29
ジェンダー主流化の手引き 【農業】 ~わかる!ジェンダーに取り組む「なぜ?」と「どうやる?」~ 2015(平成 27)年 2

ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化の手引き 【農業】

~わかる!ジェンダーに取り組む「なぜ?」と「どうやる?」~

2015(平成 27)年 2 月

Page 2: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

1

PART I 導入編

わかる!ジェンダーに取り組む「なぜ?」と「どうやる?」

ネガティブチェックではなくポジティブに案件本来の目標達成に貢献!それがジェンダー

この手引書は農業開発・農村開発の案件形成と実施におけるジェンダーの視点の組み込み、取り組

みの基礎について解説し、皆さんに実践してもらうことを目指しています。

しかし、そもそもなぜジェンダーの視点の組み込みや取り組みをするのでしょうか?

まずはこの「なぜ?」に答えましょう。

第 1 部:よい技術は万人に受け容れられる? わかりやすい例として、まず「農業技術の開発」や「普及」のお話をしましょう。

ある国で稲作の改良技術を確立し、これを普及するというプロジェクトがありました。その国では国

民の 8 割が稲作をしていましたが、種のばら播きや移植をするとしても古い苗をランダムに力任せに

深く植えつける方法が一般的でした。このせいもあり単位面積当たりの生産量は低いままでした。

そこでプロジェクトの専門家とカウンターパートは若い苗をひもに沿って等間隔にまっすぐ、そして

浅く植える方法を導入し、これを普及員に指導、普及員から農家へ普及しました。皆さんもご存じの

ように日本の稲作が機械化される以前に収穫を上げる方法として一般的だった正条植えです。

一般的なランダム植え 導入した正条植え

しかし、この正条植え、なかなか普及しませんでした。なぜでしょう。プロジェクトチームは普及

対象の一つの灌漑区で普及員から指導を受けた農家さんたちに話を聞きました。

農家さんの多くは「正条植えをすると生育の揃いが良く、楽に除草が出来る」と技術を評価してい

Page 3: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

2

ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

植えだと作業の負担は確かに大きくなるが、その分の見返りがさらに大きいことを普及員から伝える

ように指示しているはず」とカウンターパートに問います。農家さんも「それは技術研修や指導の際

に聞いた」と言っています。

そんな中、一人の女性が口を開きました。

「あのやり方はきれいに植えるために時間がかかる上に神経を使うの。田植え時期はどの家も手が足

りないので一枚の田んぼにそんなに時間をかけられない。だからやらなかった。でもそんな効果があ

るとは知らなかったわ」

実はこの国で田植えは先ほどの写真のように伝統的に女性が行う作業でした(気づいてましたか)。

ちなみに正条植えによって作業が楽になる除草は男性の役割です。

それを考えると同じ一つの技術を巡ってのこの言い分の違いは当然といえるでしょう。

稲作における男女の作業分担があることはプロジェクトチームも見て知ってはいたのですが、田植

えをする女性の言い分を直接聞いたことまではありませんでした。

そのときあらためてそこに集まり自分たちが話を聞いていた「農家さんたち」の顔ぶれを見まわす

と男性ばかりであることにはじめて気づきました。

気づくと周りは男性ばかりだった。女性は?

担当の普及員は「世帯主に研修をすれば技術は家族全員に伝わると思っていた。専門的な話もする

ので奥さんたちには分かりづらいだろうし」と打ち明けました。

「期待」や「思い込み」をしていませんか?

このお話が示唆するのは「良い技術を開発すれば万人が受け入れてくれる」、「世帯主に指導すれば

情報は自然と家族に伝わる」という期待や、「専門的な知識は女性には難しいので男性に伝えるべき」、

「研修には世帯主が出るべき」という思い込みです。これは介入者であるプロジェクトチームだけで

なく、その対象である農家さん自身にもあったのではないでしょうか。

!!!!!

!!!!!

!!! ・・・。

!!!!

!!!

Page 4: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

3

「思い込み」での判断は禁物

(資料提供 原田陽子)

そもそも技術というものはユーザー・フレンドリーじゃないとどんなに効果があろうが受け入れら

れませんよね。このプロジェクトでは「プロ・プアな技術」をモットーに肥料や農薬などの投入は抑

えるいっぽう労働集約型で収量を上げる稲作を「小規模農家」をターゲットに普及していました。つ

まり大勢いる稲作農家の中でも経済的な視点から農家さんを複数のセグメントに分けて、小規模農家

に最も効果があるそして受け容れられやすいと思われる技術を選択し普及していたのです。その点で

は「ユーザーを意識した技術開発」をしているという自負がプロジェクトチームにはあったでしょう。

しかし、この場合「技術のユーザーが誰か」という点で「小規模農家」という捉え方だけではたし

てよかったのでしょうか?国によって農業への男女のかかわり方や程度は様々ですが、多くの場合は

お父さんとお母さんの役割分担で成り立っているのではないでしょうか。技術のユーザーは誰なのか

を考えるとき、男性と女性は経済的なレベル分け以上に最も基本的で明確なセグメントです。

農業だけでなく日常生活の中でやってること、思っていること、お父さんとお母さんで同じ場合も

あるでしょうが、皆さん自身の生活を振り返っても分かるように男女で違いがある場合のほうが多い

のではないでしょうか。

こうした役割や言い分の違いに気づくこと、そして男女の言い分の両方もしくはより重要な言い分

に応えることで技術はよりユーザー・フレンドリーなものになり受け容れられるようになります。つ

まり技術を広げたいと思っているプロジェクトの目的の達成にプラスに作用するのです。

「そう言われてみると当然のことだよな」って思いませんか?

まずは私たち自身の「期待」や「思い込み」を取り去ることから始めましょう。そのためにもジェ

ンダーの視点で考えることは非常に有効です。

ジェンダーに気づいてプロジェクトはどうなった?

このプロジェクトでは先ほどの「田植え論議」をきっかけに稲作における男女の作業分担(図 1)と

個々の技術に対する男女の言い分の違いにあらためて注目しました。

Page 5: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

4

図 1 稲作における男女の作業分担

作業 男性 女性

田起こし ◎

苗づくり ○ ○

代掻き ◎

ごみ取り ◎

苗取り ◎

田植え ◎

除草(機械) ◎

除草(手取

り)

○ ◎

収穫 ○ ○

脱穀 ◎

収穫後処理

(選別、籾

すり精米)

そして作業の主体となっている側の言い分を汲み取って技術を改良しました。それをまとめたのが

図 2 です。例えば田植えは女性の言い分を尊重し、省力的に正条植えができるよう一条ごとにひもを

張る田植えではなく、あらかじめ田面に縦横に線を描くラインマーカーを導入しました。これによっ

て植えるのが早い人も遅い人も自分のペースで田植えができ、横一線に並んで植える時間の半分以下

で正条植えが終わるようになりました。こうして面倒くさいと思われていた正条植えに女性の支持を

得ることができるようになったのです。

ユーザーのニーズ汲み取る技術

これなら楽だし 続けられそう(妻)

普段やらない俺でも やれそう(夫)

苗づくり

田起こし

苗取り

代掻き

除草

脱穀

収穫

選別

男女どちらが

やってるかな?

Page 6: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

5

図 2 男女ユーザーの言い分に対応した技術改良の具体例

技術に対する男女の言い分の違い 言い分に応じて改良した技術

ロールマット育苗

ラインマーカー移植

省力型除草機

緑肥すきこみ

選別用唐箕

Page 7: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

6

また、技術研修や指導には世帯主だけではなく各世帯から男女(夫婦、親子)を招くことで技術・

知識の共有を促進しました。研修では男女の役割分担に関係なく作業を実習してもらいました。これ

によって自分が担当していない作業でも改良した各技術の意義を男女両方が理解でき、以前より多く

の農家さんにより確実に技術を実践してもらえるようになりました。また技術の使い勝手の評価も研

修や圃場での指導の際に男女からフィードバックを得ることで技術の改善も一層進みました。

夫婦で受講、夫婦で体験

こうしてプロジェクトが目指していた目的の達成が促進されたことに加えて、伝統的な男女の作業

分担が見直され、より効率的に家族の労働力を活用するという変化も一部で見られました。例えば、

稲作で最も労働投下が多い作業の一つにもかかわらず女性のみが担っていた田植えを男女で分担する

ようになったり、それまでもっぱら女性が風が吹くのを待って少しずつ行っていた籾米の選別作業の

作業を唐箕という選別用の農具を導入したことで男性がまとめて行うようになりました。

世帯内の効率的な作業分担 研修ですべての作業を男女が一緒に体験することで、それまで相手に任せきりにしていた作業の負

担が分かり、「お母ちゃんはこんな大変なことをやっていたのか。ちょっとは手伝わないといかんかな」、

「男の仕事と思っていたけど、コツが分かれば私の方が向いているかも」という気づきにつながった

のでしょう。

皆さん、ジェンダーの視点が農業・農村開発に必要とされる「なぜ?」少し理解が深まったでしょ

うか?この稲作の例のように男女の関与が明らかな場合は両者の作業分担を知り、男女それぞれの言

い分を分けて考えると大きく目標の達成に近づくでしょう。

第 2 部:コントロールって何? つづいては、作業分担などと違って表向きに男女の関与が見えづらい場合でも実はこれに気づいて

対処すると案件はさらにうまくいくというお話です。キーワードは「コントロール」。すなわち農業や

生活において男女が決定権を持っている範囲の違いです。ここではまず実際にあった 3 つのプロジェ

クトでのエピソードを下敷きにしたお話をします。その上で「コントロール」について考えてみまし

Page 8: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

7

ょう。

「女性が主役」の落とし穴

島嶼国の A 国において男性はもっぱら海に出て漁労や海運をして生計を立てており、女性はもっぱ

ら島に残って家を守っていました。

このような背景から島に残る女性を対象に島で彼女たちが野菜栽培を行うことで世帯収入の向上を

目指すプロジェクトがありました。プロジェクトでは女性にも分かりやすい研修コンテンツや教材づ

くりを工夫し、おかげで栽培をする女性が増えました。プロジェクトの目標が収入向上であるため、

野菜のニーズが高いホテルや首都の島に売り込みをして売り上げも上々でした。ところが販売を始め

てしばらく経った時点から次々と女性たちは野菜栽培をやめていきました。なぜ?

女性が農業をして収入向上を目指すプロジェクトで何が起こったか?

専門家が女性たちにそのわけを聞くと皆が口をそろえて言います。

「家の収入の使い道はダンナが決めるから、野菜を売って現金にしてしまうと私たちが好きに使え

ない。だから続けるのがばかばかしくなってきた」

売らないぶんには家の食材になるのでお母さんたちの好きに使えるのですが、これでは確かに女性

は労働力として利用されているようなものです。そもそもこのプロジェクト、計画立案の際に「島に

残って家を守っている」つまり「男性に比べ、することがない」との仮定で「女性を主役にしよう」

というアイデアに至ったそうです。ですが専門家が実際にプロジェクトサイトの島に来て女性の生活

を観察すると家事労働で一日中切れ目なく働いていることに気づきました。そのため時間のやりくり

は難しく、研修や指導も彼女たちの都合に極力合わせるようにしていました。

実はかなり忙しい女性の日常生活 専門家とカウンターパートは何とか男性を説得して女性の利益を少しでも確保しようとしましたが

男性たちは「これは伝統的に家長である男性に決定権があるのだ」とゆずりません。そこで先方政府

Page 9: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

8

や現地事務所の意思決定者も招いて公の場で議論しようとしましたが、そのような場では男性の手前

女性たちは口をつぐんでしまい、思うような議論が出来ませんでした。こうして女性を主役にした収

入向上は頓挫し、解決策を見いだせぬまま終了しました。

家の収入の使い道はすべて家長がコントロール 女性の菜園は続ける人がいなくなりました

お母ちゃんだって強いのだ

B 国では、手動式の簡易な農機具を開発し普及するプロジェクトが実施されていました。もともと

この国では農機具の国内生産は行われていませんでした。ですので、プロジェクトでは製造技術の研

修を、選別用の唐箕や除草機などのような木工で作る農機具は家具屋さんに、脱穀機や播種機のよう

な金属加工で作る農機具は鍛冶屋さんに対して行いました。それまで同じ仕様の農機具を輸入してい

た B 国では廉価で買える国産農機具の需要は高く、プロジェクトでは研修で技術移転したローカルの

職人さんに大口での発注を希望するインプット業者や、農家組合などを紹介しました。しかし、明ら

かに売り手市場の農機具にもかかわらず、製造・販売の実績は伸びませんでした。紹介の場では職人

さんたちも笑顔で「たくさん作ります」と異口同音に答えていたのに。なぜ?

職工さんたちによくよくわけを聞くと一人がやっと口を開いてくれました。

「家ではお母ちゃんや家族の連中に(農機具製造を)反対されている」

皆さん実は同じ理由でした。

そのときプロジェクトチームは、この国の職人さんはたいていが「家内制手工業」で製造を行って

いることに気づきました。確かに大口での生産となると原材料の購入に相当な資金がかかります。零

細規模の自転車操業で製造をする職人さんには大きな負担と言えます。この国では聞くところ工房の

資金運営は共同経営者である夫婦で行います。

「これまで作ってきた家具とは全く違う得体の知れない製品づくりにお金をつぎ込むバカがどこにい

る」

「研修とか言ってとうちゃんが家を空ける間にタンスがいくつ作れるの」

家族からそんな風に言われていたそうです。

片一方を巻き込むだけでは不十分?

Page 10: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

9

結局、資金に比較的余裕があり、家族を説得できた一部の職工さんは量産体制にこぎつけましたが、

多くの職人さんたちは家族の賛成を得られないまま製造・販売は停滞したままでした。

お財布は別でも世帯は一つ

C 国では小規模農家を対象にした野菜栽培とその販売による収入向上を目指したプロジェクトがあ

りました。もともとこの国での野菜栽培は男女両方の関与が大きかったため、プロジェクトではその

役割分担を調べると共に、営農において男女が持っている決定権の範囲の違いについても確認しまし

た。

プロジェクト対象県の農村地域に入って何世帯かの農家さんに作物の販売について男女別に聞き取

りをしたところ、ある農家の女性からこんな話が出ました。

「おとうちゃんが畑のトマトの売り先を見つけに家を空けていたとき、たまたま軒先に仲買人が来て

いい値段で買ってくれると言ってきたんだけど。おとうちゃんの畑だから決められないと断っちゃっ

たの」

そこで今度は彼女の夫のほうに話を聞いてみました。

「方々買い手を捜し歩いたのに見つからずじまいで。結局トマトは畑でほとんど腐らせてしまい大損

した。あのときかあちゃんが機転を利かしてくれてればと後悔する」

調べてみると、C 国ではたとえ同世帯内でも男女はそれぞれに管理する畑があり、そこから得た収

入は別々でコントロールしているケースが多いことが分かりました。

そこでプロジェクトは「世帯内の男女は共同経営者」というスローガンを掲げ、お互いのコントロ

ール権は尊重しつつも、営農は世帯全体で考えることを奨励しました。具体的には生産する野菜の種

類、販売、作付けの計画について夫婦が話し合って決め、管理権が分かれる部分でも互いが相手をサ

ポートすることを勧めました。これによって世帯内の役割分担や男女の関係性も見直され、農家はよ

り効率的に収入を上げることが出来るようになりました。プロジェクトは協力期間内に所期の目標を

上回る成果を挙げました。

プロジェクト成功の一因は「男女で決める」

(写真提供 アイエムジー) C 国の対象地域のコントロールの現状を踏まえ、「夫婦一緒で計画する」という仕掛けを導入したこ

のプロジェクト。これによって「世帯内の男女が WINWIN の関係を築く」、「納得ずくで共同すること

により世帯全体の暮らし向きをよくする」というメリットが対象農家の男女に共有され、受け容れら

れたことが目標達成の貢献要因となったのです。

「関与」と「コントロール」の度合いを考えると

3 つのお話しから「コントロール」、すなわち男女が決定権を持つエリアや度合いの違いに着目する

大切さがお分かりいただけたでしょうか。それではまとめに入りますね。

プロジェクト等で協力する分野・テーマや、想定される介入・活動に関連する範囲で、男女それぞ

Page 11: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

10

れの関与(作業分担)と決定権(コントロール)を調べてみると、下の図のように 4 つのカテゴリー

に分けることができるでしょう。

お話しした 3 つのケースにおいて、男女それぞれの状況がこの表の 4 つのカテゴリーのどこに当て

はまるでしょうか?皆さんも考えてみてください。

1 番目に紹介した女性を対象とした農業プロジェクトの例は、目に見える農作業への「関与」は女性

が 100%でありながら、それを手段としてプロジェクトが向上させようとした収入の「コントロール」

は 100%男性が行っていました。表に当てはめると女性の状況は★ 印が示した「関与は大きいが決定

権は小さい」というカテゴリーに入ります。一方の男性の状況は「関与は小さいが決定権は大きい」

というカテゴリーになるでしょう。こうした男女が対極的、非常にアンバランスな状況にある場合、

プロジェクトの成果・インパクトの発現やその持続性が阻害される可能性が高いと言えます。実際に

このプロジェクトでは女性の不満が爆発し、収入向上は一時的なもので終わりました。仮に介入者が

このアンバランスな状況にあらかじめ気づくことが出来ていたら、何らかの手段を講じることで結果

は好転していたかもしれません。

2 番目の農機具の職人さんのケースも同じように男女の「関与」と「コントロール」のレベルの違い

で表のカテゴリーに当てはめて読み解いてみてください。農機具生産への目に見える関与は比較的男

性のほうが多かったかも知れません。一方で工房の経営やお金の使い道では男性と同じくらいに女性

の決定権も強かった。しかし、お母ちゃんには農機具生産のメリットが十分に伝わっていなかった。

つまるところ「それまで作ったことのない得体の知れないもの(農機具)の生産に家のお金や労働力

を費やすのはこわい」と女性が感じるのも当然でしょう。皆さんなら男性と女性にどうアプローチす

ると生産が伸びると思いますか?

3 番目の野菜農家のケースは、目に見える農作業への関与も、目に見えない収入のコントロールも男

女ともにしていましたが、実は経営を別々に行っていた。というもの。表を埋めてみるとちょっと特

殊な事例に感じるかもしれませんね。でもアフリカ地域の農村ではよくあるケースなんです。この状

況に気づいてプロジェクトでは「たとえお財布は別々でも世帯は一つ」という考えを打ち出しました。

農家さん男女両方に対して共同するメリットを啓発していったのです。農家さんたちにはこうした考

えが受け入れられました。そこでプロジェクトは「営農戦略づくり」という男女が共同する意思決定

の仕掛けを工夫した結果、成果とインパクトの発現と持続が促進されました。

結論:「農業≒ 生活 by 男女」だからジェンダーの目を!

言わずもがなですが農業開発、農村開発はひとの生活に直接関連しています。それではその生活の

関与

関与が大きく決定権も大きい

関与は小さく決定権も小さい

関与は小さいが決定権は大きい

決定権

関与は大きいが

決定権は小さい

Page 12: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

11

担い手は誰?男性と女性です。第 1 部での稲作プロジェクトのお話しは稲作における役割分担という

男女の「関与」が割と目に見えやすいケースでした。とはいえ、見てても「気づいてない」場合があ

るのはお話しのとおりです。次に第 2 部でお話しした「コントロール」、こちらは目に見えません。こ

れらを前出の表のように可視化し、介入者(計画立案者、実施者、先方政府のカウンターパートなど)、

そして協力の対象となる農家さん自身にも気づきを与える術がジェンダーの視点なんです。

その上で「どのような取り組みができるか」を工夫することにより皆さんの行う協力がもっと良いも

のになる、つまり目指す目的を効果的、効率的に達成できるでしょう。

ジェンダーに取り組む「なぜ?」は以上です。それではこれから本題の「どうやる?」にお話を進

めましょう。

Page 13: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

12

PART II 実践編

1.そもそもジェンダー主流化とは? ジェンダー主流化とは、すべての開発政策、施策、事業の計画・立案、実施、モニタリング、評価

のあらゆる段階で、ジェンダー視点に立って開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていく取り組

みを進めることです。ジェンダー主流化は、ジェンダー平等と女性のエンパワメントを達成するため

に必要な手段であると認識されています。なお、ジェンダー平等とは、男性と女性が同じになること

を目指すものではなく、人生や生活において、さまざまな機会が性別にかかわらず平等に与えられ、

女性と男性が同様に自己実現の機会を得られるような社会の実現を目指すものです。

それでは、ジェンダー(平等の)視点とは何でしょうか。ジェンダー視点とは、男女の固定的役割

分担や力関係が社会的に作られたものであることを意識していこうとする視点のことです。導入編の

事例で提示された、「男女の役割や言い分、決定権の範囲の違いに気づく」ということは、これまで、

男女の役割や言い分、決定権の範囲の違いがプロジェクトの成果や農家の営農活動に影響を与えるな

ど思いもしなかったという「思い込み」を、ジェンダー視点に立って捉え直すことだと言えます。

2.JICA のジェンダー平等と女性のエンパワメントに向けた取り組み JICA では、ジェンダー平等と女性のエンパワメントを推進する支援を次の 3 つのアプローチにより

行っています。

アプローチ 事業内容

ジェンダー平等政策・制度支援 男女共同参画を目指す政策や制度の策定・改革支援

女性を主な裨益対象とする支援 女性を主なターゲットグループとし、女子教育や母子保健、女

性の職業訓練など、女性に直接裨益する支援

ジェンダー視点に立った活動を統

合した支援

ジェンダー平等や女性のエンパワメント(女性の能力強化を通

じた社会・経済的地位の向上)への取り組みをプロジェクトの

一環として組み入れたもの

本手引きの対象とする農業・農村開発案件は、3 番目の「ジェンダー視点に立った活動を統合した支

援」に該当します1。

3. 農業・農村開発分野においてジェンダー視点に立った取り組みを実施する際の

重要事項 ジェンダー視点は、案件形成・事前段階で組み込まれていなければ、実施段階で組み込むことは難

しいため、農業分野においてジェンダー視点に立った支援を実施するにあたっては、案件形成・事前

1 JICA 事業におけるジェンダー主流化とは本来、「ジェンダー平等政策・制度支援」・「女性を主な裨益対象とする

支援」・「ジェンダー視点に立った活動を統合した支援」案件すべてを含むものですが、本「ジェンダー主流化の

ための手引き」は、ジェンダー平等及び女性のエンパワメントに関する専門性を必ずしも有していない JICA 関係

者が使用することを前提に、事業の計画・立案、実施、モニタリング、評価段階で取り組みが可能と思われる活

動に焦点を当てて記載しています。

Page 14: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

13

段階で、対象地域の営農活動で男女が果たしている役割や責任の所在、決定権の範囲を十分に理解し

ておくことが必要です。そのため、本手引きは、特に、案件形成・事前段階に重点を置いて作成され

ています。

4.手引きの活用方法について それでは、手引きの活用方法について説明します。

まず、この手引きには 6 つのステップがあり、担当している案件について、ステップ 1 から順に進

んでいくと、何をどこまで実践したらよいかがわかるようになっています。以下に 6 つのステップの

全体像を記載しています。各ステップの詳細はそれぞれの項をご参照ください。

5.手引きの活用フローチャート(兼目次)

中間目標 中間目標 STEP 1 1 持続可能な農業生産 すべて 2 安定した食料供給 すべて

3 活力ある農村の振興 3-1~3-4 3 活力ある農村の振興 3-5~3-9

STEP 5

開発戦略目標 開発戦略目標

STEP 1 担当している案件が、

ジェンダー視点は重要で

あるものの、本手引きの

対象としないSTEP 2 へ

STEP 2 担当している案件が、

農民に直接関わりがある

農民に直接関わりがない(例えば、大規模なインフラの整備、

農民に直接関わりがない政策策定や

研究支援など)

OR

OR

STEP 6 へ

STEP 3 へ

STEP 3 営農における男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易調査の実施

事業に影響を及ぼすようなジェンダー課題があるかどうか確認

STEP 4 簡易調査の結果を分析し、

STEP 4 へ

STEP 5 へ

STEP 5 ジェンダー視点を組み入れるための取り組み例(全案件共通の取り組み、中間目標毎の取り組み例)

STEP 6 事業の実施段階における留意事項としてのジェンダー配慮

(p.14)

(p.15)

(p.16)

(p.21)

(p.23)

(p.28)

環境社会配慮調査

人材育成・能力強化

手引き活用の

タイミング

案件形成段階

案件形成段階

詳細計画策定

調査時

詳細計画策定

調査時

案件形成、実施、

モニタリング・評価

の各段階

実施段階

Page 15: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

14

STEP 1: 担当案件が手引きの対象かどうかを確認する

平成 23(2011)年 3 月に作成された課題別指針「農業開発・農村開発」では、下表の開発戦略目標

および中間目標が提示されています。本手引きは、同開発戦略目標および中間目標のうち、よりジェ

ンダー視点に立った取り組みの必要性が高いと思われる開発戦略目標 1 のすべての中間目標および開

発戦略目標 3 の中間目標 3-1~3-4 を対象にしています。

【開発戦略目標と中間目標】

なお、開発戦略目標 3「活力ある農村の振興」の中間目標 3-5~3-9 の農村開発関連の事業について

は、ジェンダー視点を取り入れる重要性はあるものの、農業開発と視点が大きく異なる点、また、他

の分野課題にまたがった取り組みが必要な場合もあることから、本手引きの対象とはしないこととし

ます。

1-1 農業・農村開発分野の政策立案・実施能力の向上 2-1 食料需給政策の策定 3-1 地方分権化に対応した農村振興

1-2 生産基盤の整備・維持・保全・管理 2-2 輸入体制の整備 3-2 食料流通・販売の改善

1-3 農業生産資材の確保・利用の改善 2-3 援助食糧の適正な利用 3-3 農産品加工業の振興

1-4 研究・開発能力の強化 3-4 輸出促進策の強化

1-5 作物生産の振興-コメ及びその他穀物 3-5 農外所得の向上

1-6 作物生産の振興-野菜 3-6 農村生活環境の改善

1-7 畜産部門の振興 3-7 生活改善の推進

1-8 農業普及の強化 3-8 農村住民の保健・教育水準の向上

1-9 農民組織 3-9 参加型農村開発

1-10 農業金融

1-11 地球規模環境問題への対応

開発戦略目標 1 開発戦略目標 2 開発戦略目標 3活力ある農村の振興

中間目標

持続可能な農業生産 安定した食料供給

すべて 3-1~3-4 手引きの対象となる中間目標

STEP 1 の作業手順 1. 担当する案件が該当する開発戦略目標と中間目標を確認

2. その開発戦略目標と中間目標が本手引きの対象となっているかを確認

3. 担当案件が本手引きの対象となっていれば、STEP 2 へ

Page 16: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

15

STEP 2: 担当案件が農民に直接関わりがある案件かどうかを確認する

次のステップ(STEP 3)では、詳細計画策定調査等において、「営農における男女の役割分担と意

思決定のあり方に関する簡易調査の実施」が予定されています。

そこで、STEP 2 では、担当する案件が、上述の簡易調査を実施したほうが良い案件か、実施する必

要性の低い案件かを判断するため、以下の表を参考に、担当案件が農民に直接関わりがある案件かそ

うでないかを確認します。

判断基準 案件内容

農民に直接関わりがある2 農民への普及活動や農民組織化、フィールド調査などが活動の一部

として計画されている事業

農民の営農活動がプロジェクト目標の達成に大きな影響を与えると

想定される事業

農民に直接関わりがない 上記以外の案件。例えば、

生産基盤の整備や農業生産資材などに係る事業のうち、大規模なイ

ンフラ整備(灌漑施設建設など)や、普及活動を伴わず研究所・対

象機関内で完結する事業(農業生産資材の適正な使用のための基準

設置など)など

研究・開発能力の強化に係る事業のうち、普及活動やフィールド調

査を伴わず研究所内で完結する事業(特定種の生産性向上事業など)

など

2 本手引きにある「農民に直接関わりがある」とは、案件の活動の中で、直接農民を対象とした活動があるかどう

か、ということです。

STEP 2 の作業手順 1. 上記表などを参考に、担当する案件が「農民に直接関わりがある」か「農民に直接関わりがな

い」かを判断

2. 担当案件が「農民に直接関わりがある」と判断した場合、STEP 3 へ

3. 担当案件が「農民に直接関わりがない」と判断した場合、STEP 6 へ

Page 17: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

16

STEP 3: 営農における男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易調査を 実施する

ここでは、営農における男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易調査で、何をどのように

調べるかについて説明します。

まず、調査の方法について確認します。導入編で前述したように、簡易調査の目的は、計画立案者

が、営農における男女の役割分担と意思決定のあり方の違いを確認し、気づきを得ることにあります。

従って、詳細な調査は必要なく、また、グループディスカッションやワークシップなどを実施するこ

とも必須ではありません。対象層への個別の聞き取りを通じて複数サンプルを集めることができれば、

この時点では十分です。ただ、同じ場所で男女両方に聞き取りをすると、どちらかが口を開かない、

相手の手前思ったことを言わないという状況が予想できるため、聞き取りは男女別に設定するなどの

工夫が必要です。また、聞き取りの際には、自分の役割分担と意思決定に関してだけでなく相手(男

性の場合は女性、女性の場合は男性)の役割分担と意思決定についても尋ねると、男女の思い込みや

誤解、コミュニケーション不足などの問題が存在するかどうかを確認できます。

次ページに、営農における男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易調査のフォーマット例

を載せておきます。そのフォーマットを活用し、以下の作業手順に沿って、簡易調査を実施します。

なお、フォーマット例はできるだけ多くの参照項目を記載する目的で作成しているため、案件の内容

や対象地域の特徴、調査の時間的・物理的制約等により、調査項目を取捨選択し、より簡素なフォー

マットにしていただいてもかまいません。

STEP 3 の作業手順 1. p.17~20 の簡易調査フォーマット例を基に、担当案件用のフォーマットを作成(担当案件の

内容や対象地域の特徴などにより、調査項目を取捨選択したり、追加したりして使用)

2. 調査方法の決定(個別の聞き取りか、グループディスカッション・ワークショップを通して

の聞き取りか、など)

3. 簡易調査の実施

4. 調査実施後 STEP 4 へ

誰が簡易調査・分析を実施するのか 簡易調査の実施 (STEP 3) と結果の分析 (STEP 4) は、詳細計画策定調査時に実施することを

想定している。同調査に派遣される調査団員のうち、誰が簡易調査を実施するかについては、以

下の二つの選択肢がある。

① ジェンダー担当団員を配置する

② 評価分析担当団員が実施する

上記②の場合は、評価分析担当団員の担当事項に「『JICA 事業におけるジェンダー主流化のた

めの手引き【農業】』を参考に、営農における男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易

調査を実施し、収集したデータをとりまとめる」などの事項を追加する。

Page 18: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

17

【簡易調査フォーマット例】

対象作物・対象テーマ別:男女の役割分担と意思決定のあり方に関する簡易調査

聞き取り日時:

聞き取り場所:

聞き取り対象者:

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)コメ

田おこし

苗づくり

代掻き

ごみ取り

苗取り

田植え

肥料やり

水管理

除草(機械)

除草(手取り)

病害虫防除

収穫

脱穀

収穫後処理(選別、籾

摺り、精米)

販売

収入の管理

その他

フォーマットの記入方法

聞き取り対象者一人につき 1 枚のフォーマットを使用する(つまり、女性の対象者に男性と女性

双方の関与/利用と決定権について尋ねる。男性の対象者にも同様)。それぞれの結果をくらべて

見ることにより、農民男女が持つ「思い込み」に気づくことができる。

役割分担/関与とは、その項目に対して、役割や責任を担っているか、利用できるか、参加でき

るかなどのこと。決定権とは、その項目に対して、いつ、誰が、どうするといったことを決定で

きる力を持っているかということ。

それぞれの項について聞き取りをし、該当する欄にチェックする。より詳細な状況を記録したい

場合は、記入してもよい。

Page 19: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

18

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)野菜

耕うん

種まき

肥料やり

水やり

定植

除草

病害虫防除

整枝

収穫

加工

販売

収入の管理

その他

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)畜産(ヤギ、ヒツジ)

牧草地へ連れて行く

家畜小屋の清掃

飼い葉とり

餌やり

水やり

搾乳

屠殺

加工

販売

収入の管理

その他

Page 20: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

19

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)灌漑

水利組合への参加

組合の役員

配水計画

料金支払い

料金徴収

建設作業

メンテナンス

灌漑用水の使用

その他

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)農民組織

メンバーシップ

役員・代表

資金管理

作業負担

活動計画

その他

Page 21: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

20

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)バリューチェーン

農業資材調達

調達

生産(野菜)

生産

販売

加工

輸送

販売

仲買い

小売り

消費

購入

利用(調理)

Page 22: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

21

STEP 4: 簡易調査の結果を分析する

簡易調査のサンプルが集まったら、男女の役割分担/関与や意思決定権について、どのような項目

で男女の差異があるのか、どのような項目にジェンダー視点に立った活動が必要とされているのか等

について、結果を分析し、課題を抽出します。

1. 簡易調査の結果を、以下のマトリックスの 4 つのカテゴリーに分類し、記載する。その際、その

分類が、女性へのインタビューに基づいた情報か、男性へのインタビューに基づいた情報かがわ

かるように( )に性別を記載する。

【作業例】

〈女性へのインタビュー〉

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)コメ

田おこし ✓ ✓

苗づくり ✓ ✓

代掻き ✓ ✓

〈男性へのインタビュー〉

対象作物・対象テーマ

(下段は調査項目)

役割分担/関与 決定権

男性 女性 男性 女性

例)コメ

田おこし ✓ ✓

苗づくり ✓ ✓

代掻き ✓ ✓

【営農における女性の役割分担/決定権マトリックス】

関与

決定権

関与は大きいが

決定権は小さい

関与が大きく

決定権も大きい

関与は小さいが

決定権は大きい

関与は小さく

決定権も小さい

STEP 4 の作業手順

代掻き(女性) 代掻き(男性)

苗づくり(男・女)

田おこし(男・女)

Page 23: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

22

【留意事項】

農業のあり方は、地域・社会によって多様であるため、上記のマトリックスだけでは使用しづら

い事例も想定される。例えば、世帯内の男性と女性が別々の田畑で農業を営んでいる場合、上記

マトリックスに加え、世帯内の共同作業についてのマトリックスを別途作成するなど、対象地域

の実情に合った方法でマトリックスを使用いただきたい。

2. 調査団内/案件担当課内において、マトリックスを基に、事業に影響を及ぼすようなジェンダー

課題があるかどうか確認する。

【作業例】

3. STEP 5 へ進む。

関与

決定権

関与は大きいが

決定権は小さい

関与が大きく

決定権も大きい

関与は小さいが

決定権は大きい

関与は小さく

決定権も小さい

代掻き(女性) 代掻き(男性)

苗づくり(男・女)

田おこし(男・女)

男女間で、役割分担・決定権につい

て、「思い込み」や認識の違いがある ⇒男女の役割分担・決定権に関する

相互理解の促進が必要

女性の関与も決定権も

小さいことで、事業に影

響はあるか

実際に作業をする女性の声が反映さ

れない、仕事は多いのに決定権がない

ために女性のモチベーションが下が

る、など事業への影響が想定される

Page 24: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

23

STEP 5: ジェンダー視点を組み入れるための取り組みを実施する

STEP 4 で確認したジェンダー課題に対応するため、以下のような取り組みを検討します。取り組み

には、全案件共通の取り組みと、中間目標毎の取り組みとがあります。

1. 全案件共通の取り組み

(1) ジェンダー視点に立った取り組みの実践

次ページからの「中間目標毎のジェンダー視点に立った取り組み例」を参考に、プロジェク

トにおいてジェンダー視点に立った取り組みを実践する。実践に際しては、現地の複雑な社

会文化構造を理解しているローカル・リソース(女性省・女性課題省や女性団体、NGO など)

の協力を得ることも有効である。

(2) ジェンダー担当専門家・国際協力専門員の知見の活用

ジェンダー視点に立った積極的な取り組みの必要性が高い事業を行うにあたっては、ジェン

ダー担当専門家を短期派遣することや、兼務でも良いので長期専門家を派遣することが望ま

しい。ジェンダー担当専門家を派遣できない場合にも、次ページからの「中間目標毎のジェ

ンダー視点に立った取り組み例」を参考に、必要に応じ国際協力専門員及びジェンダー平等・

貧困削減推進室の協力も得ながら、プロジェクトにおいてジェンダー視点に立った取り組み

を実践する。

(3) ジェンダー視点に立ったモニタリング指標の設定および同指標に基づいたモニタリング

事業の開始前と後で、営農における男女の役割分担や決定権がどのように変化したかを確認

するために、以下のようなジェンダー視点に立った指標を設定し、モニタリングする。

〈例〉

事業が実施する研修などへの男女別の参加状況

農民組織への男女別の参加状況および参加の度合い(単なる役務提供か意思決定への参加

か、など)

世帯内の生産活動、再生産活動(家事や育児など)を含む労働負担の割合

世帯構成員の意識の変化

良事例からの教訓を他の案件に活用するためにも、ジェンダー視点に立ったモニタリングの

結果を記録することも重要である。

Page 25: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

24

2. 中間目標毎のジェンダー視点に立った取り組み例

中間目標に沿った事業を展開する際に参考となる、ジェンダー視点に立った取り組み例を以下に

例示する。

中間目標 ジェンダー視点に立った取り組み例 案件実施上の

効果・インパクト 【1-1】農業・農

村開発分野の政

策立案・実施能力

の向上

既存の政策や開発計画、制度・体制が、農業・農村開発分野

における男女の格差の是正や、女性の資源等への関与と決定

権の拡大に取り組んでいるかを分析する。取り組みが不足し

ている場合、以下のような方策を検討する。

〈例〉 既存の政策や開発計画の改訂や制度の改革を支援する。

対象機関の職員を対象に、ジェンダー啓発活動を実施する。

新たな政策や開発計画、制度・体制が男女のどちらかにより

大きな負の影響を及ばす可能性はないか、もし可能性がある

場合、その負の影響の緩和策はあるかを分析し、策定過程に

反映させる。

〈例〉非伝統的輸出作物栽培を促進するという政策において、

その政策が男女のどちらかにより大きな負の影響を及ぼして

いないか、その負の影響の緩和策はあるかを分析し、策定過

程に反映させる。

策定過程に、対象国・地域の農村部のジェンダー課題に知見

のある農業省女性関連局や女性省・女性課題省、女性団体等

の参加を促進する。

男女別の統計データ収集を促進する。

ジェンダー視点に

立った政策や開発

計画、制度・体制

が構築されること

により、女性の農

業活動への積極的

な参加が促進され

る。

【以下の中間目

標に横断的に関

わる課題】

男 女 の 役 割 分

担・決定権に関す

る相互理解の促

農業等の生産活動および家事・育児等の再生産活動における男女

の役割分担・意思決定権に関する相互理解を促進することによ

り、農民男女のより積極的な生産活動への参加が促進される。男

女の役割分担・意思決定権を見直すための方策として以下のよう

な活動がある。

〈例〉

① 研修で、通常の役割分担ではない農作業も男女双方が体験

する機会を提供することにより、男女がお互いの作業への

理解を深めることができる。

② 社会規範等により、既存の組織への女性の参加が難しい場

合、既存の組織とは別に、女性の組織化を支援する。

③ 新しい生産技術やサービスの導入が、女性の労働負担の増

大につながる可能性があるため、案件の活動が女性の労働

負担を増大させないような工夫をする。

女性にとって、エネルギーや時間、労働が節約できるよ

うな技術を開発・普及する。

水汲みや薪拾いに係る時間を短縮するような活動を同

時に実施する。

男性の家事労働への参加を促進するためにジェンダー

啓発研修を実施する。

④ 必要であれば、男女の活動への参加について、地域の有力

者や宗教指導者等への啓発活動を実施する。

農民男女自らが納

得して役割分担・

決定権を見直すこ

とにより、より効

率的に生産活動を

実施できるように

なる。

Page 26: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

25

中間目標 ジェンダー視点に立った取り組み例 案件実施上の

効果・インパクト 【1-2】生産基盤

の整備・維持・保

全・監理

【1-3】農業生産

資材の確保・利用

の改善

【1-10】農業金

社会・文化的に可能な範囲で、プロジェクトが導入する生産

のための資本を女性が利用できるようにする。

〈例〉女性にも利用しやすい農業機械・農機具の導入や担保

を必要としないマイクロクレジットの導入など。

生産のための資本に関連する各種研修への女性の参加を確保

する。

〈留意点〉

世帯の男性の出稼ぎ等により、農薬の散布などこれまで男

性の作業と考えられてきたものを女性が担うことが増えつ

つあり、女性も適切な知識を身につけることが必要になっ

ている。

研修を計画する際には、女性が参加しやすい場所や時間を

設定する。必要に応じ、託児サービス等を提供する。

女性の生産のため

の資本へのアクセ

スが向上すること

により、農業生産

が向上することが

期待できる。

特に、案件数の多い、【1-2】生産基盤の整備・維持・保全・監

理「水管理」については、以下のような取り組み例がある。

通常、水利組合への参加は土地所有権と結びついていること

が多いため、女性が実際に田畑で営農活動をしていたとして

も、土地の所有権を持っていなければ参加できない場合があ

る。そのため、水利組合への参加要件から土地の所有権を外

すよう働きかける。

水利組合の幹部は男性が圧倒的に多いため、女性の参加を促

進する(一定割合を女性に割り当てる、など)

女性がリーダーシップを発揮できるよう、技術的およびリー

ダーシップに関する研修への参加を促進したりするなどし、

女性が水利組合への意思決定に参画できるよう支援する。 住民参加型の灌漑工事が活動としてあり、その労働に対して

労賃が支払われる場合、男女間で、同一労働には同一賃金が

支払われるよう配慮する。

【1-4】研究・開

発能力の強化

男女のニーズや選好に違いがあることを理解した上で、品種

の開発や普及を行う。多くの社会で女性は調理を担っている

ため、女性の消費者としての意見も重要である。

土地・資金などの保有資源の少ない女性が活用できるような、

初期投資が少なくてすむ品種を開発・普及する。

女性にとって、エネルギーや時間、労働が節約できるような

技術を開発・普及する。

ジェンダー視点に立った研究が進められるよう、研究員に対

するジェンダー啓発研修を実施する。

男女どちらかの研究員が少ない場合は、少ないほうの積極的

な登用をする。

多くの農作業を担

っている女性のニ

ーズや選好に沿っ

た農業技術や品種

が開発されるた

め、普及の可能性

が高まる。

【1-5】作物生産

の振興-コメ及

びその他穀物

【1-6】作物生産

の振興-野菜

【1-7】畜産部門

の振興

普及活動やサービスへの女性のアクセスを確保する。

新しい生産技術やサービスの導入が、女性の労働負担の増大

につながる可能性があるため、案件の活動が女性の労働負担

を増大させないような工夫をする。(具体例は、p.24【以下の

中間目標に横断的に関わる課題】例③を参照)

実際の作業を担っ

ている農民男女が

直接サービスを受

けることにより、

効率的・効果的な

生産活動が行え

る。

Page 27: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

26

中間目標 ジェンダー視点に立った取り組み例 案件実施上の

効果・インパクト 【1-8】農業普及

の強化

女性の農業普及員が少ない場合、女性の普及員を積極的に登

用する。

普及員を対象に、ジェンダーに関する啓発活動を実施する。

〈留意点〉「技術・知識は男性に伝えれば女性にも伝わるであ

ろう」との前提で普及活動が行われていたり、普及員が女性

のニーズを理解していないと思われる場合、ジェンダーに関

する啓発活動の必要性が高いと想定される。

携帯電話が普及している地域では、携帯電話による情報の提

供により、親族以外の男性との接触が難しい地域においても、

女性が情報を得ることができる。

非識字の女性へも情報が届くよう、配布物には絵を多用する

などの方策を講じる。

普及のための研修を計画する際には、女性が参加しやすい場

所や時間を設定する。必要に応じ、託児サービス等を提供す

る。

実際の作業を担っ

ている女性が直接

サービスを受ける

ため、効率的・効

果的な普及活動と

なる。

【1-9】農民組織 既存の組織がある場合、その組織の参加要件を調べ、男女ど

ちらかの参加が制限されている場合、その背景要因を確認す

る。

上記確認後、女性の参加を促進する方策を検討する。

〈例〉女性の過重労働が女性の参加の制約要因となっている

場合、世帯内の男女に、性別役割分業を見直すための機会(ワ

ークショップ等)を提供し、男性の家事・育児への参加を促

進する。

〈例〉組合費の支払いが制約になっている場合、一定期間組

合費を割引/免除するなどの措置を、農民組織内で話し合う

よう促進する。

〈例〉参加要件に男女格差がある場合は(男性世帯主がメン

バーだと想定されている場合、男性世帯主が出稼ぎ等で不在

の場合、女性がメンバーになれなかったり、女性世帯主世帯

の参加が少なかったりする可能性が考えられる、など)、格

差を是正するよう指導する。

組織の意思決定に女性が参画できていない場合、女性がリー

ダーシップを発揮できるよう、技術的及びリーダーシップに

関する研修等を実施する、もしくは研修等への参加を促進す

る。

農民組織が女性の

ニーズに応えるこ

とにより、女性の

生産活動が活発化

する。

【1-11】地球規

模環境問題への

対応

気候変動に対する「適応策」及び「緩和策」に関しては、様々な

活動がありうることから、上記のうち、それぞれの案件に関連の

ある箇所を参照し、活動を実施する。

Page 28: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

27

中間目標 ジェンダー視点に立った取り組み例 案件実施上の 効果・インパクト

【3-1】地方分

権化に対応した

農村振興

上記【1-2】生産基盤の整備・維持・保全・監理「水管理」や【1

-8】農業普及の強化など、関連のある箇所を参照し、活動を実施

する。

【3-2】食糧流

通・販売の改善

食料流通・販売について男女が果たしている役割およびその制

約要因を確認し、女性の参入障壁を取り除くような活動を組み

込む。

携帯電話が普及している地域では、携帯電話による情報の提供

により、親族以外の男性との接触が難しい地域においても、女

性が情報を得ることができる。

女性は家事や育児に時間を取られるため、最適な時間に収穫が

できず、作物の品質が劣化してしまうことがある。女性の家

事・育児労働の軽減策を検討し、女性がより生産活動に参加で

きるようにする(具体例は、p.24【以下の中間目標に横断的に

関わる課題】例③を参照)。

男女の役割分担が

見直され、食料流

通・販売が改善さ

れることにより、

世帯の収入が向上

する。

【3-3】農産品

加工業の振興

上記【1-9】農民組織など、関連のある箇所を参照し、活動を実

施する。

【3-4】輸出促

進策の強化

上記【1-1】農業・農村開発分野の政策立案・実施能力の向上な

ど、関連のある箇所を参照し、活動を実施する。

Page 29: ジェンダー主流化の手引き 【農業】 - JICA...ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発 2 ます。そう言いながらも中にはこの方法を実践していない農家さんもいます。なぜ?専門家は「正条

ジェンダー主流化のための手引き 農業・農村開発

28

STEP 6: 事業の実施段階における留意事項としてのジェンダー配慮

事業の実施段階における留意事項としてのジェンダー配慮には以下のようなものがあります。

1. 環境社会配慮調査におけるジェンダー配慮

環境社会配慮調査を実施する際に、以下のような項目について、男女別の情報を収集・分析の上、

必要に応じ、影響の回避・最小化・軽減措置を検討する。

調査・検討すべき

影響の例

ジェンダー視点に立った

主な調査項目例 影響の回避・最小化・軽減措置例

非自発的住民移転等人

口移動/土地利用や地

域資源利用

土地所有権は誰が持っているか(慣習

法を含む)

男女別の土地や資源の利用状況

男女別の生計手段および所得

男性と同様女性も補償対象となれる

か/女性の生計手段の喪失を男性と

は別に女性に補償できるか(法的根拠

等)

男性と同様女性も補償対象と

する/女性の生計手段の喪失

を男性とは別に女性に補償す

移転先の土地の名義を夫婦共

同名義にできるよう働きかけ

雇用や生計手段等の地

域経済

それまでの経済活動拠点から移転が

必要になった場合、男性と同様女性も

補償対象となれるか/女性の生計手

段の喪失を男性とは別に女性に補償

できるか(法的根拠等)

男性と同様女性も補償対象と

する/女性の生計手段の喪失

を男性とは別に女性に補償す

HIV/ AIDS 等の感染症 性感染症の拡大はあるか 工事関係者等へのHIV/ AIDS等

性感染症予防教育を実施する

2. 人材育成・能力強化におけるジェンダー配慮

対象機関の組織のジェンダー主流化を促進するため、研修に参加するスタッフの男女比に配慮し

たり、女性がリーダーシップを発揮できるよう、技術的およびリーダーシップに関する研修への

参加を促進したりする、などの方策を検討する。また、必要に応じ、対象機関において、男女別

の統計データの収集・整備などを促進する。