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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 個人空間における快適さに関する研究(a study of amenity in personal space) 著者 Author(s) , 仁士 / 吉田, 浩之 掲載誌・巻号・ページ Citation 神戸大学発達科学部研究紀要,1(2):149-163 刊行日 Issue date 1994 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81000169 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81000169 PDF issue: 2020-02-16

Kobe University Repository : Kernel · る。解析処理はMachintosh上で作動する統計解析ソフトSYSTAT5.1により行った。 2)快適な部屋のイメージ構造

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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

個人空間における快適さに関する研究(a study of amenity in personalspace)

著者Author(s) 城, 仁士 / 吉田, 浩之

掲載誌・巻号・ページCitat ion 神戸大学発達科学部研究紀要,1(2):149-163

刊行日Issue date 1994

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81000169

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81000169

PDF issue: 2020-02-16

神戸大学発達科学部研究紀要

第 1巻第 2号 1994

個人空間における快適さに関する研究

城 仁士*・吉田 浩之*

AStudyofAmenityinPersonalSpace

HitoshiJOH*・HiroyukiYOSHIDA*

0.はじめに

我々都市に生活する者は、数多く提供された娯楽によって楽しさを享受している反面、全く不快な、

あるいは高い負荷の環境のもとで過ごすことを余儀なくされている存在でもある。いたる所に交通騒

音があり、昼食時やラッシュアワーにおける道路、地下鉄、商店街などの混雑はとりわけひどい。ま

た、職場や学校などでのストレスも見逃すことはできない。そのような環境のもとで生活しなければ

ならない我々にとって、個人空間というものが本来プライバシーと快適さを与えてくれるものでなけ

ればならないはずである。しかし実際のところ、そこが単に寝るための場所に過ぎなかったり、それ

故にその空間に飽きてしまい何か落ち着かないといった心理状況を生み出すようでは、快適さなど生

まれるはずもない。我々は、個人空間における快適さを通してよりよい心地よさを享受するためにも、

もう少し空間というものに注目すべきであろう。

1.問題と目的

空間に関する研究は建築学、心理学 (特に環境心理学)の分野で数多く行われている。日本の建築

学における空間の研究は、高度経済成長の始まりと共に出現した団地をテーマとして1960年代から盛

んになってきており、1983年に 「空間の研究について」をテーマとして環境工学、環境計画、都市計

画などさまざまな分野の一連の研究をもとに研究評議会が開かれている。建築学においては、建築に

よって生み出される空間が人にどのような影響を及ぼすのか、また人に与える快適さを追求するため

によりよい空間の設計という観点から研究されている。それに対し心理学によるアプローチでは、心

理学的な快適性からみた環境の要因を考慮することに力点がおかれる。すなわち、 1)人々の感情も

しくは情緒は、人々が何を如何に行うかを究極的に決定する。2)環境は、その環境におかれた場合、

こう感ずるべきだとする考えとは無関係に、怒り、恐怖、退屈、快さなどさまざまな感情を生起せし

め得る。3)これらの感情は、こうすべきだと考えるのとは無関係な行動を生起せしめる。4)感情

は正確な記述や計量を本質的に拒否するような神秘的で捉えどころのないものではない。以上4つの

前提をふまえ、さまざまな観察や実験が行われてきた。ここであっかわれている空間というものを改

・神戸大学発達科学部生活環境論講座

-149-

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第 2号

めて確認しておく必要がある。辞書的に説明するならば、空間は何も無くあいている所、また全ての

方向への果てしもない広がりのことであるが、人が一度空間を意識した時から、そのような説明では

捉えることができないように思われる。

心理学者ディルクハイム (1932)は、 「具体的な空間は、それを自分の空間とする存在のそれぞれ

に応じて、またこの空間の中で表現されているそれぞれの生活に応じて別なものである。この具体的

な空間は、そのなかでふるまっている人間と共に変化し、また程度の差こそあれ、その時に自己の全

体を支配している特定の観点や精神的態度の現状と共に変化する。」と述べている。つまり空間は、

我 個々人にとってその時の構えや感情、情緒によって変化するものだと言うことができる。言いかえ

れば、我々が快適であると考える空間は、その人の感情や情緒によって作り出されるのであるが、逆

にその空間から我々は快適さを認識することができるのである。

一方、メ-ラビアン (1976)は、人が多様な環境に対して示す情緒反応は多様であるが、インプッ

トである環境端とアウトプットである行動的反応端とを結ぶものは、「覚醒-非覚醒」、「快一不快」、

及び 「支配一服従」の3つの情緒次元セあると述べている。ここでは、覚醒は興奮度、快は幸せ、満

足などの気分の良さの度合、支配は自由度を表す。またメ-ラビアンは、低い覚醒、穏やかな快、多

少の支配感を人に起こさせる環境において、人は気楽な、心地よい、リラックスした感じを持つもの

であると述べている。しかし、人には個人差があって多様な空間に対する受け止め方には差異がみら

れる。

そこで本研究において、個人空間とは自分の所有する部屋を指すこととして、以下本研究における

目的について述べてみたい。心地よさを実感するために、低い覚醒、穏やかな快、多少の支配感を得

られる空間が必要であるということは上記の通りだが、本研究において快適な部屋のイメージと空間

における居心地のいい位置 (以下、安心位置という)を心地よさを実感するための主要な要素と考え

た。そして、空間はさまざまな要素から構成されているため複雑で多様であるが、快適な空間のイメー

ジを類型化することによって客観化できると考えた。

また、空間の捉え方には個人差があるが、ここでは人の性格が影響していると考え、性格検査によ

る性格類型を用いて調査を行う。つまり本研究では、以下の4つを下位目的とする。

1)快適な部屋のイメージと性格とはどう関連しているのかを明らかにする。

2)快適な部屋のイメージと安心位置とがどう関連しているかを明らかにする。

3)性格と安心位置とがどう関連しているかを明らかにする。

4)上記3つの研究結果から得られた知見をもとに、快適さを実感できる個人空間についていくつ

かの提言を試みる。

2.快適な部屋のイメージの因子構造とその類型化 (調査 1)

2-1 調査の目的

岡島ら(1985)の研究によると、 「剛一柔」の漢字対は、日本の空間のイメージを評定するための、

信頼性の高い評定尺度であることが確かめられている。そこで本調査において、快適な部屋のイメー

ジというものがどのような構造になっているのかを因子分析によって明らかにすることを第 1の目的

とする。そして次に、その快適な部屋のイメージの因子構造にもとづき、イメージパターンを類型化

することを第2の目的とする。

2-2 調査方法及び手続き

1)調査対象

-150-

個人空間における快適さに関する研究

名古屋、大阪のビジネス系専門学校生198名 (男子80名、女子118名 ;年齢範囲18歳~21歳)を対象

に行 った。

2)調査時期

1992年10月~11月

3)調査の手続き

快適な部屋のイメージ調査

部屋のイメージを表す項目をできるだけ多く集めるために、岩下 (1979)のSD法の中から44項目

の形容詞対を抽出し、質問用紙を作成した。

まず調査対象者に、自分にとって最も快適で居心地のよい部屋 (自分の部屋)をイメージしてもら

い、そのイメージが形容詞対のどちらに合致しているのかを5件法によって評定してもらった。実施

に際しては、調査説明を行った後、集団的に行った。

2-3 結果と考察

1)項目の選択及び結果の処理

当該項目に対する評定平均値が中央値より大きくずれた項目や棟準偏差が極端に小さな項目は削除

し、最終的に残された20項目を本調査で使用することにした。これら20項目に対する調査対象者の評

定値を因子分析により検討した。因子分析の対象となった20項目は、表 1に示した項目番号が対応す

る。解析処理はMachintosh上で作動する統計解析ソフトSYSTAT5.1により行った。

2)快適な部屋のイメージ構造

質問項目への回答は、形容詞対の左側に位置する形容詞の方より5-1の数値に変換した。20項目

に対する被験者の評定値の数値化にもとづいて因子分析を行った。因子の抽出は、主因子法により主

要2因子を抽出し、その後バリマックス法により因子軸を回転した。単純構造の基準は、当該項目で

の因子負荷量の絶対値が0.400以上であることとした。なお、絶対値が0.400未満の因子負荷量の記載

は省略した。その結果を表1に示す。2因子の因子寄与率は全体の40.9%であった。各因子毎に因子

負荷が高い項目の内容をもとに以下考察していきたい。

表 1において、 「固い」、 「はりつめた」、 「冷たい」、 「沈んだ」、 「緊迫した」、 「きゅうく

つな」、 「生気のない」、 「暗い」、 「退廃的な」、 「ふけた」が第 1因子の同方向項目に属する。

それらの対にあたる 「やわらかな」、 「ゆったり」、 「暖かい」、 「陽気な」、 「のどかな」、 「の

びのびした」、 「生き生きした」、 「明るい」、 「健全な」、 「若々しい」が第 1因子の対立項に属

する。

岡島ら(1985)の研究による 「華一寂」、 「剛一柔」において、 「剛柔性」を示す代表尺度として、

<大きい-小さい・強い一弱い・重い一軽い・たくましい-かよわい・広い-狭い・たのもしい-た

よりない>の6項目を挙げているが、上記の第 1医仔 は、 「剛柔性」を含みながらより抑圧 ・開放的

な側面を持っている。そこで、この第 1因子を 「抑圧一開放」因子と命名した。

一方、 「変化に富んだ」、 「派手な」、 「にぎやかな」、 「ユーモラスな」、 「風変りな」、 「特

色のある」、 「進歩的な」、 「はげしい」、 「動的な」、 「浮き浮きした」が第2因子の同方向項目

に属する。それらの対にあたる 「単調な」、 「地味な」、 「落ちついた」、 「きまじめな」、 「型に

はまった」、 「ありきたりな」、 「保守的な」、 「おだやかな」、 「静的な」、 「しみじみとした」

が第2因子の対立項に属する。

岡島らは、 「華一寂」性を示す代表尺度として<刺激的な一平静な・うるさい一静かな・不純な一

純粋な ・そわついた-おちついた>の4項目をあげているが、上記の10項目はこれら代表4項目の要

素を含んでいると言えるが、本調査においては第2因子を 「変化-単調」因子と命名した。

ー 151 -

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第2号

表 1 抽出された項目とその因子負荷量

番 号 項 目

VAR38 固い感じ-やわらかな感じvAR6 はりつめた感じ-ゆったりした感じvAR29 冷たい感じ一暖かい感じ

vAR13 沈んだ感じ一陽気な感じvARll のどかな感じ-緊迫した感じvAR37 きゅうくつな感じ-のびのびした感じvARl 生き生きした感じ一生気のない感じvAR3 明るい感じ-暗い感じvAR14 健全な感じ-退廃的な感じvAR15 若々しい感じ-ふけた感じ

第 1因子 第2因子_0.756-0.698-0.678_0.667

0.648-0.6200.5890.5870.580

0.546

VARl.0 変化に富んだ感じ-単調な感じvAR28.派手な感じ一地味な感じvAR23 にぎやかな感じ一落ち着いた感じ

VAR7 ユーモラスな感じ-きまじめな感じvAR20 風変りな感じ-型にはまった感じ

vAR5 ありきたりな感じ一特色のある感じvAR34 進歩的な感じ一保守的な感じvAR2 はげしい感じ-おだやかな感じvAR21 動的な感じ一静的な感じvAR8 浮き浮きした感じ-しみじみとした感じ

0.706

0.609

0.600

0.585

0.565

-0.554

0.544

0.519

0.511

0.469

3)快適な部屋のイメージの類型化

上記のように因子分析より抽出された2因子を座標軸にとり、被験者のイメージが第何象限にある

かによって、快適な部屋のイメージの類型化を行っていくことにする。

Ⅹ軸を「抑圧-開放」因子 (Fl)とし、-の方向に 「抑圧」をとり、+の方向に 「開放」とした。

Y軸は 「変化一単調」因子 (F2)とし、-の方向に 「変化」をとり、+の方向に 「単調」とした。

単調

変化

図 1 快適な部屋のイメージ類型

第 1象限をIl、第 2象限をⅠ2、第

3象限をⅠ3、そして第 4象限をⅠ4と

したOなお、Fl、F2の両方の因子

において、どちらの方向にも偏らない

中間的なイメージを持っていると考え

られる部分 (原点を中心にⅩ軸、Y軸

方向に±0.500未満の範囲)を Ⅰ5と

閲放 した。 (図 1参照)

各イメージ類型ごとにその特性を以

下列記する。

Ilは開放的で単調な空間を好む人

が属する。

Ⅰ2は抑圧的で単調な空間を好む人

が属する。

Ⅰ3は抑圧的で変化のある空間を好

む人が属する。

-152-

個人空間における快適さに関する研究

Ⅰ4は開放的で変化のある空間を好む人が属する。

Ⅰ5は 「抑圧一開放」、 「変化一単調」の2因子において、どちらにも偏らずに中間的な空間を好

む人が属する。

3.快適な部屋のイメージ、自分の性格、およびその部屋における安心位置の関連分析 (調査2)

3-1 調査の目的

調査 1において、快適な部屋のイメージの因子構造とその類型が明らかになったが、そのイメージ

を決定するのは人の性格によると考え、快適な部屋のイメージとその人の性格との関連を分析する。

また、部屋の快適性を決定する上で、その部屋において居心地がよいと実感できる位置 (安心位置)

も重要な要素と考えられる。その位置と選んだ理由を参考にしながらグルーピングし、安心位置のグ

ループと快適な部屋のイメージとの関連を分析する。さらに、その部屋における安心位置のグループ

と性格との関連を分析する。以上、本調査においては次の3つを下位目的とする。

1)快適な部屋のイメージと性格との関連を分析する。

2)快適な部屋のイメージと安心位置との関連を分析する。

3)安心位置と性格との関連を分析する。

3-2 調査方法及び手続き

1)調査対象

調査 1に参加 した同じ専門学校生198名を対象に行った。なお本調査は、調査 1と並行して行った。

2)調査時期

1992年10月~11月

3)調査内容とその手続き

(1)YG性格検査

検査用紙は、臨床心理学の分野で広 く用いられている 「矢田部ギルフォー ド性格検査(YG性格検

査)」を用いた。この検査は120の質問文で構成されている。120の質問文のうち10問ずっが、性格を

形成すると考えられている12の因子について与えられている。12の性格因子は、 1.抑うつ性、2.

気分の変化、3.劣等感、4.神経質の程度、5.主観-客観の程度、6.協調性、7.攻撃性、8.

活動性、9.のんき性、10.思考的外 ・内向性、ll.支配性、12.社会的外 ・内向性である。

また、 1.から4.は情緒の安定度、5.から7.は社会的適応度、7.と8.は活動性、8.と

9.は衝動性、9.と10.は内省性、ll.と12.は主導権の計 6つのグループ因子として解釈するこ

とができる。

最終的に、各因子の得点をもとにA型、B型、C型、D型、E型の典型とその強度が弱い準型、及

びAB型、AC型、AD型、AE型の混合型に類別される。以下参考のために性格類型と性格特性を列

記する。

A型 :平凡普通型一全く平均的な状態を示す人で万事平均的調和的で適応的なタイプ、積極的に診

断は下しにくいが問題点の少ない人である。

B型 :不安定積極型一情緒不安定、社会的不適応、活動的、外向的な人で、パーソナリティの不均

衡が外にあ.らわれ易い人である。

C型 :安定消極型-B型と反対の人で、おとなしく消極的に安定した性格であるが、活動性が乏し

く、内向的である。

D型 :安定積極型一情緒的に安定し、社会的適応もよく、活動的で対人関係もうまくいくタイプで

- 153 -

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第2号

ある。

E型 :不安定消極型II)型と反対のタイプで、情緒的不安定、社会的不適応、非活動的、内向的な

性格で、性格の弱い面が内在するタイプである。

(2)安心位置調査

本調査は、 ドアと窓 (いずれも外開き)以外は何も措かれていない間取り図の質問用紙を用いた。

実際の部屋を使用せずに、質問用紙を用いた理由は以下のことを考慮したためである。

Q)数多くのデータを集めるため。

②実際の部屋は、部屋の色や大きさ、雰囲気などが既にできあがっているので、本調査においてそ

れらが影響する場合もあり得ると考えたため。

③本調査で使用した質問用紙の部屋を自分の部屋だと想定してもらい、調査 1における快適な部屋

のイメージによってこの部屋を各自作り上げてもらうという意図があったため。

安心位置の回答方法

回答方法は自分の位置する場所を丸印でマークしてもらい、そして自分の顔の向きを矢印で示して

もらった。さらに、なぜそこにマークしたのかの理由を簡単に書いてもらった。

3-3 結果と考察

1)快適な部屋のイメ-ジ類型における分布比率

IlからⅠ5までの各イメージの類型における分布状況を表2に示す。蓑から明らかなように、男

女そして全体とで比べてみるとⅠ2、Ⅰ3における男女差が顕著であった。Ⅰ2において男性は25.0%

となっているのに対し、女性は15.3%と著しく低い。またIlとⅠ2の比率を加えた数字と、Ⅰ3とⅠ4

の比率を加えた数字とを比べてみると、男性はI1+Ⅰ2が48.8%であるのに対し、女性は34.8%であっ

た。Ⅰ3+Ⅰ4は男性が40.0%であるのに対し、女性は50.9%であった。

性差による特徴として言えることは、男性

表 2 イメージ類型における人数分布 は女性よりも単調な空間を好み、逆に女性は

グループ 男 性 (%) 女 性 (%) 全 体 (%)

Ⅰ1 19(23.8) 23(19.5) 42(21.2)

Ⅰ2 20(25.0) 18(15.3) 38(19.2)

Ⅰ3 12(15.0) 26 (22.0) 38(19.2)

Ⅰ4 20(25.0) 34 (28.9) 54(27.3)

Ⅰ5 9 (ll.2) 17 (14.4) 26(13.1)

合計 80(100) 118(100) 198(100)

男性よりも変化のある空間を好む傾向がある

と言える。また類型毎にみていくと、Ⅰ4の

比率が男女共に高く、Ⅰ5を除く他の類型は

大体均一に分布していることが読み取れる。

2)性格検査の結果

性格検査による性格類型の分布を集計した

ものを表3に示す。

AB型、AC型などの混合型は、A型の性

格特性を基本としながら、BやC型の性格特

性を併せもつものであるが、性格特性の強度

は準型よりも弱く、ここでは表3のように混

合型としてまとめた。

表から、B型及びD型が多く性格類型毎に

大きなばらつきが認められることがわかる。

3)安心位置の結果

質問用紙を集計分析したところ、被験者の

選択した位置が6ヵ所に大別できることがわかった。そこで、部屋の中央部をPl、コーナーをP2、

ドア側の壁付近を P3、 ドアや窓のない方の 2つの壁の部分をP4a、P4b、窓付近をp5とし

-154-

個人空間における快適さに関する研究

表3 性格類型における人数分布

性格類型 人数(%)

A型 28(14.1)

B型 48 (24.2)

C型 17(8..6)

D型 64(32.3)

E型 ll(5.6)

混合型 30(15.2)

表 4 各安心位置グループにおける人数分布

安心位置 男性 (%) 女性 (%) 全体 (%)

P1 8 (10.0) 6 (5.1) 14 (7.1)

P2 6 (7.5) 16 (13.7) 22 (ll.2)

P3 4 (5.0) 3 (2.6) 7 (3,6)

P4a 20 (25.0) 29 (24.8) 49 (24.9)

P4b 3 (3.8) 9 (7.7) 12 (6.1)

図2 安心位置によるグループ

pl:まわりを見渡せる

窓の景色を見れる

明るい

p3:うしろに壁があって安心

景色を見れる

ドアからの人が気になる

p4b:うしろに壁があって安心

た。 (図2参照)

表4に示すように、各安心位

置グループの選択者数は、P1

が14名、P2が22名、P3が 7

名、 P4aが49名、 P4bが12

名、P5が93名であった。なお、

どのグループにも属さない者が

1名 (女性)いた。各安心位置

グループにおける位置決定の主

要な理由を以下に示す。

p2:部屋全体を見渡せる'

壁があって安心

ドアから違い

窓に近い

p4a:うしろに壁があって安心

窓とドアが見れる

窓に近い

ドアからの人を認知できる

右側から光を受けたい

p5:景色を見れる

部屋全体を見渡せる

明るい

窓のそばでドアを見る

部屋全体を見波せる

-155-

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第2号

以上が、各安心位置グループにおける主要な理由であるが、回答の中にはただ何となくといったも

のも多く見受けられた。しかし以上のように位置決定には、 ドア、窓、壁の3つが影響していると言

える。そこで ドア、窓、壁の役割について言及したい。

ドア :部屋は壁によって遮断されているが、 ドアはその中の人間を拘禁することにならないよう外

界とを結び付けるためのものである。そして住人はドアから自由に出入りできるが、それ以外の者は

住人の同意がない限り締め出されるという役割をもつ。

窓 :窓のもつ役割は、上記の安心位置決定の理由にあるように、眺望を得る、採光、そして風を通

すなどが考えられるが、オットー・F・ポルノウ (1988)は、 「窓は内部空間を世界全体に対して開

くものであり、窓を通して小さな居住空間は大きな世界のなかへと組み込まれていく」と述べている。

人間は地下室など窓のない空間に長時間いることに堪えられない。それは取りも直さず人間は自由へ

の欲求から窓を求め、そして窓のない空間内に封じ込められていることに抵抗するからである。

壁 :壁は、外界と内部を区分けする物理的な囲いの役割がある。上記の安心位置決定の理由にある

ように、うしろに壁があるともたれられるので楽であるとか、壁があることで安心できるなどの回答

があった。

ここで壁の与える安心感について高橋ら (1981)の調査が参考になる。人間はpersonalspaceと

呼ばれる自分を中心とした領域を保持しており、人間が行動するとき、それと併せてpersonalspace

も移動するというものであるが、安心位置に関する本調査において、このpersonalspaceも何らか

の影響を与えていると考えられる。高橋らの調査結果によると、personalspaceが小さくなること

つまり壁によってpersonalspaceが切り取られるということは、その人が気を配らなくてはならな

い範囲が少なくてすむということであり、コーナーなどにおいて壁によってper・Sonalspaceが切り

取られる部分が大きい程、安心感が増すということがわかっている。

女性は男性に比べて、personalspaceが前方に短く、横方向に広くそして後方に長く拡がってい

ることが高橋らの調査で明らかになっている。本調査において、P2を選択した人は22名であったが、

その中で女性は16名と表4をみてもわかるように男性と比べて高い比率であった。逆に周りに何もな

いPlに関しては、男性の比率が高かった。

4)快適な部屋のイメージと性格の関連分析

調査 1で得られたIlからⅠ5までの各グループの、性格類型における人数分布及びその比率を求

めた。その結果を表5に示す。図3には、安心位置と性格特性の関係を示す。

表5の最下行を見てもわかるように、各性格類型毎に異なるので、ここでは各性格類型毎に全体の

表 5 性格と快適な部屋との関係

A型 (%) B型 (%) C型 (%) D型 (%) E型 (%) 混合型 (%) 汁 (%)

Ⅰ1 5 (ll.9) 13 (31.0) 2 (4.8) 12 (28.6) 4 (9.5) 6 (14.2) 42 (100)

Ⅰ2 6 (15.8) 7 (18.4) 2 (5.3) 15 (39.5) 1 (2.6) 7 (18.4) 38 (100)

Ⅰ3 5 (13.2) 14 (36.8) 4 (10.5) 7 (18.4) 5 (13.2) 3 (7.9). 38 (100)

Ⅰ4 6 (ll.1) ll(20.4) 8 (14.8) 21 (38.8) 1 (1.9) 7 (13.0) 54 (100)

Ⅰ5 6 (23.2) 3 (ll.5) 1 (3.8) 9 (34.6) 0(o) 7 (26.9) 26 (100)

- 156-

個人空間における快適さに関する研究

4

3.5

3

2.5

2廿措不安 社会的不 活動性 書軸性 非内省的 主導権

適応

図3 各イメージグループにおける性格特性

分布比率にもとづいて各イメージグループの分布状況を、その比率で比較することにした。

A型:A型における分布比率は14.1%であった。各イメージグループでは、Ⅰ5が23.2%と高かった

が、その他はほぼ全体の分布比率と差異がなかった。

B型:B型における分布比率は24.2%であった。各イメージグループでは、Ⅰ3が36.8%と最も高く、

Ilも31.0%と高かった。逆にⅠ5が11.5%と最も低く、Ⅰ2が18.4%と次いで低かった。

C型:C型における分布比率は8.6%と低かった。各イメージグループでは、Ⅰ4が14.8%と高かっ

た。逆にⅠ5が3.8%と最も低かった。

D型:D型における分布比率は32.3%と高かったo各イメージグループではほぼ全体の分布比率と

同様であったが、Ⅰ3だけが18.4%と低かった。

E型:E型における分布比率は5.6%と最も低かった。各イメージグループでは、Ⅰ5の0%、Ⅰ4の

1.9%、Ⅰ2の2.6%が目立って低かった。逆にⅠ3が13.2%と最も高かった。

混合型 :混合型における分布比率は15.2%であった。各イメージグループでは、Ⅰ5が26.9%と高

かったが、逆にⅠ3が7.9%と低かった。

各性格類型における全体の分布と比較して、イメージグループ毎の分布にはそれぞればらつきがあ

ることが確認できた。各性格

類型におけるイメージグルー 表 6 各性格類型に属する人の快適な部屋のイメージ傾向

プ毎の分布が、全体の分布と

同様の比率であれば、快適な

部屋のイメージと性格との関

連はないと言える。しかしイ

メージグループ毎にばらつき

があることを確認できたこと

から、快適な部屋のイメージ

と性格との間には一定の関連

が認められる。

表 6に示したように、各性

格類型における快適な部屋の

イメージの特徴をまとめてみ

る。

A型の人は、かたよりのな

い中間的な空間に快適さを実

性格類型 快適だと認矢口する傾向

強い やや強い やや弱い 弱い

A型 (中間).

B型 (抑J卦変化)(開放/単調) (抑圧/単調) (中間)

C型 (開鰍 変化) (開放/単調) (中間)

D型 (抑圧/単調) (抑圧/変化)

E型 (抑七日変化) (抑圧/単調) (中間)(開放/変化)

-157-

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第 2号

感する傾向があると言える。

B型の人は、抑圧的で変化のある空間や開放的で単調な空間に快適さを実感する傾向があり、かた

よりのない中間的な空間や抑圧的で単調な空間には快適さを実感する傾向は少ないと言える。

C型の人は、開放的で変化のある空間に快適さを実感する傾向があり、かたよりのない中間的な空

間や開放的で単調な空間には快適さを実感する傾向は少ないと言える。

E型の人は、抑圧的で、変化のある空間に快適さを実感する傾向があり、かたよりのない中間的な

空間や開放的で変化のある空間、そして抑圧的で単調な空間には快適さを実感する傾向が少ないと言

える。

混合型の人は、かたよりのない中間的な空間に快適さを実感する傾向があり、抑圧的で変化のある

空間には快適さを実感する傾向が少ないと言える。

またイメージグループ毎の性格特性を、性格を形成する6グループ因子に整理したものがEgI3であ

る。図3をみると各因子毎にばらつきがみられるが,特に活動性と内省性においてそれが大きい。こ

の6因子が相互にはたらいて快適な部屋のイメージを決定するのであろうが、特に活動性と内省性が

大きく影響するものと考えられる。

5)快適な部屋のイメージと安心位置の関連分析

調査 1で得られたIlからⅠ5までの各グループにおける、安心位置グループの人数分布及びその

比率を求めた。その結果を表7に示す。

表7の最下行をみてもわかるように、各安心位置における全体の分布は位置毎に異なるので、イメ-

表 7 安心位置と快適な部屋のイメージとの関係

P1 (%) P2(%) P3 (%) P4a(%) P4b(%) P5(%) 計 (%)

Ⅰ1 3 (7.1) 7 (16.7) 2 (4.8) 12(28.6) 1 (2A) 17 (40.5) 42 (100)

Ⅰ2 4 (10.5) 1 (2.6) 1 .(2.6) 8(21.1) 3 (7.9) 21(55.3) 38 (100)1

Ⅰ3 2 (5A) 9 (24.3) 1 (2.7) 10(節.0) 5 (13.5) 10(27.0) 37 (100)

I4 3 (5.6) 4 (7.4) 2 (3.7) 15(節.8) 1 (1.9) 29(53.7) 54 (loo)

Ⅰ5 2 (7.7) 1 (3.8) 1 (3.8) 4 (15.4) 2 (7.7) 16(61.5) 26 (100)

全体 14 (7.1) 22 (ll.2) 7 (3.6) 49.(24.9) 12 (6.1) 93(47.2) 197 (100)

ジグループ毎に分布状況をみていくことは不適当であると考えられる。そこで、位置毎に各グループ

の分布状況をその比率を比較することによって関連を調べることにした。

Pl:Plにおける全体の分布比率は7.1%と低かったが、各イメージグループも最高が10.5%、最

低でも5.4%と一様に低かった。

P2:P2における全体の分布比率は11.2%であった。各イメージグループでは、Ⅰ3が24.3%と高

く、それに反し、Ⅰ2が2.6%、Ⅰ5が3.8%とかなり低かった。

P3:P3における全体の分布比率は3.6%と低かったが、各イメージグループも最高が4.8%、最

低でも2.6%と一様に低かった。

P4a:P4aにおける全体の分布比率は24.9%であった。各イメージグループでは、Ⅰ5が15.4%

-158-

個人空間における快適さに関する研究

と若干低かったが、他はほぼ一様であった。

P4b:P4bにおける全体の分布比率は6.1%と低かった。各イメージグループでは、中でもⅠ3が

13.5%と高く、逆にIlが2.4%、Ⅰ4が1.9%とかなり低かった。

P5:P5における全体の分布比率は47.2%とかなり高かった。各イメージグループではⅠ5が61.5

%とその中でも高く、逆にⅠ3が27.0%とかなり低かった。

各安心位置における全体の分布と比較してイメージグループ毎の分布にはそれぞればらつきがある

ことが確認できた。各安心位置におけるイメージグループ毎の分布が、全体の分布と同様の比率であ

れば、快適な部屋のイメージと安心位置との関連はないと言える。しかしイメージグループ毎にばら

つきがあり、以下のことが確認できた。

Plにおいては、上記の結果から快適な部屋のイメージとの関連は特にないと考えられる。

P2において、この位置を選択 した人は、抑圧的で変化のある空間を好む傾向があり、抑圧的では

あるが単調な空間や、偏りのない中間的な空間を好む傾向は少ないと言える。

P3においては、上記の結果から快適な部屋のイメージとの関連は特にないと考えられる。

P4aを選択 した人は、偏りのない中間的な空間を好む傾向はやや少ないと言える。

P4bを選択した人は、抑圧的で変化のある部屋を好む傾向があり、開放的で単調な空間や、開放

的で変化のある空間を好む傾向は少ないと言える

P5を選択した人は、偏りのない中間的な空間を好む傾向があり、抑圧的で変化のある空間を好む

傾向は少ないと言える。

以上をまとめると蓑8のようになる。

6)安心位置と性格特性との関連分析

表 8 各安心位置選択者の快適な部屋のイメージ傾向

安心位置 各安心位置選択者の快適な部屋として好ましく思う傾向

強い 弱い

P1 なし なし

P2 (抑圧/変化) (抑圧/単調)(中間)

P3 なし なし

P4a なし (中間)

P4b (抑圧/変化) (開放/変化)(開放/単調)

性格類型における、安心位置

グループの人数分布及びその比

率を求めた。その結果を蓑9に

示す。

ここでは、性格類型毎に各安

心位置グループの分布状況をそ

の比率を比較することによって

関連を調べていくことにする。

A型:A型における全体の分

布比率は13.7%であった。各位

置では、P4bが25.0%と高く、

逆にP3が0%であった。

B型:B型における全体の分

布比率は24.4%であった。各位

置では、P2が45.5%と高く、P

4bも41.7%と高かった。逆に

P4aが18.4%とやや低かった。

C型:C型における全体の分布

比率は8.6%と低かった。各位

置では、Pl、P 3及びP4bが0%であ った 。その他の 位 置 についてはほぼ一様であった。

D型:D型にお ける全体の分布 比率は 32.5 %であった。各 位 置で は 、Plが57.1%と最も高かったが、

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神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第2号

表 9 性格類型と安心位置との関係

A型 (%) B型(%)C型 (%)D型(%) E型 (%) 合型(%) 計 (%)

P1 2 (14.3) 3 (21.4) 0(0) 8 (57.1) 0 (0) 1 (7.1) 14(loo)

P2 3 (13.6) 10 (45.5) 2 (9.1) 5 (22.7) 1 (45) 1 (4.5) 22(100)

P3 0(0) 2 (28.6) 0(0) 2 (28.6) I (14.3) 2 (28.6) 7 (100)

P4a 6 (12.2) 9 (18.4) 4 (8.2) 16 (32.7) 6 (12.2) 8 (16.3) 49(1∝))

P4b 3 (25.0) 5 (41.7) 0(o) 3 (25.0) 0 (o) 1 (8.3) 12 (100)

P5 13 (14.0) 19 (20.4) ll (ll.8) 30 (32,3) 3 (3.2) 17(18.3) 93(100)

全体 27 (13.7) 48 (24.4) 17 (8.6) 64 (32.5) ll . (5.6) 30 (15.2) 197 (100)

P2が22.7%と最も低く、P4bが25.0%と次いで低かった。

E型:E型における全体の分布比率は5.6%と低かった。各位置では、P3が14.3%と最も高く、P

4aが12.2%と次いで高かった。逆にPl、P4bが0%であった。

混合型 :混合型における全体の分布比率は15.2%であった。各位置ではP3が28.6%と最も高く、

逆にP2が4.5%、Plが7.1%、P4bが8.3%と一様に低かった。

上記のように各性格類型における全体の分布比率と比較して、位置毎の分布にはそれぞればらつき

があることが確認できた。・以下その特徴を列記すると次のようになる。

性格がA型の人は、P4bにおいて心地よさを実感する傾向があり、P3においては心地よさを実

感する傾向が少ないと言える。

表10 各性格類型に属する人の安心位置傾向

性格類型 安心位置の選択傾向強い やや強い やや弱い 弱い

A型 P4b P3

B型 P2P4b ・P4a

C型 PI P3P4b

D型 P1 P4b P2

E型 P3P4a ppl P4b

-1601

性格がB型の人は,P2

やP4bにおいて心地よさ

を実感する傾向があり、P

4aにおいては心地よさを

実感する傾向がやや少ない

と言える。

性格がC型の人は、Pl

やP3、及びP4bにおいて

心地よさを実感する傾向が

少ないと言える。

性格がD型の人は、Pl

において心地よさを実感す

る傾向があり、P2やP4b

においては心地よさを実感

する傾向は少ないと言え

る。

性格が混合型の人は、P

3において心地よさを実感

個人空間における快適さに関する研究

する傾向があり、P4bやPlそしてP2においては心地よさを実感する傾向は少ないと言える。

以上をまとめると表10のようになる。

また、各安心位置決定者の性格特性を、性格を形成する6グループ因子毎に整理したものが図4で

ある。図4をみると、各因子毎にばらつきがみられるものの情緒不安を除いて小さなものとなってい

る。情緒不安のばらつきは特に大きく、このことから安心位置決定にはこの情緒の安定性が大きく影

響するものと考えられる。

4

3.5

3

2.5

2廿塘不安 社会的不 活動性 書動性 非内省的 主等稚

舌応

図 4 安心位置と性格特性との関連

4.総合考察

空間に対する認識は個人によって違うということは前述の通りであるが、本研究においてその個人

差は人の性格によると考え、2つの調査を行ってきた。性格の違いが快適な部屋のイメージの違いと

なって現れ、性格の違いが居心地のよい位置 (安心位置)の違いとなって現れるのだとすれば、快適

な部屋のイメージと安心位置との問には、性格を媒介として何らかの関連があると思われる。以下、

本調査の結果を性格を中心に表11にまとめた。

この表11の見方は以下の通りである。例えば性格類型がA型ならば、快適な部屋のイメージとして

偏りのない中間的な部屋を選択する傾向が強い。そしてA型の人は安心位置としてP4bを選択する傾

向が強いが、P4b選択者全体の傾向として抑圧的で変化のある部屋を選択する比率が高いことを示す。

そこでもしA型の人が抑圧的で変化のある部屋を選択するのであれば、性格を媒介として択適な部屋

のイメージと安心位置との関連により、部屋において心地よさを実感できるものと考えた。

以上のような観点でこの裏をみると、B型、D型そして混合型に特徴がみられる。また、調査2で

明らかになったように、快適な部屋のイメージを決定するのは性格を形成する6グループ因子の中の

主に内省性、活動性の2因子で、安心位置決定には特に情緒の安定性が影響していると考えられ、両

者の決定にはそれぞれ違った性格因子が働いていることが明らかになった。

以上をふまえ、部屋で心地よさを実感するための快適な部屋のイメージと安心位置の2要素と性格

との関連を図5に示した。

5.調査から得られた知見と個人空間における快適さの実現への提言

これまでの調査において、部屋の快適性を生み出すと考えられる重要な2要素、快適な部屋のイメー

ジと安心位置について、自分の性格との関連を検討する形で分析を行ってきた。そこで性格類型と上

-161-

神戸大学発達科学部研究紀要 第 1巻第 2号

表11 性格からみた安心位置と快適な部屋のイメージ

性格 選択傾向が強い .選択傾向が弱い

類型 安心位置 快適な部屋のイメージ 安心位置 快適な部屋のイメージ

A型 (中間) なしP4b (抑圧/変化) P3 なし

B型 (判り土/笈化ノ(開放/単調) (中間)(抑圧/単調)

P4b (抑圧/変化)

C型 (開放/変化) (閲肌 調)

な し Pl な し

p3 な し

P4b (抑庄/変化)

D型 / (抑圧/単調) (抑圧/変化)Pl な し P2 (抑圧/変化)

P4b (抑圧/変化)

E型 (抑圧/変化) (FE瓢竪題蔑)P3 な し Pl な し

P48 -な し P4b (抑圧/変化)

混合型 (中間) (抑圧/変化)P2 な し P2 (抑圧/変化)

Pl _な し

図5 性格と安心位置、快適な部屋のイメージとの関連

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個人空間における快適さに関する研究

記の2要素との間には一定の関連があることがわかった。さらにその中でも、快適な部屋のイメージ

決定にはその人の内省性そして活動性の2グループ因子が大きく影響し、安心位置決定にはその人の

情緒の安定性が大きく影響しているこが示唆された。

以上の知見にもとづけば、人の性格がどの性格類型に属するかを知ることで、その人にとってどの

ような部屋が快適なのかを心理学的立場から助言できるようになると思われる。例えば混合型の人に

対しては、偏りのない中間的な部屋作りがいいのではないか、また抑圧的で変化のある部屋作りは極

力避けるべきではないか等の助言ができるであろう。そして混合型の安心位置決定の傾向を考慮する

ことによって、P3の辺りにその人の快適な部屋にとっての必需品 (椅子やベッドなど)を置いてみ

たらどうか等の助言ができるであろう。

さらに、その人の性格のある部分、つまり情緒の安定性や内省性そして活動性などを考慮しながら、

その人の快適な部屋作りに協力できるであろう。

上記のような快適な部屋作りのためには、本調査で得られた知見を認識する必要があるが、以下に

示すことも認識しておかなければならない。

メ-ラビアンは彼の著 「環境心理学による生活のデザイン」 (1981)の中で、 「住人が 1問か2間

のアパートをこまごまと美しく飾りたてたとすると、そこはいろいろな場合に必要なリラックスした

低負荷環境でなくなるおそれがある。また、もし覚醒の低い装飾にしたとすると、そこは人をもてな

す場所としての有効性を欠く結果、やはり住人の覚醒水準を低下させ、無為や孤独、抑欝に陥らせる

破目となる。」と述べている。そして我々に対するアドバイスとして、自分の力、科学技術、予算の

及ぶ限りこの環境に一層の柔軟性をもたせるべく努力すること、と述べている。上記のメ-ラビアン

の意見は、我々に新しい提言を与えている。確かに自分の部屋というものは、自分のなわぼりとして

の役割があるが、一方で社交の場としての役割を併せもっているのである。つまりそこに柔軟性をも

つ部屋作りの重要性があると考えられる。また我々自身にしても、日によって気分のいい目、悪い日、

疲れている日などさまざまあって、それに対応できるような部屋でなければならない。例えば、明る

さが調整できる照明設備やどの部屋にいても雰囲気に応じて曲が選択できる音楽設備などは、部屋の

柔軟性を生み出すための重要な道具となり得るだろう。

我々の部屋というものは、ほとんど他人が作った空間であり、その空間を自分の手で択連な空間に

作り上げていかなければならないのである。そして積極的に快適な部屋作りを行うことによって、そ

の部屋に対する愛着がわき、ますます快適性を生み出していくことになろう。つまり、我々が日々生

活し成長していくように、部屋も成長していくことによって、我々の自己表現の場となっていくこと

が重要なのである。

引用文献 {参考文献

1)A.メ-ラビアン 1981環境心理学による生活のデザイン 川島書店 pp.8-9,18-25,116-117.

2)岩下豊彦 1979 オスグッドの意味論とSD法 川島書店 P.51.

3)梅山貞登 1980 空間が人をつくる人が空間をつくる 講談社

4)成瀬有紀 1991 居住空間がもつ心理的特性 愛知淑徳短期大学コミュニケーション学会編

Communication,No.3,P.7.

5)オットー F.ポルノウ 1988人問と空間 せりか書房 pp.18-19,141-151.

6)高橋鷹志 ・高橋公子 ・初見 学 ・西出和彦 ・川嶋 玄 1985 空間における人間集合の研究-

personalSpaceと壁がそれに与える影響 日本建築学会関東支部研究報告集 P.161.

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