3
便Suica Suica Mobility as a Service MaaS RingoPass RingoPass Uber Suica 30 20208

JR東日本におけるDXJR東日本は、2018年に発表したグル トが生活するうえでの「豊かさ」〟益向上を図るハード起点のモデルから、〝ヒ発足以来軸としてきた駅や鉄道の利便性で収ープ経営ビジョン「変革2027」において、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: JR東日本におけるDXJR東日本は、2018年に発表したグル トが生活するうえでの「豊かさ」〟益向上を図るハード起点のモデルから、〝ヒ発足以来軸としてきた駅や鉄道の利便性で収ープ経営ビジョン「変革2027」において、

 JR東日本は、2018年に発表したグル

ープ経営ビジョン「変革2027」において、

発足以来軸としてきた駅や鉄道の利便性で収

益向上を図るハード起点のモデルから、〝ヒ

トが生活するうえでの「豊かさ」〟

を起点とし、

リアルなネットワークを組み合わせた新たな

サービスを創造し提供する「価値創造ストー

リー」への転換を示した。

 

今後生じる人口減少、少子高齢化、働き方

の変化、価値観の多様化などを踏まえ、軸の

転換、つまりDXの推進が肝要と表明したの

である。「変革2027」とともに新たに定

めたグループ理念から、〝駅や鉄道を中心と

した〟という文言がなくなったことに私は

一社員として、DXを強く推進していくとい

うトップの決意を感じたことを覚えている。

JR東日本におけるDX

Suica

の登場

 

鉄道運営の質的変革は当社発足当初からの

最重要課題である。Suica

は2001年に自

動改札機コストの削減を大きな目的にICカ

ード乗車券としてデビュー、その後電子マネ

ーも加わり、移動や購買のシーンでライフス

タイルを一変させた。移動や決済の場面で高

齢者や旅行者のバリアフリーを実現するなど

社会課題の解決にも資するものであり、今日、

接触を避けるキャッシュレス需要の急速な高ま

りにも対応している。生活者のニーズと技術の

追求が合致し、新たな価値が創造されている。

Mobility as a Service

(MaaS

)の取り組み

「変革2027」において当社は、移動のた

めの検索・手配・決済をワンストップで提供

する「モビリティ・リンケージ・プラットフ

ォーム」を構築し、「シームレスな移動」「総

移動時間の短縮」「ストレスフリーな移動」

の実現を目指している。

 

この取り組みは、生活者に寄り添った提案

を行って、必ずしも駅や鉄道を最優先としな

い点で、今までにないものと言える。その実

現を目指す2つのプロダクト「RingoPass

「JR東日本アプリ」をご紹介する。

① RingoPass

プロジェクト

 

海外でU

ber

のような新たなサービスが

次々と生まれ日本市場にも進出したことから、

私たちはSuica

をもとに新たな顧客体験を創

造する検討を開始した。そのなかで、首都圏

を頻繁に移動するビジネスパーソンには、ワ

ンストップで移動手段の検索、予約、決済が

東日本旅客鉄道

MaaS・Suica推進本部次長

小おの野

由ゆきこ樹子

302020・8

p30-32_月刊経団連8月号_特集_JR東日本.indd 30 2020/07/28 15:42

Page 2: JR東日本におけるDXJR東日本は、2018年に発表したグル トが生活するうえでの「豊かさ」〟益向上を図るハード起点のモデルから、〝ヒ発足以来軸としてきた駅や鉄道の利便性で収ープ経営ビジョン「変革2027」において、

特集 Digital Transformation(DX)─価値の協創で未来をひらく

可能な「M

aaS

アプリ」のニーズがあった。

社内には事業の必要性や採算性に疑問の声も

あったが、現状を変革する必要性や、顧客ニ

ーズに適合することを訴え、実証実験の準備

に着手した。U

ber

を体験した社員の発案と

ユーザーの声をベースに、0↓1人材や1↓

100人材が知恵を出し、トップが有機的に

連携することが推進力となり、DXプロジェ

クトの創出にはこれらの要素が必要なことが

実感できた。

 

本プロジェクトは、不確実性のなかを模索

していくために、アジャイル開発の手法で2

018年8月にクローズドの実証実験から開

始した。現在のサービス概要は以下のとおり

であり、今後も、生活者ニーズに寄り添いな

がら成長させていく。

②JR東日本アプリ

 

東日本アプリは、業務用に使用していた運

行情報や列車走行位置情報などがユーザーの

手元で確認できるアプリで、201₄年₃月

に誕生し、さまざまな鉄道会社アプリの先駆

けとなった。

 

その後本アプリは、ICTの進展にあわせ

てさまざまなサービスを追加、他社アプリと

の連携などの結果、多機能化した反面、当初

のままのUI/UX(注1)は

「動作が遅い・重い」

「操作性がわかりにくい」という課題が顕在

化した。このため、ドイツ鉄道との定期的な

交流で得た手法を参考に、リニューアルに着

手。デザインファームのID

EO T

okyo

と、徹

底的にユーザー中心のデザイン・シンキング

でコンセプトを作成した。そのコンセプト実

現のために、変化に柔軟に対応できるリーン

スタートアップ(注2)型

のプロダクトマネジメント

を採用し、内製化を図ったうえで、201₉

年₄月に大幅リニューアルを果たした。その

後もさまざまなサービスやコンテンツを楽し

めるように開発を継続しており、最近では車

(注1) UI:User interface アプリのデザインなど製品、サービスとユーザーとの情報接点 UX:User Experience 製品、サービスを通じてユーザーが得られる体験

(注2) リーンスタートアップ:仮説検証を繰り返しながら効率的に製品、サービスを改良していく手法

転換

会社発足から30年間 これからの10年間

■「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした 社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していく。

①人口減少、少子化、高齢化などの社会構造の大きな変化・多様化 ③AlやloTなどの技術革新がひき起こす生活環境の変化②働き方、豊かさなどに対する価値観の変化・多様化 ④経済·社会のグローバル化に伴う新たな価値観の受容

鉄道のインフラや技術・知見

鉄道の進化を通じたサービスのレベルアップ

鉄道の再生・復権

起点ヒトが生活するうえでの

「豊かさ」

経営環境の変化を先取りした新たな価値を社会に提供

重層的で“リアル”なネットワークと交流の拠点となる駅等を活かし、外部の技術・知見を組み合わせて

サービスを創造

起点

図表1 「変革2027」の基本方針

(※)

■移動のための情報・購入・決済をお客さまにオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」により「シームレスな移動」の実現を主導し、総移動時間の短縮、「ストレスフリーな移動」の実現につなげていく。

※BRT:バス高速輸送システム

図表2 モビリティ・リンケージ・プラットフォームとは

31

p30-32_月刊経団連8月号_特集_JR東日本.indd 31 2020/07/28 15:42

Page 3: JR東日本におけるDXJR東日本は、2018年に発表したグル トが生活するうえでの「豊かさ」〟益向上を図るハード起点のモデルから、〝ヒ発足以来軸としてきた駅や鉄道の利便性で収ープ経営ビジョン「変革2027」において、

内や駅内の混雑度の見える化にもチャレンジ

している。

 

当社は、最重要課題である安全・安心なサ

ービスを提供するために、伝統的なピラミッ

ド型組織が確立されている。しかし、このマ

ネジメントを学ぶために社員が常駐した

Pivotal

ジャパン(現V

M w

are

)で展開されて

いた自律したチームづくりは、当社が持つ文

化とは大きく異なっていた。ビジネスを理解

したプロダクトマネージャー、ユーザーを理

解したデザイナー、システムを理解したエン

ジニアが一体となって自律的に活動し、アジ

ャイルにアプリ開発を継続するスタイルは、

DXを実現するための組織のあり方の1つで

はないかと考える。

MaaS

・Suica

推進本部の目指すもの

 

新型コロナウイルス感染症は当社グループ

にも打撃を与えている。ただ、私たちは将来

の環境変化を先取りした経営を進めてきてお

り、その方向性を変えるものではない。むし

ろ、変化がより速く進展することが想定され

るため、私たちはさらにチャレンジを速める

ことが肝要である。その1つとして、この6

月に新たに「M

aaS

・Suica

推進本部」が設立

された。これは、モビリティ・リンケージ・

プラットフォームとSuica

を中心とした決済

プラットフォームの2つを拡充し、連携をさ

らに加速させること、また、これらのプラッ

トフォームやオープンなデジタルデータを活

用していくことにより、お客様の多様なニー

ズに応じたサービス提供に取り組み、価値を

生み出していくことを促進する。

 

未曽有の危機に直面した今だからこそ、ヒ

トを中心としたサービス開発を加速させてい

く所存である。

RingoPassアプリ画面のイメージ

タクシー後部座席のタブレットでQR決済ができます

登録したSuicaがドコモ・バイクシェアの鍵として使えます

•事前にSuicaのID番号とクレジットカード番号を登録して、タクシー、シェアサイクルの検索、利用、決済がワンストップでできるアプリ

•タクシー:都内約5,600台のQRコード決済に対応。配車はS.RIDEと連携

•シェアサイクル:全国約1万2,000台のドコモ・バイクシェアに対応。Suicaをタッチするだけですぐ利用

図表3 RingoPassサービス概要 (2020年6月現在)

Pivotal ジャパン(現VM ware)でのアプリ開発の様子

322020・8

p30-32_月刊経団連8月号_特集_JR東日本.indd 32 2020/07/28 15:42