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25 For the Renovation of the Interface of the Mahara Kouichirou Hiratsuka キーワード (key words) Mahara、e ポートフォリオ(e-Portfolio) Maharaのインターフェース改良に向けた取り組み 平 塚 紘一郎 (2012年 1 月31日受理) 習支援システムにおいて各ソフトウェア利用率も みても、SNSLMSが活発に利用されているの に比べるとeポートフォリオの利用率は極端に低 く、少数の教員が使用しているのみである。 e ポー トフォリオのソフトウェアにはオープンソースの Maharaを採用しているが、その使いづらさに利 用率の低さがあると考え、インターフェースの改 良へ向けた研究会を行った。ここではその研究会 で挙げられたMaharaの不満点をまとめ、その改 良に向けた取り組みについて報告する。 2.e-ポートフォリオの現状 2.1 eポートフォリオの利点 ポートフォリオには、学生が個人のプロフィー ルを記録したり、レポートや資格の取得状況など の就学中の学習成果も蓄積したりしていく。この ような記録を取っておくことで、学生自身で学習 履歴や学習成果の振り返ることができ、どのよう なことを学んできたかを確認できる。就学中の成 果をまとめておくことで就職活動の自己PRにも 用いられる。このようなキャリア支援のために高 等教育機関に導入されている例もある。 1.はじめに 近年、授業の資料提示や課題提出といった板 書や紙で行われていたものの代わりとしてLMS Learning Management System)が、特に大学 や短大といった高等教育機関においてよく用いら れ始めている。また、ポートフォリオにおいても、 電子化された e ポートフォリオが用いられるよう になってきている。このように、パソコンやネッ トワーク環境の個人・教育機関への普及、また、 ストレージの大容量化などに伴い、e-Learning システムを用いた教育が活発に行われるように なってきた。LMSMoodleの台頭もあり、普及 が進んできている。しかしながら、現在、LMS と比べると e ポートフォリオには普及が進んでい るとは言い難い。 福井県の高等教育機関が連携して行っているF レックスプロジェクトにおいては、学習支援のた めにSNS Social Networking Service)、LMSe ポートフォリオの3つのソフトウェアを導入し ている。これらはSSO Single Sign On)により 透過的に利用できるようになっており、学校間で 様々な学習資源を共有することができる。この学

Maharaのインターフェース改良に向けた取り組み - …Maharaを採用しているが、その使いづらさに利 用率の低さがあると考え、インターフェースの改

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Page 1: Maharaのインターフェース改良に向けた取り組み - …Maharaを採用しているが、その使いづらさに利 用率の低さがあると考え、インターフェースの改

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For the Renovation of the Interface of the Mahara

Kouichirou Hiratsuka

   キーワード (key words)

     Mahara、eポートフォリオ(e-Portfolio)

Maharaのインターフェース改良に向けた取り組み平 塚 紘一郎

(2012年 1 月31日受理)

習支援システムにおいて各ソフトウェア利用率もみても、SNSやLMSが活発に利用されているのに比べるとeポートフォリオの利用率は極端に低く、少数の教員が使用しているのみである。eポートフォリオのソフトウェアにはオープンソースのMaharaを採用しているが、その使いづらさに利用率の低さがあると考え、インターフェースの改良へ向けた研究会を行った。ここではその研究会で挙げられたMaharaの不満点をまとめ、その改良に向けた取り組みについて報告する。

2.e-ポートフォリオの現状

2.1 eポートフォリオの利点 ポートフォリオには、学生が個人のプロフィールを記録したり、レポートや資格の取得状況などの就学中の学習成果も蓄積したりしていく。このような記録を取っておくことで、学生自身で学習履歴や学習成果の振り返ることができ、どのようなことを学んできたかを確認できる。就学中の成果をまとめておくことで就職活動の自己PRにも用いられる。このようなキャリア支援のために高等教育機関に導入されている例もある。

1.はじめに

 近年、授業の資料提示や課題提出といった板書や紙で行われていたものの代わりとしてLMS

(Learning Management System)が、特に大学や短大といった高等教育機関においてよく用いられ始めている。また、ポートフォリオにおいても、電子化されたeポートフォリオが用いられるようになってきている。このように、パソコンやネットワーク環境の個人・教育機関への普及、また、ストレージの大容量化などに伴い、e-Learning

システムを用いた教育が活発に行われるようになってきた。LMSはMoodleの台頭もあり、普及が進んできている。しかしながら、現在、LMS

と比べるとeポートフォリオには普及が進んでいるとは言い難い。 福井県の高等教育機関が連携して行っているF

レックスプロジェクトにおいては、学習支援のためにSNS(Social Networking Service)、LMS、eポートフォリオの3つのソフトウェアを導入している。これらはSSO(Single Sign On)により透過的に利用できるようになっており、学校間で様々な学習資源を共有することができる。この学

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平成23年度 第44号仁愛女子短期大学研究紀要

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 このようなポートフォリオを電子的に行うのがeポートフォリオである。eポートフォリオでは、紙などによるポートフォリオと比べると幾つか利点がある。まず、パソコン上などで電子的に作成したレポートなどをそのまま蓄積できることが挙げられる。授業におけるレポートは、ワープロソフトや表計算ソフトなどにより電子的に作成する機会が増えており、ポートフォリオ上にアップロードすればそのまま蓄積できる。次に、データの複製・再利用が容易に可能であるため、既存のデータから必要なデータを用い、ポートフォリオの使用目的に合った形にまとめ直すといったことも手軽に行うことができる点が挙げられる。紙のポートフォリオではこのような加工は非常に手間がかかると思われる。また、システムの管理がしっかりとしていればデータ紛失のリスクもかなり減らすことができる点がある。利用者側からみた管理の手間は大きく軽減される。さらに、インターネットが利用可能な環境であればどこからでも更新・参照ができる点が大きい。これに関連して、教員や学生同士で閲覧・コメントを付けることができるので、利用者の学習意欲を更に向上させることができると思われる。教員側から見てもメリットがある。eポートフォリオ上にさまざまな情報が集約できるため、個々の学生に対するサポートがし易くなる。

2.2 eポートフォリオの普及阻害要因 ポートフォリオを導入することで、学生・教員共に様々な利点があり、効果的に運用すれば非常に有用であると思われる。しかしながら、現状では高等教育機関に広く普及しているとはいい難く、LMSと比べても普及・利用率もかなり低い。eポートフォリオが普及していない要因としては、いくつか挙げることができる。まず、学生に自主的に利用を習慣付けることが難しい。すべての授業内で時間を取ってポートフォリオを利用させることはできないと思われ、学生の自主性だけに任せておくと、だんだんと利用しなくなっていくことが予想される。利用を習慣付けなければポートフォリオの意味が無くなる。教員が定期的にチェックするなどのケアが必要であるが、その

労力は少なくない。学生間や教員のフィードバックも課題の数などにもよるがかなりの労力が必要となるため、習慣付けるまでがかなり困難である。また、LMSと比べると導入に際する労力が大きいことが挙げられる。LMSの授業資料提示、課題提出、小テストなどはその目的がはっきりしているが、ポートフォリオは使用者が明確に目的意識を持って利用しなくてはならない。単に蓄積させただけでは効果が薄く、また、学習の振り返りなどを考えると、ある程度中・長期的なデータの蓄積が必要であり、計画的な授業設計や学校内で多くの授業で使用するといった学校を上げての取りくみも必要とされる。このように、通常の授業と比べると追加とも言える作業が発生し、導入を躊躇することも考えられる。これらの阻害要因については、今後のポートフォリオ導入の成果が上がることによりある程度解決するとも考えられる。

2.3 Maharaのインターフェース 他の普及阻害要因としては、ソフトウェア自体の使いづらさが挙げられる。eポートフォリオのソフトウェアとしてMaharaは有名ではあるが、Moodleなどと比べると歴史は浅い。利用者も少ないため、インターフェース的にまだ熟成しているとはいい難いと言える。Moodleではコースが作成されていれば、授業資料のアップロードや課題提出場所の作成といった日常的に行う操作は比較的簡単かつ直感的に行うことができる。しかし、Maharaではある程度使用した教員でも操作に戸

図1. Maharaのトップ画面

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平塚紘一郎  Maharaのインターフェース改良に向けた取り組み

惑う場合も多く、操作が直感的に行えないと感じられた。 図1はMaharaのログイン後のトップ画面である。ある「作成および収集」—「整理」—「共有」のような流れで操作するような感じにはなっているものの、「最新ビュー」には自分の関係ないものまで表示されるなど、様々な情報が表示されているため解りづらくなっている。また、「ブログ」だった日本語訳が「日誌」になるなど、用語も知らないと分りづらい。 このようなインターフェース上の不満は、e

ポートフォリオにおいて重要である継続的な利用の妨げになることが考えられる。このように、普及していない要因はいくつか考えられるが、もともと導入に際して労力が必要な上にインターフェース上の問題があり、普及の妨げとなっていると考えられる。

3.Maharaのインターフェース上の不満点と  改良案

3.1 Maharaのインターフェース上の不満点 実際に授業でMaharaを使用した教員や、Ma-

haraに興味のある教員による、インターフェースの改良に向けた研究会を開催した。FレックスのSNSコミュニティで呼びかけをし、7名の参加者により開催された。授業で実際にMaharaを使用した教員の意見と学生のアンケート結果では以下のような不満点が挙げられた。

 (1) 文字を打ち込む枠が小さい (2) 編集中に「x」ですぐに消える場所がある (3) タグ(ボタン)が多くて使いづらい (4) グループで個別のページを見た後に元の画

面に戻りづらい (5) ビュー作成時のテキストボックスの場所が

わかりづらい (6) 日本語が分かりづらい部分がある (7) ページの表示が遅い (8) テンプレートが使えると便利

 (1)~(5)がインターフェース上についての不満点である。まず、(1)と(2)は細かい点ではある

が、編集上は重要な問題となることがある。文字入力の枠が小さいと文書が入力しづらく、入力した文章全体を見直すのも大変となる。これは、該当箇所のテキスト入力枠を大きくするか、リサイズ可能とすることで対応できる。また、テキストの入力枠を誤って閉じてしまった時に確認が出る箇所と出ない箇所があり、書いた文章が消えてしまうことで利用者にとっては大きな不満となる。これは、プログラムのミスとも考えられるが、該当箇所を他の箇所と同じように確認メッセージを出すように変更することで対応できる。 (3)~(5)は、画面遷移や操作上の不満点である。まず、ボタンが多くて使いづらいというのは、インターフェースが習熟していない証拠である。メニュー階層的も利用者側から見ると分かりづらく、カテゴリ分けがうまくできていないように思われる。また、画面遷移にも問題があると見られ、使用していく上での画面遷移を考慮しつつ、インターフェースを再考する必要があると言える。 (6)は、日本語ローカライズの問題である。他のソフトウェアと別の表現を使っていることがあり、判りづらくなっているという意見があった。これは、比較的簡単に解消できるものと考えられる。 (7)は、システムやネットワーク上の問題とも考えられる不満点ではあるが、SNSやLMSにおいてはアクセスが集中したときにしか出ない不満点である。そのため、Maharaの問題と考えられる。PHPにより動的にページを生成しているためと考えられるが、コードの見直しや不要な情報を表示しないなどすることで、ある程度解消できるものと思われる。 最後の(8)は要望ではあるが、テンプレートなどを利用できるようになれば導入が簡単になり、利用しやすくなると考えられる。 以上のように、研究会では様々な不満点が挙げられた。

3.2 Maharaのインターフェースの改良案 本研究では前述の細かい修正などに加え、インターフェースの改良をすることで不満点の解消を目指す。ただし、Mahara本体のプログラムを大きく書き変えてしまうと、バージョンアップへの

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が数多くあり、不満と思っている割合が多いことがわかった。様々な要因で普及が進んでいないことが考えられるが、eポートフォリオは効果的に利用すれば学習意欲・教育効果の向上にもつながり、非常に有用であると考えられる。 しかし、授業において教員がMaharaを使用して評価などを行う場合、学生も強制的にMahara

を使用することになるが、インターフェースが悪く、使いづらければ学習成果などの蓄積を怠たるようになったり、学習意欲も削がれたりといった結果になってしまいかねない。普及の妨げの一因となっているとも考えられるため、インターフェースの改良は非常に重要な作業であると考えられる。インターフェースをユーザの使い易いように改良することで利用者の利便性を向上させ、かつ普及が促進されることを期待する。 今後は、まず、授業実践の事例を集め、それを分析することにより授業に必要な機能の割り出しを行う。その上で、本稿で述べたような改良について詳細の検討を行い、「個人ユーザ」向けと「グループユーザ」向けのインターフェースを実装する。これにより、Maharaのインターフェースの改良を目指す。また、それに対するアンケートなどを通して、さらなる操作感の向上を目指す予定である。さらに、このようにして改良した成果は本家Maharaコミュニティに反映させてもらうことも目指していく。

参考文献

(1) 山川 修, 藤原正敏, 篭谷隆弘: 福井県大学間連携取組(Fレックス)の概要と目的, 福井県大学間連携取組

(Fレックス)の概要と目的, Vol.24, No.1, pp.24-27(2009).

(2) Mahara Open source eportfolios   http://mahara.org

(3) Mahara日本語ドキュメントhttps://wiki.mahara.org/index.php/Mahara%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E3%83%89%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

追従性が失われるため、まずはモジュールにより実現する。 Maharaのバージョン1.4においてはメニュー構造が見直され、使いやすくなっている。しかしながらインターフェースの複雑性は残っており、使いなれるまでには時間がかかるものと思われる。インターフェース改良の方針としては、高等教育機関の教育に合ったものに変更する点が第一である。そのためには授業実践の事例を集め、それを分析することにより授業に必要な機能を割り出すことが必要である。現時点では機能の割り出しは実施していないが、おおまかには「個人ユーザ」向けと「グループユーザ」向けのインターフェースをプラグインで作成するつもりである。個人とグループの2種類用意する理由としては、それぞれの状況や場面によって最適なインターフェースも異なるといった考えである。Mahara1.4においてもインターフェースのカスタマイズは行えるようになっている。しかし、表示する項目を減らしたりするのみで、画面構成などを大きく変えることはできない。改良後の画面構成などの詳細は未定だが、ログイン直後の画面などにリンクを設置し、そこから専用のインターフェースへ移行できるようにする。ユーザがMaharaのインターフェースの代わりにこの専用のインターフェースを使用し作業を行えるようにする。これにより、当面はMahara本体に大きく手を加えことなく、インターフェースの改良を行うことができる。

4.まとめと今後の課題

 本稿では、まず、eポートフォリオの現状を述べた。Fレックスプロジェクト上でeポートフォリオとして採用しているMaharaの問題点を延べ、そのインターフェースの改良について検討した。研究会を開催してMaharaの問題点を教員や学生から聞いた結果、インターフェース上に問題