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又は効率く 分離回収でき抽出剤 日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究センター 分離変換技術開発ディビジョン 研究主席 松村達郎 2019年11月26日

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モリブデン又はジルコニウムを効率よく分離回収できる抽出剤

日本原子力研究開発機構

原子力基礎工学研究センター

分離変換技術開発ディビジョン

研究主席 松村達郎

2019年11月26日

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背景①:Mo、Zrの利用

モリブデン(Mo)は、高い融点、機

械的強度及び剛性に優れ、鉄鋼用の添加剤として使用されています。また、潤滑油の材料や石油の精製にも利用されています。

ジルコニウム(Zr)は、酸化物のジルコニア(ZrO2)が高温における

耐食性、耐摩耗性に優れ、耐火物のほか、種々のセラミック等に使用されています。また、特殊な用途として、中性子の吸収が最も小さい金属であり、原子炉の被覆管にも利用されています。

• 特殊鋼の添加剤

• 潤滑油、エンジンオイルの添加剤

• 石油精製触媒

• 耐火煉瓦• 製鉄所の鋳造ノズル• 自動車の排ガス触媒• 原子力の燃料被覆管

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背景②:Mo, Zrの供給

これらのレアメタルの安定供給は、我が国の製造業の国際競争力の維持・強化の観点から重要です。

一方、Mo, Zr鉱石の生産は海外

の少数国によって限られています。新興国の需要の拡大や資源ナショナリズムの台頭といった供給リスクに備え、レアメタルの一部については備蓄を行い、短期的な供給障害に備えています。

備蓄倉庫60日分の消費量を目標

として国家備蓄・民間備蓄が行われている。

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背景③:リサイクル

JOGMECの調査では、Mo, Zrのリサイクル率は、それぞれ1.8及び0 %と報告されており、更なる向上が望まれています。

・乾式法:高温での溶融や揮発を利用する方法反応速度が高く大規模操業に適する

・湿式法:水溶液系に目的金属を溶解させる方法精密分離が可能で小規模操業に適する

我々の研究グループでは、主に湿式法の一つである溶媒抽出法を利用した種々の金属分離技術の研究開発を行っており、今回、Mo, Zrに高い選択性を有する抽出剤を開発しました。

回収、前処理(解体、粉砕)

物理的選別(磁性や比重の利用)

精錬(分離精製)

金属、化合物として再生

金属リサイクルフロー金属リサイクルにおける精錬工程は、大きく二種類に大別されます。

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<利 点>大量、高濃度、連続処理:容易. 工業的実績:豊富.

<課 題>

抽出剤 選定、開発. 廃溶媒処理. 装置規模. 5

溶媒抽出法(液-液抽出法)・ 混じり合わない液相間での、溶質の分配性の差を利用した分離法.

有機相

水 相

抽出剤

金属イオン

・ 抽出剤を含む有機相と、溶質を含む水相とを接触.

混 合

・ 抽出されやすい元素のみ、選択的に有機相中に移動させ分離.

静 置 逆抽出

逆抽出液

回 収

再利用

【参考】溶媒抽出を用いた分離プロセス

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従来技術とその問題点

従来Mo, Zr抽出に用いられてきた抽出剤

PO

OO

OP

OH

OO

O

OH

NOH

NO

O

N

O

TBPD2EHPA

DEHDO

TODGA

• 構造にリン(P)を含み、処分時に二次廃棄物が発生

• 逆抽出が困難• Mo, Zr以外の元素も抽出し、

単離が困難

• Mo, Zr以外の元素も抽出• 逆抽出、単離が困難

• Mo, Zr, Pdを抽出するが、Zrの抽出能が低い

• 構造異性体の精製が必要

これまで開発された試薬は、工業的規模での使用に課題を有する

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新技術の特徴・従来技術との比較

• CHONから構成され、二次廃棄物が発生しない(完全焼却可能)

• 単純な構造で合成が容易、安価

• 有機溶媒と任意に混和

HOO

NC12H25

C12H25

新たに開発した抽出剤

N,N-Didodecyl-2-hydroxyacetoamideHAA

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HAAによる硝酸溶液からの抽出分離①

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0

分配

比D

有機相中のHAA濃度(M)

Y Zr Mo Ag Sn Sb La Ce

Pr Nd Sm Eu Gd Fe Pd

HAA濃度依存性<有機相>[HAA] = 10-3∼1 M

in n-dodecane<水相>2 M HNO3

100 ppb Y, Zr, Mo, Ag, Sn, Sb, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Fe

D =[有機相中金属濃度]

[水相中金属濃度]

Cr, Mn, Ni, Se, Rb, Sr, Ru, Rh, Cd, Te, Cs, Baは抽出されない

様々な元素を含む溶液からZr, Moを選択的に抽出可能

濃度を高めれば、パラジウム(Pd), 銀(Ag), アンチモン(Sb), スズ(Sn), ランタノイド(Lns)といった元素も抽出可能

0.001 0.01 0.1 1

0.1

1

10

100

D=1 : 抽出率50%D=10 : 抽出率90%D=100 : 抽出率99%(有機相体積=水相体積の時)

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HAAによる硝酸溶液からの抽出分離②

HAAのアルキル鎖に枝分かれ構造を導入することで、Zrの抽出特性のみを容易に制御することが可能

-2

-1

0

1

2

-3 -2.5 -2 -1.5 -1lo

gD

有機相中のHAA濃度(M)

Mo

-2

-1

0

1

2

-3 -2.5 -2 -1.5 -1

分配

比D

有機相中のHAA濃度(M)

Zr

●:R= n-C12H25 ◆:R= CH2CH(C2H5)C8H17OHN

R

O

R

HAA濃度依存性<有機相>[HAA] = 10-3∼1 M

in n-dodecane<水相>2 M HNO3

100 ppb Y, Zr, Mo, Ag, Sn, Sb, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Fe

D =[有機相中金属濃度]

[水相中金属濃度]

D=1 : 抽出率50%D=10 : 抽出率90%D=100 : 抽出率99%(有機相体積=水相体積の時)

0.001 0.01 0.1

0.1

1

10

100

0.01

0.001 0.01

0.1

1

10

100

0.01

0.1

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逆抽出挙動

抽出されたMo, Zrは、容易に逆抽出可能

Mo, Zrをそれぞれ個別に逆抽出することも可能

0

20

40

60

80

100

0 0.1 0.2 0.3

シュウ酸濃度(M)

0

20

40

60

80

100

0 0.5 1

過酸化水素濃度(M)

0

20

40

60

80

100

0 1 2 3 4

硫酸濃度(M)

逆抽

出率

(%)

◆:Zr ●:Mo

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Mo, Zr分離フロー

Zr Mo抽残液

処理液HNO3

Zr, Mo抽出 Zr逆抽出 Mo逆抽出

逆抽出液H2SO4

逆抽出液H2O2

HAA溶液

有機溶媒リサイクル

抽出溶媒

これまでの試験データより、上図のような分離フローシートを提案可能処理液に模擬高レベル放射性廃液*を用いて、Zr逆抽出までの実証試験を実施

ミキサセトラを用いた実証試験を実施

*高レベル放射性廃液:原子力発電で使い終えた使用済燃料の再処理によって発生する、高い放射能を有する溶液

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ミキサセトラによる連続抽出試験①供給液組成

元素 mMSe 0.2 Rb 5.6 Sr 20.4 Y 11.2 Zr 58.7 Mo 57.0 Mn 38.3 Ru 23.8 Rh 8.2 Pd 1.4 Ag 0.1 Cd 2.1 Sn 1.1 Sb 0.2 Te 3.2 Cs 9.8 Ba 29.1 La 18.5 Ce 92.0 Pr 15.6 Nd 60.3 Sm 10.8 Eu 1.7 Gd 51.7 Cr 9.0 Fe 47.3 Ni 6.9 Na 916.0 H+ 971

更なる試験条件の改良が必要であるものの、模擬高レベル廃液からのMo, Zrの定量的な回収及びZrの単離に成功

Zr抽出(8段)

洗浄(8段)

逆抽出(16段)

2M HNO345ml/h

模擬高レベル廃液15ml/h

有機相60ml/h

抽出残液 3M H2SO460ml/h

Zr溶液 使用済溶媒

抽出器A

抽出器B

スクラブ

逆抽出

有機相0.08M HAA0.6M EHA・HNO320% EHドデカン

供給液

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ミキサセトラによる連続抽出試験②

抽出器A抽出+洗浄

抽出器B逆抽出

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-2

-1

0

1

2

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0

分配

比D

有機相中のHAA濃度(M)

Y Zr Mo Pd Sn Te Gd

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HAAによる塩酸溶液からの抽出分離

ランタノイドを代表してGdを示すMn, Ni, Se, Rb, Sr, Ru, Rh, Ag, Cd, Sb, Cs, Baは抽出されない

塩酸系については詳細な検討は未実施ではあるが、Moを単離できる可能性がある

HAA濃度依存性<有機相>[HAA] = 10-3∼1 M

in n-dodecane<水相>1 M HNO3

100 ppb Y, Zr, Mo, Ag, Sn, Sb, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd

D =[有機相中金属濃度]

[水相中金属濃度]

D=1 : 抽出率50%D=10 : 抽出率90%D=100 : 抽出率99%(有機相体積=水相体積の時)

0.001 0.01 0.1 1

0.1

1

10

100

0.01

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まとめ

• モリブデンとジルコニウムに高い選択性を有する抽出剤HAAを開発した

• HAAはCHONから構成され、二次廃棄物が発生しない(リンを含まないため完全焼却可能)

• 単純な構造で合成が容易、安価

• 有機溶媒と任意に混和し、取り扱いが容易

• Mo, Zrの分離及びZrの回収について、ラボスケールで実証

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• 本技術は、Mo, Zrの分離を効率よく行うため

の基礎技術となります。

• 本試薬を樹脂に含浸させた吸着剤を用いた

「抽出クロマトグラフィ法」への適用も現在検

討中で、良好な結果が得られています。

• 溶液からのMo, Zr等の除去だけでなく、Mo,Zrの高度な精製に適用できる可能性があり

ます。

想定される用途

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• 現在、主に硝酸酸性溶液からの抽出特性について検討済みであるが、その他の溶液からの抽出特性は取得できていない。

• 今後、様々な陰イオン系や、HLLWに含まれない元素を用いて実験データを取得し、海水や河川・湖沼などの環境中の微量元素の回収などへの適用も検討します。

• 有機合成の技術を持つ、企業との共同研究を希望。

• 廃液処理や冶金など、金属の分離のニーズを持つ企業には、本技術の導入を検討いただき、共同開発を希望。

実用化に向けた課題・企業への期待

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発明の名称 :モリブデン及び/又はジルコニウムの分離回収方法

出願番号 :特願2018-060674出願人 :日本原子力研究開発機構

発明者 :鈴木英哉、松村達郎

本技術に関する知的財産権

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・2013年-2017年

JST「原子力システム研究開発事業」 環境負荷低減技術研究開発 タイプA

「加速器駆動未臨界システムによる核変換サイクルの工学的課題解決に向けた研究開発」に採択.・2016年〜

JST「原子力システム研究開発事業」タイプA 「MA分離変換技

術の有効性向上のための柔軟な廃棄物管理法の実用化開発」のうち「廃液再生技術開発」に採択.・2018年

ImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大

幅な低減・資源化」のうち「高レベル廃液からの電解法と溶媒抽出法を用いた長寿命核種の分離回収技術の開発(2)」として参画

産学連携の経歴

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お問い合わせ先

日本原子力研究開発機構

研究連携成果展開部

TEL:029-284-3420

FAX:029-284-3679

e-mail :[email protected]