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目 次
第 2章 代数学 II 3
2.1 体, ベクトル空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32.2 一次独立, 生成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.3 基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72.4 次元, 線形写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 92.5 拡大体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 112.6 代数的拡大体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 132.7 最小多項式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 152.8 Q(α) 上の自己同型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 172.9 円分多項式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 192.10 ガロア理論概略 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 212.11 方程式の可解性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 232.12 可解群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 252.13 3 次, 4 次方程式の解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 272.14 作図可能性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30
参照 URL: http://www3.nit.ac.jp/~etou/index.htm
1
第2章 代数学 II
2.1 体, ベクトル空間
定義 2.1.1. F を空でない集合とする. F に 0 で割る, 以外の四則演算が可能のとき, F を体という.
例 2.1.2. 有理数全体の集合 Q, 実数全体の集合 R, 複素数全体の集合 C はそれぞれ体で, 有理数体, 実数体, 複素数体と呼ばれる. 一方, 整数全体の集合Z は体ではない.
注意 2.1.3. 今後, 一般の体について議論をおこなうが, 体 F といったら, 具体的には Q, R を思い浮かべて考えてほしい.
これから, ベクトル空間の定義をおこなう. あとで, 再定義することを注意しておく. ここでは, 成分表示を用いる.
定義 2.1.4. F を体とし, n > 0 とする. F の元 n 個の組全体の集合
Fn = (a1, a2, . . . , an) | a1, a2, . . . , an ∈ F
を考える. これを F 上のベクトル空間といい, Fn の元をベクトルという. Fn
の元について, 次のような演算が定義される.
(a1, a2, . . . , an) + (b1, b2, . . . , bn) = (a1 + b1, a2 + b2, . . . , an + bn) (加法)
λ(a1, a2, . . . , an) = (λa1, λa2, . . . , λan) (スカラー倍)
もちろん, 減法, −1 倍も通常通り定義される.
(a1, a2, . . . , an)− (b1, b2, . . . , bn) = (a1 − b1, a2 − b2, . . . , an − bn)
−(a1, a2, . . . , an) = (−a1,−a2, . . . ,−an)
注意 2.1.5. Fn の元は通常太文字で, a, b, c などとあらわされる. また,0 = (0, 0, . . . , 0) である (零ベクトル). ベクトルの演算について, 次が成り立つ (a, b, c ∈ Fn, λ, µ ∈ F ):
a + b = b + a, (a + b) + c = a + (b + c)
λ(a + b) = λa + λb, (λ + µ)a = λa + µb
(λµ)a = λ(µa)
3
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例 2.1.6. F = R, n = 2 または 3 のとき, ベクトルを矢印であらわすことができる. これを矢線ベクトルという. このとき, ベクトルの演算は次の図のようにあらわされる.
*
11
a
ba + b
a
λa
定義 2.1.7. ベクトル空間 Fn のベクトル
e1 = (1, 0, . . . , 0), e2 = (0, 1, 0, . . . , 0), . . . , en = (0, 0, . . . , 1)
を基本ベクトルという. 任意のベクトル a = (a1, a2, . . . , an) は, 基本ベクトルを用いて,
a = a1e1 + a2e2 + · · ·+ anen
とあらわすことができる.
定義 2.1.8. F = R とする. ベクトル a = (a1, a2, . . . , an) の大きさを
|a| =√
a21 + a2
2 + · · ·+ a2n
と定義する. n = 2 または 3 のとき, これは矢線ベクトルの長さに一致する.
問題 2.1.9. (1) 次のベクトルの計算をせよ.(1) 3(2,−1) + 5(−3, 7)(2) 3(1,−3, 0)− 4(1, 0,−2)
(2) 次のベクトルの大きさを求めよ.(1) a = (3,−4) (2) b = (1,−2, 3)
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2.2 一次独立, 生成
定義 2.2.1. F を体とし, a1, a2, . . . , ar をベクトル空間 Fn のベクトルとす
る. F の元 λ1, λ2, . . . , λr に対し, 等式
λ1a1 + λ2a2 + · · ·+ λrar = 0
を考える. この等式をみたす λ1, λ2, . . . , λr が
λ1 = λ2 = · · · = λr = 0
のみのとき, a1,a2, . . . , ar は一次独立であるという.
例 2.2.2. ベクトル空間 F 2 の基本ベクトル e1 = (1, 0),e2 = (0, 1) は一次独立である. より一般に, ベクトル空間 Fn の基本ベクトル e1, e2, . . . , en は一
次独立である.
(証明) λ1e1 + λ2e2 · · · + λnen = 0 とする. 左辺を整理し, 成分であらわすと,
(λ1, λ2, . . . , λn) = (0, 0, . . . , 0).
これより, λ1 = λ2 = · · · = λn = 0 をえる. (証明終)
例 2.2.3. ベクトル空間 F 2 のベクトル a1 = (1, 1),a2 = (0, 1) は一次独立である. 実際, λ1a1 + λ2a2 = 0 とする. 左辺を整理し, 成分であらわすと,
(λ1, λ1 + λ2) = (0, 0).
これより, λ1 = 0, λ1 + λ2 = 0, すなわち, λ2 = 0 をえ, a1,a2 は一次独立で
ある.
例 2.2.4. 例 2.2.3と同様に,ベクトル空間 F 3 のベクトルa1 = (1, 1, 1),a2 =(0, 1, 1), a3 = (0, 0, 1) は一次独立である.一方, b1 = (1,−1, 0), b2 = (0, 1,−1), b3 = (−1, 0, 1) は一次独立ではない.
実際, λ1 = λ2 = λ3 = 1 のとき,
λ1b1 + λ2b2 + λ3b3 = 0
である.
定義 2.2.5. ベクトル空間 Fn のベクトル a1,a2, . . . , ar が一次独立でない
とき, 一次従属であるという.上の例の b1, b2, b3 は一次従属である.
定義 2.2.6. a1, a2, . . . , ar をベクトル空間 Fn のベクトルとする. 集合
λ1a1 + λ2a2 + · · ·+ λrar |λ1, λ2, . . . , λr ∈ F
を a1, a2, . . . , ar で生成された Fn の部分空間という.
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命題 2.2.7. V を a1,a2, . . . , ar で生成された Fn の部分空間とする. このとき, 次が成立する:
(1) b1, b2 ∈ V ならば, b1 + b2 ∈ V .
(2) b1 ∈ V , λ ∈ F ならば, λb1 ∈ V .
(証明) (1) b1, b2 ∈ V とする. V の定義より,
b1 = λ1a1 + λ2a2 · · ·+ λrar
b2 = µ1a1 + µ2a2 · · ·+ µrar
とあらわされる. このとき,
b1 + b2 = (λ1 + µ1)a1 + (λ2 + µ2)a2 + · · ·+ (λr + µr)ar
より, b1 + b2 ∈ V である.(2) b1 を (1) と同様にあらわしたとき,
λb1 = (λλ1)a1 + (λλ2)a2 + · · ·+ (λλr)ar
より, λb1 ∈ V である. (証明終)
定義 2.2.8. F を体とし, 一般に, 空でない集合 V について, 加法とスカラー倍が定義され, 上の命題の条件 (1), (2) が成り立つときに, V を F 上のベク
トル空間という.もちろん, これまで扱ってきたベクトル空間 Fn も F 上のベクトル空間で
あるし, その部分空間も F 上のベクトル空間である.
問題 2.2.9. ベクトル空間 F 3 のベクトル a1 = (1, 1, 1), a2 = (0, 1, 1),a3 =(0, 0, 1) が一次独立であることを示せ.
問題 2.2.10. 次のベクトルの組は一次独立か, 一次従属か判定せよ.
(1) a1 = (2, 1), a2 = (1, 2)
(2) a1 = (1, 1, 0), a2 = (0, 1, 1),a3 = (1, 0, 1)
(3) a1 = (2, 1,−1),a2 = (1, 2, 1), a3 = (1, 1, 0)
(4) a1 = (3,−1,−1), a2 = (−1, 2,−1), a3 = (0, 5,−4)
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2.3 基底
定義 2.3.1. F を体とし, V を F 上のベクトル空間とする. 以下の条件をみたすベクトル a1, a2, . . . , ar を V の基底という.
(1) a1, a2, . . . , ar は一次独立.
(2) a1, a2, . . . , ar で生成される部分空間が V と等しい.すなわち, 任意の V のベクトル a に対し, ある F の元 λ1, λ2, . . . , λr
が存在し,a = λ1a1 + λ2a2 + · · ·+ λrar
である.
例 2.3.2. ベクトル空間 F 2 の基本ベクトル e1 = (1, 0),e2 = (0, 1) は基底である. より一般に, ベクトル空間 Fn の基本ベクトル e1, e2, . . . , en は基底で
ある.
(証明) e1,e2, . . . , en は例 2.2.2 より. そこで, (2) を示せば十分. Fn の任
意のベクトルを a = (a1, a2, . . . , an) とすると,
a = a1e1 + a2e2 + · · ·+ anen
が成り立つので, (2) も成立. したがって, e1,e2, . . . , en は基底である. (証明終)
例 2.3.3. ベクトル空間 F 2 のベクトル a1 = (1, 1),a2 = (0, 1) は基底である. 実際, 一次独立であることは例 2.2.3 より. また, F 2 の任意のベクトルを
b = (b1, b2) とすると,a = b1a1 + (b2 − b1)a2
が成り立つので, (2) も成立. したがって, a1,a2 は基底である.
例 2.3.4. 例 2.3.3と同様に,ベクトル空間 F 3 のベクトルa1 = (1, 1, 1),a2 =(0, 1, 1), a3 = (0, 0, 1) も基底である. 実際,
(b1, b2, b3) = b1a1 + (b2 − b1)a2 + (b3 − b2)a3
より確かめられる.
例 2.3.5.
V = (x, y, z) | 4x + 5y + 6z = 0は F 3 の部分空間である.実際, b1 = (x1, y1, z1), b2 = (x2, y2, z2) ∈ V とする. このとき,
4x1 + 5y1 + 6z1 = 0, 4x2 + 5y2 + 6z2 = 0
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が成り立つ. また, b1 + b2 = (x1 + x2, y1 + y2, z1 + z2) で,
4(x1 + x2) + 5(y1 + y2) + 6(z1 + z2)
= (4x1 + 5y1 + 6z1) + (4x2 + 5y2 + 6z2)
= 0.
これより, b1 + b2 ∈ V である.また, λ ∈ F のとき,
4(λx1) + 5(λy1) + 6(λz1) = λ(4x1 + 5y1 + 6z1) = 0.
したがって, λb1 = (λx1, λy1, λz1) ∈ V . 以上より, V は部分空間である.また, a1 = (3, 0,−2), a2 = (−1, 2,−1) は V の基底である. まず,
4 · 3 + 5 · 0 + 6(−2) = 0, 4(−1) + 5 · 2 + 6(−1) = 0
より, a1, a2 ∈ V である. また, λ1a1 + λ2a2 = 0 とすると,
3λ1 − λ2 = 2λ2 = −2λ1 − λ2 = 0
より, λ1 = λ2 = 0 となるので, a1,a2 は一次独立である. 最後に, a =(x, y, z) ∈ V とすると,
a =(−z
2− y
4
)a1 +
y
2a2
である. (4x + 5y + 6z = 0 より, x = −32z − 5
4y に注意) 以上より, a1 =
(3, 0,−2),a2 = (−1, 2,−1) は V の基底である.
問題 2.3.6. (1) a1 = (1, 0, 0),a2 = (1, 1, 0), a3 = (1, 1, 1) が R3 の基底で
あることを示せ.
(2) V = (x, y, z) | 3x + 4y + 5z = 0 とする. 次の問に答えよ.
(a) V が F 3 の部分空間であることを示せ.
(b) a1 = (−2,−1, 2), a2 = (−1, 2,−1) は V の基底であることを証明
せよ.
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2.4 次元, 線形写像
ここでは, 線形代数におけるいくつかの定理を証明なしに紹介する. その証明と, 行列の階数, 行列式については触れる機会がないので, ほかの線形代数の教科書を参照してほしい.まず, ベクトル空間の基底について次の定理が成り立つ.
定理 2.4.1. F を体, V を F 上のベクトル空間とする. このとき, V の基底の
個数は (有限のとき) 一定である. すなわち, a1, a2, . . . , ar と, b1, b2, . . . , bs
がともに V の基底のとき, r = s が成り立つ.
定義 2.4.2. F を体, V を F 上のベクトル空間とする. V の基底の個数をベ
クトル空間 V の次元といい, dim V とあらわす.
例 2.4.3. F 2 の次元は 2 である. 実際, 基本ベクトル e1, e2 がその基底で,個数は 2 だからである. 一般に, 基本ベクトル e1, e2, . . . , en がベクトル空間
Fn の基底なので, Fn の次元は n, すなわち dim Fn = n が成り立つ.
例 2.4.4. F 3 の部分空間 V = (x, y, z) | 4x + 5y + 6z = 0 の次元は 2, すなわち dim V = 2 が成り立つ. なぜならば, 例 2.3.5 より 2 個のベクトルからなる基底が存在するからである.
注意 2.4.5. V を F 上のベクトル空間, W をその部分空間とすると,
dim W 5 dim V
が成り立つ.
定義 2.4.6. V, W を F 上のベクトル空間とする. 写像 f : V → W が次の条
件をみたすとき, 線形写像であるという.
(1) a1, a2 ∈ V のとき, f(a1 + a2) = f(a1) + f(a2) が成り立つ.
(2) a1 ∈ V , λ ∈ F のとき, f(λa1) = λf(a1) が成り立つ.
定義 2.4.7. V, W を F 上のベクトル空間, f : V → W を線形写像とする.
(1) Ker f = a | f(a) = 0 を f の核 (カーネル) という.
(2) Im f = f(a) |a ∈ V を f の像 (イメージ) という.
命題 2.4.8. Ker f は V の, Im f は W の部分空間である.
(証明) まず, Ker f が V の部分空間であることを示す. a1, a2 ∈ Ker f と
する. このとき, f(a1) = f(a2) = 0 が成り立つ. よって,
f(a1 + a2) = f(a1) + f(a2) = 0 + 0 = 0.
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これより, a1 + a2 ∈ Ker f である. さらに, λ ∈ F のとき,
f(λa1) = λf(a1) = λ0 = 0.
したがって, λa1 ∈ Ker f より, Ker f は部分空間である.次に, Im f が W の部分空間であることを示す. b1, b2 ∈ Im f とする. このとき, ある V のベクトル a1, a2 が存在し, b1 = f(a1), b2 = f(a2) とあらわすことができる. このとき,
b1 + b2 = f(a1) + f(a2) = f(a1 + a2) ∈ Im f.
また, λ ∈ F のとき,
λb1 = λf(a1) = f(λa1) ∈ Im f.
以上より, Im f は W の部分空間である. (証明終)
定理 2.4.9 (次元公式). V,W を F 上のベクトル空間, f : V → W を線形写
像とする. このとき,
dim V = dim Ker f + dim Im f
が成り立つ.
この定理は線形代数の定理の中で, もっとも重要な定理の 1 つである. また, 次のことも成り立つ.
定理 2.4.10. 線形写像を行列であらわしたとき, その行列の階数と, dim Im f
が等しい.
定理 2.4.11. 連立一次方程式を行列であらわしたとき, その解にあらわれてくる独立変数の個数と dimKer f が等しい, ここでは f はその行列で定義さ
れる線形写像である.
このように, ベクトル空間の次元で,様々なもの (不変量) をあらわすことが線形代数の主題である.
問題 2.4.12. f : R3 → R を f(x, y, z) = 3x + 4y + 5z で定義する.
(1) f が線形写像であることを示せ.
(2) dimKer f , dim Im f を求めよ.
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2.5 拡大体
定義 2.5.1. 体 F が体 E の部分集合で, すなわち, F ⊂ E かつ, F の元につ
いて, F の元としての演算が, E の元としての演算と同じとき, F を E の部
分体, E を F の拡大体という. また, E が F の拡大体で, K が E の拡大体
のとき, すなわち F ⊂ E ⊂ K のとき, E を F と K の中間体という.
例 2.5.2. Q ⊂ R ⊂ C はすべて体なので, Q は R または C の部分体, R はQ と C の中間体, C は Q または R の拡大体である.
注意 2.5.3. E を体 F の拡大体とする. このとき, F の元のスカラー倍を E
の元同士の積と定義することにより, E を F 上のベクトル空間とみることが
できる.
例 2.5.4. C の元を a + bi とあらわすことにする, ここで a, b は実数で, i は
虚数単位である (i2 = −1). このとき, C は R 上のベクトル空間で, 基底は1, i である. 実際,
a + bi = 0 ⇐⇒ a = b = 0,
とすべての複素数は a · 1 + bi の形であらわされることから, 1, i は基底であ
る. また, スカラー倍は, 実数 λ に対し,
λ(a + bi) = (λa) + (λb)i
と定義されることがわかる.
定義 2.5.5. E を体 F の拡大体とする. E を F 上のベクトル空間とみたと
きの次元 dim E を E の F 上の拡大次数といい, [E : F ] とあらわす.
例 2.5.6. 例 2.5.4 から, [C : R] = 2 である.
定義 2.5.7. F を体, E をその拡大体とする. F の元 α が F 係数の方程式
の解のとき, α を F 上代数的という. α が F 上代数的でないとき, 超越的という.
以下の例では, F = Q, E = C の場合を考える. また, Q 上代数的な C の元を代数的数, Q 上超越的な C の元を超越数という.まず, Q の元 α は代数的数である (より一般に F の元は F 上代数的であ
る). なぜならば, 方程式 X − α = 0 の解だからである.
例 2.5.8.√
2 は代数的数である. 実際, X2 − 2 = 0 の解だからである. 一般に, n
√q (q > 0) は代数的数である.
例 2.5.9. 円周率 π, 自然対数の底 e は超越数であることが知られている.
定理 2.5.10. F を体, E をその拡大体とする. α, β ∈ E を 0 でなく, F 上代
数的のとき, −α, α + β, α−1, αβ はすべて F 上代数的である.したがって, F 上代数的な E の元全体の集合 F は F と E の中間体になる.
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例 2.5.11. 1,√
2 は代数的数である. したがって, 定理より 1 +√
2 も代数的数である.実際, X = 1 +
√2 とおいて, 次のようにX のみたす Q 係数の方程式を求
めることができる.
X − 1 =√
2
(X − 1)2 = 2
X2 − 2X + 1 = 2
X2 − 2X − 1 = 0.
例 2.5.12. 4√
2 + 4√
3 も代数的数である. 実際, 方程式
X16 − 20X12 − 666X8 − 3860X4 + 1 = 0
の解である.
問題 2.5.13. 次の代数的数のみたす Q 係数の方程式を求めよ.
(1)√
5− 2 (2)1−√3i
2(3)
√2 +
√3
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2.6 代数的拡大体
定義 2.6.1. F を体とする. f(X) を F 上の多項式 (F 係数の多項式) とする. f(X) がそれより真に次数の小さい多項式の積に分解しないとき, f(X)を (F 上) 既約であるという.
例 2.6.2. f(X) = X2 + 1 は Q 上既約だが, C 上既約ではない. 実際, C 上では
X2 + 1 = (X − i)(X + i)
と因数分解するからである.
定義 2.6.3. f(X) が既約でないとき, 可約であるという.
今後, 取り扱う多項式の最高次の係数は 1 であるとする. このような多項式をモニック多項式という. また, 体 F 上の多項式は最高次の係数とモニッ
ク多項式の積であらわすことができる.
命題 2.6.4. n > 0, f(X) を体 F 上の次数 n の多項式とする. このとき集合
Kf = r(X) | r(X) は F 上の多項式を f(X) で割った余り
を考える. このとき, Kf は F 上のベクトル空間で, 次元は n に等しい.
(証明) f(X) の次数は n なので, その余り r(X) は
r(X) = a0 + a1X + a2X2 + · · ·+ an−1X
n−1
とあらわすことができる. したがって, s(X) = b0 + b1X + b2X2 + · · · +
bn−1Xn−1 ∈ Kf のとき, その和
r(X)+s(X) = (a0+b0)+(a1+b1)X+(a2+b2)X2+· · ·+(an−1+bn−1)Xn−1
も Kf の元である (上の右辺の多項式を f(X) で割った余りと考えることができるので). また, F の元 λ に対しても,
λ · r(X) = (λa0) + (λa1)X + (λa2)X2 + · · ·+ (λan−1)Xn−1 ∈ Kf
より, Kf は F 上のベクトル空間である.さらに, Kf の基底は 1, X,X2, . . . , Xn−1 である. 実際, すべての Kf の
元は
a0 · 1 + a1X + a2X2 + · · ·+ an−1X
n−1 (a0, a1, . . . , an−1 ∈ F )
とあらわせ,
a0+a1X+a2X2+· · ·+an−1X
n−1 = 0 ⇐⇒ a0 = a1 = a2 = · · · = an−1 = 0
が成り立つからである. したがって, 1, X, X2, . . . , Xn−1 は基底で, Kf の次
元は n である. (証明終)
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命題 2.6.5. n > 0, f(X) を体 F 上の次数 n の多項式, Kf を命題 2.6.4と同じとする. f(X) が既約ならば, Kf は次の演算で, F の拡大体になる.r(X) = a0 + a1X + · · ·+ an−1X
n−1, s(X) = b0 + b1X + · · ·+ bn−1Xn−1 の
とき
r(X) + s(X) = (a0 + b0) + (a1 + b1)X + · · ·+ (an−1 + bn−1)Xn−1
r(X) ∗ s(X) =積 r(X)s(X) を f(X) で割った余り
(証明) まず, F の元は次数 0 の多項式とみることにより F は Kf の部分
集合と考えることができ, F の元の演算は, Kf の元としての演算と一致する
ことは容易にみることができる.したがって, r(X) ∈ Kf が 0 でないとき, r(X) ∗ s(X) = 1 をみたす
s(X) ∈ Kf が存在することを示せば十分である. この s(X)が Kf では r(X)の逆元 1/r(X) にあたることを注意する.まず, f(X) と r(X) は互いに素, すなわち, 次数正の多項式で f(X), r(X)
をともに割るものが存在しないことに注意する. なぜならば, g(X) をそのような多項式とすると, g(X) が f(X) を割り, f(X) は既約であることから,g(X) = f(X) としてよい. さらに, g(X) は r(X) も割るが, deg g(X) =deg f(X) = n > deg r(X) より, そのようなことはなく, 矛盾. したがって,f(X) と r(X) は互いに素. このとき, 次の事実を使う.
f(X) と r(X) が互いに素のとき, f(X)g(X) + r(X)s(X) = 1 をみたす多項式が存在する.
この事実より, r(X) ∗ s(X) = 1 をみたす s(X) が存在することがわかる. (証明終)
系 2.6.6. F 上の Kf の拡大次数は n である, すなわち, [Kf : F ] = n が成
り立つ. ここで, deg f(X) = n.
例 2.6.7. F = Q, f(X) = X2+1とする. 前の例でみたとおり, f(X)は F 上
既約である. このとき, (X+1)(X−1) = X2−1より, (X+1)∗(X−1) = −2で
ある. さらに, (X +1)∗−12(X−1)より, KX2+1 では 1/(X +1) = −1
2(X−1)
と考えられる.
問題 2.6.8. F = Q, f(X) = X2 + X + 1 とする. (X − 1) ∗ (X − 1), 1/X を
a0 + a1X の形であらわせ.
2009/02/16:21:41 15
2.7 最小多項式
定義 2.7.1. E を体 F の拡大体とする. F 上代数的な元 α ∈ E に対し,f(α) = 0 をみたす F 上の 0 でない多項式 f(X) の中で, 次数最小で, 最高次の係数が 1 のものを α の F 上の最小多項式という.
例 2.7.2. i ∈ C の Q 上の最小多項式は f(X) = X2 + 1 である. なぜならば, もし i が次数 1 の多項式に代入して 0 になれば, i ∈ Q になるので.
一般に, α の最小多項式の次数が 1 ⇔ α ∈ F が成り立つ.
補題 2.7.3. F 上代数的な元 α の最小多項式は既約である.
(証明) f(X) を α の最小多項式とし, 可約であると仮定する. すなわち,真に次数の小さい多項式 g(X), h(X) が存在し, f(X) = g(X)h(X) と分解したと仮定する. f(α) = 0 より, g(α)h(α) = 0, すなわち g(α) = 0 またはh(α) = 0. これは f(X) が f(α) = 0 をみたす多項式の中で次数最小であることに反する. したがって, f(X) は既約である. (証明終)
定義 2.7.4. α を F 上代数的な元, f(X) をその最小多項式とする. このとき, この f(X) に対して命題 2.6.4 で定義した Kf を α の F 上の単純拡大と
いい, F (α) とあらわす.
例 2.7.5. Q(i) を考える. i の Q 上の最小多項式は f(X) = X2 + 1 より,Q(i) の元は a0 + a1X とあらわされる. さらに,
(a0 + a1X)(b0 + b1X) = a0b0 + (a0b1 + a1b0)X + a1b1X2
= a1b1(X2 + 1) + (a0b0 − a1b1) + (a0b1 + a1b0)X
より, (a0 + a1X) ∗ (b0 + b1X) = (a0b0 − a1b1) + (a0b1 + a1b0)X, 特に,X ∗X = −1 が成り立つ. したがって, Q(i) の X を C の i と思うことがで
きる.また同様に, R(i) = C が成り立つ. f(X) = X2 + 1 がやはり R 上の最小多項式であることに注意.
一般に例 2.7.5 と同様のことが成り立つ.
命題 2.7.6. α を F 上代数的な元とすると, F (α) は集合
g(α)h(α)
∣∣∣∣ g(X), h(X) は h(α) 6= 0 をみたす F 上の多項式
と同じ (正確には同型) と考えられる.
(証明)
E =
g(α)h(α)
∣∣∣∣ g(X), h(X) は h(α) 6= 0 をみたす F 上の多項式
16 2009/02/16:21:41
とおく. 写像 ϕ : F (α) → E を多項式 g(X) を g(α) に対応させることによって定義する. このとき, ϕ は多項式に α を代入する写像なので,
ϕ(g + h) = (g + h)(α) = g(α) + h(α) = ϕ(g) + ϕ(h)
ϕ(gh) = (gh)(α) = g(α)h(α) = ϕ(g)ϕ(h)
が成り立つ. また, α の最小多項式を f(X) とすると,
g(X)h(X) = q(X)f(X) + g(X) ∗ h(X)
をみたす F 上の多項式 q(X) が存在し, α を代入すると,
g(α) ∗ h(α) = g(α)h(α)
∴ ϕ(g ∗ h) = ϕ(g)ϕ(h)
が成り立つ. したがって, ϕ は演算を保つ (準同型写像である).さらに, α の最小多項式 f(X) の次数を n とすると, f(α) = 0 より, αn は
F 上の次数が n − 1 以下の α の多項式であらわされ, したがって, Kf の元
g(α)/h(α) において, g(X), h(X) の次数は n− 1 以下であるとしてよい. したがって, g(X), h(X) はともに F (α) の元で, F (α) は体で, h(X) 6= 0 より,1/h(X) と等しい F (α) の元 s(X) が存在する. すなわち, s(X) ∗ h(X) = 1より, s(α)h(α) = 1. よって,
ϕ(sg) = s(α)g(α) = g(α)/h(α).
さらに, g(X) ∈ F (α) について, g(X) の次数が n− 1 以下であることに注意すると, f(X) が f(α) = 0 をみたす次数最小の多項式であることより,
ϕ(g) = 0 ⇐⇒ g(α) = 0 ⇐⇒ g(X) = 0.
したがって, F (α) の元と E の元は 1 対 1 に対応し, 演算も等しいので, 結論をえる. (証明終)
問題 2.7.7. F = Q とする. 3√
2 の最小多項式を求めよ (既約性を確かめよ).
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2.8 Q(α) 上の自己同型
ここでは, 次の例のようなことを考える.
例 2.8.1. F = Q とする. i, −i の最小多項式はともに f(X) = X2 + 1 である. したがって, Q(i) = Q(−i) が成り立つ. さてこのことをどのようにとらえるべきであろうか?命題 2.7.6 で考えた
Eα =
g(α)h(α)
∣∣∣∣ g(X), h(X) は h(α) 6= 0 をみたす Q 上の多項式
ここで α は i または −i, はQ(α) に等しく, またそのときの Q(α) の元をEα
の元にうつす写像は多項式に α を代入するだけであった. したがって, Ei と
E−i は多項式に代入するものが異なっている. したがって, i と −i の違いは
代入の違いと考えられる. また, 代入は写像であったので, 写像の違いと考えてもよい. この写像の区別をこれから考える.
定義 2.8.2. F を体, E をその拡大体とする. 写像 σ : E → E が以下の条件
をみたすとき F 上の自己同型という.
(1) σ は準同型写像である. すなわち,
σ(x + y) = σ(x) + σ(y), σ(xy) = σ(x)σ(y) (x, y ∈ F )
が成り立つ.
(2) σ は全単射である. すなわち, E の元を E の元に 1 対 1 で写す.
(3) σ は F の元を固定する. すなわち,x ∈ F のとき,
σ(x) = x
が成り立つ.
命題 2.8.3. F を体, E をその拡大体, f(X) を F 上の多項式, σ を E の F
上の自己同型とする. このとき, α が f(X) = 0 の解ならば, σ(α) もそうである.
(証明) f(X) = a0 + a1X + · · · + anXn (a0, a1, . . . , an ∈ F ) とすると,f(α) = 0 より,
a0 + a1α + · · ·+ anαn = 0.
両辺を σ で写せば,
a0 + a1σ(α) + · · ·+ an(σ(α))n = 0.
したがって, σ(α) も f(X) = 0 の解である. (証明終)
18 2009/02/16:21:41
例 2.8.4. F = Q, E = Q(i) とする. σ を Q 上の Q(i) の自己同型とすると,i は F 上の方程式 X2 + 1 = 0 の解なので, σ(i) もそうである. したがって,σ(i) = i または −i. σ(i) = i のとき, σ(a + bi) = a + bi (a, b ∈ Q) となって,σ は恒等写像である. また, σ(i) = −i のとき, σ(a + bi) = a − bi (a, b ∈ Q)である. これは, 複素数をその共役に写す写像である. 以上より, Q 上の Q(i)の自己同型は 2 つしか存在しない.
例 2.8.5. F = Q, α = 3√
2, E = Q(α) とする. σ を Q 上の Q(α) の自己同型とすると, α の最小多項式はX3 − 2 より, σ(α)3 = 2 でなけらばならない.今, α ∈ R より, Q(α) ⊂ R で, これをみたす Q(α) の元は α = 3
√2 しか存在
しない (他の解は複素数である). したがって, σ(α) = α で, σ は恒等写像で
ある. すなわち, Q 上の Q(α) の自己同型はただ 1 つである.
上の例は, ただ F (α) という形の拡大体だけを考えているだけでは, 自己同型にうまくその性質が反映されていないことがわかる. さらに, またその影にある方程式の解をすべて扱うにあたっては不十分である. そこで, 方程式の解をすべて含むような拡大体を考えたい. その前に, 分離性という重要な概念を紹介する.
定義 2.8.6. F を体とし, f(X) を F 上の多項式とする. f(X) が重解をもたないとき, f(X) は F 上分離的, または f(X) は分離多項式であるという.
命題 2.8.7. F = Q のとき, 既約多項式は分離的である.
(証明) f(X) を既約多項式とする. deg f 5 1 なら明らかに分離的である.そこで, deg f(X) > 1 であるとしてよい. f(X) を分離的でないとする. その重解を α とすると, f(α) = f ′(α) = 0 である, ここで f ′(X) は f(X) の導関数である. 一方で, f(X) は既約なので, α の最小多項式である. これはf ′(α) = 0 に反する (f ′(X) 6= 0 に注意). したがって, このような α は存在せ
ず, f(X) は分離的である. (証明終)
問題 2.8.8. F = Q, E を X3 − 2 = 0 のすべての解を含むような拡大体とする. このとき, E の Q 上の自己同型の個数を求めよ.
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2.9 円分多項式
定義 2.9.1. F を体とする. F 上の多項式 f(X) の解をすべて含むような拡大体を分解体という. また, 分解体の中で, (包含関係に関して) 最小のものを最小分解体という.さらに, 最小分解体 E のすべての元が分離多項式の解になっているとき, E
をガロア拡大体という.
定義 2.9.2. F を体とする. n > 0 に対し, f(X) = Xn − 1 を円分多項式という. また, その解を 1 の n 乗根という.
命題 2.9.3. Xn−1 の最小分解体 E は単純拡大である. すなわち, E = F (ω)をみたす元 ω が存在する.
(証明) 話を簡単にするために, F = Q の場合を証明する. ω = cos2π
n+
i sin2π
nとおく. このとき,
ωk = cos2kπ
n+ i sin
2kπ
n(k は整数)
に注意すれば, 1, ω, ω2, . . . , ωn−1 が方程式 Xn − 1 = 0 のすべての解で,ωn = 1 が成り立つ. したがって, Q(ω) は分解体である.また, E を別の分解体とすると, E は 1, ω, ω2, . . . , ωn−1 をすべて含み, 特に ω ∈ E なので, Q(ω) ⊂ E である. したがって, Q(ω) は最小分解体である.(証明終)
定義 2.9.4. ω を 1 の n 乗根とする. Q(ω) が f(X) の最小分解体と等しいとき, ω を 1 の原始 n 乗根という. また, 1 の原始 n 乗根の最小多項式を
Φn(X) とあらわす.
ω を 1 の原始 n 乗根とする. このとき, 次が成り立つ.
(1) k と n の最大公約数を d とすると, ωk は 1 の原始 n/d 乗根である.
(2) ωk が 1 の原始 n 乗根 ⇐⇒ k と n は互いに素
(3) 1 の原始 n 乗根の個数は ϕ(n) 個, ただし ϕ はオイラーの関数. すなわち ϕ(n) は 1, . . . , n の中で, n と互いに素な数の個数.
これらより, 次をえる.
命題 2.9.5. F = Q のとき,
Xn − 1 =∏
d |nΦd(X)
が成り立つ.
20 2009/02/16:21:41
(証明) まず, 1 の n 乗根は, ある n の約数 d に対して, 原始 d 乗根になっ
ており, また逆に, d が n の正の約数のとき, 1 の d 乗根は 1 の n 乗根であ
る. したがって, 前半はXn − 1 が Φd(X) の積である右辺を割ることを意味し, 後半は, 逆に Φd(X) の積を Xn− 1 が割ることを意味している. したがって, ともに最高次の係数が 1 であることを注意すれば, 等しいことがわかる.(証明終)
例 2.9.6. F = Q のとき, Φn(X) を具体的に求めよう.
Φ1(X) = X − 1
Φ2(X) = X + 1
Φ3(X) = X2 + X + 1
Φ4(X) = X2 + 1
Φ5(X) = X4 + X3 + X2 + X + 1
実際,
X − 1 = Φ1(X), X2 − 1 = Φ1(X)Φ2(X), X3 − 1 = Φ1(X)Φ3(X),
X4 − 1 = Φ1(X)Φ2(X)Φ4(X), X5 − 1 = Φ1(X)Φ5(X)
が成り立つ.さらに, Φ6(X) を求めよう.
X6 − 1 = Φ1(X)Φ2(X)Φ3(X)Φ6(X)
より, 整式の除法をおこなうことにより, Φ6(X) = X2 −X + 1 をえる.
問題 2.9.7. F = Q のとき, Φ8(X), Φ12(X) を求めよ.
2009/02/16:21:41 21
2.10 ガロア理論概略
補題 2.10.1. F を体, E をその拡大体とする. E の F 上の自己同型の集合
G(E) とする. このとき, σ, τ ∈ G(E) のとき, その合成 στ も G(E) の元で,次が成り立つ.
(G1) (στ)ϕ = σ(τϕ) (σ, τ, ϕ ∈ G(E))
(G2) 恒等写像 idE も G(E) の元で, σ ∈ G(E) に対し, σidE = idEσ = σ が
成り立つ.
(G3) σ ∈ G(E) に対し, 逆写像 σ−1 を考えると, σ−1 ∈ G(E) で, σσ−1 =σ−1σ = ideE である.
補題 2.10.1 の条件をみたす集合を一般に群という. 上の補題は G(E) が群であることを証明している. 証明自身は簡単なので省略する.群の空でない部分集合が同じ演算で再び群になるとき,部分群であるという.ガロア理論とは, 大まかに言って, 体 F と大きなその拡大体 Ω を考え, F
と Ω の中間体と, G(Ω) の部分群との関係を述べたものである.
例 2.10.2. F = Q, ω を 1 の原始 12 乗根, Ω = Q(ω) とする. まず, Ω の Q上の自己同型を考える. σ を自己同型とする. ω は σ によって再び 1 の原始12乗根に写されるので (最小多項式 Φ12(X)の解に写されるので), σ(ω) = ωk
をみたす 0 以上の 12 と互いに素な整数が存在する. 1 = ω0, ω, ω2, . . . , ω11
がすべての 1 の 12 乗根なので, 0 5 k < 12 としてよい. 逆に, 0 5 k < 12かつ k は 12 と互いに素, に対し, σk(ω) = ωk をみたす Ω の Q 上の自己同型 σk はただ 1 つである. したがって, 自己同型の個数は ϕ(12) = 4 個である. すなわち, σ1 = idΩ, σ5, σ7, σ11 がすべてである.また, 次のような積 σiσj の表をえる.
σi \ σj σ1 σ5 σ7 σ11
σ1 σ1 σ5 σ7 σ11
σ5 σ5 σ1 σ11 σ7
σ7 σ7 σ11 σ1 σ5
σ11 σ11 σ7 σ5 σ1
したがって, G(Ω) = σ1, σ5, σ7, σ11の部分群は, G1 = σ1, G2 = σ1, σ5,G3 = σ1, σ7, G4 = σ1, σ11, G(Ω) の 5 つである.
定義 2.10.3. F を体, Ω をその拡大体, H を G(Ω) の部分群とする. このとき,
K(H) = x ∈ Ω |任意の σ ∈ H に対し, σ(x) = xを H の不変体という.
22 2009/02/16:21:41
また, F と Ω の中間体 K に対し,
G(K) = σ ∈ G(Ω) |任意の x ∈ K に対し, σ(x) = x
を K の固定群という.
実際, K(H) は F と Ω の中間体で, G(K) は G(Ω) の部分群である.
例 2.10.4. 例 2.10.2 の部分群 G1, . . . , G4, G(Ω) についてその不変体を求めよう. 明らかに, K(G1) = Ω, K(G(Ω)) = Q である. また, σ5(ωk) = ωk とす
ると, ω5k = ωk なので, ω4k = 1. したがって, k は 3 の倍数となり, K(G2) =Q(ω3), すなわち X4 − 1 の最小分解体である. 同様に, K(G3) = Q(ω2) で,X6 − 1 の最小分解体, K(G4) = Q(ω + ω11) = Q(
√3) である.
いよいよガロアの定理を紹介しよう.
定理 2.10.5. F を体, Ω を F のガロア拡大体とする. このとき, F と Ω の中間体と, G(Ω) の部分群との間には 1 対 1 の対応がある. さらに, その対応において, 包含関係は逆転する.
ここでいう対応は, もちろん, 中間体 K を固定群 G(K) へ, 部分群 H を不
変体 K(H) への対応である. また, 上の条件がみたされるとき, 群 G(Ω) をガロア群といい, Gal(Ω/F ) などとあらわす. 実は例 2.10.4 の Q(ω) はガロア拡大である.
問題 2.10.6. Ω = Q(ω), ω は 1 の 6 乗根について, G(Ω) を求め, さらにそのすべての部分群について固定体を求めよ.
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2.11 方程式の可解性
ガロア理論により, ある方程式を考えるとき, その最小分解体を考え, そしてその様子はガロア群をみることによってわかる. ここでは, 一般の方程式が置換群と呼ばれる群に対応していることをみて, そのことにより, 5 次以上の方程式に解の公式が存在しないことを概説する.まず, 対称群の定義から始めよう.
定義 2.11.1. E = 1, 2, . . . , n のとき, E 上の全単射全体 S(E) を Sn とあ
らわし, n 次対称群という. また, Sn の元を置換という.
全単射の定義. 写像 F : E → E′ が
a 6= b =⇒ f(a) 6= f(b)
(またはその対偶 f(a) = f(b) =⇒ a = b) をみたすとき単射,
∀b ∈ E′, ∃a ∈ E; f(a) = b
が成り立つとき, 全射といい, f が全射かつ単射のとき, 全単射という.記号. f ∈ Sn を次のようにあらわす:
(1 2 · · · n
f(1) f(2) · · · f(n)
)
このとき, f は全単射より, 下の列には 1, 2, . . . , n の順列が入る.
例 2.11.2.
S2 =
(1 21 2
),
(1 22 1
)
S3 =
(1 2 31 2 3
),
(1 2 31 3 2
),
(1 2 32 1 3
),
(1 2 32 3 1
),
(1 2 33 1 2
),
(1 2 33 2 1
)
例 2.11.3.(
1 2 31 3 2
) (1 2 32 3 1
)=
(1 2 33 2 1
)
(1 2 33 1 2
)−1
=
(1 2 32 3 1
)
24 2009/02/16:21:41
例 2.11.4.(
1 2 3 42 1 4 3
) (1 2 3 42 3 4 1
)=
(1 2 3 41 4 3 2
)
(1 2 3 43 1 4 2
)−1
=
(1 2 3 42 4 1 3
)
置換は 1, 2, . . . , n の並べ替えと考えることができる. したがって, n 次分
離多項式の解を α1, . . . , αn とすると, その最小分解体のガロア群は, それらを互いに写しあうので, その番号を考えることにより, 置換をえる. したがって, 一般の場合は, ガロア群が n 次対称群になる (アーベルの定理).
定理 2.11.5. F = Q またはその拡大体とする. F 上の方程式 f(X) がべき根で解けるための必要十分条件は対応するガロア群が可解群になることである.
定理 2.11.5 によって, 方程式の解の公式が存在する, すなわち解がべき根とその加減乗除であらわされるための必要十分条件はガロア群が可解群にな
ることである. しかし,
命題 2.11.6. n = 5 のとき, n 次対称群 Sn は可解群でない.
よって, 5 次以上の方程式には解の公式がないことが証明された. 一方,n 5 4 のとき, Sn は可解群である. 実際, 解の公式が存在する.
問題 2.11.7. 次の置換の計算をせよ.
(1)
(1 2 3 43 2 4 1
)(1 2 3 41 3 4 2
)
(2)
(1 2 3 43 4 2 1
)−1
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2.12 可解群
定義 2.12.1. G を群とする. 任意の G の元 a, b に対し,
ab = ba
が成り立つとき G をアーベル群という.
例 2.12.2. 一般に対称群 Sn (n > 2) はアーベル群ではない.
定義 2.12.3. G を群とする. ある G の元 a が存在し, G のすべての元が an
(n は整数) とあらわされるとき, G を巡回群という. 巡回群はアーベル群である.
例 2.12.4. p を素数, ω が原始 p 乗根のとき, ガロア群 Gal(Q(ω)/Q) は巡回群となることが知られている. 特にアーベル群である.
定義 2.12.5. G を群とする. G の元 a, b に対し, [a, b] = aba−1b−1 を a と b
の交換子という. また, G の交換子全体で生成される部分群を交換子群とい
う. ここで, G の部分集合 S に対して, S で生成される部分群とは
a1a2 · · · an|n = 1, ai ∈ S または a−1i ∈ S
である.
注意 2.12.6. G がアーベル群のとき, すべての交換子は 1 なので, G の交換
子群は 1 である.
例 2.12.7. n 次対称群 Sn の交換子群 [Sn, Sn] は n 次交代群 An である. ここで, n 次交代群とは偶数個の置換の積であらわされる置換全体の集合で, その位数 (個数) は対称群の位数の半分である.
例 2.12.8.
A3 =
(1 2 31 2 3
),
(1 2 32 3 1
),
(1 2 33 1 2
)
である. また,(
1 2 32 3 1
)2
=
(1 2 33 1 2
),
(1 2 32 3 1
)3
=
(1 2 31 2 3
)
なので, 巡回群である. したがって, アーベル群なのでその交換子群について[A3, A3] = 1 が成り立つ.
例 2.12.9. A4 の交換子群 H は次のようになることが知られている.
H =
(1 2 3 41 2 3 4
),
(1 2 3 42 1 4 3
),
(1 2 3 43 4 1 2
),
(1 2 3 44 3 2 1
)
さらに, この H はアーベル群なので, [H, H] = 1 が成り立つ.
26 2009/02/16:21:41
例 2.12.10. n = 5 のとき,
[An, An] = An
が知られている.
定義 2.12.11. 群 G が可解群であるとは次の条件をみたす G の部分群の列
が存在することをいう.
G = G0 ⊃ G1 ⊃ · · · ⊃ Gs = 1Gi+1 = [Gi, Gi] i = 1, . . . , s− 1.
例 2.12.12. n = 2, 3, 4 のとき n 次対称群 Sn は可解群であるが, n = 5 のとき Sn は可解群にはならない.
注意 2.12.13. 一般に, 群 G に対し, 交換子群 [G,G] は正規部分群で, 剰余群 G/[G,G] はアーベル群である. また, G が可解群であることと次の条件を
みたす G の正規部分群の列が存在することは同値である.
G = G0 ⊃ G1 ⊃ · · · ⊃ Gs = 1Gi/Gi+1 はアーベル群 i = 1, . . . , s− 1.
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2.13 3 次, 4 次方程式の解法
3 次方程式 (カルダノ (1501-1576))
ax3 + bx2 + cx + d = 0 (a 6= 0) を考える.まず, 両辺を a で割る.
x3 + b′x2 + c′x + d′ = 0(
b′ =b
a, c′ =
c
a, d′ =
d
a
).
次に, x = y − b′
3とおく.
(y − b′
3
)3
+ b′(
y − b′
3
)2
+ c′(
y − b′
3
)+ d′ = 0
y3 +
(b′2
3− 2
3b′2 + c′
)y − b′3
27+
b′3
9− b′c′
3+ d′ = 0
∴ y3 +(−1
3b′2 + c′
)y +
227
b′3 − b′c′
3+ d′ = 0.
この置き換えによって, 2 次の項が消えるので, 最初から方程式
x3 + cx + d = 0
を考えれば十分.x = u + v とおくと,
u3 + v3 + 3uv(u + v) + c(u + v) + d = 0. (1)
したがって,
uv = − c
3u3 + v3 = −d
をみたす u, v は (1) の根である.
u3v3 = − c3
27なので, u3, v3 は方程式
t2 + dt− c3
27= 0
の根. よって,
u3, v3 =−d±
√d2 + 4
27c3
2.
α =3
√√√√−d +√
d2 + 427c3
2
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とおく. さらに,
ω =−1 +
√3i
2とすると, ω3 = 1 より, u = α, αω, αω2 が u3 = α3 の解.一方, v = − c
3uより,
u = α
v = − c
3α
u = αω
v = − c
3αω= − c
3αω2
u = αω2
v = − c
3αω2= − c
3αω
x = u + v より,
x = α− c
3α, αω − c
3αω2, αω2 − c
3αω.
例 2.13.1. x3 − 3x2 + 9x− 5 = 0y = x− 1 とおく.
y3 + 3y + 1− 6y − 3 + 9y + 9− 5 = 0
y3 + 6y + 2 = 0
y = u + v とおくと,
u3 + v3 = −2
uv = −2 ∴ u3v3 = −8
ゆえに, u3, v3 は方程式
t2 + 2t− 8 = 0
の根. これを解くと, t = 2,−4. u3 = 2 とすると,
u = 213 , 2
13 ω, 2
13 ω2.
uv = −2 より, v はそれぞれ
v = −223 , −2
23 ω2, −2
23 ω.
となる. したがって,
y = 213 − 2
23 , 2
13 ω − 2
23 ω2, 2
13 ω2 − 2
23 ω.
∴ x = y + 1 = 213 − 2
23 + 1, 2
13 ω − 2
23 ω2 + 1, 2
13 ω2 − 2
23 ω + 1.
問題 2.13.2. 3 次方程式 x3 + 3x2 + 12x + 4 = 0 を解け.
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4 次方程式 (フェラリ (1522-1565))
3 次方程式の場合と同様に
x4 + px2 + qx + r = 0
としてよい.x4 = −px2 − qx− r
の両辺に 2tx2 + t2 を加える.
(x2 + t)2 = (2t− p)x2 − qx + t2 − r. (2)
右辺が平方完成するための条件は, 判別式の値が 0 となることなので,
q2 − 4(2t− p)(t2 − r) = 0
をえる. これを開くと,
8t3 − 4pt2 − 8rt + 4pr − q2 = 0.
この解を u とする. (2) で t = u を代入し, 右辺を平方完成すると,
(x2 + u)2 = (2u− p)(
x− q
2(2u− p)
)2
∴ x2 + u = ±√
2u− p
(x− q
2(2u− p)
)2
.
この 2 次方程式を解けばよい.
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2.14 作図可能性
ここでは目盛りのない定規とコンパスを使って, どのような図形を描くことができるかを考える. たとえば, 有名な
角の三等分は定規とコンパスでできるか?
という角の三等分問題もこのような問題の 1 つである. もちろん, この問題は 90 などの特殊な角に対しては可能だが, 一般には不可能であることが知られている.この問題を次のように考える. 座標平面に原点をうつ. そこから定規とコ
ンパスで到達可能な点を作図可能な点と呼ぶことにする. まず, ある一定の長さと方向を決めることによって, (1, 0) は作図可能であるとしてよい. さらに,定規を使って, 原点と (1, 0) を通る直線を引くことができ, また, コンパスで,原点と (1, 0) の距離を測って, それを用いて, (2, 0), (3, 0), . . . と点を打つことができる. さらに, 反対側にも同じことをおこなえば, (−1, 0), (−2, 0), . . .も作図可能である.また, 定規とコンパスを使って, 直線上の与えられた点を通り, 元の直線と
垂直な直線は作図できるので (なぜか?), y 軸を引くことができ, 前と同じ議論で, . . . , (0,−2), (0,−1), (0, 1), (0, 2), . . . は作図可能である. さらに, (a, 0)が作図可能で, (0, b) が作図可可能ならば, (a, b) も作図可能である. したがって, a, b が整数のとき, (a, b) は作図可能である.さらに, 定規とコンパスを使って線分を 2 等分できる. より, 一般に n 等
分できる (n は自然数, なぜか?). したがって, (1/n, 0) も作図可能で, 原点とその点を通る線分の m 倍を考えると, (m/n, 0) も作図可能である. 前の議論と同様に, a, b が有理数のとき, (a, b) は作図可能であることがわかる.さて, さらに作図可能な点の解析を進めよう. まず, 定規でできることは作
図可能な 2 点を通る直線を引くことである. コンパスでできることは, 作図可能な点を中心とし, 作図可能な点を通る円を描くことである. 他の作業は,これらの積み重ねである. したがって, 新たに作図可能な点を得るには, 次の3 つの場合しかない.
(1) 作図可能な 2 点を通る 2 直線の交点
(2) 作図可能な 2 点を通る直線と作図可能な点を中心とし作図可能な点を通る円の交点
(3) 作図可能な点を中心とし作図可能な点を通る 2 つの円の交点
(1)の場合,交点の座標はもとの 4点の座標の加減乗除であらわされる. (2),(3) の場合は, 同様に作図可能な元の点の座標の加減乗除及び, 平方根を用いて交点の座標をあらわすことができる. したがって, 交点を増やす前の点の座標の成分からなる体を F 増やした後の点の座標の成分からなる体を E と
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すると, F,E は Q の拡大体で, E は F にある F の元の平方根を加えた体
になっている. すなわち, E = F (√
α) である. したがって, 最終的には, このように必要な平方根を加えていった体の元が作図可能な点の座標に成りう
るのである. たとえば, 3√
2 などはこのような形では絶対あらわせないので,( 3√
2, 0) は作図不可能である. このことはさらに, 立方体の体積を定規とコンパスを使って 2 倍にすることができないことを意味している.逆に, 正 17 角形は作図可能である. これは有名なガウスの結果である.
例 2.14.1. 実際, 長さ n が与えられたときに,√
n を作図する方法を考えよ
う. まず,(n + 1)2 = (n− 1)2 + 4n
より, (n + 1
2
)2
=(
n− 12
)2
+ (√
n)2
である. そこで, 長さ (n− 1)/2 をとり, その一方の点 A に垂線を引き, 他方の点 B から, 長さ (n + 1)/2 をコンパスでとって, 垂線との交点 C を打つ.このとき, AC の長さが
√n に等しい.
問題 2.14.2. この節の 2 箇所のなぜかを実際に定規とコンパスを使って作図する方法を説明せよ.