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平成 22 年度卒業論文 単層カーボンナノチューブ成長中の自由電 子レーザー照射によるカイラリティ制御 日本大学理工学部電子工学科 山本研究室 7088 土肥 智史 指導教授 教授 山本 寛 専任講師 岩田 展幸

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平成 22 年度卒業論文

単層カーボンナノチューブ成長中の自由電

子レーザー照射によるカイラリティ制御

日本大学理工学部電子工学科

山本研究室

7088 番

土肥 智史

指導教授

教授 山本 寛

専任講師 岩田 展幸

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目次 第 1 章 序論

1.1 背景

1.2 目的

1.3 参考文献

第 2 章 カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube: CNT)

2.1 CNT の歴史

2.2 CNT の構造

2.3 CNT の電子状態

2.3.1 グラフェンシートの電子構造

2.3.2 カーボンナノチューブの電子構造

2.4 CNT の合成方法

第 3 章 実験装置

3.1 熱アルコール触媒 CVD 法

3.2 熱 CVD 装置

3.3 自由電子レーザー

第 4 章 CNT 作製方法

4.1 触媒作製手順

4.2 熱 CVD 法手順

第 5 章 CNT 評価方法

5.1 Raman 分光装置

5.2 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy: SEM)

第 6 章 結果・考察

6.1 ACCVD 条件の違い

6.1.1 結果

6.1.2 考察

6.2 FEL 波長の違い

6.2.1 結果

6.2.2 考察

第 7 章 総論

謝辞

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第 1 章 序論

1.1 背景

大規模集積回路(LSI)技術は、情報社会の基盤を支えるインターネットをはじめとする通信ネット

ワーク、PC などのコンピュータ、携帯電話を含むモバイル情報端末、デジタル TV を始めとする情

報家電などさまざまな電子システムの中枢的機能を担っている。

今後情報機器のさらなる進歩とそれによって可能となるサービスの向上や、通信と放送の融合によ

るコンテンツの流通拡大などは、これからの LSI 技術の進歩によって実現される。

LSI 技術のさらなる進歩のためには電子デバイスの小型化、高集積化、高速化が望まれる。このよ

うな技術の実現のためナノスケールデバイスの作製が試みられている。電子デバイスの小型化のため

の微細加工技術には、大きく分けて二つの方法があり、大きな材料を削り加工して小さいものを作る

トップダウンの技術と原子や分子を組み合わせて機能性をもつ構造を作るボトムアップがある。現在、

Si を中心としたトップダウン技術では、100nm 未満の回路最小寸法が実現されている。しかし、Si

のさらなる小型化が、技術面やコスト面で困難になっている。

このような状況の打開策として、素材は、無機物から分子単体で機能をもつ有機物が注目されてい

る。有機物を自己組織化させて、電子デバイスを作製するボトムアップ法によるデバイス作製が試み

られている。

そこで有機分子材料として期待されているのがカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube : CNT)で

ある。CNT は炭素の同素体であるグラファイトの平面構造の 1 枚であるグラフェンを円筒状にさせ

た物質である。特に 1枚のグラフェンを巻いてできた構造のCNTを単層カーボンナノチューブ(Single

Walled Nanotube :SWNT)と言う。SWNT の直径は触媒の大きさに依存する[1]。また、グラフェンの巻

き方(カイラリティ)によって電気特性が大きく変わり金属的にも半導体的にもなる。SWNT を成長さ

せ電子デバイスに応用するためには、生成量、直径、位置、配向性、カイラリティを制御する必要が

ある。

ディップコート法を用いると粒子径が均一で高密度に配列された粒子を容易に付着させることが

できると報告されている[2]。化学気相成長(Chemical Vapor Deposition: CVD)法を用いると、CNT は微

粒子化した触媒のみから成長し、その直径は触媒微粒子の直径に依存する[3,4]。また Ago らによっ

てサファイア基板面内に配向成長した SWNT の報告がされている[5]。触媒密度、直径、配向性およ

び、CNT の成長条件の最適化により、生成量は制御できると予想する。成長位置制御は主にトップ

ダウン法を用いて行われている[6]。しかしながら、カイラリティを積極的な制御はできていない[7]。

我々は CNT 成長中に自由電子レーザ(Free Electron Laser :FEL)を照射することでカイラリティのそ

ろった CNT が成長すると期待している。FEL は数百フェムト秒のミクロパルスからなり、0.3~5 μm

までの波長変化が可能である。CNT の光吸収波長はカイラリティに依存している。そのため、FEL

照射によって、特定のカイラリティを活性状態にし、成長を促進させることで電気特性の均一化が実

現できると考えている。

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1.2 目的

ボトムアップによる電子デバイスの作製法の実現へ向けて、FEL 照射による CNT のカイラリティ

制御をめざしている。今回はその第一段階としてディップコート法を用いて作製した CoMo 触媒を

CVD 法によって CNT を成長させその制御の検討を行った。

1.3 参考文献

[1] 齋藤弥八,坂東俊治,カーボンナノチューブの基礎,pp.58-69,(社)コロナ社,東京,

1998.

[2] Daisuke Nagao, Ryoji Kameyama, Yoshio Kobayashi,Mikio Konno, Multiformity of particle arrays assembled with a simple dip-coating, Colloids Surf. A: Physicochem.Eng. Aspects,

August 2007.

[3] A. C. Dupuis, The catalyst in the CCVD of carbon nanotubes—a review, Prog. Mater. Sci. vol.50, iss.8, pp. 929-961 November 2005

[4] C. Bower, O. Zhou, W. Zhu, D. J. Werder, and S. Jin, Nucleation and growth of carbon nanotubes by microwave plasma chemical vapor deposition, Appl. Phys. Lett. vol.77, iss.17, pp.2767-2769,

October 2000.

[5] Hiroki Ago, Naoyasu Uehara, Ken-ichi Ikeda, Ryota Ohdo, Kazuhiro Nakamura, Masaharu Tsuji, Synthesis of horizontally-aligned single-walled carbon nanotubes with controllable

density on sapphire surface and polarized Raman spectroscopy, Chemical Physics

Letters., vol.421, iss.4-6, pp.399-403, March 2006

[6] Vladimir I. Merkulov, Anatoli V. Melechko, Michael A. Guillorn, Douglas H. Lowndes, Michael L. Simpson, Alignment mechanism of carbon nanofibers produced by plasma-enhanced

chemical-vapor deposition, Appl. Phys. Lett., vol.79, iss.18, pp.2970-2973, October 2001

[7] Sergei M. Bachilo, Leamdro Balzano, Jose E. Herrera, Francisco Pompeo, Daniel E. Resasco, R. Bruce Weisman, Narrow (n,m)-Distribution of Single-Walled Carbon Nanotubes Grown Using a

Solid Supported Catalyst, J. American. Chemical. Society, vol.125, iss.37, pp.11186-11187, June

2003

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第 2 章 カーボンナノチューブ

2.1CNT の歴史

1991 年、日本の飯島澄男氏によって、フラーレンを作っている途中にアーク放電した炭素電極の

陰極側の堆積物中から発見された。このとき発見されたものは、いくつかのチューブが入れ子状にな

った多層カーボンナノチューブであり、その後、1993 年に同じく飯島氏により単層カーボンナノチ

ューブが発見されている。

2.2CNT の構造

CNT は単原子層のグラファイト(グラフェンあるいはグラフェンシートと呼ぶ)を巻いて筒型にし

た形状を持っており、その直径はおおよそ数~数十 nm の範囲の値で、長さは長いもので mm オーダ

ーにもなる。CNT はその製法によって、SWNT と MWNT の二通りが存在する。SWNT は比較的細

くて、数 nm 程度の直径を持つものが優勢であるが、MWNT では各 CNT 層の層間距離が 0.34nm で、

数~数十層が同心状となり、直径は数十 nm にまで及ぶかなり太いものがある。

1 枚のグラフェンシートを巻いてできるチューブの構造は直径、カイラル角(Chiral angle、螺旋の角

度)、および螺旋方向(右巻きか左巻きかのカイラリティー : Handedness)の 3 つのパラメータにより完

全に指定される。しかし、重要な物理的性質の多くは直径とカイラル角の 2 つのパラメータのみによ

って決まるので、以下の議論では螺旋方向は無視する。単層ナノチューブの直径と螺旋角はカイラル

ベクトル(Chiral vector)によって、一義的に指定できる。カイラルベクトル Chは円筒軸(すなわち、チ

ューブ軸)に垂直に円筒面を一周するベクトル、すなわち、円筒を平面に展開したときの等価な点 O

と点 A(円筒にしたと気に重なる点)を結ぶベクトルである(図 2.1)。カイラルベクトル Chは二次元六

角格子の基本並進ベクトル a1と a2を用いて ( )mnmnh ,21 º+= aaC … ( 2.1 )

と表すことができる。ここで、n と m は整数である。チューブの直径 dtおよびカイラル角 θ は n と m

を用いて

p223 mnmna

d cct

++= -

… ( 2.2 )

÷÷ø

öççè

æ

+-= -

mnm

23tan 1q ÷

øö

çèæ £

6pq … ( 2.3 )

と表すことができる。ここで、ac-c は炭素原子間の最近接距離(0.142nm)である。n=m(θ=π/6)および

m=0(θ=0)のときには螺旋構造は現れず、それぞれ図 2.2(a),(b)に示すアームチェアー(Armchair)型、ジ

グザグ(Zigzag)型と呼ばれるチューブとなる。それぞれの名前は、チューブ円周に沿った原子間結合

の幾何学的特徴に由来する。残りの n≠m≠0 がカイラル(Chiral)型と呼ばれる螺旋構造を持つ一般的な

チューブである。

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2.3CNT の電子状態

2.3.1 グラフェンシートの電子構造

炭素の価電子は原子当たり 4 個で、その電子配置は(2s)2(2p)2 である。sp2混成の炭素は、幾何学的

には原子が二次元の六角蜂の巣格子を組み、電子構造においては 3 個の価電子が結合 σ 軌道を占め、

残り 1 個の電子が π 電子として電気的性質を支配する。このようなカーボンネットワークでは、電子

を 2 個収容できる結合 π 軌道が完全に詰まった状態になる。また、グラフェンでは、結合 π バンドの

上のエネルギーバンドである反結合 π バンド(π*バンド)との間にエネルギーギャップが無いため、零

ギャップ半導体となる。この様子を図 2.3 に示す。しかし、グラフェンがチューブ構造をとると、チ

ューブ円周方向に新たな周期的境界条件が現れ、フェルミ面でバンドギャップを持つ半導体になった

り、有限の状態密度を持つ金属になったりする。また、グラフェンシートが積み重なったグラファイ

トでは、層間のファンデルワールス力による弱い相互作用によって結合 π バンドと反結合 π バンドと

の間にわずかなエネルギー上の重なりが生じるようになり、半金属となる。

2.3.2 カーボンナノチューブの電子構造

前項でも述べたようにグラフェンは、結合 π バンドと反結合 π バンドがフェルミ面で接する零ギャ

ップ半導体であり、二次元物質である。一方、ナノチューブは、チューブ軸に垂直な面内では式(2.1)

のカイラルベクトル Ch で指定される周期的境界条件 qh p2=×kC (q : Integer) … ( 2.4 )

によって波数 k は量子化されるが、チューブ軸方向には、格子ベクトル T で表される並進対称性

を持つ一次元物質となる。したがって、ナノチューブでは、これらの周期性によりグラフェンの電子

構造が変調を受けた電子構造を示す。つまり、ナノチューブの電子構造は、グラフェンの π バンドの

分散関係(図 2.3)を基本とし、チューブ軸に垂直な方向では k の量子化のためにこれが離散化し、チ

ューブ軸方向では連続した分散のある一次元バンドの集まりとして表されるようになる。

周期的境界条件式(2.4)を用いたチューブのエネルギーバンドの計算は齋藤理一郎らによりなされ

ており、図 2.3,4 に示す二次元グラフェンのブリュアンゾーンの結合 π バンドと反結合 π バンドが接

する K 点((b1-b2)/3、b1,b2は逆格子ベクトル)を一次元バンドが横切るときは、ギャップがなく金属的

になるが、横切らないときは、ギャップが開き半導体的になる。具体的な条件は、次のようにして求

めることができる。周期的境界条件式(3.4)を満たす波数 k が、ブリュアンゾーンの K 点を横切ると

きに金属的になるのであるから、式(3.4)に式(3.1)と k=(b1-b2)/3 を代入することにより、n-m=3q とい

う条件が求められ、n-m が 3 の倍数になるときは金属的チューブになり、そうでないときは半導体的

チューブになるということがわかる。このことを図示すると図 2.5 のようになり、チューブの電気的

性質は、カイラルベクトルの方向(カイラリティーに対応)、大きさ(チューブの直径に対応)により周

期的に変化する。もし、どのようなカイラルベクトルを持つチューブでも等確率で生成されるのなら

ば、1/3 のチューブが金属的、2/3 のチューブが半導体的性質を示すようになる。ここで興味深いこ

とは、同程度の直径を持つチューブでも、不純物などをドープしないで、結晶構造の幾何学的な違い

により金属にも半導体にもなるということである。このような性質は、炭素チューブ特有のものであ

り、ほかに類を見ない。

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図 2.6(a), (b) に齋藤理一郎らにより計算された (9,0) および (10,0) で表される 2 種類のジグザグ

型チューブの電子状態密度をそれぞれ示す。図中の破線は、比較のためのグラフェンに対する状態密

度である。図 (a) は、エネルギー軸が零 (フェルミエネルギー) のところで有限の状態密度を持ち金

属になっていることがわかる。一方図 (b)では、フェルミエネルギー付近でギャップが開き半導体と

なっている。図 (c) は、 (n, 0) ジグザグ型チューブに対するエネルギーギャップの n 依存性である3.7)。ギャップ零は、フェルミエネルギーのところで有限の状態密度を持つ金属的チューブを表す。

図 (a), (b), (c) いずれの場合もエネルギーの値は、C-C の結合エネルギーに対応する最近接相互作用

(γ0≒3.13 eV) によってスケールされている。

Fig. 3.6 では、ジグザグ型チューブに対してのみ計算が示されているが、全ての金属的チューブの

フェルミ面での状態密度 N (EF) は、チューブ直径にもカイラリティーにもよらず、次式で示される

一定の値になる。

( )003

8gpa

EN F = … ( 2.5 )

ここで a0は、グラフェンの格子定数で ccaa -= 30 である。さらに、半導体的チューブのエネルギー

ギャップ Egの値もそのカイラリティーに関係なく、チューブ直径 dt に反比例する次式で表すことが

できる。

tg d

E 9.0» … ( 2.6 )

今まで述べてきた電子状態は、単層ナノチューブに対するものである。同心構造を持つ多層ナノチ

ューブについては、層間の相互作用を取り入れなければならない。多層ナノチューブの層間距離は、

グラファイトの層間距離より 2~3%ほど広がっているが、層間はファンデルワールス力による弱い

相互作用により結合している。このような相互作用を取り入れた計算は、二層の同軸ジグザグ型、お

よびアームチェアー型チューブに対して行われた。計算は、同軸チューブが金属-金属、半導体-半導

体、半導体-金属(金属-半導体)の組み合わせ全ての場合について行われ、いずれの場合も個々のチュ

ーブの電気的性質は、それぞれのチューブが単独にある場合と変わらず、金属的な場合は金属的、半

導体的な場合は半導体的な性質を保っていることが示された。この結果は、ナノメートルオーダーの

太さを持つ金属-半導体-金属のような構造を持つ同軸多層ケーブルも作製可能であることを示して

いる。

2.4CNT の合成方法

2.4.1 アーク放電法

アーク放電法は Krätschmer と Haffman らによって 1990 年に発表されたフラーレンの最初の多量

合成法として知られている。原理的には、真空ポンプにより空気をのぞいた真空チャンバーに数 10

から数 100Torr のHeガスを封入して、その不活性ガス雰囲気中で 2 本の黒鉛電極を軽く接触させる、

あるいは 1~2 mm 程度離した状態でアーク放電を行うものである。電源としては、アーク溶接機の

電源をそのまま用いることができる。交流あるいは直流のどちらのモードを使用してもすすを得るこ

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とができるが、通常直流モードで使用される。直流の場合、高温になる陽極側のグラファイトが蒸発

する。アーク放電により蒸発した炭素のおよそ半分は気相で凝縮し、真空チャンバー内壁にすすとな

って付着する(チャンバー煤)。そのすすの中に 10~15%程度フラーレンが含まれる。フラーレンの研

究はその後飛躍的に発展し現在に至っている。

昇華したグラファイトの約半分は、気相中で凝縮し真空チャンバー内の壁にすすとなって付着する。

残りの炭素蒸気は陰極先端に凝縮して炭素質の固い堆積物(陰極煤)を形成する。この堆積物中に多層

カーボンナノチューブ(Multi Walled carbon nanotube: MWNT)が成長することを 1991 年に飯島澄夫氏

が発見した。飯島による MWNT の発見以来、フラーレン合成と同様にアーク放電法は CNT の標準

的な合成法となった。

MWNT が発見された 2 年後の 1993 年、単層カーボンナノチューブ(Single Walled carbon nanotube:

SWNT)が発見された。MWNT が純グラファイトのアーク放電法で合成されるのに対して SWNT の合

成には金属微粒子の触媒が必要である。このため金属を原子数比で数パーセント含有するグラファイ

ト電極をアーク放電する。通常用いられる金属触媒は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの鉄

族金属やパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)などの白金族の金属である。

アーク放電法で得られる SWNT の効率は CVD 法(2.4.3 節参照)に劣るものの、結晶性に優れており

高品質のナノチューブを得ることができる。また、触媒金属を選ぶことにより直径分布のピーク値を

1.2 ~1.8 nm の範囲で変化させることも可能である。

2.4.2 レーザ蒸発法

1996 年、Smalley らはレーザ蒸発によりグラファイトを昇華させ、SWNT を効率よく合成する方法

を考案した。その方法は、電気炉の中に挿入した石英管の中央に、グラファイトのターゲットを置き

石英管内に Ar ガスを流す。ガスの流れの上流側からグラファイトに Nd:YAG レーザを照射してグ

ラファイトを蒸発させると、蒸発した炭素は Ar ガスの流れにそって流され石英管内で凝縮する。電

気炉の出口付近の冷えた石英管の内壁にはフラーレンを含んだすすが付着する。また、グラファイト

をつけたロッド上にはカーボンナノチューブを含んだすすが付着する。ただし、MWNT は炭素のみ

のグラファイト棒を蒸発させたときに得られ、SWNT を得るためには SWNT の成長を促す触媒金属

を混合したグラファイト棒を蒸発させなければならない。また、この方法ではガスを 1000 °C 以上に

加熱しないとフラーレンはほとんど生成しない。

レーザ蒸着法においてもアーク放電法と同様に金属触媒を変えると、SWNT の直径は変化する。

Co-Niの2元系触媒では1.3 nm程度、またPt-Pd触媒では0.8 nm程度の直径分布にピークをもつSWNT

が合成される。さらに、合成温度を下げることで収率は減少するが直径は細くなる傾向にある。

一般に、アーク放電法と比較するとレーザ蒸発法は SWNT の生成効率が高い。レーザ蒸発法では

50 %以上の収率を容易に得ることができる。しかし、レーザ蒸着法では装置的なスケールアップが

困難であるため、グラム量以上の SWNT を合成するのは難しい。レーザ蒸着法は SWNT の多量合成

目指すよりも少量の高品質の SWNT を得るために、または CNT の生成機構を探るために適した実験

法である。

2.4.3CVD 法

アーク放電法やレーザ蒸着法が CNT の合成法として開発されてから後に、CNT の合成をさらに大

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量に効率よく行うために化学気相蒸着(chemical vapor deposition: CVD)法 が開発された。

CVD 法には大きく分けて 2 種類ある。超微粒子金属触媒を気相中で流動させて成長させる気相流

動法と、基板から成長させる基板法がある。

気相流動法は微粒子触媒を原料ガスと一緒に反応炉に導入し気相中で CNT を成長させる方法であ

るため簡便で連続生産に適合することから CNT の大量合成法として広く採用されている。例えば、

金属触媒の前駆体として沸点の低い金属錯体(フェロセンなど)がよく利用される。金属錯体の熱分解

により生成された金属が触媒として気相中に浮遊し原料ガスと反応して CNT が合成される。このよ

うにして合成された CNT は MWNT であり欠陥が多く存在する。また、互いにバンドルを形成した

り凝集したり、さらに金属触媒粒子も含むため、使用する前に CNT の分散や金属の除去などの工程

が必要である。

基板法はあらかじめ基板上に作製した触媒を用いて CNT を合成する方法である。CVD 法で用いら

れる触媒は Fe、Ni、Co などの遷移金属およびこれらの合金である。触媒薄膜の形成には、一般にデ

ィップコート法、蒸着法、スパッタリング法が使われる。基板は不活性ガス中で CNT の成長温度ま

で昇温されるが、この時触媒薄膜は微粒子に変わっている。成長温度は触媒金属の良く知られている

バルクの融点よりは低いが、薄膜から粒子に形態を変える。薄膜触媒の厚みが異なると微粒子の大き

さや密度が異なり、状態の違う CNT が成長する。一般的に CNT の直径は触媒微粒子の大きさによっ

て決まる。熱 CVD 法では触媒微粒子大きさが十分小さい時に SWNT が得られる。そのため、触媒微

粒子の凝集が起こらないような担持方法の工夫や反応ガスの選択が重要である。Fe/Mo などの金属微

粒子をアルミナやシリカなどに担持して、CH4 ガスを使用し 900 °C 以上の高温で反応させる方法が

代表的な例である。しかし、このような方法では、CNT の密度が低い。そのため、触媒の活性を増

大させるため、弱酸化性ガスを利用する方法が開発された。例えば、炭素源にアルコールを用いる、

炭素源のエチレンに微量の水を添加して合成させることである。アルコールや水は触媒微粒子周囲に

堆積したアモルファスカーボンを除去し、触媒活性を長時間維持する役割を担う。

基板上に合成した CNT は気相流動法により合成した CNT よりも一般的に結晶性がよく、長さ、太

さも比較的揃っている。

CVD 法は、触媒の調整法や合成条件の制御により CNT の形状を比較的簡単に制御することが出来

る。また、多様な基板にも対応でき、さらに狙った場所に触媒を配置することにより CNT の選択成

長も可能である。

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図 2.1 カイラルベクトル

Ch=5a1+2a2=(5,2), T=3a 1-4a2

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図 2.2 いろいろな構造をもつSWNT

(a) (5,5) アームチェア型 (b) (9,0) ジグザグ型 (c) (10,5) カイラル型

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図 2.3 グラファイトのπバンド

π band

π* band

G KMK

15

10

5

0

-5

-10

E [eV]

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図 2.4 二次元グラフェンのブリュアンゾーン

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図 2.5 カイラルベクトルの位置により決まる電気的性質

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図 2.6 ジグザグ型チューブの電子状態密度

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参考文献

[2.1]齋藤理一郎・篠原久典:カーボンナノチューブの基礎と応用,培風館,2004 年

[2.2]齋藤弥八:カーボンナノチューブの基礎,コロナ社,2004 年

[2.3]遠藤守信[監修]:ナノカーボン-ハンドブック,エヌ・チィー・エス,2007 年

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第 3 章 CVD 装置

本研究で使用した CVD 装置はチャンバー内にヒータを設置しガスや試料を加熱するコールドウォ

ール型の装置となっている。装置の概略図を図 3.1 に示す。この装置では熱 CVD とアルコール触媒

CVD (ACCVD)を行うことができる。熱 CVD の炭素源としてエタノール(C2H5OH)を用い、マスフロ

ーコントローラ (M.F.C)により流量を調節できる。ACCVD の炭素源としてエタノール(C2H5OH)を用

い、流量計により手動で流量を調節できるようになっている。また、C2H5OH を効率よくチャンバ内

に流すために容器はウォーターバス (W.B)を使用して温めている。還元剤として H2、キャリアガス

として Ar を用い、M.F.C により流量を調節できる。チャンバー内はロータリーポンプ(R.P)で真空排

気する。チャンバー内では、4 分の 1 チューブにより基板に直接ガスが当たるようになっている。ま

た、基板の位置や高さを調節できるようになっている。

3.1 アルコール触媒 CVD 法

ACCVD法は熱CVD法の一つで炭素源にアルコールを使用することで約600°C~900°Cという比較的

低温で高純度・高品質のSWNTを成長させることができる。この理由としては炭素源が有酸素分子で

あるため、触媒反応で放出される酸素原子がナノチューブ生成の妨げとなるアモルファスカーボン等

のダングリングボンドを有する炭素原子を効率的に除去するためだと考えられている。

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図 3.1 ACCVD 装置概略図

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第 4 章 CNT 作製方法

7.1 触媒作製手順

ビーカーと基板のゴミと油を除去するために、ビーカーに基板とアセトンを入れて 3 分超音波洗浄を行った。基板のゴミと油を更に除去するために、ひき続き超音波洗浄をアセトンで 15 分行った。アセトンの付着した基板を乾燥させてしまうと基板に跡が残るため、エタノールで 3 分超音波洗浄を行った。次に濡れ性を向上させる 処理をするために UV/オゾンクリーナーに基板を入れて 30 分処理をした。 触媒の成膜には、ナノディップコーター(株式会社あすみ技研製;ND-0407-S1)を用いた。濃度0.01wt%の Mo 溶液に 600 秒浸し、600μm/s で基板を引き上げディップコートを行った。その後、電気炉(浜田電気製;YKC-32)で 400 、5 分間アニール処理した。次に濃度 0.01wt%の Co 溶液に 600 秒浸し、600μm/s で基板を引き上げディップコートを行った。その後、電気炉で 400 、5 分間アニール処理した。

7.2 熱 CVD 手順 CVD 装置を用いて、CNT を成長させた。CVD 装置の概略図を図 3.1 に示す。炭素源にはエタノー

ル ( OH)、還元剤には水素 ( )、キャリアガスにはアルゴン ( )を用いた。 (a)チャンバー内の基板ホルダーに基板をセットし、ロータリーポンプでチャンバー内を約 1.00Paにした。 (b) 濃度 11%の と の混合ガスをチャンバー内に 200ccm 流し、基板ヒーターを 10 分間で1000 まで昇温した。1000 を 30 分間保ち還元を行った。

(c)混合ガスを止めて、エタノールを流し、30 分間基板温度 1000 ACCVD を行った。 (d)エタノールを止め、室温になるまで降温した。

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図 4.1 ディッピング装置

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図 4.2 ACCVD 条件

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第 5 章 CNT 評価方法

7.3 Raman 分光装置

ラマン分光法の原理を示す。光が物質に当たると、その 1 部は通過し、残りは吸収または散乱す

る。光の吸収と散乱は、光と物質とが相互作用するために起こる現象で、光の吸収や散乱の強さの波

長特性を測定することにより、物質の性質を議論できる。

光の電場が、振動数 ν0 で向きを変えると、できた双極子も振動数 ν0 で向きを変える。振動す

る電気双極子からはその振動数の電磁波が四方に放射されるので、原子からは振動数 ν0 の光が放

射される。入射波の振動数をν0 としたとき、入射光と同じ振動数で散乱されるものをレイリー

( Rayleigh ) 散乱、違うものをラマン ( Raman ) 散乱と呼ぶ。

電場の振動数が ν0 で原子核が振動数 ν で振動している場合、 ν0±ν で振動する成分が生ま

れてくる。波長の長くなったラマン散乱(ν0-ν成分)をストークス光、波長の短くなったラマン散乱

( ν0+ν成分 ) をアンチストークス光と呼ぶ。この入射光と散乱光の振動数の差 ( ラマンシフト )

とし、横軸にラマンシフト、縦軸に散乱光の強度をとることによって、ラマンスペクトルが入射光の

波長が入射光に関係しなくなる。

本実験で用いたラマン分光装置は顕微ラマン分光法を採用している。これはレーザ光の照射と散乱

光の集光に光学顕微鏡を用いた装置である。

励起波長は 532 nm(YAG, 2nd)と 441 nm 532nm 632 nm 785 nm (半導体)を用いた。測定は同じ箇所を

測定した。

・励起波長 532 nm(YAG, 2nd)

暗室で分光装置本体、YAG レーザ(532 nm, 2nd)、可視画像カメラ(CCD)、顕微鏡、パソコンの電源

をいれ、測定ソフト(HoloGRAMS532)と解析ソフト(GRAMS AI)を起動した。ソフトの起動をした後

画面右下の CCD の温度表示が規定値(緑色)になるまで待機した。その間にスライドガラスをエタノ

ールで拭き、調整用のSi基板を置き光学顕微鏡のステージに乗せた。測定ソフトにてCCDを起動し、

光学顕微鏡の焦点を合わせた。この際にレーザ光を照射し、画像を確認しながら照射されるポイント

を調整し、レーザ光をサンプルに照射した。Focus を押し波形が表示されたら Abort を押し測定をと

めた。標準サンプルである Si の測定を行い、Si のラマン活性である 520 nm (誤差±1 cm-1)にピークが

合うことを確認した。

スライドガラスに試料を置き、光学顕微鏡のステージに乗せた。測定を行う部位の画像を保存しカ

メラモードを閉じた。レーザ光照射後 Focus を押し、波形が表示されたら Abort を押し測定をとめた。

照射時間 1 秒、積算回数 50 回に設定し、Acquire Spectrum を押し、測定を行った。GRAMS AI に出

力された測定結果を保存した。

・励起波長 441 nm 532nm 632 nm 785 nm (半導体レーザ)

ラマン分光装置には日本分光株式会社製のレーザラマンシステム NRS-3200 を用いた。図 5.3 に

NRS-3200 の装置写真を示す。分光装置本体、785 nm 外部レーザとパソコンの電源を入れ、スペクト

ルマネージャ、スペクトル測定、スペクトル解析を起動した。

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door ボタンを押し試料室のドアを開けた。スライドガラスに試料を置き、試料台に乗せた。光学

顕微鏡像の焦点を合わせ、レバー操作により測定位置を探索した。照射時間 1 秒、積算回数 50 回に

設定し測定を開始した。

7.4 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy: SEM)

電子顕微鏡とは、電子を使って物質を拡大して見る装置である。SEM は真空中で電子ビームを試

料に当て虫眼鏡で太陽の光を一点に集束するように、電子レンズを使って光では不可能な微小径に電

子ビームを集束し、このスポットをプローブとして試料に照射し試料からでてくる 2 次電子から得ら

れる情報を使用して像を形成する顕微鏡である。おもに試料の表面構造を観察するのに用いられる。

光学顕微鏡と比べ、非常に焦点深度が深く、広い領域で焦点が合うので、立体的な像が得られるのが

特徴である。焦点深度とは試料に焦点を合わせたとき、きれいな像が得られる焦点面前後の距離のこ

とである。

SEMの原理図を図 5.1 に示す。電子源から放出された電子(1 次電子)ビームを陽極で加速したのち、

電子レンズで試料上に微小径に集束させた電子プローブを二次元走査し、試料から放出される 2 次電

子、反射電子などを 2 次電子検出器でとらえ、2 次電子の量をブラウン管の明るさに変換するととも

に、電子ビームの操作とブラウン管の走査を同期させることで CRT 上に信号量の違いから拡大像を

得る。2 次電子は試料表面 10 nm 以内の領域から放出されるので、試料の表面だけでなく表面近傍の

内部情報も持っている。そのために加速電圧を高くすると、内部情報が強く出すぎてしまい表面形状

の観察の像がぼやけてしまうことがある。しかし加速電圧を低くすると分解能が落ちるので、試料に

応じて加速電圧を調整することが重要である。

初期の走査方式を用いる電子顕微鏡の研究と開発は、1948 年からの英国ケンブリッジ大学の Oatley

教授のグループによって行われた。現在の SEM に必須の技術はほとんどこのグループによって開発

された。

実際に測定を行った SEM は HITACHI 製の S-4500 型の SEM である。サンプルをカーボンテープで

サンプルホルダに接着した。さらに上からカーボンテープで伝導性を良くしてサンプルホルダに基板

を固定した。チャージアップ防止のため、観察前にイオンスパッタ装置(HITAChI 製; E-1030)を用い

て Pt-Pd スパッタを 10 秒間行った。加速電圧は 15 kV で観察した。

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図 5.1 SEM の原理図

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第 6 章 結果・考察

6.1ACCVD 条件の違い

6.1.1 結果

図 6.1 (a)に CNT 成長時のエタノールの流量 200ccm、圧力 350Pa、(b)、流量 200ccm、圧力 500Pa

(c)流量 200ccm、圧力 1kPa(d) 流量 500ccm、圧力 350Pa (e) 流量 500ccm、圧力 500Pa (f) 流量 500ccm、

圧力 1kPa (g) 流量 1kccm、圧力 350Pa (h) 流量 1kccm、圧力 500kPa (i) 流量 1kccm、圧力 1kPa (j) 流

量 2kccm、圧力 350Pa にラマンスペクトルを示す、また基板上 4 点測定したので並列して示す。励起

波長は 532nm を用いた。すべてのラマンスペクトルにおいて 1350、1590 cm-1付近にピークが存在し

た。低波数付近にはピークは確認できなかった。

6.1.2 考察

ラマンスペクトルより 1590 cm-1付近に見られたピークは、グラファイトと同種の振動モードであ

る G-band、1350 cm-1付近に見られたピークは、欠陥 (Defect)由来のピーク D-band、であると考えた。

そのため、SWNT が成長していると考えた。200 cm-1付近に見られたピークは、SWNT 固有の全対称

モード (radial breathing mode: RBM)が確認できなかったのはラマン分光装置のノッチフィルタ摩耗

による低波数側の消失であると考えた。

ACCVD 条件を変えて ACCVD を行った、SWNT の品質の高さを表す G-band と D-band の比である

G/D 比の変化が確認できた。ACCVD 条件の違いによる G/D 比の違いによる G/D 比の平均の高さの

図6.2に示す。もっともG/Dが高い、SWNTの品質の高いACCVD条件は、エタノールの流量1000ccm、

チャンバー内の圧力 1000Pa だった。

6.2FEL 波長の違い

6.2.1 結果

図 6.3(a) 800 nm、(b)、1500nm の FEL 照射した試料、(c)に FEL を照射していない時のラマン

スペクトルを示す。励起波長は 441、532、632、785nm を用いので並列して示す。青の実線は励起

波長 441 nm、緑の実線は励起波長 532 nm、黄色の実線は励起波長 632 nm、赤の実線は励起波長 785

nm を示す。すべてに G-band、D-band、RBM が見られた。

6.2.2 考察

低波数側に存在したピークは膨張収縮振動を表す Radial Breathing Mode (RBM)であると考えた。

グラフェンハニカム格子から、それぞれ FEL未照射、波長 800、1500 nmを照射したサンプルのカイ

ラル指数を見積もった。図6.3(a)~(c)に測定したサンプルに関するSWNTsの円弧を実線でしめす。原

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点から実線までがカイラルベクトルとなり、SWNT の円周方向と直径を示す。●は金属、○は半導

体を示すカイラル指数である。つまり、実線と重なる共鳴 Raman 効果に対応したカイラル指数が存

在する可能性を持つ。図中のfは直径を、青の実線は励起波長 441 nm、緑の実線は励起波長 532 nm、

黄色の実線は励起波長 632 nm、赤の実線は励起波長 785 nm を示す。

波長 800 nm の場合、金属性は 1 個、半導体性は 14 個であった。波長 1500 nm の場合、半導体性

のみが 8 個であった。FEL 未照射の場合、金属的 SWNT のカイラリティは 3 個、半導体 SWNT は 9

個存在したと考えた。この事から、FEL 照射はカイラリティ制御に有効であると考えられる。

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図 6.4(a) FEL 800 nm 照射した場合の成長している SWNT

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図 6.4(b) FEL 1500 nm 照射した場合の成長している SWNT

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図 6.4(c) FEL を照射していない場合の成長している SWNT

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第 7 章 総論

我々は半導体の性質を持つ SWNT のみを成長させて電子デバイスへの応用を考えている。そこで、

FEL 照射による SWNT のカイラリティ制御を目標としている。まず、ACCVD 条件を変えることに

よる SWNT 成長条件の最適化を行った。結果は、SWNT 成長中のエタノールの流量とチャンバー内

の圧力を変えてもっとも品質の高い SWNT が成長する ACCVD 条件を導き出した。そして、FEL 照

射によるカイラリティ制御を行った。結果は FEL 波長 1500 nm 照射によって半導体 SWNT の成長が

促進されたことが示唆される。

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謝辞

本研究を行う機会を与えて頂き、研究を進めるにあたり様々なご指導を頂きました日本大学理工学

部電子情報工学科の山本寛教授に深く感謝致します。

本研究を進めるにあたり、基礎知識や実験方法等、多くのご指導をいただきました日本大学

理工学部電子情報工学科専任講師の岩田展幸先生に心から感謝いたします。

実験室、実験装置の使用にあたり、御協力頂いた先端材料科学センター、物理実験室 B 棟に深く

感謝致します。また同センター事務室の皆様に感謝致します。

本研究を遂行にあたり装置や実験について多くのご指導を頂きました日本大学理工学研究科電子

工学専攻博士前期課程二年の境恵二郎氏、日本大学理工学研究科電子工学専攻博士前期課程一年の竹

下弘穀氏に深く感謝致します。

本研究の遂行にあたり、多大なるご協力を頂いた東京理科大学の矢島博文教授及び渡辺奈生巳氏に

深く感謝致します。

最後に日頃からお世話になりました山本研究室の皆様方に深く感謝致します。