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2010 - 9「車両技術 240 号」 22 JR 東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車 ※長 がわ しん いち ※益 ます やま よし ひろ 写真 1 外観 要旨 現在、東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、62 両の電気機関車を保有・運用しているが、すべて、旧 日本国有鉄道(国鉄)から継承した車両であるため、老朽化が進んでいる。特に看板列車である寝台特急“カシ オペア”や“北斗星”をけん引している EF81 形交直流電気機関車は、製造してからの平均経過年数が約 34 年 と老朽化が進んでいるため、今回、取替え用としてEF510形 500番代 交直流電機機関車を製造することとなった。 以下、その概要について紹介する。 1 はじめに JR 東日本では、保有する 62 両の電気機関車で、寝台列 車などの旅客から貨物、事業用、臨時などの運用を行って いる。しかし、すべての電気機関車が、国鉄から継承した 車両であるため、車齢 30 年を超える車両もあり、老朽化 が進んでいる。また、複数の動力ユニットをもつ電車列車 と異なり、動力車 1 両で運転する機関車けん引列車は冗長 性に乏しく、故障が発生した場合、多くのお客さまにご迷 惑をお掛けすることになるため、機関車けん引列車におけ る輸送の安定性向上は、急務となっていた。特に看板列車 である寝台特急“カシオペア”や“北斗星”をけん引して いる EF81 形交直流電気機関車(EF81 形)は、主力機関 車として運用しているが、平均経過年数が約 34 年と老朽 化が進んでいるため、今回、新型機関車を製造し老朽取替 えを行うこととした。 ところが、JR 東日本では発足以来、電気機関車を設計 製造した実績がなく、設計製造に関するノウハウを保有し ていなかった。一方、日本貨物鉄道株式会社(JR 貨物) では、EF81形の後継機種として、設計製造を行った EF510 形交直流電気機関車(EF510 形)が 2002 年から日 本海縦貫線で運用されており、その実績は十分なものであ ることから、今回 JR 貨物の協力のもと、JR 東日本向けの EF510 形 500 番代交直流電気機関車(EF510 形 500 番代) を設計製造することとした。 (編集部注:JR 貨物 EF510 形式交直流電気機関車は本 誌 226 号-2003 年 9 月参照) 2 基本コンセプト EF510 形 500 番代の説明をする前に、JR 貨物の EF510 形の開発コンセプトについて紹介する。 EF510 形は、東海道・山陽本線に営業投入されている EF210 形直流電気機関車をベースに、東北本線などに営 業投入され、実績のある EH500 形交直流電気機関車の電 気システムを参考に開発された。当時の開発コンセプトは 次のとおりである。 2.1 交流電動機駆動システム VVVF インバータによる三相誘導電動機駆動方式とし、 性能向上、主電動機の小形軽量化及び保守の簡素化を図っ ※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター

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JR 東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車※長

 谷せ

 川がわ

 晋しん

 一いち

  ※益ます

 山やま

 義よし

 裕ひろ

 

写真 1 外観

要旨現在、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)では、62 両の電気機関車を保有・運用しているが、すべて、旧

日本国有鉄道(国鉄)から継承した車両であるため、老朽化が進んでいる。特に看板列車である寝台特急“カシオペア”や“北斗星”をけん引している EF81 形交直流電気機関車は、製造してからの平均経過年数が約 34 年と老朽化が進んでいるため、今回、取替え用としてEF510 形 500 番代 交直流電機機関車を製造することとなった。以下、その概要について紹介する。

1 はじめにJR 東日本では、保有する 62 両の電気機関車で、寝台列

車などの旅客から貨物、事業用、臨時などの運用を行っている。しかし、すべての電気機関車が、国鉄から継承した車両であるため、車齢 30 年を超える車両もあり、老朽化が進んでいる。また、複数の動力ユニットをもつ電車列車と異なり、動力車 1両で運転する機関車けん引列車は冗長性に乏しく、故障が発生した場合、多くのお客さまにご迷惑をお掛けすることになるため、機関車けん引列車における輸送の安定性向上は、急務となっていた。特に看板列車である寝台特急“カシオペア”や“北斗星”をけん引している EF81 形交直流電気機関車(EF81 形)は、主力機関車として運用しているが、平均経過年数が約 34 年と老朽化が進んでいるため、今回、新型機関車を製造し老朽取替えを行うこととした。ところが、JR 東日本では発足以来、電気機関車を設計

製造した実績がなく、設計製造に関するノウハウを保有していなかった。一方、日本貨物鉄道株式会社(JR 貨物)では、EF81 形の後継機種として、設計製造を行った

EF510 形交直流電気機関車(EF510 形)が 2002 年から日本海縦貫線で運用されており、その実績は十分なものであることから、今回 JR貨物の協力のもと、JR東日本向けのEF510 形 500 番代交直流電気機関車(EF510 形 500 番代)を設計製造することとした。(編集部注:JR貨物 EF510 形式交直流電気機関車は本誌 226 号-2003 年 9 月参照)

2 基本コンセプトEF510 形 500 番代の説明をする前に、JR 貨物の EF510形の開発コンセプトについて紹介する。EF510 形は、東海道・山陽本線に営業投入されているEF210 形直流電気機関車をベースに、東北本線などに営業投入され、実績のある EH500 形交直流電気機関車の電気システムを参考に開発された。当時の開発コンセプトは次のとおりである。2.1 交流電動機駆動システムVVVFインバータによる三相誘導電動機駆動方式とし、性能向上、主電動機の小形軽量化及び保守の簡素化を図っ

※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター

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JR 東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車 23

図1 形式図

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表 1 JR東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車 車両諸元

会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱ EF510 形 500 番代 交直流電気機関車

使用線区 東北本線、常磐線、武蔵野線その他軌間(㎜) 1 067使用線区の最急こう配 25 ‰

用途 旅客列車けん引、貨物列車けん引 電気方式直流 1 500 V交流 20 kV 50 及び 60 ㎐

車体製作会社 川崎重工業㈱ 製造初年 2009 年台車製作会社 川崎重工業㈱ 1次製作両数 15 両主回路装置製作会社 三菱電機㈱ 車両技術の掲載号 240

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 110

1 時間定格出力(kW) 3 390速度(㎞/h) 58.4引張力(kN) 198.9

力行 PWM方式電圧形インバータ装置による電圧、周波数制御(空転再粘着制御、軸重移動補償制御、入力電流制限制御、架線低電圧リミッタ制御、定速運転制御付き)

発電ブレーキPWM方式電圧形インバータ装置による電圧、周波数制御、1段抵抗ブレーキ式

ブレーキ制御方式電気指令式空気ブレーキ(発電ブレーキ併用)

抑速制御 あり運転保安装置 ATS-P、ATS-Ps

列車無線列車無線:半複信式防護無線:同報通信式

その他の主要設備

主幹制御器

形式/質量(㎏) FMC7A方式 -

速度計装置 直動式指示計

標識灯前灯 角形シールドビーム尾灯 角形 LEDその他 -

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) FMH3105-FTC2000-1 / 414圧縮機容量 2 000 ㍑/min 圧縮機方式 往復形単動 2段圧縮

空気タンク

元空気タンク 215 ㍑× 2供給空気タンク 215 ㍑× 2

ブレーキ装置

形式/質量(㎏) FBCD11 / 250

凡例 ●;駆動軸 <;パンタグラフ軸配置 Bo-Bo-Bo運転整備質量(t) 100.8軸重(kN) 165.0 構体材料/構造 鋼製/箱型両運転台

主要寸法

長さ(㎜) 19 460連結面間距離(㎜) 19 800車体幅(㎜) 2 887(最大幅 2 970)高さ(㎜)

屋根高さ 4 080屋根取付品上面 3 455

全軸距(㎜) 14 900両端台車中心間距離(㎜) 12 400車輪径(㎜) 1 120

特記事項

ている。また、各軸個別駆動方式とするとともに、インバータ制御に応答性に優れたベクトル制御を採用し、粘着性能の向上を図っている。2.2 PWMコンバータの採用交流電化区間で使用する主整流器には、PWMコンバー

タを採用し、力率の向上と高調波ノイズの低減を図っている。2.3 運転性能の向上平坦線区で 1 300 t 列車のけん引が可能なように機関車

出力を設定するとともに、直流電化区間、交流電化区間ともに同一の性能としている。2.4 冗長系の向上主回路は、コンバータ、インバータとも各軸単位で個別

開放が可能であり、さらに、補助電源装置が万一故障した

場合には、一部のコンバータ、インバータを CVCF(定電圧定周波数)運転に切り替えて、補助電源装置として使用することで、運転継続が可能なシステムとしている。2.5 耐寒・耐雪性能の向上雪の多い寒冷地で運用するため、特別高圧機器の機器室内配置、凍結防止用ヒータの設置及び耐雪ブレーキ機能の付加などの耐寒耐雪機能を強化した。また、降雪時にもパンタグラフの上昇が容易なように、押上げシリンダを備えている。2.6 機器の共通化保守の標準化を図るため、台車、主電動機及び遮断器などの主要な機器については、EF210 形などの新形式機関車との共通化を図っている。

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JR 東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車 25

台     

形式両端台車 FD7N中間台車 FD8A

支持装置車体 空気ばね直結ボルスタレス方式軸箱 軸はり式

けん引装置 Zリンク形けん引ばり方式ばね方式 空気ばね・コイルばね軸距(㎜) 2 500

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね両端台車用:1 009.4中間台車用:1 146.8

軸ばね

コイルばね 1 018 総合

977.5 ~988.7防振ゴム 24 500~ 34 300

台車最大長さ(㎜) 1 261

基礎ブレーキ

両端台車ユニットブレーキ片押し踏面ブレーキ

中間台車ユニットブレーキ片押し踏面ブレーキ、駐車ブレーキ付き

ブレーキ倍率 4制輪子 焼結合金ブレーキシリンダ・個数 踏面:4駆動方式 平歯車1段減速つり掛け方式歯数比(減速比) 16:82 = 1:5.13継手 -

軸受グリース潤滑式密封複式円すいころ軸受

質量(㎏)両端台車 -中間台車 -

その他

電気駆動系主要設備

集電装置形式/質量(㎏) FPS5B / 170方式 シングルアーム式

主変圧器形式/質量(㎏) FTM4 / 4 810方式 外鉄形ブリーザ式、送油風冷式定格容量(kVA) 3 490

主変換装置

形式/質量(㎏) FMPU16A / 2 660

仕様1C1M、ベクトル制御、SIVバックアップ機能付き

コンバータ

方式 PWM方式電圧形コンバータ冷却方式 強制風冷式

インバータ

方式 PWM方式電圧形インバータ冷却方式 強制風冷式

主電動機

形式/質量(㎏) FMT4A / 1 605方式 三相かご形誘導電動機1時間定格(kW) 565回転数(min -1) 1 470特記事項 アクスルローラつり掛け方式

主回路標準限流値

力行(A) -ブレーキ(A) -

電気ブレーキの方式 発電ブレーキ

ブレーキ抵抗器

形式/質量(㎏) FBMR4 / 930容量(A) 522(連続)冷却方式 強制風冷式

補助電源設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) FAPU6A / 2 360方式 2レベル IPMインバータ方式出力 170 kVA

蓄電池種類/質量(㎏) SRM56P / 226容量(Ah) 56(5 時間率)主な用途 制御用(DC 100 V)

2.7 運転環境と操縦性の向上運転室は、パノラマウインドウの採用による広い視野の

確保及び計器類の機能的配置並びに機器動作状況及び故障時の操作ガイダンスを表示するモニタ装置を設置することによって、運転操作性を向上させた。また、セパレート方式空調装置の設置と暖房機容量をアップするとともに、運転室内の低騒音対策を行うことによって、運転環境を改善している。2.8 500 番代における主な変更点以上が、EF510 形のコンセプトであるが、500 番代につ

いては、これらのコンセプトをそのままに、当社で運用するために必要な変更事項を組入れて開発を行った。500 番代における主な変更点は、次のとおりである。a)保安装置の変更保 安 装 置 を ATS-PF か ら ATS-P へ、ATS-SF か らATS-Ps へ変更した。b)デジタル列車無線の搭載首都圏で進められている列車無線のデジタル化に合わ

せ、車上無線機にデジタル対応の無線機を搭載した。c)列車選別車上子の設置特急列車として、交直切換えセクションである黒磯駅を

通過するために必要な列車選別車上子を床下に配置した。

d)推進運転対応上野駅と尾久車両センターとの間を回送するときに行っている客車側を先頭として機関車側が後尾となる推進運転に対応するため、ブレーキ設定器内のスイッチ名称変更及び後部標識灯の点灯条件を追加した。

3 主要諸元及び性能電気方式は、直流 1 500 V 並びに交流 20 kV 50 Hz 及び60 Hz の 3 電源に対応している。空車質量は、100.8 t、最高運転速度は 110 ㎞/h としている。出力は、平坦

たん

区間において 1 300 t の列車けん引を可能とするため、1時間定格で 3 390 kWとしている。制御方式は、VVVF インバータによる三相誘導電動機を駆動する方式とし、起動引張力の確保及び空転再粘着性能の向上を図るため、コンバータ・インバータ 1組で、主電動機 1個を駆動する個別制御を採用している。また、インバータの制御には、応答性に優れたベクトル制御を採用し、粘着性能の改善も図っている。ブレーキ方式は、発電ブレーキ併用電気指令式自動空気ブレーキとし、抑速ブレーキ、耐雪ブレーキ及び駐車ブレーキも併わせて備えている。

表 1 JR東日本 EF510 形 500 番代 交直流電気機関車 車両諸元(続き)

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4 車両の構造と概要4.1 車体及び機器配置車体は、箱形両運転台方式としている。車体の塗色は、“カ

シオペア”及び“北斗星”のけん引にふさわしいデザインを 2種類用意した。一つは、ベース色を青色とし、腰部に金色の帯を巻き、車体側面に流星マークを直線的な配置に変更したデザイン。他方は、主に“カシオペア”をけん引する 2両の専用色として、ベース色をシルバー色とし、カシオペア車両の帯に使われている 5色のラインカラーを前頭部側面に帯状に配置し、車体側面中央に流星マークを配置したデザインとした。屋根部の機器は、降雪と塩害を考慮し、パンタグラフと

保護接地スイッチのみを配置し、その他の特高圧機器は、車内に搭載している。また、運転室屋上には、信号炎管、AW-2 空気笛及び列車無線アンテナを搭載している。床下機器配置は、列車選別車上子を搭載するため、

ATS 車上子を空気タンクと中間台車との間に搭載し、列車選別車上子を両端台車と中間台車の間にある電動空気圧縮機の下に搭載している。また、スカート内部にAW-5空気笛を搭載している。通常は、屋根上にある甲

かん

高だか

い音色のAW-2 空気笛を使用するが、降雪地域などで、高音域が雪に吸収されて聞こえにくくなる場合や雪詰まりなどの理由によって使用できなくなった場合にAW-5 空気笛を使用する。機械室内は、特高機器枠、主変換装置などの各装置及び

機器を冷却するための送風機などを配置している。また、機器室通路は、メンテナンスと前後の運転台への移動を考慮した Z形の通路としている。運転室は、気密性を高めるとともに、冷暖房装置を設置

して運転環境の向上に努めている。また運転席周辺の機器は、操作性を考慮した配置としている。モニタ装置は、運転状態、故障状態及び異常時の応急処

置マニュアルの表示ができ、また、検修支援機能及び機器チェック機能も備えている。4.2 主回路システム主回路は、主変圧器を中心に 1C1Mを駆動単位とする 6

群構成とした。直流と交流の切替え方式はEF81 形と同じである。パンタグラフは、ばね上昇空気下降式のシングルアーム

タイプで、かぎ外し機構を交流区間対応とするため、空気式としている。主変換装置は、コンバータ装置・インバータ装置を各 2

組で 1台を構成し、これを 3台搭載している。コンバータ装置は、IGBT素子を用いた PWM方式 3レベル電圧形を採用し、力率の改善及び高調波の低減を図っている。インバータ装置もコンバータ装置と同じ素子を用いた PWM方式 2レベル電圧形としている。インバータ装置の制御は、ベクトル制御を採用しており、空転時の主電動機トルクの制御応答速度の高速化を図っている。主電動機は、定格出力 565 kWの強制風冷式三相かご形

誘導電動機を採用している。4.3 補助回路システム補助電源装置は、IGBT素子を用いた 2レベルインバー

タ回路で構成された風冷式の静止形装置であり、小形軽量、高効率、高信頼性及び保守の簡素化を図っている。万一、

補助電源が故障した場合は、運転台からの遠隔操作で主変換装置の一組(第 1主電動機駆動用)を自動的に補助回路側につなぎ代え、補助電源装置の代替ができる回路構成とし、冗長性を高めている。4.4 台車台車は、軸はり式軸箱支持方式のボルスタレス台車を採用している。空気ばねによる車体支持方式としており、引張力の伝達は、低い位置に設けた Z形のけん引リンクから中心ピンに伝える方式としている。このように伝達位置を低くすることで軸重移動防止を図っている。駆動装置は、1段歯車減速つり掛け式とし、主電動機の車軸支え軸受部をころ軸受として、歯車かみ合い精度の向上とメンテナンスの簡素化を図っている。軸箱支持は、軸はり式による弾性支持とし、構造を簡素化することによって、保守の容易を図っている。基礎ブレーキ装置は、ユニットブレーキによる片押し式踏面ブレーキ方式で、ブレーキ性能の向上を図っている。このユニットブレーキは、制輪子すきま自動調整装置付きとし、中間台車は、駐車ブレーキも兼用させることによって、従来、用いていた、てこ類、引棒及び手ブレーキ装置などが不要となり、軽量化及び保守の容易化を図っている。4.5 ブレーキ装置ブレーキシステムは、発電ブレーキ併用の電気指令式空気ブレーキとしている。電気指令式空気ブレーキは、ブレーキ設定器、ブレーキ指令器及びブレーキ制御装置から構成されている。ブレーキ設定器は、従来のブレーキ弁に相当するもので、列車のブレーキ指令を行う自弁部と機関車のブレーキ指令を行う単弁部で構成されており、自弁部の自弁ハンドル、単弁部の単弁ハンドルを操作することで、投入ノッチに対応したブレーキ指令がブレーキ指令器に送られる。ブレーキ指令器は、ブレーキ設定器からの指令や電子制御装置からの発電ブレーキ力信号に基づき、ブレーキ制御装置に空気ブレーキ指令を、電子制御装置に発電ブレーキ指令を送る。ブレーキ制御装置は、ブレーキ指令器から送られてくる空気ブレーキ指令を空気圧力に変換し、ブレーキ作用を行う。発電ブレーキは、速度 30 ㎞/h 以上の領域で有効となり、機関車には、基本的に発電ブレーキのみが作用する。発電ブレーキの作用時、ブレーキ指令器では、空気ブレーキの補足演算も併せて行っているため、ブレーキ指令に対して、発電ブレーキ量が不足する場合には、空気ブレーキで補足するように構成している。なお上野駅と尾久車両センター間での推進運転に対応するため、ブレーキ設定器内に推進運転用のスイッチを設けている。4.6 保安装置保安装置は、JR東日本管内で運用するため、JR貨物のEF510 形に装備していた ATS-PF 及び ATS-SF からATS-P 及びATS-Ps に変更している。また、列車無線は、デジタル列車無線を搭載している。

5 営業運転開始及び投入スケジュールEF510 形 500 番代は、2009 年度に 2両、2010 年度に 13両製造し、全部で 15 両投入する予定で、2010 年 6 月から運用を開始している。

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高速度遮断器

高速度遮断器

図2 全体機器配置

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図3 運転室機器配置

写真2 運転台

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図4 屋根上機器配置・床下機器配置

b)床下機器配置

番号

名称

㋐空調室外機

㋑MM配線用連結器

㋒元空気タンク

㋓供給空気タンク

㋔外部電源コンセント

㋕除湿装置

㋗Hちりこし

㋘JMちりこし

㋙ATS-S車上子

㋚速度発電機

㋛KE72AH

㋜モータセンサ用コネクタ

㋞列車選別車上子

㋟ATS-P車上子

㋠電動空気圧縮機

㋡補助空気圧縮機

㋢コンデンサ箱

a)屋根上機器配置

絶縁空気がい管

パンタグラフ支持がいし

屋根貫きがいし

屋根貫きがいし

絶縁空気がい管

導体支持がいし

導体支持がいし

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図5 両端台車(FD7N)

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図6 中間台車(FD8A)

中間車体支持装置

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図7 主回路つなぎ

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図9 力行性能曲線(交流区間)

図8 力行性能曲線(直流区間)

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図11 ブレーキ性能曲線(抑速発電ブレーキ)

図10 ブレーキ性能曲線(停止発電ブレーキ)

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6 おわりにEF510 形 500 番代は、乗務員訓練などの準備が整い、6月 25 日から“カシオペア”、7月 14 日から“北斗星”に順次運用を開始した。また“カシオペア”専用色も 7月23 日より運用を開始した。寝台列車のご利用が少なくなってゆく中、今回の新形電気機関車の導入をきっかけに寝台列車での旅の良さを再認識していただき、多くの皆様にご利用していただければ幸いである。

写真 3 主変圧器(FTM4)

写真 4 主変換器(FMPU16A)

写真 5 主電動器(FMT4A)