11
296 図-16① マコガレイの東京湾における生活段階別分布 図-16② マコガレイ卵期の HSI 分布 図-16③ マコガレイ卵分布と卵期 HSI 分布の重ね合わせ 産卵場(12~2 月) 稚魚主分布位置(2~5 月) 未成魚・成魚主分布位置(周年) 仔魚輸送経路(1~3 月) 卵期 HSI 重ね合わせ 卵期 HSI 産卵場位置 三番瀬 三枚洲

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296

図-16① マコガレイの東京湾における生活段階別分布 図-16② マコガレイ卵期の HSI分布

図-16③ マコガレイ卵分布と卵期 HSI分布の重ね合わせ

産卵場(12~2月)

稚魚主分布位置(2~5月)

未成魚・成魚主分布位置(周年)

仔魚輸送経路(1~3月)

卵期 HSI

重ね合わせ

卵期 HSI

産卵場位置

三番瀬 三枚洲

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ここでは湾奥の産卵場を対象としてHSIが低い原因を検討した。前述の6種の環境因子(SI) について、

どの因子が HSIを下げているか類型化した結果が図-17である。この中で、例として領域 Aに着目した。

図-18 は領域 A における SI 値の分布である。この領域は中央粒径および貝殻被度が低水準なため HSI

が低くなっていた。よって、領域 Aでは覆砂または貝殻散布の何れかを実施し、マコガレイ産卵期の卵

付着基質を増やすことで、産卵を促進し、産出された卵を保護できると考えられ、資源水準の底上げに

効果的な環境形成手法であると判断できる。

図-18 領域 Cの環境因子分布

図-17 海域の類型化

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0 水深

水温

塩分

DO

中央粒径

貝殻被度

A

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0 水深

水温

塩分

DO

中央粒径

貝殻被度

A

産卵場位置

区域

1 0

20

30

40

40

3 0

50

10

10

10

40

10

20

10

20

10

東京都

千葉県

5

5

神奈川県

5

5

5

Surface from 奥_h24マコ卵拡大ave(3).txtABCDEFNo Data

奥クラスタ隠.shp3分割中下隠.shpContours of Surface from Tkybaydepp.shp解析隠し2.shp範囲ave3積奥.shp解析範囲.shpGyoseipoly.shpGyosei.shp

0.0000600.000060.00012 km

N

EW

S

View2

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【播磨灘ヒラメ後期稚魚期の検討事例】

1.対象海域・魚種

ここでは、播磨灘を対象海域、ヒラメを対象魚種とした環境形成手法の検討例について示す。

2.生活史の把握

①試験研究機関による論文・調査資料、および関係水産試験場・漁協・遊漁船組合等へのヒアリングに

より、ヒラメの生活段階別分布域、移動方向、分布時期、更に生活段階別の好適環境を把握した。

②ヒラメの生活段階別分布を、図-19に示すように地図上にプロットした。

③卵は浮遊卵であり、卵期と仔魚期は流れに乗って受動的に分散する。稚魚は浅場に着底し、前期稚魚

期は主にアミ類を摂餌するが、後期稚魚期はイカナゴシラス・イワシシラス等の魚食性に移行する。こ

こでは餌料供給による初期減耗の抑制を図ることとし、資源水準底上げに最も効果的な生活段階として

後期稚魚期を選定した。

図-19 ヒラメの生活段階別分布(仔魚期は知見なし)

3.環境因子の把握

①着底して魚食するヒラメ後期稚魚期の特性を考慮し、環境因子(SI)として SI1:底層 DO、SI2:底質、

SI3:水深、SI4:ぱっち網漁獲量(餌料となるシラス漁獲量)、SI5:前期稚魚 HSI(生活段階の連続性を考

慮)を選定し、そのデータを収集整理した。後期稚魚期は周年に渡るが、底層 DO の値は安全側を考慮し、

最も低くなって生物生息に不適となる夏季の値を採用した。図-20に選定した環境因子の空間分布を示

す。

②次いで、各環境因子において SI モデルを適用し、0(全く不適)から 1(最適)の範囲で評価した。図-21

にヒラメ後期稚魚期の SIモデルを示す。

前期稚魚主分布位置(周年)

後期稚魚主分布位置(周年)

産卵場(1~3月)、成魚主分布位置(周年)

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・SI1:底層 DO(夏季) ・SI2:底質 ・SI3:水深

・SI4: ぱっち網漁獲量 ・SI5:前期稚魚 HSI

図-20 ヒラメ後期稚魚期に影響する環境因子の空間分布

・SI1:底層 DO(夏季) ・SI2:底質 ・SI3:水深

・SI4: ぱっち網漁獲量 ・SI5:前期稚魚 HSI

図-21 ヒラメ後期稚魚期の SIモデル

0 - 2.1 (0 - 1.5)

2.1 - 2.9 (1.5 - 2.0)

2.9 - 4.3 (2.0 - 3.0)

4.3 - 7.2 (3.0 - 5.0)7.2 - (5.0 - )

底層DO(夏)(mg/L(mL/L))

0 20 40 60 80 100km

0.0 - 0.2

0.2 - 0.40.4 - 0.60.6 - 0.80.8 - 1.0

前期稚魚HSI

0 20 40 60 80 100km

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 5 10

SI

DO(mg/L)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

砂 シルト

粘土

石・礫 岩

SI

基質

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 10 20 30 40 50

SI

水深(m)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 10 20 30 40 50

SI

水深(m)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 10 20 30 40 50

SI

水深(m)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 50 100 150 200 250

SI

ぱっち網漁獲量(ton)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

SI

前期稚魚HSI

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③ヒラメ後期稚魚は、より良い環境を求めて自律移動できることから、一つの環境因子が 0 となると生

息適性が全く不適となってしまう統合は馴染まない。ここでは 5 種の環境因子を相加平均で統合して、

総合的な生息環境適性値である HSI 分布を求めた。統合式を式(4)に示す。また、算出した HSI 分布を

図-22に示す。

554321 SISISISISIHSI (4)

図-22 ヒラメ後期稚魚期の HSI分布算出結果

4.生活史と環境情報の連結・および効果的な環境形成手法の検討

図-19 に示した生活段階分布図と図-22 に示した HSI 分布を重ね合わせて、ヒラメ後期稚魚期の環境適

性を評価した。図を重ねる過程と結果を図-23に示す。図中の赤枠内が稚魚の多棲域である。これにより、

稚魚多棲域の環境適性が定量的に把握できた。

0 20 40 60 80 100km

0.0 - 0.2

0.2 - 0.40.4 - 0.60.6 - 0.80.8 - 1.0

後期稚魚HSI

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図-23① ヒラメの播磨灘における生活段階別分布 図-23② ヒラメ後期稚魚期の HSI分布

図-23③ 播磨灘ヒラメ後期稚魚分布と HSI分布の重ね合わせ

重ね合わせ

前期稚魚主分布位置(周年)

後期稚魚主分布位置(周年)

産卵場(1~3月)、成魚主分布位置(周年)

0 20 40 60 80 100km

0.0 - 0.2

0.2 - 0.40.4 - 0.60.6 - 0.80.8 - 1.0

後期稚魚HSI

0 20 40 60 80 100km

0.0 - 0.2

0.2 - 0.40.4 - 0.60.6 - 0.80.8 - 1.0

後期稚魚HSI

後期稚魚分布

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ここでは、一つの環境因子を改善することで HSI を 1 に近づけることができる範囲として、HSI=0.7

~0.8の領域を対象に HSI が低い原因を検討した。前述の 5種の環境因子(SI)について、どの因子が HSI

を下げているか類型化した結果が図-24である。この中で、例として領域 Eに着目した。図-25は領域 E

における SI 値の分布である。この領域は、餌料が低水準なため HSI が低くなっていた。そのため、例

えば、人工魚礁造成等により餌料となるシラス等を蝟集させ、餌料を供給することで飢餓による初期減

耗を抑制できると考えられ、資源水準の底上げに効果的な環境形成手法であると判断できる。

図-25 領域 Cの環境因子分布

図-24 海域の類型化

ABCDE

0 20 40 60 80 100km

播磨灘海域区分0

0.5

1SI-DO

SI-基質

SI-DpSI-餌

SI-前期

稚魚

HSI

E

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【数値解析の活用】

これまでに、対象魚種の生息環境を支配する環境因子選定の重要性について述べてきた。しかし、環境

観測データが乏しい海域においては、環境因子の資料を入手することは困難である。また、特に受動移

動する卵期や仔魚期等生活段階毎の分布について不明な魚種が多い。観測データが乏しい海域における

環境因子の把握には、信頼できる数値解析結果を用いることが有効である。また、数値解析による浮遊

卵および仔魚の移動と着底位置予測等、生活段階毎の分布把握についても研究が進められている。

数値解析モデルは、対象とする環境因子の解析に適したモデルを選定する必要がある。前出の【播磨灘

ヒラメ後期稚魚期の検討事例】で選定した環境因子のうち底層 DOを例にとると、流れについては鉛直分

布を計算できる 3次元流動モデル、その上で酸素に関して海表面における曝気、生物の呼吸、光合成、

有機物分解による消費等を考慮した水質解析モデルが必要となる。また、数値解析結果については、観

測値と比較検討して精度を担保する必要がある。

図-26には、数値解析による生活段階毎の分布予測結果例として、播磨灘におけるマダイの浮遊卵の現

地調査結果と予測計算結果の比較を示す。図から明らかなように、予測計算結果には、現地調査結果で

示された備讃瀬戸や鳴門海峡周辺で浮遊卵密度が高い状況が再現されている。この解析は流動を計算す

るとともに、それに乗った粒子の移動を併せて計算する粒子追跡法を用いており、浮遊卵の移動予測に

適したモデルである。

以上のように数値解析は有効なツールであるが、目的に適したモデルであるか十分吟味した上で用いる

ことが肝要である。

図-26 マダイ浮遊卵の分布の現地御調査結果と予測計算結果の比較

(「平成 26年度 水産生物の生活史に対応した漁場環境形成推進委託事業のうち水産生物の生活史に対

応した広域的に連携する漁場環境形成手法の検討報告書」より)

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【環境因子資料の入手】

環境因子は様々な機関によって調査・公表されている。ここでは例として、本ガイドライン作成にあた

って使用した資料を示す。インターネット上で公開されているものについては URLも記載する。また、

その他有用な入手先も併せて示す。

1.水質・底質

1)国土交通省 中国地方整備局 瀬戸内海総合水質調査

http://www.pa.cgr.mlit.go.jp/chiki/suishitu/index.html

2)水産庁 漁場環境評価メッシュ図-瀬戸内海-(1999)

3)千葉県水産総合研究センター 水産情報

http://www.pref.chiba.lg.jp/lab-suisan/suisan/suisan/index.html

4)国土交通省関東地方整備局 千葉港湾事務所 平成 21年度東京湾底質底生生物調査報告書(2009)

5)海図

2.水深

1)日本海洋データセンターオンラインデータ提供システム(水質、海流等もあり)

http://www.jodc.go.jp/jodcweb/JDOSS/index_j.html

2)海図

3.その他有用な情報の入手先

1)各都道府県水産研究機関による漁海況情報:多くの都道府県で水質等がインターネット公開されてい

る。

2)国土交通省港湾局全国港湾海洋波浪情報網リアルタイムナウファス:概ね全国を網羅した波浪情報

http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/index.html

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水産生物の生活史に対応した漁場環境形成推進委託事業のうち

水産生物の生活史に対応した広域的に連携する漁場環境形成手法の検討

水産生物の生活史に対応した広域的に連携する漁場環境形成手法の検討委員会 委員名簿

氏名 所属 役職 備 考

佐々木 淳 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 教授 委員長

堀 正和 独立行政法人 水産総合研究センター

瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 主任研究員 委員

安永 義暢 日本海区水産研究所 元所長 委員

(五十音順、平成 27年 3月時点)

事業事務局

伊藤 靖 (一財)漁港漁場漁村総合研究所 部長

吉野 真史 (一財)漁港漁場漁村総合研究所 主任研究員

八木 宏 (独)水産総合研究センター水産工学研究所 部長

杉松 宏一 (独)水産総合研究センター水産工学研究所 研究員

本ガイドラインに関する問い合わせ先

水産庁漁港漁場整備部整備課

〒100-8907 東京都千代田区霞が関 1-2-1

TEL 03-3502-8111

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