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◇ 特集 ダイヤモンドの加工 ◇
ダイヤモンドのイオンビ-ム・電子ビ-ム加工
Fine machining of diamond utilizing ion and electron beams
宮本岩男*, 谷口淳*
Iwao MIYAMOTO and Jun TANIGUCHI
Key words: diamond, ion beam, electron beam, diamond mold, electoronic device
1. まえがき
ダイヤモンドは,地球に現存する物質の中では最高の硬度
と強度を持っているために超精密切削用バイトなどの精密加
工用工具として用いられてきた.また,最近の機器部品や光
学素子等の微細化に伴い微小な工具(先端の形状 µm オ-
ダ)が必要とされてきているし,ナノインプリントリソグラフィ-の
出現により nm オ-ダ-の微細パタ-ンを有するダイヤモンド
モ-ルドが必要になってきている.さらに,ダイヤモンドは,約
5.5eV という広いバンドギャップ,室温で物質中最高の熱伝導
率,高温でも半導体特性を保持するなどの半導体材料として
優れた性質を持っているほか,負性電子親和力を持たせるこ
とにより電子放出源として利用できるため,ダイヤモンドは次
世代のエレクトロニクスの材料としても期待されている.このた
め,ダイヤモンドの超精密・超微細加工の必要性が高まってき
ている.しかし,従来の機械的な研磨のみでダイヤモンドの超
精密・超微細加工を行うのは不可能か困難になりつつある.
それを解決する手段としては,レーザービーム,電子ビームや
イオンビームを利用した超精密・微細加工技術が挙げられる.
そこで,本稿では,イオンビ-ム加工法と電子ビ-ム加工法(実
際は電子ビーム援用化学加工法)の原理及びこれら加工法
のダイヤモンドの微細加工への応用について述べる.
2. イオンビ-ム加工法 1)
数十 eV から数十 keV の運動エネルギ-を持つ不活性ガス
イオンを固体試料表面に照射したときに,試料原子が固体試
料表面より真空中に放出される,いわゆる Sputtering(スパッタ
リング)現象を利用して固体表面を原子・分子の単位で除去
する加工法がイオンビ-ム加工(イオンビ-ムエッチング)であ
る.
従来,口径の大きなイオンビ-ム加工装置 1)(ビ-ム径:数
cm~数十 cm)がパ-マロイやダイヤモンド等の色々な材料の
微細加工に使われてきたが,最近の半導体素子の高密度化
や量子素子の開発等に伴い,DRAM 作成時のレクチルやマ
スクの修正あるいは量子細線等の作製のために 0.1~0.01μm 径のビ-ムを発生できる集束イオンビ-ム(Focused ion
beam : FIB)加工装置 2)が多く用いられるようになった.この装
置を用いると,イオンを任意の場所に照射し,物理的スパッタ
リング現象を利用し,一筆書きで基板に微細パタ-ンを形成
できる.
しかし,加工に用いるイオンビ-ムの径が細くても(太い場
合は無論であるが),物理的なスパッタリング現象によっての
み加工を行おうとすると,エッチング速度が遅い点や再付着
(加工試料自身や加工台などからスパッタされた物質が加工
物表面に付着)が起こる点などが問題になる.そこで,試料表
面の原子と揮発性加工物を作る活性ガス(フッ素や塩素など
を含むガス)試料表面に吹付けながら,同時にイオンビ-ムを
照射し,除去加工を行うイオンビ-ム援用化学加工(IBACE)
が検討され始めている.また,活性ガス(フッ素や塩素などを
含むガス)を直接イオン化し,そこで生じた活性なイオンを加
工物に照射し,除去加工を行うリアクティブイオンビ-ム加工
法(RIBE)も検討されている.これらの方法を用いると,物理的
作用によるスパッタリングのほかに活性イオンや励起種等と被
加工物との間の化学的作用も利用出来るので加工速度や選
択比(フイルムの加工速度/基板の加工速度)を高めることが
できるし,イオンのエネルギ-を十分低くすれば損傷のほとん
ど無い加工が実現できる.
ここで,IBE の特長を列記すると次の通りである. ● 固体試料の種類を選ばず,硬脆材料の超微細な異方性
加工が可能である.
● 被加工物表面にほとんど歪が発生しない.
● 本質的に弾性衝突で被加工物をスパッタする非熱的加
工法である.
● さらに,RIBEや IBACEではこの他に次のような特長が加
わる.
● 加工速度が比較的速く,かつ選択比を大きくできる. ● 再付着やトレンチング等が起こり難い.
● イオンビ-ム加工(IBE)に比べて被加工物の照射損傷が
少ない.
2.1 イオンビ-ム加工等の加工特性について
イオンビ-ムを利用した加工における加工特性のうち,最
も重要なものは加工速度Vn ( µ m/h) である.これは,被加工
*東京理科大学基礎工学部:〒278-8510 千葉県野田市山崎 2641 <学会受日:2001 年 月 日>
(a) Ar イオンを照射した場合
図図図図 1 ダイヤモンドの加工速度のイオン入射角依存性
物質と入射イオンとの組合せ,イオンのエネルギ- E (eV),イオン入射角(被加工物の表面に立てた法線と入射イ
オンとのなす角)θ (°),被加工物の結晶方位,加工時の被
加工物の温度,さらには残留ガス中の酸素濃度などにより大
きくことなる.ここでは,固体電子素子や精密機器部品などの
イオンビ-ム加工において最も重要な因子である加工速度
Vn ( µ m/h) のイオン入射角依存性について述べる.
その実験結果の一例を図 13)に示す.また,実験装置は図
2 に示す,ECR(electron cyclotron resonance) 型イオン源を
備えた加工装置で行った.Ar イオンでダイヤモンドを加工す
る場合,イオン入射角θ = 0 oの時,加工速度 Vn は低く,
イオン入射角θが増加するにつれて次第にそれは増加する.
しかし,イオン入射角θ = 5 0 o前後を過ぎると加工速度 Vn
は急激に減少する.これは,イオンが加工物の表面に垂直に
入射するより斜めに入射する方が加工物の表面付近でのイオ
ンから固体原子へのエネルギ-の転移が多くなり,加工物表
層の原子がスパッタされ易くなるためである.無論,イオンが
加工物の表面に平行に近く入射するようになればなるほど,
入射イオンのうち加工物の表面で反射されるものが多くなり,
そのため加工速度 Vn は減少する.これに対して,酸素イオン
ビ-ム(O+または O2+)をダイヤモンドに照射した場合,イオン
のエネルギ-が 500 eV 以下になると,加工速度 Vn はイオン
入射角の増加とともに徐々に減少する.これは,この場合の加
工が主に化学スパッタリングによることと,実質的なイオン電流
がイオン入射角の増加とともに減少することによる.なお,集
束イオンビ-ムを用いて加工する場合も同様な加工特性が得
られる.しかし,集束イオンビ-ムを用いて IBACE を行う場合,
イオンビ-ムを走査しながら加工するので,加工速度がその
走査速度に依存することもある.無論,IBACE の場合,加工
速度Vnは,吹付けるガスの量にも依存存する.
(b) 酸素イオンを照射した場合
図図図図 1 ダイヤモンドの加工速度のイオン入射角依存性
図2図2図2図2 ECR 型イオン源
2.2 ダイヤモンドのイオンビ-ム
イオンビ-ムを利用した加工法
ンや形状の超微細加工あるいは
の加工に適し,研磨・加工や微細
分野で用いられている.以下では
加工例について述べる.
(1) ダイヤモンドの圧子の加工 4
先端が摩耗したマイクロビッカ
ンを入射させることによって,図 3
研磨し,再び鋭くすることができる
ではイオン入射角が 0 度であり,
45 度くらいであり,側面の加工速
ファラデ-カップ
真空ポンプ 試料ホルダ
電磁石
加工台
を備えた加工装置
加工例
は,特にμm 以下
ダイヤモンドなどの
パタ-ンの形成な
ダイヤモンドのイオ
)~6)
-ス圧子に上方より
に示すようにその
.これは,圧子先
圧子側面のイオン
度が頂点のそれよ
マイクロ波同軸
イオン化ガス 導入部
ビ-ム引出し
電極
プラズマ
生 成
のパタ-
硬脆材料
ど色々な
ンビ-ム
Ar イオ
先端を再
端の頂上
入射角が
り十分速
ケ-ブル
電源
いため,側面が速く加工され先端が鋭くなるからである.なお,
最近イオンビ-ムアシスティド加工によるダイヤモンドの微細
パタ-ンの加工が行われている 7)~8).
(2) 微細パタ-ンの形成 N. N. Efremow ら 7)は,Xe イオンと NO2ガス(ダイヤモンドに
対する活性ガス)を用いたイオンビ-ム援用化学加工
(IBACE)法によりダイヤモンド単結晶に微細パタ-ン(線幅 18
μm で深さ 17μm)を形成した.また,著者らも SOG(スピンオ
ンガラス)や Al(リフトオフ法により形成)でマスクを形成したダ
イヤモンドの微細加工を酸素イオンビ-ム等を用いて行って
いる.
図図図図 3 ダイヤモンド圧子の再研磨
3. 電子ビ-ム援用化学加工法
電子ビ-ム誘起表面反応を利用した電子ビ-ム援用化学
加工法は,基板表面に活性ガス(分子ビ-ム)を吹き付けなが
ら同時に電子ビ-ムを照射し,基板の表面原子と吸着した分
子との化学反応を電子ビ-ム照射で促進することにより,①エ
ッチング,②デポジション並びに③ド-ピングを行うことができ
る.この方法は,ブロ-ドビ-ム,集束ビ-ムのどちらを用いて
も可能であるが,集束ビ-ムを用いると,次のような利点が生
まれる.
● ナノメ-トルの高分解能が得られる.
● マスクレスプロセスである.
● 計算機制御で任意のパタ-ンが描ける. ● 低温プロセスである.
● 損傷が生じない. このプロセスは,イオンビ-ム誘起表面反応と比較すると,
そのエッチング速度やデポジション速度は後者のそれらに比
べて 1 桁以上遅い.しかし,電子ビ-ムの場合,基板表面に
損傷を残さない,ビ-ムを nm レベルまで細くできるなど,イオ
ンビ-ムを用いる場合に比べて利点も多い.
3.1 電子ビ-ム援用化学加工特性
電子ビーム援用化学加工において最も重要な加工特性は
加工速度である.加工速度は,ダイヤモンド試料の種類(面方
位や合成方法等),吹付けるガスの種類とその量,電子ビーム
の照射条件(ビームエネルギ,ビーム径や電流密度等),電子
ビームの走査方法や走査速度あるいは加工時の被加工物の
温度等によって大きく異なる.また,加工部位の加工形状と加
工表面特性(表面粗さと損傷等)等も非常に重要な加工特性
である.ここでは,これらの加工特性の一部について述べる.
なお,ダイヤモンドは絶縁物であるので,これに電子ビームを
照射するとダイヤモンドの表面に負電荷が蓄積する帯電が起
こる.この帯電が起こると,ダイヤモンド試料を観察することは
不可能になるので,この帯電防止法も重要である.
酸素ガス(流束: 4.16×1017 分子/s・cm2)をホウ素無添加
ダイヤモンド(110)面に吹付けながら,10 keV の電子ビ-ム
(照射電流: 80 nA,ビーム径: 0.8μm,走査速度: 20
s/frame)をダイヤモンドに照射(8μm (横) ×6μm(縦)の矩形
状で)して,20 分加工(エッチング)した場合,ノズル先端から
加工点までの距離と加工深さとの関係は図 4 に示すようにな
った.ここで,ノズルからの距離とは,ノズルの中心から加工さ
れた場所の中央までの直線距離をいう.この図よりノズルから
の距離を 100μm 以内の実験を行った範囲では加工深さはノ
ズルからの距離によらずほぼ一定(1.95μm)になることが分か
った.なお,加工形状(横幅と縦幅)にもほとんど変化が見られ
なかった.
図図図図 4444 加工特性の一例
3.2 電子ビ-ム援用化学加工の応用 9)
酸素・水素ガスを用いた電子ビーム援用化学加工にお
いて,電子ビームを点,線,および矩形状に走査することによ
加工パタ-ン:8μm×6μm 加工時間:20 分
電子ビ-ムエネルギ-: 10 keV 電子ビ-ム電流: 80 nA
電子ビ-ム径: 0.8 μm 電子ビ-ム走査速度: 20s/frame
り,ダイヤモンドの表面に穴,線,矩形の 3 パターンが加工で
きる.そのうちの線状パターン加工の例を示す.実験は,水素
ガス流束 4.16×1017 分子/s cm2,単結晶ダイヤモンド(110)
面,照射電流 80 nA,ビーム径 0.8 μm,および加工時間
20分,加速電圧 10 kV,走査時間 20 s/line および走査長さ
8 μm で線状パターン加工を行った.図 5(a) に線状パター
ン加工の AFM 像を,図 5(b)に線幅方向の断面図を,図 5(c)
に線の長さ方向の断面図を示す.図 5(b) には点状にビーム
を照射したときのビーム形状(ガウス分布と仮定)を描いている.
図 5(c)には,ガウス分布のビームを走査長さ方向に積分したも
のをビーム形状として加工形状に描いている.
(a)(a)(a)(a) 線状パターン加工の AFM 像
(b(b(b(b
(c(c(c(c
これらの図より加工形状はビーム形状を反映しているものの,
加工形状の最大値は広がり,加工残しがあることがわかる.加
工形状の最大値がビーム形状の最大値よりも広がる理由は帯
電によるビームのふらつきが起きているためと考えられる.加
工深さは 480nm であった.
さらに多様なパターン加工を行うために,リソグラフィ技術と
リフトオフ法でダイヤモンド表面に作製した Pt-Pd マスクを電
子ビーム援用化学加工によりダイヤモンドへ転写した例を図 6
に示す.マスクを用いた加工はプラズマエッチングやリアクティ
ブイオンエッチング等が主流であるが,これらの加工法ではア
ンダーカットや照射損傷層が生じるのに対して,本手法を用い
れば,ビーム形状(ガウス分布形状)によらないで切り立った
側面を持つパターンをダイヤモンドに形成することができる.
図図図図 6666 電子ビーム援用化学加工による微細パタ-ンの形成例
加工形状
ビ-ム形状
)))) 線状パターン加工の断面図(線幅方向)
)))) 線状パタ
図図図図 5555 線状
4. あとがき
ダイヤモンドの超精密加工や超微細加工にはイオンビ-ム
を利用した加工法や電子ビ-ム援用化学加工法が特に適し
ているとは思うが,実用例はまだほとんど無い.しかし,今後の
ダイヤモンド製電子デバイスの進展に伴い,イオンを利用した
RIBEや IBACEあるいは電子ビ-ム援用化学加工法のダイヤ
モンドの微細加工への適用も増えていくものと思われる.なお,
FIB や集束電子ビ-ムを用いた CVD 堆積法による極微細デ
バイスの作製が盛んに行われている.
参考文献
半値幅 0.8 μm
ビ-ム形状半値幅 8μm
加工形状ーン加工の断
パターン加工
5μm
面図
例
5μm
(長さ方向)
1) 宮本岩男:加工技術デ-タファイル 第7巻「特殊加工
興協会技術研究所 (1983)1/15-15/15.
2) 古室昌徳:表面科学,16161616, 12 (1995) 729.
3) 清原修二,宮本岩男:精密工学会誌, 62626262, 10 (1996) 1
4) 宮本岩男,谷口紀男:精密機械,46464646, 8 (1980) 1021.
5) 宮本岩男,谷口紀男:同上,48484848, 9 (1982) 1226.
6) I. Miyamoto: Prec. Eng., 9999, 1 (1987) 71.
7) N. N. Efremow et al.: J. Vac. Sci. Technol., B3B3B3B3, 1 (1
8) P. E. Russel et al.: J. Vac. Sci. Technol., B1B1B1B16666, 4 (19
9) 谷口 淳,宮本 岩男:精密工学会,62626262, 3 (1996) 361
5μm
5μm
」編,(財)機械技術振
459.
985) 416.
98) 2494.
.