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LEARNING INNOVATION FREE INTERVIEW 1 7- 1 3-5-17 &M F TE 3-37 - 7 - . 1 1 P J

LEARNING FREE INNOVATION - io-maga.com──アメリカの企業内教育の考え方 をもう少し詳しく教えてください。 人材育成は、HRD(Human Resource Development)とHRM

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LEARNING INNOVATION

FREE上場企業の経営トップへ配布している雑誌です。

日本の企業内教育はゴールを目指さないのか。

創刊準備号

I N T E RV I E W日本イーラニングコンソシアム会長

小松 秀圀氏ベリングポイント株式会社 執行役員

吉田 健之氏熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授

鈴木 克明氏編集・発行 株式会社イオマガジン 〒107-0061 東京都港区北青山3-5-17 R&M2F TEL:03-3746-0997  本誌に関する問い合わせは、[email protected]までお願い致します。

2008年10月1日発行  発行人 菊野ひとし

創刊

準備

Printed in Japan

なぜ?

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経営に必要な「知のマネジメント」を 実現するeラーニング人材は宝と謳いながら、旧態依然とした企業内教育を続けている日本。このままでは日本は情報化社会における国際競争から完全にドロップアウトする!日本の企業内教育に危機感を抱き、eラーニングを中心としたシステム化等の改善活動を行っている小松秀圀氏に、日本の企業内教育の現状と、今後、進むべき道を聞いた。

今のままでいくと日本は、知的エンジンが弱い社会になる

~日本イーラーニングコンソシアム会長 小松 秀圀氏~

──国際社会における日本の企業

内教育の現状を教えてください。

 先進国では、教育は投資だという

考えが広く浸透しています。働く人も

組織も迅速に変革し、時代に対応し

て生き残っていくという共通意識があ

り、その手段として教育が積極的に

使われている。しかし、日本は違います。

 情報化社会の競争力という面に

おいて日本は今、まるで教育という

重要なエンジンを忘れた車のようだと、

企業内教育に携わる仲間たちは皆、

非常に強い危機感を抱いています。

 同じアジアでいえば、韓国も台湾も、

競争力の根源は、知=ナレッジとい

うことに気付いています。韓国の場

合は、ナレッジが国の競争力を上げ

ると、国として明確に定義していま

すが、日本はまだそこに気付いてい

ないのに等しい。このままでは日本は

知的エンジンが弱い社会になる可能

性がある。非常に怖いことです。 

 知的な競争力がない。情報化社

会に対応できるスピードがない。そ

んな日本の現状を憂慮し、なんとか

しなければという思いで、私はeラー

ニングの普及活動を続けています。

──企業内教育において、日本が

遅れをとっているのはなぜでしょうか?

 たとえばアメリカの場合、企業内教

育の価値観が国の文化としてはっき

りしています。広い国ですが、どこに

いってもほとんど違いがない。

  企 業 内 教 育 の 価 値 観 の 中 で

Valuesといわれる、「会社の理念や

価値観、文化、倫理観の共有」は、

日本の企業内教育でも盛んにやって

いる文化的な側面ですね。もちろん、

そこも大切なのですが、さらに重要な

ことがあります。

 それは、「会社のミッションやゴール

といった目標達成に必要な人材育成」、

「事業戦略に必要なコンピテンシー(能

力)を持った人材育成」と「事業の

スピードアップ」の3つです。日本の

場合はこれらの価値観がないに等しい。

そこが全く違います。

 日本の教育はとにかく、学習者に

仕事のできる能力よりも知識を与えよ

うとします。アメリカはまず、目的の仕

事をするにはどういう能力が必要か、

能力を分析して、足りない能力を補

うように教育を実施する。双方の教

育効果・効率の違いは明らかですね。

まして、仕事に関連する情報量が飛

躍的に増大している現代においては

なおのことです。

──「教育は投資」という考え方も

あまり日本にはありませんね。

 その通りですね。アメリカでは、人

材育成はすなわち自社の競争力の

強化につながるのだから、教育=

投資だと考える経営者が多いのです。

 たとえばグローバル規模でのeラ

ーニング化など、大胆な企業内教育

の改革を成し遂げたアメリカ企業に

秘訣を尋ねると、必ず「トップダウン

ですよ」と答えますよ。

 企業が投資するわけですから当然、

教育にも評価が必要です。投じた

分のリターンが返ってこなければなら

ない。実際に返ってきているかどうか、

アメリカには、それを評価する文化

が共有されています。「カークパトリ

ックの4段階評価」がよく知られてい

ますが、その評価活動を通じて、実

際に教育を担当している人と経営者

が対話をしていきます。

 日本の場合は、文化的な教育が

中心ですから、教育費用を使って

企業にどう返ってきたのかという対

話ができません。研修の結果、CS

(Customer Satisfaction=顧客満足)

の向上が認められることはあるでしょ

う。では、生産性や売上がどう上が

ったかというと、ほとんどわからない。

しかし、企業にとって大切なのは、実

は後者のほうなのです。

──アメリカの企業内教育の考え方

をもう少し詳しく教えてください。

  人 材 育 成は 、H R D( H u m a n

Resource Development)とHRM

(Human Resource Management)

という2 つの大きな柱があります 。

HRDは、その仕事をするために必

要な能力を測定して、教育プログラ

ムを作り、その結果を評価する仕組

みをDevelop(開発)する人たち。

HRMは、能力のある人たちの待遇

面を整えたり、勉強の成果を昇格に

反映させるManagement(管理)

を担当する人たちです。

 HRMはいわゆる人事ですが、日

本には、戦略的に人材育成を計画す

るHRDという職域が弱いのです。多

くの場合、人を育てるには人事異動

で経験を積ませるしかないのです。こ

れでは、能力のあるなしが、大きく経

験に左右されてしまいますし、人が成

I n t e r v i e w - 1H i d e k u n i K o m a t s u

02 Lear n ing Innovat ion Lear n ing Innovat ion 03

小松 秀圀氏NTTラーニングシステムズ株式会社 総合研

修事業部 企画調査室長。日本の教育のシ

ステム化ビジネスに携わるとともに、10数年

アメリカの教育事情を調査。近年では、eラ

ーニングの普及をはじめ、企業内教育を改善

する社会的活動を行っている。

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0 20 40 60 80 100

「仕事ができてこその教育だ」 という当たり前の思想がない

I n t e r v i e w - 1

長するまでに時間がかかりすぎます。

 現在の情報化社会においては、

お客様のニーズもテクノロジーも仕

事の内容も、日々刻 と々変化します。

しかも、仕事に関連して発生する情

報量もスピードもこれまでと比較に��

りません。自分自身も社会と同じスピ

ードで変化し続けないと、社会の構

造に合わなくなります。

 つまり、世の中のあらゆるものが

ICT(Information and Commu-

nication Technology)の登場に

よって、著しいスピードで変化し、広

がってきている現在、教育にICTを

使わなければどうなるでしょう。教育

だけが世の中の仕組みから外れ、

機能不全に陥ってしまうのは容易に

想像がつくことです。

──そこでeラーニングが重要になっ

てくるわけですね。

 アメリカの大企業のうち、すべて

の教育の約4割がeラーニングで行

われています。日本の場合は、6~7

%といったところでしょうか。eラーニ

ングの活用量が少ないということは

同時に、eラーニングの活用場面が

少ないということを示しています。

 日本でeラーニングの活用が少な

い理由は、いわゆる構造化された情

報・知識を一方的に与えることを教

育だと思っているからですね。です

からどうしても、対面型の集合教育

がメインとなる。しかも、そこで教えら

れるのは、あまり変化することのない

基礎的なストック情報が中心です。

 ところが指導者やベテラン社員た

ちは、そういった基礎的な知識だけ

で仕事をしているわけではありません。

彼らは、自身の「経験」と、社内外

の誰がどんな情報を持っているかを

把握し、その人が持つ知識・ノウハ

ウを自分の仕事に活用できる「コミュ

ニケーション能力」を持っている。

 新人をそのレベルまで引き上げよ

うとすると、現状では人事異動によ

って経験を積ませるしかありません。

当然、時間がかかります。ところが、

社内SNSを構築し、いつでも必要な

ときに誰かに業務上のわからないこ

とを聞けるなど、ICTによるeラーニン

グ教育の環境を整えれば、新人は

今よりもっとばらつきがなく、スピーデ

ィに育つことができるのです。

──日本では、eラーニングのイメー

ジが固定化している気がします。 

 情報提供型のベーシックなeラー

ニングコンテンツもこれまで同様に重

要ですが、情報共有やコミュニケー

トにeラーニングをもっと活用すべき

です。日本の場合、そこができてい

ないのはテクノロジーの問題というより、

思想の問題ですね。「実際に仕事

ができてこその教育だ」という当たり

前の思想がない。外国の識者がよく

「KnowからCan doへ」と言います

が、とてもいい言葉ですよね。「知っ

ている」ことから「実際にできる」。し

かも、情報化社会において、仕事が

できることが重要です。

 教育、ラーニングというのは、企

業が人を育て、組織を活性化し、

業績を上げていくためのものです。

 日米の企業内教育の違いがよくわ

かるデータがあります。日本人は教材

を作る際、すぐシラバス(教育内容)の

検討から始めますが、ボーイング社

が発表したデータでは、「何を教える

のか」という分析・評価の段階に全

体の約40%の時間を割いている。日

本人は、せいぜい10%くらいでしょうか。

 そこが弱い、つまり、実務に役立つ

かどうかわからない知識を一方的に

提供されても、教えられる側は迷惑な

だけです。教育の専門用語に「行動

変容」という言葉がありますが、教育

をなぜやるのか、何をやったら行動が

変容できるのか。日本ではその分析

がないまま理屈をまるごと教えられるこ

とが多い。それは覚える側にとっては

教育の成果を「行動変容」に活かす

には非常に効率が悪い教育です。

 ラーニングの効率とスピードを上げて、

結果のばらつきをなくし、内容を豊富

にしていく、そのためにICTを使う。

ですからICTを使った教育はすべて

eラーニングの領域となります。非常に

幅が広く将来性があります。

 かつて、eラーニングはコスト削減を

目的に導入する企業が多くありました。

しかし、これからは、eラーニングは生

産性向上を狙う時代です。経営の最

も重要なリソースである「知のマネジメ

ント」をeラーニングが担っていくのです。

──eラーニングの導入によって、企

業も大きく変わっていきそうですね。

 「集合知」という言葉がありますが、

ICTなしには実用化し難い概念でし

ょう。企業内システムの構築方法に

よっては、組織全体がもつ情報が“集

合知”になることも可能です。

 ICT環境の中で仕事をすると、自

分が手がけた仕事に関する情報等

がすべてコンピュータにインプットされ

ていくわけですから、社員が毎日普

通に仕事をしているだけで集合知

が蓄積され、組織自体が知的に新

しくなっていく。つまり、集合知のレ

ベルがどんどん上がっていくんですね。

コンピュータを活用するほどに組織

ごと利口になっていく。組織は若返

るし、そこで働く社員たちも、常に新

しい情報を使えるから日々成長して

いく。なぜそんな素晴らしい仕組み

を使わないのでしょうか。

──企業内教育について、経営者

へメッセージをお願いします。

 個人でも企業でも、現在は、必ず

独自のニーズを持っている時代です。

みんなが他よりもっといいもの、もっと

優れたものを自分ためにカスタマイズ

してほしがっています。業界を問わず

ほとんどの場合、そのニーズに対する

提案能力が競争力の鍵を握っています。

なのにその対応を、日本企業はまだま

だその能力の育成を個人の知恵の

範囲に頼っているのが実情です。

 100人の社員の知恵が詰まってい

るコンピュータがあり、それを自由に

使える企業と、コンピュータを活用で

きないまま、社員1人ひとりがささやか

な知恵で個々ばらばらな情報を提供

している企業。その仕事のレベルと

スピードの違いを想像してみてください。

 経営者は、そこに気付かないとい

けません。人材の能力のばらつきを

放置していませんか? 社員が育つ

スピードは同じですか? 新人が実

際に仕事をできるようになるまでに育

成するスピードを上げる努力をして

いますか? 日本の企業は、社員の

成長がほとんど管理・サポートされ

ていません。それで、この情報化社

会の変化に対応できるでしょうか。

できていないのが現状です。

 日本が、情報化社会で生き残る

ために、日本の企業の経営者の方々

にはぜひ、eラーニングを主体とした

新しい概念の企業内教育の必要性

を認識していただきたいと思います。

eラーニングの導入は進んでいるが・・・・

5000人 以上 (n=29)

2000~4999人 (n=35)

1000~1999人 (n=44)

300~999人 (n=37)

300人 未満 (n=9)

■事業のスピードアップ

■事業戦略に必要なコンピテンシーを持った人材育成

■Values(理念、価値観、文化、エシックス)の共有

■会社のミッション、ゴール(目的)達成に必要な人材育成

企業内教育の価値観

出典:eラーニング白書 2007/2008

■導入している ■導入を検討している ■導入していない ■無回答

H i d e k u n i K o m a t s u

04 Lear n ing Innovat ion Lear n ing Innovat ion 05

82.8%

62.9%

11.4%

22.9%

2.9%

0%

36.4%

15.9%

47.7%

0%

40.5%

18.9%

37.8%

66.7%

22.2%

11.1%

0%

2.7%

6.9%

10.3%

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経営にスピードは不可欠。しかし研修には活かされていないeラーニング先進国であるアメリカの企業内研修は、一体どのように行われているのだろうか。事業戦略と研修との結びつき、トップの研修へのコミットメントなど、海外でのコンサルティング経験も豊富な人材マネジメントのプロフェッショナル、ベリングポイント株式会社 吉田健之氏に語ってもらった。

トップがコミットする研修は、戦略実現のための必須のツール

吉田 健之氏米系大手コンサルティング会社を経て、ベリ

ングポイント入社。現執行役員、HRMソリュ

ーション統括マネージングディレクター 兼 ア

ジア太平洋地区ソリューション・リーダー。グ

ローバル人材マネジメントをはじめ、業界を超

えて多数の人事領域プロジェクトに従事。

世界135カ国を歴訪。

~ベリングポイント株式会社 執行役員 吉田 健之氏~

──日本とアメリカの企業研修の違

いについて教えてください。

 まず、研修を受ける側の意識が大

きく違います。日本は、自分で選んだ

仕事を自分のやり方で遂行する「社

内プロフェッショナル」がまだまだ少

ない。「なぜこのタイミングで、この内

容の研修を受けるのか」等を深く考

えず、上司に指示されたので来ました、

と。そんな社員が多くなっているのが

日本企業の実態です。

 一方、プロ意識が高いアメリカの場

合は、自ら進んで研修に参加するの

が普通ですね。この研修で何かを獲

得し、自分のスキルや知識を増大さ

せるという明確なイメージを持って研

修にのぞむので、学習効果が大きい。

 研修のコンテンツも、レクチャー主

体の日本とは異なり、アメリカは自分

で考えさせる内容が主です。結果が

間違っていてもいい。答えに至るまで

の「思考のプロセス」が重要視されま

す。たとえば、お客様のニーズを真に

理解しているか、なぜ現在提供して

いる製品とサービスが最適な組み合

わせだと言えるのか等…。その仕事

のプロといえる思考に基づく行動基

準が身につくまで徹底的に学びます。

──研修へのトップの関わり方も日

米で違いがあるのでしょうか。

 日本は研修の企画と、企業の経営・

事業戦略との結びつきが弱いですね。

アメリカの場合は、トップマネジメント

が研修を戦略的に捉えています。た

とえば、企業買収で成長してきたシス

コシステムズは、買収先が自社と短時

間で融合できるように、買収した企業

の社員が学ぶためのeラーニングサイ

トをあらかじめ用意しています。多く

の米国企業は、買収に限らず、新規

事業立ち上げや事業の方向性の変

化など、経営上の大きな変化を起こ

す際には、会社が目指す新しいステ

ージに短時間で到達できるような研

修を事前に準備します。また、精緻

なものではないですが、各社なりの

方法で主な研修の効果を推定し、4

半期毎に経営陣が議論し、関係す

る部門に開示しています。

──アメリカのeラーニング研修の特

徴を具体的に教えてください。

 アメリカの場合、日本に比べ、コン

テンツの作りやビジュアルは全般的に

シンプルです。パワーポイントの箇条

書きに音声が付いているだけというも

のも数多くあります。

 会社が設定した研修期限を守らな

いと昇級やボーナスが支給されないと

いった厳しい条件の下、受講者は必

死に学びます。従業員数万人規模の

企業でも、研修の企画から全社員が

研修を終えるまで約3~5カ月という速

さです。日本は、来年実施する研修

のすべてを前年度に企画していたり

して、非常に遅い。

 ただ、日本は、愛社精神を育んだり、

集団的合意を得るための研修の工

夫は富んでいますね。また、現場のニ

ーズを吸い上げて研修に組み入れる

などの親切さはある。

 もっとも、アメリカの企業が、時間と

お金をかけてコンテンツを作る場合も

あります。そこで日本が学びたいのは、

受講者を引きつけるエンタテイメント性

ですね。要所要所に笑える仕掛けが

盛り込まれていて、とても面白い。研

修は、年間トータルでの効果を狙いま

すから、シンプルかつスピーディなもの

と、時間をかけたリッチなものと両方

があっていい。コンテンツ制作にもダイ

ナミックな予算配分が必要なのです。

──効果的なeラーニング研修の具

体例を紹介してください。

 グローバル企業にとっては特に、e

ラーニングは有効だと思います。

 日本本社のトップマネジメントの理

念を全世界の外国人社員たちに伝

えることを目的にLMS(Learning

Management System)を導入して

いる某メーカーは、従来はDVDで配

布していたのですが、各国の拠点長

が、誰がいつ見たのかを把握できな

いという問題点がありました。しかし、

LMSの機能により、世界中の社員の

受講状況がチェックできるようになり、

さらに閲覧していない社員に対しては、

受講を促すメールがトップから直接届

くため、大きな効果が期待できます。

 また、某プロフェッショナル企業の

研修教材の動画に、社内ではカタブ

ツで通っている社員に敢えて役者とし

て登場してもらったことがあります。

教材に社内の人間が出演していると、

社内の話題作りにもなり、親近感や

好奇心もあって学習意欲が高まります。

 また研修を成功させるポイントの1つ

は、研修の進捗管理を本人の直属の

上司が行うことです。人事部と受講

者だけとの関係では、なかなかやる

気になりにくい。上司と人事部が常に

連携を取り、効果的に学習を進めら

れる社内の仕組みづくりが必要です。

──今後、経営者が研修について意

識しておくべきことは何でしょうか。

 ひとつはスピードです。経営にスピ

ードが要求されている今、当然、研

修にも要求されているはずですが、

日本は、研修担当者はもちろん、トッ

プの意識もそこまでついて行ってい

ないと感じています。

 研修のスピードをアップするには、

トップマネジメントからのコミットメント

が必須です。新たな事業戦略を実

現するための研修コンテンツを短期

間で制作させ、今後の展開を全社

内に通達し、研修部門とともに徹底

的にやり抜くことです。研修部門と

はもっと話す機会を設けて経営課題

をより理解させることで、研修部門

の意識が高まり、会社の中での役

割や期待も拡大します。また、研修

部門の人材を安易にローテーション

の対象とせず、社内プロとして育成

することも重要です。プロが企画した、

経営理念や事業戦略に合致したタ

イミングの良い研修は、抑制対象の

費用ではなく、ローリスク・ハイリタ

ーンな投資であり、かつ戦略実現の

ための必須のツールだということを、

経営者の方々にこそ、ぜひ理解して

いただきたいですね。

I n t e r v i e w - 2K e n j i Y o s h i d a

06 Lear n ing Innovat ion Lear n ing Innovat ion 07

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現状の分析をしないで、なぜ企業内教育を考えられるのか?

「インストラクショナルデザイン」という言葉をご存じだろうか?欧米や韓国など、日本以外の先進国では周知の概念であり、今後の企業内教育を考える上で重要なキーワードのひとつだ。インストラクショナルデザインを本場アメリカで学び、日本初となる大学院教育を展開中の鈴木克明教授が語る、社員のやる気を引き出す魅力的な企業内教育とは。

失敗したときが一番、

聞く耳を持ちます鈴木 克明氏

東北学院大学教養学部助教授、岩手県立

大学ソフトウェア情報学部教授等を経て、現

職。学術博士(フロリダ州立大学、教授シス

テム学)。放送大学大学院客員教授。eラ

ーニングの専門家養成の文脈で、インストラ

クショナルデザインを教えている。

~熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授 鈴木 克明氏~

──日本では学校でも企業でも、伝

統的な教育方法が重んじられている

ようですが、海外では違うようですね。

ご専門のインストラクショナルデザイ

ンの概念からまず教えてください。

 私は現在、熊本大学大学院にお

いて、インストラクショナルデザイン(以

下、ID)を中心とした講義を行って

います。実は学問として体系的に

IDを学べる機関は、本講座が日本初。

そのくらいIDは、日本にはなじみが

ない学問なのですが、既に誕生か

ら50年、欧米では教育工学の中心

的な分野です。

 では、具体的にIDとは何かという

と、教育を効果的・効率的・魅力

的にするためのシステム的な方法論

です。

 IDのプロセスはまず、現状の研

修には何が足らないか、何を教育し

なければならないかの分析からスタ

ートします。同時に、何が達成され

れば研修の効果があったと言えるの

かを明確にする具体的な評価基準

を策定します。そして、受講者の特

徴や、与えられた研修環境やリソー

スの中で、最も効果的で魅力的な

研修方法を設計・開発し、その研

修を実施し、評価し、修正していき

ます(ADDIEモデル)。

 これらのシステムズアプローチは、

ソフトウェア開発やその他の一般業

務においては、当然のように行われ

ていることです。ではなぜ、教育の

分野では、これまでやらないできた

のでしょうか? それは、こういった

プロセスを踏んで教育をトータルに

デザインできる専門家が日本には存

在しなかったからです。

──特に「分析」が日本ではあまり

行われていないような気がします。

 IDにおける分析とは、「この教育・

研修を行うことによってどういうメリッ

トをもたらしたいのか?」を突き詰め

ていくことです。それを考えずに、

有名人の有難いお話を拝聴するこ

とや、もしくは研修所へ出かけてい

ってリフレッシュするのが研修だとい

う慣例を続けていて一体何になるの

か?(笑)このように、聞いてはいけ

ないところを聞いて明らかにするの

が分析ですから、物事の白黒をは

っきりつけたがらない日本にはあまり

浸透しないのかもしれませんね。

 IDに関して日本人にまず認識し

て欲しいのは、学校の先生ではな

い「教育の専門家」が存在すると

いうことです。欧米、韓国では、ID

を専門とするインストラクショナルデ

ザイナーが企業内教育とタイアップ

して一緒に共同研究を行うのは当

たり前の姿です。専門家がタッチす

るのとしないのとでは教育の効果・

効率が全然違います。たとえば企

業が会計士を雇うように、素人とは

違う「差」を生み出せる教育のプロ

フェッショナルが世界では活躍して

いるのです。

── IDを導入すると、企業はどう変

わるのでしょうか?

 教育コスト削減や社員の活性化等、

IDによって期待されるメリットは数多

くあり、導入する企業によって異なり

ます。が、その効果は、実際にID

を導入し、運用を始めてみないと把

握することができません。IDは、一

発勝負で効果を上げるものではなく、

評価と分析を繰り返しながら修正を

加えていくものだからです。

 ただ、少なくとも、IDを導入する

ことは、これまでの教育方法を見直

すいい機会になると思います。プロ

の視点が入ることにより、問題点が

浮き彫りになるかもしれませんし、逆

に「これでいいんだ」と今のやり方

に安心することができるかもしれま

せん。

 これからの時代は、人材開発の

視点から企業の将来を考える、つま

りIDの知識がある人間が社内に1

人いたほうがいいと思います。という

より、なぜ、そういう人材無しに企業

内教育ができているのかが、私は

不思議なのですが(笑)。研修の目

的等、分析の上流工程を押さえ、

教育の効果をきちんと点検でき、外

部コンサルタントの質を見極められ

るくらいの人材は最低限、必要でし

ょう。もちろん、すべての教育関連

業務をその人が担当する必要はなく、

研修の実施やeラーニングコンテンツ

の制作等は、アウトソーシングすれ

ばいいのですから。

──受講者をやる気にさせる研修とは、

一体どのようなものでしょうか?

I n t e r v i e w - 3K a t s u a k i S u z u k i

08 Lear n ing Innovat ion Lear n ing Innovat ion 09

IDで活用されるADDIEモデル

分 析Analysis

設 計Design

開 発Development

実 施Implementation

評 価Evaluation

フィードバック

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創業者の哲学も必要だが、テクニカルな教育も不可欠

 自分のためになると思えば、みな

自ら進んで学ぶわけです。自分のた

めになる企業内教育というのはすな

わち、業務に直結し、自己の成長を

実感できる研修です。

 あるいは、もう少し中期的に見て、

会社のコアコンピテンシーになれる人

材を育てることを目的とした研修が

行われ、社員が積極的に参加する

ようになれば、経営者も受講者も双

方がハッピーでしょう。

 福利厚生の枠を出ない日本のリフ

レッシュ型研修を教育と思っている、

まず、その意識を変えることが必要

です。明日にも役に立つ業務直結型、

または中期的に見て会社に貢献す

る研修、さらにはエンプロイアビリティ

(Employability=雇用される能力)

にもつながるような研修など、社員自

身が自分の成長を実感できるような

プログラムがあれば、社員の研修に

関する取り組み方が変わると思います。

──自分の成長を実感できることが

大切なポイントの一つでしょうか。

 自分が成長したという実感を得る

には、自分がまずできないのだという

ことを知ることが必要です。ですから、

学び始めは、皆がつらい(笑)。

 人は自分の能力不足を認識して

初めて勉強の必要性を感じますから、

IDでは、「研修で失敗の経験をどう

与えるか」をデザインすることも多々

あります。研修という非常にリアルな

状態で失敗を経験させ、リカバーの

方法までを学んでから現場へ出すと、

取引先での対応能力が増すのです。

できるようになった喜びを成長の実

感として持たせ、最後は必ず成功

体験で終わらせることが大切です。

研修で自分のものとなったその経験

を糧にして、これからも頑張って仕

事をしましょうということです。

 また、日本は特に、教育担当者が

教えたがりで、受講者に考えさせる

ことをせずに、正解をすべて言って

しまう傾向にありますね。IDの研究

成果ではそれはNGとされています。

とにかく、本人に実際に体験させる

ことです。失敗したときが一番聞く

耳を持ちますから、そのときにジャス

トインタイムでアドバイスをするのが最

も効果的なのです。

──IDに欠かせない重要なツールと

してeラーニングがありますね。   

 eラーニングも、日本はまだまだお

勉強の発想から抜けていないと感じ

ています。基礎的な情報を一方的

に提供するだけでなく、業務への活

かし方を伝えるとともに、業務と一体

化したeラーニングコンテンツをもっと

開発しなければなりません。

 eラーニングはもともと情報共有の

ツールです。最先端の情報を共有

するという意味では全世界への展

開がスピーディにできますし、また、e

ラーニングは評価にも有効です。従

来のような上意下達的に伝える研修

ではなく、逆に下から上へと現場の

情報を吸い上げ、広く流通させるツ

ールとしてもeラーニングは非常に有

効です。

 人は互いに学び合うとき、より効

果的で密度の濃い学習が成立します。

受講者同士、あるいは教える側、学

ぶ側の立場が逆転するというダイナ

 

ミックな学習の展開を支えていくイン

フラがeラーニングシステムだと私は

認識しています。eラーニングは今後、

まだまだ可能性を秘めているはずです。

eラーニングは、この情報化社会に

ふさわしい人材開発の強力なツール

なのです。

──最近、印象に残ったeラーニン

グ研修を具体的に教えてください。

 アメリカの例ですが、企業と利害

関係者間の調整役を担う人のため

に作られた研修プログラムが素晴ら

しいものでした。

 緻密に練り上げられたシナリオスト

ーリーのもと、受講者が仮想的な街

で失敗を含めたさまざまな体験を積

んでいくというeラーニング研修なの

ですが、問題が起きたときの解決法

など、過去その仕事に携わった人た

ちの膨大な暗黙知をライブラリーとし

て随時、参照できるような作りになっ

ているのです。情報を一方的に与え

られるのではなく、地域集会に参加

するなど、バーチャルな世界でほと

んど実際の業務そのものの、様々な

体験をしながら学んでいくので、学

習効果は高いはずです。実際、こ

のプログラムは相当な効果を上げた

と聞いていますし、熊本大学大学院

でも大変注目していて、参考にしよう

としています。

──企業内教育について、経営者

へメッセージをお願いします。

 創業者の人となりや哲学をいかに

社員に徹底していくかが、これまで

の日本の企業内教育で重要視され

てきた部分だと思います。それも大

切なのですが、今後は、社風や創

業理念といったいわゆる「メンタル」

な部分と、仕事を着実に遂行するた

め、または新しい領域に果敢にチャ

レンジしていくための知識・スキルを

増やす「テクニカル」な部分、その

両方を大事にした研修を行って欲し

いですね。

 景気がよくて、モノがどんどん売

れた時代は、そのあたりをシリアスに

考えずに済みました。しかし、変化

が激しい現在の情報化社会、より効

率を求められる次の一手として、社

運を賭けて人材育成に取り組むトッ

プの姿勢こそが何より大切ではない

でしょうか。

 学問的な体系に裏付けられたID

の専門性を今後どうやって活用して

いくのか。さらなるeラーニングの活

用を含め、現在の教育にまた違った

面をプラスするという意味で、IDを

視野に入れて今後の人材教育を再

考していただければ幸いです。

I n t e r v i e w - 3K a t s u a k i S u z u k i

10 Lear n ing Innovat ion Lear n ing Innovat ion 11

この雑誌を作るきっかけを与えてくれた

のは、日本eラーニングコンソシアムの

小松秀圀会長のこんな言葉でした。「先

進国では教育を投資と考え、働く人も

組織もどんどん変革し、時代に対応し

て生き残っていく道具として教育が使

われている」。確かに日本でも企業文

化を伝えたり、コンプライアンス等を学

ぶeラーニングはありますが、生き残る

=収益を上げるための教育というのは

あまり聞きません。企業内教育自体が

確立されていない面があるかもしれませ

ん。そこで、この本では、日本の企業

内教育という、なかなか見えにくい世

界をのぞきながら、より効果的で、魅力

的な教育を考えられる場になればと思

っております。ダーウィンの言葉に、~

最も強い者が生き残るのではなく、最

も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、

変化し続けるものだけが、生き残る~

というものがあります。まさにその視点

で企業内教育の「今」を見ていければ

と考えております。

なお、この雑誌はフリーペーパーです

ので、広告等でご協力いただける企業

様もお問い合わせいただければ幸いです。

編集部から

編集及びライティング●坂内和泉、下村理恵、飯野高之

カメラマン●光齋昇馬

デザイン●広告農場(紺谷宏明)

広告●渡辺滋

発行人●菊野ひとし

発行元●株式会社 イオマガジン

        本誌掲載記事の無断転載を禁じます。

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