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多系統萎縮症 下畑 享良 新潟大学脳研究所 神経内科 突然死とその対策

Msa 突然死とその対策

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多系統萎縮症

下畑 享良

新潟大学脳研究所神経内科

突然死とその対策

突然死の原因

NPPV療法の実際

臨床倫理的問題

57歳 歩行障害

58歳 尿失禁・起立性低血圧

59歳 高調のいびき

60歳 耳鼻科(睡眠時無呼吸症候群)→当科(MSA)

CPAP 導入,退院

61歳 3ヵ月後,明け方,自宅で突然死

CPAP前

CPAP後

きっかけとなった患者さん

何が起きたのか?

治療は適切だったか?

気管切開をすべきではなかったか?

Niigata MSA study(2001~)

突然死防止

耳鼻

咽喉科

神経内科呼吸器内科

吸気時 呼気時

突然死声帯外転不全説

Isozaki E et al. JNNP 60; 399-402, 1996

栗崎博司.臨床神経学 39, 503-507, 1999

健常者

MSA

突然死の原因は声帯外転不全による窒息?

CPAPContinuous Positive-Airway

Pressure ventilation

気管切開術

短期的,少数例では有効

Munschauer FE et al. Neurology 40:677-9, 1990磯崎英治ら.臨床神経31; 249-54, 1991

Iranzo A, et al. Lancet 2000;356:1329-1330.

Iranzo A, et al. Neurology 2004;63:930-932.

CPAP導入窒息を解除する突然死防止の試み

対象 probable MSA 47名

5年間の経過観察

死因についての前方視的検討(新潟大学)

介入 ① 高度の睡眠呼吸障害

② 高度の声帯狭窄

③ 繰り返す誤嚥性肺炎 → 気管切開術

→ CPAP

Shimohata T et al. J Neurol. 255:1483-5, 2008

47名(probable)

追跡可能45名

追跡不能2名

生存32名

死亡10名

無酸素脳症3名

突然死7名

窒息1名

肺癌1名

肺炎1名

うち25名で治療介入

突然死

睡眠中 6,夕方 1

(気切2名,CPAP 3名)

(気切2名,CPAP 1名)

気切やCPAPでは突然死を防止できない.

Shimohata T et al. J Neurol. 255:1483-5, 2008

死因についての前向き試験(新潟大学)

小括1

1.睡眠中の突然死の頻度は高い.

2.気管切開術やCPAPでは突然死を防止することはできない.

3.突然死は単なる上気道の閉塞により生じるわけではない.

中枢性呼吸障害

窒息

CPAPによる上気道閉塞

心臓自律神経障害

4つの原因

突然死の原因

下げ止まらない低酸素血症

(入眠期) 低呼吸

(深夜) 速くて浅い呼吸

1/sec

(明け方)Cheyne-Stokes 呼吸

Shimohata T et al. Eur Neurol. 56:258-60 2006

❶ 中枢性呼吸障害

突然死症例のPSG圧縮記録(獨協医大)

平野,片山ら. 神経進歩 32:519-529, 1988

無呼吸なし.呼吸周期の不整→失調性呼吸・多呼吸→呼吸停止→5分後心停止・死亡

鼻呼吸

胸郭呼吸

心電図

中枢性呼吸障害についての個人的考え

•REM期に生じる?

•自律神経障害が高度,早期出現する症例で危険性が高い?

•ある時期を過ぎると生じにくい?(REM期が減少・消失するためか)

呼吸中枢が存在する脳幹の変性・萎縮

なぜ中枢性呼吸障害が生じるか?

突然死症例の病理

ventrolateral medulla延髄腹外側野

nucleus raphe obscurus不確縫線核

nucleus raphe pallidus淡蒼球縫線核

arcuate nucleus弓状核

循環/呼吸に関連する延髄セロトニン系

Tada M et al. Brain 132:1810-1819, 2009

死因が突然死か否かで比較

対 照 突然死 非突然死

突然死症例での延髄セロトニン系ニューロンの減少

突然死症例の病理

ventrolateral medulla延髄腹外側野

nucleus raphe obscurus不確縫線核

呼吸に関連する延髄セロトニン系ニューロンの脱落が関与

突然死症例の病理

❷ 睡眠中の窒息

痰づまり 食物誤嚥

感染による痰↑CPAPによる増悪

食道・胃内容物逆流

MSAに対する嚥下造影検査(食道相)

軽症 重症

睡眠学会 9-O-4, P-292Taniguchi et al. Dysphagia 2015 in press

嚥下造影検査:MSAとALSの比較

MSA※ ALS P値

食道残留 16/16(100%)

4/16(25%) <0.001

睡眠学会 9-O-4, P-292Taniguchi et al. Dysphagia 2015 in press

※ Probable MSA/ALSで自覚的に嚥下障害を認める症例

嚥下造影検査:MSAとALSの比較

• 運動低下部位軽症 → 食道下部重症 → 食道下部~中部

MSA ALS P値

食道残留 16/16(100%)

4/16(25%) <0.001

重症 7 0

軽症 9 4

睡眠学会 9-O-4, P-292Taniguchi et al. Dysphagia 2015 in press

睡眠中に食物逆流による窒息を繰り返した症例

CPAPによる呑気で逆流するTaniguchi et al. Dysphagia 2015 in press

食物が残留

呑気

就寝時の姿勢(臥位)は逆流をしやすいCPAPは呑気を引き起こし,逆流をさらに助長→ 食べてすぐ横にならない

フルフェイス,トータルフェイスマスクは避ける重症例はCPAPを中止する

臥位・CPAP

嘔吐誤嚥性肺炎窒息(突然死)

睡眠中に食物逆流による窒息を繰り返した症例

CPAP導入直後,突然死した症例の経験

→ 陽圧が悪影響した可能性を喉頭内視鏡により直接確認

❸ CPAP 治療による上気道閉塞

Ghrrayeb I et al. Sleep Med 2005

治療継続

導入直後

の死亡

導入困難

MSA 12例に対するCPAP導入の転帰

7例

3例

4例

❸ CPAP 治療による上気道閉塞

CPAP前 CPAP 4cmH2O CPAP 6cmH2O

酸素飽和度↑

CPAPは声帯狭窄を改善する

Shimohata et al. Neurology 76:1841-1842, 2011

安静時 鎮静下 CPAP 4 cmH2O

酸素飽和度↓

CPAPはFloppy epiglottisを増悪する!

Shimohata et al. Neurology 76:1841-1842, 2011

Floppy epiglottis へのCPAPは要注意

一部症例ではCPAPは禁忌

対策1. CPAP前評価2. 導入後の酸素飽和度モニター

陽圧

❹ 心臓自律神経障害

心不全後の突然死を予測する心臓検査

睡眠中の不整脈死

スペクトラム

解析の高度障害

稀だが経験あり

Furushima et al. Mov Disord 27:570-574, 2012

小括2

1.睡眠中の突然死の原因として以下がある1.中枢性呼吸障害2.窒息3.CPAPによるfloppy epiglottisの増悪4.致死性不整脈

2.多くの診療科との連携が必要である

突然死の原因

NPPV療法の実際

臨床倫理的問題

• 上気道の開存目的 → CPAP

• 呼吸不全の合併 → BPAP

CPAPかBPAPか?

• CPAP機には無呼吸アラームの装備なし

• BPAP機では無呼吸アラームの設定が可能

BiPAP®AVAPSありのCPAPモード(音量固定;中)

TrilogyのCPAPモード(音量2段階;小・大)

CPAPかBPAPか?(使用機種)

継続率

CPAP導入29名中央値13.0ケ月(1~53ケ月)

13.0ヶ月

CPAP継続期間は短い

Shimohata et al. Sleep Med, 15:1147-9,2014

CPAP使用断念の原因

• 誤嚥の反復・排痰困難(9名)

• 日中の呼吸不全の出現(4名)

• 本人の中止希望(3名)

• CPAPによる窒息感の出現(2名)

– うち1例はfloppy epiglottis

• 頻尿による装着困難(1名)

Shimohata et al. Sleep Med, 15:1147-9,2014

継続期間を短縮する因子合計 短期間(<13M) 長期間(≧13M) P値

CPAP継続期間 20.9±14.6 7.9±3.9 30.2±12.3 <0.001

発症年齢 57.8±8.5 61.4±8.3 55.8±8.4 0.121

性別(M:F) 13:11 7:4 6:7 0.392

病型(C:P) 18:6 8:3 10:3 0.813

UMSARS 42.8±18.0 46.3±28.1 42.6±18.8 0.793

MMSE 26.1±2.7 24.0±1.0 26.8±3.1 0.164

AHI 43.2±29.5 37.7±31.7 51.6±31.3 0.303

導入までの期間 49.1±25.5 37.4±18.1 52.9±25.2 0.102

CPAP圧 8.3±2.9 8.3±3.4 8.1±3.1 0.856

声帯外転不全 15:9 5:6 10:3 0.324

Floppy epiglottis 9:15 7:4 2:11 0.015

平均±SD

睡眠呼吸障害

No

リスク評価

Yes誤嚥性肺炎

Floppy epiglottis

CPAP

BPAP

気管切開術

TPPV

No

Yes

Yes

肺胞低換気

中枢性呼吸障害

継続断念

Complex SAS

ASV

当院での治療アルゴリズム

CPAP中止後の方針

• 気管切開術を行うか?

–中枢性呼吸障害による突然死

• 人工呼吸器装着を行うか?

Cheyne-Stokes 様周期性呼吸

気管切開後,出現したCheyne-stokes呼吸

発症15年経過した MSA-C 症例(人工呼吸器装着前)

CPAP中止後の方針

• 気管切開術を行うか?

–中枢性呼吸障害による突然死

• 人工呼吸器装着を行うか?

–長期生存が可能となる可能性

CPA

P断念

19名

気管切開(-)9名

気管切開(+)10名

TPPV(-)6名

TPPV(+)4名

47%32%

21%

CPAP使用断念後の3つのグループ

Shimohata et al. Sleep Med 15:1147-9, 2014

気切なし37.5±8.5ヶ月

気切のみ29.4±6.1ヶ月

気切後人工呼吸器51.8±18.3ヶ月

生存率

CPAP中止後の生存期間

人工呼吸器装着は生存期間を延長する

では人工呼吸器を導入すれば良い?

人工呼吸器装着による長期生存のもたらすもの

全経過20年,高度の認知症状態

脳神経センター阿賀野病院横関明男先生

治療選択のジレンマ

⇔突然死防止人工呼吸器

による長期療養認知症

小括3

1.CPAPの継続期間は短く,その後の治療を決定する必要がある.

2.気管切開を行わない,気管切開のみ行う,TPPVを行うの3つの選択肢がある.

3.TPPVによる長期生存は重度の認知症をもたらす可能性がある.

突然死の原因

NPPV療法の実際

臨床倫理的問題

1. いつどのように突然死のリスクを告知するか?

2. 治療の自己決定(autonomy)をいかに支えるか?

→ いずれにも重要なものは「認知機能」の評価

MSAをめぐる臨床倫理的問題

睡眠呼吸障害精査入院 probable MSA 17名

認知機能障害 5/17名(31%)

(MMSE カットオフ 24)

前頭葉機能障害 4/17名(27%)

(FAB カットオフ 10)

CPAP導入の自己決定の段階ですでに

認知機能低下を認める症例が存在する

Kawamura et al. Mov Disord 25:2891-2, 2010

認知機能はいつから低下するか?

認知機能障害は進行期に起こるとは限らない

認知障害を合併した10例の罹病期間 3.9年 必ずしも長期経過例ではない.

3例が運動症状より先に認知機能障害を呈した.

Kitayama et al. Eur J Neurol 2009(鳥取大学)

MSA診療における認知症の2つのインパクト

1)治療選択時に認知症合併3割

⇨ 自己決定可能?

2)人工呼吸器装着後に重症認知症

⇨ 治療選択に影響

CPA

P断念

19名

気管切開(-)9名

気管切開(+)10名

人工呼吸器(-)6名

人工呼吸器(+)4名

47%32%

21%

認知機能障害を認めた4名の治療の選択

3名

1名

積極的な治療は行われにくい?

MMSE カットオフ24点

小括4

1. 臨床倫理的問題として,① いつ,どのように突然死のリスクを

伝えるか?② 治療の自己決定をいかに支えるか?

2. いずれにおいても認知機能の状態が大きな影響を及ぼす.

総 括

突然死の原因

NPPV療法の実際

臨床倫理的問題

中枢性呼吸障害など4つの原因

治療の限界と中止後の治療

告知治療の自己決定

主な共同研究者

新潟大学医歯学総合病院耳鼻咽喉科篠田秀夫,富田雅彦,相澤直孝,奥村 仁

東京医科大学呼吸器内科中山秀章

新潟大学医歯学総合病院呼吸器内科大嶋康義

同循環器内科古嶋博司

同摂食嚥下リハビリ谷口裕重,井上 誠

新潟大学脳研究所神経内科小澤鉄太郎,川村邦雄,西澤正豊