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虹の松原保全・再生対策について(経過報告) 九州森林管理局 佐賀森林管理署 日田 仁志 朝田 清子 特定非営利活動法人唐津環境防災推進機構 KANNE 藤田和歌子 1 課題を取り上げた背景 九州北西部、佐賀県唐津市に位置する 虹ノ松原国有林は玄界灘に面していま す。長さが4.5Km、幅が500m前 後、214haに及ぶ広大な面積を有する 松林で、松の本数は約100万本にも及 びます。 これまで防風・防潮・保健保安林とし て、また国の特別名勝に指定され人々に親しまれてきました。一方で燃料革命によりマツ葉 の採取がされなくなり、土壌の富栄養化により松林に侵入する広葉樹や、マツ材線虫病の被 害により白砂青松の景観が失われてきたこと、マツ林分の過密化により防災機能の低下が懸 念されることなどの課題が浮上してきました。 平成20年度、これらの課題を官民一 体となって解決するために、虹の松原再 生・保全にかかる「基本計画」・「実行計 画」が策定され、また佐賀森林管理署と 虹の松原保護対策協議会が「レクリエー ションの森」の協定を締結しました。 具体的には虹の松原保護対策協議会 から委託を受けた特定非営利活動法人 唐津環境防災推進機構 KANNE(以下, KANNE という)がレクリエーションの森 部会の事務局として様々な活動を行っ てきました。基本計画の策定から本年度 で11年を迎えた今、これまでの取組の 経過について報告します。 2 佐賀森林管理署の取組 (1)マツの保全について 虹の松原の保全について佐賀森林管理署 は佐賀県、唐津市や地元の協力を得て、薬剤 散布(予防)、伐倒駆除、樹幹注入などのマ ツ材線虫病防除事業を実施しています。 マツ材線虫病に感染したマツの調査にあ たっては、真っ赤に色づいているマツは調査 が容易ですが、寒い時期には時間をかけなが ら変色・落葉しているマツもあり、調査漏れ のないように巡視の強化やドローンによる 空撮、GPSで位置を確認しながら実施して おります。 佐賀森林 管理署 虹の松原保護 対策協議会 企画・募集・支援 情報共有・ イベントの共同実施 保安林機能の維持・保全 多機能防災林としての施業 景観保全(白砂青松) 憩いの場としての松原 KANNE 市民 ボランティア イベント方式 アダプト方式 虹の松原再生・保全活動の構図 ドローンによるマツ被害木の調査 虹の松原(鏡山展望所より)

KANNE - maff.go.jp · 2020. 7. 26. · 3 KANNEの取組 虹ノ松原内のレクリエーションの森では佐賀 森林理署とkanneが連携をとりながらボランティ

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  • 虹の松原保全・再生対策について(経過報告)

    九州森林管理局 佐賀森林管理署 日田 仁志

    朝田 清子

    特定非営利活動法人唐津環境防災推進機構 KANNE 藤田和歌子

    1 課題を取り上げた背景

    九州北西部、佐賀県唐津市に位置する

    虹ノ松原国有林は玄界灘に面していま

    す。長さが4.5Km、幅が500m前

    後、214ha に及ぶ広大な面積を有する

    松林で、松の本数は約100万本にも及

    びます。

    これまで防風・防潮・保健保安林とし

    て、また国の特別名勝に指定され人々に親しまれてきました。一方で燃料革命によりマツ葉

    の採取がされなくなり、土壌の富栄養化により松林に侵入する広葉樹や、マツ材線虫病の被

    害により白砂青松の景観が失われてきたこと、マツ林分の過密化により防災機能の低下が懸

    念されることなどの課題が浮上してきました。

    平成20年度、これらの課題を官民一

    体となって解決するために、虹の松原再

    生・保全にかかる「基本計画」・「実行計

    画」が策定され、また佐賀森林管理署と

    虹の松原保護対策協議会が「レクリエー

    ションの森」の協定を締結しました。

    具体的には虹の松原保護対策協議会

    から委託を受けた特定非営利活動法人

    唐津環境防災推進機構 KANNE(以下,

    KANNE という)がレクリエーションの森

    部会の事務局として様々な活動を行っ

    てきました。基本計画の策定から本年度

    で11年を迎えた今、これまでの取組の

    経過について報告します。

    2 佐賀森林管理署の取組

    (1)マツの保全について

    虹の松原の保全について佐賀森林管理署

    は佐賀県、唐津市や地元の協力を得て、薬剤

    散布(予防)、伐倒駆除、樹幹注入などのマ

    ツ材線虫病防除事業を実施しています。

    マツ材線虫病に感染したマツの調査にあ

    たっては、真っ赤に色づいているマツは調査

    が容易ですが、寒い時期には時間をかけなが

    ら変色・落葉しているマツもあり、調査漏れ

    のないように巡視の強化やドローンによる

    空撮、GPSで位置を確認しながら実施して

    おります。

    佐賀森林

    管理署

    虹の松原保護

    対策協議会

    「レクリエ―

    ショ

    ンの森」協定

    企画・募集・支援情報共有・

    イベントの共同実施

    保安林機能の維持・保全

    多機能防災林としての施業景観保全(白砂青松)

    憩いの場としての松原

    KANNE市民

    ボランティア

    イベント方式

    アダプト方式

    虹の松原再生・保全活動の構図

    ドローンによるマツ被害木の調査

    虹の松原(鏡山展望所より)

  • ○マツ材線虫病に感染したマツの伐採について

    マツ材線虫病に感染したマツを調査後に伐

    採します。伐採したマツはマツノマダラカミキ

    リを誘因する物質を発生させているため、すべ

    て林外へ搬出し、チップ化します。2cm以上

    のマツの枝にもマツノマダラカミキリが卵を

    生みつけている可能性があるため、小さな枝も

    搬出します。

    毎年3月にはマツ材線虫病に感染したマツ

    が見当たらないように実施しています。

    ○薬剤の散布について

    薬剤散布はヘリコプターによる空中散布とスパウダーによる地上散布を実施していま

    す。地元の理解と協力を得て毎年実施しており、地元住民への周知、通行止めや当日ス

    タッフの配置等綿密な打ち合わせを行い、また当日の風向きにも気をつけながら散布し

    ます。

    ○樹幹注入について

    径級の大きなマツについてはマツノザイセ

    ンチュウに強い薬剤を樹幹注入し、マツ材線虫

    病を予防します。効果は6年程度です。

    地上散布箇所や過去の感染状況を考えながら

    対象木を選定しています。径級の大きなマツは

    台帳管理していますが、マツ材線虫病に感染、

    枯死していくため、本数は少なくなっている状

    況です。

    ○マツ被害木総点検について

    官民一体となった取り組みとして毎年5月

    にはマツ被害木総点検を行っています。佐賀県、

    唐津市、ボランティアや高校生など約50名が

    参加し、マツ材線虫病に感染したマツや生育の

    競争に負けて枯れているマツの調査を行いま

    す。また学識関係者を招いてマツの特徴やマツ

    ノマダラカミキリの生態を説明していただい

    ています。

    スパウダーによる地上散布 ヘリコプターによる空中散布

    吉田先生によるマツノマダラカミキリの説明

    マツ材線虫に強い薬剤を樹幹注入

    マツ材線虫病に感染したマツの伐採

  • ○マツ材線虫病の被害本数の推移について

    継続したマツ材線虫病防除事業の結果、マツ被害木は年間100~300本程度に押さえ

    ることが出来ています。

    (2)松林のモニタリング調査等について

    佐賀森林管理署では平成20年度

    から松原の植生調査やモニタリング

    調査を実施し、密度管理の方法や景観

    保全のための管理施業の効果につい

    て検討してきました。またボランティ

    ア活動のための管理マニュアルも作

    成しました。

    ○景観保全モデル林について

    松林の下層植生や広葉樹化を調査するため、毎年下刈やマツ葉かきなど各種作業の組合せ

    による5つの施業区をつくり、さらに最初に広葉樹を伐採した後、そのまま放置する箇所、

    広葉樹除去を継続して行う箇所にわけてモニタリング調査を行っています。

    その結果、白砂青松のためにもマツ葉かきが効果的であることが分かります。各作業区には

    看板を設置して、見る人に管理施業の効果が視覚的に伝わるよう工夫されています。視察に

    来られた方々や有識者の方々も評価いただいてており、今後も継続して実施予定です。

    ○ボランティによるマツ除伐体験について

    平成28年度から毎年、管理マニュ

    アルを用いてマツの除伐体験を実施

    しています。職員がマツの除伐木を選

    木し、実際にボランティアの方に切っ

    ていただきました。参加した方々から

    は「マツ除伐は楽しい作業だった」「今

    後も継続してほしい」「木を切るのは

    簡単だが後のトラックへの積み込み

    が大変」「地区の皆さんにも除伐作業

    を伝えて欲しい」という声を頂きまし

    た。 虹の松原管理マニュアル

    毎木調査

    除伐試験施業

    植生調査箇所

    景観保全モデル林

    虹の松原内の植生等調査箇所

    景観保全モデル林実施箇所 白砂青松はマツ葉搔きが有効

    マツの除伐体験

  • (3)視察の受け入れについて

    これら虹ノ松原における再生・保全活動(マツ葉かき等)については、国内外から多く

    の視察があり、高い評価をいただいています。

    3 KANNEの取組

    虹ノ松原内のレクリエーションの森では佐賀

    森林理署と KANNE が連携をとりながらボランティ

    アによる白砂青松への活動(マツ葉かき等)に取

    組んでいます。具体的には地域の市民や企業と協

    働による虹の松原の再生・保全活動を行ってきま

    した。そのために一番力を入れてきたのは、再

    生・保全活動の参加の輪を広げていくことです。

    平成20年度の計画当初から、2種類の参加の方

    法を設けています。

    (1)イベント方式

    開催当日に気軽に参加が出

    来るイベント参加方法。行事名

    は「Keep pine project ~虹の

    松原クリーン大作戦~」です。

    この名称は親しみやすいよう

    にと、地元の高校生に名づけて

    いただきました。一般の方以外

    に企業、高校生、中学生等参加

    者は徐々に増え、近年では毎回

    300名の方に参加をしてい

    ただいております

    イベント方式の参加者の推移

    マツ葉かき

    草抜き

    まつぼっくり・枝拾い マツ葉の積み込み

    長野県議会 静岡県議会 中国 山東省

  • (2)アダプト方式

    自分達が受け持つ活動エリアを登録し、自分たちの都合の良い時期に実施していただ

    く方式です。アダプト登録者は7,141名となりました。近年、伸びは鈍化しており

    ますが、増加傾向にあります。アダプト登録面積はまだ、全体の26%でしか活動がで

    きていない現状です。

    ○マツ葉、枝、松ぼっくりの利用について

    左の写真は、1 時間の活動で、集められたマツ

    葉や枯れ枝です。1 年間で1,000t ものマツ葉

    や枯れ枝が落ちてきているという調査結果もあ

    ります。ボランティアの参加者数が増大したこと

    により、集められるマツ葉や枯れ枝の処分費が追

    い付かない状況にあります。そこでたばこ農家の

    苗床、木質ペレット、シャンプーや燃料、畑にま

    く炭作り等、取り組んできました。この時に焼き

    芋をつくって参加者にふるまうと、大変喜んでい

    ただきました。この様に、色々と試してきました

    が、「生産効率の問題」や「消費先の課題」もあ

    り実用化には至っていません。

    フルボ酸を抽出しシャン

    プー

    マツ葉を活用した苗床 枝を木質ペレット

    1時間のボランティア活動で集められた

    マツ葉、枯れ枝等

    畑に蒔く炭づくり マツ葉を竹に入れて薪として利用

    アダプト方式の参加者の推移 アダプト方式の登録面積

    移動式多目的薪ストーブ

    (モキ製 作 所 )

  • ○草刈り機の導入について

    平成28年度より草刈り機を2台導

    入しました、草や低木が生い茂っている

    ところを、ボランティアの力で、数か月

    かかりましたが 7haも刈り倒すことがで

    き、景観が良くなったとの声を多くいた

    だきました。

    4 今後の展望

    (1) 佐賀森林管理署の展望

    継続したマツ材線虫病防除の実施や住民参加のイ

    ベント(被害木総点検)、民国連携した監視体制の強

    化や安全点検・危険木処理やボランティアの技術的な

    支援や除伐体験の実施等が必要となっています。

    また、自然に発生したマツ除伐木の選定方法やマツ

    の間伐等においては津波の被害を軽減する多機能海

    岸防災林として施業方法の検討が必要となっていま

    す。

    (2) KANNE の展望

    再生・保全活動の課題である、「ボランティア

    の確保」、「運営費の確保」の解決に向け、マツ

    葉・枯れ枝を資源として有効に活用することによ

    って、持続可能な活動を目指していきます。

    そしてボランティアの確保のために、活動に楽

    しさをプラスしたり、作業の省力化を検討して少

    しでも早い白砂青松の松原の実現に努めていき

    ます。

    (3)虹の松原再生・保全の展望

    今後も KANNEを中心としたボランティア団体等が

    虹の松原の再生・保全活動の主体を担い、佐賀森林

    管理署は多機能海岸防災林としての機能を高めつ

    つ、施業を実施していくという構図を維持していこ

    うと考えています。「白砂青松」の景観を取り戻し、

    昔のように人と松原が関わり合う文化を復活させ、

    日本の宝である虹の松原を次の世代に引き継いで

    いきたいと考えています。

    虹の松原再生・保全活動の参加者

    虹の松原再生・保全活動の参加者

    虹の松原再生・保全活動の参加者

    多機能海岸防災林としての施業の検討

    草刈り機の導入 草刈の作業状況