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Ge-MOSデバイスの HfO2/GeO2界面反応の理解と制御
表面科学研究部 小川 慎吾
要 旨 高移動度材料であるGeをチャネルとする金属-酸化膜-半導体(Metal-oxide-semiconductor: MOS)
積層構造のデバイスにおいて、ゲート絶縁膜を HfO2/GeO2積層構造にした MOS キャパシタ特性とスタッ
ク構造の相関関係を調査し、HfO2/GeO2界面に極薄 AlOx膜を挿入した際の電気特性改善効果の物理的起源
を調べた。Pt/HfO2/GeO2/Ge MOS キャパシタにアニールを施すと、HfO2/GeO2 界面で反応が起き、HfO2
膜中に酸素やGeが拡散すること、さらに電気特性劣化の主要因はGeの拡散であることが明らかとなった。
HfO2/GeO2界面への極薄AlOx膜挿入によりHfO2膜中へのGe拡散が顕著に抑制できることも示された。
1. はじめに
今日の情報化社会は様々な高性能半導体デバイスによ
って支えられており、中でもコンピュータの大規模集
積回路において信号処理をつかさどる金属-酸化膜-
半導体 電界効果トランジスタ( Metal-oxide-
semiconductor field-effect transistor: MOSFET)の継続的
な特性向上が今日までコンピュータの処理速度向上に
大きく貢献してきた。MOSFET の基本構造は半導体チ
ャネルにシリコン(Si)、ゲート絶縁膜には SiO2 膜、
ゲート電極には多結晶 Siが採用され、長きに渡り微細
化し高集積化することで性能向上が達成されてきた。
しかし、近年、微細化は材料の物理的な限界を迎えつ
つあるため、最先端デバイスで要求される性能を達成
するために、微細化に頼らずに高性能化を図る必要が
生じている。例えば、ゲート電極の多結晶 Siは金属膜
1)に置き換わり、ゲート絶縁膜の SiO2 膜は高誘電率
(high-k)絶縁膜 1)に、従来の 2次元的プレーナ構造は
3次元的Fin-FET構造2)に置き換わったデバイスが既に
量産化されている。その他にも MOSFET 高性能化のた
めの多くの研究開発が加速しているが、本稿では、チ
ャネルを Siから高移動度材料であるゲルマニウム(Ge)
に置き換えて高性能化を推進するための研究の一例を
紹介する。Ge は Si と比べて、電子移動度が約 2 倍、
正孔移動度が約 4 倍であるため 3)、Si を Ge に置き換
えれば p 型、n 型のどちらのデバイスでも高性能化で
きるメリットがある。現時点でも、Geをチャネルとし
た MOSFET(Ge-MOSFET)で Si チャネル MOSFET
(Si-MOSFET)の性能を超えた特性が報告されている
が 4, 5)、Ge-MOSFET の理想的な電気特性を引き出すた
めにはまだ多くの課題が残されている。中でもゲート
絶縁膜の高品質化が極めて重要であると言われている。
Ge の酸化膜である GeO2は、SiO2/Si 構造と同様に Ge
の熱酸化で形成でき、GeO2/Ge 界面は欠陥が少ないこ
とも知られている 6)。すなわち、高性能 Ge-MOSFET
を実現するために、高品質な GeO2膜をGeチャネル上
に形成することは不可欠と考えられている。しかしな
がら GeO2膜は比誘電率が 6 程度と低いため、将来の
最先端 MOSFET の性能指標において、絶縁膜の SiO2
等価換算膜厚(Equivalent oxide thickness: EOT)は 1 nm
以下であることが要求されていることから、MOSキャ
パシタのゲート絶縁膜には high-k 絶縁膜と GeO2膜を
原子レベルで制御して積層した high-k/GeO2/Geスタッ
ク構造の導入が必須であると考えられている。ここで、
典型的な high-k 絶縁膜である酸化ハフニウム(HfO2)
膜は、比誘電率が 20 程度と高く、Si チャネルで構成
される Si-MOSFET の先端デバイスには一部、既に実
用化が進められている。これまでに HfO2 膜に関する
多くの研究が行われているため、汎用性、プロセス適
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
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合性の観点から、Ge-MOS デバイスのゲート絶縁膜に
も HfO2膜を適用することが、高性能 Ge-MOS デバイ
ス実現に向けた最重要課題の一つである 7-12)。
Ge-MOS デバイスへの HfO2膜導入の研究において、
Ge チャネル上への HfO2膜の直接成膜は HfO2/Geスタ
ック構造の界面特性を著しく劣化させることが報告さ
れている 7, 9, 11)。また、HfO2/Ge界面にGeO2膜または
GeON 膜を挿入したスタック構造であっても、熱処理
により電気特性が劣化することが報告されている 9, 10,
12)。一方で、GeO2/Ge 界面は 450C 以上の温度領域で
は不安定であることが知られており 13)、GeO2/Ge界面
を起点としてGeO分子が熱脱離し、結果として電気特
性の顕著な劣化が引き起こされる 14)。また、酸素の拡
散について、典型的な共有結合性酸化物の SiO2 や
Al2O3より、イオン結合性酸化物の HfO2中では酸素原
子または酸素欠損が容易に拡散することが知られてい
る 15-21)。すなわち、HfO2/GeO2/Geスタック構造は、Ge
や酸素が拡散しやすい環境である。そのため、
HfO2/GeO2 界面の反応を抑制することを目的として、
HfO2膜成膜前のGeO2膜の窒化 7, 9)や、HfO2/GeO2界面
への Al2O3 薄膜の挿入など 4)、いくつかの手法が報告
されている。しかしながら、HfO2/GeO2 界面への界面
層の挿入の効果が認められているにも関わらず、ゲー
トスタック構造中の Ge や酸素の詳細な拡散メカニズ
ムはいまだ明らかにされていない。GeOの生成や、Ge、
酸素または酸素欠損あるいはそれらの複合体の拡散な
ど、複雑な反応が引き起こされている可能性もある。
HfO2/GeO2 界面における Ge や酸素の挙動を理解する
ことで、電気特性劣化を引き起こす起源を特定し、電
気特性改善の指針を見出すことが望まれている。そこ
で本研究では、HfO2/GeO2界面から HfO2膜中に拡散す
る Geや酸素の挙動、および極薄 AlOx界面層の役割を
各種分析手法により系統的に調べた。特に、高純度の
同位体酸素(18O)を用いて酸化膜を形成し、18
O の深
さ方向分布を評価することで、酸化膜中の酸素拡散を
詳細に評価した。
2. 実験
MOS キャパシタ形成プロセスを図 1(a)に示した。約
5 %の希フッ酸と超純水で洗浄した p 型 Ge(100)基板
(抵抗値 0.1~0.5 cm)を超高真空チャンバーに導入
し、有機汚染および自然酸化膜除去のため、550C, 10
分の加熱清浄化処理を施した。その後、一部の試料に
おいて、極薄AlOx界面層を有するゲート絶縁膜を作製
するため、Ge基板上にAlOxを蒸着レート換算値で0.15
nm 成膜し、加えて電子サイクロトロン共鳴(Electron
cyclotron resonance: ECR)プラズマ酸化を施すことで、
Al 層の酸化と同時に GeO2 界面層を成長させて
AlOx/GeO2/Ge スタック構造を形成した。なお、Ge 基
板上に極薄Al2O3膜またはAl膜を成膜した後にプラズ
マ酸化処理を施すことで、Al2O3膜越しにGe基板が酸
化され、Al2O3/GeO2/Ge スタック構造が形成されるこ
とが確認されている 22, 23)。加熱清浄化処理後の Ge 基
板または Al2O3/GeO2/Ge スタック構造形成後の試料に
対して、酸素雰囲気(1×10-4 Pa)において電子ビーム
蒸着法によりHfO2膜を約 2 nm成膜し、さらにプラズ
マ酸化処理を施すことで HfO2/GeO2/Ge または
HfO2/Al2O3/GeO2/Ge スタック構造を形成した。絶縁膜
上にゲート電極として白金(Pt)を約 3 nm蒸着するこ
とで MOS キャパシタ構造を形成した。以上のプロセ
スは大気曝露せず in situプロセスで行った。Pt電極の
上にさらに Au 膜を成膜しパターニングによりゲート
電極を形成し、裏面にはAl膜を成膜した。ゲート電極
形成後の試料に対して、窒素雰囲気中で 300~500C
の加熱アニール処理を施した。
原子拡散評価用のゲート絶縁膜スタック構造形成プ
図 1 試料作製プロセス.
(a) 電気特性評価および断面構造観察用プロセス,
(b)原子拡散評価用プロセス
Al (0.15 nm)
洗浄: 5 %希フッ酸&超純水
真空中でクリーニング (550C, 10分)
Al (0.15 nm) 蒸着 (室温)
プラズマ 18O 酸化 (300C): Ge18O2 (2 nm)形成
Hf 電子ビーム蒸着(室温, 16O 酸素雰囲気): Hf16O2 (17 nm)形成
真空アニール (200500C)
Ge18O2
Ge
Ge
p型Ge(100) 基板
GeAlOx (0.15 nm)
Hf16O2AlOx(0.15 nm)
Ge18O2
2 n
m1
7 n
m
2 n
m
18O*18O*
(b)
AlOx (0.15 nm)
洗浄: 5 %希フッ酸&超純水
真空中でクリーニング (550C, 10分)
AlOx (0.15 nm) 蒸着 (室温)
プラズマ 酸化 (室温): GeO2 (1 nm)形成
Hf 電子ビーム蒸着(室温, 酸素雰囲気): HfO2 (2 nm)形成
Pt電子ビーム蒸着 (室温):Pt 電極(3 nm)
GeO2 (1 nm)Ge
Ge
p型Ge(100) 基板
Ge
AlOx (0.15 nm)
HfO2AlOx(0.15 nm)2
nm
O* O*
プラズマ 酸化 (室温または300C)
Au電極、裏面Al電極蒸着 (室温)
Ge
HfO2AlOx
GeO2
Pt加熱アニール (300500C, N2)
GeO2(1 nm)
(a)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
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ロセスを図 1(b)に示した。ウェット洗浄および超高真
空中での加熱清浄化処理を施した p型Ge(100)基板に、
高純度同位体酸素(18O2)雰囲気(300C, 0.4 Pa)で
ECR プラズマによるラジカル酸素処理を行い、Ge 基
板上に Ge18
O2膜を約 2 nm形成した。Ge18
O2膜を形成
した後、通常の酸素(16O2)雰囲気(室温, 1×10
-4 Pa)
において電子ビーム蒸着法によりGe18
O2膜上にHf16
O2
膜を約 17 nm成膜し、HfO2/GeO2/Geスタック構造を形
成した。MOSキャパシタ形成プロセスと同様に、極薄
AlOx界面層を有するゲート絶縁膜を作製するため、Ge
基板上に Alを蒸着レート換算値で 0.15 nm成膜し、そ
の後 ECR プラズマ 18O 酸化を施すことで、
AlOx/GeO2/Ge スタック構造を形成した試料も準備し
た。この AlOx/GeO2/Ge スタック構造に対し、さらに
HfO2膜を成膜し、HfO2/AlOx/GeO2/Ge スタック構造を
形成した。これらのゲート絶縁膜スタック構造は大気
曝露せず in situプロセスにて形成し、その後、超高真
空中で 200~500C, 10分のアニール処理を施した。過
去の研究において、超高真空中での適切な温度でのア
ニールにより、電気特性の改善に加えて、EOT もスケ
ーリングできることが報告されている 24)。また、近年、
HfO2 膜と GeO2 膜の間に原子層堆積法(Atomic layer
deposition: ALD)で形成したAlOx界面層を挿入するこ
とで、電気特性が顕著に改善されることが報告されて
いる 4)。以上の知見に基づき、HfO2/GeO2/Geスタック
構造のモデル試料を作製し、真空アニールの影響およ
び HfO2/GeO2 界面への極薄 AlOx 界面層挿入の効果を
原子拡散の観点で調べた。
本章で作製したGe-MOSキャパシタの断面構造は走
査型透過電子顕微鏡観察(Scanning transmission electron
microscope: STEM)により観察した。STEMはナノメ
ートル以下まで絞った電子線を試料上で走査すること
で像を得る手法である。本研究で用いた STEM観察は
電子線の球面収差(Spherical aberration: Cs)を補正す
る機能を搭載した装置で実施しており、プローブ径が
0.1 nm程度まで絞られ、高空間分解能かつ高感度観察
を可能としている。なお、HfO2膜は電子線ダメージを
受けやすいことが知られているため、本研究では、加
速電圧を 80 kVと比較的低い加速電圧に設定し、高角
度環状暗視野(High-angular annular dark field: HAADF)
STEM 観察および入射電子線のエネルギー損失分光法
(Electron energy loss spectroscopy: EELS)による断面方
向のラインプロファイル分析を実施した。
原子拡散評価用プロセスにより作製したスタック構
造試料のHfO2膜(膜厚約 17 nm)表面の元素組成およ
び化学状態を X 線光電子分光法(X-ray photoelectron
spectroscopy: XPS)により評価した。使用したXPS装
置のX線源はAl K線源(h= 1486.6 eV)、X線入射
角度は試料平面に対して 90、光電子検出角度は 45
である(光電子検出角度が大きいほど検出深さが深い)。
なお、本測定条件における検出深さを HfO2 膜(密度
9.68 g/cm3と仮定)中における光電子の平均自由行程か
ら見積もると、おおむね 3~6 nm程度となる。そのた
め、膜厚 17 nm の HfO2膜の表層の情報を得ているこ
とを付記しておく。スペクトルのエネルギー軸(横軸)
は、Hf4f7/2ピーク位置が 17.0 eV(HfO2)になるように
補正した。
本研究では、同位体酸素(18O)を用いて、酸化膜中
の酸素の拡散を調べた。動的 2 次イオン質量分析法
( Dynamic secondary ion mass spectrometry:
Dynamic-SIMS)で 16Oと 18
Oを質量分離して検出する
ことができるため、18O2で形成した 2 nm厚の GeO2膜
から HfO2 膜中に拡散する 18O の挙動を調べた。
Dynamic-SIMS の測定条件は、1 次イオン源:Cs+、加
速電圧:500 V とした。HfO2中の Ge および酸素の標
準試料が無いため、本測定で不純物濃度の定量はでき
ない。そのため、Geおよび 18Oの強度(縦軸)をHfO2
膜中の HfO+の平均強度で規格化して比較した。また、
深さ(横軸)は 18Oの強度がGeO2膜中の半分になる深
さをHfO2/GeO2界面と定義し基準位置とした。
3. 結果と考察
3.1 Pt/HfO2/GeO2/Ge MOS キャパシタの電気特性と
界面構造
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
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図 2に共同研究者の細井らにより得られた、電極形成
後のアニール温度が異なる Pt/HfO2 (2 nm)/GeO2 (1
nm)/Ge MOSキャパシタのリーク電流とEOTのプロッ
トを示した 12)。アニール温度 300~400C ではアニー
ル無し(w/o)よりリーク電流が低減している。加熱処
理によりHfO2膜およびGeO2膜の膜質が向上したため
であると考えられる。しかしながら、アニール温度が
450Cを超えると、リーク電流が増加し、EOT も増加
している。この原因を調べるため、STEM による断面
構造解析を行った。図 3 に、(a)アニール無しおよび
(b)500C アニール後の HAADF-STEM 像および EELS
ラインプロファイルを示した。STEM 像から、500C
アニールにより、GeO2界面層の膜厚が増加し、さらに
HfO2 膜表層のコントラストのムラが増加しているこ
とがわかる。また、EELS プロファイルから、HfO2表
層側に Ge が拡散していることも確認された。比誘電
率が低い GeO2膜の増膜および HfO2膜中への Ge の拡
散(HfO2膜の誘電率低下)が、ゲート絶縁膜の容量低
下すなわち図2におけるEOT増膜を招いたと推定され
る。また、HfO2膜中への Ge の拡散は絶縁膜中に欠陥
を生成させると考えられ、リーク電流増加も引き起こ
したと推定される。すなわち、450C 以上の熱処理に
より、HfO2/GeO2 界面にて反応が起き、それがトリガ
ーとなって電気特性を著しく劣化させたと考えられる。
これらの結果は、過去の報告とも良い一致を示すとと
もに 9, 10)、より明確に極薄ゲートスタック構造中の原
子拡散現象を捉えたものである。なお、拡散した Ge
のプロファイルから判断して、Ge は HfO2膜の中間部
より表層側に偏析する傾向があると考えられる。すな
わち、HfO2/GeO2界面の反応により HfO2膜中に拡散し
た Geは、HfO2膜中で安定化せずHfO2表層まで突き抜
け偏析する性質を有する。この挙動は、過去の研究に
より明らかにした Al 膜中を拡散する Ge の挙動 25, 26)
と類似しており、HfO2と Ge の親和性の低さを示唆し
た可能性がある。
3.2 HfO2/GeO2界面への極薄 AlOx膜挿入効果
HfO2/GeO2 スタック構造におけるアニール時の界面反
応を抑制するため、HfO2/GeO2界面への極薄AlOx膜の
挿入効果を検証した。図 4にAlOx膜厚をスケーリング
図 3 Pt/HfO2/GeO2/Ge MOS キャパシタの
HAADF-STEM像および EELSプロファイル.
(a) アニール無し, (b) 500Cアニール後.EELSプ
ロファイルの縦軸(強度)は任意単位である.
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2
O_No6
Ge_No6
Hf_No6In
ten
sit
y (
arb
. u
nit
s)
Distance from GeO /Ge interface (nm)
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2
O_No5
Ge_No5
Hf_No5
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Distance from GeO /Ge interface (nm)
HfO2
I. L.(GeOx)
Ge-sub.Pt (&Au)
Ge diffusion
GeO
Hf
HfO2 Ge-sub.Pt (&Au)
GeO
Hf
I. L.(GeO2)
(a) Pt/HfO2/GeO2/Ge
as-fab. (w/o PMA)
Distance from GeO2/Ge interface (nm)
Distance from GeO2/Ge interface (nm)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
(b) Pt/HfO2/GeO2/Ge
PMA (500ºC)
w/o
300C400C
450C
500C
Poly-Si/SiO2
Pt/HfO2/GeO2/Ge
1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.410
-7
10-5
10-3
10-1
101
103
J
g@
Vg=
Vfb
-1 V
(A
/cm
2)
EOT (nm)EOT (nm)
図 2 電極形成後のアニール温度を変えた場合の
Pt/HfO2/GeO2/Ge MOS キャパシタにおけるリー
ク電流と EOTのプロット.実線は Poly-Si/SiO2/Si
MOS キャパシタにより見積もられる特性であり
EOTスケーリングの指標となる.12)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
5
(0.15~0.5 nm)した Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャ
パシタのリーク電流と EOT のプロットを示した 5)。な
お、電極形成後のアニール温度はいずれも 400Cであ
る。極薄 AlOx膜挿入により良好な電気特性が示されて
おり、EOT 1 nm以下で Poly-Si/SiO2スタックより数桁
低いリーク電流を達成している。AlOx 膜厚が約 0.15
nm(換算値)と極めて少ない成膜量であっても、十分
な特性改善効果が認められ、EOT 0.6 nm以下にまでス
ケーリングされている。
そこで、HfO2/GeO2界面に極薄 AlOx膜(0.15 nm)を
挿入したゲートスタック構造の STEM 観察を行った。
図 5 に、(a)400C アニール後および(b)500C アニール
後の HAADF-STEM 像および EELSラインプロファイ
ルを示した。400C, 500Cアニール後であっても、界
面層の GeO2膜は 1 nm 以下に保たれていることから、
図 4で示した sub-nmオーダーの EOT が実現されてい
る結果とも整合する。また、EELS ライン分析におい
て、HfO2膜中への Ge の顕著な拡散も認められなかっ
た。このことが、低いリーク電流が維持されている要
因であると推定される。しかしながら、500C アニー
ル後に HfO2 膜表層側のコントラストムラの増加が認
められた。このコントラストムラはボイドの形成また
は Geの拡散(ただし、EELSの検出下限以下)に由来
すると推定され、C-V 特性においても欠陥準位の存在
を示す周波数分散がわずかに認められたため(データ
掲載なし)、さらなるプロセス改善が必要であることも
確認された。
以上の結果により、HfO2/GeO2 界面の反応が引き起
こすGeの拡散が、MOSキャパシタの電気特性に有害
な影響を及ぼすこと、および極薄 AlOx膜挿入の効果を
相関付けて説明することができた。MOSキャパシタの
特性改善の指針として、HfO2/GeO2 界面反応および界
面反応により引き起こされる原子拡散を制御する必要
があると結論付けられる。
3.3 HfO2/GeO2 界面反応が引き起こす原子拡散挙動
の解析
3.1, 3.2項で、電気特性とスタック構造の特徴を相関付
けて評価した。しかしながら、主成分である酸素の拡
散の影響やGeとの相関関係は明らかになっていない。
酸素の拡散は、酸化膜中の酸素欠損の生成や酸化膜厚
図 5 Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタの
HAADF-STEM像および EELSプロファイル.
(a) 400Cアニール後, (b) 500Cアニール後.
I. L.(GeO2+AlOx)
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2
O_No2
Al_No2
Ge_No2
Hf_No2
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Distance from GeO /Ge interface (nm)
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2
O_No1
Al_No1
Ge_No1
Hf_No1
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Distance from GeO /Ge interface (nm)
HfO2 Ge-sub.Pt (&Au)
GeO
Hf
HfO2 Ge-sub.Pt (&Au)
Ge
O
Hf
I. L.(GeO2+AlOx)
(a) Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge
PMA (400ºC)
Distance from GeO2/Ge interface (nm)
Distance from GeO2/Ge interface (nm)
Inte
ns
ity (
arb
. u
nit
s)
Inte
ns
ity (
arb
. u
nit
s)
(b) Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge
PMA (500ºC)
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.910
-6
10-4
10-2
100
102
104
106
EOT (nm)
Jg @
Vfb
-1 V
(A
/cm
2)
Poly-Si/SiO2
0.3 nm, 50 W
0.15 nm
ECR
10 W0.5 nm
10-5
EOT (nm)
PMA@400C
図 4 AlOx 膜 厚 を ス ケ ー リ ン グ し た
Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタのリーク電
流と EOTのプロット.電極形成後のアニール温度は
いずれも 400C.5)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
6
の増膜など電気特性への影響が大きいため、Geだけで
なく酸素の拡散も含め、HfO2/GeO2 界面における反応
モデルを構築し、デバイス設計の指針として組み込む
必要がある。そこで本項では、Geと酸素の拡散現象を
より詳細に調べるため、絶縁膜スタック構造のモデル
試料を作製し、原子拡散の詳細な評価を行った。
最初に、作製したスタック構造の試料に真空アニー
ル処理を施した際の HfO2 膜表面の元素組成と各原子
の化学状態をXPSにより調べた。図6に、HfO2/GeO2/Ge
およびHfO2/AlOx/GeO2/Geスタック構造のHfO2膜表面
の Hf4f、Ge2p3/2 スペクトルを示した 27)。なお、HfO2
膜厚は約 17 nmであるため、HfO2膜の下のGeO2膜の
情報は XPSでは得られないことを付記しておく。Hf4f
スペクトルから判断して、極薄 AlOx膜の挿入有無に関
わらず、ハフニウムは HfO2 が主成分であると考えら
れる(Hf ジャーマネートをわずかに含む可能性があ
る)。アニール処理温度が高くなると、Hf4f ピークが
わずかにシャープになり、Hf4f7/2ピークと Hf4f5/2ピー
クの谷が深くなった。XPSで得られるスペクトルは化
学状態が均一または結晶性が高いほどピークがシャー
プになる傾向があるため(例えばアモルファス Siより
結晶 Si の方が光電子ピークがシャープになる)、アニ
ール処理により HfO2 膜が緻密化したことでピークが
シャープになったと考えられる。
一方、Ge2p3/2 スペクトルにおいて、極薄 AlOx 膜を
挿入していないHfO2/GeO2スタック構造[図 6(b)]では、
アニール温度 200C で Ge が検出され、アニール温度
が高くなるほどピーク強度が増大した。さらにアニー
ル温度500CではGe強度の顕著な増大が確認された。
これらの結果から、HfO2/GeO2 スタック構造では、
200C程度の比較的低温においてもHfO2膜中をGeが
拡散し、かつアニール温度が高くなるほど拡散量が増
大する。なお、Ge2p3/2 ピーク位置から判断して、Ge
は GeO2などの酸化物(Hf ジャーマネートを含む可能
性がある)に帰属されるため、HfO2膜中で Ge は酸素
と結合していると考えられる。ここで、HfO2/GeO2 界
面に極薄 AlOx 膜を挿入すると、アニール温度 400C
までは Ge の拡散を顕著に抑制できているが、アニー
図 6 XPSにより得られたHfO2/GeO2/Geおよび HfO2/AlOx/GeO2/Geスタック構造の(a, c)Hf4fおよび(b, d)
Ge2p3/2スペクトル. Hf4fスペクトルは縦軸を最大・最小値で規格化. Ge2p3/2スペクトルは縦軸の規格化無し. 28)
24 22 20 18 16 14 12
B B B B B
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Binding energy (eV)
1226 1224 1222 1220 1218 1216 1214
B B B B B
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Binding energy (eV)
24 22 20 18 16 14 12
B B B B B
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Binding energy (eV)
1226 1224 1222 1220 1218 1216 1214
B B B B B
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Binding energy (eV)
Ge2p3/2
Ge-O (HfGeOx)
w/o200ºC
300ºC
400ºC
500ºC
(HfO2/GeO2)
HfO2
Ge
Ge Ge
w/o
200ºC
300ºC
400ºC
500ºC
(b)
(d)
17 n
m
Ge2p3/2
(HfO2/AlOx/GeO2)
Ge-O (HfGeOx)
GeO2
2 n
m
Binding energy (eV)
Binding energy (eV)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
Hf4f5/2― w/o
― 200ºC
― 300ºC
― 400ºC
― 500ºC
Hf4f
HfO2 (HfGeOx)
(HfO2/GeO2)
(a)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
(c)
Hf4f
(HfO2/AlOx/GeO2)
Hf4f7/2
Hf4f5/2― w/o
― 200ºC
― 300ºC
― 400ºC
― 500ºC
HfO2 (HfGeOx)
Hf4f7/2
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
Binding energy (eV)
Binding energy (eV)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
7
ル温度 500Cでは、Ge強度の顕著な増大が確認された。
図 7 に、XPS 結果から定量した Ge 濃度のアニール温
度上昇に伴う変化をまとめた。アニール温度が高くな
るほど、拡散する Ge 濃度が増大する一方で、
HfO2/GeO2界面への極薄 AlOx膜の挿入により、Ge 拡
散量は明らかに低減している。ただし、500C のアニ
ールでは極薄 AlOx膜挿入の有無に関わらず顕著な Ge
濃度の増大が認められたため、400C 以下と 500C 以
上では Ge の拡散メカニズムが異なると推定される。
なお、GeO2/Geスタック構造の試料に対して 450C以
上の加熱を行うと GeO 分子の熱脱離が起きることが
知られている 14)。また、HfO2 (3 nm)/Geスタック構造
においても500C程度の加熱によりGeOが脱離するこ
とが報告されている 10)。そのため、アニール温度 500C
における Ge 拡散量の顕著な増大は、GeO 熱脱離がト
リガーとなって引き起こされたか、または Ge 拡散と
GeO 熱脱離の連続的な反応の過程で引き起こされた
可能性がある。HfO2/GeO2界面への膜厚0.15 nmのAlOx
膜挿入は、500C 以上の Ge の熱拡散への対策として
は不十分であったと考えられ、さらなるプロセス改善
が望まれる。
より詳細に Ge の拡散挙動を評価するため、
Dynamic-SIMSによりGeの深さ方向分布を調べた。図
8 に、HfO2/GeO2/Ge および HfO2/AlOx/GeO2/Ge スタッ
ク構造の Ge デプスプロファイルを示した。
HfO2/GeO2/Ge スタック構造[図 8(a)]では、200C の比
較的低温のアニールでもHfO2膜の表層側でGe強度が
増大しており、アニール温度が高くなるほど Ge 強度
が増加する傾向が認められた。このことは、上述した
XPS結果と同様である。また、HfO2膜の中間部よりも
表層側で Ge 強度が高い傾向が得られている。このこ
とは、STEM観察の EELSプロファイル[図 3(b)]でも認
められた現象であり、拡散した GeのHfO2膜中での不
安定性を反映した結果であると考えられる。一方、
HfO2/GeO2界面に極薄 AlOx膜を挿入することで、アニ
ール温度 400C 程度まで Ge 強度は検出下限レベル程
度に抑えられており、明確な極薄 AlOx膜の挿入効果が
認められる。しかしながら、500C のアニールを施す
図 8 Dynamic-SIMS により得られた (a)
HfO2/GeO2/Geおよび(b) HfO2/AlOx/GeO2/Geスタ
ック構造におけるGeのデプスプロファイル.
HfO2膜の表層約 2 nm のプロファイルは、イオン
強度が不安定な遷移層のためデプスプロファイル
から除いた.参考として、アニール処理無しの試
料のHf, Alデプスプロファイルを併せて示した.
GeGeO2
GeGeO2(AlOx)
400ºC500ºC300ºC
200ºC
w/o
Depth from HfO2/GeO2 interface (nm)
(a) HfO2/GeO2
HfO2Surface
400ºC
500ºC
300ºC200ºC
Depth from HfO2/GeO2 interface (nm)
(b) HfO2/AlOx/GeO2
HfO2Surface
Al,
Hf
inte
ns
ity (
arb
. u
nit
s)
Al,
Hf
inte
ns
ity (
arb
. u
nit
s)
No
rma
lize
d G
e in
ten
sit
yN
orm
ali
ze
d G
e in
ten
sit
y
10-4
10-3
10-2
10-1
100
101
102
10-4
10-3
10-2
10-1
100
101
102
15 10 5 0 -5
15 10
15 10 5 0 -510
-4
10-3
10-2
10-1
100
101
102
Al,
Hf
inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
No
rma
lize
d G
e i
nte
ns
ity
Depth from HfO2/GeO
2 interface (nm)
15 10 5 0 -510
-4
10-3
10-2
10-1
100
101
102
Al,
Hf
inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
No
rma
lize
d G
e i
nte
ns
ity
Depth from HfO2/GeO
2 interface (nm)
Hf (w/o)
Al (w/o)
w/oHf (w/o)
Al (w/o)
5 0 -5
図 7 HfO2/GeO2/Ge および HfO2/AlOx/GeO2/Ge
スタック構造におけるHfO2膜表面のGe濃度のア
ニール温度上昇に伴う変化.
0 100 200 300 400 5000
1
2
3
4
5
6
A
tom
ic c
on
ce
ntr
ati
on
of
Ge
(%
)
Annealing temperature (oC)
Ge
O Ge Hf 100
Significant enhancement
in Ge diffusion
w/o
Annealing temperature (C)
Ato
mic
co
ncen
trati
on
of
Ge (
%)
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
8
と、極薄 AlOx膜挿入の有無に関わらず顕著なGe拡散
が認められ、加えて、HfO2膜の中間部にも比較的多く
の Geが存在するようになる。すなわち、500Cのアニ
ール処理によりHfO2膜中のHfジャーマネート結合形
成が促進されたと考えられる。また、HfO2/GeO2 界面
付近(深さ:~0 nm付近)において、Geプロファイ
ルに肩(2 段)構造が認められる。この肩構造はアニ
ール無し(w/o)の試料でも認められるため、HfO2 成
膜時にHfO2/GeO2界面に生成された相互拡散層であり、
Hf ジャーマネート界面層が形成されていると考えら
れる。このHfジャーマネート界面層形成も、HfO2/GeO2
界面への極薄 AlOx 膜挿入により低減可能であること
が確認できる。
なお、XPSや Dynamic-SIMSでは、極薄 AlOx膜が挿
入されたHfO2/AlOx/GeO2スタック構造に500Cアニー
ルを施すと Ge 拡散量の顕著な増加が確認されている
が 、 STEM-EELS プ ロ フ ァ イ ル で は 、
Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge スタック構造に 500C アニール
(電極形成後)を施しても Ge の拡散が認められなか
った[図 5(b)]。喜多らは、GeO2/Ge界面の反応により生
じる GeO 熱脱離は、GeO2膜の上部に適切なキャップ
層を形成すると抑制可能であると報告している 14)。そ
のため、STEM-EELSで測定した試料は、膜厚約 3 nm
の Pt 電極が完全ではないもののキャップ層の役割を
果たし、結果として Ge の拡散が減少した可能性があ
る。ただし、EELS の検出感度自体が XPS や
Dynamic-SIMSより低いため、このことも Geが検出さ
れなかった一因である可能性がある。
次に、GeO2膜からHfO2膜に拡散した酸素の分布を、
同位体酸素(18O)をトレーサーとして調べた。図 9に、
HfO2/GeO2/GeおよびHfO2/AlOx/GeO2/Geスタック構造
の 18O のデプスプロファイルを示した。HfO2/GeO2/Ge
スタック構造[図 9(a)]において、アニール処理により、
Ge のデプスプロファイルと同様に HfO2膜中の 18O 強
度が増加していることがわかる。ただし、HfO2膜中の
分布は Geと 18Oでは異なり、18
Oは HfO2/GeO2界面か
ら HfO2 膜表面側に向かって単調に減少する傾向が認
められた。アニール温度が高くなるほど 18O の拡散量
は増大するが、400C 以上では飽和している。一方、
HfO2/GeO2界面に極薄AlOx膜を挿入した場合[図9(b)]、
極薄 AlOx膜挿入無しと比べて、ある程度 18O拡散を抑
制することができているが、300C 以上のアニールで
明確な 18O 拡散が認められている。また、図中に示し
たアニール処理無し(w/o)とアニール温度 500C の
16O プロファイルから判断して、アニール処理により
HfO2膜中の 16O が GeO2側に拡散していることがわか
る。これらの結果を考慮すると、アニール処理により
HfO2/GeO2 界面において酸素は相互に拡散し、膜中に
徐々に拡がっていくと考えられる。HfO2膜中を拡散す
る Ge は HfO2膜を突き抜けて HfO2膜表層に偏析する
挙動を示したことから、HfO2/GeO2 界面における Ge
と酸素の拡散はお互いに相関が無くそれぞれ独立した
挙動を示すと考えられ、すなわち、GeO分子として拡
図 9 Dynamic-SIMS に よ り 得 ら れ た (a)
HfO2/GeO2/Ge および(b) HfO2/AlOx/GeO2/Ge スタ
ック構造における18
Oのデプスプロファイル.
HfO2膜の表層約 2 nmのプロファイルは、イオン強
度が不安定な遷移層のためデプスプロファイルか
ら除いた.アニール処理無し(w/o)の HfO2膜中の18
O 強度は天然の酸素中に存在する約 0.2 %の18
O
に由来するため、本測定のバックグラウンドレベル
となる.参考として、アニール処理無しおよびアニ
ール温度500Cの試料の16
Oデプスプロファイルを
示した.
GeGeO2
GeGeO2(AlOx)
400ºC500ºC
300ºC 200ºC
w/o
Depth from HfO2/GeO2 interface (nm)
HfO2Surface
400ºC500ºC
300ºC
200ºC
w/o
Depth from HfO2/GeO2 interface (nm)
HfO2Surface
(a) HfO2/GeO2
(b) HfO2/AlOx/GeO2
16O
in
ten
sit
y (
arb
. u
nit
s)
No
rma
lize
d 1
8O
in
ten
sit
yN
orm
ali
ze
d 1
8O
in
ten
sit
y
16O
in
ten
sit
y (
arb
. u
nit
s)
15 10 5 010-1
100
101
102
103
10-1
100
101
102
103
15 10 5
15 10 5 0 -510
-1
100
101
102
103
16O
in
ten
sit
y (
arb
. u
nit
s)
No
rma
lize
d 1
8O
in
ten
sit
y
Depth from HfO2/GeO
2 interface (nm)
15 10 5 0 -510
-1
100
101
102
103
16O
in
ten
sit
y (
arb
. u
nit
s)
No
rma
lize
d 1
8O
in
ten
sit
y
Depth from HfO2/GeO
2 interface (nm)
16O (w/o)
16O (500ºC)
-5
16O (w/o)
16O (500ºC)
0 -5
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
9
散している可能性も低いと結論付けられる。
ここで、GeO熱脱離が起きないと推定される 400C
以下のアニール条件下で、HfO2膜中の酸素(18O)拡
散が Fickの法則に基づく以下の原子拡散モデルに則
ると仮定して、得られた 18Oプロファイルをフィッテ
ィングし、各アニール温度における酸素の拡散係数を
見積もった 28)。
C(x, t)= 1
2C0erfc (
x
2√Dt) (1.1)
ここで、C0は GeO2膜中の初期状態(アニール無し:
w/o)の 18O強度、xは HfO2/GeO2界面からの深さ(m)、
tはアニール時間(s)である。アニール温度 200~400C
の 18O プロファイルは上記の式に基づく拡散曲線でよ
くフィッティングされたため、得られた酸素の拡散係
数を温度の逆数に対してプロット(アレニウスプロッ
ト)し図 10に示した。また、比較のため、HfO2, GeO2,
Al2O3の文献値も併せて示した 16, 18, 29, 30)。拡散係数の温
度依存性の傾きから算出した HfO2 膜中の酸素拡散の
活性化エネルギーは、極薄 AlOx膜挿入の有無に関わら
ず約 0.5 eV 程度と低い値を示し、かつ、Zafer らによ
り得られた Si基板上のHfO2薄膜(3.5~4.0 nm)の酸
素または酸素欠損の活性化エネルギー値(Ea= 0.46-0.60
eV)と近い値であった 16)。なお、拡散係数の値自身は
本研究の結果と Zafer らにより得られた結果で異なっ
ているが、HfO2 膜中の酸素拡散係数は、HfO2 膜の膜
質や結晶性に大きく依存することが知られているため、
成膜方法の違いなどが影響を及ぼしたと推定される 16,
30)。
以上の結果から、HfO2膜中に拡散する酸素の拡散の
しやすさは、極薄AlOx膜の挿入や基板材料とは無関係
であるが、極薄AlOx膜がHfO2/GeO2界面でGe拡散の
バリア層として機能し、その結果、電気特性改善に貢
献していると結論できる。
これまでに得られた結果に基づき、HfO2/GeO2/Geス
タック構造におけるGeと酸素の熱拡散挙動の模式図
を図 11に示し、HfO2膜中の原子拡散モデルおよび極
薄 AlOx膜挿入の効果を以下にまとめた。
HfO2/GeO2/Geスタック構造におけるGeおよび酸素の
熱拡散モデル
1) 図 11(a)は、高純度 18O2源を用いたプラズマ酸化に
よりGe基板上にGeO2膜を形成し、同位体トレー
スによる酸素拡散評価が可能なHfO2/GeO2/Geス
タック構造が作製されている初期状態である。
2) 図 11(b)において、200~400Cの比較的低温アニ
ールでも、Ge、酸素ともにHfO2/GeO2界面から
HfO2膜中に拡散するが、両者の拡散プロセスは独
立している。Geは HfO2膜を突き抜けHfO2膜表層
で偏析する特異な挙動を示し、電気特性を顕著に
悪化させる。一方で、酸素は低い活性化エネルギ
ー(約 0.5 eV)で HfO2膜中を拡散し、HfO2/GeO2
界面において相互拡散していると推定された。酸
素の相互拡散が電気特性に及ぼす影響は少ない
と考えられる。
3) 図 11(c)において、アニール温度が 500Cを超える
と、GeO熱脱離を伴ったGeの顕著な拡散が引き
起こされる。また、HfO2膜中間部にもGeが比較
的多く存在するようになる。HfO2膜中へのGeの
顕著な拡散は、リーク電流特性の著しい劣化を引
き起こす。
図 10 18
Oデプスプロファイル(図 9)から見積
もられた HfO2膜中における酸素の拡散係数のア
レニウスプロット.アレニウスプロットから求め
た HfO2膜中の酸素拡散の活性化エネルギーを図
中に示した.また、比較のため他の文献値[16, 18,
29, 30]の値も併せて示した.
0.001 0.002 0.003
10-23
10-22
10-21
10-20
10-19
10-18
10-17
10-16
10-15
Dif
fus
ion
co
eff
icie
nt
(m2/s
)
1/K (K-1)
This workHfO2/GeO2Ea= 0.54 eV
a-HfO2 (4 nm)Ea= 0.46 eV [16]
a-GeO2 [29]
a-Al2O3Ea= 1.2 eV [18]
50
Temperature (ºC)
100600
This workHfO2/AlOx/GeO2Ea= 0.51 eV
2004001000
Dif
fus
ion
co
eff
icie
nt
(m2/s
)
1/K (K-1)
0.001
10-23
10-22
10-21
10-20
10-19
10-18
10-17
10-16
10-15
0.002 0.003
m-HfO2 [30]
The TRC News, 201811-02 (November 2018)
10
極薄 AlOx膜挿入の効果
1) 極薄 AlOx膜は、400C以下のアニール温度におい
て、HfO2/GeO2界面の反応バリア層として機能し、
スタック構造の熱的安定性を向上させる。Geの拡
散を顕著に抑制することができるため、リーク電
流の増大を抑制でき、加えて界面層の増膜も抑え
EOT 増膜も抑制される。一方で、酸素の拡散につ
いては抑制効果が小さい。
2) アニール温度500CのGeO熱脱離が支配的な温度
領域では、極薄AlOx膜挿入の顕著な効果が認めら
れなくなる。
3.4 Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタの構造と
電気特性
HfO2 膜中の Ge と酸素の熱拡散を評価した結果、Ge
と酸素はお互いに独立した拡散挙動を示し、加えてGe
の拡散が電気特性に強く影響を及ぼすことが示された。
すなわち、Ge の拡散および GeO の熱脱離を抑制する
ことが、電気特性改善の重要な指針であると考えられ
る。3.2 項で示した約 3 nm の Pt 膜を成膜した
Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタでは、Pt膜成膜
後の 500Cアニールにおいて、Pt/HfO2界面付近のラフ
ネスが増大する現象が認められた[図 5(b)]。EELSプロ
ファイルにおいて Ge の拡散は認められなかったが、
アニール温度を考慮すると GeO 熱脱離が引き起こさ
れる温度領域であるため、Pt 膜厚 3 nm ではキャップ
効果が弱かったと推定される。
そこで、図 12に、Pt膜(3 nm)成膜後さらにAu膜
を厚く形成した後に 500C アニールを施した
Au/Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOS キ ャ パ シ タ の
HAADF-STEM像およびEELSプロファイルを示した。
STEM像から、500Cアニール後も Pt/HfO2界面にコン
トラストムラが無く、平坦性が維持されていることが
わかり、EELSプロファイルにおいてGeの拡散は認め
られなかった。また、20 nm の Pt 膜を形成した後に
500C アニールを施した MOS キャパシタの C-V 特性
および界面準位密度(Dit)を図 13 に示した。C-V 特
性[図 13(a)]において、EOT 1 nm以下でありながら、周
波数分散が極めて少ない C-V特性が得られ、良好な界
図 12 キャップ層として厚い Au膜を成膜した後
に 500Cアニールを施した
Au/Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタの
HAADF-STEM像および EELSプロファイル.
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2
O_No3
Al_No3
Ge_No3
Hf_No3
Inte
ns
ity
(a
rb.
un
its
)
Distance from GeO /Ge interface (nm)
HfO2 Ge-sub.Pt (&Au)
Ge
O
Hf
I. L.(GeO2+AlOx)
Au/Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge
Cap-PMA (500 ºC)
Distance from GeO2/Ge interface (nm)
Inte
nsit
y (
arb
. u
nit
s)
図 11 HfO2/GeO2/Geスタック構造におけるGeおよび酸素の熱拡散挙動の模式図.
(a) アニール処理無し, (b) 400C以下の低温真空アニール処理, (c) 500C真空アニール処理
18O
Hf
Hf
Hf
Hf
Ge
Hf
HfHfHf
Hf HfHf
Hf Hf Hf
Hf
Hf
Hf
Hf Hf
HfHfHf
Hf HfHf
Hf Hf Hf
Ge
(a) As fabricated (b) Vacuum annealing (400ºC)
Hf
Hf
Hf
Hf Hf
HfHfHf
Hf HfHf
Hf Hf Hf
(c) Vacuum annealing (500ºC)
16O 16O 16O 16O 16O 16O
18O 18O 18O 18O 18O 18O
16O
16O 16O
16O
18O
18O 18O
18O
Ge
Ge Ge Ge Ge
18O
18O
18O
16O
16O
16O
16O
16O
Ge
Ge
Ge
Ge
16O16O 16O 16O 16O 16O
16O16O16O16O16O16O
16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O 16O
16O16O16O16O16O
16O 16O 16O 16O
16O 16O
16O18O 18O 18O 18O 18O 18O
18O 18O 18O 18O 18O 18O
Ge Ge Ge
GeGe
18O 18O 18O 18O 18O
18O 18O 18O 18O
18O 18O
18O
Ge Ge Ge
Ge Ge Ge
18O 18O
18O
18O 18O
18O
18O
18O
18O18O 18O
18O
16O
16O
16O16O 16O
16O
16O 16O
16O
16O
16O
16O 16O
16O16O
16O
Ge
16O
18O
16O
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面特性を実現可能であることがわかった。また、Dit
値においても[図 13(b)]、厚膜 GeO2/Ge MOS キャパシ
タに匹敵する極めて低いDit値(2.4×1011
cm-2eV
-1)が
達成されている。Pt膜厚約 3 nmでは、500Cアニール
後に Pt/HfO2界面のラフネスが増大し、HfO2/GeO2界面
に極薄 AlOx膜を挿入していても GeO 脱離および Ge
拡散を完全には抑制できず界面特性の劣化が引き起こ
される。一方、Pt 膜厚約 20 nm では Pt/HfO2界面のラ
フネス増大の抑制およびキャップ効果 14)による GeO
脱離および Ge 拡散の抑制が両立され良好な界面特性
が維持されたと考えられる。ゲートスタック構造にお
ける界面反応メカニズムの理解と電気特性評価の両面
からのアプローチにより、極めて良好な電気特性がも
たらされた。
4. おわりに
HfO2/GeO2/Ge スタック構造形成後の試料に対してア
ニールを施した際の MOS キャパシタ特性とスタック
構造の相関関係の理解ならびにHfO2/GeO2界面に極薄
AlOx 膜を挿入した際の電気特性改善効果の物理的理
解を進めるとともに、HfO2/GeO2 界面反応により引き
起こされる原子拡散挙動の系統的な評価を行った。
Ge-MOS デバイスは極めて繊細な制御が必要であるこ
とが示されたため、MOS構造の性質のみならず個々の
原子の性質を理解し制御することが、高性能 Ge-MOS
デバイスの実現のために必要であると結論付けられる。
5. 謝辞
本研究は大阪大学大学院生命先端工学専攻 渡部 平司
教授のご指導のもとで進めさせていただきました。試
料作製や電気特性評価などの実験は研究室に所属する
学生の皆様のご協力を得て実施しました。関係者の皆
様に謹んで御礼申し上げます。
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図 13 (a) キャップ層として約 20 nmの Pt膜を成
膜した後に 500Cアニールを施した
Pt/HfO2/AlOx/GeO2/Ge MOSキャパシタのC-V特性,
(b) 各種条件で形成したMOSキャパシタの界面準
位密度(Dit).厚膜GeO2/Ge MOSキャパシタの結果
も併せて示している.5)
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小川 慎吾(おがわ しんご)
表面科学研究部
表面科学第 2研究室 主任研究員
趣味:探検(子供と散歩)