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伊 藤 塾

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不動産登記法

序 1 記述式試験は難しいか [1] 記述式は受験生の悩みの種 「択一式は解けるが,記述式は全くの苦手」 「記述式は細かすぎて手に負えない」 「解説を見れば知っている知識ばかりなのに,全く解けない」 多くの司法書士受験生が抱える悩みです。果たして記述式は択一式と比べて難しいのでしょうか。 答えはNoです。確かに記述式は,択一式と比べて,複雑で,択一式では使わない知識やスキルを求められることもあります。しかし,決して難しいものでも細かくもありません。苦手意識を払拭するためにも,まずこの点を見てみましょう。 [2] 出題の構造と思考回路 「問題を解く」ということは,問題に対してある処理を施して解答を導く行為です。つまり,左の図のように,問題を入力すると正解を出力できる思考回路があれば,「問題が解ける」ということになります。 (a) 択一式 択一式は,大雑把にいうと,「問題肢の記述内容が正しいか誤りかを判断して解答を出す」試験です。このときに働く思考回路とは,記述内容に対応する知識を引き出し,それを記述に当てはめることで正誤判定をするというものです。 (b) 記述式 これに対して,司法書士試験の記述式は「事実関係等に基づいて登記手続を組み立てる≒申請情報を作成する」試験です。といっても,例えば「売買の登記の申請情報を作成しなさい。」のように,単純な事実が登記手続に直結する形で聞かれることは,ほぼありません。 かなり複雑な事実関係が漠然と示され,それらは必ずしも登記手続に関係するとは限りませんから,「何を登記すべきなのか」「問題点は何か」といった問題意識を自ら持ち,問題点を発見しては,それに知識を当てはめて解決していかなければなりません。 さらに,「法律関係が本当に存在しているのか」「どのような登記手続をすべきか」「本当にその登記が必要か」「申請のタイミングはいつか」「誰が申請するのか」「登記事項,添付情報は何か」

問題 正解 思考回路 肢記述 正誤 知識 択一式の思考回路

事実 申請情報 知識 記述式の思考回路 問題 意識 知識 知識 知識 知識 知識

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プレップ記述式答案構成力養成講座

といった具合に,問題点も1つ2つではなく,多くの知識を次々に当てはめていかなければ正しい申請情報を作成するまで到達できません。このように問題を解くのに必要な思考回路は,択一式と記述式ではかなり異なります。イメージとしては,択一式が短距離走×5肢×70問であるのに対して,記述式は長距離障害物走×2問といったところでしょうか。 1-2 売買契約(事実1)の検討 1 法律関係の判断 ■スイッチ1 事実に着目して法律関係を判断する。 法律関係の有効・無効や,いつどんな法律効果が発生するかは,民法等実体法により規定される,効果発生に必要な事実(これを「要件事実」といいます。)の有無によって決まります。したがって,記述式問題では,①ありそうだなとアタリをつけた法律関係について,②その根拠となる実体規定を想起し,③規定に該当する事実の有無を確認する(=規定を事案に当てはめる)方法で,④具体的に法律関係の有無を判断していかなければなりません。この手法は,一般抽象事案についての正誤判断を中心とする択一式の手法とは,かなり趣が異なることを意識しておきましょう。 [1] 検討のポイント ・ 売買は,当事者間の財産権移転+これに対する代金支払の2つの約束(合意)のみで,直ちに権利変動の効力が生じるのが原則です(民555,同176)。 ・ 上記原則に対し,当事者は始期(民135Ⅰ),停止条件(民127Ⅰ)を合意することができ,これを「附款」といいます。不動産の売買契約には,代金支払時に所有権が移転する特約(所有権留保特約)が付されるケースがしばしばです。これは,権利変動を成否不確実な将来の事実(代金支払)に係らしめる合意なので,権利変動の停止条件です。この場合,代金支払時に所有権移転の効果が発生します。 [2] 当てはめ 別紙2第1条からは,甲土地の移転とこれに対する代金支払の合意を読み取れますから,ひとまず売買契約は成立しているといえます。しかし,第2条で所有権留保特約がされているので,甲土地の移転の権利変動は,代金が支払われ停止条件が成就する平成29年6月28日(事実4)に発生することになります。 なお,第3条は,契約当事者間の義務を定めた債権的な特約に過ぎないので,甲土地の権利変動に直接影響することはありません。 ■スイッチ2 思い込みに注意。実体・手続,物権・債権を峻別して正確に読み取る。 ときどき,第3条のような特約を所有権留保特約と解釈し,抵当権等の抹消登記が完了するまで所有権が移転しないと判断する人がいます。しかし,第3条をじっくり読むと「売主は…しなければならない。」とするのみで,第2条のように所有権の移転時期を定めてはいません。したがって,仮に第3条に反する結果になっても,実体上は損害賠償の問題となるのみでしょう。 不動産の権利変動と登記手続が主題の記述式問題では,つい,あらゆる事柄を物権変動と関連づけて考えたくなる気持ちもわかります。しかしながら,事実関係や別紙は,虚心坦懐に正確を旨として読み,実体と手続,物権関係と債権関係は峻別すべきことを強く意識しましょう。

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不動産登記法

2 原因関係の判断及び登記の種類の決定 ■スイッチ3 法律効果が登記対象権利に変動を生じさせるか確認して,登記原因を判定する。 法律関係の存在が確認できたら,その法律効果に着目して,その法律関係が登記原因となるかを判定します。法律効果が,登記の対象となる権利についての変動である場合には,原則として登記申請が必要となり(民177),その法律関係は登記原因となり得ると判定できます。このように権利変動の原因関係に基づいてなされる登記を,「権利変動の登記」と呼びます。 ■スイッチ4 権利変動の態様から登記の種類を決定する。 法律効果(=権利変動の態様)がわかれば,登記の種類も決定できます。これは実体法で規定される権利変動を,不登法で規定される登記手続に載せる最初の段階ですので,論理的には架橋判断に属するものですが,法律効果に着目したついでに一挙にやってしまうのが効率的でしょう。 登記の種類の決定は,原因関係に相応しい登記手続を,8種(設定,保存,移転,変更,更正,処分の制限,抹消,抹消回復)の登記の種類から選択して行います。 不動産登記の対象となる権利変動については,民法177条が,権利主体の視点から「得喪及び変更」,すなわち,権利の「発生,変更,消滅」の3つに分類し,さらにこれを受けた不登法3条が,権利の客体の視点から,発生を「設定,保存」に,変更を「移転,変更,処分の制限」に細分して規定しています。そのため,権利変動の登記の種類の決定は,原因関係の法律効果である権利変動が,民法177条の3分類,さらに不登法3条の6分類のいずれに該当するかを当てはめ判断して,それに対応する登記の種類を選択する方法で行います。 登記の種類の決定は,慣れてしまえば難なくできるのですが,仮にこれに失敗すれば,登記手続の枠組みが狂い,大失点につながりかねないので,はじめのうちは慎重に行うようにしましょう。

連想チェックリスト/権利変動の登記の「登記の種類」の判断 民法の物権変動の態様 不動産登記法の物権変動の態様 登記の種類 □発生 □合意による発生 設定 ⇒ 記入登記としての「設定登記」 □合意によらない発生 保存 ⇒ 記入登記としての「保存登記」 □変更 □権利主体の変更 移転 ⇒ 記入登記としての「移転登記」 □権利内容の変更 変更 ⇒ 「変更登記」 □処分の制限 処分制限 ⇒ 差押,仮差押,仮処分登記 □消滅 消滅 ⇒ 「抹消登記」 売買の法律関係によって,甲土地の所有権は代金支払時に買主Bに帰属します。この効果は民法177条に規定する「変更」に該当するので,本問の売買契約は甲土地の登記原因となる法律関係と評価できます。当該権利変動の態様は「権利主体の変更」なので,登記の種類は,「移転登記」と決定できます(法3)。 ■スイッチ5 後で混乱しないように,メモに自分なりのしるしをつけよう。 時間・手間・答案作成の際参照することを考えても,メモは必要最小限に越したことはないのですが,何が必要最小限か初めからわかる人はいません。したがって,特にはじめのうちは,重要そうなところは多めにメモすることにして,後から不要な部分を消す,又は必要な部分にしるしをつけて目立たせる工夫をするのがよいでしょう。これをしておかないと,いざ答案作成の段階で,検討結果を一覧できず,手間をかけて作ったメモが却って混乱やミスの原因になってしまいます。 上の図では,「売買が登記原因,6月28日が原因日付」という意味で,これらを囲んで矢印でつないでいます。登記の種類の判断が不慣れな人は,さらに小さく「移転」等,書き付けておくのもよいでしょう。

E→B 金消 4,000 万 利 1.2% (事2) 6/28 A→B 売買 甲地 所留特約 負担登記除去義務 (事1,別2)

H29 6/14 E―B 設定 抵→甲地 ム (事3) 6/28 B→A 代金支払 (事4) 6/28

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1-3 金銭消費貸借契約(事実2)の検討 1 法律関係の判断 [1] 検討のポイント 金銭消費貸借契約は,①借主が返還を約して,②貸主が金銭を交付することで成立します(民587:要物契約)。 [2] 当てはめ 事実2から,借主をB,貸主をEとする金銭消費貸借契約の法律関係を判断できます。 2 原因関係の判断 金銭消費貸借契約の法律関係の効果として,貸主Eは,借主Bに対する貸金返還請求権を有することになります。しかし,貸金返還請求権自体は,登記対象権利ではないので(法3参照),これによって甲土地に権利変動が生じるわけではなく,金銭消費貸借契約の法律関係は,それだけでは原因関係とはなりません。 ■スイッチ6 法律関係があれば,何でも登記できるわけではない。 法律関係の効果が,不動産の権利変動を生じさせるものでない場合,又は登記対象権利の変動ではない場合には,当然ですが,その法律関係は登記原因とはなり得ません。記述式問題には,直接登記原因とはならない法律関係も頻繁に登場しますので,法律効果が不動産に権利変動を生じさせるか否かの判断はきちんとしなければなりません。 メモには,「金銭消費貸借契約は有効だが登記原因にはならない」という意味で「金消」を括弧で囲んでいます。 1-4 抵当権設定契約(事実3)の検討 1 法律関係の判断 [1] 検討のポイント ・ 抵当権は,被担保債権の存在を前提として(成立の付従性),その債権者及び設定者が,当該債権を担保する抵当権を設定する契約をすることで発生します(民369)。 ・ 抵当権の設定目的物は適法なものでなければならず(民369ⅠⅡ参照),設定者は目的物について処分権限を有する者でなければなりません(物権契約)。 [2] 当てはめ 貸金返還請求権の債権者Eと,同日に甲土地の所有者となるBが,甲土地を目的として,事実2による債権を担保する抵当権を,設定する合意をしているので,抵当権設定契約の法律関係を判断できます。 ■スイッチ7 法律行為をやたらに「無効」と判断しない。 厳密に考えれば,事実3の契約時点のB所有は確認できません。Bは事実4の代金支払時に甲土地の所有権を取得し,事実3と事実4の前後関係は示されていないからです。むしろ,事実関係の記載順序から,未だ所有者でないと見るのも自然な見方かもしれません。しかし,それでは設定契約は(条件付行為と解せない限り)無効となってしまいます。 五感で覚知できない権利の有無を判断するのですから,事実の厳密な観察はむしろ望ましいことです。しかしながら,度が過ぎれば,法律はひどく使い勝手の悪い制度になってしまいます。そこで,特に当事者の意思

E→B (金消) 4,000 万 利 1.2% (事2) 6/28

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不動産登記法

表示が要素となる法律関係(これを「法律行為」といいます。)では,当事者の意思を尊重して,できる限り法律行為が有効になるように解釈します。すなわち,Bへの所有権移転とBを設定者とする抵当権設定が同一日付内である限り,移転→設定の順又はこれらが同時に生じたものと解釈できることになります。これは事実に反することや,存否不明の事実を勝手に補うような恣意的な解釈とは全く異なりますので注意が必要です。 本問では,お金の流れに注目すればEからBが融資を受け(事実2),そのお金でBがAに代金を支払い(事実4),Aが受け取ったお金をCに渡して,Cが債務を弁済した(事実5)というのが自然な解釈ですが,これらはすべて同一日付内なので,同時に行なわれたものと解釈でき,登記手続上は後述するとおり,お金の流れと逆の抹消→移転→設定という流れの手続が可能となります。 2 原因関係の判断及び登記の種類の決定 抵当権設定契約により,甲土地には新たに抵当権が発生します。この権利変動は民法177条に規定する権利の「発生」に該当するので,事実3の設定契約は甲土地に関する原因関係と評価できます。当該権利変動の態様は,「合意による権利の発生」ですので,これを表現する登記の種類は「設定登記」となります(法3)。 1-5 弁済(事実5)の検討 1 法律関係の判断 [1] 検討のポイント ・ 弁済は,どの債務についての弁済かを明らかにした上,原則として,受領権限者(≒債権者)に対する本旨弁済と認められるものでなくてはなりません。 ・ 弁済の有効性を判断するには,受領者が限定される一方,誰が弁済したかは重要ではありません。弁済は債務者以外の第三者がすることもできるからです(民474Ⅰ本文)。ただし,第三者が弁済した場合,弁済による代位(民499~504)を検討する余地が生じます。 [2] 当てはめ 甲土地1番抵当権の被担保債務について,債権者と目されるDに対して,全額の弁済がされているため,弁済の法律関係を判断できます。 2 原因関係の判断及び登記の種類の決定 債務者自身による弁済なので,弁済対象の債務は消滅します。消滅した債務は,抵当権の被担保債務の全部なので,消滅の附従性により抵当権も消滅することになります。この効果は民法177条に規定する物権の「消滅」に該当するので,事実5の弁済は甲土地1番抵当権に関する原因関係と評価できます。これを受けて登記すべき権利変動は,不登法3条の条文上「消滅」ですが,「消滅登記」という登記の種類はないので,既登記の全部を法律的に消滅させる登記の種類である「抹消登記」を選択します。

お金の流れ 登記手続の流れ E B A C D E―B 設定 抵→甲地 ム (事3)

6/28

C→D 弁済 1抵ム (事5) 6/28

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プレップ記述式答案構成力養成講座

■スイッチ8 担保物権の変動を見る際のキーワードは「附従性」「随伴性」。 抵当権等の担保物権には,被担保債権がなければ成立せず(成立の附従性),債権が消滅すれば担保物権も消滅し(消滅の附従性),債権の主体(債権者),客体(債務者)が変更しても,その債権を担保し続ける(随伴性)という基本的な性質があります。いうなれば,担保物権は,債権を主,物権を従とする二重構造となっているわけです。したがって,担保物権の変動を観察する際は,直接の法律効果が債権・物権のいずれに関するものか,債権に対する効果が物権に影響するか,に常に注意を払う必要があります。 1-6 住所移転(事実6)の検討 1 検討のポイント ・ 登記上の人の特定要素(氏名若しくは名称又は住所)が実体上のそれと合致しない場合,登記原因とその登記の種類が問題となります。これは,対象となる登記の受付年月日に着目し,実体と登記の不一致の発生が事後的か原始的かにより判断します。 ・ すなわち,登記名義人(法2⑪,同59④)等その氏名(名称)・住所が登記事項とされている者について,ある登記の申請後に住所移転,氏名変更等,人の特定要素の変動(名変原因)があった場合,実体と登記の不一致は事後的なものですので,その名変原因がそのまま登記の原因関係となり,登記の種類は「変更登記」(法2⑮)となります。 ・ これに対して,ある登記の申請前に既に名変原因が生じていたにもかかわらず,変更前の特定要素のまま登記をしてしまった場合や,特定要素の表記を誤って登記してしまった場合,登記の当初から登記事項に誤りがあったことになりますから,「錯誤」が原因関係となり,登記の種類は是正登記の一種である「更正登記」(法2⑯)となります。 ・ 登記名義人(登記記録上,権利者として記録されている者)の氏名(名称)・住所の変更又は更正の登記(=いわゆる名変登記)は,法64条の適用を受け登記手続が異なるので,原則規定である法60条の適用を受ける債務者の氏名等の変更登記とは分けて考えます。 ・ 住所の移転を証する書面として,住民票の写しが示された場合,「届出日」ではなく,「住所を定めた日」(又は住定日)を住所移転の日と判断します。 2 当てはめ 別紙1の甲区2番の所有者Aの住所は,同人の変更前の住所となっており,実体と登記事項の不一致が認められます。そこで甲区2番の受付日付と別紙3の「住所を定めた日」を照合すると,不一致は事後的に生じていますので,原因関係は「住所移転」,登記の種類は「変更登記」と判断します。権利者として登記されている登記名義人の住所の変更登記となるため,不登法64条による名変登記の登記手続となります。

□錯誤 名変原因 受付 年月日 登記 □名変原因 連想チェックリスト/名変原因の原因関係

6/29 A 住所移転 (事6,別3)

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商業登記法

序 1 不動産登記と商業登記の異同 記述式試験の半分である商業登記は,「登記」と称するだけに不動産登記と共通する部分もありますが,全く異なる部分が沢山あります。この異なる部分を意識しておかないと記述式問題の解法にも混乱が生じかねません。そこでまず,商業登記と不動産登記の両制度の異同をザッと確認しておきましょう。 [1] 制度目的及び登記の対象 不動産登記制度は,「国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資することを目的と」しています(不登1)。 これに対して,商業登記制度は「商号,会社等に係る信用の維持を図り,かつ,取引の安全と円滑に資することを目的と」しています(法1)。「取引の安全と円滑に資する」点は両者共通ですが,商人(以下,このテキストでは,特に断らない限り,「商人」は会社と同義と考えてください。)の信用維持が目的なので,公示する内容は商人そのものに関する取引上重要な事項(味村治著「新訂詳解商業登記」上p4),すなわち商人の信用に関する情報となります。これは不動産に関する権利の主体・内容及び権利変動そのものを公示する不動産の権利の登記とは全く異なります。 商業は取引による利益獲得が目的の経済活動ですので,商人は必然的に対外取引を行います。取引を行う場合,取引相手の信用(取引を行う権限を有する者は誰か,誰が支払の責任を負うのか等)は取引当事者の重大な関心事です。しかし,信用に関する事項とは,各商人の内外の法律関係であって,法律関係は不可視の観念的な存在ですので,正確な情報を得るのはたやすくありません。そうすると,相手の信用調査に慎重を期せば迅速な取引を行えず,迅速取引を優先すれば安全な取引は保障されないというジレンマに陥ります。 そこで,商人の信用に係る法律関係を文字によって外形化(可視化)することで,信用調査を合理化し,取引の安全・迅速の両立を図るのが商業登記の制度趣旨といえます。 [2] 登記簿の編製 商人の信用に関する事項が公示対象ですので,商業登記簿は必然的に商人を単位とした人的編成となります。これは権利の客体である不動産を単位とした物的編成を採る我が国の不動産の登記簿とは対照的です。 同じく「登記」と称するも,商業登記簿は,むしろ不動産登記簿よりも,人を単位とする点,戸籍に近く,特に会社の登記は,即ち会社の戸籍というイメージで差し支えないでしょう。 [3] 実体法 不動産登記は民法に規定された物権について,契約等の法律関係や相続等の法律事実に基づく権利変動を登記対象としていましたから,不動産登記の前提となる主な実体法は民法です。 これに対して,商業登記では,商人の営業,商行為その他商事(商1)に関する特別法として商法があり,商人の中でも特に会社の組織,運営,管理に関する特別法として会社法があります。商業登記も民法を実体法とする民事手続の分野に属しますが,特別法は一般法に優先しますから,商業登記の主な実体法は商法・会社法ということになります。 もっとも,商業登記の世界でも,商法・会社法に規定がない事項には一般法である民法が適用

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プレップ記述式答案構成力養成講座

されます。例えば,会社と役員の関係は委任に関する規定に従う(会330)とされていますが,それ以上の規定は会社法に置かれていませんので,民法643条以下の委任契約の規定が適用されることになります。また,商業登記の記述式試験では期間計算を要する局面が頻繁に現れますが,商法・会社法には期間計算の特則は定められていませんので,民法138条以下の規定を駆使することになります。 商法・会社法を学習すると,民法の世界とは全く異なる印象を受けがちですが,両者は連続しており,民法の土台の上に商法・会社法があるというイメージは,常に持ち続けなければなりません。 [4] 登記手続の全体構造 (a) 例外なき単独申請 不動産登記の対象となる権利変動では,権利を取得し又は利益を得る者がいれば,その反射として権利を失い又は不利益を被る者が存在するというふうに,対立当事者構造を観念できるので,この構造を利用し,これら対立当事者,特に権利変動によって登記の形式上不利益を受ける当事者(登記義務者:不登2⑬)を申請手続に関与させる共同申請の原則(不登60)によって,登記の真正を保持する仕組みを採っていました。 これに対して,商業登記の対象は,商人自身の信用に係る法律関係ですので,対立当事者構造を想定することができません。そのため,商業登記制度では,例外なく,登記対象である商人自身からする「単独申請」の仕組みが採用されています(法14)。 (b) 商業登記の真正担保の方法~証拠主義 共同申請の原則の核心には,不利益当事者が権利変動を認めているならば,その権利変動は真実の蓋然性が高いという経験則があり,それは民事訴訟手続の請求認諾又は自白の仕組みと通底するものでした。 単独申請では上記のように申請当事者の対立構造によって登記の真正を確保する考え方を採用できないので,証拠書面による立証(書証)の比重が増大します。そのため,単独申請は,「証拠主義」とも呼ばれます。 (c) 印鑑届出制度と申請構造の履行を証する添付書面の要否 共同申請構造に登記の真正担保機能を依拠する不動産登記手続では,登記識別情報,印鑑証明書,住所証明情報といった申請構造の履行及び申請人の本人性を証する情報が,証拠である添付情報の中核を占めていました。 これに対して商業登記手続は,例外なく商人自身(会社の場合は代表者:法47Ⅰ)の単独申請なので,申請構造履行及び本人性確認の重要性が不動産登記に比べて低下します。加えて,申請権限者が限定され,同一の申請権限者による申請の反復継続が予定されるので,申請権限者にあらかじめ印鑑(印鑑届出書)を提出させ,これと申請書又は委任状の印影とを照合することで申請人の本人確認をする仕組みを採用しています(法20:印鑑届出(又は提出)制度)。 この印鑑届出制度により,商業登記手続においては,原則として,申請構造の履行及び申請人の本人性を証する添付書面(※)は不要となります。 ※ 細かいことですが,不動産登記法は電子申請を本則として規定されていますので,書面申請の場合でも「申請情報を書面に記載して,併せて添付情報を提供する」といった表現をします。これに対して商業登記法は書面申請を本則とする規定振りですので,「申請書に添付書面を添付して提出する」といったふうによりストレートな言い回しになります(法17,18)。

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商業登記法

その結果,商業登記申請の証拠である添付書面は,代理人申請の場合の委任状(法18)と,不動産登記における「登記原因を証する情報」に相当する「登記の事由を証する書面」のみということになります。 [5] 登記の事由と実体構造 不動産登記の登記すべき事項(=登記事項)が法定されていたのと同様,商業登記も登記事項は法定されています(登記事項法定主義)。ただし,会社の登記事項の規定は商業登記法ではなく,主に会社法の907条以下に置かれています。 これら法定登記事項が発生,変更,消滅すると,その旨の登記を申請すべきことになります(会907,909,915)。 商業登記の申請書の記載事項に「登記の事由」がありますが(法17Ⅱ③),これは「どのような理由によって登記を申請するかを明らかにする記載」とされていますから(味村治著「新訂詳解商業登記」上p205),登記の事由とはすなわち,法定登記事項の発生,変更,消滅を生じさせる法律関係ということになります。 会社法が規定する登記の事由となる法律関係は,通常,決議を含み目的である法律効果の発生に向かって複数の行為が連鎖する実体上の手続・手順の構造を持っていることが多く,この登記の事由の形成に向けた実体上の手続・手順を,本テキストにおいては「実体構造」と呼ぶことにします。 [6] 商業登記における法的判断としての瑕疵判断~登記官の審査方法 不動産登記における法的判断は,通常の民事訴訟における法的判断手法を応用して,登記の原因となる法律効果を発生,障害,阻止,消滅させる事実の有無に着目して,これらの事実が登記原因証明情報の内容を形成し,登記官もこれらの事実に着目して登記原因の有無を判定するという手法を採っていました。 ところが,会社訴訟では通常の民事訴訟の法的判断とはかなり異なる手法によって,法的判断がされています。株主総会の決議の適否を争う形成訴訟である「決議取消の訴え(会831)」を例に挙げれば,原告は,取消原因となる決議形成手続上の瑕疵か し (ミス,間違い)を主張立証し,これに対して被告である会社は,原告が主張する瑕疵事由の不存在,又は瑕疵を治癒する事由を主張立証して反論する要領で審理が展開されます。この方法によれば,原告又は被告のいずれの当事者も,決議に関する事実関係の全体を主張立証する必要がなく,争点は自ずと取消原因となる瑕疵事由に絞られ,当事者や裁判所の負担を大幅に軽減できます。 このように,最も厳格に法的判断が行われる訴訟手続の場においてすら,無効や取消原因となる瑕疵事由の有無を判定するに過ぎないのですから,訴訟よりも簡易・迅速に判断を行うべき商業登記における法的判断は,会社訴訟と同等以下の程度と態様で行われれば足りることになります。すなわち,商業登記における法的判断は瑕疵事由の有無をチェックする=「間違い探し」の発想で行います。瑕疵事由(ミス,間違い)の有無をチェックする法的判断なので,以下この手

実体構造 A手続 登記の事由 の形成 登記の申請 C手続 B手続 添付書面 A 添付書面 C

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法を「瑕疵判断」と呼びます。 商業登記法は,実体構造の無効又は取消しの原因となり得る局面についてあらかじめ証拠となる添付書面を法定しており,登記官は審査資料の範囲がこれら添付書面に限定されるという意味における形式的審査権限を前提として,登記簿,申請書及び登記の事由を証する添付書面に記載された事実を限度として瑕疵判断を行う手法で登記申請の受否を判定しています。 ■スイッチ1 商業登記における添付書面の比重 商業登記法を見ると,添付書面の規定がその大部分を占めています。これは商業登記制度が例外なき単独申請=証拠主義を採用している結果ともいえます。 不動産登記法では,登記原因証明情報についての規定は本体法に概括的な1条が置かれるのみであり(不登61),不動産登記令別表に個別的な規定があるものの,その具体的内容のほとんどは解釈に委ねられていました。 これに対して,商業登記における登記の事由を証する添付書面は,登記の事由を形成する実体構造の流れに沿って登記の事由ごとに個別に規定されています。これは不動産登記に比べれば,きめ細かく,より具体的であり,覚えるのは大変ですが,その反面,不動産登記の登記原因証明情報の内容よりはるかに勉強しやすいといえるでしょう。 登記の事由ごと規定されているので,登記の事由ごと,登記の事由-実体構造-添付書面をワンセットにして覚えるようにしましょう。それができれば,登記の事由が判明した瞬間,一気に添付書面まで判断できるようになるので,記述式の得点力はグンとアップします。 また,添付書面に瑕疵事由が現れていることは,申請却下に直結します。これは記述式では登記申請できない事項及びその理由となりますので,その意味でも登記の事由と添付書面を関連づけて覚えておくことは重要です。 ■スイッチ2 瑕疵(カシ)って何? 「瑕疵」という用語が難しいという受験生が時折います。確かに日常会話の中であまり使いませんし,見なれない漢字ですが,別に難しい意味ではありません。 「瑕疵」とは,一般的にはキズ,欠点,欠陥などと言い換えられますが,法律用語としては一般的な語であり,例えば民法の条文では101条(代理行為の瑕疵),120条2項(瑕疵ある意思表示),187条2項(占有の瑕疵),570条(売主の瑕疵担保責任)など27回も登場します。 これらの用例を観察すると,物や行為の外形全体としては正常な状態でありながら,外から見えにくい部分や,外形全体が形成される過程の中に,全体の機能を阻害する欠陥や手違いがある状態といったニュアンスがあるようです。 時事問題でいえば,少し前のマンション杭打ちデータ偽装問題をイメージするとよいでしょうか。 会社の法律関係の形成過程における瑕疵は,まさにこのニュアンスにぴったりで,他に適切な語も見つからないので,本テキストでは敢えてこの語を使っています。 とりあえず,不動産登記とは法律関係の判断の仕方がちょっと違い,問題の隅から隅まで目を配る必要がない「間違い探し」なんだなという点を押さえて,あとは「カシ」という読み方を覚えておけば差し支えはありません。 2 商業登記記述式の解法へスイッチ(切り替え)する 法的判断手法まで,不動産登記と商業登記では大きく異なることがわかりました。そうだとすると記述式問題の解法も,不動産登記と商業登記では大きく発想を切り替える必要があります。以下,不動産登記との違いを意識しながら,商業登記記述式の解法(作業工程)の概要を確認しておきましょう。 [1] 実体判断 (a) 法律構成~登記の事由の判断 問題に示された事実関係から,ありそうな法律関係を想定するという法律構成の作業が問題を解く端緒となる点は不動産登記と変わりありません。ただし,商業登記では事実関係は司法書士の聴取記録や議事録等の別紙によって示されることがほとんどです。 登記事項が発生,変更,消滅したときに登記の申請が必要となるので,法律構成した法律関係に含まれる法律効果に着目し,登記事項を発生,変更,消滅させる効果が含まれるか否かの

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観点から,その法律関係が「登記の事由」となるか否かを判断します。 これは,不動産登記における原因関係の判断に相当するものといえるでしょう。 ■スイッチ3 登記事項は要暗記。 会社に関わる法律関係といっても,何でもかんでも登記事項となるわけではありません。前述したとおり,登記事項は商人の信用に係るもので,会社法に法定されたものに限られます。 そもそも,何が登記事項かがわからなければ,登記の事由は判断できないので,登記事項は暗記しておく必要があります。 特に株式会社の設立登記事項(会911Ⅲ)は重要ですが,大部の条文で簡単に覚えきれるものではありませんので,丸暗記を目指すというよりは,実際の登記記録を参照しながら,登記記録のイメージと関連づけて覚えることをオススメします。 商業登記記録例が法務省のサイトで公開されていますので,それを参照するとよいでしょう。 (http://www.moj.go.jp/content/000001911.pdf) (b) 実体構造と瑕疵判断 前述したとおり,申請を受け付けた登記官は,法定の添付書面が具備されている限り,登記の事由を形成する実体構造が履践されていることを,ひとまず推定した上で,添付書面に瑕疵事由が現れていないかをチェックする方法で審査を行います。 したがって,登記の模擬申請行為である記述式試験における法的判断としても,登記審査の判断手法を先取りして,①登記の事由を形成する実体構造を想起し,実体構造の適法履践を一応推定した上で,②問題に現れている事実を限度に実体構造中の各手続に瑕疵事由がないか,間違い探しをする方法で行えば足りることになります。 これは不動産登記の法律関係の判断に相当するものですが,事実関係から生じる法律効果の全体構造を把握し,法律効果を生じさせる事実の有無を一つ一つチェックする法律関係の判断に比べれば,チェック項目をパターン化して絞り込める分,習熟しやすい判断手法といえるでしょう。 [2] 架橋判断 不動産登記記述式では答案の大枠を左右する重要な作業工程となる架橋判断ですが,商業登記記述式を解く作業工程では,次に述べる理由でほとんど省略することができます。 (a) 登記の種類が解答に影響しない 商業登記においても,登記事項の発生,変更,消滅に対応して,登記の種類を「発生の登記」,「変更の登記」,「消滅の登記」に分類することが可能です。また,登記と実体が一致しない場合の是正登記は,「更正の登記」と「抹消の登記」に分類することができます。 しかし,記述試験で扱うことになる登記の種類は,ほとんどが株式会社の「変更の登記」です。また,商業登記では,登記の種類によって登記事項や申請構造,添付書面が定まることはないので,登記の種類に留意する必要性はほぼないことになります。 ■スイッチ4 登記の事由の判断の重要性 商業登記においては,登記事項の具体的内容,実体構造,添付書面,登録免許税のすべてが登記の事由に対応して決まってきます。したがって,登記の事由の判断は,不動産登記における登記の種類の判断と同等,或いはそれ以上に答案の成否を左右する重要な作業工程といえます。 登記の事由の種類は,不動産登記の登記の種類とは比べものにならないほど,数が多いので,丸暗記するというような類のものではありません。しかし,登記事項を正確に把握でき,会社法の理解が深まれば,ごく自然に登記の事由は判断できるようになりますので,あまり心配する必要はありません。 登記の事由の判断が苦手という人は,頻繁に会社法に戻って復習してください。商業登記は不動産登記以上に実体(すなわち会社法)なのです。

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例題1 第1 前提情報の確認と法律構成 1-1 依頼者及び依頼内容 ■スイッチ5 最初に,大まかに事件の概要を把握する。 最初の作業は不登記述式解法と同様です。問題のすみずみまでザッと眼を通しながら,重要そうなところをメモしたり,問題冊子に直接マークしていきます。 商業登記記述式では,「登記記録」と「聴取記録」が検討の中心になりますので,これらをじっくり検討できるように,また,うっかり見落としを防ぐ意味でも,まず問題文や注意書きを先に確認しておきます。 本問の注意書き(答案作成に当たっての注意事項)では,1の議事録に代表者の届出印の押印がない点,2の添付書面の援用をしない点,それと5及び6などが,答案に影響しそうだなと,筆者ならば,これらをマークします。 ■スイッチ6 依頼者,処理対象会社,依頼内容を確認する。 会社代表者の単独申請(昭39.3.28民甲837通,法47Ⅰ)となる商業登記では,不動産登記と比べて依頼者確認の重要性は低いです。しかし,万が一申請権限のない者が依頼してきた場合,登記の申請ができないことになってしまいますので念のため確認します。また,不動産登記と異なり,商業登記は原則として申請義務が課せられていますので,登記の事由が存在する以上,申請留保の余地はなく,依頼者がどのような登記手続を希望しているか確認する必要性も低いです。しかし,依頼内容が申請書の作成のみという出題が,過去にされたことがあります。この場合,本人申請となり,申請代理権限を証する委任状が不要となりますので,依頼内容に申請代理が含まれるか否かは,念のために確認します。 本問の場合,問題文柱書きによれば,依頼者は株式会社いまいずみ酒造(以下「株I」と略記します。)の代表者であり,処理対象会社は株Iであり,依頼内容は,必要となる登記の申請書の作成及び登記申請の代理です。登記の申請日は平成29年7月3日となります。 1-2 処理対象会社の形態 ■スイッチ7 会社形態の把握は必須の作業。 会社法では,会社の形態によって適用法条が変化しますので,記述式問題を解く際に,会社形態の把握は必須の作業となります。これをすばやく正確にやっておかないと大混乱を招きミスの原因になりかねません。 会社形態は主に登記記録から,次の①~⑥の要領で簡単に把握できますが,後から逐次見直すのは時間の無駄なので,できるだけ早めに確認し,略号や記号でメモの隅に記しておくのが得策です。そして,この作業は問題を解く際は必ず履行して早く習慣化してしまいましょう。 ① 株式会社の種類 ⅰ 特例有限会社 まず,登記記録商号欄に示された商号中に「株式会社」「有限会社」のいずれが使用されているか確認します。「有限会社」が使用されている場合,特例有限会社ということになり,会社法の規定の他,整備法の規定(整備2~46)の適用を受けることになります。 ⅱ 旧小会社と旧大会社 「株式会社」が使用されている場合で,商号区の会社成立年月日欄又は登記記録区に示された会社成立年月日が平成18年5月1日より前の日(4月28日以前の日)である場合,会社法施行前から存在する旧株式会社と判断できます。この場合において,会社法の施行時点(平18.5.1)で資本金の額が1億円以下で負債総額が金200億円未満であり,かつ非公開会社であるときは,旧小会社に関する整備法の規定が適用され,定款に「監査役の監査の範囲を会計監査に限定する旨の定め」があるものとみなされます(整備53)。 また,旧株式会社で,会社法の施行時点の資本金の額が5億円以上,又は負債総額が200億円以上であれば旧大会社となり,資本金の額が1億円超で定款にみなし大会社の定めがあれば旧みなし大会社となり,旧大会社に関する整備法の規定(整備52,同61)が適用されます。 ⅲ (施行後の)株式会社 商号中に「株式会社」の文字が使用され,会社成立年月日が平成18年5月1日以後であれば会社法の施行後に設立された株式会社と判断でき,会社法の規定のみが適用されることになります。登記記録等から会社成立年月日が明らかでないときも,施行後設立の株式会社と判断して差し支えありません。 ② 公開会社か否か

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登記記録株式・資本区の株式の譲渡制限に関する規定欄に着目します。発行する全部の株式についての譲渡制限が登記されていれば非公開会社です(平18.3.31民商782通)。非公開会社に該当しない会社が公開会社であることになります(会2⑤)。譲渡制限規定が登記されていても,それが全部の株式についての定めでなければ,公開会社となるので要注意です。種類株式発行会社(内容の異なる2以上の種類の株式の発行を予定している会社:会2⑬)では,現に発行している種類株式の全部を対象とする譲渡制限が登記されていても,発行を予定している種類株式も含めた全部の株式についての定めでない限り,非公開会社とはなりません。 また,特例有限会社は,常に「非公開会社」となります。 ③ 取締役会設置会社か否か 登記記録会社状態区に「取締役会設置会社」の旨の登記があれば取締役会設置会社と判断できます。この登記がないときは非取締役会設置会社と判断して差し支えありません。 ④ 監査役設置会社か否か 登記記録会社状態区に「監査役設置会社」の旨の登記があれば監査役設置会社と判断できます。この登記がないときは非監査役設置会社と判断して差し支えありません。 なお,非公開会社では,監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除いて,定款で監査役の権限を会計監査に限定する旨を定めることができ(会389Ⅰ),当該定めがある場合には,監査役設置会社の登記があるときでも会社法上の監査役設置会社(会2⑨)とはなりません。 ⑤ 大会社か否か 大会社は,最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であるか,又は負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である会社です(会2⑥)。したがって,最終貸借対照表で確認すべきことになります。「大会社である旨」が,登記事項となっているわけではないので注意しましょう。 しかしながら,記述式試験では,貸借対照表が示されることは滅多にないので,資本金について主に登記記録株式・資本区の資本金の額欄に着目し,負債について司法書士の聴取記録や注意事項の記載に着目して判断します。 判断手順としては,登記記録の資本金の額が5億円未満であれば,ひとまず非大会社としてメモを取っておき,聴取記録等をチェックした際に,最終貸借対照表上の負債が200億円以上であることが判明した時点でメモを修正するといったやり方でよいと思います。メモは紙の上で考えるための道具なので,キレイに書く必要はなく,情報が更新される度にどんどん修正していけばよいだけのことです。 なお,大会社か否かの判断時点は,原則として,定時株主総会で貸借対照表が承認又は報告された時点であり,仮に登記記録の資本金の額が5億円未満から5億円以上に増額変更されても,増額日を含む事業年度にかかる定時株主総会までは非大会社のままですので注意が必要です。 ⑥ その他の機関設置等 会計監査人設置会社,監査役会設置会社,会計参与設置会社の旨も登記事項なので,登記記録から明らかになります。 本問の場合,次のとおり会社形態を把握できます。 【会社形態の把握(株式会社いまいずみ酒造)】 会社形態 根拠・ポイント(着目点) ① 株式会社 特例有限会社 登記記録商号欄の商号中に「株式会社」が使用され,平成18年5月1日より後の会社成立年月日の登記がある(別紙1)。 ② 公開会社 非公開会社 登記記録の株式の譲渡制限に関する規定欄に,発行するすべての種類の株式(「当会社の株式」)を対象とした譲渡制限規定の登記がある(別紙1)。 ③ 取締役会設置会社 非取締役会設置会社 登記記録の取締役会設置会社に関する事項欄に「取締役会設置会社」の旨の登記がある(別紙1)。 ④ 監査役設置会社 非監査役設置会社 登記記録の監査役設置会社に関する事項欄に「監査役設置会社」の旨の登記がある(別紙1)。 ⑤ 大会社 非大会社 登記記録資本金の額欄から把握できる金額が5億円未満であり(別紙1),かつ,最終貸借対照表計上負債額が200億円以上である旨は示されていない。 ⑥ その他の機関設置等 なし。

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1-3 法律構成(登記の事由の抽出) 登記記録と聴取記録を中心として,別紙を点検して「登記申請の対象となりそうな法律関係」すなわち「登記の事由」を法律構成します。 1 新株予約権の行使期間の満了(別紙1登記記録) 新株予約権欄の行使期間の登記によれば,申請時点で行使期間を経過しており,新株予約権の登記事項に変更が生じている可能性があります。 ■スイッチ8 登記記録に登記の事由が現れる場合 法律構成は,聴取記録を軸に行うと好都合なのは,次に述べるとおりですが,聴取記録に現れない登記の事由が,登記記録にさりげなく現れている場合がありますので,会社形態を確認したついでに登記記録全体に目を通しておきましょう。 登記記録にさりげなく現れる登記の事由としては,新株予約権行使期間の満了の他に,会社の存続期間の満了などがあります。新株予約権欄,存続期間又は解散事由の欄等が設けられているときは要注意です。 また,役員変更の登記が問題になりそうなときは,登記記録を確認した時点で,任期計算の前提となる就任(重任)日等をメモし,検討の下準備をしておくのもよいでしょう。 2 取締役及び監査役の選任(聴取記録4,別紙3) 聴取記録4で指示された定時株主総会の議事概要(別紙3)によれば,決算承認後の第2号議案で取締役及び監査役を選任する決議がされていますので,役員の登記事項に変更が生じている可能性があります。 ■スイッチ9 聴取記録は宝の山。 聴取記録は,不登法記述式の事実関係のように,ほぼ時系列に沿って事件に関する事実が示され,他の別紙に現れない重要な情報も盛り込まれるので,事件全体の概要を把握するのには大変都合がいいのです。 本テキストの本文では,聴取記録から直接別紙の内容をチェックするような表現となっていますが,実際には,聴取記録から得られた情報(平成29年6月26日に別紙3の定時株主総会が開かれ(聴取記録4),翌27日に別紙4の取締役会が開かれた旨(聴取記録5))を時系列メモに落とし込んでから,別紙3及び別紙4の内容をチェックして,メモに追加すると効率よく整理できます。 聴取記録3の定款規定の中には,役員の任期計算に不可欠な情報が含まれていますし,近年の出題傾向では,株主総会や取締役会の定足数充足なども聴取記録から判断するようになっており,時系列メモ作成後も聴取記録は頻繁に見直すことになります。 したがって,登記記録と聴取記録のページは耳を折る等して,必要なときに,すぐに開ける工夫をしておきましょう。 3 代表取締役の選定(聴取記録5,別紙4) 聴取記録5で指示された取締役会の議事概要(別紙4)によれば,第1号議案として代表取締役選定決議がされているので,役員の登記事項に変更が生じている可能性があります。 4 株式分割(聴取記録5,別紙4) 第2号議案では,株式分割の決議がされているので,株式に関する登記事項に変更が生じている可能性があります。 5 発行可能株式総数の変更(聴取記録5,別紙4) 第3号議案も株式に関する登記事項に影響しそうです。 6 単元株式数の設定(聴取記録5,別紙4) 第4号議案も株式に関する登記事項に影響しそうです。