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名古慶大学加速器質量分析計業績報告書， XXVI,2Jl5,03

中世最寒冷期の北日本14c年代偏差の解明

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1.はじめに

歴史開tの様々な開対特に 1-3 世紀 5-6 世紀 14-15 世拘に，日本産樹木の年輪 1•c 年代は

IntCal(欧米産勧ド等の14cデータに基づく国際標準暦年較正曲線最新版はIntCal13(lt悶町dal.

2013））と数十年の差をもっ（古くなる）ことが知られている（品加otoet al. 2003：，尾寄 2脚，

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されてしまうことも確認されてし叫箱崎ほか 2013）.今日， t•c 年代法は日本の歴史学・考古学・

古環境学において，試が｜年代の決定に重要な役倉lを果たしており，その測定値が正しく較正され

ないことは重大な問題である．この問題を解決するには，日本産年間敢闘料の 14cデータを蓄

積し，日材虫自の暦年較正曲線を確立する必要がある．

本研究では，北日本産埋没木を対象に， 15齢日後半の樹木年輪の14c年側u定を行った北日

本樹木では14-15世記前半において14c年代がJntCalに比べて平均31年古くなることが確認され

ており，その原因の一つにはオホーツク瓶湧昇鞠からの大気流入〈特にヤマセ）が挙げられている

（箱崎ほか 2013）.ヤマセは北日本の夏季に低温をもたらすことから，当時の北日本では，気温の

低下と大気t•c濃度の低下が連動していた可能性がある.15世紀後半は東アジアの復元気1民Cook

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名古慶大学加速器質量分析計業績報告書， XXVI,2Jl5,03

eta!. 2013）において最も寒冷な時期のーっと推定されており，北日本ではヤマセの影響が強まって

いた可能性がある．また一方で， 15 世紀緩半はシュベーラー骨·J~期の前半にあたり，太陽磁場が

弱まって地球に降り注く淳宙線量が増加し，全世界的に 1•c 生産量が増大した時期にもあたる．

本研究の目的は，ローカルな気候変動の影響民大気 14C濃度低下）とグローバルな宇宙天気の影響

（大気 1•c 濃度上昇）が同時に存在したと予想される 15 世記後半の北日本の年輪 1•c 年代を明らか

にすることである．

2.試料と方法

試料は，青森県下北半島のアスナロ埋勤地O制服）である．この埋没木は，年輪年何気年輪

幅・酸素同位体比，）， 1•c年代法により，暦制tが確定している（箱崎ほか 2014 な町．下北半島は

刺＋｜最北端に位置し，夏季にはオホーツク海高気圧の影響下にある．

試料のAD1442-1500の年輪を1層ごとに切り分け，偶数西暦年の詐桝30広（（AD1442,1判4,n

1500）の 1•c 濃度を測定した．測定には，名古屋大学タンデトロンAMS2号機を使用した．偶数年

のみを測定したのは，先に全体傾向を把控するためで，最終的には全年輪試料を測定する予定で

ある．各年輪試料の14C濃度から14C年代を算出した．

各年輪猷料の 1•c年代を JntCall3 および南半球用暦年較正曲線SH白113(1均getal. 2013）と比較

して，その年代差を算出した．また， OxCalv4.2 (B阻まR血田町2013）を使用して，各苦桝の較正

暦制tを算出し，実刑tとの年代差を検討した．さらに， Ox.I印のウィグ／レマッチングプログラ

ム(BronkRamsey et al. 2001）を使用し，較正暦年代と実年代の年代差も検討した．また，東アジア

の復元気温i白oket札 2013）とも比較し，気温と大気 1•c 濃度の関係も検討した．

3.結果

測定の結果，試料から 293 土23吋71±23BP(lσ）の 1•c年代が得られた（表 1）.試料の 1•c年代は，

JntCal13に比べて平均11土23BP(lσ措く， SHCal13に比べて平均55土23BP(lσ芦川直であった．

最寒冷期にあたるAD1450-1500に限ると，hにall3に対して平均15土23BP(lσ措く（図1),SHCall3

に対して平均58土23BP(lcr）＇酌可直であった．試料の測定値から 5年移動平均及び11年移動平均

を算出し， JntCal13およびSH白113と比較した結果，どちらの較正曲線とも異なる，変動の激し

いウィグ／レであることがわかった（図2).

JntCal13 を使って猷料の 1•c 年代を較正した結果， 22 ,¢if...73 %）は真の暦明tを含む較正暦年代

(20うに較正された（表1）.一方， SHCal13で較正した結果， 14尉47%）点が暦年代を含む較正暦年

代正zσ）に較正された（表1).

香株十の14C年代を時系列データとしてJntCal13およびSH白113を伎閉してウィグ／レマッチング

を行った結果， JntCal13ではAD1500の試料が 1493-1503回lAD(2cr）と較正された．一方， SH白113

ではAD1500の誤第十が1527・1539回以D(2σ）と27・39年若い較正暦年代に較正された（表！）.

hにall3に対する試料の14c年代の差を求め，東アジア復元気温と比較した結果B AD1450-1475

にかけての最も寒冷な時期にJntCalより若し年代へ急激にシフトし，一度JntCalに近川直まで戻

った後， AD1485付近の気温上昇時に再びh白1より 20年以J二若し年代へシフトしたことが確認

された（図3).

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名古屋大学加速器質量分析計業績報告書， XXVI,2015.03

表1青森県産アスナロ材（AONT002）年輪鼠料30点の＂C年代と較正暦年代

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4.考察

測定結果より，北日本産アスナロ材の15世記後半（中世最寒冷劫の年輪14c年代値は， JntCal13

よりも平均15年若い年代を示すことがわかった．これまで北日本産アスナロ材では， 14世抱一

15断己前半にかけてJntCal13より平均31年古くなることが報告されている（箱崎ほか 2013）.ま

た箱崎ほ 村2013）のデータは， AD135'仏1450に東アジア復元気温と同調する傾向がある（図 3).

このことから，同時代では気温の低下と大気 14c濃度の低下が同調すると予想された．しかし本

研究によって，その直後にあたるAD1450-1500では，大きな気温低下が起きたにも関わらず，大

気 14c濃度が大きく上昇するという，それまでの 100年聞と全く逆向きの変化が生じたことが明

らかとなった．

AD145仏1500は，太陽活動が極端に低下した時期の一つであるシュベーラー極小期（は

AD145仏1550）の前半にあたる．シュペーラ一面ト期前後の日本産樹木の 14c濃度測定には，ヤク

スギを使用した先行報告がある（宮原ほか 2007；北津ほか 2008）.北津ほ村2008）はシュペーラー

極1J朔以前のヤクスギ年輪14c濃度がJntCalよりも系統的に低して年代としては古いM直を取ること

を示し，宮原ほ州2007)は極小期において同14c濃度がJntCalとほぼ等しし植を取ることを示した．

ヤクスギは1-3世記， 5-6世紀においてJntCalよりかなり低い14c濃度を示すことが指摘されてお

り（吉光・中村 2012；箱崎・中村 2014），東アジアモンスーンによる南半球大気の側部こよって，

系統的に犬気14c濃度低下が起きていたと予想されている例誌amuraet乱2013）.シュベーラー極

4矧にヤクスギ年輪14c濃度がIntCa1とほぼ等しし慣となったことは，一時的に，そのような地

域効果を打ち消すほど多量の 14cが当時の日本周辺大気に入力されたことを示唆する．

－ －30

名古屋大学加速器質量分析計業績報告書， XXVI,20日.03

本研究で認められたシュペ

ーラー極小期の北日本樹木の

高い 14c濃度は，この汎地球

的な 14c濃度急増に起因する

ものと考えられる．試料の産

地は北緯41度に位置し， NH

ZonelとZone2(Hua et al. 2013)

のほぼ境界に位置する．大気

14c濃度は北半球の高緯度ほ

ど高い傾向があり但.uaet al.

2013），特に 14c生成量が急増

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1500

したような時期（例えばAD774-775の 14C－甲匙e）の濃度差は，北半球高緯度地域とそれ以外の地域

で顕著に異なる仏但戸ke2014;Jull et al. 2014）.北日本は，屋久島に比べて約10度高緯度に位置し，

シュベーラー極小期における 14c生産量の急増の影響が，相対的に強かった可能↑生がある．

しかしながら，極むj矧における 14c濃度変動が IntCalおよびヤクスギではほぼ一定（宮原ほか

2007）であるのに対し，北日本樹木は不規則で大きな変動を示した（図 2）.寒冷期中の一時的な温

暖期に，同じタイミングで 14c年代が若くなるという変化も認められた（図3）.この挙動は，北日

本周辺の大気 14c濃度が単純に太陽活動に制御されていたのではなく，地域的な気候変動の影響

も同時に受けていたことを示唆し， AD1350・1450における気温と同調する傾向を引き継いでいた

ことを示唆する．

以上から， 14・15世紀における北日本の大気 14c濃度は，太陽舌動の影響とともにローカルな気

候変動の影響を受けたと推定される．しかしまだ一個体の測競吉果に過ぎず，再現確認が十分で

はないため，別個体の追試を行い，その結果とあわせて気候変動・宇宙天気との関係を詳細に議

論するべきである．今後の展望として，シュペーラー極小期後半にあたる 16世紀前半の北日本

樹木の年輪14c濃度測定を行い，その

挙動と気温変動との関係性も明らか

にしていく必要がある．また，もう一

つの中世寒冷期にあたる 13-14世紀

の北日本大気 14c濃度変動も明らか

にして，これまでの傾向と比較してい

く必要がある．

800

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今回の測定・暦年較正の結果から， ~ 500 AD1450・1500にかけての北日本産試 3料の 14c年代は，概ねIntCal13で真の

暦年代に較正されることがわかった．

IntCal13に基づくウィグルマッチン

グでも，真の暦年代を高精度に推定で

きた（表 1）.しかしながら，各試料の

一致率をみると，一部にかなり低いも

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1464, 1466, 1484, 1486, 1490, 1492, 図2 AD1310-1500の北日本樹木の14仁年代値とlntCall3・SH仁al13

－ －31

名古屋大学加速器質量分析計業績報告書， XXVI,2015. 03

1500の9試料は，一致率200も以下であり，それらは単独試料として暦年較正した場合，真の暦年

代に較正されないことがわかった．平均値ではIntCal13との 14c年代差は大きくないが，このよ

うな事例があることから， 15世記後半の北日本産餅ヰの暦年較正には也意が必要であり，樹木試

料の場合はウィグルマッチングを行うことが推奨される．

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謝辞

本研究の試料は東北大学植物園大山幹成博士に提供して頂いた．本研究は名古屋大学年代測定

総合研究センター新研究創成経費およびJSPS科研費26284120の助成を受けた．

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日本語要旨

日本の14c年代暦年較正の高精度化に向け，北日本樹木の中世最寒冷期（15齢己後半）の年輪

14c年代を測定した．その結果， IntCalより平均15年若い14c年代値が得られた．この結果は，

その置前の時代にあたる 14-15世抱前半が平均31年古くなることと逆の傾向であった．この原

因の一つには， 15 世抱後半がシュペーラ一面N胡前半にあたり，羽此跡的に大気 1•c 濃度が上

昇したことが挙げられる．しかし，寒冷期中のー噌句な温暖期に，試料の14c年代がさらに若く

なる傾向も認められたため，太陽活動のみに制御された蓋然性は低く，気候変動も日本周辺大

気の14c濃度変動に影響した可能性がある.In!Cal13を使用してワィグルマッチングを行った結

果，最外年輪静岡真の暦制対AD1500）を含む較正暦年何14＇幻ー1503ca!ADCお））が算出された

しかしウィグルの形伏が In!Cal13と異なるため，一部の詐桝の年代値は当てはまりが悪く，仮

に単独試料であった場合，正確に暦年較正できないことも示された．今後は，もう一つの中世

寒冷期にあたる 13・14世3紀における北日本の大気1•cオフセットを年代既知年輪試料の測定によ

って検討していく必要がある．