10
コンクリート構造物の品質確保のためのデータベースシステムの 構築とその活用に関する研究 山口大学大学院理工学研究科 環境共生系専攻 教 授 中村 秀明 山口県土木建築部 技術管理課 主 査 仙石 克洋 山口県土木建築部 技術管理課 主 任 西富 一平 山口県土木建築部 道路建設課 主 任 芳西 孝行 山口県土木建築部 技術管理課 主 任 安藤 義樹 1.はじめに 山口県では、平成 19 年度から産官学協働で「コンクリート構造物ひび割れ抑制システム」 (ひび割れ抑制システム) 1) を運用しており、相当数の施工記録データが蓄積されている。施 工記録データは Excel 形式のデータベースで広く公開されているが、将来的にデータが増えて くると Excel 形式では管理が難しくなる。 そこで、本活動では、リレーショナル形式のデータベースシステムとして再構築を行うとと もに、データの活用や分析方法について検討を行う。 2.新たなデータベースシステムの構築 2.1 概要 図-1 に示すように、施工記録データは設計や施工、維持管理の各場面で有効に活用する必 要がある。施工記録のデータベース化は手段であり、コンクリートのひび割れを抑制し、品質 を確保するといった目的に沿って活用されなければ意味が無い。目的を明確に持ち、そのため に必要なデータを収集し、分析、活用していくステップが必要となる。分析された「知見」を もとに、意志決定やアクションを起こし、目的を達成した時点で「データが活用できた」こと になる。 図-1 データベースの活用 【設計委託】 山口県 【設計業務】 コンサルタント 設計 【発注・監理】 山口県 【施工】 建設会社 【材料】 生コン製造者等 施工 データ整理 データ分析 ひび割れ 対策協議 データ 参照 【対策資料・ 規準の改訂】 山口県 打設管理記録の提出 既設工事の記録参照 【データ整理・分析・ 情報提供】 山口県建設 技術センター 徳山高専 山口大学 参照 参照 根拠

J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

コンクリート構造物の品質確保のためのデータベースシステムの

構築とその活用に関する研究

山口大学大学院理工学研究科 環境共生系専攻 教 授 中村 秀明

山口県土木建築部 技術管理課 主 査 仙石 克洋

山口県土木建築部 技術管理課 主 任 西富 一平

山口県土木建築部 道路建設課 主 任 芳西 孝行

山口県土木建築部 技術管理課 主 任 安藤 義樹

1.はじめに

山口県では、平成 19 年度から産官学協働で「コンクリート構造物ひび割れ抑制システム」

(ひび割れ抑制システム)1)を運用しており、相当数の施工記録データが蓄積されている。施

工記録データは Excel 形式のデータベースで広く公開されているが、将来的にデータが増えて

くると Excel 形式では管理が難しくなる。

そこで、本活動では、リレーショナル形式のデータベースシステムとして再構築を行うとと

もに、データの活用や分析方法について検討を行う。

2.新たなデータベースシステムの構築

2.1 概要

図-1 に示すように、施工記録データは設計や施工、維持管理の各場面で有効に活用する必

要がある。施工記録のデータベース化は手段であり、コンクリートのひび割れを抑制し、品質

を確保するといった目的に沿って活用されなければ意味が無い。目的を明確に持ち、そのため

に必要なデータを収集し、分析、活用していくステップが必要となる。分析された「知見」を

もとに、意志決定やアクションを起こし、目的を達成した時点で「データが活用できた」こと

になる。

図-1 データベースの活用

【設計委託】山口県

【設計業務】コンサルタント

設計

【発注・監理】山口県

【施工】建設会社

【材料】生コン製造者等

施工

ひび割れ抑制

対策資料

データ整理データ分析

ひび割れ対策協議

データ参照

【対策資料・規準の改訂】山口県

打設管理記録の提出

既設工事の記録参照

【データ整理・分析・情報提供】山口県建設技術センター徳山高専山口大学

参照

参照 根拠

Page 2: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

山口県で構築されている施工記録データベースは、単にデータを収集しているだけではなく、

データが分析され、ひび割れ抑制や品質確保に役立つ知見が公表されている 2),3)。さらに入力

する受注者は、温度ひび割れの照査の方法として「既往の施工実績による照査」ができるよう

に、データが広く公開 1)されており、山口県での取り組みを想定し、土木学会のコンクリ-ト

標準示方書 2012 年版[設計編]4)では、温度ひび割れの照査の方法として既往の施工実績による

照査が盛り込まれた。

平成 27 年 7 月末現在山口県の施工記録データベースには、1,270 件のデータが格納されてい

るが、上記のことを更に進めるためには、山口県の施工記録データベースをさらにブラシュア

ップし、全国レベルのデータの収集が必要である。データの収集では、データ項目が重要であ

るが、データ項目は自治体や事業者等により異なっていることが考えられ、また将来的に追加

や削除などが行われる可能性がある。従来のデータベースでは、これらに柔軟に対応できない。

一般的なリレーショナルデータベースでは、必要なデータ項目をあらかじめ全て準備する必要

があり、想定されていないデータ項目を新たに追加するにはデータベースの設計変更を行う必

要があり、容易には行えない。そこで、本活動では、データ項目のテーブルを柔軟に変更でき

るよう、テーブル作成のためのプログラムを新たに構築した。

2.2 従来のデータベースとの相違

データベースは、データを集めて管理し、データの検索や抽出が容易に行えるシステムであ

る。データベースソフトとしては、Oracle、MySQL、PostgreSQL などが有名であり、データ

ベースは SQL というデータベース言語(問い合わせ言語)によって操作される。しかしなが

ら、SQL によるデータ入力は、初心者にはハードルが高く、操作が厄介である。Microsoft 社

の Excel には、データベース機能があり、データの管理、整理、検索、抽出が行えるだけでは

なく、多角的なデータ解析なども行える。そのため、山口県の施工記録データベースは、Excel

をベースにデータベースが構築されている。Excel とデータベースソフトとの関係は、自宅の

本棚(Excel)と図書館(データベースソフト)をイメージすると良くわかる。自宅の本は多

くても数百冊なので一人で管理できるが、図書館は本が多いため、管理するには専門の司書が

必要で、司書が本の整理や保存、閲覧などの業務を行う。読みたい本があれば、利用者は司書

に問い合わせだけを行えば良いので、非常に楽で、効率的に本を捜したり、返却したりするこ

とができる。現在の山口県の施工記録データベースは、データ件数が 1,270 件程度で、データ

項目も多くないため、専用のデータベースソフトを使うまでもなく、Excel で十分に運用可能

である。しかしながら、将来的にデータが増えてくると Excel では管理が難しくなる。

2.3 リレーショナルデータベースの構築

リレーショナルデータベースでは、各データは 2 次元の表(テーブル)によって表現され、

複数の表のデータを関連付けることで、すべてのデータをひとつの巨大なデータベースとして

活用している。現在では多くのデータベースシステムが、このリレーショナル型を採用してい

る。山口県の施工記録データベースもリレーショナル型となっている。リレーショナルデータ

Page 3: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

ベースでは、必要なデータ項目をあらかじめ全て準備する必要があり、想定されていないデー

タ項目を新たに追加するにはデータベースの設計変更を行う必要があり、容易には行えない。

山口県の施工記録は、データ項目が予め全てわかっており、データ項目の追加や削除はないの

で、リレーショナルデータベースでも特に問題は生じないが、他の機関では、それぞれのアプ

リケーションやシステムで情報を管理しており、それぞれ独自にデータ項目を定義しているの

で、他の機関のデータとともに、統一的に扱うには問題が生じる。

本活動では、図-2 に示すように、PHP と MySQL を使って Web 上から操作できるデータベ

ースの構築を行った。データベースのテーブルは、基本情報テーブルとコンクリートテーブル

から構成されており、そのテーブル構造を表-1および表-2に示す。

図-2 リレーショナルデータベースの構築

表-1 基本情報テーブル

Data base

(MySQL)

リクエスト Web Server

PHP

Web Browser

レスポンス(動的なHTML)

リレーショナルデータベース

項目名 シンボル名 データ型 桁数 主キー Not Null 内容1 リフトID liftID int(6) 6 ○ ○ リフトを識別するための固有の番号2 整理番号 referenceNumber char(12) 12 ○ PDFファイルの識別名3 登録日 registrationDate date 8 ○ 登録年月日4 修正日 modyficationDate date 8 修正年月日5 公開か非公開か publicID int(1) 1 非公開:06 都道府県コード prefectureID int(2) 2 構造物の存在する都道府県7 市町村コード cityID int(6) 6 市町村コード8 事務所名 office varchar 50 管理事務所9 発注者コード organizationID int(8) 8 工事を発注した組織名(事務所名)

10 請負者 contractor varchar 50 受注者名(請負者名)11 路線・河川・地区等 route varchar 50 路線・河川・地区等12 工事名 cons_Name varchar 100 工事の名称13 施工場所 cons_Location varchar 50 施工場所14 緯度 cons_Latitude float(10,6) 10 緯度(百分率表記)15 経度 cons_Longitude float(10,6) 10 経度(百分率表記)16 構造物名1 structure_Name1 varchar 50 構造物名(場所)17 構造物名2 structure_Name2 varchar 50 構造物名(構造物)18 構造形式 structure_Form varchar 20 構造物の形式19 構造物種類 structure_Type varchar 20 構造物の種類20 打込み部位 structure_Part varchar 20 打込み部位21 打込み時期 placingMonth int(2) 2 打込み時期(月)22 工期(開始) cons_Start date 8 工事の開始日23 工期(終了) cons_End date 8 工事の終了日24 リフト高 lift_Height float(7,3) 7 リフト高さ25 厚さ structure_Height float(7,3) 7 厚さ(m)26 長さ(幅) structure_Width float(7,3) 7 長さ(m)27 実際のリフト高 lift_HeightReal float(7,3) 7 実際のリフト高さ28 誘発目地間隔 jointInterval float(3,1) 3 誘発目地の間隔(m)29 補強材料 reinforceBarType varchar 20 補強鉄筋のタイプ30 鉄筋比(実施時) steelRatio float(4,2) 4 実施時の鉄筋比31 鉄筋比(発注時) steelRatio0 float(4,2) 4 発注時の鉄筋比32 最大ひび割れ幅 maxCrackWidth float(4,2) 4 最大ひび割れ幅(mm)33 打継間隔 placingInterval float(5,2) 5 打ち継ぎ間隔(日)34 打設日 placingDate date 8 打設日35 天気 wether varchar 20 天気36 打設開始時間 placingStart time 6 打設開始時間37 打設終了時間 placingEnd time 6 打設終了時間38 打設量 amount int(4) 4 打設量

Page 4: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

表-1 中の赤い網掛けは、現在の施工記録データベース中のデータ項目には存在しない項目

である。表中の 6,7,9 の項目は将来的に他の機関のデータを扱う際に必要となる項目である。

また、14,15の項目は構造物の位置を表す項目で地理情報システムとの連携や位置によるデー

タ参照の際に必要となる項目である。また、23 の後期(終了)は、現在の施工記録データベ

ースでは工期(開始)と同じ項目にテキストデータとして格納されているが、それを日付デー

タとして扱う場合に分離したものである。

表-2 コンクリート情報テーブル

項目名 シンボル名 データ型 桁数 主キー 必須 内容1 リフトID liftID int(6) 6 ○ ○ リフトを識別するための固有の番号2 呼び強度 strength int(2) 2 呼び強度(N/mm2)3 スランプ slump float(3,1) 3 スランプ(cm)4 骨材最大寸法 maxAggregate int(2) 2 骨材の最大寸法(mm)5 セメント種類 cementType varchar 20 セメントの種類6 水セメント比 wc int(2) 2 水セメント比(%)7 単位セメント量 unitCement int(3) 3 単位セメント量8 混和剤 chemicalAdmixture varchar 20 混和剤の種類9 混和材 mineralAdmixture varchar 20 混和材の種類

10 補強材料 reinforcingMaterial varchar 20 補強材の種類11 生コン工場 plant varchar 30 生コン工場12 セメント会社 cementCompany varchar 30 セメント製造会社名13 スランプ許容値 limitSlump varchar 20 スランプの許容値(cm)14 空気量許容値 limitAirContent varchar 20 空気量の許容値(%)15 塩化物総量許容値 limitChloride varchar 20 塩化物総量の許容値(kg/m3)16 スランプ slump000 float(3,1) 3 打込み開始時のスランプ(cm)17 空気量 airContent000 float(3,1) 3 打込み開始時の空気量(%)18 コンクリート温度 concreteTemp000 float(4,1) 4 打込み開始時のコンクリート温度(℃)19 打込み時外気温 ambientTemp000 float(4,1) 4 打込み開始時の外気温(℃)20 塩化物総量 chloride000 float(5,3) 5 打込み開始時の塩化物総量(kg/m3)21 7日強度 strength07000 float(4,1) 4 打込み開始時の7日強度(N/mm2)22 28日強度 strength28000 float(4,1) 4 打込み開始時の28日強度(N/mm2)23 スランプ slump150 float(3,1) 3 150m3打込み時または午後のスランプ(cm)24 空気量 airContent150 float(3,1) 3 150m3打込み時または午後の空気量(%)25 コンクリート温度 concreteTemp150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後のコンクリート温度(℃)26 打込み時外気温 ambientTemp150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の外気温(℃)27 塩化物総量 chloride150 float(5,3) 5 150m3打込み時または午後の塩化物総量(kg/m3)28 7日強度 strength07150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の7日強度(N/mm2)29 28日強度 strength28150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の28日強度(N/mm2)30 スランプ slump300 float(3,1) 3 300m3打込み時または午後のスランプ(cm)31 空気量 airContent300 float(3,1) 3 300m3打込み時または午後の空気量(%)32 コンクリート温度 concreteTemp300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後のコンクリート温度(℃)33 打込み時外気温 ambientTemp300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の外気温(℃)34 塩化物総量 chloride300 float(5,3) 5 300m3打込み時または午後の塩化物総量(kg/m3)35 7日強度 strength07300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の7日強度(N/mm2)36 28日強度 strength28300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の28日強度(N/mm2)37 運搬時間 transportTime int(3) 3 現場までの運搬時間(分)38 待機時間 waitingTime int(3) 3 現場での待機時間(分)39 打込み時間 placingTime int(3) 3 打込み時間(分/台)40 ポンプ車台数 pumpCar int(1) 1 ポンプ車台数41 バイブレータ台数 numberOfVibrators int(2) 2 バイブレータ台数42 バイブレータ予備 reserveVibrator int(1) 1 予備のバイブレータ台数43 ホース筒先人数 nozzleMan int(2) 2 ホース筒先の人数44 バイブレータ人数 vibratorMan int(2) 2 バイブレータ人数45 打込み速度 placingVelocity float(4,2) 4 打込み速度(m/h)46 脱枠日 removalDay date 8 脱枠日(年月日)47 存置期間 maintainPeriod int(3) 3 型枠存置期間(日)48 養生方法(型枠面) curingSide varchar 30 型枠面の養生方法49 養生方法(打込み面) curingTop varchar 30 打込み面の養生方法50 養生(湿潤)期間 curingPeriod int(3) 3 養生期間(日)51 初期温度 initialTemp float(4,1) 4 コンクリートの初期温度(℃)52 最高温度 maxTemp float(4,1) 4 コンクリートの最高温度(℃)53 温度上昇量 riseTemp float(4,1) 4 コンクリートの温度上昇量(℃)54 最高温度に達した時間 maxTime float(4,1) 4 最高温度に達した時間(○○時間後)

Page 5: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

2.4 現存データベースとの共存

公開するデータベース自体は PHP と MySQL を使ったリレーショナルデータベースで構築

するが、データベースの格納する前のデータ管理は Excel で行った方がスムーズである。施工

記録データベースシステムにおける記録作成・収集整理の流れを図-3 に示すが、このシステ

ムでは、請負業者が直接データベースに必要事項を入力することは行っていない。請負業者は

データを作成した後、発注者にデータを引き渡し、発注者はそのデータをチェックし、不備が

あれば請負業者に問い合わせを行い、最終的には施工記録データは、山口県建設技術センター

に集められ、センターの方でデータベースにアップロードする。このようにすることで、デー

タの質の担保と、関係する請負業者や発注者の技術力の向上を図っている。

図-3 記録作成・収集整理の流れ

データ入力を効率化することは可能であるが、効率化することによって技術力の向上やデー

タの質の担保が行えなくなる恐れがある。品質の低いデータが混入するとデータ分析などが正

確に行えなくなる。Excel は手軽にデータの管理ができるので、データベースに格納する前の

データ管理は Excel で行えるようにしている。

現在の山口県の施工記録シートの一部を図-4 に示す。これらのデータをもとに図-5 のよう

に Excel 形式で管理されている。本活動では、図-4の施工記録データが最小限の修正で、ほぼ

そのまま活用出来るようにシステムの構築を行った。

表-3 に施工記録データに格納されているデータ項目の一覧を示す。表中の赤い網掛けは現

在のデータ項目には存在しないため、追加が必要なデータ項目である。基本的にはこれらの表

にあるデータ項目が「基本情報テーブル」「コンクリート情報テーブル」に格納される。

Page 6: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

図-3 施工記録シートの一例

図-4 施工記録データ

記録シート①

○基本情報

工区

緯度 経度

○構造 ○ひび割れ抑制対策

補強鉄筋

D19 @125

1 段

○寸法

2.20 m 0.11 %

10.10 m 0.30 %

○配筋 m

前面 D29 @125 kg/m3

背面 D29 @125

前面 D19 @125

背面 D19 @125

誘発目地間隔

膨張材

タイプA

タイプA段数

鉄筋比(発注時)

鉄筋比(実施)

備考

配力筋

長さ(幅)

打込み部位 たて壁

厚さ

設計純かぶり 4cm以上

その他の対策

主鉄筋

136度55分42秒34度42分22秒

配筋状況(タイプB)

配筋状況(タイプA)

橋台

RC構造

道路改良工事工事名

工期

構造物種類

構造形式

打込みリフト図

施工場所

構造物詳細

構造物名 ○○橋

第2リフトリフト名A1橋台

リフト図

受注者 ○○建設(株)発注者(事務所名) 山口土木建築事務所

1

H18.4.1 H19.3.31路線・河川・地区等 山口宇部線

正面図 側面図

サンプル

リフト毎に記入

構造物の場所を

緯度経度で記入

鉄筋のタイプを選択

1段、2段等

を記入

誘発目地を

設置した場

合は、その

間隔を記入

膨張材を使用し

た場合に記入その他の対策の

具体名を記入

鉄筋径・ピッチを

選択または記入

記録シート②

○基本情報

工区

○コンクリート

27 N/mm2 8 cm 20 mm

55 % 300 kg/m3

cm cm cm

% % %

kg/m3 kg/m3 kg/m3 0.30 kg/m3以下

℃ ℃ ℃

℃ ℃ ℃

N/mm2 N/mm2 N/mm2

N/mm2 N/mm2 N/mm2

○運搬・打込み・締固め

20 分 0 分 20 分/台

m 1 台

3.0 m 70.0 m3 1.0 m/h

3 台 4 人 1 台

1 人

○コンクリート温度履歴

24.0 ℃ 48.0 ℃ 24.0 ℃

30 時間後

○養生

11 日

7 日

コンクリート打込み管理表

山口宇部線 工期路線・河川・地区等 H18.4.1 H19.3.31

工事名 道路改良工事

○○セメント(株)

○○橋構造物名

高炉B種

第2リフトA1橋台 リフト名

材料・配合

1

打込み開始時

スランプ

9.0

AE減水剤

150m3打込み時又は午後

8±2.5cm

骨材最大寸法

---

2006年5月25日

単位セメント量

セメント会社

---

塩化物イオン量

コンクリート温度

打込み時外気温

0.03

空気量

7日強度

24.0

300m3打込み時

---

混和材

---

セメント種類

混和剤

生コン工場

型枠種類

現場までの運搬時間

28日強度

5.5品質管理試験

試料採取時期

スランプ

天気 2006年5月10日下側リフト打込み日

構造物詳細

打込み日

22.0

19.0

31.0

呼び強度

水セメント比

---

4.5±1.5%

---

---

下側リフト打継目処理 処理剤(○○)

--- ---

---

曇りのち晴

荷卸し時間現場待機時間

11:00

ポンプ車台数

試験許容値

---

---

---

---

---

ポンプ(配管なし)

残置期間2006年6月5日

打込み量

終了時刻

バイブレータ人数

最高温度

ホース筒先

最高温度に到達した時間

初期温度 温度上昇量

開始時刻 8:10

脱枠日

養生方法

養生(湿潤状態)期間

型枠面

打込み面

型枠+ブルーシート

養生マット+ブルーシート+散水

塗装合板

締固め

打込み速度

バイブレータ予備

現場内運搬方法運搬

バイブレータ台数

打込みリフト高

ポンプ圧送距離

サンプル

塗装合板、無塗装合板、鋼製型枠等を記入

「ポンプ(配管あり)」の場合記入

処理剤(名称)、凝結遅延剤+高圧洗浄、チッピング等を記入

Page 7: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

表-3 施工記録データベースのデータ項目

リフト番号(通し番号) 0 A 0 A 1 liftID 1 liftID都道府県コード 1 B 6 prefectureID市町村コード 2 C 7 cityID発注者コード 3 D 9 organizationID事務所 1 B 4 E 8 office箇所 2 C 5 F 16 structure_Name1構造物 3 D 6 G 17 structure_Name2打設時期 4 E 7 H 21 placingMonth種類 5 F 8 I 18 structure_Form構造物 6 G 9 J 19 structure_Type部位 7 H 10 K 20 structure_Partリフト高 8 I 11 L 24 lift_Height厚さ 9 J 12 M 25 structure_Height幅(長さ) 10 K 13 N 26 structure_Width誘発目地間隔 11 L 14 O 27 jointIntervalセメント種類 12 M 15 P混和剤 13 N 16 Q混和材 14 O 17 R補強材料 15 P 18 S 28 reinforceBarType実施 16 Q 19 T 29 steelRatio補強検討前 17 R 20 U 30 steelRatio0試験強度 18 S 21 V打設温度 19 T 22 W最高温度 20 U 23 X最大ひび割れ幅 21 V 24 Y 31 maxCrackWidth打設間隔 22 W 25 Z 32 placingInterval整理番号 23 X 26 AA 2 referenceNumberHP掲載年月 24 Y 27 AB 3 registrationDateデータ修正年月 25 Z 28 AC 4 modyficationDate公開か非公開か 29 AD 5 publicID公表件数 26 AA 30 AE誘発目地による抑制件数 27 AB 31 AF材料による抑制件数 28 AC 32 AG抑制対策件数 29 AD 33 AHH22未抑制対策件数 30 AE 34 AI路線・河川 31 AF 35 AJ 11 route工事名 32 AG 36 AK 12 cons_Name施工箇所 33 AH 37 AL 13 cons_Location緯度 38 AM 14 cons_Latitude経度 39 AN 15 cons_Longitude請負者 34 AI 40 AO 10 contractor工期(開始) 35 AJ 41 AP 22 cons_Start工期(終了) 42 AQ 23 cons_End打設日 36 AK 43 AR 33 placingDate天気 37 AL 44 AS 34 wetherリフト高 38 AM 45 AT 24 lift_HeightReal文字(m) 39 AN 46 AU打設開始時間 40 AO 47 AV 35 placingStart打設終了時間 41 AP 48 AW 36 placingEnd打設量 42 AQ 49 AX 37 amount文字(m^2) 43 AR 50 AY呼び強度 44 AS 51 AZ 2 strength文字(N/mm^2) 45 AT 52 BAスランプ 46 AU 53 BB 3 slump文字(cm) 47 AV 54 BC骨材最大寸法 48 AW 55 BD 4 maxAggregate文字(mm) 49 AX 56 BEセメント種類 50 AY 57 BF 5 cementType水セメント比 51 AZ 58 BG 6 wc文字(%) 52 BA 59 BH単位セメント量 53 BB 60 BI 7 unitCement文字(kg/m^2) 54 BC 61 BJ混和剤 55 BD 62 BK 8 chemicalAdmixture混和材 56 BE 63 BL 9 mineralAdmixture補強材料 57 BF 64 BM 10 reinforcingMaterial生コン工場 58 BG 65 BN 11 plantセメント会社 59 BH 66 BO 12 cementCompanyスランプ 60 BI 67 BP 13 limitSlump文字(cm) 61 BJ 68 BQ空気量 62 BK 69 BR 14 limitAirContent文字(%) 63 BL 70 BS塩化物総量 64 BM 71 BT 15 limitChloride文字(kg/m^3以下) 65 BN 72 BU

コンクリート情報現在の

データ項目提案するデータ項目

基本情報

許容値

寸法

材料

鉄筋比

コンクリート

カウント用

コンクリート

構造物名

構造

Page 8: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

表-3 施工記録データベースのデータ項目(つづき)

スランプ 66 BO 73 BV 16 slump000文字(cm) 67 BP 74 BW空気量 68 BQ 75 BX 17 airContent000文字(%) 69 BR 76 BYコンクリート温度 70 BS 77 BZ 18 concreteTemp000文字(℃) 71 BT 78 CA打設時外気温 72 BU 79 CB 19 ambientTemp000文字(℃) 73 BV 80 CC塩化物総量 74 BW 81 CD 20 chloride000文字(kg/m^3以下) 75 BX 82 CE7日強度 76 BY 83 CF 21 strength07000文字(N/mm^2) 77 BZ 84 CG28日強度 78 CA 85 CH 22 strength28000文字(N/mm^2) 79 CB 86 CIスランプ 80 CC 87 CJ 23 slump150文字(cm) 81 CD 88 CK空気量 82 CE 89 CL 24 airContent150文字(%) 83 CF 90 CMコンクリート温度 84 CG 91 CN 25 concreteTemp150文字(℃) 85 CH 92 CO打設時外気温 86 CI 93 CP 26 ambientTemp150文字(℃) 87 CJ 94 CQ塩化物総量 88 CK 95 CR 27 chloride150文字(kg/m^3以下) 89 CL 96 CS7日強度 90 CM 97 CT 28 strength07150文字(N/mm^2) 91 CN 98 CU28日強度 92 CO 99 CV 29 strength28150文字(N/mm^2) 93 CP 100 CWスランプ 94 CQ 101 CX 30 slump300文字(cm) 95 CR 102 CY空気量 96 CS 103 CZ 31 airContent300文字(%) 97 CT 104 DAコンクリート温度 98 CU 105 DB 32 concreteTemp300文字(℃) 99 CV 106 DC打設時外気温 100 CW 107 DD 33 ambientTemp300文字(℃) 101 CX 108 DE塩化物総量 102 CY 109 DF 34 chloride300文字(kg/m^3以下) 103 CZ 110 DG7日強度 104 DA 111 DH 35 strength07300文字(N/mm^2) 105 DB 112 DI28日強度 106 DC 113 DJ 36 strength28300文字(N/mm^2) 107 DD 114 DK運搬時間 108 DE 115 DL 37 transportTime文字(分) 109 DF 116 DM現場待機時間 110 DG 117 DN 38 waitingTime文字(分) 111 DH 118 DO打込み時間 112 DI 119 DP 39 placingTime文字(分/台) 113 DJ 120 DQポンプ車台数 114 DK 121 DR 40 pumpCar文字(台) 115 DL 122 DSバイブレータ台数 116 DM 123 DT 41 numberOfVibrators文字(台) 117 DN 124 DUバイブレータ予備 118 DO 125 DV 42 reserveVibrator文字(台) 119 DP 126 DWホース筒先 120 DQ 127 DX 43 nozzleMan文字(人) 121 DR 128 DYバイブレータ人数 122 DS 129 DZ 44 vibratorMan文字(人) 123 DT 130 EA打設速度 124 DU 131 EB 45 placingVelocity文字(m/h) 125 DV 132 EC脱枠日 126 DW 133 ED 46 removalDay存置期間 127 DX 134 EE 47 maintainPeriod文字(日) 128 DY 135 EF型枠面 129 DZ 136 EG 48 curingSide打設面 130 EA 137 EH 49 curingTop養生(湿潤状況)期間 131 EB 138 EI 50 curingPeriod文字(日) 132 EC 139 EJ初期温度 133 ED 140 EK 51 initialTemp文字(℃) 134 EE 141 EL最高温度 135 EF 142 EM 52 maxTemp文字(℃) 136 EG 143 EN温度上昇量 137 EH 144 EO 53 riseTemp文字(℃) 138 EI 145 EP最高温度に到達した時間 139 EJ 146 EQ 54 maxTime文字(時間後) 140 EK 147 ER

コンクリート温度計測

300m^3打設時

打設前試験

圧縮試験

運搬状況

打設状況

養生状況養生方法

打設開始前

打設前試験

圧縮試験

150m^3打設時または午後

打設前試験

圧縮試験

Page 9: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

表中の「現在のデータ項目」の欄には現在のデータ項目とその項目番号、Excel ファイルで

の列記号が示されている。「提案するデータ項目」は、追加が必要なデータ項目を追加した場

合の項目番号、Excel ファイルでの列記号が示されている。

それぞれのデータは、項目は「基本情報テーブル」と「コンクリート情報テーブル」に格納

されるが、「基本情報」の欄と「コンクリート情報」の欄には、それぞれのテーブルに格納さ

れた場合の表-1、表-2に対応するシンボル名が書かれている。

山口県のExcel形式で整理された施工記録データを本活動で構築したデータベースに格納す

るには、CSV 形式で出力し、ヘッダとフッダ部分を削除すれば良い。その場合、現時点で Excel

形式のデータベースに修正が必要な項目を以下に整理する。

(1) 値が入力されていない箇所は「-」あるいは「---」という記号が入力されているが、デー

タ上は、文字が入力されていると扱われ、Null にはならない。そのため、「-」あるいは

「---」の箇所はブランクにする必要がある。

(2) 期間や記述を入力する項目は、Date 型のデータとして扱えるように、2015/07/31 などの形

式で記述する必要がある。

3.まとめと今後の予定

本活動では、山口県が作成した施工記録データベースと共存する形で運用できる新たなリレ

ーショナルデータベースシステムを PHP や MySQL を使って構築した。新たに構築したデー

タベースはデータ項目の追加や削除に柔軟に対応でき、他の機関での利用を考慮し、できるだ

けシンプルで拡張性を持たせたものにした。本活動で構築したデータベースの特徴を以下に示

す。

(1) PHP や MySQL などのオープンソースを活用しているため、システムの構築に費用が掛か

らない。

(2) データベースのテーブル構造の設定は PHP で作成されたプログラムから行うため、コー

ドを書き換えることで、データ項目の追加や削除に柔軟に対応できる。

(3) データベースへのデータ入力は、既存の Excel 形式での施工記録データを CSV 形式で出

力し、そのデータをデータベースに格納するため、既存の Excel 形式での施工記録データ

だけをきちんと管理しておけば良く、これまでの枠組みで行える。

(4) 他機関のデータに対しては、データ項目の対応だけを考えれば良く、必ずしも山口県の施

工記録データと同じ書式でなくても対応が可能である。

データベースへのデータの格納についてはほぼ完了したので、今後は、使い勝手の良い検索

画面の構築や、データの活用や分析方法についても検討を行う必要がある。

Page 10: J â - FC2hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/yamaguchi/material/...FÆ$Î @G % #. FÇ £ %4 FÆ d FÇ 0¿ &k FÆ q FÇ #ÕGAG 04* '¼ û SÓ SÔ m G D P 'Ç 2( q J â ¸ J Ì GG mG P'Ç

参考文献

1) 山口県土木建築部技術管理課、コンクリ-トのひび割れ抑制対策 HP 、

http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a18000/hibiware/hibiwareyokusei.html, 2013.8

2) 稲津貴和子、田村隆弘、澤村修司:山口県のコンクリート工事に関するデータベースを用

いたひび割れ幅に関する統計的評価、コンクリ-ト工学年次論文報告集、Vol.33, No.1,

pp.1337-1342, 2011.6.

3) 土木学会:コンクリートライブラリー138、2012 年制定コンクリート標準示方書改訂資料

基本原則編・設計編・施工編

4) 土木学会:2012 年制定 コンクリート標準示方書[設計編]