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第26回 日本登山医学シンポジウム 会期 平成18年5月27日(土)-28日(日) 会場 日本青年館中ホール(東京都新宿区霞ヶ丘町7-1) TEL: 03-3401-0101(総代表) FAX: 03-3404-0611 The 26th Japanese Symposium on Mountain Medicine 会長 増山 (了徳寺大学健康科学部) 主催:日本登山医学会 26回事務局:了徳寺大学 健康科学部内(横井、穴原) 279-0014 千葉県浦安市明海23 TEL: 047-382-2598 Fax: 047-382-2017 E-mail: [email protected] 日本登山医学会事務局:川崎医療福祉大学 健康体育科内 701-0193 岡山県倉敷市松島288 TEL: 086-462-1111 FAX: 086-464-1109 E-mail: [email protected]

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第26回

日本登山医学シンポジウム

会期 平成18年5月27日(土)-28日(日)

会場 日本青年館中ホール(東京都新宿区霞ヶ丘町7-1)

TEL: 03-3401-0101(総代表)

FAX: 03-3404-0611

The 26th Japanese Symposium on Mountain Medicine会長 増山 茂

(了徳寺大学健康科学部)

主催:日本登山医学会

26回事務局:了徳寺大学 健康科学部内(横井、穴原)

〒279-0014 千葉県浦安市明海23

TEL: 047-382-2598

Fax: 047-382-2017

E-mail: [email protected]

日本登山医学会事務局:川崎医療福祉大学 健康体育科内

〒701-0193 岡山県倉敷市松島288

TEL: 086-462-1111

FAX: 086-464-1109

E-mail: [email protected]

1

第26回 日本登山医学シンポジウムを開催するにあたって

会長 増山 茂(了徳寺大学 健康科学部)

2006 年度日本登山医学会総会・第26回日本登山医学シンポジウムを 2006 年 5 月 27日

~5月 28日に開催いたします。 当会は 2005年から日本登山医学会と改名いたしました。前身

の日本登山医学研究会が昭和 56年に創設されて以来の25年の歴史を引き継ぐものです。今回

は3つのテーマを考えています。また3つの特別報告を行います。

まずは、「アジアの登山医学全体を見渡す」:

登山医学というものは、ある種、高踏なあるいは高尚な営みでした。 冒険心に満ち経済的余

裕ある欧州の貴族が、多くの従者ポーターを引き連れて高所という極地に至る。いまだだれも知

ることのない恐るべき極限の低酸素低温の世界を苦しみつつも克服する。この感動的な物語を医

科学的に”担保”する形で発展してきたのでした。

ときおりローカルな現地人--シェルパなど--も取り上げられることがありましたが、信じられない

能力を示す超人、あるいは逆に低酸素という異常環境に侵されてしまった廃人、などという極端な

姿で紹介されることが、当初は多かったようです。

登山医学は、つまりは欧州の貴族的研究者のものだったのです。現地--アジアのヒマラヤなど

の山岳地帯であれ南米のアンデスであれ--の役割は、調査の場所や役務を提供することでした。

現地の研究者や医師たちも研究の被験者役になったり、せいぜい補助役を務めることでしかあり

ませんでした。

しかし、ここでも世界は変りつつあります。高所医学に関する重要なオリジナルな論文がヒマラ

ヤやアンデスを抱える国の研究者から出始めています。当然です。全世界的に見て高所登山者

など年間数万人のオーダー。一方、標高 3000m以上の標高を生活の場とする人々はそれより3

桁は多いのです。 ヒマラヤの北と南、この地域で行われる研究がこれからの高所医学を牽引す

ることになるでしょう。

この地域の代表と将来の登山医学、特にアジアのそれを展望します。

つぎには、「トラベルメディスンからみた登山医学」:

登山医学には基礎医学的な側面があって、低酸素や低圧環境などといった極限の世界での生

理学研究の一部門を形成します。1960 年代-1970 年代の登山医学黎明期にはこの側面が強

かった。

もちろん、高山病や凍傷、ケガや骨折などといった登山やトレッキングの際に被る疾病や障害

のための臨床医学的性格も持っています。1980 年代から 1990 年代にかけて、高所登山や高

所トレッキングが大衆化するとともにこの側面が強調されるようになりました。

そして、忘れてはならないのは、社会医学的な側面です。私たち(私だけか?)が山に出かける

理由の半分は、同じところにじっと座っているのに堪えられないことにあります。ヒトにはこの好遊

2

走性が遺伝的にコードされているのではないか。アフリカで生まれたヒトが生物学的歴史時間か

ら考えるとあっという間に地球上に広がったのはこの資質を抜きにしては考えられないのではな

いか、と思わされます。

ヒトの疾病はこの移動と大きな関係がありました。異なった生態学的・微生物学的・社会学的環

境などヒトの遺伝的環境に影響を与える場により多く出会うからです。その種類・方法・到達点は

大きく様変わりしましたが、今もヒトは動き続けています。

ヒトが移動する際に考えなければならない医学は「Travel Medicine」としてまとめられそうで

す。私たち登山医学を考えるものは、社会医学の一領域である、この「Travel Medicine」との関

係をいつも考えておく必要があるでしょう。

今回はこの「Travel Medicine」関係の方々・実際に旅行中の顧客のケアをする旅行会社の

方々のお話をいただき討論する中からこれからの登山医学のこの領域での役割を考えたいと思

います。

そして最後に、「公募式ヒマラヤ Giants登山の功罪」:

いよいよ日本の山岳ガイドも本格的にこの世界に参入するようになりました。それまでは”登り

やすい 8000m峰”のチョーオユーやシシャパンマに限られていましたが、2004年から世界最高

峰のチョモランマにも対象を拡大。マナスルやナンガパルバットなどのうわさも聞こえてきます。

ほんとうに大丈夫なのだろうか、と危惧する声もきかれます。一方、装備・技術・天候予測の科

学の発達、シェルパの能力(?)などサポート体制の整備を考えれば、もはや難しいことではない、

との意見もあります。

しかし、いずれにせよ、問題は、応募者・企画者・山そのもの、のどれかの因子から発生してくる

はずです。一度それぞれの立場からきちんと意見を表明しておいたほうがよい時期でしょう。

特別報告としましては、

「NPO『富士山測候所を活用する会』 の活動経過報告とリサーチプロポーザルの概要」

廃棄されつつある富士山頂上の測候所を高所にある科学研究所として維持しようとする私たち

の活動は、大気化学・天文学・植物学などさまざまな領域の研究者たちとの共同作業となりました。

NPO富士山測候所を活用する会、が結成されました。

以上、従来主力であった基礎医学的な研究とは少し離れる方向かもしれません。しかし、社会

への係わり方が次世代の登山医学にはより大切になるであろうと思います。医学関係の会員の

皆様ばかりではなく、登山者やスキーヤーの方々・旅行業に携わる方々をお誘いの上ひろくご参

加くださいますよう案内いたします。

3

会場 日本青年館中ホール

〒160-0013 東京都新宿区霞ヶ丘町7番1号

TEL03-3401-0101(総代表)

FAX03-3404-0611

URL: http://www.nippon-seinenkan.or.jp

・ JR 中央・総武線各駅停車 千駄ヶ谷駅より徒歩 9分 信濃町駅より徒歩 9分

・ 地下鉄銀座線 外苑前駅より徒歩 7分(渋谷寄り改札口を出て、3番出口)

・ 地下鉄大江戸線 国立競技場駅より徒歩 7分(A-2 出口)

4

第26回 日本登山医学会理事会・評議員会

理事会・評議員会をシンポジウムの前日、下記の要領で開催いたします。

期日:平成18年5月26日(金)

18:00~19:00 理事会

19:00~20:00 評議員会

場所:日本青年館 会議室

議事案件:

1 平成18年度功労賞候補者選抜について

2 平成18年度奨励賞候補者選抜について

3 平成17年度決算案について

4 平成18年度予算案について

5 平成17年度事業報告について

6 平成18年度事業計画について

7 選挙管理委員会規程について

8 第29回シンポジウム会長について

9 評議員の推薦について

10 その他

5

参加者のみなさまへ

1.参加費用

会 員:2000円

非会員:3000円

参加費は1日参加でも、2日間参加でも同額です。

懇親会費:4000円

2.参加登録受付け

5月27日(土):8:30-18:00

5月28日(日):8:30-12:00

3.総会

5月27日(土):13:00-13:20

4.懇親会

5月27日(土):19:00-21:00

日本青年館4F宴会場

5.年会費

会員で平成18年度会費5000円を納入されていない方は受付けでお納

めください。

6.新入会

入会ご希望の方は、当日入会申込書にご記入のうえ、受付けにお出しくだ

さい。

7.宿舎

宿泊等につきましては、ご自身で手配されますようお願い申しあげます。

6

演者のみなさまへ

時間制で借りている会場です。時間厳守にご協力ください。

1.発表の時間

<一般演題の演者の方へ>

・一般演題の演者の発表時間は、口演 7分+質疑応答 3分、計 10 分です。

・発表の 15 分前までには次演者席にて待機ください。

<シンポジウムの演者の方へ>

・シンポジウムの演者の発表時間は 20 分です。質疑応答は全員の発表が終わってから行い

ます。座長の指示に従ってください

・座長より、進行に関する事前打ち合わせについて連絡がある場合があります。

2.使用できる機器

・ウインドウズ PC1台とプロジェクター1台を使用します。

・使用するソフトは、ウインドウズのパワーポイントを標準とします(パワーポイントの

バージョンは 2003です)。これ以外のハード・ソフトをご使用の方は事前にお知らせくだ

さい。

・発表用のデータをデジタル媒体(USB メモリーや CD-R)にてスライド受付に提出し、確

実に作動することを事前に確認してください。

・発表スライド枚数の制限はありません。

・光学的スライドプトジェクターは用意しません。

・OHP も用意しません。

・ビデオ機器も使用できません。

座長へのお知らせ

担当セッション開始予定の 30 分前までに受付にお立ち寄りのうえ、会場にお入りください。

時間厳守を徹底させてください。

7

プ ロ グ ラ ム

平成18年5月27日(土)

8:55-9:00

開会の辞 会長 増山茂

9:00-9:50 一 般 演 題 A

座長 山本正嘉(鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター)

A-1 高地適応に関する疫学調査と ACE遺伝子多型の関与

雲登卓瑪 1)、花岡正幸 1)、久保惠嗣 1)、小林俊夫 2)、Pritam Neupane3)、Amit Arjyal3)、

Anil Pandit3)、Dipendra Sharma3)、Buddha Basnyat3,4)

1)信州大学医学部内科学第一講座、2)長野県厚生連リハビリテーションセンター

鹿教湯病院、3)Mountain Medicine Society of Nepal、4)Nepal International Clinic

A-2 携帯型低酸素トレーニング機器を用いた Intermittent Hypoxic Trainingの効果-高所

登山者向けの順化を目的として-

柴田幸一 1)、大澤拓也 2)、山本正嘉 2)

1)鹿児島医療福祉専門学校、2)鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究セン

ター

A-3 1日 12 時間の間歇的低圧環境曝露が血液性状に及ぼす影響

岡本啓

富山県立大学工学部

A-4 中等度高所での呼吸法・姿勢等の介入が動脈血酸素飽和度に及ぼす影響-介入中

および介入後の即時的改善効果-

高橋堅 1)、岩田学 2)

1)新潟リハビリテーション病院理学療法科、2)弘前大学医学部保健学科理学療法

学専攻

A-5 息こらえ時間と呼吸化学感受性との関連

横井麻理 1)、吉野智佳子 2)、増田敦子 1)、増山茂 1)

1)了徳寺大学健康科学部理学療法学科、2)千葉県医療技術大学校作業療法学科

8

9:50-10:30 一 般 演 題 B

座長 高山守正(日本医科大学器官病態内科学)

B-1 奥穂高岳登山での高山病症状出現の危険因子の検討

加藤義弘 1)、城弟知江 2)、大平幸子 2)、鈴木欣宏 1)、高見剛 1)、松岡敏男 1)

1)岐阜大学大学院医学研究科、2)岐阜大学附属病院看護部、岐阜大学医学部奥穂

高診療所

B-2 国内登山時に急性虫垂炎を発症し、下山後手術を行ったが救命できなかった1例

内藤広郎 1)、黒木嘉人 2)、山本健一郎 3)

1)みやぎ県南中核病院外科、2)飛騨市民病院外科、3)日本山岳会

B-3 日本山岳耐久レース中、御前山で心肺停止をきたし、AEDで救命しえた一症例

神尾重則 1)、船山和志 2)、大森薫雄 3)、野口いずみ 4)

1)崎陽会落合クリニック・東京都山岳連盟、2)鶴見区福祉保健センター、3)横須

賀老人ホーム診療所、4)鶴見大学歯学部

B-4 中高年登山者における登山プロセスが標高 2300m での動脈血酸素化・脈拍数に及

ぼす影響

手塚晶人 1,6)、高山守正 2,6)、滝沢憲一 3)、安藤岳史 4,6)、中村隆 5)、五十嶋一成 6)

1)日本医科大学4年、2)日本医科大学器官病態内科学、3)横浜市立大学市民医療セ

ンター、4)日本医科大学麻酔科学、5)中村病院、6)日本医科大学山岳医学研究会

10:30-10:40 休憩

10:40-12:00 特 別 講 演 1

アジアの登山医学全体を見渡す

座長 中島道郎(高折病院)・小林俊夫(鹿教湯病院)

「Mountain medicine: Silver hut to 21st century」:James S. Milledge(ISMM会長)

「Changes of cardiac structure and function in pediatric patients with high altitude heart

disease in Tibet」:Ge Ri-Li(中国)

「Neurological conditions at altitude which fall outside the usual definition of altitude

sickness」:Buddha Basnyat(ネパール)

9

12:00-13:00 ランチョンセミナー

座長 神尾重則(崎陽会落合クリニック・東京都山岳連盟)

「急死から救う:登山者に知って欲しい自動体外式除細動器 AEDの知識」

高山守正(日本医科大学内科学第一講座)

13:00-13:20 2006 年度日本登山医学会総会

議長 増山茂

会計報告・評議員推薦・次次期会長選任・功労賞・奨励賞発表など

13:20-13:40 奨励賞受賞講演

「低圧低酸素環境下と常圧低酸素環境下における安静および運動中の呼吸循環応答の違

い」

前川剛輝(国立スポーツ科学センター)

13:40-15:20 シンポジウム1

トラベルメディスンからみた登山医学

「航空機旅行と登山医学」

大越裕文(日本航空インターナショナル)

「高所(山岳)旅行業者が求めたいこと」

黒川惠(旅行業ツアー登山協議会会長)

「信頼できる登山医学検診医ネットワーク構築の試み」

堀井昌子(日本登山医学会検診医ネットワーク小委員会)

「日本におけるトラベルクリニックネットワークの現状」

濱田篤郎(労働者健康機構・海外勤務健康管理センター)

15:20-15:40 休憩

10

15:40-16:20 一 般 演 題 C

座長 松林公蔵(京都大学東南アジア研究センター)

C-1 高所環境における肥満治療の研究(第 5報) -高度変化(平地・立山・富士山)

によるエネルギー消費量,糖・脂質代謝の変化-

長崎成良 1)、高櫻英輔 1)、金山昌子 1)、家城恭彦 1)、田邊隆一 1)、斎藤昌之 2)

1)黒部市民病院臨床スポーツ医学センター 同登山医学研究室、2)北海道大学大

学院獣医学研究科生化学教室

C-2 携帯型呼吸代謝測定装置による登山中のエネルギー消費量の測定-歩行速度、上

りと下り、体重、ザック重量の違いによる影響-

中原玲緒奈 1)、萩原正大 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学大学院、2)同体育学部、3)同スポーツトレーニング教育研究セン

ター

C-3 携帯型呼吸代謝装置による登山中のエネルギー代謝の測定―8時間の登山時にお

ける経時的変化-

萩原正大 1)、中原玲緒奈 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学体育学部、2)同大学院、3)同スポーツトレーニング教育研究セン

ター

C-4 水分摂取量の違いが登山時の血圧に及ぼす影響

斉藤篤司 1)、中尾武平 2)、西田順一 3)、村上雅彦 2)、藤原大樹 2)、川渕大毅 2)、大

柿哲朗 1)

1)九州大学健康科学センター、2)九州大学大学院人間環境学府、3)福岡大学スポ

ーツ科学部

16:20-17:00 一般演題D

座長 内藤広郎(みやぎ県南中核病院外科)

D-1 日・英における山岳遭難事故の特徴について

湯浅直樹、青山千彰

関西大学総合情報学部

11

D-2 指導・引率登山への適用を考慮した PLP法の適用精度の検討

青山千彰

関西大学総合情報学部

D-3 山岳地で見られる情緒不安定の今昔

藤枝和夫

明海大学臨床研修センター

D-4 クライマーにおける手指の変形について

西谷善子、小西由里子

国際武道大学体育学部スポーツトレーナー学科

17:00-17:10 休憩

17:10-17:30 特別報告

座長 浅野勝己(筑波大学)

「NPO『富士山測候所を活用する会』の活動経過報告とリサーチプロポーザルの概要」

土器屋由紀子(江戸川大学)

17:30-19:00 シンポジウム2

公募式ヒマラヤ Giants登山の功罪

コーディネーター 貫田宗男(日本山岳会海外委員長)

「ヒマラヤ登山の大変革-公募登山隊の隆盛が示唆するもの」

江本嘉伸(山岳ジャーナリスト)

「ヒマラヤ登山の大衆化と公募登山」

大蔵喜福(高所山岳ガイド)

「ヒマラヤ公募登山のもたらしたもの」

池田常道(元「岩と雪」編集長)

「The Medical Aspects of Commercial Expeditions」

Buddha Basnyat(HRA;ヒマラヤ救助協会)

特別発言 近藤和美・南井英弘・倉岡裕之

12

19:00-21:00 懇 親 会(日本青年館)

平成18年5月28日(日)

9:00-9:50 一般 演 題 E

座長 久保惠嗣(信州大学医学部内科学第一講座)

E-1 南極における高所への移動方法の違いによる呼吸循環状態の比較

大谷眞二 1)、大野義一朗 2)、大日方一夫 3)、下枝宣史 4)、大野秀樹 5)

1)日野病院外科、2)代々木病院外科、3)南部郷総合病院外科、4)下都賀総合病院

脳神経外科、5)杏林大学医学部衛生学公衆衛生学

E-2 エベレスト周辺の自然放射線測定

野口邦和 1)、中川久美 1)、岡野眞治 2)、加藤博 3)

1)日本大学歯学部、2)放射線影響協会、3)理化学研究所

E-3 富士山頂での普及型酸素濃縮器使用経験

齋藤繁 1)、嶋田均 2)

1)群馬大学医学部麻酔科、2)公立富岡総合病院麻酔科

E-4 低圧低酸素環境下による内耳機能への影響

井出里香 1)、原田竜彦 2)、神崎晶 2)、斉藤秀行 2)、小川郁 2)、星川雅子 3)、

川原貴 3)

1)(財)ライフエクステンション研究所付属永寿総合病院耳鼻咽喉科、2)慶應義

塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室、3)国立スポーツ科学センター

E-5 雪洞における保温下着使用が心拍数,直腸温および主観的温度感覚に及ぼす影響

小野寺昇 1)、関和俊 2)、西村一樹 2)、岡本武志 2)、西岡大輔 2)、石田恭生 2)、小野

くみ子 2)、小えり 2)、白優覧 1)

1)川崎医療福祉大学、2)川崎医療福祉大学大学院

9:50-10:00 休憩

13

10:00-11:00 特 別 講 演 2

座長 堀井昌子(日本山岳協会医科学委員会)

「人類の移動と拡散:厳寒の極北への適応」:関野吉晴(冒険家)

11:00-12:00 特 別 講 演 3

座長 斉藤繁(群馬大学医学部麻酔科)

「冬季北アルプスワンディ滑降」:早川康浩(山スキーヤー)

12:00 閉会の辞 会長 増山茂

14

功 労 賞

早田義博(はやた よしひろ)

大正13年1月13日生 82歳

学歴

昭和11年 3月 呉本通小学校卒業

昭和16年 3月 呉第一中学校卒業

昭和16年 4月 東京医学専門学校入学

昭和19年 9月 同上 卒業

昭和19年10月 陸軍軍医学校入学

昭和20年 3月 同上 卒業

職歴

昭和20年 4月 兵役

昭和20年 9月 別府石垣原病院勤務

昭和24年 4月 東京医科大学外科学教室勤務

昭和35年 6月 東京医科大学外科学 講師

昭和38年 8月 同上 助教授

昭和44年 2月 東京医科大学がんセンター肺癌部長

昭和44年 4月 東京医科大学外科学 教授

昭和48年 4月 東京医科大学がん研究事業団 理事

昭和58年 5月 東京医科大学がんセンター長

昭和61年 7月 東京医科大学 理事

平成 2年 3月 東京医科大学 退職

平成 2年 4月 東京医科大学 名誉教授(現在に至る)

平成 9年 8月 東京医科大学 名誉がんセンター長(現在に至る)

学会関連

平成 2年10月 日本肺癌学会 名誉会員(現在に至る)

平成 6年 3月 日本外科学会 名誉会長(現在に至る)

平成 6年10月 日本胸部外科学会 名誉会長(現在に至る)

平成12年 1月 日本癌学会 功労会員(現在に至る)

登山医学関連

1.日本登山医学関連

・昭和60年5月、上高地において第5回日本登山医学シンポジウム開催

・平成9年6月、東京都庁において開催された第17回日本登山医学シンポジウムにお

いて、特別講演「山岳医療の歴史」

2.上高地診療所において永年、診療所長として地元及び登山者の健康管理に貢献した。

1)昭和32年診療所移設

2)昭和54年診療所改築

3.昭和50年ペリチェに東京医科大学エヴェレスト高山医学研究所開設

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功 労 賞

長尾悌夫(ながお よしお)

昭和4年9月20日生 76歳

学歴

昭和29年 3月 東京慈恵会医科大学卒業

昭和30年 3月 同大学附属東京病院で医学実地修練 修了

昭和30年 6月 第18回医師国家試験合格

昭和36年 3月 医学博士

職歴

昭和30年12月 東京厚生年金病院整形外科医員

昭和38年 4月 東京都医員兼務(身体障害者医学判定担当)

昭和39年 3月 東京慈恵会医科大学整形外科 助手

昭和44年 8月 同上 助教授

昭和47年 9月 聖マリアンナ医科大学整形外科 助教授

昭和58年 8月 同上 教授

昭和58年10月 山梨医科大学非常勤講師兼務

平成 6年 5月 聖マリアンナ医科大学病院 副院長

平成 7年 2月 神奈川県社会保険診療報酬支払基金専任審査委員

平成 7年 4月 聖マリアンナ医科大学 客員教授

平成 9年10月 虹が丘リハビリケアセンター長

学会関連

昭和40年 明治大学ネパールヒマラヤ学術調査隊に医療隊員として参加

昭和47年 東京慈恵会医科大学アラスカ(ブラツクバーン峰)登山隊隊長

昭和55年 東京慈恵会医科大学ヒマラヤ(ガネツシュヒマールⅤ峰)登山隊

隊長

昭和59年 国際登山医学シンポジウム(シャモニー)において「日本におけ

る凍傷の治療」を発表

昭和61年 第6回日本登山医学シンポジウム会長

平成 7年 国際整形災害外科学会 名誉会員

平成 9年 日本整形外科学会 功労賞

平成13年 日本山岳会 副会長

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奨 励 賞

登山医学 Japanese Journal of Mountain Medicine Vol.25:55-61,2005

低圧低酸素環境下と常圧低酸素環境下における安静および運動中の呼吸循環応答の違い

国立スポーツ科学センター・スポーツ科学研究部 前川剛輝、榎木泰介

東京大学大学院・総合文化研究科・生命環境科学系 禰屋光男

Differences in Cardiorespiratory Responses at Rest and during

Exercise between Hypobaric and Normobaric Hypoxia

Taketeru MAEKAWA and Taisuke ENOKI, Department of Sports Sciences, Japan Institute of Sports

Sciences, 3-15-1 Nishigaoka, Kita-ku, Tokyo 115-0056 Japan

Mitsuo NEYA, Department of Life Sciences, Graduate School of Arts and Sciences, The University of

Tokyo, 3-8-1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-8902 Japan

ABSTRACT. Physiological responses to altitude have been extensively investigated during the past one and a half centuries. Most research focused mainly on hypoxia, so it is still unclear whether “the physiological effects of hypobaric and normobaric hypoxia are similar for the same PO2?”. This study investigated the differences in cardiorespiratory responses at rest and during exercise between hypobaric and normobaric hypoxia for the same ambient PO2 equal to 147 hPa (simulating an altitude of 3000 m). Five male subjects performed 30 minutes rest at sitting position and an incremental pedaling exercise test under hypobaric hypoxia (PB: 701 hPa, PO2: 147 hPa, O2: 20.9%) and normobaric hypoxia (PB: 1013 hPa, PO2: 147 hPa, O2: 14.5%). To create hypoxic conditions, we used two devices: a hypobaric chamber for hypobaric hypoxia, and a normobaric hypoxic room with a membranes separation system for normobaric hypoxia. Cardioventilatory variables (oxygen uptake (VO2), minutes ventilation (VE), O2 and CO2 end-tidal fractions (FETO2, FETCO2), O2 and CO2

end-tidal pressure (PETO2, PETCO2), heart rate (HR) and arterial oxygen saturation by pulse oxymetory (SpO2)) were measured through the test. There were no differences between hypobaric and normobaric hypoxia for VO2, VEBTPS, and HR at rest and during submaximal exercise. VO2peak, VEBTPSpeak, and HRpeak were also not significantly different for hypobaric and normobaric hypoxia. However expressed under STPD conditions, VE at rest and during exercise were lower for hypobaric hypoxia. FETO2 and FETCO2 were higher for hypobaric hypoxia. PETO2 at rest and during exercise were not different for the two environments. PETCO2 was lower for hypobaric hypoxia. SpO2 at rest and maximal exercise were not different for the two environments. However, during submaximal exercise, SpO2 was lower for hypobaric hypoxia. In conclusion, these results suggest that cardioventilatory responses at rest and during exercise differ between hypobaric and normobaric hypoxia for the same ambient PO2. However, theses differences at rest and maximal exercise were small.

Key words: hypobaric hypoxia, normobaric hypoxia and arterial saturation

17

平成18年5月27日(土)

特 別 講 演 1

(10:40-12:00)

アジアの登山医学全体を見渡す

座長 中島道郎(高折病院)・小林俊夫(鹿教湯病院)

「MOUNTAIN MEDICINE: SILVER HUT TO 21ST CENTURY」:

James S. Milledge(ISMM会長)

国際登山医学会会長(President of International Society for Mountain Medicine(ISMM)

Chorleywood, Hertsfordshire, England

高所医学・生理学がはじめて科学的な装いを見せたのは古いことではない、たった 45年前

だ。1961年春、マカルー(8481m)を目指した Hillaryヒラリー率いる英国学術登山隊(英・

米・NZ・インドによる)の科学班リーダーであった Pughの功績である。

かれらは登山の前年秋ネパールクンブー谷 5800mに越冬用の小屋を持ち上げる。1960年 9

月から冬を越して 1961年6月までここで行われた、今でも引用されることのある、医学生

理学的研究がそれ以降の高所医学の基礎を作った。

その小屋に塗られた色にちなんで「The“Silver Hut" Expedition」と呼ばれるようになった学

術隊に参加したのは、のちにその名を世界に轟かせるようになる J.B.West、S.Lahiri、M.B.Gill、

M.P.Ward など当時20歳台後半から30歳台前半の若者研究者である

若き Jim Milledge もその一員であった。以後、45年、Jim Milledge は英国を代表する高

所医学の専門家として世界のトップシーンで活躍。2004 年国際登山医学会(ISMM)会長に

就任。 次回の ISMM World Congress は、2007 年英国のグラスゴーで行われる。これは

Wilderness Medical Society との共催となる予定。

18

MOUNTAIN MEDICINE: SILVER HUT TO 21ST CENTURY

James S. Milledge

ISMM会長

The 1960-61 Himalayan Scientific and Mountaineering Expedition, commonly

known as the Silver Hut Expedition, was a unique enterprise. It was dreamed up by Sir

Edmund Hillary and Dr Griffith Pugh when they were together in the Antarctic. The

idea was to study the long term effect of really high altitude on human lowland subjects.

So the plan was to go out from Kathmandu after one monsoon, spend the whole winter

at high altitude and in the spring to attempt an 8,000m peak returning just before the

next monsoon. Some members came only for the autumn, others for the spring part and

some, including myself, were able to spend the whole nine months in the field. Our

winter station was a pre-fabricated wooden hut, painted silver, which we set up at

5800m on the Mingbo Glacier in the Everest region of Nepal.

Our program of research included numerous studies, many of which examined the

changes which took place at the various points of the oxygen transport cascade, from air

to tissues, in ourselves as we acclimatized. In the spring, some physiology was

continued as we attempted Mt Makalu (8481m). Exercise studies including

measurement of VO2 max, were conducted up to the Makalu Col (7440m) by Mike

Ward and John West. We found that the height of 5800m was too high for optimum

acclimatization. We all continued to be anorexic and to loose weight at this altitude.

This weight loss was reversed by descent to Base Camp at 4500m.

After this expedition I was fortunate to be invited on further trips. In 1964 with

Sukhamay Lahiri, on Hillary’s second School House Expedition we studied Sherpas

and showed them to have low hypoxic ventilatory responses (HVR) compared to

lowlanders.

From 1962-72, I was based in South India at Vellore CMC and had a year as a

Research Fellow in San Francisco with John Severinghaus. After returning to UK I got a

combined MRC and NHS appointment at Northwick Park Hospital and Clinical

Research Centre. In the ‘70s we were unable to get to the Great Ranges but did a series

of field studies on the effect of long continued exercise (hill walking) on fluid balance

and related hormones. These were stimulated by the accounts of HAPE in which

strenuous exercise seemed to be a risk factor. Also I was able to go with some Royal

Navy climbers to Mt Kenya in 1987 and to Bolivia in ’89 and did studies on AMS.

In 1981, I was invited to join Mike Ward and Chris Bonington on the first attempt on

19

Kongur (7719m) in Xinsiang, China which was successful in both our scientific and

mountaineering aims and later the same year, by John West on his American Medical

Research Expedition to Everest (AMREE). We studied many of the same things as in

the Silver Hut but with more modern equipment and at higher altitudes, e.g. the Western

Cwm (6300m). One of our climbing medics even made the first measurements of the

barometric pressure and took alveolar gas samples at the summit.

In the ‘90s I became involved with a group of young British doctors who mounted

an Everest Expedition in 1994 and this group has evolved into the charity, “Medical

Expeditions”. We have had two further major expeditions in 1998 to Kangchenjunga

and in 2003 to Chamlang Base Camp, all in Nepal. Apart from the research arising from

these trips, Medical Expeditions have run week-end courses in Mountain Medicine at

intervals in North Wales for the past 13 years and two years ago began offering courses

for a Diploma in the subject, the first such course in English.

I have been so very fortunate to have been involved with our subject for so long. I

have seen incredible changes in the technology available to us and considerable

advances in both the physiology of high altitude and understanding of the medical

conditions of mountainous regions. My own contribution to these has been very small. I

hope that I have been able to disseminate these advances by talks, lectures and writing;

contributing, I hope, to a wider understanding of the subject and possibly fewer deaths.

My main delight, however, has been the many friends I have made through

mountaineering and expeditions and the abiding memories over this long time.

20

平成18年5月27日(土)

特 別 講 演 1

(10:40-12:00)

アジアの登山医学全体を見渡す

座長 中島道郎(高折病院)・小林俊夫(鹿教湯病院)

「Changes of cardiac structure and function in pediatric patients with high altitude heart

disease in Tibet」:Ge Ri-Li(中国)

中国高原医学会会長・青海大學醫學院教授・高所医学研究センター長

中国・青海省西寧

Ge Ri-Li (格日力) 教授は、チベットやコンロンを抱える中国の高山病研究の中心である青

海大學醫學院を率いる中国の代表である。

2004 年 8 月には中国青海省とチベットのラサにて国際登山医学会を主催している。この総

会では、この地域に住む数百万人の高地居住者に発生する、高所に長期間存在するがゆえ

に発症する慢性低酸素による疾患、「慢性高山病」の国際的コンセンサスをまとめあげ、世

界的に高い評価を得た。

日本との関係も深く、格日力教授は 1993 年から 1999 年まで信州大学に留学し医学博士号

を取得している。ご夫人も日本に留学経験があるし、愛娘も今年めでたく信州大学医学部

を卒業、医師免許を獲得している。

日本と中国の連携が生んだアジアを代表する研究者である。

21

Changes of cardiac structure and function in pediatric patients with high altitude heart

disease in Tibet

Ge Ri-Li, Haihua Bao, Qi Haining, and Ma Ruyan

Research Center for High Altitude Medicine, Qinghai University; Dept. Cardiology,

Qinghai Provincial Women and Children Hospital; Dept. MRI, Affiliated Hospital of

Qinghai University Medical College, Xining, 810000, China

Backgrounds; High altitude heart disease (HAHD) is characterized by pulmonary hypertension,

remodeling of pulmonary arterioles and right ventricular hypertrophy. However, the underlying

changes of cardiac structure and function in HAHD patients are largely unknown. This study was

performed to evaluate the structural and functional cardiac changes by using Magnetic Resonance

Imaging (MRI) and Doppler echocardiography (Echo) in the pediatric patients with HAHD.

Methods and Results; Eight patients with HAHD (aged 12-24months) and four normal

age-matched children (control group) underwent the MRI and Echo. All participants, including

patients and control subjects, were born and lived at an altitude of 3600m-4600m. The MRI and

Echo were performed at the Qinghai Medical College Hospital (2260m) after hospitalization. In the

control subjects, all measurements were conducted after descending to Xining (2260m) for 2-3 days.

The right ventricular (RV) and left ventricular (LV) end-systolic (ES) and end-diastolic (ED) wall

thickness and septal wall thickness were calculated directly from the MRI scans. The anterior and

posterior wall thickness of RV and LV and mean pulmonary arterial pressure (PPA) measured by the

Echo. Electrocardiograph (ECG), chest X-ray, hemoglobin concentration (Hb) and pulse oximetry

(SaO2) were also measured in both groups. MRI-calculated RV-ES wall thickness was 7.3±0.8mm in

the HAHD group and 2.0± 0.1mm in the control group (p<0.001); RV-ED was 5.3±1.0mm in the

HAHD and 3.4±0.2 mm in the control group (p<0.05). MRI-calculated LV-ES was 6.2±1.0mm in the

HAHD group and 5.6 ±0.5mm in the control group (p>0.05), LV-ED was 4.1±0.8mm in the HAHD

group and 3.7 ±0.3mm in the control group (p>0.05). Echo-estimated mean PPA in the HAHD group

(69.7±10mmHg) was significantly higher than that of the control group (35.3±4.8mmHg; p<0.001)

and was highly correlated with the MRI-estimated wall thickness of RV ES (r=0.759, p<0.001) and

RV ED (r=0.683, p<0.01). The RV outflow tract (RVOT) was 2.4 ± 0.5cm in the HAHD group and

1.8±0.2cm in the control group (p<0.01) and the RV ejection fraction (RV-EF) in the HAHD and the

control groups was 33.3±9.9% and 52.5±2.7%, respectively (p<0.001). The SaO2 was lower in the

patients as compared to the controls (70±5.3% and 90±0.8%, respectively; p<0.001).

Conclusions; Exaggerated hypoxia-induced pulmonary hypertension and pulmonary vascular

disease lead to right ventricular hypertrophy and dilatation in the pediatric patients with HAHD.

These structural cardiac changes may lead to right ventricular dysfunction and right heart failure, but

left ventricular function is preserved.

22

平成18年5月27日(土)

特 別 講 演 1

(10:40-12:00)

アジアの登山医学全体を見渡す

座長 中島道郎(高折病院)・小林俊夫(鹿教湯病院)

「Neurological conditions at altitude which fall outside the usual definition of

altitude sickness」:Buddha Basnyat(ネパール)

国際山岳連盟副会長・医療委員会委員長 Vice President of UIAA(Union Internationale des

Association D'Alpinisme) and Chairman of its Medical Comission Kathmandu, Nepal

Dr.Buddha Basnyat は、カトマンズに住む。トリバン大学で生理学教授をつとめる一方、Nepal

International Clinic という、海外旅行者や外国人滞在者向けのクリニックを経営する臨床医

(カトマンズでお世話になった日本人もいるかもしれない)でもある。

登山医学の世界では多彩な活動を繰り広げている。

・エベレスト街道のペリチェやジュムソン近くのマナンに高所救護所を作っている HRA

(Himalayan Rescue Association:ヒマラヤ救助協会)のMedical Director を長年勤める。世界中

の登山者・トレッカーが随分ここで援けられたはずだ。もちろん日本人は大のお得意さん

である。

・学術面では、国際登山医学会(ISMM)の Exective member であり、雑誌"High Altitude

Medicine & Biology" の編集委員を勤める。

・また、Wilderness Medical Society の雑誌 Wilderness and Environmental Medicine、世界旅

行医学会の雑誌 Journal of Travel Medicine の編集委員でもある。

上にあげたように UIAAの副会長・医療委員会委員長にも推された。

つまりは、Dr.Buddha Basnyat は、フィールドでの医学(登山・旅行・野外生活全般にわた

る)でのネパールの代表者なのである。

23

Neurological conditions at altitude which fall outside the usual definition of altitude

sickness

Buddha Basnyat

ネパール

Altitude sickness in its commonly recognized forms consists of acute mountain

sickness and the two life- threatening forms, high altitude cerebral and pulmonary

edema. Less well known are other conditions, chiefly neurological, which may arise

completely outside the usual definition of altitude sickness. These, often focal

neurological conditions are important to recognize so that they do not become

categorized as altitude sickness, as besides oxygen and descent, treatment may be vastly

different. Transient ischemic attacks, cerebral venous thrombosis, seizures, syncope,

double vision and scotomas are some of the well-documented neurological disturbances

at high altitude discussed below in order to enhance their recognition and treatment.

24

平成18年5月27日(土)

シンポジウム1

(13:40-15:20)

トラベルメディスンからみた登山医学

コーディネーター

「航空機旅行と登山医学」

大越裕文(日本航空インターナショナル)

「高所(山岳)旅行業者が求めたいこと」

黒川惠(旅行業ツアー登山協議会会長)

「信頼できる登山医学検診医ネットワーク構築の試み」

堀井昌子(日本登山医学会検診医ネットワーク小委員会)

「日本におけるトラベルクリニックネットワークの現状」

濱田篤郎(労働者健康機構・海外勤務健康管理センター)

25

航空機旅行と登山医学

大越裕文

㈱日本航空インターナショナル 健康管理室

ある旅行会社の添乗員を対象としたアンケート調査の結果によると、旅行者が病気にな

る場所は、機内が 40%、山が 20%であった。添乗員がアテンドするツアーは、ヨーロッパ

が半数以上を占めていることから、このデータをすべて一般旅行者の健康問題に当てはめ

ることはできないが、多くの旅行者が飛行中や高地で病気となっていることは事実である。

飛行中の乗務員や旅行者の健康問題を取り扱う医学分野として航空医学がある。この航空

医学と登山医学は、一見無関係にみえるが、高所医学という点で共通している。

飛行中の機内は人工的に地上に近い環境に保たれているが、機内の高度は、最大 8000ft

まで上昇する(気圧は最大 0.74気圧まで低下)。その他、気圧の変化による気体の体積の変

化、湿度の低下などの地上との環境の違いがある。8000ftは健常人にとって問題となる高度

ではないが、高齢者や心肺機能が低下した旅行者には低酸素環境となる。すなわち、高所

環境の 4つの Hのうち、Hypoxiaと Hydration(Dehydration)が機内環境の特徴といえる。

このような環境の違いから、機内で急病人が発生している。2000 年度 1 年間に航空機内

で発生した急病人 344例を症状別でカテゴリーをわけると、失神 18%、消化器系 10%、意

識障害 10%、循環器系 9%、痙攣 8%、嘔気嘔吐 7%、外傷熱傷 7%、熱 6%、呼吸困難 6%、

過換気 4%、頭痛 4%、その他 11%であった。これらの急病人の 19%に酸素が投与されてい

たことから、急病人の発症に機内の低酸素環境が関与している可能性が高い。

機内で発生する急病人を予防するためには、事前の医学的評価、特に低酸素環境に対す

る評価が重要である。欧米では、事前の評価方法として、High altitudesimulation test(HAST)

が推奨されているが、日本ではほとんど普及していない。簡便に評価する方法として、地

上の動脈血酸素分圧(PaO2)や酸素飽和濃度(SaO2)の測定し、PaO2 が 72 torr 未満であっ

た場合や地上の SaO2が 92%以下の場合に酸素吸入の適応とする方法がある。しかし、地上

で PaO2や SaO2が正常であったにもかかわらず、飛行中に低酸素状態となる呼吸不全患者

も少なくないため、HASTなどのより精度の高い評価方法の普及が必要である。

航空機内の機内高度は最大で 8000ftであり、登山医学が通常取り扱う 4000mや 5000m以

上の高高度ではない。しかし、高齢者や心肺機能が低下している旅客にとっては、機内高

度でも十分低酸素血症をひきおこす高所である。また、過度の飲酒などにより低酸素血症

は助長される。高齢旅行者の増加とフライトの長距離化がすすむ今日、航空機利用者の健

康問題をもっと高所医学的にアプローチする必要があろう。

26

高所(山岳)旅行業者が求めたいこと

黒川惠

旅行業ツアー登山協議会会長(アルパインツアーサービス代表)

(現状)

中高年登山者が増加し、山岳地等における疾病発症が目立つ。登山者は、自己の健康状

態と運動能力を的確に把握し、登山に際して適切な助言を得ることができる医師や機関を

求めている。しかし身近にそういった医師の存在や機関がないのが一般的である。もしあ

れば、事前の検診や助言等によって、発症の予防となり、その登山者に適合した登山計画

の策定に役立つようになる。

(願望)

日本登山医学会の専門医師集団において「健康登山ガイダンス」を示し、健康上からの

安全登山の啓発活動をおこなう。ガイダンスは、「登山のための身体づくり」や「健康維持

法」や、「体力増強トレーニング法」などにもふれ、「生涯登山」をめざす中高年登山者に

役立つ内容とする。青少年にとっても有益な内容であればなおよい。また平易な文章で、「医

療ガイドライン」もあわせて策定する。

とくに高所における問題と対策等を説明するなかで、一般的なQ&Aや血中酸素飽和度

と標高の関係を分布図としてわかりやすく表し、危険度合いの目安等も登山医学会のホー

ムページで示されているが、やや専門的でもあり、これらが電子情報だけでなく文字情報

としてわかりやすく冊子化されると登山者は読みやすくなると思われる。

(実行)

この段階は、「登山者検診ネットワーク小委員会(委員長 堀井昌子先生)」担務範囲。

(展望)

大規模病院等で「登山医学」や「旅行医学」のために特別な研究機関を設けたり、その

ためだけの検診対応を期待することは困難と思う。しかし、専門医師集団が自己の勤務す

る医療機関を活用し、ネットワークを構築することは可能と思う。そうなると、全国的規

模で登山者のための検診対応ができ、「判定」とも言える専門医師の所見と助言がその場で

得られることは「大きな付加価値」となる。「検診料金そのもの」を「判定料込み」にする

ことで医療ビジネスとしても成り立つのではないか。(と、思う)

「生涯登山は健康維持の近道」、「そのために自己の健康度合いを知ろう」といったこ

とが世の中の風潮として定着すればさらによい。

以上

27

信頼できる登山医学検診医ネットワーク構築の試み

堀井昌子

日本登山医学会検診医ネットワーク小委員会

近年、中高年登山者の増加に伴い登山中の疾病発症や突然死が数多く報告されている。

そして、健康管理に関心の高い登山者や「ツアー登山」を手がける旅行会社からは、登山

に際しての健康上の留意点に関して個別に専門的な助言が得られる医師あるいは機関に関

する要望が寄せられている。こうした状況を踏まえ、2005 年 5 月の日本登山医学会におい

て「登山者検診ネットワーク」の構想が提案され、小委員会が発足した。

小委員会では検討の結果、検診内容、相談(判定)の実施について以下のような方針を会

員に提示し、アンケート形式により意見を求めた。さらに、医師会員に対してはシステム

が構築された場合の、相談(判定)医登録の可否、所属医療機関での検診の可否その他の

調査をおこなった。

1)目的:登山者の安全登山・健康増進に寄与する。相談に応じる医師は医学的見地から

意見を述べるものであり、登山中のイベント発生などに法的責任を負うような意味を

もつものではない。

2)検診内容:問診票により登山を含めた諸情報を収集する。検診項目については基本パ

ターンを作成し、必要に応じて事例別の付加的項目を追加する。一定期間内(3ヶ月以

内)に別の目的で施行された検診の結果も適宜利用可能とする。

3)相談(判定):検診の実施と相談(判定)は必ずしも同一施設、同一医師がおこなう

必要はない。相談は面談形式に限らず、電子メールなどの通信手段も使用して依頼者

と応対者双方の利便性を図る。

高所登山シミュレーションの体験をすることが効果的と思われる依頼者に対して、国内

の低圧もしくは低酸素環境体験施設を紹介することも考慮する。

28

日本におけるトラベルクリニックネットワークの現状

濱田篤郎

労働者健康機構・海外勤務健康管理センター・所長代理

海外に滞在する日本人の数は急速に増加しており、法務省出入国管理統計によれば、2003

年の海外出国者数は約 1330 万人にのぼっている。こうした海外旅行者の健康問題を扱う医

療として、トラベルメディスン(旅行医学)が日本の医学界でも脚光を浴びつつある。

欧米諸国では 1960 年代から、航空機旅行の普及に伴い海外旅行者の数が飛躍的に増加し

ていた。それにともない、この集団を対象とする医療の必要性が認識されてきた。この結

果、欧米各地にはトラベルクリニックと呼ばれる海外旅行者のための専門外来が数多く設

立されるに至る。旅行中の健康指導や予防接種、さらに帰国後の診療などのサービスを提

供するクリニックである。やがて 1980 年代になると、この新しい医療分野はトラベルメデ

ィスンとして確立される。この医療が対象とする疾病には、感染症、時差症候群、航空機

内の疾病、旅行中の慢性疾患の悪化など、旅行に関連する疾病が幅広く含まれており、高

山病など登山にともなう健康問題も、トラベルメディスンの重要なテーマとなっている。

ひるがえって日本に目を向けてみると、トラベルメディスンが紹介されたのは 1990 年代

のことだった。これは日本での海外旅行の大衆化が、欧米に比べて大幅に遅れたことに起

因する。このため、日本国内でのトラベルクリニックの数は、未だに少ないのが現状であ

る。こうした事態を改善するため、厚生労働省では政策医療の一環として、国内でのトラ

ベルクリニックの整備を進めており、国立病院を中心にクリニックの設置が行われている。

また民間のクリニックも少しずつ開設されており、関連学会などによる診療への支援が行

われつつある。

今後、日本国内でトラベルメディスンを普及させるためには、国民や旅行業界への啓蒙

とともに、関連医療分野との連携による人材の育成が必要とされている。この意味におい

て、日本登山医学会からのご協力を是非ともお願いしたいところである。

29

平成18年5月27日(土)

シンポジウム2

(17:30-19:00)

公募式ヒマラヤ Giants登山の功罪

コーディネーター 貫田宗男(日本山岳会海外委員長)

「ヒマラヤ登山の大変革-公募登山隊の隆盛が示唆するもの」

江本嘉伸(山岳ジャーナリスト)

「ヒマラヤ登山の大衆化と公募登山」

大蔵喜福(高所山岳ガイド)

「ヒマラヤ公募登山のもたらしたもの」

池田常道(元「岩と雪」編集長)

「The Medical Aspects of Commercial Expeditions」

Buddha Basnyat(HRA;ヒマラヤ救助協会)

特別発言 近藤和美・南井英弘・倉岡裕之

30

公募式ヒマラヤ Giants登山の功罪

コーディネーター: 貫田宗男

日本山岳会海外委員長

一部の登山家だけに許されてきたヒマラヤ巨峰登山が、公募隊(Commercial Expedition)

に参加することによって組織や経験に頼ることなく、世界最高峰のエベレストでさえ、あ

る程度の体力と資金さえあれば誰にでもチャレンジできる時代となりました。しかし、エ

ベレスト初登頂者であるヒラリー卿をはじめ、商業公募集隊に眉をしかめる向きも少なく

ありません。超高所においてアルプスで行われているようなガイド行為は可能であるか。

日本の中高年登山者の体力、経験で参加できるであろうか。突然死によるものと思われる

死亡事故もすでに何件か起きている現状で、実態と諸問題や課題を公募隊に詳しい山岳ジ

ャーナリスト、高所山岳ガイド、参加経験者に、それぞれの立場から話してもらいます。

31

ヒマラヤ登山の大変革-公募登山隊の隆盛が示唆するもの

江本嘉伸

山岳ジャーナリスト

「公募登山」とは何か。実は、正確な定義もされていないまま、現実がどんどん進行し

てきた、ある種独特な山登り世界の現象と言えるのではないか。「公募」というだけなら、

さまざまなかたちで以前から行なわれていた。登山する山を決めて登山許可を取り、隊長

を決め、個人負担の経費を決め、隊員を募集するというやり方である。許可を得るために

は金がかかるから、目的を同じくする登山家たちが一種の「公募」方式で「臨時の登山隊」

を組織するやり方などである。

しかし、今日、予想を上回るスピードでヒマラヤ登山を席巻し、その大衆化に貢献して

いるのはいわゆる「commercial expedition(商業公募登山と仮に訳す)」であろう。それも、

ある意味で驚きなのは、世界最高峰エベレストでそれが隆盛を極めていることだ。

1985年 6月、フランスのミシェル・ヴァンサン隊長以下 13人がパキスタンの G2に登っ

たのが筆者の記憶にある最初の公募登山隊だが、それ以前にも似たスタイルの登山はあっ

たかもしれない。同じ年、スイスのアイゼリン・スポーツ隊も G1に公募登山隊を組織、こ

の山には登れなかったが、シア・カンリに登頂した。

エベレストに初めて公募登山隊が登場したのは、1986 年 9 月、スイスのアイゼリン・ス

ポーツ隊によってだった。16 人のシェルパにサポートされて、25 人が頂上を目指したが、

隊長以下 3 人が南峰(8763m)まで登るのが精一杯だった。初登頂 40 周年を前に、1993 年イ

ギリスで「DHLイギリス公募登山隊」が組織された。ジョン・バリー隊長以下、イギリス、

カナダ、オーストラリアの登山家を含めた 9 人で、この新たな試みは「エベレスト山頂行

きパッケージ・ツァー」として、新聞などで派手に伝えられた。イギリス初の女性登頂者

(レベッカ・スティーブンス)を生み出すなど話題となったこの試みは、以後世界最高峰

に「登らせる」職業を定着させる第 1歩となった。

それでもその当時はごく一時的なもの、と思い込んでいた人が多かったと思う。何と言

っても世界最高峰である。簡単に金で登れるわけがないであろう、というのが多くの人々

のいつわざる思いだったのではないだろうか。

それが、どうして現状のように、急速に「高所登山ビジネス」として発展していったの

か。この登山スタイルの可能性と問題点とは何か。最新の情報をもとに検証してみたい。

32

ヒマラヤ登山の大衆化と公募登山

大蔵喜福高所山岳ガイド

今年はマナスル初登頂から数えて50周年にあたる。メモリアルデイは5月9日。記念年は登山登録料金が半額の$5000。噂では10隊以上の隊が押し寄せるはずが、ネパールの政変で沈静化。だが、エヴェレストは相変わらずの賑わいでチベット側は大繁盛である。時代はヒマラヤ登山を尖鋭と超大衆化に二極分化させた。大衆化は登山思潮の逆行に映るが、多様な価値観を持つ登山隊を産んできたともいえる。ひとつ言えることは、『山をどう楽しもうが自然と人に迷惑のかからない限り自由だ』ということ。私はヒマラヤで多くの高所山岳ガイドを行ってきたが、本格的に商業登山を始めたのは‘0

2年。チョーオユーが2回、チョモランマが1回、シシャパンマが1回、6000m のトレッキングピークが5回。登らせたクライアントは8000m ピークでのべ30人ほど。平均年齢は62歳。ヒマラヤは今や、K2やアンナプルナ、ナンガパルバット等の条件の悪い山を除き、殆どの8

000m峰が公募登山(営業に限らず)の対象になっている。東西の横綱は世界最高峰エヴェレスト(チョモランマ)、そして第6位の高峰チョーオユー(8201m)だ。その理由は地形的にも技術的にも易しい、高度差が少なくスタッフが仕事をし易い、アプローチに起動力が使える。その3つである。とくにチョーオユーにはその条件が整っており毎年は30~50隊の入山、満員御礼状態だ。いまや見合った料金を払う気さえあれば“一度でいいから8000mに立ちたい人”の手の届く夢である。通常商業隊は、現地エージェントとの準備に一年近くをかけ、半年前に募集広告をうって集客、

登山経歴を把握できる者を絞り隊員を決定する。こういう登山形態の最大目標は全員登頂だ。見方を変えれば登山ではなく山岳旅行である。たとえは悪いが宇宙旅行と同じようなもの。それにはリーダーの素養が鍵を握る。クライアントの固体差のある高度障害にどんな処方箋が描けるか、克服するための各人の順応方法、体力を維持するための食事と運動内容、等々を現地でどうフレキシブルに対応できるかにかかっている。移動に十分な時間をかけ上手な順応をするタクティクスや、食事も個々の好き嫌いや、美味し

く食べられる工夫、さらに一人テントで快適に過ごせ、安心して体調を整えられる条件づくりということになる。その上で和やかなコミュニティーができれば登頂は望める。わがまま登山とはいえ、人間関係がまずくなったら登るどころではない。実際は6000m登山を経験してもらうが、中には半年前に初めてアイゼン、ピッケルの世界

を知った者もいる。中高年隊というより高年といえるクライアントには、より安全に無理をさせない方針で目的を果たす“高所遠足”を十分に理解させることが重要である。『酸素使用の登山は退屈なハイキング』といった高名な登山家の言葉はここでは何の意味ももたない。独自の信念と創造力を反映させる本物の登山とは程遠いところに価値がある。だから、客自らの発想と責任は全くない“行きたいところに行く観光旅行の延長”が山登りというスタンスを標榜しているのだ。顧客は登山者ではなくツーリストという認識。「登山家ではない単なる旅行者」という言い方が明快である。旅行としての管理を行うと同じような発想にたてば一連の商業登山は理解はできるはずである。学生時代にかじっていてリタイア後に再開した者や、中高年になって初めてのめり込んだ者など様々な経歴だか、必要な体力さえあればカバーできる。 ヒマラヤは総合的体力の強い人間しか登れないのかというとそうではない。登山隊の性格性質でいくらでも変えられる。タクティクス(戦略)やロジスティック(補給)が大変なだけである。組織で原資と人材を投入すれば不可能ではない。私自身は登山の本流は冒険登山で、その本質は最先端に「独自の信念と創造力を反映させる登山」でなくては登山文化は衰退すると信じているが、中高年と体力のない人にその思想を押しつけるつもりは毛頭ない。機動力導入や酸素吸入など人工的助けを借りたとしても、登りたい欲求をけなす権利もない。高齢者や中高年そして体力が弱い人は、登山愛好家であっても登山家ではない。登山も旅感覚である。そういった人達には、登山家の客観的評価や価値観はまったく意味をもたない。中高老年弱者にはなんでもありでよいのである。

私の友人にも、世界の山々に登る中高年や高齢者そして女性が増えた。お父ちゃんを説き伏せた主婦や会社員、教師など独身ばかりでない愛好家もいる。こういった形でしか登れないのならば、それが一番。ダメ押しで「登山家じゃないのだから」登山文化としての価値ではない。

33

ヒマラヤ公募登山のもたらしたもの

池田常道

元「岩と雪」編集長

6 万 5000 ドル(ネパール側の場合、チベット側はもう少し安い)払えばエヴェレストに

登れる。ヒマラヤの高峰など夢のまた夢であったふつうの登山者にとってこれ以上の福音

があろうか。エヴェレストに登りさえすれば、栄えある(?)7大陸最高峰登頂者――い

わゆるセブンサミッターとして故郷に錦を飾ることができる。このところ毎年春に 200~

300 人規模で誕生している世界最高峰登頂者の大半は、商業公募登山隊(Commercially

Organized Expedition)によって生み出されている。

80 年代、この手の登山隊が未熟だったころには、頂上に立つのはガイドとシェルパばか

り、お金を払った顧客は置いてきぼりがふつうだったが、90 年代を迎えるとガイド会社

(Outfitter)も乱立し、何人登らせたかが会社の信用を左右するようになった。登頂成功率

の低い会社には客が集まらないという、きびしいことになった。サバイバルをかけたガイ

ド会社は登頂効率を上げるべく、フィックスロープは上部までベタ張り、短期間順応行動

をさせたあとは、酸素を吸わせて一気に頂上を往復させてしまう作戦を編み出した。そし

て、シェルパや一部のチベッタン・ポーターたちも経験を積むにつれて、ルート工作から

キャンプ設営・荷揚げといった下働きを自力で担えるほどに成長、重要戦力となった。

その他のプライベート・チームにとってもその恩恵は大きい。ルート工作の分担金さえ

払えば ABCでお茶を飲んでいるうちに、戦力充実した有力公募隊がフィックスを張り、イ

ンターネットを通じて供給される(有料!)天候予測までしてくれ、いざ当日となれば強

力なシェルパ軍団が深い雪をラッセルして頂上へと導いてくれる。これらの恩恵を 100%利

用すれば、かつてメスナーが生命を賭して成し遂げた無酸素登頂だって、夢ではない。

だが、しかし、こういった「安全登山」を構成しているスキームのどこかに破綻が生じ

たらどうなるか。おおぜいの登山者がルートの核心部で渋滞したら、ガイドやシェルパが

特定の顧客に関わりあって他の顧客の面倒を見られなくなったら、顧客が「買い求めた」

酸素ボンベに欠陥があったら。96年 5月、日本の難波康子をふくむ 6人が亡くなった悲劇

はこれらの要因が重なって起こったのだし、最近では英国でヘンリー・トッドという有力

ガイドが顧客の死に責任ありという嫌疑をかけられ、裁判沙汰に発展している。

根本的な問題は、エヴェレストをガイドすることは、一般的な意味においてガイド登山

ではないということだ。モンブランや槍ヶ岳でお客の面倒を見るのとはまったく違う時限

の問題だ。SOSを発すれば数時間以内にヘリが救助にきてくれる山とヘリも飛べない 8000m

の山では、安全性のうえで天と地ほどの違いがある。おそらく、ガイド会社はそのことを

ひそかに自覚しているのだろうが、問題は、顧客自身やメディアがそれを十分理解してい

ないところにあるのであろう。自力で登ったエヴェレストと他力で登ったそれは、あらゆ

る意味においてイコールではない。ヒラリー卿の批判はじつは正しいのだ。

34

The Medical Aspects of Commercial Expeditions

Buddha Basnyat

HRA;ヒマラヤ救助協会

Up to 2005, Mount Everest has been reached 2556 times. 133 of these were without oxygen.

There have been 47 deaths after ascents ie while descending. The death rate is about

2 % for western climbers and about 5 % for hired help ( Sherpas and other ethnic

groups). People going up without oxygen are at an increased risk of death. Deaths are

due to fall, avalanche, acute mountain sickness, exposure ( frostbite), unexplained

illness, falling rocks and crevasses. Many people die descending from the summit bid

than ascending. All of these facts are true for other mountains besides Everest.

Preventive measures to avoid death during these expeditions will be presented.

35

平成18年5月28日(日)

特 別 講 演 2

(10:00-11:00)

座長 堀井昌子(日本山岳協会医科学委員会)

「人類の移動と拡散:厳寒の極北への適応」

関野吉晴(冒険家)

武蔵野美術大学教授

1975年一橋大学法学部卒業。1982年横浜市立大学医学部卒業

一橋大学在学中に同大探検部を創設し、1971 年アマゾン全域踏査隊長としてアマゾン川全

域を下る。その後 20年間に 32回、通算 10年間以上にわたって、アマゾン川源流や中央ア

ンデス、パタゴニア、アタカマ高地、ギアナ高地など、南米への旅を重ねる。その間、現

地での医療の必要性を感じて、横浜市大医学部に入学。

外科医となって、武蔵野赤十字病院などに勤務しながら、南米通いを続ける。1993 年から

は、アフリカに誕生した人類がユーラシア大陸を通ってアメリカ大陸にまで拡散していっ

た約 5 万 3 千キロの行程を、自らの脚力と腕力だけをたよりに遡行する旅「グレートジャ

ーニー」を始める。南米最南端ナバリーノ島をカヤックで出発して以来、足かけ 10年の歳

月をかけて、2002年 2月 10日ついにタンザニア・ラエトリにゴールした。

現在は日本人のルーツを探る旅、グレートジャーニー・ジャパンの最終ステージにある。

36

人類の移動と拡散:厳寒の極北への適応

関野吉晴

冒険家

1983 年、ソ連極東のサハリン上空を飛んでいた大韓航空機がソ連のミサイルによって撃

墜された。冷戦時代、外国の民間航空機もソ連上空を飛ぶことができなかったのだ。日本

からヨーロッパに行くにも、南回りで行くほかなかった。

ソ連崩壊後状況は変わった。ヨーロッパへの最短距離はシベリア周りだ。北米東海岸へ

行く時も極東シベリアの東端を通る。私にとって、ソ連崩壊後初めての南米行きは 1993年

だった。南米最南端からアラスカ、シベリア経由で人類発祥の地アフリカに向かうグレー

トジャーニーの出発点チリに向かう途中だった。ニューヨーク経由で行ったが、この時極

東シベリア上空を掠めた。機長の計らいでジャンボ機のコクピットに入れてもらった。昼

間から夕方、日没と空の色が刻々と変わっていく。その色の遷移に見とれながら、シベリ

アの大地に目を向けた。雪で覆われた広大な原野が見える。人や動物の気配が感じられな

い。数年後にはここを歩く予定になっていた。「こんなワイルドな不毛の原野を果たして旅

することができるのだろうか。」と不安になる。日没後空の色はオレンジ色から紫へと刻々

と変わっていく。暗くなり始めた原野にポツンと明かりが見える。村か町があるようだ。

まったくの無人の原野ではないことを確認する。

それから四年後、極東シベリアの旅を始めた。犬ぞり、トナカイぞり、徒歩、自転車な

どを使っておよそ 7000キロを移動し、その土地に住む人々と交流してきた。条件さえ整え

ば決して住みにくいところではないことが分かった。アフリカで生まれた人類は世界中に

移動・拡散していくが、様々な困難に出会い足踏みをする。その中で最大の困難が厳寒の

極北の環境だった。人類に最も近いサルの北限が下北半島だ。もともと熱帯、亜熱帯で生

まれたサルの仲間は寒さに苦手だった。さらに食料の問題がある。暖かいところでは植物

中心の雑食性だった。極北に行くと植物性の食料が減る。しかしマンモス、ケサイ、トナ

カイなどの大型動物はいる。それらの捕獲能力を獲得するとともに、代謝能力を変えなけ

ればならない。それらを実現した人たちが極北へと進出していったのだ。それではどのよ

うに適応していったのか。現在極北シベリアで適応して暮らしをしている人たちの暮らし

を見ながら探ってみよう。彼らの生き方の特徴は自然を強引に自分に合わせようとするの

ではなく、自分たちを自然にいかに適応させようかと努め、環境に最もふさわしい生活ス

タイルを工夫していったことである。

37

平成18年5月28日(日)

特 別 講 演 3

(11:00-12:00)

座長 斉藤繁(群馬大学医学部麻酔科)

「冬季北アルプスワンディ滑降」

早川康浩(山スキーヤー)

日本消化器病学会認定医、専門医

日本消化器内視鏡学会認定医、専門医、指導医

文部科学省登山研修所医療講師

昭和61年群馬大学医学部卒、同年金沢大学第一内科に入局、消化器を中心に研鑽を積み

済生会金沢病院消化器科医長を退職後6年前から金沢市で胃腸科を開業。内視鏡の中でも

大腸カメラが専門で現在年間 2000 件の大腸カメラを含め 5000 件を越す内視鏡を一人で行

っている。

ハードな仕事の傍ら 30歳を過ぎてから山スキーに目覚め山スキーの機動力を活かした冬季

のワンディ北アルプス滑降を行っている。過去に冬季の槍が岳、穂高岳、五龍岳、笠が岳、

大日岳、霞沢岳、涸沢岳などのハードなワンディ山行を成功させている。

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冬季北アルプスワンディ滑降

早川康浩

山スキーヤー

冬、北アルプスは深い雪に閉ざされる。これまで冬の北アルプスの頂きに立とうと思え

ばパーティを組んで交代でラッセルに耐え何日もかけてアタックする事が常識であった。

しかしながら最近のファットスキーを始めとする山スキー道具の進歩のおかげでその機動

力を最大限に活かせば日帰りで北アルプスの頂きに立ち帰ってくる事が可能になった。

冬の北アルプスは晴天が二日続く事は極めて稀だが一日のワンディ山行なら晴天を確実

に捕まえる事ができる。スキーを利用してより早く、より軽く、より安全に登山を実行す

る事ができる。僕のように仕事が忙しくて連休が取れない医者でもこのスタイルなら北ア

ルプスの冬山登山を安全に楽しむ事が可能なのである。

過去1月の槍が岳は新穂高から往復 11時間、12月の五龍岳は神城の集落から往復 12時

間、3月の大日岳は立山町から往復 12時間であった。いずれもトレースのない深い雪に阻

まれたがスキーならツボ足に比べて遙かにラッセルの苦労が軽減されるのである。また山

スキーなら帰りは滑って下りるだけなので帰りのラッセルの心配はほとんど無い。いわゆ

る登れば後は滑りを楽しむだけの一方通行なのである。

冬山では斜面一つ取ってもアイスバーン,パウダー,ザラメ,モナカ雪と標高によって

も天候によっても時期によっても雪質は刻々と変化する。最高の贅沢とされるパウダーな

ど粉雪を顔面まで吹き上げながら滑る快感はスキーの中でも極上の快楽とされる。時々

刻々と変化する雪質すべてに対応できる能力が必要なためゲレンデに比べれば滑走技術は

遙かに難しい,それがまた冒険心を駆り立てるのである。 またわずか 1本の短時間の滑り

のために 1 日がかりの汗が必要な一見馬鹿らしいような行為がまた山スキーの魅力なので

ある。1本の滑りのために神経を集中して全身全霊を傾ける。これがまた山スキーの奥深さ

である。

冬はすべてのものが雪で覆われるため藪はすべて隠れてしまう。無雪期には藪が深くて

登れないような山でもスキーを使うことで容易に登頂することが出来る。ブナの原生林や

白樺の林などその合間をぬって自由自在にスキーを滑らせるほど楽しいものはない。これ

こそ文明が発達して人間が忘れかけていた自然への回帰を呼び起こしてくれる楽しいスポ

ーツなのである。一度この世界にはまってしまうとその魅力にどんどん引き込まれてしま

う。不可能を可能にする、これが山スキーである。

39

平成18年5月27日(土)

特 別 報 告

(17:10-17:30)

座長 浅野勝己(筑波大学)

NPO「富士山測候所を活用する会」の活動経過報告とリサーチプロ

ポーザルの概要

土器屋由紀子(江戸川大学)

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NPO「富士山測候所を活用する会」の活動経過報告とリサーチプロポーザルの概要

土器屋由紀子

江戸川大学・社会学部

富士山測候所は公式には 1932年に設立されたが、19世紀末より富士山頂の気象学的重要

性は認識されていた。先駆者、野中至・千代子夫妻は 1895年最高地点に私設の小屋を立て、

10月から 12月の気象観測を行った。この英雄的な行為は 1927年佐藤順一に引き継がれ厳

冬期(1-2月)の観測が行われた。

このような測候所の前史の上に 1932年(国際地球年)に臨時観測所として(現在の)気

象庁が開設した測候所は、結果としてその後 72年にわたる有人気象観測の継続により、気

象災害に対する砦となった。富士山測候所のハイライトは 1964 年のレーダー建設である。

800kmの富士山レーダーはその後数十年にわたり台風から多くの人命を救った。しかし、

1997 にはレーダーの非更新が決まった。高額であることと、気象衛星によってレーダー機

能の大半が代替できるようになったことが理由である。

気象庁に属するため、測候所の利用は気象業務に限定されていたが、1990 年代より、一

部を利用して、大気化学観測が行われていた。それらは CO2, 降水化学, O3, aerosols, 7Be, SO2,

Rn, BC などで、集中観測あるいは一部は連続観測が行われていた。1998年には東京大学の

山本教授(天文学)が、測候所の電源の分配を受け、近くににサブミリ波望遠鏡を設置し

た。それらの結果は世界的にも高く評価されている。

無人化の予定が発表されて以来、施設を利用していた研究者たちは、継続利用を訴えて

きた。その結果の一つとして、1994年 2月の IGOS/ IGACO レポートでは「富士山頂での

観測の継続」が推奨されている。一方、筑波大浅野教授たちの高所医学研究グループは 1998

年以来、測候所の高所医学研究への利用を追及していたが、この過程で、グループに参加

した。また、生態学、雪氷学などの研究者も加えて「富士山高所科学研究会」を 2004 年 8

月に設立した。

研究会設立以来、測候所の学際的な利用の実現を目指して活動を続け、2005 年には静岡

および東京で公開のシンポジウムを行った。また、各種の学会などでも広報活動を続け、

例えば、気象学会では秋季年会で「山岳大気観測」のスペシャルセッションを企画実施し

た。同時に、気象庁をはじめ、環境省、文部科学省など公的機関に依頼を続けてきたが、

気象庁には測候所を継続的に維持する意思はなく、環境省、文部科学省も利用や援助の意

向は示したものの、責任官署となる事には否定的であった。そこで、我々は管理運営の主

体となるため、2005年 11月、中村徹会長を擁して NPO「富士山測候所を活用する会」を設

立し、2006年 4月 28日に内閣府より認証された。

最後に、測候所の施設を用いてどのような研究が出来るか、大気化学、高所医学、天文

学、生態学、雪氷学などの分野の研究者が提出したリサーチプロポーザルの概要を示す。

41

2006 年日本登山医学会・第 26 回日本登山医学会

ランチョンセミナー(協賛:日本光電株式会社)

発表者氏名: 高山守正

所属: 日本医科大学内科学第一講座(付属病院循環器内科)

E-mail: [email protected]

抄録:

「急死から救う:登山者に知って欲しい自動体外式除細動器 AEDの知識」 日本医科大学付属病院循環器内科講師、日本循環器学会 AED検討委員会委員、

日本循環器学会心肺蘇生法委員会委員、日本救急医療財団日本版ガイドライン

策定委員会委員

最近、国内のメディアにしばしば自動体外式除細動器 AEDの話題があがり、昨年の愛知万博にても会場内で起こった 5 名の心肺停止のうち 3 名の社会復帰が可能となり、その有効性が注目された。AEDのみならずこれを有効に用いる多数の医師・救命士・看護師よりなる救急システムの創設・運営がなされたからこ

その成果である。しかし初めに AED を用いて電気ショックをかけたのは警備員・医学生を含む特殊資格を持たない人々であった。つまりこの救急医療機器は

音声メッセージを聞いて一般市民が十分に使用し、急に危機に陥った傷病者を

救うことができるのである。AEDは現在、空港、駅、ホテル、競技場など多数の人が集まるところに設置が進んでおり、また心臓病患者では自宅に配備する

方もある。登山の領域にこの AEDが必要か、配備して意味があるか、様々な意見があると思われる。わが国の近年の遭難事故を分析すると外傷だけでなく急

な疾患発症が原因と考えられる死亡が少なからずあり、さらにこれら疾患の好

発年齢ならびに多数の予備軍を含む中高年者が登山者の大半を占める現状は、

十分に検討の意義があると考えられる。日本人では 1000人あたり 0.5-1.0人が突然死をしている現状、そして蘇生・治療の先進的努力があっても社会復帰は

3%程度と、欧米諸国に比べ甚だ寂しい現状の改善が叫ばれている。登山という特殊条件は、危険群には十分に心臓発作(心室細動)をもたらす可能性を高め

る。登山者の多くに日本での山岳地域における AEDの活用の可能性を示す。

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平成18年5月27日(土)

一 般 演 題 A

(9:00-9:50)

座長 山本正嘉(鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター)

A-1 高地適応に関する疫学調査と ACE遺伝子多型の関与

雲登卓瑪 1)、花岡正幸 1)、久保惠嗣 1)、小林俊夫 2)、Pritam Neupane3)、Amit Arjyal3)、

Anil Pandit3)、Dipendra Sharma3)、Buddha Basnyat3,4)

1)信州大学医学部内科学第一講座、2)長野県厚生連リハビリテーションセンター

鹿教湯病院、3)Mountain Medicine Society of Nepal、4)Nepal International Clinic

A-2 携帯型低酸素トレーニング機器を用いた Intermittent Hypoxic Trainingの効果-高所

登山者向けの順化を目的として-

柴田幸一 1)、大澤拓也 2)、山本正嘉 2)

1)鹿児島医療福祉専門学校、2)鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究セン

ター

A-3 1日 12 時間の間歇的低圧環境曝露が血液性状に及ぼす影響

岡本啓

富山県立大学工学部

A-4 中等度高所での呼吸法・姿勢等の介入が動脈血酸素飽和度に及ぼす影響-介入中

および介入後の即時的改善効果-

高橋堅 1)、岩田学 2)

1)新潟リハビリテーション病院理学療法科、2)弘前大学医学部保健学科理学療法

学専攻

A-5 息こらえ時間と呼吸化学感受性との関連

横井麻理 1)、吉野智佳子 2)、増田敦子 1)、増山茂 1)

1)了徳寺大学健康科学部理学療法学科、2)千葉県医療技術大学校作業療法学科

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一般講演A-1

高地適応に関する疫学調査と ACE遺伝子多型の関与

雲登卓瑪 1)、花岡正幸 1)、久保惠嗣 1)、小林俊夫 2)、Pritam Neupane3)、Amit Arjyal3)、Anil Pandit3)、

Dipendra Sharma3)、Buddha Basnyat3,4)

1)信州大学医学部内科学第一講座、2)長野県厚生連リハビリテーションセンター鹿教湯病院、

3)Mountain Medicine Society of Nepal、4)Nepal International Clinic

【はじめに】ネパールの“シェルパ族”は、500年以上前からエヴェレスト街道沿いに居住

する高地適応民族である。彼らは高地環境下(すなわち低酸素環境下)で卓越した心肺機

能を発揮し、今やヒマラヤ登山において不可欠の存在である。シェルパ族の身体的・生理

学的特徴、および遺伝的背景を解明するため、本研究を行った。

【対象と方法】ヒマラヤ山麓のネパール・ナムチェ村(海抜 3,440m)に居住するシェルパ

族と首都カトマンズ(海抜 1,400m)に居住するネパール人(非シェルパ族)を対象とした。

2004 年 9~10 月にかけ、現地でアンケート調査と血液検体採取を行った。帰国後、血清ア

ンジオテンシン変換酵素(ACE)活性を笠原法で測定し、ACE 遺伝子の Insertion/Deletion

(I/D)多型を PCR法で検討した。

【結果】シェルパ族 105名、非シェルパ族 111名より協力が得られた。平均年齢はシェルパ

族 31.2±0.8歳、非シェルパ族 29.9±0.8歳であった。105名中 104名(99.0%)のシェルパ

族に登山経験があり、年間 3.5±2.9回、海抜 5,701±119mの高地へ赴いていた。一方、111

名の非シェルパ族のうち登山経験者は 68名(61.3%)のみで、年間 1.4±1.5回、海抜 2,689

±150mであった(p<0.0001)。シェルパ族は海抜 5,519±196m以上の高地で高山病症状が出

現するのに対し、非シェルパ族は海抜 2,750±289mで出現した(p<0.0001)。今回調査した

シェルパ族にリエントリー高山病と慢性高山病の症状・所見は認めなかった。しかし、動

脈血酸素飽和度はシェルパ族 93.3±2.0%に対し、非シェルパ族 96.7±2.3%であった

(p<0.0001)。体血圧はシェルパ族で有意な高値を示し、アンケートでも本態性高血圧の頻

度が高かった。血清 ACE活性、および ACE-I/D多型の遺伝子型に関しては両群間で有意な

差を認めなかったものの、対立遺伝子 I アレルはシェルパ族で有意に高頻度であった

(p=0.036)。

【結論】高地居住民族であるシェルパ族は高地環境(低酸素環境)に十分適応していたが、

より高度な低酸素環境に曝露されると、急性高山病を惹起すると考えられた。さらに、

ACE-I/D多型のうち、対立遺伝子 Iアレル高地適応に関与すると考えられた。

44

一般講演A-2

携帯型低酸素トレーニング機器を用いた Intermittent Hypoxic Trainingの効果-高所登山者向

けの順化を目的として-

柴田幸一 1)、大澤拓也 2)、山本正嘉 2)

1)鹿児島医療福祉専門学校、2)鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター

【はじめに】高所順化トレーニングには様々な方法があり,その一つとして,低所で低酸

素空気と通常酸素空気を数分間ずつ交互に吸入して行う Intermittent Hypoxic Training

(IHT)と呼ばれる方法がある.近年、携帯可能なサイズのトレーニング機器が開発され、

IHTは新たな高所順化の方法として期待される.そこで本研究では、この機器を用いて IHT

を行い、4000m相当の高所環境に対する順化効果を検討した。

【対象と方法】7名の男子大学生を対象として,携帯型低酸素トレーニング機器を用いた IHT

を,2週間で合計 12回行った.IHTは,5分間の低酸素吸入+2~6分間の通常酸素吸入と

いうインターバルで,1日約 2時間(低酸素吸入 60分間+通常酸素吸入 30~60分間)行っ

た.そして IHTの開始前,1週目,および IHTの終了後で,高所順化の効果を見るために,

高度 4000m相当に設定した常圧低酸素室内で,30 分間の安静および 30 分間の自転車エル

ゴメーターによる多段階運動負荷試験を行った.

【結果】トレーニング前後で比較すると,安静時と運動時の動脈血酸素飽和度の有意な上

昇,および運動時の主観的運動強度の有意な低下が見られた.また,運動時の換気応答に

ついては,全ての被験者で分時換気量の増加,または呼吸数の低下に伴う1回換気量の増

加が見られた.以上のことから,本研究で用いた方法によって,4000m 相当の高所に対す

る順化が得られることが示唆された.

【結論】携帯型低酸素トレーニング機器を用いた 2 週間の IHT により、高所順化が得られ

る可能性が示唆された.日本には高所順化トレーニングに適した自然の高地に乏しく,高

所トレーニングの場所や時間を確保することが難しい人が多い.このような登山者にとっ

て,IHTは有用な高所順化の方法となる可能性がある。

45

一般講演A―3

1日 12時間の間歇的低圧環境曝露が血液性状に及ぼす影響

岡本 啓

富山県立大学工学部

【はじめに】近年,生物時計(日周リズム)に関する研究が発展をみている.また,高所

トレーニングの方法として,living high-training low(Levine et al., 1997)の効果が議論され

ている.本研究では,低圧環境への曝露時間を 1日 12時間とし,曝露時間帯を昼間(明期)

に設定した群と夜間(暗期)に設定した群を用いて,それぞれの環境に間歇的曝露した後,

血液性状や血漿中の代謝物質にどのような変化が生ずるか比較検討した."

【対象と方法】20週齢Wistar系雄性ラットを用いて,以下の群を設けた(各群 n=6).実験

1)2C:2週間常圧環境で飼育した対照群,2Hd:2週間昼間に低圧曝露した群,2Hn:2週

間夜間に低圧曝露した群. 実験 2)4C:4 週間常圧環境で飼育した対照群,4Hd:4 週間

昼間に低圧曝露した群,4Hn:4 週間夜間に低圧曝露した群. 実験 1),2)ともに低圧環

境は 771hPa(高度 2200m相当),飼育室内の照明は 7:00 点灯-19:00 消灯とし,1日の

うち明期と暗期のそれぞれ 12時間に間歇的な低圧曝露を繰り返した.実験期間終了後,麻

酔下で腹大動脈より採血した.

【結果】結果 1).2C 群に対して,2Hd 群は赤血球数が 2.8%減少し,血漿中の遊離脂肪酸

濃度が 36.7%増加,グルコース濃度が 12.2%減少した.2Hn群は赤血球数が 6.1%増加し,

血漿中の遊離脂肪酸濃度が 41.5%増加(p<0.05),グルコース濃度が 25.0%減少(p<0.05)

した. 結果 2).4C 群に対して,4Hd 群は赤血球数が 5.1%増加し,血漿中の遊離脂肪酸

濃度が 16.5%増加,グルコース濃度が 15.1%減少した.4Hn群は赤血球数が 6.8%増加し,

血漿中の遊離脂肪酸濃度が 60.3%増加(p<0.05),グルコース濃度が 3.2%増加した.

【結論】1 日 12 時間の低圧環境への間歇的曝露において、昼間(ラット休息期)での曝露

は血液性状をさほど変化させないが,夜間(ラット活動期)での曝露は血液性状および血

漿中の代謝物質濃度に有意な変化を引き起こす.

46

一般講演A-4

中等度高所での呼吸法・姿勢等の介入が動脈血酸素飽和度に及ぼす影響‐介入中および介

入後の即時的改善効果‐

高橋 堅 1)、岩田 学 2)

1)新潟リハビリテーション病院理学療法科、2)弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻

【はじめに】 急性高山病の簡便な予防法・症状緩解法として、以前から呼吸法や姿勢な

どの介入が有効と考えられている。しかし、その効果を示す先行研究は少ない。本研究の

目的は、「中等度高所において呼吸法や姿勢などの介入が動脈血酸素飽和度に及ぼす即時的

影響を明らかにすること」である。

【対象と方法】富士山登山者 15名(20~56歳男女)に対し富士山山頂(3720m)で各種呼

吸法・動作・姿勢などの介入を行った。介入前(2 分)、介入中(3 分)、介入後(3 分)の

動脈血酸素飽和度をパルスオキシメータで測定(SpO2)し、5秒毎の移動平均を記録した。

介入方法は①横隔膜(腹式)呼吸と口すぼめ呼吸の併用、②真向法第一体操(呼吸体操)、

③歌を歌う、④散歩、⑤座位でのメモ取り姿勢(体幹前屈姿勢)、⑥酸素吸入である。

【結果】15名中 11名(平均年齢 35.1±14.8歳)の SpO2を解析した。1) 介入による SpO2

の変動: 酸素吸入、腹式・口すぼめ呼吸、真向法、歌は、SpO2 が安静時の約 85%から

93~95%へと有意に上昇した(p<0.01)。散歩は有意に下降(p<0.05)し、メモ取りは有意差なし

で下降した。 2) 介入法別 SpO2 改善値比較: 介入安定時 1 分間においても、介入時及

び介入後計 6分間においても、酸素吸入、腹式・口すぼめ呼吸、真向法、歌の SpO2改善値

では 4者間に有意差はなかった。改善のみられなかった散歩・メモ取り動作姿勢とこれら 4

者とではそれぞれ有意差があった(p<0.01)。

【結論】腹式・口すぼめ呼吸、真向法第一体操、歌を歌うことは酸素吸入と同程度に動脈

血酸素飽和度を改善し、即時的には正常範囲直近まで上昇させることが示唆される。高所

順化を促進させると言われている散歩は、即時的には動脈血酸素飽和度を低下させる疑い

が強い。座位メモ取り姿勢(体幹前屈姿勢)は動脈血酸素飽和度改善の観点から好ましく

ないと思われる。

47

一般講演A-5

息こらえ時間と呼吸化学感受性との関連

横井麻理 1)、吉野智佳子 2)、増田敦子 1)、増山茂 1)

1)了徳寺大学健康科学部理学療法学科、2)千葉県医療技術大学校作業療法学科

【はじめに】息こらえをしている間も肺でのガス交換は進行するので、次第に肺胞内およ

び血液中の酸素は減少し、二酸化炭素は増加する。血液ガスの変化は強い呼吸刺激として

働くので、呼吸困難感が漸増し、息こらえができなくなる状態(BP, breaking point)に強く

影響する。また、肺気量の大小も息こらえ時間(BHT, breath holding time)の長短に関与す

ることが知られている。本研究では、種々の条件下における息こらえと低酸素および炭酸

ガス換気応答を行い、BHTと呼吸化学感受性との関連性を検討した。

【対象と方法】15名の健康成人を対象に、全肺気量(TLC, total lung capacity)、機能的残気

量(FRC, functional residual capacity)および残気量(RV, residual volume)の3つの肺気量レ

ベルでの息こらえ実験を空気呼吸後と酸素呼吸後に行った。さらに、TLC レベルでの息こ

らえでは、深吸息による肺胞内 CO2の希釈を防ぐために 5% CO2 in airおよび 5%CO2 in O2

の混合ガスを吸入した後にも息こらえを行った。その際に BHT、BPにおける呼気終末酸素

および二酸化炭素分圧(PETO2&PETCO2)、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定した。また、

呼吸化学感受性を調べるために、漸減式の低酸素換気応答(HVR, hypoxic ventilatory

response)および漸増式の炭酸ガス換気応答(HCVR, hypercapnic ventilatory response)も行っ

た。なお、BHTは肺気量との間に強い相関があるため、一定肺気量で補正した。

【結果】HVRと BHTとの間に正の相関が、HVRと BPにおける PETO2および SpO2との間

に負の相関が見られた。また、すべての肺気量における息こらえにおいて、酸素呼吸後の

BHTが空気呼吸後のそれより延長し、HVRとその延長量との間に負の相関が見られた。し

かし、HCVRと BHTや BPにおける PETCO2との間には一貫した傾向は見られなかった。

【結論】本実験の結果から、低酸素に対する感受性が強いほど BHTが短く、PETO2および

SpO2が高いレベルで BPに達すること、酸素呼吸の BHT延長への貢献度が大きいことがわ

かった。一方、炭酸ガスに対する感受性は BHTや BPにおける肺胞内ガスに影響を与えな

いことから、BHT の決定因子として酸素の方が二酸化炭素より優位に作用している可能性

が示唆された。

48

平成18年5月27日(土)

一 般 演 題 B

(9:50-10:30)

座長:高山守正(日本医科大学器官病態内科学)

B-1 奥穂高岳登山での高山病症状出現の危険因子の検討

加藤義弘 1)、城弟知江 2)、大平幸子 2)、鈴木欣宏 1)、高見剛 1)、松岡敏男 1)

1)岐阜大学大学院医学研究科、2)岐阜大学附属病院看護部、岐阜大学医学部奥穂

高診療所

B-2 国内登山時に急性虫垂炎を発症し、下山後手術を行ったが救命できなかった1例

内藤広郎 1)、黒木嘉人 2)、山本健一郎 3)

1)みやぎ県南中核病院外科、2)飛騨市民病院外科、3)日本山岳会

B-3 日本山岳耐久レース中、御前山で心肺停止をきたし、AEDで救命しえた一症例

神尾重則 1)、船山和志 2)、大森薫雄 3)、野口いずみ 4)

1)崎陽会落合クリニック・東京都山岳連盟、2)鶴見区福祉保健センター、3)横須

賀老人ホーム診療所、4)鶴見大学歯学部

B-4 中高年登山者における登山プロセスが標高 2300m での動脈血酸素化・脈拍数に及

ぼす影響

手塚晶人 1,6)、高山守正 2,6)、滝沢憲一 3)、安藤岳史 4,6)、中村隆 5)、五十嶋一成 6)

1)日本医科大学4年、2)日本医科大学器官病態内科学、3)横浜市立大学市民医療セ

ンター、4)日本医科大学麻酔科学、5)中村病院、6)日本医科大学山岳医学研究会

49

一般講演B-1

奥穂高岳登山での高山病症状出現の危険因子の検討

加藤義弘 1)、城弟知江 2)、大平幸子 2)、鈴木欣宏 1)、高見剛 1)、松岡敏男 1)

1)岐阜大学大学院医学研究科、2)岐阜大学附属病院看護部、岐阜大学医学部奥穂高診療所

【はじめに】昨年の第25回研究会において、穂高岳山荘(2996m)で行ったアンケート

調査結果について報告した。そのアンケート回答結果より、奥穂高岳(3190m)登山者の

高山病症状出現の危険因子について検討した。

【対象と方法】回収したアンケート回答より、奥穂高岳登山の最も一般的なルートである、

上高地-横尾-涸沢-奥穂高のルートで登山した登山者(858名)の回答を対象とした。回

答内容より、性別、年齢、登山日程、運動習慣、登山時の自覚的運動強度、高山病の既往、

体格(肥満)の諸因子と高山病症状(頭痛、吐き気・嘔吐などの消化器症状、脱力・疲労、

めまい)の出現との関係について統計学的解析を行った。

【結果】対象者のうち頭痛は 17.8%、消化器症状は 4.3%、脱力・疲労は 40.8%、めまいは

5.7%の登山者が認められると回答した。解析の結果「高山病の既往」はすべての高山病症

状の危険因子であった。その他の因子では、「40 歳未満」では頭痛とめまい、「きつい以上

の自覚的運動強度で登った」は頭痛と脱力・疲労、「肥満」はめまい、「運動習慣がない」

は脱力・疲労の危険因子であった。性別、登山日程、体格は統計学的に有意な危険因子と

はならなかった。

【結論】奥穂高岳登山では、過去に高山病症状を認めたものは十分な高山病対策が必要で

あることに加えて、年齢、体格(肥満)、登山中の自覚的運動強度、普段の運動習慣が高山

病症状発症に関与することが示唆された。夏山診療所として、これらの結果を安全登山の

啓発活動に役立てて行きたい。

50

一般講演B-2

国内登山時に急性虫垂炎を発症し、下山後手術を行ったが救命できなかった1例

内藤広郎 1)、黒木嘉人 2)、山本健一郎 3)

1)みやぎ県南中核病院外科、2)飛騨市民病院外科、3)日本山岳会

【はじめに】登山時の消化器疾患発症については、高所登山時の急性胃粘膜病変の病態に

ついて多くの検討がなされてきた。一方、低地ではありふれた疾患である急性虫垂炎や胆

嚢結石発作の登山時の発症については国内外を通じて報告は少ない。今回、北アルプス登

山中に腹痛を発症し、下山後に医療施設に搬送されたのちに穿孔性虫垂炎と診断され、外

科的治療を行ったが救命できなかった症例を報告する。

【臨床経過】症例は 73歳、男性。既往歴は特になし。学生時代から登山に親しみ北アルプ

スの経験も少なくない。平成 17 年 8 月 22 日から富山~有峰湖~太郎平~薬師沢~雲の平

~三俣~双六岳~鏡平~新穂高温泉の行程を 5 泊 6 日で踏破する予定であった。登山開始

後5日目の朝より食欲不振と軽度心窩部があり、そのときは朝食を摂らなかった。夕刻山

荘に着いてからも心窩部があり夕食を摂らず、持参の胃腸薬を服用して就寝。6日目の朝

も食欲不振があり朝食を摂らず行動開始したが、体力の消耗が顕著で歩行もゆっくりとな

り、しばしば腹痛を訴えた。途中、排便して腹痛がやや改善したが、その後も体力の消耗

が増強しつつ、何とか次の山荘まで到達した。行動中はわずかな牛乳などの水分を摂った

のみ。山荘では右側臥位で腹痛をこらえていた。微熱も続きほとんど睡眠がとれない状況

であった。7日目の朝、食事を摂らず下山を開始するが、途中からほとんど歩行不能とな

り、救助に駆けつけた救助隊により担走搬送され、下山後救急車にて病院へ搬送された。。

【治療経過】病院へ搬入後、急性虫垂炎穿孔による汎発性腹膜炎と診断され、速やかに虫

垂切除術および腹腔ドレナージ術が施行された。術後は敗血症による多臓器不全のため集

中治療室管理を行ったが、改善がみられず術後3日目に死亡した。

【考察】本症例は reterospective にみると、最初に心窩部痛、食欲不振がみられ、速やかに

右下腹部に腹痛が移動していると思われることから、急性虫垂炎としては典型的な症状で

あったとおもわれた。登山中でも急性虫垂炎は発症しうるので、登山者は典型的な急性虫

垂炎の症状を理解した上で、少しでも疑われた場合は可及的速やかに医療施設に搬送する

ことが必要であると考えられた。

51

一般講演B-3

日本山岳耐久レース中、御前山で心肺停止をきたし、AEDで救命しえた一症例

神尾重則 1)、船山和志 2)、大森薫雄 3)、野口いずみ 4)

1)崎陽会落合クリニック・東京都山岳連盟、2)鶴見区福祉保健センター、3)横須賀老人ホー

ム診療所、4)鶴見大学歯学部

【はじめに】心臓突然死の多くは心室細動のよるものであり、その治療には可及的速やか

な除細動(心臓に対する電気ショック)が欠かせない。自動体外式除細動器(AED)は、

現場の誰もが使用でき、救命を可能にする器械である。今回我々は、日本山岳耐久レース

中に山中で心肺停止をきたし、適切な心肺蘇生(CPR)と AEDの使用により、救命かつ完

全社会復帰しえた症例を経験したので報告する。

【症例】56歳、男性。2005年 10月 10日、日本山岳レース中に御前山で意識消失している

ところを、都岳連パトロール隊が発見。心肺停止状態を確認、直ちに CPRを施行し蘇生に

こぎつけた。救急要請を受けた大会医療班と山岳救助隊が現場に急行、到着時は昏睡状態

にあったが循環動態は比較的安定していた。悪天候のためヘリの要請はできず、バスケッ

トボートに収容し AEDを含めた各種モニターを装着して下山を開始。搬送途中、心電図モ

ニター上に心室細動が出現、これを確認して直ちに AEDを作動したところ(200J)、除細動

に成功した。山岳救助活動から約 6 時間の経過で、青梅市立総合病院の救命救急センター

に収容。幸いにもその後の経過は良好で、現在は完全な社会復帰を果たされている。基礎

疾患は、不整脈源性右室心筋症(ARVC)と考えられた。本人と奥多摩消防署の了解を得て、

救助活動の一部と AED施行前後の心電図を動画で供覧し、ARVCについても若干の考察を

加える。

【結論】突然の心停止においては、「早い心肺蘇生」「早い除細動」「早い二次救命処置」と

いう救命の連鎖が、迅速かつ連続的に行われることが重要である。本症例は、山中という

極めて困難な状況の中で、救命の輪が効果的に機能した幸運かつ貴重なケースである。山

岳レスキューにおける AEDの有用性を示唆するものと考える。また、登山における心臓突

然死の病態と予防についての理解も重要である。

52

一般講演B-4

中高年登山者における登山プロセスが標高 2300mでの動脈血酸素化・脈拍数に及ぼす影響

手塚晶人 1,6)、高山守正 2,6)、滝沢憲一 3)、安藤岳史 4,6)、中村隆 5)、五十嶋一成 6)

1)日本医科大学4年、2)日本医科大学器官病態内科学、3)横浜市立大学市民医療センター、

4)日本医科大学麻酔科学、5)中村病院、6)日本医科大学山岳医学研究会

【はじめに】山岳遭難事故の多数に中高年齢層が占め事故防止への対策が望まれる。我々

は以前より北アルプス山岳診療所での登山者調査を通し経皮的動脈血酸素飽和度 SpO2 測

定の意義を検討し、SpO2低値は山行中の予期せぬイベント発生が多い事を示してきた。今

回、同一高度までの異なった登山プロセスがこれら指標に与える影響を検討した。

【対象と方法】対象は 40歳以上の中高年登山者計 228名。徒歩にて北アルプス太郎平小屋

(2330m)に到達した 183名(徒歩群:男/女 86/97名、年齢 56.8±7.2歳)と、交通機関(車+

リフト)にて志賀高原横手山山頂(2305m)に到達した 45名(リフト群:男/女 14/31名、年齢

58.8±8.9歳) に対し、SpO2と脈拍数を測定し、冠危険因子、日常の運動をアンケート調査

し、両群を比較検討した。

【結果】SpO2は徒歩群 94.4±2.0%、リフト群 94.3±1.8%と両群間に差はなかった。SpO2 が

91%以下の低値例は徒歩群では 10.4%に認められたのに対し、リフト群では 6.7%と低率な

傾向にあった。一方、脈拍数は徒歩群が 84.9±14.1bpm はリフト群の 73.6±9.9bpm に比べ

有意に増加していた(p<0.01)。これは徒歩群では 40-59歳(84.9±13.6bpm, n=113)と 60歳

以上(84.2±12.5bpm, n=70)と年齢間で差がなかったが、リフト群では40-59歳(72.9±9.6bpm,

n=22)に比べ 60歳以上(79.0±10.4bpm, n=23)にて有意に高値であった(p<0.05)。脈拍数

については徒歩群の男性、女性、ならびにリフト群の男性にて、日常に運動しない登山者

は脈拍数増加が顕著であった。

【結論】安静時の標高 2300m での SpO2 は登山プロセスにより影響を受けず、むしろ脈拍

が当日の運動量に関与したと考えられた。SpO2評価には安静時の測定に加え運動負荷等に

よる修飾を考慮すべきと思われた。

53

平成18年5月27日(土)

一 般 演 題 C

(15:40-16:20)

座長:松林公蔵(京都大学東南アジア研究センター)

C-1 高所環境における肥満治療の研究(第 5報) -高度変化(平地・立山・富士山)

によるエネルギー消費量,糖・脂質代謝の変化-

長崎成良 1)、高櫻英輔 1)、金山昌子 1)、家城恭彦 1)、田邊隆一 1)、斎藤昌之 2)

1)黒部市民病院臨床スポーツ医学センター 同登山医学研究室、2)北海道大学大

学院獣医学研究科生化学教室

C-2 携帯型呼吸代謝測定装置による登山中のエネルギー消費量の測定-歩行速度、上

りと下り、体重、ザック重量の違いによる影響-

中原玲緒奈 1)、萩原正大 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学大学院、2)同体育学部、3)同スポーツトレーニング教育研究セン

ター

C-3 携帯型呼吸代謝装置による登山中のエネルギー代謝の測定―8時間の登山時にお

ける経時的変化-

萩原正大 1)、中原玲緒奈 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学体育学部、2)同大学院、3)同スポーツトレーニング教育研究セン

ター

C-4 水分摂取量の違いが登山時の血圧に及ぼす影響

斉藤篤司 1)、中尾武平 2)、西田順一 3)、村上雅彦 2)、藤原大樹 2)、川渕大毅 2)、大

柿哲朗 1)

1)九州大学健康科学センター、2)九州大学大学院人間環境学府、3)福岡大学スポ

ーツ科学部

54

一般講演C-1

高所環境における肥満治療の研究(第 5 報) -高度変化(平地・立山・富士山)による

エネルギー消費量,糖・脂質代謝の変化-

長崎成良 1)、高櫻英輔 1)、金山昌子 1)、家城恭彦 1)、田邊隆一 1)、斎藤昌之 2)

1)黒部市民病院臨床スポーツ医学センター、同登山医学研究室、2)北海道大学大学院獣医学

研究科生化学教室

【はじめに】我々は高所環境の肥満治療への有用性を 1996年より富山県立山室堂にて

検討してきた.肥満を伴う 2型糖尿病患者において,高所では安静時エネルギー消費

量(REE)及び運動時 EEの増大,遊離脂肪酸(NEFA),ケトン体の増加,血糖・イン

スリンの低下を報告した.昨年の本学会ではマウスを用いて高所ではインスリン感受

性が改善し,UCP1mRNAが減少することを報告した.今回は EEおよび糖・脂 質代謝が

高度によってどのように変化するかを検討することを目的とした.

【対象と方法】健常者 6名(49.7±12.0歳 M:3 F:3名).平地(SL:60m),富山県立山

室堂(MU:2500m),雄山(OY:3000m),富士山測候所(FU:3770m)にて早朝空腹時に

EE と血液測定を行った.EE 測定はデルタトラック II代謝モニターにて 7 時間以上の睡眠

後,起床時に仰臥位にて行った.

【結果】1.SpO2 SL:97.0±0.6 MU:89.8±1.2 OY:87.0±2.7 FU:76.8±6.4%. 心

拍数 SL:56.7±11.9 MU:68.7±12.7 OY:69.0±11.2 FU:79.5±17.8bpm. 呼吸数

SL:12.8±4.7 MU:15.2±5.1 OY:16.3±4.8 FU:17.2±6.8bpm.2.EE SL:20.5±

1.7 MU:23.3±2.5 OY:23.1±3.2 FU:23.0±2.2kcal/kg.24h. 3.HOMA-R SL:

0.99±0.46 MU:0.95±0.73 OY:0.70±0.50 FU:0.96±0.35. 4.NEFA SL:

0.30±0.03 MU:0.36±0.06 OY:0.51±0.06 FU:0.42±0.08mEq/l.総ケトン体

SL:0.10±0.01 MU:0.14±0.02 OY:0.20±0.06 FU:0.23±0.05mM. 5.ノルアド

レナリン SL:305.0±36.4 MU:341.4±34.0 OY:626.3±80.6 FU:634.1±67.0pg/dl.

【結論】短期的な高所暴露により交感神経系ホルモンの亢進を介してEE増大を招き,かつ,

糖・脂質代謝が改善された.これらは概ね高度に比例する傾向であった.

55

一般講演C-2

携帯型呼吸代謝測定装置による登山中のエネルギー消費量の測定-歩行速度、上りと下り、

体重、ザック重量の違いによる影響-

中原玲緒奈 1)、萩原正大 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学大学院、2)同体育学部、3)同スポーツトレーニング教育研究センター

<目的>登山中のエネルギー消費量を知ることは、エネルギー不足による疲労や事故を防

止したり、行動能力の改善を考える上で重要である。従来は、登山のエネルギー消費量を

知る方法として RMR 法や Mets法、心拍数からの推定法などが用いられてきた。だが登山

の場合、コースによって上り下りや傾斜などの様相が異なることや、登山者によって歩行

速度や体重やザックの重さが違うことから、推定法による数値と実際の消費量との間には

かなりの差が生じる可能性がある。この点に関して、最近開発された携帯型呼吸代謝測定

装置を用いると、これまで困難であった野外でのエネルギー消費量の正確な測定が可能で

ある。そこで本研究では実際の山で、歩行速度の違い、上りと下りの違い、体重の違い、

ザック重量の違いによるエネルギー消費量の違いについて検討した。

<方法>(1)被験者:健康な成人8名(男性6名、女性2名)とした。年齢は 26.6±9.1

歳、身長は 171.3±8.6cm、体重は 72.4±11.0kgであった。(2)登山の概要:実際の山で、

標高差 180m、距離 780m、平均傾斜 13.3度のコースを設定し、そこを往復した。被験者は

まずザックなしの状態で、早い、標準的、遅い、の3つのペースでコースを往復した。往

復に要した時間はそれぞれ 33分、48分、76分だった。次に体重の 20%のザック(13~17kg)

を背負って、前記の標準的なペースで往復した。またこの他に対照条件として、舗装され

ていない平地をザックなしの状態で歩いた時の測定も行った。(3)測定項目:携帯型呼吸

代謝測定装置(k4b2、COSMED社製)を用いて登山中の呼気ガス諸変量を連続的に測定し、

酸素摂取量と呼吸交換比との関係からエネルギー消費量を求めた。また心拍数についても

携帯型心拍計(X6HR、SUUNTO社製)を用いて連続的に測定した。

<結果と考察>本研究の結果、以下のような知見が得られた。1.標準ペースで、ザック

なしの状態で歩くときのエネルギー消費量は、標高差 100m・体重1kgあたりについて、上

りでは 1.6kcal、下りでは 0.6kcalとなった。上りと下りのエネルギー消費量の比はおよそ3:

1であった。2.3つの歩行速度で比べると、上り下りとも、速度が遅くなるほど全体の

エネルギー消費量は大きくなった。これは時間が長くなった分だけ安静時代謝量が加算さ

れるためと考えられる。3.エネルギー消費量は被験者の体重に比例して大きくなった。

また体重の 20%のザックを背負った状態では約 20%増加した。したがってエネルギー消費

量は、体重とザックの重さに比例すると考えられる。本研究の結果を用いると、様々な山

を標準的なペースで歩く場合、その累積標高差と歩行距離、および登山者の体重とザック

重量を元に、エネルギー消費量を推定する式を作ることも可能と考えられる。

56

一般講演C-3

携帯型呼吸代謝装置による登山中のエネルギー代謝の測定―8時間の登山時における経時

的変化-

萩原正大 1)、中原玲緒奈 2)、山本正嘉 3)

1)鹿屋体育大学体育学部、2)同大学院、3)同スポーツトレーニング教育研究センター

【目的】登山中のエネルギーの消費量やその代謝様式を知ることは、登山中の適正なエネ

ルギー補給を考える上で不可欠である。これはエネルギー不足による疲労・事故の防止や、

行動能力の改善を考えることにもつながる。最近、携帯型呼吸代謝測定装置が開発され、

従来は困難だった登山中のエネルギー代謝の長時間測定が可能になった。我々はこれまで

にも、この装置を用いていくつかの測定を行ってきたが、それらは比較的短時間(2時間

以内)の登山を対象としたものだった。 そこで本研究では、往復で 2時間の登山コースを

4往復するという長時間(8時間)の登山を行い、エネルギー消費量やエネルギー代謝が経

時的にどのように変化するかを、上りと下りに分けて検討した。

【方法】(1)被験者:健全な成人 6名を対象とした。(2)登山の概要:実際の山で、標高差 440

m、歩行距離 1.8km、平均傾斜 14 度のコースを設定し、それを4往復した。1往復に要し

た時間は2時間で、上りが 60 分(休憩 5 分)、下りが 45 分(休憩 10 分)であった。登山

中は以下の3条件に配慮した。①最高心拍数の 75%以下で歩く。②推定エネルギー消費量

(体重〔kg〕×行動時間〔h〕×5kcal)の半分の食物を1時間毎に摂取する。③登山中の

推定脱水量(体重〔kg〕×行動時間〔h〕×5ml)と同量の水分を1時間毎に摂取する。(3)

測定項目:①携帯型呼気代謝測定装置(k4b2、COSMED 社製)を用いて登山中の呼気ガス

諸変量を連続的に測定した。そして酸素摂取量と呼吸交換比との関係から、エネルギー消

費量やエネルギー代謝様式を求めた。②携帯型心拍記憶措置(X6HR、SUUNTO社製)を用

いて心拍数を連続的に測定した。③精密体重計(BWB‐200、TANITA社製)を用いて、2

時間ごとに体重の測定を行った。

【結果と考察】現在のところ測定が完了している被験者に関しては以下のような傾向が見

られた。1.各セットの総消費量に差は見られなかった。したがって同じコースであれば時

間が長くなってもエネルギー消費量は変化しないといえる。2.1 時間・体重 1kg 当たりの

エネルギー消費量は、上りで約 6kcal、下りで約 3kcal であり、上りと下りを含めて算出す

ると約 5kcal となった。3.呼吸交換比はセットを増すごとに低下する傾向が見られた。こ

れは時間経過とともに脂質代謝が増加していることを示唆するものである。4.下りの方が

上りよりもエネルギー消費量が小さいにも関わらず、下りの方が呼吸交換比の値が高かっ

た。これは下りの運動特性(上りに比べて、瞬間的ではあるがより高強度の筋力発揮を行

う)ことを反映するものかもしれない。

57

一般講演C-4

水分摂取量の違いが登山時の血圧に及ぼす影響

斉藤篤司 1)、中尾武平 2)、西田順一 3)、村上雅彦 2)、藤原大樹 2)、川渕大毅 2)、大柿哲朗 1)

1)九州大学健康科学センター、2)九州大学大学院人間環境学府、3)福岡大学スポーツ科学部

【はじめに】中高年登山者を対象に行った先行研究において、登山前に高血圧を示した者

が 42.2%であったのに対し、登山終了後は 15.6%に低下したことを報告した(登山医学

25:101-107,2005)。この要因として、運動による末梢血管の拡張、脱水にともなう循環血液

量の低下、血圧の日内変動などが考えられた。登山では飲料水を携行しなければならない

ため、摂取水分量が制限される。血圧の低下が循環血液量の減少による場合は安全性に問

題が生じる。そこで本研究では脱水による影響を除くために登山中、飲料水を提供し、血

圧の変動について検討した。

【対象と方法】対象:中高年登山者 45名(61.4±5.2歳)を対象とした。被検者は登山当日

の出発前の安静時血圧から、正常血圧群(NT群)19名と高血圧群 26名(SBP≧140mmHg

もしくは DBP≧90mmHg)に分けた。さらに、高血圧群を無作為に 10 名の飲料水提供群

(HT-W群)と 16名の飲料水自由摂取群(HT群)に分けた。HT-W群への給水はおよそ1

時間の間隔で往復各4地点において、検者がミネラル・ウオーター500ml を配布した(計

4,000ml)。手順:登山は当日朝、登山口(標高 170m)に集合し、体重および血圧測定を行

った後、午前9時 30分に出発、山頂(935.9m)で昼食後、同ルートを下山し、登山口に帰

着する、約 7 時間±31 分の行程であった。測定項目:登山前後の血圧は血圧監視装置(日

本コーリン社製、BP-203i)を用い、座位にて行った。登山中の血圧は途中5カ所に定点を

設け、検者を配備し、往復計 10 カ所で血圧測定(テルモ社製、ES-P2000A)を行った。登

山前後の体重は同一の着衣状態で測定した。

【結果】飲水量は HT-W 群 3945±157ml、NT 群 1034±337ml、HT 群 1211±643ml であっ

た。登山後の体重は、NT 群-0.7±0.6kg、HT-W 群-0.7±0.5kg、HT 群 0.0±0.6kgであった。

登山中の心拍数はNT群>HT-W群>HT群の順に高い心拍数で行動し、登山中の血圧は SBP、

DBPともに、HT-W群>HT群>NT群の順に高い血圧で行動していた。

【結論】登山では携行する水の量に制限があるが、自由摂取による飲水量ではドリフトに

よる心拍出量の低下と心拍数の上昇が推察され、中高年高血圧者の場合、顕著になる可能

性が示唆された。本研究は福岡県勤労者山岳連盟の協力と石本記念デサントスポーツ科学

振興財団および福岡県体育協会スポーツ・医科学委員会の助成を得て行われた。

58

平成18年5月27日(土)

一 般 演 題 D

(16:20-17:00)

座長:内藤広郎(みやぎ県南中核病院外科)

D-1 日・英における山岳遭難事故の特徴について

湯浅直樹、青山千彰

関西大学総合情報学部

D-2 指導・引率登山への適用を考慮した PLP法の適用精度の検討

青山千彰

関西大学総合情報学部

D-3 山岳地で見られる情緒不安定の今昔

藤枝和夫

明海大学臨床研修センター

D-4 クライマーにおける手指の変形について

西谷善子、小西由里子

国際武道大学体育学部スポーツトレーナー学科

59

一般講演D-1

日・英における山岳遭難事故の特徴について

湯浅直樹、青山千彰

関西大学総合情報学部

【はじめに】我が国における山岳遭難事故の傾向は、過去10年ほど右肩上がりの増加を

し続け、遭難者に占める中高年割合が80%と高齢化していることなど、様々な特徴を示

している。このように登山者の高年齢化が、我が国だけでなく、他国に於いても同様の現

象が生じているのか、今後の事故を予測していく上に置いて、重要な課題であると考えら

れる。しかし、欧米での山岳遭難事故データは、各国のアルパインクラブがクラブ会員を

対象に事故統計したものが多く、我が国の警察庁主体の調査事例のような組織・未組織す

べての事故を対象にしたものが極めて少ない。幸い、イギリスの 、MRC (含む LDSAMRA)

のデータは類似した調査法を実施しているため、これらの事故データと我が国の事故デー

タを比較検討することで、我が国における山岳遭難事故の特徴について検討した。

【対象と方法】日英比較に用いた資料は、日本の場合、警察庁の山岳遭難データを採用し

た。英国ではウエールズ地方、湖水地域など、山岳救助チームや山岳救助に関係した組織

など9組織を包括する MRC(The Mountain Rescue Council of England and Wales), そして

MRC に含まれるが独自に詳細なデータを公開する LDSAMRA(Lake District Search and

Mountain Rescue Association)を採用した。期間は日英ともに 1991年から 2004年の 14年間

である。

【結果および考察・結論】日英データを比較して、特徴的な違いは遭難者の年齢構成にあ

る。我が国では50~60歳代をピークとした曲線を描くのに対し、英国では10~20

歳代の青少年層でピークを示す。この傾向は、他の欧米諸国のアルパインクラブデータも

類似している。したがって、入手しうる資料内では、高齢者遭難は日本の遭難の特徴と考

えられる。さらに、事故態様に関しては、日英ともに転・滑落と道迷いで全体の半分を占

めているが、英国での遭難者数の経年変化は、日本のような著しい増加は見られなかった。

以上、英国(MRC)データは、我が国とは著しく異なる傾向を示しており、今後、我が

国の高齢者山岳遭難問題を考えていく上で、貴重な比較資料と位置づけられる。

60

一般講演D-2

指導・引率登山への適用を考慮した PLP法の適用精度の検討

青山千彰

関西大学総合情報学部

【はじめに】 大規模の道迷い遭難事故は、千葉での道迷い大量遭難に代表されるように、

指導者やリーダーの引率中に発生する事例が多い。このようなリーダーによって引率され

る山行には、各地で催される自然教室、技術講習会、学校の引率登山、ツアー登山など数

多くの形態がある。一般に、引率登山では、グループへの参加者が地形を読み取って確認

行動するケースは極めて少なく、従順にリーダーの指示に従う。その結果、道迷いが発生

しても、参加者が気付くことは少ない。さらに、パーティへの参加者数が多くなるほど、

管理が難しく、簡単に正しいルートの確認作業が難しくなる。このことは、多くの人々を

引率する登山では、非常に周到なルート調査のもとに実施しないと、道迷い遭難事故のリ

スクが高くなる。この様なリスクを回避するため、リーダーは計画ルートの調査が必要と

なるが、従来の手法では、調査法が確立されていないため、単にそのルートを歩き、分岐

点などを確認する程度に留まっている。そこで、既に報告してきた PLP 法を基に、引率を

考慮した計画ルートの調査方法を検討し、併せて、引率登山に適用できるだけの精度につ

いて、PLP法を再検討した。

【方法、ならびに結果・結論】PLP法の精度を検定するため、六甲山など関西周辺の山々

47カ所の低山域(<1000m)で、各ルート2回の実験を行った。この際、検定者は学生1

5人で、全員、登山経験はない。精度の確認には3種類の方法を用いている。まず、①予

定ルートの到達率、②PLPの初期チェックリスト(まず地形図より作成)と③完成チェック

リスト(現場で詳細調査し、道標や地図に未記載情報を書き加えたもの)を用いて、各チ

ェックポイントに挟まれた要素の正解率(全要素に占める道迷い修正した要素数)を見た。

予定ルートの到達率とは、目的地まで最も遠くまで到達することができた要素より求める

ものである。PLP を用いると修正を繰り返ししながらも、100%到達しているため、目的地

には必ず着く結果が得られている。しかし、初期チェックリストでの平均正解率は、81.9%、

完成チェックリストで 91.5%となる。この結果は例え PLP 法を用いても1回のルート調査

ではノーミスには至らないことを示しており、引率には PLP での問題箇所の確認と習得を

兼ねて、少なくとも2回以上の調査山行が必要と考えられる。

61

一般講演D-3

山岳地で見られる情緒不安定の今昔

藤枝和夫

明海大学臨床研修センター

【はじめに】以前より当院では,情緒が不安定な受診者の行動に注目してきた。この情緒

不安定は中枢神経系にたいする酸素供給量の不足が主に考えられる。また、うっ血性心不

全、鉄欠乏性貧血、感染症、電解質のイムバランスも受診者の不安を増大させている。そ

こで、山岳地で発現する情緒不安定が環境的因子と生物学的素因とどのうに関連するのか

を探る目的で、昨年の雑誌や逐次刊行物に掲載されている記述を読み比べ、新しい知見を

求めようと試みた。

【対象と方法】科学雑誌サイエンスの発刊記念特集号のポスターが取上げたギリシャ時代

以来の科学的出来事や科学者の中に「アイスマン・オブ・ザ・アルプスの発見」を含めた

編集者の周辺環境や発見されたミイラの科学的調査の背景を対象とし、商業誌タイムが密

着取材したパキスタン・インド国境紛争で標高五千六百米の山岳に三十年間以上も駐屯を

続ける両国軍人が抱く雪崩やクレバス転落への恐怖感と発現する情緒不安定の対処方法を

比較検討した。

【結果】発見されたミイラは四名の血痕を着衣に残す他殺死体であったと判明し、このミ

イラが生存していた約五千年前、すでに高所に住む部族間に不安や恐怖に基づく情緒不安

定があったと推測された。一方、国境紛争地帯に駐屯する両軍兵士は、最近になって登山

者が着用する装備が与えられ、駐屯地の生活環境も改善されて情緒不安定の状況が改善さ

れた。特に家族とリアルタイムで会話できる携帯電話支給の効果が大きかった。

【結論】 山岳地で見られる情緒不安定の改善には、環境的因子の効果が大きい。

62

一般講演D-4

クライマーにおける手指の変形について

西谷善子、小西由里子

国際武道大学体育学部スポーツトレーナー学科

【はじめに】現在,競技やエクササイズの一環として, フリークライミング(以下クライミ

ング)人口が増加し,クライミングの競技志向が高まってきている.なかでもボルダリン

グは,短い距離の中で難易度を競うため,リードクライミングに比べ,運動強度は高く,

上肢に,特に手指にかかるストレスは大であると推察される.そこで,本研究では,先行

研究で指摘されているクライマーにおける手指の変形の実態と,それに対するクライマー

の認識状況を調査することとした.

【対象と方法】B-sesseion2006(ボルダリング競技会)のエキスパート参加者 35 名(男性

26名,女性 9名,平均年齢 25.8±5.8歳,競技開始年齢 19.5±6.0歳,競技歴 6.0±2.6年)

を対象に,面接法により質問紙調査を実施した.調査項目は,利き手,PHV 年齢,ボルダ

リング実施状況(練習頻度・時間・強度),クライミングウォールの平均斜度,主観的手指

変形の有無などであった.質問紙に加え,手指の関節可動域制限をみる為に,手指用ゴニ

オメーターを用いて中指・環指のMCP・PIP・DIP関節可動域を測定した.

【結果】関節可動域を測定した結果,35 名中 33 名(94%)に,MCP・PIP・DIP 関節のい

ずれかに関節可動域制限がみられた.主観的な手指変形において,変形していないと回答

した 6名中 5名(83%)に手指の屈曲・伸展制限がみられた.そのうち 5名全てに利き手環指

DIP 関節の屈曲制限がみられた(平均 70±0°).ボルダリング実施状況と手指の変形に関

しては,主観的登攀ペースが関係しており,7割以上と答えたものに多く認められた(60%).

【結論】手指の変形に対するクライマーの認識状況において,35 名中 6 名(17%)に認識

の格差がみられた.

63

平成18年5月28日(日)

一 般 演 題 E

(9:00-9:50)

座長:久保惠嗣(信州大学医学部内科学第一講座)

E-1 南極における高所への移動方法の違いによる呼吸循環状態の比較

大谷眞二 1)、大野義一朗 2)、大日方一夫 3)、下枝宣史 4)、大野秀樹 5)

1)日野病院外科、2)代々木病院外科、3)南部郷総合病院外科、4)下都賀総合病院

脳神経外科、5)杏林大学医学部衛生学公衆衛生学

E-2 エベレスト周辺の自然放射線測定

野口邦和 1)、中川久美 1)、岡野眞治 2)、加藤博 3)

1)日本大学歯学部、2)放射線影響協会、3)理化学研究所

E-3 富士山頂での普及型酸素濃縮器使用経験

齋藤繁 1)、嶋田均 2)

1)群馬大学医学部麻酔科、2)公立富岡総合病院麻酔科

E-4 低圧低酸素環境下による内耳機能への影響

井出里香 1)、原田竜彦 2)、神崎晶 2)、斉藤秀行 2)、小川郁 2)、星川雅子 3)、

川原貴 3)

1)(財)ライフエクステンション研究所付属永寿総合病院耳鼻咽喉科、2)慶應義

塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室、3)国立スポーツ科学センター

E-5 雪洞における保温下着使用が心拍数,直腸温および主観的温度感覚に及ぼす影響

小野寺昇 1)、関和俊 2)、西村一樹 2)、岡本武志 2)、西岡大輔 2)、石田恭生 2)、小野

くみ子 2)、小えり 2)、白優覧 1)

1)川崎医療福祉大学、2)川崎医療福祉大学大学院

64

一般講演E-1

南極における高所への移動方法の違いによる呼吸循環状態の比較

大谷眞二 1)、大野義一朗 2)、大日方一夫 3)、下枝宣史 4)、大野秀樹 5)

1)日野病院外科、2)代々木病院外科、3)南部郷総合病院外科、4)下都賀総合病院脳神経外科、

5)杏林大学医学部衛生学公衆衛生学

【はじめに】日本の南極観測の活動拠点の一つであるドームふじ基地(以下ドーム)は,

南緯 77度,海抜 3810m,平均気温氷点下 54.3℃の過酷な環境に位置する.ドームまでは従

来,雪上車によって人と物資が輸送されていたが,2003 年より航空機を用いた輸送も行わ

れるようになった.これによる高所への適応障害や急性高山病の発生が危惧されており,

安全性が繰り返し評価される必要がある.そこでドームまでのアプローチ法の違いによる

呼吸循環状態の差異を比較検討した.

【対象と方法】2004年に海抜 3000mまで航空機で輸送され,以後雪上車でドームまで移動

した隊(以下飛行隊:7人)と 1999年,2002年,2003年に沿岸より雪上車で 3~4週間か

けドームまで移動した隊(それぞれ雪上車隊 A:7 人,B:11 人,C:7 人)について行程

中の脈拍,血圧,動脈血酸素飽和度,高山病症状などを比較した.

【結果】飛行隊では海抜 3000m到達後の心拍数と血圧は同レベルの雪上車隊 Aより高値で

あったが,以後の行程ではほとんど差がなかった.両隊とも高所滞在中は心拍数,血圧は

平地より高い傾向にあった.飛行隊の動脈血酸素飽和度は高所到達直後に平均 84%まで低

下し,以後 85~90%で推移したが,同レベルの雪上車隊 B,Cと比較し低い傾向であった.

各隊とも深刻な高山病症状は発生しなかったが,頭痛や軽度の消化器症状は雪上車隊にお

いても発生した.

【結論】航空機を利用した場合でも比較的早期に極地高所に順応できると考えられるが,

高所到達直後には呼吸や循環の変動が激しく注意を要する.また雪上車での移動は徐々に

高所に慣れることができる反面,精神的疲労や二次性多血症などの影響も念頭におく必要

がある.

65

一般講演E-2

エベレスト周辺の自然放射線測定

野口邦和 1)、中川久美 1)、岡野眞治 2)、加藤博 3)

1)日本大学歯学部、2)放射線影響協会、3)理化学研究所

【はじめに】文部省科学研究費補助金による研究助成を受け,平成 17年 10~11月にクーン

ブ・ヒマラヤのルクラ-カラパタール間,平成 18年 11月にルクラ-ゴーキョピーク間の自

然放射線測定を実施してきた.その概要を報告する.

【対象と方法】大気圏内核爆発実験や原子力施設の事故等による汚染がなければ,地上 1m

における自然放射線は,表層大地からのガンマ線,宇宙線電離成分,宇宙線中性子成分に

分離できる.表層大地からのガンマ線及び宇宙線電離成分の放射線測定は GPS 付の直径 3

インチ球形 NaI(Tl)シンチレーション・スペクトロメータ(応用光研(株)+(株)湘南製)

により,宇宙線中性子成分の放射線測定は中性子レムカウンタ(富士電機(株)製)によ

り実施した.表層大地からのガンマ線については,ウラン系列,トリウム系列,カリウム-40

からのガンマ線に分離し,それぞれのガンマ線の強さを算出した.

【結果及び結論】エベレスト周辺における表層大地からのウラン及びトリウムのガンマ線

の強さは,日本の表層大地と比べるとかなり高かった.もちろん急性障害を発症するよう

な線量レベルと比べると桁違いに低く,健康上問題になるレベルというわけではない.日

本の木造家屋では,木材中のウラン及びトリウム濃度が低く,かつ遮蔽能力も低いため,

屋内外の放射線の強さに大きな違いはない.エベレスト周辺の 3,000~5,000mの高所では建

築材の多くは石材であり,しかもこれらの石材はウラン及びトリウム濃度が高く,かつ遮

蔽能力も高いため,一般に屋内のウラン及びトリウムのガンマ線の強さは屋外と比べると

かなり高い.また,宇宙線の強さは屋内ではかなり遮蔽されるため,屋内より屋外の方が

かなり高い.宇宙線電離成分及び宇宙線中性子成分の強さはそれぞれ高度とともに指数関

数的に高くなったが,地形及び建物等による遮蔽の影響を大きく受けることが明らかにな

った.

66

一般講演E-3

「富士山頂での普及型酸素濃縮器使用経験」

齋藤繁 1)、嶋田均 2)

1)群馬大学医学部麻酔科、2)公立富岡総合病院麻酔科

【はじめに】近年、酸素濃縮器が家電製品として生産されており、健康器具として市販さ

れている。大気中酸素を酸素豊化膜やゼオライト粒子を用いて濃縮し供給するものが一般

的である。駆動に際して電力を必要とするが、電気の供給が得られる場所では付加的な資

材なく相当な長時間にわたって使用可能である。また、家庭用に生産された小型の酸素濃

縮器は、重量も 3.8kgと一般の病院用酸素ボンベと比して遥かに軽量である。今回、市販の

酸素濃縮器を富士山頂において使用し、高所における作動状況を確認したので報告する。

【対象と方法】平成17年7月、富士吉田口富士山頂(当日の気温 7 度、気圧 647hPa)で

6名の健康成人ボランティアを対象として測定を行った。山頂到着後1時間以上の休息時

間をとった後、松下電器産業製酸素エアチャージャーMS-X100 を使用して酸素吸入を行っ

た。吸入に際しては通常のフェイスマスクもしくはディスポーザブル半閉鎖式呼吸回路を

使用した。酸素濃縮器から供給される気体の酸素濃度は Newport Medical Instrument, Inc. 製

酸素モニターOM-Handiを使用した。動脈血酸素飽和度と心拍数はミノルタ製パルスオキシ

メーターPulsox-3iで測定した。

【結果】酸素濃縮器から供給される気体の酸素濃度は 28.8±0.8%であった。動脈血酸素飽

和度は、酸素濃縮器使用前の 81±4%がフェイスマスク使用開始5分後、半閉鎖式呼吸回路

使用開始5分後にそれぞれ 85±3%、91±2%へと上昇した。酸素濃縮器の使用により不都

合な症状、愁訴は認められなかったが、ディスポーザブル半閉鎖式呼吸回路の使用時には

すべてのボランティアが吸気抵抗を感じた。バッテリーの使用可能時間は約 25分であった。

【結論】酸素濃縮器は電力源のある高所では使用可能と考えられた。酸素濃縮器とディス

ポーザブル半閉鎖式呼吸回路の組み合わせには、ジョイントの形状や弁の抵抗等の問題が

あり、長時間安全に使用するには更なる改良が必要と考えられた。

67

一般講演E-4

低圧低酸素環境下による内耳機能への影響

井出里香 1)、原田竜彦 2)、神崎晶 2)、斉藤秀行 2)、小川郁 2)、星川雅子 3)、川原貴 3)

1)(財)ライフエクステンション研究所付属永寿総合病院耳鼻咽喉科、2)慶應義塾大学医学

部耳鼻咽喉科学教室、3)国立スポーツ科学センター

【はじめに】急性高山病(Acute Mountain Sickness=AMS)の症状の1つとして眩暈、耳鳴など

も報告されている。平衡機能の低下は、登山行動において滑落、転倒などの事故を引き起

こす原因にもなりうる。今まで中枢神経系や視覚などの影響が指摘されてきたが、内耳も

血流豊富でエネルギー代謝が高く、リンパ圧は低圧の影響も受けやすい器官である。今回、

低圧低酸素環境下での内耳への影響について常圧常酸素群と低圧低酸素群の 2 条件におい

て比較検討した。

【対象と方法】6名の耳疾患、神経疾患のない女性で、計 12 耳を対象とした。年齢は 29

歳から 49歳で、平均 35.8歳であった。全例とも鼓膜所見は正常で、純音聴力検査は 4分法

で 20dBHL 以内であった。実験は国立スポーツ科学センターの低圧低酸素室(温度 25℃、

湿度 50%)を使用した。低圧室内の空気は20分かけて脱気し、1013hPa(PO2159mmHg)か

ら 540hPa(PO285mmHg)に設定した。内耳の蝸牛機能の評価には ILO292System(otodynamics

社製)を用いて誘発耳音響放射(TEOAE=tansient evoked otoacoustic emission)および歪成分耳

音響放射(DPOAE=distortion product otoacoustic emissin)を測定し、内耳機能への影響について

比較検討した。また気圧変化による耳管機能への影響を評価するため、Tympanogram(GSI

37/autotymp)も併せて測定した。

【結果】DPOAEにおいて 1kHzから 6.5kHz(1.3kHz以外)において、低圧低酸素群では統

計学的に有意な低下を認めた。

【結論】低圧低酸素下による蝸牛機能(外有毛細胞の機能)の低下の可能性が考えられた。

今後、さらに低圧条件と低酸素条件を分けて各々詳細に検討する必要がある。

68

一般講演E-5

雪洞における保温下着使用が心拍数,直腸温および主観的温度感覚に及ぼす影響

小野寺昇 1)、関和俊 2)、西村一樹 2)、岡本武志 2)、西岡大輔 2)、石田恭生 2)、小野くみ子 2)、

小えり 2)、白優覧 1)

1)川崎医療福祉大学、2)川崎医療福祉大学大学院

【はじめに】寒冷環境への生体曝露は,寒冷環境特有の生理反応を示す.これまでに雪洞

滞在時の心拍数低下と直腸温低下から,寒冷曝露時に生じる寒冷適応と同様の生理学的な

変化が雪洞滞在時に生じることを報告した.さらに,腰部が雪(床面)に接することで生じる

直腸温低下を断熱板にて抑制することが可能であることを報告した.そこで今回は,ウレ

タン製の断熱板に加えて,保温下着使用がさらに直腸温低下を抑制するものと仮説を立て,

その検証を行った.

【対象と方法】健康成人 8 名を対象とした.対象者には,インフォームドコンセントを実

施し,参加の同意を得た.測定項目は,心拍数,直腸温および主観的温度感覚とした.対

象者は,同一製品の保温下着を着用した.雪洞は,横穴式とし,2 つ作成した(A 雪洞,B

雪洞).A雪洞は,高さ 130cm×幅 245cm×奥行 195cmであり,5名が滞在した.B雪洞は,

高さ 110cm×幅 150cm×奥行 150cmであり,3名が滞在した.腰部にウレタン製断熱板を敷

き,座位で滞在した.雪洞滞在時間は,2時間とした.雪洞内気温は 2.2±1.7℃,同湿度は

51.5±11.6%であった.

【結果】心拍数は,開始からほとんど変化なく推移した.この傾向は,ウレタン製断熱板

を使用した前回の実験と同様の傾向であった.寒冷曝露時には心拍数が有意に低下するこ

とが明らかになっていることから,今回の条件設定が体温移動を抑制したものと考えられ

た.直腸温は,滞在開始から低下し,60 分後からプラトー状態になった.直腸温の変化量

は,前回のウレタン製断熱板を使用した雪洞実験の 2 分の 1 であった.このことは,保温

下着の着用が直腸温低下を抑制したことを示唆する.主観的温度感覚は,開始から寒さ指

数が有意に増加した.主観的な温度感覚は,皮膚温の変化に依存することが明らかになっ

ていることから,保温下着使用は皮膚温の低下が抑制されなかったことを示唆する.

【結論】心拍数の有意な減少は観察されなかった.直腸温は有意に低下したが保温下着使

用によって 50%抑制された.主観的温度感覚は有意に低下した.

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第27回 日本登山医学シンポジウムのご案内

下記のとおり、来年のシンポジウムを予定しております。会員の皆様のたくさんのご参加

をお待ちいたします。

会長:内藤広郎(みやぎ県南中核病院 病院長)

日程:2007年6月2日(土)~3日(日)

場所:宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉 宮城蔵王ロイヤルホテル