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Lancet Respir Med 2020; 8: 267‒76 doi.org/10.1016/ S2213-2600(19)30417-5 小川 顕太

Lancet Respir Med 2020; 8: 267‒76 小川顕太 · 年齢は50歳前後、ARDS発症から11日前後でstudy entry、PF=80前後 ※study中にLow tidal ventilationの有効性が発表され、その後から

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Lancet Respir Med 2020; 8: 267‒76

doi.org/10.1016/ S2213-2600(19)30417-5

小川 顕太

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Introduction

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• ARDSは急性の肺や全身へ侵襲の反応として生じる肺への強い炎症の過程である。

•ステロイドには抗炎症作用や抗線維化傾向がある※。ARDSによる肺や全身へのダメージを減少させるステロイドの役割に強い関心が示されてきた。

※N Engl J Med 2005; 353: 1711‒23.

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Effect of Prolonged Methylprednisolone Therapy in Unresolving Acute Respiratory Distress Syndrome A Randomized Controlled Trial JAMA. 1998;280:159-165

✓目的 ARDS患者へmethylpredonisolone投与による肺機能、死亡率への影響を調べるため✓デザイン 多施設ランダム化研究✓対象 呼吸不全7日目でlung injury score(LIS)の改善がなかったARDS患者(n=24)✓介入ステロイド群(n=24):methylpridonisoloneを2mg/kg/dから開始して漸減して32日間投与コントロール群(n=8):プラセボ投与✓Primary outcome治療10日目の生存とLIS>1pointの改善※LIS:胸部レントゲン、P/F、PEEP、肺コンプライアンスでスコアリング

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Study entry時にAPACHEⅢ score, LIS, Direct cause of ARDSについて両群で有意差なし

治療10日目Lung injury scoreは有意に改善1.7 vs 3.0

生存率に有意差はなし100 vs 75%

ICU生存率 100 vs 37%

院内生存率 87 vs 37%→どちらも有意に改善

呼吸不全7日目でLISが改善しないARDS患者にmethylpredonisoloneを投与するとICU、院内生存率を有意に改善する。

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Efficacy and Safety of Corticosteroids for Persistent Acute Respiratory Distress SyndromeN Engl J Med 2006;354:1671-84.

✓目的 ARDSにステロイド投与することで臨床アウトカムが改善するか調べるため✓デザイン 多施設ランダム化研究✓対象 ARDS発症後7~28日目の挿管患者(n=180)✓介入ステロイド群(n=91): methylpridonisoloneを

2mg/kg/dから開始して少なくとも21日投与して漸減コントロール群(n=89):プラセボ投与

✓Primary outcome 60日目の死亡率

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年齢は50歳前後、ARDS発症から11日前後でstudy entry、PF=80前後※study中にLow tidal ventilationの有効性が発表され、その後からlow tidal ventilationを行った

60日死亡率は有意差なし(28.6 vs 29.2%)28日人工呼吸器離脱期間は有意に改善(6.8 vs 11.2%)

ARDS発症後7~28日目の挿管患者にmethylpredonisoloneを投与しても60日死亡率は改善しない。

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Methylprednisolone infusion in early severe ARDS: results of a randomized controlled trial. Chest 2007; 131: 954‒63.

✓目的 早期のARDS患者に対してmethylpredonisolone投与することで肺機能が改善するか調べるため✓デザイン 多施設ランダム化研究✓対象 発症72時間以内のARDS患者(n=91)✓介入ステロイド群:methylpredonisolone 1mg/kg/dから開始して漸減して28日投与(n=63)コントロール群:プラセボ投与(n=28)✓Primary outcome治療7日目までのLIS>1pointの改善または抜管

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年齢は50歳前後、P/F=120前後APACHEⅢ score, LIS, Direct cause of ARDSについて両群で有意差なし

治療7⽇⽬までのLIS>1pointの改善または抜管治療7⽇⽬までのLIS>1pointの改善または抜管治療7⽇⽬までのLIS>1pointの改善または抜管

治療7日目までのLIS>1pointの改善または抜管はステロイド群で有意に多い(69.8 vs 35.7%)

または抜管治療7⽇⽬までのLIS>1pointの改善または抜管治療7⽇⽬までのLIS>1pointの改善または抜管

ICU生存率を有意に改善(79.4 vs 57.4%)生存退院率は有意に改善せず(76.2 vs 57.1%)

発症72時間以内のARDS患者にmethylpredonisoloneを投与しても生存退院率は有意に改善しない。

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・ARDSに対するステロイド投与に関してはregimenも結果も様々で結論がでていない。

・2017年に発表された9つのRCTのmeta-analysisでは、炎症マーカー・ガス交換・人工呼吸期間・ICU滞在期間に有意な改善があるという結論であった。死亡率の改善については9つのRCTの方法論的問題点があり十分なエビデンスがないという結論であった※。

※Crit Care Med 2017; 45: 2078‒88.

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・多くのランダム化研究では肺保護換気がされておらず、それを行った場合のステロイドの効果については不確かである。・dexamethasoneは他のステロイドと比較して強力な抗炎症作用と弱いミネラルコルチコイド作用、長い効果発現時間を有する。ARDSに対する効果をランダム化研究で評価されたことはない。

・moderate~severe ARDS患者にdexamethasoneを投与すると肺と全身の炎症反応を減弱させ、人工呼吸期間と全死亡率を改善するかもしれないと仮説を立てた。

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Methods

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期間 2013年3月28日~2018年12月31日施設 スペインのteaching hospitals 17のICUsデザイン✓オープンラベル多施設ランダム化研究✓ランダム化の方法:封筒法(コンピューターによる作成、センター毎に層別化)✓ブラインド・患者、研究者、臨床医、データ安全性監視委員会はブラインドされていない・統計分析と長期アウトカム(60日)の評価者はブラインドされている

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Eligible patients 18歳以上、気管挿管+⼈⼯呼吸管理中、急性発症

ARDS( the American- European Consensus Conference criteria or Berlin criteriaのmoderate〜severeARDSを満たす)

Exclusion Criteria妊婦 or 授乳をしている、脳死、癌や他の疾患で終末期、DNAR、corticosteroids or 免疫抑制薬が使⽤されている、別の経験的治療プロトコールに⼊っている、重度のCOPDや⼼不全

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介入✓DEX群 dexamethasoneをday1-5に20mgを1日1回、day6-10に10mgを1日1回投与(最大10日間 or 抜管まで)+標準治療✓Control群 標準治療

✓標準治療・TV:4-8ml/予測体重、プラトー圧:<30 cm H2O・PaCO2:35-50 mmHg(TV達成のためpermissive hypercapniaは許可)・PaO2>60mm Hg or SpO2>90%を保つ最低のFiO2まで下げてそれに応じたPEEPを設定(PEEPはARDSnetのPEEP-FiO2 tableに従う)※鎮静、気管切開の時期、筋弛緩薬、腹臥位、リクルートメントは臨床医の判断に任せられた。

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呼吸管理(両群共通)

✓ARDSnet protocolに則ってFiO2<0.6であればSBTできるか毎日評価を行った。✓SBTはTピースまたはPS 8cmH2Oで、時間は最低30分で120分を超えない。✓もしSBTをクリアできれば、抜管してはいけない特別な理由がない限り抜管に挑戦した。✓NIV、再挿管、抜管、人工呼吸器設定についての決定は両群とも一般的な臨床基準で決定された。

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Primary outcomeランダム化後28日目の人工呼吸器離脱日数※抜管成功→ランダム化後28日間生存し再挿管なく48h経過した※28日間換気されているまたは28日前に死亡→0と記録

Secondary outcomeランダム化後60日目の死亡率※もし60日前に退院した場合は the electronic clinical recordから60日目の情報を収集※ the electronic clinical recordから情報を得られない場合は電話で患者やその親族に連絡をとり60日後の患者の状態を把握する。

その他のoutcome生存者の実際の人工呼吸器期間、ICU死亡率、院内死亡率、治療最初の10日間の高血糖、barotrauma、ICU滞在中の新規感染

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解析✓サンプルサイズ計算dexamethasoneが人工呼吸器離脱日数を2日延長 or 60日死亡率を15%減少させると推測。いくつかの先行研究から人工呼吸器離脱日数を9日、60日死亡率を48%と見積もった。Power:80% 、type I error:5%→314人(それぞれの群で157人ずつ)が必要※すべてのシナリオでサンプルサイズが最大となった314人を採用。

✓ITT解析 すべてのoutcomeに対して行っている✓連続変数はthe Student’s t test、カテゴリー値はFisher’s exact testを使用

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Results

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1006人がeligibilityを評価630人が除外ステロイドまたは免疫抑制薬投与(n=250)重度の慢性呼吸不全(n=98)ARDS発症から24時間以上経過(n=95)終末期(n=85)うっ血性心不全(n=47)治療制限(n=28)ICU staffが見過ごした(n=18)妊婦または授乳婦(n=5)別のtrialに参加(n=3)脳死(n=1)

376人がeligible99人が最初の24hで除外P/F≧200(n=70)Informed consentがなかった(n=23)24時間以内に死亡(n=3)ICU staffにより除外(n=2)スクリーニングミス(n=1)→277人がランダム化

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Control群(n=138)

スクリーニングミス(n=1)ステロイドが効く病態(n=2)

DEX群(n=139)

転院(n=1)プロトコール違反(n=1)スクリーニングミス(n=2)

Enrollmentが計画の88%(277/314)を超えたあたりでlow enrolment rateのためthe data safety monitoring boardによりenrollmentが中止された

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※2015年にCochrane reviewでARDSに対する腹臥位療法の有効性を示すmeta-analysisが発表されている。

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年齢 56 vs 58 才女性 31 vs 31%

SOFA score 8.7 vs 8.6ARDS診断からランダム化まで1.0 vs 1.0 日

ARDSの原因肺炎 54 vs 52%Sepsis 24 vs 25%誤嚥性 13 vs 11%

P/F比 142.4 vs 143.5TV 6.9 vs 6.9 ml/PBWPEEP 12.6 vs 12.5 cmH2Oプラトー圧 26.4 vs 26.1 cmH2O

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筋弛緩薬使用、リクルートメント、ECMOの比率に両群で左右差なし

腹臥位はControl群で有意に多かったDEX群 20.1 vs Control群 30.4% (群間差10·3%, 95%CI 4.0-20.3%, p=0·0492 )

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Primary outcome(28日人工呼吸器離脱日数)DEX群で有意に長い。DEX群 12.3 vs Control群 7.5 days(群間差95%CI 2.57-7.03 days, P<0.0001)

60日死亡率 21 vs 36%(群間差95%CI -25.9 to -4.9%, P=0.0047)ICU死亡率 19 vs 31%(群間差95%CI -22.4 to -2.3%, P=0.016)院内死亡率 24 vs 36%(群間差95%CI -22.9 to -1.7%, P=0.0235)→すべてDEX群で有意に改善

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施設毎の60日死亡数の表ランダム化された数によるサブグループ解析でも60日死亡率はDEXで低い

DEX群vs Control群<10:12.5 vs 38.9%、10-25:20.8 vs 32.6%、>25:22.7 vs 37.7%

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ICUでの死亡原因(DEX群 vs Control群)

多臓器不全 12 vs 23(P=0.0483)不可逆的ショック 6 vs 5(P=1)難治性低酸素血症 4 vs 7(P=0.34)脳死 0 vs 4(P=0.06)治療制限 2 vs 3(P=0.68)その他 2 vs 1(P=1)→多臓器不全はDEX群で有意に少ない

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ICU生存者の人工呼吸器期間 14.2 vs 19.5 days(群間差95%CI -8.4 to -2.2 days, P=0.0009)60日目生存者の人工呼吸器期間 14.3 vs 20.2 days(群間差95%CI -9.1 to -2.7 days, P=0.0004)→すべてDEX群で有意に改善

ICUでの高血糖 76 vs 70%(P=0.33)ICUでの新規感染症 24 vs 25%(P=0.75)Barotrauma 10 vs 7%(P=0.41)→すべて有意差なし

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New infection(DEX群 vs Control群)肺炎 12.2 vs 15.2%、敗血症 10.1 vs 8.0%、UTI 0.7 vs 0.7%膿胸 0.7 vs 0.7%、気管支炎 0 vs 0.7%

Pneumothorax(DEX群 vs Control群)片側性 9.4 vs 5.8%、両側性 0.7 vs 1.5%

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Control群 vs DEX群DEX群でDay 3にSOFA scoreがより早期に改善している(8.0 vs 6.6)DEX群でDay6にP/F比がより早期に改善している(192.0 vs 218.9)

TV(7前後)、プラトー圧(20前後)、PEEP(10~12前後)については各日数において両群でほぼ同じ

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Discussion

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この研究で何が分かったか✓moderate ~ severe ARDS患者にdexamethasoneを投与するとコントロール群と⽐較して、⼈⼯呼吸器離脱期間を4⽇以上短縮し、60⽇⽣存率を15%上昇させた。

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研究の問題点✓厳しいinclusionとexclusion criteriaによりeligible patientsの27%しかenrollできなかったため、 ARDSの患者全てに一般化できないこと。✓施設による管理法の違いが結果に影響を与えたかもしれない。しかし、その施設で両群ともステロイド以外は同じ治療をうけているので、その影響は最小限であると考える。✓このトライアルに参加したことで患者または臨床医の普段の行動を変化させたかもしれない。✓予定したサンプルサイズの88%でenrollmentを中止したこと。✓より長期または違った投与量のDEXの投与が違った効果を持つかどうかわからないこと。✓マスキングがないことは短期の評価に影響を与えるかもしれない。しかし、統計分析や長期の評価(60日)はマスクされているのでrisk of biasは低い

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著者の結論✓moderate~severe ARDS患者に対して早期にdexamethasone投与すると人工呼吸器期間と全死亡率を減らすかもしれない。

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Comment

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この研究にはいくつか問題がある。✓オープンラベルであること。筆者はARDSに対する筋弛緩薬の研究であるROSE trialもオープンラベルであったことから自身のstudyのデザインを正当化している。しかし、ROSE trialでのcontrol群はlight sedationであるためオープンラベルである必要性があったが今回の研究ではその論理的根拠がない。✓人工呼吸離脱期間は死亡と人工呼吸期間との複合outcomeであること、オープンラベルであることが人工呼吸期間に影響を与えている可能性があること。✓250人がランダム化前にステロイドが投与されていることで除外されていること。このことは、いくらかの臨床医がARDSにルーチンでステロイドを使用していることを示す。オープンラベルと相まってこのことは結果に影響を与える可能性がある。✓ランダム化が封筒法であること。この方法はランダム化研究においてsuboptimalであり様々なバイアスの影響を受ける。

Lancet Respir Med. 2020 ;8(3):220-222.

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✓患者数が目標に達しなかったこと。✓ステロイド群とコントロール群の60日死亡率の差が、今までのステロイドのstudyと比較して大きいこと。✓リクルートに6年かかっておりその間に標準治療にも変化があること✓追加で長期の再挿管率や180日死亡率も必要

結論✓今回の研究でARDSに対するdexamethasoneの潜在的な可能性は支持できるが、方法論的問題もありこの研究の結果はARDSでルーチンのステロイド治療を支持するには不十分である。

Lancet Respir Med. 2020 ;8(3):220-222.

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考察

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内的妥当性、外的妥当性

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Risk of bias

✓Random sequence generation→コンピューターによる乱数表✓Allocation concealment→封筒法✓Blinding→統計分析、長期アウトカム評価者以外は盲検化されていない✓Incomplete outcome data→loss of follow-upはなし✓Selective reporting→プロトコールと報告は一致している✓Other bias→早期試験中止

High risk

※Revised Cochrane risk-of-bias tool for randomized trials(RoB 2)Version of 22 August 2019

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Good points✓N数が過去のRCTで最大

Bad points✓Risk of biasがhigh risk✓両群で治療介入に差がある(DEX群で有意に腹臥位療法が少ない)✓研究期間が長い(6年)✓2018年と2015年で有意差はないが筋弛緩の使用率に変化がある

内的妥当性

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Good points✓今までのstudyと異なり、ARDSに対する基本戦略が実臨床に即している

Bad points✓ARDS患者のサンプリングに問題あり(eligible patientsの27%しかenrollできていない)✓再挿管率が低い(7%)→一般的には20%✓ICUAWの評価がされていない

外的妥当性

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まとめ✓内的妥当性はrisk of biasがhigh riskである、両群で治療介入に差がある点から低いと考えられる。

✓外的妥当性についてもサンプリングの問題が大きくARDS患者へ一般化できない可能性がある。

✓総じて内的妥当性、外的妥当性は低いと考えられる。

内的妥当性+外的妥当性

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ARDSに対するステロイド投与

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Hydrocortisone treatment in early sepsis- associated acute respiratory distress syndrome: results of a randomized controlled trial Critical Care 2016; 20:329

✓目的 敗血症関連ARDSへのhydrocortisoneの効果を調べるため✓デザイン 単施設ランダム化研究✓対象 severe sepsisでARDS基準を満たして12時間以内の患者✓介入ステロイド群(n=98):hydrocortisone 200mg/dを7日間コントロール群(n=99):placebo✓Primary outcome 28日全死亡率

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または抜管

年齢は60歳前後、P/F=170前後

Primary outcome(28日死亡率)両群で有意差なし ステロイド群 22.5% vs コントロール群 27.3%(RR 0.82 ;95%CI 0.50-1.34, P=0.51)

60日死亡率、28日人工呼吸器離脱日数→両群で有意差なし

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RCTの比較表Study 年 デザイン P N I C LTV 死亡Bernard 1987 多施設RCT ARDS(時期に制限なし) 99 mPSL(n=50) placebo(n=49) なし 有意差なしMeduri 1998 多施設RCT 呼吸不全7日目ARDS 20 mPSL(n=16) placebo(n=4) なし 有意に改善ARDSnet 2006 多施設RCT 7日以上経過したARDS 180 mPSL(n=89) placebo(n=91) 一部あり 有意差なしMeduri 2007 多施設RCT 発症72時間以内の早期ARDS 91 mPSL(n=63) placebo(n=28) 一部あり 有意に改善

Tongyoo 2016 単施設RCT severe sepsisでARDS基準を満たし12時間以内 197 hydrocortisone(n=98) placebo(n=99) あり 有意差なし

Villar 2020 多施設RCT 早期ARDS 277 dexamethsone(n=139) placebo(n=138) あり 有意に改善

LTVあり早期ARDS

✓直近2つは早期ARDSを対象としている点、LTVを行っている点から現代のARDS管理に近い状況で検証されている。

※LTV=low tidal ventilation

✓2006年のARDSnetで14日目以降のステロイド投与が予後を悪化させる結果からそれ以降のRCTは早期ARDSにフォーカスをおいている

✓方法、結果については様々でありこの表からステロイドの効果については評価できない。

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Meta-analysis

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Pharmacological agents for adults with acute respiratory distress syndrome (Review) Cochrane review 2019

✓目的 成人ARDSに対する薬物治療の効果を評価するため✓対象 成人でICU入室したARDS患者でcontrolと比較したRCT✓検索方法 CENTRAL, MEDLINE, Embase, and CINAHL で2018年12月10日に検索※肺保護戦略がされていなため2000年以前のstudyは除外✓Data collection+analysis2人の独立したreviewersが検索、評価。言語は英語、スペイン語、中国語。GRADEでevidenceを評価。異質性はI2 or Chi2で評価✓Primary outcome Early all-cause mortality

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Result(ステロイドについてのみ)

Secondary outcome(Late all cause-mortality >3ヶ月)1つのstudy。RR0.99(0.64-1.54)で有意差なし。Certainty of evidence:very low

Primary outcome(Early all-cause mortality ≦3ヶ月)6つのstudies。RR 0.77(95%CI 0.57-1.05) で有意差なし。Certainty of evidence:Low、I2 = 27%

結論:成人ARDS患者にステロイドを投与しても死亡率は改善しない

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まとめ

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✓今回の論文ではmoderate~severe ARDS群に早期にdexamethasoneを投与して人工呼吸器期間と全死亡率を改善した。

✓今回の論文には方法論的問題がある点、いままでのRCTではARDSに対するステロイドの効果が一定でない点から、普段の診療を変化させるほどのインパクトはない。

✓肺保護換気など現行のARDS管理をしている点、今までのRCTで評価されていなかったdexamethasoneを使用した点は評価できる。✓今後の追試に期待したい。