15
- 1 - GPS いた Aletsch 大学大学院 学院 ( 1 ) ( 1 ) ( 1 ) 1.Introduction あり がら おり をゆっくり れ、一 1 10m があるこ がわかっている。そ によ って 体が変 するこ るこ つから っている。 それ において よう 割を たしている だろうか。 し、 するが、こ まま し、 してしまう。 によって 域から 域に って するこ によって が維 される ある。また 態に ある ずだが、 が変 している すれ いこ され、そ から が拡大 にある にある かを きる がある。 そういった から あり、 われている。 ったが、 また じ位 るこ き、それにより について めるこ きる あろう。また く依 するため、 から めるこ した。 位システム(Global Positioning System、以 GPS)いた。 GPS データを いて するシステム ある。GPS が他 、悪 から くて 、衛 データを いているため mm ある。こ している。よって GPS が多く いら れている。 1.2.Purpose of our observation により Aletsch めるこ

GPS を用いた Aletsch 氷河の流動速度測定-1 - GPS を用いたAletsch 氷河の流動速度測定 北海道大学大学院環境科学院 新井剛 (起学専攻修士1

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GPSを用いた Aletsch氷河の流動速度測定

北海道大学大学院環境科学院 新井剛 (起学専攻修士 1年) 塩原愛 (起学専攻修士 1年)

内藤智志 (地球圏科学専攻修士 1年) 1.Introduction 氷河は固体でありながらもその名のとおり谷間をゆっくり流れ、一般的な規模の氷河で

は 1年間に数 10m程度の表面流動があることがわかっている。その流動現象は、重力によって氷河自体が変形することと、氷河が基盤の上を滑ることの二つから成り立っている。 それでは氷河の流動は氷河の存在においてどのような役割を果たしているのだろうか。

氷河は涵養域で質量を増加し、消耗域で質量を減少するが、このままでは涵養域で氷厚が

無限に増加し、消耗域では氷河が消滅してしまう。重力によって涵養域から消耗域に向か

って氷河が流動することによって氷河が維持されるのである。また氷河が定常状態になる

と氷河の各点の流動速度は一定であるはずだが、もし流動速度が変化しているとすれば氷

河が定常状態でないことが示唆され、その流動速度変化から氷河が拡大傾向にあるのか減

少傾向にあるのかを判定できる可能性がある。 そういった理由から氷河の流動は重要であり、世界中の様々な氷河では流動速度の測定

が行われている。今回の私達の実習でも流動速度の測定を行ったが、来年また同じ位置で

測定を行えば流動速度の変化を得ることができ、それにより氷河の質量増減について議論

を進めることができるであろう。また表面流動速度は氷河の表面傾斜に強く依存するため、

今回は高度分布から表面傾斜を求めることも目的とした。 今回の測定では、全地球測位システム(Global Positioning System、以下 GPS)を用いた。

GPS は衛星のデータを用いて地球上の地点の三次元座標を測定するシステムである。GPSが他の測定方法と異なる点は、悪天候などで基準点から測定点が見えなくても測定ができ

る点、衛星のデータを用いているため精度が数 mm と非常に高い点である。この高い精度や柔軟性は雪氷圏での観測に適している。よって最近の氷河の観測には GPSが多く用いられている。 1.2.Purpose of our observation 上記の理由により今回の観測では、Aletsch氷河の流動速度、表面傾斜を求めることを主

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な目的とし、また、同時に行う他の測定(GPR、断面観測など)の測定点の座標を得ることも目的としている。 2. Methods 2.1. Study site Aletsch氷河は、スイス最長の 24kmにわたる氷河である。Aletsch氷河は、周辺一帯と合わせて世界遺産に登録されている。総称して Aletsch氷河と呼んでいるが、実際はMönchから続く Ewigschneefäldと Jungfrauから延びる Jungfraufirn、Aletschhornの北側に広がる Aletschfirn という 3 つの氷河が Konkordiaplats にて合流して、大きな Grosser Aletschgletscherとして流れている。

2006年 5月 17、18日、Jungfraufirn上流の比較的なだらかな斜面上において、GPSを用いて氷河の流動速度及び、他の観測のための位置情報を測定した。

Figure2.1 Aletschgletscher (Jungfraufirn) 2.2. Measurement methods 2.2.1 Instruments 今回の観測では、Leica GPS System 1200という GPS装置を用いた。装置の内容は、レシーバーとアンテナ、キーパッドコントローラ、バッテリー、compact flashカード。また、後述する RTK positioning 観測では、この他に無線とアンテナをレシーバーに装着した。

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2.2.2. GPS survey operation 今回の観測では、その用途によって二種類の観測手法を使い分けた。Static relative positioningと、RTK (Real-Time Kinematic) positioningである。 Static relative positioning は、アンテナとレシーバーの固定点を二つ作り、その一方(reference point)に対するもう一方の相対位置情報を得る手法である。装置の接続はFigure2.2の通りである。reference point(基準点)の座標を予め知っておくことで、もう一方の座標を相対的に求めることを目的とし、今回は観測点より上流側の岩盤上に reference pointを設置した。この手法を用いれば、二点間の距離が数 kmであれば水平方向に 2、3mm、鉛直方向に 5mm程度の精度をもって測定することができる。ただ、測定した位置情報はその場では処理できず、全ての測定が終った後に compact flashカードに蓄積したデータを処理して、位置情報を得ることになる。

Figure2.2 Instruments set up of GPS survey

RTK positioningでは、reference pointは static relative positioningと同様に固定する(今回は共通の reference pointを用いた)が、もう一方(rover)は観測者が携帯して移動し、その先々でデータを取得する。装置は Figure2.3の通りである。Static relative positioningとの最大の違いは、reference point から無線で送信されてきたデータを即時処理技術をもってその場で処理する点である。そしてそれにより観測点の座標を決めるのに必要な時間

がとても短いという点である。しかし、二点間の距離は無線の電波の届く範囲に限定され、

また精度は数 cmと、static relative positioningに比べれば劣ってしまう。

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Figure2.3 Instruments set up of GPS for RTK positioning

2.2.3. This time methods 今回の測定における上記の手法の使い分けは、まず流動速度測定には static relative positioningを用いた。まずは reference pointを設置し、氷河上に 2mのアルミニウムポール(survey stake)を立て、そのポールにアンテナを固定して約 30 分間、15 秒間隔で GPSデータを記録した。翌日同じポールで同様の観測をし、その位置のずれと 1 回目の測定からの時間間隔からその点での氷河の流動速度を求めた。また、GPSデータの処理には Leica Geo Officeという処理ソフトを用いた。 次に他の観測を行った地点の位置情報を提供するための測定では、RTK positioningを用いた。Figure2.2のようなザックにレシーバーと無線を入れて観測者が背負ってアンテナを持って歩き回り、観測点ごとにアンテナを雪面に挿して 11秒間の測定を行い、その座標をキーパッド上の操作を介して得た。 2.2.4. Survey points 氷河流線に沿った GPR測定プロファイルの上流端付近と下流端付近、流線に直行する横

断プロファイルとの交差点付近、以上 3 点に流動速度測定用のポールを設置した。これらの流動測定点をそれぞれ TOP、DOWN、CENTERと呼ぶ。また、Jungfrau側から見て横断プロファイルの右端を RIGHT、左端を LEFTとする(Figure2.4)。流動速度測定をこれら3点で行なったほか、流線に沿った GPRプロファイル上の竹尺位置を DOWNから TOPにかけて 15 点(D4~D1、U0~U10)、RIGHT から LEFT にかけて 16 点(R5~R1、L1~L11)測定した。

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Figure2.4 Map of the study area showing the GPS survey site.

3.Results 3.1. Flow velocity

GPSの観測結果から氷河の流動速度を求めた。以下に流動速度の計算結果を示す。 スイスではスイス特有の座標系が使用されている。緯度・経度・高度の表示ではなく、ス

イス国外に原点をとりそこから東への距離、北への距離で位置を表示する方法であり、数

値にマイナスが出ないようにしてある。また高度に関してはジオイドを考慮した高度を使

用しているため、この報告では地球を楕円と考えたときの高度を使用する。 以下より、TOP、CENTER、DOWNについて、GPSで位置を測定した結果とそれから導出された年間の流動速度を、また、位置の変化をプロットした図を記す。

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(ⅰ)TOP

Table3.1 Change of the stake position and flow velocity at TOP easting northing Altitude

観測 1日目(m) 641633.3388 154763.7106 3409.0924

観測 2日目(m) 641633.3123 154763.7880 3409.6341

観測 1日目と 2日目の移動距離(m) -0.0265 0.0774 0.5417

年間流動速度(m/y) 11.02 -32.21 -225.42

計測時間(s) 75780 75780 75780

t o p

154763 .5

154763 .6

154763 .7

154763 .8

154763 .9

154764

6 4 1 6 3 3 . 0 6 4 1 6 3 3 . 1 6 4 1 6 3 3 . 2 6 4 1 6 3 3 . 3 6 4 1 6 3 3 . 4 6 4 1 6 3 3 . 5

e as t in g (m )

no

rth

ing(m

)

t o p

154763 .5

154763 .6

154763 .7

154763 .8

154763 .9

154764

6 4 1 6 3 3 . 0 6 4 1 6 3 3 . 1 6 4 1 6 3 3 . 2 6 4 1 6 3 3 . 3 6 4 1 6 3 3 . 4 6 4 1 6 3 3 . 5

e as t in g (m )

no

rth

ing(m

)

Figure3.2 Position of the survey stake at TOP on 17 and 18 August 2006

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(ⅱ)CENTER

Table3.2 Change of the stake position and flow velocity at CENTER easting Northing altitude

観測 1日目(m) 641749.3396 154579.7734 3394.0936

観測 2日目(m) 641749.3751 154579.6908 3394.0751

観測 1日目と 2日目の移動距離(m) 0.0355 -0.0826 -0.0185

年間流動速度 (m/y) -13.63 31.73 7.107

計測時間(s) 82080 82080 82080

c e n te r

154579 .5

154579 .6

154579 .7

154579 .8

154579 .9

154580

6 4 1 7 4 9 . 0 6 4 1 7 4 9 . 1 6 4 1 7 4 9 . 2 6 4 1 7 4 9 . 3 6 4 1 7 4 9 . 4 6 4 1 7 4 9 . 5

e as t in g (m )

no

rth

ing(m

)

c e n t e r

154579 .5

154579 .6

154579 .7

154579 .8

154579 .9

154580

6 4 1 7 4 9 . 0 6 4 1 7 4 9 . 1 6 4 1 7 4 9 . 2 6 4 1 7 4 9 . 3 6 4 1 7 4 9 . 4 6 4 1 7 4 9 . 5

e as t in g (m )

no

rth

ing(m

)

Figure3.3 Position of the survey stake at CENTER on 17 and 18 August 2006

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(ⅲ)DOWN

Table3.3 Change of the stake position and flow velocity at DOWN easting Northing altitude

観測 1日目(m) 641774.4659 154504.7708 3388.2487

観測 2日目(m) 641774.5088 154504.6632 3388.2324

観測 1日目と 2日目の差(m) 0.0429 -0.1076 -0.0163

年間流動速度(m/y) -17.32 43.45 6.58

計測時間(s) 78090 78090 78090

down

154504 .5

1 54504 .6

1 54504 .7

1 54504 .8

1 54504 .9

154505

6 4 1 7 7 4 . 2 6 4 1 7 7 4 . 3 6 4 1 7 7 4 . 4 6 4 1 7 7 4 . 5 6 4 1 7 7 4 . 6 6 4 1 7 7 4 . 7

e as t in g (m )

no

rth

ing

(m)

down

154504 .5

1 54504 .6

1 54504 .7

1 54504 .8

1 54504 .9

154505

6 4 1 7 7 4 . 2 6 4 1 7 7 4 . 3 6 4 1 7 7 4 . 4 6 4 1 7 7 4 . 5 6 4 1 7 7 4 . 6 6 4 1 7 7 4 . 7

e as t in g (m )

no

rth

ing

(m)

Figure3.4 Position of the survey stake at DOWN on 17 and 18 August 2006

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3.2. Measurement of position of other observations RTKを用いて、GPRの測定プロファイルに沿って 20m間隔で挿した stakeの位置を測定し、その結果を Table3.4にまとめた。また、その位置を Aletsch氷河の地形図上にプロットした(Figure3.5)。

Table3.4 Coordinates of the GPR profile stakes

easting northting altitudeD4 641767.3894 154515.6668 3390.6162D3 641757.3448 154532.8659 3392.1488D2 641747.0468 154550.0794 3393.6791D1 641737.2486 154567.4063 3395.2064U0 641727.323 154584.8222 3396.9513U1 641717.4733 154602.3564 3398.6677U2 641707.8909 154619.9989 3400.1831U3 641697.7179 154637.1137 3401.7755U4 641687.6009 154654.5798 3403.357U5 641677.2503 154671.6064 3404.8813U6 641666.7794 154688.6321 3406.2535U7 641656.3357 154705.6766 3407.519U8 641646.0931 154722.7335 3408.8012U9 641636.027 154740.3421 3410.3208U10 641626.2179 154757.48 3411.5506RE5 641554.3955 154467.2833 3392.8224RE4 641574.9741 154481.1544 3392.574RE3 641595.7534 154495.2164 3393.8798RE2 641616.7664 154508.604 3395.2936RE1 641637.8323 154521.8957 3396.2364R5 641654.0389 154532.4822 3396.7059R4 641669.5516 154545.0621 3396.9509R3 641686.7777 154555.4415 3396.872R2 641703.3005 154566.659 3396.9496R1 641719.4251 154578.459 3397.0518L1 641735.2686 154590.6769 3396.9121L2 641751.0411 154602.8552 3396.6029L3 641766.7026 154615.4539 3396.1654L4 641782.0168 154628.2163 3395.6598L5 641797.1149 154641.3394 3394.8937L6 641813.3495 154653.2715 3393.8353L7 641825.2697 154662.4207 3393.1487L8 641833.1171 154668.5002 3392.8621L9 641844.7696 154677.8107 3392.703L10 641860.3579 154690.2993 3393.464L11 641875.5318 154702.905 3396.0661

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Figure3.5 Map showing the GPS survey sites (red dot) and the

the annual mass balance measurement site (blue dot).

3.3. Surface slope of Aletschgletscher

Table3.4 に示した結果から、氷河流動方向と横断方向の二方向に対して表面高度を解析した。Figure3.6は氷河の流動方向の高度分布である。横軸はDOWNの位置からの距離で、縦軸は高度である。Figure3.7は氷河の流れの方向に対して垂直方向の高度分布である。横軸は RIGHTの位置から各定点の間の距離で、縦軸は高度を表している。この図から、氷河の中心付近は比較的平坦で、両脇は高度の変化が激しいことが推測される。

longitudinal profile

3385

3390

3395

3400

3405

3410

3415

0 50 100 150 200 250 300

distance(m)

alt

itu

de

(m)

Figure3.6 Surface elevation profile along the flow line. The distance is measured from DOWN

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transverse profile

3380

3385

3390

3395

3400

3405

3410

0 100 200 300 400 500

distance(m)

alt

itu

de

(m)

Figure3.7 Surface elevation profile across the flow line. The distance is measured from RIGHT

Figure3.6から、氷河の流動方向の表面傾斜を求める。TOPと DOWN間の水平距離の差

と高度の分布から、氷河の表面傾斜は約 4.3°であることがわかった。 4. Discussion 共に Aletsch氷河の調査を行なった ETHの Andreas Bauderは過去数年に渡って、年間質量収支測定のかたわら流動速度を測定している。そこで彼の測定結果と比較を行って今

回得られた測定値の妥当性を検討するとともに、数点で測定された流動速度の空間分布と

鉛直方向の流動速度についての考察を行なう。

Table 4.1 Annual mean flow velocity from 2004.10 to 2006.5 年間流動速度(m/y) 水平方向 30.1 垂直方向 -6.27

Table4.2 Annual flow velocity evaluated from this time measurements

年間流動速度(m/y) Top Center Down

水平方向 34.0 34.5 46.7 垂直方向 225.4 -7.1 -6.6

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Figure4.1 Position change measured by Andreas Bauder

October 2005

May 2006

October 2004

May 2005

October 2005

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Table4.2 Annual flow velocity evaluated from this time measurements 年間流動速度(m/y)

Top Center Down 水平方向 34.0 34.5 46.7 垂直方向 225.4 -7.1 -6.6

Figure4.1は Andreas Bauderによって測定された 2004年 10月から 2006年 5月(今回)の氷河上のポール位置変化であり、その間の平均流動速度を Table4.1に記す。今回測定された流動速度は Table4.2にまとめた。TOPにおける測定結果を Andreas Bauderによる結果と比較すると、水平方向の流動速度絶対値はほぼ同じであるが、流動方向は Figure3.2で示したように逆方向となっている。また鉛直方向の流動速度は現実的な数値ではない。これ

らのことから、GPS測定時に衛星との通信状態が悪く誤差が大きくなったため、TOPにおいては有意な流動速度が測定できなかったと考えられる。TOPにおける GPS測定精度の劣化は、解析結果に示される数値情報によっても確認された。一方、CENTERと DOWNの流動方向は両測定結果ともに南南東であり Andreas Bauder の測定結果とほぼ一致した(Figure3.3、3.4)。したがって今回の測定結果がある程度信頼できるものであることが示唆される。 Andreas Bauderの測定点と数 m以内の近い距離にある CENTERでの年間流動速度は、Andreas Bauderの測定値と比較的近い値となった。ふたつの測定値に差があるのは、測量間隔の違いによる測定誤差の違いが原因だと考えられる。Andreas Bauderによる測定は数ヶ月にわたる移動距離を測定しているために、移動距離が GPSの測量誤差である数ミリと比較して十分大きい。しかし私たちが測定した 1 日の移動距離は数センチであるため、年間の流動速度に反映される誤差は数メートルとなる。 次に今回 CWNTERと DOWNで得られた流動速度を比較する。DOWNでの水平方向の

年間流動速度は、明らかに CENTERでの測定値よりも大きくなっている。この原因として、Figure3.6でCENTER付近からDOWNにかけての傾斜がTOPからCENTER付近と比べ、微妙ではあるが増加している点が挙げられる。氷河の流動速度は表面傾斜に強く依存する

ことがわかっている。このため、DOWN地点での年間流動速度が CENTERと比較して大きいのではないかと推測される。また、一般に氷河の流れは氷厚の大きい中流域で最も早

くなる。観測地点は Aletsch氷河の最上流地点であるので、下流に向かうほど氷厚と流動速度が増加すると考えられる。 最後に鉛直方向の流動速度について議論する。水平方向の年間流動速度を u、氷河の表面

傾斜をαとし、氷河表面高度が一年間で変化しないと仮定する。氷河表面の標高 zにある雪粒が一年後に u だけ下流に移動したとき、その地点での表面高度は氷河の傾斜と表面高度一定の仮定から -u × tanαとなる(Figure 4.3)。涵養域では 1年の間に雪が表面に堆積するため、注目した雪粒は年間の積雪深 a だけ表面よりも下方に位置することになる。す

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なわち雪粒の鉛直方向の移動距離は-u × tanα+aとなる。したがって、ポールの先端は氷河表面の雪粒と共に流動していると考えると、測定される年間流動速度の鉛直成分は-u × tanα+aとなる。 CENTERにおける測定値 u = 34.5 m/y、α = 4.3°を用いると-u × tanα = 2.6m/yとなる。測定により得た鉛直方向の流動速度は約-7.1m/y であったことから、流動速度が昨年もほぼ同じであったとすれば、積雪が約 4.5mであれば氷河が定常状態にあったことになる。しかし、ドリリング調査班の報告によれば、2005年 5月から 2006年 5月までの 1年間の積雪深は約 3.6mほどであったという。したがって、過去 1年で約 0.9mの氷河表面高度の低下が起きていることになる。今回の測定精度でどこまでの議論が可能であるか検討

する必要があるが、十分正確な鉛直流動速度の測定によって Aletsch氷河の変動状態を議論することは今後の課題として有意義であると考えられる。

α

u

ice

icea

a

u tanα

Surface in this time measurement

Surface in the next year

Stake(pole)

Figure4.3 Schematic diagram showing the vertical stake movement.

5.Conclusion GPSの測定によって、以下のことが明らかになった。 ・ Aletsch氷河の、観測地点における年間流動速度が水平方向約 34.5(m/y)、垂直方向約

Page 15: GPS を用いた Aletsch 氷河の流動速度測定-1 - GPS を用いたAletsch 氷河の流動速度測定 北海道大学大学院環境科学院 新井剛 (起学専攻修士1

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-7.1(m/y)である。 ・ 氷河の流動方向の傾斜が約 4.3°である。 ・ 今回観測した地点では、2005年から 2006年にかけて 0.9mほど氷河表面高度が低下した可能性がある。

・ GPRの測定を支援するための 36本の stakeの位置を測定し地図上にプロットした。 6. Future 今回の結果をもとに、求められる改善点、そして今後の展望を以下にまとめた。 まず、今回の TOPの結果からも推測されるように、GPS測定においては、衛星からの電

波の取得状況が測定の精度を左右する。よって、よりよい結果を得るためにも、衛星の状

況に常に気を配りつつ測定することが望ましいだろう。また、次回での測定結果から、今

回の TOPの結果が、測定による誤差であったのかを明らかにできればよいと思う。 さらに、最長 24kmもある Aletsch 氷河で、全長たかだか数百mの測定だけでは有意な結果を得るのは難しいため、測定点間の距離を広げ、さらに長い距離を測定するべきだと

考える。今回より長い距離の測定を行うことで、氷河の流れをさらに広い範囲で見ること

ができ、氷河全体の流れを掴みやすくなるのではないかと思う。 さらに、氷河の観測期間を増やすことにより、流動速度の誤差を減らすことができると

思われる。実習の前半の日に観測機を取り付け、実習の後半の日に回収しに行けば、その

間の結果が得られ、さらに精度の高い氷河の動きがわかるのではないかと思う。 また、来年度以降からの測定結果と私たちの測定結果を比較し、氷河の流動速度などか

ら、地球温暖化との関連性や、氷河の流れに関する法則などが見えればとよいと思う。