを報告した。

グリホサート耐性作物の発売後最初の数年間の研究を見ると、なぜ農業生産者がこれほど迅速に

グリホサートを雑草防除戦略に取り入れたのかについて、更に理解が深まる。トウモロコシ・ダ

イズ・コムギの輪作の研究で Swanton ら(2000)は、グリホサートが他の除草剤ほど雑草を防除

できなかったケース(単回使用の場合等)でさえ、雑草防除のコスト削減により経済的効果は良

好であったことを明らかにした。Johnson ら(2002)は、グリホサート耐性トウモロコシを導入

した生産者の投入コストを計算し、このシステムの投入コストは従来のトウモロコシより高いも

のの純利益は同程度であり、グリホサートは使用のタイミングがより柔軟であることを明らかに

した。グリホサート耐性テンサイが利用できるようになる前は、生産者は概して複雑で集中的な

除草プログラムを作った上で、更に耕作地の約 40~60%は手作業の除草をしなければならなかっ

た。ノースダコタ州とミネソタ州のテンサイ生産者の調査では、グリホサート耐性テンサイが利

用可能になるまでの毎年、平均で 45%の生産者が生産上の最大の問題として雑草を挙げているこ

とが示されている。グリホサート耐性テンサイの採用後は、この割合が15%以下に低下した(Kniss,

2016)。

効果的な雑草防除に果たすグリホサートの役割に関する研究の多くが、抵抗性を管理するために

複数の作用機序を用いることの重要性を指摘している。ただし、Reddy 及びWhitting(2000)は、

グリホサート耐性ダイズの発売後に、なぜ多くのダイズ生産者が雑草管理の単独の機序としてグ

リホサートを使用するようになったのかについての見解を示した。雑草発生後に処理するのグリ

ホサートだけでも、雑草発生前処理除草剤と雑草発生後に処理するグリホサートとの組み合わせ

と同様の除草管理効果があることをこの研究は明らかにした。

同様に、Kniss ら(2004)は、グリホサート耐性テンサイは、生育期に 3 回の使用で実現される

グリホサートの最大の利点によって雑草防除が向上した結果、従来種よりも有意に大きな経済的

利益をもたらすと報告した。ダイズ畑における雑草防除法の比較においても、複数回のグリホサ

ートの使用が最大の経済的利益を生むとされた(Culpepper et al., 2000)。こうした有益性は、グ

リホサートが単独または雑草発生前処理除草剤との組み合わせで使用されたときに生まれる。ダ

イズの雑草防除法の比較において、Nolte 及び Young(2002b)は、最大の純利益はグリホサート

の雑草発生後処理除草剤としての単独使用と関連性があることを示した。関連するトウモロコシ

における雑草防除法の経済性と効率性の研究でも、Nolte 及び Young(2002a)は、最大の純利益

は雑草発生後処理除草剤としてのグリホサートの使用と結び付いていることを示した。この 2 つ

の Nolte 及び Young の研究ではいずれも、これ以外の雑草防除プログラムは作物へのダメージが

ある、または使用タイミングの柔軟性が低いとされた。

ワタ生産者も、グリホサートを有効成分とする除草剤とグリホサート耐性作物の組み合わせが商

業利用できるようになった後、この技術の有益性を早期に実感した。ワタの成長は緩やかで、生

育期初期の雑草競合による影響を受けやすい。その結果、従来型の雑草防除プログラムは、雑草

の発芽と成長を抑制するために、作付け前の耕起と播種前・雑草発生前・雑草発生後・畦間処理

という複雑な除草剤の使用に大きく依存していた(Givens et al., 2009a; Shaner, 2000; Young,

2006; Sosnoskie and Culpepper, 2015)。グリホサート耐性ワタの発売後、生産者がこの新しいシ

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ステムを推進するために雑草防除プログラムをどのように修正するか研究者らは検証した。

Askewら(1999)は、グリホサート耐性ワタがワタ栽培の雑草防除を大幅に簡素化し、収量と利

益のばらつきを軽減し、他の雑草防除プログラムと比較して利益性を向上させる傾向にあること

を報告した。同様に、Culpepper 及び York(1999)も、グリホサート耐性ワタにグリホサートを

使用する方法は、従来の雑草防除プログラムと同様の収量と経済的利益をもたらすにもかかわら

ず、除草剤による薬害や後作物への薬害や残留のリスクなしで、茎葉処理ができる利便性がある

ことを証明した。

グリホサート耐性作物が雑草防除にもたらす柔軟性と相対的な簡便性を生産者が直接体験するよ

うになり、この技術の導入は急増した。グリホサート耐性作物の発売 17 年後にあたる 2013 年ま

でに、ダイズの 90%以上、ワタ及びトウモロコシの 80%以上が除草剤に耐性のある種子を使っ

て栽培され(Fernandez-Cornejo et al., 2014)、グリホサート耐性種が優位を占めるようになった。

グリホサートの有益性を検証した複数の研究は、グリホサートが耐性作物と組み合わせて使用さ

れるときに、生産者に直接の経済的利益があると結論した(Gianessi, 2008; NRC, 2010)。年ごと

の経済的利益の正確な規模は、ほとんどグリホサートの価格によって決まる(Brookes and Barfoot,

2015)。また、Brooks 及び Barfoot(2015)は複数の研究から得たデータを総合し、年間の純利

益はトウモロコシで 1 ha 当たり 24 ドル、ダイズで 36 ドル、ワタで 22 ドル、カノーラ等のその

他の作物で 52 ドルと試算した。

その後 Brooks 及び Barfoot(2016)は更に、グリホサート耐性種が優位になっているカテゴリー

について、除草剤耐性作物から得られる全米の農業所得を計算した。入手可能な最新のデータと

して 2014 年、全米の年間の農業所得のうち 10 億 8,000 万ドルは除草剤耐性トウモロコシによる

ものであった。除草剤耐性トウモロコシの発売以降、この技術は農業所得に累積で 61 億ドルをも

たらしている。除草剤耐性ダイズについては、2014年の農業収入の 1億 6,510万ドルに相当した。

除草剤耐性ダイズの導入以降、この技術は農業所得に累積で 129 億 3000 万ドルをもたらしてい

る。除草剤耐性ワタでは 2014 年の農業収入で 4,750 万ドル、発売以降の累積収入では 10 億 7,000

万ドル、除草剤耐性テンサイでは 2014 年の農業収入で 5,330 万ドル、2007 年の発売以降の累積

で 3 億 4,800 万ドルの農業収入をもたらしている。

USDA-NASS のデータから、グリホサート抵抗性雑草が発生しても、米国の生産者がグリホサー

トを有効成分とする除草剤の有益性を今も認識していることを確認できる。2015 年、ワタとダイ

ズの生産者はそれぞれ作付面積の 88%と 97%でグリホサートを使用しており、トウモロコシ生

産者では 77%である(USDA-NASS, 2016)。米国の生産者はグリホサートから転換するのではな

く、他の管理方法を取り入れて雑草管理と収量向上をめざしている。トウモロコシとダイズの生

産者は、抵抗性雑草の見回り、他の作物との輪作、異なる作用機序の除草剤の導入等を行ってい

る(Livingstone et al., 2015)。ワタでは、化学的防除・耕作法による防除・機械的防除を含むよ

り多様な雑草管理システムが利用されており、グリホサートもそのシステムの一部として含まれ

ている(Sosnoskie and Culpepper, 2014)。

2.1.3 保全耕起への影響

グリホサートや他の除草剤に耐性がある作物の栽培は、不耕起栽培を含む保全耕起の導入とも関

連性がある(Fernandez-Cornejo et al., 2014)。除草剤耐性作物は雑草防除を簡素化し、作物管理

の柔軟性を向上させるからである。Klein 及び Wicks(1986)と Ramsel ら(1987)が、グリホ

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サート耐性作物が利用できるようになる前の時代に行われていた一連の輪作作物の不耕起栽培に

ついて、必要な除草剤の使用計画を説明している。そこでは作物生産と雑草管理のベストバラン

スを決定するため、輪作計画とともに除草剤の選択を重視する必要性が述べられている。その複

雑さの大部分は、残留によって後作物に害を与える恐れのある非選択性除草剤で雑草を防除しな

ければならないことから生じている。残留せずに同じ雑草を防除できるグリホサートによって、

この問題は解決された。

米国科学アカデミー(National Academies of Sciences:NAS)による 2016 年の遺伝子組換え作

物がもたらした影響に関する報告は、除草剤耐性作物の採用と一般的な保全耕起との間に因果関

係を確立することは難しいとしている(NAS, 2016)。しかし、この報告は、除草剤耐性作物(特

にダイズ、ワタ、テンサイ)の採用後の保全耕起の増加と耕起作業の減少を認める複数の研究が

あることを確認している。また、除草剤耐性作物を採用する生産者は、何らかの形の保全耕起を

実施する確率が高いことも認めている。更に、グリホサート抵抗性雑草を管理する必要のある地

域では、直接雑草を防除するため、または他の除草剤を土壌にすき込むために、耕起が増える場

合もあるとしている。

保全耕起と除草剤耐性作物の採用との関連性は、ダイズ、ワタ、テンサイで最も強い。保全耕起

とグリホサート耐性ダイズの採用の関連性について、グリホサート耐性ダイズは保全耕起法の採

用に直接影響することをある分析が明らかにした。すなわち、グリホサート耐性ダイズの採用が

1%増えることで保全耕起が 0.21%増加した(Fernandez-Cornejo et al., 2012)。その後、2012 年

の USDA の農業資源管理調査(Agricultural Resource Management Survey)で、米国で栽培され

るダイズの約 97%が除草剤耐性であり、米国のダイズ生産者の 70%が保全耕起を実施している

ことが明らかになった(USDA-NASS, 2014)。

保全技術情報センター(CTIC)の 2004 年の報告書(Fawcett and Towery, 2004)は、グリホサー

ト耐性ダイズの導入後数年間(1996 年~2000 年)を検証している。その結果、この期間にダイ

ズにおける不耕起農法は 2,020 万エーカーから 2,550 万エーカーに増加し、保全耕起は 2,690 万

エーカーから 3,220 万エーカーに増加していることが分かった。一方、ダイズの従来型耕起は

1,920 万エーカーから 1,890 万エーカーへとわずかに減少していた。2000 年までに栽培面積にし

て不耕起ダイズの 74.5%、保全耕起ダイズの 63.9%、従来型耕起ダイズの 52.9%では、グリホサ

ート耐性ダイズが栽培されていた。CTIC は、グリホサート耐性作物の利用によって不耕起と保全

耕起のいずれも可能になったと結論した。

グリホサート耐性作物の利用により、ワタ生産者は幅広い競合種の防除のためにグリホサートを

作物の上から安全に使用できるようになり、ワタの雑草防除は大幅に簡素化された。これが更に、

多くの生産者が保全耕起システムと発芽後中心の雑草管理プログラムへと継続的に移行するのを

促した(Givens et al., 2009b)。更に最近では、グリホサート耐性テンサイが商業利用可能になっ

て、ネブラスカ州、コロラド州、ワイオミング州のテンサイ耕作地のうち 5 万エーカー以上が、

何らかの形の省耕起または保全耕起に転換した。グリホサート耐性テンサイの発売前、雑草を十

分に防除するには集中的な耕起が必要であったため、テンサイでの保全耕起はありえなかった

(Kniss, 2016)。

保全耕起は、多くの十分に裏付けられた利点を生産者や一般市民さらに環境全体にもたらす。燃

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料や労働コストの削減から土壌侵食の軽減、野生生物の生息場所の増加、水質・大気質の改善ま

でと幅広い(CTIC, 2015)。従来型の耕起には鋤を使いながら 5 回も往復が必要である一方で、不

耕起はわずか 1 回ですむ(播種のため)。パデュー大学の報告では、保全耕起を行う生産者は 500

エーカー(約 200 ha)の耕作地で年間 225 時間の労働を削減できると計算している。これは週

60 時間労働として 1 年で 4 週間分に相当する(Staropoli, 2015)。不耕起栽培で作物残渣を利用

することで、土壌による水のろ過と保持が劇的に増加する。これは流出する水が減り、作物にと

っては利用できる土壌水分が増えることを意味する(Staropoli, 2015)。

USDA の全米資源インベントリ−(National Resources Inventory)は、ミシシッピー川上流域の

農業生産者は作付面積の 91%で保全耕起を取り入れていることを明らかにした。USDA はまた、

このような保全農法はミシシッピー川上流域で風食の 64%、水食の 61%を軽減していることも

指摘した(UNDA-NRCS, 2012)。Brookes 及び Barfoot(2016)は、1996 年の発売以来、除草剤

耐性作物は米国内で二酸化炭素排出量を 3,940 万トン削減したと計算している。これは保全耕起

が容易になるためである。モンサントが委託した ICFインターナショナルによる報告(ICF, 2016)

は、除草剤耐性作物によって保全耕起の導入が拡大されるため、2016 年から 2030 年の間に 3,200

万トンの二酸化炭素が削減されると試算した。

不耕起栽培や保全耕起は、ノースカロライナ州の耕作地では極めて大きな価値があります。グリ

ホサートは幅広い広葉・細葉の雑草を防除できるだけでなく、不耕起栽培や従来型の耕起された

土地での被覆作物の管理にも役立ちます。ノースカロライナの山麓地帯の丘陵では、浸食を防ぐ

ために不耕起栽培が必要です。東部では、不耕起は時間的な価値と金銭的な価値を生んでいます。

被覆作物や作物残渣を土壌表面に残すことで、平らで砂っぽい土地でも風食を防ぐことができま

す。従来の雑草防除では鋤を引くたびに時間と費用を費やし、土地は風食を受けやすくなります。

一方、グリホサートで不耕起農法の農地でも多くの雑草を防除し、使用のタイミングの柔軟性も

向上します。作付けを妨げたり遅らせたりする残留物が土壌にとどまることがなくなります。グ

リホサートが利用できなくなったら、恐らく不耕起の面積を減らして、他の除草剤の使用を増や

すことになるでしょう。

ノースカロライナ州立大学

作物学ウィリアム・二ール・レイノルズ記念教授

アラン・ヨーク博士

2.1.4 グリホサート耐性作物の米国の農産物輸出における価値

さまざまな作物の輸出額を使って、米国のグリホサート耐性作物に由来する作物輸出額を推定す

ることができる。チャネリングや分別生産流通(identity preservation)がないと仮定して、グリ

ホサート耐性作物が米国の農産物輸出にもたらす価値は、作物生産に占めるグリホサート耐性作

物のシェアと輸出額との積で表すことができる。表 1 は、トウモロコシ、ダイズ、ダイズミール、

ダイズ油、ナタネ混合物(rapeseed complex)(カノーラ由来製品)の輸出額を 2010 年から 2014

年の年平均で示したものである。年平均としての計算することで、農産物価格の変動を加味でき

る。

表のデータから、グリホサート耐性ダイズが米国の輸出市場価値のほとんどをけん引しているこ

とは明白である。米国科学アカデミー(NAS)内部の米国学術研究会議(National Research

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Council:NRC)の 2010 年の報告は、多数の報告と研究を検証し、除草剤耐性ダイズが利用可能

になったことが米国と他国、特にアルゼンチンとブラジルでのダイズ栽培の増加の一因となった

としている(NRC, 2010)。NRC は更に、ダイズが入手しやすくなったことが価格を引き下げ、

食物・飼料としてより利用しやすくなったと見ている。NRC は、家畜生産のコストの半分は飼料

代であるため、飼料価格の低下は世界中の家畜生産者に大きな利益をもたらすとしている。

表 1:作物別米国におけるグリホサート耐性種に起因する年平均輸出額(2010~2014 年)

商品 輸出額(単位:100 万ドル)1

トウモロコシ $8,321

ダイズ $19,658

ダイズミール $4,141

ダイズ油 $1,060

ナタネ混合物 $138

合計 $33,317

1輸出額は USDA 海外農業局 輸出クエリーセールスシステムからの算出。各グリホサート耐性作物の市場シェアは GfK

SeedService より

NAS の所見の影響は、世界の需要、特にダイズ、ダイズミール、ダイズ油の需要を満たすために

グリホサート耐性作物が果たしている役割を検証することで理解できる。ダイズの世界最大の輸

入国である中国は、世界で取引されるダイズの 3 分の 2 を輸入し、国内需要の 85%以上を輸入ダ

イズに依存している。うち 88%以上がグリホサート耐性作物である(USDA-FAS と GfK シード

システムのデータから算出)。

中国に次いで、EU も年間約 1,900 万トンのダイズミールを輸入している(USDA-FAS、2016)。

EU が輸入するダイズミールの約 95%は米国、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、パラグアイ、

ウルグアイからの輸入である。これらの国で栽培されるダイズの 80%以上がグリホサート耐性で

ある(USDA-FAS, 2016; GfK SeedService, 2016)。これら 6 カ国合計で年間約 5,000 万トンのダ

イズミールが輸出されている(USDA-FAS, 2016)。つまり、6 カ国で最もグリホサート耐性ダイ

ズの割合が低い国(カナダ 80%)で計算しても、少なくとも 4,000 万トンが毎年取引されている

ことになる。最後に、世界最大の人口を抱えダイズ油の最大の市場である中国とインドの両国は、

グリホサート耐性ダイズを絞って生成したダイズ油の輸入に大きく依存(85%以上)している

(USDA-FAS と GfK SeedService のデータから算出)。

栽培が開始されてから最初の 20 年で、グリホサート耐性作物は、生産者にとっての簡単な雑草防

除法から、輸出国・輸入国の貿易の基盤となるまでに大きく成長した。この重要なテクノロジー

の利用を維持することは、生産者レベルでの生産性だけでなく、世界の食料安全保障のためにも

極めて重要である。グリホサート耐性以前の農法に戻ることは、必要労働量や環境負荷、一般に

取引される商品の入手可能性等に大きな影響を与えるであろう。とりわけ、グリホサートを使え

なくなると他の農業システムでの雑草防除だけでなく、農業以外の場面の雑草防除も困難なもの

になると考えられる。

2.2 非グリホサート耐性作物に見る農業における有益性

グリホサート耐性作物の利用のない農業システムにおいても、グリホサートは雑草防除の簡素化

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と機械耕起の必要軽減によって大きな有益性を提供している。グリホサートの製品表示に基づく

用途には、グリホサートに耐性作物の対象ではない数百の作物と作物群が含まれる。こうした用

途の例を見ると、グリホサートに耐性のない作物であってもグリホサートが有益であることが明

らかになる。例えば、果樹園やブドウ園では生産性を確保するために効果的な雑草防除が必要で

ある。このような状況では、グリホサートは他の雑草防除法の費用対効果の高い代替法となる。

サトウキビ栽培では、グリホサートが作物管理の中心的役割を担っている。コムギでも、グリホ

サートが土壌の水分を保全できる不耕起栽培の採用を可能にし、より利益率の高い作物との輪作

ができるようになった。グリホサートはまた、さまざまな栽培システムでカバークロップ(被覆

作物)を導入する取り組みを容易にする。除草剤効果の残留による後作物の制限を生じることな

く、作付けの直前に被覆作物を除去する簡単で効果的な方法を提供するからである。グリホサー

トは遺伝子組換えにより耐性を持たせた作物への使用と組み合わせることが多いが、これに限ら

ず幅広い作物生産システムでグリホサートの有益性は生産者に認識され、生産性の維持に役立っ

ている。

2.2.1 果樹園とブドウ園

年間を通じた果樹園経営の成功と無害な収穫作業のためには、土壌がよく管理されていることが

重要である。果樹園の土壌は 2 つの部分に分けられる。一方は果樹の列の間の部分(通常は多年

生の被覆作物かイネ科植物が植えられている)、もう一方は果樹の直下の部分である。果樹列の間

の多年生の植物は流亡を最小限にし、土壌の通気や浸透性を向上させ、雨季にも果樹園内の機械

の移動を容易にする(Crassweller, 2016)。

雑草は果樹やブドウの木との競合やさまざまな害虫の宿主となることで、果樹園及びブドウ園の

生産性と健全性に影響を及ぼす(Mitchem, 2016; UCIPM, 2015)。2011 年に USDA が実施した果

物に関する化学品使用調査(Chemical Use Survey)では、リンゴの栽培面積の 25%、桃の 16%

でグリホサートが使用されていた(USDA-NASS, 2012)。グリホサートは直接果樹やブドウに接

触するとダメージを与える可能性があるものの、さまざまな状況で果樹園・ブドウ園の土壌を管

理するための有用なツールである。果樹・ブドウは、除草剤処理された多年生の芝に播種するこ

とが多い。グリホサートは作付けの前に芝を除去するために使用され、また、生育期を通じて果

樹の周りに雑草のない領域を確保するために使用されている(Gardner, 2011; UCIPM, 2015)。

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Connell ら(2001)は、アーモンド園における雑草防除の 3 つの方法を比較した。2 つはグリホ

サートを含む除草剤プログラムであり、残りは通常の草刈りである。グリホサートを含む除草剤

プログラムでは雑草の密度が低く、草刈り単独よりも草のない土地の割合が増加した。グリホサ

ートを含む除草剤プログラムは必要労働量も少なく、果樹の根の周りの土壌を固めてしまう果樹

園内の機械の往復が少なくなった。また、コーヒーのプランテーションでは、グリホサートは生

産性を阻害するつる植物の防除に使用される。Kauai Coffee Company は、グリホサートは経営に

不可欠の除草剤であるとしている(Alexander and Baldwin, 2009)。グリホサートはこのような多

用途性を持つゆえに、果樹園やブドウ園の管理における雑草防除計画の重要な手段になっている。

他の除草剤や管理戦略と組み合わせると費用効果の高い安全なツールになり、雑草防除効果を最

大限に高め、最終的には収量も増加する。

2.2.2 コムギ

コムギは、栽培面積でも総収益でも、米国の農作物としてトウモロコシとダイズに次いで第 3 位

の規模である。米国で栽培されるコムギは、播種の季節によって冬コムギと春コムギに分類され

る。雑草は水分、光、空間、栄養を奪い合うことでコムギの収量を減らしてしまう。また、雑草

は収穫を妨げ、きょう雑物や穀粒品質の低下を招く場合もあり、コムギにおける雑草の経済的影

響を更に助長する。

チートグラス(cheatgrass)やヤギムギ(jointed goatgrass)のような冬のイネ科の一年草は、コ

ムギとの競合が激しく防除が難しいことから、コムギ栽培では最も難防除雑草になっている。コ

ロラド州では、秋にヤギムギがコムギと一緒に発芽した場合、冬コムギの収量が 28%も減少した。

早春にヤギムギが同じ密度で発芽したときは、コムギの収量は 8%減少しただけであった(Lyon

and Klein, 1997)。ヤギムギ等の扱いにくい雑草を防除するには多角的なアプローチが必要である。

春の最初の雑草防除にグリホサートを使用することが重要な防除法である。グリホサートはヤギ

ムギ等のイネ科雑草の防除に非常に効果的であり、コムギの作付け前、または収穫後にコムギの

刈り株の成長を管理するために使用されることも多い(Schmale et al., 2008)。

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不耕起農法や保全耕起農法は、コムギ栽培において浸食を軽減する効果的な方法である。作物残

渣は土壌表面を豪雨による浸食から保護しながら、より多くの水が土壌に浸透するのを促す。保

持された土壌水分は、トウモロコシ等のより利益の多い二番作の栽培に利用される。過去にはコ

ムギ生産者は冬コムギに頼っており、1 回に 12 カ月以上も農地を生産せずに放置する休閑輪作に

甘んじていた。しかし、追加の輪作作物も栽培する不耕起で管理されたコムギの栽培面積の割合

は、中部と北部グレートプレーンズの合計で、1989 年に総面積の 5%未満であったものが 20%以

上にまで上昇した(Hansen et al., 2012)。コムギの不耕起栽培は、浸食を 90~95%軽減する

(Shroyer et al., 1997)。コムギ栽培における不耕起栽培の面積の割合は、グレートプレーンズで

過去 26 年間に 15%以上増加した(National Wheat Foundation, 2015)。グリホサートは、コムギ

の不耕起栽培で作付け前・作付け時・作付け後のいずれかに最も多く使用されるが、コムギの発

芽前にもコムギと競合する雑草を最小限にするために使用される。雑草が土壌水分を取らないよ

うに収穫後に休閑期の使用も行われる。2015 年、冬コムギの栽培面積の 14%でグリホサートが

使用されている(USDA-NASS, 2016)。

2.2.3 サトウキビ

商業的に栽培されているサトウキビのグリホサート耐性種はないが、グリホサートはこの作物の

栽培と収穫にも重要な役割を果たしている。米国ではサトウキビはフロリダ州、ルイジアナ州、

テキサス州、ハワイ州で生産されている。サトウキビは国内で生産される砂糖の約 45%に相当し、

フロリダ州とルイジアナ州が生産量の 90%を占めている(USDA-ERS, 2016)。サトウキビの価

格はサトウキビの重量に対して回収可能な砂糖の重量で決まり、これに基づいてサトウキビ生産

者は支払いを受ける。これは糖度重量(theoretical recoverable sugar;TRS)を使って算出され

る。ショ糖濃度が高いサトウキビの品種は処理する業者にとって経済的であるが、フロリダ州と

ルイジアナ州の生育期は他のサトウキビ生産地よりも短いため、TRSが概して低くなってしまう。

サトウキビの熟成は、さまざまなストレスや日長が短くなることによって誘発される。そこで、

グリホサート等の除草剤を使用して熟成を促し、ショ糖の含有量を増やし、収量の損失を最小限

にする。

サトウキビ生産者はサトウキビの枯死しない程度の薬量のグリホサートを収穫の 4~7 週間前に

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使用し、成長を抑え、ショ糖の蓄積を刺激する(Gravois et al., 2013)。USDA-ARS のサトウキビ

研究所で行われた最近の調査では、収穫期の初め(8 月または 9 月)に散布すると TRS が 39%

上昇することが示された(Dalley and Richard, 2010)。43 種のサトウキビを対象とした研究では、

グリホサートを収穫期の初期に使用した場合に、ショ糖含有率が 12~15%増加することが分かっ

た。Morgan らはサトウキビの品種ごとに反応が異なることも示している(Morgan et al., 2001)。

グリホサートはまた、サトウキビ生産において作付け前の休閑期の雑草防除に必要とされている。

また発芽後にサトウキビとの接触を避ける遮蔽散布により雑草に使用することもある。各種の雑

草防除法についての研究で、グリホサートの発芽後 1 回使用は、未処理の対照群と比較してサト

ウキビの収量は 2 倍以上となり、3 回の鍬入れ作業による手作業防除と比較しても同程度の雑草

防除と収量が得られた(Sing and Kaur, 2004)。また、Hawaiian Commercial and Sugar Company

は、グリホサートは、サトウキビ畑における多年生雑草の発芽後管理のための唯一の有効な手段

であると報告している(Alexander and Baldwin, 2009)。

2.2.4 被覆作物(カバークロップ)

被覆作物は、土壌流亡の軽減、土壌有機物含有量の増加、土壌による空気と水のろ過作用の向上、

土壌の圧縮の軽減等多くの利益をもたらす(Kladivko, 2011)。更に、モンサントの委託を受けた

ICF International による 2016 年の報告(ICF, 2016)では、被覆作物が温室効果ガスの削減の可能

性を持っていることが示された。被覆作物がもっと広く導入されれば、2030 年までに 1 億 1,700

万トンに相当する二酸化炭素が削減できるとしている。被覆作物は、そのほとんどが営農上の利

益のために植えられ、種子や果実や飼料を目的に収穫されるのではない点が独特である。よって

被覆作物は生産作物の作付け前に除去される。被覆作物については関心が高まりつつあり、2013

~2014 年の保全技術情報センター(CTIC)の調査結果からは、調査回答者の中で被覆作物の面

積が、2010 年から 2013 年の間に年間 30%も増加していることが明らかになった(CTIC, 2014)。

一方で、被覆作物は適切に除去されないと雑草になる可能性があり、土壌の乾燥や春の温度上昇

を遅らせることもありうる。また、連邦穀物保険を受けるにも、生産者は収入作物の発芽前に被

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覆作物を除去しなければならない(USDA-RMA, 2015)。したがって、除去方法が信頼でき、完全

な管理が可能であることが重要になる。SARE-CTIC の被覆作物調査の回答者の半数近くが、被覆

作物の除去のために除草剤を使用していた(CTIC, 2014)。グリホサートは被覆作物の除去のため

の標準的な除草剤である。一年生ライグラス(ryegrass)、ライムギ(cereal rye)、エンバク(oats)

は被覆作物として利用されるイネ科の植物として一般的である。グリホサートはこれら 3 種のす

べてを効果的に管理するために利用できる。ベニバナツメクサ(crimson clover)やノエンドウ

(Austrian winter pea)は、春に除去が必要な一般的なマメ科の植物である。グリホサート単独ま

たは 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸との組み合わせで、これら植物の除去がかなり可能である。更

に、グリホサートは作付け制限がなく、除草剤の薬害のリスクなく被覆作物の刈り跡に作物を播

種することができる(Harzler, 2014; Legleiter et al., 2012)。

2.3 農業以外での有益性

農業以外でも、グリホサートは交通機関の安全性やライフラインの信頼性、環境再生、レクリエ

ーション等を促進する多くの活用法がある。連邦法や州法は、交通機関の沿道の雑草管理を義務

付け、有害な侵襲性難防除雑草の管理のための具体的な対策を命じている。グリホサートは多く

の幹線道路や鉄道でこの要件を満たすための重要なツールになっている。

例えば、幹線道路の分離帯の雑草管理に関する経済分析では、グリホサートは複数回の草刈り作

業や他の除草剤といった方法より 275%も低コストであった。

ライフラインの敷設用地においては、グリホサートは信頼できる電力の送電を妨げる植物を防除

するための簡単で有効な方法となる。また、難防除雑草や侵襲性雑草の管理にも重要な利益をも

たらす。例えば、国立公園は、侵襲性の植物の徹底的な防除や生息環境の保護のためにグリホサ

ートを使用している。水生環境では、航路を確保し野生生物の生息場所を維持するために、発生

した水生雑草の機械的な管理に代わってグリホサートが使用されている。管理された競馬場の芝

等レクリエーションの環境では、休眠期の芝にグリホサートを使用することで、望まない雑草や

イネ科の植物を防除できる。また、ゴルフ場の管理者は全交換の必要なしに、良好な費用対効果

でフェアウェイを修復できる。よく知られた農業での使用以外にも、このような環境での多用途

性がグリホサートを雑草防除の重要なツールにしている。

2.3.1 幹線道路、線路、ライフラインの敷設用地

州政府や地方政府、ライフラインや鉄道は、その管理用地内に生える不要な植物を防除しなけれ

ばならない。道路沿いでは、管理の行き届かない植物は運転者の視界を遮り、道路標識や動物や

障害物を見えにくくする。植物による妨げで適切な排水が行われないと、道路上には雨水や雪が

堆積してしまう。度を越えた植生は火事のリスクにもなる(Eck and McGee 2007; Green et al.,

1996)。線路敷設用地の植物についても、電車の運転士だけでなく線路に近づく自動車の運転者

にも適切な可視性を維持するため、管理が行われなければならない。更に、植物は火事のリスク

になったり、上空の架線に接触したり、電車の目視や電子機器によるモニターの妨げになったり、

列車の車輪と線路でつぶされるとブレーキの効率が悪くなったり、加速や減速が妨げられたりす

る(Progressive Railroading 2008; Amec Forster Wheeler, Inc. 2015)。連邦軌道安全規則でも、

路盤に直接隣接した線路敷地内の植物の管理を命じている(49 CRF 213 §37)。ライフラインの

敷設用地についても、乾燥した植物に起因する火事のリスクは信頼性の脅威となる。機器や電線

へのアクセスも必要であるため、雑草管理が必須である。

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敷設用地内の雑草防除としては、機械による除草、除草剤、管理下の焼却が考えうる。しかし、

多くの地域で地形上の理由で植物管理に機械的方法の利用ができず、焼却は安全性や環境上の懸

念がある。グリホサートのような非選択性除草剤は、すべての植物に対する管理が必要な領域で

でき、個別の雑草または雑草群を管理するスポット処理としても利用できる。更に、植物の根を

含む完全な除草ができる浸透移行性の除草剤である。

複数の州と国で行われたさまざまな研究で、グリホサート使用による経済的利益を詳述している。

ワシントン州交通局は、グリホサートが用地の管理に不可欠な存在になりうると認識していた

(Ryan et al., 1978)。その後の 2003 年、同局は除草剤を使用した用地雑草管理の費用は 97 万

9,217ドルであり、除草剤を使用しない場合は215万1,422ドルに上ると報告した(WSDOT, 2003)。

オハイオ州ヒルズボロ郡の道路 6,500 マイル(約 1 万 km)に及ぶ雑草管理コストの分析では、草

刈りの代わりにグリホサートを含む除草剤を組み合わせて使用することで、年間 100 万ドル以上

が節約できることが示された(Gallagher, 2013)。カリフォルニア州サンタクルス郡の研究では、

雑草管理からグリホサートを排して草刈りだけにすると、幹線道路の管理コストが 275%上昇す

るという結果になった(Tjosvold & Smith, 2010)。

アーカンソー州の電気協同組合のために実施された 2010 年の調査では、機械的な方法は植物を

再成長させ、望まない植物の茎の数を増やしてしまうことが示された。また、除草剤を対象植物

に使用すると根を含む植物全体を除去でき、茎の数を 35~50%低減することも分かった。初回に

除草剤による十分な除草を行うことで、長期的に使用される除草剤の量を低減できる。これは、

より好ましい植物が好ましくない植物の生息場所を奪うからである。この研究は、敷設用地管理

の 6 年間の長期コストが草刈り単独よりも 5,000 万から 7,000 万ドル削減されることを示した

(Finley Engineering, 2010)。

線路わきの雑草管理のためにグリホサートを含む除草剤を使用する価値が注目されたのは、1983

年から 2010 年に、アラスカ鉄道コーポレーション(Alaska Railroad Corporation)が、機械によ

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る刈り払いや手作業、スチーム、焼却等で敷設用地の植物を管理しようとしたケースである。こ

のような努力では十分な雑草管理ができず、路線の維持ができなかったことに対してこの鉄道会

社は罰金を科せられた。この罰金が、グリホサートを含む総合的な植物管理の計画の採択に結び

付いた(ARRC, 2016; Bluemink, 2010)。一方、バーモント州モントピーリア市でも同様の鉄道で

の除草剤使用を制限する取り組みが始まり、具体的には、線路の 2 マイル(約 3 km)の部分でグ

リホサートの使用を中止することが試みられている。除草剤を使用しないことによるコスト増加

としてモントピーリア市は手作業による雑草管理に対し 1 回 3,000 ドルの予算措置をすることに

同意している(Tron, 2016)。

2.3.2 レクリエーション関連

ゴルフコース、公園、ピクニックグラウンド、催し物会場、スポーツフィールド、海岸、その他

景観の管理を伴うレクリエーションエリアは、その機能と美観を維持するためにさまざまな雑草

管理の対策を講じている。多年草を含む幅広い雑草を防除できるグリホサートはこのような環境

でも価値あるツールであり、意図する目的達成に役立っている。土壌処理効果がないために、使

用後短期間で新しい植物の播種や作付けが可能である。他の対策に比較して低コストであり、既

存の植物の更新にも利用しやすい選択肢になっている。

グリホサートの主な用途の一つが、ゴルフコース内の芝の観覧スタンドの改修である。Patton ら

(2004)は、フェアウェイ内の休眠期の芝にグリホサートを使用すれば、不要な植物を除去して

更新のコストをかけずに望ましい芝の質を維持できると指摘している。グリホサートは土壌中で

不活性化してしまうために、イネ科の植物の防除ができる他の除草剤に比較しても選択肢として

有利である。バミューダグラス(bermudagrass)、ノシバ(zoysiagrass)、クリーピングベントグ

ラス(creeping bentgrass)、シバムギ(quackgrass)は、グリホサートを有効成分として含有す

る除草剤で防除できるゴルフコース内のイネ科雑草の例である。更に、既存の芝を除去する必要

がある場合でも、使用後数日以内に新しい芝の播種ができる。グリホサート製品は、砂のバンカ

ーや、ネイティブエリア、ラフでのスポット処理にも使用できる(Throssell, 2009)。

1996 年の Arizona Cactus and Pine Gold Course Superintendents Association の調査は、ゴルフ

コースの管理にグリホサートが高い価値を持つことが指摘されている。雑草の問題について、調

査の回答者は一年草のスズメノカタビラ(bluegrass)が最大の問題と回答し、次いでバミューダ

グラス、カヤツリグサ(nutsedge)、メヒシバ/カップグラス(crabrass/cupgrass)を挙げた。

グリホサート製品は、平均 529.2 エーカーの面積に 1 シーズン 3.7 回使用され、有効性は 4 段階

のうち 3.4 と評価された(Merrigan et al., 1996)。

近年、土地管理者が水の必要量を低減できるデザインに景観の一部を変更する際に不可欠のツー

ルとして、グリホサートが注目を集めている。Cupit(2015)は、カリフォルニア州パームデザー

トの Ironwood Country Club の特定の区域で芝を除去する際に、グリホサートが有益であったこ

とを示している。Cupit(2015)はグリホサートが数十億ガロンの水を節約する一方、ヒトの健康

や環境に与えるリスクは低いとしている。カリフォルニア州サウザンドオークスの Conejo

Recreation & Park District(CPRD)は、節水のため芝をウッドチップやマルチに変更する際に、

グリホサートの使用は好ましい選択肢であると断定した。CPRD は、グリホサートに土壌処理効

果がないため、いったん芝の根に到達すれば、使用後 48 時間以内に干ばつに強い樹木や他の植物

を定植できるとしている。グリホサートは、機械的な芝除去、野焼き、防水シートを使った密閉、

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酢酸/塩混合物等の方法よりまさるものとして選ばれた。これらの方法は、それぞれ巨額のコスト、

許容しがたい安全上のリスク、克服できない運搬上の問題、長期的な土壌のダメージが予想され

る。特にグリホサートを使って芝を除去し干ばつに強い景観に変更したことにより、CPRD は芝

撤去の報奨金プログラム「Cash for Grass」に参加することができた(CPRD, 2015)。

カリフォルニアの北部にあるペタルマ市は、公園の雑草管理を目的に「オーガニック」除草剤を

含むさまざまなグリホサートの代替策について有効性を評価する実験を開始している。しかしな

がら、公園の職員は、代替策に要するコスト、使用頻度の増加、使用の際の防護具の必要性等を

懸念している。コストに関しては、グリホサート水溶液 140 ガロン(約 530 L)が 62 ドルである

一方、2 つの代替策は 1,136 ドルと 1,001 ドルである。これらの代替策は根を枯らすグリホサー

トと同程度の防除効果が得られないため、好ましい雑草管理を維持するには処理を繰り返す必要

がある。また、代替策は使用中に刺激性が非常に高いことが証明されており、複数の作業員が目

の痛みを訴え、1 名が呼吸困難を経験した。したがって、グリホサート製品では必要のなかった

防護具が別途必要になっている(Gneckow, 2016)。

2.3.3 侵襲性の難防除雑草

1974 年の有害雑草連邦法は、農業・ヒト・環境に何らかの形で有害または危険であると指定され

た在来・外来の雑草の防除と管理を定めたものである。この法律は 2000 年に植物防疫法に引き

継がれた。また、複数の州には独自の有害雑草・侵襲性雑草・迷惑雑草に関する州法がある。例

えばカンザス州は個人・企業・組織・機関に対して、有害雑草の管理・根絶を義務付けている。

多年生雑草は非常に頑固で、地上部だけでなく根も除去できるグリホサートのような除草剤を必

要とする(Kansas Department of Agriculture, 2016)。除草剤は性能が明らかで必要労働量も少な

く、侵襲性の雑草を管理するには最も費用対効果の高い選択肢であることが多い(Beck, 2013)。

雑草の蔓延の規模が拡大するにつれて、管理の費用は膨らむ。したがって、蔓延を待つのではな

く、侵襲性雑草は初期に見つけて除去することが重要である。手作業や機械による防除のコスト

は、除草剤のコストの 8 倍から 15 倍になる(Beck, 2013)。

アリゾナ州のサグアロ国立公園では、侵襲性のヒゲクリノイガ(buffelgrass)の防除にグリホサ

ートを使用した。この雑草に効果がある唯一の除草剤であること、対象外の植物種への悪影響が

少ないこと、土壌浸透の可能性が低いことを根拠にグリホサートが選択された(SNP, 2015)。オ

レゴン州では、セイラム地区土地管理局(Salem District Bureau of Land Management)の Mary’s

Peak Resource Area(MPRA)が有害雑草の防除計画について環境評価を実施し、唯一の許容で

きる除草剤による防除法としてグリホサートを特定した(Wilson, 2010)。グリホサートは分解が

早く土壌への残留がないことから、プレーリーの再生に推奨されることも多い。この性質のため

に翌日には希望する植物種の作付けが可能である(Shooting Star Native Seeds, 2016)。Nyami

ら(2011)はプレーリーの再生について、イマザピック等選択性除草剤とグリホサートを組み合

わせて使用すると、雑草群の抑制と野生種の拡大により高い効果を示すことを報告した。

放牧地での有害雑草の防除は困難である。面積当たりの収益が比較的小さいために、防除費用に

対する効果がほとんど得られないためである(Sheley et al., 2007)。グリホサート製品は、放牧

地の野生のイネ科植物にほとんど影響を与えず、侵襲性植物の短期的防除にはかなりの効果があ

る(Simmons et al., 2007; Sheley 2007)。モンタナ州のメディシン湖国立野生生物保護地区

(Medicine Lake National Wildlife Area)でのセイヨウトゲアザミ(Canada thistle)防除について

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の研究において、対象を限定したグリホサートの使用でセイヨウトゲアザミを効果的に防除でき、

低木・広葉草その他の好ましい種のバイオマスは増加し、水鳥の生息地を拡大したことが報告さ

れた(Krueger-Mongold et al., 2002; Sheley et al., 2007)。

太平洋岸北西部では、ヒマラヤブラックベリー(Himalayan blackberry)が猛烈に広がる扱いにく

い侵襲性雑草となっており、在来の植物を駆逐してシカ等の大型草食動物が餌を得にくくなって

いる(Soll, 2004)。グリホサートとグリホサートを含有する混合製剤は、その効率のよさからこ

の雑草の駆除法として推奨されている。また、グリホサートだけが米国海洋大気庁(NOAA)の

海洋漁業局からサケと関連の種が生息する川の 100 年洪水(年 1%の確率でおこる洪水により冠

水する)氾濫原内の浸水可能地域での使用を許可されている(Soll, 2004)。除草剤による防除は、

ヒマラヤブラックベリーを撲滅するための費用対効果が高く、散布のコストは機械または手作業

による方法の 25%である(Soll, 2004)。ワシントン州では、ホー川、キノールト川、クイーツ川

のクサヨシ(reed canarygrass)の防除のための除草剤にグリホサートが選ばれている。クリー

ク内に生えるヨシが流れを緩慢にするため、水温が在来の魚が生きられる温度よりも上がってし

まう。復元チームがグリホサートを選択したのは、効率性、悪影響の可能性の低さ、必要労働量

の削減等による(Dudley, 2016)。

ツタウルシ(poison ivy)とウルシ(poison oak)はいずれも、直接接触により人に危害を及ぼす。

米国では毎年、これらの植物とその近縁種により約 200 万件の皮膚障害が発生している。カリフ

ォルニア州では、喪失労働時間の点でウルシは州で最も有害な植物である(UCIPM, 2009)。米国

の中西部及び北東部で、ツタウルシは水泡性皮膚炎の最も多い原因の一つになっている(Calhoun,

2010)。これらの雑草の物理的または機械的防除は直接の暴露とその後の皮膚発疹の原因になる

ため、除草剤が好ましい選択肢になる(Williamson et al., 2015)。この植物は成長が早く、種子ま

たは地下の根茎で広がる(Williamson et al., 2015)。ブルドーザーや熊手のような器具は根が後に

残ることが多く、やがて再び芽が出て、シーズン中に何度も作業を繰り返さねば管理ができない

(UCIPM, 2009)。吸収移行型のグリホサートはツタウルシやウルシの地上部・地下部両方を枯ら

すため、これらの植物種の防除に最も有効な除草剤の一つと認識されている(UCIPM, 2009)。ス

プレーとして使用しても、植物の刈り取りの後に直接刈り株に使用してもよい。これらの種への

使用が表示されているグリホサートを有効成分とする除草剤は、グリホサートが唯一の有効成分

である場合もあるが、迅速な防除を目的に他の除草剤も含まれている場合も多い(Williamson et

al., 2015)。

クズ(Kudzu)は、「南部を食べた草(the plant that ate the south)」と呼ばれる侵襲性の植物で、

木質の茎を持つ蔓植物である。成長が早く樹木を含む在来の植物を駆逐する(Nespeca, 2007)。

ダイズやクローバーのように窒素を固定することができ、高さ 100 フィート(30 m)、周囲 50~

60 フィート(15~18 m)にも成長する(FIPRC, 日付なし)。日本が原産のクズは、1876 年に観

賞用に米国に持ち込まれた。1920~30 年代には、飼料またはグラウンドカバーとして広く栽培さ

れた。その侵襲性が広く知られるようになり、USDA は 1953 年に被覆作物としてのクズを禁止

した(FIPRC, 日付なし)。今、クズはフロリダ州から五大湖まで、大西洋岸からネブラスカ州、

カンザス州、オクラホマ州、テキサス州まで広がっている。オレゴン州、ワシントン州、ハワイ

州でも見られる(FIPRC, 日付なし)。他の植物を覆いつくすクズの害に加えて、クズはマルカメ

ムシの住みかとなり、この虫は米国南部のダイズ畑で破壊的な害虫になりつつある。クズ自体を

防除することでこの虫がダイズ生産者に与える損害と、付随する殺虫剤の使用の必要性を抑制す

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ることができる(Reisig and Bacheler, 2013)。限られた面積のクズであれば手作業か機械作業、

または家畜の放牧で駆除できる(Miller, 2008)が、広い面積には除草剤が最も実際的な処置であ

る(Nespeca, 2007)。住宅地や環境的に配慮を要する場所では、優れた安全性プロファイルを持

つグリホサートを有効成分とする除草剤が好ましい方法である(Miller, 2008)。グリホサートの吸

収移行性は、葉に散布してもつる草を刈った後に使用しても効果がある(Nespeca, 2007)。

2.3.4 水生雑草

水生雑草の影響は、水質、漁業、治水構造物、水力発電施設、灌漑施設、レクリエーション活動、

更にはヒト・家畜・野生生物の健康にも及ぶ可能性がある。一部の水生雑草の存在は、水のいや

な臭気や味の原因になる、酸素量の減少により魚が死ぬ、取水口を詰まらせる、レクリエーショ

ン活動を混乱させる、航行が制限されるといった被害を生じさせる。一部の水生雑草は、病原媒

介生物となる蚊の繁殖場所にもなる(Getsinger et al., 2014)。防除の選択肢には、機械防除と一

般に低コストの除草剤による除去の両方がある。グリホサートはコストの低さと他の水生生物に

対する毒性の低さにより、除草剤として選択されることが多い。水生環境で用いられるグリホサ

ート製品には、水生生物に毒性を持ちうる界面活性剤は含まれていない。

例として、カリフォルニア州のサクラメント・サン・ホアキン・デルタでは、カリフォルニア州

船舶水路局(Department of Boating and Waterways)が、航行を改善し水道供給の信頼性を確保

するため、ホテイアオイ(water hyacinth)の駆除の一環としてグリホサートを使用している

(CADBW, 2016)。グリホサート製品は、機械や手作業の駆除よりも低コストである。グリホサ

ートの使用は 1 エーカー(0.4 ha)当たり約 250 ドルであるが、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸ま

たは機械防除のコストは 2 倍から 4 倍になる。機械防除は後の処分にも更にコストを要する

(WSDE, 2001; SFEI, 2003; Gibbons et al., 1999)。南カリフォルニアでは、侵襲性のダンチク

(arundo/giant reed)やギョリュウ(tamarisk/salt cedar)は性質が強く、ロサンゼルス郡やベン

チュラ郡で環境に害を与える植物になっている。機械防除、生物学的防除、耕作法による防除が

選択肢として挙げられるものの、長期の防除は難しい。グリホサートは吸収移行性であり必要労

働量を軽減できるため、駆除活動において中心的な除草剤になっている(VCRCD, 2003)。

ミシガン州を含むいくつかの州で、半水生の侵襲性のアシ属植物であるヨシ(phragmites)が池

や湿地の周囲を制圧し、在来種、特に水鳥を住めなくしている。種子でも根茎でも広がり、吸収

移行性でない除草剤による駆除は難しい。グリホサートは散布または直接塗布することでこの強

力な雑草の駆除に効果を表す。ミシガン州の環境品質局は、ヨシを防除できる市販の除草剤 2 種

類のうち 1 つとしてグリホサートを挙げている(MDEQ, 2014)。

フロリダ州では、すべての公有水面が少なくとも 1 種類の外来の野生水生植物の繁殖地になって

いることが分かっており(Mossler and Langeland, 2013)、外来種の駆除は非常に重要である。フ

ロリダ州で最も一般的な外来水生雑草 11 種のうち、6 種はグリホサートで駆除が可能である。ほ

とんどは水際を侵襲するイネ科雑草で、在来の野生生物を締め出してしまう。1 エーカー当たり

120 ドルのコストで済むグリホサートは、600 ドルもかかる他の複数の除草剤よりもコスト的に

極めて優位である(Mossler and Langeland, 2013)。

2.4 除草剤抵抗性雑草の防除

単一の作用機序に依存することは、化学製品でも非化学製品でも、特定の雑草種の除草剤抵抗性

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バイオタイプの発生につながる。効果的な雑草防除システムを維持するためには別の防除ツール

が必要である(Ashworth et al., 2016; Culpepper et al., 2011; Lanini et al., 1994; NRC 2010;

Livingston et al., 2015)。複数の除草剤に対する雑草の抵抗性が何十年も前から発生しており、抵

抗性対策戦略におけるこのような防除ツールは新しいことではない。抵抗性雑草に関する最初の

報告があったのは 1957 年であった(Delye, 2013)。世界全体では、これまでに 21 種類の異なる

除草作用機序に対する抵抗性があるとして、416 種の除草剤抵抗性雑草が報告されている(Heap,

2015)。グリホサート抵抗性雑草は、米国の特定の地域で発生し、米国の除草剤抵抗性バイオタ

イプの約 6%に相当する。比較の点で言えば、アセト乳酸合成酵素(ALS)及び光合成系(PSII)

を阻害する除草剤に対する抵抗性雑草は、それぞれ除草剤抵抗性バイオタイプの 33%と 17%を

占めている(Heap, 2014)。

抵抗性雑草の最善の防除法を決定するためには、疑わしい雑草群を特定するための見回りが重要

である。Norsworthy ら(2012)は、抵抗性雑草を同定するための 3 つの基準を挙げている。

1. 通常使用量の除草剤で防除できる雑草種が防除できていない(特に近隣の雑草は防除でき

ている場合)

2. 特定の雑草種が防除できていない区画が広がっている

3. 同じ種の駆除された個体と生き残った個体が混在している

Norsworthy ら(2013)に続いて、Shawら(2013)は、抵抗性雑草の防除に利用でき、将来の抵

抗性の発現を遅らせることのできる一連の最善管理実践例(best management practice:BMP)

を示した。Shaw らの BMP は以下のような 12 の要素からなっている。

「存在する雑草の生態を理解すること。雑草の種子生成の防止と埋土種子バンク内の雑草の種子

数の削減に重点を置いて、雑草防除の多様なアプローチを用いること。雑草のない状態の土地に

作物を播種し、可能な限り雑草のない状態を維持すること。雑草種子の混入していない作物種子

を作付けすること。日常的に見回ること。最も扱いにくい雑草または除草剤抵抗性が最もできや

すい雑草に効果のある複数の除草剤の作用機序を利用すること。推奨されている雑草の大きさの

時に除草剤の表示どおりの薬量で使用すること。作物の競合性を利用して雑草を抑制する農法に

重点を置くこと。適切な場合には、機械的防除法・生物学的防除法を用いること。雑草種子や塊

茎が別の区域へ、又は区域内で移動することを防ぐこと。雑草の種子バンクの集積を防ぐため、

収穫時・収穫後の雑草種子の拡散を防止すること。区画の境界を管理することで雑草が区画に侵

入することを防ぐこと。」

この研究の後、Gibson ら(2015)は、グリホサート抵抗性雑草に関するベンチマーク研究の継続

的な結果を報告する中で、土壌中に残されている雑草の種子バンクは、BMP に反応するのが遅い

ことを明らかにした。著者らは、生産者が自らの耕作地の BMP を策定する際には、雑草の種子バ

ンクを念頭に置く必要があると注意を促した。

Shawら(2013)と Evans ら(2015)が指摘するとおり、多様な雑草防除計画の一環として、複

数の作用機序を同時に使用する混合除草剤は、除草剤抵抗性雑草の駆除に最善の選択肢である。

既存のバイオタイプを駆除し新しいバイオタイプの発現を予防することは、グリホサートの有益

性を維持するために極めて重要である。

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そのため、モンサントはラウンドアップレディ PLUS®作物管理ソリューション(Roundup Ready

PLUS Crop Management Solutions)プログラムを開発し、ダイズ・トウモロコシ・ワタ生産者が

雑草防除戦略に追加の作用機序を取り入れられるよう、複数の雑草防除の選択肢と経済的インセ

ンティブを提供している。この取り組みの次の段階として、モンサントは、特定のラウンドアッ

プレディ®作物を対象に、追加の茎葉処理作用機序としてジカンバを加えた新しいプラットフォー

ムを開発中である。

現在のグリホサート抵抗性雑草バイオタイプを駆除し、新しい抵抗性バイオタイプの発現を予防

または遅らせることは、土地の生産性を向上させ、新たな土地を開墾する必要性を回避すること

になる。Livingstone ら(2015)によれば、グリホサート抵抗性雑草が報告されていないトウモロ

コシとダイズの農耕地では、生産性がそれぞれ 7%と 2.5%高かった。既存の面積で生産性が向上

すれば、他の土地に手を加えずに済み、他の用途に利用できる。

数多くの伝統ある(公有地供与を受けた(land grant))大学による論文が、主要作物の雑草管理

計画にグリホサートの使用を継続することの有益性を示しています。作物の雑草防除にとどまら

ず、グリホサートはナンバーワンの枯れ落ち(バーンダウン)効果のある除草剤です。特にコム

ギやライムギ等穀物の被覆作物の管理は、枯れ落ち除草剤としてのグリホサートがなければ、非

常に管理しにくいでしょう。グリホサートがなければ、被覆作物を植えるよう生産者を説得する

ことは今以上に難しくなります。生産者は効果がなければ除草剤を使いません。生産者はグリホ

サートによって投資に見合う収益をあげることができることに明らかに納得しているのです。グ

リホサートは今も我々の雑草防除計画の重要なツールです。

ジョージア大学 作物土壌科学

教授兼普及技術員

スタンレー・カルペパー博士

2.5 グリホサートが利用できなくなった時に予想される影響

グリホサートが利用できなくなると、生産者は他の除草剤とそれに耐性のある作物に切り替える、

または以前の機械や化学薬品を用いた雑草防除法に戻ることになる。種々の分析を総合すると、

生産者が直面することが予想されるさまざまな影響についての示唆が得られる。

使い勝手の良さで見ると、生産者は、グリホサート以外の利用可能な除草剤が残留して作物に影

響を及ぼさないか、自分の農地にある雑草に有効か、生産する特定の作物に適合するかを検討し

なければならなくなる。代替の雑草防除策として除草剤の追加使用や機械的除草への依存を強め

ることを考えると、グリホサートが利用できなくなるのは必要労働量の増加と農業外所得の減少

を招く可能性が高い。USDA のデータの分析から、グリホサート耐性ダイズを採用する生産者は

世帯の必要労働量を 14.5%低減したことが分かる(Gardner et al., 2009)。この必要労働量の減少

によって、農業以外での収入を得ることも可能になっている。同様に、除草剤耐性ダイズの採用

は世帯の農外所得の増加と関連していることも USDA は明らかにしている(Fernandez-Cornejo

et al., 2007)。グリホサートはまた、収穫前に数百種の雑草の種子を除去し、よって出荷する穀物

に混入するきょう雑物を減らすことで収穫の質を向上させている。

グリホサートのような除草剤がなければ、生産者は不耕起栽培等の保全耕起農法を取り入れるこ

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とが難しくなり、土壌の流亡が拡大すると考えられる。Gianesi 及び Reigner(2006)は、グリホ

サート耐性作物が農業で利用できるようになる前に一般的であった耕起法に戻ることによって、

3,560 億ポンド(1 億 6,150 億トン)の堆積物が河川に流れ込み、下流での水処理コストや浚渫に

伴う被害は 14 億ドルになると推定している。

耕起は広範囲の土壌かく乱の原因となり、それが浸食や表土の流亡につながり、河川の堆積や混

濁度に影響する。実際、EPA は評価対象となった河川の機能障害の 2 番目に大きな原因として堆

積物を挙げている(EPA, 2015a)。更に、米国学術研究会議(NRC)は、除草剤耐性作物が耕作

地の持続可能性に与える影響を検証し、特に保全耕起の役割を考察した。その結果、保全耕起が

流出量を減らすことで土壌浸食を減らし、土壌の水分保持を高め、土壌の劣化を軽減するとして

いる(NRC, 2010)。

NRC はまた、保全耕起が農業から排出される二酸化炭素の排出量を減らすと結論した(NRC,

2010)。他にも、Brookes 及び Barfoot(2016)は環境への影響の検証の中で、1996 年から 2014

年の間に、グリホサート耐性トウモロコシとダイズの導入で削減できた燃料は 18 億 3,600 万 L

と計算した。この削減量は、同じ期間の二酸化炭素排出削減の 49 億 100 万 kg に相当する。更に、

Brookes 及び Barfoot は、グリホサート耐性トウモロコシ・ダイズによって可能になった保全耕起

の採用によって土壌に固定された炭素量を 393 億 9,800 万 kg と計算した。2014 年単年で、大気

中の二酸化炭素 45 億 9,200 万 kg の除去に相当し、1 年間に 190 万台の車を路上から排除したこ

とになる。

欧州の経済学者・農業科学者は、すでにグリホサートの使用ができなくなったときに欧州大陸の

農業生産者が受ける影響を検討している。予想される影響は、生産者レベルでも、環境や更に広

い経済レベルでも明白である。英国では、グリホサートが使用できなくなると、利用できる作用

機序が減って他の除草剤への雑草の抵抗性が増える可能性がある(Cook et al., 2010)。グリホサ

ートの使用ができなくなると、英国、ドイツ、フランスで雑草防除コストと耕起と二酸化炭素排

出が増える(Cook et al., 2010; Garvert et al., 2013; Wynn et al., 2012)。グリホサートがないと、

フランスの農業生産者は推定で 10%の収量の損失を被り(Wynn et al., 2012)、ドイツ沿岸部の生

産者は最も重要な 1 つの雑草種を駆除できる除草剤がなくなることになる(Garvert et al., 2013)。

また、さまざまな商品を同量生産するにはより多くの土地が必要になる。フランス単独では同量

の食料と飼料を生産するために 67 万 ha が追加で必要になる(Wynn et al., 2012)。重要なこと

であるが、生産性が下がると EU 全体で実質的なコムギの輸出地域から輸入地域へと変わること

になる(Garvert et al., 2013)。

ドイツ単独でも経済的な損失は 7,900 万から 2 億 200 万ユーロの範囲となる(Steinmann et al.,

2012)。EU 全体で、経済的損失は 14 億から 420 億ユーロの範囲となると考えられる(Garvert et

al., 2013)。注目すべきは、EU の農業生産者には、そもそもグリホサート耐性作物を栽培する選

択肢がない点である。これらの損失はグリホサートが従来の作物にのみ使用される農業システム

で発生する金額である。

グリホサートは、グリホサート抵抗性雑草が出現した今でも除草管理計画に価値を持っています。

世界全体がグリホサート抵抗性アカザ(pigweed)の駆除を中心に話を展開しているように思わ

れますが、耕作地には非常に多くの抵抗性のない他の雑草があるので、ラウンドアップ® 除草剤

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をやめたとたん、それらが現れてきます。グリホサートがなければ、主な作物における雑草管理

はより複雑でコスト高になるでしょう。ワタでは、グリホサート以外で発芽後に作物の生育期処

理で使用できる唯一の除草剤は ALS 阻害剤ですが、ALS 除草剤に抵抗性のある雑草はすでにあり

ます。ジカンバまたは 2,4-D のワタでの使用が登録されない限り、ワタで広葉雑草防除によい選

択肢はないのです。

北カリフォルニア州立大学

作物学ウィリアム・二―ル・レイノルズ名誉教授 アラン・ヨーク博士

2.6 政策に関する考察

EPA は、除草剤耐性作物に使用されるすべての新規及び既存の除草剤について、雑草の抵抗性管

理を登録の要件に含めると発表している(EPA, 2014a)。EPA はまた、有効成分に対する抵抗性

が発現する可能性に基づいた抵抗性管理を、除草剤の表示の要件に追加する規則案を発表した

(EPA, 2016)。一般に言えば、実際には逆効果になりうるような選択肢よりも、この EPA のよう

なアプローチは好ましい。つまり、可能性として EPA は 1) 最大薬量を引き下げる、2) 作物への

グリホサート使用を隔年に制限する、3) 雑草抵抗性対策(WRM)計画を義務付ける、のいずれ

かができるわけである。家庭での用途と土地管理・環境再生のための用途はグリホサート抵抗性

雑草の発現と関係していないし、これらの用途は抵抗性の問題への対応のために変更する必要は

ないと思われる。上記のオプションを分析すれば、1) と 2) は逆効果であり、3) のWRM 計画だ

けが実現可能で持続可能な選択であることが分かる。

最大薬量を引き下げると、グリホサートに加えて別の雑草防除機序が必要になると考えられるし、

これは現在雑草管理法を再考する中で多くの生産者が体験しているのと同様の社会経済的影響を

もたらす可能性がある。例えば Livingstone ら(2015)は、グリホサート抵抗性雑草を報告して

いるトウモロコシとダイズの生産者は、管理の必要の増大によって 1 ha 当たり 19.88 ドルのコ

スト上昇があったと計算している。また、最も重要なことであるが、最大薬量の引き下げは米国

雑草学会(Weed Science Society of America:WSSA)が策定した最善管理実施例(BMP)に逆

行することにもなる(Norsworthy et al., 2012)。WSSA は抵抗性の発現を予防するために、除草

剤は表示された最大薬量で使用すべきと助言している。したがって、最大薬量を引き下げればグ

リホサート抵抗性雑草のバイオタイプの増加を招き、やがてグリホサートは廃れると予想される。

作物へのグリホサート使用を隔年に制限することは、グリホサートを使わない年に新しい雑草管

理システムを導入するか、グリホサートの使用を完全に停止して他の雑草防除プラットフォーム

を求めるかのどちらかを生産者に強いることになる。グリホサートと他の除草剤を年ごとに交代

させて使うことは、除草剤の交代使用は逆効果であると一貫して示してきた多くの研究結果に反

する。したがって、交代使用の義務付けはグリホサート抵抗性雑草のバイオタイプを増やし、グ

リホサートを廃れさせることになる。Evans ら(2015)は、除草剤の作用機序(MOA)を交代で

使用することが除草剤抵抗性に与える影響を検証した。そして、交代使用は確かに 1 つの除草剤

への暴露を減らすものの、抵抗性の対立遺伝子の頻度が下がるのは高い適応度負担(fitness cost)

がかかる場合だけであることを報告した。Evans らによると、米国の農業で最も一般的な 2 種の

グリホサート抵抗性雑草であるオオホナガアオゲイトウ(Amaranthus palmeri)とヒユモドキ

(Amaranthus tuberculatus)のグリホサート抵抗性は適応度負担が低く、交代使用 MOA は実際

にはより抵抗性を高めることになると結論している。

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上記 2 つのシナリオのいずれにおいても、グリホサート抵抗性雑草は逆に拡大し、農業における

グリホサートの有用性は大きく損なわれるか消滅すると考えられる。そのような結果の影響とし

ては、雑草管理の複雑化、必要とされる農業労働の増加、農家の世帯収入の減少、保全耕起の減

少、土壌浸食の増加、二酸化炭素の排出量の増加、水質の更なる低下が考えられる。

最大薬量の引き下げや隔年使用の強制とは対照的に、WRM 計画は農業におけるグリホサート使

用に伴う有益性の多くを継続させることができる。この選択肢においては、保全耕起は現在実施

されているのとほぼ同じ面積で継続でき、土壌浸食を予防し、二酸化炭素の排出量を削減し、土

壌水分を保持できると予想される。

グリホサートに加えて別の作用機序が取り入れられるため、追加の除草剤の使用が想定される。

EPA は、グリホサートと 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸の組み合わせをこれらの除草剤の両方に耐

性がある作物に使用することを検証中で、また、ジカンバの登録をダイズとワタにも用途を拡大

することを検討している。現在のトウモロコシのアトラジンやダイズのアセトクロールの発芽前

使用のケースのように、その他の除草剤をグリホサートとは別個に使用することも考えられる。

更に、グルホシネートのような除草剤の発芽後使用も、グリホサートと組み合わせた雑草管理戦

略の一部となりうる。どんな除草剤でも、表示されるすべての使用法は、市販前に FIFRA の要件

(すなわち、環境に対する不当な有害作用がない、ヒトに対する危害がないことに合理的な確実

性がある)を満たさなければならない。

包括的な雑草抵抗性対策(WRM)計画には、雑草監視巡回と追加の除草機序(農法的・機械的・

化学的いずれの方法にせよ)から生じるコスト上昇が不可避である。Norsworthy ら(2012)と

Shawら(2013)の研究に基づき、Edwards ら(2014)は、学術アドバイザーによって特定の農

地専用に開発された最善管理実践例(BMP)について、1 ha 当たりの投入コストと純利益を計算

し、これを「標準的実践例」のコスト・利益と比較した。標準的実践例とはこの研究の前に各農

地で使用されていた何らかの雑草防除法で、典型的には主たる除草剤としてグリホサートが含ま

れている。Edwards らの計算では、トウモロコシ、ワタ、ダイズについて、BMP と標準実践例と

のコストの差は 17 ドルから 54 ドルの範囲であり、常に BMP のほうが高かった。しかしながら、

純利益は BMP のほうが多い傾向であった。

Edwards ら(2014)と同様に、Livingstone ら(2015)も、グリホサートの他に少なくとも 1 種

類の除草剤を使用するトウモロコシとダイズの生産者は、生産コストが高いことを報告した(ト

ウモロコシで 1 エーカー当たり約 20 ドル、ダイズで約 12 ドル)。しかし、この同じ生産者はグ

リホサートに加えて別の除草剤を使った場合に、収量がより大きく(トウモロコシで 1 エーカー

当たり約 6 ブッシェル、ダイズで約 4 ブッシェル)、営業利益も大きかった(トウモロコシで 1

エーカー当たり約 21 ドル、ダイズで約 49 ドル)。

モンサントのグリホサートに関する WRM 計画は、除草剤抵抗性の検知・予防の方法についての

WSSA の専門的知見に基づいて、更にモニタリングと報告の要件、そしてグリホサートのユーザ

ーが適切な措置を講じられるようにするための教育の要素を追加している。この WRM 計画はモ

ンサントが抵抗性雑草を重要視し、抵抗性に対応するための一連の目標と措置を確立しているこ

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とを鮮明に示している。グリホサートの数多くの有益性と利点は、数十年にわたってこの除草剤

を雑草管理の中心に押し上げてきた。モンサントが行っているようなしっかりとした WRM 計画

を確立することにより、今後数十年にわたってもグリホサートはその役割を継続することができ

る。

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3.

グリホサートの安全性

40 年以上にわたって、グリホサートはその幅広い除草用途について徹底的な試験と評価を受けて

きた。政府機関による審査の根拠となる 6 件の完全なデータセットに加えて、数千の論文が論文

審査のある学術誌に発表されている。短期・長期の毒性、発がん性、野生生物に対する影響、環

境中での動態についての情報の多くは論文集としてまとめられている。総合すると、これらのデ

ータはグリホサートの毒性が低く、発がん性がなく、環境中で蓄積しないという結論を裏付けて

いる。更に、グリホサートが有害作用の原因であると流布されている主張は、信頼できる科学に

裏付けられたものではなく、多くの場合、この除草剤に関する膨大な知見によって直接反証され

ている。この確固たる安全性プロファイルこそが、グリホサートが米国及び世界中で最も広く使

用されている除草剤の 1 つとなっている重要な理由である。

Saltmiras ら(2015)は、グリホサートの生理化学的特性と環境動態と植物による吸収を扱った既

存のデータを集積した。この論文はグリホサートの哺乳類での代謝、急性毒性、反復投与毒性、

遺伝毒性、発がん性、発生毒性・生殖毒性、内分泌系への影響、神経毒性についても検証してい

る。Saltmiras らは、この情報のすべてをヒトの食事暴露評価と組み合わせてヒトの健康リスク評

価を作成した。総合すると、データと情報によってグリホサートの毒性が低く、生殖毒性物質や

選択的発生毒性物質ではなく、遺伝毒性・発がん性・免疫毒性のいずれもなく、内分泌かく乱物

質ではないという結論が裏付けられた。更に、グリホサートの生理化学的特徴、環境動態、薬物

動態から、ヒトの暴露の可能性はきわめて低いものであった。この危害の低さと暴露の少なさは、

グリホサートが生産者や農薬散布作業者、消費者に及ぼすヒト健康リスクは無視できる程度であ

ることを示している。

Giesy ら(2000)は、グリホサート及び複数のグリホサート含有製品について実施された多数の

環境影響の研究をまとめ、生態毒性リスク評価を行った。このデータには発表された論文だけで

なく、世界各国での製品の登録申請時の根拠として実施されたモンサントの研究も含まれている。

リスク評価に使用された保守的なハザード比では、ハザード比 1 未満は有害作用のリスクが最小

限であることを意味する。また、最も影響を受けやすい種についての無影響量(no effect level)

を、グリホサートまたはグリホサートを主成分とする除草剤に暴露する可能性のある水生・陸生

生物の毒性指標として使い、暴露レベルは環境モニタリングデータまたは拡散モデルから導き出

された。その結果、グリホサートの地上使用後の水生・陸生生物に対する予測最大急性・慢性ハ

ザード比は 1 未満であり、有害作用が最小リスクであることが確認された。この評価は、陸上及

び水中のグリホサートの使用によって生ずる、農業・林業・居住地・敷設用地・生息環境再生を

含め、除草対象とならない種に対してのリスクは最小であることを示している。この Giesy ら

(2000)の文献が発表されて以降、ミツバチ(Thomson et al., 2014)と土壌中生物(von Merey

et al., 2016)に関する Giesy ら(2000)の研究を裏付ける 2 つの論文が発表され、これらも対象

に含まれている。

グリホサートについては、ヒトの健康と環境に対するリスクの低さを立証する十分なデータと合

わせて、グリホサート及びグリホサートを含む除草剤の暴露に関係する有害作用の報告について

も検討することが重要である。グリホサートによって引き起こされるといわれる危害についての

疑惑が時折浮上して、ヒトの健康と環境に対するリスクの低さを示す研究よりも大きな注目を受

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けるケースがある。実際、グリホサートが内分泌かく乱物質である、母乳に蓄積する、腎臓病の

原因になる、腸内細菌をかく乱する、土壌のミネラルを不可逆的に結合させる、傷害や疾病を引

き起こす、ミツバチの学習をかく乱するといった報告が、近年、従来メディアやソーシャルメデ

ィアを駆け巡っている。グリホサートを有効成分とする除草剤に使われる界面活性剤が、従来考

えられているよりも害があるという主張もある。こうした主張を個々に詳細に検討すると、これ

らの報告のどれも信頼できる科学に基づいていないことを理解することができる。グリホサート

の使用はオオカバマダラ蝶の減少の主な原因であるという主張もある。モンサントはこの主張に

は特別の関心を持ち、研究者や保護団体とともにオオカバマダラ蝶の生息地の再生に参加してい

る。グリホサートに関するあらゆる疑惑の中でも最も懸念されるのは、2015 年に国際がん研究機

関(IARC)がグリホサートを「恐らく発がん性物質(probable carcinogen)」に分類した件であ

る。この結論はグリホサートを審査した規制機関や管轄当局の結論と著しい対照をなす。IARC が

どのようにこの分類を選んだかを詳細に見ると、この判断が正しくないことが明らかになる。

グリホサートの例外的な安全性プロファイルのおかげで、農業でも農業以外でも、グリホサート

は最も用途の広い雑草防除ツールの一つになった。ヒト及び野生生物への毒性が低く、また環境

への悪影響の可能性も低いため、多様な用途が可能であり、特別の予防措置の必要性も低い。し

かし、グリホサートに耐性を持たせるために遺伝的に操作した作物を利用する農業システムでグ

リホサートが中心的な役割を果たしているため、時に、この除草剤は論争の真っただ中に放り込

まれる。有害作用の主張の正当性を評価し、それが全般的な知見とどう関連するのかを理解する

ためには、十分な精査を加えることが不可欠である。40 年以上にわたる多数の検証の中で一貫し

た結論として、グリホサートはヒトの健康と環境に重大なリスクを生じることなく、多くの用途

に安全に使用できるとされている。

3.1 グリホサートの環境動態と毒性

この項は、もともと『高等植物におけるアミノ酸(Amino Acid in Higher Plants)』の章として発

表されたものである。この出版物は出版社のサイト

(http://www.cabi.org/cabebooks/ebook/20153121434)で閲覧できる。

この話題に関するより詳しい情報は、

http://www.monsanto.com/glyphosate/pages/default.aspx と http://www.glyphosate.eu/で入手でき

る。

出典:Saltmiras, D., D.R. Farmer, A. Mehrsheikh, M.S. Bleeke. 2015. グリホサート:除草作用の

あるアミノ酸誘導体(Glyphosate: The fate and toxicology of a herbicidal amino acid derivative)

pp. 461–480 in Amino Acids in Higher Plants. J.P.F. D’Mello, Ed. CABI Publishing. Oxfordshire,

UK.

3.2 グリホサートの生態毒性

この項は、もともと「環境汚染と毒性における検証(Reviews in Environmental Contamination and

Toxicology)」の査読を受けた論文として発表されたものである。この論文は主執筆者のサイト

(http://www.usask.ca/toxicology/jgiesy/pdf/publications/JA-228.pdf.)で閲覧できる。

この論文の摘要は

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30

http://www.monsanto.com/products/documents/glyphosate-backgroundmaterials/ecotoxicological

_risk.pdf.で入手できる。

出典:Source: Giesy, J.P., S. Dobson, K.R. Solomon.2000. ラウンドアップ®除草剤に関する生態

毒性リスクアセスメント(Ecotoxicological risk assessment for Roundup® herbicide)Reviews in

Environmental Contamination and Toxicology. 167:35-120.

3.3 グリホサートとミツバチ

この項は、もともと「包括的な環境アセスメントと管理(Integrated Environmental Assessment

and Management)」の査読を受けた論文として発表されたものである。この論文は出版社のサイ

ト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4285224/)で閲覧できる。

出典:Thompson, H.M., S.L. Levine, J. Doering, S. Norman, P. Manson, P. Sutton, G. von Merey.

2014. グリホサートを例としたミツバチの暴露と蜂児の発育に対する影響の可能性の評価

(Evaluating exposure and potential effects on honeybee brood (Apis mellifera) development

using glyphosate as an example)」Integrated Environmental Assessment and Management.

10:463–470.

3.4 グリホサートと土壌細菌

この項は、もともと「環境毒性と化学(Environmental Toxicology and Chemistry)」の査読を受け

た論文として発表されたものである。この論文は出版社のサイト

(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/etc.3438/epdf)で閲覧できる。

出典:von Merey, G., P.S. Manson, A. Mehrsheikh, P. Sutton, S.L. Levine. 2016. グリホサートと

土壌生物相に関する AMPA 長期リスクアセスメント(Glyphosate and AMPA chronic risk

assessment for soil biota)Environmental Toxicology and Chemistry. 10.1002/etc.3438

3.5 グリホサートに関するよくある主張

グリホサートの使用は有害影響と関係があるという見解は折に触れて浮上している。多くは発表

された論文の大規模な安全性データによって容易に論破されるが、それぞれの疑惑の論点を検討

することは重要である。最も懸念されるのは、グリホサートが恐らく発がん性物質であるという

主張である(IARC, 2015)。その他によく聞かれるのは、内分泌かく乱物質である(Richard et al.,

2005; Gasnier et al., 2009; Young et al., 2015 等)、ヒトの母乳に蓄積する(Honeycutt and

Rowlands, 2014)、食品中に広く存在する(Rubio et al., 2014 等)、尿中に存在する(Mesnage et

al., 2012; Adams et al., 2016 等)、腎臓に障害を及ぼす(Jayasumana et al., 2013)、抗生剤とし

ての作用によって腸管微生物叢に毒性がある(Samsel and Seneff, 2013)、自閉症スペクトラム

障害その他の障害・疾病に関連する(Swanson et al., 2014 等)、グリホサートを主成分とする除

草剤に含まれる界面活性剤に予期しない毒性がある(Defarge et al., 2016 等)、ミネラルをキレー

ト化する作用により作物の栄養に害を及ぼす(Huber, 2007; Johal and Huber, 2009 等)、ミツバ

チに危害を及ぼす(Balbuena et al., 2015; Herbert et al., 2014 等)、トウワタとオオカバマダラ蝶

の数を減らす(Pleasants and Oberhauser, 2013 等)両生類幼生に高い毒性がある(例:Relyea et

al., 2005a; Relyea et al., 2005b; Meza-Joya et al., 2013)といったものがある。これらは最もよく

聞かれる主張の例であるが、その他の主張に関する情報はwww.gmoanswers.com.を参照のこと。

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3.5.1 グリホサートはがんの原因にならない

2015 年、IARC はグリホサートを検証する委員会を開催した。既発表の論文を部分的に検証した

IARC は、グリホサートを「クラス 2A」すなわち「ヒトに対して恐らく発がん性がある」に分類

した(IARC, 2015)。この所見はグリホサートに関する規制当局の審査結果と明確な対照をなすも

のであり、規制当局による審査がグリホサートの危害を分類し間違えているのではないかという

懸念を生じさせた。そもそも IARCのモノグラフは新しい研究やデータを提示しておらず、「研究」

ですらない。グリホサートの危害、暴露、リスクについて新しいデータを掲載も検討もしていな

い。モノグラフの中で IARC が検討した主要な研究はすべて、規制当局がそれまでに審査・検討

したものである。実際、IARC の発表の後、EU(EFSA, 2015)、カナダ(PMRA, 2015)、日本(FSCJ,

2016)の各規制当局が、グリホサートは発がん性物質ではないと結論している。欧州化学機関

(European Chemicals Agency:ECHA)は、2016 年にグリホサートの一覧と分類案を発表し、

データの証拠としての重み付けから発がん性は示されていないとして、がんの分類は正当化され

ないと結論した(ECHA, 2016)。

各規制機関とは異なり、IARC はグリホサートについて得られている科学的エビデンスの全体とし

ての重みを検討しなかった(APVMA, 2016)。IARC のモノグラフに一覧されている限られた参考

文献からは、委員会での検討に実際に選択された情報は、グリホサートに関して得られている膨

大なデータセットの一部でしかないことが明白である。グリホサートの安全性と発がん性の可能

性がないことは、世界の規制当局が実施しているように、完全なデータセットを検討した結果と

して圧倒的に支持されている結論である。

IARC は選択的にデータを引用し、かつ、検討したエビデンスの 4 つの領域(動物での発がん性、

暴露、遺伝毒性、疫学)のそれぞれでデータの解釈に基本的な誤りを犯している。最も著しい例

を以下に挙げる。

動物での発がん性: 動物における発がん性の「十分なエビデンス」という結論に至る過程で、

IARC 委員会は、グリホサート処理群における腫瘍発生数の増加に注目して特定の研究の腫瘍例の

単独所見を再解釈した。しかし、IARC は用量反応関係がないことや、既存対照群における腫瘍の

背景発現率、病理学専門家の意見等を無視している。これらはすべて毒性学の専門家がグリホサ

ート処理との関係性の有無を評価する際に、コンテクスト(背景情報)となるものである。IARC

のアプローチは非標準的であり、基本的な毒性学的方法とは一致しない。他の専門家や規制機関

は、IARC が議論した単独腫瘍はすべて自然発生性のものであり、グリホサートの投与とは関係な

いとかねてから結論している。表 2 は、IARC の結論をそれ以前の 14 件の検証及びそれ以降の 6

件の検証と比較したものである。これ以外に、IARC によって検証されていない複数の国際基準に

沿って実施された長期毒性試験が、グリホサートに発がん性の可能性がないことを裏付けている。

暴露: IARC のモノグラフは、不完全な文献の検証である。より新しい文献がある場合にも古い

文献を引用し、選択的に文献やデータを利用しているように見える。IARC は異なるマトリクス(尿、

血清、土壌、大気、水、食品)でのグリホサートの検出を、濃度や暴露可能性を適切なコンテク

ストに置くことなく引用している。現実には、規制機関やWHO/FAO の合同残留農薬専門家会議

(Joint Meeting on Pesticide Residues:JMPR)が、ヒトの暴露可能性を考慮するために一日摂

取許容量(ADI)や許容作業者暴露量(acceptable operator exposure limit)を設定し、安全な暴

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露量を定めている。暴露を適切なコンテクストに置けば、グリホサートへの暴露に健康上の懸念

はないということが一貫して結論となる。

遺伝毒性: グリホサートとその市販製品が遺伝毒性を持ち、酸化的損傷を与えるという強いエ

ビデンスがあるという結論に至る過程で、IARC 委員会は、有害作用を示した非標準的な研究を選

択的に利用した。これらの研究は検証されていないか、国際的なガイドラインに沿って行われて

いないものである。更に、IARC はより関連性のある多数のデータや、査読された文献の検証、す

べての利用可能なデータを慎重に検討した上でグリホサートに遺伝毒性はないと結論した多数の

科学者の意見を無視している。

疫学: グリホサートの発がん性についてヒトにおける「限られたエビデンス」があるという結

論に至る過程で、IARC が用いたのは、研究デザインに限界があり、グリホサートへの暴露の推定

がほとんどまたは全くない比較的小規模の症例対照研究であった。米国の農薬散布作業者の健康

に関する最大かつそれだけで最も重要な研究の結果を IARC は無視した。この研究はグリホサー

トと非ホジキンリンパ腫(NHL)もしくはその他のがんとの間に関連性を認めなかった(De Roos

et al., 2005)。IARC の分類は、すべてのがん関連の研究によって示された全体的ながん危害の可

能性を踏まえていない。むしろ根拠としたのは、対照群と少なくとも 1 つのグリホサート処理群

との間に統計的に優位な差があった少数の研究、または偽陽性になりがちなデータ傾向の検証で

ある恐れがある。ここでは、完全な研究のエビデンスの重みや暴露を全く考慮に入れていない。

更に言えば、IARC はグリホサートの安全性を検証した WHO の 4 つのプログラムの 1 つに過ぎ

ない。IARC の分類は他のプログラムによる評価と矛盾している。WHOのプログラムのうち 2 つ

(JMPR のコア評価グループと国際化学物質安全性計画)は、すでにグリホサートが発がん性で

ないことを結論している(IPCS, 1994; JMPR, 2004)。WHO はまた、飲料水を通じた暴露に基づ

いてグリホサートを評価し、この暴露ルートを通じてヒトの健康に危害を及ぼさないと結論した

(WHO, 2011)。更に最近、JMPR はグリホサートの追加検証を 2016 年 5 月に完了し、「ヒトに

関連する用量でげっ歯類に発がん性の可能性がないことと哺乳類に経口暴露での遺伝毒性がない

ことに照らし、職業暴露からの疫学的エビデンスを考慮すると、当会議は、グリホサートは食事

からの暴露でヒトに発がん性リスクを及ぼす可能性が低いと結論した」と述べている(JMPR,

2016)。他の世界の主要な農薬規制機関も、今後数カ月から数年にわたって IARC のモノグラフに

示されたエビデンスを評価し、この結論が何らかの形で既存のリスク評価に影響するか否か、追

加のリスク管理対策が必要か否かを判断すると予想される。

グリホサートの安全性と環境影響に関するあらゆる疑惑が、注目と慎重な評価に値する。そうし

た所見は、その方法、結論の確かさに基づき、既存の知見と照らして評価しなければならない。

グリホサートが最初の登録以降受けてきた徹底的な精査を踏まえると、言われるような有害作用

に関する多くの主張は厳重な精査に対して説得力がないことは驚くに当たらない。40 年を超えて

実施された多数の検証において一貫した結論は、グリホサートはヒトの健康や環境に重大なリス

クを及ぼすことなく、多くの用途に安全に使用できるということである。

表 2:グリホサートの分類の裏付けとして IARC が使用した 4 件のげっ歯類におけるがんバイオ

アッセイに関する結論の比較

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年 機関または組織

モンサントの

マウス研究

(Knezovich

and Hogan,

1981)

モンサントの

ラット研究

(Lankas,

1981)

モンサントの

ラット研究

(Stout and

Ruecker, 1990)

CHEMINOVA 社

のマウス研究

(Atkinson,

1993)

2016 ECHA(草稿) No1 No No No

2016 WHO/JMPR No No No No

2016 US EPA No No No No

2016 日本(FSCJ、草稿) No No No -

2015 EU Annex 1 改訂 No No No No

2015 カナダ(PMRA) No No No No

2015 IARC Yes Yes Yes Yes

2013 オーストラリア

(APVMA) No No No No

2012 US EPA ヒト健康

リスク評価 No No No -

2008 US EPA 効果判定 No - No -

2007 ブラジル

(ANVISA、保留中) - - - -

2007 カリフォルニア州

(OEHHA) No No No No

2005 WHO/水衛生・保健 No No No -

2004 WHO/JMPR - - No No

2002 EU Annex 1 No No No No

2000 FAO規格 No No No -

1999 日本(FSCJ) No No No -

1994 WHO/IPCS No No No -

1993 US EPA RED No No No -

1991 カナダ(PMRA) No No No -

1987 WHO/JMPR No No - -

1「No」は、その機関または組織がその検定で発がん性物質の所見が裏付けられなかったと結論したことを示し、一方、「Yes」

は裏付けられたと結論したことを示す。

3.5.2 グリホサートは内分泌かく乱物質ではない

1996 年の食品品質保護法で定めた要件の一つとして、EPA は 1998 年に内分泌かく乱物質審査プ

ログラム(Endocrine Disruptor Screening Program;EDSP)を開始した(EPA, 1998)。このプロ

グラムを通じて、EPA はヒトの暴露の可能性等に基づいて試験するべき化学物質のリストを発行

した。グリホサートはこの基準に該当したことで初回の試験対象に含まれた。重要なことである

が、EPA は試験される化学物質のリストについて、「既知の内分泌かく乱物質または内分泌かく乱

物質であることが疑われる物質の一覧であると解釈すべきでない。最初のリストを作成するアプ

ローチにおいて、単にリストに掲載されたからといってこれらの化学物質がヒトまたはその他の

種の内分泌系を阻害すると疑う根拠を提供するものは何もないし、そのように疑うことは不適切

である」と述べている(EPA, 2015b)。EDSP のグリホサート分析において、EPA は 10 件の EPA

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が指示した研究と科学文献のデータとを検証した。2015 年、EPA は「グリホサートは、哺乳類ま

たは野生生物においてエストロゲン経路・アンドロゲン経路・甲状腺経路と作用する可能性に関

する納得のいくエビデンスを示さない」と結論した(EPA, 2015c)。In vitro 試験としては、エス

トロゲン受容体(ER)結合性、ER転写活性化、アンドロゲン受容体結合性、ステロイド産生、

アロマターゼ活性が含まれている。また、In vivo 試験には、エストロゲン経路を評価するための

ラットにおける子宮肥大試験、アンドロゲン活性を評価するための未成熟去勢雄性ラットにおけ

る Hershberger 試験、エストロゲン・アンドロゲン・甲状腺経路とステロイド産生を評価するた

めの雌雄ラットにおける思春期(pubertal)アッセイ、エストロゲン・アンドロゲン・甲状腺経路

とステロイド産生を評価するための魚類短期間繁殖試験、甲状腺経路を評価するためのカエル変

態試験が含まれている。これら試験結果と科学文献からのデータが集積され、グリホサートが視

床下部-下垂体-性腺軸(エストロゲン・アンドロゲン経路)と視床下部-下垂体-甲状腺軸に影響す

る可能性についての結論の情報とされた。その結果として、データの証拠としての重み付けによ

って、グリホサートがエストロゲン・アンドロゲン・甲状腺経路の機能に有害作用を及ぼさない

ことを強く立証している。

3.5.3 検知可能な量のグリホサートが残留していても健康上の懸念とならない

Saltmireas ら(2016)が示すとおり、グリホサートは食品や尿中を含むさまざまなマトリクスの

中に検知されることがある。この事実は、グリホサート及びグリホサート耐性作物に反対する団

体が、ヒトまたは動物の暴露について懸念を示そうとする動きのなかで不当に利用されている

(Mesnage et al., 2012; Kruger et al., 2014 等)。このような報告を評価する際、グリホサートが

信頼できる方法を使って測定されたか否か、検体の取り扱い・保管が正しく行われたか否か、測

定された量が健康上の懸念に相当するか否かを検討することが重要である。例えばハチミツ、ダ

イズ製品、その他の食品からグリホサートを検出した報告(Rubio et al., 2014)は、これらのマ

トリクスでの使用の妥当性評価がされていない試験法が使われていた(Abraxis, 2016)。その方法

は水の試料にのみ使用の妥当性評価がされており、偽陽性等のエラーを排除できない方法である。

Adams ら(2016)は、作為的に選択され自主的に尿検体を提出した 121 名において、グリホサ

ートが検出可能な濃度(すなわち 0.2 ppb 以上)検出されたと報告した。この分析方法は他の妥

当性評価を受けた方法と類似してはいるが、妥当性評価の詳細が示されていない。検体採取と保

管についても報告されていない。重要な点は、濃度は低濃度領域にあり(約 3 ppb)、食事を通じ

た低用量の暴露及び尿中グリホサート濃度に関するこれまでの調査と一貫性をもっていることで

ある(Acquavella et al., 2004)。グリホサートの吸収と排出について確立している理解に基づくと、

グリホサートは尿中に排出されることが予想される(Saltmiras et al., 2016)。尿中または食品中

の化学物質の微量の存在は健康上の懸念には相当せず、ヒトの健康にとって問題なのはむしろ暴

露の量である。特にこの疑問については、2013 年に EPA が食事、飲料水、家庭使用によるグリ

ホサートへの暴露について予測上限を計算している。そしてこれらからの暴露量は EPA がヒトに

安全と考える量の 13%に相当すると報告し、現在の食事・飲料水・グリホサートの家庭使用がヒ

トの健康のリスクになることは考えにくいことを示した(EPA, 2013)。

3.5.4 グリホサートは母乳に蓄積しない

グリホサートがヒトの母乳に検知可能な濃度で存在するという疑惑(Honeycutt and Rowlands,

2014)について、元の報告書はウェブサイトに投稿されたものであるが、試験法の妥当性評価や、

どのように試料が採取・取り扱われたのかについての基本的情報を提供していなかった。実際使

われた試験法は水試料についてのみ妥当性が確認されている市販のキットであった。母乳は複雑

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なマトリクスであり、偽陽性その他の不正確な結果を回避するためには別途試験法の妥当性確認

が必要なはずである。EPA 及びドイツの BfR は、グリホサートが母乳から検出されることの生物

学的合理性また Honeycutt 及び Rowlands(2014)がグリホサートの検出に使用した酵素結合免

疫吸着検査法(ELISA)の妥当性そして試料の採取と記録の方法に疑問を呈している(EPA, 2014b;

BfR, 2015)。Bus(2015)は、グリホサートが母乳に存在したり、その他生物濃縮したりする可

能性が低い生理化学的・生物学的な理由について詳細に議論を展開した。こうした疑問の直接の

主張はドイツ(Steinborn et al., 2016; Von Soosten et al., 2016)や米国(McGuire et al., 2016;

Ehling and Reddy, 2015)、ニュージーランド(NZMPI, 2012)で実施された一連の研究に由来す

る。Steinborn ら(2016)は、ヒトの母乳試料のグリホサートを定量化するための液体クロマト

グラフィー・タンデム質量分析(LC/MS-MS)とガスクロマトグラフィータンデム質量分析

(GC/MS-MS)を開発した。試料はドイツ政府のプログラムの一環として採取され、この 2 つの

異なる方法を使って農薬に関するヒト母乳試料の自主的スクリーニングが実施された。114 件の

試料のうち検出限界(LOD)(試験法によって 0.5 µg/L, ppb または 1 µg/L, ppb)を上回る濃度の

グリホサートを含んだものは 1 件もなかった。McGuire ら(2016)は、LC/MS-MS を使って、女

性 41 名の母乳を分析し、同じ女性 40 名から尿も採取した。尿中に検出可能濃度のグリホサート

が存在する場合にも、同じ個人の母乳には検出限界(1 µg/L, ppb)以上のグリホサートは含まれ

ていなかった(McGuire et al., 2016)。それ以外の報告でも、市販の牛乳、牛乳パウダー、プール

母乳にグリホサートは検出できないことが示されている(NZMPI, 2012; Ehling and Reddy, 2015)。

Von Soosten ら(2016)は、市販されている餌の濃度を反映させたさまざまな濃度のグリホサー

トを含有する餌を乳牛に 26 日間与えた。尿及び糞にグリホサートが検知された場合も、牛乳には

定量化限界(3 µg/kg, ppb)を超える濃度のグリホサートは存在しなかった。つまり、妥当性が確

認された検査法で分析されたいかなる試料にも検出可能なグリホサートは見つかっておらず、こ

れらの結果は、Bas(2015)が示したグリホサートの薬物動態に関して分かっていることと一致

する。

3.5.5 グリホサートは腎臓疾患の原因にならない

Jayasumana ら(2014)は、グリホサートとヒ素その他の重金属または未知の何らかの物質とが

組み合わさって、何らかの方法で、スリランカの特定の人口に腎臓障害を及ぼすという考え方を

提案するため、グリホサートは環境中の他の要因と相互に作用すると考えた。確かに原因不明の

慢性腎疾患(CKDu)は、長年スリランカの一部で重大な健康問題になっている。その理由は世界

保健機関(WHO)やスリランカ及び他の国の専門家や機関によって長く追及されているが、はっ

きりした原因は明らかになっていない。関連する用量での短期・長期の動物試験からは、腎臓障

害の兆候は見られない(Williams et al., 2000)。CKDu については、金属またはフッ化物への暴露、

ヘビの咬傷、脱水症、非処方鎮痛薬、遺伝的素因等、他のリスク要因も提起されている。スリラ

ンカ国立科学アカデミー(The National Academies of Sciences of Sri Lanka:NASSL)は、「グリ

ホサートが CKDu の原因であるとの主張を裏付ける科学的データは欠乏している」と述べている。

NASSL は更に、「CKDu の原因がグリホサートであることを示す、スリランカ国内外の研究から

の科学的エビデンスは関知していない。スリランカのグリホサートに関して得られる非常に限ら

れた情報は、CKDu の被害が出ている地域(北部中央州)における飲料水のグリホサート濃度が、

安全性に設定された国際基準を上回っていることを示していない。更に、同程度のグリホサート

が使用されている Ampare 県、 Puttalam 県、Jaffna 県等の近隣地域や湿潤地でさえ、農業生産者

に CKDu はほとんど報告されていない。グリホサートがはるかに集中的に使用されている茶葉生

産地域では、報告されたことがない」としている(NASSL, 2015)。

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3.5.6 グリホサートは消化器微生物に害を及ぼさない

消化器微生物に対する有害作用についての主張(Samsel and Seneff, 2013 等)は、EU で最近完

了したグリホサートに関する科学的レビュー中でも検証された。利用可能なデータの検証後、

EFSA は現実的な用量で影響はなく、消化機能への影響があるとしたら高用量に伴う pH の変化の

結果であり、腸内微生物の変化の結果ではないと結論した(EFSA, 2015)。腸内微生物と消化器

微生物混合群を利用する微生物作用とに対する影響を検証した 3 つの研究がある。最初の研究は、

長期間にわたって管理条件下の微生物群を観察した in vitro ルーメン1シミュレーションを用いた

研究である(Riede et al., 2014)。グリホサートまたはグリホサートを有効成分とする除草剤に起

因するルーメンパラメータの有害な変化(病原性細菌の増加を含む)は検知されなかった。2 つ

目の研究はドイツの農場に珍しい形の内臓型ボツリヌス症の疑いがあるという主張に対応して、

特にボツリヌス菌(Clostridium botulinum)への影響を検証した。この主張はしばしば引用される

が、獣医師のチームが状況を調査したところ、ボツリヌス毒素の存在を示すエビデンスはこの群

れからは見つからなかった(Seyboldt et al., 2015)。3 つ目の研究は、グリホサート使用の 3~8

日後の牧草で測定される最高の残留濃度を反映した濃度でグリホサートを主成分とする除草剤を

添加した餌を与えたヒツジで実施された(Huther et al., 2005)。グリホサートがルーメンの微生

物に有害作用を与えたことを示す兆候は見られなかった。そもそも、グリホサートが消化器系の

微生物叢に有害な影響を及ぼすという主張の一部は、モンサント カンパニーがグリホサートにつ

いて取得した特許に由来する。グリホサートは、特定の病原性細菌にも存在する 5-エノールピル

ビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase:EPSPS)を阻

害する(Abraham, 2010)。EPSPS は除草剤として作用するために植物の中でグリホサートが阻

害するのと同じ酵素である。特許はグリホサートがEPSPSを阻害できることを説明しているが、

注意すべきは、単離 EPSPS 酵素の in vitro 試験を通じてこれらの結果を立証し、効果を生じるに

はシュウ酸またはその誘導体の同時添加が必要であるとしている点である。この特許は、

Toxoplasmodium sp.や Plasmodium sp.、Cryptosporidium sp.等の生物を含む寄生性原虫門

(Apicomplexa)の原生動物に特有のものである。現在まで、Apicomplexa 感染に対する抗生剤

としてグリホサートが作用するか否かについて in vivo で行われた試験はない。また、特定の食品

または飼料中の残留としてのグリホサートの摂取が消化器系の微生物に有害な影響を及ぼすこと

は示されていない。

3.5.7 グリホサートはさまざまな障害や疾病の原因にならない

複数の公表文献の中で、グリホサートが障害・疾病の原因になるという仮説を立てるために、グ

リホサートの使用と長期的なさまざまな障害・疾病の発生との比較が用いられている。Swanson

ら(2014)の論文は、広く流布している主張の根拠になっている。グリホサートが自閉症スペク

トラム障害、アルツハイマー病、肥満、神経性無食欲症、肝疾患、生殖障害・発達障害、がんの

原因になっているという主張も含まれている。この論文や同様の文献は、因果関係を説明する実

験によるエビデンスを示してはおらず、因果関係を示唆する関連性にのみ依存している。典型的

なのが、USDA によるグリホサート使用のデータを、さまざまな情報源からの障害・疾病の発生

と結び付け、入手できる科学的エビデンスが直接否定するような幅広い仮定の機序の背景の中に

1 ルーメンは、ウシやヒツジ等動物の胃の一部で、消化の第一段階を完了するためにここで微生物が餌を発酵させる。健康な微

生物群は適切なルーメン機能に不可欠である。

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置くパターンである。主張される相関関係を裏付ける新しい実験やデータは提示されない。こう

した関連性に基づく同様の主張にはほとんど、または全く科学的な裏付けがなく、その方法論や

推定について厳しい批判を浴びている(Novella, 2014; Kariraee, 2015)。

3.5.8 グリホサート除草剤の界面活性剤は誤解を受けやすい

ラウンドアップ®ブランド製品等の配合された除草剤は、グリホサート(活性成分)以外に界面活

性剤(不活性成分)を含んでいる。界面活性剤は他の原料の水溶性を高め、水の表面張力を低下

させ、除草剤の場合には活性成分が雑草の葉の表層を通過しやすくする等の目的で使用される化

学物質である。界面活性剤は細胞膜を破壊するため、保護されていない細胞は損傷を受けやすい。

この想定と一致して、保護されていない細胞の in vitro 試験を使用する科学文献では、配合された

除草剤製品のほうが活性成分だけよりも毒性が強くなる(Defarge et al., 2016 等)。In vitro 試験

では、一般に、培養された保護されていない細胞をグリホサートと界面活性剤の混合物に暴露さ

せるが、環境暴露または食事暴露の後に体内で観察される濃度の 100~1,000 倍高い濃度であるこ

とが多い。保護されていない細胞は界面活性剤による細胞膜損傷を受けやすく、このような試験

が必ずしも健全な生命体に対する真の毒性効果を示しているわけではない。2007 年に行われたあ

る試験は、ラウンドアップ®ブランド除草剤、ラウンドアップ®ブランドの除草剤の界面活性剤、

複数のその他の一般的な界面活性剤が、それぞれ培養細胞に与える影響を明らかにした(Levine et

al., 2007)。Levine らは、1) in vitro 試験に基づいて処方された除草剤が原因とされる有害作用の

一部は、実際は健全な細胞膜に依存する細胞過程が超生理学的な濃度の複数の界面活性剤によっ

て破壊されるという事実の反映であること、2) 消費者向け製品に含まれ日常的に使用される界面

活性剤は、ラウンドアップ®ブランド除草剤やそれに含まれる界面活性剤より、細胞膜を破壊する

効果が強いことを立証した。また、Williams ら(2000)は、ラウンドアップ®ブランド除草剤に使

用される主な界面活性剤の 1 つであるポリエトキシ化牛脂アミン(polyethoxylated tallow amine:

POEA)を検証し、急性または亜慢性暴露について危害が少ないと結論した。Giesy ら(2000)

は、グリホサートを含む除草剤及びこれに含まれる界面活性剤(POEA を含む)について生態毒

性のリスク評価を実施し、POEA は水生生息地以外の野生生物に重大なリスクとならないと結論

した。

3.5.9 グリホサートは金属をキレート化することで作物を傷つけない

グリホサートが特定の金属をキレート化する特徴を根拠として、これを除草剤として使用すると

作物が必要なミネラルを利用できなくなるため植物の健康を損なうという主張がなされる(Huber,

2007; Johal et al., 2009 等)。Duke ら(2012)は、こうした主張を詳細に検証した。Duke らはグ

リホサート耐性作物とその従来型と比較した研究から、作物の栄養、作物の病気、作物の収量に

関して入手できる文献を検証した。作物の栄養に関するデータは実験の条件によってばらつきが

あったが、科学的エビデンスの大多数はグリホサートが作物の栄養状態に有害な影響を及ぼさな

いことを示していると結論した。同様に、利用できるデータのほとんどは、グリホサートが作物

の病気に対する感受性を変えることはないという結論を裏付けていた。更に最も注目すべきこと

に、Duke らは、グリホサート耐性作物の収量データから、グリホサートの使用が収量に有害な影

響を与えるという結論には裏付けがないことを明らかにした。この主張のその他の根拠は、パイ

プのスケール除去剤としてのアミノメチルホスホン酸の使用に関して、1964 年に Stauffer

Chemical に付与された特許から生まれている(Toy and Ewing, 1964)。この特許はグリホサート

が属する化学物質群が金属をキレート化することを立証しているが、グリホサート自体が他の環

境中に自然にある、または商業的に生産されるキレート剤と比較して、特に強力であるとは立証

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されていない。Duke ら(2012)は、グリホサートとその農業におけるミネラルのキレート作用

について、入手可能な文献を検証した。その結論は、予想しうる最も高いグリホサートの濃度で

も、土壌のミネラル濃度はグリホサートの濃度より桁違いに高いため、グリホサートがミネラル

利用性に重大な影響を与えるとは考えにくいというものであった。

3.5.10 グリホサートはミツバチの健康リスクにはならない

最近の 2 件の研究で、グリホサートがミツバチに有害ではあるものの影響は致死未満であると立

証したとの主張がされた(Balbuena et al., 2015; Herbert et al., 2015)。しかしながら、Balguena

ら(2015)は、試料の数の少なさから信頼できる結論を導き出すことが難しいという問題を抱え、

一方、Hebertら(2015)がミツバチ個体と巣全体を使って得た結果は矛盾するものであり、根本

的な研究方法の信頼性の問題を浮き彫りにした。対照的に、Thompson ら(2014)は、巣レベル

でのグリホサート暴露を判定する方法を説明し、この暴露データを使って用量を選択し、その後

のミツバチ幼虫の研究に用いた。第 1 段階では、4 つのコロニーからのミツバチに 7 日間、グリ

ホサート処理をしたファセリア・タナケティフォリア(Phacelia tanacetifolia)(ミツバチにとっ

て非常に魅力的な植物)の蜜と花粉を集めさせた。ミツバチが集めた蜜・花粉と巣内の蜜・花粉

について、グリホサート濃度を測定した。次にこれらの濃度を使って、連続 5 日間ショ糖液にグ

リホサートを溶かして巣に給餌して幼虫への毒性を評価する第 2 段階の用量を決定した。そして

Thompson ら(2014)は、卵の生死と若い幼虫・成長した幼虫・蛹の重量を検証した。その結果、

ミツバチ成虫や幼虫の生死・発達に対する有害な影響は、グリホサート処理されたどの巣でも観

察されなかった。これらの結果は、グリホサートはミツバチに「実質的に無毒」という EPA のそ

れまでの結論と矛盾がない(EPA, 1993)。

3.5.11 オオカバマダラ蝶の支援のための協力が進行中

グリホサートは幅広く用いられ、根まで枯らす雑草防除能力は高く、よってトウワタ(Asclepias)

等の防除が難しい多くの雑草を一掃できる。トウワタはオオカバマダラ蝶の幼虫の食草であり、

米国でのトウワタの減少の報告ではグリホサート使用がその原因とされている(Pleasants and

Oberhause, 2012)。その結果、研究者らはオオカバマダラ蝶の個体数減少の原因をグリホサート

の使用にあるとしてきた。他方、オオカバマダラ蝶の越冬地の違法な伐採(Vidal et al., 2014)、

気候変動(Guerra and Reppert, 2013)、秋季の花の不足(Inamine et al., 2015)が原因とする説

もある。米国ではオオカバマダラ蝶の群れを持続的に回復させるために、国立魚類野生生物基金

(NFWF)が設立したオオカバマダラ蝶保護基金(Monarch Butterfly Conservation Fund)等、耕

作地以外のトウワタの群を回復させる協働の取り組みがある。モンサントはこの取り組みの支援

に深く関わり(NFWF, 2015)、米国内でオオカバマダラ蝶の生息地を増やす活動に積極的に参加

している。

3.5.12 グリホサートは両生類の幼生に毒性を持たない

両生類幼生、特にオタマジャクシに対するグリホサートを有効成分とする除草剤の報告がここ数

年されている(Relyea, 2005; Relyea et al., 2005; Meza-Joya et al., 2013 等)。これらの研究の多

くは界面活性剤を含む除草剤製品を、両生類幼生を含む水界生態系に使用するもので、しばしば

陸上での使用に製品表示で許されている量を超えて使用される。その上でこれらの研究者は、生

死やその他の毒性についてさまざまな測定結果を報告している。グリホサート自体は両生類に対

する試験を経ており、その結果は一貫して毒性レベルの低さを立証している(EPA, 1993; Giesy et

al., 2000)。Giesy ら(2000)は、グリホサート及びグリホサートを有効成分とする除草剤の両生

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類への毒性に関して入手可能なデータを検証し、グリホサートを有効成分とする除草剤はグリホ

サートのみよりも毒性が高いと結論した。Giesy らは、この差を除草剤製品中の界面活性剤の存

在が原因としている。界面活性剤は細胞膜を破壊し、細胞機能の喪失を招く(Lucy, 1970;

Dimitrijevic et al., 2000)。水生生物のえらに加えいずれの部位でも、界面活性剤によって細胞が死

滅すれば当然のことながら個体死または外傷となる。この理由から、水中使用を意図したグリホ

サートを主成分とする除草剤には界面活性剤は含まれておらず、また、界面活性剤を含む陸上使

用の製品は水路への製品の使用を禁止し、製品を水路に流れ込ませないよう使用者に指示する注

意書きがある。表示に従って使用されれば、グリホサートを有効成分とする除草剤は両生類に危

害を与えずに使用できる。

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4.

結論

グリホサートは他にみられない複数のすぐれた特性を兼ね備えており、その継続的な登録は公共

の利益にかなうものである。その幅広い作用スペクトル、吸収移行性の作用機序、土壌処理効果

がないこと、使いやすさ、ヒト・動物・環境に対する強力な安全性データ、更には、雑草管理の

簡素化や保全耕起の拡大を可能にすること等、グリホサートは、Duke 及び Powles(2008)の見

解どおり「100 年に 1 つの除草剤」と呼ばれてしかるべきである。

グリホサート耐性作物との組み合わせで、この除草剤は雑草防除のコストと必要労働量の削減に

より、農業そのものを変えた。また、保全耕起の技術的障害を減らして、環境への影響の少ない

耕作法の育成を後押ししている。農業におけるその価値は、個々の生産者レベルから米国の商品

輸出市場にまで広がる。これらの有益性を将来も維持するためにも、抵抗性雑草の防除を目的と

した他の防除戦略を取り入れることが必要と考えられる。

グリホサートはまた、耐性作物ではない作物においても容易で有効な雑草防除を可能にする。敷

設用地やレクリエーションの環境でも、費用対効果の高い雑草管理ができる。グリホサートは幅

広い活性スペクトル、使いやすさ、低コスト、有害作用の可能性の低さから、侵襲性の水生雑草

の管理にも広く使われている。

グリホサートの優れた安全性プロファイルは、最初に登録されたときから広く知られている。短

期毒性試験でも長期毒性試験でも、グリホサートは毒性が低く、内分泌信号を混乱させないこと

が明らかにされている。また、グリホサートは変異原性も発がん性もないことが、細胞レベル、

動物、ヒト個体群での研究で示されている。更に、グリホサートは環境に蓄積せず、生物濃縮も

しない。

使用開始から 50 年に突入し、グリホサートは米国そして世界で雑草防除の中心的地位にある。こ

の重要なツールの利用を維持することは、農業のみならず雑草防除が必要なその他の現場におい

て環境的・経済的な持続可能性を促進すると期待される。どんな雑草防除も繰り返し使用されれ

ば、抵抗性バイオタイプの出現につながることが明らかである一方で、グリホサートが今日重要

な有益性を持ち、将来的にも有益であり続けることも明らかである。