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Japan Advanced Institute of Science and Technology JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ Title Author(s) �, �; �, Citation �, 25: 576-579 Issue Date 2010-10-09 Type Conference Paper Text version publisher URL http://hdl.handle.net/10119/9363 Rights �This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management. Description

Japan Advanced Institute of Science and Technology · ョンへの投資ができない。 ... 3.クラウド・コンピューティング実現後におけるロングテール

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Page 1: Japan Advanced Institute of Science and Technology · ョンへの投資ができない。 ... 3.クラウド・コンピューティング実現後におけるロングテール

Japan Advanced Institute of Science and Technology

JAIST Repositoryhttps://dspace.jaist.ac.jp/

Titleサービスベースの統合型モデルによるイノベーション

の創出

Author(s) 城村, 麻理子; 鈴木, 浩

Citation 年次学術大会講演要旨集, 25: 576-579

Issue Date 2010-10-09

Type Conference Paper

Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/9363

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す

るものです。This material is posted here with

permission of the Japan Society for Science

Policy and Research Management.

Description 一般講演要旨

Page 2: Japan Advanced Institute of Science and Technology · ョンへの投資ができない。 ... 3.クラウド・コンピューティング実現後におけるロングテール

2D16

サービスベースの統合型モデルによるイノベーションの創出

○城村麻理子(東芝ソリューション)、鈴木浩(GEエナジー)

1.はじめに

ユーザの視点から新しい組み合わせのサービスの価値が生み出され、その新しいサービス価値はシミ

ュラークルの発想に基づくイノベーションのモデルとして説明できる。クラウドにおける SaaS のよう

な新しいサービスの創出もその一つの可能性と考える。SaaS は従来の製品ベースの統合型と異なり、技術

の成熟の結果より生み出されたサービスベースの統合型として、顧客価値による新しいビジネスが展開される。

今回、シミュラークルのモデルをベースに、サービスベースの統合型モデルによるイノベーションを

提案する。

2.サービスのロングテールモデル

まず、都市ガスや水道事業者、

あるいは自治体向けの事業者につ

いて考える。

人口規模の大きな地域をユーザ

とする大手事業者、例えば都市ガ

ス事業者の大手である東京ガスや

大阪ガスでは、独自のソリューシ

ョンへの投資額は大きく、また彼

らが大都市地域にサービス提供す

るための独自のカスタマイズ要求

は多い。

一方、人口規模の小さな地域をユーザとする中小・零細事業者は、大手ほど大きな規模でソリューシ

ョンへの投資ができない。そのため、安価な投資で利用できるような簡易型のソリューションを利用す

る場合が多い。

したがって、図 1に示すように都市ガスや水道事業者、あるいは自治体向けの事業者向けのサービス

では、一般的にロングテール理論に沿ったモデルが成り立つとされている。

3.クラウド・コンピューティング実現後におけるロングテール

次に、クラウド・コンピューティング実現後におけるモデルについて考える。

システムに対して独自のカスタマイズの要求が高いユーザは、従来のメインフレームによる基幹系シ

ステムや、ユーザ自身が開発したり、パッケージを利用したりして構築、運用するようなユーザ独自の

システム、つまり、scratch and build 型のシステムを求める場合が多い。これらは、これまでシステ

ムを提供するベンダ側が主流としてきた製品、または市場である。

一方、システムに対して独自の要求が低く、またシステムへの投資も低く抑えたいようなユーザは多

くいる。ベンダ側にとって、ユーザ単独では魅力的な市場として捉えづらかった領域である。かつての

主流派の製品や市場に焦点を合わせず、図 2に示す曲線のテールに移行して考えると小規模でニッチな

要求は多く存在し、システムについてもロングテール理論は成り立つと考える。

図 1 サービスのロングテール

人口規模

都市・町の種類

人口規模の大きな地域をユーザとする大手事業者

• カスタマイズ要求が多い• 独自のソリューションへ

の投資額が大きい

人口規模の小さな地域をユーザとする中小・零細事業者

• 安価な投資で利用できる簡易型ソリューションを利用する

人口規模

都市・町の種類

人口規模の大きな地域をユーザとする大手事業者

• カスタマイズ要求が多い• 独自のソリューションへ

の投資額が大きい

人口規模の小さな地域をユーザとする中小・零細事業者

• 安価な投資で利用できる簡易型ソリューションを利用する

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このようなニッチな要求が多く存在する市場に対して、SaaS や PaaS で提供されるソリューションが

適用しやすいと考える。SaaS や PaaS であれば効率的かつ短期間でシステムを構築することができ、ユ

ーザはニッチな要求を入手するためのコストが劇的に下げることができるからである。

図 2 クラウド・コンピューティング実現後におけるロングテール

4.ポストモダンにおけるシミュラークル

ここで、ポストモダンの考え方を適応したクラウド・コンピューティングのモデルについて述べる。

社会学におけるポストモダンの特徴のひとつは、二次創作、シミュラークルの存在であり、オリジナ

ルとコピーとの区別のつきにくい中間形態が支配的になる現象を示している。

従来、物語のシリーズにおける展開は物語消費といわれる構造を取っていたと説明され、連続する小

さな物語を見ているとその後ろに大きな物語(設定、世界観)が見えてくるような構造である(図 3)。

一方、シミュラークルに象徴される物語の展開は「小さな物語たち」と「大きな非物語」の二重構造

になっている。それぞれの小さな物語がモジュールに分解され、次の小さな物語はそのモジュールの新

しい組み合わせによって作られるという構造である。この小さな物語たちがシミュラークルである。大

きな非物語は設定の集積であり、物語性をもたない。また、モジュールの集合をデータベースと呼ぶ(図

4)。

物語消費の構造(大塚英志)

意味づけ

幻想

大きな物語

小さな物語たち 同じ世界観を 反映した作品群

消費

図 3 物語消費の構造

データベース消費の構造(東 浩紀)

小さな物語たち 同じデータベースから 無限に紡ぎ出される 作品=シミュラークル

大きな非物語

設定の集積

消費

消費

図 4 データベース消費の構造

ユーザ独自の要求

ユーザ企業の種類

システムに対して独自の要求が高いユーザ

• scratch and build• メインフレームによる

基幹系システム

システムに対して独自の要求が低いユーザ

• SaaSを利用したソリューション

ユーザ独自の要求

ユーザ企業の種類

システムに対して独自の要求が高いユーザ

• scratch and build• メインフレームによる

基幹系システム

システムに対して独自の要求が低いユーザ

• SaaSを利用したソリューション

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シミュラークルの例が、秋葉原でソフトウェアを販売するとき

に登場したデ・ジ・キャラット、通称でじこである(図 5)。こ

の人物は背景にどのような物語も持たず、単にあるソフトウェ

アを販売するときのマスコットとして登場した。ところが、そ

の後、でじこを構成する多くの特徴、たとえば、猫耳、しっぽ、

メイド服、大きな手足、などのモジュールを元に生み出された、

プチ・キャラット、通称ぷちこ(図 6)と称される人物は、で

じこの個々のモジュールを組み合わせる形で登場し、全く新し

い小さな物語を構成したのである。

このように、小さな物語の後ろには大きな非物語が存在し、それがデータベース構造

を持っているというのがシミュラークルの特徴である。我々は以前、クラウド・コンピューティングに

おけるユーザ視点から生み出される新しいサービス価値について、ポストモダンにおけるシミュラーク

ルの発想を基にイノベーションモデルを考えた。

5.サービスベースのモデル

コンピュータシステムの変遷の中で、従来のコンピュータシステムの構成要素は個々に分割されモジ

ュール化した。モジュールがユーザ側の必要性によって統廃合され、新たな組み合わせを生み出すこと

が可能となった。この新しい組み合わせによって出来上がるものがサービスとなり、ユーザの新しい価

値観に依存する。この新たな組み合わせをシミュラークルとし、シミュラークルのモデルをベースにサ

ービスベースのモデルを考えた(図 7)。 これらは、製品ありきのプロダクトベースからサービスベースにシフトしている流れと合わせて考え

ることができる。ユーザの新しい価値観により求められるサービスは多様であり、新たな組み合わせは

決して一意ではない。そのため、ユーザに提供するサービスは、いくら製品ベースから発想してもユー

ザが求めるようなサービスへ展開しづらいと考える。これまでの成り立ちを意識せずにユーザの新しい

サービス価値を想像することが必要となる。そこで、我々はシミュラークルのモデルをベースにしたサ

ービスベースのモデルを提案する。

図 7 サービスベースのモデル

また、先に述べたクラウド・コンピューティング実現後におけるロングテールとシステム構成のタイ

プを照らし合わせてみると図 8のようなイメージとなる。SaaS を利用したソリューションが適用しやす

い市場において、多様な選択肢を用意してもそれだけで需要は増えず、ユーザがそれぞれの必要性やコ

ストに合わせてニッチな要求を見つけられるような方法を提供しなくてはならない。そのために、ユー

図 5 でじこ 図 6 ぷちこ

分割統廃合

新たな組み合わせ

プロダクトベース サービスベース

モジュール化

ポストモダンの「大きな非物語」

提供

ユーザの新しい価値観

ハードウェア

CPU

OS

ミドルウェア

アプリケーション

サービス

サービス

分割統廃合

新たな組み合わせ

プロダクトベース サービスベース

モジュール化

ポストモダンの「大きな非物語」

提供

ユーザの新しい価値観

ハードウェア

CPU

OS

ミドルウェア

アプリケーション

サービス

サービス

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ザの新しい価値観をいかに発掘できるかを意識して活動するかが重要と考える。

図 8 サービスベースのモデルとロングテールとの関係

6.おわりに

近年、ユーザの視点から新しい組み合わせのサービスの価値が生み出されてきているが、そのイノベ

ーションモデルを考察するにあたり統合型の製品やサービスを定義する。 従来のサーバ製品やパソコン、ワープロソフトなどの製品は、「プロダクトベースの統合型」とし、

当然ながら製品自体への依存度が高い。また、iPad やスマートフォン、SaaS に代表されるクラウド・

コンピューティングは、従来の製品ベースの統合型と異なり、技術の成熟の結果より生み出された「サービス

ベースの統合型」と定義する。「サービスベースの統合型」はフレキシブルであり、柔軟性や親和性が高い

ことが特徴である。今後、モデルを基準にして市場における「サービスベースの統合型」の可能性を研究し

ていく。

図 9 統合型の製品やサービスの定義

文献

(1) 東浩紀「動物化するポストモダン」講談社現代新書、2001

(2) クリス・アンダーソン「ロングテール」ハヤカワ新書、2009

ユーザ独自の要求

ユーザ企業の種類

垂直統合 水平分業 サービス・プロバイダによる垂直統合

ユーザ独自の要求

ユーザ企業の種類

垂直統合 水平分業 サービス・プロバイダによる垂直統合

・iPad、iPhone、キンドル

・SaaSなどのクラウドコンピューティング

Serviceベースの統合型

Flexible Integrated Model

• ワープロ専用機

• サーバ製品、パソコン、従来のOS・ワープロソフト・表計算ソフト・電子メール・ブラウザ

■統合型の製品やサービス

Productベースの統合型

Fixed Integrated Model

柔軟性 親和性

・iPad、iPhone、キンドル

・SaaSなどのクラウドコンピューティング

Serviceベースの統合型

Flexible Integrated Model

• ワープロ専用機

• サーバ製品、パソコン、従来のOS・ワープロソフト・表計算ソフト・電子メール・ブラウザ

■統合型の製品やサービス

Productベースの統合型

Fixed Integrated Model

柔軟性 親和性

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