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平成26年7月  第727号 1 1.宇宙分野における国際交流 1.1 BDLIとの交流 ILA-2014 開催前日の5 19 日、ベルリン中 心部の BDLIBundesverband der Deutschen Luft- und Raumfahrtindustrie:ドイツ航空宇宙 工業会)事務所を訪問した。専務理事Dietmar Schrick氏に対応いただき、ドイツと日本の類 似点を改めて認識した。 ドイツ航空宇宙工業会は1909年設立、2013 年の会員数は215社、関係従業員数は105,500 名、売上€30.6Bである。売上の内訳は70%が Civil Aviation22%がDefense & Seculity8€2.4B(=3,360億円@1€140円)が宇宙分 野となっている。宇宙分野の従業員数は8,400 名である。 宇宙分野の推移としては、ドイツの東西再 統一が行われた1990年から数年間は売上、従 業員数、共に微減であったが、その後増加傾 向とのこと。 ちなみに、我が国の宇宙分野の2012年度の 売上は、 3,160億円、従業員数は8,180名であり、 ドイツの宇宙分野の規模とほぼ同じである。 ドイツも我が国も、宇宙全分野(衛星では通 信・放送、地球観測、惑星探査等、ロケット ではドイツはAriane-5に参画)での技術力を 有している。既に日独企業間での輸出入取引 はあるが、情報交換を密にし、一層の協力関 係を進めてゆきたいとの提案があった。 (一社)日本航空宇宙工業会は、5月20日から5月23日まで、ILA-2014(ドイツ・ベル リン国際航空宇宙展)に参加し、宇宙分野での国際交流・情報収集を実施した。以下、 その活動概要を報告する。 ILA-2014(ベルリン国際航空宇宙展)報告 左:BDLI部長Berndes氏、中央:秦常務理事、右:BDLI専務理事Schrick氏

ILA-2014(ベルリン国際航空宇宙展)報告 · ちなみに、我が国の宇宙分野の2012年度の 売上は、3,160億円、従業員数は8,180名であり、 ドイツの宇宙分野の規模とほぼ同じである。

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平成26年7月  第727号

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1.宇宙分野における国際交流1.1 BDLIとの交流

ILA-2014開催前日の5月19日、ベルリン中心部のBDLI(Bundesverband der Deutschen Luft- und Raumfahrtindustrie:ドイツ航空宇宙工業会)事務所を訪問した。専務理事Dietmar Schrick氏に対応いただき、ドイツと日本の類似点を改めて認識した。ドイツ航空宇宙工業会は1909年設立、2013

年の会員数は215社、関係従業員数は105,500名、売上€30.6Bである。売上の内訳は70%がCivil Aviation、22%がDefense & Seculity、8%の€2.4B(=3,360億円@1€=140円)が宇宙分野となっている。宇宙分野の従業員数は8,400

名である。宇宙分野の推移としては、ドイツの東西再統一が行われた1990年から数年間は売上、従業員数、共に微減であったが、その後増加傾向とのこと。ちなみに、我が国の宇宙分野の2012年度の売上は、3,160億円、従業員数は8,180名であり、ドイツの宇宙分野の規模とほぼ同じである。ドイツも我が国も、宇宙全分野(衛星では通信・放送、地球観測、惑星探査等、ロケットではドイツはAriane-5に参画)での技術力を有している。既に日独企業間での輸出入取引はあるが、情報交換を密にし、一層の協力関係を進めてゆきたいとの提案があった。

(一社)日本航空宇宙工業会は、5月20日から5月23日まで、ILA-2014(ドイツ・ベルリン国際航空宇宙展)に参加し、宇宙分野での国際交流・情報収集を実施した。以下、その活動概要を報告する。

ILA-2014(ベルリン国際航空宇宙展)報告

左:BDLI部長Berndes氏、中央:秦常務理事、右:BDLI専務理事Schrick氏

トピックス

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1.2 DLRとの交流5月22日、ILA-2014の会場でDLR(Deutsches

Zentrum für Luft- und Raumfahrt:ドイツ航空宇宙センター)の宇宙担当の理事Gerd Gruppe氏との会談を行った。DLRは日本のJAXA(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)と宇宙機関同士の対話・協力を以前より行ってきたが、

今後は海外の宇宙産業・企業とも対話・協力を進めてゆきたいとの事。6月にはDLRはドイツの企業団(Airbus Defense & Space社、OHB社等の合計6社)と日本を訪問する予定であり、日本企業との懇談会のアレンジを依頼された。

左から4人目の日の丸保有:DLR理事Gruppe氏、右隣のドイツ国旗保有:秦常務理事

BDLI専務理事Schrick氏 当工業会 秦常務理事

1.3 Japan Space Industry Workshop5月22日、ILA-2014のConference会場で、

Japan Space Industry Work Shopを開催した。BDLIのSchrick専務理事にWorkshop開催歓迎の挨拶を頂き、日本の宇宙産業全体紹介を当工業会の秦常務理事が行った。また、㈱IHI殿、日本電気㈱殿にも参加して頂き、各社の宇宙事業の紹介を行った。当WorkshopはILAでは

初めての日本主催のWorkshopであったが、欧州、南米等から約40名の参加があり、主催者側より今後とも参加を歓迎するとの意向が伝えられた。

Workshop後には、海外聴講者から個別企業への問い合わせなどもあり、情報発信の有効な機会となった。

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1.4 チェコ宇宙産業連盟ILA-2014のSJACブースに、チェコ宇宙産業連盟の会長Peter Bares氏の訪問を受けた。Bares氏は昨年5月に来日し、内閣府・宇宙戦

略室、経産省・宇宙産業室を含めてチェコ宇宙産業をPRしており、日本の宇宙産業界との連携を希望している。今後、日本企業団のチェコ訪問を期待するとの事であった。

2.ILA-2014 Berlin Air Show2.1 全体概要

ILAは1909年にフランクフルトで開催されたInternationale Luft Ausstellung(国際航空展示会)を第1回(主な出展は飛行船)とし、その後宇宙分野が加わり、Internationale Luft

und Raumfaht Ausstellung となった。現在は主に略称ILA(日本語発音で「イラ」)を使用している。

ILAは、隔年(偶数年)に開催されており、仏パリ・エアショウ、英ファンボロー・エアショウに次ぐ規模となっている。

NEC 坂上部長IHI 木元部長

左:チェコ宇宙産業連盟Bares会長、右:当工業会 秦常務理事

エアショウ パリ(奇数年)2013年6月実績

ファンボロー(偶数年)2012年7月実績

ベルリン(偶数年)2014年5月実績

来場者(トレード) 139,000人 107,000人 120,000人来場者(一般) 170,000人 100,000人 107,000人来場者・合計 309,000人 207,000人 227,000人出展社 2,215社 1,506社(39ヵ国) 1,203社(40ヵ国)

トピックス

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ILA開催会場は、ベルリン市街中心部から南南東に約20㎞離れたシューネフェルト空港に隣接する建設中の新空港(新空港名はBerlin Brandenburg Airportで、2016年以降に開港予定)を使用して行われた。新空港のTaxi Wayで航空機の地上展示が行われ、隣接する常設の展示建屋で屋内展示が行われた。ベルリン市街から会場へのアクセスは、S

バーンと呼ばれる鉄道(エアポートエクスプレスで約25分)とシャトルバス(10分弱)を乗り継ぐこととなる。

ILA-2014における航空機の展示は、飛行展示、地上展示を合わせて約300機で、ドイツ軍の多くのバックアップを受けている。トルコ(トルコ航空、トルコ空軍)はパートナー国として数多く参加しており、ドイツに駐留する米軍も参加している。

Airbus社はA380-800(エミレーツ航空)、A350 XWB(カタール航空向け)、A400M(フランス空軍)を展示、Boeing社はB747-8(ルフトハンザ航空)を展示し、室内見学を受け入れる旅客機もあり、長い行列が出来ていた。

ILA展示会場建屋と屋外展示状況©ILA航空機の地上展示©ILA:トルコ空軍機等

手前:A380-800と奥側:B747-8

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ロシアの世界最大の輸送機アントノフAn-124(ボルガ・ドニエプル航空)の広い貨物室にも多くの人が足を運んでいた。

アントノフAn-124輸送機

屋内展示では、航空機エンジン、航空機部品関係の企業展示が行われているのは勿論、ミサイル、無人機関係の展示も多かった。日本からは、東京都の中小企業体(アマテ

ラス:精密機械加工と特殊加工を得意とする東京地区の航空宇宙部品製造企業連合)と、新潟市(Sky Project)が出展しており、技術力をPRしていた。当工業会と東京ビッグサイトは、共同でJA2016の広報を目的とした小規模ブース出展を行った。

2.2 宇宙展示の概要宇宙展示は主にHall-4のSpace Pavilionで行

われていた。ESA(European Space Agency:欧州宇宙機関)の展示では、欧州の実施している各種の宇宙活動が紹介されていた。5月20日の開会当日には、ドイツのメルケル首相が宇宙展示館を訪問し、ESA長官のDordain氏より説明を受けたとの事。また、このILA-2014の機会を生かし、ESA長官、NASA長官、DLR長官の参加する会議・パネルディスカッションが開催された。

NASAの開発プロジェクトであるMPCV(Multi-Purpose Crew Vehicle:次期多目的宇宙

MPCV-ESM:有人宇宙船のサービスモジュールの前でESA長官Dordain氏(右)より説明を受けるメルケル首相(中央)とNASA長官Bolden氏(左)©ESA

トピックス

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船)にESAはESM(European Service Module:電力、推力を供給)を開発して協力する計画である。このESMは、欧州のATV(Automated Transfer Vehicle: ISSへの無人の物資補給機)の技術で開発される予定である。

DLRの展示部分も広く、再使用型宇宙船(コンセプト)の模型展示、前進翼機の模型展示などが行われていた。連携する宇宙機関であ

る仏CNES、日本JAXAも、DLRのブースの一部を間借りする形で業務紹介を行っていた。ドイツ企業・機関では、OHB(衛星製造メーカ)、フラウンフォーファー研究所も広く展示していた。外国では、ロシア宇宙庁(ROSCOSMOS)

とロシア企業群が広いスペースで各種の衛星、宇宙船及びロケットの展示を行っていた。

ESA:Space Pavilionのシンボル球体 左:ESMと右:ATV

DLR・再使用型宇宙船 DLR・前進翼機

CNES展示 JAXA展示

平成26年7月  第727号

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その隣に小さくウクライナ企業の展示があった。

ILAは欧州としては、パリ、ファンボローに次ぐ3番目の規模の展示会として位置付けられているが、ドイツ国内の中小企業を中心とした専用ホールを設けるなど、他とは異なる特色を出している。宇宙関係も重点的に扱っていることから今後、我が国の宇宙関係

企業も何らかの形で参加する価値は十分にあると思われる。

最後になりましたが、ブース出展、ワークショップ開催、DLRとの会談などの調整にご尽力いただきましたメッセ・ベルリン(ILA主催社)日本代表部の久保田弥生代表に御礼申し上げます。

ロシア・ソユーズ宇宙船 ロシア・United Rocket and Space Corporation

ロシア・測位衛星:GLONASS ウクライナ・ユズノマッシュ社

〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部(宇宙担当)部長 宇治 勝〕