6
日皮会誌:95 (14), 1547-1552, 1985 (昭60) 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, Lamininの 組織分布および血漿中Fibronectin濃度について 乃木田俊辰* 野上 玲子 基底細胞癌(BCC)8例,有無細胞癌(SCC)5例 についてfibronectin (FN)とlaminin (LM)の分布 を螢光抗体法で観察,さらに血漿中のFN濃度を測定 した. FNは, BCC, secともに腫瘍実質をとり囲む部位 に,巾広く分布した.間質の炎症反応の強弱との相関 は,とくに明瞭には認められなかった.LMは, BCC, SCCともに,腫瘍実質との境界部に一致して線状に認 められ,間質のその他の部分には,認められなかった が, BCCの1例にのみ腫瘍実質内の腫瘍細胞問にLM の陽性所見を得た. 血漿中のFN濃度は正常人血漿に比し, sec, BCC 共に明らかに高値を呈した. 結合織組織の基質を構成する主な糖蛋白には, fibronectinC以下FNと略)とlamininC以下LMと略) が知られており,FNには肝,血管内皮細胞で産生され る血漿FN(pFN)と主に線維芽細胞で産生される細胞 FN(cFN)の2種類があり,免疫学的には両者は区別 不能とされるが,生理活性には若干の差が存在する. そのうち癌細胞を配向させる活性をみると, cFNは pFNより約50倍,赤血球凝集能に関しては150~200倍 その活性が高いことが報告され1),また癌細胞の進展, 転移に関することが示唆され, Yamadaら2)は培養線 組芽細胞のoncogenic virusやcarcinogenによる悪 性変化とともに細胞周囲のFNが消失し,無秩序な発 熊本大学医学部皮膚科教室(主任 荒尾龍喜教授) *現所属:東京大学医学部皮膚科教室(主任 石橋康 正教授) Toshitatsu Nogita, Reiko Nogami and Yoshihiro Maekawa : Distribution of Fibronectin and Laminin in Basal Cell Carcinoma and Squamous Cell Carcinoma 昭和60年7月2日受付,昭和60年7月15日掲載決定 別刷請求先:(〒113)東京都文京区本郷7-3-1 東京大学医学部皮膚科教室 乃木田俊辰 前川 嘉洋 育が出現すると述べ,さらにYamadaら3)はFNが transformed cenに対してdetransforming effectを 有すると述べている. 一方LMは,ヘパラソ硫酸と共に基底膜に存在し, IV型コラーゲンと上皮細胞とを接着させるとされ,癌 組織においては,肺瘍巣の周辺にのみ存在するという 報告4)がある. 今回著者らは皮膚癌のうち,基底細胞癌(以下BCC と略)8例,有無細胞癌(以下SCCと略)5例につい て,真皮および基底膜に存在するFNおよびLMの分 布状態を螢光抗体法を用い,正常皮膚と比較検討し, さらに同患者血漿中のFN濃度をimmuno tur- bidimetric assay法により測定し,若干の知見を得た ので報告する. 材料と方法 1.材料:手術時あるいは生検時得られたBCC, SCCの腫瘍部分および正常組織を2分割し,一方を 10%ホルマリン固定,他方をn,ヘキサンにより急速凍 結し,使用時まで-80℃のdeep freezer内に保存し た. 患者血漿は,クェソ酸ナトリウムを含む採血管に約 4.5ml採血し,混和後血漿を遠心分離し,-20℃に保存 し測定直前に室温で解凍し実験に供した. 2.免疫組織学的方法:凍結標本をクリオスタット で4μmの切片を作製し,無固定にて風乾した. ①直接螢光抗体法:上記の切片上にFITC 一labeled一goat―anti一human FN 抗体(Cappel)を 室温45分間反応させ,冷phosphate―buffered saline (PBS)で10分間3回洗浄後,90%PBSグリセリソで封 入し, Carl Zeiss社製落射型螢光顕微鏡下にFNの分 布を観察した. ②間接螢光抗体法:ト記の切片上にrabbit anti ―mouse LM 抗体(BRL)を,室温にて45分間反応さ せ,冷PBSで10分間3回洗浄後,2次抗体として FITC-labeled-goat一anti―rabbit lgG抗体 (Cappel)と反応させ,冷PBSに充分洗浄し, 90%PBS グリセリソで封入し, Carl Zeiss社製落射型螢光顕微

基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

  • Upload
    lytram

  • View
    220

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

日皮会誌:95 (14), 1547-1552, 1985 (昭60)

基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, Lamininの

  組織分布および血漿中Fibronectin濃度について

乃木田俊辰* 野上 玲子

          要  旨

 基底細胞癌(BCC)8例,有無細胞癌(SCC)5例

についてfibronectin (FN)とlaminin (LM)の分布

を螢光抗体法で観察,さらに血漿中のFN濃度を測定

した.

 FNは, BCC, secともに腫瘍実質をとり囲む部位

に,巾広く分布した.間質の炎症反応の強弱との相関

は,とくに明瞭には認められなかった.LMは, BCC,

SCCともに,腫瘍実質との境界部に一致して線状に認

められ,間質のその他の部分には,認められなかった

が, BCCの1例にのみ腫瘍実質内の腫瘍細胞問にLM

の陽性所見を得た.

 血漿中のFN濃度は正常人血漿に比し, sec, BCC

共に明らかに高値を呈した.

          緒  言

 結合織組織の基質を構成する主な糖蛋白には,

fibronectinC以下FNと略)とlamininC以下LMと略)

が知られており,FNには肝,血管内皮細胞で産生され

る血漿FN(pFN)と主に線維芽細胞で産生される細胞

FN(cFN)の2種類があり,免疫学的には両者は区別

不能とされるが,生理活性には若干の差が存在する.

そのうち癌細胞を配向させる活性をみると, cFNは

pFNより約50倍,赤血球凝集能に関しては150~200倍

その活性が高いことが報告され1),また癌細胞の進展,

転移に関することが示唆され, Yamadaら2)は培養線

組芽細胞のoncogenic virusやcarcinogenによる悪

性変化とともに細胞周囲のFNが消失し,無秩序な発

 熊本大学医学部皮膚科教室(主任 荒尾龍喜教授)

*現所属:東京大学医学部皮膚科教室(主任 石橋康

  正教授)

Toshitatsu Nogita, Reiko Nogami and Yoshihiro

 Maekawa : Distribution of Fibronectin and

 Laminin in Basal Cell Carcinoma and Squamous

 Cell Carcinoma

昭和60年7月2日受付,昭和60年7月15日掲載決定

別刷請求先:(〒113)東京都文京区本郷7-3-1

 東京大学医学部皮膚科教室 乃木田俊辰

前川 嘉洋

育が出現すると述べ,さらにYamadaら3)はFNが

transformed cenに対してdetransforming effectを

有すると述べている.

 一方LMは,ヘパラソ硫酸と共に基底膜に存在し,

IV型コラーゲンと上皮細胞とを接着させるとされ,癌

組織においては,肺瘍巣の周辺にのみ存在するという

報告4)がある.

 今回著者らは皮膚癌のうち,基底細胞癌(以下BCC

と略)8例,有無細胞癌(以下SCCと略)5例につい

て,真皮および基底膜に存在するFNおよびLMの分

布状態を螢光抗体法を用い,正常皮膚と比較検討し,

さらに同患者血漿中のFN濃度をimmuno tur-

bidimetric assay法により測定し,若干の知見を得た

ので報告する.

          材料と方法

 1.材料:手術時あるいは生検時得られたBCC,

SCCの腫瘍部分および正常組織を2分割し,一方を

10%ホルマリン固定,他方をn,ヘキサンにより急速凍

結し,使用時まで-80℃のdeep freezer内に保存し

た.

 患者血漿は,クェソ酸ナトリウムを含む採血管に約

4.5ml採血し,混和後血漿を遠心分離し,-20℃に保存

し測定直前に室温で解凍し実験に供した.

 2.免疫組織学的方法:凍結標本をクリオスタット

で4μmの切片を作製し,無固定にて風乾した.

 ①直接螢光抗体法:上記の切片上にFITC

一labeled一goat―anti一human FN 抗体(Cappel)を

室温45分間反応させ,冷phosphate―buffered saline

(PBS)で10分間3回洗浄後,90%PBSグリセリソで封

入し, Carl Zeiss社製落射型螢光顕微鏡下にFNの分

布を観察した.

 ②間接螢光抗体法:ト記の切片上にrabbit anti

―mouse LM 抗体(BRL)を,室温にて45分間反応さ

せ,冷PBSで10分間3回洗浄後,2次抗体として

FITC-labeled-goat一anti―rabbit lgG抗体

(Cappel)と反応させ,冷PBSに充分洗浄し, 90%PBS

グリセリソで封入し, Carl Zeiss社製落射型螢光顕微

Page 2: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

1548

Fig.

  る

乃本田俊辰ほか

基佐細胞癌.腫瘍栄一を闘か様にFNが存在す

鏡卜にLMの分布を観察した.

 3.螢光抗体法に供した連続切片の1部をHE染色

し,同部の病理組識学的変化を観察した.

 4.血獄中のFN濃度測定:FNに対する特異抗体

と打原抗体複合物形成の結果,その両度を測定する

immuno turbidimetric assay法によるFN測定キッ

ト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ

ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

液を,光路長1cmのセミマイクロキュペットに加え,

混和した.正確に1分後に最初の吸光度(E1)を測定

し,引き続き∧王確に10分後に討「1」目の吸光度(.E2)

を測定した.吸玉度は34()nmの波長を川ト,測定温度

は15℃~30℃の‥一定温度トに行った.一一定時間におけ

る両度の差,すなわち△E=E2一一EIを求め,あらかじ

めキット申のFN標準液から作製した検定曲線から,

その検定のFN濃度を求めた.

          結  果

 I. FNの分布について:正常な表皮真皮境界部お

よび真皮では,付属器および,毛紅血管の基底膜部に

のみFNを認め,真皮は膠原縁組に沿って少量のFN

を認めるにすぎない.

 BCCでは全例とも腫瘍巣をとり囲む間質に呵広く,

ほぼ‥・様に連続的に陽性所見を認めた(Fig. 1九sec

においても挫傷巣をとり囲む間算にびまん性のFN

の陽性所見を認めた(Fig. 2).

 II. LMの分布についてト正常な表皮真皮境界部な

らびに真皮では,LMは付属器および,毛細血管の基底

膜部に線状をなして明瞭に認められた. BCCでは,

LMは腫瘍実質と間質との境界部にのみ線状に,かつ

連続性に陽性所見が認められたが(Fig. 3), FNと異

Fig. 2 有牲細胞癌.腫瘍間にびまん性にFNを認め

 る.

なり間質には認められなかった. BCCの1例におい

て,腫瘍棄内に穎粒状あるいはそれらが集合して塊状

を皇する陽性所見を認めた(Fig. 4九SCCでは基底膜

部に・致して線状の陽性所見が認められた拡連続切

片のPAS染色では同部はほとんど陰性でめった.周

囲の間質にはLMは認められなかった(Fig. 5).

 III.間質反応とFNについて:

 1)BCC:閣質のFNの分布と,間質における炎症

細胞浸潤,線紅芽細胞の分布との関係を検討した八

明瞭な相関関係は認められなかった.ただ炎症性細胞

浸潤が著明な部位にFNの分布が顕著にみられる傾

向が窺がわれた.

 2) sec:関質のFNの分布と間質の反応との相互

関係は明らかには認められなかった.

 IV.血漿FN濃度について:抗原抗体反応を用い

てBCC, sec患者血漿中のFNを測定したところ,

Table 2に示す通り,正常人では264±28μg/m1(n=

∩,BCCでは492±184μg/ml(n=4),SCCでは

692±220μg/m1(n=7)となり, BCC, secともに正

常人より有意の高い値が得られた.

          考  按

 FNは種々の動物組織に広く分布し,ヒトについて

は,血液,リンパ,血管,呼吸器,消化器,泌尿器,

筋肉,腺,肝,腎,皮膚など現在まで倹素されたすべ

ての組織での存在が報告されている5).

 FNはpFNとCFNとがあり, pFNは主に肝臓で合

成・分泌され,ヒト血漿中に約300μg/ml,血清では約

200μg/mlの濃度で存在する6).pFNは,トロソビソ,

活性型血液凝固第XHI因子の基質として,血液凝固の

終末梢に関与して破綻血管とその近傍で止血,血栓の

Page 3: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

BCC, secのFibronectin, Laminin分布

Fig. 3 幕底細胞癌.腫瘍巣と間質との境界部に線状

 にLMを認める.

Fig. 5 有棟細胞癌.腫瘍の基底膜部に一致してLM

 を認、める.

形成に寄ケ士,損傷組織の修復機転を開始さぜ,さら

に網内系細胞の機能に関りすると考えられてトる7).

 cFNはかつてfibroblast surface antigen (SFA)8),

galacto proterin a,9)1argeexternal transformation-

sensitive protein (LETS)1o)などと呼ばれ,動物細胞

の表面に存在するが,主に線維芽細胞で産生され,そ

の他内皮細胞,筋原細胞,アストロクリア細胞,シュ

ワソ細胞,表皮細胞,マクロファージで乱低Caイオ

ソ濃度などの条件で産生されるU)

 細胞の癌化に伴ってcFNは顕著に減少し,細胞表

面の主要な糖蛋白と報告されているが,FNは多機能

ドノイソ構造を有し,それらが細胞表面,コラーゲソ,

グリコサミノグリカソ,フィブリソと結合し,

extracellular matrixを調節すると考えられている.

 pFNとcFNの免疫学的鑑別は困難とされるが,両

者の生理活性の強さを比べると, cFNの癌細胞を配向

させる活性は, pFNに比し約50倍,赤血球凝集能に関

1549

Fig. 4 基底細胞癌.腫瘍巣内に塊状にLMを認め

 る.

しては問約150~200倍高いとの報告がある1).

 FNの生理活性は,1)細胞の接着の促進,2)癌細胞

の正常細胞への復元,3)細胞の移動と走化性の促進,

4)食作用とオプソニソ活性の促進,5)細胞分化の調

節,6)組織の修復,7)癌転移の抑制(?)など多様

な生物学的活性を持つといわれる12)

 多くのtransformed cell では, pericellular FN が消

失し,そのため結合織基質との相互作用が減少し,悪

性変化した細胞が浸潤性発育する過程を促進する可能

性が示唆されている. in vivo における観察では,ほと

んどの上皮細胞の基底膜部にFNが存在するが,上皮

細胞が癌化すると,その基底膜部からFNが消失また

は減少するとの報告がある13)また,ほとんどの悪性腫

瘍の間質にはFNを認めるが,個々の悪性腫瘍細胞の

周囲にはFNは認められていない13)

 前田ら14)は胃癌の間質に多くのFNを認め,高橋

ら1,)は子宮癌,卵巣癌の間質に同様な所見を認めたが,

Labat-Robertら16)は,乳癌の組織において早期の病

変ではFNが認められなかった例を報告している.

 Nelsony)は, BCCにおいてFN, LMともに腫瘍

巣周囲に分布する八FNは間質にびまん性に,LMは

腫瘍巣の周囲に明瞭に線状に存在し,一部の症例にお

いては腫瘍巣内に乱FN,LMが認められたと報告し

ている.さらに,FNが腫瘍実質周囲に強陽性の所見を

呈するのは,間質性炎症反応の完進によると推察した

が,著者らの結果(Table 1)では,FN陽性所見の程

Page 4: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

1550     乃木田俊辰ほか

Table1 BCC, secの間質反応とFN

 casenumber Histology

StromareactionFibronectin

Inflammatory   cells Vessels Fibroblasts

BCC

BCC

BCC

BCC

BCC

BCC

BCC

BCC

 ☆☆

☆☆☆

 ☆

☆☆☆

 ☆

☆☆☆

 ☆☆

 ☆

 ☆☆

 ☆

 ☆

☆☆☆

 ☆

 ☆

 ☆

 ☆☆

☆☆☆

☆☆☆

 ☆☆

☆☆☆

 ☆

 ☆

☆☆

 ☆

 ☆☆

☆☆☆

☆☆☆

 ☆☆

 ☆☆

☆☆☆

☆☆

☆☆

9

10

11

12

13

      sec

      sec

Pseudoglandular sec

Pseudoglandular sec

 Skin metastasisof   Lung Cancer

☆☆☆

☆☆☆

 ☆

 ☆☆

 -

☆☆

 ☆

☆☆

☆☆

☆☆

☆☆

☆☆

☆☆

☆☆

☆☆

   (反応の強さを☆~☆☆☆で示した)

Table 2 BCC, SCC患者血漿FN濃度

     血漿FN濃度(μg/mi)

BCCsec

Normal

(n=4)

(n=7)

(n=7)

492±184

642±220

264±28

μg/ml

μg/ml

μg/ml

度と間質の炎症反応との間に明らかな相関は認められ

なかった.これらの間質におけるFNの存在につい

て, Grimwoodら1')はBCCにおけるFNは,血漿由来

のものと線維芽細胞により産生される両者から成り,

腫瘍実質内に認められるFNは抗VIII因子抗体,抗

フィブリノーゲン抗体を用いた結果から血漿由来のも

のでなく,腫瘍細胞が産生したものによると想定した.

 pFNでは各種病態,性差,加齢による変動が知られ

ており,播種性血管内凝固症候群(DIC冲),感染症19)

敗血症20)21)外傷22)手術後,炎症特に減少し,妊娠,

膠原病23)糖尿病24)胆汁うっ滞時に増加するとされて

いる.一方,担癌患者のpFNの変動について,

Mosher & Williamsら19)は乳癌患者おいて, Blumen-

stockら25)は肺癌患者においてpFN増加を報告,

Zardiら26)は乳癌から得られたEhrlick腹水癌を移植

したマウスのpFNが,移植3日~5日後に上昇する

と報告した. Saba & Antikatzidesら27)は,担癌患者

におけるFNのオプソニソ効果が増加するのは,

monocyte一macrophage系の抗腫瘍反応によるもの

と想定してし,る.

 一方, Bruhn & Heimburgerら28)は,慢性リンパ球

性白血病や骨髄性線維症患者ではpFNは減少し,慢

性骨髄性白血病や他の悪性疾患ではほぽ正常と報告し

た. Choate & Mosherら29)は詳細な検討を加え,担癌

患者のpFNは強力な治療中でなく,敗血症などの合

併症がない状態では,正常あるいは高値を示すものと

考えている.さきに述べた通り著者らが行ったpFN

の測定結果では,正常人血漿に比し患者血漿中のpFN

濃度は明らかに高値を示し,これまでの報告とほぼ同

様の結果を得た.

 以上FN, LMの動態から悪性腫瘍と間質との相互

関係について述べてきたが,未だ不明な点が多い.

FN, LMは間質や基底膜部の主要な糖蛋白であり,ま

たそれら機能を考慮すると,腫瘍細胞の浸潤転移機構

と密接に関連することは否定できない所と考えられ

る.

 著者らがここで報告したBCC,SCCは未だ少数例

に過ぎず,これら皮膚悪性腫瘍には種々な型,悪性度,

浸潤・転移がみられ,これらとFN, LMとの関連を検

索することは腫瘍の浸潤・転移機構の検討に極めて有

意義であり,今後の検討に待つ所が多い.

 本論文の要旨は第35回西部支部総会(昭和58年11月)に報

告された.

 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜った荒尾龍喜教

授,並びに御助言を頂いた石橋康正教授に深く謝意を表し

ます.

Page 5: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

BCC, secのFibronectin, Laminin分布

        文  献

 1)林 正男:フ4ブロネクチソと細胞,発生,神経,

  蛋白質,核酸,酵素,29 : 1964-1980, 1984.

 2) Yamada, K.M. & Olden, K.: Fibronectins

  ―Adhesive glycoproteins of cell surface and

  blood Nature,275 : 179-184, 1978.

 3) Yamada, K.M。Olden, K. & Pastan, I.: Trans・

  formation・sensitive cell surface protein : Isola・

  tion, characterization, and role in cellular

  morphology and adhesion, Ann. N.Y. Acad.

  S渥。312 : 256, 1978.

 4) Nelson, D.L., Little, CD. & Balian, G.: Distri-

  bution of fibronectin and laminin in basal cell

  epitheliomas, J. Invest.Dermatol.,80 : 446-452,

  1982.                  。

 5) Stenman, S. & Vaheri, A.: Distribution of a

  major connective tissue protein, fibronectin, in

  normal human tissues, /. Ekp. Med.. 147 :

  1054-1062, 1978.

 6) Mosesson, M.W. & Umfleet, R.A.: The cold

  insoluble globulin of human plasma. I.

  Purification, primary characterization, and

  relationship to fibrinogen and other cold-insolu・

  ble fraction component, J. Biol,Cfiem., 245 :

  5728-5736, 1970.

 7) Mosesson, M.W. & Amrani, D.L.: The struc-

  ture and biologic activities of plasma

  fibronectin, Blood, 56 : 145-158, 1980.

 8) Ruoslahti, E. & Vaheri, A,: Novel human

  serum protein from fibroblast plasma mem・

  brane, Nature, 248 : 789, 1974.

 9) Gahmberg, C.G. & Hakomori, S.: Altered

  growth behavior of malignant cells associated

  with changes in externally labeled glycoprotein

  and glycolipid. Pれ3C. Nat. Acad. Set. U.S.A。

  70 : 3329-3333, 1973.

10) Hynes, R.O.: Alteration of cell-surface

  proteins by viral transformation and by

  proteolysis, P即心 Na£。Acad. Sci.びS.4., 70 :

  3170, 1973.

11) Kubo, M。No�s, D.A., Howell, S.E., Ryan, S.

  R. & Clark, R.A.F.: Human keratinocytes

  synthesize, secrete, and deposit fibronectin in

  the pericellular matrix, /. Invest. Dermatal.,

  82 : 580-586, 1984.

12)林 正男,平野英保:フィブgネクチソの構造と

  機能,蛋白質,核酸,酵素,28 : 169-181, 1983.

13) Stenman, S. & Vaheri, A.: Fibronectin in

  solid tumors, Inf. J. Cancer,27 : 427-435, 1981.

14)前田 守,松田道生,小堀鴎一郎,森岡恭彦:胃癌

  組織におけるfibronectinとその関連血漿蛋白の

  分布,医学のあゆみ, 125 : 563-565, 1983.

1551

15)高橋修三,斉藤良治,一関和子,真木正博:婦人科

  における悪性腫瘍とフィブロネクチソ。最新医学,

  39:2066-2069, 1984.

16) Labat-Robert, J., Birembaut, P., Adnet, J.J。

  Mercantini, F. & Robert, L.: Loss of

  fibronectin in human breast cancer,Cell Biol.

  Int. /?(ホ,4゛。ら09-616, 1980.

17) Grimwood, R.E., Huff, J.C, Harbell, J.W. &

  Clark, R.A.F.: Fibronectin in basal cell epith-

  elioma : Sources and significance, /. In加'.St.

  Dermaiol.,82: 145-149, 1984.

18) Mosher, D.F, & Williams, E.M.: Fibronectin

  concentration is decreased in plasma of severe-

  ly ill patients with disseminated intravascular

  coagulation, /.Lab.Clin,M�。,9U 729-735,

  1978.

19) Richard, W.O。Scovill, W.A. & Shin, B.:

  Opsonic fibronectin deficiency in patients with

  intraabdominal infection, Sureery,M : 210-217,

  1983.

20) Saba, T.M。Blumenstock, F.A., Scovill, W.A. &

  Bernard, H.: Cryoprecipitate reversal of op・

  sonicα-surface binding glycoprotein deficiency

  in septic surgical and trauma, /.Trauma,16:

  898-904, 1976.

21) Scovill, W.A., Saba, T.M。Blumenstock, F.A.,

  Bernard, H. & Powers, S.R. Jr.: Opsonicα,

  surface binding glycoprotein during sepsis,

  Ann. Surg.・。188 : 521-529, 1978.

22) Scovill,W.A.,Saba,T.M。Kaplan, J.E.,Bernard,

  H. & Powers, S. Jr.: Deficits in reticuloen-

  dothelial humoral control mechanism in

  patients after trauma, J. Trauma, 16'。898-904,

  1976.

23)松本美富士,若園清行:膠原病における血漿中

  Fibronectinの検討,医学のあゆみ, 120 : 1122

  -1124, 1982.

24)松田文子,葛谷 健,松田道生:糖尿病患者におけ

  る血漿フィブロネクチンの増加,医学のあゆみ,

  121 : 31-32, 1982.

25) Blumenstock, F.A., McKneally, M. & Saba, T.

  M.: Quantification of immunoreactive op・

  sonic alpha・2・surface binding (α-SB) glyco-

  protein in lung cancer patients (Abstr.), /.

  Reticuloeれdothel,Soc.,24(Abstr. Suppl.):24,

  18a, 1978.

26) Zardi, L., Cecconi, C, Barbieri, 0., CamemoUa,

  B., Picca, M. & Santi, L.: Concentration of

  fibronectin in plasma of tumor・bearing mice

  and synthesis by Ehrlich ascites tumor cells,

  CancerRes., 3'3: 3774-3779, 1979.

Page 6: 基底細胞癌と有練絹胞癌におけるFibronectin, …drmtl.org/data/095141547.pdfト(Boeringer Mannheim)を用いた.-定量のクェ ン酸ナトリウム処理血漿と,FNに対する特異抗体溶

1552 乃木田俊辰ほか

27) Saba, T.M. & Antikatatzides, T.G.: Human

  mediated macrophage response during tumor

  growth, Br. I.Cancer,32: 471-482, 1975.

28) Bnihn, H.D, & Heimburger, N.: Factor-VIII-

  related antigen and cold・insoluble globulin in

  leukemias and carcinoma, Hoemostasis, 5'.

  189一192, 1976.

29) Choate, JJ. & Mosher, D.F.: Fibronectin con-

  centration in plasma of patients with breast

  cancer, colon cancer, and acute leukemia,

  Cα刀a??151 : 1142-1147, 1983.