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1 三菱 UFJ 銀行 国際業務部 June 7, 2019 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の 実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、 その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実 際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部 について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。 MUFG BK Global Business Insight Asia & Oceania .インドビジネスの肝となる労働法の基礎を理解する AsiaWise 法律事務所 アソシエイト 弁護士 佐藤 賢紀 .フィリピン改正会社法-進出・現地法人運営への影響を念頭に TMI 総合法律事務所 弁護士 團 雅生 .人事・労務部門が知っておくべき外国人材の雇用管理(11会社負担の住居費などの課税 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵 Ⅳ.各国トピックス 【スリランカ】コロンボ港開発、日本、インド、スリランカが覚書締結 【インドネシア】西ジャワ州北部にスーパー経済特区を整備 … 2 … 5 … 11 … 14

MUFG BK Global Business Insight Asia & Oceania · 法によれば、派遣サービスを利用する会社側に、 20 人以上を受け入れる場合の登録その他種々の

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1

三菱 UFJ 銀行 国際業務部

June 7, 2019

・ 本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。

本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の

実行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や適法性等について保証するものでもありません。

・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。

・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものでは

ありません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、

その他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実

際の適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。

・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部

について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。

・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

MUFG BK Global Business Insight

Asia & Oceania

Ⅰ.インドビジネスの肝となる労働法の基礎を理解する

AsiaWise 法律事務所 アソシエイト 弁護士 佐藤 賢紀

Ⅱ.フィリピン改正会社法-進出・現地法人運営への影響を念頭に

TMI 総合法律事務所 弁護士 團 雅生

Ⅲ.人事・労務部門が知っておくべき外国人材の雇用管理(11)

―会社負担の住居費などの課税

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵

Ⅳ.各国トピックス

【スリランカ】コロンボ港開発、日本、インド、スリランカが覚書締結

【インドネシア】西ジャワ州北部にスーパー経済特区を整備

… 2

… 5

… 11

… 14

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2

Ⅰ.インドビジネスの肝となる労働法の基礎を理解する

1.はじめに

インド市場におけるビジネスの魅力の一つとして、労働供給力が挙げられます。少子化が加速する日

本と異なり、人口約 13 億人、平均年齢が 25 歳というインドでは、一定程度の条件を提示すれば、労働

者を集めることは比較的容易です。

他方で、インドでビジネスを展開する日系企業には、人件費の高騰や従業員の労務管理について頭を

悩ませている会社が多くあります。インドでは、年間の昇給率が平均 10%程度と言われており、従業

員の給与は年々上がります。加えて、ジョブホッピングも盛んであり、終身雇用は一般的ではありませ

ん。また、インドの従業員は権利意識が強い傾向があり、法制度も労働者保護を重視しているため、ひ

とたび労務紛争になった場合、その解決は容易ではありません。本稿では、上記の問題意識のなかでも

法制度に焦点を当て、インドビジネスの肝となる労働法の基礎について、ポイントを絞って説明します。

2.ワークマン・ノンワークマンの区別について

インド労働法の特徴の一つに、ワークマン(Workman)とノンワークマン(Non-Workman)の区別

があります(1947 年産業紛争法 Industrial Disputes Act, 1947)。

ワークマンとは、(1)肉体的、非熟練的、熟練的、技術的、運営管理的もしくは事務的作業を行うため、

いずれかの産業において雇用されている者(見習工を含む)、または、(2)(a)経営者的、管理者的立場に

ある者、(b)監督的作業を行うために雇用されているが 1 カ月当たり 1 万ルピーを超える賃金を得ている

者等を除いた者(1947 年産業紛争法 2 条)とされ、ノンワークマンはそれ以外の者とされています。

ワークマンについては法律による手厚い保護があり、解雇も制限されており困難です。ただし、いわ

ゆる正社員について有期雇用とすることが原則として可能であるため、ワークマン採用時の契約におい

て雇用期間を明示し、契約不更新により雇用関係を終了させるという取り扱いは可能です。

それに対して、ノンワークマンには同法の保護が及ばないため、解雇は比較的容易であり、契約書に

定められた条件に従って解雇することが可能です。もっとも、従業員の側もこのことをよく認識してお

り、入社の際に締結する契約書において解雇の条件(要件、金銭補償、事前通知等)を詳細に明記する

よう求めてくる場合があります。雇用者の側でも、雇用契約書の重要性を理解し、きちんと事前に合意

しておくことが重要です。

3.残業代は 2 倍(工場法と店舗施設法について)

次に、労働時間に関しては、日本の労働基準法のような一律の規定はありません。この点、日系企業

としては、勤務場所の種類により、工場勤務の場合とそれ以外の場合で規定が異なることを理解してお

く必要があります。

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3

(1)工場の場合(工場法 Factories Act 1948)

工場勤務の労働者(15 歳以上)については工場法が適用され、原則として、以下の表の通りとなって

います(ただし、それぞれの時間について一定の例外があります)。

そして、その超過勤務については、その通常賃金の 2 倍の賃金を支払うものとされています。

(2)工場以外の場合(店舗施設法 Shops and Establishment Act)

工場勤務以外の労働者(オフィス勤務の労働者や店舗等のスタッフ)については、原則として、それ

ぞれの州が定める店舗施設法が適用されます。同法は、インドの連邦法ではなく、各州が独自に定める

州法ですので、州により異なる規制が定められています。

例えば、インド国内でも日本企業の多いデリーとグルガオン(ハリアナ州)を比較しても、以下の表

の通り、多少の違いが見られます。

いずれにおいても、超過勤務については、その通常賃金の 2 倍の賃金を支払うこととされています。

4.派遣の方が便利?

以上のような通常の雇用形態とは別に、請負会社から請負(契約)労働者(Contract Labour)の派

遣を受けるという方法をとる会社もあります。この場合の会社と労働者の関係については、請負(契約)

労働法(Contract Labour (Regulation and Abolition) Act, 1970)が規定しています。

同法によれば、派遣サービスを利用する会社側に、20 人以上を受け入れる場合の登録その他種々の

義務が課されている他、派遣元の会社による賃金や残業代の未払い等について、二次的な責任を負う可

能性があることに注意が必要です。そのため、派遣元会社の選定と監督には十分気をつける必要があり

ます。

なお、IT 等の業務の外注に際し、業者から人員の派遣を受け入れる場合、請負(契約)労働法の適用

があるのかが問題になることがあります。この点について、法律には明確な基準が定められていません。

しかし過去の裁判例では、一定の専門技術や専門知識等が必要となる場合には、単純な労務の提供では

ないものとして、請負(契約)労働法の適用を否定しています。そのため、サービス業者に業務を外注

する場合には、当該業務が専門性を有するか等、その性質にも留意することが必要です。

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4

5.最後に

インドの労働法規制については、上記にご紹介したものの他にも関連する法律が多数あり、州ごとの

規制の違いにも注意する必要があります。また、日系企業が労務管理を行う際には、労働者とのトラブ

ルが訴訟に発展して長期化することや、他の労働者へ波及するリスクを避けることも重要です。

記事提供:AsiaWise 法律事務所

アソシエイト 弁護士 佐藤 賢紀

(2019 年 5 月 10 日作成)

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5

Ⅱ. フィリピン改正会社法‐進出・現地法人運営への影響を念頭に

概要

フィリピン会社法の改正については、2019 年 2 月 20 日にドゥテルテ大統領が改正案に署名を行い、

日刊紙への公告がされた同月 23 日をもってその効力を生じている。本稿においては、日本企業を含む

外資系企業を念頭においた上で、主要な改正の概要を解説する。

第 1 会社法改正の概要

フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)の会社法(Corporation Code of the Philippines)

(以下「フィリピン会社法」という。)は、1980 年にその効力が生じて以来改正されておらず、今日の

ビジネスの実態と整合的なものへ改正する必要があると言われてきた( 1 )。

フィリピン会社法の改正については国会で長く複数の改正案が審議されていたが、2018 年 11 月 26

日に改正案が両議院の合意を得て決定され、2019 日 2 月 20 日にロドリゴ・ドゥテルテ大統領が当該

改正案に署名を行った(以下、当該改正後のフィリピン会社法を「新法」といい、当該改正前のフィリ

ピン会社法を「旧法」という。)。新法は、日刊紙への公告がされた 2019 年 2 月 23 日をもってその効

力を生じている。

新法は、株主が 1 名のいわゆる一人会社を認める(ただし一人会社の株主は原則として自然人であ

ることが必要である)、取締役の居住者要件を撤廃する等、日本企業によるフィリピン子会社の設立・

運営に影響を及ぼす内容を含んでいる。本稿においては、日本企業を含む外資系企業を念頭においた上

で、主要な改正の概要を解説する。なお、現時点においては新法に合わせた施行規則が制定されていな

いことから、実務上の手続等に関して未確定の部分があることに留意されたい。

また、既存の会社については、新法の規定への対応は新法施行後 2 年以内に行うべきこととされて

いるため( 2 )、当面は旧法に基づく会社の運営も許容される。

第 2 主要な改正内容

(1) 会社の種類・存続期間・設立等

設立等についての主要な改正点

ア 会社の存続期間の撤廃

旧法においては、すべての会社は最長 50 年の存続期間を定めなければならず、必要があれば存

続期間満了前に延長ができるとされていたが、新法は原則として会社の存続期間を定めないもの

とした(会社が任意に存続期間を定めることは許容される( 3 )。)。

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6

イ 発起人の資格緩和と人数制限の撤廃

旧法下においては、会社設立に際しては最低 5 名の自然人が発起人となることが必要であり、

その過半数はフィリピン居住者でなければならなかった。新法は、この人数制限と居住者要件を

撤廃した上、会社等の法人も発起人となることができるとしている( 4 )。これにより、例えば、フ

ィリピンにおける現地法人設立の際に、親会社となる日本法人が単独で発起人となることが可能

となった。

ウ 設立時の株式引受及び払込みに関する制限の撤廃

旧法は、会社の設立時には発行可能株式総数の 25%以上の株式について引受けがなされること

及び引受けのあった株式のうち 25%以上について払込みがなされることが必要であるとしていた。

新法は、この制限を撤廃し、設立時の引受株式数及び払込に関しては、他の法律において別途の

定めがない限り自由に設定することが可能となった。

エ 現物出資の範囲拡大

新法は、株式発行の対価として、現金及び旧法下で認められていた現物出資財産に加え、他の

会社の株式及びその他一般に受け容れられている形態の対価を給付することによる出資を認めて

いる。

オ 類似商号の使用禁止の厳格化( 5 )

新法は、既存の会社の商号と類似する商号の使用に関し、類似性の判断について具体的な基準

を示し、仮に既存の商号と異なる文字等が用いられていたとしてもなお一定の場合には類似性が

認められるとしている。また、新法により、SEC は類似商号の使用に対して警告・停止命令を発

し、行政、民事及び刑事上の措置を採ることができることとなり、その取締権限が強化されてい

る。

(2) 株主総会等

ア 開催日の自由化と招集通知の時期・方法の変更( 6 )

定時株主総会については、旧法下では定款において特定の開催日を定めることとされていたが、

新法においては、定款において特定の日を定めず、4 月 15 日より後の任意の日に開催することが

可能となった。

また、株主への招集通知は 21 日前に発することとされ、旧法下の規定(2 週間前)よりも早期

に行うことが必要となった。もっとも、旧法は招集通知の送付手段について郵送を原則としてい

たところ、新法においては電子メール等の手段による送付も可能となる。

イ 株主総会における情報開示の推奨

新法は、株主総会において、会社が株主に対し株主一覧、配当政策(不配の場合にはその理由)、

取締役の取締役会への出席状況、会社の資産・業績の評価、取締役の報酬等の情報提供を行うこ

とを推奨している。

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7

ウ 臨時株主総会の招集請求権

旧法下においては臨時株主総会の招集権者は一定の株主に限られていたところ、であったが、

新法においては全株主が招集請求権を有するものとされた( 7 )。

エ 株主の遠隔地からの参加、事前投票制度の導入( 8 )

新法は、株主総会に関し、株主は、代理人による投票をすることに加え、遠隔的な通信手段に

より参加すること、定款または取締役会の過半数が認める場合には総会に出席せずに投票するこ

とができるものとしている(この場合、定足数との関係においては、当該投票を行った株主も出

席したものとみなされる。)。これらの規定は、旧法に定めがなく、新法により創設されたもので

ある。

(3) 取締役等

取締役等についての主要な改正点

ア 取締役等の人数

旧法は、取締役の数を 5 名以上 15 名以下としていたところ、新法は最低人数の定めを廃し、

15 名以下としている( 9 )。この変更は、後述する一人会社が創設されたことに伴うものにとどま

り、一般的な会社において取締役の最低人数を 5 名より少なくすることを許容する趣旨ではない

と推測されるが、施行規則等が定められていないことから、現時点においては明らかではない。

イ 取締役等の欠格事由の厳格化

旧法は、過去 5 年以内に懲役 6 年以上の法定刑が定められている罪について有罪確定判決を受

けたことがある場合のみを取締役としての欠格事由としていた。

新法はこれを拡大し、過去 5 年以内に証券取引規則(Securities Regulation Code)に違反した

者、詐欺的行為により行政罰を受けた者、外国の裁判所により同様の非行があったとの判断を受

けた者、その他 SEC 又はフィリピン競争員会が定める事由がある者についても、取締役となる資

格を認めないとしている。

ウ SEC による欠格事由のある取締役の排除

旧法下においては、取締役の解任権は株主のみにあったが、新法は、欠格事由のある取締役を

SEC が強制的に取締役の地位から排除することができるとしている。この SEC の権限は、関係者

の申立によるほか、SEC 自身の判断においても行使することができる。

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エ 取締役の報酬の株主総会及び SEC への報告義務の新設

新法は、公益にかかわる会社(10)(以下「公益会社」という。)等に対し、取締役各自の年間報

酬額を株主総会及び SEC に報告する義務を課している。

オ 取締役の近親者と会社との取引の制限(11)

旧法下においては、会社と取締役の近親者との取引は原則として有効であったが、新法は、会

社と取締役等の 4 親等以内の者との取引は一定の要件を満たさない限り無効となるとしている。

なお、公益会社の場合には、取締役会の 3 分の 2 以上かつ社外取締役の過半数の賛成も必要とさ

れており、より厳格な要件が課されている。

カ 取締役の居住者要件の撤廃

旧法下においては、取締役の過半数はフィリピン居住者であることが必要であったが、新法は

この居住者要件を撤廃した。外資系企業においては居住取締役の人数を満たすために現地の弁護

士に取締役就任を依頼する等して人数を確保することがしばしば行われていたが、改正後は本国

に所在する親会社の従業員を取締役にすることが容易となる。

キ 独立取締役設置会社の範囲の拡大・コンプライアンスオフィサーの新設

旧法には独立取締役に関する規定はなく、上場企業や金融機関等に対して別途独立取締役の選

任義務が課されていた。これに対し、新法は、公益会社は社外取締役(2 名または取締役総数の

20%のいずれか少ない方の員数)を置かなければならないとしている(12)。

独立取締役とは、会社の経営から独立しており、取締役としての独立した判断に影響する又は

影響すると考えられる事業上その他の関係を有しない者をいうとされており、その資格等の詳細

は SEC が今後定める規則により定められることとなっている。

また、旧法下では上場企業等に対してのみ、会社のコンプライアンス状況の監視等を職務とす

るコンプライアンスオフィサーの選任が義務付けられていたところ、新法は公益会社にその選任

義務を課している(13)。これにより、非上場企業であっても公益会社に該当する限りはコンプライ

アンスオフィサーを設置しなければならないこととなった。

ク 取締役選任の遅延や取締役の辞任・死亡に関する SEC への届出義務の創設

新法下においては、定時株主総会において取締役の選任が行われなかった場合(30 日以内)及

び取締役が死亡し又は辞任した場合(7 日以内)には、それぞれ所定期間内にその事実を SEC に

届け出なければならない。

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(4) ガバナンスの強化

ガバナンス関連の主要な改正点

ア 詐欺的商法、汚職や贈収賄への関与についての規制(14)

新法は、詐欺的な事業を行った会社や汚職・贈収賄に関与した会社に対する罰金(最大 500 万

ペソ)を定めるとともに、これらの行為に取締役等が関与した場合においても、会社が必要な防

止措置を採ることを怠っていた場合には、当該懈怠の事実が当該行為について会社が責任を負う

ことの一応の証拠となるものと定め、会社の責任を拡張している。また、会社が第三者を介して

汚職や贈収賄に関与した場合における会社や、取締役等がこれらの行為を行っている場合にそれ

を看過した取締役等についても、罰金が科されることとなっている。

イ 公益通報者に対する報復の禁止

新法は、会社の法令違反について通報を行った者に対して会社が報復的行為を行うことを禁止して

いる。具体的には、会社が当該通報を行った者の雇用や生活を妨害するといった不利益を与える行為

を行うことは許されず、これに違反した者は 10 万ペソ以上から 100 万ペソ以下の罰金を課される(15)。

ウ 定款における反汚職に関する規定

新法は、会社の付属定款(Bylaws)において良好なガバナンスや反汚職・贈収賄の促進のために

必要な事項を定めるべきものとしている(16)。

(5) 会社の記録整備義務の拡大(17)

会社は、旧法で定められていた記録(事業上の取引記録及び株主総会・取締役会議事録)の保管義

務に加え、定款、会社の株主構成、当該会社が属する企業集団の構成、当該企業集団内部の関係、持

ち株比率、事実上の株主に関する事項、取締役の氏名及び住所、取締役会・株主総会等の決議内容及

び議事録、SEC への提出資料の写し等を保管しなければならないとされている。これらの資料につ

いては、株主等による点検が認められるが、競合事業者である場合など一定の事由があれば会社はこ

れを拒むことができる。

(6) 休眠会社の法人格消滅

旧法は、設立後 2 年を経ても営業の実態がない会社及び営業開始後に継続して 5 年営業実態がな

い会社については SEC が法人格を失わせることができるとしていた。これに対し、新法は、設立後

の営業開始までの期間を 5 年間に延長し、営業開始後の営業停止については、SEC が通知を行い聴

聞の期間を与えたうえで 2 年の期間が経過した場合に初めて法人格を失わせることができるものと

している(18)。

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(7) 一人会社の創設(19)

新法は、一人会社(One Person Corporation)を創設した。一人会社は、株主が 1 名のみであり、

かつ原則として当該株主が自然人である場合には、取締役を 1 名とし、付属定款の提出が不要とな

る等の簡易な運営が可能な会社の形態を選択することを認めるものである。

もっとも、一人会社は、オーナーが原則として自然人でなければならない等、個人事業者の法人化

を可能とすることを主たる目的として創設されたものであり、日本企業の現地法人が採用を検討する

余地は少ないものと思われる。

第 3 まとめ

新法においては、外国会社が発起人となることが認められ、取締役の居住者要件が撤廃される等、会

社設計の自由化が図られている。

また、一定の会社に対して独立取締役やコンプライアンスオフィサーの設置が義務付けられ、会社が

汚職や贈収賄等に関与することについての罰則が設けられる等、コーポレートガバナンスの強化が図ら

れているといえる。

新法施行後は、フィリピンにおける現地法人については、現地居住者を発起人に加え、取締役に立て

るといった手続が不要となるため、設立手続及び運営が現在よりも簡易に行えるようになることが期待

される。

他方で、現地法人の組織及び運営においては、新法によるガバナンスの強化に適合しているか否かに

ついて今一度体制を検証するとともに、必要に応じて組織変更や必要な規定の整備などを行うことが望

ましいといえる(前述のとおり、新法への対応は新法施行後 2 年以内に実施する必要がある。)。

(1) 直近の世界銀行のビジネス環境レポート(2018 年版)におけるフィリピンの順位は前年の 113 位から 124 位に下

落しており、その一因はフィリピンにおける法人設立の不便さにあると指摘されている。

(2) 新法第 184条

(3) 新法第 11条

(4) 新法第 10条

(5) 新法第 18条

(6) 新法第 49条

(7) 新法第 49条

(8) 新法第 49条

(9) 新法第 13条

(10) 公的会社(5,000万ペソ以上の資産を有しかつ 100株以上を保有する株主が 200名以上存在する会社)、銀行、準

銀行、Pre-need、Trust、保険会社、その他 SECが定める公共の利害にかかわる会社をいう(新法 22条)

(11) 新法第 31条

(12) 新法第 22条

(13) 新法第 24条

(14) 新法第 165条から第 167条まで

(15) 新法第 169条

(16) 新法第 46条

(17) 新法第 73条

(18) 新法第 21条

(19) 新法第 115条以下

記事提供:TMI 総合法律事務所

弁護士 團 雅生

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Ⅲ.人事・労務部門が知っておくべき外国人材の雇用管理(11) ―会社負担の住居費などの課税

(前回のレポートは、以下の URL をクリックして本文をご参照ください。)

https://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW2019524.pdf

概要

人事・労務部門担当者が知っておくべき外国人材の雇用に関してシリーズで説明していきます。第

11 回は、海外からの駐在員の住居費などを会社負担している場合の課税について説明します。

Q:海外からの駐在員の住居費などを会社負担しています。この場合、これらの費用は給与として課税

対象になるのでしょうか。

1. 社宅を提供する場合~日本人に社宅を提供する場合と同様の取り扱い

外国人社員および役員に社宅を提供する場合の取り扱いは、日本人社員に社宅を提供する場合と同様

です。

外国人社員に社宅を提供する場合

出所:所得税基本通達 36-40、36-41 を基に筆者作成

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2. 光熱費を負担する場合~給与として課税

会社負担した光熱費を非課税とする通達はありませんので経済的利益として課税されます。(なお、

よく似た通達に「所得税基本通達 36-26 寄宿舎の電気料等」で電気、ガス、水道などの料金を会社負

担する場合は非課税としていますが、これはトイレや浴室が共同使用になっている物件を指すため、本

件のようなケースには該当しません)

3. 駐在員の子女教育費を会社が負担している場合~給与として課税

社員の子女の学費を会社が負担した場合、当該社員が日本人であろうと外国人社員であろうと、非課

税などの措置はありません。そのため、会社が負担した子女教育費は全額、本人の給与として取り扱わ

れ、所得税などの課税対象になります。

※なお、インターナショナルスクールの中には、企業側が学校に対して一定の寄付を行った場合、その

子女の学費を「奨学金」という形で免除することがあります。この場合、子女の学費は非課税になる余

地もありますので詳細は税務当局にご確認ください。

4. 外国人社員に支給する一時帰国費用の考え方~年 1 回程度なら非課税

社員の個人的な理由での旅行費用を会社が費用負担した場合は、当該費用が給与として課税されます

が、外国からの駐在員が以下の要件を満たす場合、一時帰国費用については非課税となります。

外国人社員の一時帰国費用が非課税となるための条件

出所:所得税基本通達 9-3、所得税個別通達(昭和 50 年 1 月 16 日 直法 6-1)を基に筆者作成

5. 家族呼び寄せ費用に関する税務~原則は給与として課税

外国人社員が日本に家族を呼び寄せる際の旅費について明確な基準はありません。原則的には所得税

個別通達(昭和 50 年 1 月 16 日 直法 6-1)を準用し、外国人社員が業務の都合で帰国できないなど、

一時帰国できないやむを得ない事情があると認められる場合は、一時帰国の場合と同様に、一定の条件

を満たせば非課税になると考えられます。

ただし、家族の呼び寄せが、単なる観光旅行と見なされる場合は、当然ながらその費用は給与として

課税する必要があります。

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6. 会社が負担した外国人社員の所得税などの取り扱い~給与として課税

海外の親会社(または子会社)から日本の子会社(または親会社)に出向する場合、日本での給与は

手取り補償されているケースが少なくありません。このような場合、外国人社員のその給与にかかる所

得税・住民税などは会社が負担しています。

では会社が負担した所得税などはどのように扱われるのでしょうか。外国人社員に代わって、社員が

支払うべき所得税などを会社が負担した場合、当該負担金は外国人社員の経済的利益に該当し、給与と

して課税されることになりますが、課税されるタイミングは源泉徴収される所得税の場合と、申告納税

される所得税とで以下の通り多少異なります。

会社が負担する社員の所得税の経済的利益供与の確定のタイミング

記事提供:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社

チーフコンサルタント 藤井 恵

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Ⅴ.各国トピックス

【スリランカ】コロンボ港開発、日本、インド、スリランカが覚書締結

スリランカのコロンボ南港東コンテナターミナル(ECT)の開発について、日本、インド、スリラン

カの 3 ヶ国で覚書を締結したと外務省が発表した。3 ヶ国で ECT の早期の開発着手・運営開始に向けて

協力を進め、2019 年度中にも工事に着手する。

コロンボ港での貨物取扱量は年々増加しており、今後は ECT に大型コンテナ船が入船できるよう整

備していく。

【インドネシア】西ジャワ州北部にスーパー経済特区を整備

西ジャワ州北東部のチレボン市、スバン県パティンバン新港(建設中)、マジャレンカ県クルタジャ

ティ空港にある三角地帯でスーパー経済特区「レバナ」を整備する。総面積は 3,480 ヘクタール、同区

内には物流パーク、創造・技術パーク、エネルギーパーク、航空・宇宙パーク、住宅エリアの 5 つのエ

リアが整備される。

同エリアは首都ジャカルタからも近く、2,000 社の進出と 500 万人の雇用が見込まれている。西ジャ

ワ州のリドワン・カミル知事は今後 3 ヶ月以内に運営組織を立ち上げ、年末までには欧州、東アジア、

中東からの投資家を呼び込みたい考えを示している。

(各国トピックスの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

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(編集・発行) 三菱 UFJ 銀行 国際業務部

(照会先)岡田 大介 塩山 翠里

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