27
~農業の持続的発展に向けて~ 本章では、農業の持続性を回復することが急務となっているなかで、「国内生 産」、「生産を支える農業経営・人材・農地」、「農業所得の増大に向けた取組」、 「女性や高齢者の活動」、「環境保全・生物多様性と調和のとれた農業の取組」、 「研究・技術開発の取組」に焦点を当て、その動向や課題等について、主として 次の点を記述しています。 我が国の農業生産については、各品目とも、総じて減少しており、今後、品 質・コスト等の課題を解決しつつ、平成 32 年度( 2020 年度)の生産努力目標達 成に向けた取組が必要であること 農業所得全体が過去 20 年で半減し、農業の収益性が大きく低下するなかで、 担い手不在の水田集落が多く存在し、 10 年後には農業者の減少・高齢化が さらに進行することから、今後、多様な農業者の確保や、特に若者を中心と した新規就農を進めること等が必要であること 農地面積は引き続き減少しており、今後、農地の有効利用・確保等の取組 を進めていく必要があること 多様な農業者の特性に応じた金融支援を行っていく必要があること 農業所得増大のため、戸別所得補償制度等といった政策支援のほか、農産物 の販売価格の向上、販売量の増大、コスト低減といった自らの取組が重要であ ること 農業就業者の過半を占める女性農業者の社会・経営参画や、高齢農業者の活 動支援を進めていく必要があること 持続可能な農業生産を支える取組として、環境保全型農業、生物多様性と調 和した農林水産業、食料自給率の向上等に対応するための研究・開発の取組を 進めていく必要があること (稲刈り前の水田) (農産物直売所) 97

~農業の持続的発展に向けて~0 1980年82 84 86 88 90 92 94 96 2000 02 04 06 08 (概算) その他 果実 畜産(乳用牛、豚、肉用牛、鶏、その他)

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~農業の持続的発展に向けて~

本章では、農業の持続性を回復することが急務となっているなかで、「国内生産」、「生産を支える農業経営・人材・農地」、「農業所得の増大に向けた取組」、「女性や高齢者の活動」、「環境保全・生物多様性と調和のとれた農業の取組」、「研究・技術開発の取組」に焦点を当て、その動向や課題等について、主として次の点を記述しています。○ 我が国の農業生産については、各品目とも、総じて減少しており、今後、品質・コスト等の課題を解決しつつ、平成32年度(2020年度)の生産努力目標達成に向けた取組が必要であること

○ 農業所得全体が過去20年で半減し、農業の収益性が大きく低下するなかで、① 担い手不在の水田集落が多く存在し、10年後には農業者の減少・高齢化がさらに進行することから、今後、多様な農業者の確保や、特に若者を中心とした新規就農を進めること等が必要であること

② 農地面積は引き続き減少しており、今後、農地の有効利用・確保等の取組を進めていく必要があること

③ 多様な農業者の特性に応じた金融支援を行っていく必要があること○ 農業所得増大のため、戸別所得補償制度等といった政策支援のほか、農産物の販売価格の向上、販売量の増大、コスト低減といった自らの取組が重要であること

○ 農業就業者の過半を占める女性農業者の社会・経営参画や、高齢農業者の活動支援を進めていく必要があること

○ 持続可能な農業生産を支える取組として、環境保全型農業、生物多様性と調和した農林水産業、食料自給率の向上等に対応するための研究・開発の取組を進めていく必要があること

第3章

(稲刈り前の水田)

(農産物直売所)

97

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資料:農林水産省「生産農業所得統計」注:その他は、麦類、雑穀、豆類、いも類、花き、工芸作物、その他作物、加工農産物の計

兆円

98

12

10

8

6

4

2

01980年 82 84 86 88 90 92 94 96 2000 02 04 06 08

(概算)

その他

果実

畜産(乳用牛、豚、肉用牛、鶏、その他)

野菜

11.7兆円(1984年)

8.5兆円(2008年)

1.1兆円

2.6兆円

1.9兆円

2.1兆円

0.7兆円

1.6兆円

3.3兆円

0.9兆円

2.0兆円

3.9兆円

11.5兆円(1990年)

9.1兆円(2000年)

図3-1 農業総産出額の推移

(1) 国内農業生産の動向

ア 農業生産全体の動向

(我が国の農業生産は減少傾向)我が国の農業総産出額1は、生産量の減少や価格の低下等により、昭和59年(1984年)の11兆7千億円をピークとして、農業純生産2(農業所得に当たるもの)が最大となった平成2年(1990年)には11兆5千億円、平成12年(2000年)には9兆1千億円と減少を続け、平成20年(2008年)には8兆5千億円となりました(図3-1)。品目別にみると、畜産2.6兆円(農業総産出額に占める割合30.5%)、野菜2.1兆円(同24.9%)、米1.9兆円(同22.4%)、果実0.7兆円(同8.7%)の順となっています。

平成2年度(1990年度)から平成17年度(2005年度)にかけての減少要因をみると、生産要因が52%、価格要因が48%となっており、品目別には価格低下と生産減少が大きかった米が全体の減少額の3分の1を占め、次いで、野菜、果実等の減少が大きくなっています(図3-2)。

注 1、2 [用語の解説]を参照

98

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資料:農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」を基に農林水産省で作成注:1)1990年と2005年の2点間の生産額の変化(⊿V)を価格要因(⊿P×Q)、生産要因(P×⊿Q)に分解した(交絡要因

(⊿P×⊿Q)はわずかであるため考慮していない)。なお、生産額の変化は以下の式により表される。⊿V=(P+⊿P)×(Q+⊿Q)-P×Q (V:生産額、P:価格、Q:生産量)2)2007年以降は、水田・畑作経営所得安定対策の導入により、品目別の要因分析はできない。

10億円

1,000

0

-1,000

-2,000

-3,000

-4,000

▲70%

▲30%

▲81%価格要因

▲48%

▲19% ▲44% ▲78% ▲31% ▲6% 6% ▲64%

生産要因

▲52%

▲56% ▲22% ▲69% ▲94% ▲106% ▲36%

-3,505

-1,147

-538-310 -212 -159 -135 -140 -120

農業全体 米 野菜 果実 酪農 肉牛 肉豚 鶏卵 肉鶏

図3-2 品目別国内生産額の減少要因(1990-2005年度)

(農産物価格の低下は農業生産に大きな影響を及ぼす一方、消費者に便益)平成2年(1990年)と平成21年(2009年)との間で生鮮食品を除く総合の消費者物価指数は

7.3%上昇しています1。主要食品について、同じ時期での消費者世帯の購入単価の変化をみると、輸入原料に大きく依存している小麦粉、しょうゆ、食用油、食パン等は、平成20年(2008年)の原料価格高騰等により上昇しています。これら品目の購入数量をみると、しょうゆ等減少しているものもある一方、チーズ、食パン等は増加しています。他方、生産者段階で価格が大きく低下した米では、購入単価は平成2年(1990年)の496円/kgから平成21年(2009年)の358円/kgと28%低下し、生鮮野菜、生鮮果物でも10%前後低下しています(図3-3)。また、これら品目の購入数量は、食の外部化2や簡便化等により、総じて減少しています。このような動きは、家計段階での購入価格の低下と購入数量の減少が、国内の農業生産額の減少に大きく影響していることを裏付けています。

注 1 総務省「消費者物価指数」2 [用語の解説]を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

99

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資料:総務省「家計調査」を基に農林水産省で作成注:1)二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く)  2)それぞれの増減率は、1990年と2009年の購入単価と購入数量を比較したもの

40

30

20

10

0

-10

-20

-30

-40

図3-3 消費者世帯における主要食品の購入単価と1人当たり購入数量の変化     (1990-2009年)

-40 -20 0 20 40 60 80

(1人当たり購入数量の増減率)

(購入単価の増減率)

食パン

小麦粉

もち

生鮮魚介

塩干魚介

かつお節

牛肉

豚肉鶏肉

ハム

ソーセージ

バター

チーズ

生鮮野菜

豆腐

生鮮果物

食用油マーガリン

カレールウ

しょうゆ

みそ

砂糖

マヨネーズ・ドレッシング

これまでみてきたように、平成2年(1990年)から平成20年(2008年)にかけて国内の農業生産額は3兆円程度減少するとともに、農業所得は全体でほぼ半分、農家1戸当たりで8割強に大きく減少し、農業生産に大きく影響が出ています1。他方、勤労者世帯の可処分所得は平成2年(1990年)と平成21年(2009年)との間をみると2.8%減少し、平均消費性向は75%程度と同水準になっているなかで2、米をはじめとする農産物の価格低下は、食料品を日々購入する消費者に大きな便益をもたらしています。しかし、農産物価格の低迷は、農業者の経営に大きな影響を及ぼすことにより、将来的には、国産農産物の生産減、価格上昇を招く可能性を生じさせます。加えて、食料自給率3の向上や農業・農村のもつ多面的機能4の発揮を脅かし、国民全体が不利益を被るおそれを生じさせます。消費者の方にも、このような農産物価格低迷による影響や自らが受ける便益について、改めて思いを致していただくことにより、国民全体で農業・農村を支えていくようにしていくことが重要と考えられます。

注 1 図3-29参照2 総務省「家計調査」、二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く)のうち勤労者世帯3、4 [用語の解説]を参照

100

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資料:農林水産省「生産農業所得統計」、「農林業センサス」、「平成21年農業構造動態調査」、「平成21年耕地面積(7月15日現在)」、「平成20年農作物作付(栽培)延べ面積及び耕地利用率」

 注:1)東山は山梨県、長野県を指す。農業地域は、[用語の解説]を参照2)2009年の沖縄の販売農家、基幹的農業従事者は公表資料を基に算出

3 位2 位1 位部門名及び都道府県産出額に占める割合(%)2008年1990年1985年

農業産出額(億円)

全 国 115,499(100) 112,786(97.7) 86,509(74.9) 畜産 31.3 野菜 24.4 米 22.3

北海道 10,911(100) 11,175(102.4) 10,251(94.0) 畜産 49.3 野菜 17.4 米 12.2

都府県 104,588(100) 101,611(97.2) 76,258(72.9) 野菜 25.3 米 23.7 鶏 10.0

東 北 21,037(100) 19,461(92.5) 13,599(64.6) 米 36.5 野菜 16.8 果実 12.0

北 陸 7,370(100) 6,856(93.0) 4,497(61.0) 米 62.0 野菜 11.9 鶏 7.6

関東・ 東 山 25,330(100) 24,936(98.4) 19,486(76.9) 野菜 36.2 米 19.0 果実 8.5

東 海 10,316(100) 10,134(98.2) 7,835(75.9) 野菜 28.4 米 14.6 花き 11.7

近 畿 6,862(100) 6,667(97.2) 4,658(67.9) 米 28.0 野菜 24.0 果実 17.8

中 国 6,839(100) 6,304(92.2) 4,367(63.9) 米 31.6 野菜 17.4 鶏 17.1

四 国 6,329(100) 5,843(92.3) 4,221(66.7) 野菜 33.4 果実 18.6 米 14.8

九 州 19,344(100) 20,341(105.2) 16,675(86.2) 野菜 22.8 肉用牛 13.2 米 12.9

沖 縄 1,160(100) 1,069(92.2) 920(79.3) さとうきび 21.4 肉用牛 15.3 豚 12.3

うち、主業農家(%)2009年1985年 2009年1985年

うち、65歳以上(%)2009年1985年 2009年1985年 2009年

耕地面積(万ha)

1985年 2008年

耕地利用率(%)

1985年

販売農家(万戸)

基幹的農業従事者(万人)

全 国 331 170 … 20.3 346 191 19.5 60.4 538 461 105.1 92.2

北海道 10 5 … 73.3 19 10 9.9 30.6 119 116 99.1 99.5

都府県 321 165 … 18.9 328 182 20.1 62.1 419 345 106.9 89.6

東 北 57 32 … 20.9 62 35 12.9 57.3 99 87 98.7 85.7

北 陸 28 13 … 11.3 18 11 22.2 70.8 38 32 97.1 87.8

関東・東 山 71 37 … 21.5 86 44 19.6 59.9 93 75 110.6 89.5

東 海 32 16 … 16.5 29 19 25.4 67.4 34 27 101.9 89.9

近 畿 29 15 … 13.9 19 14 27.2 67.2 29 23 101.7 86.8

中 国 31 16 … 7.7 27 13 34.1 75.6 33 25 99.1 79.4

四 国 19 10 … 20.4 21 12 23.3 60.9 20 15 116.5 89.8

九 州 51 26 … 26.3 61 32 15.4 57.1 70 56 124.0 102.7

沖 縄 3 2 … 33.3 4 2 24.8 57.1 5 4 106.1 90.0

表3-1 農業地域別農業産出額等の推移

(都府県の各地域で農業産出額等が大きく減少)農業産出額の動向を地域別にみると、米が主要部門である東北、北陸、近畿、中国地域では、特に減少率が大きくなっています(表3-1)。他方、畜産や野菜等が主要部門である北海道、九州地域等では、減少率が小さくなっています。また、農業生産を支える販売農家数、基幹的農業従事者数、耕地面積及び耕地利用率については、北海道で耕地面積、耕地利用率が横ばいとなっている以外は、いずれも減少ないし低下しています。さらに、基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合は、北海道を除き、いずれも過半を占めています。

第3

(1)国内農業生産の動向

101

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資料:農林水産省「生産農業所得統計」

注:

(農業産出額の増減率)

0 21 3 4

10

0

-10

-20

-30

-40

-50

-60

-70

(米の特化係数)

都道府県特化係数 =当該都道府県の米の産出額当該都道府県の農業産出額計

全国の米の産出額全国の農業産出額計

÷

図3-4 都道府県別米の特化係数(2008年)と農業産出額の増減率(1985-2008年)

資料:農林水産省調べ

(単位:百万円)

農地、農業用施設等農作物等農業関係

台風第9号(8月) 10,988 232 10,756 台風第18号(10月) 20,213 16,487 3,726 7月中国・九州北部豪雨 18,560 1,645 16,915 その他 9,435 5 9,430 計 59,196 18,369 40,827

表3-2 自然災害による農業関係の被害額(2009年)

なお、都道府県別に米の特化係数と農業産出額の増減率との関係をみると、米に特化しているところほど農業産出額の減少率が大きくなっている傾向がみてとれます(図3-4)。

(平成21年(2009年)における農業生産の動向)平成21年(2009年)においては、7~8月上旬の全国的な日照不足、8月に2年ぶりとなる台風の上陸等により、農作物全般で生育の遅れ等の被害が発生しました。特に、ばれいしょ、たまねぎ等一部野菜では夏季の低温・日照不足の影響を受け、生産にも大きな影響があったことから、卸売価格が高騰しました。また、10月にも台風第18号が上陸し、被害が特に大きかった愛知県では農業共済1の対象とならない野菜に甚大な被害がでたほか、ビニールハウス等農業用施設の損壊、破損等が発生しました。これらにより、平成21年(2009年)の被害額は、農作物等で184億円、農地、農業用施設等で408億円、計592億円となっています(表3-2)。秋以降は、比較的天候に恵まれ、野菜も含めて全般的には生産は回復しましたが、北海道での生産が大きく減少したこと等から、米は作況指数298(北海道89)、麦類は収穫量が前年比22%減(北海道26%減)、てんさいは収穫量14%減(北海道)等、生産が相当程度減少した作物もありました。

注 1、2 [用語の解説]を参照

102

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資料:農林水産省「作物統計」、「食料需給表」

kg/10a

851980年 90 95 2000 05 06 07 08 09 20(目標)

600

500

400

0

万ha300

200

100

0

万t1,200

800

400

0

生産量(右目盛)

10a当たり収量

作付面積

消費量(右目盛)

図3-5 水稲(米)の作付面積、生産量等の推移

イ 主な品目別の動向

(米)米については、食生活の多様化等により、1人1年当たり消費量が、最も多かった昭和37年度(1962年度)の118.3kg から平成20年度(2008年度)には59.0kg と半減し、全体の需要量も1,200万 t から800万 t 程度と大きく減少しています。このような消費量の大幅な減少に伴い、国内生産も減少を続けており、平成21年産(2009年産)では、作付面積が162万 ha(主食用米の作付面積は159万 ha)、生産量は847万 t(作況指数98)となっています(図3-5)。一方、米国、タイ、中国等から77万玄米 t(平成20年度(2008年度))のMA米1の輸入が行われています。なお、国内産出額は価格の低下とも相まって、平成2年(1990年)の3.2兆円から平成20年(2008年)には1.9兆円へと4割減少しており、また、平成20年度(2008年度)の自給率は95%2となっています。

米の需要量は、高齢化や人口減少が進むことにより、今後さらに減少する可能性があります。このため、消費者の健康志向等に対応したごはん食の普及、ごはん食関連商品の開発促進等により米の消費拡大を図る一方、需要に応じた主食用米の作付け・生産に引き続き努めていく必要があります。米の需給調整については、これまで転作作物への助成により推進されてきましたが、

注 1 MA米とはミニマム・アクセス米のこと、[用語の解説]を参照2 農林水産省「食料需給表」、自給率の計算方法は[用語の解説]を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

103

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資料:農林水産省調べ注:生産調整カウントとして新規需要米(米粉用米・飼料用米)の認定を受けた用途別面積

1,410

1,517

108

飼料用米4,123

6,523

米粉用米2,401

ha

2008年産 2009年産

7,000

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

図3-6 米粉用米・飼料用米の作付面積     の推移

この方法では需給調整参加農家の努力により米価が維持されること等から、参加・非参加農家間の不公平感が指摘され、農村での閉塞感も与えてきました。このため、平成22年度(2010年度)からモデル的に導入される戸別所得補償制度1のなかでは、米の需給調整については、米への支援で実効を期し、参加した農家だけがメリットを受けることで、不公平感を解消することとするなどの大転換が行われました。また、水田を有効に活用して食料の安定供給の確保を図るため、米粉用米・飼料用米の生産増に取り組んでいくことも重要です。米粉用米・飼料用米については、「米穀の新用途への利用の促進に関する法律」が施行(平成21年(2009年)7月)されたこと等を受けて、平成21年(2009年)には生産が拡大しています(図3-6)。今後、戸別所得補償モデル対策の「水田利活用自給力向上事業」の支援とともに、需要先の確保、多収品種の普及、直播栽培2等による低コスト生産等を図り、さらなる生産増・安定供給に向けた取組が行われることが期待されます。加えて、米粉用米については、多様な用途に対応した製法技術の革新、米粉の特徴を活かした商品開発、生産者と加工事業者のマッチング等により消費拡大を図ることが必要です。飼料用米については、生産地と畜産農家、配合飼料メーカー等とのマッチングや効率的な流通体制が求められます。水田を有効に活用していくためには、麦・大豆への転作対応だけでなく、水稲と麦等の組合せによる二毛作の推進を図ることも重要です。このため、麦、水稲の二毛作に対応した晩植適応性水稲品種「さとじまん」(関東・東海地方向け)、「ふくいずみ」(九州地方向け)等が開発されていることから、二毛作が可能な地域での普及を促進していく必要があります。なお、米の消費形態をみると、家計消費が減少している一方で、外食・中食3(弁当、レトルト米飯、冷凍米飯等)での消費が増加傾向にあります(図3-7)。このため、生産・流通の各段階で、家計消費用に消費者が購入しやすい小袋包装等による販売や、外食・中食事業者、卸・小売業者等の多様なニーズに適した品種の生産・流通等により一層工夫した対応が重要となっています。また、現在作付けられている米の品種については、依然コシヒカリ等の特定品種が大半となっていますが4、コシヒカリに比べアミロース含有率が低く5弁当等に適した品種や、胚が大きく発芽玄米に適した品種等の新品種が次々と開発されており、今後、これらの新品種の普及が期待されます。

注 1 トピックスを参照2 苗代の育苗を行わず、水田に直接種子をは種する方法3 [用語の解説]を参照4 農林水産省「米穀の流通・消費等動態調査」(平成21年(2009年)12月公表)5 アミロースは、米のでんぷんの成分で、含有率が低いほどごはんにもちもち感が出ておいしいと感じるといわれています。

104

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資料:農林水産省「食料需給表」、「生産者の米穀現在高等調査」、総務省「家計調査」、「国勢調査」を基に農林水産省で推計

%100

80

60

40

20

0

図3-7 米の消費量に占める家計消費、外食・中食等消費の割合の推移     (1人1年当たり)

2116 17 17 20

26 25 25 27 28 2632 31 32 33 33 33 33 33 35 35 37 37

5459 58 58 56

50 52 52 51 50 5446 48 48

47 49 49 4950

48 49 48 48

20 19 18 18 18 17 16 15 15 14 1313 13 12 11

11 11 10 10 9 9 9 8

5 6 6 7 7 7 7 7 7 8 7 9 8 8 8 7 7 8 8 8 7 7 7

1983年 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05

無償譲渡

外食・中食等消費

家計消費

農家自家消費

飼料用に適した品種について

飼料用の稲については、子実を輸入濃厚飼料の代替として利用、副産物の稲わらを粗飼料として利用できるほか、稲の穂と茎葉を丸ごと乳酸発酵させて稲発酵粗飼料*1(稲WCS(稲ホールクロップサイレージ))として利用可能であるため、飼料自給率向上の観点からも期待されています。飼料用米の品種は、食用米と比べ籾が大粒で、粗玄米収量800kg/10a以上の生産も可能です。さらに、重い穂を支えるため、茎が太く倒伏しにくい品種や、低コスト栽培を実現するため、いもち病等の抵抗性が強化された品種が開発されています。飼料用米向け品種の玄米は、食用米では外観品質が低くなる腹白、心白等が多くみられる品種もありますが、家畜の飼料として用いる場合は問題にはなりません。また、ごはんのおいしさの要素の一つである粘りを決めるアミロース含有率が、食用米と比べ高く、食味は劣っている品種もあります。*1 [用語の解説]を参照

コラム 飼料用に適した品種について

もみ

はらじろ しん ぱく

稲WCS食用米(左)と飼料用米(右)の籾と玄米

第3

(1)国内農業生産の動向

105

Page 10: ~農業の持続的発展に向けて~0 1980年82 84 86 88 90 92 94 96 2000 02 04 06 08 (概算) その他 果実 畜産(乳用牛、豚、肉用牛、鶏、その他)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「作物統計」

kg/10a500

400

3000万ha30

20

10

0

万t200

150

100

50

0

1980年 85 90 95 2000 05 06 07 08 09 20(目標)

10a当たり収量

生産量(右目盛)

図3-8 小麦の作付面積、生産量等の推移

(麦)麦については、昭和55年(1980年)以降、需要は小麦では600万~640万 t、大麦・裸麦では200万~280万 t で推移しています。国内生産は、米の生産調整の影響もあり、変動を繰り返してきましたが、平成12年(2000年)ごろから水田転作の拡大等により再び増加しました。平成20年産(2008年産)では、作付面積が小麦21万 ha、大麦・裸麦5万7千 ha、生産量が小麦88万 t、大麦・裸麦22万 t となっています(図3-8)。一方、米国、カナダ、豪州等から多くの輸入が行われており(小麦519万 t、大麦・裸麦181万 t)、平成20年度(2008年度)の自給率はそれぞれ14%、11%と低くなっています1。平成21年産(2009年産)小麦については、作付面積は前年産と同程度の21万 ha となったものの、生産量は、北海道における7月の低温、日照不足・長雨、東海・九州地域を中心とした降雨による湿害の影響により、前年産に比べ23%減少の67万 t となりました。また、1等比率は天候不順による品質低下から63%となっており、前年産の84%と比べて減少しています。

国産小麦については、外国産小麦に比べ、たんぱく質含有量にばらつきがあるとともに(図3-9)、パン用・中華めん用に向かないといった需要面の制約が大きいといわれています。このため、その大部分が日本めん用や菓子用として利用され、パン用・中華めん用等への利用はわずかとなっていることから(図3-10)、収量性に優れた良質な品種の育成・普及や単収向上技術の普及により、パン・中華めん用小麦の生産拡大を図ることが課題となっています。また、麦類全体として、水田における単収が低位にとどまり、生産コストも低下傾向にあるものの外国産とは大きな開きがあります。さらに、水稲作付けの早期化等により、かつて広範に行われていた二毛作が大きく減少している状況です。品種開発の動向をみると、製めん適性が豪州産のASW2に匹敵し従来品種より2割程度多収

注 1 農林水産省「食料需給表」2 Australian Standard Whiteの略。豪州産のいくつかの品種をブレンドした小麦で、主に日本めん用に使用される中力粉の原料に適しています。

106

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0102030405060708090100

0 20 40 60 80 100資料:農林水産省調べ注:1)( )内は、用途別小麦の自給率  2)飼料用等には種子用、減耗量を、工業用等にはみそ・しょうゆを含む。

食料用需要

←(2%)その他食料用 18%

国産(70%)

パン用 30%

中華めん用 8%

日本めん用 12%

←(6%)その他めん用 15%

←(1%)

←(1%)

家庭用 4%菓子用 14%(21%)

(34%)

図3-10 小麦の用途別使用率と自給率(2007年度)

0

100

200

300

400

500

600

700万 t

飼料用等 71635

食料用 529

工業用等 36

(小麦全体の需要量) (食料用小麦の用途別使用率、自給率)

7.57.0 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 12.512.011.511.0 13.0%

9.7 11.3基準値需要者が望む基準値

北海道産ホクシン(※)

群馬県産きぬの波(※)

香川県産さぬきの夢2000(※)

茨城県産農林61号

佐賀県産シロガネコムギ

ASW

資料:農林水産省調べ注:1) は平均値(加重平均)2)  は平均値から前後に標準偏差×2の幅を示したもの。理論的にはこの範囲に95.4%のロットが含まれる。3)背景の水色は許容値の幅(低アミロース品種及びやや低アミロース品種(※)は8.0~13.0%)

8.0

8.6

8.4 9.2 10.0

10.7 11.0 11.3

8.3

10.0 11.0 12.0

9.8 11.0

8.4 8.8

図3-9 小麦(日本めん用)のたんぱく質含有量の分布状況

の「きたほなみ」(北海道)や、製パン適性に優れた「はるきらり」(北海道)、「ゆめかおり」(関東)、中華めん適性に優れた「ちくしW2号」(九州)、中力小麦とブレンドすることにより高い製パン適性を発揮する超強力小麦品種「ゆめちから」(北海道)等が開発されています。また、衛星画像を用いた収穫期判定等による高品質・安定栽培技術、二毛作に対応した麦後の晩植適応性水稲品種等の開発も進んでいます。今後のさらなる生産拡大のためには、実需者ニーズを踏まえつつ、生産性が高く、かつ、輸入小麦に匹敵する品質の品種開発・普及、基本技術の励行を含めた生産対策の推進が重要となっています。加えて、加工技術の確立による国産日本めん用小麦のパン・菓子用への利用拡大を図ることも必要です。

第3

(1)国内農業生産の動向

107

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資料:農林水産省「作物統計」 注:主産県とは、調査年の前年の作付面積が全国の作付面積のおおむね80%を占めるまでの都道

府県及び畑作物共済事業を実施する都道府県

千ha

千t40

20

0

1989年 95 2001 05 06 07 08 09

生産量(主産県)

山形県

北海道

福島県青森県福井県

主産県

図3-11 そばの作付面積、生産量の推移

0

10

20

30

40

50

全国

その他その他主産県

き そ まち

そば畑(長野県木曽町)みの わ まち

赤そば(長野県箕輪町)

(そば)そばについては、近年、需要は13万 t程度で安定的に推移しています。国内生産は、麦・大豆と同様、平成7年(1995年)ごろからの水田転作の拡大等により作付けは増加傾向にあり、平成21年産(2009年産)の作付面積は4万5千 ha、主産県の生産量は1万5千 tとなりました(図3-11)。一方、中国、米国等から6万 t(平成21年(2009年)計、玄そば)が輸入され、平成20年度(2008年度)の自給率は21%となっています1。国産そばは、風味が良いとされているものの、10a当たり平均収穫量は69kg と低く、また、湿害等により作柄が不安定になっています。このため、今後、水田の団地的な利用と汎用化2による排水対策の徹底、麦等の後作としての作付け拡大、収穫作業等の機械化に適した多収品種の育成・普及等を通じた生産性向上に努めていく必要があります。

きゅう

なお、そばは、は種から65~90日ほどで収穫でき、耐乾性や吸肥性が強いため、昔から「 救こう

荒作物」(凶作に備えるための作物)として役立ってきました。また、子実を食用とするだけでなく、そば殻を枕等に利用する、開花期間が1か月と長いことからミツバチの蜜源や景観植物として利用するなどの用途があります。

注 1 財務省「貿易統計」、農林水産省「食料需給表」2 水稲作または畑作のいずれにも利用できるようにすること

108

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資料:農林水産省「作物統計」注:1980~1990年の畑の作付面積は、公表資料を基に算出

kg/10a200

100

0

万ha20

15

10

5

0

万t

60

40

20

01980年産 85 90 95 2000 05 06 07 08 09 20

(目標)

生産量(右目盛)

10a当たり収量

図3-12 大豆の作付面積、生産量等の推移

(大豆)大豆については、昭和55年(1980年)以降、食品用の需要は増加傾向にあり現在100万 t 程度、油糧用等加工用の需要は減少傾向にあり現在249万 t となっています。国内生産は昭和62年(1987年)ごろをピークに減少していましたが、平成7年(1995年)ごろから再び増加傾向となり、平成20年産(2008年産)では作付面積は15万 ha、生産量は26万 t となっています(図3-12)。なお、平成21年産(2009年産)については、北海道における長雨・日照不足、九州における大雨等により生育が遅れ、収穫量は豊作だった前年産に比べ1割減少し、23万 tとなりました。一方、輸入については、米国、ブラジル等から多く行われています(輸入量は371万 t(平成20年度(2008年度))1、うち7割が油糧用、3割が食品用に仕向け)。この結果、平成20年度(2008年度)の自給率は全体で6%、豆腐、納豆、みそ・しょうゆ等の食品用で25%となっています。

国産大豆については、食品用としては品質が良いとされ、煮豆、豆腐・油揚げ用で多く使用されているものの(図3-13)、は種時期が梅雨時期と重なり湿害が出やすいため、作柄が不安定になっています。また、国産大豆を使用した製品に対する消費者の志向は高まっているものの、作柄による価格変動が大きいこと、田作での1等比率が向上せず、1等大豆の量が不安定で低位にとどまっていることから、実需者が使用しにくい状況にあるなどの課題があります(図3-14)。

注 1 農林水産省「食料需給表」

第3

(1)国内農業生産の動向

109

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資料:農林水産省作成注:( )内は、用途別大豆の自給率。なお、2008年度の食品用の自給率は25%

国産(25%)

(84%)

(19%)

(9%)

(15%)

食品用の

内訳

国産(21%)

食品用105万t24%

油糧用304万t71%

飼料、種子等5%

図3-13 大豆の用途別需要量と自給率(2007年度)

豆腐・油揚げ 48%

みそ・しょうゆ 17%

納豆 12%

その他 20%

煮豆・そう菜 3%

資料:農林水産省調べ注:1)検査数量は種子用を除外した数量2)規格外は、普通大豆の規格外と特定加工用大豆の規格外の合計

万t30

25

20

15

10

5

01等

2等

3等

2002年産 050403 06 07 08

生産量

規格外特定加工用

図3-14 大豆の検査等級別数量等の推移

このため、国産大豆の特徴を引き出した製品開発等による需要の開拓や、契約栽培による安定的な取引関係の構築を図るとともに、豆腐用・煮豆用としての加工適性に優れた品種や多収性品種の開発・普及を一層進めることが重要です。また、水田の団地化や、気象・土壌条件に応じた低コスト省力安定生産技術(大豆300A技術1、地下水位制御システム)等の新技術の普及等を図っていくことも重要です(図3-15)。

注 1 Aクラス(1、2等)品質の大豆を10a当たり300kg 生産することを目標として、各地域の気象条件や土壌条件に応じた低コスト・省力化を図る耕起・は種技術で、耕うん同時畝立ては種技術、不耕起密植直播技術等があります。

110

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資料:(独)農業・食品産業技術総合研究機構注:10a当たりの施工費用は、田畑に岩石等がなく、施工条件が良好なほ場における本暗きょ工、補助暗きょ工、地下かんがい工、特許使用料、間接経費を合計した価格

用排水ボックス

用水パイプライン

支線パイプ水位制御器

小排水路幹線パイプ

給水側自動的に給水量を制御する。

有孔管田面下60cmに埋設し、 用水路からの給水と転換畑からの排水を行う。

施工費用30a区画 21万円/10a50a区画 18万円/10a

図3-15 地下水位制御システムの概要

排水側地下水位を一定レベルに制御し、最適な地下水位を保持する。

たきかわ し

菜の花畑(北海道滝川市)

(なたね)現在、我が国で消費される植物油は増加傾向にありますが、その原料のほとんどが輸入大豆、なたねとなっています。なたねについては、なたね油の供給量は増加傾向で推移しており、原料なたねのほとんどがカナダから輸入されていますが(輸入量207万 t1)、自給率はわずか0.04%となっています。なたねの国内生産は、昭和31年(1956年)の作付面積25万 ha、生産量32万 tをピークに激減し、近年は作付面積1千 ha、生産量1千 t程度で推移しています2。なたねは、冬期の栽培が可能なことから、水稲等との二毛作により農地を有効活用する観点からも、生産の拡大が期待されます。また、なたねは、食用油の原料だけでなく、花は景観植物、なたね油の廃油はバイオ燃料、油かすは飼料・肥料等として多段階での利用が可能です。このため、近年、NPO3や地域住民、企業等が連携した菜の花プロジェクト運動が広がり、なたね油の生産・販売の取組も各地でみられます。今後、耕地利用率の向上の観点から、暖地向けなたね品種の開発や、二毛作が可能な地域等での輪作体系の構築を図るとともに、良品質、多収性品種の育成や、生産者と国産なたねを取り扱う搾油業者との連携が重要です。

注 1 財務省「貿易統計」(平成21年(2009年))2 農林水産省「特産農産物生産実績」3 [用語の解説]特定非営利活動法人/非営利団体(NPO)を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

111

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資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」、「食料需給表」注:作付面積は、「野菜生産出荷統計」の品目別の公表資料を基に次の分類により算出。根菜類は、だいこん、にんじん、さといも、かぶ、ごぼう、れんこん、やまのいも、しょうが。葉茎菜類は、はくさい、キャベツ、ほうれんそう、レタス、ねぎ、たまねぎ、こまつな、ちんげんざい、ふき、みつば、しゅんぎく、セルリー、アスパラガス、カリフラワー、ブロッコリー、にら、にんにく。果菜類は、きゅうり、なす、トマト、ピーマン、かぼちゃ、スイートコーン、さやいんげん、さやえんどう、そらまめ、えだまめ。果実的野菜は、いちご、メロン、すいか。

万ha60

40

20

0

万t1,800

1,500

1,200

900

600

300

0

生産量(右目盛)

根菜類

葉茎菜類

果菜類

果実的野菜

1980年産 85 90 95 2000 05 06 07 08 20(目標)

図3-16 野菜の作付面積、生産量の推移

資料:農林水産政策研究所資料を基に農林水産省で作成注:国内生産、輸入量は、ばれいしょを除く指定野菜13品目(トマト、にんじん、さといも、たまねぎ、ピーマン、ねぎ、きゅうり、ほうれんそう、だいこん、なす、キャベツ、はくさい、レタス)について推計

%100

80

60

40

20

0

%10090800

輸入0

輸入6

1990年度 2000 2005

家計消費用

加工・業務用

国産49 45 44

1

国産45 40 37

14 18

自給率

図3-17 用途別野菜の国内生産量、輸入割合等の推移

1

(野菜)野菜については、食生活の多様化・簡便化等により、だいこん等根菜類を中心に消費量が減少しています。国内生産は、農業従事者の減少・高齢化等により、根菜類をはじめ、はくさい等の葉茎菜類、すいか等の果実的野菜を中心に減少し、平成20年産(2008年産)では、作付面積44万ha1、生産量1,265万 t となっています(図3-16)。一方、野菜の輸入は加工・業務用等を中心に増加していることから、平成20年度(2008年度)では輸入量は281万 t となり、平成20年度(2008年度)の自給率は82%2、うち家計消費用では98%、国内需要の過半を占める加工・業務用では68%となっています(図3-17)。

注 1 農林水産省「野菜生産出荷統計」(ばれいしょを除く38品目)、「地域特産野菜の生産状況」2 農林水産省「食料需給表」

112

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(1)花粉交配用ミツバチと野菜生産

ミツバチは、はちみつ等の生産だけでなく、いちご、メロン、すいか等の多くの園芸作物の生産において花粉交配の手段として用いられており、授粉作業の省力化を図るうえで欠かせないものとなっています。平成21年(2009年)春ごろ、園芸作物の一部の生産現場において、花粉交配用ミツバチが不足し、いちごがうまく受粉できず奇形果が発生するなどの影響がみられました。この背景としては、天候不順やミツバチに寄生するダニの被害等によりミツバチが十分に繁殖できなかったことに加え、豪州産ミツバチの輸入検査においてノゼマ病がみつかったため、平成19年(2007年)11月以降、女王蜂の輸入が見合わされたこと等が関係者から指摘されています。このため、養蜂農家、園芸農家、関係機関が連携し、花粉交配に必要なミツバチの需給調整が行われたほか、生産現場では花粉交配用のミツバチに代わってクロマルハナバチの利用や人の手による授粉等の代替措置がとられました。また、このような状況は、野菜等の生産にミツバチが大きな役割を果たし、食料生産を支えていることを広く多くの人々が知るきっかけとなりました。

(2)規格外野菜等への関心の高まり

最近の景気悪化に伴い低価格志向が高まっているなか、消費者の間では、大きさ、色、形等が不揃いで価格の安い規格外野菜等への関心が高まっているといわれています。平成22年(2010年)1月に実施された規格外の野菜等に関する意識調査では、これまで規格外の野菜等を購入したことがある者の割合は60.0%、このうち「今後ふやす」が52.5%、現状維持が46.6%となっています*1。また、購入したことがない者のうち、「今後は購入したい」と回答した者が65.5%となっています。規格外の野菜等を購入する理由は、「品質の割に価格が安いから」が64.8%、「規格品と味が変わらないから」が55.5%となっています。規格外品に対する関心の高さは、この調査からも裏付けられていますが、規格品の出荷が大部分を占める我が国の野菜等の生産や流通のあり方に大きな示唆を与えるものと考えられます。*1 (株)日本政策金融公庫「規格外野菜・果実に関する消費者意識調査」(平成22年(2010年)3月公表)。全国の

20~60歳代の男女各1千人を対象に実施したアンケート調査

コラム 最近の野菜をめぐる特徴的な動き

近年の輸入食料に対する消費者の不安や、国際的な農産物需給動向等もあり、食品製造業者の国産野菜ニーズが高まっています。このため、国産野菜については、機械化等による低コスト化・省力化を進めるとともに、中間事業者を核として複数産地から原材料の安定供給を図る供給連鎖(サプライチェーン)構築や、消費者ニーズに合わせた品目転換への支援、コールドチェーン1等の流通体制の整備を図り、加工・業務用需要への対応を強化していくことが重要となっています。加えて、外食・中食事業者が国産野菜の使用量をより一層拡大すること等を通じ、外食、中食における野菜摂取量の拡大等、野菜の消費拡大を図ることも重要です。一方、温室等で野菜、果樹、花き等を生産する施設園芸は、栽培品目や出荷時期の拡大等により、高い収益性も得られることから、昭和40年代以降、急速に増加しました。近年、施設設置面積は5万 ha 程度で微減傾向となっていますが2、1経営体当たり経営規模は拡大傾向にあり、大型栽培施設の導入や法人経営による新たな施設導入がみられます。また、高度な環境制御により季節や天候に左右されずに野菜等を計画的に生産する「植物工場」が現在全国50か所で稼働しています。植物工場では、周年で計画的な農産物の出荷だけでなく、通常の農閑期も含めた周年雇用も可能であることから、地域の雇用と所得の確保にもつながると期待されています。

注 1 [用語の解説]を参照2 農林水産省「園芸用ガラス室・ハウス等の設置状況調査」

第3

(1)国内農業生産の動向

113

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資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「食料需給表」

万ha50

40

30

20

10

0

万t500

400

300

200

100

0

みかん

りんご

その他

生産量(右目盛)

1980年 85 90 95 2000 05 06 07 08 20(目標)

図3-18 果実の栽培面積、生産量の推移

(果実)果実については、近年、需要は800万 t 程度とほぼ横ばいで推移しています。国内生産は、生鮮果実の需要量の減少、農業従事者の減少・高齢化等により減少傾向にあり、平成20年産(2008年産)の栽培面積は25万 ha、生産量は341万 t となっています(図3-18)。品目別にみると、温州みかんの生産量が需要の減少によりピーク時の3割程度まで減少し、りんご、その他果実も減少傾向にあります。一方、果実の輸入は増加し続け(平成20年度(2008年度)で489万 t)、平成20年度(2008年度)の自給率は41%、うち生食用では63%、国内需要の半分を占める加工用では12%となっています1。

我が国の生食用果実の需要量は、食の多様化・簡便化に伴い、平成19年度(2007年度)では469万 t と平成8年度(1996年度)の506万 t に比べ7%減少しています。一方、加工用の需要量は、平成19年度(2007年度)では391万 t と平成8年度(1996年度)の323万 t に比べ21%増加しており、需要量全体の45%を占めています(図3-19)。このため、加工用、輸出用の果実等新たな需要の創出を含め、消費者の多様なニーズに対応した消費拡大を図ることが重要です。例えば、消費面では、生産が大きく減少している温州みかんの β-クリプトキサンチン2等の機能性成分の普及・啓発、果実消費の少ない若年層から働き盛りの世代への摂取機会の提供を進めることも必要です。生産面では、産地の販売戦略や消費者ニーズに応じた優良品目・品種への転換、効率的な生産体制の整備等を行っていく必要があります。

注 1 農林水産省「食料需給表」2 β(ベータ)-クリプトキサンチンは温州みかん等のかんきつ類に豊富に含まれ、発ガン抑制効果が β-カロチンの約5倍といわれています。1日当たり1~2個の温州みかんを食べることで、発ガンの抑制や生活習慣病の予防、抗酸化作用等健康増進の効果が期待されます。

114

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資料:農林水産省「食料需給表」、農林水産省調べ注:輸入量は、生鮮換算した数値

%50

45

0

%100

80

60

40

20

01996年度 2000 2007

生食用

加工用

国産42 39 35

輸入 19 22 19

国産5

55

輸入34 34 40

自給率

図3-19 用途別果実の国内生産、輸入割合等の推移

資料:農林水産省「花き生産出荷統計」、「花木等生産状況調査」注:1)作付面積は、販売を目的として花き栽培のために利用していた耕地の面積   なお、球根類及び鉢もの類については、作付面積のうち収穫・出荷した花きの利用面積  2)生産量は「花き生産出荷統計」における切り花類、球根類、鉢もの類、花壇用苗もの類の出荷量の計。な

お、出荷量とは収穫された花きのうち販売に供されたものの量

万ha 億本(球・鉢)生産量(右目盛)

切り花類

鉢もの類

花壇用苗もの類

球根類花木類

被覆植物類

0

2

4

6

0

20

40

60

80

1985年 90 95 2000 05 06 07 08

図3-20 花きの作付面積、生産量の推移

(花き)花きについては、切り花類の需要は近年横ばいないし微減、鉢もの類の需要は減少傾向にあります。国内生産は、生産農家の減少等により平成10年(1998年)をピークに減少傾向で推移し、作付面積は3万5千 ha となっています(図3-20)。一方、切り花類を中心に、マレーシアやコロンビア、タイ等からの輸入がふえてきており、切り花類では国内仕向額の11%が輸入となっています。 第

(1)国内農業生産の動向

115

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消費者ニーズに対応した新品種・新技術

純白で茎伸長性に優れた小輪ギク 花持ちの優れたカーネーション

青色色素を蓄積させた青色系のキク(研究中)

今後、花きの需要は、1世帯当たりの購入金額は総じて減少傾向にあることから、何も手を打たないでいれば、縮小傾向に向かうことが懸念されますが、多くの無購買層・低購買層を対象として需要拡大を図る余地があります。このため、消費者に対する花きの手入れ等の知識の普及、

はないく

花や緑に触れる機会をとおして、やさしさや美しさを感じる気持ちを育む「花育」の推進、花きの色や香り等による魅力や効用に関する情報発信を図るとともに、輸出拡大の取組を促進するなどの需要拡大策を実施することが重要です。一方、輸入花きは、低緯度高地の栽培適地での生産が増加、品質も向上していることから、今後もその輸入量が増加することが見込まれます。このため、国内においては低温開花性品種の導入による燃料費削減、低コスト耐候性ハウスの導入等による低コスト化を図るとともに、さらなる品種開発等を進め、差別化・ブランド化による高付加価値化を図り、輸入花きとのすみ分けが必要です。また、花きは、家庭用、業務用等によって需要者のニーズが異なっています。近年、ホームセンター等の量販店での販売比率が高くなり、販売形態にも変化がみられます。このため、需要者を見極め、そのニーズにこたえた生産・流通を行うことが必要です。とりわけ、消費者ニーズが高い日持ちの良い切り花に対応する新品種の開発や、日持ち性を高い状態で維持できる湿式低温流通の導入が必要です。さらに、中央卸売市場における商物分離取引等により生産者から小売店に直接商品を届けるなど、生産者から消費者に至る関係者すべての取組が必要です。

116

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資料:農林水産省「食料需給表」、「畜産統計」 注:乳用牛の飼養戸数と1戸当たりの乳用牛飼養頭数は、各年2月1日の数値

万戸 頭/戸151050

8040200

万t1,500

1,000

500

0

農家自家用

乳製品向け

1980年度 85 90 95 2000 05 06 07 08

乳用牛の飼養戸数

輸入量

1戸当たりの乳用牛飼養頭数(右目盛)

図3-21 牛乳・乳製品の国内消費仕向量、輸入量等の推移

飲用向け飲用向け

乳製品向け

(牛乳・乳製品)牛乳・乳製品については、需要は平成16年度(2004年度)の1,236万 t まで増加を続けていましたが、需要の4割を占める飲用向けで減少するとともに(図3-21)、乳製品向けではチーズが増加傾向にあるものの、バターや脱脂粉乳は伸び悩んでいることから、近年、全体的には減少傾向で推移しています。国内の乳牛の動向をみると、飼養戸数は小規模層を中心に減少傾向で推移し、平成21年(2009年)には、配合飼料価格の高騰も影響して前年に比べ5.3%減の2万3千戸で、飼養頭数は150万頭となっています1。その結果、1戸当たりの飼養頭数は65頭となっています。また、生乳生産量は前年に比べ0.9%減少の791万 t でしたが、牛乳の生産量は前年に比べ9.4%減少した一方、成分調整牛乳2は74.5%増加しました3。これは、景気後退のなかでの消費者の低価格志向、ニーズの多様化が主な要因と考えられます。牛乳・乳製品については、飲用牛乳はすべて国産で賄われているものの、乳製品の輸入量は、一貫して増加しており、現在350万 t(生乳換算)となっています。その結果、平成20年度(2008年度)の自給率は70%(乳用牛における飼料の自給率は43%であり、これを考慮すると30%)となっています4。

国内においては、配合飼料価格に影響されにくい経営体質に転換を図るため、生産者自ら飼料を生産・確保していくとともに、消費者の多様なニーズに対応した牛乳・乳製品の商品開発や普及により、消費拡大を図り収入を増加させることが重要です。また、経営の効率化に向け乳牛の生涯生産性や繁殖能力を向上させることや、労働力確保に向け支援組織の育成・活用の推進等を図るとともに、加工・販売に取り組む経営等多様な経営体の育成が重要です。

注 1 農林水産省「畜産統計」2 生乳から乳脂肪分その他成分の一部を除去したものです。3 農林水産省「牛乳乳製品統計」4 農林水産省「食料需給表」

第3

(1)国内農業生産の動向

117

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国産直接消費用ナチュラルチーズ2.0万t(9%)

国産プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズ 2.3万t(10%)

輸入プロセスチーズ原料用ナチュラルチーズ5.9万t(27%)

輸入プロセスチーズ0.9万t(4%)

輸入直接消費用ナチュラルチーズ11.2万t(50%)

資料:農林水産省作成注:ナチュラルチーズは、原料の乳を乳酸菌や凝乳酵素で固めホエイを除去したもの、または、これらを熟成させてつくったもので、カマンベール、チェダー、ゴーダ等がある。プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱して溶かし、加工したもの。乳酸菌や酵素の働きを止めているので、高い保存性がある。

図3-22 チーズの需給動向(2008年度)

資料:農林水産省「食料需給表」、「畜産統計」 注:肉用牛飼養戸数と1戸当たりの肉用牛飼養頭数は、各年2月1日の数値

万戸40

20

0

頭/戸40

20

0万t

160

120

80

40

01980年度 85 90 95 2000 05 06 07 08 20

(目標)

肉用牛の飼養戸数

1戸当たりの肉用牛飼養頭数(右目盛)

生産量

輸入量

図3-23 牛肉の生産量、輸入量等の推移

輸入乳製品のうち6~7割を占めるチーズについては、近年、需要量が増加していますが、輸入品が多く自給率は19%となっています(図3-22)。このため、今後、輸入チーズに対抗し得る国産チーズの競争力強化のため、ナチュラルチーズの生産体制を整備し、輸入チーズを国産に置き換える方策を講じていくこととしています。

(牛肉)牛肉については、需要は平成12年(2000年)の160万 t1まで増加を続け、平成13年(2001年)に国内、平成15年(2003年)に米国で発生したBSE2(牛海綿状脳症)の影響により減少したものの、平成19年度(2007年度)からは再び増加し現在は120万 t となっています(図3-23)。

注 1 肉類の生産量、輸入量は枝肉(鶏肉は骨付き肉)に換算した値です。なお、枝肉とは、と畜場において肉畜を食用に供する目的でと畜し、放血して、はく皮またははく毛し、内蔵を摘出した骨付きの肉です。

2 [用語の解説]を参照

118

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資料:農林水産省「食料需給表」、「畜産統計」、「農林業センサス」注:1)豚の飼養戸数と1戸当たりの豚飼養頭数は、各年2月1日の数値  2)2005年の豚の飼養戸数等は、農林業センサスの結果

万戸151050

頭/戸1,5001,0005000

万t300

200

100

0 1980年度 85 90 95 2000 05 06 07 08 20(目標)

豚の飼養戸数

1戸当たりの豚飼養頭数(右目盛)

生産量

輸入量

図3-24 豚肉の生産量、輸入量等の推移

肉用牛の飼養戸数は、小規模層を中心に減少し平成21年(2009年)には7万7千戸となっています1。飼養頭数については、繁殖めす牛を中心とした増頭対策の推進等の効果により増加傾向にあり、平成21年(2009年)は292万3千頭となっており、その結果、1戸当たりの飼養頭数は38頭となっています。また、国内の牛肉の生産量は平成20年度(2008年度)では52万 t で、その内訳をみると、和牛等の肉専用種が22万 t、ホルスタイン種等の乳用種が30万 tとなっています2。一方、牛肉の輸入量は、豪州、米国産を中心に近年70万 t程度で推移しており、その結果、平成20年度(2008年度)の自給率は44%(肉用牛における飼料の自給率は27%であり、これを考慮すると12%)となっています3。今後、国内においては、産肉・繁殖能力4の向上、自給飼料の生産利用の拡大等を図り経営基盤を安定させていくとともに、多様化する消費者ニーズに対応した特色ある牛肉生産の推進や輸出拡大等も経営を安定させる観点から重要となっています。

(豚肉)豚肉については、需要は平成13年度(2001年度)以降、BSEや高病原性鳥インフルエンザ5の発生に伴う牛肉・鶏肉の代替として、平成16年度(2004年度)に250万 t まで増加し、その後、240万 t 前後で推移しています(図3-24)。豚の飼養戸数は、小規模層を中心に減少傾向で推移し、平成21年(2009年)には7千戸となっています6。飼養頭数については、平成8年(1996年)以降980万頭前後で推移し、平成21年(2009年)は前年に比べ1.6%増の990万頭となっており、その結果、1戸当たりの飼養頭数は1,500頭となっています。また、国内の豚肉の生産量は、平成20年度(2008年度)では126万 t で、前年度に比べ1.1%増となっています7。

注 1、6 農林水産省「畜産統計」2、7 農林水産省「畜産物流通統計」3 農林水産省「食料需給表」4 産肉能力とは、1日当たりに体重を増加させるなどの能力のこと。繁殖能力とは、分娩間隔を短縮させるなどの能力のこと5 [用語の解説]を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

119

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資料:農林水産省「食料需給表」、「畜産統計」、「農林業センサス」注:1)肉用若鶏の飼養戸数と1戸当たりの肉用若鶏飼養羽数は、各年2月1日の数値  2)1980年の肉用若鶏飼養戸数等は、農林業センサスの結果

千戸10

5

0

千羽/戸60

40

20

0

万t

1980年度 85 90 95 2000 05 06 07 08 20(目標)

肉用若鶏の飼養戸数

1戸当たりの肉用若鶏飼養羽数(右目盛)

生産量

輸入量

300

200

100

0

図3-25 鶏肉の生産量、輸入量等の推移

なお、平成21年(2009年)7月、豚肉の枝肉卸売価格は、高い在庫水準や国内生産量の増加等から大幅に低下し、8月以降低水準で推移しています。このため、平成21年(2009年)10月から、卸売価格の回復を目的に豚肉を市場から隔離する調整保管が補助事業により実施されました。一方、輸入量は、米国、カナダ、デンマーク産を中心に100万 t 程度で推移し、その結果、平成20年度(2008年度)の自給率は52%(豚における飼料の自給率は11%であり、これを考慮すると6%)となっています1。今後、国内においては、子豚の病気や死亡による資産の損耗を防ぐ観点から、衛生対策等による事故率低下に引き続き努めていくことが重要です。また、肥育・出荷頭数がふえ国内生産量が需要以上に多いことにより価格が低迷しているため、加工・業務用仕向け輸入豚肉(約30万 t)を国産に転換していくことや、生産者自ら需要に見合った生産に取り組むことも重要です。

(鶏肉)鶏肉については、需要は高病原性鳥インフルエンザの影響による一時的な減少が近年あったほかは増加傾向にありました(図3-25)。肉用若鶏の飼養戸数は、小規模層を中心に減少傾向にあり平成21年(2009年)には2,400戸となっています2。飼養羽数については、1億羽程度でほぼ横ばいで推移し、平成21年(2009年)は前年に比べ4%増の1億700万羽となっており、その結果、1戸当たりの飼養羽数は4万羽となっています。また、国内の鶏肉の生産量は、平成20年度(2008年度)は138万 t で、前年度に比べ1.5%増となっています。一方、輸入量は、ブラジル産を中心に60万 t前後で推移し、その結果、平成20年度(2008年度)の自給率は70%(鶏における飼料の自給率は11%であり、これを考慮すると8%)となっています3。今後、国内においては、産肉能力の向上や衛生対策の徹底、生産者自ら需要に見合った生産に取り組むとともに、加工・業務用仕向量の拡大を図ることが重要です。

注 1、3 農林水産省「食料需給表」2 農林水産省「畜産物流通統計」

120

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千戸150100500

千羽/戸6040200

万t300

200

100

01980年度 85 90 95 2000 05 06 07 08 20

(目標)

採卵鶏の飼養戸数 1戸当たりの成鶏めす飼養羽数(右目盛)

生産量

輸入量

資料:農林水産省「食料需給表」、「畜産統計」、「農林業センサス」 注:1)採卵鶏の飼養戸数と1戸当たりの成鶏めす飼養羽数は、各年2月1日の数値   2)1980年、2005年の採卵鶏の飼養戸数等は、農林業センサスの結果

図3-26 鶏卵の生産量、輸入量等の推移

(鶏卵)鶏卵については、需要は近年260万~270万 t 程度で安定的に推移しています(図3-26)。また、我が国では鶏卵を生食するため、鮮度が求められることから国産志向が高く、平成20年度(2008年度)の自給率は96%(鶏における飼料の自給率は11%であり、これを考慮すると11%)となっています1。採卵鶏の飼養戸数は、減少傾向にあり、平成21年(2009年)には3千戸となっています2。飼養羽数については、1億4千万羽程度でほぼ横ばいで推移しており、その結果、1戸当たりの飼養羽数は4万5千羽となっています。鶏卵の卸売価格は、昨今の厳しい経済情勢を反映して軟調に推移したため、卵価安定基金から多額の補てん金が支出されています。このため、需要に見合った生産への取組による鶏卵価格、養鶏経営の安定が課題となっています。

(飼料作物)家畜の飼料全体の需要(可消化養分総量(TDN)ベース)は、平成13年(2001年)の BSE発生に伴い乳用牛・肉用牛の出荷が停滞した時期を除き、国内飼養頭羽数の減少に伴い、減少傾向で推移しています。飼料の構成をみると、飼料需要量の2割を占める粗飼料3は国内生産が8割弱となっている一方、需要量の8割を占める濃厚飼料4は国内生産が1割と低くなっています(図3-27)。このため、全体の飼料自給率は26%となっています5。我が国における飼料作物の作付面積は、草地の開発、既耕地への作付拡大等により増加してきたものの、畜産農家の減少に伴い、昭和62年(1987年)の105万4千 ha をピークに減少傾向で推移しています(図3-28)。しかし、平成18年(2006年)末からの配合飼料価格高騰のなか、関係者一体となって飼料増産を推進した結果、平成20年(2008年)の作付面積は増加に転じ、前

注 1 農林水産省「食料需給表」2 農林水産省「畜産統計」3 イネ科、マメ科の牧草類、わら類等からなる飼料で、濃厚飼料に比べ栄養価は低いものの、繊維質を多く含みます。4 とうもろこし、油かす、ぬか類等からなる飼料で、粗飼料に比べ栄養価が高く、炭水化物やたんぱく質を多く含みます。5 飼料自給率は、飼料用穀物、牧草等を可消化養分総量(TDN)に換算して算出。[用語の解説]を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

121

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資料:農林水産省作成 注:フスマは小麦の種皮。ビートパルプはてんさい(ビート)から砂糖をつくるときに出る絞りかす

国産76%

24% 38%26%

輸入24%

飼料全体

粗飼料

濃厚飼料

○乾草○サイレージ (発酵させた粗飼料) 牧草 青刈りとうもろこし 稲発酵粗飼料○稲わら

○穀類 とうもろこし、 こうりゃん、大麦、米○糠類 フスマ、米ヌカ○粕類 大豆油粕 ビートパルプ ビール・豆腐粕○動物質飼料 魚粉等

2003年度 2008年度概算

2020年度目標

国産79%

国産100%

輸入21%

国産10%

輸入90%

国産11%

輸入89%

国産19%

輸入81%

乾草稲わら稲WCS

食品残さ等未利用資源糠類・粕類飼料用米

図3-27 飼料自給率の現状と目標

1985年 90 95 2000 05 06 07 08 20(目標)

0

400

800

1,200

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「作物統計」注:TDNは飼料の含有する栄養価を示す単位で、家畜が消化し、エネルギーとして利用できる養分の総量を示すもの

千ha TDN千t生産量

(右目盛)

都府県

北海道

図3-28 飼料作物の作付面積と生産量の推移

年と比べ0.5%増加し90万 ha となりました。また、稲発酵粗飼料(稲WCS(稲ホールクロップサイレージ))は、稲作農家にとっては生産しやすく、畜産農家にとっては良質粗飼料であることから、平成21年(2009年)の水田での作付面積は、平成18年(2006年)の約2倍の約1万 ha(見込み)に拡大しています。

122

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ます だ し

飼料となる稲わらの収穫作業(島根県益田市)たけ た し

放牧(大分県竹田市)

他方、海外に原料の大部分を依存している配合飼料の価格は、主要原料であるとうもろこしの国際価格が燃料用エタノール向け需要の増加により上昇したこと等から、平成18年(2006年)10月の1t当たり約4万5千円から、平成20年(2008年)10月には約6万8千円まで上昇しました。その後、世界的な不況による穀物需要の減退懸念や豊作予測等により、とうもろこしの国際価格が急落したこと等から、平成21年(2009年)4月には約5万2千円まで下落しました。平成21年度(2009年度)においては、おおむね5万円台前半で推移し、平成22年(2010年)1~3月期には約5万3千円となっています。畜産経営においては、とうもろこし等の飼料穀物を用いてつくる配合飼料1はなくてはならない生産資材であり、養豚、肉用鶏、採卵鶏では、経営費のうち飼料費が6割以上を占めることから、飼料穀物の国際相場の高騰等による配合飼料価格の上昇は、畜産経営に大きく影響します。このため、今後、国内においては、二毛作等農地の有効利用による飼料作物の作付け拡大や、優良品種の開発・普及等による単収増を図るとともに、濃厚飼料の代替にもなり得る飼料用米の配合飼料原料としての積極的な利用、自給飼料や地域の未利用資源を活用したTMR飼料(完全混合飼料)の増産、エコフィード(食品残さ利用飼料)の利用拡大への取組等を推進していく必要があります。また、飼料生産の労働力が不足し、作付け拡大が進まないという事情もあることから、飼料生産受託組織(営農集団、会社、農協等によるコントラクター組織2)による作業受託を拡大したり、耕作放棄地3を放牧地として活用し省力化を図る生産形態に転換したりするなどにより、生産面積を維持・拡大していくことも重要です。

注 1 複数の飼料原料や飼料添加物を動物の栄養素要求量を満たすように配合して混合したものです。2 飼料の収穫等の作業を請け負う組織3 [用語の解説]を参照

第3

(1)国内農業生産の動向

123