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GaAsFET を用いた反射型増幅器の雑音特性の検討 An Analysis on Noise Performance of A Reflection Type One-Port GaAsFET Amplifier 水野秀樹 情報通信工学科 Hideki MIZUNO Department of Information and Communication Technology (Received Oct. 21, 2009; Accepted Dec. 16, 2009) あらまし マイクロ波帯低雑音増幅器では通常トランジスタ等を用い,二端子対回路型増幅器として構成することが多いが,単位増幅 器あたりの利得が見込めない超高周波帯では,帰還回路を設けて負性抵抗を生じさせ反射型増幅器を構成する場合がある.し かし,反射型増幅器を構成した場合,帰還回路の影響により雑音も増加するのではないかとの懸念があった. 本報告では,GaAsFET 増幅器の雑音特性について,二端子対回路型,直列 / 並列帰還反射型増幅器の雑音解析回路モデル を明らかにし,両者に雑音特性の差異の無いことを明らかにした. キーワード 低雑音増幅器,雑音特性,反射型増幅器,GaAsFET 1. まえがき マイクロ波帯低雑音増幅器では FET 等のトランジス タを用いて二端子対回路(以下,透過型)を構成する方 法が一般に広く知られているが,単位増幅器の利得が少 なく後段の増幅器の雑音が初段に影響するような超高周 波帯で利用する場合,あるいは装置の小型化,低消費電 力化のため少ないトランジスタ数で増幅器を構成するよ うな場合,帰還回路を設けて負性抵抗を生じさせ反射型 増幅器を構成することが多い.即ち,負性抵抗を接続し た伝送線路では他端から見た反射係数を1より大きくす ることが可能で,動作の安定性を無視すれば,非常に大 きな利得が得られる.これは,透過型増幅器で構成した 場合も同様で,帰還回路を設けることにより大きな利得 を得ることが出来るが,特に反射型増幅器の場合には帰 還回路の影響により,利得増加が期待できる反面,雑音 も増加するのではないか,といった懸念があった. 本報告では,GaAsFET をデバイスの例にとり,透過 型増幅器と反射型増幅器の雑音特性を解析的に検討し, 両者に差異の無いことを明らかにする.はじめに,透過 型,反射型増幅器の雑音特性を比較する上で,雑音測度 が適していることを示す.次に GaAsFET の等価回路 モデルであるが,GaAsFET の雑音源は互いに相関があ るため,これを解析が容易な,互いに無相関な回路で表 示する.つづいて,透過型増幅器,並列帰還型増幅器の 回路解析のため,5×5のアドミタンス行列を,直列帰 還反射型増幅器の回路解析のため,6×6アドミタンス 行列を求め解析を行う. これらの解析結果から,透過型増幅器,反射型増幅器 の雑音測度の最小値に差異のないことを明らかにする. 2. 雑音特性の解析 2.1 雑音測度 雑音特性として透過型(2ポート)増幅器では雑音指 [論文] The Bulletin of School of High-Technology for Human Welfare Tokai Univ., Vol. 19 (2009) 11-19 東海大学紀要開発工学部/第 19 号(2009) 11

GaAsFETを用いた反射型増幅器の雑音特性の検討 · 透過型増幅器の回路解析モデルを図1に示す.ここで, kはボルツマン定数,Tは雰囲気温度,Bは雑音帯域幅,

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GaAsFET を用いた反射型増幅器の雑音特性の検討

An Analysis on Noise Performance of A Reflection Type One-Port

GaAsFET Amplifier

水野秀樹情報通信工学科

Hideki MIZUNODepartment of Information and Communication Technology

(Received Oct. 21, 2009; Accepted Dec. 16, 2009)

あらまし マイクロ波帯低雑音増幅器では通常トランジスタ等を用い,二端子対回路型増幅器として構成することが多いが,単位増幅器あたりの利得が見込めない超高周波帯では,帰還回路を設けて負性抵抗を生じさせ反射型増幅器を構成する場合がある.しかし,反射型増幅器を構成した場合,帰還回路の影響により雑音も増加するのではないかとの懸念があった. 本報告では,GaAsFET 増幅器の雑音特性について,二端子対回路型,直列 / 並列帰還反射型増幅器の雑音解析回路モデルを明らかにし,両者に雑音特性の差異の無いことを明らかにした.キーワード 低雑音増幅器,雑音特性,反射型増幅器,GaAsFET

1. まえがき

 マイクロ波帯低雑音増幅器では FET 等のトランジス

タを用いて二端子対回路(以下,透過型)を構成する方

法が一般に広く知られているが,単位増幅器の利得が少

なく後段の増幅器の雑音が初段に影響するような超高周

波帯で利用する場合,あるいは装置の小型化,低消費電

力化のため少ないトランジスタ数で増幅器を構成するよ

うな場合,帰還回路を設けて負性抵抗を生じさせ反射型

増幅器を構成することが多い.即ち,負性抵抗を接続し

た伝送線路では他端から見た反射係数を1より大きくす

ることが可能で,動作の安定性を無視すれば,非常に大

きな利得が得られる.これは,透過型増幅器で構成した

場合も同様で,帰還回路を設けることにより大きな利得

を得ることが出来るが,特に反射型増幅器の場合には帰

還回路の影響により,利得増加が期待できる反面,雑音

も増加するのではないか,といった懸念があった.

 本報告では,GaAsFET をデバイスの例にとり,透過

型増幅器と反射型増幅器の雑音特性を解析的に検討し,

両者に差異の無いことを明らかにする.はじめに,透過

型,反射型増幅器の雑音特性を比較する上で,雑音測度

が適していることを示す.次に GaAsFET の等価回路

モデルであるが,GaAsFET の雑音源は互いに相関があ

るため,これを解析が容易な,互いに無相関な回路で表

示する.つづいて,透過型増幅器,並列帰還型増幅器の

回路解析のため,5×5のアドミタンス行列を,直列帰

還反射型増幅器の回路解析のため,6×6アドミタンス

行列を求め解析を行う.

 これらの解析結果から,透過型増幅器,反射型増幅器

の雑音測度の最小値に差異のないことを明らかにする.

2. 雑音特性の解析

2.1 雑音測度

 雑音特性として透過型(2ポート)増幅器では雑音指

[論文]

The Bulletin of School of High-Technology for Human Welfare Tokai Univ., Vol. 19 (2009) 11-19

東海大学紀要開発工学部/第 19 号(2009)

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数(NF : Noise Figure)が,反射型(1ポート)増幅器

では雑音指数,雑音測度(NM : Noise Measure)が広く

用いられており,それぞれ次式で定義される [1][2].こ

こで Ga は有能電力利得である.

 増幅器の雑音特性を評価する場合,入出力間に帰還が

ない場合には雑音指数は性能指数として意味があるが,

帰還がある場合は必ずしも有効な性能指数とはならな

い.例えば無損失線路の場合,(1) 式の『増幅器内部で

発生する雑音』は零であり NF=0dB となる.したがっ

て帰還回路のある透過型増幅器において,帰還回路が無

損失線路を構成し,全電力が帰還路を通過するならば,

増幅器は見掛け上無損失線路と等価になり有能電力利

得,雑音指数ともに 0dB となる.

 同様に一端をリアクタンス終端した反射型増幅器にお

いて,素子側を見込んだインピーダンスが零になり短絡

板を接続したものと等価になった場合,増幅器は無利得

になり雑音も発生しない.

 これらの場合,(2) 式で示される雑音測度は分子,分

母ともに0となる極限問題に帰着するが,少なくとも通

常の雑音特性では無いことが分かる.後述のように,素

子の負性抵抗を用いるトンネルダイオード増幅器では雑

音評価に雑音測度を用いており [1],本論文でも透過型

増幅器,反射型増幅器の共通の指標として雑音測度を用

いることとした.

2.2 透過型増幅器の雑音測度

 透過型増幅器の回路解析モデルを図1に示す.ここで,

k はボルツマン定数,T は雰囲気温度,B は雑音帯域幅,

である.同図に示すように,入力回路にR in,X in を接続し,

双方とも雑音測度最小値が得られるよう可変とする.雑

音測度は,雑音指数と利得を個別に求めた後,(2) 式よ

り求める.

 雑音指数は (1) 式の定義より,「入力雑音が増幅されて

出力に現れる雑音電力」を Pamplified input noise とすると,次式

で与えられる.

 ここで , NF2port は透過型増幅器の雑音指数,|Vnoise -i|2

は回路の内部で互いに独立な雑音源から発生する雑音の

出力端での開放電圧の二乗平均, Zout は出力端から回路

を見込んだインピ−ダンスを表す.はじめに有能電力利

得 Ga を求め,その結果を用いて雑音指数を求める.

 有能電力利得 Ga はその定義,「入力での有能電力(Pav-in)

と,出力での有能電力(Pav-out)の比」から,

と表わすことが出来る.(4) 式で|Vout|2 は|Vnoise -i|2 と

同様に出力端での雑音電圧の二乗平均であるが,入力端

の雑音源|in|2 によって発生するものだけを扱い,透過

型増幅器内の雑音源からの寄与がないものとする.更に,

|in|2=4kTB/Rin であり,Pav-in=kTB であるから,(4) 式は

次式のように書換えられる.

 次に雑音指数 NF2port であるが,(3) 式の『入力雑音が

増幅されて出力に現れる雑音電力』は入力雑音が kTB で

あることから kTB・Ga と表わすことが出来る.したがっ

て (5) 式の両辺に kTB を掛ければ (3) 式の右辺第二項の

分母が求まる.さらに,分子,分母ともに 1/{4Re (Zout)}

を持つことからこれを約分し (3) 式は次式となる.

 以上で透過型増幅器の利得,雑音指数が求まり,これ

により透過型増幅器の雑音測度が得られる.次に反射型

増幅器の雑音測度を求める.

図1 二端子対回路型増幅器の雑音解析モデルFig.1 Analytical noise model for two port amplifier

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2.3 反射型増幅器の雑音測度

 半導体素子の負コンダクタンスを用いた増幅器の雑音

特性,あるいは雑音特性への帰還の影響について,種々

検討がなされて来た [1]-[3].Van Der Ziel は,出力コン

ダクタンスが負となる場合の雑音特性を,トンネルダイ

オード増幅器を例に図2に示す回路を用いて考察してい

る [1].そして,負コンダクタンスを持つ増幅器では雑

音指数は見かけ上1に近づけられるが,同時に有能電力

が1に際限なく近づくので,同増幅器の雑音特性として

雑音測度が有効であるとし,解析的に雑音測度を求めて

いる.黒川も同様にトンネルダイオード増幅器の雑音特

性を検討している [3].

 この様に半導体の負コンダクタンスを用いた回路につ

いての検討は報告されているが,トランジスタ等の透過

型増幅器に対して帰還を施した場合の雑音については,

あくまでも透過型増幅器としての雑音特性の検討に主眼

が置かれている.瀧は帰還回路の影響は増幅器入力端に

帰還の効果を示す等価アドミタンス Gf + jBf を負荷する

ことで解析が可能であるとしている [2].

 本報告では,透過型増幅器に帰還を施し,負コンダク

タンスを生じさせて反射型増幅器を構成する場合の雑音

特性を解析することを狙いとしており,上記 Van Der

Ziel の手法に従い解析を進めた.

 今,二端子のアドミタンスが Yd,雑音電流が idev なる

素子に入力コンダクタンス gs,入力雑音電流 is が図2の

ように接続されているとする.雑音指数 NF1port は (1) 式

の定義より,

 ここで,idev と is は互いに独立で相関がないとする.

次に利得を透過型増幅器の場合と同様に求める.

 (2) 式に (7),(8) 式を代入すれば雑音測度 NM を得るこ

とが出来る.

 以上,二端子をアドミタンスとそれに並列な雑音電流

で表したが,これは鳳−テブナンの定理によりインピー

ダンス (Zd) と雑音電圧源 (Vdev) で表すことが出来る.

その場合,(9) 式は次式となる.

 上式の中で雑音電圧は互いに独立な雑音源(Vnoise-i)

より発生する雑音電圧の総和と等しいから,分子を

Σ|Vnoise-i|2 で書き替えることが出来る.以下の検討で

はこの (10) 式を用い雑音測度を検討した.

3. GaAsFETの雑音源 [4]-[6]

3.1 雑音源の表記

 GaAsFET の雑音源として考慮すべきものは,チャ

ネル熱雑音による雑音電流 <ind2>,ゲート誘起雑音電流

<ing2> であり各々次式で与えられる(図3参照).

図2 負性抵抗を持つ素子の雑音解析モデル Fig.2 Analytical noise model for one port amplifier with negative resistance.

図3 GaAsFET の雑音源Fig.3 GaAsFET noise model

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ここで,Cgs はゲート・ソース容量,gm0 は直流での相

互コンダクタンスである.(11) 式において,P,Rは各々

バイアス条件に依存する無次元の係数,Cはチャネル熱

雑音とゲート誘起雑音との相関係数であるが,以下に

Beatchtold の手法 [4] に従い係数を求めた.

 始めに〈ind2〉は,ドレイン電圧が零ではドレイン・

ソースコンダクタンス Gds からの雑音電流に等しいの

で P=Gds/gm となる.次にゲート誘起雑音電流であるが,

〈ind2〉と同様ドレイン電圧が零では入力コンダクタンス,

すなわち Rin と Cgs の直列回路からの熱雑音に等しく,Rin・ω Cgs が1に比べ充分小さければゲート誘起雑音

電流は 4kTB・ω 2Cgs2Rin となり,R=gm・Rin となる.

 図4はこれら P,R,C とドレイン電流の関係を示し

たもので,以下に示すξをパラメータとしている.

 ここで,Es は飽和電界,L はゲート長,Vp はピンチ

オフ電圧である.0.5µm ゲート長FETの代表的数値と

して, Es : 4kV/cm, L : 0.5µm, Vp : 4V とするとξは 0.05 と

なる.図4ではこの値より 25%増減し,その影響を見た.

同図よりバイアス条件として Id/Idss ≒ 0.1 の時,P=1, R=0.3, C=0.8 を得る.

1 3.3 節 (21) 式で示される ggn, gdn を用いると,各々<ind

2>=4kTB gdn , <ing2>=4kTB ggn と表記できる.

3.2 相関のある雑音源の無相関化

 回路の雑音解析にあたり,回路内に相関を持つ雑音源

がある場合にはこれを互いに独立な雑音源で書き直す必

要がある. (11) 式に示されるように <ind2>,<ing

2> が互い

に相関をもつため,これを互いに独立な雑音源で表記す

る [5].

 一般に図5(a) で示される雑音源は図5(b) のように入

力側にすべて置換えられる.この時,

 一方,雑音源は他と相関を持つ部分と無相関な部分と

に分けられる.i, u に対して無相関な電流源,電圧源 in,

un を導入すると次式のように表すことが出来る.

ここで YCOR, ZCOR は相関係数τと対応し,

とすれば,次式となる.

 図 5(b) の入力部は図 6 と表示出来 , これを相関イン

ピーダンス ZCOR, 相関アドミタンス YCOR, を導入して書替

える.

図4 P,R,C の計算結果 .Fig.4 Numerical results of P, R, and C

図5 入出力雑音源の入力端子への置換Fig.5 Noise sources replacement: (a) Noise sources at both I/O port, (b) Noise sources at only input port

図6 雑音源の回路表示Fig.6 Circuit model for noise sources

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 または,

 以上より,相関アドミタンスを導入することで互いに

無相関な雑音源を用いて相関のある雑音源,電圧源を表

現することが出来る(図7).

 図中の各電圧源,電流源は対応する抵抗,コンダクタ

ンスを導入することで夫々次式で表わされる.

 ここまで相関のある雑音源を相関インピーダンスある

いは相関アドミタンスと独立な雑音源で表示する方法に

ついて述べたが,この結果を対象とする FET 増幅器に

適用する.

3.3 雑音源を含む GaAsFET の等価回路

 雑音源を含む GaAsFET の等価回路は,図5(a) にお

いて i1 をゲート雑音 ing に,i2 を逆方向に流れるドレイ

ン雑音 ind と置き換えることで表現出来る [6].図 8 にこ

のようにして得られた FET の雑音等価回路を示す.

 ここで,各電圧源,電流源は (18b) 式より,

 ここで,

 したがって寄生素子を含む FET 等価回路は図9のよ

うになる (P,R,C については 3.1 参照 ).図中 Y マトリク

スは (22),(23) 式で与えられる .

 これに (14) 式を代入して整理すれば,

 さらに,gn は以下のように書替えられる.

図7 無相関な雑音源による回路表示Fig.7 Circuit model for noise sources; each noise source has no co-relation. (a) Co-related admittance expression. (b) Co-related impedance expression

図8 互いに独立な雑音源による FET 雑音等価回路Fig.8 FET noise equivalent circuit with no co-related noise sources

図9 FET の等価回路Fig.9 Over all FET equivalent circuit

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 なお,図9ならびに (23) 式に示す FET 等価回路の回

路定数を表1に示した [7]. 表に示す回路定数は 10GHz

程度までの S パラメータの実測値により求めたもので,

この値が 30GHz 帯まで使用出来るとして解析を進めた.

4. 雑音特性の検討 [8]-[10]

 ここまで透過型増幅器,反射型増幅器の雑音測度解析

方法および FET 雑音源の回路表示について検討した.

これらの結果をもとに,透過型増幅器,反射型増幅器の

雑音特性を解析し,両者の雑音測度最良値に差異がある

かどうかを明らかにする.

 図 10 に各増幅器の回路モデルを示す.

 透過型増幅器,並列帰還反射型増幅器はゲート負荷,

ゲート・ドレイン間の負荷を共通に扱うことで同一の回

路モデルを使用することができる.すなわち,ゲート負

荷に Rin + jXin,ゲート・ドレイン間にフィードバック

リアクタンス jXfb を設ける.この状態で,透過型増幅

器では 1/jXfb=0 とし,並列帰還型では Rin=0 とすること

で求める回路が各々得られる.図9を FET 部にあては

め,回路方程式を解くと次式が得られる.ここで,行列I, W, V はそれぞれ雑音電流限,アドミタンス行列,端子

間電圧を示す(付録A参照).

 ドレイン・ソース間のインピーダンスは,ドレイン端

子に i0 を注入した時に発生する電圧より求まる.また

各雑音源が原因となって発生する電圧は,各電流成分を

用いて求められる.ちなみに,式の中でYマトリクス成

分が現われるが,これは既に (22) 式にて紹介済みである.

 次に直列帰還の場合の解析方法であるが,ソース・接

地間に直列帰還回路が入るため同一の回路モデルは使用

出来ない.そこで新たに回路方程式を解き,6 × 6 のY

マトリクスを求めた(付録 B 参照).直列帰還も並列帰

還の場合と同様にしてインピーダンス,雑音発生電圧を

求めた.

 透過型増幅器,反射型増幅器の雑音測度最小値を表2

に示す.同表に示すようにいずれの増幅器の場合も雑音

測度最小値(NMmin)はほぼ等しいという結果が得られた.

図 10 各増幅器回路モデルFig.10 Circuit models of amplifiers: (a)two-port model, (b) reflection type(parallel feedback), and (c) reflection type(series feedback).

表1 等価回路定数値Table 1 Equivalent circuit element value

表2 各増幅器で得られる雑音測度最小値Table 2 Noise measure minimum values in each amplifier type

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5.考 察

 以上,透過型増幅器,並列 / 直列帰還反射型増幅器の

雑音特性について解析的に検討し,帰還回路による雑音

特性の差の無いことを示した.周波数については衛星通

信などで使用される周波数(Ku 帯,Ka 帯など)を考慮

し 10-35GHz までとしたが,実際に反射型増幅器の雑音

特性がどの程度かが問題になる.文献 [11] によれば,27-

29GHz における反射型増幅器の雑音測度は実験的に 5 〜

6(真値)であることが報告されているが,表2に示され

る 30GHz 帯の値,約 2 に対して倍以上の値となっている.

  図 11 に, 解 析 に 用 い た も の と 同 一 構 造 を 持 つ

GaAsFET の,透過型増幅器の雑音測度の実験値 [12]-

[15],反射型増幅器の実験値 [11][16],ならびに表の解析

結果を示した.この図から以下の点が明らかになる.

1)実験結果ならびに他文献での報告(図中白抜きの

○,□)からは,透過型増幅器も反射型増幅器の場

合も,周波数に対してほぼ一定の関係にあり,両者

に雑音測度の差はない.

2)解析結果(表2の値.図中は実線▲)は,増幅器

の型によらず実験結果の約3分の1となっている.

 解析値と実験値に差が出た理由の一つに等価回路モデ

ルの妥当性が考えられる.3.3 節でも述べた様に,表1に

示した回路定数は 10GHz 程度までの S パラメータの実

測値により求めたもので,今回はそれが 30GHz 帯まで使

用出来るとして解析を進めている.このため,30GHz 帯

でのマイクロ波特性が正しく表現されているかが問題と

なる.一方,雑音測度に着目すると,実験結果では,透

過型増幅器,反射型増幅器いずれの場合も同じ傾向を示

文 献

[1] A.Van Der Ziel, “Noise-source, Characterization,

Measurement,” Prentice Hall, 1970.

 同 平野伸夫訳 “雑音−源,特性,測定,”第 3 章「雑

音特性の表示」,3.4「負コンダクタンス増幅器の雑音

指数の考察」,東京電機大学出版 , 東京,1973.

[2] 瀧保夫 ,“雑音 1. 電子デバイスと回路の雑音”信学誌,

Vol.61, No.6, June 1978.

[3] 黒川兼行,“マイクロ波回路入門.”第8章「雑音源を

含む回路」.8.3「トンネルダイオード」,丸善,東京 ,1963.

[4] W.Beatchtold, “Noise Behavior of GaAs Field- Effect-

Transistors with short gate length,” IEEE Trans,

Electron Devices, Vol. ED-19,No.5, pp674-680, May 1972.

[5] R. A. Pucel, D. J. Masse and C. F. Krumm, “Noise

performance of Gallium Arsenide field-effect-

transistors,” IEEE J. Solid-State Circuits, Vol.SC-11,

No.2, pp243-255, April 1976.

[6] R. A. Pucel, H. A. Haus and H. Stats, “Signal and Noise

Properties of Gallium Arsenide Microwave Field-Effect-

Transistors.” In Advances in Electronics and Electron

Physics, Vol.38, Academic Press, New York, 1975.

[7] J . A. Arden, “The design performance and

application of the NEC V244 and V388 Gallium

Arsenide field effect transistors (GaAsMESFET).”

California Eastern Laboratories, Inc., Application

Note, No. AN769, June 1976.

[8] 水野秀樹,“準ミリ波帯低雑音 GaAsFET 増幅器,”

昭 54 信学総全大,分冊3,No.751, pp3-211, 1979.

[9] G.D.Vendelin, “Feedback effect on the noise

performance of GaAsMESFETs,” IEEE MTT-S, IMS

Digest, pp324-326, 1975.

しており,両者が連続した関係にあることが理解できる.

従って,マイクロ波特性,雑音特性が完全に記述出来れ

ば両者は一致すると考えられる.特に,今回は検討に含

めなかったゲート電極下の電子走行時間の影響が実験値

と解析結果との差の一因ではないかと思われる.

 以上,本論文では透過型増幅器,反射型増幅器の雑音

測度について解析的検討を加え,両者に雑音特性の差の

無い事を数値解析により明らかにした.また,実験結果

および他文献での報告からも同じ結果を得ることが出来

き,解析手法の妥当性を確認した.

図 11 各増幅器の雑音測度の実測値Fig.11 Measured Noise Measure values

水野秀樹/ GaAsFET を用いた反射型増幅器の雑音特性の検討

東海大学紀要開発工学部/第 19 号(2009)

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付録 A.透過型増幅器,並列帰還反射型増幅器の雑音解

析に用いた電流源とアドミタンス行列

付録 B. 直列帰還反射型増幅器の雑音解析に用いた電

流源とアドミタンス行列

[10] 高山洋一郎,“マイクロ波トランジスタ,”第6章「マ

イクロ波トランジスタの雑音モデルおよび雑音特性」,

電子情報通信学会,東京,1998.

[11] H.Mizuno, “GaAsFET mount structure design for

30GHz band low-noise amplifiers,”IEEE Trans. on

MTT. Vol.MTT-30, No.6, pp854-858, June 1982.

[12] 相原重信,加藤英彦,“11,14GHz 帯 GaAsFET 低雑

音増幅器,”信学技報,MW76-47,1976.

[13] 福田祐朗,荒洋一,芳賀勲夫,北村幹夫,“低雑音

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[14] 北 村 幹 夫, 福 田 祐 朗, 芳 賀 勲 夫,“20GHz 帯

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[15] 東坂浅光,水田高之,福田祐朗,長谷川文夫,

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[16] H.Toyama and H.Mizuno,“23-GHz Band GaAs-

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Hideki MIZUNOAn Analysis on Noise Performance of A Reflection Type One-Port GaAsFET Amplifier

The Bulletin of School of High-Technology for Human Welfare / Vol.19 (2009)

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Page 9: GaAsFETを用いた反射型増幅器の雑音特性の検討 · 透過型増幅器の回路解析モデルを図1に示す.ここで, kはボルツマン定数,Tは雰囲気温度,Bは雑音帯域幅,

水野秀樹/ GaAsFET を用いた反射型増幅器の雑音特性の検討

東海大学紀要開発工学部/第 19 号(2009)

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