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78 GKJ: グループを対象にした紙ラベル作業の 電子化支援システム 1 はじめに アイディア いつきを ( ベル) しておき,それらを たり けたりし がら する した KJ [1] 1 じめ一 われている. こうした ラベル づく 1. による ある 2. 26 きる いった つため, グループによる において ある.しかし ラベル かつ きる プロセスを しておくこ しい.また ラベ KJ れる) けるこ されるが,それを し, をして らう いった において 体をディジタルカ メラ 影した より データ されていたほうが かつ ある. ラベル する うシステム して ,カード ツール KJ エディタ[2] D-ABDUCTOR [3](GUN- GEN) [4] [5]KUSANAGI [6] がある.またイン GKJ: Groupware for Paper-based KJ Labelwork. Motoki Miura, 大学 , Faculty of Basic Sciences, Kyushu Institute of Technology. コンピュータソフト ェア, Vol.31, No.9(2014), pp.78–84. [ ] 2014 2 28 . 1 KJ す. スピレーション パッケージソフト ェア する.これら システムを から いて ラベル する った される.しかしこれ システム にマ キーボード,タブ レット によって うため, ラベ ルを いた われる. そこ による インタラクショ ンを しつつ, データ するため,ディジタルペンを いた ベル 援システム GKJ した [7]2 GKJ の概要と利用例 GKJ における ラベル を, および にて データ するため システム ある.GKJ グループ KJ いう,およそ 1040 によるワークショップ 一また グループ 援するために した. そこ GKJ するまえに,まずグループ KJ [8] について する. 2. 1 グループ KJ グループ KJ [8] れる. 1. 題意 「テーマ」について, がアイディアを ラベルに する. 2. した ラベルを した「

GKJ: グループを対象にした紙ラベル作業の 電子化支援システムist.mns.kyutech.ac.jp/miura/papers/gkj-miura.pdf · 2018. 9. 7. · 78 gkj: グループを対象にした紙ラベル作業の

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  • 78

    GKJ: グループを対象にした紙ラベル作業の

    電子化支援システム

    三浦 元喜

    1 はじめに

    アイディアや思いつきを複数の付箋紙や紙片 (紙ラ

    ベル)に記録しておき,それらを机に並べたり壁に貼

    り付けたりしながら思考を整理する手法は,川喜田が

    提唱した KJ法 [1]†1 をはじめ一般的に行われている.こうした紙ラベルの空間配置に基づく思考作業は,

    1. 手作業による物理的な作業が可能である

    2. 2~6名程度の複数の参加者が同時に参与できる

    といった特長をもつため,少人数のグループによる創

    造会議においても有効である.しかし紙ラベルは誰で

    も自然かつ手軽に操作できる半面,作業プロセスを詳

    細に記録しておくことが難しい.また最終的な紙ラベ

    ル空間配置の結果(KJ法では図解と呼ばれる)は模

    造紙に貼り付けることで保存されるが,それを会議参

    加者に配布し,後日再検討や追加の作業をしてもらう

    といった場合においては,模造紙全体をディジタルカ

    メラで撮影した写真よりも,再利用可能な状態で電子

    データ化されていたほうが便利かつ好都合である.

    紙ラベルへの記入や空間配置に相当する作業を電子

    的に行うシステムの研究としては,カード操作ツール

    KJエディタ [2]や D-ABDUCTOR [3],郡元 (GUN-

    GEN) [4] [5],KUSANAGI [6] などがある.またイン

    GKJ: Groupware for Paper-based KJ Labelwork.

    Motoki Miura, 九州工業大学基礎科学研究系, Faculty ofBasic Sciences, Kyushu Institute of Technology.

    コンピュータソフトウェア, Vol.31, No.9(2014), pp.78–84.[研究論文] 2014 年 2 月 28 日受付.

    †1 KJ 法は川喜田研究所の登録商標です.

    スピレーションなどの市販パッケージソフトウェアも

    多数存在する.これらのシステムを最初から用いて紙

    ラベルの空間配置に相当する作業を行った場合には,

    上記で述べた配布時の問題は解消される.しかしこれ

    らのシステムでは基本的にマウスやキーボード,タブ

    レット等の操作によって空間配置を行うため,紙ラベ

    ルを用いた場合に比べて操作性が失われる.

    そこで我々は,手作業による紙とのインタラクショ

    ンを主体としつつ,配布や再利用性の高い電子データ

    を手軽に作成するため,ディジタルペンを用いた紙ラ

    ベル作業の電子化支援システム GKJを構築した [7].

    2 GKJの概要と利用例

    GKJ は,実世界における紙ラベルへの書き込みと

    空間配置操作を,再現性および再利用性の高い状態

    にて電子データ化するためのシステムである.GKJ

    はグループ KJ 法という,およそ 10~40名程度の参

    加者によるワークショップや集団研修など,単一また

    は複数グループでの活動を支援するために設計した.

    そこで GKJ の機能を説明するまえに,まずグループ

    KJ法 [8] について紹介する.

    2. 1 グループKJ法

    典型的なグループ KJ 法 [8] は以下の手順で行わ

    れる.

    1. 具体的な「問題意識」や「テーマ」について,

    各参加者がアイディアを紙ラベルに記入する.

    2. 記入した紙ラベルを模造紙上に配置した「点メ

  • Vol. 31 No. 9 2014 79

    図 1 点メモ花火図解

    モ花火図解」(図 1)を作成する.点メモ花火図解

    とは,KJ法のラベル集めの前段階として用いら

    れる図解で,模造紙中央の「問題意識」や「テー

    マ」から放射状にラベルを配置したものである.

    ここでは参加者が順番に,記入したアイディアを

    発表しながら配置していく.このとき,基本的に

    類似した紙ラベルは同一放射線上 (系列)として

    配置していくが,系列が途中で分岐したり,関連

    のある他の系列上のアイディアと結合することも

    ある.このような作業により,不足している観点

    の洗い出しと,個々のアイディアの内容の確認,

    およびアイディア全体の距離感の共有を行う.必

    要に応じて紙ラベルを追加記入する.配置が確定

    したら,紙ラベルを模造紙に完全に貼り付けて固

    定する.

    3. 紙ラベルの数が多い場合は,点メモ花火図解上

    で,参加者の投票により代表ラベルを選出する.

    4. 代表ラベルを用いて KJ法のラベル集め(第一

    段階)を行う.内容が「近い」ラベルを集める.

    このとき,4 枚以上の紙ラベルを一度に集めず

    に,より近いもの同士のみで集める.なお、研修

    によってはこの段階以降をグループではなく個人

    作業で行う場合もある。

    5. 集めたラベルの内容を表す「表札ラベル」を作

    成する.集めたラベルのうえに表札ラベルを置

    き,クリップで束ねてグループ化する.

    6. 第一段階のラベル集めが終わったら,同様に第

    二段階のラベル集めを行う.これを全体のラベル

    数が 5~9に納まるまで繰り返す.

    7. ラベル集めが終わったら,グループ化によって

    構成された階層構造を保ちながら,束ねていたク

    リップを外して模造紙上に展開する.このとき、

    階層構造を「輪取り」と呼ばれる線で強調する。

    2. 2 従来のグループKJ法の問題点

    上で述べたグループKJ法を円滑かつ効果的に実施

    するためには、以下に挙げる問題を解決する必要が

    あった。

    1. ワークショップや研修の効果を高めるには、点

    メモ花火図解やKJ法の各段階での作業記録を参

    照し、ふりかえることが望ましいが、多くの参加

    者の作業状態を簡単かつ詳細に記録したり、過去

    の状態を参照したりすることが難しい。

    2. 手書きによる紙ラベル原本は点メモ花火図解で

    使用してしまうため、KJ法のラベル集めを行う

    ためには紙ラベルセットの複製が必要となる。と

    くに KJ法を個人作業で行う場合は、参加者人数

    分の紙ラベルセットを作成する手間が発生する。

    3. 「はじめに」でも述べたが、最終的な作業結果

    を再編集可能な状態で配布・共有することが難

    しい。

    2. 3 GKJ

    上記の問題を解決するため、我々はディジタルペン

    を用いた紙ラベル作業の電子化支援システム GKJを

    構築した。システム構成を図 xxに示す。参加者が専

    用の紙ラベル用紙にディジタルペンを用いてアイディ

    アを記入すると、その内容が逐次電子化される。ま

    た、紙ラベル用紙を模造紙大の台紙に置き、ディジタ

    ルペンを用いて紙ラベルと台紙をまたぐ筆記を行う

    と、紙ラベルの位置が正確に記録される。筆記内容お

    よび配置は時刻情報とともに記録され、ソフトウェア

    上で過去の状態を参照することができる。また、紙ラ

    ベルセットを手軽に作成するため、紙ラベルに記入し

    た内容をドラッグ&ドロップでコピーして、印刷する

    機能を備えている。

    コンセプトとしては、従来の実世界における紙ラベ

    ル操作については、ディジタルペンで記録できるよう

  • 80 コンピュータソフトウェア

    図 2 GKJ システムで作成した「現場取材の心得」図解

    にし、必要に応じてパソコンによる編集操作に移行で

    きる。

    プ KJ法における利用を想定従来のグループ KJ法

    での運用を考慮し,参加者はディジタルペンのみを配

    布し,また作成した電子データから再度,紙作業用の

    ラベルセットを印刷して簡単に生成することも可能

    である.紙ラベルの空間配置について,実世界と仮

    想世界双方をシームレスに行き来できる機能により,

    利用者は紙ベース作業の利点と,電子化による共有・

    再利用時の利点を同時に享受できることになり,空間

    配置に基づく思考作業の円滑化や会議の効率化が期

    待できる.

    2. 4 利用例

    ディジタルペンを用いた場合の,GKJシステムの

    典型的な利用例について述べる.

    1. 紙ラベルとペンを配布し,各参加者に記入して

    もらう.

    2. 記入した紙ラベルを用いて,点メモ花火図解を

    作成する.参加者は自分の紙ラベルを配置した

    ら,スキャン操作を行う.

    3. 点メモ花火図解ができあがったら,代表ラベル

    を集約して印刷し、ラベルセットを作成する.

    4. KJ 法のラベル集めを行う.まず縦横に配置し

    た初期状態で位置特定を行っておく.内容が「近

    い」ラベルを寄せる操作を行うたびに,位置特定

    を行う.

    5. 「近い」ラベルに表札をつける.新しい表札ラ

    ベルを用意し「近い」ラベルと並べ,グループ化

    する.グループ化した紙ラベルについてクリップ

    で束ねていく.

    6. ラベル集めが終わったら台紙上に展開していく。

    従来は階層構造を失わないように注意深くクリッ

    プを外していったり,配置操作を試行錯誤的に行

    う必要がある.しかし GKJシステムでは,すで

    に紙ラベルの階層が記録されているので,計算機

  • Vol. 31 No. 9 2014 81

    図 3 アノト方式ディジタルペンと専用ラベル用紙

    画面上でラベル階層をすべて展開して,トップレ

    ベルのラベルをドラッグするだけですべてのラベ

    ルを配置した図解の案を簡単に作成することが

    できる.もちろん,実際の紙での配置を行うこと

    もできるが,先に画面での試行錯誤により配置例

    を作成しておいたほうが,実際の紙操作による操

    作を効率化できる.

    手書き文字認識エンジンが利用できれば,ラベルの

    見た目を手書き文字表記からテキスト表記に変換で

    きる.図 2 に,テキスト表記により清書した図解の

    例を示す.図 2 で階層構造の視覚化に用いているな

    めらかな曲線(輪取り線)は,グループ内ラベル頂点

    の convex hullを計算し,その構成点をベジエ曲線に

    より繋ぐことで実現している.輪取り線上に沿って表

    示するテキストは,ラベル内テキストの表記モード変

    更によって実現している.このテキストのサイズはマ

    ウスドラッグにより自由に変えることができる.

    3 筆記による紙ラベルの位置特定と階層化

    GKJシステムでは,アノト方式のディジタルペン

    と用紙(図 3) を利用し,紙ラベルへの筆記取得と

    紙ラベルの位置特定を行う.アノト方式のデジタルペ

    ンを用いると,ドットパターンが印刷された特殊な紙

    の上で筆記した際の座標系列と筆記時刻を電子的に

    記録・送信することができる.仕組みとしては,ペン

    先に赤外線カメラが内蔵されており,筆記中のドット

    パターンを高速に読み取る.用紙とパターンの対応

    をあらかじめ記録しておけば,「いつ」「どのペンで」

    図 4 異なる用紙をまたいだ筆記は分断される

    図 5 分断された筆記が連続かつ短時間であれば右の図の

    ように「接続されていた」とみなす

    図 6 2 点の接続点があれば,傾きも正確に検知できる

    図 7 グループ化とグループ解除のジェスチャ

    「どの用紙の」「どこの座標に」筆記が行われたかを

    正確に記録することができる.

    3. 1 紙ラベルの位置特定

    GKJシステムでは,アイデアや思いつきを記載す

    る紙ラベルと,それを配置する模造紙大の紙(作業台

    紙)それぞれにドットパターンが印刷された用紙を用

    いる.通常の紙ラベル内のみ,もしくは作業台紙内の

    みに書かれた 1 回の筆記は,従来どおり「手書き筆

    記データ」として記録する.ただし図 4 に示すよう

    な「紙ラベルと作業台紙をまたいだ筆記」について

    は,ディジタルペン内部では紙ラベル上で行われた筆

    記と,作業台紙上で行われた筆記に分断される.こ

    れらの筆記が連続で,ほぼ同じ時刻に行われていた

    場合,図 5 のように,紙ラベル上で最後に認識され

  • 82 コンピュータソフトウェア

    図 8 演習の様子 1 (JAIST 石川キャンパス)

    図 9 演習の様子 2 (JAIST 石川キャンパス)

    た座標と,作業台紙上で最初に認識された座標を用

    いれば「接続されていた点」を計算できる.なお図 6

    のように接続点が 2 点以上の場合は傾きも決定でき

    る.実際の操作では,1回の筆記で複数の紙ラベルを

    通過するような筆記による入力も可能である.先行

    研究として Ikedaらの研究ノートの電子化 [9]がある

    が,我々はこの手法をグループ KJ法に適用した.

    3. 2 紙ラベルの階層化

    上記の位置特定操作のみでも空間配置に基づくグ

    ループ化は可能である.しかし,KJ 法におけるグ

    ループ化では,類似内容をもつ複数の元ラベルに対し

    て,その内容を包含する「表札ラベル」を追加し,そ

    れ以降は表札ラベルのみを参照して次の段階のラベ

    ル集めを行うこととされている.我々はディジタルペ

    ンのみを用いてこのようなKJ法特有の紙ラベルの操

    作を記録するため,階層化(グループ化,グループ解

    除)専用の筆記ジェスチャを実装した.「グループ化」

    は,図 7 左に示すように表札ラベルから出発し,そ

    図 10 演習の様子 3 (JAIST 田町キャンパス)

    図 11 地方公共団体での研修

    図 12 KJ Workshop at Leeds, UK

    れに含める下位の紙ラベル上を経由して,再び表札ラ

    ベルに戻る操作とした.これは KJ法の図解を作成す

    る際,グループに対して記入する “輪取り”筆記の動

    きに基づいている.「グループ解除」は,図 7右に示

    すように表札ラベルから解除したい下位ラベル上を 1

    回の筆記で払い出すような線を記入する.なお不要な

    筆記がラベルや作業台紙に残るのを避けるため,上記

  • Vol. 31 No. 9 2014 83

    で述べた位置特定および階層化の操作は図 9に示す

    ように透明なクリアファイルを被せた上から行うこと

    を想定している.

    3. 3 GKJシステムの利点

    ディジタルペンを用いることの主な利点として,従

    来の KJ法演習において一般的に用いられてきた紙と

    いう普遍的で親しみやすいメディアを利用できること

    が挙げられる.図 8に示すように講師がラベルを手

    に持って直接示すことができたり,参加者が手元に自

    由に配置できたりするので,特別な操作や振舞いを強

    いることがなく,思考を妨げにくい.また位置特定や

    階層化の操作は他者から直接見えるため,参加者間で

    の状況認識や分担も行いやすい.なお GKJシステム

    で使用しているディジタルペンは無線通信により複

    数のペンからの情報を 1 台の受信機に集約すること

    ができる.そのため,参加者は自分のペンを用いて,

    筆記操作や位置決め操作を自分の好きなタイミング

    で行うことができる.

    さらに,紙とペンを用いているので,電子的な機材

    (特に,テーブルトップシステム) に比べて軽量で可

    搬性が高い.そのため,国内外におけるさまざまな場

    所での演習やワークショップに持っていって適用する

    ことができた(図 10~図 12).以前筆者らは紙ラベ

    ルの位置を逐次記録するテーブルトップシステムを構

    築していた [10]が,可搬性が低いため活用できる場面

    は限定されていた.元来,KJ法は野外科学という現

    実世界の観察と経験,関わりを重視する学問体系を

    提唱した文化人類学者の川喜田二郎が,現地調査や

    フィールドワークで得た多種多様で異質なデータ・情

    報から新しい発想とアイデアを生むために開発した

    技法であり,移動大学という実践的な研修教育の活動

    を通じて伝承されてきたものである.そのため,KJ

    法というラベル発想法を支援するにあたって,現場に

    持ち込んで運用できること,すなわち可搬性やさまざ

    まな環境に適用できるといった観点は本来の野外科学

    や KJ法の主旨からみても重要であると考える.ちな

    みにラベルへの筆記や位置決め,グループ化といった

    作業は,確認や出力を伴わなければディジタルペンと

    紙のみで可能であるため,電車での移動中や食事中な

    ど,会議以外の時間でも手軽に行える.

    電子化された図解データは,独自形式で保存すれ

    ば個々の紙ラベルを独立して扱えるため,移動や再

    編集といった操作が容易である.ディジタルカメラや

    ディジタルビデオカメラで静止画像または動画像とし

    て作業を撮影した場合は,記録という点では残るが,

    再度検討・編集するといった利用には不向きである.

    また,配布・閲覧・印刷をしやすくするため,図解を

    PDFファイルに出力する機能も備えている.

    4 GKJシステムの設計と利用例

    GKJシステムの設計にあたっては,ディジタルペ

    ンによる入力以外にも,マウスやキーボードを用いた

    ラベルの操作も可能としている.その理由としては,

    活動後に図解を修正する場合に必ずしもディジタルペ

    ンが利用できるとは限らないことと,用途に応じて適

    切なインタフェースを利用できることが望ましいと考

    えたからである.なお基本的に GKJシステムは常に

    ペンによる筆記や位置特定,階層化の入力と,マウス

    によるラベル操作による入力を受け付けており,その

    結果は随時画面に反映していく仕組みとなっている.

    なお GKJシステムでは図解からラベルの階層構造

    を示すアウトラインテキストを出力したり,出力した

    アウトラインテキストから図解を生成する機能を備

    えている.

    5 おわりに

    ディジタルペンを用いた紙ラベル作業の電子化支援

    システム GKJの仕組みと特徴,機能について紹介し

    た.ちなみに GKJシステムを開発したのは,筆者が

    2004年に受講した 2日間の KJ法の講習会 [8]で大き

    な感銘を受けたことがきっかけとなっている.講習を

    受ける前の KJ法に対するイメージは,機械的な手順

    に従っていけばよいという表面的で無機的な印象で

    あった.しかし KJ法の本質はもっと泥臭いもので,

    人間が自分自身の魂と対峙し,自問・格闘する点にあ

    ることを,身を持って学んだ.たった 2日間の講習で

    あったが,これが筆者の KJ法に対する貴重な原体験

    となった.その後もいくつかの講習会に参加するうち

    に,KJ法演習の改善に関与したいと考えるようにな

  • 84 コンピュータソフトウェア

    り,システムの開発につながっていった.当時は意識

    していなかったが,いま振り返ると,この経緯そのも

    のが「現場の問題を現場で考える」という KJ法の思

    想と通底していたと感じる.またシステム設計におけ

    る可搬性の重視や,作業を詳細な履歴として記録す

    るといった考えも,原体験としての KJ法演習や図 2

    に示した「現場取材の心得」をはじめとする良質な教

    材に導かれたものといえる.そうした意味でも,この

    GKJシステムが本来の KJ法の思想を啓蒙すること

    に少しでも役立つようになれば幸いである.

    GKJシステムは以下からダウンロードできる(要

    Java環境).http://bit.ly/groupkj

    謝辞 GKJシステムの開発と研究の推進にあたって

    は,みむら創造技法研究所の三村修氏に多くの指導と

    助言ならびに実践協力をいただきました.ここに感謝

    の意を表します.本研究開発の一部は科学研究費補助

    金 (20680036,20300046,23680078) の支援による

    ものです.

    参 考 文 献

    [ 1 ] 川喜田二郎. 続・発想法—KJ法の展開と応用—. 中公新書, 1970.

    [ 2 ] 小山雅庸, 河合和久, 大岩元. カード操作ツールKJ エディタの実現と評価. コンピュータソフトウェア,Vol. 9, No. 5, pp. 416–431, 1992.

    [ 3 ] 三末和男. 図的発想支援システム D-ABDUCTORの開発について. 情報処理学会論文誌, Vol. 35, No. 9,pp. 1739–1749, 1994.

    [ 4 ] Jun Munemori. GUNGEN: Groupware for a new

    idea generation support system. Inf. Soft. Technol.,

    Vol. 38, No. 3, pp. 213–220, 1996.

    [ 5 ] 重信智宏, 吉野孝, 宗森純. GUNGEN DX II : 数百のラベルを対象としたグループ編成支援機能を持つ発想支援グループウェア. 情報処理学会論文誌, Vol. 46,No. 1, pp. 2–14, 2005.

    [ 6 ] 由井薗隆也, 宗森純. 発想支援グループウェア KU-

    SANAGI を用いた集合知型会議の検討. 情報処理学会論文誌, Vol. 53, No. 11, pp. 2635–2648, November2012.

    [ 7 ] Motoki Miura, Taro Sugihara, and Susumu Ku-

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    formation and systems, Vol. 94, No. 3, pp. 456–464,

    March 2011.

    [ 8 ] 三村修. KJ法における作法の研究. Master’s thesis,北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科, March2005. http://hdl.handle.net/10119/537.

    [ 9 ] Hisashi Ikeda, Naohiro Furakawa, and Kosuke

    Konoishi. iJITinLab: Information Handling Envi-ronment Enabling Integration of Paper and Elec-

    tronic Documents. In Proceedings of CoPADD, pp.

    25–28, 2006.

    [10] Motoki Miura and Susumu Kunifuji. A Tabletop

    Interface Using Controllable Transparency Glass

    for Collaborative Card-based Creative Activity. In

    Proceedings of KES2008, LNAI5178, pp. 855–862,

    September 2008.

    三浦 元喜

    1997年筑波大学第三学群情報学類卒

    業.2001年筑波大学大学院博士課程

    工学研究科電子・情報工学専攻修了.

    博士(工学).同年筑波大学電子・情

    報工学系助手.2004年より北陸先端科学技術大学院

    大学知識科学研究科助手(2007年より助教).2009

    年より九州工業大学大学院工学研究院基礎科学研究

    系准教授.ヒューマンコンピュータインタラクショ

    ン,モバイルインタフェース,教育支援等に関する研

    究に従事.情報処理学会,ACM,ヒューマンインタ

    フェース学会,電子情報通信学会,人工知能学会,日

    本教育工学会,日本創造学会等各会員.