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1 はじめに
本校は,昨年度より3つの研究指定を受け,その実践研究に取り組んでいる。まず,兵庫県教育委員会より「平成25年度新たな課題に対応した人権教育研究推進校」の研究指定を受けた。また,兵庫県教育委員会及び赤穂市教育委員会より「平成25年度道徳教育実践研究事業推進地域」の研究指定を受け,昨年11月に研究発表会を開催した。さらに,西播磨人権教育研究協議会及び赤穂市教育委員会から「平成25・26年度人権教育実践研究」の研究指定を受け,実践研究に取り組み,本年10月に研究発表会を開催したところである。人権教育においても道徳教育においても,「高い志と思いやりの心を持つ生徒の育成」を目指して取り組んだ。
2 生徒の現状と課題
本校には,現在413名の生徒が在籍している。生徒は明るく素直で,何事にも意欲的に取り組み活動している。あいさつ運動や学校行事,ボランティア活動などに主体的に取り組み,地域の方から生徒の活動や学びの姿を認めていただいている。しかし,一人一人を見ると他者に認められたり褒められたりする経験が十分とは言えず,自分に自信が持てない生徒や,自己肯定感や自己有用感などの自尊感情が低い生徒などがいる。そのため,日常生活の中で様々な不安を抱えており,思春期を迎えるとその影響が表面化し,人間関係
のトラブルや他者への思いやりの欠如,人との関わり方のまずさとなって表れることがある。また,自らを律し,社会のルールを守ろうとする意識が低いといった姿が見られる。このような課題を解決するには,学校だけ
でなく,家庭や地域社会と共に生徒を育てていこうとする共通認識を,学校が中心となって醸成していく必要がある。そして,学校・家庭・地域社会が生徒にとって心の居場所となり,命を大切にし,思いやりの心を育む土壌づくりに一体となって取り組むとともに,生徒自身が自分達の力でよりよい集団をつくっていこうとする意識を高めていくことが課題である。
3 全教育活動における人権教育の推進
生徒にもわかりやすい言葉で人権尊重の精神を表現すると,「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」である。そのために必要な人権感覚は,生徒に繰り返し説明するだけで身につくものではない。人権感覚は,学級をはじめ学校生活全体の中で,自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを生徒自身が実感できるような状況において培うことができる。個々の生徒が,一人の人間として大切にされているという実感を持つことができれば,自己や他者を尊重しようとする意識や意欲・態度が育まれると考えるのである。これらのことから,学校における人権教育は,全教育活動において取り組むべき内容であり,人権が学校文化として根付
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No.2
新たな課題に対応する人権教育の推進~課題解決に向けた意欲・態度・実践力の育成~ 赤穂市立赤穂東中学校
校長 尼あま
子こ
勝かつ
義よし
中学校
く教育活動を進めていくことが重要であると捉えている。4 新たな課題に対応した人権教育研
究推進校としての取組【研究テーマ】
『命の大切さを基本として,思いやりの心,豊かな人権感覚を醸成し,その実践力を身につけさせる』○いじめ防止○ネット社会の理解と人権侵害の防止○DVの理解○家庭や地域との連携と協力体制の構築○道徳や学級活動,教科指導の充実
(1)いじめのない学校づくり①「いじめ追放」アピールの発信生徒集会において校長から「いじめのない安心できる学校」についてアピールを行った。「大事なことは,全ての生徒が『安心できる仲間』であ る こ と で す。『自分がされていやなことを人にしない』これは,赤穂東中学校が,『安心できる仲間がいる安心できる学校』であるために,とても大切なことの一つです」(アピール文より抜粋)②ふれあいウィーク(教育相談週間)年間4回,全生徒が学級担任と,友だち関係,学習面,部活動,家庭でのことなど,困ったり悩んだりしていることを相談する週間を実施した。③いじめ・暴力追放キャンペーン・いじめをテーマとした詩の朗読
生徒集会で,いじめ追放に関する心に響く詩を朗読した。
・あいさつ運動あいさつをすれば,自然に笑顔にな
る。地域の人とも交流できる。こんな願いを込めて,毎朝の校門でのあいさつ運動に加え,登校時間に通学路3ヵ所に立って,朝のあいさつ運動を展開した。
・大縄大会毎年6月にクラス全員で大縄跳びに
挑戦する。クラス全員の声と心を一つにして大縄を跳び仲間の絆を深めている。
(2)DVの理解を図る取組【ねらい】
対等な関係や,自分らしさとは何かを理解させ,人を大切にする心を育てる。
【講演】テーマ:「対等な関係をつくろう
~デートDVを防止するために~」講 師:NPO法人女性と子ども支援セン
ター ウィメンズネット・こうべ生徒たちによるDVの寸劇を交え,DV
の定義や防止について学んだ。【学び】・交際相手からの暴力をデートDVという。・怖いと感じるなら,それは暴力を受けていると言える。
・対等な関係を保つことが大切である。
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▲ 心を一つにジャンプ
▲ アピール文
▲ 生徒による寸劇
(3)保護者・地域と連携した取組①保護者・地域への啓発活動校区の小学校・幼稚園・保育所が連携し,「あいさつ」と「思いやりの心」をキーワードに,保護者や地域の方々と共に取組を進めた。保護者や地域にチラシを年間7回配付するとともに,キーワードを染め抜いた「横断幕」と「のぼり旗」を作成し,協力を呼びかけた。
②保護者との連携地区懇談会において,保護者に対し,学校が作成した資料『いじめの問題に今できること』を配付し,「いじめとは」「いじめのサイン」「ネットでのトラブルを防ぐ」などについて啓発と協力依頼を行った。また,学校の道徳の授業で使用した資料「どうして?」(「中学生用教育資料『きらめき』」兵庫県教育委員会)を配付し,教職員が朗読するとともに生徒の感想を紹介し,いじめについて考えた。
(4)ネット社会の理解の取組演題:『スマホやインターネットの落とし穴』
~仕組みを知って被害を防ごう~兵庫県情報セキュリティサポーターである
篠原嘉一氏を招き,専門用語や略語等を始め,ネット社会に潜む危険性について学んだ。携帯電話のメールやゲーム,LINEなどの不適切な利用によって,人間関係のトラブルや,事件に巻き込まれる危険性があることについて,実際に携帯電話やパソコンの画像などを使って学ぶことができた。
(5)思いやりの心と人権感覚を培う授業①道徳1年生「私もいじめた一人なのに…」(中学
生の道徳『自分を見つめる』),2年生「一冊のノート」(中学生の道徳『自分を考える』),3年生「どうして?」を活用して全学級において,いじめを許さない心や家族愛などを培うことをねらいとした授業を実施した。
②音楽音楽会の成功をめざし,パートリーダーを
中心に生徒達が主体的に合唱に取り組んだ。歌詞の意味を考えたり,発声やハーモニーを工夫したり,他のクラスの歌声を聴き合うなど,お互いに意欲を高める工夫をした。音楽会で金賞をめざすことだけではなく,聴く人に幸せを感じてもらえる音楽会にしようと取り組むことができた。
5 人権教育とは
人権教育は,学びの場としての学校の在り方,雰囲気,環境が重要であり,それは学校の人権文化を創ることであると考えている。昨年度及び本年度の体育祭では,終了後に
全生徒と教師がグラウンド一面に円陣を作った。最後に,本校の教育実践の一つの姿として,その円陣に寄せて書いた拙文を紹介して実践報告としたい。
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▲ 啓発チラシ第1号
▲ キーワードを地域に広める横断幕
▲ 地区懇談会資料
「心の円陣」全力で駆けてくる生徒達。一人一人が誇らしげに笑みを浮かべている。誰一人しゃべらず,グラウンドの中央に整列してゆく。体育祭の閉会式が始まるのである。まだ夏の日差しが照りつける9月半ば,朝から体育祭の各種目に出場し,あるいは運営のため係として活動した生徒達である。服は土に汚れ,全身汗に濡れていた。これまで連日の練習や今日一日の疲労もあったであろうが,全員が全力疾走で閉会式の隊形に整列するのである。教師は誰一人として,「走れ」とか「静かに」などの指示や号令は掛けない。生徒達は,リーダーの号令のもと瞬く間に整列し,しっかりと前を向いている。私は,「一生懸命が一番かっこいい,一生懸命が一番美しい,一生懸命が一番尊い」と,いろいろな行事や生徒集会,学校だよりなどで繰り返し生徒達に伝えてきた。今,生徒達は,その一生懸命な姿を見せてくれている。全力で取り組んだ体育祭。力を出し切った満足感,達成感が生徒達の表情にあった。私は閉会式の挨拶で,「たくさんの感動を得た一日でした。皆さん一人一人が今日のヒーロー,主人公でした」と話した。そして,閉会宣言が行われた直後,生徒会本部役員の6名の生徒が私の所に集まり,次のように話してきた。「校長先生,解散の前にもう少し時間をください。今から生徒全員で円陣を作りたいんです。そして,今日みんなが頑張ったことを,みんなで讃え合いたいんです」私は「先生達もその円陣に入れてくださいね」と答えた。そして,生徒会役員の一人の女子生徒が,マ
イクを持ってトラックに進み出た。彼女は部活動のバレーボールの試合で膝を負傷し,病院での手術の後,入院している生徒であった。体育祭のこの日は,主治医に特別に許可をもらって車いすに座って参加していた。その女子生徒は次のように全校生徒に呼び
かけた。「今日の体育祭,生徒全員が心を一つにし
て一生懸命に頑張り,大成功だったと思います。この喜びを生徒全員で分かち合うため,生徒全員で運動場に大きな円陣を作りたいと思います。皆さんいいですか」そう言い終わるや否や,生徒達は,3年生
も2年生も1年生も,整列の隊形から円陣へと移動し始めた。教師たちもその円陣の輪に加わり,次々と肩を組んでいった。私はその様子を,心からうれしく思いなが
ら見ていた。すると,3年生の,どちらかと言えばやんちゃな男子生徒二人が,「校長先生も入らなあかんで。一緒に円陣作ろ」と言いながら,肩を組んできた。もちろん私は,喜んで円陣に加わり,生徒・教師らと一緒に歓声をあげたのである。この体育祭で作ったこの円陣は,日が経つ
につれ,生徒や教師から「心の円陣」と呼ばれるようになった。私も,生徒達の心が一つになった「心の円陣」であったと思う。感動の時,感動の場というものは,どこか
にあるというものではなく,自らが創り上げるものだと思う。感動の扉は,自らが開くのである。
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