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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 2 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014 * 非会員・九州大学大学院芸術工学府 Graduate School of Design, Kyushu University **正会員・九州大学大学院芸術工学研究院 Faculty of Design, Kyushu University パリにおける日本のポップカルチャーの展開とケラー通りの形成過程に関する研究 Analysis of the development of Japanese pop cultures in Paris and the process of characteristics of Keller Street. 中薗隆博*・藤田直子** Takahiro Nakazono *Naoko Fujita** Cool Japan Strategy” is the policies and initiatives produced by the Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan. This project aims to cultivate creative industries, promote these industries in Japan and abroad, and other related initiatives from cross-industry and cross-government standpoints. We focus attention on the Japanese sub-cultural/pop-cultural phenomenon. This article investigates the formative history and factor influencing popularity in Paris, French, especially the Keller Street at 11th arrondissement. We also identified user visibilities and user demands for Japanese pop cultures. The results indicate that visibility of Keller Street as a hub of Japanese pop culture was 36% among the participants in the Japan Expo. 80% of visitors to Keller Street indicated attractive destination as plentiful supplies of the contents of Japanese pop cultures for this street. Keywords: Cool Japan, subculture, pop culture, regional brand, rue Keller クールジャパン、サブカルチャー、ポップカルチャー、地域ブランド、ケラー通り 1. はじめに 経済産業省が平成23 年度から開始した「クールジャパン戦略 推進事業」により、日本文化の海外進出が始まった。この事業は、 日本文化を広め、海外での日本の好感度を高めることを目的とし た政策 1) である。これに関する研究調査には、クールジャパンを 支えるコンテンツ産業の特性を調査した田中 2) や、アメリカにお けるクールジャパンの実態を調査した會澤 3) らの研究がある。 ある文化が特定の地域に定着し、文化自身が地域のアイデン ティティを創造することは、文化と対象地域双方に良い面での効 果をもたらすことができると考えられている。この点について米 4) は、地域に根付く伝統的工芸品産業の振興の効果を、有田や 京都における事例を挙げて述べている。また瀬戸・國寶 5) は、沖 縄県渡名喜島のカシキー網引きが、島関係者の帰属意識の高まり につながると指摘している。ただしこれらの研究は元々その地域 に存在した文化の効果を述べたものであり、既存の文化が異なる 地域でどのように認知され浸透するのかを明らかにしたもので はない。これに対して桂 6) らは、オーストラリアの移民街の形成 による地域の活性を論じている。また吉田 7) らは新宿区の韓国系 商店の分析から、韓国系商店集積地の現状と今後を考察している。 以上を踏まえ本研究では、現在日本経済において発展が期待 されている日本文化としてポップカルチャーに着目し、海外にお ける日本のポップカルチャーの現状を把握したうえで、海外にお いて日本のポップカルチャーが受け入れられている地域を対象 とし、その地域の成り立ちと現状や人々の意識を明らかにするこ とを目的とする。 2. 研究の概要 2-1. ポップカルチャーの定義 ポップカルチャーとは、米国のダグラス・マグレイが“ Japan’s Gross Nation Cool ”で論じた、海外で人気の高い日本文化のこと である。また経済産業省がクールジャパンを支えているコンテン ツとしていくつかの日本文化を選定している。本研究では両者の 内容を汲むため、重複また関連のあるもの、「アニメ、出版(漫 画)、ファッション、音楽、TVゲーム」を対象として定めた。 2-2. 研究の流れ 本研究の構成を図1 に示した。まず、日本におけるポップカル チャーの現状とフランスにおける日本のポップカルチャーの流 入経緯や現状を明らかにするため、文献や資料を元に経過と種類 別整理を行った。次に、フランス内で日本のポップカルチャー店 舗の集約地の成立過程を明らかにするために、東部を中心にパリ の都市計画の流れを整理し、オペラ地区とケラー通り及びその周 辺地域の成り立ちと現状の分析を行った。次に、現地の人々の日 図 1 研究構成 - 177 -

パリにおける日本のポップカルチャーの展開とケラー通りの形成 … · クールジャパン、サブカルチャー、ポップカルチャー、地域ブランド、ケラー通り

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014

* 非会員・九州大学大学院芸術工学府 Graduate School of Design, Kyushu University **正会員・九州大学大学院芸術工学研究院 Faculty of Design, Kyushu University

パリにおける日本のポップカルチャーの展開とケラー通りの形成過程に関する研究

Analysis of the development of Japanese pop cultures in Paris and the process of characteristics of Keller Street.

中薗隆博*・藤田直子**

Takahiro Nakazono *・Naoko Fujita**

“Cool Japan Strategy” is the policies and initiatives produced by the Ministry of Economy, Trade and Industry of

Japan. This project aims to cultivate creative industries, promote these industries in Japan and abroad, and other related initiatives from cross-industry and cross-government standpoints. We focus attention on the Japanese sub-cultural/pop-cultural phenomenon. This article investigates the formative history and factor influencing popularity in Paris, French, especially the Keller Street at 11th arrondissement. We also identified user visibilities and user demands for Japanese pop cultures. The results indicate that visibility of Keller Street as a hub of Japanese pop culture was 36% among the participants in the Japan Expo. 80% of visitors to Keller Street indicated attractive destination as plentiful supplies of the contents of Japanese pop cultures for this street. Keywords: Cool Japan, subculture, pop culture, regional brand, rue Keller

クールジャパン、サブカルチャー、ポップカルチャー、地域ブランド、ケラー通り 1. はじめに

経済産業省が平成23年度から開始した「クールジャパン戦略

推進事業」により、日本文化の海外進出が始まった。この事業は、

日本文化を広め、海外での日本の好感度を高めることを目的とし

た政策 1)である。これに関する研究調査には、クールジャパンを

支えるコンテンツ産業の特性を調査した田中 2)や、アメリカにお

けるクールジャパンの実態を調査した會澤 3)らの研究がある。

ある文化が特定の地域に定着し、文化自身が地域のアイデン

ティティを創造することは、文化と対象地域双方に良い面での効

果をもたらすことができると考えられている。この点について米

光 4)は、地域に根付く伝統的工芸品産業の振興の効果を、有田や

京都における事例を挙げて述べている。また瀬戸・國寶 5)は、沖

縄県渡名喜島のカシキー網引きが、島関係者の帰属意識の高まり

につながると指摘している。ただしこれらの研究は元々その地域

に存在した文化の効果を述べたものであり、既存の文化が異なる

地域でどのように認知され浸透するのかを明らかにしたもので

はない。これに対して桂 6)らは、オーストラリアの移民街の形成

による地域の活性を論じている。また吉田 7)らは新宿区の韓国系

商店の分析から、韓国系商店集積地の現状と今後を考察している。

以上を踏まえ本研究では、現在日本経済において発展が期待

されている日本文化としてポップカルチャーに着目し、海外にお

ける日本のポップカルチャーの現状を把握したうえで、海外にお

いて日本のポップカルチャーが受け入れられている地域を対象

とし、その地域の成り立ちと現状や人々の意識を明らかにするこ

とを目的とする。

2. 研究の概要

2-1. ポップカルチャーの定義

ポップカルチャーとは、米国のダグラス・マグレイが“Japan’s

Gross Nation Cool”で論じた、海外で人気の高い日本文化のこと

である。また経済産業省がクールジャパンを支えているコンテン

ツとしていくつかの日本文化を選定している。本研究では両者の

内容を汲むため、重複また関連のあるもの、「アニメ、出版(漫

画)、ファッション、音楽、TVゲーム」を対象として定めた。

2-2. 研究の流れ

本研究の構成を図1に示した。まず、日本におけるポップカル

チャーの現状とフランスにおける日本のポップカルチャーの流

入経緯や現状を明らかにするため、文献や資料を元に経過と種類

別整理を行った。次に、フランス内で日本のポップカルチャー店

舗の集約地の成立過程を明らかにするために、東部を中心にパリ

の都市計画の流れを整理し、オペラ地区とケラー通り及びその周

辺地域の成り立ちと現状の分析を行った。次に、現地の人々の日

図 1 研究構成

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014

本のポップカルチャーに対する意識を明らかにするため、パリ市

内2か所で質問紙を用いた調査を行った。最後に双方の結果から

考察を行い、今後の展望を検討した。

2-3. 研究対象地

本研究の対象地として、パリ 11 区に位置するケラー通りとい

う場所を選定した(図2)。全長約300mのこの通りには、日本文

化関連の店舗が10店舗あり、店舗の種類も本研究のポップカル

チャーの定義に当てはまる種類となっている。また、パリ市内に

は他地域にも同様の店舗は存在しているが、複数の店舗が集約し

ている地域はケラー通りのみであり、地域選定として適当である

と判断した。

2-4. 研究方法

本研究は以下の3点に関する調査と分析を行った。

①文献資料の分析により、フランスにおける日本のポップカルチ

ャーの流入から定着までの経緯を整理した。その結果を踏まえ、

2012年9月および2013年6月~7月の延べ41日間、パリでの現

地調査を行い、対象地の日本に関連する施設や店舗の把握、資料

や地図の収集、ジャパンエキスポやパリマンガなどの日本文化に

関する国際イベントの調査を実施し、フランスにおける日本のポ

ップカルチャーの現状を分析した。

②文献資料の分析によりパリ東部を中心としたパリの都市計画

を整理した。また19世紀初頭から後半にかけてのケラー通り周

辺の地図を当時の歴史的背景を交えながら比較し、ケラー通りの

発祥時期や周辺の変化について分析した。更に 2013 年 6 月~7

月の日程でパリにおける現地調査を行い、オペラ地区近郊(およ

そ0.3㎢)とケラー通りとその周辺(およそ0.5㎢)にある店舗

の位置と種類を記録した。またケラー通り周辺については、対象

地すべての店舗の位置と種類を記録した。

③現地の人々の日本のポップカルチャーに対する意識を明らか

にするため、質問紙を用いた調査を行った。質問項目は仏語と英

語で作成し、webサイト上で回答を行うシステムを作成した。質

問紙はハガキサイズの用紙にアンケートの概要と QR コードを

印刷したものを準備し、次の2か所で配布を行った。1か所目は

ジャパンエキスポという日本のポップカルチャーに関するイベ

ント会場にて、2013年7月5日~6日の2日間にかけて1500枚

の配布を行った。アンケートの概要を表1に示し、アンケート項

目を表2に示した。2か所目は、日本のポップカルチャーに関連

する店舗が集合しているケラー通りで実施した。2013年6月28

日から7月10日にかけて1000枚の配布を行った。アンケートの

概要を表3に示し、質問項目を表4に示した。

表 1 アンケート概要(ジャパンエキスポ)

表 2 アンケート項目(ジャパンエキスポ)

表 3 アンケート概要(ケラー通り)

表 4 アンケート項目(ケラー通り)

3.日本のポップカルチャーとフランスの関係

日本とフランスの文献資料の分析から、フランスにおける日本

のポップカルチャーの影響は次のように整理された。

フランスにおける日本のポップカルチャーの中で最も影響力

があるアニメが流入したのは1974年であり、その後1980年代の

フランステレビ局民営化に伴う番組枠増加によって日本のアニ

メ放送枠が増加した。その結果、一般家庭にテレビを通じて日本

のアニメが浸透し、現在のアニメファンの礎が築かれた 8)。現在

では、フランスにおける日本の漫画の消費量は世界第2位、ヨー

ロッパにおけるアニメーション映画製作数第1位を誇る 9)。パリ

市内の街中で漫画を購入できる店舗は2区に2店舗、5区に1店

舗、11区に6店舗、13区に2店舗存在していた。

その他にも、日本のポップカルチャーに関わる新たな動きとし

てジャパンエキスポに代表されるような大規模イベントの開催

が挙げられた。そこで取り扱われるテーマはポップカルチャーの

みならず、伝統文化まで多岐に渡っており、参加者数は20万人

を超えている。今後益々成長する可能性も含め、大きな影響を及

ぼす事例であると考えられる。

4. 現代におけるパリの街並みと日本文化

文献資料と地図の分析から、18 世紀から現在に至るパリ東部

形成過程と現在の状況が以下の通り明らかになった。

4-1. パリ東部形成過程とケラー通りのあゆみ

パリは、12世から19世紀後半まで、市域内を囲う城壁の増設

と取り壊しを繰り返し、領地の拡大をし続けた。

図3にあるように18世紀後半にフェネルミー・ジェネローの

図 2 パリ全域におけるケラー通りの位置

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城壁が設けられ、パリ東部は初めて城壁内に収まった。その後

1840 年に現在のパリ市街地とほぼ同じ領域を制定する城壁が完

成し、その後11 区を含むパリ東部に労働者の地区が敷かれるな

ど各区域がそれぞれ特性を持ち、現在までその特性を留めるに至

った 10)。

19 世紀中旬は、中心区の整備、各地区を結ぶ街路の拡張、労

働者居住区の新設に伴う労働人口の移動が行われた 11)。それに

よりケラー通り周辺の整備も進み、図4にあるように1857年ま

で石材保管庫があった場所に、1869 年には、ケラー通りが形成

されていた。以上の事から、1857年から1869年の間にケラー通

りが形成されたことが明らかになった。

1980 年代まで、ケラー通りを含むパリ東部は労働者が多く住

む地域であった。しかし、元々地価が安かったことや、1989 年

にオペラ座が完成したことが影響し、ケラー通り周辺に人々集ま

り始めた。その結果、周囲には若手のアーティストを扱う画廊や、

若者向けのカフェやレコード店、ブティックなどが増加し、若者

の街へと変貌を遂げた 12)。また1989年に、ケラー通りに初めて

日本のポップカルチャー関係の店舗が出現した。この店舗がパリ

における日本の漫画販売の先駆けとなった。その後ケラー通りに

は、他の漫画専門店や服飾専門店などのポップカルチャー関連の

店舗が集約し、現在のような形態をとるに至ったことがわかった。

図 3 1190年~1840年のパリ内城壁建設の流れ 「パリ大都市圏の都市化」9)を元に加筆

図 4 19世紀中旬のケラー通り周辺地図

4-2. 現在のケラー通り及び周辺地域の状況

図5はケラー通り沿いの店舗の分布図である。現在ケラー通り

には54店の店舗が存在し、その内10店が日本のポップカルチャ

ー関連の店舗であった。また54店舗の内6店舗が書店であった

が、ケラー通りを中心とした 0.5 ㎢の範囲内にある書店は 12 店

舗であり、その半数がケラー通りに集まっていることが分かった。

図6はケラー通りを中心とした0.5㎢の範囲の店舗分布図であ

る。ケラー通りを中心とした0.5㎢内には555店の店舗が存在し、

図 5 ケラー通り沿い店舗分布図

その内209店は飲食店、216店は服飾品や食品などを取り扱う商

店、12店は書店、118店はその他の目的で土地が利用されていた。

店舗立地の傾向としては、カフェやバーなどの若者が集まる店舗

は、範囲内左側にあるバスティーユ駅周辺に集約していた。また

服飾品や書籍などを取り扱う商店は、範囲内北側や南側やケラー

通りに多く集約していた。

図 6 ケラー通りを中心とした0.5㎢の範囲の店舗分布図

5. 日本のポップカルチャーに対する地域の人々の意識

パリで行った質問紙調査の結果から、地域の人々の日本にポッ

プカルチャーに対する意識が以下の通り明らかになった(表 5、

表6)。

5-1. ジャパンエキスポ

1)来場者の特性 来場者の男女比は、男性43%、女性57%と

女性の方が多かった。また来場者の男女別年齢層は、10 代の女

性が68%と男女の各年齢層の中で一番高い値を示した。

2)ケラー通りの認知度や来訪頻度 ジャパンエキスポ来訪者の

内、ケラー通りの認知率は 36%、実際に行った経験がある人は

29%であった。また来訪経験がある人の来訪頻度は、年に1回程

度が52%、半年に1回程度が19%、3か月に1回程度が7%、1

か月に1回程度が15%、1週間に1回程度が7%であった。

3)ジャパンエキスポへの来場目的 多くの来場者の来場目的は

80%の人が答えた買い物であった。また、多くの企業が新発売さ

れる商品の発表の場としてジャパンエキスポを活用しており、そ

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.12, 2014 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.12, February, 2014

表 5 ジャパンエキスポアンケート結果

表 6 ケラー通りにおける質問紙調査結果

の情報取集を目的としていた人もいたと考えられる。

4)関心の高いポップカルチャーと興味を抱いた経緯 来場者が

最も興味を抱いているポップカルチャーは、全体の 65%の支持

を得た漫画・アニメであった。来場者の 66%がコスプレを来場

目的としてあげていたのに対し、最も興味のあるポップカルチャ

ーとしてファッションをあげた人が7%であった。また、それら

に興味を抱いたきっかけとして最も多くあげられたのが、全体の

29%の支持を得たインターネットであった。

5-2.ケラー通り

1)来訪者の特性 男女比は、男性30%女性70%と、女性の比

率が高い事がわかった。来訪者の男女別年齢層を比較すると、10

代女性が 57%と各年代の中で一番高い値を示した。居住区分布

はパリ20区の内、4区・5区・6区・7区・18区以外の15区域

とパリ外に分かれ、11区と11区に隣接する3区・10区・12区・

20区を合わせた地域全体で35%、パリ外の区域は34%を占めた。

2)関心の高いポップカルチャーと興味を抱いた経緯 漫画・ア

ニメが来訪者のうち 53%と最も支持を得た。来訪者がポップカ

ルチャーに興味を抱いたきっかけで最もあげられた項目は、34%

のテレビであった。また、友人が26%、家族が17%と、対人で

直接きっかけを得た人が43%であった。

3)ケラー通りへの来訪頻度とケラー通りの魅力 ケラー通りへ

の来訪頻度は、毎日来ている人が4%、1週間に2・3回程度が7%、

1週間に1回程度が19%、1カ月に1回程度が41%、3カ月に1

回程度が7%、半年に1回程度が15%、1年に1回程度が7%で

あった。来訪者が抱くケラー通りの魅力として、80%の人が店舗

の種類をあげた。これは、ケラー通りには欲しいジャンルの商品

を取り扱う店舗が存在しているということであり、店舗の種類が

ケラー通りの存在価値を創造する一因となっていた。また 10%

の人が居住区との距離の近さをあげており、多くの人が自宅との

距離という地理的条件を重要視しているわけではないことがわ

かった。

6. おわりに

本研究では、フランス及びパリ市内ケラー通りの分析を通して、

日本のポップカルチャーが根付いている地域の現状や、その地域

の人々の意識調査を行った。

ケラー通りは日本のポップカルチャー関連の店舗が集約し、他

にはない店舗の数と種類を誇っていた。そのためコンセプトや他

地域との差別化はあると考えられる。しかし、地域内外への発信

や居住者の地域に対する誇りや愛着に関しては、未だ乏しいと考

えられる。日本のポップカルチャーに関する後押しとなる行動が

とられていないため、今後は組合のようなものを組織立てる必要

性も考えられる。

ケラー通りの今後を考えていくうえで、「地域のブランド化」

という概念があげられる。これは、『地域にある多様な資源を統

一したコンセプトでくくり、それを地域のアイデンティティの1

つとして、地域内外に発信することで、他地域との差異化、地域

間競争力の向上、居住者の地域に対する誇りや愛着を醸成するこ

と』13)である。

また、ジャパンエキスポ来場者のケラー通りへの関心の低さが

うかがえたことから、彼らの需要を満たす対策をたてることで、

更なるケラー通り来訪者の増加が期待できる。現在ケラー通りに

は J-POP 関連の店舗が無いため、ジャパンエキスポ来場者が興

味の対象として 2 番目に挙げていた J-POP 関連の商品を取り扱

うことが展開の一つになると考えられる。

最後に、今回実施した質問紙調査の回収率が課題として残った。

配布方法や回収方法を改良し、回収率を向上させることが今後に

向けた大きな課題である。

参考文献

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アミックスとの多様性の並存―」,社会・経済システム(30), pp45-53

3)會澤まりえ,大野実,ダレン・ジラード,美佳子ジラード(2010),「アメリカにお

けるクールジャパン現象」,尚絅学院大学紀要(60), pp65-78

4)米光靖(2006),「伝統工芸品産業の振興についての考察;有田焼、博多織、京

都の伝統的工芸品産業全般を事例として」,経済学研究,73(1), pp51-74

5)瀬戸邦弘, 國寶真美(2010),「現代的イベントと共生する伝統文化:渡名喜島

のカシキー網引きに関する一考察」, 生活學論叢 3(17), pp28-39

6)桂奨,鍛佳代子,岡部智彦(2008),「オーストラリアにおける移民外の形態的研

究」, 日本建築学会大会学術講演梗概集. F-1, pp975-976

7)吉田智彦,リム・ボン(2006),「建物登記からみる新宿区職安通り地区の韓国系

商店の特徴」, 日本建築学会大会学術講演梗概集. F-1, pp1063-1064

8)清谷信一(2009),「ル・オタク フランスおたく物語」, 講談社

9 ) CNC,仏語,http://www.cnc.fr/web/fr

10)高橋伸夫(1975),「パリ大都市圏の都市化」,季刊地図,vol.13 No.1

11)喜安朗, 川北稔(1986),「大都会の誕生出来事の歴史像を読む」,有斐閣選書

12)イバン・コンボー著, 小林茂訳(2002),「パリの歴史」,白水社

13)北村大治, 林靖人, 高砂進一郎, 金田茂裕, 中嶋聞多 (2006), 「地域ブランド

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究2

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