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着実な歩みに向けて - 金融業界の変化と課題 Co-sponsored by

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着実な歩みに向けて -金融業界の変化と課題

Co-sponsored by

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1 概要 7 調査方法と調査対象について 9 リスクカルチャー(リスク管理への当事者意識)の強化 13 ガバナンスの役割と責任 15 役員報酬制度のありかた

17 流動性リスク 21 自己資本管理 23 リスク選好度 27 ストレステスト 31 組織内部の可視化、データ及びシステムの向上 35 終わりに

37 付属資料 - IIFの市場ベストプラクティス委員会による最終報告書からの抜粋:行動原則及びベストプラクティス提言

目次

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1

概要 流動性管理の重要性、自社に相応しいリスクカルチャーの強化と浸透の必要性、不測の事態に備えるための対応策など、金融業界では金融危機からの教訓を強く意識しています。その結果、取締役会や経営幹部はリスクガバナンスの確立という原理原則や実務およびシステムの改善や強化を図れるよう、多数の施策を目下実行中です。

国際金融協会(IIF)は2008年に、金融業界が軌道修正を図り、経済環境や市場環境や規制環境が変わり続ける中で適切な経営の舵取りが行えるよう、業界に向けたガイダンスとあわせ、支援を行うための行動原則とサウンドプラクティスをよりどころとした提言を広範にわたって公表しました。(提言のリストについては本報告書付属資料をご参照ください。) また2009年3月にIIFは、アーンスト・アンド・ヤングに対し、金融業界の経営陣(エグゼクティブ)クラスを対象とした調査を実施し、提言実施へ向けて各社が直面している問題点(ギャップ)やネックを洗い出しするよう依頼しました。それを受けて2009年に提言内容を一部追加し、その後2010年にIIFは再びアーンスト・アンド・ヤングに対し、リスク管理の実務にどのような変化があったか調査を行うよう依頼しました。その結果として、本報告書「着実な歩みに向けて-金融業界の変化と課題(仮題)」では、最新の調査に基づく見解を紹介しています。

2009年の調査では、各社が数々の取組みを通じてリスクガバナンスの強化を図っていることが明らかになりました。ほぼすべての金融機関で、シニア・スーパーバイザー・グループ(SSG)やカウンターパーティー・リスク管理グループやバーゼル委員会銀行監督委員会によるガイドラインに加え、IIFによる提言からみたギャップの洗い出しに、取締役やCEOが支援するトップダウン型の全社的な評価を取り入れていました。そのギャップ分析に基づいて、改善が必要な箇所が定まり優先順位付けされて、数多くの改善がすでに実施されているほか、計画も整備され、それに対応する人材が集められ取組み実施のために各所に配置されています。その対象は、特定のリスクガバナンスの実務の強化から、リスク管理に関する全社的な経営理念や枠組み、メソドロジーやシステムの抜本的な見直しのプロセスに至るまで、非常に多岐にわたっています。

今年度の調査の結果、2008年と2009年に整備した計画に対する進捗は、各組織で異なりさまざまな段階にあることが判明しました。とはいえ、各社は過去の実務に欠陥があることに気づいており、それを変え持続させる姿勢を見せていることは間違いありません。調査対象の各社は、IIFによる提言と規制上のガイドラインに沿ったリスク管理に関する実務の強化に向けて、はっきりとした進歩があることを報告しています。

このように多くの現場で著しい進歩がみられるにもかかわらず、改革プログラムの完了までにはまだ遠い状況にあります。多くの改善を着実に根付かせるには、抜本的な企業風土の変革や意識改革に加えて、その円滑な実行と具体化に経営陣が関与する時間だけでなく、人材面と資金面からからも多くの投資が求められます。いみじくもある役員が言ったとおり、「これは長期にわたる旅であり、長い時間そこにとどまることになる」のです。

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IIFの提言と比較した歩み

2

各社では全社的にIIFの指針を受け入れたほか、目標に向けた進展があるという回答者のほぼ100%が、提言遵守のプロセスが目下進行中であるとしています。金融危機で最も深刻な傷を受けた米国をはじめとする北米や欧州の企業が、強気な変更プログラムやスケジュールを導入することに最も積極的であり、その結果として提言の遵守に向けた足取りが早かったことは意外ではありません。一方で1990年代初頭や2002年頃にすでに深刻な金融ストレスの洗礼を受けていた中南米をはじめ、豪州、カナダ、日本等の多数の国の金融機関は、すでにそのリスクガバナンス実務の見直しや強化を行い、取り組むべきギャップもほとんどないと考えていたようです。それに加え、すべての企業、影響を被った国においてすら、IIF による提言の多くにすでに準拠している分野が多数あるものの、金融機関全体で手がける業務内容やその範囲が大きく異なるため、すべての提言がすべての組織に当てはまるわけではないことにも留意が必要です。

調査の結果、組織カルチャー、役割と責任のありかた、報酬制度、流動性リスク、自己資本管理、リスク選好度、ストレステスト、透明性、データとシステム等、リスク管理廻りの多数の重要部分にわたる進展(進歩)について、各社の見解が判明しました。改善が報告されたのは、ガバナンス、流動性、自己資本管理、ストレステストの分野です。報酬制度の改革については目下進行中ですが、改善すべき点はもっと多くあり、リスク選好度についてもひととおりの対応はされていますが、インタビューした中でほぼ完了しているとした回答者はいませんでした。さらに、リスクカルチャーへの転換と内部の透明性強化のためのプロセスやシステムの向上は、複数年にわたる取組みになる、という点は衆目の一致するところです。

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最も著しい進歩が見られた分野とは

83%

93%

89%

65%

92%

3

役割と責任のありかた最大の変化が起きた重要箇所は、リスクガバナンスの分野であると考えられます。全社的に効果的なリスク管理を行ううえで、トップダウン型の監視体制とボトムアップ型の取組みの双方が欠かせないという点に圧倒的な同意が得られました。 多数の金融機関では、取締役会メンバーから事業部門の責任者やそのチームに至るまで、重要ポジションにある人物すべての役割や責任に関する再評価を行い、リスク管理という観点からどのような役割が求められているかを再評価し、明らかにし整理していました。取締役会がリスク管理方針の設定やガバナンスに以前よりも積極的に関わるようになり、リスク関連の諸問題に重点対応箇所として多くの時間を割くようになったことも各社が指摘している点です。それに加え、チーフ・リスク・オフィサー(CRO)の責任と影響力が高まり強化され、多くのCROは経営戦略や事業計画に積極的に関わるようになっています。

自己資本管理 多数の企業では、資本コストを適切に分析したうえで、リスクに正確に見合ったコスト配分ができるよう、コストの算定方法や各ビジネスへの配分方法を決定するため、すべての事業にわたって自社の資本構成を再評価したことが報告されています。

流動性リスク  流動性管理は引き続き、業界にとっても規制当局にとっても重要な対応箇所です。各社は金融危機からの反省点として、流動性リスクの管理や統制を強化する手法を見直してきました。金融危機によって最大の傷を受けた金融機関などにみられる、経営理念やガバナンスの抜本的な変更から、一層の改善の必要が見込まれる特定の箇所への対応などより実務的な施策に至るまで、幅広い取組みが調査を通じ変更点として挙げられています。

ストレステスト  また各社ではストレステストを整備し、戦略的に活用することも積極的に進めてきました。新しい、高度なメソドロジーやモデルやシステムが導入され、潜在的リスクやそれが組織に及ぼす影響について、全社的な見地から把握できるようにしています。ただし、ストレステストに対して首尾一貫性のある全社的なアプローチを完備させるまでには、まだ実施すべき作業が残っているものと考えられます。

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一層の改善が必要と見込まれる分野

78%

92%

96%

59%

4

報酬 調査対象となった企業では、規制上の指針に対応するためにガバナンスや指標(メトリクス)や評価やシステムや報告プロセスを見直し、報酬をリスク調整後の業績とようにしてきました。が、今後も改善が必要な箇所がいくつも残されていると考えられます。

カルチャー リスクに敏感になり、その当事者意識の向上を図るよう組織のカルチャーを変えることは容易なことではなく、経営幹部がその方針の整備や進捗のモニタリングに相当の時間を充てる姿勢が明らかになることに加え、その抜本的な変更を下支えするためのプロセスやシステムにも相当の投資が必要です。インタビューした経営陣(役員)は、リスクカルチャーを強化する必要性を把握しており、その大半は、包括的かつ一貫性のとれた協調的なアプローチを通じてリスクに対処するため、数多くの取組みを行っていました。またカルチャーの変革とは複数年にわたる取組みを必要とする「長旅」であり、そのためにはまだすべきことが数多く残されているということには、インタビューを通じて全員が納得していました。

リスク選好度  金融業界と規制当局者双方が優先課題としている「リスク選好度への対応」は、本年度の調査へ回答を寄せた62社のほぼすべてでまさに「現在進行中」の問題となっていました。この問題に取り組む関心や意欲は高いとみられます。多くの企業が、リスク選好度の枠組み整備や具体化やその導入に向けて進行中であると報告している一方で、何がサウンドプラクティスとなるかは曖昧なままで、中でもリスク選好度と事業意思決定との紐付けに関しては、依然として業界内でも明確なコンセンサスが得られていません。多くの企業ではこの分野での手掛かりとして、規制当局からの指針を求めたり、IIFのサウンドプラクティスからのよりどころを探ろうとしたり模索しています。

組織内部の可視化、データ及びシステムの向上(強化) 組織内部における情報の透明性向上・可視化の推進は、業界と規制当局者双方にとって新たな重要対応箇所であるといえます。縦割りになったままの複数のシステムやアプリケーションから適切なデータを抽出して集約することの難しさは、大半の調査参加者が実感している共通の課題とみられます。これは、組織が直面するリスクの度合いによって管理情報がバラバラになることを意味しており、多数の企業はすでに主だったIT関連プロジェクトを発足させ、この課題に取り組んでいます。ただしこのようなプロジェクトには、経営陣も巻き込んだ複数年にもわたる投資が必要となるだけでなく、もっと有効なリスク管理が行えるようにするには、プロセスやITシステムの改善のための人材や資金に対するたゆみない投資が必要となるでしょう。)

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55

突きつけられている課題

20%

影響は低い

32%

そこそこの影響がある

48%

深刻な影響がある

図 1: 組織に対する金融危機の影響度

インタビューに応じて頂いた経営陣の方々は、リスク管理の改善に取り組むという断固とした姿勢は見せていたものの、フロントが抱える問題が数多くある中で、経営幹部が時間と関心を向けるべき問題は数多くあり、その対応に限界があることも指摘しています。

金融危機からの回復  調査対象の金融機関の約半数は、金融危機によって深刻な痛手を受けたとしています。【図1】 金融危機によって打撃を受けたこれらの金融機関の経営幹部の課題とは、損失を食い止め不良資産を一掃するだけでなく、長期的な視野で潜在的損失を見極めつつ、最前線で真剣な対応を図ることであるといえるでしょう。回答者の32%はいまだに金融危機からの回復への対応を行っているとしています。そして過半数 (65%)の回答者は基本的に「通常に復帰した」【図2】としているものの、多数の人々は、金融危機後の世界でのビジネスが、用心や判断に加え、経営幹部が膨大な量の注意を払わなければならない、「全く未知の新しいもの」になったことに警戒感を抱いています。

依然として不安定な経済下での金融機関経営の難しさ 景気悪化は過去のものであるという点では大半の回答者が同意しており、世界中の多くの地域で景気回復の兆候が見られるものの、多くの回答者は市場が引き続き不安定な状態であることに危惧を抱いています。インタビュー対象者の1/3以上の方々が、「不安定な市場要因」を最大の懸念としており、不透明な市場環境のせいで、事業計画や意思決定が短期的にも長期的にも著しく困難なものになっていることを挙げています。中東における政治不安と日本の悲惨な大地震とその余波によって、ボラティリティと(今後の)見通しの不透明感は、本調査の実施後にも一層拡大しているといえるでしょう。

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66

•3%まだ対応に

苦闘している

32%

回復しつつある

65%

平常に復帰

現状について

図 2: 現状について

規制環境への対応  今後の規則や規程等に関する継続的な議論は、調査期間を通じて繰り返し上ったテーマでした。金融危機の再発を防ぐには規制の厳格化が必須であるという基本的な考えは揺るがないものの、いまだ発展途上にあるだけでなく、各国や地域間で時には矛盾もはらむ各種の規制や、それに関する多数の新しい要件について明確で首尾一貫した解釈が必要になることなどに、多くの経営陣がフラストレーションを抱いていることも事実です。新しく、まだ見通しがきかない状況の中で道筋を見極めることは非常に難しく、社内チームの対応にはかなり時間がかかるものになるでしょう。各社は、規制当局との作業を進めるために幹部クラスによる対応を充実させる(相当の時間をつぎ込む)だけでなく、増え続ける要件に対応するために人材を充実させた対策チームを投入し、今後見込まれる変更に迅速に対応するための新システムやプロセスへの投資を図るという、一貫した姿勢を見せています。

適切な人材の確保  調査回答者が一貫して指摘していた点は、リスク管理において人的要因が極めて重要であるという事実を企業側が過小評価していたのではないかということでした。つまり、組織の最前線(フロント)からバックオフィス部門に至るまで、人的な判断、洞察や経験といったものをもっと重視し、組織全体を通じてもっと十分に活用すべきでないかということです。リスク管理チームの責任と規模が膨らむに伴って、コンプライアンス上の要件も高まり、プロセスやシステムを向上させるプロジェクトも開始されるため、これまで以上に有効かつ効率的なリスク管理が図れるよう、有能な専門家を擁するチームを発足させることが企業各社にとって急務となるでしょう。

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調査方法と調査対象について

Research methodology and demographics

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88

2010年10月から12月にかけてアーンスト・アンド・ヤングは、IIFにか

わりIIFの会員各社に対し、2種類の方法を通じて調査を行いました。1つは資産規模でトップクラスにある会員各社に対し、オンラインでアン

ケートを送付し回答を求めるもので、主として定量的な側面からの調

査を行ったものです。それに加え、会員企業でリスク管理の改善に関

するIIFの提言実施に関する運営委員会(ステアリング・コミティ)に携

わるCROやリスク管理担当役員に対し電話でのインタビューを行って

います。オンライン又は電話による調査に対して62社の方から応じて

いただいた結果、オンライン調査に対しては60件の回答を頂いたほ

か、35件のインタビューを実施いたしました。

アフリカ・中東

アラブ・バンキング・コーポレーション

アウディ銀行

ファーストランド銀行

クウェート・ナショナル銀行

カタール・ナショナル銀行

南アフリカ・スタンダード銀行

アジア太平洋

オーストラリア・ニュージーランド銀行グループ

中国銀行

CIMB グループ

オーストラリア・コモンウェルス銀行

ICICI 銀行

三菱UFJフィナンシャル・グループ

みずほコーポレート銀行

ナショナル・オーストラリア銀行

農林中央金庫

ウェストパック銀行グループ

ウリィフィナンシャルグループ

欧州

アルファ銀行

アイルランド銀行

バークレイズ銀行

ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行

BNPパリバ銀行

カハ・マドリード

コメルツ銀行

クレディ・スイス銀行

ダンスク・バンク

ドイツ銀行

DZ 銀行

DnB NOR銀行

エルステ銀行グループ

ガランティ銀行

サンタンデール銀行グループ

スベンスカ・ハンデルスバンケン

香港上海銀行

ING銀行

インテーザ・サンパオロ銀行

ノルデア銀行

ピラエウス銀行グループ

ロイヤルバンク・オブ・スコットランド

スカンジナビスカ・エンスキルダバンケン(SEB)

ソシエテ・ジェネラル銀行

スタンダード・チャータード銀行

スイス再保険会社

UBS銀行

ウニクレディト

チューリッヒ・フィナンシャル・サービス

中南米

バンコロンビア

バンコ・デ・クレーディト・デル・ペルー

イタウ・ウニバンコ銀行

メルカンティル・セルヴィシオス・フィナンシェロ

北米

バンク・オブ・アメリカ

モントリオール銀行

メロン・ニューヨーク銀行

カナダ・コマース銀行(CIBC)

シティバンク

JPモルガン・チェース銀行

モルガン・スタンレー

PNCファイナンシャル・サービス・グループ

カナダ・ロイヤル銀行

スコシア銀行

ステート・ストリート銀行

トロント・ドミニオン銀行(TD)

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9

リスクカルチャー(リスク管理への当事者意識)の強化

各社はリスクに対する当事者意識を高めるための取組みを続けています。92% 調査対象となった経営陣(エグゼクティブ)の間からは、リスクと統制に関する持続可能な枠組みに裏打ちされた、健全なリスクカルチャーを整備し浸透させることが経営幹部の重要課題の一つであるという点で、広く合意が得られています。アーンスト・アンド・ヤングが2008年と2009年に行った別の調査によると、カルチャーの転換は数多くの重要課題の中でも、2008年は「統制の厳格化」に次いで2位、2009年では「規制環境の不透明感」に次いで2位となっていました。2010年のIIFの報告書でも、この問題に関する経営幹部からの注目度は依然として高く、インタビュー相手の92%はリスクカルチャーの強化に対する経営幹部の注目(関心)が高まっていると指摘しています。【図3】

強固なリスクカルチャーを確立するためには、広範囲に及ぶ抜本的な変化が欠かせません。多くの企業にとって、リスクを「一人ひとりの問題」としてとらえ当事者意識を高めることは、それまでの考え方や方針やプロセスを抜本的に変えることを意味すると同時に、全社をあげた長期にわたる取組みや投資が必要になることも意味しています。インタビュー対象者の73%は、組織全体を通じて自社に相応しいリスクカルチャーの具体化(確立)に向けた取組みを進めているとしていますが、取組みプロセスについて終わりが見えていると回答したのはそのうちの23%に過ぎませんでした。【図4】

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1010

4%変化なし

73%

転換に向けて進歩があった

転換に向けて大幅に進歩した

23%

図4: カルチャーの転換

1.

2.

トップによる率先垂範の必要性  カルチャー転換への取組み(コミットメント)は、組織のトップが率先し行わなければならないということは経営陣(エグゼクティブ)も自覚しています。取締役会や経営幹部はまず、自社がどうやって経営を実践するのか、顧客や株主や従業員や規制当局や格付機関などのステークホルダーからどのような金融機関であるとみられたいのか、その根本を明らかにし決定することで「ステージ」を決めていく必要があるでしょう。組織として引き受けられるリスクの種類と規模は企業によってさまざまであるうえ、経営者の経営理念や成長目標、事業上の重点対応箇所、地理的展開などによっても変わってくるからです。組織のリスク選好度(詳細については「リスク選好度」に記載)は、このような経営者のビジョン(構想)を反映したものであると同時に、リスクに関する全社的な「交通ルール」を整備することでもあります。またいったんリスクパラメータを設定したあとに、リスクカルチャーに関して、継続的で揺るぎない対応と協議を行っていくことが必要です。またある回答者が記しているように、「リスクカルチャーに関する問題は、取締役会でも経営幹部のミーティングでも、普遍的な課題として常に意識し取り組まなければならない」のです。

役割と責任の明確化  リスクに関して深く染み込んだこれまでの考え方を転換させるには、リスク管理をめぐる構成要素の中でも「人的要素」に対する注目を大幅に高める必要があります。金融危機後の反省を通じて多くの企業は、リスク管理廻りのプロセスや責任分担にズレがあったり、リスクの監視に何を求めているのか曖昧であったりしたことに気づきました。「実際問題として、金融危機で明らかになった重要な弱点とはまさしくこれではないかと思う」と述べた経営陣(エグゼクティブ)も何人かいます。つまり、各社には、取締役会、CEO、CFO、CRO、事業部門長など組織の重要な地位にある人物の役割や責任を一段と強化し、明確化することが求められているのです。

リスクカルチャーをどうやって浸透させるかという方法の議論に関しては見解が分かれるところですが、サウンドプラクティスは、おおよそ次の4つの意見に集約されるものとみられます。

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11

3.

4.

アカウンタビリティの確立  アカウンタビリティがはっきりしていなければ、いくら責任の所在を見直し定義付けしたとしても意味がないことは大半のインタビュー回答者が認めています。自分に求められているものが明確に伝えられそれを把握し、業績評価指標やレビュープロセスが整備されたうえでそれに準拠して評価が行われ、目標に対する実績と報酬とが見合ったものになってはじめて、姿勢や行動の転換にもはっきりとつながってくるでしょう。責任の所在をより明らかにするために、レビュープロセスを厳格化したという回答者もいました。ある企業の例では、リスク管理の枠組みで管理されている人は誰でも、リスクパラメータの遵守に関する評価を通じて、上長による人事考課が行われる体制になっています。「どうすれば全社的に一貫してこのリスクカルチャーを浸透させられるのか、さまざまな議論が重ねられています。それはこのリスクカルチャー浸透というプロセスの次の段階であるといえるでしょう。」とインタビュー対象者が説明しているとおりです。企業が報酬体系を見直し、報酬と業績との連動を強化するプロセスを取り入れていることは15ページで詳しく取り上げていますが、このようにカルチャーの転換には報酬のありかたも大きな役割を果たすと思われます。

コミュニケーションと研修を通じた変化(意識改革)の後押し  継続したさまざまなコミュニケーションに加え、現場での日頃の教育と正式な研修双方を通じた教育啓蒙が、リスクカルチャーという価値観の浸透とカルチャーの強化に必須のツールであると指摘されています。ある経営陣(役員)が述べたように、「これは終わりがない旅のようなもので、コミュニケーションと教育と管理というドラムを延々と叩き続けなければならない」のです。一部の企業からは、定期的なチームミーティングで「リスクに関する話合いを行いリスク管理の取組みを向上させた」という報告があったほか、組織全体にわたって、リスクに関する知識と意識向上をはかる正式な研修を導入したという企業もありました。

自社の組織にリスクカルチャーの考え方を真に根付かせるには、いまだに数多くの課題があることを回答者は自覚しています。なかでも縦割り型の組織、経営資源や意思決定の分散化、統合型のデータ管理やデータ配信の不備に加え、世界中でオペレーションを行うことにつきものの複雑さなどが、依然としてその主な障害として立ちはだかっているものと思われます。

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継続的な研修:カルチャー変革のための重要なツール

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カルチャーの転換のためには研修が最も「効く」ツールであることは、多くの企業で繰り返し言われてきたことです。研修プログラムの展開について、リスクやアカウンタビリティに関する日常レベルでのチーム・ディスカッションから、リスクに関してスタッフを教育する体系立った全社的な研修プログラムまで幅広い回答が寄せられました。

金融危機によってある程度の傷を負ったと考えるある金融機関では、2008年に研修への新たな取組みを開始しました。リスク管理チームが人事部門と一緒に、組織全体にわたるリスクの知識を高め、リスクの把握ができるような、継続的な研修プログラムを整備したのです。そこで取り上げているテーマは、リスクの種類、市場や経済が及ぼす影響力やその影響度、コンプライアンスの役割や責任、金融危機からの反省点など多岐にわたっています。当初は部門のリーダーや、リスクの影響を受けやすい立場にある、リスク管理に最も関わりが深い組織の人員をその研修対象としていましたが、その後は、さまざまな責務を抱える立場の人員にも研修対象を広げていきました。あるCROの説明によれば、「金融危機のさなかに社内にいた専門家の多くが退職したり組織を離れたりしてしまったため、過去2,3年間の金融危機の後処理で学んだ多くの組織上の反省点や業界としての反省点を忘れずに、それを生かして次の世代へ伝えていく必要がある」のです。

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13

ガバナンスの役割と責任

83%

図5: 取締役会による監視

87%

図6: 取締役会がリスク管理に費やす時間

86%

図7: 独立したリスク管理委員会

Exhibit 5: Board oversight

Exhibit 6: Board time on risk

Exhibit 7: Separate risk committee

CROの影響力が強まる一方で、取締役会による監視も強化されています。

取締役会が有効に関与していれば、その組織のパフォーマンスには他とは圧倒的な差がつくだろうということは多くの回答者が認めています。全体として、回答者の83%はリスクに対する取締役会の監視が強まったとしています。【図5】 また、42%は取締役会の関与が大幅に増えたと回答しています。自社の取締役会がリスク関連の方針設定やガバナンスに関与し、リスク関連の諸問題に対して費やしている時間は以前よりも密度の濃いものになっていると述べている回答者も過半数にのぼっています。【図6】 中でも、取締役会メンバーに対してリスク関連の情報が以前よりも多く報告されるようになったことが変化の一つです。「リスクに影響を及ぼす可能性がある新しい問題をとらえられるような研修プログラムの強化」や「報告に関する透明性や品質や頻度の改善」、「頻繁なミーティングの実施」「全社的なリスクに関する突っ込んだ話し合い」などが回答者からその変化として挙げられています。

今や多くの企業では、戦略的方向性を定め、リスク選好度の設定や承認および監視に重要な役割を果たすのは取締役会の責務であるという考え方が一般的になっています。また自己資本配分や新しいビジネスリスクや役員報酬のありかたなどの新しい問題は、取締役会が対処すべき問題の中の最優先課題であるとされています。調査対象とした企業の大半(86%)では、リスク関連の取扱いを監査委員会から分離し、別にリスク管理委員会を発足させ、独立性を確保し重要箇所に適切な対応をはかるようにしています。【図7】 また各社は、取締役会が以前なら彼らの議題にあがってこなかったような問題にも深く首を突っ込んで、以前よりも綿密な内容の濃い報告や分析を頻繁に求めるようになっていることも指摘しています。

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14

89%

図8: 強化されたCRO の役割

58%

図 9: CROの指揮命令系統

11% CFOの指揮命令系統下にある

71% 7% 縮小した

22% 変わらない

図10: グループのリスク管理部門の規模

59%

図11: 事業部門のリスク管理部門の規模

7% 縮小した

34% 変わらない

リスク管理が、事業の意思決定に対し重要な戦略的役割を果たすようになっているため、企業各社はリスク管理チームの責任や影響力が引き続き大きくなり、その重要度も増してきたと報告しています。インタビューを行った経営陣(エグゼクティブ)の89%が、金融危機後にCROの役割が強化されたと述べており【図8】、33%を超える回答者が、「大幅に拡大した」と答えています。その位置づけをみると、調査にご協力頂いた組織の中のCROの過半数はCEOの直接の指揮命令系統下にあり、22%はCEOと取締役会のリスク管理委員会に対する複線型のドットライン指揮命令系統下にあります。【図9】

またCROとリスク管理チームが、単にリスクにマイナスの影響を及ぼしかねない意思決定に反対を唱えるだけの立場ではなく、ビジネス部門と歩調を合わせて経営戦略や事業計画の立案などに以前よりも積極的に関わるようになっていることは衆目の一致するところです。あるCROによる、「ビジネスチームが事業戦略を決め、そのあとでその投資が適切かどうかをCROが判断するというのがかつてのやりかたでした。しかし今は、私たちCROもその戦略決定の場に立ち会うようになっています。」CROが責任者となったり、委員会に参加するのはどのような場合かを尋ねた結果、多くのCROは、責任範囲が広がっただけでなく、経営戦略やリスク選好度、商品開発、買収や報酬体系等、ビジネスに多面的に関わることが多

くなったという回答が返ってきました。回答者の82%は、さまざまな側面からみたリスクの特徴の評価や給与(報酬)制度の整備、方針や給与体系の決定、スコアカードの指標設定などの点から、報酬戦略にもCROが関与する余地が大きくなったと答えています。

影響力が強くなったことに加え、リスク管理チームの規模が拡大したことも各社が指摘しています。中でも金融危機で最も深刻なダ メージを受けた企業にこの傾向は顕著であり、グループのリスク管理部門の人数が増えたという回答者は71%にのぼる一方で、59%の回答者は事業部門のリスク管理部門の人数が増えたと回答しています。【図10及び11】 このような一連の増加傾向の中で、1/3を超える回答者が、金融危機以前よりも人数比で20%以上も増員していると答えています。リスク管理部門に求められる要望や役割が引き続き高まることから、もっと高度な、最先端のリスク関連の専門家に対する需要は膨らむことが予想されます。その結果、業界全体で、リスク関連の問題を未然に防いだり適切な対応ができるような、実績や信頼性がある経験豊かなリスク担当役員などを集め、人材を確保し教育し精鋭部隊を作ろうとする動きが各社で高まることも予想されます。

22% CEOと取締役会のリスク管理委員会への複線型(ドットライン・レポーティング)の指揮命令系統下にある

9%取締役会のリスク管理委員会又は取締役会の指揮命令系統下にある

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15

役員報酬制度のありかた

78%

図12: 報酬制度の見直し

10%

まだ始まっていない

目下進行中である

ほぼ完成している

50%

40%

図13: 報酬制度の見直し

各社は役員報酬をリスク調整後の業績と擦り合わせする方向へ規制当局からのプレッシャーに加え、世間からの厳しい視線にさらされたこともあり、業界では引き続き役員報酬制度の見直しが進んでいます。本年度の調査結果からは、給与体系に関する方針や枠組みの見直しが最前線たるフロントの多くで進行中であることが見てとれます。全体としてみると、回答した経営陣(役員)の78%は自社の役員報酬制度の見直しを行ったとしています。【図 12】 これは2009年のIIFの報告書にあった58%という数字よりも高く、回答者の30%は、これらの変更が報酬制度に大きな変化をもたらしたと答えています。一方でほとんど見直しは行わなかったと回答した中を見ると、金融危機による深刻な影響を受けなかった、比較的規模が小さい金融機関が大半を占めていることがわかります。

本報告書で取り上げている課題の多くと同様に、役員報酬制度に対し体系立った変更を行うには何年にもわたる取組みが欠かせません。各社は、ガバナンス、制度の戦略的な見直し、リスク調整した評価指標、業績指標測定やクローバック等の繰延支払制度など役員報酬の根幹部分に関して取組みが進んだと回答しています。ただし、個々の事業部門に対して適切なリスク調整や業績指標を組み入れて、報酬体系を適正化するまでにはまだ至っていないこともインタビュー対象者は認めています。また新しいプロセスの土台となるシステムや報告体制を整備し、給与に対する考え方やカルチャーを変えるという取組みもまだ道半ばであるといえるでしょう。インタビューへの回答者の50%はこの役員報酬制度への変更がまだ進行中であるとする一方で、回答者の40%は報酬制度見直しの第一次段階は終わりに近づきつつあると述べています。【図 13】

給与方針や実務の大幅な強化も、大半の企業が挙げていた点です。特に取締役会がその方針設定や監視への関与を深めたことや、報酬委員会の役割や責任が強化され、役員報酬支払方針の見直しや業績評価指標、ボーナスプールの配分に対する監視、役員報酬制度の承認など、全体的に報酬支払に対する決定権を強化したことが目につきます。

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1616

図14: 給与体系(制度)を変えるために克服すべき課題

メトリクス

72%カルチャー

60%

競合からのプレッシャー

73%

規制上の整合性の欠如 74%

CROやリスクチームが役員報酬や給与に関わる度合が高まって、役員報酬がリスク調整されているか確認できるよう、役員報酬制度のありかたやプロセスに対する口を挟むことが増えていると多数の金融機関が報告しています。またリスク管理部門は、現行の役員報酬制度に関する意見をぶつけ、新しい方針の設定、事業部門・個人に対するスコアカードの指標の設定などに以前よりも関わるようになっただけではなく、場合によっては組織のトップに払われる予定の役員報酬のレビューにも関わるケースもみられます。また管理(間接)部門の給与に対してもリスク調整が図られたという企業もありました。これは、フロントオフィスの業績と連動した変動的な給与部分を減らし、距離を置く一方で、彼らに課される責任が重くなったことを受けてそれを反映させるべく業績指標を調整したことを意味しています。

また一部の企業では、役員報酬制度に関するリスク・レビューを導入し、プロセスをベンチマークし、改善点を洗い出しし、各制度に盛り込むべき処理原則を整備しています。あるCROは「当社では各制度に盛り込むべきものとして7つの処理原則を整備し、各制度を修整しました。その結果、年に2回は取締役会に報告し、新しい制度を導入したり変更する場合にはその原則を満たしているかどうかを確認したうえで、リスク管理部門が承認する形になっています。」と述べています。

給与体系(制度)変更に際しての最重点課題として75%近くの回答者が挙げていたのは、規制当局の方針が首尾一貫しないことと、競合からのプレッシャーという点です。多くの回答者が、業界に向けた規制の「落ち着きどころ」を探るため、「公平な競争の場」を用意して、今後2,3年は、規制当局による基準を地域的に統一して導入する必要があるだろうとしています。ただしその場合、企業や各国間での給与体系の格差のせいで、よりよい条件の報酬につられる従業員を引きとめることが難しいという点が問題になると考えられます。

業績評価指標をリスク選好度や経営戦略と擦り合わせし、その指標を報酬決定に盛り込むことは生易しいことではありません。また報酬方針を変えることは、多くの企業にとって組織カルチャーの重大な転換にもつながるため、「意識改革」という難題を突きつけられることでもあります。【図 14】 IIFでは、各社の2010年の業績が反映された報酬体系に対しての、実務改革に関する詳細な報告書を別途、2011年中頃に公表する予定です。

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17

64% 9% 変更なし

27%2008年以前にバッファーを変更した

図 16: 流動性資産バッファーについて

流動性リスク

92%

図15: 流動性リスク管理への変更

流動性リスク管理の改善に向けた、方針やガバナンスやプロセスの強化2009年に別途アーンスト・アンド・ヤングが行った調査によれば、その回答者の88%は、金融危機で懲りた最大の反省点として、流動性管理にもっと重点的に取り組む必要性を挙げていました。従って、今年度の調査結果から、各社が実際に流動性に関する反省点に対応していることが判明したのは驚くに価しません。2009年のIIFの報告書では61%でしたが、今回の回答者の92%は金融危機後に流動性リスクの管理や統制方法を変更したと答えており【図 15】、特に方法を変更しなかったとした回答者の多くは、金融危機の前にすでに流動性リスク管理方法の強化に着手していたものとみられます。

今回の調査を通じて明らかになった変更点としては、経営理念やガバナンスにおける抜本的な戦略的転換と、2007年、2008年、2009年にわたってIIFやバーゼル委員会が公表した提言に基づく形で、具体的な実務を精緻化する施策面の取組みの双方が挙げられるでしょう。総じて金融危機による深刻な痛手を受けた金融機関が多い北米や欧州の企業では、そのアプローチに大幅な修整が取り入れられていたほか、一部の企業は今後さらに企業体質を強化するための経営計画として、自己資本管理と流動性管理がそのカギになるだろうと強調していました。また回答者は全員、世界経済の先行きが依然として不透明であることを認めており、もう一度大きなクレジットイベント(信用事由)が起きれば、業績好調な企業でも苦境に陥るのは間違いないだろうということも実感しています。流動性管理は単なる短期的なオペレーション上の問題ではなく、長期的な企業戦略やリスク管理や事業計画に欠かせない要素として考えなければならないという点を、多くの企業が反省材料として考えているようです。

その結果、規制要件遵守レベルにとどまらず、場合によってはそれを超えるレベルまで流動性資産のバッファーを引き上げたと回答した企業は、インタビュー対象の91%にのぼっています。【図16】 ある回答者はインタビューを通じて、「当行ではリファイナンス資金の調達を短期市場に頼ることは極力避けるようにしている」と述べていました。

大半の金融機関は、戦略的見地から流動性に関する自社の枠組みをシステム全体にわたってレビューし、組織を通じて流動性の維持ができるよう、流動性リスクのリスク選好度指標(パラメータ)や閾値をプロファイリングし、算定し、文書化しているとみられます。また、どんな場合に市場や社内での流動性確保が厳しくなるかその状況を特定するために、流動性関連の早期警戒指標の導入を検討している企業もありました。さらに、流動性に関する枠組みはALCO(資産負債管理委員会)やリスク管理委員会によって少なくとも年次で正式にレビューされるようになっていますし、流動性リスクプロファイルや早期警戒指標に関する詳細なレビューを月次で行っている金融機関も一部にあります。ま

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18

92%

図17: 流動性ストレステスト

82%

図 18: 内部での価格設定

た、流動性対策のコンティンジェンシー・プランに関して調整中の金融機関もありました。

多数の企業が、流動性リスクに関するリスク選好度やコンティンジェンシー・プラン(危機管理計画)に関する協議や承認を取締役会レベルの取扱事項とし、リスク管理チームに対して流動性管理に関する責任や関わりを増やそうとするなど、自社のガバナンス体制を変えたと回答しています。ある経営陣(エグゼクティブ)の「流動性リスク管理は従来、主に資産負債管理部門や資金部門が担当していた領域でした。しかし今やそれに関する規則は、リスク管理チームが決めるように変わりました。」という発言が現在の状況をよく表しています。リスク管理チームは、流動性関連のリスク選好度やリスクモデリングやストレステストのプロセスや分析にも、関与の度合いを深めつつあります。現在は、流動性リスク管理を資金チームの守備範囲からはずして、組織全体が抱える契約上の義務や偶発債務を全体で管理しモニタリングする、別のリスク管理グループが管理するようにした金融機関もあります。また、資金、研修、市場リスク、グループリスクなどさまざまな部門の人員からなるリスク管理委員会を新しく立ち上げて、流動性に関する問題をレビューするため週次で会議を行っているケースもありました。このように流動性リスク管理への変化に対する対応は各社各様で異なりますが、バーゼル委員会やIIFの原則や提言の主眼や目的と整合していると考えている点は共通しています。

企業各社では、報告が以前にも増して透明性も頻度も高い、包括的なものになりつつあると指摘しており、取締役会レベル向けの詳細な報告書から始まって、経営チームやCROやリスク管理チーム、資金部門や資金調達デスクなどに向けた、流動性ポジションに関する、さらに綿密な週次又は日次の報告書へと細分化されるようになっています。ストレステストも流動性管理に欠かせないツールとなりつつあり、回答者の92%の企業が流動性ストレステストに対する方法を変更し、市場のボラティリティを正確に把握し反映させられるような、精緻化したモデリング手法を取り入れてプロセスを強化したと答えています。【図17】 北米のある金融機関の例でいえば、2008年に起きた状態と似たマーケットイベントとビジネスに特有の事象双方を組み込んだ週次のテストとあわせ、四半期ごとに徹底した流動性ストレステストを行っています。またその結果は、全社的なストレステスト計画に統合されます。

多くの企業では、今までよりも厳格な流動性チャージ(賦課)の仕組みを整備し、内部的にはビジネス別にチャージを設定し、外部的にはカウンターパーティーや顧客別にチャージを設定しています。これは2007年のIIFの提言内容と整合しているほか、金融危機前には、多数の金融機関が流動性という観点から現実問題として社内でビジネス別にチャージしていなかったという見解を裏付けるものになっています。【図 18】

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20

図 20: 流動性管理に関する課題

規制当局の対応の不透明感

69%

データ

81%

システム 87%

69%

図 19: カウンターパーティーや顧客へのチャージ

そして69%がカウンターパーティーや顧客に対する流動性チャージのやりかたを変えたと回答しています。【図19】 以前は実質的に各デスクが同じ資金調達利率をどの貸付先にも適用していたような場合、それを各ビジネス固有の潜在リスクを正確に反映させたチャージに変えるなど、金融危機前の価格設定方法を修正する必要があるという結論に達した金融機関もありました。多くの回答者は、この調達コスト見直しプロセスは、ビジネスと組織全体双方に対する流動性リスクやその影響に関する意識を高めるだけでなく、流動性リスクの管理の改善をもたらしたという点で、各部門によい影響を及ぼしたと考えています。ある経営陣(エグゼクティブ)クラスの言葉によれば、「流動性に関していちばん重大な変化は、内部移転価格がビジネス(現場)にもたらした影響だと思います。なぜかというと、今や営業部隊が貸出を行うたびに「適正な」やりかたで流動性チャージを負担しなければならなくなり、その結果、自らが抱えるリスクをいやでも自覚することにつながっているからです。」

またシステムやデータ品質が流動性管理にとっての重要課題であると指摘している回答者は80%以上にのぼっています。【図 20】 コミットメント枠や偶発債務など偶発性のある負債に関する詳細なデータや、構造面と取引面双方からみた、バランスシートの連結データの向上、分析能力の強化など管理情報の質の向上の必要性を挙げている回答者もいます。

流動性管理に関する規制当局の施策が、新しいだけでなく「常に変わっている」ことによる影響について、多くの経営陣(エグゼクティブ)クラスが懸念として表明していました。国によって規制改革のやりかたや内容の統一がとれていないことも激しい議論の対象となっており、グローバルに統合が進んだ多数の金融機関のオペレーションとそれが噛み合っていないことも多数の回答者が指摘しています。特に、本国と現地国との間の不一致にどう対応するかが問題として挙げられており、これは現地の事業体が親会社に頼らず自力で流動性の問題に対処しなければないことを意味していました。その結果資金が滞留し、機動的に動かせなくなる可能性が生じます。ある経営陣(エグゼクティブ)は、「我々は20に近い国々で事業展開していますが、クロスボーダーで流動性を融通できなくなると流動性管理のために20のモバイルクルーを用意しなければならなくなり、その結果、組織として融通が効かないものになると思います。」と述べています。また多数の回答者はバッファーの構成上何が適格となるのか、その定義に一貫性がないことにもかなり苛立ちを見せていました。それに加えさらに重要なことは、規制当局者が違えばそこで求められる報告や情報に整合性がとれなかったり重複が生じたりすることで、データ品質や一貫性を高め、当局向けの報告を改善させるにはそのような不一致や重複は極力減らす必要があるでしょう。

流動性管理に関する課題

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21

自己資本管理

65%

図 21: 部門にわたる自己資本の調整

84%

図 22: 法人体制

規制上の義務によって、事業に対する戦略的評価への取組みが進むインタビュー対象者となった経営陣(エグゼクティブ)クラスは、バーゼルIIIや各国でなお進行中の規制改革等によって引き起こされる自己資本や流動性関係の新規制の影響の可能性について、非常に敏感に受け止めています。このような一連の改革が、最終的に実際の日常業務にどういう形で影響を及ぼすかは依然として不透明感が強く、自社の多様なビジネスに対する規制資本や流動性要件が最終的にどうなるか、まだ先行きが不透明な段階で長期計画を整備する難しさを、回答者の多くが指摘しています。結果として、多くの金融機関は様子見を決め込んでいるか、ある回答者が述べたように「規制当局者からもっと明確な回答が得られるまでは、作業は原則的に中断している」ようです。

多くの回答者が自社では盤石な経済資本(エコノミック・キャピタル)モデルを導入し、資本配分については従来から慎重な対応を取ってきたと述べているものの、回答者の65%は新規制に沿って事業部門間の資本配分方法の修整を行ったとしており【図21】、これは2009年のIIFの報告書にある50%という結果よりも増加しています。

新規制がもたらす現実とあわせ、金融危機から得た反省点を踏まえ経営陣は、地理的側面や政治的側面、法人体制、ビジネスラインといった観点から、戦略的に自社の自己資本管理上の優先課題の見直しを行っている段階であるといえるでしょう。【図 22】

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22

図 23: 自己資本管理への変更

複雑で流動性が低い金融商品に対する依存からの脱却

61%現行の事業を継続

44%現行の地理的展開を継続

24%

規制資本と経済資本の擦り合わせ

78%

ポートフォリオの再評価 80%

経営陣(エグゼクティブ)の中には、資本コストを適切に分析したうえで、その計算方法や各事業部門への配分方法を変更し、最終的に資本構成が自社の市場価値とどのように見合っているかを検証できるよう、全部門にわたる資本構成を見直し微調整する、徹底的なレビュープロセスがあると説明した方もいました。インタビュー対象者のひとりは、「我々は経済資本と各事業部門の収益双方の点からもっと細分化して内容をチェックして、『このリターンは満足できるものか?』『そうでないとしたら、その理由は何か?』『このビジネスは参入(継続)すべきものなのか?』といった質問を常に問いかけるようになっています。」と述べています。

自社の自己資本配分プロセスを変更しないとした企業であっても、自己資本廻りのガバナンス方針や手続を強化したことは強調しています。その具体的例として、取締役会や経営幹部への報告要件の拡充、自己資本への影響を評価するシナリオプランニングを使ったストレステスト手法の強化や、自己資本に関するコンティンジェンシープラン(危機管理計画)の策定と文書化等を挙げています。

経営陣(エグゼクティブ)クラスは、自己資本配分に利用する社内向けの経済資本に関するメソドロジー(経済資本モデル)と、新しい規制要件との間の乖離が広がっていることを問題にしていました。回答者の過半数(78%)は、適切に規制要件をとらえるために、経済資本モデルと規制資本モデルとの擦り合わせを図るべく注力していると答えています。【図23】 その結果多くの金融機関では、資本集約型で採算性が低い業務からの撤退、地域属性を再評価したうえで参入又は撤退すべき地域の特定、複雑で流動性が低い商品から単純かつ低リスクで流動性が高い商品へのシフト等、自社のポートフォリオを真剣に再評価しつつあります。

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2323

リスク選好度

96%

図 24: リスク選好度への注目度

76%

図 25: リスク選好度のアプローチ

リスク選好度に関する枠組み作りでは、定義づけ、実施、強化等、各社の取組みの段階はまちまちです。

金融機関が事業目標を遂行するにあたって、受け入れ可能かつ受け入れに前向き(意欲的)なリスクの種類とその規模を意味する「リスク選好度」の設定は、今回の調査にご協力頂いた62社の大半が、まさに目下進行中の課題としていました。この課題に取り組むという関心やモチベーションは高いと考えられます。回答企業の96%はリスク選好度に対する注目度が高まったとしており、2009年のIIFの報告書の結果の81%と比べても上昇していることがわかります。【図24】 しかしこのリスク選好度に関する定義やアプローチ、一連のプロセスがもたらす戦略面での影響については明確なコンセンサスが得られておらず、76%の回答者がリスク選好度に対するアプローチを変更したと答えている一方で【図 25】、その変更の程度は回答によって著しく異なっており、進捗の程度からみて以下のとおり5段階に大別されると考えられます。

レベル1: 計画段階 インタビュー対象企業の約25%は、自社がそのアプローチについて計画策定中という初期段階であると回答しています。そしてこのグループのほぼ全員が、リスク選好度の整備と取組みの推進は、2011年の最重点課題であるとしています。

レベル2:リスクの種類別に限度を設定する段階回答者の多数は、リスクの種類別の限度パラメータの整備に対応していると答えています。ただしここでいうリスクの大半は市場リスクであり、信用リスクやオペレーショナルリスクに関しても作業が進んでいるという回答はわずかです。

レベル3:全社的なリスク選好度を設定する段階回答者によっては、経営幹部がすでにリスク選好度の枠組みについて組織レベルでの定義付けを終わらせており、それを文書化して、受け入れ可能なリスクに関する自社の主な見解を表明し、広く周知している段階であると回答しています。

レベル4:事業部門別にリスク選好度を決定する段階多数の金融機関が、自社の主要事業部門に対する個別のリスクパラメータを評価し設定したうえで、それを組織の枠組みに組み入れたとしています。一部の金融機関では、このプロセスは、取締役会や経営陣が広範な視点からリスクを確認すること

から始まる、トップダウン型の取組みとして進められ、それを事業部門で展開させる方法が取られています。また、リスク選好度をレビューし、リスクプロファイルを決める作業が各事業部門(ビジネスライン)で行われ、その結果が組織全体のリスク選好度決定へと吸い上げられる方法が取られている金融機関もあります。

レベル5:組織としてリスク選好度を伝え、実施し、強化する段階リスク選好度が定義づけされ明確化されることで、戦略上の意思決定だけでなく、日常業務における意思決定も明確化し、リスク廻りの役割や責任がはっきりし、組織のカルチャーや行動に前向きな影響を与えるようになります。組織のリスク選好度が適切に定義され明確に周知されていれば、全社的なリスクのあらゆる側面を明らかにできるほか、全般的な業績の向上に加えて、財務面の強化を図る上でも強力な管理ツールになります。ただし経営陣に役に立つだけでなく、事業部門や各担当者レベルで実行可能な日常業務にまで落としこめるようなリスク管理の枠組みを整備することは非常に難しい作業です。今回インタビューを行った金融機関の中でそのレベルに到達しているところはありませんでしたし、その難しさは、ある経営陣(エグゼクティブ)の、「リスク選好度が、日常の計画立案作業や思考に完全に組み込まれたときにはじめて、リスク選好度がそのあるべき姿になったといえる」という言葉が示すとおりです。

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2424

図26:リスク選好度への取締役会の関わり方

リスク選好度の導入を監督

63%リスク選好度の整備を推進

52%

リスク選好度の強化を監視

81%

リスク選好度の決定を承認 91%

14%

関連性はない

61%

多少は関連性がある

25%

密接な関連性がある

図27:事業上の意思決定とリスク選好度との関連性

リスク選好度への取組みが進んでいる企業からは、重要な実務が何点か共通して挙げられました。第一に言えることは、リスク管理委員会、CEO、CRO、リスク管理チーム、事業部門長などと同様に、取締役会全体も含めた経営トップ層による強い支持(コミットメント)とプロセスへの関わりが牽引力として必要だという点です。インタビューを通じて明らかになった最大の「変化」とはおそらく、取締役会が承認や監督という従来の役割から踏み込んで、リスク選好度設定プロセスで重要な役割を果たすようになったという点でしょう。ちなみにインタビュー対象者の52%は、自社の取締役会主導でリスク選好度を設定していると回答しています。【図 26】多数の回答者がCROの役割が強化されたと指摘しています。これは、CROが枠組みの整備と組織全体を通じたリスク選好度の継続的な管理双方の重要な担い手になるとみられるためです。あるインタビュー対象者が「CROは、以前は意見を言うだけの立場でしたが、今や正式なリスク選好度の設定者となっています。」と述べていることからも明らかです。まだ対応は計画段階という初期レベルにある企業でも、リスク選好度に関する話し合いの中でCROが中心的な役割を果たし、経営トップレベルの対応事項の中にリスク選好度が組み込まれるようになっていることは朗報だと言えるでしょう。次に重要な実務は、リスク選好度の設定・管理を通常の事業計画プロセスに組み入れることです。経営陣(エグゼクティブ)は、リスク選好度への対応が、経営幹部チームが組織の戦略的決定や事業決定とは無関係に行う課題ではなく、事業計画の一部であることを組織として改めて意識すべきであると警告しています。

「当行では、トップレベルではリスクテイクについての姿勢ははっきりしています。難しいのは、ビジネスのDNAと自社の戦略的な計画策定プロセスにリスク選好度を根付かせることだと思います。」と述べている経営陣(エグゼクティブ)もいます。リスク選好度設定というプロセス整備に対する意欲ははっきりしているにもかかわらず、この段階では、リスク選好度がその事業意思決定プロセスに重大な影響を及ぼしていると回答したのは、インタビュー対象者の25%に過ぎませんでした。【図 27】 リスク選好度を自社の戦略的意思決定に組み込んだという金融機関では、その結果として、取締役会や幹部チームが戦略、リスク、自己資本および資金調達の間の関係性を把握できるようになったと回答しています。リスク選好度が情報として周知されていれば、特定のビジネスの見直しや撤退や参入等に関する決定、一部のビジネスにおけるリスクを反映した役員報酬への調整、組織内でのリスクプロファイル規模の適正化などにもそれが役立つはずです。ある回答者の言葉のとおり、「リスク選好度設定プロセスがあれば、企業に影響を及ぼす多数の抜本的な問題に対して、適切な情報に裏付けられた望ましい決定を行えるようになる」からです。

さらに、進捗管理とその報告、リスク選好度の定期的なレビューとその調整、そのどれもがリスク選好度管理という手法を円滑に進めるための重要な要素であると考えられています。ただし、最も取組みが進んだ金融機関ですら、これらの分野への対応はまだ道半ばの状態にあります。リスク選好度に対する取締役会の関与という点からリスク選好度への遵守状況を進捗管理できているかどうかを尋ねた結果、インタビュー相手の過半数が、「ほどほどのレベル」であると回答しています。【図 28】

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2525

35%

図29:リスク選好度の見直しについて

22% 決まったプロセスはない

12% 半年ごと

13% その他

9%  月次

9% 四半期ごと

年次

図30:リスク選好度に関する課題

カルチャーの問題

68%リソースの問題

64%

プロセスの変更

72%

正当なメトリクスの決定 91%

10%

パフォーマンスは悪い

53%

まずまずのパフォーマンスである

37%

パフォーマンスは良い

図28:リスク選好度の遵守状況の確認

リスク選好度に関する課題

すべてに通用する“万能薬”はありません。 大半の業界にとってこれはかなり新しいプロセスであり、多数の回答者が、導入可能なテスト済みですぐ入手可能な枠組みがないことを嘆いていました。組織が意欲的に受け入れようとするリスクの規模と種類は、その経営理念、成長目標、事業上の重点対応箇所、地理的展開などによって変わってきます。企業内部ですら、リスク(管理)に対する万能のものさしはないのです。各事業部門とリスクの種類によって、リスクのレベルもリスクに対するアプローチも異なります。基本的には振り出しに戻って自社の組織に最適な道を見極めつつあると多数の回答者が述べていますが、その道のりが長く、試行錯誤を伴う反復的なものになることは多くの人々が感じているようです。

正しいメトリクスの決定は容易ではありません。 インタビューを行った回答者の91%は、リスク選好度の枠組み整備に関する最重要課題としてメトリクスを挙げていました。【図 30】インターネットによる調査への回答者は、リスク選好度として検討し組み入れる、自己資本、流動性ポジション、資産内容、ポートフォリオの集中度、フロア格付、収益性ボラティリティ、市

場要因の感応度など多数の定量的なメトリクスを挙げていました。一方で電話でのインタビューでは、経営陣(エグゼクティブ)は、リスク選好度の決定には多数の社内外の問題に加え、組織の経営理念、カルチャー、価値観、評判といった多数の定性的・定量的メトリクス、経営幹部による協議や判断などを総合的に念入りにレビューし検討することが求められるという点を強調していました。

大事なことはリスク選好度を組織の中に浸透させることです。  リスク選好度をぼんやりとした概念から、もっと戦術的で目に見えるものに形を変えることが、インタビューした金融機関にとって今後の課題であると思われます。経営トップによるリスク管理戦略は、ビジネスの日常管理にまでは行き渡らないことがままあります。ある経営陣(エグゼクティブ)が認めていたように、「実は当行ではリスク選好度のステートメントを2008年には作っていたのです。でも実際は、ほとんどの人がその存在すら知らないような書類で、リスクポリシー・マニュアルの中に埋もれていただけでした。」という現実もあるようです。

リスク選好度を組織に上手く根付かせるプロセスには、リスク廻りの考え方(組織としてのカルチャー)の転換、ガバナンスの役割と責任の明確化、業績要件や業績測定、役員報酬の微調整、進捗状況の検証、追跡管理、報告、評価に利用されるメソドロジーやプロセスやシステムの改善などといった、本報告書で取り上げている活動の大半が必要になるでしょう。またこのプロセスが、整備から実施まで複数年にわたる取組みとなることは間違いないほか、それを維持し持続させるには、長い時間をかけた継続的な取組みも必要になってくるものと考えられます。

IIFではリスク選好度に関する報告書を別途作成中です。これは2009年後半に発行された報告書の中の議論を大幅に拡充させ、リスク選好度の管理に関してもっと有効な手順の整備を図らせる意図で作成されており、2011年6月に発行を予定しています。

その理由としては、どのようなメトリクス(指標)をリスク選好度と擦り合わせするのかが明確になっていないことから、情報入手や報告に関するメソドロジーが曖昧であることや、データ品質のレベルの低さやシステムが不適切であることなど、広範に及ぶ回答が挙げられています。遵守状況を検証し枠組みの再確認や調整を行うために必要な、リスク選好度のレビューの実施頻度は、「決まったプロセスはない(22%)」か、「四半期ごとにより正式なレビューを実施する」、さらに「最も取組みが進んだ企業では月次で実施する」までさまざまです。【図 29】 ただし挙げられていた中で最も一般的な対応は、リスク選好度の枠組みの詳細なレビューを年次で実施すると同時に、四半期ごとに取締役会に対し遵守状況の報告を行うものでした。

多数の金融機関にとって、リスク選好度の設定管理は依然としてその概念の理解や実施のプロセスが複雑で難しいものになっているようです。インタビューを通じて明らかになった課題は以下のとおりです。

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2626

リスク選好度のカスケードダウン(川下展開)

ビジネスレベルのリスク管理計画の統合

ある金融機関での、リスク選好度を組織のオペレーションのインフラに根付かせるための取組みは経営トップから始まりました。取締役会との協議後にCEOは、「リスク選好度は事業計画の作成前に決定しなければならない」という正式な方針を公表しました。リスク選好度整備のプロセスを単に「大上段に構えたグループレベルのエクササイズ」とするのではなく、ビジネスに直結したものにすることがその目標でした。この金融機関では2008年に持株会社レベルで取組みを開始し、リスク全体を構成する自己資本、流動性、株主資本利益率、オペレーション、年金リスクといった各面に関するメトリクスを整備し、それを地域別、事業別に細分化しました。CROによれば、リスク許容度はグループレベルで相対的に大きく設定されており、かなり融通が利くものとなっています。リスク選好度の設定プロセスは持株会社レベルから主要法人レベルへと枝分かれし、そこからさらに各国へと分かれ、最終的には個々の事業へと細分化されます。この金融機関では、地域別やビジネス別に中期的な見通しを立てており、各地域やビジネスにはリスク選好度に対する最前線でのステートメントの作成が求められます。このプロセスを担うリスク管理組織は、計画立案サイクルにリスク選好度設定を組み入れることによって、事業部門側への周知と関与を深めることになり、取組みを着実に進めていると考えられます。またリスク選好度の設定という取組みを通じて、リスクによる影響という観点からビジネスに注目するようになったことも指摘されています。ただし規模が大きく複雑な組織で変化を起こそうとする際にはありがちなことですが、それまでやってこなかったことを、人々に取り組んでもらうようにすることには、常に困難がつきものであることは間違いありません。

CROが総括しているように、「リスク選好度に対する取組みは、もう既定路線のプロセスなのです。(組織の)全員に向けてこれはプロセスの一部として決まったものであると言い聞かせています。来年にはもっと組織全体に浸透して、再来年には通常のビジネスの一部として溶け込んでいるのが望ましいと考えています。」

ある金融機関では最近、年次計画活動の一貫として、事業部門が個々のリスク選好度に対する評価を実施するための正式な要件とプロセスを整備しました。その経営陣(幹部)は取締役会と一緒に基本線として5つの主要財務メトリクスか指標を策定したうえで、個々の事業部門に対し、部門独自のメトリクスを3つ追加するよう求めました。その後、『どのシナリオになればよいと思うか?』『シナリオが7つ考えられるとすればどうなるか?』『シナリオの数が25になった場合はどうなるか?』あるいは『トップダウンでどんな要望があるか?』『実際の帳簿上はどうなるのか?』といった質問を通じ、各メトリクスの感応度に関する評価を求めます。次に自社の経済(資本)モデルを使って、これらの仮定やさまざまなシナリオをテストし、ストレス下でどうなるかを検証するのです。

リスク選好度の評価に基づいて、部門のリーダーには当該ビジネスに対するリスク管理計画の作成が求められます。CROはリスク管理担当役員や財務担当役員やその傘下のチームとミーティングを行い、リスク管理担当役員との話し合いの一環として、計画の見直しを行います。銀行ではリスク選好度の枠組みの中にリバース・ストレスシナリオを正式に取り入れており、ストレスによって実際にどのような影響を受けるかを洗い出し、さらなるストレスに対処できる能力があるかどうかを評価し、どの程度のストレスを受けた場合にビジネスモデルが行き詰まるかを明らかにしています。CROによれば、「リバース・ストレスシナリオは、規制当局が非常に有用だと考える「目玉」の一つになっている」ということです。

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27

ストレステスト

27

各社はストレスリスクの評価が向上したと回答しています

92%

図31:ストレステストに対する注目度の高まり

93%

図32:新しい手法(メソドロジー)

Exhibit 31: Increased focus on stress testing

Exhibit 32: New methodologies

過去数年間を通じて、業界全体でもっと盤石なリスク評価の必要性が明らかになってきました。経営陣が重大なビジネスやリスクの予想を行い、それが業績に及ぼす潜在的な影響を分析し、組織や組織全体にわたってマーケットイベントが引き起こす影響等を評価できるような、より高度な予測ツールが必要になっていることは、今回インタビューに応じた経営陣(エグゼクティブ)全員が実質的に認めていることです。調査にご協力頂いた方々からは、金融危機からの反省点に対処し、予測モデルやシステムや手続の向上や強化に向けた投資が増え、着実に改善が見られることが報告されています。また、整備・導入されたストレステストへの注目が社内で高まったと答えた回答者は、全体の92%にのぼります。これは、「注目が高まった」とした回答者が56%にとどまった2009年のIIFの調査結果と比べても、大幅に増えていることがわかります。【図31】 経営陣(エグゼクティブ)「誰もがストレステストの価値を認め、それについて毎日話題にし、やることすべてにそれを根付かせるようになっている」というある経営陣の言葉がそれを代表しているといえるでしょう。

金融危機による痛手がほとんどなかった少数の金融機関の回答者(7%)は、社内のストレステストを変更していないとしていますが、残りの93%の回答者は新しい社内向けのストレステストの手法を整備・導入し(2009年の74%から上昇)、一本化したモデリング基準を整備し、過去のデータや仮定にできるだけ頼らないようモデルを調整し、シナリオの利用や利用数を増やし厳格化し、タイムホライズン(シナリオの対象期間)を広げたと回答しています【図 32】。

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2828

84%

図34:ストレステストに関する管理報告書

88%

図33:ストレステストとリスク選好度

ストレステストを単なるコンプライアンスやリスク管理目的で使うのではなく、戦略的な管理ツールとして使うことに関心が高まった点は、重大な変革の現れの一つといえるでしょう。たとえばある経営陣(エグゼクティブ)は、「以前よりも細分化された」規制上の報告義務への対応としてだけでなく、自社独自の管理という目線からストレスシナリオを検証していると答えています。インタビューに応じた多数の回答者が、ストレステストと事業意思決定やリスク管理の意思決定とを連動させることが重要だとしていました。ある金融機関では、各部門で事業計画すべてに関して、その承認前にボトムアップ型の徹底的なストレステストを実施しています。回答者の88%がストレステストとリスク選好度の整備・管理プロセスが関連していると述べていることからも、リスク選好度とストレステストとの関連性が高まっている形跡がうかがわれます。【図 33】

ストレステストに関していえば、リスク管理チームの領域を超えて、取締役会や経営幹部に加え、ビジネス部門のトップなど、メソドロジーの整備、開発および結果の分析に関与を深めつつある人々も巻き込むものになったことを金融機関各行が明らかにしています。ストレステストの結果に関する取締役会や経営チームへの報告は、依然よりも頻繁に行われ、今日的な意味を帯びたものになっており、幹部の意思決定者向けに新たな管理報告書を作成するようになったという回答者も84%に達しています。【図 34】 また、 ストレステストの結果がリスク管理部門で日常的に使われることが多くな

り、事業部門で日常の意思決定のために使われるようになっているほか、取締役会や経営幹部がストレステストの結果をその戦略的意思決定に取り入れるようになっているという回答者もみられました。

2009年にアーンスト・アンド・ヤングが行った別の調査によると、リスク管理担当の幹部役員のうちで、自社に正式な全社的ストレステストのプロセスが導入されていると回答したのは全体の13%に過ぎませんでした。その後の2年間を通じて、この優先課題への取組みには著しい進歩がみられ、今年度の調査では回答者の88%が組織のグループレベルで内部のストレステストの統合に取り組んでいると述べています。【図 35】 だし、多岐にわたる事業部門やポートフォリオの中で使われているような、従来からの縦割りのストレステストのアプローチから、もっと大局的な広い視野で見られるような連結型のプロセスへの移行が容易でないことは、多くの人々が指摘している点です。多角化した組織を通じて複数の種類のビジネスやオペレーションを多数の国で展開し、経済要因や市場要因に対する反応や行動もさまざまなレベルがあるような規模も大きい組織では特に、これがひときわ困難な問題であるからです。「考慮すべき相関パラメータやシナリオの可能性はどれも重要なものです」としたうえで、「(ストレステストを行うには)さらに手法を高度化していく必要があると考えています。」とある回答者が述べていることからもそれは明らかです。

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29

70%

グループレベルでストレステストを統合している 88%

図35:組織内でのストレステストについて

91%

図36:シナリオプランニングへのアプローチ変更

収入源や安定性を左右する可能性があるような、市場要因やマクロ経済要因を幅広く検討し評価する際の重要なツールとして、金融機関ではシナリオプランニングの意義が高まりつつあります。シナリオプランニングプロセスから得られる結果を受けて、それを効果的に利用することが経営陣の事業決定に重要であるという点には、経営陣(エグゼクティブ)からも同意が得られています。回答者の91%はシナリオプランニングに対する自社のアプローチを変更したと答えています。【図36】 また回答者の大半は、自組織が直面する主なリスクを網羅できるよう、シナリオの数を増やしたとも述べています。シナリオプランニングへの変更をしなかったと回答したのは、主として比較的規模が小さい金融機関や欧米以外の金融機関でした。

一方で、金融危機で被った巨額の損失に加え、地理的にも事業的にもマイナスの影響が及ぶスピードや広がりを考慮して、多くの回答者がシナリオを厳格化したと答えています。またリスクの種類やビジネスにわたる潜在的な影響の大きさを反映して、シナリオの内容は多様化しています。経営陣(エグゼクティブ)は、あるインタビュー対象者が指摘した、「(よそと連携していない)切り離されたグループが全く辻褄の合わないシナリオを出してくる」ような状態を避けるためにも、各部門でとらえるべき主なストレスを適切に洗い出しできるよう、事業部門との間で協力体制を築くことが重要であると強調していました。一部の回答者は、シナリオが、有り得ないような「突拍子もないようなもの」であってはならないという点にも警鐘を鳴らしています。ですが、両極端ではなく程良くバランスが取れた状況を探し出すことはなかなか難しいことも事実でしょう。

過半数のインタビュー回答者(52%)は、リバース・ストレスシナリオを利用して、どういう要因が組み合わさると金融機関の破綻を引き起こす可能性があるかを検証しています。リバース・ストレステストでは、大筋で金融機関自身が破綻するという仮説をもとにして、そこから破綻を引き起こすリスクや脆弱性を明らかにすることが想定されています。多数の経営陣(エグゼクティブ)は、適切な判断を考える際の、リスクの集中やリスク間の関係、巨額の損失、自社の評判に深刻なダメージを通じて組織の存亡を左右するようなエクスポージャーなどを洗い出しするための貴重なエクササイズ(予行演習)であると考えています。

また経営陣(エグゼクティブ)は、ストレステストの手法があまりに複雑化したり難しくなったりしすぎた結果、経営幹部が分析したり効果的に利用したりできないだけでなく、ビジネスラインの人々が現実の問題として受け入れがたい、手に負えないものになることを懸念しています。さらに、この手の分析が経験豊富な経営判断と常識に沿ったものでなければならないことも多くの回答者から指摘されています。

信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーショナルリスク全体にわたってストレステストを統合している

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30

図37:ストレステストに関して克服すべき課題

リソース

76%

データの抽出・集計機能

80%

システム 83%

全社的なシナリオ

プロセスの導入

効果的なストレスシナリオを策定するためのカギが、システムとデータへの対応にあることは間違いないと思われます。【図 37】 80%を超える回答者が、組織全体を網羅したストレステストの実施に必要となる、正確で質の高いデータの抽出や集約に「対応できない」、非効率でバラバラなデータシステムが自社の問題であると指摘していました。その結果、複数のポートフォリオやビジネスにわたってストレステストを実施し、結果を取りまとめる手作業が頻繁に発生するにもかかわらず、そのプロセス実行に必要な経営資源確保に苦慮している回答者が多いように見受けられます。規制当局や取締役会のリスク管理委員会から求められるシナリオの分析に対応するためには、自社全体で150人もの人員が必要になるという経営陣(エグゼクティブ)もいました。ただしこれらの問題にはすでに対応中

であり、依然として残されている課題は多いものの、各社はリスクの集計や一般的なリスク管理のIT対応についてはかなり取組みが進んでいます。

インタビューに応じた方々の大半は、予測機能を高めるために、システムやオペレーションをアップグレード(更新)すべく、多様なレベルの投資を行ったことも指摘していました。ただし全体的にみた場合、ストレステストへの取組みはまだ道半ばであるといえるでしょう。また経営陣(エグゼクティブ)は、IIFの原則や提言、シニア・スーパーバイザー・グループによる所見や、バーゼル委員会の要件を満たす統合型のストレステスト導入に向けて改善を図るには、複数年にわたる取組みが必要になることに同意しています。

ある金融機関では多様な全社的シ

ナリオを導入し、市場リスク、信用リ

スク、運用リスク、オペレーショナル

リスク、法務リスク等を含むすべて

のリスクカテゴリーを網羅し、シナリ

オ別にリスクを集計しました。さらに

「ビジネス・リスク・コンポーネント」と

呼ばれるプロセスを整備しました。

これは、ストレス環境下で自社のコ

アとなる事業計画が被るボラティリ

ティの可能性について、そのシミュ

レーションと分析に力を入れたもの

ですが、より厄介な状況や困難な状

況をも織り込んで、リスクがない状

態で見込まれる収益との間で落とし

どころを探ろうとするものです。CROによれば、このプロセスは組織にし

っかりと根付いており、「このテスト

は規制当局の求めに応じて行って

いるだけではなく、取締役会やシニ

アチーム(経営幹部)に月次で行う

一連のリスク関連報告の中に欠か

せない部分になっています。」とのこ

とです。

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31

64%

表39:モデルへの変更の有無

86%

図40:新たなメトリクスの追加の有無

31

1.

15%

変更を開始した

59%

そこそこ変更している

26%

大幅に変更している

図38:透明性

Exhibit 39: Made changes to models

Exhibit 40: Added new metrics

リスク管理を下支えする情報とプロセスの質、正確性、適時性の向上への取組みはまだ道半ばたゆみなく変化する経済市場や規制環境の中で経営の舵取りを行うためには、組織全体にわたって可視化を進め、適切な情報を入手することが必要です。経営陣が戦略的方向性を定め、効果的な事業意思決定やリスクガバナンス上の決定を行うには、各事業部門や各地域から取り纏めるタイムリーで正確なデータや包括的な報告が欠かせません。情報の可視化を内部で進めることは、本調査にご協力頂いた方々の多くにとって重要課題であり、各社の取組みの進行段階はさまざまであることが判明しています。部門間や管理チームとの間での意思疎通と情報フローが整備され、長期的視野に立った透明性の強化が図られ、組織内の可視化が進んでいると回答したのはわずかでした。一部(15%)は計画策定段階であると回答しており、26%の回答者は著しい進歩がみられるとしていましたが、過半数の金融機関(59%)は、全社的に組織の透明性を強化させるには、対応にかかる時間、人員、資金面から複数年にわたる取組みや投資が必要であるとしています。【図 38】 インタビューに応じていただいた金融機関で、改善に向けた重点対応箇所とされたのは以下の4つの課題でした。

経済(資本)モデルとリスク計測のためのメトリクスの向上 回答者の64%は自社の経済資本モデルを変更したと回答しており【図39】、これは2009年のIIFの報告書にある42からも上昇した数字です。また86%は、透明性の向上やリスクエクスポージャーの規模やリスクレベルを現実的に測定し、評価するための新しいメトリクスを追加したと答えています。【図 40】2009年に報告しているとおり、金融危機で深刻な痛手を負った各金融機関は、自社の経済資本モデルへの修整の取組みでも他社より進んでいるものとみられます。

金融危機前に導入されていたモデルでは、事業部門間にわたるエクスポージャー等、一部のエクスポージャーの規模やリスクレベルを過小評価していたことを、多くの回答者が認めています。また相関関係に関する見かたが甘かったうえ、金融危機を通じてその元凶だったことが判明した種類のリスクについても、多くのモデルでは蔑ろにされていたことが明らかになりました。その結果経済モデルへの変更として、グループにわたるエクスポージャーの統合、予想できない損失が多額に及ぶ蓋然性を反映させた相関関係の修整、自己資本モデルの中の信用リスクの要素とバーセルIIのIRBモデルとの擦り合わせ、オペレーショナルリスク、流動性リスク、風評リスクなどの新しい領域を含む、従来のリスクの種類を超えた多様なリスクへの対応、ボラティリティの変動を反映させられるようなVaRモデルの高度化などが挙げられています。

経営陣(エグゼクティブ)クラスは、【図41】に示されるような箇所での透明性が向上したと述べています。ストレステストとカウンターパーティー・リスクへの対応は改善が必要とされる最重点課題に挙げられ、VaR、流動性、不透明性の評価、想定元本やグロスポジションなどへの対応がそれに続いています。

組織内部の可視化、データ及びシステムの向上(強化)

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透明性が向上した分野

3232

2.

図41:透明性が向上した分野

流動性の枯渇

VaRで把握できないリスク

59%

65%

不確実性の評価

48%想定元本又はグロスポジション

41%

ストレスVaR

カウンターパーティー・リスク

65%

76%

ストレステスト87%

一部の金融機関では、グループの法人数を減らす合理化策、傘下の法人(事業体)による報告の細分化を強化する取組みなど、対応を強化していると述べています。大半の活動の焦点は主要な法人(事業体)に当てられ、それより小規模の法人(事業体)については、「我々は一度にすべての法人に取り組もうとはしていませんが、今後もっと広範に対応するにはどうしたらよいかは常に考えています。」という回答に見られるように「段階的な対応」を目標としているようです。

データの集約(集計)、データの正確性やデータ品質の向上 透明性向上が必要な課題として首位に挙げられるのはデータやシステム廻りの問題ですが、これらの問題に対処する多くの取組みも目下進行中です。多くの金融機関は、組織のデータインフラやデータ管理に関する多数のハードルに直面しています。縦割り型の複数のシステムやアプリケーションの中から重要なデータを抽出したり集約したりする作業は、合併買収などを通じて規模を拡大してきた金融機関にとっては特に困難な課題となっているからです。システムが他のシステムとインターフェースできない場合も多々あり、その結果としてデータの収集には相当量の手作業とそれにかける時間が必要になっています。

インタビューでは以下の点が重点対応箇所として挙げられています。

データ管理のアーキテクチャ — 一部の金融機関は、リスク関連情報(管理)の全体的なライフサイクルの見直しや修正を通じて、ガバナンス、データ取得、分析、報告インフラ等を含む、元データの質を改善しようとしています。あるいはある経営陣(エグゼクティブ)が説明したように、「データ管理プロセスの骨格を決めようとしている」のです。金融危機で深刻な危機に陥ったある金融機関のCROによれば、「リスク管理部門と金融機関の経営陣からの理解や協力が得られるような、明確なターゲットモデルを決めるため」に、組織のデータアーキテクチャに関する徹底した、戦略的なレビューを行っています。レビュー対象となった問題には、データフロー管理に関する原則、リスク関連情報に関する役割と責任の所在、報告の透明性と品質、ポジション変更のタイムテーブルなどがありました。

データ・ウェアハウスの整備 — データを整理し適切に加工して総勘定元帳システムや財務上重要なスプレッドシートデータに一貫して入力する、集中的なウェアハウスやレポジトリの整備に取り組んでいる金融機関もあります。

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33

3.

41%

図42:カウンターパーティーごとのエクスポージャーの集計処理

2日以内

22% 2日以上

37% EOD時まで

81%

図43:手作業が必要となる場合

19% 現状維持(作業は不要)

73%

7% 減少した

20% 変化はない

図44:IT投資への増加

76%

図45:IT投資の見込み

2% 減少した

20% 変化はない

Time to aggregate counterparty exposure across business lines

Exhibit 42: Counterparty exposure

Exhibit 43: Require manual intervention

Exhibit 44: IT spend increase

Exhibit 45: IT anticipated spend

報告体制の効率化  インタビュー相手の方々は、内容的にもタイミング的にも効果的なリスク関連報告を行うことが、戦略決定とリスクガバナンスを一層効果的なものにするための重要な手順であるという点を認めていました。取締役会や経営幹部や規制当局者から求められているのは、組織が直面する潜在的なリスクユニバースに関する、信頼性が高い、綿密でタイムリーな情報です。そのため、データ要件やさまざまな受け手の具体的なニーズに対応する情報の処理を効率化し、重点対象に適切に絞り込んで先方のニーズに応えることを目指し、社内での報告内容やヒエラルキーの見直しを行っているという回答者が多数を占めています。

経営陣(エグゼクティブ)取締役会と経営幹部向けに「40ページ以内におさまる」リスク・ダッシュボードを作成したという回答もありました。このダッシュボードには、新しい問題が発生したときにはそれに関する詳細な報告が追加されます。報告がシニアチーム(経営幹部)にとって意味のある、価値が高いものにするための試みとして、組織全体が抱えるリスクとエクスポージャーの相関関係と要因に関する分析と説明のレベルを引き上げたという企業もありました。

多くの金融機関では、以前からかなりの費用と労力を費やしてEOD(業後)に時価評価できるよう取り組んできていますが、異なるビジネスラインを超えてカウンターパーティー・エクスポージャーを集計できるようにするには、今後も投資が必要な分野といえます。37%の回答者は、一部についてはEOD(業後)にビジネスラインを超えてカウンターパーティー・エクスポージャーを集計できるとしているものの、全部ではないと答えています。41%は慎重に見込んで2日程度はかかるとしており、残りの22%からはもっと長く、一週間か場合によっては一カ月以上もかかるという回答が寄せられています。【図42】

目下のところ、調査対象となった金融機関の大半は、カウンターパーティー向けのエクスポージャーの集計に手作業が必要な状態であるとみられます。【図43】 そのため、組織全体からデータを取りまとめ集計して、人手に頼らない自動化プロセスに近づけることがこれらの金融機関の目標になっています。「これまでの当社の統制環境は、手作業の「労働集約型」の作業に少々依存し過ぎていたように思います。」というある経営陣・役員の言葉が、状況を端的に表しているようです。

「大半の銀行と同じように、当行でも各国で複数のシステムを導入しており、データフォーマットもバラバラで、複数の情報ウェアハウスを使っています。いったんデータを正しい場所に、正しいフォーマットで保存すれば、それを別のものに作り変えるという次の取組みがもっと容易になると思っています。」と答えた経営陣(エグゼクティブ)もいました。

財務データとリスク関連データの擦り合わせ — 多数の金融機関では、リスク関連データと財務データとの擦り合わせに焦点を当てて、データソースの一本化を図ろうとしています。— ある経営陣(エグゼクティブ)が述べているように、「一本化した高品質な情報」があれば、経営陣に一貫性のある統合型の情報を報告でき、リスクに関する討議や決定もしやすくなるからです。

共通体系の整備 — 異なる種類のプロダクツに関する共通体系とヒエラルキーの整備については、完了済みか作業進行中という金融機関が多数ですが、これは各社が連結上抱える主要課題の一つに挙げられています。一方で、組織全体にわたって用語の定義を共通化するためのデータ関連用語の体系化をはかった金融機関もあります。

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34

4.

進行中の取組み完成済みの

取組みまだ手をつけていない・未計画の取組み

予定中の取組み

2%データ品質の改善

流動性関連データの管理改善

リスク及び財務関連データのコンバージェンス・照合

担保管理の支援

グループ関連データや企業関連データの集約

全社的ストレステストの統合

6%

30%

11%

11%

15%

81%

63%

57%

74%

60%

57%

11%

7%

9%

13%

23%

17%

9%

4%

2%

6%

11%

図46: 進行中のITの 活動(対策)

21%

システム関連投資  金融機関は、リスクガバナンスがもっと効果を発揮できるよう、ITインフラの強化にかなりの投資を行っていると報告しています。回答者の73%は、リスクアーキテクチャ支援のためにIT関連投資を増やすと述べており【図 44】、そのうちの40%を超える回答者が30%を超える増加を見込んでいます。またバーゼル新基準の導入とそれに伴う遵守や、規制環境の今後の動向に先行きが見えない不透明感が続くことで、全体の76%にのぼる回答者は、この費用が今後数年間にわたって増え続けるものと見込んでいます。【図 45】2008年以降投資が増えていない、あるいは将来的な投資を見込んでいると答えたのは、バーゼル基準への対応を受けて2000年初頭からIT関連にかなりの投資を行っていた、主として欧州系の金融機関でした。 統一性のないレガシーシステムの統合や連結、手作業で行っている箇所の自動化、データ品質や正確性および適時性の向上等を図るには、3年~5年がかりで取り組まなければならないと経営陣(エグゼクティブ)は考えているようです。【図 46】が示すとおり、大半の金融機関ではさまざまな取組みが進行中です。データ品質の改善が優先課題であることは意外ではなく、回答者の81%はその取組みが目下進行中であると述べています。流動性関連のデータ管理の改善も同じく多数の金融機関にとっての重点対応箇所であり、

回答者の74%は作業が進行中であるとしています。システム関連の他の取組みとしては、リスクと財務関連データのコンバージェンス(収斂)や照合、担保管理支援、全社的なデータ集計、全社的なストレステストの統合などが挙げられます。IIFでは目下、リスクやITおよびオペレーションの実務に関する業界調査を実施中で、主要原則やサウンドプラクティスに関する提言の詳細について、2011年6月には会員向けに報告書を発行する予定です。

大量のデータのアップグレードや、組織内で目下計画中あるいは進行中のIT関連の取組みを管理し実行するには今後一層社内での専門家が不足してくることが、一部の回答者から懸念として挙げられていました。社内だけでなく、社外の労働市場でも経験豊富な人材の熾烈な奪い合いが始まれば、プロジェクト完了までのスピードが大幅に制限されたり、変わってきたりするだろうと多数の回答者が考えていることは事実です。「経験と優れた管理能力を生かしてプロジェクトを仕切れる人材がいるかどうかは、銀行業界が常に頭を悩ませている問題です。たとえいくら予算をつけたとしても適切な人材がいなければ、取組みはなかなか進まなくなってしまうのです。」というある経営陣の言葉に、その状況がよく表されているといえそうです。

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35

終わりに

35

金融業界からは、金融危機で表面化したリスク管理につきものの弱点に対処し、大幅な進歩を遂げてきたことが報告されています。効果的なリスク管理が今や企業の責務の核心となっていることは多くの企業が自覚しているうえ、経営トップレベルの主導による、脆弱性に対処するための取組みが進行中であることも明らかになっています。また重要な変革の取組みは多数の金融機関で実施されており、特に金融危機で深刻な傷を負った金融機関では、組織全体を通じてリスク管理を強化するために、ガバナンスやアカウンタビリティ、メトリクス、プロセス、システムなどの面で改善が図られていることが調査結果から判明しています。規制の厳格化や監督の強化、国際的に進められている破綻再生処理の整備とあわせて、リスク管理とガバナンスの向上が、金融機関の体質強化と回復力のある金融システムを支えるために欠かせないことは金融機関全体の共通認識です。

回答者からは、取締役会が今や組織のリスク管理方針やパラメータの設定に重要な役割を果たしていることや、リスク関連の問題に重点的に時間を割いていることが指摘されていました。チーフ・リスク・オフィサー(CRO)やそのチーム力や影響力が増した結果、CROは今や戦略や事業計画、リスク選好度の決定や管理、製品開発や役員報酬のありかたなどビジネスのさまざまな分野に積極的に関わるようになっています。

また金融危機で露呈した流動性の問題を反省材料として、多くの金融機関が流動性リスクの管理や統制を強化しつつあります。多くの企業ではビジネス全域にわたって資本構成の再評価を行い、資本コストに関する分析を強化し、そのコストがどのように算定され、各ビジネスへ配分されているかを明らかにし、リスクを正確に反映した配分ができるようになりつつあります。それに加え各行では、ストレステストの開発と戦略的な利用についても著しい進歩があったと回答しています。新しく高度化したモデルを導入し、潜在的なリスクやそれが組織全体に及ぼす影響については、全社的な視野から再検討されています。

この結果フロントの多くでかなりの進歩があったことは事実ですが、改革プログラムはまだ完成からは程遠い状況にあります。取締役会からフロントに至るまでの全員が当事者意識をもってリスク管理にあたれるような、「強固なリスクカル

チャー」を醸成するためには、多くの組織で広範囲に及ぶ抜本的な変化が不可欠です。企業に深く根付いた考え方や姿勢を転換させることには長期的な取組みが不可欠であり、具体化するには経営幹部がその時間と経営資源を投入し断固として取り組むという姿勢を見せることが必要なほか、この分野でまだ残された課題が数多くあることも経営陣(エグゼクティブ)が認めています。

役員報酬のありかたは、引き続き論議を呼ぶ問題となっています。ただし各行は、規制上の指針にしたがってこの問題に取り組む姿勢を明確にしており、給与をリスク調整後の業績と連動させられるよう、自社のガバナンスやメトリクスやシステムの修整を行ってきました。とはいうものの、フロントでの対応にはまだ手つかずの部分もあるようです。

リスク選好度も重要な管理ツールとして浮上しており、経営陣は組織としてのリスクパラメータを設定し具体化するべく取り組んでいます。リスク選好度が明確に定義され、明確に伝えられ浸透していれば、それが全般的な事業戦略と組織のリスクガバナンスとをつなぐ橋渡しとなるだけでなく、効果的なリスク管理の枠組みを支えるよりどころにもなるでしょう。しかし、リスク管理戦略を日常のビジネス(業務)管理へと落とし込むことは容易ではありません。多くの金融機関にとってリスク選好度は、まだまだ理解も実施も難しい、複雑な概念やプロセスであることが多いようです。

また多数の金融機関は、リスク管理の土台となる情報の透明性や品質や正確性や適時性を改善するための取組みについても報告しています。ただし、多くの金融機関では複数の縦割型のシステムやアプリケーションから取り出した重要データの抽出や集約にあたって、多数のハードルにぶつかっていることも事実です。効果的なリスク管理を支えられるようプロセスやITシステムを改善するには、何年にもわたって時間や人材や資金をその対応に投入する必要があることは、複数の関係者が指摘しているとおりでしょう。

結論として、改善に向けた金融業界のコミットメントは依然として高く、各社では著しい進歩があったと考えられます。多くの企業では、リスク管理の一層の向上に向けて、戦略やプロセスやシステムを強化し改善する取組みの真っ只中にあるといえるでしょう。各社の経営陣は、金融危機からの反省点が自社の組織と業界全般双方に対して前向きで持続的な変化をもたらすと確信する一方で、この変化がフロントすべてに行きわたるまでにはまだ時間がかかると考えているように思われます。

取組みは着実に進みつつあるものの、まだまだ課題は山積しています

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付属資料

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行動原則及び提言本行動原則及び提言は、2008年7月に発行された市場最良慣行委員会の最終報告書に基づいていますが、その後の改訂を経て、「金融サービス業界の改革:安定性の高いシステムを確保するためのプラクティスの強化(実施に関するIIF 運営委員会[SCI]の報告書), 2009年12月)」として公表されているものです。

リスク管理

A. リスク管理のガバナンスに関する問題

行動原則

原則 I.i: 金融機関全体を通じ、リスクカルチャーが底堅く広く浸透していることが不可欠です。このリスクカルチャーの確立には、リスク管理を特定の分野にのみ限定したり、このマンデート を内部統制の領域に限ったりすることがないよう、入念な注意を払うことが必要であるとともに、すべての分野と業務活動を網羅できるように金融機関全体に浸透させるべきです。

原則 I.ii: シニアマネジメント(以下「経営陣上層部」)、中でもCEOは、取締役会の直接的な監視下でリスク管理に責任を持つものとします。取締役会とCEOは、自社のリスク選好度の明確な定義付けを行い、各選好度に関連したリスクプロファイルを継続的にモニタリングするなど、リスクに焦点を合わせた適切な対応をはかっていることを確認すべきです。

原則 I.iii: 組織の上層部でリスク管理に確実に、力を入れて戦略的に対応するためにも、各金融機関は経営陣上層部に、組織全体にわたるリスク管理の責任を負わせるべきです。またCRO(もしくはそれに準じる役席者)は、独立した立場にあるだけでなく、自社の経営意思決定に影響を及ぼすに十分な地位にあり、必要に応じて取締役会とも意思疎通を図れる人物であるべきです。

提言

組織的な対応によるリスク管理

提言 I.1: 金融機関は、リスク管理を、取締役会の監視下によるCEO等各組織の経営陣上層部の責任とするという、明確な方針を定めるべきです。経営陣上層部はリスク・統制プロセスに関わるべきであり、リスク管理と統制が業務に欠かせない要素であることを取締役会と経営陣上層部双方が認識すべきです。

提言 I.2: 取締役会はリスク管理に欠かせない監視の役割を担っています。

この義務に対応するにあたって、各取締役会はリスク管理を適切に把握している人物を取締役会のメンバーに加えるべきであるほか、各取締役会には、当該金融機関のリスクプロファイルやそれに対応する当該金融機関の業績を把握するための手段が与えられるべきです。

各金融機関の特徴に応じて、監査委員会とリスク管理委員会を別々に設けるべきかどうかに加え、リスク管理規律に関して高度な専門知識がある人物を少なくとも何人かリスク管理委員会(又はそれに準じる組織)に入れるべきかどうかを検討します。

取締役会は、経営陣上層部とともに格付や収益対ボラティリティの目標値など、金融機関のリスク選好度や戦略に関する基本的な目標を設定し、経営陣上層部が全社的にリスク管理方針を実施するにあたっての指標(よりどころ)とします。

さらに、その戦略が時間の経過とともにどのように方針転換しているか、いつ、どの程度がその戦略から逸脱しているか(例、いつコンディットや仕組み商品に戦略的に大きく依存するようになったか)を経営陣上層部とともにレビューします。

提言 I.3: リスク管理は全社的な優先課題とすべきであり、特定の分野にのみ集中的に対応したり、定量的な側面からのみ監視するプロセスとなったり、監査/統制部門だけが対応するものとすべきではありません。リスクカルチャーを強固に広く浸透させるには、各組織内で相互に強化(牽制)する役割が欠かせないのです。

提言 I.4: リスク管理はすべての事業部門(ビジネスライン)の管理職が担う重要な責務とすべきであり、自己資本を自己勘定で運用する部門だけがその責務を負うものではありません。

提言 I.5: 各組織の従業員は全員、自社が引き受けるリスクの管理に関して、どういう責務があるかを明確に把握すべきであるほか、その責務に関する自身の履行状況について説明責任を負うべきです。

提言 I.6: 金融機関は統制を実施し、導入されているガバナンス体制が日次のビジネスの管理で実際に運用されていることを確認すべきです。定期的で予測可能なリスク管理機能とガバナンス体制は、効果的なリスク管理を図るうえでの基本的な要素です。

提言 I.7: 金融機関は、統制部門及び監査部門が、その業務活動をレビューする対象先(の組織)から独立するよう、明確な方針を定めるべきです。統制部門と監査部門の責務は、業務部門とリスク管理部門(組織)が、社内方針や規制上の方針、統制、リスク管理に関する手続等を遵守していることを保証することです。

提言 I.8: 財務部門と資金部門は、リスク管理部門と協調し結束して業務を行い、重要なチェックアンドバランス(相互牽制)が効いていることを確認すべきです。

組織のリスク選好度

提言 I.9: 取締役会はリスクメトリクスや同様の指針や情報に基づいてレビューを行い、定期的、少なくとも一年に一度は、リスク選好度が経営陣上層部によって提案されたものどおりであることを確認すべきです。そのために取締役会は、経営陣が包括的に自社のリスクを検討し、リスク管理に適切なプロセスと経営資源を投入していることを確認すべきです。

提言 I.10: リスク選好度を設定する際には、金融機関は非契約的リスク、偶発リスク及びオフバランスシートリスク、風評リスク、カウンターパーティー・リスク及びオフバランスビークル(簿外特別目的会社)との関係から生じる他のリスクを含む、関連リスクをすべて検討対象とすべきです。(コンディット及び流動性の項目を参照ください。)

提言 I.11: 金融機関のリスク選好度とは、定量的要素と定性的要素をあわせ持ったものです。定量的要素については、メソドロジー、仮定及びリスク選好度を把握するために必要な他の重要情報等を用いて正確に洗い出しすべきです。定量的要素が明確に定義づけされていれば、適用したリスク選好度に関連する現在の自社のリスクレベルを、取締役会や経営陣上層部が評価できるようになります。さらに、リスク選好度のさまざまな要素を定量的に示すことで、取締役会は、自社が提示したリスク選好度に沿って業務を行っているかどうかを判断できるようになります。

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提言 I.12: リスク選好度は、リスクリミット(限度)を決める際のよりどころとすべきものです。このリスクリミットは全社レベルから事業部門(ビジネスライン)や部署別に分けられた後、地域やトレーディングデスク別に細分化されます。リスク選好度の利用については、グローバルの連結ベースで測定され、そのリミットとの比較が継続的にモニタリングされるべきです。

提言 I.13: 金融機関のリスク選好度は、その全体的な事業戦略(事業機会の評価を含め)や流動性や資金計画や自己資本計画と関連づけて決定すべきです。またリスク選好度は自社の現在の自己資本、収益計画、流動性リスクに加え、不安定な経済環境下で想定される結末にどの程度幅広く柔軟に対処できるかなどを、機動的かつ総合的に検討すべきです。したがって、リスク選好度は金融機関の財務状況や流動性に基づいて検討することが不可欠です。リスク選好度が適切かどうかは継続して自社でモニタリングし、評価すべきです。

提言 I.14: 金融機関は、事業計画策定プロセスの当初からリスク管理部門を関与させ、成長目標や売上目標が自社のリスク選好度と整合しているかを検証し、あわせてダウンサイド(マイナス面)の可能性についても評価すべきです。つまり、自社のリスク選好度とリスクポジションに関して、組織全体を通じて明確なコミュニケーション(意思疎通)を図るべきです。

チーフ・リスク・オフィサー(CRO)とリスク管理部門の役割

提言 I.15: 各金融機関は、経営陣上層部(役員)クラスの人物に組織全体のリスク管理の責任を充てるべきです。組織体制が異なっていてもその狙いは同じで、多くの場合、この立場の人物がチーフ・リスク・オフィサー(CRO)となります。

提言 I.16: CROは十分に自立した立場で事業部門(ラインビジネス)の管理職からは独立しているだけでなく、年功と(経営の)意思決定をそれなりに左右できる程度に社内での影響力を持つべきです。

提言 I.17: 金融機関は社内体制を自由に決めることができますが、CROをCEOの直接の指揮命令系統下に置き、CROが経営会議にも参加できるような体制の整備が強く望まれます。またCROは、取締役会のリスク管理委員会にも定期的に直接報告を行うべきです。取締役会全体に対し、定期的な報告を通じてリスク関連の諸問題やリスクエクスポージャーについてレビューすると同時に、リスク管理委員会へはもっと頻繁に報告を行うことが望ましいでしょう。

提言 I.18: CROには、リスク管理上問題となるような状況やリスク選好度に関する指針に著しく違反(抵触)するような状況が生じていれば、ビジネスラインのマネジメントと経営陣上層部又は取締役会双方に、適宜それを伝えなければならないという責任(義務を伴う役割)を負わせるべきです。

提言 I.19: 金融機関は、CROの独立性を損ねることなく、CROとリスク担当マネージャー全員が経営情報を十分に入手できるようビジネスライン(現場)と頻繁にやりとりできるように、CROの役割を決める必要があります。

提言 I.20: 金融機関は以下に挙げる重要な責務をCROに課すことを検討すべきです。

リスク管理の責務という点から、経営陣上層部を指導すること

特にリスクに重点を置くた考え方を、戦略計画策定や経営陣上層部が行う業務に取り入れること

リスク管理部門(組織)を監視すること

金融機関の現在のリスクレベルと見通しを評価し、その結果を周知すること

リスク管理を盤石なものとするために、システムや方針やプロセスや測定ツールを適宜強化すること

金融機関のリスクレベルとビジネスプロセスが、自社のリスク選好度、社内リスク管理方針、規制上の要件等と整合していることの確認及び、

リスクの変化やその集中の動向、ストレステストや他の手法を通じた調査が必要な状況等を洗い出しすること

提言 I.21: CROは経営陣上層部に対して、自社による重大な(ポジションの)集中に関する報告や重大な市場での不均衡についての協議を行い、それが自社のリスク選好度や戦略に及ぼす潜在的な影響を評価すべきであり、必要に応じて取締役会やその傘下のリスク管理委員会もそれに加えるべきです。CROは自社が直面するリスク全般に関し、(オフバランスシート・ビークル(簿外特別目的会社)関連も含め)入念かつ統合的に検討することが必要です。さらに専門的なレベルでは、リスク管理部門が社内リスク格付制度や細分化システムや各モデルを監視したうえで、適切に管理・検証されているかどうかを確認すべきです。モデルに使われる仮定、評点(スコアリング)システム、数値化に使われる他の要素などについても評価を行い、仮定が実情に合わなくなった場合、適切に更新されているかどうかも確認すべきです。

提言 I.22: CROとリスク管理部門は、新市場への商品展開・投入を含め、新商品の開発や導入の際の分析でも重要な役割を果たすべきです。リスクエクスポージャーを伴う新商品に関しては、それが偶発的流動性与信の引受であれ、与信枠としての引受であれ、リスク管理部門からはっきりとした承認を得るべきです。

リスク管理に対する経営資源(人材)

提言 I.23: 金融機関は、その役割を果たせるよう、リスク管理部門に十分な規模と品質の経営資源を確保していることを確認すべきです。経営陣上層部は取締役会の監視下で、このことに対し直接的な責任を負うべきです。

提言 I.24: 計画立案と予算化プロセスを通じて、金融機関は、人材、データシステム、リスク評価に必要な社内外の情報の検証や入手等、(必要な)経営資源が適切に確保されていることを確認すべきです。またその資源配分にあたっては、費用便益の点から慎重に検討すると同時に、自社の規模や事業構成に見合うよう按分することが大切です。

提言 I.25: リスク管理担当者は、統制の責任を果たせるよう十分な経験や資格や地位を備えているべきです。信頼を得るにはリスクに関する規律に精通しているだけでなく、市場や商品に関する知識も必要とされます。それに加え金融機関では、リスク管理部門と事業部門の役割との間での(双方向の)人事交流(キャリアクロスオーバー)についても検討すべきです。そうすることで、リスク管理部門と事業部門との相互理解を深めるだけでなく、リスク管理部門の機能強化にもつながるからです。

B. リスク管理のメソドロジーと手続

行動原則

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原則 I.iv: 金融機関はすべて、包括的で全社的なアプローチでリスク管理を実施すべきです。このアプローチによれば、金融機関は自社のビジネスライン(事業部門)とポートフォリオにわたるリスクをすべて洗い出しし管理できるようになるはずです。また取締役会や経営陣上層部や事業分野や統制部門が、リスクに関し効果的に意見交換できるよう、盤石なコミュニケーション(意思疎通)の仕組みを整備する必要があります。

原則 I.v: 金融機関のリスク管理の枠組みを整備する際には、単一のリスク管理メソドロジーや特定のモデルに頼り過ぎないようにすべきです。モデリングやそれ以外のリスク管理手法の適用にあたっては、常に包括的なリスク管理システム(体制)の一画をなすものとして、専門家による判断もあわせて検討すべきです。

原則 I.vi: 金融機関は、リスクの集中を洗い出しし管理できるよう方針と手続を整備すべきです。中でも、偶発債務かそうでないか、オフバランスかオンバランスかなども含め、契約形態等に関係なく、組織全体のリスクエクスポージャーを適切に集計できる手続と手法を整備すべきです。

提言

リスクの洗い出し上の問題点

提言 I.26: リスク管理責任者(マネージャー)は、規制上の要件だけでなく社内で承認されたリスクパラメータをよりどころとして、リスクを管理し測定すべきです。また取引案件に関する外部格付は、金融機関独自の適正評価プロセス(DD)の代わりにはならないことにも留意が必要です。これは特に、外部格付が個々の金融機関が独自に抱える問題に対処していなかったり、その基準やリスク管理目標との間での調整が行われていなかったりする可能性があるためです。

提言 I.27: 金融機関は(入手可能な調査や予測から得られる)マクロ経済環境に関する関連要素の評価を、ポジションやポートフォリオやリスク管理戦略に対する潜在的な影響の洗い出しなど、リスク管理に関する意思決定に明確に組み入れるべきです。

提言 I.28: 必要に応じ、金融機関は自社のポートフォリオ・レベルのリスク管理方法を改善すべきです。特定のポートフォリオに関する重要なリスク要因や、それに対するリスクメジャーを特定できれば、市場のファンダメンタルズが変化した場合に想定される影響を評価できるようになり、その結果として効果的なリスク管理が可能になります。

提言 I.29: 金融機関では、健全な基盤に基づく全社的な視点でリスクの集中度を含むすべてのリスク関連情報を集約できるよう、ポートフォリオ関連情報を整備し整理する手続を実施すべきです。

提言 I.30:リスク選好度の評価軸に合わせて、メトリクスを綿密に調整すべきです。短期的にはVaR、長期的には経済資本をよりどころとするだけでは十分に対応できない可能性があるため、自社の事業に応じ、それ以外のものさしで調整したメトリクスが必要になる場合もあるでしょう。(メトリクスの調整にはそれ以外のものさしが必要になる場合もあるでしょう。)

提言 I.31: 過去データに頼ったり、ボラティリティの見積りが不正確になりがちであることなどがVaRの弱点として知られていますが、自社のVaRのメソドロジーの見直しや改定(適応)を通じてこれに対応することが金融機関には求められています。その意味では、バックテストやストレステストも、VaR の欠陥を洗い出ししたり不備に対応する際の有力なツールとなるでしょう。

提言 I.32: リスク管理部門は、自社が利用しているリスク関連メトリクスや(VaR等の)モデルの欠点等への対応を、その手続の中に明白に織り込むべきです。この欠点等に対しては、専門家による判断等の定性的な手段を講じるべきであるほか、リスク管理の手続として、単一のメソドロジーに依存すべきでないことも明らかです。

リスク統合上の問題

提言 I.33: 金融機関は、(特に信用リスク、オペレーショナルリスク、流動性リスク、風評リスク等)絡み合った複数のリスクを適切に取りまとめる手続や手法を整備し、包括的なリスク管理を実施すべきです。また異なる分野のリスクを十分に統合できるよう、ITシステムや共通のメトリクスの整備に加え、効果的なコミュニケーション方法を確立させることも必要です。

提言 I.34: 金融機関は必要に応じ、新商品プロセスの中で統合的にリスク管理する必要があり、新商品の定期的なレビューもその方法の一つです。金融機関は、参照原資産のマイグレーションや、時間の経過に伴ってプロダクトに生ずるマイグレーション以外の、比較的小さな変化であっても、プロダクツやビジネスが抱えるリスクにどのように影響を及ぼすかを検討すべきです。

提言 I.35: 自己資本管理、資金調達、流動性管理、損益分析には、財務部門(プロダクトコントロールと資金部門)とリスク管理部門との間の連携を密にすることが不可欠です。

証券化商品や複雑な商品に関する問題

提言 I.36: 自社のビジネスが証券化や他のプロダクト・チェーンの特定部分に重点的に対応しているかどうかに関わりなく、リスク管理部門は、プロダクト・チェーンの相関関係を把握し、(自社が扱う証券化商品の原債務の組成(オリジネーション)には関係していない場合等)自社が直接的に関与していない側面も含め、リスクを総合的に評価すべきです。

提言 I.37: 金融機関は、仕組みモノやそれ以外のプロダクト・チェーンを扱う場合には、リスク合算という問題に特に注意が必要です。この種の商品が抱えるリスクを適切に管理するには、(リスクの)相関関係や相互依存性を適切に評価することがその管理の手がかりとなります。

提言 I.38: 金融機関は、証券化やそれ以外の偶発リスクから生じるリスクに具体的に対処できるよう、継続してリスク測定モデルを整備すべきです。中でも、測定モデルは直接的なリスクを「精査し」、エクスポージャーの市場感応度を把握できるものにすべきです。この点で証券化モデルでは、(複数の銘柄を参照対象とする)マルチ・ネームの商品から生じるリスクにも対処できるようにすることが不可欠です。

提言 I.39: 損益の影響の原因と、それがリスクとリワードに及ぼす影響について、リスク管理部門と財務部門の双方が明確に理解すべきです。

提言 I.40: 新商品のリスク評価では、自社独自のストレスと市場ストレスの両方に関して、ストレス下でのパフォーマンスを検討すべきであるほか、新商品の承認には、それを認可する場合の条件も盛り込むべきです。限度額(リミット)、履行要件、(当該商品を販売している間じゅう)拘束力がある仮定等がその条件の一例です。風評リスクの検討も、新商品のリスク評価には欠かせない要素です。

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集中リスク

提言 I.41: 金融機関はおしなべて、リスクの集中を適切に洗い出しし管理すべきです。金融機関(組織)全体にわたって統合的にリスク管理を行うことは、リスクのすべての根源(オンバランスリスク、オフバランスリスク、契約リスク、非契約リスク、偶発リスク、非偶発的リスク、引受リスクやパイプライン・リスク等も含む)を効率的に把握するために不可欠です。また個々の債務者やリスク要因、業界、地理的分布、(金融保証を含む)カウンターパーティーに関する集中リスクを把握できるように、評価モデルや手続を導入すべきです。金融機関はグローバルマーケットにおけるリスクの集中や、それが(資産ボラティリティの増加や流動性の逼迫等)個々の企業にどのように影響を及ぼすかについても検討を重ねるべきです。

提言 I.42: 金融機関がリスク選好度やそれに関連する限度額(リスクリミット)を設定する際には、過度のリスクの集中を避けるよう、積極的に検討すべきです。またリスク集中を避けるには、リミットの設定が欠かせない役割を果たすものになるでしょう。

提言 I.43: リスクのメトリクスを考える際には、ポジションの絶対規模が重要であると同時に、複数の(異なる)トレーディングデスクや事業部門でもポジションを保有している場合には、それを連結ベースでとらえることが不可欠である点を踏まえ、想定元本や資産区分別の指標(見かた)も適宜含める必要があります。

提言 I.44: 金融機関は、リスクの集中に適切に対応できるよう、ストレステストのメソドロジーを整備し継続して改善すべきです。

C. ストレステストに関する問題

行動原則

原則 I.vii: ストレステストは、さまざまな種類のリスクやそのリスク間の相関関係を対象として、包括的に行う必要があります。ストレステストはリスク管理のインフラ全体の中に組み込むものとし、方針やメソドロジーは組織全体を通じて一貫して適用されるほか、複数のリスク要因を効果的に評価できるような方法で整備する必要があります。

原則 I.viii: ストレステストは事業の意思決定に大きな影響を及ぼす可能性(必要)があります。経営陣上層部と取締役会は、ストレステストの結果や、それが自社のリスクプロファイルに及ぼす影響を評価するにあたって重要な役割を担っています。

提言

提言 I.45: 金融機関は、ストレステストの結果が経営陣の意思決定に有意な影響を及ぼすように、ストレステストを経営文化の一部とすべく内部管理手続を整備すべきです。この手続を通じて、、機械的な方法に頼らずに、実施すべきストレステストの種類や、最も目的適合性があるシナリオ、(自社のリスク選好度を決定する際のストレステストの結果の検討等)この種のテストの影響度評価等に関してビジネス(現場)と経営陣上層部とリスク管理部門との間のやりとりを増やすべきです。

提言 I.46: 金融機関は、自社のストレステストのメソドロジーが、グループ全体の視点だけでなくビジネス固有の視点や事業体固有の視点を取り入れたうえで、複数のビジネスラインと複数のリスク要因を評価し、組織全体を通じて首尾一貫して包括的に適用されていることを確認すべきです。また、ストレステストのメソドロジーには、他の内部プロセスの場合だけでなく他のリスク管理ツールとも統合すべきであるほか、異なるフロントオフィス部門で使わ

れている独自のモデルも考慮の対象に入れることが重要です。

提言 I.47: VaR等他のリスク管理ツールの限界や欠点を補完しそれに対処するために、ストレステストという手法を積極的に利用すべきです。中でもVaRが過去データに依拠していることを鑑み、ストレステストを使って、限定的な過去データに頼っているシナリオにおけるリスクの影響を検証すべきです。

提言 I.48: ストレステストには負荷のかかったシナリオも含めるべきです。また事態の展開にしたがって、シナリオを決定し作成すべきです。またこのようなシナリオを適切に決定するには、ビジネスライン(現場)の人員だけでなく、経営陣上層部の関与を求めることが不可欠です。過去データ経緯とフォワードルッキングなシナリオとのバランスが取れたメソドロジーを整備すべきであるとともに、静的なシナリオや市場動向を反映しなくなったシナリオに頼らないよう、留意が必要です。

提言 I.49:過酷事故が発生する蓋然性を一貫して甘く見ることも、効果的かつタイムリーに危機管理を行うという自社の能力を過大評価することもないよう、ストレステストは慎重に整備すべきです。

提言 I.50: ストレステストは、金融機関のリスク選好度に関連してリスクプロファイルを評価するにあたって欠かせない役割を担っており、事業活動やリスクの種類やエクスポージャーをすべて網羅して実施すべきです。

提言 I.51: ストレステストのメソドロジーは、リスクの集中に適切に対処できるよう整備すべきであり、オンバランス資産、オフバランス資産、偶発リスク、非偶発リスク及び契約内容とは関係ないすべてのリスクを網羅した、全社的に対応できる包括的なものとすべきです。

提言 I.52: ストレステストとその関連分析では、モデルエラーによるリスクに加え、プロダクトのサイクルを通じて一般的に生じる可能性がある、モデルやバリュエーション(評価)や集中リスク関連の不確定要素も考慮の対象とすべきです。また仮定の正当性を検証し、価格設定やモデリングに使うモデルの限界や欠点を特定するためにも、ストレステストを利用すべきです。

提言 I.53: 金融機関は、ストレステストを通じて証券化エクスポージャーから生じるリスクを把握できるよう、適切な手続を整備すべきです。中でも、証券化商品を扱う際には、当該原資産に関連するデータをすべて入手していることを確認したうえで、そのデータをストレステストの測定モデルに(適切に)組み入れるようにすべきです。

提言 I.54: ストレステストは、(証券化やレバレッジローン等がらみで)金融機関が後で販売する目的で積み上げたポジションに関するパイプラインリスクやウェアハウスリスク、そのような販売の遅れや条件変更や販売ができなくなる可能性があるような事象も含めるて考えるべきです。

提言 I.55: 金融機関は、ヘッジファンドや金融保証者やデリバティブの取引相手(ヘッジの有無を問わず)など、レバレッジがかかった相手向けのエクスポージャーに対するストレスの影響を考慮したストレステストの技法について、そのような相手先の信用度とヘッジ対象の資産のリスクとの潜在的な相互相関関係も含め、継続して改良する必要があります。

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提言 I.56: 金融機関は、自社独自のシナリオと市場関連のシナリオの双方を対象として、流動性リスク要因に関するストレステストの方針や技法の改善を図るよう、ことさらに注意を払うべきです。

提言 I.57: 金融機関は、実施すべきストレステスト、検証すべきシナリオ及びそれが自社に及ぼす影響等について、経営陣上層部とリスク管理部門との間での積極的な協議を通じて意思疎通を図れるような手続を強化すべきです。またきちんとフィードバックを返し合うことはストレステストのメソドロジーを盤石なものにするために不可欠です。メソドロジーを検討する際には、ストレスと評価効果 との関係を検討することも同様に重要です。

提言 I.58: 民間部門も公共部門も、ストレステストが「特効薬」的な解決策であると考えるのは行き過ぎであり、見当外れであるといえるでしょう。ストレステストの便益やその機能を最大限に活用することは問題ありませんが、一つのリスク管理ツールに過度に依存することは避けるべきです。

役員報酬に関する方針

行動原則

原則 II.i: インセンティブ型報酬はその業績(パフォーマンス)に基づいて決定する必要があるほか、全体的なリスクと資本コストを考慮したうえで、株主利益や長期的かつ全社的な収益性と整合が取れたものであるべきです。

原則 II.ii: インセンティブ型報酬は、自社のリスク選好度を上回るリスクを取ろうと仕向けるものにすべきではありません。

原則 II.iii: インセンティブ型報酬の支払いはリスク調整後かつ自己資本調整後の利益に基づくほか、可能であればその利益にからむリスクの時間軸(対象期間)と(段階的に)一致していることが望ましいとされます。

原則 II.iv: インセンティブ型報酬には、事業グループの価値全体に当該事業部門の利益が及ぼす影響を反映する部分と、組織全体の価値に反映する部分双方の要素を組み入れるべきです。

原則 II.v: インセンティブ型報酬には、自社の全般的な業績と、リスク管理部門の成果とそれ以外の総合的な目標という各々を反映させた要素を組み入れるべきです。

原則 II.vi: 退職手当には、その期間にわたって株主に向けて達成した業績(パフォーマンス)を考慮に入れる必要があります。

原則 II.vii: インセンティブ型報酬の決定方法、原則及び目的は、株主に対して透明性のあるものである(可視化されている)べきです。

流動性リスク、コンディット、証券化に関する問題

A. 資金調達における流動性の問題

行動原則

原則 III.i: 金融機関は、本報告書で更新・修正されている流動性リスク管理の原則に関する提言を、自社のビジネスモデルと合致する部分に組み入れ、健全かつ有効な流動性リスク管理実務を整備するべきです。

原則 III.ii: 金融機関は、手堅く流動性を確保しつつ、自部門の業務が抱える流動性リスクを十分に踏まえたうえで行動し、各ビジネスライン(事業部門)がインセンティブを持てるような、流動性リスクに関する内部価格の設定方針を整備すべきです。

提言

1. IIFの流動性リスク管理原則の実施

提言 III.1: 金融機関は、付属資料B及び本報告書の本文にベンチマークとして規定されている改訂後の提言を参考にして、継続的なレビューと自社のビジネスに合った重要な評価プロセスを通じ、流動性リスク管理に関する業界のサウンドプラクティスが自社で実施されていることを確認すべきです。

提言 III.2: 金融機関は、自社の流動性確保の裏付けに保有する資産は、当該資産に見込まれる流動性や通貨の内容に加え、金融市場や資本市場に合理的に見込まれる下落幅や持続力に見合ったものにすべきです。またこのような目的で保有するポートフォリオの資産内容は、金融商品やカウンターパーティーという観点からみても広く分散化すべきです。また主として流動性確保で保有している資産は、信用格付だけをよりどころとして評価すべきではありません。さらに流動性確保で保有する資産にからむリスクについては、経営陣上層部や所管の統制部門に対し継続的に報告すべきです。

提言 III.3: 金融機関は社内での透明性を十分に確保するため、グロスポジションとネットポジションに関する情報が入手できるように、(資産負債委員会、与信管理(債権管理)委員会等)然るべき委員会に対し、証券化に関する直接的リスクと間接的リスクが分けられて報告されているかどうかを確認すべきです。同時に流動性リスクについては、オンバランス取引及びオフバランス取引双方を含めた全社ベースで集約して報告すべきです。

2. 内部移転価格

提言 III.4: 金融機関は、オンバランス業務及びオフバランス業務の双方から合理的に見込まれる流動性需要に関連して、予想される又は実際に発生又は潜在的な費用を反映させた有効な内部移転価格方針が整備されていることを確認すべきです。移転価格の設定では、関連する原資産の流動性、原債務の構成、法的又は合理的に見込まれる、風評上の偶発的流動性リスクに関するエクスポージャー等を入念に検討すべきです。移転価格は流動性エクスポージャーをもたらす社内の各事業に対し、慎重な流動性ポジションを維持する自社のコストが按分されて配賦されていることが確認できるよう整備すべきです。

3. 流動性リスクのストレステスト

提言 III.5: 金融機関は、特定の資金調達手段に過度に頼るリスクを避けるためにも、(資金調達先、商品、地域、通貨等からみて)多様な資金調達手段を確保する必要があります。これには日々の流動性リスク管理だけでなく、ストレステストやコンティンジェンシー・プランニング(危機管理対策)目的での証券貸借取引や有担市場での調達も含まれています。日々の流動性リスク管理だけでなく、ストレステストやコンティンジェンシー・プランニング(危機管理対策)目的での証券貸借取引や有担市場での調達も含まれています。また金融機関は、使用しているメトリクスの適切性を定期的に再評価すべきであり、その分析を行う際には、自社独自の事象や市場関連の事象などのさまざまな事象を利用すべきです。流動性の枯渇という不測の事態による影響や、バックアップ施設の値決め等を勘案した市場感応度分析を行うことも重要です。

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提言 III.6: 金融機関はストレステストと分析を通じて、ストレスがかかった際の自社のバランスシートの規模がどう膨らむか状況を調べ、そのような不測の事態に備え、適切で状況に見合ったコンティンジェンシー・プラン(危機管理計画)を検討すべきです。

提言 III.7: 金融機関のストレステスト分析は、自社にとって重要な商品に関連づけられたポジション(tied position) 」を分析対象とすべきです。

B. 市場の流動性

行動原則

原則 III.iii:資金調達のかなりの程度(範囲)を有担の資金調達や資産流動化に頼っている金融機関は、平時だけでなくストレスがかかった状態などさまざまな状態を想定した資産の流動性を評価できるような、自社の流動性管理に対する盤石なプロセスを整備すべきです。

原則 III.iv: 金融機関は実現可能な範囲で公共部門と協力し、市場リスクの動向に対応した厳格なコンティンジェンシープラン(危機管理計画)を策定すべきです。

D. ストラクチャードファイナンス向けビークル

行動原則

原則 III.v:オークションレート証券やコンディット等の証券化ビークルに対するエクスポージャーが、流動性対策や流動性管理の中に反映されており、スポンサーたる金融機関による資本支援や開示が十分に行われ、透明性が確保されていることを確認できるような、効果的なリスク管理を行うべきです。

原則 III.vi: 流動性リスク管理を正常なものにするためには、オフバランスシート・ビークル(簿外特別目的会社)に関する(正式な)偶発債務に加え、取引関係や風評上の理由から各ビークルやオークションレート証券への援助が必要になるような、潜在的な影響等の評価もリスク管理に含める必要があります。

提言

6. 証券化及びビークルに関する公共部門の提言と検討事項

提言 III.8: 金融機関の内部統制システムには証券化プロセス、オフバランスシート・ビークル(簿外特別目的会社)への正式なコミットメントも含め、当該金融機関が関係する証券化取引プロセスすべてを含めるべきです。金融機関が投資家として、ビークルやエクスポージャーに対して正式かつ継続的な義務を負っている場合、もしくは、不測の事態が起きた際、風評リスク等の理由で当該案件に関して実際にエクスポージャーが生じる可能性があると考えられる場合には、関連する取引をすべてその分析対象に含めるべきです。

提言 III.9: 経営陣による監視とリスク管理に加え、エクスポージャーを全体的に管理するために、金融機関は証券化案件ののコミットメントや取引に関して統合型の承認手続を整備すべきです。(ポートフォリオやリスクの)集中を把握し合算するのが困難になったり、認識漏れが生じたりする恐れがあることを踏まえ、集約が難しくなるようなバラバラに承認する体制は避けるべきです。

提言 III.10: 金融機関のリスク管理とガバナンスの手続として、

重要な証券化案件やオフバランスシート・ビークル(簿外特別目的会社)すべてに関して、商品別、原資産別、(オリジネーター、スポンサー、ディストリビューター、トラスティー等)取引案件に関する自社の役割別等に頻繁な見直しを行い、少なくとも一年に一度は見直すべきであるほか、当該案件に投資家として関与している場合には、そのポジションについても見直しを行うべきです。また各案件(事例)について、当該金融機関のエクスポージャーの内容が分析と報告に正確に反映されるよう、細心の注意を払うことが求められます。.

提言 III.11: 金融機関は、法的義務は負わないとしても、自社のバランスシートが風評リスクにさらされたり、その結果流動性や自己資本にマイナスの影響が及んだりする可能性があるかどうかを検討すべきです。取締役会は、経営陣上層部が重要なリスクの移転や統合に関して生ずる規制上や会計上の要件について、適切な注意を払っているかどうかを確認すべきです。ただし監督当局と監査人は、そのようなリスクに関して当該金融機関が行った評価やストレステストそのものを、自己資本や会計上連結する際の根拠とすべきではありません。

提言 III.12: 金融機関によるリスクの集中とカウンターパーティー・リスクの分析には、モノライン等、証券化案件の保証人に対するエクスポージャーが含められていることを確認すべきです。またこの種の分析には、関連するクレジットデリバティブのポジションから生じる直接間接のエクスポージャーも対象に含めるべきです。

提言 III.13: 証券化取引に関する金融機関のリスク管理分析には、原資産の履行状況のほか、それによって生じる実際のエクスポージャーや潜在的なエクスポージャーに関する分析も含めるべきです。

提言 III.14: 金融機関は、今後の証券化に備えて保有している資産や売却前のトランシェ向けに保有している資産に関するウェアハウスリスクやパイプラインリスクが、全体的なエクスポージャーの分析に含まれていることを確認すべきです。

提言 III.15: 自社保有資産の証券化や、自社が組成した証券化案件に対しては、取引案件を組成するグループと、それに対する投資や売買を行うグループとは組織上分離させるべきです。組成(オリジネーション)チームと保有ポジションの購入を行うトレーディングデスク間で組成・売買上の対立が起きることを回避したり、投資戦略に関するインセンティブを歪めたりすることがないよう、両グループは社内でバランスのとれた意思決定ができる権限のある上層意思決定機関に対し、(双方が)独自に助言を与えるべきです。

提言 III.16: 経営陣上層部は、当該ビークルの規模や安定性からみた、その財務状況や流動性ポジションや規制資本状況の評価等、自社と関連した証券化ビークルに関するリスクを念入りに評価すべきです。この分析にはコベナンツ(財務制限条項)やトリガーによる影響も含む、構造上のリスク、支払能力、流動性リスク等のリスクに関する分析のほか、流動性ストレステストで挙げられた問題等も含みます。経営陣上層部は、取締役会に証券化ビークルに関するリスクが報告され、自社のリスク選好度全般に及ぼす影響を認識できるよう、注意を払うべきです。

提言 III.17: 金融機関は定期的に概要分析を行って、経営陣上層部に対し証券化資産とその資産分類に関する概要を報告すべきです。関連する事業部門とリスク管理部門双方は、原資産の(信用状態の)悪化や証券化案件に影響を及ぼしかねない新たなリスク等に関し、自社の早期警戒指標をもとに情報収集し、報告すべきです。金融機関にこの体制が備わっていれば、警戒情報に対してリスク管理上すぐに対応が図られます。IT関連投資はこの機能を下支えられるようなものにすべきです。

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資はこの機能を下支えられるようなものにすべきです。

提言 III.18: 提言 I.41と整合するように、金融機関は所管の証券化ビークルとその原資産すべてを、グループ全体のリスクの集中に関する評価に含められるようにすべきです。このようなリスクの集中については、資産負債(ALM)委員会や与信管理委員会等、所管する監視委員会への定期的な報告に含めるべきです。

提言 III.19: 金融業界は、証券化取引やそのリスクに関して、文言等の統一を後押しすべきであり、徐々にコベナンツ(財務制限条項)やデフォルト時のトリガー条項などの取引条件の標準化を行い、市場の発展やリスク管理を支えていくことが必要です。

バリュエーション(価値評価)上の問題

行動原則

原則 IV.i: 金融機関は、専門家による重要な判断や規律を盛り込み、会計上及び規制上の適用指針に従った、盤石なバリュエーション(価値評価)プロセスを整備すべきです。

原則 IV.ii: 金融機関は、厳格な(価格)検証や統制の手続を含む、バリュエーション・プロセスに関する包括的な監視体制を維持すべきです。社内のガバナンスとして、統制の機能やバリュエーションの検証が独立して行われていることを確認する必要があります。

原則 IV.iii: 金融機関は、公共部門や会計基準設定者とともに、バリュエーションやバリュエーション・プロセスやその手法に加え、バリュエーションに絡む不確定要素やこの不確定要素をバリュエーション・プロセスに組み入れる方法に関する、重要かつ比較検討が可能な開示を整備する取組みに加わるべきです。

原則 IV.iv: 金融機関は、取引報告や市場におけるプライシングサービスの質やその対象範囲の網羅性向上に積極的に取り組むべきです。また金融機関は、市場に提供する価格情報、中でも金融機関の指値ではないデータに関するガバナンス(管理)を強化すべきです。価格情報がタイムリーで正確かつバランスが取れていることを担保できるように、市場に提供する価格情報を対象とした厳格なガバナンスと手続の文書化を整備すべきです。

A. バリュエーション・プロセスの管理とガバナンス(監視)

提言

提言 IV.1: トレーダー、ディーリングデスクの責任者及び各事業部門の責任者は、提言 IV.2–IV.8.に規定されている適切なレビューとガバナンスに従って、各事業部門(ビジネス)が責任を持って適切なバリュエーションを行っていることを確認するため、バリュエーション案に対する説明責任を持ち、それを承認すべきです。

提言 IV.2: 金融機関は、独立した厳格なバリュエーション実務が首尾一貫して適用されていることを確認すべきです。

提言 IV.3:複雑な金融商品や流動性がない金融商品に関しては、金融機関は、コンセンサス・プライシング・サービス等、入手可能なあらゆるモデリング手法や社内外からの意見の限界や欠点を認識しつつもそれを利用し、適切な専門家による判断と原則を適用し評価すべきです。

提言 IV.4: (流動化または証券化される可能性が高く、資産プールとして測定される証券化準備中の(ウェアハウス又はパイプラ

インにある)全資産等)その実状に基づくのではなく、使用目的に即した基準や公正価値で測定される資産に関しては、証券化が実行されなかった場合、現状のままで処分すると仮定した場合のバリュエーションについて、社内で追加のモニタリングを行うべきです。

提言 IV.5: バリュエーション・プロセスに関する金融機関のガバナンスの枠組みでは、リスク管理、財務、会計方針などからの意見を取りまとめ、適切なプロダクトコントロールとリスクコントロールを図れるようにすべきです。このプロセスには経営陣上層部を関与させるべきです。

提言 IV.6: 社内のガバナンスとして、バリュエーションの管理と検証にあたる責任者が独立性を確保した立場にあることを確認すべきです。そのために、バリュエーションを管理するグループは、取引の進捗を把握できないほど市場部門から離れるのではなく、逆にその独立性を損なうほどセールス・トレーディング部門に密着し過ぎないよう、適切かつ慎重に組織内での立ち位置を決める必要があります。

提言 IV.7: 金融機関内で所管の統制部門は、独立価格検証の手続とそのデータソースを定期的に見直し、(その正当性に異議があれば)適宜説明を求めるべきです。またバリュエーション上の問題に関する意見の不一致の解決や、バリュエーションの重大な問題の取締役会の監査委員会やリスク管理委員会への上申に関しては、明確な手順を設けるべきです。

提言 IV.8: オフバランス・ビークル(簿外特別目的会社)が保有する資産のバリュエーションを含め、バリュエーションに関する問題を検討する際には、CROとCFO(あるいは同格の地位の人物)双方、もしくはそのいずれかが定期的に関与すべきです。財務委員会やCFOはバリュエーション上の問題に留意し、定期的にそれに関する検討を行うべきです。

提言 IV.9: 金融機関は、新商品やそれに関係する(測定)モデルや価格に関する承認プロセスを整備し、規模や他のオペレーショナルリスク要因からみて、新製品や資産区分やリスクの種類が適切に評価されていることかを確認すべきです。

提言 IV.10: 金融機関は平常通りのビジネスを想定したモデルレビューに加え、価格検証に関する体系立った仕組みやプロセスや方針を体制、プロセス、方針等を整備すべきです。

提言 IV.11: 金融機関は、同種の資産や負債に対しては首尾一貫したバリュエーション方法が整備されていることに加え、不一致等を洗い出しし経営陣上層部へ上申する手順があることを確認すべきです。

提言 IV.12: バリュエーションは感応度分析に従って行い、ポイント見積に関する不確定要素の範囲と潜在的な変動性(ばらつき)を評価したうえで、組織全体に報告すべきです。

提言 IV.13: 金融機関は自社内で適用されたとおりに会計方針を遵守しているかどうかを監視し、その完全性と首尾一貫性を確認できるような盤石な枠組みを整備すべきです。

提言 IV.14: 金融機関は、会計方針の決定が経営陣の所管(検討)事項であることが明らかになるように、プロセスが整備されていることを確認すべきです。またこのプロセスには、会計上の要件や会計方針がバリュエーション・プロセスにどういう影響を及ぼすか、その把握を含むべきです。

提言 IV.15: 金融機関は、取引価格が古かったり流動性が低かったりする場合などには、気配値(クオート)が、取引が発生したと想定される時点の価格を反映していない可能性があることを

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認識すべきです。金融機関は、このような根拠に基づいたバリュエーションのチェックに然るべき分析担当者を充てて、適宜修整を行うべきです。

提言 IV.16: 中小金融機関の場合、その経営資源に限界があることから、少なくとも社内のベンチマーキングを設定し、バリュエーションに関しては気配値(クオート)のみに頼らないようにすべきです。

提言 IV.17: 金融機関は、市場にストレスがかかった場合の、然るべきガバナンスプロセスを伴ったバリュエーションの手順を整備すべきです。この手順には市場の流動性やボラティリティの変動によって個々の資産に関するバリュエーション方法の変更が必要となる場合の認識方法や対応方法も含めるものとします。

提言 IV.18: 金融機関は、観察可能な市場価格から他のバリュエーション技法に差し換える場合には、重要な資産区分に関するmark-to-model等、インフラや価格検証への影響を評価すべきであり、経営資源策定にもその影響を盛り込むべきです。

提言 IV.19: 金融機関は適切な経営資源を抱え、市場が混乱しているさなかでもバリュエーション(価値評価)を行うという要望に応えるべきです。

提言 IV.20: 規制資本の点からみて、金融商品をトレーディング勘定と銀行勘定のどちらに計上するかを判断する際には、客観的な基準と統制の手順に従ったプロセスをたどるべきです。金融機関は、慎重な会計上の検証を通じ、どのような根拠で当該金融商品を当初トレーディング勘定に計上したか、あるいは銀行勘定に計上したか、社内と監査人に対して明確に説明すべきです。

B. インフラの改善

提言

提言 IV.21:(入手可能な場合は取引価格報告の取りまとめ、あるいはコンセンサス・プライシング・サービス又は同種のサービスの利用を含む)幅広く容易に入手可能なプライス・ユーティリティ を通じて、金融商品とその原資産に関するデータを幅広く取り込み、バリュエーション向けの価格評価を向上させるべきです。

提言 IV.22: 金融機関は、ユーティリティに提示する価格に対し適切な統制を行って、各サービスの規則や要件と整合した、質の高い価格を提示するだけでなく、入手可能な限り多くの重要ポジションに関する価格を提示できるようにすべきです。

提言 IV.23:入力値を提示する事業体の専門能力や提示する価格の内容(品質)が、明確に定義された要件を満たしているといる限りは、ユーティリティはできるだけ広範な情報源から入力値を収集すべきです。

提言 IV.24: バリュエーションに関する他の提示価格に納得がいかない場合には、金融機関はそのバリュエーションに関し、担保やレポ(現先)の実績から入手可能な情報の使用を検討しても差し支えないでしょう。

提言 IV.25: インデックス・プロバイダー(指数提供業者)と業界からはカバレッジや流動性や入力値に関する透明性の向上が求められており、(マーケットメイク、売買、トレーダーのバリュエーション、ヘッジ、投資家のバリュエーション等の)異なる目的からもそれらの数値が必要とされている点をあわせ、使用頻度が最も高い指数の一部に関する弱点・欠点への対応が求められています。

証券化市場における信用供与の引受け、格付、投資家によるデューディリジェンス(適正評価)

A. オリジネーター(組成者、原債権者)/出資者、アンダーライター(引受人)、ディストリビューター(販売者)

行動原則

原則 V.i: 「組成から販売」までのプロセスに関与している金融機関は、当該プロセスの完全性を担保するために、あらゆる段階で綿密なデューディリジェンス(適正評価、DD)を実施すべきです。

原則 V.ii: オリジネーターは、資産プールの中の貸付金や商品すべてに対して、適切な貸出基準を適用すべきです。

原則 V.iii: (証券化の)ストラクチャーの裏付けとなる資産プールの取りまとめや維持を行うスポンサーは、当該ストラクチャーに含まれるエクスポージャー向けの与信審査と承認について、適切な方法を明確に規定すべきです。またスポンサーは、当該エクスポージャーが自社のバランスシートに計上されたと想定した場合と同じように、慎重かつ入念に審査を実施すべきです。

原則 V.iv: オリジネーターや引受人は、投資家や格付機関に対し、仕組み商品に関する適切かつ目的適合性のある情報やその原資産について適時に開示すべきです。

原則 V.v: オリジネーターや引受人は、機関投資家へ販売する仕組み商品の全般的な適切性について検討すべきです。

提言

デューディリジェンス(適正評価)

提言 V.1: オリジネーター(原債権者)、スポンサー、アンダーライター(引受人): 適切な適正評価基準を適用し、それに従うものとします。

適切かつ目的適合性のある情報が適時に公表されていること及び、原資産となる担保の履行状況に関し、適切な継続的モニタリングと開示が行われていることを確認します。

提言 V.2: 金融機関は、組成や販売を手がける資産について、自社のバランスシートに計上する類似の資産に適用するものと同じ信用供与基準で適正評価を行うべきです。金融機関がスポンサーとなる第三者資産についても、適切な適正評価プロセスを実施すべきです。そうでない場合には、金融機関は信用供与に対する通常の適正評価プロセスを実施しない理由を開示すべきです。

提言 V.3: 金融機関は、特定の種類の機関投資家にとっての、プロダクツに関する適切性を総合的に検討すべきです。また金融機関内での販売プロセスをレビューし、売却時にプロダクツのリスク要因や投資家のリスクプロファイル等を適切に検討していることを確認すべきです。

提言 V.4: 証券化商品の裏付資産のオリジネーター(原債権者)はすべて、銀行として規制対象になっているかどうかを問わず、借入人の返済能力に関する合理的な評価を行うといった、基本的な信用供与原則を遵守すべきであり、そのような基本的要件と釣り合いのとれた文書化を行うべきです。

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レバレッジローン及び他の企業債務に関するオリジネーション(組成)の基準

提言 V.5: 借手と貸手(引受人、出資者、他のエージェント等)との交渉では基本的な信用供与原則に従う必要があり、貸出に関する交渉条件がもたらすリスクの影響も慎重に分析する必要があります。

大規模な売買パターンでの利益相反の可能性

提言 V.6: 金融機関は、その売買と戦略実施との間に生ずる潜在的な利益相反や対立について、適切な経営陣上層部(部門)に報告できる体制を導入すべきです。販売戦略や売買戦略の変更等対立を解決するに必要とみられる適切な対策を、適宜導入できるような十分な権限を持ったレベル(職階)の部門が対応できるようにすべきです。また、特定の商品に関し、潜在的な投資家に向けて、いつそのような対立を開示すべきかを決定するための方針を明確化すべきです。

B. 格付機関

行動原則

原則 V.vi: (格付機関が公表する)格付レポートでは、適用されている貸出基準や借手の書類のサンプリング対象とした金額等の定性的な情報に加え、格付機関が目的適合性があるとする定量的情報も含め、主なリスクの特徴や仕組み商品(ストラクチャー物)の仕組みについて評価し、明確に説明すべきです。

原則 V.vii: 独立した価格検証や、モデルや仮定やストレステストに関する定期的なモニタリング等を網羅した、格付機関の内部プロセスに関する業界基準を整備すべきです。

原則 V.viii: 格付機関の格付プロセスを既存の基準と照らしあわせて検証する外部レビューは、格付の信憑性や信頼性を担保するために不可欠です。

提言

提言 V.7: 格付機関は、何を目標としてストラクチャードファイナンスの格付を行っているか、もっと明確にすべきです; またデフォルトや倒産確率(PD)については明確に定義すべきです。さらに特定の仕組みに関して、そのモデリングを裏付ける仮定や、その仮定がわずかに変化した場合に感応度がどう変わるかについて、相関関係やストレステストに関する討議などを通じて、もっと多くの情報を提供すべきです。格付や追加指標のいずれかが異なる証券に関して、(トリガーのような関連性のある要因を考慮に入れたうえで)その回収可能性に対しても重点的に取り上げるべきです。また、格下げにつながる可能性があるような要因についても明確にすべきです。

提言 V.8: 格付を決定する際には、オリジネーター(原債権者)の貸出基準や、借手の書類のサンプリング対象とした金額等の定性的要因も検討材料に入れるべきです。

提言 V.9: トランシェが異なる場合の格付に対しては、仕組み商品の反応(支払能力に対する影響)に関するデフォルトトリガー の影響や、デフォルト時の投資家の回収可能価値を考慮すべきです。

提言 V.10: 格付機関は、仕組み商品と関連性があるリスク要因の情報を提供すべきです。それに加え、格付機関は仕組み商品に対し(社債等向けとは別の)異なった評価尺度や指標を整備したり、追加で導入すべきです。

提言 V.11: 市場からの信頼を回復するために、格付機関は、独立した内部検証のプロセスや仕組み商品の格付けに利用するモデルのモニタリングに関する基準を導入すべきです。

提言 V.12: 格付機関の中の独立したモニタリング部門は、定性的な要因の変化とあわせ、プール資産となっているローンの継続的な履行状況と照らしあわせて、仕組み商品に関する仮定やストレステストの適切性をレビューすべきです。頻繁なモニタリングやバリュエーション(価値評価)に対応できるように、ITやデータ保管の体制を整えるべきです。

提言 V.13: 格付業界の専門家を含む外部の体制を構築し、基準を整備し、格付機関の内部プロセスをレビューしたうえで、それらの(新)基準への遵守状況を評価すべきです。このようなレビューを通じて、モデル構築やアプリケーションの整備状況、モデルやプロセスのモニタリング、ガバナンス廻りのプロセスの堅確性を検証します。ただしこのレビューは、指標、メソドロジーやモデルおよび仮定の正当性を検証することを目論むものではありません。付表Cで明らかにされているような問題点や、ステークホルダーや格付機関が提案するようなその他の問題点も考慮に入れたうえで、基準を整備すべきです。

C. 投資家

行動原則

原則 V.ix: 投資家は仕組み商品について独自にデューディリジェンス(適正評価)を実施し、自社の投資(運用)マンデート、投資の時間軸、リスク選好度等と照らし合わせ各商品について分析すべきです。

提言

提言 V.14: 仕組み商品の投資家は、自身が当該商品を理解したうえで、外部格付に頼るのではなく社内でリスク評価を実施できる専門能力と経営資源を十分に備えていることを確認すべきです。

提言 V.15: 投資家は、投資決定前に各仕組み商品の徹底的な分析が必要となるような、強固な社内リスク評価プロセスを整備すべきです。

提言 V.16: 投資家はそのガバナンスプロセスをレビューし、仕組み商品に投資を行う場合に、それに対して適切な統制が整備されていることを確認すべきです。格付だけに頼って統制や指示(マンデート)を行うのではなく、仕組み商品に関するリスク決定やレビュープロセスを独立して整備し、文書化すべきです。

提言 V.17:投資家は、投資先の商品が、自身が保有することになる特定のポートフォリオに対するリスク選好度に合致していることかどうかを購入前だけでなく、購入後も定期的に評価すべきです。

提言 V.18: 重要な仕組み商品それぞれに関する資産プールについて、投資家が継続的にパフォーマンスデータの検討を行えるようなモニタリングプロセスを整備すべきです。内部プロセスを明文化して、各商品に対する定期的な再評価ができるようにすべきです。

提言 V.19: 投資家によるバリュエーション(価値評価)については、ポートフォリオマネージャーやトレーダーから独立して管理すべきです。

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提言 V.20: 仕組み商品に対する投資を検討する際には、機関投資家はそのデューディリジェンス(適正評価)の一環として、当該商品を組成又は出資している金融機関がその一部を保有する方針があるかどうかを確認し、そのような方針が自社の投資決定を左右するかどうかも検討材料に含めるべきです。

透明性と開示に関する問題

行動原則

原則 VI.i: 金融機関の開示に関して最も重要なことは、その対象範囲として金融機関の業務全体を網羅することに加え、その内容と明確さが求められることです。

原則 VI.ii:リスクに関する開示では、自社のリスク管理プロセスに関する際立った特徴だけでなく、組織のリスクプロファイルと新たに発生するリスクの内容をできる限り明確にすべきです。

原則 VI.iii: 市場の定義や仕組みを全世界的に標準化し統一を図ることは、仕組み商品市場の今後の発展に向けて欠かせないものだといえます。

原則 VI.iv: 開示に関する責務を果たすために金融機関は、証券化ビジネスなどのオフバランスシート・リスクやそれに関するエクスポージャー等、開示時点の市場環境で生じている、関連性が最も高く重要なリスクやエクスポージャーが開示に含まれていることを確認すべきです。

原則 VI.v: 金融機関の情報開示には、バリュエーション(価値評価)やバリュエーション・プロセスやメソドロジー、仮定、感応度、不確実性等に関する、有意な定性的情報と定量的情報を含めるべきです。

A. 仕組み商品(ストラクチャー物)レベルでの対応

提言

1. 目論見書の開示について

提言 VI.1: 公開買付文書(オファー・ドキュメント)には、主なリスクに関する概要と、重要なリスクの特徴のリストを含めるべきです。業界として、概要とリスク関連情報について、妥当と考えられる標準的な内容を雛型として取りまとめるべきです。

2. 標準化と透明性の向上について

提言 VI.2: 金融機関は市場に関する定義と仕組み(ストラクチャー)を一本化し、エージェントが果たす役割を世界的に明確し統一化するよう努めるべきです。

3. 統一化について

提言 VI.3: (金融)業界では、主要市場全体にわたって、仕組み商品の透明性や開示に関するガイドラインを統一化すべきです。

4. 情報の浸透について

提言 VI.4: (金融)業界では、情報を入手しやすくし、市場参加者間で情報や文書の配布や浸透をはかるため、共通のプラットフォームとテクノロジーの導入を検討すべきです。

B. 金融機関レベルでの対応

提言

1. リスクについて

提言 VI.5: 金融機関は、自社の現在のリスクプロファイルやリスク管理プロセスの概要について十分な開示が行われていることに加え、証券化取引を含め、自社の現在のリスクプロファイルに対する(前期からの)重要な変更が明らかにされていることを確認すべきです。この概要には、流動性リスク管理方法を含む、自社のリスク管理方針に関する考え方やリスクポジションの概略が把握できるように、定性的情報と定量的情報双方をバランスよく盛り込むべきです。

2. 価値評価(バリュエーション)について

提言 VI.6: 金融機関はバリュエーション・プロセスやメソドロジー、モデルの調整やリスク感応度等、バリュエーションモデルの限界等に関して、実質的で有用な開示を行うべきです。

提言 VI.7: 金融機関は、限定的な市場の入力値や割引率モデル(mark-to-model)等を根拠にして、バリュエーションに関する明確かつ有用な開示情報を含めるべきであり、一部の資産の流動性が逼迫し、市場の入力値に基づいて評価することができなくなる等の場合には、バリュエーションの根拠に対する重大な変更についてもその開示に含めるべきです。

提言 VI.8: 金融機関は、重要とみられるポジションすべてに関する重要な価値評価(バリュエーション)、バリュエーションモデルの限界(欠点)、バリュエーションモデルに使用する仮定と入力値の感応度、モデルへの調整や引当等に関連した固有の不確実性について開示し、市場参加者の理解が深められるようにすべきです。

提言 VI.9: 金融機関はバリュエーション(価値評価)に使った指標の欠点や限界等についても開示すべきです。

3. 流動性について

提言 VI.10: 金融機関は、風評上の問題等によって生ずる可能性が見込まれる資金の実需や契約上の義務等、オフバランスシート・ビークル(簿外特別目的会社)に関する重要な、資金の実需と偶発的な資金需要について、有意な開示を行うべきです。

システミックリスクと市場モニタリング・グループ

行動原則

原則 E.i: 自社のリスク管理として、個々の金融機関は、自社が(システミックリスク)より直接的にさらされるリスクに加え、システミックリスクに関しても適切に検討すべきです。

原則 E.ii: 各金融機関が個々にリスク管理を図る一方で、システミックリスクに関する分析や評価については、(政府機関等の)公共部門や金融業界全体から入手可能な専門家や専門知識や実績や視点からも得るものが大きいことに留意すべきです。

提言

提言 E.1: IIFの主導で提案され、理事会でも承認されているマーケット・モニタリング・グループの発足によって、会員企業が世界の金融市場をモニタリングし、システム上の影響が見込まれるような脆弱性を早期に発見し、大規模な金融市場の収縮につながりかねない市場の動きを検証し、そのリスクに対処できる方策を協議できるような場が設けられることになります。またこのマーケット・モニタリング・グループでは、同様のモニタリング活動に携わる各種の公共部門グループと民間部門との、定期的な会議を通じた交流が見込まれています。

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リスク管理と役員報酬に関する新しい提言

リスクカルチャーについて

新たな提言 A: リスクカルチャーとは、組織に属する個人やグループが、組織が直面するリスクと組織が抱えるリスクについて特定し、把握し、討議し、対応方法を決定づけるような、組織の中での個人やグループの行動基準や考え方、習慣であると定義できます。

新たな提言 B: 経営陣は、自社のリスクカルチャーの本質についてもっと積極的な関心をはらうべきです。リスクカルチャーは組織の戦略的目標を反映したものであると同時に、継続的な改善や組織の回復力を強化するためにも、積極的にそのありかたを吟味し、客観的に是非を問うべきです。

新たな提言 C: 金融機関は、業務に関わる人材各自の職務詳述書の中に、リスクに関する正式な責任がはっきりと明文化されており、定期的な人事考課(勤務評定)の一環として、その責任に対する履行状況が評価されているかどうかを確認すべきです。

新たな提言 D:実体を伴う 合併買収は、新組織のリスクカルチャーを真剣に分析する好機とすべきです。問題点を正し、前向きにリスクカルチャーの強化をはかる機会として蔑ろにすべきではありません。

リスクモデル

新たな提言 E: どのようなリスクモデルであっても、それだけを単独で利用すべきではありません。リスク管理に複数のモデルを導入すれば、「リスク」に対しても異なった見解が得られます。各見地から金融機関のリスクプロファイルの異なる側面を明らかにできるよう、複数のモデルや複数のリスク対応策を組み合わせて利用することで、組織のリスクプロファイルを全方位的に見られるようになります。

新たな提言 F: 測定モデルで利用する仮定はすべてはっきりと文書化し、その重要性や影響という点から検討したうえで、適切なレビューと承認体制を設けるべきです。また、モデルの中で使う(データセット等の)プロキシの利用に関する仮定も文書化や分析の対象とします。仮定はすべて、定期的に再評価の対象とします。ある市場環境では重要でないとされた仮定であっても、(市場が「飽和」した場合等)市場環境が変われば重要な仮定となる可能性もあります。

新たな提言 G: 内部モデルを整備する際にどの程度まで複雑さを容認するかは、経営陣上層部との間の忌憚のないやりとりに基づいて決定すべきですが、必要に応じて、独立した専門家(当該モデルの設計や構築に関与していない社内外の専門家等)が行う定期的な評価による裏付けもとるべきです。

新たな提言 H: モデルを利用する場合にはすべて、流動性を検討する必要があります。流動性は資産負債管理プロセス(ALM)に関係するだけではなく、モデルの仮定に潜む重要なリスクとなる場合もあるからです。金融機関は、どの程度までモデルによって流動性に関する将来的な予想を立てることが可能かを見極め、そのような仮定を明らかにし、その仮定を適切なレビューと承認体制のもとにおくべきです。

新たな提言 I: 経営陣上層部は重要モデルに関し、どのように機能するか、どのような仮定が用いられているか、その仮定の受容度、モデル開発にあたって選択した複雑さの程度に関する決定、モデルに対する運用支援の適切性、当該モデルに関する独立し

たレビューの範囲や頻度等について把握しておくべきです。またシステムや適性のあるスタッフに適切な投資が行われていることも確認すべきです。

新たな提言 J:測定モデルをマネージャー(管理者)に求められる「考える」プロセスの代わりにすべきではないものの、経営陣上層部は、リスク管理「ツール」として、経営陣やリスク管理部門や主要スタッフが効果的に利用していることを確認すべきです。モデルによる算定結果とマネージャー(管理者)の見解とを引き比べ、リスクについて、定期的なやりとりを行うべきです。「チェックボックス」による証拠は、あくまでも組織内でのレッドフラッグ(危険信号)として見るにとどめるべきです。

経済サイクル全体にわたるリスク管理

新たな提言 K: 特に急成長期に、金融機関は継続して自社のリスク選好度と事業活動を評価し、その戦略目標に沿っているだけでなく、現在の事業環境や競合環境に照らし合わせて相応しいかどうかを確認すべきです。また経済発展や市場の発展に対する潜在的な行動や対応を検討するにあたっては、経営管理担当役員とリスク管理担当役員の双方が、できる範囲において、全般的な市場環境におけるマクロフィナンシャルな発展の可能性を検討材料に入れるべきです。

新たな提言 L: 金融機関は、自社のビジネスモデルやポリシーや測定ツールにおける、シクリカリティへの潜在的なエクスポージャーを調べるべきです。これは、自社に関連するリスクの種類すべてを対象とすべきであるほか、以下に関する評価を含めるものとします。すなわち、:

どのリスクメジャーが「PIT」か「TTC」のいずれに偏っているか、またその程度;

リスク増大への対応策としての、ポジション清算への依存度;

自社のビジネスモデルにおける、(金利等)シクリカリティに感応性が高い要因への依存度;

金融機関と顧客のポートフォリオにおける、弁済期限の変更の程度及び;

最近観察された状況よりも極端な下降局面に陥った場合の脆弱性

新たな提言 M: 金融機関は、日次のリスク管理に必要な、PIT(Point-in-time)でリスク感応的な施策と、安定した所要自己資本の確保という長期的な戦略とのバランスを図りつつ、自社のリスクメジャーと自社がめざす戦略目標や事業目標との擦り合わせを行うべきです。金融機関は、その選択結果が関係者全員に明確に周知され、モデルとメソドロジーが首尾一貫して適用され、その使用が妥当であることを確認すべきです。

リスク測定ツールの設計にあたっては、銀行はそのツールを相対的に現在の環境に対し感応性が高く、市場環境を反映したものとすべきか、経済サイクルを通じて安定性が高いものとすべきかを決定し、どちらの場合もそのメソドロジーを選択した場合の結果と脆弱性を入念に把握したうえで、意識的な選択を行うべきです。特に金融機関は、フォワードルッキングなリスク評価や自己資本評価に関してPITなメジャーに依存し過ぎないようにする一方で、信用リスクメジャーは十分に感応度を高くし、日々のリス

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新たな提言 N: 金融機関は、所要自己資本について、実際の自己資本構成をシクリカルな動向に合わせて調整できるような対応策を整備しておくべきです。これには偶発性資本などの金融商品が考えられますが、それに加え、機動的な配当政策の調整や実施、自社株買い等の機動的な対応策の導入もあわせて検討すべきです。これらの対応策を選択することで、銀行は事業目標と戦略目標の拡大と自己資本の増強という両輪を調節しバランスがとれるようになります。

自己資本計画を整備する際には、悪い条件への対応策として資産流動化や市場での資本調達に頼り過ぎるべきではありません。自社株買いとあわせ、コンティンジェンシー・プラン(危機管理計画)には、インセンティブ制度の中から短期的な成長目標や売上目標を撤廃するタイミング、又は貸出基準を厳格化するタイミングといったダウンサイドのトリガー、あるいは競争に対抗するため貸出基準を緩和するかどうかを決定する場合の実務を見直すタイミングやストレステストのシナリオを見直すタイミング、といったアップサイドのトリガーを含めるべきです。

新たな提言 O: 社内向けとピラー 2関連で監督当局との間で行う協議の双方に向け、フォワードルッキングな自己資本対策を立てるにあたって、金融機関は、所要自己資本や然るべき中期的な時間軸でみたアベイラビリティに対してプロシクリカリティが及ぼす潜在的な影響を、幅広く検討することが求められます。 プロシクリカルな影響に関する論点には、リスク管理上の施策と会計上の施策、規制上の要件、ここに述べたようなまだ決着がついていない変更事象やストレステストのありかた等を盛り込むべきです。

新たな提言 P: 金融機関やその取締役会や経営陣は、将来のシクリカルな展開を視野に入れて計画立案サイクルにわたって、事業やリスクや自己資本対策やそれに関するストレステストに関する判断を行う必要があります。サイクル全体を通じシステムが適切に機能し、最終的に取締役会の責任に帰す体制になっているかどうかを検討することがガバナンスとして必要です。またリスク管理部門と財務部門の双方がガバナンスプロセスに組み入れられ、貸借対照表や損益計算書や自己資本の影響に関してリスクと会計がどう結びついているかが適切に把握され、意思決定プロセスに反映されることが不可欠です。

ガバナンスに関する提言

新たな提言 Q:危機を回避し、信頼性を回復するための多岐にわたる市場慣行の中の業務慣行(ビジネスプラクティス)の一つとして、目下進行中のガバナンスの変化を引き続き達成すべきです。国内での規制関連の指針づくりのペースが遅いとしても、重大な変更の優先順位付けや最終決定への歩みを遅らせるべきではありません。

新たな提言 R: ボーナス関連のアプローチとして、個々の金融機関や国内の業界団体は、従前の欠点などをふまえ、すでに実施済みの改革や目下進行中の改革を明らかにし、施行された規制基準への準拠等も強調したうえで、株主や一般に向けて役員報酬に関する協議の複雑さについて上手く説明できる方法を検討すべきです。

リスクとの擦り合わせ(リスク連動)に関する提言

新たな提言:役員報酬の算定には、主なリスクの種類を勘案したうえで、資本コストや今後の収益源確保に連動したリスクの時間軸(タイムホライズン)を考慮していることを、金融機関は確認すべきです。事業部門、リスク管理部門、財務部門、人事部門等の

専門家が一丸となったチームで、2009年度以降に利用可能な新しい役員報酬制度の整備を行うべきです。

リスクに見合った利益還元(ペイアウト)の確立に関する提言

新たな提言 T: 金融機関は、規制上からも市場動向からも一般的な状勢を踏まえ、役員報酬の支払繰延やクローバック条項の導入など、リスク連動型の考え方を自社のビジネスモデルに取り入れる方向に向かうべきです。

新たな提言 U: 我々(IIF)はFSB(金融安定理事会)や各国の規制当局と連携し、複数の地域にわたるアプローチの統一化に向けた、業界の実務整備の指針となるように、役員報酬の固定部分と変動部分の比率やその支払繰延べに関するベンチマーキングを行います。

(以上)

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