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ICUでの記憶
1日1回鎮静を切ることで記憶は変わるのか?!
筑波大学附属病院 ICU 吉野靖代
背景
• ICU退室後に妄想的記憶と呼ばれる、現実とは異なる記憶(幻覚、悪夢、夢、被害妄想)をもつ患者がいる。
• 妄想的記憶の原因に関しては、様々な研究が行われているが、鎮静深度もその一つである。
• 2013年PADガイドラインでも、light sedationや鎮静プロトコール、daily sedation interruption(日中の間歇的な鎮静中断)が推奨されているが、light sedationやdaily sedation interruptionと記憶に関しての研究はない。
そこで今回紹介する論文はこちら・・・
この研究は、鎮静プロトコール単独群(PS)と、鎮静プロトコールと日中の間歇的な鎮静中断を組み合わせた群(PS+DI) を比較した、SLEAPトライアルの二次分析である。
鎮静プロトコールと日中の間歇的な鎮静中断を組み合わせた鎮静プロトコールにおけるICU滞在中の記憶
Critical Care Medicine 43(10):2180-2190, October 2015
方法①期間と設定、対象と除外基準
期間と設定 • 2008年1月〜2011年7月 カナダとアメリカの16施設(内科系・外科系)で行われた。 • 前向きコホート研究 対象患者 • 48時間以上人工呼吸管理を受けている。
• オピオイドまたはベンゾジアゼピンの持続投与を受けている。
除外基準 • 心停止、脳挫傷、DNARの患者。
方法②鎮静プロトコール
• 鎮静プロトコール群(PS)と鎮静プロトコール+日中の間歇的な鎮静中断(PS+DI)群は、無作為に割り付けられた。
• 鎮静はSedation Agitation Scale (SAS)あるいはRichmond Agitation Sedation Score (RASS)によって鎮静深度を確認し、SAS 3~4、RASS0〜-3となるよう看護師によって調節された。
• PS+DI群は毎朝鎮静剤投与を中断した。医師によ
り鎮静剤投与が必要と判断された場合は、中断前の投与量の半量から鎮静剤投与を再開した。
方法③ICUメモリーツール
• ICUでの記憶を査定するツール。事実の記憶、気
持ちや感情の記憶、妄想的記憶の3つの記憶が定義されている。
• ICU退室後3、28、90日後にICUメモリーツールを
使用し、面接または電話にてインタビュー調査を実施。
• SLEAPトライアルの対 象患者のうち、ICUから退室した患者は297
名。このうち、本研究の対象患者はPS群146名、PS+DI群は143名であった。
• ミダゾラム、フェンタニルの投与量は、PS群で有意に多かった。
• その他の基礎データに差はなかった。
結果①
結果②
• ICU退室後3、28、90日後、ICU滞在中のことを覚えていないと答えた患者は28%、26%、36%であった。(p=0.3)
覚えていない
覚えている
28%
3日後
26%
28日後
36%
90日後
結果③ • ICU退室後3日目において、28%の患者はICU滞在中
のことを覚えていないと回答しているにも関わらず、97%の患者は何らかの現実的な記憶が、90%の患者は感情的な記憶がある。
感情的な記憶は時間経過とともに少なくなっていく(忘れられていく)傾向がある。
特に混乱状態であったことや、パニックになっていたことは忘れられていく傾向が強く、統計学的にも有意に少なくなっている。
結果④
• ICU滞在中の記憶の有無は、PS群PS+DI群間に有意な差はなかった。
• ICU滞在中のことを覚え
ていない患者の方が、ミダゾラム、フェンタニルの1日投与量は少なかった。(p<0.001)
• ミダゾラム、フェンタニルの総投与量、SAS(鎮
静深度)に有意差はなかった。
結果⑤
• 妄想的記憶の有無はPS群とPS+DI群間に有意な差はなかった。
• 妄想的記憶の有無は、せん妄やミダゾラム、フェンタニルの投与量との関連は認められなかった。
結果⑥
28日後の妄想的記憶との関連を示す多変量解析では、 • 60歳以下の患者の方が妄想的記憶をもちやすい。 • 人工呼吸期間が長いほど、妄想的記憶が減りやすい。 ということができる。
結語
• ICU滞在中の記憶や記憶の種類に、日中鎮
静剤を中断する鎮静プロトコールによる影響はなかった。
• 鎮静プロトコールに従い、light sedationを遂行した場合でも、ICU滞在中の記憶がないことや、妄想的記憶をもつことは稀ではない。
私見
• 本研究ではミダゾラムのみの使用であり、ミダゾラム自体が妄想的記憶を増加させることや健忘作用をもつことが影響している可能性があり、他鎮静剤での検討も必要である。
• 妄想的記憶とせん妄、鎮静剤の関連は認められなかったが、鎮静剤の種類や鎮静の深さとせん妄の発症の関連は強く、それぞれの妄想的記憶に及ぼす影響に関しては今後も検討が必要であると考えられる。
• インタビュー調査であり、ICUメモリーツールの限界を踏ま
える必要ある。また、追跡調査のため、脱落者が多いことにも注意が必要である。
筑波メディカルセンター病院 救急診療科 阿部智一先生 監修