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ダム事業における地質の課題
阿南 修司 阪元 恵一郎 倉橋 稔幸 佐々木 靖人
1.はじめに
国土交通省所管のダム事業は、直轄29事業、水資源機構5事業、補助33事業が事業中で、このうち20事業(直轄11、補助9)は既設ダムを施設改良等で有効活用する「ダム再生事業」である。現在、北海道開発局管内の直轄事業をみても、平取ダム、新桂沢ダム、三笠ぽんべつダム、サンルダムの4ダムの建設に加え、平成30年度から「雨竜川ダム再生事業」の実施計画調査に着手しており、2事業がダム再生事業となっている。また、平成25年から始められた「ダム総合点検」では、平成28年度までに直轄99ダム、水資源機構23ダム、補助434ダムで健全度評価が実施され、長寿命化のための保全対策や監視体制の充実が図られている。 これらは、これまでの新規ダム整備に加え、既設ダムを有効かつ持続的に活用を図ることに重点が置かれるようになったことを示している。 本稿では、「ダム再生事業」と「ダム総合点検」という最近のダム事業のながれに沿ったものを中心に、筆者らがそれぞれの機関で取り組んでいるダム建設事業や既設ダム管理における地質に関する技術支援や研究開発、指針・基準の作成や改訂をとおして課題として考えている点について述べていくこととしたい。
2.ダム再生事業における地質的な課題
既設ダムの治水機能等の向上を目的としたダムの再開発がこれまで行われてきているが、平成29年6月には、既設ダムの長寿命化、効率的かつ高度なダム機能の維持、治水・利水・環境機能の回復・向上、地域振興への寄与など、ソフト・ハード対策の両面から既設ダムを有効活用するという「ダム再生ビジョン」が示された。これを踏まえ平成30年3月には、ダム再生を円滑に推進するための「ダム再生ガイドライン」1)が示され、ダム再生における地質に関わる設計・施工の留意点として、既設堤体・基礎地盤の設計条件の把握、貯水池周辺の地すべり調査、第四紀断層調査が挙げられている。
2.1 ダム再生事業における基礎地盤の評価
ダム再生事業で、施設改良の可能性や条件、改良を行う場合の費用や工法の選定の検討では既設ダムの型式やダムサイトの地形・地質条件が課題となる。2.1.1 基礎岩盤の評価の課題
既設堤体をかさ上げする場合や、堤体削孔による放流設備の増強の場合、堤体自重や運用水位の変化が生じることから、これらに対する堤体の安定性検討には基礎地盤の性状や強度等の情報が必要となる。 既設堤体建設時の岩盤の地質性状や岩盤強度の評価がなされている場合にはその情報が活用できるが、堤体の建設時期が古いものでは、基礎岩盤に関する基本的な情報ですら十分ではないことがほとんどである。たとえば、地質性状の把握がなされていても現行とは異なる判定基準で岩盤強度の評価がされていたり、建設当時の基礎掘削面の地質図や岩級区分図、ルジオンマップ等の岩盤性状の情報が元々作成されていなかったり、散逸したりしているといったものである。2.1.2 基礎岩盤の評価手法
既設堤体の基礎岩盤の評価において、既存の情報の再評価や、欠落している情報の取得のために追加のボーリングや横坑による調査を計画する場合に問題となるのが、既設ダムや関連施設等の安定性やダム運用へ影響が生じないよう配慮が必要なため、調査箇所や調査の手法が制限されてしまうという点である。既設堤体直下の岩盤状況の把握としては堤体を貫く調査ボーリングが実施されるが、調査数量や位置が限定されるため、新設ダムと同等の調査精度を確保することは困難である。また、調査横坑を掘削する場合でも、既設堤体に影響を与えない位置に限られる。 このため、建設時の岩盤状況の情報、数量の限られた調査ボーリングや調査横坑の情報、堤体周辺や貯水池周辺の露岩の情報を相互に比較し、既設堤体直下の地質、岩盤強度、割れ目や風化・変質の状況を推定するという手法がとられる。 また、基礎岩盤の透水性状の分布や既設堤体建設時の止水処理の効果の把握のためには、ボーリング孔によるルジオン試験に加え、周辺の地下水観測孔のデー
寄 稿 シリーズ「土木事業における地質課題」(5)
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リング調査によって推定した弱層の分布に基づく安定計算を行い、新設堤体設置箇所の掘削面の情報を精査して堤体の安定性に問題ないことを確認するという手順をとっている。
2.2 ダム再生事業における貯水池斜面の評価
2.2.1 ダム再生事業の地すべり調査
ダム再生事業では、堤体のかさ上げや放流設備の増設などによって貯水位の上昇や貯水池運用の変更を行う場合がある。このとき、貯水位が既設ダムよりも上昇する、あるいは貯水位の変動範囲が既設ダムのものから変更されることに伴って、貯水池周辺斜面の地すべりや崖錐堆積物などの未固結層の安定性を確認することが必要となる。 ダム再生事業によって水位運用が変更される場合の貯水池周辺斜面の調査のながれは、新規建設ダムの場合と大きく変わる点はないが、既設ダムで斜面の安定性に関する調査結果等の情報が十分に残されていれ
タや周辺地山からの漏水の有無などを水質分析などと組み合わせた手法がとられることがある。2.1.3 写真を活用した岩盤性状把握の例2)
新桂沢ダムは1957年に完成した桂沢ダムの堤体を同軸かさ上げしたもので、桂沢ダム建設当時の基礎掘削時の岩盤スケッチ等、基礎岩盤の情報が残っていなかったため、建設当時の施工記録写真や基礎処理記録等の情報を活用して基礎岩盤の評価を行っている。 この事例では、掘削面を撮影した記録写真が260枚程度と数多く残っていたことから、表-1に示すように写真の撮影範囲と情報の確からしさの情報を付与した上で、既設堤体や新設堤体部分のボーリング調査や調査横坑および露頭観察の情報に基づいて岩相・亀裂間隔と断層などの弱層の分布を判定し、地質図と岩級区分図(図-1)を作成している。 なお、掘削面の評価が可能な場合でも、既設堤体下の岩盤中の弱層などの分布は限られたボーリングの情報による推定によるほかないため、この事例ではボー
表-1 写真による岩盤状況の確実度の判定の例2)
図-1 施工記録写真の判定と調査ボーリングの組み合わせによる既設堤体直下の岩級区分の例2)
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ジを示したもので、長期安定水位における初期安全率を1.00としたケース1と、地すべりの変動開始時点の初期安全率を1.00と設定したケース2の貯水位変動による安全率の推移を解析上で検討したものである。 この場合、両ケースの変動開始時点の安全率低下は実現象と整合しているが、変動がない区間の安全率ではケース2の実現象との整合性がよいと考えられる。ただし、このような事例でケース1、2どちらを採用するかは、すべり面の形状や規模、保全対象との関係などを含め、他の測線やブロックでの評価と合わせ慎重に検討する必要がある。 このように安定解析における安全率の設定においては、地すべりの挙動(変動の有無と程度、変動のタイミング)と貯水位および地下水位の変動の関係を詳細に比較することが必要となるため、これらの比較が十分可能となるような変動と地下水位の観測の観測地点の配置計画、観測期間を計画段階・調査段階で考慮しておく必要がある。この意味においては、その後の維持管理や将来のダム再生事業にむけ、ダム運用中の地すべり等の地下水位や挙動の情報を利活用可能なかたちで記録・保管していくことが重要である。
2.3 第四紀断層調査
第四紀断層調査は新規建設ダムの考え方と違いはないが、トンネル型の放流設備や排砂バイパスなどの構造物が追加される場合には、ダム本体だけではなくこれらの構造物を含めた調査範囲を設定することが必要となる。建設時期が古いものでは建設段階において、最新の基準に準拠した第四紀断層の調査が実施されていなかったり、その後の学術調査が進展していたりすることがあるため、ダム再生事業の検討に際しては第四紀断層の調査が改めて必要となる場合があることに注意が必要である。
3.ダムの長寿命化と地質的な課題
「ダム総合点検」は、ダム本体の経年変化やダム構造物の状態等を調査してダムの健全度を評価し、保全対策や維持管理方針を立案して効果的・効率的なダムの維持管理を行うことを目的としており、平成25年10月の「ダム総合点検実施要領」3)に基づいて実施されている。ダムの健全度評価において地質的な観点が必要となるのは、構造物基礎の評価(例えば変位の原因、基礎排水・漏水や揚圧力の増加など)、堤体材料(主に岩石材料)の状態評価、斜面安定性評価等がある。
ば、これらを活用した効率的な調査を行うことも可能な場合がある。ダム湛水前の地形情報が不十分な場合や、堆砂などの経年的な変化によって地形が変化している場合など、新規建設ダムと同様の地形調査や水面下の地形調査を行う必要がある。2.2.2 安定解析に関する課題
水位運用が変更される場合で課題となるのは、新規建設ダムの場合には湛水前の地すべりの安定度を元に湛水による影響を判定することに対し、既設ダムの水位運用の実績を元にして新たな水位条件に対する安定度を評価するという点である。これは逆算法によって土質強度定数を求める際に、ダムの貯水位の影響範囲の地すべりについて、現況の安全率をどう設定するのかという問題であり、既設ダムの水位運用がある状態では、変動が認められる場合、認められない場合のいずれにおいても、現行の貯水位や地下水位の変動の影響を考慮して、実現象と矛盾のないように安全率を設定する必要がある。 変動がみられない場合では、現行の貯水の影響下での長期安定水位で設定した安全率が基本となるが、ダムがなかった状態での安全率から、地すべりの地下水位と貯水池の水位で安全率の推移を算出し、変動がない状況(すなわち安全率が1.0を下回らない)と整合性があるかどうかなどについて、現状の安全率をどのように設定するか検討が必要である。 変動がみられる場合も、その変動の程度やその変化と地下水位と貯水池の水位を詳細に比較することで、逆算法によって土質強度定数を求める際の安全率の設定の検討を行う必要がある。 図-2は、地すべり変動と地下水位・貯水位の関係を比較して初期安全率の設定を検討する場合のイメー
図-2 地すべりの変動と地下水位・貯水位の観測の例
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し、劣化の進行予測や監視方法、長寿命化のための劣化抑制・補修方法については、事例が多くないため個々の事例で検討されている状態であり、今後の技術開発の課題となっている。
3.3 斜面安定性評価
斜面変動に関する変状に対しては、その変動規模、発生形態(地すべり、岩盤崩壊等)、ダム堤体等の保全対象との位置関係(直上流、直下流等)、土工構造物等(自然斜面、切土のり面、盛土のり面、のり面保護施設、擁壁等)や周辺構造物(道路橋等)への影響、変動状況等により、監視からハード対策(地すべり対策、落石対策等)まで段階的な対応がとられる。 これらの対策の有効性や健全度の評価においては、地山の劣化要因のほか、構造物自体の施工不良や劣化等に留意が必要であり、建設当時や対策実施時点の調査結果や対策工法選定の根拠などの情報が重要であるが、これもダム再生事業の場合と同じく、古いダムでは情報が残されていないことがほとんどである。これら斜面安定化対策工や斜面挙動監視のための観測計器の長期的な維持管理においては、今後はアセットマネジメント的な取り組みが必要と考えられる。 また、2.2で述べたようにダム建設時には湛水や水位運用変化による地すべり等の影響については検討されるが、昨年の北海道胆振東部地震のように、地震や豪雨等の外的な要因による斜面変動については、体系的な調査・評価の手法がなく、ダム管理における影響をどのように評価するかは今後の課題である。3.3.1 堤体周辺斜面の安定性評価
ダム堤体周辺の斜面では対策工の有無にかかわらず、斜面の経年劣化がダムの管理上問題となるかどうかを評価することが重要であるが、劣化の程度を定量
3.1 健全度評価における基礎岩盤の情報
3.1.1 構造物基礎の状態評価
ダム堤体、本体関連設備、土工構造物等に変位や変状が見られる場合、特異な着岩面形状(急勾配・オーバーハング等)、基礎の岩盤物性(断層、緩み岩盤、岩級区分等)の急変部等の基礎岩盤の性状を把握して、不等沈下等の原因の検討を行う必要がある。また、ダム本体のほか、減勢工導流壁の変位、ダムに接して施工された擁壁等の変位等では、埋め戻し土の土圧や背面の水圧の影響等について検討する必要がある。このほか、のり面や周辺道路などの土工構造物の変位については、風化の影響、排水不良、施工不良、斜面変動等について検討する必要がある。 ダム堤体などの基礎岩盤の性状の把握は設計時の想定や施工時に確認した情報が重要だが、記録が十分に残されていない点や、追加の調査の箇所や調査方法に制約がある点はダム再生事業における既設堤体の基礎岩盤の性状把握と同様である。3.1.2 基礎の透水性や遮水工の状態評価
基礎排水量や漏水量の増加、揚圧力の増加等がある場合、基礎排水量や漏水量の増加については亀裂中の流入粘土等の流失、断層や未固結層等の脆弱層のパイピング、注入材料の劣化(古いダムで薬液注入などの特殊な止水を行っている場合や地下水が強酸性水である場合等)、揚圧力の増加については、カーテンラインの止水性の低下、堤体下や下流側地盤の目詰まり等について検討が必要となる。 このような検討には、各現象に即した対応を行う必要があるが、調査の事例が少ないため体系的な調査手法や手順が定まっておらず、漏水経路の効率的な調査や耐浸食性の調査方法、漏水拡大可能性の評価については、さまざまな計測手法や調査手法が検討されているにとどまっていることが課題である。
3.2 堤体材料の状態評価
乾燥湿潤の繰り返しや凍結融解作用により劣化している場合(図-3)、アルカリ骨材反応等により劣化している場合など、使用した骨材やロック材の岩石・鉱物に起因する劣化については、通常は軽微であり監視による対応に留まることが多いが、補修(覆土、取り替え、劣化コンクリートをはつり健全なコンクリートで被覆等)を行う事例もある。 これらの劣化原因についてはこれまでの様々な研究の蓄積があるため、岩石・鉱物やコンクリートの分析を詳細に行うことで判断できると考えられる。しか
図-3 乾燥湿潤の繰り返しで劣化したコンクリートの例
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における地質・土質モデルの取り扱いや地質・地盤リスクマネジメントなど地質に関する情報の取り扱いについても新たな課題となっている。 ここではそのうちから、ダム設計上の地質的な課題として問題となることが多い、弱層とゆるみの問題について紹介する。
4.1 弱層の評価
岩盤中には断層や節理、シーティングジョイント、軟質な挟在層など、周囲の岩盤に比べ強度が劣る箇所が層状に連続することがあり、弱層と総称される。弱層は、規模や分布、強度によっては堤体の安定に影響があるため、ダム設計上の課題となることがある。特に弱層の強度は、岩盤に局所的に分布することや、形状や構成物が複雑であることから、原位置や室内試験で直接求めることが難しい。 これまで行われた54の重力式コンクリートダム(155事例)における弱層の強度評価では、原位置せん断試験や室内せん断試験(三軸圧縮試験、一面せん断試験)により、直接に強度を求めた事例は全体の三割であり、それ以外は地質性状観察や針貫入試験、土壌硬度試験などの簡易試験結果をもとに、特徴が類似する事例を参考に強度を設定している4)。これらの強度設定においては、原位置試験を行っている場合でも試験数が少ないことから類似ダムの事例と比較してより低い値を採用していたり、室内試験でも最低値を採用していたり、簡易試験によるものでも類似事例との比較でより安全側になるよう評価しているなど、適切な強度評価方法がないことがないことから過大な設計となっている恐れがある。 より合理的なダムの設計には、弱層の分布や規模の適切な把握技術に加え、弱層に対する適切な強度評価手法の開発が必要である。
4.2 ゆるみの評価
ゆるみ岩盤とは、応力解放・重力作用・風化作用等に起因した変形・体積増加・密度減少などにより、亀裂の発生・開口・ずれなどを生じ、岩盤の状態を保ちながらも全体として変形しやすくかつ非弾性的性質が大きくなった状態5)である。ゆるみ岩盤が構造物基礎に分布すると構造物の安定の面で大きな課題となることがあり、その範囲の把握はダム設計上重要である。 現状では、ゆるみ岩盤の範囲は、岩盤透水性、亀裂の開口量、流入粘土、風化などの分布を総合した定性的なゾーニングを基に、これらの指標の定量的なゆる
的に評価することが難しく、コストや手間のかからない手法による評価を行うことが課題である。現実的には、定期点検などの数年間の変化を定点写真によって判断するなどの対応がとられることが多い。 図-4に示すようにアンカー工が施工されている場合には、アンカーに対する健全度評価が必要となるが、定量的な評価を行うにはリフトオフ試験等の費用を要する試験を実施する必要があるため、どの箇所で試験を実施するかの判断が難しいことや、資料が残されていない場合に設計条件がわからないなどの問題があり、目視点検による健全度評価にとどまっている事例が多く、このようなアンカー工の効率的な健全度評価についても技術的な課題となっている。3.3.2 貯水池周辺斜面の安定性評価
建設年代が古いダムでは貯水池周辺の地すべりについて十分に把握されていないケースがあり、巡視等で道路などの構造物に変位が生じていることで地すべり等の斜面変動が認識されることもある。 貯水池周辺斜面の安定については、新設ダムと同等の調査までは必ずしも必要ないが、地すべりや崖錐などの地すべり地形等の分布と、巡視や点検における変状や変動の情報について把握しておく必要がある。特に、古い地形図しかなく地すべりの分布が十分把握されていない場合には、航空レーザー測量技術等で精密な地形図を作成・判読を行って地すべり地形分布図を作成し、日頃の斜面監理に活用することが望ましい。
4.新設ダムと地質的な課題
ダム再生や長寿命化など既設ダムに関する地質の課題について述べてきたが、新規建設ダムにおいても未解決の課題は多く残されているほか、近年のCIMなど
図-4 堤体周辺に施工されたアンカー工の例
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であり、得られた評価や判断には不確実さが含まれるものである。この不確実さを設計や施工にあたってどのように取り扱うかという点も大きな課題である。 なお、ここで述べたように地質調査によって得られる情報は、その後の維持管理や将来の再生事業において極めて重要であることから、調査時点でしっかりとした成果を取りまとめるとともに、その後の情報の保管(保持、集積)や継承が確実なものとすることが『土木技術者としての基本的心構え』であることを強調しておきたい。
参考文献
1) 国土交通省 水管理・国土保全局:ダム再生ガイドライン、2018.
2) 尾関敏久、長田仁、谷口清、菅野裕也:新桂沢ダムにおける基礎岩盤の評価手法―同軸嵩上げダムにおける既設ダム堤敷の岩盤評価―、平成26年度国土交通省国土技術研究会論文集、pp.36-38、2014.
3) 国土交通省 水管理・国土保全局:ダム総合点検実施要領・同解説、2013.
4) 矢島良紀、西塚大、松尾達也、阿南修司:ダム基礎の弱層強度評価に関する事例分析、平成30年度日本応用地質学会研究発表会講演論文集、pp.259-
260、2018.5) 佐々木靖人、片山弘憲、倉橋稔幸:ダムにおける緩み岩盤の実態、ダム技術、No.228、pp.9-21、2005.
み区分基準を設けることで判定している。 このような判定はボーリングや横坑による調査がある程度進んだ状態でなければ評価できないため、ダムの設計がある程度進んだ段階において掘削除去範囲が設定されることが多く、結果として掘削量の増大につながることがある。 事業初期段階で、ゆるみ岩盤の面的な範囲の推定が可能であれば、サイト選定を含め設計の合理化などに有効な方法となることから、斜面の微地形判読や地形解析手法等のゆるみ岩盤斜面の範囲抽出技術の開発が課題である。
5.おわりに
本稿ではダム再生と総合点検における地質の課題を中心にまとめたが、両者に共通する課題として建設段階の地質や岩盤の状況を示す資料が残されていないという点が挙げられる。一方、これらの課題や新設ダムの課題に向けた取り組みにおいては、様々なダムの調査結果や評価結果を整理・統合することで問題解決を図ろうとしている。 このように地質の情報は、そのダム自身の維持管理にも重要であるばかりでなく、他のダムの設計上の取り扱いを決めるための情報としても重要であることから、調査結果や評価の判断根拠といった情報をきちんと整理して利活用可能なかたちで残すということが最も重要な課題ということができる。 また、地質に関わる情報のほとんどは限られた情報を基にして、様々な知見や情報を加えて推定したもの
阪元 恵一郎SAKAMOTO Keiichiro
水資源機構総合技術センターダムグループチーフ技術士(応用理学)
佐々木 靖人SASAKI Yasuhito
つくば中央研究所地質研究監
阿南 修司ANAN Shuji
つくば中央研究所地質・地盤研究グループ地質チーム上席研究員
倉橋 稔幸KURAHASHI Toshiyuki
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム上席研究員技術士(応用理学)
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