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43 回 月例発表会(2015 02 18 日) 医療情報システム研究室 fNIRS を用いた 脳機能ネットワークの定量的検討 原田 圭 Kei HARADA 背景:脳機能イメージング装置が発展してきたが,そのデータからの脳の機能的ネットワークの抽出や変化の検討は困難である. 研究目的:脳血流変化データより,脳の機能的ネットワークの変化や差異を定量的に解析する手法を確立する. 発表の位置づけ:技術習得のために既存のネットワーク解析手法を実装し,その結果を検証した. 方法:視覚課題の訓練経過に計測した脳血流変化データを解析し,習熟前と習熟後のネットワークの変化を検証した. 結果:習熟の前後でネットワークに差異が見られなかったが,その原因が脳血流変化データの前処理方法にあると考察した. 1 はじめに 近年,脳機能イメージング装置の発達・普及により,脳卒中のような原因不明の疾患に対し て有効な治療法が開発されるなど 1) ,人間の脳機能についての研究が臨床への応用が飛躍的 に進んでいる.脳の各部位が持つ機能が明らかとなり,また各部位が相互に働くネットワーク についても研究が進められている.しかし,このネットワークの相互作用の度合いについては 標準的な指標が確立されていない.その指標を確立し,脳機能ネットワークにおける新たな知 見を獲得することで,今後の脳機能の研究や原因不明の疾患に対する治療法開発に寄与する ことができると考えられる. 脳機能ネットワークの検討にあたって,本研究では学習,特に習熟に着目した.学習は対象 に対する理解と習熟という 2 つの段階から構成され,そのいずれにおいても脳活動への影響 があると考えられる.先行研究 2) においては,技能習得において習熟が進むにつれて関連す る脳部位の血流量が低下したと報告されている.このように習熟が脳部位の活動に影響を与 えることから,脳内の機能的なネットワークにも変化を与えることが予測される.よって,特 定の課題において訓練を繰り返した人間の習熟前と習熟後の脳の機能的ネットワークの差に着 目することで,習熟に基づくネットワークの推定が可能と考えられる. 本研究では,脳活動の計測装置として,拘束性が低く自然な状態での計測が可能な fNIRS (functional Near-Infrared Spectroscopy) 3) を使用した.fNIRS は脳表面を多数のチャンネル で計測し,それぞれのチャンネルにおいて脳血流量変化を波形として計測できる.また, fNIRS は時間分解能に優れているため,この波形を数秒の間隔で計測できる.このようにして得られ た波形を用いて,脳機能ネットワークを検討する.多数のチャンネルから計測した波形を比較 し,その形が似ているほど部位が協調して働いていると考えた.この波形の類似が習熟前と習 熟後で大きく異なるチャンネルの組合せを特定することにより,脳機能ネットワークの違いを 見つけることができると考えられる.この違いを機械学習によって検証し,最も明らかな違い を得ることができるチャンネルの組合せを,組合せ最適化手法を用いて発見する手法が吉田ら 4) によって提案されている.本稿では,この手法を用いてチャンネルの組合せの特定とそれ に対応する波形の類似の関係を見ることで,習熟前と習熟後で現れる脳機能ネットワークの検 討を試みた. 2 fNIRS fNIRS は,近赤外光を用いて非侵襲的に脳表面の血流量の変化を推定する脳機能イメージン グ装置である.人間が行動を起こす際,脳内で神経活動が行われている.この神経活動は,神 経血管カップリングに基づく脳内に存在するニューロンの相互的な情報伝達によって行なわて いる.この時,神経活動による酸素代謝の亢進に伴い脳血管が拡張され,脳血流が増加する. このために,付近に存在する毛細血管も拡張され,組織に含まれる血液量が増加し Oxy-Hb

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第 43回 月例発表会(2015年 02月 18日) 医療情報システム研究室

fNIRSを用いた脳機能ネットワークの定量的検討

原田 圭Kei HARADA

背景:脳機能イメージング装置が発展してきたが,そのデータからの脳の機能的ネットワークの抽出や変化の検討は困難である.

研究目的:脳血流変化データより,脳の機能的ネットワークの変化や差異を定量的に解析する手法を確立する.

発表の位置づけ:技術習得のために既存のネットワーク解析手法を実装し,その結果を検証した.

方法:視覚課題の訓練経過に計測した脳血流変化データを解析し,習熟前と習熟後のネットワークの変化を検証した.

結果:習熟の前後でネットワークに差異が見られなかったが,その原因が脳血流変化データの前処理方法にあると考察した.

1 はじめに

近年,脳機能イメージング装置の発達・普及により,脳卒中のような原因不明の疾患に対し

て有効な治療法が開発されるなど 1) ,人間の脳機能についての研究が臨床への応用が飛躍的

に進んでいる.脳の各部位が持つ機能が明らかとなり,また各部位が相互に働くネットワーク

についても研究が進められている.しかし,このネットワークの相互作用の度合いについては

標準的な指標が確立されていない.その指標を確立し,脳機能ネットワークにおける新たな知

見を獲得することで,今後の脳機能の研究や原因不明の疾患に対する治療法開発に寄与する

ことができると考えられる.

 脳機能ネットワークの検討にあたって,本研究では学習,特に習熟に着目した.学習は対象

に対する理解と習熟という 2つの段階から構成され,そのいずれにおいても脳活動への影響

があると考えられる.先行研究 2) においては,技能習得において習熟が進むにつれて関連す

る脳部位の血流量が低下したと報告されている.このように習熟が脳部位の活動に影響を与

えることから,脳内の機能的なネットワークにも変化を与えることが予測される.よって,特

定の課題において訓練を繰り返した人間の習熟前と習熟後の脳の機能的ネットワークの差に着

目することで,習熟に基づくネットワークの推定が可能と考えられる.

 本研究では,脳活動の計測装置として,拘束性が低く自然な状態での計測が可能な fNIRS

(functional Near-Infrared Spectroscopy)3) を使用した.fNIRSは脳表面を多数のチャンネル

で計測し,それぞれのチャンネルにおいて脳血流量変化を波形として計測できる.また,fNIRS

は時間分解能に優れているため,この波形を数秒の間隔で計測できる.このようにして得られ

た波形を用いて,脳機能ネットワークを検討する.多数のチャンネルから計測した波形を比較

し,その形が似ているほど部位が協調して働いていると考えた.この波形の類似が習熟前と習

熟後で大きく異なるチャンネルの組合せを特定することにより,脳機能ネットワークの違いを

見つけることができると考えられる.この違いを機械学習によって検証し,最も明らかな違い

を得ることができるチャンネルの組合せを,組合せ最適化手法を用いて発見する手法が吉田ら4) によって提案されている.本稿では,この手法を用いてチャンネルの組合せの特定とそれ

に対応する波形の類似の関係を見ることで,習熟前と習熟後で現れる脳機能ネットワークの検

討を試みた.

2 fNIRS

fNIRSは,近赤外光を用いて非侵襲的に脳表面の血流量の変化を推定する脳機能イメージン

グ装置である.人間が行動を起こす際,脳内で神経活動が行われている.この神経活動は,神

経血管カップリングに基づく脳内に存在するニューロンの相互的な情報伝達によって行なわて

いる.この時,神経活動による酸素代謝の亢進に伴い脳血管が拡張され,脳血流が増加する.

このために,付近に存在する毛細血管も拡張され,組織に含まれる血液量が増加しOxy-Hbの

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濃度が変化する.この Oxy-Hbの相対的な濃度変化を計測することで血流量の変化を推定す

ることができる.

fNIRSは,時間分解能に優れているために濃度変化量を数秒間隔で得ることができる.よっ

て大脳皮質内の神経活動を捉えやすく,また,多チャンネルによる計測のためにネットワーク

を検討するのに適していると考え,今回 fNIRSを用いた.

fNIRS装置が,プローブによって多数のチャンネルを計測している様子を Fig. 1に示した.

測定部位はプローブホルダーという数個から数十個のプローブの組合せによって測定される.

赤いプローブは近赤外光を送る送光プローブであり,青いプローブは反射してきた近赤外光を

受信する受光プローブである.Fig. 1の赤い枠で囲まれた範囲は,前頭部のプローブホルダー

を示している.

Fig. 1 fNIRS装置のプローブと計測チャンネル (自作)

3 脳機能ネットワークの検討手順

3.1 概要

本章では,fNIRSによって計測された多チャンネルの脳血流変化データを用いて,脳機能

ネットワークの検討を行う吉田らの手法 4) について,その概要と詳細を述べる.吉田らの手

法は脳血流データを 2つの群に分けて,両群の違いを最も強く説明するネットワークを発見す

る手法である.吉田らは,同じ課題をこなした被験者の脳血流変化データを,被験者の成績に

基づいて 2群に分け,高成績者と低成績者のネットワークの違いについて検討している.本研

究では,同一被験者の脳血流変化データを状態が変化する前後で群分けし,その差異を解析す

ることに応用している.

 吉田らの手法では,脳血流データの波形の類似度を算出するために DTW(Dynamic Time

Warping)5) を,差異のある類似度の組合せを探索するために GA(Genetic Algorithm)6) を,

選ばれた組合せの良し悪しを評価するために SVM(Suppot Vector Machine)7, 8) を用いた.

3.2 DTWを利用した類似度算出

本研究では,計測された脳血流変化データの波形の形に注目した.fNIRSを用いることで,

多くの部位で脳血流変化による波形を計測できる.波形の増減の形が似ているほど,それらの

チャンネルの部位が協調して働いていると考えられる.この波形はチャンネル分だけ得ること

が可能で,2チャンネル間の波形の比較を全組合せで計算した.この比較には DTWを用い,

これによって得られた値を 2チャンネル間の類似度とした.DTWは 2本の信号列に対して,

各点の距離を総当たりで計算した中から,最短のパスを返すアルゴリズムである.得られた距

離の値は,低くなるほど 2つの波形が似ていることを意味しており,神経活動の活性化の仕方

が似ていることが推察される.

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3.3 GAによる類似度の組合せの探索

DTWによって得られたチャンネル間の脳血流波形の類似度を用いて,最も習熟前と習熟後

に分けることができる類似度の組合せをGAにより探索する.GAは,目的関数に対して最適

な解を導き出す組合せ最適化手法の 1つである.今回,fNIRSにより測定された波形は多チャ

ンネル数分あるため,その組合せ数は膨大である.その中から,得たい類似度の組合せを効率

的に探索するためにこの方法を用いた.

 この時,選ばれた類似度の組合せの良し悪しを評価する目的関数として,SVMによる平均

識別率を用いた.SVMは,被験者群のデータのうち,学習するための教師データとその精度

を測るためのテストデータに分類する.教師データを利用してテストデータの識別率を行った

あと,交叉検定法を用いて着目されたチャンネルに対する平均の識別率を求める.

 この GAによって得られた識別率の高い類似度の組合せから,それに対応するチャンネル

との関係について考えることで,脳機能ネットワークを検討することができる.

4 Mental Rotation Test(MRT)

4.1 MRTとは

MRTとは,角度差のある 2つの 3次元物体を被験者に提示し,その物体が正像か鏡像かの

判断を課すものである.この判断に要する時間は,2つの 3次元物体の角度差と相関があるこ

とが示されている 9) .提示する物体は,3次元ブロック 9) ,身体の一部 10, 11, 12) ,文字 13)

の 3種類に大きく分かれる.Fig. 2に,これらの中でも最も基本的に用いられている 3次元ブ

ロック図形を示す.使用した 3次元ブロック図形には正像と鏡像のものがあり,それぞれ Fig.

2(a),Fig. 2(b)に例を示した.Fig. 2(a)の正像では左側の図形を回転させると右側の図形と

一致するが,Fig. 2(b)の鏡像では左側の図形を回転させても右側の図形と一致しないことが

わかる.

(a) 正像の場合 (b) 鏡像の場合

Fig. 2 3次元ブロック図形によるMRT(参考文献 2) から引用)

4.2 3次元物体を対象としたMRTの脳機能

MRT時の脳機能においては,頭頂連合野が大きく関与すること 14) が明らかにされており,

上頭頂小葉 14) や前頭眼野 14, 15) が賦活すると述べられている.特に運動前野と頭頂連合野

は双方向性に連絡がある 16) と報告されている.本実験では,それら 3次元ブロック図形を対

象物体としたMRT時の脳機能ネットワークについて検討する.

5 実験

本実験では,MRT時の fNIRSで測定した脳血流変化データを利用して,習熟前と習熟後に

おける脳機能ネットワークの違いを定量的に解析することが目的である.また,既存手法を用

いて脳機能ネットワークの解析を行う過程で,その改善点についても検討した.

5.1 実験データ

本実験では,研究室内で計測されたMRT時の fNIRS脳血流変化データを用いた 2) .被験

者は健常者 9名 (男性:4名,女性:5名,年齢:22-24歳)とした.実験内容は,毎日 1分間 2

セットのMRTの訓練を六週間続け,また学習前の 0週目を含めた 6週間目までを 1週間毎に

fNIRSによる脳血流量変化の測定が行われた.実験は,レスト 30[s],課題 60[s],レスト 50[s]

のブロックデザインで,課題中は 6[s]以内に提示画像が切り替わるよう構成されていた.測定

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部位は,全脳を覆うように前頭部,頭頂部,後頭部,両側頭部の五か所であり,それぞれ異な

るプローブホルダーによって測定されていた.fNIRSによって測定されたデータは,脈波成分

を取り除くためにローパスフィルターを 1.0[Hz],移動平均処理のサンプル時間を 5.0[s]とし

て処理されていた.また,測定した部位のうち,後頭部に関してはデータの欠損が激しく検討

するのに不十分であるとし,本実験における検討項目から除外した.

5.2 実験方法

実験では,学習前の 0週目データを習熟前,学習後の 6週目データを習熟後と仮定し,被験

者 9名分のそれぞれ習熟前後の計 18データを用いた.課題区間は実験開始後の 30[s]-90[s]で

あり,この区間のデータについて,3.2節で述べた DTWによって類似度を求めた.3章で利

用したGAと SVMに関するパラメータを Table. 1,Table. 2に示した.遺伝子数は各プロー

ブのチャンネル数に依存し,前頭部及び頭頂部は遺伝子数 22,両側頭部は遺伝子数 24とした.

交叉方法は 2点交叉を,選択方法はトーナメント選択を用いた.

Table. 1 GAのパラメータ

パラメータ 値

個体数 1000

世代数 50

交叉率 1.0

突然変異率 0.2

トーナメントサイズ 7

Table. 2 SVMのパラメータ

パラメータ 値

label 習熟前・習熟後

SVM C-SVM

Kernel 多項式 (3次元)

Cost 10

検定 Leave one out

5.3 実験結果

本実験にて計測された前頭部,頭頂部,両側頭部で特定された,最も習熟前と習熟後を分け

ることができる類似度を持つチャンネルの組合せを赤で塗った結果を Fig. 3に示した.

本実験にて得られた結果と先行研究 12) による結果を比較すると,頭頂部においては脳機能

ネットワークが存在すると推定されるチャンネル個所が多く一致したのでこの部位について検

討を行った.被験者 Aの習熟前後の脳機能ネットワークを表した図を Fig. 4(a),Fig. 4(b)と

して示した.

これらの図はチャンネル間を線で結んでおり,数値は 2つのチャンネルの信号列の類似度を

表している.チャンネル間に結ばれた線は,太くなるほど類似度が高くなり,細いほど類似度

が低くなることを意味している.また,色で囲まれた範囲はチャンネルが位置する脳部位を表

しており,緑は前頭眼野,赤は運動前野,青は上頭頂小葉を示している.この図において,前

頭眼野に位置するチャンネル 18,運動前野に位置するチャンネル 17,上頭頂小葉に位置する

チャンネル 15,19に着目した.習熟することでチャンネル 15,19が,チャンネル 17を経由

してチャンネル 18に行くように変化したことが分かる.このような傾向は他の被験者の多く

で確認できた.先行研究 16) によると,運動前野と上頭頂小葉の関係は,双方的に連絡がある

と報告されており,脳機能ネットワークを定量的に解析することができたと考えられる.

5.4 考察

双方向性に連絡があるとされる運動前野と上頭頂小葉の関係について,さらなる検討を行う

ために習熟後のチャンネル 15,17の脳血流量変化と類似度との関係を考察した.Fig. 5に示

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(a) 前頭部 (b) 頭頂部

(c) 右側頭部 (d) 左側頭部

Fig. 3 特定されたチャンネルの組合せ (自作)

(a) 習熟前 (b) 習熟後

Fig. 4 被験者 Aのネットワーク図 (自作)

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した 2本の信号列の類似度は,DTWにより 42と算出された.波形の大まかな上下の傾向は

一致している.しかし,この場合,波形間のDTW距離はさらに短くなると考えられる.よっ

て,この値が本当に 2本の信号列の特徴を捉えているのかを検討した.チャンネル 15とチャ

ンネル 15から 0.2上に平行移動させたデータを用い,その図を Fig. 6に示した.この時の 2

本の信号列の類似度は,本来ならば全く同じ波形なので類似度 0と算出されなければならな

いが,算出された類似度は 111であった.

Fig. 5 CH15と CH17の比較 (自作)

Fig. 6 CH15と平行移動した CH15の比較 (自作)

この結果より,DTWによる類似度の計算は波形の形だけに基づくものではなく,波形間の

平均的な距離に大きく依存していることがわかった.よって,脳血流変化データからDTWに

よる類似度計算を行う前に,2本の信号列の平均値を同じにし,距離に依存されずに波形の形

に着目できるようにする必要がある.また,今回の実験では 6[s]以内に提示画像が切り替わる

ため,DTWの計算方法における 2つの波形の各点を総当たりで比較する過程の中に時間の制

約条件が必要であると考えられる.DTWを用いて計算する前に,これら 2つの処理を行うこ

とで,正確な脳機能ネットワークの検討ができると考えられる.

6 まとめ

本稿では,既存の脳機能ネットワークの解析手法をMRTという学習課題に適応させ,習熟

に関する脳機能ネットワークの定量的な解析と既存手法の改善点について検討した.既存手法

を用いることで,習熟に基づく脳機能ネットワークの変化を頭頂部の一部に強く発生すること

が推定できた.しかし,頭頂部以外の部位では先行研究によって賦活すると報告されている結

果との一致が少なかった.この理由として,DTWを用いる前の脳血流変化データの前処理方

法の過程で大きな原因があることを突き止めた.DTWを用いて 2本の信号列の類似度を算出

する場合は,前もってそれら信号列の平均値を合わせる必要がある.また,DTWによる計算

区間の制約を課し,時間間隔のずれの許容範囲を決める必要がある.よって今後の課題として

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は,既存手法に対するこれら 2点の改善点について検討を行う.

参考文献

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