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農地における放射性物質の動態解明
(独)農業環境技術研究所 研究コーディネータ 谷山 一郎
概 要
・福島県における農地の放射性セシウム濃度の変化
・農地における放射性セシウムの動態
・溶存態放射性セシウム
・放射性セシウムの飛散・沈着、流出、浸透、持ち出し
・農地における放射性セシウムの収支
図1 福島県における2011年11月8日における農地土壌の放射性セシウム濃度 分布図(農林水産省,2012)
福島市
会津若松市
郡山市
北塩原村
南会津町
只見町
桧枝岐村
下郷町天栄村
鏡石町
川俣町
桑折町
本宮市
伊達市
南相馬市
田村市
二本松市
相馬市喜多方市
須賀川市
白河市
いわき市
西会津町
磐梯町
猪苗代町
柳津町
三島町
金山町
昭和村
会津美里町
泉崎村西郷村
湯川村
会津坂下町
中島村
矢吹町
棚倉町
矢祭町
塙町
鮫川村
石川町
双葉町
浪江町
葛尾村
新地町
飯舘村
大熊町
川内村富岡町
小野町楢葉町
広野町
三春町
古殿町浅川町
平田村
玉川村
大玉町
凡例
0-500
500-1000
1000-5000
5000-10000
10000-25000
25000-50000
50000以上
調査地点における農地土壌中の放射性Csの濃度(Bq/kg)
推定値 実測値
国見町
放射性セシウム濃度の変化
図2 全国15ヵ所の水田作土中のCs-137濃度平均値の推移 (農環研HPから作成)
Cs-1
37濃度
0
10
20
30
40
50
1960 1970 1980 1990 2000 2010
物理半減期曲線
平均値
Bq/kg
年
放射性セシウム濃度の変化
物理的半減期:30年
滞留半減期:16年
半値
図3 放射性セシウムの農林地での動態
●
●
●
●
●
●
●●
●●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●●
▲
▲
▲▲
▲▲
▲
▲▲
▲ ▲
▲
▲
▲
▲
▲
水田飛散
沈着
林地
畑地
表面排水
表面流去
地下水
暗渠排水
浸透
潅漑
土砂崩壊
浸透
河川・湖沼
▲
中間流
凡 例
懸濁態セシウム(土壌粒子セシウム)
溶存態セシウム(水溶性セシウム)
●
▲
収穫物の持ち出し収穫物の持ち出し
侵食
放射性セシウムの動態
懸濁物質
水稲茎
溶存態Cs
土壌粒子
田面水
作 土
固定態Cs水溶性Cs
水稲根
固定態Cs
吸着態Cs懸濁態Cs
吸着態Cs
図4 懸濁態と溶存態放射性セシウムの水田における存在状態と水稲に よる吸収(模式図)
溶存態放射性セシウム
図5 福島県農業総合センターにおける大気由来の放射性セシウムの 日平均沈着量(江口、2013)
放射性セシウムの飛散・沈着
0
1
2
3
4
1 Jan 2 Apr 2 Jul 1 Oct 1 Jan 1 Apr 1 Jul 1 Oct 31 Dec
全量
溶存態
————— 2011 —————
放射
性セシウムの
日平
均降下
量(Bq
/m2・d)
— 2012 —J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
溶存態は、5~15%
2011年5月~2012年5月の約1年間の積算沈着量は1,540 Bq/m2,土壌存在量の0.2%
欠測
放射
性セ
シウムの
日平均
沈着量(
Bq/m2 ・
日)
沈着量測定用水盤
8
6
4
2
0
表1 慣行栽培での水田からの懸濁物質の年間流出量のとりまとめ (谷山,2002)
放射性セシウムの流出
調査地点 土壌 作土土性 流入 流出 収支 流出率 調査年
t/ha t/ha t/ha %
秋田県 グライ土 SL 0.10 1.03 0.94 0.06 1998
秋田県 グライ土 CL 0.15 2.49 2.34 0.15 1998
秋田県 グライ土 HC 0.05 4.20 4.16 0.28 1998
秋田県 グライ土 HC 0.12 0.20 0.08 0.01 1995
秋田県 グライ土 HC 0.47 0.44 -0.03 -0.01 1996
秋田県 グライ土 HC 0.27 0.16 -0.11 -0.01 1997
千葉県 グライ土 SCL 0.87 0.06 1995-1997
滋賀県 灰色低地土 SiL 0.30 1.98 1.69 0.11 1993
滋賀県 灰色低地土 SiL 0.20 0.31 0.11 0.01 1994
滋賀県 灰色低地土 SiL 0.20 0.60 0.39 0.03 1995
滋賀県 グライ土 SiCL 0.10 0.29 0.19 0.01 1998
島根県 グライ土 L 0.26 0.02 1997
島根県 造成低地土 SCL 0.05 0.01 1997
平均 0.20 1.00 0.96 0.06
流入水量の測定
表2 13年間の傾斜ライシメータ試験における土壌侵食量 のとりまとめ(谷山,2002)
放射性セシウムの流出
流出率
実施場所 土壌 年降水量 傾斜 斜面長 裸地区標準栽培区
標準栽培区
mm ゚ m t/ha t/ha %
北海道士別市 褐色森林土 663*1 10 15 3.1 2.0 0.13
岩手県一戸町 黒ボク土 598*2 8 15 16.6 1.3 0.09
群馬県前橋市 黒ボク土 1,000*3 6 18 32.9 0.6 0.04
静岡県御殿場市 黒ボク土 2,506 6 20 7.1 2.8 0.18
愛知県豊橋市 黄色土 1,678 6 20 13.1 0.1 0.01
福井県金津町 黒ボク土 2,329 6 15 31.7 1.6 0.11
長崎県諫早市 赤色土 2,112 8 15 115.4 7.9 0.53
宮崎県高鍋町 黒ボク土 2,300 5 15 15.4 2.1 0.14
平 均 2,185 7 17 29.4 2.3 0.15
試 験 条 件 流出土量
*1:6~10月,*2:6~9月,*3:4~11月
傾斜ライシメータ
20
1964年から25~29年間の日本の未耕地25地点のCs-137の平均移動速度は0.2cm/年
図6 1993年における日本の灰色低地土未耕地のA)Cs-137濃度と B)存在量の分布(駒村ら,1995)
積算存在量
Cs-137濃度(Bq/kg) Cs-137存在量(Bq/m2)
Cs-137積算存在量(Bq/m2)
40
0 5 10 15
放射性セシウムの浸透
1500 1000 500
半値
3000 2000 1000 0
0
60
80
100
深さ
(cm) 存在量
A)濃度 B)存在量
移動速度= 半値深さ/年数
深さ
y = 1160ln(x) - 8740R² = 0.667
y = 752ln(x) - 5620R² = 0.540
70
80
90
100
1955 1960 1965 1970 1975 1980
図8 全国の水田(15地点)及び畑(12地点)作土における全Cs-137量に対する固定態Cs-137濃度比率の平均値の推移(駒村ら,2006) 固定態:1mol酢酸アンモニウム溶液で抽出されない放射性セシウム
0
0.2
0.4
0.6
0
0.2
0.4
0.6
移動速度
(cm/年
)
1987年 1994年
図7 Cs-137移動速度のA)褐色森林土,B)未熟土の年変化(Rosenら, 1999)
固定
態Cs
-13
7濃度
比率(
%)
年
放射性セシウムの浸透
水田
畑
移動速度は時間とともに低下
表4 平成23年産農作物の放射性セシウムの農地からの持ち出し量 (福島県農業総合センターの公表データ等をもとに作成)
放射性セシウムの持ち出し
持ち出し部位
放射性セシウム濃度
現物
収量*
持ち出し量
土壌放射性セシウム濃度
土壌存在
量**
年間持ち出し率
Bq/kg kg/m2
Bq/m2 Bq/kg Bq/m
2 %
水稲 玄米 3.5 0.61 2.1 4,930 740,000 0.00029
ダイズ 子実 17.0 0.33 5.6 1,920 288,000 0.00195
キャベツ 葉 1.7 6.53 11.1 9,040 1,360,000 0.00082
ハクサイ 葉 0.3 9.58 2.9 4,060 609,000 0.00047
ネギ 茎葉 3.6 3.82 13.8 2,060 309,000 0.00445
バレイショ 塊茎 3.4 3.42 11.6 4,910 737,000 0.00158
サツマイモ 塊根 12.3 2.88 35.4 2,270 341,000 0.01040
ニンジン 根 2.6 6.71 17.4 3,380 507,000 0.00344
*:農業環境モニタリングマニュアル改訂版(農環研,2006)による
作物
**:土壌仮比重を1.0g/cm3、作土層厚さを15cmとする
水田:+0.01~-0.11% 畑 :-0.01~-0.53%
~+0.2%
-0.001~-0.01%
-0.7~-6%
沈着
収穫物の持ち出し 流出
浸透
図9 放射性セシウムの農地土壌における収支
作 土 1年目:-15.2% 10年目: -3.8%
物理的減衰
放射性セシウムの収支
まとめ ・1960年代に沈着した全国の農地作土層のCs-137濃度の時間的変化は、物理的減衰に伴う変化よりも低かった。 ・作物の放射性セシウム吸収などに影響する潅漑・排水や田面水中の溶存態の放射性セシウム濃度の全濃度に対する比率は0.01~90%で、全放射性セシウム濃度が高いほどその比率は低下した。 ・農地における放射性セシウムの収支は、大気からの沈着・飛散、作物の持ち出し、地下浸透、水田における潅漑・排水および畑における表面流去などによって影響を受ける。 ・福島県農業総合センターにおいて2011年5月~2012年5月に沈着した放射性セシウムは1,540Bq/m2で、原発事故直後の沈着量の0.2%程度であった。 ・Cs-137の浸透速度は、土壌の種類や土地利用などによって異なるとともに、沈着後経年的に低下した。 ・作土層の放射性セシウム濃度の低下に最も影響するのは、沈着初期では物理的減衰であり、次いで地下浸透と推定される。