17
※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司 《本日の予定》 1. 国会 2. 内閣 《講義での視点》 ①国会の権能:衆議院と参議院の両議院で行使する権能 ( 両院の議決必要) ②議院の権能:衆議院又は、参議院が単独で行使できる権能( 一院の議決でよい) ③議員の特権国会議員の3つの特権 〈国会の地位〉 :国会はどのような地位を有しているのかという話 国会は国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である(41 ) 両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する(43 ) この条文から ①国民の代表機関 ②国権の最高機関 3つの地位を有するといえる ③唯一の立法機関 ①代表機関について 法的代表選挙区・特定の支持団体の代表:選挙民の意思に拘束されることとなる(命令委任を要請) 政治的代表全国民の代表 :選挙民の意思に拘束されないこととなる(自由委任を要請) ②国権の最高機関について 統括機関説 (結論)「最高」の文言に法的意味を持たせ、国会は国権を統括する機関であることを意味する しかし 三権分立の観点から、国会が国権を統括するというのは妥当ではない そこで 政治的美称説 (結論)「最高」の文言に法的意味はなく、国会は国政の中心的役割をはたしていることを強調している政治 的美称である 国会 21 憲法 6

(15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1

担当 町田校 鈴木康司 《本日の予定》

1.国会 2.内閣

《講義での視点》 ①国会の権能:衆議院と参議院の両議院で行使する権能 (両院の議決必要) ②議院の権能:衆議院又は、参議院が単独で行使できる権能(一院の議決でよい) ③議員の特権:国会議員の3つの特権

〈国会の地位〉:国会はどのような地位を有しているのかという話 国会は国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である(41条) 両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する(43条) この条文から ①国民の代表機関 ②国権の最高機関 3つの地位を有するといえる ③唯一の立法機関 ①代表機関について 法的代表:選挙区・特定の支持団体の代表:選挙民の意思に拘束されることとなる(命令委任を要請) 政治的代表:全国民の代表 :選挙民の意思に拘束されないこととなる(自由委任を要請)

②国権の最高機関について 統括機関説

(結論):「最高」の文言に法的意味を持たせ、国会は国権を統括する機関であることを意味する しかし 三権分立の観点から、国会が国権を統括するというのは妥当ではない そこで

政治的美称説

(結論):「最高」の文言に法的意味はなく、国会は国政の中心的役割をはたしていることを強調している政治

的美称である

国会

21年 憲法 第 6回

Page 2: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 2

③唯一の立法機関の意味について:「唯一」の意味は?という話 国会中心立法の原則:憲法に定めのある場合を除いて、国会以外の機関がルールを作ることを禁止 国会単独立法の原則:国会以外の機関が、ルールを作る際に参与することを禁止 原則:国会中心立法の原則(国会以外がルール作ること禁止) 例外:①議院規則制定権

②裁判所規則制定権 ③行政部の制定する命令 ④地方公共団体の条例

原則:国会単独立法の原則(国会以外がルール作ることに係わること禁止) 例外:一つの地方公共団体にのみ適用される地方自治特別法の住民投票 《国会の会期》 :会期とは国会が活動能力を有する期間のことをいう そして3種類ある ①常会:毎年1回予算審議などのために召集される ②臨時会:臨時の必要に応じて召集される ③特別会:衆議院が解散され衆議院議員総選挙後に召集される ④緊急集会:緊急の必要が生じた場合に召集される

〈会期のまとめ〉 種類 時期 注意点 常会 毎年必ず1回 :通常1月中に開催され、会期は150日

:会期の延長は1回のみ 臨時会 ①いずれかの議院の4分の1の要求があ

った場合 ②内閣が職権によって召集を決定した

場合

:任期満了による衆議院選挙、参議院の 通常選挙のあとも臨時会の召集が必要

:会期の延長は2回までできる

特別会 衆議院解散後、衆議院議員総選挙選挙が

行われた後に召集される :会期の決定・延長は臨時会と同じ

中心立法の原則の例外4つ覚えること!

Page 3: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 3

会期不継続の原則:会期中に議決されなかった案件は、次の会期に継続されないという原則 一事不再議の原則:一度議決した議案は、同一の会期中には再び提出することができないという原則(一度否

決された案件は、同一会期中に再提出することはできない)

□会期不継続の原則は憲法に明文規定はない(国会法に規定)。一事不再議の原則は国会法にも規定なし

④緊急集会:衆議院が解散され、特別会が召集されるまでの間(衆議院の解散中)に国会の開会を要求する緊急

の事態が生じたときに国会を代行する制度 そして

内閣にのみ召集できる

衆議院の解散 総選挙 特別会 緊急集会

□□□緊急集会は内閣のみが召集できる □□□衆議院が解散された場合のみで、任期満了の場合は含まれない □□憲法改正の発議はできない □内閣提出の案件およびそれに関連する事項についてのみ議案の発案・審議・議決等の権能の行使可 能(内閣の案件またはこれに関する事項に含まれるならば予算の議決も可能となる) □衆議院の事後承認が得られなかった場合は、将来に向かって効力を失う

《定足数・表決数》 〈議事の開催における定足数=合議体が活動するための必要最小限の出席者の人数〉

:両議院は、総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない つまり 議事の開催には総議員の3分の1以上の出席がなければ開催されず議決もできない 〈表決数〉 原則:憲法で特別の定めがある場合を除き出席議員の過半数による

特別の定めがある場合①:出席議員の3分の2以上 :議員の資格争訟裁判において議員の資格を失わせる場合(55条但書) :秘密会(57条1項但書) :議員の除名(58条2項但書) :法律案の衆議院での再可決(59条2項)

特別の定めがある場合②:総議員の3分の2以上 :憲法改正の発議(96条)

Point

Point

Page 4: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 4

《国会議員の特権》=内容3つ ①不逮捕特権(50条)

原則:国会議員は法律の定める場合を除いては、①会期中、②逮捕されない。会期前に逮捕された場合でも

議院の要求で釈放される 例外:①院外における現行犯の場合と②その院の許諾があった場合は逮捕される

そして ②の場合、院の許諾がなければ逮捕されないが、逮捕の請求が正当であると認められる場合には議院は逮 捕を許諾しなくてはならない(通説)

Q:不逮捕特権の目的をいかに解するか A: 議員の身体的自由の保障

これは 議員の任務遂行が妨げられないように議員の身体的自由を保障したもの 議院の審議権の確保の保障

これは 議院の正常な活動を保障したもの ①会期中について :参議院の緊急集会も含む

ただし 国会閉会中の委員会の継続審議は国会会期中ではないので含まれない

②逮捕について :逮捕とは、広く公権力による身体拘束をいい、刑事訴訟法上の、逮捕・勾引・勾留はもちろん保護措置や保護 拘束など行政上の拘束も含まれる

□□刑事訴訟法上の逮捕のみならず行政上の拘束もできないが、訴追は可能であることに注意

両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中に逮捕されず、会期前に逮捕された議

員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなくてはならない(50条)

Point

Page 5: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 5

②免責特権(51条) 具体的には

①議院で行った演説・討論・評決:議員の仕事(職務遂行)として行った行為と考えるので、委員会・地方公 聴会等も含む ②責任:法的責任(民事責任・刑事責任)を問われないという意味 しかし 政治的責任は問われる可能性あり つまり 所属政党や支持団体、選挙民等が政治的・道義的責任を問うことは可能ということ

□□□(国会議員の名誉棄損的発言) (概要)衆議院議員であったXは衆議院の委員会においてA病院長は女性入院患者に対する破廉恥な行為を行

っている等の発言をしたため翌日院長が自殺した。そこで院長の妻が X に対して損害賠償請求を、国

に対しては国家賠償請求をした事件 (結論)本件発言は、X が職務を行うにつきなされた発言であるため X 個人は責任は負わない。そして国家賠

償請求が認められるためには、当該国会議員が、その職務と関係なく違法または不当な目的をもって

事実の摘示を行った場合などの特別の事情が必要である

③歳費受領権(49条) 両議院の議員は、国庫から相当額の歳費を受けることが保障されている そして

国会議員:在任中減額されないことまでは憲法上保障されていない 裁判官:在任中減額されないことまで憲法上保障されている

□□□議員の特権における「議員」とは、国会議員のみをいう

両議院の議員は、①議院で行った、演説、討論または表決について、院外で②責任を問われない(51条)

Point

Page 6: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 6

〈二院制〉(憲法42条):国会は、衆議院と参議院の二院を採用しているという話

そして 両院は、同時に召集され閉会する(衆議院が解散されたときは、参議院は同時に閉会となる)

これを 両院同時活動の原則という(議院の権能あるので独立活動も可)(憲法54条2項)

そして 二院制を採用する趣旨は、慎重な審議の確保のために採用されている

しかし 両院の意思が合致しない状態が続くと国政に渋滞を引き起こす可能性が出てくる そこで

衆議院のほうが参議院に比べ任期が短い点、および解散制度がある点で国民意思をより直接的に反映す る機関であるので、ので衆議院の優越が認められる

《衆議院の優越》 権限事項での優越(必ず先)

①予算先議権 ②内閣不信任決議権 議決での優越(両院で意見が異なった場合)

①法律案の議決(59条) ②予算の議決(60条2項) ③条約承認の議決(61条) ④内閣総理大臣の指名(67条2項)

任期 定数 資格 解散 衆議院 4年 475人 25歳以上 あり 参議院 6年 242人 30歳以上 なし

Page 7: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 7

衆議院の優越のまとめ

① 衆参の議決が異なるとき(議事手続上の優越)

両院協議会 不一致 ○参の議決期間

法律案の議決 開かなくても可 ○衆、○出の2/3で可決 60日

予算案の議決

必ず開く ○衆の議決=国会の議決

30日

条約の承認 30日

内閣総理大臣の指名 10日

②衆議院のみに与えられている権限(専権)(権限上の優越)

a) 内閣不信任決議権

b) 予算先議権

Page 8: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 8

《議事の公開》

会議の公開 原則 公開

例外 出席議員の3分の2以上で議決⇒秘密会

会議録の公表・頒布

原則 好評・頒布

例外 秘密会の記録の中で特に秘密を要するものは、公表・頒

布不要

会議録への表決の記載

原則 不要

例外 主席議員の 5分の 1以上の要求があれば、会議録への記

載必要

《国会の権能》=国会の(衆議院と参議院の両議院で行使する)権能

①憲法改正の発議権(96条) ②法律の議決権(59条) ③内閣総理大臣の指名権(67条) ④弾劾裁判所の設置権(64条) ⑤財政監督権(83条) ⑥予算の議決(86条) ⑦条約承認権(61条・73条3号但書) ①憲法改正の発議権について :各議院の総議員の3分の2以上の賛成により国会の発議が成立する ④弾劾裁判所の設置権について 弾劾裁判所:裁判官を罷免(首)にするための裁判を行う裁判所のことである

それを 設置する権限が国会にあるということ ⑤(財政監督権)について

Page 9: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 9

⑥条約承認権について 条約:文書による国家間の合意 〈考え方〉 条約の締結権は内閣にある 間違えるな!

これは 複雑な国際事情の下、迅速・円滑に条約を成立させるためには、条約締結権を内閣に与えることが適切である

からである しかし

憲法は国会の承認を条約の成立要件としている この趣旨は 条約は国民生活や国民の義務に大きな影響を与えるので、国会によって民主的コントロールを及ぼす必要があ るためである よって 国会の承認は、締結の前(原則)または後に行われる必要がある

《議院の権能》=衆議院・参議院それぞれが独自に行えるものの話 ①議院自律権

②国政調査権

③予算先議権・内閣不信任案決議=衆議院の権能

④緊急集会=参議院の権能

①議院自律権について

:各議院が内閣・裁判所などの他の国家機関や他の議院から干渉や監督を受けることなく、内部組織および運営

等に関し自主的に決定できる権能のことをいう

2つにわかれる

①組織に関する自律権

(ア)議員の資格争訟の裁判(55条):議員の資格を失わせるには、出席議員の3分の2以上の賛成が必要

(イ)役員選任権(58条1項)

(ウ)会期前に逮捕された議員の釈放要求権(50条)

②運営に関する自律権

(ア)議院規則制定権(58条2項):各議院は、会議の手続および内部規律に関する規則を定めることができる

(イ)議員懲罰権(58条2項):議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の賛成が必要

論 点 Q:議院規則の所管事項を法律で定めることも可能か A:議院規則も41条の「立法」に含まれるので、国会が定めることも可能 ②国政調査権について

Page 10: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 10

:両議院に証人の出頭、証言、記録の提出を求める権利が与えられている(62条) 〈考え方〉

:まず前提として、41条の「国権の最高機関」の解釈から入る そして 統括機関説:国会は三権の中で統括的な地位を有する しかし 憲法は三権分立を採用しているので、国会が統括的地位を有するとするのは妥当でない そこで 政治的美称説:国政の中心的役割をはたしていることを、強調している政治的美称であると解する Q:国政調査権の法的性質をいかに解するか A: 独立権能説:41条の最高機関性における国会は国権の統括機関であり、国政調査権はこの国権を統括するた めの手段としての独立の権能である 補助的権能説:各議院に与えられた権能を実効的に行使するための補助的権能である

〈視点〉

[補助的権能説] [独立権能説] 国 会 国 会 立法権 補助 立法権 条約承認権 補助 条約承認権 国政調査権

□□□ 統括機関説 独立権能説と結びつく 政治的美称説 補助的権能説と結びつく □□どちらの説をとったとしても、調査の及ぶ範囲は変わらない

《国政調査権の限界》 行政権と司法権とに分けて考えること :国政調査権は、証人の出頭、証言、記録の提出という 3 つの権限をもっているが、行政権や司法権との関係

Point

Page 11: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 11

において限界はないのかという話 論 点 Q:(そもそも)人権侵害的な調査は許されるか

A:許されない Q:国政調査権と司法権との関係をいかに解するか A:裁判所は、国民の人権を保護する機関であり、その裁判所が他の機関から干渉を受けると司法権の独立(76

条1項)を侵すことになる そこで 裁判所が現に進行中の裁判について、裁判官の訴訟指揮を調査したり、裁判の内容の当否を批判する調査を

することは許されない(確定事件についてもその後の同種の事件を担当する裁判官に対する事実上の影響を考

え同様) ただし 審理中の事件の事実につき、裁判と平行して調査するとしても、裁判所と異なる立法目的・行政監督目的で

調査することは、司法権の独立を侵すものではないので認められる Q:国政調査権と一般行政との関係をいかに解するか

A:原則として、国会は行政権を監督するため一般行政について広く及ぶ

しかし

検察権との関係については、行政権といえるものの、準司法作用を有する機関なので、司法権に準じた取り扱

いをすべきである

□公務員の職務上の秘密には及ばないこともある

□□□一般行政との関係については広く及ぶが、検察権に対しては配慮が必要 □□□司法権に対しては、司法権の独立を侵害する調査は禁止だが、目的が異なれば認められる

Point

Point

Page 12: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 12

〈行政権の概念〉 憲法65条は、「行政権は内閣に属する」と規定している つまり 内 閣 コントロール 国 会 これは 三権分立の観点から、国会が内閣をコントロールすることによって、内閣に属する行政権に対しても、国会の

コントロールを及ぼすことを目的としている 論 点 Q:「行政権」の意義をいかに解するか A:すべての国家作用の中から、立法権と司法権を除いたものを行政権という これを 控除説という 全ての国家作用 この部分が行政権 〈内閣の組織〉 ①内閣は、首長たる内閣総理大臣およびその他の国務大臣で組織される(66条1項) ②内閣総理大臣およびその他の国務大臣は文民でなくてはならない(66条2項) これは 今まで職業軍人でない者を指す ③国務大臣は、原則として14人、増やしても上限は17人とされる また、過半数は国会議員でなければならない。

《内閣総理大臣と内閣の権限》 (内閣総理大臣) ①内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名、天皇が任命 ②内閣という合議体の首長

内閣

法 司

行政権

Page 13: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 13

(内閣総理大臣の権限) ①国務大臣の任命と罷免(68条) 一身専属権で代理・代行不可 ②国務大臣の訴追に対する同意(75条) 逮捕・拘留含む ③議案を国会に提出(72条) ④法律・政令に連署(74条) 執行責任の明確化

(内閣の権限)=3つに分けて考えること 【(1)助言的権限】:天皇の国事行為に対する助言と承認(3条) これは 天皇を内閣がコントロールするためのものであり、さらに、助言と承認をしている以上、国事行為にトラブル があった場合、天皇は無答責となる 【(2)独立的権限】:内閣が単独で行える権限 ①法律の誠実な執行と国務の総理(73条1号)

②外交関係の処理(73条2号)

③条約の締結(73条3号) 原則として事前(原則)又は事後に国会の承認必要

④官吏に関する事務の掌理(73条4号)

⑤予算の作成(73条5号)

⑥政令の制定(73条6号)

⑦恩赦等の決定(73条7号) 【(3)その他の権限】 ①閣議=国務大臣全体の会議であり、全員一致が慣例となっている

②最高裁判所長官の指名(6条2項)

③その他裁判官の任命(79条1項・80条1項)

④国会の臨時会の召集(53条)=内閣は召集の決定をすることができ、召集をするのは天皇である

⑤参議院の緊急集会の要求(54条)

⑥衆議院の解散の決定(69条・7条) 論点 Q:内閣の法案提出権は、国会単独立法の原則に反するか A: 内閣の法案提出権:内閣の法律の発案権は、国会の議決権を拘束していないため立法作用の一部とみなす

ことはできない。また、議院内閣制を採用しているので、内閣にも発案権を認めるのが妥当であり、国会単独

立法の原則には反しない これに対して 最高裁判所による法案提出権は、中立的立場にいなくてはならない裁判所が政治に関与してしまうので、国会

単独立法の原則に反して認められない

Page 14: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 14

〈内閣の責任〉 内閣は、行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う(66条3項) この文言から 日本国憲法:国会に対して連帯して責任を負うことは明らかである

ただし 特定の各国務大臣の個別の責任追及可能(政治的効力)

これに対して 明治憲法:天皇に対し、各国務大臣が個別に責任を負う:内閣総理大臣も各国務大臣と対等であった 〈内閣総辞職〉 内閣が総辞職する場合の話 ①衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは10日以内に衆議院が解散されな

い限り総辞職しなければならない(69条) ②内閣総理大臣が欠けたとき(70条) ③衆議院議員総選挙の後、初めて国会の召集があったとき(70条後段) この場合に 内閣は総辞職するが、新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続き職務を行う

②について

「内閣総理大臣が欠けたとき」:死亡、資格喪失(除名、資格争訟裁判)、辞職の場合をいう したがって 生死不明、病気の場合には副総理が臨時代行し総辞職にはならない

《議院内閣制》 議院内閣制:議会と政府を一応分離した上で議会による政府の民主的コントロールを及ぼすシステム 大統領制:議会と政府を完全に分離し、政府の長たる大統領を民選で選ぶシステム 〈議院内閣制の表れ〉 ①内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で選ばれる(67条1項) ②国務大臣の過半数は国会議員である(68条1項但書) ③内閣は、行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う(66条3項)

Page 15: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 15

〈議院内閣制の本質〉 ①議会と政府が一応分離していること(自由主義) ②政府が議会に対して連帯責任を負うこと(民主主義) 論 点 Q:①②に加えて③権力均衡(内閣の自由な解散権)も議院内閣制の本質的要素といえるか A:

均衡本質説:権力均衡(内閣の自由な解散権)も議院内閣制の本質である つまり ①②の他に、③権力均衡(内閣の自由な解散権)も本質と考えている 責任本質説:議院内閣制の本質は、政府の対議会責任である つまり

③権力均衡(内閣の自由な解散権)は、議院内閣制の本質と考えていない

□均衡本質説と責任本質説については争いがあり これを

一義的でないという言い方をする

Point

Page 16: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 16

《衆議院の解散》 :任期満了前に衆議院の議員全員の資格を失わせる行為

この趣旨は

:解散に続く総選挙によって国民の審判を求める機能を有することである

「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院

が解散されない限り、総辞職をしなくてはならない」(69条) ということは

論 点=2段階で考えること

Q:解散権が形式的には天皇にあることについては争いがない(7条 3号)。では、実質的解散権はどこにあるか

=1段階目

A:

69 条限定説:内閣が 69条に基づいて 69条の場合(不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否

決に解散できる

理由は

69条以外に内閣による解散権を規定した条文がないこと。

しかし

69条の場合(69条に規定されたことが起こった場合)にしか解散ができないので、解散で

きる範囲が狭くなるという批判がある

そこで

69条非限定説:69条以外の条文を根拠条文とする

Q:では、69条以外で何条を根拠とするのか=2段階目

A:

65 条説:控除説にたつことを前提として、衆議院の解散は、立法作用・司法作用のどちらでもなく、行政

作用なので65条を根拠に解散できる

しかし

控除説を採用しないものには説得力はない

制度説:議院内閣制を根拠に自由に解散できる

しかし

議院内閣制は一義的でないのでそこから導くことはできない

7条説:内閣が7条3号を根拠に自由に解散できる

これは

内閣が「助言と承認」(3 条)を行う際に解散の実質的決定を行うことにより、天皇による解散が

形式的なものになるからである

衆議院 内閣の不信任案可決

内閣の信任案否決

内閣総辞職 または 衆議院の解散

Page 17: (15) (無断転載禁止)...無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 1 担当 町田校 鈴木康司

※当講義録は大原受講生の補講用並びに通信教育講座レジュメとして提供するもので、これ以外の用途に使用・無断複製・ 無断転載などを行った場合には著作権法に抵触し処罰の対象となりますのでご注意ください 17

《独立行政委員会》 :特定の行政について、内閣から独立した地位において、その職権を行使することを認められている合議体の

行政機関 そして 中立的な行政を確保する目的のためアメリカの例にならって導入された

具体的には 準司法作用を有する公正取引委員会や一般行政たる人事院などが挙げられる

内 閣 コントロール 独立

独立行政委員会=職権行使 とすると 「行政権は、内閣に属する」と規定した65条に反するのでは? 具体的には 行政権は内閣のコントロールが及ばなくてはならないが、独立行政委員会は行政権から独立しているため、

内閣のコントロールが及んでいないので65条に反するのではないかということ 論 点

Q:独立行政委員会は、65条に反しないか

A:反しない =結論はこれでよいが理由が以下の2つ争いあり

〈論証〉

Ⅰ説:独立行政委員会に対して内閣が委員の任命権を有し、委員会の予算の編成権を有している以上、内閣

のコントロール下(内閣に属している)にあるため、65条に反しない

しかし 裁判所に対しても内閣は、人事権・予算権があるため、それだけをもって65条に反しないとすると、 裁判所も同様(内閣のコントロール下にある)ということになってしまう

Ⅱ説:内閣に属していないものの65条の例外として、65条に反しない 理由として ①権力分立の観点から、行政権に権力が集中するという行政権の肥大化の防止という点を重視する ②行政の中立性という要請を重視する ③憲法65条は、76条1項と異なり、「すべて行政権は」という文言がない

行政権

国会