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鹿児島県産のキツネの生息状況と保全 鹿児島県における絶滅危惧種クボハゼ Gymnogobius scrobiculatus (ハゼ科ウキゴリ属)の記録 2009年7月22日の皆既日食 美術館におけるインタープリテーション 南薩地方のキツネの分布と生活痕跡 自然保護ガバナンスの考え方 オニバス自生地裸島池の植生 鹿児島の海と魚に関する意識調査 自動撮影装置を使用した野生生物調査法 ―アナログ式とデジタル式の効果的活用― 過去60年間における鹿児島湾奥の海岸線の変化 オオタチヤナギ(ヤナギ科シロヤナギ節)の鹿児島県における記録 鹿児島湾から得られたイズヒメエイ Dasyatis izuensis (エイ目:アカエイ科) 鹿児島大学郡元キャンパスのアリ 35 VOL. 鹿児島県自然愛護協会 ISSN 1882-7551 船越公威・岩元洋平・西田洸平 松沼瑞樹・荻原豪太・目黒昌利・本村浩之 寺田仁志・大屋 哲 櫻井 真・本村浩之・青木五百子 宅間友則・鮫島正道 山本智子・小玉敬興 丸野勝敏 荻原豪太・吉田朋弘・本村浩之 福元しげ子 田中俊徳 西井上剛資 鮫島正道・中村麻理子 柳田一郎

Nature of Kagoshima Vol. 35

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鹿児島県産のキツネの生息状況と保全鹿児島県における絶滅危惧種クボハゼ Gymnogobius scrobiculatus (ハゼ科ウキゴリ属)の記録

2009年7月22日の皆既日食美術館におけるインタープリテーション南薩地方のキツネの分布と生活痕跡自然保護ガバナンスの考え方オニバス自生地裸島池の植生鹿児島の海と魚に関する意識調査自動撮影装置を使用した野生生物調査法 ―アナログ式とデジタル式の効果的活用―過去60年間における鹿児島湾奥の海岸線の変化オオタチヤナギ(ヤナギ科シロヤナギ節)の鹿児島県における記録鹿児島湾から得られたイズヒメエイ Dasyatis izuensis (エイ目:アカエイ科)鹿児島大学郡元キャンパスのアリ

35VOL.

鹿児島県自然愛護協会

ISSN 1882-7551

船越公威・岩元洋平・西田洸平

松沼瑞樹・荻原豪太・目黒昌利・本村浩之

寺田仁志・大屋 哲

櫻井 真・本村浩之・青木五百子

宅間友則・鮫島正道

山本智子・小玉敬興

丸野勝敏

荻原豪太・吉田朋弘・本村浩之

福元しげ子

田中俊徳

西井上剛資

鮫島正道・中村麻理子

柳田一郎

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目 次

Articles鹿児島県産のキツネの生息状況と保全 船越公威・岩元洋平・西田洸平 1鹿児島県における絶滅危惧種クボハゼ Gymnogobius scrobiculatus(ハゼ科ウキゴリ属)の記録 松沼瑞樹・荻原豪太・目黒昌利・本村浩之 92009年 7月 22日の皆既日食 西井上剛資 13美術館におけるインタープリテーション 柳田一郎 17南薩地方のキツネの分布と生活痕跡 鮫島正道・中村麻理子 21自然保護ガバナンスの考え方 田中俊徳 29オニバス自生地裸島池の植生 寺田仁志・大屋 哲 33鹿児島の海と魚に関する意識調査 櫻井 真・本村浩之・青木五百子 43自動撮影装置を使用した野生生物調査法―アナログ式とデジタル式の効果的活用― 宅間友則・鮫島正道 47過去 60年間における鹿児島湾奥の海岸線の変化 山本智子・小玉敬興 55オオタチヤナギ(ヤナギ科シロヤナギ節)の鹿児島県における記録 丸野勝敏 59鹿児島湾から得られたイズヒメエイ Dasyatis izuensis(エイ目:アカエイ科) 荻原豪太・吉田朋弘・本村浩之 63鹿児島大学郡元キャンパスのアリ 福元しげ子 67

Information鹿児島昆虫同好会(熊谷信晴) 69鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子) 70鹿児島植物同好会の活動(2008年)(細山田三郎) 71鹿児島県地学会 2007~ 2008年の活動状況(前田利久) 72鹿児島県野生生物研究会の活動(宅間友則) 73地球温暖化と鹿児島の自然 財団法人 鹿児島県環境技術協会(清水建司) 75

Business Reports鹿児島県自然愛護協会 2008年度会記(本村浩之) 77

【表紙写真】屋久島・白谷雲水峡 屋久島北東の標高約 700 mに位置する自然休養林である.花崗岩の渓谷,照葉樹林に屋久杉が点在する.屋久島で人気 No. 1の観光スポットだ.一日一度は必ず霧に覆われるこの森では,すべてが苔むしている.そしてたっぷりと水を蓄えた苔の中には次の世代を担う新しい芽がすでに顔をだしていた.

(写真・文:原崎和江 屋久島自然案内「森と海」)

【裏表紙写真】キツネ(1967 年長崎鼻パーキングガーデンで捕獲された雌の剥製標本) 南薩地方(薩摩半島)におけるキツネの生息分布状況は,現在のところ専門書や図鑑等によれば空白地帯である.しかし,生息についての断片的な情報があり,今回,短期的な調査により生息の確認をした.調査結果は,+分布とも-分布とも言えない状況であり,強いて結論付けると,±分布といえる.ある地域・ある年に忽然と姿を現し,数年で全く姿を消す現状であり,安定した繁殖個体群からなる生息分布は確認できていない.

(写真・文:鮫島正道 鹿児島県野生生物研究会)

Nature of Kagoshima Vol.35 2009

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

1

 はじめに

キツネ Vulpes vulpes は食肉目のイヌ科に属する

哺乳類で,ユーラシアの大部分と北米に広く分布

し,日本では北海道,本州,四国,九州に分布す

るが,北海道産をキタキツネ V. v. schrencki と本

州以南をホンドギツネ V. v. japonica と亜種で区別

することがある.キツネの体毛について,背面や

側面が黄土色または赤褐色で,顎の下,腹部およ

び尾の先端は白色である.頭胴長 60 ~ 75 cm,

尾長 40 cm 前後で太くて長い.体重は 4 ~ 7 kg

である(中園,1996;米田,2005).都市近郊か

ら山岳地まで生息する.

肉食傾向の強い雑食性で,ネズミ類,鳥類(ニ

ワトリ),大型昆虫などの他,果実(イチゴ,ア

ケビ,カキなど),時にはトウモロコシ,サツマ

イモ,スイカなどの栽培作物も摂食することがあ

る.交尾期は冬季(12 月~ 2 月)で,春先(3 ~

4 月)に平均4子(2~7子)を巣穴で出産する.

夏季まで家族群で生活し,前年生まれの雌がヘル

パーとして子育てに参加する(中園,1996;米田,

2005).

鹿児島県産のキツネについては,1960 ~ 1970

年代に薩摩半島北部の阿久根市,大口市およびさ

つま町での捕獲例や家禽の被害例が報告されてい

る(森田,1974).一方,個体数が著しく減少し

ているようで,頴娃町,吉松町および牧園町で少

数の生息事例が報告されている(森田,1973).

1990 年代には生息範囲が減少していて,例えば

大隈地区では稀に見かける程度となっている(鮫

島,1997).

鹿児島県では個体数減少によるキツネの保護

と農林作物を荒らすノウサギの駆除のため,1976

年から狩猟禁止の対象になっている.最近の鹿児

島県内におけるキツネの情報として,2006 年 5

月 26 日に南さつま市金峰町池辺の農道でキツネ

の事故死体が発見された(南日本新聞,2006).

2007 年 11 月 10 日に霧島市南部の中渡の道路上

でキツネの事故死体が発見された(末弘氏,私信).

また,2008 年 5 月 26 日に日置市伊集院町下神殿

の茶畑で キツネが保護され,獣医の手当てを受

けて 6 月 2 日に放たれた(南日本新聞,2008).

上述のように,これまで断片的な報告事例しか記

録されておらず,本格的な生息分布の調査や生態

学的研究は皆無といってよい.

そこで今回は,主に自動撮影装置を利用して,

生息の有無や活動状況を調べた.また,聞き込み

調査や鹿児島県森林整備課保護猟政係で 1996 年

から本格的に実施されている狩猟者のアンケート

に基づくキツネ出会い数の調査資料を検討した.

加えて,鹿児島県大隈土木事務所道路維持管理課

(大隈地域振興局建設部)や加治木土木事務所道

路維持管理課(建設部)のパトロール日誌に記載

された交通事故死(ロードキル)に関する資料も

参考にした.

 調査地,材料および方法

主な調査地は,薩摩川内市祁答院町,同市永

利町,曽於市大隈町,志布志市松山町,川辺町藤

野原・上山田・高田である(図 1).

各地域の生息状況を知るために,鹿児島県森

林整備課からの情報や調査度に民家の方からの聞

き込み情報を得るとともに,キツネの足跡,食痕

鹿児島県産のキツネの生息状況と保全

船越公威・岩元洋平・西田洸平

〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8–34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室

   Funakoshi, K., Y. Iwamoto and K. Nishida. 2009. Status and

conservation of red fox, Vulpes vulpes, in Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 35: 1–8.

Biological Laboratory, Faculty of Intercultural Studies, the International University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima 891–0197, Japan (e-mail: KF, [email protected])

Page 4: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

2

および糞の有無を調査した.また,生息情報を得

た場合には,生息の確認と活動状況を知るために,

自動撮影装置(Fieldnote 1, 麻里府商事・アーパス

社製)を利用した.これは,フラッシュ付きカメ

ラとセンサーを組み合わせたもので,動物の通り

道や餌場に動物がやってくると,動物の体温をセ

ンサーが感知してカメラのシャッターを切る仕組

みになっている.この装置を使うと,昼夜を問わ

ず,そこに接近する個体の姿を写真でとらえるこ

とができる. 

自動撮影装置は,調査度に 5 台前後を巣穴の

そばやけもの道等の木の幹や枝に固定した.キツ

ネを誘引するために,炒ったひき肉(鶏肉のミン

チにニンニク・塩を混入)を入れた竹筒を自動撮

影装置の周辺の地面に数本差し込んだ.設置2週

間後でカメラを回収し,写った個体の日時を記録

した.また,回収された糞は,研究室に持ち帰っ

て糞分析を行った.調査期間は 2007 年 8 月~

2008 年 12 月である. 

また,聞き込み調査や鹿児島県森林整備課保

護猟政係で実施されている狩猟者のアンケートに

基づくキツネ出会い数の調査資料を検討した.

 調査結果

1.調査地でのキツネの生息状況

1)曽於市:曽於市大隅町月野の鹿児島県肉用

牛改良研究所内の牧草地の斜面下にはキツネの巣

穴(図 2)が数ヶ所あり,2006 年以前には利用さ

れていたとのことであった.しかし,2007 年の

調 査(8 月 24 日 ~ 9 月 6 日,9 月 25 日 ~ 10 月

14 日)では,夜間にも観察されず,巣穴付近に

設置された自動撮影装置にもキツネが撮影されて

おらず,利用されていなかった.2008 年 4 月 20

日~ 5 月 3 日のフィールドサイン(食痕など)の

有無や巣穴周辺における自動撮影装置による調査

でもキツネの生息を確認することができなかった

が,少し古いキツネの糞を発見することができた.

2)志布志市:志布志市松山町泰野の茶畑や野

菜畑における 2007 年の調査で,キジの飼育場付

近にキツネが出没するとの情報を得たが,自動撮

影装置による調査(8 月 24 日~ 9 月 6 日,9 月

25 日~ 10 月 14 日)では生息を確認することが

できなかった.

3)南さつま市:2007 年 10 月の聞き込み調査で,

南さつま市唐仁原周辺の海辺近くで目撃されたと

の情報を得たが,キツネのフィールドサインを発

見できなかった.

4)川辺町:川辺町でかつてキツネが目撃され

ていた情報を得て,4 ~ 5 年前に目撃され死体を

収集された鮫島正道氏の案内で,2007 年 10 月 31

日にその当時の死体発見場所やキツネの目撃場所

などを教えていただき,それらを図 3 に示した.

図 1.調査地点.A, 薩摩川内市祁答院町小牧;B, 薩摩川内市永利町向原;C, 曽於市大隅町月野;D, 志布志市松山町泰野;E, 川辺町藤野原;F, 川辺町上山田・高田.

図 2.曽於市大隅町月野の肉用牛改良研究所内の牧草地の斜面下にあるキツネの巣穴(入口の幅 44 cm, 高さ 43 cm).

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それに基づいて,2007 年 11 月 3 日に川辺町周

辺を調査し,農家への聞き込みによって,同年 8

~ 9 月頃にキツネが農道で目撃したとの情報を得

て,藤野原の雑木林や杉林内において 11 月 14 日

まで自動撮影装置を設置した.しかし,キツネを

撮影することはできなかった.また,同年 11 月

16 ~ 28 日に川辺町高田の茶畑付近の杉林内,12

月 5 ~ 19 日に川辺町上山田の畑周辺の林内に自

動撮影装置を設置したがいずれもキツネを撮影す

ることができなかった.ただし,11 月 16 日に川

辺町高田の草地でキツネの糞を発見することがで

きた(図 4).

川辺町藤野原における 2008 年 11 月 16 日~ 12

月 7 日の調査で,農家の方から 10 月頃にキツネ

を目撃したとの情報を得た.また出没したと思わ

れる畑にはキツネの足跡が発見された.付近の杉

林内に設置した自動撮影装置でキツネを確認する

ことはできなかったが,キツネが出没したと思わ

れる畑や周辺にはトウモロコシ,サツマイモ,牧

図 3.川辺町において 4 ~ 5 年前にキツネが目撃された場所や死体が収拾された場所(鮫島正道氏から),×,キツネの目撃地点;●,キツネの死体の収拾地点.

図 4.川辺町高田の茶畑付近の草地で 2007 年 11 月 16 日に発見されたキツネの糞.糞中に小型哺乳類などの骨の破片や甲虫の外骨格片がみられる.

図 5.祁答院町の黒木の畑で 2008 年 5 月 16 日に発見されたキツネの糞.小型脊椎動物の骨の破片やノウサギの体毛が含まれている.

図 6.祁答院町小牧の畑で見つかったキツネの足跡.

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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草等が栽培されており,またノウサギの足跡も

あって,キツネの食物資源が豊富な場所であった.

5)薩摩川内市:森林整備課や祁答院役場の方

の案内で,2008 年 5 月 16 日に薩摩川内市祁答院

町小牧や黒木での調査をおこなった.その結果,

数個のキツネの糞(図 5)が発見された.また,

その 2 週間前にも親子と思われる 3 頭が目撃され

ていた.

そこで,5 月 22 日~ 6 月 4 日に祁答院町小牧

で調査を行った.その結果,5 月 22 日の 15 時頃

に雑木林から草地に現れたキツネ 1 頭を目撃する

ことができた.また,けもの道と思われる入口付

近にキツネに摂食されたウサギの骨格や体毛が散

在しており,畑には足跡も見つかった(図 6).

また,自動撮影装置でキツネを撮影すること

に成功し,少なくとも 3 頭の生息を確認した.撮

影時間は,5 月 22 日 19 時 39 分,5 月 23 日 5 時

29 分,6 時 40 分( 図 7),23 時 19 分( 図 8),5

月 24 日 19 時 57 分であった.

薩摩川内市の永利町向原では,キツネの保護

をしたという獣医師の馬場政則氏から情報を得

て,2008 年 6 月 20 日に調査を行った.保護され

たキツネは伝染病であるジステンパーを患い死亡

したので焼却処分したとのことであった.このキ

ツネが保護された周辺地域では小ギツネなどの個

体が複数目撃されていたが,その後見ないという.

おそらく感染率の高いジステンパーによって個体

数が減少または消滅したと考えられた.

また,永利町の農家の方から飼っているニワ

トリがキツネに襲われる被害の情報が得られたの

で,その農家に隣接する林内とその周辺に自動撮

影装置を設置して 7 月 6 日に回収した.しかし,

キツネを撮影することはできなかったが,畑には

キツネのものと思われる足跡が発見された.

2.キツネの糞分析と食痕

糞中には,鳥類,小型哺乳類(齧歯目のクマ

ネズミ,アカネズミ等)の骨の断片が多くみられ

(図 4),ノウサギの体毛や鳥の羽毛(図 5),昆虫

の外骨格片(甲虫のアオドウガネや幼虫等),ア

ケビの種子や果皮も含まれていた.加えて,誤飲

したと思われる細い縄も混在していた.食痕とし

ては,キツネが出没していた林縁の草地でノウサ

ギの後肢,背骨および体毛が散在していた.また,

カラスの足骨や爪の破片も見つかった.

3.鹿児島県のキツネに関する資料と交通事故死

図 8.祁答院町小牧の林内の 3 頭のキツネ(2008 年 5 月 23日 23 時 19 分に撮影).

図 7.祁答院町小牧の林縁に現れたキツネ(2008 年 5 月 23日 6 時 40 分に撮影).

図 9.鹿児島県内において狩猟者がキツネと出会った年度毎の総数の年次的変化(保護猟政係の資料に基づく).

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鹿児島県では,個体数の減少やノウサギの駆

除 の た め,1976 年 11 月( 昭 和 51 年 第 1 期 ~)

から 2011 年 10 月(~平成 23 年第 4 期)まで,

キツネの捕獲が禁止されている.

鹿児島県保護猟政係では狩猟者によるキツネ

目撃のアンケート(キツネ出会数調査)が実施さ

れている.そこで,継続調査された 1998 年~

2007 年までのアンケート調査結果を集計してグ

ラフに示してみた(図 9).

この個体数の推移をみると,1999 年から減少

傾向がみられ,その間に 2 回の出会い数の急増

(2002 年度と 2006 年度)がみられた.また,鹿

児島県内の出会い数の資料に基づいて,2001 年

~ 2007 年度までの各ブロック総出会い数を算出

して図 10 に示してみた.この図から,鹿児島県

内で広範囲にキツネが目撃されているが,特に曽

於市や志布志北部に集中しており,また吹上町,

菱刈町,湧水町,霧島市北東部,肝付町北部でも

比較的に多く目撃されている.一方,出水市や阿

久根市,鹿児島市,大隈半島南部ではほとんど目

撃されていない.

2006 年度(平成 18 年度)のキツネ出会い数

129 は,2002 年の 190 に次ぐ 2 回目のピークとなっ

た年(図 9)であり,2006 年度の各ブロックのキ

ツネ出会い数の集計結果を図 11 に示してみた.

この年の目撃頻度の高かった地域を順にみると,

曽於市(22 頭),霧島市(19 頭),薩摩川内市(18

頭),南さつま市(10 頭),垂水市(8 頭),さつ

ま町(8 頭)および大口市(7 頭)となっていた.

しかし,翌年の 2007 年には,キツネ出会い数が

28 頭に激減していた(図 9).

鹿児島県大隈土木事務所道路維持管理課(大

隈地域振興局建設部)や加治木土木事務所道路維

持管理課(建設部)のパトロール日誌に記載され

た交通事故死(ロードキル)に関する資料を

2004 ~ 2007 年を通じてみると,キツネの交通事

故死として 2006 年 8 月に曽於市で 1 頭死亡した

1 例があるだけで,タヌキ,アナグマ,イタチお

よびノウサギの頻繁な事故死と比べれば極めて少

なかった.その他,2006 年 5 月の南さつま市金

図 10.2001 ~ 2007 年度分の各ブロックのキツネ総出会い数の集計結果(保護猟政係の資料に基づく).

図 11.2006 年度分の各ブロックのキツネ総出会い数の集計結果(保護猟政係の資料に基づく).

Page 8: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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峰町におけるキツネの交通事故死(南日本新聞,

2006),2007 年 11 月 10 日の霧島市中渡における

交通事故死(末弘氏,私信)の 2 例の情報がある

だけである.

 考察

1.食性,繁殖および活動パターン

約 2 年間の調査において,安定した生息域を

特定することができず,鹿児島県における周年を

通じた食性を把握することができなかった.しか

し,断片的な糞分析と食痕等から,これまで記載

さ れ た 食 性( 池 田,1996; 中 園,1996; 米 田,

2005)と類似していて,肉食傾向の強い雑食性を

示している.また,糞に細い縄も混在していたこ

とから,人家の残飯なども食物にしていると思わ

れる.イギリス産のキツネも同様に,ハタネズミ,

ヨーロッパモリネズミ,稀にモグラ,トガリネズ

ミ,ノウサギ,アナウサギ,鳥類(キジ),甲虫

類(オサムシ等)ミミズ,イネ科植物(穀類),

果実を摂食している(Burrows, 1968).

こうした食物は,概して,林縁,草地,集落

地に多くみられる.加えて,草地や林縁は哺育の

ための場所(巣穴も含めて)を提供しており,雑

木林は隠れ場所として利用されている.これらを

含む場所がキツネのハビタットを特徴づけるもの

になっている(中園,1989). 

繁殖に関して,聞き込み情報から,5 月初旬に

は親子で巣外活動が始まると考えられる.した

がって,遡って出産は 4 月頃であり,妊娠期間

52 日前後(中園,1996)とすれば,交尾期は 2

月前後と予想される.5 ~ 6 月に目撃例が多いの

は,子供の巣外活動が活発になり,個体数も増え

ることによって発見されやすくなるためと考えら

れる.特に,2006 年と 2008 年の同じ時期(5 月

下旬)に事故死による個体の発見と保護された個

体の事例は,そのことを裏付けているようである.

キツネの活動パターンについて,聞き込み調

査では夕方によく見られるとのことであった.ま

た,自動撮影装置による記録から,5 月下旬では

日入後 30 分前後,真夜中,および日出後 1 時間

前後に撮影されていた.テレメーター調査による

と,主な活動は夜間で,日入時に活動が急激に上

昇した後,断続的な休息がみられ,日出後 2 時間

で終了している(Eguchi and Nakazono, 1980).し

かし,育児中の雌は昼夜ほぼ変わりなく活動して

いるという.5 月下旬の調査で午後 3 時頃に活動

中のキツネが目撃されたのは,まだ育児期間で

あったためと思われる.

 

2.分布と生息状況

鹿児島県内のキツネの分布について,鹿児島

県保護猟政係の資料(キツネ出会い数)をみると,

生息域が一部の地域を除いて広範囲に及んでいる

(図 10).しかし,年毎に出会い数の集中する地

域は変わっており,比較的に安定して目撃数の多

い地域は,曽於市,霧島市および薩摩川内市とそ

れらに隣接する周辺地域に限られている.

約 1 年に及ぶテレメトリーによる個体の追跡

で,キツネは一定のホームレンジをもっており,

成獣雌雄の移動は約 5 km に及んでいる(Eguchi

and Nakazono, 1980;中園,1989).川辺町におい

て4~5年前にキツネが目撃された場所の分布(図

3)は,古殿地域と藤野原地域において別々の個

体のホームレンジの一部を示しているか,1 個体

の季節的な移動によって古殿から藤野原地域一帯

をホームレンジとして広範囲に移動していたと示

唆される.餌条件などを考えると,後者の可能性

が高いと考えられる.

したがって,目撃される個体が同一であった

場合に重複カウントされた可能性も否定できず,

出会い数が直接個体数を反映するものではないこ

とも考慮する必要がある.これまでの目撃情報が

得られた場所における自動撮影装置の調査で,生

息が確認されたのは祁答院地域の 1 例に過ぎず,

糞などのフィールドサインもほとんど発見されて

いない.

曽於市の牧草地の巣穴(図 2)は,2007 年以

後は放棄されている.また,さつま町の畑地にあっ

た巣穴も現在では造成工事で放棄されてしまった

と思われる(寺師氏,私信).こうした事例をみ

ると,安定した子育てのための巣穴は極めて少な

いのが現状であろう.生息状況に関する以上の諸

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

7

点を総合的に評価すると,キツネは広範囲に生息

してはいるものの個体数が極めて少ないと考えら

れる.特に,1998 年以降のキツネ出会い数の推

移(図 9)をみると,一時的な急増はあるものの

減少傾向をたどっており,この傾向が続けば,今

後激減することも予想される.

薩摩川内市における調査で,永利町では複数

(子を含む)の個体が目撃されており,またジス

テンパーによる死亡個体の情報が得られた.その

後,この地域でキツネの生息を確認することがで

きなかった.これらの結果から,感染率や死亡率

が高いとされるジステンパーの伝染によって,こ

の地域の生息数が大幅に減少したか消滅したと考

えられる.さらには,2007 年度の出会い数の激

減の一因として,このジステンパーの伝染拡大の

可能性も示唆される.

3.キツネの保全について

子育てのための営巣地は,沢地,林内または

草地の開けた斜面,畑地や河岸の土手などである

(中園,1989;池田,1996;中園,1996).鹿児島

県では,こうした場所は人為的な影響を受けやす

く,また造成工事などによって利用が不可能にな

る場合が多い.個体数を維持するためにも,安定

した巣穴を作れる上記の環境を確保する一方,個

体数の減少を止めるには積極的に巣穴適地の環境

を再生することも検討されなければならない.そ

の際,キツネは警戒心が強い性質があるので,こ

れも考慮して候補地を選択する必要がある.また,

餌資源や隠れ場所の確保のためには里山などの雑

木林に多少手を加えて本来の豊かな生態系に戻す

ことも必要であろう.また,死亡率を低下させる

上で,天敵とされるノイヌの駆除も欠かせない.

しかし,ヒトと共存していくためには,キツ

ネの保全とともにキツネによる農作物や家畜(特

に養鶏)の被害も無視することができない.今回

の調査で,農作物への被害はほとんど聞かれな

かったが,家禽への被害として志布志市の泰野や

薩摩川内市の永利町で発生しており,むしろ駆除

してほしい要望もあった.今後,こうした被害の

対策も急がれる.長期的にみれば,キツネの生息

環境の改善によって,ヒトとの干渉を少なくし,

一定の距離を置くことができれば,被害も軽減で

きると期待される.

 謝辞

本調査に協力していただいた鹿児島国際大学

国際文化学部学生の,竹山光平,山下 啓,永里

歩美の諸氏,キツネの情報の提供と調査地へ案内

していただいた第一幼児教育短期大学教授の鮫島

正道氏,鹿児島県林務水産部森林保全課保護猟政

係の小牧利明氏と川畑真司氏,祁答院役場の方々,

農林水産部曽於支所林務係の長谷川和徳氏,鹿児

島県猟友会理事の長利 守氏,薩摩川内市の馬場

動物病院長の馬場政則氏,薩摩川内市役所農業振

興グループ嘱託員の宮田久美氏,薩摩川内農協職

員の上野氏と寺地氏,輝北町諏訪原の末弘雅崇氏,

キツネの情報の提供と施設内での調査に便宜を

図っていただいた鹿児島県肉用牛改良研究所の磯

部知弘氏,キツネの情報と自動撮影装置の設置で

便宜を図っていただいた川辺町高田の鮎坂勝海,

吉嶺清武の両氏,祁答院黒木の深田秋男氏,薩摩

川内市永利町の米盛和穂氏,川辺町大山の民家の

方々,キツネ捕獲禁止資料(キツネの出会い数報

告)をご提供いただいた鹿児島県林務水産部森林

保全課保護猟政係の小牧利明氏と川畑真司氏,パ

トロール日誌に記載された野生動物の交通事故死

の資料収集に便宜をはかっていただいた鹿児島県

大隈土木事務所道路維持管理課,鹿児島県加治木

土木事務所道路維持管理課の諸氏に厚くお礼申し

上げます.なお,本稿における研究調査の一部は,

平成 20 年度鹿児島県自然愛護協会の助成により

行われたものである.

 引用文献

Burrows, R. 1968. Wild Fox. David & Charles, Devon. 邦訳:R.バローズ(高島幸男訳,1975)野ギツネ.思索社,東京,310 pp.

Eguchi, K. and Nakazono, T. 1980. Activity studies of Japanese red foxes, Vulpes vulpes japonica Gray. Japanese Journal of Ecology, 30: 9-17.

池田 透.1996.キタキツネ.(日高敏隆監修:日本動物大百科 1.哺乳類 I)pp. 121-123. 平凡社,東京.

Page 10: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

8

南日本新聞.2006.地域総合:キツネ目撃情報多数.5 月26 日.

南日本新聞.2008.地域総合:けがの野生キツネ保護.6 月5 日.

森田忠義.1973.VII 獣類調査.鹿児島湾周辺地域自然保護基本調査.鹿児島県自然愛護協会報告 1:237-248. 鹿児島県.

森田忠義.1974.VII, 獣類調査 薩摩半島西側および北薩地方の哺乳動物.鹿児島県西部および北部地域 自然環境保全基本調査.鹿児島県自然愛護協会報告 2:179-194. 鹿児島県

中園敏之.1989.1.九州におけるホンドギツネのハビタット利用パターン.哺乳類科学,29: 51-62.

中園敏之.1996.ホンドキツネ.(日高敏隆監修:日本動物大百科 1.哺乳類 I)pp. 122-123. 平凡社,東京.

鮫島正道.1997.大隈の哺乳類相.鹿児島の自然調査事業報告書 IV 大隈の自然:73-78.鹿児島県立博物館.

米田政明.2005.食肉目(ネコ目).(阿部 永 監修:日本の哺乳類 改訂版)pp. 73-94. 東海大学出版会,神奈川県秦野市.

Page 11: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

9

 はじめに

ハゼ科ウキゴリ属 (Gobiidae: Gymnogobius) 魚類

は 13 種が有効種と認められ,その全てと複数の

未記載種が日本に分布する(Akihito et al., 2002;

Stevenson, 2002;鈴木・渋川,2004).そのうち,

クボハゼ G. scrobiculatus (Takagi, 1957) は和歌山

県から宮崎県にかけての太平洋,福井県から鹿児

島県にかけての日本海と東シナ海,および兵庫県

から大分県にかけての瀬戸内海に面した地域にの

み分布する日本固有種で,良好な環境の河口干潟

に生息し河口域周辺でその一生を終える(鈴木,

2003).近年,生息環境の悪化などによって本種

の生息個体数は減少しており,環境省レッドリス

トでは絶滅危惧 IB 類に,鹿児島県レッドデータ

ブックでは絶滅危惧 I 類に指定されている(岸野,

2003;鈴木,2003).鹿児島県における本種の分

布は少なく,これまでに県北部の高尾野川から 1

個体の採集記録があるのみである(岸野,2003).

2007 年に行った鹿児島県の魚類相調査で,熊

本県との県境に位置する針原川(図 1),および

薩摩半島東側の鈴川からクボハゼが各 1 個体ずつ

採集された.針原川と鈴川は鹿児島県におけるク

ボハゼの新産地であり,後者は本種の分布南限に

あたる.絶滅が危惧される本種の保護のため,生

息状況や分布についての情報を蓄積することを目

的として詳細な採集記録を報告する.

 材料と方法

計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947) に従

い,デジタルノギスを用いて 0.1 mm まで計測し

た.標準体長は体長と表記した.背鰭と臀鰭の最

後の 2 軟条は 1 本と計数した.胸鰭条数は左側の

も の を 計 数 し た. 頭 部 感 覚 管 開 孔 の 名 称 は

Akihito et al. (2002) に従った.体色の記載は,調

査した標本の生鮮時のカラー写真に基づく.本報

告で用いた標準和名と学名は Nakabo (2002) およ

び鈴木・渋川 (2004) に従った.本報告で用いた

標本のカラー写真は鹿児島大学総合研究博物館の

魚類画像データベースに登録されている.本報告

で用いた標本はすべて鹿児島大学総合研究博物館

(KAUM) に所蔵されている.

鹿児島県における絶滅危惧種クボハゼ Gymnogobius scrobiculatus(ハゼ科ウキゴリ属)の記録

松沼瑞樹 1・荻原豪太 1・目黒昌利 1・本村浩之 2

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)2 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

   Matsunuma, M., G. Ogihara, M. Meguro and H. Motomura.

2009. Records of the endangered goby, Gymnogobius scrobiculatus (Perciformes: Gobiidae), from Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 35: 9–12.

MM, GO, MM: Graduate School of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: MM, [email protected]); HM: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

図 1.鹿児島県におけるクボハゼの記録地.★:本報告.●:岸野 (2003).1,鈴川;2,針原川;3,高尾野川.

Page 12: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

10

 結果と考察

クボハゼ(図 2)

Gymnogobius scrobiculatus (Takagi, 1957)

標本 KAUM–I. 2854,体長 27.7 mm,鹿児島

県 鹿 児 島 市 鈴 鈴 川 下 流,2007 年 4 月 13 日;

KAUM–I. 4805,体長 15.1 mm,鹿児島県出水市

境町針原針原川河口,2007 年 7 月 17 日.

記載 背鰭条数は VI-I, 10,臀鰭条数は I, 9–10,

胸鰭条数は 17–18.体各部測定値の体長に対する

割合 (% ):胸鰭基部での体高 12.5–14.3%;頭長

29.8–32.0%;眼径 6.4–7.9%;吻長 6.0–6.5%;両眼

間隔 2.4–3.5%;上顎長 15.4–19.1%;尾柄長 18.0–

19.5%;尾柄高 7.0–8.0%.

体は細長い円筒形.眼は背面に位置する.口

はきわめて大きく,主上顎骨後端は眼の後縁を超

える.舌の先端は二叉する.頭部感覚管の開孔 D

は互いによく近接する.背鰭は 2 基で第 2 背鰭の

基底は長い.腹鰭は完全な吸盤.臀鰭基部は,第

2 背鰭の第 2–3 軟条間下に位置する.

生鮮時,頭と体の地色は薄茶色,腹部は白色.

吻,頬,鰓蓋部は褐色.体側の腹側に,褐色の逆

V 字形の斑紋が 3–4 個並ぶ.腹側の斑紋は前方で

明瞭,後方で不明瞭になる.第 1 背鰭と第 2 背鰭

にはそれぞれ 3 本と 4 本の褐色縦帯がある.両方

の背鰭の上縁は鮮やかな橙色で幅広く縁取られ

る.臀鰭には明瞭な 1 本の黄色縦帯がある.胸鰭

は透明で基部付近のみ薄茶色がかる.腹鰭の地色

は白色で,全体に黄色みの茶色がかる.尾鰭の地

色は白色で,全体に 9 本の褐色横帯がある.幼魚

(KAUM–I. 4805)では,大きな黒色素胞が体全体

に粗く分布し,体側の斑紋は黒色で太い.背鰭上

縁に橙色の縁取りが無く,臀鰭の横帯は褐色で不

明瞭,尾鰭全体に 5 本の褐色横帯がある.

ホルマリン固定後,70% エチルアルコールで

保存した標本では,各鰭の黄色が消失する以外は,

生鮮時と同様.

同定 調査した 2 標本は,口が大きく主上顎

骨後端が眼の後縁を越えること,上顎が下顎より

も突出すること,頭部感覚管の開孔 G を欠き,

開孔 D が互いに近接すること,尾鰭全体に斑紋

があること,臀鰭基部が第 2 背鰭の第 3 軟条基部

下よりも前方に位置すること,第 2 背鰭と臀鰭条

数がそれぞれ I, 10 と I, 9–10 であること,背鰭前

方と項部が無鱗であることなどにより同属他種と

区別され,クボハゼと同定された(Akihito et al.,

2002;Stevenson, 2002;鈴木ほか,2006).

図 2.鹿児島県から採集されたクボハゼ Gymnogobius scrobiculatus の標本写真(生鮮時).A:KAUM–I. 2854,体長 27.7 mm,鈴川.B:KAUM–I. 4805,体長 15.1 mm,針原川.

Page 13: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

11

生息状況 KAUM–I. 2854 は,鹿児島湾に面す

る鈴川の河口から約 100 m 上流の地点で,干潮時

に足首まで沈み込む程度の軟らかい泥中から採集

された.鈴川下流の感潮域ではクボハゼの他に,

ウ ナ ギ Anguilla japonica(KAUM–I. 2847, 体 長

67.4 mm), ウ ロ ハ ゼ Glossogobius olivaceus

(KAUM–I. 2838, 体 長 141.4 mm), ボ ラ Mugil

cephalus cephalus(KAUM–I. 8412, 体 長 333.3

mm), ア ベ ハ ゼ Mugilogobius abei(KAUM–I.

8630, 体 長 22.3 mm), ゴ マ ハ ゼ Pandakai sp. A

(KAUM–I. 2851, 体 長 13.7 mm), ヒ ナ ハ ゼ

Redigobius bikolanus(KAUM–I. 2850, 体 長 23.4

mm), チ チ ブ Tridentiger obscurus(KAUM–I.

2849,体長 63.5 mm)が同時に採集された.

KAUM–I. 4805 は,八代海に面する針原川の河

口で,干潮時に砂利底から採集された.同所では

ク ボ ハ ゼ の 他 に, ヒ メ ハ ゼ Favonigobius

gymnauchen(KAUM–I. 4809,体長 29.4 mm),ヒ

ナハゼ(KAUM–I. 4812,体長 20.4 mm),クサフ

グ Takifugu niphobles(KAUM–I. 4810, 体 長 55.0

mm)が同時に採集された.

分布 日本固有種で,和歌山県および福井県

以南の本州から九州,瀬戸内海,対馬・五島列島

に分布する(鈴木,2003).鹿児島県では,県北

部の針原川および高尾野川,薩摩半島の鈴川に分

布する(岸野,2003;本研究,図 1).

備考 薩摩半島東側の鈴川には,河口から約

150 m 上流まで本種の生息に適した良好な砂泥干

潟がある.クボハゼはニホンスナモグリやアナ

ジャコの生息孔を利用し,その依存度は他のウキ

ゴリ属魚類と比べてきわめて高いことが知られて

いる(鈴木ほか,2006).KAUM–I. 2854 の採集

場所では,実際に生息を確認することはできな

かったものの,小型甲殻類の生息孔と思われる多

数の小孔を確認している.鈴川はクボハゼの分布

の南限地であり,これまで本種の分布南限として

知られていた鹿児島県北部の高尾野川から約 90

km 南方に更新された.

八代海に面する針原川は流程が約 3 km の小河

川で,河口はきわめて狭く粗い砂利底で拳大の転

石が多く,鈴木 (2003) が示したクボハゼの生息

に適した砂泥干潟ではなかった.そのため,針原

川の河口で本種個体群が再生産している可能性は

きわめて低いと考えられる.福岡県の鋸屑川に生

息するクボハゼでは,着底直前の浮遊個体が全長

16.0 mm で,少なくとも全長 17.3 mm に達すると

着 底 し て い る こ と が 確 認 さ れ て い る( 道 津,

1961).針原川で採集された標本は全長 18.5 mm

であることから着底直後の個体と考えられ,高尾

野川など八代海に面する他の河川で産生した本種

の稚魚が浮遊期の分散により,生息に適さないは

ずの針原川河口に来遊したものと推測される.

最近,Eguchi et al. (2007) によって九州におけ

る希少ウキゴリ属魚類 2 種(チクゼンハゼ G.

uchidai とキセルハゼ G. macrognathos)の分布が

詳細に報告され,鹿児島県でのチクゼンハゼの分

布が 16 河川におよぶことが示された.そのうち

には,岸野 (2003) がクボハゼを記録した高尾野

川も含まれる.鈴木(2003)によれば,チクゼン

ハゼとクボハゼは,良好な環境の河口干潟という

点で生息環境の一部が重複することから,Eguchi

et al. (2007) が鹿児島県からチクゼンハゼを記録

した 16 河川には,高尾野川以外にもクボハゼの

分布する河川が潜在的に含まれている可能性が高

く,今後の詳細な調査により県内におけるクボハ

ゼの分布地はさらに拡大する可能性がある.

本種は,環境省レッドリストでは絶滅危惧 IB

類に,鹿児島県レッドデータブックでは絶滅危惧

I 類 に 指 定 さ れ て い る( 岸 野,2003; 鈴 木,

2007).本種の保護のため,今後の詳細な調査や

生息環境の保全に努める必要がある.

 謝辞

本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学

水産学部附属海洋資源環境教育研究センター東町

ステーションの加世堂照男氏ならびに尾上敏幸氏

には,出水地方での調査に際して様々な便宜を

図って頂いた.また,鹿児島大学総合研究博物館

ボランティアの伊東正英氏,高山真由美女史,原

口百合子女史には,標本の処理・登録作業などを

手伝って頂いた.ここに記して,謹んでお礼を申

し上げる.

Page 14: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

12

 引用文献

Akihito, K. Sakamoto, Y. Ikeda and K. Sugiyama. 2002. Gobioidei, pp. 1139–1310, 1596–1619. In T. Nakabo (ed.) Fishes of Japan with pictorial keys to the species. Tokai Univ. Press, Tokyo.

Eguchi, K., R. Inui, J. Nakajima, T. Nishida, N. Onikura and S. Oikawa. 2007. Geographical distribution of two endangered goby species, Gymnogobius uchidai and G. macrognathos (Perciformes, Gobiidae), in the Kyushu Islands, Japan. Biogeography, 9: 41–47.

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Hubbs, C. L. and K. F. Lagler. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Bull. Cranbrook Inst. Sci., (26): i–xi+1–186.

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Nakabo, T. (ed.) 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. Tokai Univ. Press, Tokyo. 1749 pp.

Stevenson, D. E. 2002. Systematics and distribution of fishes of the Asian goby genera Chaenogobius and Gymnogobius (Osteichthyes: Perciformes: Gobiidae), with the description of a new species. Spec. Div., 7 (3): 251–312.

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鈴木寿之・吉郷英範・野元彰人・淀 真理・中島 淳・松井誠一.2006.絶滅危惧種キセルハゼの形態,生息状況および分布.日本生物地理学会誌,61: 125–134.

Page 15: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

13

2009 年 7 月 22 日の皆既日食

西井上剛資

〒 899–8511 鹿児島県鹿屋市輝北町市成 1660–3 輝北天球館

 はじめに

2009 年 7 月 22 日,屋久島から奄美大島北部に

かけるトカラ列島を中心とした地域で皆既日食が

見られる.日本の陸地で見られる皆既日食として

は,1963 年 7 月 21 日に北海道東部で見られて以

来,46 年ぶりのことである.

日食は,地球をまわる月により太陽が隠され

る現象である.太陽の一部が隠されるときは「部

分日食」,全部が隠されるときが「皆既日食」と

呼ばれる.また,地球と月の距離や,太陽と地球

の距離がわずかに変化するため,月の見かけの大

きさが太陽よりも小さくなることがある.このと

き,太陽と月の中心が重なっても,月は太陽面全

体を覆い隠すことができず,月のまわりにリング

状に太陽がはみ出して見える.これを「金環日食」

と呼んでいる.皆既日食と金環日食は,地球に投

影された月の本影が通過する細長い帯状の地域で

見られる.日食が起こるしくみは,図 1 に示すと

おりである.

 7 月 22 日の日食

7 月 22 日の日食は,世界的に見ると,皆既食

帯がインドからブータン,中国を通り,東シナ海

を横断し,トカラ列島,硫黄島,マーシャル諸島

を経てキリバスに至っている.日本では,種子島

南部,屋久島,トカラ列島,奄美大島北部,硫黄

島などで皆既日食が見られ,日本全国で部分日食

となる(図 2).

今回の皆既日食の特徴としては,皆既食の継

続時間が今世紀中で最も長いことがあげられる.

継続時間の最大は,硫黄島近海で6分44秒になる.

この主な原因は,今回の日食では,月が地球に近

い “ 近地点 ” 付近にあるため大きく見え,さらに,

地球が太陽から遠い “ 遠日点 ” 付近に位置してい

るため太陽が小さく見えることによる.

 鹿児島県内での見え方

1.部分食帯

鹿児島県内のほとんどの場所が,最大食分 0.95

以上の部分日食が見られる地域に入っている.食

分は,太陽直径に対してどの程度まで月が入り込

むかの割合を示す数値である.面積の比率ではな

い.食分 0.95 と言うのは,太陽直径の 95% まで

月が入り込むことを示している.皆既帯に近づく

ほど欠ける割合が大きくなり,南北限界線上で食

図 2.各地の最大食分の図(提供:国立天文台).

図 1.日食が起こるしくみ.

   Nishiinoue, T. 2009. Total solar eclipse on 22 July 2009.

Nature of Kagoshima 35: 13–15. Kihoku Astronomical Observatory, 1660–3 Ichinari,

Kihoku-cho, Kanoya, Kagoshima 899–8511, Japan (e-mail: [email protected])

Page 16: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

14

分 1.0 となる.県本土最南端の佐多岬では最大食

分 0.982 である.県内の主な場所での最大食分と

その時刻を表 1 に示す.太陽が欠け始めてから終

わるまでの日食の全過程は,鹿児島県内では 2 時

間 45 分前後の現象になる.

2.皆既食帯

鹿児島県での皆既食帯は,その北限界線が種

子島南部の竹崎付近,南限界線が奄美市街地の南

5km 付近を通り,その間で皆既日食が見られる(図

3).皆既食帯の中心線は悪石島と諏訪之瀬島の間

を通り,一般に中心線に近い場所ほど皆既の継続

時間が長くなる.中心線に最も近い悪石島での継

続時間は 6 分 22 秒である.皆既食帯における各

地点での皆既継続時間を表 2 に示す.なお,継続

時間の予報値は,実際の現象と若干異なるときも

ある.日食の予報は,月の視位置や平均半径,地

球の自転運動などの様々なデータに補正を加え,

さらに,月が完全な球体ではなく月縁に地形の凹

凸があるため,実際の現象に近づけるためには月

縁補正をする必要がある.計算者がどのような補

正値を取るかによって予報値はわずかに異なって

くる.

 皆既日食での現象

1.気温と空の明るさの変化

食が進行するにつれ太陽の欠ける割合が大き

くなると,日差しが次第に弱まってくる.特に今

回の日食は,鹿児島県内では太陽高度が 50 度か

ら 80 度の間の高い位置で起こるので,最大食分

のころの体感温度の低下は,実際の気温低下以上

に感じられると思われる.

空の明るさも食の進行とともに変化する.食

分が 60% を超えるようになると,大部分の人は

空が暗くなったことを感じるであろう.今回の日

食時には太陽の西 40 度付近に明るさ- 4 等の金

星が輝いているが,鹿児島県内は皆既帯以外の場地点 最大食分 時刻出水市 0.948 10:56:41大口市 0.947 10:57:14霧島市 0.957 10:57:43

薩摩川内市 0.958 10:56:43鹿児島市 0.963 10:57:22志布志市 0.963 10:58:26鹿屋市 0.968 10:58:06

南さつま市 0.971 10:56:58指宿市 0.974 10:57:42枕崎市 0.976 10:56:59長崎鼻 0.977 10:57:40佐多岬 0.982 10:57:55

西之表市 0.988 10:58:47古仁屋 0.993 10:56:37

徳之島町 0.977 10:56:12和泊町 0.963 10:55:34与論町 0.95 10:55:13

表 1.鹿児島県の部分食帯における各地の最大食分と時刻(国立天文台暦計算室の日食各地予報にて算出.地点は役所の位置).

図 3.鹿児島県の皆既食帯(斜線の地域で皆既日食が見られる.数字は最大食分).

地点 皆既継続時間種子島(門倉岬) 2 分 06 秒

口永良部島 2 分 34 秒屋久島(尾ノ間) 3 分 55 秒

口之島 5 分 39 秒中之島 6 分 03 秒

諏訪之瀬島 6 分 22 秒悪石島 6 分 22 秒

宝島・小宝島 6 分 09 秒奄美大島(あやまる岬) 3 分 32 秒

喜界島 2 分 30 秒奄美大島(名瀬港) 1 分 50 秒

表 2.鹿児島県の皆既食帯における各地の皆既継続時間(国立天文台暦計算室の「日食各地予報」にて算出.地点は港の位置).

Page 17: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

15

所でも食分が大きいので,最大食前後には多くの

人が金星を楽に確認できるであろう.また,太陽

の東約 10 度には- 1.3 等の水星が位置しており,

県内では部分食帯の中でも最大食のころに見られ

る可能性がある.

気温や明るさの変化に伴って,鳥や犬などの

動物も反応を示すと言われている.普段の動物の

様子と比較してみるとおもしろい.

2.皆既中に見られる太陽現象

・コロナ

太陽はコロナと呼ばれる 100 万度もある高温

の希薄なガスに包まれている.コロナは普段は光

球が明るすぎて見られないが,皆既日食のときだ

けその姿を表す(図 4).双眼鏡で観察するとコ

ロナの微細構造が見えてくる.

・彩層とプロミネンス

皆既になる直前と直後には光球の輪郭が赤く

見える.これは光球の上にある彩層と呼ばれる大

気の層である.この彩層の濃いガスが,外側の希

薄なコロナの中へ立ち上がっているのがプロミネ

ンスである.今回の日食では月と太陽の見かけの

大きさの差が大きいため,彩層が見られる弧の長

さが短くなる.また,プロミネンスも彩層からの

立ち上がりが大きいものでないと月に隠されてし

まう.

・ダイヤモンドリング

太陽が深く欠け,部分食から皆既食へ入る直

前に月の谷間から太陽の光がもれると,わずかな

間,そこだけが明るく輝く.太陽を取り巻くリン

グ状に見えるコロナと合わせると,ダイヤモンド

の指輪のように見えることから,この姿はダイヤ

モンドリングと呼ばれている.ダイヤモンドリン

グは皆既の直後にも見られる.

 おわりに

皆既日食は太陽と地球と月が織り成す壮大な

現象であり,普段は見ることができないコロナが

見え幻想的な光景になる.皆既前後の部分食の観

察には,強烈な太陽光を弱めるフィルターが必要

であるが,ダイヤモンドリングに始まりダイヤモ

ンドリングに終わる皆既食の間は肉眼で観察する

ことができる.

皆既日食は世界的には 1 ~ 3 年に一回程度見

られる現象であるが,自分の住む地域で起こる確

率はかなり低い.日本で見られる次回の皆既日食

は 26 年後の 2035 年のことで,皆既帯が北陸から

関東にかけて通る.また,2012 年と 2030 年には

金環日食が日本で見られる.特に 2012 年の金環

日食は,奄美大島以南を除く鹿児島県全体が金環

日食帯に入っている.

今回の皆既日食は,皆既帯が離島を通るため

アクセスが少々困難な点はあるが,鹿児島県内で

見られるものとしては一生に一度のことになる.

百聞は一見に如かず.関心のある人はこの機会に

皆既帯の中へ出かけてみてはいかがだろう.また,

県本土でも今回のように食分が大きい部分日食は

近い将来にはない.天文現象を体験する良い機会

である.

図 4.皆既日食の連続写真(2002 年 12 月 4 日,南オーストラリア).

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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 はじめに

平成 20 年度の日本環境教育学会の大会は,学

習院女子大学で開催された.私も例年通り発表の

予定だったが,美術館の行事のため出席できな

かった.予定していた発表を,ここで,改めて御

報告申し上げたい.

私は,平成 19 年 4 月 1 日付けの県定期人事異

動により,鹿児島県文化振興財団に出向し,副館

長として,この現代野外美術館に勤務している.

 「インタ-プリテーション」とは

いわゆる英語の「通訳」を意味する単語である.

しかし,環境教育関係者の間では「自然解説」と

も訳され,自然公園(ビジターセンター等)や自

然関連施設(自然の家等)において,その地域の

自然を守るため,来訪者にその周囲の自然やマ

ナーなどの情報を伝達する技術を言う.

発表者は,この言葉を次の通りに定義してお

り,自然解説にとどまらず,観光や教育の分野,

さらには日常の「プレゼンテーション」全般にも

広く応用できる技術と考えている.

定義:「伝達困難な事象を,分かり易い言葉や

動作,道具などを工夫して伝える技術」

また,この活動にたずさわる人を,「インター

プリター(自然解説員など)」と呼ぶ.

ここでは,現在勤務中の美術館において,「イ

ンタープリテーション」を意識して試行・実践し

たことについて,まとめてみたい.

 「鹿児島県霧島アートの森」とは

(1)開設日 平成 12 年 10 月 12 日(9 年目)

(2)来館者数 平成 21 年 2 月末現在 76 万人(年

平均 10 万人,当初計画の 2 倍)

(3) 特色 

 ①鹿児島県立の美術館―鹿児島県の「霧島国際

芸術の森基本構想」により設置.

 ②現代アート(彫刻)を収蔵―国内外の著名な

作家による巨大な作品群 ( 屋内 38 作家,屋外 22

作家 ) ,「戦後から今日の彫刻」収集,年 3 回の

コレクション展,年 2 回の特別企画展.

美術館におけるインタープリテーション

柳田一郎

〒 890–0034 鹿児島市田上 5–16–34 環境カウンセラー・鹿児島県霧島アートの森

   Yanagita, I. 2009. The Interpretation at the Kirishima Open-

Air Museum. Nature of Kagoshima 35: 17–19. 5–16–34 Tagami, Kagoshima 890–0034, Japan (e-mail:

[email protected]; tel: 099–258–2710). URL: http://www5.synapse.ne.jp/ecoiy/synapse-auto-page/

アートの森・シャングリラの華.

アートの森・秋の一日.

Page 20: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

18

③霧島屋久国立公園の自然と景観に融合―霧

島連山の北・栗野岳中腹標高 700 m の高原に位置.

④国内最大級の野外美術館―面積 13 ha,その

5 割は霧島の自然林.

⑤都市から離れた三県境(鹿児島・熊本・宮崎)

に立地―アクセス不便(鹿児島市から高速経由 1

時間 30 分)と県外客多数.

 霧島アートの森における作品解説の手法

(1)屋内作品 38 作家

①解説カード設置 ― 屋内作品,表側に作品解

説・裏側に作家プロフィール.

②ギャラリートーク(屋外を含む時も)― 主

に団体用,学芸課長・学芸員担当.

(2)野外作品 22 作家

①園内ツアー ― 毎日曜日午後,副館長・学芸

課長・学芸員担当.

② DVD 上映 ― 映像による説明を多目的ホー

ルにおいて終日上映.

特に,野外作品の園内ツアーにおいて,建設

時からたずさわっている熟練の学芸課長が,巧み

な話術で楽しく親しみやすく説明し,好評を得て

いる実績がある.

また,学校現場から赴任した学芸員によるツ

アーなどは,教育現場のニーズを把握し,児童・

生徒・学生への説明に定評があり,学校の多人数

団体に対応することが多い.

 インタープリター経験者(報告者)から見た解説の特色と(→)さらなる工夫

(1)作品解説について,季節・天候により作品の

見え方に変化がある.

副館長による園内ツアー.

園内ツアーで使用する写真シートの 1 枚(晴天時の正面遠景).

副館長による写真を利用した園内ツアー.

学芸課長による園内ツアー.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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→A4 サイズ写真,雑誌・新聞などのコピーに

よるベストタイムの紹介.

(2)自然解説について,天然林,野生動物,国立

公園など素材が豊富である.

→ 国立公園制度,詳しい野鳥解説や特徴的植

物などの解説を導入.

(3)技法について,会話とともに作品や自然物と

いう「実物」の紹介が主である.

→ 写真・図鑑,紙芝居など小道具も採用,立

ち位置の配慮など.

(4)環境教育について,豊かな自然の中で,意識

せず実施してきた.

→ 意識して,特に四季を通じた自然の変化を

強調するなど自然素材を活用,地球温暖化防止活

動などにも参加しつつ,リピーターの確保にも配

慮.

 参加者の反応

 好評で,これまでに積み重ねられた経験に裏付

けされた情熱溢れる解説などと今回の小さな工夫

が,ますます効果を上げていると判断している.

楽しいツアーの様子が,個人のブログでも紹

介されるようになったほか,園内ツアーを経験し

た国内外の旅行会社添乗員さん達からのリクエス

トが来るようになった.

(1)同行者を連れたリピーター ―「家族や友達

にも聞かせたい」,「四季を味わいたい」.

(2)ファンレター ―「楽しかった」,「四季を体

験したい」,「デートの付加価値だ」.

(3)満足度の向上 ―「説明を聞くと分かりやす

い」,「芸術は科学だ」,「安い」.

 思いがけない御訪問とインタープリテーション実践

平成 21 年 2 月 6 日金曜日の午前中,常陸宮殿下・

同妃殿下が,ご友人らとともにプライベートな旅

行の途中にお立ち寄りになられた.芸術鑑賞とと

もに野鳥観察を計画され,報告者が日本野鳥の会

会員であることから野鳥のご説明役を,学芸課長

が美術のご説明役をつとめさせていただいた.

常陸宮殿下は日本鳥類保護連盟の総裁でもい

らっしゃるので,専門家に対してインタープリ

テーションをさせていただくという光栄に,思わ

ず力が入った.双眼鏡と望遠鏡を準備,素晴らし

い晴天の下,園内を 1 時間ほどを散策していただ

きながら,以下を中心にご説明,初春の自然を楽

しんでいただいた.

(1)野鳥生息数について―建設前の環境アセスメ

ントによる野鳥確認種数 81 種とオープン後 8 年

間の職員確認種 21 種,合計 102 種.

(2)当日の観察種について―スズメ,ヤマガラ,

シジュウカラ,ハシブトガラス,ミヤマガラス,

イカル,シメ,シロハラ,アオゲラ,ジョウビタ

キ,ヒヨドリ.

(3)カッコウの初渡来観察について―昨年,日本

野鳥の会に登録する全国の自然系施設の中で最も

早く,夏の渡り鳥カッコウの本土渡来を園内で確

認(平成 20 年 5 月 11 日).

(4)その他の自然の話題について―降雪状況,花々

の開花時期(コブシ,マンサク,ミツマタ,ヤマ

ボウシなど),樹木名,タブの巨木樹齢,シカ生

息状況と被害など.

(参考)鹿児島県霧島アートの森 HP http://www.

open-air-museum.org/

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南薩地方のキツネの分布と生活痕跡

鮫島正道・中村麻理子

〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

 はじめに

 南薩地方におけるキツネ Vulpes vulpes japonica

Gray, 1868 の生息は,現在のところ阿部(1994),

小宮(2002)等によればマイナス分布となってい

る.しかし,生息についての断片的な情報があり,

これらの内容を確認する意義および重要さがあ

る.今日では,散発的な生息はあるが,安定した

繁殖個体群からなる生息分布は確認できていな

い.

 日本産のキツネは,本州・四国・九州のホンド

ギツネと,北海道のキタキツネの二つの亜種に分

けられる.

 キツネについての一般的記載として,「形態」

については,大きさが頭胴長 60 ~ 75 cm,尾長

30 ~ 40 cm,体重 3 ~ 6.5㎏である.とがった口先,

大きく先がとがった三角形の耳,太くふさふさし

た長い尾などが特徴である.体と尾は黄褐色で,

背中線は赤褐色をしている.尾の先端部が白色で

あること,四肢の全面と耳の背面が黒色であるこ

とも,目撃した際の識別に役立つ.「生態」につ

いては,里山から高山までの森林に生息し,林縁

部の草原や農耕地にも出現する.野ネズミ,鳥類,

大型の昆虫などの小型動物を食べている.人家の

ゴミを漁ったりニワトリを襲ったりすることもあ

る.春先,3 ~ 4 月に平均 4 頭の仔を巣穴の中で

出産し,8 月頃まで家族で生活し,子ギツネは分

散していく.それと共に家族生活も崩壊し,成獣

も単独生活に戻る.「行動範囲」については,一

般的にキツネは 4 ㎢ほどの行動圏をもつが,その

地域の餌動物の量や繁殖期に入っているかどうか

などで大きく変化する.環境によっても違い,森

林で 2.5 ㎢だったものが,隣接した草原や荒地で

は 25 ㎢にも及ぶ例も知られている.

 キツネは同じイヌ科で生息数の多いタヌキと比

較して,行動範囲・食性等の生態に特異性がある.

また,生息数ならびに地域における生息状況の消

長に特徴がみられる.

 哺乳類の生息調査については,自然環境研究セ

ンター(1996),朝日 稔ら(1991),川道武男ら

(1991),阿部 永ら(1994),田名辺雄一ら(1995),

森林野生動物研究会(1997)等が詳しい. 

 哺乳類の生息情報の収集には,一般に,①目視

調査,②捕獲調査,③聞き取り・アンケート調査

の三つの方法がある.目視調査の中で,哺乳類の

姿の直接目視は観察効率が悪く作業量が多くなる

ため,痕跡観察法(フィールドサイン法)と無人

撮影法が主流になる.

 今回採用した痕跡観察法(フィールドサイン法)

は,ノーベル賞学者の Tinbergen(1967),Murie

(1974)に始まる.国内では今泉(1977),安間

(1985),川道(1991),子安(1993),門埼(1996),

今泉(1998),小宮(2002)があり,鹿児島県産

哺乳類については鮫島(1999)がある.

 今回の調査は,断片的な情報の聞き取りや資料

の整理と,南九州市川辺町神殿地区の繁殖個体群

の生活痕跡(フィールドサイン)の観察を主眼と

した生態調査である.また,地域特性であるシラ

ス地形とキツネの生息環境との関連性についても

把握を試みた.

   Sameshima, M. and M. Nakamura. 2009. Distribution and

field signs of red fox, Vulpes vulpes, in the Nansatsu District, Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 35: 21–28.

Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (e-mail: MN, [email protected]).

Page 24: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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 調査地および調査方法

 観察地点は鹿児島県南九州市川辺町神殿地区鳴

野原で図 1 に示した.当地はほぼ薩摩半島の中央

部に位置する.

 哺乳類調査の手法の痕跡観察法(フィールドサ

イン法)を採用した.生活痕跡の各項目は,糞,

獣道・足跡,食痕・食い残し,巣・一時避難所,

その他の生活情報である.

 本報告の痕跡観察法(フィールドサイン法)の

記録は,2002 年 3 ~ 5 月の期間である.

 結果

1.南薩地方(薩摩半島)のキツネの分布状況に

ついての情報

 南薩地方(薩摩半島)のキツネの生息について

の情報は,1967 ~ 2005 年の間で,南薩台地に近

い旧開聞町,旧頴娃町,旧知覧町と旧松元町の春

山原等から,4 ~ 5 年間隔に一回程度の割合で散

発的に情報があった.しかし,その中には野犬と

の誤認が多く含まれており,死体・写真等の確か

な情報ではない.ここでは,情報記録の中で筆者

が確認したものを列記する.

 ① 1967 年,薩摩半島最南端長崎鼻に隣接する

熱帯系動植物園・長崎鼻パーキングガーデン内の

鳥獣被害が発生し,有害鳥獣として雌雄 2 頭が合

法的に捕獲された.その個体の剥製標本(図 2・3)

は,現在,鹿児島県立博物館に収蔵されている.

 ②筆者がアドバイザーとして参加した南薩縦貫

道環境影響評価のための生態系調査(2000 年)

において,旧川辺町神殿地区鳴野原の茶畑に設置

した無人撮影装置で成獣の生態写真記録と,

フィールドサイン法等により,確実にキツネが当

地に生息していることを確認した.当時の薩摩半

島ではキツネの生息はほとんどなく,専門書や図

図 1.観察調査地.

図 2.長崎鼻パーキングガーデンで捕獲された雄(剥製標本).

図 3.長崎鼻パーキングガーデンで捕獲された雌(剥製標本). 図 4.川辺町藤野原でミイラ化した個体の晒骨標本.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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鑑でも空白地帯であり,話題としてニュース性の

高い内容であったが,道路の路線決定前の調査で

あり,情報の公開を控えた.

 ③ 2002 年 5 月地域住民からキツネの餌付けに

成功したので,マスコミに公開したいとの申し出

の相談を受ける.野生動物の餌付けは課題も多い

が,前出の南薩縦貫道環境影響評価の記録は伏せ

た形で,話題として新聞・テレビに情報提供し報

道される.

 ④ 2005 年に,前出の川辺町神殿地区鳴野原か

ら 4 km 程離れた同町藤野原でミイラ化したキツ

ネの死体を拾得する.性別不明個体であるが晒骨

標本(図 4)として保存する.以上が記録である.

2.川辺町神殿地区鳴野原での生活痕跡(フィー

ルドサイン)調査

 観察地点は鹿児島県南九州市川辺町神殿地区鳴

野原で,当地はほぼ薩摩半島の中心部に位置し,

シラス台地に広がる茶畑(図 6)である.

 2000 ~ 2002 年にかけて確認調査を行ったが,

本報告では,2002 年 4 月時点の繁殖・子育ての

時期の生活痕跡(フィールドサイン)の結果で,

頭数は親(図 7)と仔(3 頭)の合計 5 頭の家族

である.生活痕跡(フィールドサイン)の各項目

は,①巣・一時避難所,②糞,③足跡,④獣道,

⑤餌の埋め・掘り起こし跡等の生活情報である.

 確認できた生活痕跡の分布状況は図 5 に示し

た.各項目別に確認状況を列記する.

 ①巣・一時避難所―巣の位置は,シラス台地と

図 5.痕跡観察調査の結果(フィールドサインの位置図).

図 6.シラス台地に広がる茶畑とキツネの生息地. 図 7.川辺町神殿地区鳴野原の成獣.

Page 26: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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シラス低地の間に位置するシラス急崖で,台地よ

り 10 m 程低い位置にあり,崖面に対し横穴で,

入り口には多量のシラスが掻きだされ小山になっ

ていた.この観察記録は,子育て期間であったた

め 30 m 程離れた位置からの双眼鏡での確認であ

る.巣の詳細な構造調査は,子育てに影響を与え

ない秋から冬に調査を行うこととし,先送りした

が,台風時期の豪雨の結果,壁面の崩落により巣

の入り口が全壊した(図 8).

 ②糞―本種の糞の臭いは,食物に関係なく当地

に生息する哺乳類の糞の中で最も悪臭(異臭)で

ある.糞には主食であるネズミ類の毛や骨片が混

在する(図 9).糞は巣に近い範囲に集中しており,

一面に糞・尿の悪臭が漂い,独特の環境である.

 ③足跡―キツネは,指先だけで歩行する指行性

の動物である.イヌに非常によく似ている.5 指

4 趾だが,着地痕は 4 指 4 趾指趾で通常爪痕もつ

く.第 1 指痕がつくことは稀である(図 10).イヌ,

タヌキとの識別が必要である.イヌが徘徊するよ

図 8.台風時の豪雨で崩落した巣の入口.

図 9.ネズミの毛や骨片が混在する糞.

図 10.キツネの足跡.a)前足,b)後足,c)ほぼ一直線上に並ぶ足跡.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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うな場所では,足跡で外形の最大横幅が 3 cm 以

下と 8 cm 以上は犬の可能性がある.

 一個一個の足跡で区別できないときは,一連の

足跡を見る.キツネはイヌよりも胸幅が細いので

左右の足跡はほぼ一直線上に並ぶ(図 10).一方,

タヌキは直線歩行をすることは稀で,手足跡のつ

きかたが不規則で歩幅も狭く,フラフラした蛇行

歩調が特徴である.

 ④獣道―獣道は図 5 に示すように,シラス台地

と急峻な崖地の樹林との境界部(林縁部)で確認

しやすく,観察時も常時出入りを確認できた(図

11).林内は落葉落枝などで不明瞭になるが,踏

み固めによる痕跡は確認できる.

 ⑤餌の埋め・掘り起こし跡―キツネは巣の近く

に持ち帰った餌を一時的に埋める習性がある.埋

めた場所を翌朝確認しても,すでに餌は掘り起こ

され持ち去られていた(図 12・13).痕跡は巣に

近い範囲に集中していた.

3.シラス地形がキツネの生息環境に及ぼす地域

特性

 キツネの生息環境はその地域の自然環境と人為

環境によって影響され,それぞれの地域特性がみ

られる.

 今回観察したキツネの調査地は,人家や田んぼ

の広がる盆地に張り出したシラス台地であり,台

地には,お茶畑が広がっている.シラス台地の直

下は人間活動が優占する集落群が密集し,キツネ

の行動域を制限している.行動圏は図 5 に示す約

4 ㎢の広さであった.また,本調査地以外の南薩

地方(薩摩半島)および鹿児島県内のキツネの生

息状況を観察すると,シラス台地が主な行動圏に

なっている. 

 自然環境としての地形は,シラス急崖を境に上

方と下方に,それぞれシラス台地(高位段丘=浅

い谷とシラス台地面を含む)とシラス低地(低位

段丘と氾濫原を含む)の二種類の平坦面がある.

すなわちシラス地形は,シラス台地,シラス急崖,

シラス低地の三つの要素に分けられる(図 14).

 シラスは中生層の砂岩・頁岩,第三紀の安山岩

類や花崗岩類などに比べて土質的にもろく,さら

に雨水や河川水による浸食作用に極めて弱い.こ

のため地質年代から見て,数万年しか経過してい

ないのに,かなり侵食が進んでいる.鹿児島県の

シラス台地の分布(図 15)をみて分かるように,

大小のシラス台地がパッチ状に分布している.本

調査地のキツネの行動圏はシラス急崖や崩落部に

発達した樹林・林縁・シラス台地であった.

 シラス台地での人為環境としては,一般的に,

図 11.キツネの獣道.

図 12.耕作地内の餌のかくし場所.

図 13.枯れた草地を掘り起こした埋め跡.

Page 28: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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お茶畑としての耕作地が主であるが,養鶏場・養

豚場・牛舎などが点在しており,人間社会の利用

度の高い地域である.シラス低地部の急崖直下は

湧水地が点在しており,そこを中心に昔から集落

が集中して発達している.しばしば集落内の家禽

にキツネによる被害が発生し,駆除の対策が行わ

れる.

 考察

 日本における野生動物の生息場所の環境には,

森林,灌木草原,湿原,河川,湖沼,海岸などが

ある.このうち森林は日本の国土の 67% 占め,

多くの陸生野生動物にとっては極めて重要な生息

場所となっている.多くの野生動物は,自然度の

高い環境を生息場所としているが,種によっては

人為的環境で多くなるような動物もいる.生息場

所の環境の違いや変化は,野生動物の生息状況に

どのように影響するのであろうか.陸生動物に

とっては,植生が環境として重要で,その量・質

ともに生息状況に影響する.また,野生動物が生

活している単位は個体群,すなわちある地域に生

息する同種の個体のまとまりのある集まりである

といえる.個体群は分布域,生息密度,出生率,

死亡率,移入率,移出率,齢構成等の個体群特性

をもっており,個体群を一つの単位としてそれぞ

れの種の個体維持と種族維持が行われている(田

名辺ら,1995).

 野生生物は,一般に,種によって生息生育に必

要なビオトープのタイプや規模が異なる.また多

くの野生生物は,単独のビオトープの中だけで生

活が完結しているわけでもない.採餌・休憩・繁

殖等あるいは一日・一年・一生のライフサイクル

において,複数の異なるタイプのビオトープが必

要になる.さらに,他集団との繁殖交流の必要性

から,他集団の存在も必要である.つまり,同じ

タイプのビオトープが,繁殖交流できる一定範囲

に存在する必要がある.これがビオトープネット

ワークである(日本生態系協会,1994;ヨーゼフ・

ブラープ,1997).

 生物生息空間形態・配置等に関して最も効果的

な方法を図 16 に示すと,A 生物生息空間は,な

るべく広い方が良い.B 同面積なら分割された状

態よりも一つの方が良い.C 分割する場合には,

分散させないほうが良い.D 線状に集合させるよ

り,等間隔に集合させた方が良い.E 不連続な生

物空間は生態的回廊(コリドー)で繋げた方が良

い.F 生物空間の形態はできる限り丸い方が良い.

これら A ~ F の六つの原則を踏まえることが,

生物生息空間形態・配置等に関して最も効果的で

あることが実証されている(Diamond, 1975).こ

れらの考えは,キツネの生息・分散の可能な環境

作りに大いに応用できる.

 一般にキツネは4㎢ほどの行動圏をもつといわ

れるが,その地域の餌動物の量や繁殖期に入って

いるかどうかなどで大きく変化する.環境によっ

図 14.シラス地形の模式図.

図 15.鹿児島県のシラス分布(佐野,1997 を一部改変).

Page 29: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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ても違い,森林で 2.5㎢だったものが,隣接した

草原や荒地では 25㎢にもおよび行動圏が広い.

雪上のキツネの足跡追跡で,5 ~ 6 km は追跡す

る 覚 悟 が 必 要 で あ る と 記 載 し て い る( 今 泉,

1984).

 南薩地方ではキツネの生息情報が散発的にある

が,安定した繁殖個体群が生じない要因として,

自然的環境要因と人為的環境要因がある.ここに,

南薩地方(薩摩半島)のキツネの生息・分布を脆

弱にしている要因を幾つか述べてみる.

 ①シラス地形という特異な地域特性

 主な生息域となっているシラス台地は餌場とし

て,畑の林縁部および急崖部の僅かな森林内に巣

穴を掘り利用している.一般的にキツネの行動範

囲は 4㎢ほどの行動圏をもつといわれ,環境に

よっても違い,森林で 2.5㎢だったものが,隣接

した草原や荒地では 25㎢にも及ぶ例も知られて

いる.パッチ状に散在する小規模のシラス台地で

は,キツネの理想的な生息域は確保できないのが

現状である.

 ②シラス低地(低位段丘と氾濫原を含む)にあ

る河川によるバリア

 河川は,分散を妨げる物理的な要因である.し

かし,対岸への移動手段として,偶発的な橋の利

用・泳ぎによる分散が考えられる.これは 2005

年に,前出の川辺町神殿地区鳴野原から 4 km 程

離れた同町藤野原でミイラ化したキツネの死体を

拾得している.藤野原の個体は鳴野原からの分散

個体である.

 ③キツネの生息空間(ビオトープ)のネットワー

ク化の難しさ

 南薩地方ではシラス地形という特異性から,キ

ツネの生息空間(ビオトープ)のネットワーク化

は現状では困難である.分散を可能にする生息環

境が隣接しない.また,小規模でパッチ状に細か

く分散している.

 ④繁殖習性の特異性と分散時に発生するトラブ

ルによる死亡

 キツネ特有の繁殖習性として,繁殖期が近づく

と家族の崩壊がおこる.春先に生まれた子ギツネ

も秋には分散していく.それと共に家族関係も崩

壊し,成獣も単独生活に戻る.隣接する生育可能

なシラス台地に至る移動経路が確保・保障されて

いない.また,障害が多すぎる.

 ⑤生息地の破壊

 本来の生息地であったシラス台地の原野は,近

年の畑地灌漑事業により単一的な茶畑として開発

され,多様性の失われた地域に変貌し,生息地と

しての価値を失い,生息地の減少が加速化してい

る.

 ⑥キツネの分散を妨げる集落・畜舎の存在と捕殺

 シラス急崖部直下には人間活動が優占する集落

群が密集し,ヒトとの遭遇・飼い犬の存在,キツ

ネの習性の生ゴミ漁り,ニワトリやアイガモなど

の家禽を襲うために,人為的捕殺等が個体数の減

少を誘発している.集落群はキツネの分散に対し,

大きな障害になっている.また,シラス台地に散

在する畜舎や鶏舎においても捕殺されている.

 おわりに

 南薩地方におけるキツネの生息分布は,マイナ

ス分布ともプラス分布とも言えない状況であり,

強いて結論付けると,プラスマイナス分布と言え

る.ある地域・ある年に忽然と姿を現し,数年で

全く姿を消す現状では,安定した繁殖個体群から

なる生息分布は確認できていない.これは,キツ

ネ固有の特異な繁殖習性とあわせて,南薩地方特

有の自然的環境要因・人為的環境要因に原因があ

る.

 南薩地方の自然環境の保全は,地域全体の生態

的再生を目標としたい.南薩地方の種供給ポテン

シャルを考えつつ,多様な野生生物の再生が可能

な環境の改善や,開発事業と連動し,土地確保を

図 16.自然環境の保護回復に際しての生物生息空間形成・配置等に関する一般原則(Diamond, 1975 を一部改変).

Page 30: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

28

図りながら,自然環境の復元・創造に取り組んで

いく新しい環境保護政策が必要になる.

 謝辞

 本報告をまとめるにあたり,痕跡調査に同行頂

いた鹿児島県野生生物研究会の酒匂猛氏・中村正

二氏・宅間友則氏・徳永修治氏,生息地での観察

に貴重な情報を頂いた田島誠一氏・前原健一氏・

西 道雄氏,また,行政側からの協力を頂いた川

辺町文化財課の新地浩一郎氏に深謝いたします.

 引用文献

朝日 稔・川道武男(1991)現代の哺乳類学.朝倉書店.阿部 永(1994)日本の哺乳類.東海大学出版会.今泉吉晴(訳)(1977)翻訳 : 足跡は語る.思索社.今泉吉晴(1998)アニマル・トラック.自由国民社.門埼允昭(1996)野生動物痕跡学辞典.北海道出版企画セ

ンター.

川道武男・川道美枝子(1991)けものウォッチング.京都新聞社.

小宮輝之(2002)日本の哺乳類.学習研究社.子安和弘(1993)フィールドガイド足跡図鑑.日経サイエンス社.佐野武則(1997)シラス地帯に生きる.春苑堂出版.鮫島正道(1999)鹿児島の動物.春苑堂出版.自然環境研究センター(1996)野生動物調査法ハンドブック.

自然環境研究センター.森林野生動物研究会(1997)森林野生動物の調査.共立出版.田名辺雄一ほか(1995)野生動物学概論.朝倉書店.日本生態系協会(1994)ビオトープネットワーク.ぎょう

せい.日本生態系協会(1994)ビオトープネットワーク II.ぎょ

うせい.安間繁樹(1985)アニマル・ウォッチング.晶文社.ヨーゼフ・ブラープ(1997)ビオトープの基礎知識.日本

生態系協会.Diamond, M. (1975). The island dilemma: lessons of modern

biogeographic studies for the design of natural reserves. Biological Conservation, Vol. 7.

Murie, O. J. (1974). Animal Tracks. Houghton Mifflin Company, Boston.

Tinbergen, N. (1967). This translation of Tracks. Oxford University Press.

Page 31: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

29

自然保護ガバナンスの考え方

田中俊徳

〒 606–8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院地球環境学舎

 はじめに

自然保護は環境政策の根幹を担うのみならず,

人類の幸福の根源に関わる重要な問題である.自

然保護の視点は従来の景観から生態系へと変化

し,自然保護地域における問題要因も従来の開発

圧や観光等による利用圧に加え,外来種移入問題

や気候変動による影響,里地里山におけるアン

ダーユースなど多様化,複雑化している.これら

問題要因に対して,生態学のみならず,法学や経

済学の見地からも有用な提言がなされているが,

これら提言を汲み取る制度枠組みが確立されてい

ない点が課題だといえる.また,複雑かつ高密度

な土地利用のなされてきた日本の自然保護地域に

おいては,制度実行にあたり関係省庁や地域住民

などの合意形成が不可欠となるが,合意形成メカ

ニズムが確立されていなかったために,問題要因

への対処が遅れる例が過去に多く見られた.これ

らの観点からも,各分野における知見を統合し,

政策に反映する枠組みや合意形成メカニズムの研

究といった政策学接近が自然保護には求められて

いると言えよう.本稿では政策学の視点から「自

然保護ガバナンス」という考え方を提唱する.

 日本における自然保護制度

自然保護制度を概観する前に,「自然とは何か」

「自然保護とは何か」という問いから始めること

も有効であろうが ( 筆者の興味のある分野でもあ

るが ),本稿では字数の制限もあるために IUCN

の定義を引用することとする.IUCN によると自

然保護地域とは「生物多様性及び自然資源や関連

した文化資源の保護を目的として,法的にもしく

は他の効果的手法により管理される陸域,または

海域」(IUCN, 1994) とされ,カテゴリー 1 から 6

まで 6 つの段階で示される.このカテゴリーに合

致する制度として,環境省所管の自然公園 ( 自然

公園法 ) や自然環境保全地域 ( 自然環境保全法 ),

生息地等保護区 ( 種の保存法 ),鳥獣保護区 ( 鳥

獣保護法 ),文化庁の天然記念物 ( 文化財保護法 ),

林野庁の森林生態系保護地域 ( 非法定制度である

保護林制度の一種 ),都道府県における天然記念

物や鳥獣保護区など国や自治体レベルにまたがり

存在する.昨今は,世界遺産条約やラムサール条

約など国際条約枠組みにおける保護地域の登録も

すすみ,自然保護地域の多層化,多様化が顕著に

なっている.これら自然保護制度の中でも,国民

の認知度や 14.3% という保護面積の広さからも

国立公園を中心とする自然公園制度がその根幹を

担っているといえるだろう ( 畠山,2004,加藤,

2008).「日本の傑出した自然」を保護する国立公

園制度は,私有地を含む地域制を採用している.

そのため,政策の実行にあたっては関係省庁や関

係産業 ( とりわけ林業や漁業 ),地権者など多様

な主体間における合意形成が必要となる.とりわ

け,国立公園の約 62% を占める国有地の大部分

を所有する林野庁との協議は欠かせない.一方,

多様な主体の参加と連携が何らかの形で阻害され

たり,枠組みとして機能していない場合,自然保

護制度は形骸化しやすいと言える.

 自然保護ガバナンスの理論枠組み

ガバナンスとは,「政府に限定されない統治体

系であり,政府,NGO/NPO,国際機関,市民,

企業など多様な主体が,それぞれが重視する公共

   Tanaka, T. 2009. A framework of nature conservation

governance. Nature of Kagoshima 35: 29–31. Graduate School of Global Environmental Studies, Kyoto

University, Yoshida-Honmachi, Sakyo, Kyoto 606–8501, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 32: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

30

的利益の観点から,主体的かつ自主的に意思決定

や合意形成に関与すること」である ( 松下ほか,

2007).自然保護地域における先行研究では,1.

縦割り行政による弊害 ( 山村,1994),2. 命題の

共有 ( 将来像の設定 ) の不足 ( 柿澤,2000),3. 住

民参加の不足 ( 畠山,2004) などが問題視されて

おり,これらは「多様な主体の参加と連携」や「マ

ルチレベルにおける政策統合」といったガバナン

ス論の応用によって克服されるべきと考えられ

る.それでは,このような政策統合や多様な主体

の連携が阻害される要因は何であろうか.この点

を政策学的に解明しなければ,自然保護制度の現

状は変わらないであろう.その際に,関係主体や

レジームの整理を行い,それぞれの連携状況と政

策決定過程の関係性についてまとめる必要があ

る.例えば,マイカー規制や利用調整地区導入の

合意形成過程における参加主体,議論,施行実施

までの期間などを定性的,定量的に示し,各地に

おいて比較することで有効なモデルの発見が期待

される.その評価軸として,①連携の質と頻度,

②命題の共有,③市民参加,④情報開示,⑤ ( 予

防的順応的管理のための ) 科学的調査,⑥イニシ

アティブの存在,という 6 点に着目するのが効果

的 と 思 わ れ る ( 松 下 ほ か,2007, 湯 本 ほ か,

2006,柿澤,2000 等 ).例えば,「環境ガバナン

ス論」( 松下ほか,2007) でも指摘されているよ

うに市民参加や情報開示によって政府の失敗が補

完されると期待できる.同著の中で,植田 (2007)

が環境政策を具体的に「汚染防止,自然保護,ア

メニティ保全」と想定していることからも分かる

ように自然保護政策と環境政策における問題構造

は同質のものであり参考にできる点が多い.また,

1992 年の生物多様性条約署名や 2002 年の自然公

園法改正によって自然保護は全体的に従来の景観

保護から生態系保護へと重心が移りつつあるが,

生態系保全においてはモニタリングの結果を政策

にフィードバックする「順応的管理」が不可欠で

あり,そのための科学的知見が求められる.また,

上述の指標には加えていないが,自然公園制度は

その命題に「保護と利用」が掲げられており,生

物多様性国家戦略のみならず観光立国推進戦略に

おいても中心的役割を求められている点から,持

続可能な観光や地域活性化といった視点を持つこ

とも欠かせない.

これら視点を統合し,自然保護ガバナンスを

「自然保護に関係する多様な主体が,それぞれの

重視する公共的利益の側面から主体的かつ自主的

に意思決定や合意形成に関与する枠組みと予防的

順応的管理を可能にする科学的知見を備えた管理

形態」と定義したい.より端的に言えば,「多様

な主体間の連携と順応的管理に基づく管理形態」

となるだろう.ここで言う管理とは,自然保護に

欠かせない計画策定,モニタリング,政策への

フィードバック,また,問題が生じた際の解決策

の提示,主体間における合意形成,対策の実行,

といった諸々を含んだ包括的概念である.自然保

護ガバナンスが機能すれば,問題要因に対して即

応性,柔軟性を備えた管理が可能になり,制度の

命題達成に寄与すると考えられる.

 協議会と科学委員会

昨今の自然保護枠組みに欠かせない概念とし

て挙げられる主体間連携や順応的管理を達成する

ために,環境省でも協議会の設置を中心に枠組み

作りを行っている ( 環境省,2007).関係省庁や

地方自治体,地元産業や地権者,NPO など多様

な主体を取り込んだ協議会は 2003 年施行の自然

再生推進法や 2008 年施行のエコツーリズム推進

法が後押しとなって各地において設置される傾向

にある.協議会は命題や情報の共有といった点に

おいて有効であるが,事務局機能の分散や一過性

の補助金,感情的対立など課題も見られる.よっ

て,予算と人員を一括管理する組織の必要性も提

唱されている (2008 年 12 月,釧路自然環境事務

所自然保護統括企画官,則久雅司氏とのメールイ

ンタビューより ).また,今年から屋久島におい

て導入される科学委員会の役割も注目に値する.

2004 年に世界遺産登録を目指す知床において導

入された科学委員会は,国内外から高い評価を得

ている.これは,日本の自然保護制度全般におい

て不足していた科学的知見に基づいた順応的管理

を補完するものであり,また,行政への提言を行

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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うと同時にホームページなどにおいて広く情報が

公開される点において,情報開示の役割も果たし

ていると言えるだろう.2006 年には同じく世界

遺産登録を目指す小笠原においても科学委員会が

導入され,地域連絡会議 ( 協議会の役割 ) やこれ

らを統括する事務局機能とあわせた管理形態が

「小笠原方式」として提示されている.科学委員

会は毎年 2,3 回定期的に開催されるために事案

ベースの自然保護審議会 ( 名称は自然環境審議会

など自治体などにより異なる ) と異なり,モニタ

リングの結果を政策に活かす枠組みとして期待さ

れる ( 委員会内に設けられる小委員会の連携はよ

り多い ).現時点では世界遺産登録地域 ( もしく

は登録予定地域 ) のみでの発足であるが,今後は

国立公園など各自然保護地域において科学的知見

を補完する枠組みとして期待される.このように

多様な主体間連携を促し合意形成を図る枠組みと

しての協議会,順応的管理を補完するための科学

委員会,これらを一元的に管理運営する事務局機

能を整備することで,筆者の提示した自然保護ガ

バナンスの指標は理論上補完されると思われる.

もっとも,科学的知見の反映については,大学や

財団法人といった研究機関との協働やボランティ

ア制度の活用が考えられるし,主体間連携の方策

としては,2002 年の自然公園法改正で誕生した

公園管理団体制度や風景地保護協定制度など多様

な枠組みを生かすことも考えられる.本稿で指摘

した協議会や科学委員会は自然保護ガバナンスを

可能にする一方策として注目される.

屋久島は 6 月に控えた科学委員会の導入や縄

文杉ルートにおける混雑,トイレ問題,皆既日食

にともなう入島制限など様々な議論が活発となっ

ており,これらにおける合意形成過程や科学知見

の活用,市民参加の程度といった自然保護ガバナ

ンスのあり方をリアルタイムで検証する絶好の場

所だと言える.屋久島の特徴から広く一般化する

ことが可能かは見極める必要があるが,屋久島が

自然保護管理の未来を占う1つの試金石であるこ

とは間違いない.今後の実証研究に期待していた

だきたい.なお,本稿では自然保護ガバナンスの

摘要を記したが,より詳細な論文を日本環境学会

や環境経済・政策学会などより発表する予定なの

でご参考にしていただければ幸いである.

 謝辞

お世話になった環境省,林野庁,鹿児島県庁,

屋久島町,財団法人,ガイドの方々に心より感謝

申し上げます.

 引用文献

植田和弘(2007)「環境政策の欠陥と環境ガバナンスの構造変化」松下和夫編著『環境ガバナンス論』京都大学学術出版会 pp. 291–307

加藤峰夫(2008)「国立公園の法と制度」古今書院柿澤宏昭 (2000)「エコシステムマネジメント」築地書館 栗山浩一、庄子康編著 (2005)「環境と観光の経済評価」勁

草書房 畠山武道 (2001)「自然保護法講義」北海道大学図書刊行会 環境省 (2007)「第三次生物多様性国家戦略」松下和夫編著 (2007)「環境ガバナンス論」京都大学学術出

版会 山村恒年 (1994)「自然保護の法と戦略」有斐閣選書湯本貴和、松田裕之編著 (2006)「世界遺産をシカが喰う-

シカと森の生態学」文一総合出版IUCN (1994) Guidelines for Protected Areas Management

Categories, Cambridge, UK and Gland, Switzerland

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オニバス自生地裸島池の植生

寺田仁志・大屋 哲

〒 892–0853 鹿児島市城山町 1–1 鹿児島県立博物館

 はじめに

オニバス(Euryale ferox)はスイレン科オニバ

ス属(世界でも 1 属 1 種)の熱帯性植物でアジア

東部とインドに分布する.日本では本州,四国,

九州の湖沼や河川に生息する.日本の植物の中で

最大の葉をつけ,日本の多様な自然を語るにふさ

わしい植物の 1 つであり,かつ希少であるため,

天然記念物として国・県・市町村レベルで保護さ

れているところもある.富山県氷見市十二町潟の

オニバスは最大のもので葉身の直径が 2.6 m あ

り,しかも生育数の多さでは他に例がないという

理由により「十二町潟オニバス発生地」として国

指定天然記念物となっている.

近年,埋め立てや環境の悪化などで自生地は

急速に減少し,現在,自生地は全国で 50 カ所程

度といわれ環境省のレッドデータブックで絶滅危

惧 II 類,鹿児島県では絶滅危惧Ⅰ類に指定され

ている.

鹿児島県内でも薩摩川内市水引町の裸島池,同

市寄田町の小比良池,南種子町にある種子島宇宙

センターの人工池,同町浜田の大浦川等が知られ

るのみで希少な植物である.このうち,小比良池

は「オニバス自生地」として昭和 30 年 1 月 14 日

に鹿児島県の天然記念物に唯一指定されている.

その小比良池も指定当時と環境が変わり,富栄養

化が進んで外来生物のホテイアオイが大繁茂し,

2008 年度もオニバスは数個体しか発生せず,地

元ではボランティアがこれまで数回ホテイアオイ

の除去作業を行っている.

 調査地概要

裸島池は北緯 31°50′31.5″,東経 130°14′50.4″,

薩摩川内市の西側,川内川の右岸に位置する(図

1).標高は 10 m 未満の位置で,長さ約 100 m の

堤に長さ 100 m 幅 40 m,長さ 30 m 幅 30 m の 2

   Terada, J. and S. Ohya. 2009. Euryale ferox and the vegetation

at Hadakajimaike Pond in Satsuma-sendai City, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 35: 33–42.

Kagoshima Prefectural Museum, 1–1 Shiroyama, Kagoshima 892–0853, Japan (e-mail: JT, [email protected]).

図 1.鹿児島県内のオニバスの分布と裸島池の位置図(上図)と裸島池の写真(下図).

Page 36: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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つの楕円状の池が連続して接続する.2 つの小河

川が扇状地状に開ける所に堰堤を築いた農業用た

め池で,貯留面積約 5,000㎡,最大水深 2 m ある.

下流の水引集落の一部の水田を潤した後原田川を

経て川内川に注ぎ込む.江戸期の薩摩藩のため池

台帳に記載があるように水引集落が古くから利用

してきた安定したため池である.

周辺の急傾斜地は,かつては薪炭材供給地と

して利用された二次林やスギ林,近年拡大の著し

いマダケ林である.傾斜の緩やかなところでは,

水辺は棚田,他の多くは段々畑として利用されて

いたが,ともに放棄され,その後スギが植林され

スギ林となっている.これらのスギ林の中には周

辺からマダケやモウソウチクが侵入し竹林と変貌

したものも多い.池の東岸側には草道集落と小倉

集落を結ぶ幅 5 m 前後の舗装道路が通っている.

池と道路はマダケ群落で隔てられ,また,側溝も

あるため舗装道路の降水はほとんど裸島池に流入

することなく原田川につながっている.

池に貯留されている水は 2 方向の谷部から流

入する河川水と地下水及び雨天時に周辺から流入

する表層水である.表層水は主に 2 カ所の谷部か

ら流入するが,現在周辺に住宅や農地もないため,

家庭の雑排水,農地からの肥料を含む水,養豚・

養鶏場からの雑排水の混入のおそれもない.この

ため古いため池であるが,長期間良好な水質が保

たれている.

堰堤に近年漏水が発見され崩壊の懸念があっ

たため,鹿児島県北薩振興局が改修工事を行うこ

ととなったが,工事に当たりオニバスを含む池沼

生態系の保護・活用のため平成 20 年 8 月から 11

月に博物館が現況調査を行うこととなった.

 調査日と調査方法

調査日は,平成 20 年 8 月 18 日,10 月 11 日,

11 月 12 日.調査方法は以下のとおり.

図 2.調査地点.

種子植物 [SPERMATOPHYTA] 被子植物 [ANGIOSPERMAE] ゴマノハグサ 科 Scrophulariaceae 双子葉植物 [DICOTYLEDONEAE] キクモ Limnophila sessiliflora 離弁花類 [CHOLIPETALAE] キツネノマゴ 科 Acanthaceaeタデ 科 Polygonaceae オギノツメ Hygrophila salicifolia

ヤナギタデ Persicaria hydropiper タヌキモ 科 Lentibulariaceaeシマヒメタデ Persicaria kawagoeana イトタヌキモ Utricularia exoletaボントクタデ Persicaria pubescens キク 科 Compositae

キンポウゲ 科 Ranunculaceae アメリカセンダングサ Bidens frondosaキツネノボタン Ranunculus silerifolius ヤブタビラコ Lapsana humilis

スイレン 科 Nymphaeaceae 単子葉植物 [MONOCOTYLEDONEAE]オニバス Euryale ferox トチカガミ 科 Hydrocharitaceae

アブラナ 科 Cruciferae ミズオオバコ Ottelia japonicaタネツケバナ Cardamine flexuosa ヒルムシロ 科 Potamogetonaceae

ユキノシタ 科 Saxifragaceae ヒルムシロ Potamogeton distinctusタコノアシ Penthorum chinense ツユクサ 科 Commelinaceae

ミゾハコベ 科 Elatinaceae イボクサ Murdannia keisakミゾハコベ Elatine triandra var. pedicellata イネ 科 Gramineae

ヒシ 科 Trapaceae スズメノコビエ Paspalum orbiculareヒシ Trapa japonica チゴザサ Pleioblastus fortunei

アカバナ 科 Onagraceae ガマ 科 Typhaceaeミズユキノシタ Ludwigia ovalis ヒメガマ Typha angustifolia

セリ 科 Umbelliferae カヤツリグサ 科 Cyperaceaeチドメグサ Hydrocotyle sibthorpioides シラスゲ Carex doniana

合弁花類 [SYMPETALAE] ヒナガヤツリ Cyperus flaccidusミツガシワ 科 Menyanthaceae ヒメホタルイ Scirpus lineolatus

ヒメシロアサザ Nymphoides coreana カンガレイ Scirpus triangulatus

表 1.裸島池湿性植物種.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

35

(1)植物相調査

調査対象区域内の調査可能な範囲内に於いて,

シダ植物以上の高等植物について記録した.

(2)植物群落調査および現存植生図作成

植生調査は Braun Blanquet の全推定法(1964)

で行った.種組成が均一な群落を対象にし,森林

については 100 ~ 300㎡,草地では 1 ~ 25㎡,形

状は必ずしも方形枠にこだわらず,群落の分布状

態に対応して調査地点を設定した.

各調査地点において,各階層の植物について

総合優占度,群度,立地環境を記録した.

植生調査資料をもとに種組成および相観に

よって群落区分を行い,現存植生図の凡例を決定

し,凡例に基づく群落の広がりを縮尺 1/500 の地

形図に記録して現存植生図を作成した.群落の広

がりについては現地踏査により確認した.

 調査結果

(1)植物相調査

今回の調査時点で堤部はすでに破壊され,堤

群落番号 1 2 3 4 5 6 7 8

調査区番号 2 3 16 19 7 6 8 21 20 4 5 10 9 11 22 17 18 23

標高(m) 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10

方位 NW NW 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 N 0 N 0

傾斜 ( )゚ 20 20 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 30 0 20 0

調査面積(m×m) 0.7×3 0.7×3 1.5×3 2×3 1×1 2×5 2×5 2×2 0.5×0.5 2×3 5×5 5×5 2×5 2×2 2×1 2×2 3×1 5×5

草本層(H)の高さ(m) 0.5 0.3 0.3 0.3 1.1 2 0.2 0.2 0.3 0.4 -1 1 0.1 0.1 0.1 0.1 0 0

草本層(H)の植被率(%) 80 20 60 80 40 90 20 50 60 30 90 100 80 60 100 95 80 90

出現種数 3 8 10 11 3 3 3 5 4 4 3 2 4 4 4 2 2 1

和名 階層 2 3 16 19 7 6 8 21 20 4 5 10 9 11 22 17 18 23

群落区分種

Persicaria kawagoeana シマヒメタデ H 5・4 1・2 ・ 2・3 2・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Hygrophila salicifolia オギノツメ H ・ 1・2 1・2 5・4 ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Ranunculus silerifolius キツネノボタン H + ・ 4・4 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

群落区分種

Scirpus triangulatus カンガレイ H ・ ・ + ・ 4・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

群落区分種

Typha angustifolia ヒメガマ H ・ ・ ・ ・ 1・1 5・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

群落区分種

Scirpus lineolatus ヒメホタルイ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・

群落区分種

Nymphoides coreana ヒメシロアサザ H ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + 3・4 1・2 3・3 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Limnophila sessiliflora キクモ H ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ 2・2 4・4 + ・ + + + ・ ・ ・ ・

Elatine triandra var. pedicellata ミゾハコベ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

群落区分種

Euryale ferox オニバス H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 5・4 5・4 2・2 2・2 2・2 + ・ ・

Potamogeton distinctus ヒルムシロ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・4 3・3 ・ ・ ・ ・

群落区分種

Ottelia japonica ミズオオバコ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 5・5 5・4 4・4 ・

シャジクモ sp. H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ 2・3 ・

Ludwigia ovalis ミズユキノシタ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・

群落区分種

Trapa japonica ヒシ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5

随伴種

Murdannia keisak イボクサ H ・ 4・4 1・2 +・2 ・ ・ + ・ 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Paederia scandens ヘクソカズラ H + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Carex doniana シラスゲ H ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Cardamine flexuosa タネツケバナ H ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

出現 1 回の種 in 3: Rosa onoei ヤブイバラ (+),Paspalum orbiculare スズメノコビエ (+),Hydrocotyle sibthorpioides チドメグサ (+);in 16: Bidens frondosa アメリカセンダングサ (2・2),Pleioblastus fortunei チゴザサ (1・2),Solidago altissima セイタカアワダチソウ (+),Trichosanthes cucumeroides カラスウリ (+),Lonicera japonica スイカズラ (+),Cyperus flaccidus ヒナガヤツリ (+);in 55: Persicaria pubescens ボントクタデ (2・3),Penthorum chinense タコノアシ (1・2),Lapsana humilis ヤブタビラコ (1・1),カラスザンショウ (+);in 5: Utricularia exoleta イトタヌキモ (+).調査日:調査区番号 1 ~ 18 は 2008 年 8 月 18 日;19 ~ 23 は 2008 年10 月 11 日.

表 2.草地群落組成表.1,オギノツメ ― シマヒメタデ群落;2,カンガレイ群落;3,ヒメガマ群落;4,ヒメホタルイ群落;5,キクモ ― ヒメシロアサザ群落;6,オニバス群落;7,ミズオオバコ群落;8,ヒシ群落.

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

36

群落番号 9 10 11 12調査区番号 14 15 13 1 12標高(m) 20 20 10 10 10方位 NE NE NE 0 0傾斜 ( )゚ 20 20 30 0 0調査面積(m×m) 20×15 15×15 15×15 15×15 10×10高木層(T1)の高さ(m) 15 12 0 0 12高木層(T1)の植被率(%) 80 90 0 0 80亜高木層(T2)の高さ(m) 6 6 10 8 8亜高木層 (T2)の植被率(%) 50 40 90 90 30低木層(S)の高さ(m) 3 3 6 3 3低木層(S)の植被率(%) 40 20 60 30 40草本層(H)の高さ(m) 1 0.5 0.5 0.5 1草本層(H)の植被率(%) 10 5 5 3 40

出現種数 41 45 40 26 45和名 階層 14 15 13 1 12 調査区番号 14 15 13 1 12コナラ - スダジイ群落区分種 Camellia japonica ヤブツバキ T2 2・2 ・ ・ ・ ・

Quercus serrata コナラ T1 2・2 4・4 ・ ・ ・ S 2・2 ・ 1・1 + ・S ・ 1・1 ・ ・ ・ H + ・ ・ ・ ・H + ・ ・ + ・ Eurya japonica ヒサカキ S ・ 2・2 ・ 1・1 ・

Schoepfia jasminodora ボロボロノキ T2 2・2 2・2 ・ ・ ・ H ・ + + ・ ・

S 1・1 2・2 ・ ・ ・ Trachelospermum asiaticum f. intermedium テイカカズラ H ・ + +・2 + ・

Myrica rubra ヤマモモ T1 2・2 1・1 ・ ・ ・ Elaeocarpus japonicus コバンモチ T2 ・ ・ ・ 1・1 ・T2 ・ 1・1 ・ ・ ・ S 1・1 ・ ・ ・ ・

Prunus jamasakura ヤマザクラ T1 1・1 1・1 ・ ・ ・ その他の種Lonicera hypoglauca キダチニンドウ H + + ・ ・ ・ Viburnum japonicum ハクサンボク S 2・2 2・2 2・2 + ・Vaccinium bracteatum シャシャンポ S + + ・ ・ ・ H + ・ ・ ・ ・

スギ - ヒノキ植林区分種 Millettia japonica ナツフジ H + +・2 + + ・Cryptomeria japonica スギ T2 ・ ・ 4・4 ・ ・ Ficus erecta イヌビワ S ・ 1・1 1・1 ・ +

ミミズバイ - スダジイ群集 (潜在自然植生 ) 域識別種 H + ・ + ・ 1・1

Castanopsis cuspidata var. sieboldii スダジイ T1 3・3 1・1 ・ ・ ・ Pleioblastus simonii メダケ T2 ・ ・ ・ 1・2 ・

T2 2・2 1・1 ・ ・ ・ S ・ ・ ・ ・ 3・3S ・ 1・1 2・2 ・ ・ H ・ + + ・ ・H ・ ・ + ・ ・ Farfugium japonicum ツワブキ H ・ + + + +

Dendropanax trifidus カクレミノ T2 (1・1) 2・3 ・ ・ ・ Rhus succedanea ハゼノキ T1 1・1 ・ ・ ・ ・S ・ 2・2 2・2 ・ ・ T2 ・ 1・1 ・ ・ ・H + + ・ ・ ・ S (1・1) ・ ・ 1・1 ・

Symplocos lucida クロキ S 2・2 1・1 1・1 ・ ・ H + ・ ・ ・ ・H + ・ ・ ・ ・ Smilax china サルトリイバラ H +・2 + ・ + ・

Symplocos glauca ミミズバイ T2 1・1 ・ ・ ・ ・ Chamaecyparis obtusa ヒノキ T1 + + ・ ・ ・S ・ 1・1 1・1 ・ ・ T2 ・ ・ 2・2 ・ ・

Kadsura japonica ビナンカズラ H +・2 ・ + ・ ・ Callicarpa japonica ムラサキシキブ S ・ 1・1 1・1 ・ ・Neolitsea sericea シロダモ S (1・1) ・ ・ ・ ・ H + ・ ・ ・ ・

H ・ ・ + ・ ・ Aristolochia kaempferi オオバウマノスズクサ H + + +・2 ・ ・Cleyera japonica サカキ T2 ・ + ・ ・ ・ Tylophora japonica トキワカモメヅル S + ・ ・ ・ ・

S ・ + 1・1 ・ ・ H ・ ・ + ・ ・マダケ林区分種 Picrasma quassioides ニガキ S ・ ・ + ・ ・

Phyllostachys bambusoides マダケ T1 ・ 2・3 ・ ・ ・ H + ・ ・ ・ ・T2 ・ ・ ・ 5・4 1・1 Callicarpa mollis ヤブムラサキ S ・ 1・2 + ・ ・

アカメヤナギ群落区分種 Pteris dispar アマクサシダ H ・ + 1・1 ・ ・

Salix chaenomeloides アカメヤナギ T1 ・ ・ ・ ・ 5・4 Dryopteris varia var. hikonensis オオイタチシダ H ・ + + ・ ・

  T2 ・ ・ ・ ・ 2・2 Scutellaria indica var. parvifolia コバノタチナミ H ・ + + ・ ・

Salix subfragilis タチヤナギ T2 ・ ・ ・ ・ 2・2 Paederia scandens ヘクソカズラ T2 ・ ・ ・ + ・H ・ ・ ・ ・ + H + ・ ・ ・ ・

ヤブツバキクラスの種 Rosa onoei ヤブイバラ H ・ ・ ・ + 1・1

Ligustrum japonicum ネズミモチ T2 ・ 2・2 ・ ・ ・ Ampelopsis glandulosa var. heterophylla ノブドウ T2 ・ ・ ・ +・2 ・

S 1・1 ・ 2・2 1・1 + H ・ ・ ・ ・ +

Machilus thunbergii タブノキ T1 1・1 1・1 ・ ・ ・ Parthenocissus tricuspidata ツタ H ・ ・ ・ + +

T2 ・ ・ ・ ・ 2・2 Premna japonica ハマクサギ T2 1・1 ・ ・ ・ ・S ・ 1・1 1・1 + ・ S 2・2 ・ ・ + ・H + ・ + ・ ・ H ・ ・ ・ + ・

Quercus glauca アラカシ T1 2・2 2・2 ・ ・ ・ Pittosporum tobira トベラ T2 ・ 1・1 ・ ・ ・T2 2・2 ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ + ・S ・ 2・2 2・2 2・2 ・ Lophatherum gracile ササクサ H ・ + ・ + ・

Ilex chinensis ナナメノキ S ・ + 1・1 + ・ Euonymus alatus f. ciliato-dentatus コマユミ S + ・ ・ ・ ・

H + ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ +Gardenia jasminoides クチナシ S 1・1 1・1 1・1 ・ + Carex lenta ナキリスゲ H ・ + ・ ・ +・2

H ・ ・ ・ ・ + Lepisorus thunbergianus ノキシノブ S ・ ・ ・ ・ +H ・ + ・ ・ ・

出現 1 回の種 in 14:Gleichenia japonica ウラジロ (H 2・3),Dicranopteris linearis コシダ (H 1・2),Bambusa multiplex ホウライチク (T2 1・1),Ilex integra モチノキ(T2 1・1),Liparis nervosa コクラン(H +),タイミンタチバナ(S +),ネジキ(S +),Daphniphyllum teijsmannii ヒメユズリハ(S +),Euscaphis japonica ゴンズイ (S 1・1);in 15:Rhaphiolepis umbellata シャリンバイ (S 1・1),Rhododendron obtusum var. kaempferi ヤマツツジ (S 1・1),Hedera rhombea キヅタ(H +),Cymbidium goeringii 

表 3.森林群落組成表.9,コナラ - スダジイ群落;10,スギ植林;11,マダケ群落;12,アカメヤナギ群落.

次のページにつづく

Page 39: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

37

上の植物については痕跡しか確認できなかった.

このため潜在的に生育しておりながら路傍植物等

の二次草原種,湿性植物種等に記録されなかった

種があることは否めない.

今回の調査で 72 科 134 種の植物を確認できた

が,このうち湿性植物種は表 1 のとおりである.

裸島池および周辺の湿地には,多数のオニバ

ス,ヒメシロアサザやタコノアシ,周辺の産地部

にはマルバテイショウソウなど絶滅のおそれのあ

るといわれる植物種も分布し,特異な植物相を形

成している.

(2)植物群落調査

以下の 23 地点で植生調査を実施し(図 2),表

2,表 3 中の群落番号 1 ~ 12 のとおり 12 の植生

単位を確認した.また,この植生単位を基に植生

図を作成した(図 3).

A 草地(表 2)

a 冠水草原

①オギノツメ-シマヒメタデ群落(調査区番

号 –2, 3, 16, 19)

ヤナギタデ,シロバナサクラタデ,ボントク

タデ,ミゾソバ等のタデ科植物はしばしば湿性環

境に生育し,群落を作る種として知られる.シマ

ヒメタデは鹿児島県の分布重要種で,九州南部以

南に分布する.

本群落は池と池畔林あるいは竹林,スギ林等

の間の水際に成立する.シマヒメタデのほか,イ

図 3.裸島池現存植生図.

図 4.ヒメシロアサザ.

シュンラン(H +),Ardisia crenata マンリョウ(H +),Akebia trifoliata ミツバアケビ(H +),Ardisia japonica ヤブコウジ(H +),Wisteria brachybotrys ヤマフジ(H +);in 13:Cinnamomum japonicum ヤブニッケイ (S 1・1),Rubus buergeri フユイチゴ(H +2),Dryopteris erythrosora ベニシダ(H +2),Cocculus orbiculatus アオツヅラフジ(H +),Actinodaphne lancifolia カゴノキ(S +),Daphne kiusiana コショウノキ(S +),Thelypteris glanduligera ハシゴシダ(H +),Stegnogramma pozoi ssp. mollissima ミゾシダ(H +),Microtropis japonica モクイレイシ(S +);in 1:Carex sp. スゲの 1 種(H +),Elaeagnus pungens ナワシログミ(H +),Stauntonia hexaphylla ム ベ(SH +);in 12:Murdannia keisak イ ボ ク サ(H +),Hygrophila salicifolia オ ギ ノ ツ メ(H +2),Ranunculus silerifolius キツネノボタン (H 2・3),Carex doniana シラスゲ(H +),Pleioblastus fortunei チゴザサ (H 1・2),Solidago altissimaセイタカアワダチソウ (H 1・2),Persicaria ubescens ボントクタデ(H +2),Plantago asiatica オオバコ (H 2・3),Hemarthria compressa コバノウシノシッペイ (H 1・2),Centella asiatica ツボクサ (H 1・2),Mallotus japonicus アカメガシワ (S 1・1),Rhus javanica var. roxburgii ヌルデ (S 1・1),Phyllostachys aurea ホテイチク (S 1・1),Oplismenus undulatifolius var. japonicus チヂミザサ(H +2),Desmodium podocarpium ssp. oxyphyllum ヌスビトハギ(H +2),Alpinia japonica ハナミョウガ(H +2),Microlepia strigosaイシカグマ(H +),Patrinia villosa オトコエシ(H +),Glochidion obovatum カンコノキ(H +),Phalaris arundinacea クサヨシ(H +),Adenostemma lavenia ヌマダイコン(H +),Duchesnea chrysantha ヘビイチゴ(H +),Aster subulatus ホウキギク(H +),Rubus sieboldii ホウロクイチゴ(SH +),Stenactis annuus ヒメジョオン(H +),Potentilla freyniana ミツバツチグリ(H +),Persicaria hydropiper ヤナギタデ(H +),Phragmites australis ヨシ(H +),Perilla frutescens var. citriodora レモンエゴマ(H +).

表 3 脚注のつづき

Page 40: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

38

ボクサ,オギノツメ,キツネノボタン,ミズユキ

ノシタ等が構成種となるが,冠水への耐性,耐陰

性,その他の要因等から,内陸側からキツネノボ

タン,オギノツメ,シマヒメタデ,イボクサ,ミ

ズユキノシタ等の順で池側に優占した植分をつく

る傾向がある.シマヒメタデが優占する植分は半

陰な環境に高さ30~50 cmのシマヒメタデがびっ

しりと生える.キツネノボタンが優占する植分は

さらに半陰で,イボクサが優占する植分より乾燥

した環境に,オギノツメが優占する植分は,植生

の高さが 80 cm 程度のオギノツメが泥砂地にびっ

しりと生え,イボクサが優占する植分よりやや乾

燥し,キツネノボタンが優占する植分より湿潤で

砂泥質な環境に成立する.

本群落中には川内川河口域に多い絶滅危惧植

物のタコノアシも生育する.

b 抽水植物群落

②カンガレイ群落(調査区番号 –7)

カンガレイは安定した止水環境では淡水だけ

図 6.葉は 10 数枚,裏面は紅紫色.

図 5.オニバスは葉の裏面にも鋭い刺を持ち従前に広げた葉を裂いて開出する.

Page 41: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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でなく汽水でもカンガレイが叢生した密な群落を

作る.植生の高さは 1.2 m 前後で水深は 30 cm 程

度で深くはならない.裸島池ではヒメガマ群落の

中に小規模な群落を作っていた.

③ヒメガマ群落(調査区番号 –6)

ヒメガマは鹿児島県内の安定した止水環境で

は淡水だけでなく汽水でも群落を作る.本県内で

は,休耕田,沼地,河川では普遍的な群落の 1 つ

である.泥湿地に立地し水深が 50 cm 未満のとこ

ろに発達する.裸島池では高さ 2 m,幅 2 m,長

さ 5 m ほどの小規模な群落が礫を含む泥土上に形

成されていた.

④ヒメホタルイ群落(調査区番号 –8)

ヒメホタルイは植生の高さは 20 cm 前後と低く

やや疎らな群落を作る.全国的に分布するが,県

内では北薩が分布の中心となっている.当地では

キクモ-ヒメシロアサザ群落,オニバス群落の間

に 8 m 四方程度の群落を形成していた.

c 浮水植物群落

⑤キクモ-ヒメシロアサザ群落(調査区番号

–4, 20, 21)

ヒメシロアサザ(図 4)はミツガシワ科の浮水

植物で花弁は 4 ~ 5 裂する.本群落はヒメシロア

サザが優占する群落で,池畔の内周を形成するよ

うに,抽水植物群落とオニバス群落との間,ある

いはオギノツメ-シマヒメタデ群落の間に立地す

る.特に西側の河川水の流入口周辺にはやや広く

分布している.また,本群落中には一部かたまっ

てキクモが優占する植分が成立することもある.

⑥オニバス群落(調査区番号 –5, 9, 10, 11)

オニバス(図 5)のみかあるいはキクモ,ヒメ

シロアサザ,ヒルムシロ等数種の浮水植物が随伴

し,オニバスが優占する群落である.水深が 0.5

~ 1.5 m の泥土上に 1 年生植物のオニバスが発芽

し群落を作る.流入口付近の砂泥地では貧栄養の

ためか葉身の直径は 1 m を超えないが,中央部で

は富養な泥土が堆積し 1.8 m に達するものもあ

る.裸島池内では最も広く占める群落で,浅い方

をキクモ-ヒメシロアサザ群落,深い方をヒシ群

落に接することが多い.本群落はびっしりと葉を

広げあい,重なり合ってオニバスの葉がせめぎ合

いをしている様子がしばしば観察される.オニバ

スの個体数は数 100 株の単位であり,1 株から長

さ 1.5 ~ 2.5 m の葉柄を 10 数本伸ばし(図 6),

閉鎖花を数個付けている.

⑦ヒシ群落(調査区番号 –23)

ヒシは裸島池では浮葉植物の中でもっとも深

いところに生育する.オニバス群落より深いとこ

ろに生えるが,群落はびっしりとひしめくように

は生育せずやや疎らな群落である.

d 沈水植物群落(表 2)

⑧ミズオオバコ群落(調査区番号 –17, 18, 22)

沈水植物のミズオオバコがびっしりと優占す

る群落で,随伴する種は高等植物では確認されな

かった.群落は水深が 1 m 程度の部分に成立する.

堰堤に沿うように帯状に長い群落を形成してい

た.1 m 以深ではシャジクモの 1 種が優占する群

落も確認された.

B 森林(表 3)

e 二次林

⑨コナラ-スダジイ群落(調査区番号 –14, 15)

薪炭材として繰り返し利用してきた里山の代

表的植生で,高木層にスダジイが優占する.伐採

後萌芽したスダジイやコバンモチ,アラカシ,ヤ

マモモ,タブノキなどの常緑樹とコナラ,ハゼノ

キなどの落葉樹が高木層を被う.亜高木,低木層

にはミミズバイやハクサンボク,クロキ,モクレ

イシなどが優占し,草本層は萌芽成長に伴い林冠

が密閉されてきたためウラジロやコシダなどが枯

れてしまい被度が低くなっている.

北薩地区の丘陵部は常緑広葉樹林のミミズバ

イ-スダジイ群集が潜在自然植生と考えられる

が,人為的攪乱によってコナラ等の落葉樹が侵入

し,コナラが高木層に優占する林分がある.種組

成的にはスダジイが優占する林分と大差はない

が,林内は明るく落葉樹の被度が高い.本地域は

コナラ林が形成される南限地帯とみることができ

る.

f 竹林

⑩マダケ群落(調査区番号 –13)

マダケは乾燥・貧栄養な環境では竿の太さが 2

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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cm 程度であるが,谷間の富栄養・湿潤な環境で

は直径が 7 ~ 8 cm に達する.林内は 8 cm 程度の

太いマダケが人がかき分けて通れる程度の間隔で

生え高木層に優占する.アラカシやハゼノキ等も

点在し,低木層にはヒサカキやハクサンボク,ネ

ズミモチ等の攪乱に強い種が低被度で生育し,草

本層は発達しない.また,西側池畔の河川水が流

入する谷部付近のスギ植林内にもマダケが侵入し

て優占する群落が形成されている.

なお,池の東岸側外周は道路が沿うように敷

設されている.その外周の大半はマダケ群落であ

るが一部マダケ群落に接するようにモウソウチク

群落が成立する.コナラ-スダジイ群落の中や道

路沿いの畑放棄地にクヌギが植林されそこにモウ

ソウチクが侵入したものである.スダジイ林の構

成種や林縁植物群落の種などが混在する.

g 植林

⑪スギ植林(調査区番号 –1)

小規模な水田や段々畑は農業の生産性が悪い

ということで高度経済成長期以降放棄されたり,

スギの植林が施されたりしているところが多い.

調査地点は表面流水の流入する湿潤な斜面で段々

畑の放棄地及び棚田にスギを植林したものであ

る.

群落は高木層に胸高直径 15 cm 前後のスギが優

占するが,林中にはタブノキやサカキ等の単立個

体が多い.段畑や棚田の植林であるため萌芽個体

は少なく動物散布種が多い.草本層の中に絶滅危

惧種のマルバテイショウソウが生育していたこと

が特筆される.

h 池畔林

⑫アカメヤナギ群落(調査区番号 –12)

アカメヤナギは沼沢地の有機質の多い立地に 8

~ 10 m に達する高木林を形成する.托葉が卵形

で本葉とともに残る.裸島池ではかつての小規模

な水田跡の谷部に発達している.亜高木層はアカ

メヤナギが優占するが,低木層にはメダケ,マダ

ケが密生する.

△水深による植生配分

裸島池では小河川の流入口は舌状に砂礫が堆

積し,その周辺部には放射状に泥土が堆積するた

め,堤に向かって徐々に深くなっていく.また,

堤側の底部に導水管があるため堤部側がもっとも

深く満水時の水深は 2 m といわれる.図 3 の 3 地

点(A–C)で堤方向に向かって植生配分を調査し

た.また,図 7 に植生配分模式図を示した.

【A 地点】アカメヤナギ群落,シマヒメタデ -

オギノツメ群落(キツネノボタン優占植分,オギ

ノツメ優占植分,イボクサ優占植分の順 ),キク

モ-ヒメシロアサザ群落,オニバス群落,ヒシ群

【B 地点】オギノツメ - シマヒメタデ群落(キ

ツネノボタン優占植分,イボクサ優占植分,ミズ

ユキノシタ優占植分),ヒメガマ群落,ヒメシロ

アサザ群落,イヌホタルイ群落,ホソバミズヒキ

モ群落,オニバス群落,ヒシ群落

図 7.植生配分模式図.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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【C 地点】 オギノツメ - シマヒメタデ群落(キ

ツネノボタン優占植分,イボクサ優占植分,ミズ

ユキノシタ優占植分),キクモ-ヒメシロアサザ

群落,オニバス群落

 裸島池のオニバス群落の保護について

オニバスは 1 年生植物であり,ヨシやヒトモ

トススキ等の多年生草本が繁茂する環境には展葉

できず生育が阻害される.また,富栄養化によっ

図 8.オニバスの開放花. 図 11.種子はゼリー状の仮種皮につつまれる.

図 13.浮遊するオニバスの種子.主に閉鎖花でつくられる種子は水に浮き,水流や鳥によって分布域を広げる.

図 9.オニバスの閉鎖花.

図 10.オニバスの果実の内部.

図 12.オニバスの種子は種皮が硬く水に沈む.

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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てホテイアオイ等の外来生物が繁茂し,成長期の

初夏に表層を被われると,光が水中に到達せず成

長が阻害される.また,除草剤や中性洗剤の影響

を受け成長阻害を起こすともいわれている.

全国的にはオニバスを巡る環境は生育地であ

る湖沼や湿地の埋め立てや水質の悪化によって厳

しい状況があるなかで,裸島池のオニバスは以下

の観点から貴重である.

・オニバスは日本の自然の多様性を代表する希少

な植物であるが,裸島池では発生している個体数

が多く,葉も大型で大きさ 1.8 m を越えるものも

あり,オニバス発生地として安定している.

・裸島池には水深により多様な植物群落が成立し

ており,鹿児島県の湿地植生の多様性を示す代表

的なため池である.

・オニバスの生育阻害をするヨシ,ヒトモトスス

キ,ホテイアオイ等は確認されていない.

・裸島池の周辺は,里山を代表するコナラ-スダ

ジイ群落,耕作放棄後に植栽されたスギ林やそこ

に侵入したマダケ林で,人家や耕作地,工場が周

辺に無いため水質が保たれている(道路に面する

ところもあるが,マダケ群落の緩衝帯や側溝も

あって直接降水は流入しない).

・裸島池は江戸期から人々が管理し,使用されて

いるため池であり,湿地植生は人との関わりの中

で形成され,維持されてきている.

以上の観点から,裸島の湿地の植物群落は文

化財としての価値を備えており,永続的に保護す

べき希少な自然の 1 つといえる.

なお,保護にあたっては,

・湿地への頻繁な侵入は湿地植生へ踏圧の影響を

与えたり,外来種の侵入を促したりすることにな

るため,特に小河川の流入口付近や水際への踏み

込みを規制する方策が必要である.

・ため池は放置すると浅水化したり,漏水が起

こったりして,富栄養化およびヨシ群落やヒトモ

トススキ群落の発達する要因となる.また,ため

池としての貯水機能も失われるため,従来からの

浚渫・泥抜き・補修作業等は必要であり,実施に

当たっては植生に配慮した工法が必要である.

 裸島池のオニバスのルーツ

DNA による鑑定を経ていないため不明ではあ

るが,周辺の小比良池と関連が深いことは以下の

理由から無理ではない.

1)棘のある巨大な葉を持つ植物オニバスの発

生地として小比良池・宮山池等は知られていたが,

裸島池について従前の記録にはない.

2)小比良池は川内川をはさんで裸島池の南東

6 km の位置にあり,両池は水鳥等の頻繁な移動

にも適当な距離である.

オニバスは閉鎖花を持つ植物として知られ自

家受粉によって 1 花茎当たり数 10 個の種子が 9

~ 10 月ごろつくられる.種子は子房の中で果肉

と赤・黒・淡緑色のまだら模様をしたゼリー状の

仮種皮に被われおり(食べると甘酸っぱい),仮

種皮のある間は水に浮き,流れによっても分布を

拡大する.オニバスの種子は直径が 8 mm 前後あ

り水に沈む.カモ等の植食性の水鳥によって小比

良池で被食され,移動し,脱糞したときに水中に

没し,適切な環境条件によって発芽定着したこと

も考えられる.

 謝辞

本調査に当たり,横浜国立大学大学院環境情

報研究院大野啓一教授には組成表の考察に関する

貴重な助言を賜った.得られた資料の標本化作業

および整理は主として篠崎チサ氏に担当して頂い

た.また,本会会員の大野照好氏,丸野勝敏氏に

は県内のオニバスの分布に関する情報を教示して

頂いた.記して深甚の謝意を表します.

 引用文献

初島住彦(1986)改訂 鹿児島県植物目録 290 pp.鹿児島植物同好会.鹿児島

堀田満編(2002)鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 植物編 657 pp.鹿児島県

宮脇 昭ほか(1977)薩摩半島北部植生調査報告書 142 pp.横浜国大環境科学研究センタ-.横浜

角野康郎(2004) 日本水草図鑑 178 pp.文一総合出版 東京

川内市立図書館編(1981)川内の生物 232 pp.川内市立図書館

Page 45: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

43

 はじめに

鹿児島県海域の生物多様性や地理的特異性に

ついては,最近興味関心が向けられる機会が多く

なった.例えば鹿児島大学総合研究博物館におい

ても,2007 年に特別展「鹿児島湾の自然史」が

実施されている.このような特別展などへの来場

者は,元々自然環境に関心が強い市民が多く,無

関心層への啓蒙活動が重要であることが指摘され

ている(櫻井・本村,2008).そこで本研究では

鹿児島純心女子短期大学の学生を市民の代表とし

て,鹿児島の海に対する意識を問うアンケート調

査を実施した.その際に身近な海洋生物の一つと

して魚類を取り上げ,野生生物と食材の二つの側

面から質問した.

 調査方法

平成 20 年度の鹿児島純心女子短期大学在学生

のうち,1 年生(41 名)と 2 年生(67 名)の計

108 名を対象とした.印刷物に質問事項を記載し

て回答を依頼することで,アンケート調査を実施

した.

 結果

調査対象の学生には鹿児島県本土沿岸の海域,

鹿児島湾,琉球列島周辺海域などの区別が困難で

あることが事前調査で分かったため,一部を除い

てこれらを区別せずに質問を作成した.

1.鹿児島の海について

(1)鹿児島の海について

①鹿児島の海について感心を持っていますか.

関心を持っていると回答した学生は 46.3% で

あった.興味ない,どちらでもないの回答者を併

せると半数以上であった(図 1).

②関心を持っていると答えた方に質問します.

何に関心がありますか(複数回答可).

海水浴,釣り,サーフィン,ダイビング,魚,

イルカ,サツマハオリムシ,サンゴ,水質汚染,

海のゴミ,その他をアンケート用紙に提示して回

答を求めた.回答はイルカが最も多く,続いて海

水浴,釣り,ダイビングなど海洋レジャーが中心

であったが,サンゴの件数も多かった.海のゴミ

や水質汚染など環境問題への回答も見られた(図

2).

(2)鹿児島湾について.どんなイメージです

か(複数回答可).

明るい,きれい,青い,暗い,汚い,ゴミが

多い,その他を提示して回答を求めた.これらの

選択肢は明るい,きれい,青いといったポジティ

ブイメージと,暗い,汚い,ゴミが多いというネ

ガティブイメージの語句に区分された.ポジティ

ブイメージ語句への回答は合わせても約 3 割に過

ぎず,ネガティブイメージ語句への回答が多くを

鹿児島の海と魚に関する意識調査

櫻井 真 1・本村浩之 2・青木五百子 1

1 〒 890–8525 鹿児島市唐湊 4–22–1 鹿児島純心女子短期大学2 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

   Sakurai, M., H. Motomura and I. Aoki. 2009. Results of

resident attitude surveys on the sea and fishes of Kagoshima. Nature of Kagoshima 35: 43–46.

MS and IA: Kagoshima Immaculate Heart College, 4–22–1 Toso, Kagoshima 890–8525, Japan (e-mail: MS, [email protected]; IA, [email protected]); HM: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

Page 46: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

44

おいしい魚 39.5%

地味な色の魚  39.5%

熱帯魚10.2%

冷たい海の魚  4.1%

深海魚 2.0%

怖い魚 1.4% その他

3.4%

興味あり 47.2%

興味なし 50.9%

どちらでもない  1.9%

ある97.2%

ない2.8% 青い

21.6%

汚い29.0%

ゴミが多い 17.0%

暗い14.8%

明るい 7.4%

きれい 5.7%

その他 4.5%

イルカ18.5%

海水浴11.2%

サンゴ10.2%

釣り8.8%

ダイビング 8.8%

サーフィン 7.3%

魚5.9%

サツマハオリムシ1.5%

海のゴミ 14.6%

水質汚染 11.2%

その他 2.0%

持っている 46.3%

どちらでもない  44.4%

興味ない 9.3%

図 1.鹿児島の海に関心を持っていますか. 図 2.何に関心がありますか.

図 5.鹿児島の魚に興味がありますか.

図 3.鹿児島湾はどんなイメージですか.

図 6.どんな魚がすんでいるイメージがありますか.

図 4.かごしま水族館に行ったことがありますか.

Page 47: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

45

占めた(図 3).

(3)かごしま水族館に行ったことがあります

か.

行ったことがあると答えた回答者が大半で

あった(図 4).鹿児島純心女子短期大学の在学

生は鹿児島県出身者が中心であるが,学校行事や

家族のレジャーなどで訪れていると推測された.

2.鹿児島の魚について

(1)鹿児島の魚に興味がありますか.

興味があると回答した者は約半数で,ほぼ半

数が興味なしと回答した(図 5).

(2)どんな魚がすんでいるイメージがありま

すか(複数回答可).

熱帯魚,地味な色の魚,冷たい海の魚,深海魚,

サバやカツオのようなおいしさかな,サメなどこ

わい魚,その他を提示して回答を求めた.事前の

調査により,学生はサンゴ礁などの熱帯や亜熱帯

海域に生息する魚類を熱帯魚として表現すること

がわかった.そこで,これら海域に生息する海産

魚を熱帯魚として表現した.

魚のイメージは地味な色の魚,サバやカツオ

などおいしい魚の二つの回答で約 80% を占め,

熱帯魚が約 10% であった(図 6).

(3)鹿児島の魚といえば何を思い浮かべます

か.

複数回答可の自由記述式とした.食材と特定

せずに鹿児島を代表する魚の記述を求めた.

キビナゴ,カツオ,マグロ,カンパチ,ブリ

などの食用魚類が中心であった.食用以外の魚類

では,かごしま水族館で飼育されているジンベイ

ザメが挙げられた.この他に魚類以外のイルカ,

クラゲも回答された(表 1).

(4)食材となる鹿児島の魚といえば何を思い

浮かべますか.

複数回答可の自由記述式とした.食材と特定

して鹿児島を代表する魚の記述を求めた.

前の質問とほとんど同じ回答内容でキビナゴ,

カツオなどを挙げる学生が多数だった.この他に

ブリ,カンパチ,アジ,サバ,ウナギ,タイ,ト

ビウオなど鹿児島産の種類が挙げられた.しかし,

サケやサンマなど店頭で見かける魚種をそのまま

挙げたと推測される回答も見られた(表 2).

(5)好きな魚は何ですか(食べるとき).

特に制限せずに自由記述式とした.

サケが最多でサバ,マグロ,ブリ,アジ,カ

ンパチと続いた.鹿児島を代表する魚種として回

答が圧倒的に多かったカツオは 6 名,キビナゴは

2 名に過ぎなかった(表 3).

 考察

 鹿児島の海に関心を持っている学生は約半数で

あった.この割合の評価は比較資料がないために

できないが,諸活動を計画する上で考慮する必要

があろう.具体的な関心事項ではイルカやサンゴ

の回答数が多かった.特にイルカはカワイイ生物

として学生の人気は高い.鹿児島湾の魅力を訴求

する生物として重要であるが,イルカ以外の情報

を客観的に伝えることも大切であろう.鹿児島湾

に対するイメージは汚い,ゴミが多い,暗いなど

ネガティブなものが多数を占めた.具体的関心事

順位 人数 順位 人数1. キビナゴ 46 7. イルカ 42. カツオ 44 8. ウナギ,サバ 3

3. マグロ 9 9. キス,サンマ,タイ, ジンベイザメ 2

4. カンパチ,ブリ 7 10. カ ジ キ マ グ ロ, イ ワ シ, ク ラ ゲ,チリメン,熱帯魚

15. トビウオ 66. アジ 5

魚種 人数 魚種 人数1. キビナゴ 46 8. ウナギ,サンマ 52. カツオ 43 9. タイ 43. マグロ 11 10. トビウオ 34. ブリ 10 11. サケ,カジキマグロ,

イワシ,ヒラメ 25. カンパチ 96. アジ 8 12. ウルメ,チリメン,

キス,アラカブ,アンコウ

17. サバ 7

表 2.食材となる鹿児島の魚といえば何を思い浮かべますか.

表 1.鹿児島の魚といえば何を思い浮かべますか.

魚種 人数 魚種 人数1. サケ 34 8. カツオ,タイ 62. サバ 27 9. エビ 53. マグロ 24 10. ヒラメ,ホッケ 44. ブリ 17 11. ウナギ 3

5. アジ 14 12. キビナゴ,シシャモ 2

6. カンパチ 12 13. アナゴ,ニジマス,イワシ,ハラガワ,タ ラ, ク ロ ダ イ,キ ン メ, カ レ イ,キス,イカ

17. サンマ 10

表 3.好きな魚は何ですか(食べるとき).

Page 48: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

46

項でも海のゴミや水質汚染の回答例は多かった.

これは環境保護に関する意識の啓蒙が進んで関心

が高まった為か,あるいは鹿児島湾のネガティブ

なイメージが先行しているのか分からなかった.

その中で,多くが訪れるかごしま水族館の働きは

重要であると考えられた.

 鹿児島の海域は熱帯,亜熱帯,温帯,深海性の

多彩な様相を示すが,鹿児島の魚類に対して半数

近い学生が興味を持っていた.しかし,すんでい

る魚のイメージ,鹿児島の代表的な魚,食材とし

て代表的な鹿児島の魚の質問ではおいしい魚,す

なわちキビナゴ,カツオ,マグロなど食用魚の回

答が中心であった.多様性豊かな海洋生物として

よりも,食材としての認識が中心であった.また,

鹿児島の魚としてキビナゴ,カツオを挙げる例が

多かったにも関わらず,食用として好きな魚はサ

ケやサバなどが中心であった.キビナゴやカツオ

が鹿児島の代表的な食材として,必ずしも定着し

ていない可能性が示唆された.

 本研究を通じ環境教育が進んでいると推測され

た学生であっても,鹿児島の海など自然環境への

認識は十分ではないと考えられ,いくつかの課題

が示唆された.無関心者に対して分かりやすく興

味をかき立てる活動,さらに野生生物,無機的環

境,人間活動との関わりなどについて科学的理解

を広める活動も必要だと考えられた.例えば,魚

類や甲殻類,その他海岸の身近な生物などを材料

に,海洋生物および食材としての特徴を伝えるよ

うな地道な活動が重要であろう.

 謝辞

 本研究を実施するにあたり,アンケート調査に

ご協力いただいた鹿児島純心女子短期大学の学生

の皆さんに深謝します.

 引用文献

櫻井 真・本村浩之.2008,鹿児島湾の自然の魅力を伝えるためには.Nature of Kagoshima, 34: 17-19.

Page 49: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

47

自動撮影装置を使用した野生生物調査法―アナログ式とデジタル式の効果的活用―

宅間友則 1・鮫島正道 2

1 〒 895–0012 鹿児島県薩摩川内市平佐町 2416 新和技術コンサルタント(株)2 〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

 はじめに

野生生物の分布・生息状況の調査は,本来捕

獲や目視による手法が主流である.しかし調査対

象によっては十分な成果が得られない場合があ

り,特に哺乳類は警戒心が強く,動作も俊敏であ

ることから直接捕獲や目視は困難である.従って

哺乳類調査の手法としては,主にフィールドサイ

ン(糞,足跡,食痕等)の確認による「フィール

ドサイン法」や様々な罠を仕掛ける「トラップ法」

が実施されてきた.

哺乳類調査手法の一つである「無人撮影法」は,

各種センサーによる自動撮影装置を使用した方法

で,小型~大型の哺乳類の生態が直接確認できる

という大きなメリットがあり,河川水辺の国勢調

査等でも推奨されている(河川水辺の国勢調査基

本マニュアル[河川版],国土交通省).機材が比

較的高額(高いものは数十万以上)であることか

ら,以前は一部の大企業や大学等の研究機関が実

施しているのみであったが,近年安価なカメラの

普及による低価格化や構造の単純化及び機材の小

型化によって装置のセッティングが容易になり,

多くの調査で用いられている.

自動撮影装置は使用するカメラによってアナ

ログ式とデジタル式の 2 形式に分けられる.アナ

ログ式は一眼レフカメラや固定焦点式レンズカメ

ラをセンサーと連携させたもので,保存媒体は

フィルムである.デジタル式はデジタルカメラ電

源の ON-OFF を利用したもので,保存は内蔵メ

モリーに画像データとして格納される.双方はカ

メラ本体の機能やセンサーとの連携の仕方が異な

るため,成果に若干の違いが現れる.調査精度の

向上を図るためには,それらの違いを考慮した上

での使用が望ましい.

生物多様性条約(1992)に端を発する生物多

様性保全の世界的な流れは,我が国においても鳥

獣保護法の改正(2002),生物多様性基本法の制

定(2008)等が実施され,致死性の高いトラップ

(はじき罠,パンチュートラップ等)からライブ

トラップ(シャーマントラップ,生け捕り罠など)

への移行や野生生物捕獲許可申請の徹底が成され

ている.このような流れから,野生生物を傷つけ

ずに生態情報が得られる無人撮影法は,今後頻繁

に用いられる手法と考えられる.

本報告では「アナログ式」及び「デジタル式」

の撮影例を元に,双方の成果の特徴や傾向を分析

した.

 調査地及び調査手法

本報告の主な撮影場所は薩摩川内市,薩摩郡

さつま町,曽於市財部町,大島郡和泊町である.

撮影場所の環境は常緑広葉樹林やスギ植林,竹林,

林道,けもの道等であり,1 晩~ 2 晩設置した後

回収した.撮影方法は,2 形式ともセンサー感知

範囲内に誘引物として餌を置き,採餌(停滞)も

しくは通過する生物を撮影した.使用したカメラ

は表 1 の通りである.餌はピーナッツ,サラミ,

スルメ,キャットフード等を用いた.期間は

2002 年~ 2008 年である.

今回使用したセンサーは,アナログ式が投光

   Takuma, T. and M. Sameshima. 2009. Wild life research

technique with automatic photography. Nature of Kagoshima 35: 47–53.

TT: Shinwa Gijutsu Consultant, 2416 Hirasa, Satsuma-sendai, Kagoshima 895–0012, Japan (e-mail: [email protected]); MS: Kagoshima Wildlife Research Associ-ation, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan.

Page 50: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

48

器と受光器によるもの(図 1 両者の間を生物が通

過・遮蔽すると感知する),デジタル式が 1 点照

射式(図 2 センサー前に生物が来ると感知する)

である.このようなセンサーは防犯システムや調

査等の業務用をはじめ,家庭用の街灯や省エネ照

明等,広く一般的に活用されている.

 撮影例(結果)

アナログ式による撮影例を 3 例,デジタル式

による撮影例を 5 例示す.

アナログ式 No. 1(ハシボソガラス)図 3–4

2002 年 5 月,薩摩川内市の住宅地に隣接する

草地(休耕田)の “ けもの道 ” に日中設置した.

餌は魚肉ソーセージ,ピーナッツを用いた.設置

後,間もなくハシボソガラスが飛来し,数分で

36 枚撮りフィルムを撮り切って終了した.餌は

全て食べられていた.

カメラ名称 感知 → 作動 再撮影まで 撮影枚数 備考アナログ式 EOS KISS Ⅲ 約 1 秒 - 12 ~ 36 一眼レフカメラ※ 1デジタル式 Fieldnote DCs700 3 秒 7 秒 200 以上 Fieldnote シリーズ※ 2デジタル式 Fieldnote DV790 1.8 秒 20 秒 200 以上 Fieldnote シリーズ※ 2デジタル式 Fieldnote DS1000 1.3 秒 7 秒 200 以上 Fieldnote シリーズ※ 2

※ 1 キャノン.※ 2 有限会社麻里府商事・有限会社アーパス社.

表 1.使用機材一覧(カメラ).

図 1.アナログ式自動撮影装置.最上図の左から,一眼レフカメラ,接続コード,センサー(投光器・受光器).中図は設置状況.

図 2.デジタル式自動撮影装置.最上図はデジタルカメラとセンサー.中図は設置状況.

Page 51: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

49

アナログ式 No. 2(イタチ属 sp.)図 5–6

2008 年 2 月,薩摩郡さつま町の道路に面した

スギ植林に一晩設置した.周囲には “ けもの道 ”

が見られた.餌はサラミ,ピーナッツ,スルメ,

キャットフードを用いた.センサー間を通過する

イタチ属 sp. を撮影した.餌は殆ど残っていた.

アナログ式 No. 3(シデムシ類)図 7

2008 年 7 月,曽於市財部町のスギ植林内の林

道(簡易舗装)脇に一晩設置した.餌はサラミ,ピー

ナッツ,スルメ,キャットフードを用いた.体長

約4センチのシデムシ類が数匹集まり,2 枚撮影

された.餌は 1/3 程度食べられていた.

デジタル式 No. 1(コイタチ,ノネコ,クマネズミ)

図 8–11

2008 年 3 月 3 日 16 時 30 分 ~ 5 日 8 時 00 分,

大島郡和泊町の溜め池脇のリュウキュウマツ林内

に設置した.餌はサラミ,ピーナッツ,キャット

フードを用いた.林床はマツの幼木やイチゴ類が

繁茂し,藪化している.① 4 日 15 時 52 分コイタ

チ,② 4 日 18 時 41 分ノネコ,③ 4 日 20 時 38 分

クマネズミ,④ 5 日 5 時 30 分コイタチを撮影した.

餌は全て食べられていた.

デジタル式 No. 2(コシジロヤマドリ)図 12–13

2008 年 5 月 26 日 16 時 40 分~ 27 日 7 時 00 分,

曽於市財部町のスギ植林脇の林道(未舗装)に設

図 4.ハシボソガラス採餌状況 2.

図 3.ハシボソガラス採餌状況 1.

図 5.イタチ属 sp.

図 6.イタチ属 sp.センター間を通過. 図 7.シデムシ類(2 匹).

Page 52: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

50

置した.餌はサラミ,ピーナッツ,キャットフー

ドを用いた.26 日 18 時 27 分,写真の左側から

来て,引き返したコシジロヤマドリを撮影した.

餌は全て残っていた.

デジタル式 No. 3(ノウサギ)図 14–15

2008 年 7 月 27 日 16 時 00 分~ 28 日 7 時 43 分,

曽於市財部町の伐採されたスギ植林脇の林道(未

舗装)に設置した.餌はサラミ,ピーナッツ,キャッ

トフードを用いた.27 日 22 時 21 分写真左側か

図 8.コイタチ(葉から顔が出ている). 図 9.ノネコの掘り返し行動.

図 10.クマネズミ. 図 11.コイタチ(尾).

図 12.コシジロヤマドリ. 図 13.コシジロヤマドリ(逃走).

Page 53: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

51

ら通過するノウサギ, 28 日 4 時 21 分写真右側か

ら通過するノウサギを撮影した.さらに 28 日 5

時 17 分同所でアナグマを撮影した.餌は全て残っ

ていた.

デジタル式 No. 4(コイタチ)図 16–19

2008 年 9 月 24 日 15 時 45 分~ 26 日 6 時 50 分,

大島郡和泊町の溜め池の管理用道路(舗装)に設

置した.餌はサラミ,ピーナッツ,キャットフー

ドを用いた.写真下側と左上を往来するコイタチ

を撮影した.時刻は 25 日 7 時 12 分(図 16),25

日 7 時 12 分(図 17),25 日 11 時 20 分(図 18),

図 14.ノウサギ通過 1. 図 15.ノウサギ通過 2.

図 18.コイタチ.

図 16.コイタチ(逃走).

図 19.コイタチ.

図 17.コイタチ(図 16 と同時刻).

Page 54: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

52

25 日 13 時 54 分(図 19)であった.餌は 1/2 程

度残っていた.

デジタル式 No. 5(被写体不明)図 20–21

2008 年 9 月 25 日 16 時 48 分~ 26 日 7 時 00 分,

大島郡和泊町のリュウキュウマツ林内の草地に設

置した.林床はヨシ類やイチゴ類等植物が繁茂し

ている.25 日 19 時 11 分及び 19 時 21 分に作動

したが,生物は撮影されず,10 分の間に餌のピー

ナッツが何者かに持ち去られた(矢印).同所で

は前日クマネズミが撮影されている.餌は全て食

べられていた.

 考察

アナログ式自動撮影装置はセンサー感知とほ

ぼ同時にカメラが作動するため,確実に撮影可能

であり,哺乳類をはじめ,両生類,爬虫類,鳥類,

昆虫類など対象範囲は広い(図 3 ~図 7).図 5・

図 6 のイタチ属 sp. は 2 枚のみ撮影されており,

この後誘引餌を食べずに逃走したと考えられる.

このようにセンサーの光やカメラの作動音から素

早く逃走した生物も撮影可能である.ただし撮影

後~再撮影までの休止時間が無いため,誘因餌を

蒔いて生物が滞在した場合,36 枚撮りフィルム

でも短時間で撮り切ってしまうという欠点が残

る.図 3・図 4 のハシボソガラスは逃走せず,フィ

ルムのほぼ全てに撮影されていた.従って生物が

頻繁に往来している “ けもの道 ” であれば,誘引

餌を使用しないのも一つの方法である.

アナログ式では以下のような留意点が挙げら

れる.

A1 生物が確実に利用していると思われる “ け

もの道 ” に設置する.

A2 誘引餌は最小限にして,生物を長く停滞さ

せない.

A3 こまめに確認(回収)する(フィルム切れ

対応).

デジタル式の撮影例は,被写体の画像が切れ

ている写真が見られる(図 13,図 16,図 19).

これはセンサーが感知してから撮影するまで,1

~ 3 秒間かかることが原因である.さらに撮影後

~再撮影まで,7 ~ 20 秒間休止(保存等)する

ため,素早く通過した生物は身体の一部が切れた

り,全く写らない場合もある.図 16・図 17 は同

時刻にコイタチが撮影されているが,素早い動き

のために断片的な写真となっている.アナログ式

であれば,より細かな挙動が撮影可能と考えられ

る.従ってデジタル式では誘引餌による生物の停

滞が必要となり,これは製品マニュアルにも推奨

されている.当然誘引餌の吟味も必要となる.

また藪に囲まれた場所や撮影範囲に何らかの

遮蔽物がある場合,素早く藪に隠れてしまい,生

物が確認しづらい写真や機材が作動しても何も

写っていない写真となる可能性がある(図 8,図

11,図 20,図 21).図 21 は誘引餌だけ持ち去ら

れた典型的な例である.同所では前日にクマネズ

ミが撮影されており,センサーに感知されたクマ

ネズミが,カメラが作動する前に餌を持ち去り,

藪に逃げ込んだと考えられる.このような状況を

回避するには,広角レンズの使用や見通しのきく

図 20.餌(ピーナッツ)有り. 図 21.餌無し(図 20 から 10 分後).

Page 55: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

53

場所への設置等,撮影可能範囲をより広く設定す

ることが有効である(図 14,図 15).例えば,入

り組んだ “ けもの道 ” の中よりも,少し離れた場

所から “ けもの道 ” の出口に向けての設置が効果

的である.仮に生物が小さく撮影されたとしても,

画像データをパソコンに取り込み,拡大して確認・

同定することが可能である(図 14,図 15).その

他,設置場所の例として,樹林(林床が藪化して

いない)や林道,構造物の軒下等が考えられる.

デジタル式では以下のような留意点が挙げら

れる.

D1 必ず誘引餌を使用する.

D2 誘引餌は対象となる生物の食性に合わせて

適宜変更する.

D3 撮影可能範囲をなるべく広く設定する.広

角レンズの使用,見通しのきく場所への設置,遠

くから撮影するなど.

今回アナログ式及びデジタル式の自動撮影装

置を比較することにより,それぞれの特性が明ら

かとなり,留意点(A1 ~ A3,D1 ~ D3)が確認

できた.今後は更なる調査精度の向上を図るため,

気象条件,撮影可能範囲,設置環境,対象生物ご

との誘引餌等,より詳細なデータを収集していき

たい.

 謝辞

本報告をとりまとめるにあたり,協力をいた

だいた,角 成生,今吉 努,江口雄一,橋口政

信,徳永修治,下沖洋人の諸氏に深くお礼申し上

げます.

 引用文献

環境省.2006.鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律環境省.2008.生物多様性基本法外務省.2008.生物の多様性に関する条約:Convention on

Biological Diversity(CBD)国土交通省.2006.平成 18 年度河川水辺の国勢調査基本調

査マニュアル[河川版].財団法人リバーフロント整備センター(HP より)阿部 永.2005.日本の哺乳類[改訂版].東海大学出版会子安和弘.1994.フィールドガイド足跡図鑑.日経サイエ

ンス社財団法人自然環境研究センター.1996.野生動物調査法ハ

ンドブック-分布・生態・生息環境- 哺乳類・鳥類編

曽根晃一.2006.自動撮影装置の野生動物センサスへの利用-大隅半島緑の回廊と高隈山系での試験を例にして-.自然愛護 32.

高野伸二.2001.フィールドガイド 日本の野鳥.財団法人 日本野鳥の会

船越公威.2008.鹿児島県産のタヌキの生態と保全.Nature of Kagoshima, 34: 5–10.

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過去 60 年間における鹿児島湾奥の海岸線の変化

山本智子・小玉敬興

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

 はじめに

浅海域は海洋における生物生産を支える場所

であるとともに,干潟や藻場といった様々な生息

場所から成り立ち,それぞれが重要な機能をはた

している.なかでも河口域に発達する干潟には,

内湾の富栄養化を抑制する水質浄化の場としての

機能が期待される(菊池,1993; 佐々木,1994)

にもかかわらず,高度経済成長期以降,沿岸の開

発によってその多くが失われている.1970 年代

に入って国土の改変がもたらす自然環境の劣化が

危惧されるようになり,沿岸域についても基礎調

査が行われるようになった.また近年では,人工

衛星を利用した広範囲のモニタリングも行われて

いる.しかし,詳細な調査が行われはじめた

1970 年代後半には,日本沿岸の干潟面積はすで

に 1945 年の 65% 程度まで減少しており(環境庁

自然保護局,1994),重大な変化はそれまでに終

了しているとも考えられる.

このような海岸線の改変には地域差があり,

1945 年から 1977 年における干潟の消失率は,東

京湾で 89.2%,伊勢・三河湾では 54.48%,瀬戸

内海で 35.50%(菊池,2000)であった.この違

いは,地方での海岸線の改変が首都圏に比べて時

期的に遅れて行われたことを示していると思われ

る.そこで,地方を対象にすれば 1970 年代以降

の資料から海岸線の劇的な変化の過程を追跡でき

る可能性があると考え,鹿児島湾奥を対象に,

1946 年以降約 60 年間の海岸線の変化を明らかに

することを試みた.

 材料と方法

地図や聞き取りからでは海岸線の状態につい

て定量的に把握することは難しく,過去に遡った

調査を行う唯一の手段は航空写真である.そこで,

1946 年に占領軍が撮影した航空写真,及び鹿児

島県水産技術開発センター(旧水産試験場)から

提供された 1977,1992,2003 年の航空写真(藻

場調査のために大潮干潮時に撮影)を用いた.写

真 を ス キ ャ ナ で 取 り 込 ん だ 後,GIS ソ フ ト

ArcGIS 9.1(ESRI 社)を用いて白地図に重ね合わ

せ,以下の解析を行った.ただし 2003 年撮影の

ものについてはデジタルファイルで提供された.

合成した写真から目視によって自然海岸と人

工海岸を分け,各々の海岸線延長を計測した.結

果は,鹿児島湾奥の海岸を行政区分も考慮して分

けた 6 地区別にまとめた(図 1).

1977 年以降の写真は大潮干潮時という条件を

合わせて撮影されているため,各々の時代におい

て最も広く干潟が干出している状態をとらえてい

ると考えられる.目視によって干潟の輪郭を描き,

その面積を算出した.

 結果と考察

対象地域では,1946 年当時すでに全海岸延長

の半分しか自然海岸が残されておらず,その後

60 年かけて徐々に減り続けた結果,2003 年には

自然海岸率は約 2 割程度となった(図 2).この

変化を地区別にみたところ,加治木と住吉では

1946 年からすでに全ての海岸線が人工化されて

おり,松原と加治木港についても約 4 割しか自然

海岸は残されていなかった.後者はその後 2003

年までにほぼ全ての自然海岸が失われたが,特に

減少が著しかったのは,1977 年までの 31 年間で

   Yamamoto, T. and T. Kodama. 2009. Transition of the cost of

Kagoshima Bay from the 1940’s. Nature of Kagoshima 35: 55–57.

Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: TY, [email protected])

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Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

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あった.一方,重富と日木山では,1946 年には

ほぼ全海岸が自然海岸であり,その後前者では

1977 年までに大幅に自然海岸率が減少し,2003

年には約 3 割しか自然海岸が残されていなかっ

た.後者における海岸線の人工化は比較的緩やか

で,1994 年までほぼ 9 割が自然海岸であったが,

その後 2003 年までの約 10 年で自然海岸率は 6 割

まで減少した.

このように,鹿児島湾奥でも地区によって海

岸人工化のパターンは異なっていたが,その要因

は,海岸を人工化する目的が時代とともに変化し

たことにあると考えられる.加治木や住吉,松原

のように,1946 年まであるいは 1977 年までに完

全に人工海岸化された地区では.干拓によって海

岸 沿 い に 水 田 が 作 ら れ て い る( 図 1). 一 方,

1994 年以降に人工化が進行した日木山地区は,

海底地形が急峻(図 3)であることもあって干拓

や埋め立てがなされず,海岸沿いの道路拡充に

伴って海岸整備が行われたものと考えられる.

干潟の輪郭を航空写真から検知しようとした

が,1946 年の写真は大潮干潮時に撮影されてお

らず,水面の反射等もあって,干潟の輪郭をとら

えることができなかった.そこで,大潮最干潮時

に撮影された1977年から2003年の航空写真から,

干潟の面積を算出した.1977 年時の調査対象地

域の干潟総面積は約 193.8ha,1992 年時には約

137.0ha,2003 年時には約 56.8ha であった.1992

年と 2003 年の対象地域全体の干潟面積を 1977 年

時のものと比較した結果,1992 年現在でおよそ

29.3%,2003 年現在で 70% 以上消失していた.

1970 年代後半にすでに干潟の多くを失っていた

東京湾や伊勢湾とは対照的に,鹿児島湾で著しく

干潟面積が減少したのは 1992 年以降であった.

湾奥全体の干潟面積は 1977 年から 2003 年ま

で減少し続けたが,その変化パターンは干潟に

よって異なっていた(図 4).重富や別府川河口

の干潟は、1977 年から 2003 年の間に面積が大幅

に減少し,前者は約 3 分の 1、後者は約 6 分の 1

図 1.調査対象地域と地区区分.

図 2.自然海岸率の地区別変化.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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になった.また,網掛川や清水川の河口、隼人港

では,もともと干潟が小さい上に 1977 年以降減

少が続いたため,2003 年にはほとんど消滅して

しまった.天降川河口では 1977 年から 1994 年の

17 年間で一旦干潟面積が増加し,その後 2003 年

までに大幅に減少した.小浜海岸の干潟面積だけ

がこの期間大きな変化を示さなかった.

鹿児島湾奥では埋め立てによる干潟の消失は

少なく,各干潟の面積や形状は,主に河川からの

堆積物の流入と波による消失のバランスで決まっ

ていると考えられる.河川が流入しない小浜海岸

で干潟面積の変化が少なく,その他の多くの河口

干潟で面積の減少が著しいことから,この 30 年

間あまりでみられた変化の原因は主に河川側にあ

るのではないかと予測される.しかし,干潟面積

の変化率と河川の規模との間に相関は無く,河川

からの堆積物の流入量を減少させる主な要因であ

る川砂採取も,鹿児島ではあまり行われていない.

海岸からの突起物(住吉干拓地)が湾奥の潮の流

れに影響して干潟堆積速度を変化させた可能性も

考えられるため,今後は河川側と海側の両方から,

干潟の分布に影響を与える要因を検討していく必

要がある.

 謝辞

本研究を行うにあたり,鹿児島県水産技術開

発センター撮影の航空写真は不可欠であった.快

く使用を認めて下さったことに深く感謝する.本

研 究 は, 科 学 研 究 費 補 助 金( 課 題 番 号:

17510197)を受けて行われた.

 引用文献

環境庁自然保護局(編)1994. 第 4 回自然環境保全基礎調査 海域生物環境調査報告書(干潟,藻場,サンゴ礁調査),環境庁自然保護局・財団法人海中公園センター , 東京,291 pp.

菊池泰二 1993. 干潟生態系の特性とその環境保全の意義 . 日本生態学会誌 43: 223–235.

菊池泰二 2000. 干潟は,いま:総論 . 海洋と生物 129:300–307.

佐々木克之 1994. 干潟の水質保全と物質循環 . 用水と排水 , 36: 21–27.

図 3.1977 年の干潟の配置.加工した航空写真をもとに目視で干潟の輪郭を描いた.

図 4.干潟面積の変化.各干潟の位置は図 3 に示した.

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ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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 はじめに

鹿児島県の湖沼,河川敷に群生するヤナギ類

はジャナギ Salix eriocarpa Fr. et Sav. とされてきた

が(初島,1978),初島(2004)は近縁種のオオ

タチヤナギ S. pierotii Miq. を追加している.しか

し標本は発表していない.オオタチヤナギとジャ

ヤナギの 2 種の取り扱いについて,北村・村田

(1979)は同種とし,木村(1989)は別種とし,ジャ

ヤナギは雄株がみつからないこと,側脈は平行し

て乱れないこと,枝端の若葉はほとんど無毛に近

いこと,背腹両腺体が側方でしばしば合着するこ

となどで区別できるとしている.最近の取り扱い

は別種が多い(長谷川,1988;初島,2004;南谷

ほか,2004).福岡県 ・ 宮崎県の記録はオオタチ

ヤナギを普通,ジャヤナギは稀としている(益村,

2000;南谷ほか,2004).筆者は最近鹿児島県下

のいくつかの場所でオオタチヤナギを確認したの

で報告する.

 調査地および材料と方法

南さつま市万世佐方の生育地は,谷間に入り

江状に田が広がりイネ作が行われていた.この付

近で休耕田が見られるようになり,休耕田は年々

広がってきた.この一角で,2001 年 10 月 29 日

ホシクサ類の観察を行い,ホシクサ,クロホシク

サ,ヒロハホシクサ,ミズネコノオを確認した.

同場所を 2008 年 3 月 22 日に訪れてみるとヤナギ

類の群生地にかわり,雄株,雌株ともに開花して

いた.2008 年 8 月 13 日に近くの谷間を調べてみ

るとヤナギ類の群生地があちらこちらにみられ

た. こ の 調 査 地 で 5 枚 の 標 本 を 採 集 し た [K.

Maruno,南さつま市万世佐方,Mar. 22, 2008, s.n.

(×3 枚 ); K. Maruno,南さつま市万世佐方,Aug.

23, 2008, s.n. (×2 枚 )].

祁答院町藺牟田池の北西部には,ヤナギ類の

群生地がある.しかし,初島(1964),原口ほか

(1971),水野(1981),大野(1984)らは,同所

からヤナギ類を報告していない.

2008 年 4 月 30 日に訪れてみると雌株はみられ

たが,雄株は見出すことはできなかった.種子か

ら発芽した小苗を探したがみつからなかったが,

落下した小枝から発根した小苗が稀にみられた.

本調査で 3 枚の標本を採集した [K. Maruno,祁答

院 町 藺 牟 田 池,Apr. 30, 2008, s.n. (×2 枚 ); K.

Maruno,祁答院町藺牟田池,July 12, 2008, s.n.].

雌花序は,実体顕微鏡を使って分解し,小花

を取り出し,苞,雌しべ,,腺体の付く位置,形

を調べた.葉は葉形,葉脈,葉質を調べた.葉形,

葉質は標本を目視し比較した.葉脈は側脈が中肋

から出る内角を測定した.また樹皮と葉の観察も

行った.

 観察結果

南さつま市万世佐方

雌花序(図 1)は長さ 1 ~ 1.5 cm,35 個ほどの

小花があり,小花は苞腋に生じ,雌しべ・腺体が

みられた.苞(図 2)は楕円形,白毛で覆われ雌

しべより短かった.雌しべ(図 3)は長さ 3 mm

ほど,子房は白毛で覆われ,柱頭は二又に分かれ

ていた.腺体は長さ 0.5 mm ほど,楕円状円頭形

で向軸側に 1 個みられた.雄花序(図 4)の小花

は 2 個の雄しべ(図 5)があり,葯の色は紅色で

あった.

オオタチヤナギ(ヤナギ科シロヤナギ節)の鹿児島県における記録

丸野勝敏

〒 891–0113 鹿児島市東谷山 1–51–8

   Maruno, K. 2009. Records of Salix pierotii from Kagoshima

Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 35: 59–62. 1–51–8 Higashi-taniyama, Kagoshima 891–0113, Japan

(e-mail: [email protected]).

Page 62: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

60

図 6.標本;雌株(佐方).K. Maruno, s.n.

図 1.雌花序(佐方).

図 4.雄花序(佐方).

図 3.雌しべ(佐方).

図 5.雄しべ(佐方).

図 2.腺体と苞(佐方).A:腹腺体.B:子房痕.C:苞.

Page 63: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

61

葉(図 6)は狭楕円形,裏が白く,最も広い部

分が中部にある型,最も広い部分が基部にある型

がみられたが,最も広い部分が中部にある型が多

かった.徒長した枝に付く葉は大きく,最も広い

部分が基部にある型が多くみられた.側脈(図 7)

は 45 度前後で出る葉もみられたが,50 ~ 60 度

が多かった.

祁答院町藺牟田池

雌花序を分解し小花(図 8)を観察した.雌し

べのつくりは,南さつま市万世佐方産と変わりは

なかった.葉形,側脈の様子も南さつま市万世佐

方産と変わりはなかった.しかし 2008 年 7 月 12

日に採集した標本の葉が褐色を帯び,葉質が厚く,

葉形が狭い披針形の個体がみられた.また,側脈

の出る角度が大きく,葉脈の形も乱れていた.

 考察

オオタチヤナギの特徴は,葉形は狭楕円形,中

部が幅広く(吉山,2000),側脈の出る角度は 50

~ 60 度(長谷川,1988),花は雄株,雌株とも知

られ,子房に柄がなく,腹腺体が 1 個稀に 2 個(木

村,1989)としている.

南さつま市万世佐方のヤナギ類の葉形は狭楕

円形,葉脈は 50 ~ 60 度,腺体は腹腺体が 1 個と

形質が一致している.

ヤナギ類の種子の寿命は 1 週間くらいで,水

面に落ちるとすぐ発芽する(吉山,2000).南さ

図 7.葉脈(佐方).

図 9.腺体と苞(藺牟田池).A:腹腺体.B:子房痕.C:苞.

図 8.小花(藺牟田池).雌しべと苞(外側).

図 11.ジャヤナギ.図 10 の拡大図.

図 10.ジャヤナギ.鹿児島大学総合研究博物館所蔵(牧野標本 No. 47631).

Page 64: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

62

つま市万世佐方は休耕田が湿地化して,その間に

オオタチヤナギの種子が入り込み,この 10 年く

らいに群落をつくったことが考えられる.これら

のことか南さつま市万世佐方産のヤナギ類はオオ

タチヤナギと判断した.

藺牟田池産のヤナギ類は腺体が 1 個みられ,側

脈が 50 ~ 60 度で出て大きく曲がり葉縁に達する

こと等からは南さつま市万世佐方産と同種と判断

した.雄株がみられなかったのは観察時期が 4 月

30 日と遅く,雄花は落下したと推定した.

鹿児島大学総合研究博物館標本室に藺牟田池

産の花のない標本が 2 枚あり,ナンゴクジャヤナ

ギ S. hondoensis Koidzumi と同定してある.1 枚の

標本(図 12)には Sept. 1, 1960 S. Hatusima & S.

Sako No. 25232,ジャヤナギ?とあり,初島は再

検討しナンゴクジャヤナギとした.一方,1986

押川 s.n. は,異質な葉の標本が同一の台紙に 2 枚

貼ってある.この 2 枚の標本(S. Hatusima & S.

Sako No. 25232 と押川 s.n.)の葉形,葉質,葉脈(図

13)について検討した結果,オオタチヤナギと判

断した.

初島(1986)はナンゴクジャヤナギを新称と

したが,初島(2004)では載せておらず,まだ正

式に発表されていない.

 謝辞

本調査にあたり,馬田英隆氏(鹿児島大学農

学部)には写真撮影の便宜とコメントをいただき

ました.また,落合雪野氏(鹿児島大学総合研究

博物館)には標本閲覧の便宜を図っていただきま

した.ここに記してお礼申し上げます.

 引用文献

原口虎雄・田実 勇・前床重治.1971.八之巻,薩摩國,pp. 195–196.鹿児島県地方史学会(編),薩隅日地理纂考.鹿児島県教育会,鹿児島.

長谷川義人.1988.ヤナギ科,pp. 511–531.神奈川県植物誌調査委員会(編),神奈川県植物誌.神奈川県立博物館,横浜.

初島住彦.1964.鹿児島の植物,pp. 35–88.鹿児島県理科教育協会(編),鹿児島の自然.鹿児島県理科教育協会,鹿児島.

初島住彦.1978.ヤナギ科,p. 35.鹿児島植物同好会(編),鹿児島県植物目録.鹿児島植物同好会,鹿児島.

初島住彦.1986.ヤナギ科,pp. 42 - 43.初島住彦(編),改訂鹿児島県植物目録.鹿児島植物同好会,鹿児島.

初島住彦.2004.九州植物目録.鹿児島大学総合研究博物館研究報告,(11): 1–343.

木村有香.1989.ヤナギ科,pp. 31–51.佐竹義輔・原 寛・亘理俊次・富成忠夫(編),日本の野生植物,木本 I.平凡社,東京.

北村四郎・村田 源.1979.ヤナギ科,pp. 303 - 340.北村四郎 ・ 村田 源(編),原色日本植物図鑑,木本編II.保育社,大阪.

益村 聖.2000.九州の花図鑑.海鳥社,福岡.624 pp.

南谷忠志.・赤木 康・井上伸之・黒木秀一・斉藤政美.2004.霧島山の維管束植物,pp. 99–169.宮崎県総合博物館(編),霧島山の動植物,宮崎県総合博物館総合調査報告書.宮崎県総合博物館,宮崎.

水野隆夫.1981.県立自然公園,p. 387.鹿児島大百科事典編纂室(編).鹿児島大百科事典.南日本新聞社,鹿児島.

大野照好.1984.藺牟田池の泥炭形成植物群落,p. 73.沼田 眞(編),日本の天然記念物 3,植物 1.講談社,東京.

吉山 寛.2000.ヤナギ科,pp. 39 - 121.石井英美・太田和夫・勝山輝男・城川四郎・崎尾 均・高橋秀男・中川重年(編).樹に咲く花,離弁花 1.山と渓谷社,東京.

図 12.標本(藺牟田池).鹿児島大学総合研究博物館所蔵(S. Hatusima & S. Sako, No. 25232).

図 13.葉脈.図 12 の拡大図.

Page 65: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

63

 はじめに

アカエイ科は世界で 7 属約 70 種,日本近海か

らは 3 属 15 種が有効種として知られており,そ

の内,日本に分布するアカエイ属はヤジリエイ

Dasyatis acutirostra Nishida and Nakaya, 1988,アカ

エイ D. akajei (Müller and Henle, 1841),オナガエ

イ D. bennetti (Müller and Henle, 1841),イズヒメ

エイ D. izuensis Nishida and Nakaya, 1988,ヤッコ

エイ D. kuhlii (Müller and Henle, 1841),シロエイ D.

laevigatus Chu, 1960, ホ シ エ イ D. matsubarai

Miyoshi, 1939, ツ カ エ イ D. sephen (Forsskål,

1775),ウシエイ D. ushiei Jordan and Hubbs, 1925,

カラスエイ D. violacea (Bonaparte, 1832),および

ズグエイ D. zugei (Müller and Henle, 1841) の 11 種

が知られている(Aonuma and Yoshino, 2002;西田,

2006).イズヒメエイは,伊豆半島沿岸から採集

された標本に基づき新種として記載され,現在で

は伊豆半島,高知県以布利,房総半島,有明海か

ら報告されている(Aonuma and Yoshino, 2002;

吉満・山口,2004).

2007 年 7 月 25 日に鹿児島湾南方に位置する知

林ヶ島沖の定置網において,イズヒメエイと同定

される標本が 1 個体採集された.この標本は鹿児

島県における初記録となるため,ここに報告する.

また,本研究の調査中に D. izuensis のパラタイプ

1 個体の所在が不明であることが判明したため,

合わせて報告する.

 材料と方法

 計数・計測方法は主に Compagno and Roberts

(1984) に従い,尾部長 (tail length) は Ishiyama and

Okada (1955) に従った.計測はデジタルノギスと

ディバイダーを用いて 0.1 mm 単位まで行った.

生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影されたカ

ラー写真に基づく.また,比較のために静岡県沼

津産の標本 1 個体を用いた.本報告に用いた標本

は, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館(KAUM:

Kagoshima University Museum)と北海道大学総合

博物館(HUMZ: Hokkaido University Museum)に

保管されている.また,本研究で参照した水中写

真は,神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写

真資料データベース(KPM-NR)に登録されてい

る.

 結果と考察

イズヒメエイ(Figs. 1–2; Table 1)

Dasyatis izuensis Nishida and Nakaya, 1988

標 本 KAUM–I. 5388, 雌,1 個 体, 体 盤 幅

369.1 mm, 鹿 児 島 県 指 宿 市 知 林 ヶ 島 沖

(31˚16’38”N, 130˚40’18”E),水深 25 m,2007 年 7

月 25 日,定置網,折田水産.

記載 計数値と体各部の体盤幅に対する割合

は表 1 に示す.体盤は菱形で,円滑.最大体盤幅

は体盤前方の約 1/3 の位置にあり,体盤長の 1.1

鹿児島湾から得られたイズヒメエイ Dasyatis izuensis(エイ目:アカエイ科)

荻原豪太 1・吉田朋弘 2・本村浩之 3

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)2 〒 890–0056 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

3 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

   Ogihara, G., T. Yoshida and H. Motomura. 2009. A first record

of Dasyatis izuensis (Rajiformes: Dasyatidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 35: 63–66.

GO: Graduate School of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: [email protected]); TY: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: [email protected]); HM: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

Page 66: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

64

倍.吻はわずかに突出し,前縁がやや丸い.吻長

が体盤幅の 0.2 倍.口はやや小さく,体盤長の 0.1

倍.口内底に 5 本の乳頭状突起を有する.腹鰭は

胸鰭後端を大きく超える.尾部は細短く,体盤長

の 1.1 倍,断面は円形に近い.尾部背正中線上に

小棘がある.尾部側面に尾部後端まで続く隆起が

ある.尾部背正中線上と尾部腹正中線上に皮褶が

ある.鋸歯縁をそなえた 2 本の尾棘は,第 1 棘(前

方)の方が長い.結腸螺旋弁数は 18.

体色 生鮮時の体色:体盤背面は黒褐色の後

端縁辺を除いて一様に金茶色.体盤腹面は白色で

後方は褐色で縁取られ,その内側は灰色.腹鰭腹

面は後端を除いて白色で,後端は褐色でその内側

は灰色.尾部背面は体盤背面より茶色の濃い金茶

色.尾部腹面の前方は白色で,前方の白色域の後

方は金茶色で,尾部先端にいくにつれて濃い金茶

色になる.尾部腹正中線上にある皮褶は白色.

固定後の体色:体盤背面は黒みの強い茶色の

後端を除いて一様に亜麻色.体盤腹面は暗褐色の

後端を除いて一様に黄色みがかった白色.その他

は生鮮時の体色と同様.

Fig. 1. Dorsal view of Dasyatis izuensis. KAUM–I. 5388, mature female, 369.1 mm disc width, off Chiringajima Island, Kagoshima Bay, Japan.

Fig. 2. Ventral view of Dasyatis izuensis. KAUM–I. 5388.

Page 67: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

65

分布 本種は,房総半島(Aonuma and Yoshino,

2002),伊豆半島(Nishida and Nakaya, 1988;青沼・

吉野,2000;Aonuma and Yoshino, 2002),以布利(青

沼・吉野,2000;西田,2001;Aonuma and Yoshi-

no, 2002),有明海(吉満・山口,2004),および

鹿児島湾(本研究)に生息することが確認されて

いる.これまで国外からの報告はないが,日本に

おける分布地は黒潮の影響を強く受ける場所であ

ることから,黒潮流路にあたる台湾や東シナ海に

も分布している可能性が高い.

備考 本標本は,尾部腹正中線上の皮褶が尾

部末端に達しない,尾部背正中線上と尾部腹正中

線上に皮褶がある,尾部背正中線上に小棘がある,

尾部腹正中線上にある皮褶が白色でその長さが体

盤幅の 29.8%,吻端がわずかに突出し軽く尖る,

吻長が体盤幅の 17.4%,および結腸螺旋弁数が

18 であることなどの形質から Dasyatis izuensis と

同定された (Nishida and Nakaya, 1988, 1990).

本種および本種と考えられる個体の写真(主

に水中写真)は,日本各地からネット上で報告さ

れており,特に伊豆半島東岸からの観察例が多い

(KPM-NR 6007, KPM-NR 6064–6066, KPM-NR

10222, KPM-NR 15176, KPM-NR 50090).しかし,

標 本 に 基 づ い た 報 告 は 伊 豆 沿 岸 か ら 8 個 体

(Nishida and Nakaya, 1988),高知県以布利から 3

個体(西田,2001),有明海から 2 個体(吉満・

山口,2004)ときわめて少なく,本報告が鹿児島

県からのイズヒメエイの標本に基づく初めての記

録となる.

Dasyatis izuensis は Nishida and Nakaya (1988) に

よって伊豆半島産の 8 標本に基づいて記載され

た.7 個体のパラタイプのうち,HUMZ 105476

は原記載では体盤幅 367.5 mm と記載されている

が,実際に本研究で調査したところ,体盤幅が

465.0 mm であった.原記載と実際の標本の体盤

幅が 10 cm も異なるため測定誤差の可能性はきわ

This study This study Nishida and Nakaya (1988)KAUM–I. 5388 HUMZ 105476? HUMZ 105476

Kagoshima Shizuoka? ShizuokaNon–type Paratype? Paratype

female female femaleCounts Oral papillae 18 19 19 Intestinal valve turns 5 5 5

Disc width (mm) 369.1 465.0 367.5Measurements

Total length 194.7 163.3 159.7Disc length 91.8 85.7 87.4Eyeball length 4.7 6.1 4.8Cornea 4.5 3.8 3.1Interorbital width 12.5 11.5 10.9Spiracle 6.1 7.3 6.3Interspiracular width 18.5 18.3 18.3Preorbital snout length 17.4 15.4 14.1Preoral snout length 18.3 15.1 16.0Nasal curtain length 5.7 5.3 5.4Internarial width 9.6 9.5 9.0Mouth width 9.5 10.7 8.91st gill slit 3.1 4.3 3.15th gill slit 2.4 2.7 2.41st interbranchial width 21.6 23.4 21.65th interbranchial width 13.5 14.1 13.6Prebranchial length 29.3 25.2 25.1Head length 43.5 40.4 37.7Precloacal length 79.5 77.6 78.0Snout to greatest width 42.5 37.7 33.2Cloaca to pelvic fin tip 12.7 12.1 19.0Tail width 7.7 6.3 6.7Tail depth 5.0 4.5 4.6Tail length 105.4 79.4 —Prespine length 121.3 113.1 111.5Dorsal tail keel length 10.8 11.4 13.9Ventral tail fold length 29.8 29.2 26.0

Table 1. Counts and measurements of Dasyatis izuensis, expressed as percentages of disc width.

Page 68: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

66

め て 低 い.Nishida and Nakaya (1988) は HUMZ

105476 の標本写真 (fig. 4) を掲載しており,同写

真中のスケールバーから写真個体の体盤幅を推定

すると約 350 mm であった.これは Nishida and

Nakaya (1988) の 記 載(HUMZ 105476, 体 盤 幅

367.5 mm)とほぼ一致する(Table 1).さらに,

原記載中の写真個体は,体盤の左側後端に寄生虫

か皮膚疾患による小瘤が認められるが,本研究で

調査した HUMZ 105476 とされる標本にはこの小

瘤が存在しない.以上のことより,原記載でパラ

タイプとして記載された HUMZ 105476 の標本は,

現在パラタイプとして登録されている HUMZ

105476 の標本とは別の個体であることが分かっ

た.

ホロタイプおよび残りの 7 パラタイプを調査

したところ,全て原記載に示された体盤幅と一致

し,HUMZ 105476 の写真個体と一致する標本は

含まれていなかった(今村氏,私信).原記載で

使用された HUMZ 105476 の個体の所在は不明で

あり,紛失した可能性が高い.したがって,現在

Dasyatis izuensis のパラタイプとして北海道大学

に登録されている HUMZ 105476 の個体はイズヒ

メエイではあるが,パラタイプではない.

 比較標本

 イズヒメエイ:HUMZ 105476?,パラタイプ ?,

1 個体,体盤幅 465.0 mm,静岡県沼津市内浦湾 ?,

1985 年 9 月 12 日 ?

 謝辞

 本研究を行うに当たり,比較標本の借用許可と

タイプに関する調査をして下さった北海道大学水

産科学研究院の今村 央博士と鹿児島湾の標本採

集にご協力下さった折田正二氏をはじめとする折

田水産の皆様に深謝する.標本の作製や登録を手

伝って下さった鹿児島大学総合研究博物館ボラン

ティアの伊東正英氏,高山真由美女史,原口百合

子女史に厚くお礼申し上げる.本原稿に対し適切

な助言を下さった鹿児島大学大学院水産学研究科

魚類分類学研究室の松沼瑞樹氏,目黒昌利氏なら

びに鹿児島大学水産学部の山下真弘氏に感謝す

る.

 引用文献

青沼佳方・吉野哲夫.2000.アカエイ科,pp. 177–182, 1449.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定 第 2 版.東海大学出版会,東京.

Aonuma, Y. and T. Yoshino. 2002. Dasyatidae, pp. 177–182, 1448–1449. In T. Nakabo (ed.), Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai Univ. Press, Tokyo.

Compagno, L. J. V. and T. R. Roberts. 1984. Marine and freshwater stingrays (Dasyatidae) of West Africa, with description of a new species. Proc. Calif. Acad. Sci., 43 (18): 283–300.

Ishiyama, R. and K. Okada. 1955. A new sting ray, Dasyatis atratus (Dasyatidae, Pisces), from the subtropical Pacific. J. Shimonoseki Coll. Fish., 4(2): 211–216.

西田清徳.2001.アカエイ科,pp. 141–142.中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編),以布利 黒潮の魚 ジンベイからマンボウまで.海遊館,大阪.

西田清徳.2006.アカエイ科,pp. 58–61.岡村 収・尼岡邦夫(編),日本の海水魚,第 3 版.山と渓谷社,東京.

Nishida, K. and K. Nakaya. 1988. Dasyatis izuensis, a new stingray from the Izu Peninsula, Japan. Japan. J. Ichthyol., 35 (3): 227–235.

Nishida, K. and K. Nakaya. 1990. Taxonomy of the genus Dasyatis (Elasmobranchii, Dasyatidae) from the North Pacific. NOAA Tech. Rep. NMFS, (90): 327–346.

吉満啓介・山口敦子.2004.有明海で採集されたイズヒメエイ.板鰓類研究会報,(40): 41–43.

Page 69: Nature of Kagoshima Vol. 35

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

67

鹿児島大学郡元キャンパスのアリ

福元しげ子

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

   Fukumoto, S. 2009. Ants at the Korimoto Campus of

Kagoshima University. Nature of Kagoshima 35: 67. The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto,

Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

鹿児島大学郡元キャンパスは市街地に位置す

るが,植物園(保存林)や実験実習地(農場)な

どをはじめ植込み,生垣,草地,建物,舗装道路

などさまざまな環境をもつ.私は,郡元キャンパ

スに出現するアリ類のさまざまな環境における種

多様性を比較し,多様な環境のモザイク的な存在

がキャンパス全体の種多様性にどのように貢献し

ているかを研究テーマの一つとしている.これま

でになされた鹿児島県本土におけるアリに関する

研究の結果と比較し,鹿児島大学郡元キャンパス

のアリ相の特徴を明らかにするとともに,市街地

における隔離された森林(植物園)がどの程度森

林性のアリ相を保持しているかを評価したい.

2008 年,構内の 7 つの環境タイプに出現する

アリの予備的なサンプリング(ベート法,単位時

間法,および任意採集)を行った.環境タイプご

とに 3 地点を選び,それぞれにトランセクトを設

置した.ベートには粉チーズを用い,1 トランセ

クト当り 15 ベート,合計 900 ベートを設置した.

単位時間法においては1トランセクト当り 10 分

間× 5,合計 16 時間 40 分をかけて見つけ取りに

よってアリを採集した.ベート法によるサンプル

解析途中の結果に基づいて,これまでに判明した

ことを簡単に紹介する.

今回の調査では,郡元キャンパス全体では 16

属 25 種のアリが確認され,植物園だけでは 11 属

13 種であった.山根ほか(1994)が行った調査(シ

ロップベートを使用)と比較すると,「城山自然林」

(16 種)と郡元キャンパス(25 種)では共通する

種が 14 種で,前者からみれば 56% が,後者から

みれば 88% が共通種であった.「甲突川緑地」(13

種 ) および「市街地」(11 種)と比較すると,郡

元キャンパスとの共通種はそれぞれ 9 種,11 種

であり,市街地で得られたアリの全種が郡元キャ

ンパスでも見つかった.

このことから,郡元キャンパスは全体として

は市街地のアリ相をもっているが,一方で森林性

のアリ相の一部も保持しているといえる.今後は

より精密なサンプリングを実施し,様々なタイプ

の環境がアリの種多様性に貢献しているかどうか

の結果を出せるよう努力したい.市街地にありな

がらまとまった面積を有する植物園,隣接する玉

利池や実験実習地などの周辺環境は,教育・研究,

環境教育や自然体験学習の場であるばかりでな

く,市民に憩いの場・散策の場を提供している.

次代へ引き継ぐべき貴重な資源である.ただ,植

物園ではアシジロヒラフシアリという外来性のア

リが高い頻度で見られたことに注目したい.この

アリは,人間活動に伴って分布域を拡げる放浪種

の一種である.この種の出現によって植物園のア

リ相が変化する可能性があり,今後のモニタリン

グが必要である.

 引用文献

山根正氣・津田 清・原田 豊.1994.かごしま自然ガイド 鹿児島県本土のアリ.西日本新聞社,福岡.180 pp.

ウロコアリ Strumigenys lewisi. 体長 2.2 mm(2008 年 5 月 4 日,鹿児島大学植物園,撮影協力:内村 公大).

Page 70: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 ARTICLES

68

Page 71: Nature of Kagoshima Vol. 35

69

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

本会の活動概要について,報告します.

2008 年は,人間の世界では大きな動きがあり

ましたが,昆虫の世界では台風の直撃もなく,概

ね平穏な年でした.

蝶では,2007 年に引き続き,クロマダラソテ

ツシジミが発生しました.南方の昆虫が飛来し,

発生すること自体は,それ程,珍しいことではあ

りませんが,これまで,確認されたことがなかっ

た蝶が 2 年連続確認されたことは,大きな環境の

変化を暗示しているのかもしれません.ちなみに,

南九州以外でも,クロマダラソテツシジミの大発

生が,関西・中国地方で見られました.温室での

越冬など人義的な要素が疑われています.人と自

然の関わりについて,考えさせられました.

2008 年 7 月,栗野岳で多くの会員が参加して,

ウスイロオナガシジミの調査を行いました.九州

では,唯一の栗野岳のみに産するとされているウ

スイロオナガシジミですが,全くその姿が見られ

ませんでした.このままでは,絶滅する(した)

可能性も否定できない状況です.

昭和 40 年代の中頃は,栗野岳牧場(当時)の

カシワ林で,ウスイロオナガシジミが多数見られ

ました.その後,採集者による乱獲の恐れが生じ

たことから,町の条例により,昆虫類の採集が禁

止されました.しかしながら,個体数は回復する

ことはなく,年々減少しているように思われます.

カシワの管理や植栽など抜本的な保護対策をすべ

き時期にきたように思われます.

本会の大会(総会)ですが,2007 年 11 月 22

日(土)に会員約 60 人の参加のもと,武・田上

公民館で,盛大に開催され,1 年間の成果が披露

されました.「藺牟田池の昆虫たち」,「鹿児島県

本土におけるコガタノゲンゴロウの分布」,「南九

州におけるクロマダラソテツシジミとクロボシセ

セリの分布拡大について」など興味深い話の連続

でした.

また,「ダイコクコガネ飼育糞闘記」では,自

家製のエサ(?)を用いて,家族に隠れて飼育し

ている涙ぐましい話が披露され,会場の大爆笑を

Nature of Kagoshima 35: 69–70

鹿児島昆虫同好会

2007 年 11 月 22 日に開催された鹿児島昆虫同好会大会.

Page 72: Nature of Kagoshima Vol. 35

70

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 INFORMATION

さそいました.夜は楽しく懇親会が開かれました.

以上,2008 年の活動概要でした.

2009 年も,以下のような活動を計画していま

す.

まず,調査会ですが,霧島の昆虫を調べるた

めの栗野岳調査会,アサギマダラのマーキング会

などを計画しています.アサギマダラのマーキン

グは,本会の会員が始めましたが,現在では,全

国さらには,台湾や中国でも調査が始っており,

東アジアにおけるこの蝶のダイナミックな動きが

明らかになりつつあります.会員外の方も,マー

キング会にふるってご参加ください.

また,会員専用の ML があり,会員間でホッ

トな情報交換を行っています.

次に,例会ですが,原則,2 月から 10 月まで,

第1土曜日,鹿児島市の伊敷公民館で開催します.

例外もありますので,詳細は担当までご連絡くだ

さい.会員外の参加も大歓迎ですので,虫に興味

のある方もしくはその関係者はふるってご参加く

ださい.また,例年どおり,11 月には,大会を

開催する予定です.

鹿 児 島 の 昆 虫 の 現 在 を 記 録 す る 会 誌

「SATSUMA」を年 2 回発行し,会員の最新情報

や会務連絡,書評などを掲載している連絡誌「ア

ルボ」は年 4 回発行することとしています.

鹿児島昆虫同好会のプロフィール 

昆虫との触れ合いを大切にしようとする者の

集まりである.「身近な昆虫の記録を残す」と言

うモットーで 1952 年より活動している.会員数

約 250 名(うち県外会員 70 名弱を含む).小学生

からその家族,一般さらには大学の先生までと多

彩である.

入会方法:申込書をお送りしますので,事務

局までご連絡下さい.

事務局:〒 890−0024 鹿児島市明和 4−5−32 

福 田 晴 夫 方 E-mail: [email protected];

tel・fax: 099−281−1771

(熊谷信晴 〒 891−0103 鹿児島市皇徳寺台

5−32−2 E-mail: [email protected]

鹿児島大学は,8 学部を持つ総合大学であるこ

とから,文系・理系を問わず百数十万点の標本・

資料を有しております.地理的条件から,南九州

から沖縄,台湾,さらに東南アジア地域へ至る島

嶼域の研究に関する標本・資料は要であり,学内

外の研究者に活用していただけるよう,今後も引

き続き標本・資料を整理保存し,登録・情報公開

を進めてゆきます.

博物館の企画は,学内の教員・学生だけでなく,

一般市民を対象とした生涯学習・社会貢献の場と

なっております.これからも内容のある企画を行

い,マスコミ・ホームページ等を通じて,情報を

一般市民に提供する所存です.また,鹿児島大学

の地域貢献の窓口,地域文化の核として自治体や

NPO との連携を深めるよう努力をします.

2008 年度の活動報告

■第 13 回研究交流会「小笠原諸島 — 海洋島の生

態系と植物 —」5 月 10 日 小笠原諸島で植物多

様性の把握や固有種の自生地保全にかかわってき

た研究者が,その経験や発見を解説していただき

ました.

■第 8 回公開講座」「恐竜やほ乳類の化石をさわっ

てみよう」7 月 26 日 ほ乳類・は虫類の化石や

レプリカを観察して,骨格や菌のしくみとやくわ

りを考えました.また,恐竜の実物大のレプリカ

を並べて実際の大きさを復元してみようという試

みがなされました.

Nature of Kagoshima 35: 70–71

鹿児島大学総合研究博物館

図 1.第 8 回自然体験ツアー.有村海岸にて足湯を楽しんでいるところ.

Page 73: Nature of Kagoshima Vol. 35

71

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

■第 8 回自然体験ツアー「桜島の魅力 — 自然・

文化・歴史遺産に触れる」8 月 2 日 桜島の自然,

文化,歴史遺産を現地で観察し,その魅力につい

て学びました.防空壕 — 湯之平展望台 — 大正火

口,土石流堆積物 — 桜島支所 — 足湯 — 町の駅「古

里」— 黒神埋没鳥居 — 鍋山火口近くー石畳 —

貝塚.

■第 8 回特別展「鹿児島の活火山」10 月 1 日~

11 月 21 日 「鹿児島に多く存在する活火山にス

ポットをあてて,火山を学び,火山に活かされて

いることを知り,火山を活かす」ことをテーマに,

火山のもたらす恵みについて展示と解説を行いま

した.

・火山のしくみ(マグマ発生のメカニズム,噴火

のプロセスと規模)

・火山のめぐみ(温泉,鉱物資源,果物・野菜,

火山灰の活用)

・火山の不思議(大正 3 年の噴火,シラスとは,

火山とプレートテクトニクス)

・古文書等に示された火山噴火(平家物語,坂本

竜馬の手紙),火山扇状地のめぐみ(火山がもた

らす金などの地下資源,温泉,粘土,石材,さら

に鹿児島市の軌道敷きのシラスブロック,新幹線

車両の塗料,ミネラル分豊富な地下水など).

( 福 元 し げ 子  〒 890–0065  鹿 児 島 市 郡 元

1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館 Tel: 099–

285–7257; fax: 099–285–7267)

 2008 年(平成 20 年)は本会名誉会長初島住彦

先生(鹿児島大学名誉教授)が 1 月 22 日お亡く

なりになった.本会では会員に追悼文を募集し追

悼集として会誌 No. 17 を発行した.2008 年の活

動は先生のご意志を継いで鹿児島県植物目録の完

成をめざして活動を行った.

 主な活動は次の通りである.1 月総会:1)平

成 20 年の計画審議,2)研究発表(川邊川,吉永).

2 月:県民の森でイノデモドキ,ナガサキシダ,

フユノハナワラビ,ナリヒラモチ,シロバイ,ク

ロバイ,ハナガガシ,シリブカガシ,シイモチ,

カンザブロウノキ,タニワタリノキ,トラノオス

ズカケ,ミヤマトベラ,キジョラン,3 月:八重

山でベニシダ,トウゴクシダ,サイゴクベニシダ,

オオハナワラビ,アオモジ,アカガシ,4 月;定

ノ段でアミシダ,ナガサキシダモドキ,シビカナ

ワラビ,チャンチンモドキ,ハイノキ,イズセン

リョウ,フデリンドウ,ミヤマミズ,サンショウ

ソウ,5 月:高千穂河原でシシガシラ,キリシマ

鹿児島植物同好会の活動(2008 年)

Nature of Kagoshima 35: 71–72

図 2.第 8 回特別展「鹿児島の活火山」ポスター.

図 1.ウラギク.園山池(桜島).2008 年 10 月 16 日,細山田三郎撮影.

Page 74: Nature of Kagoshima Vol. 35

72

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 INFORMATION

グミ,ネジキ,ヤマボウシ,シロモジ,ミズナラ,

ミヤマキリシマ,フクオウソウ,ツリバナ,マイ

ズルソウ,クサボケ,ツクシコウモリ,ツクシヒ

トツバテンナンショウ,キリシマヒゴタイ,5 月:

10 ~ 11 日第 39 回九州合同植物観察会熊本大会

(南阿蘇村)に会員 14 名参加.6 月:甑岳でイワ

ヒメワラビ,シシガシラ,マンネンスギ,ヒカゲ

ノカズラ,オオカメノキ,ヨコグラノキ,オオヤ

マレンゲ(帰路),ベニドウダン,シロドウダン,

ナナカマド,コバノクロヅル,タンナサワフタギ,

リョウブ,アオハダ,ネジキ,シロモジ,ノリウ

ツギ,オトコヨウゾメ,ミヤマガマズミ,ナツツ

バキ,ネコノチチ,キリシマミズキ,7 月:新川

渓谷でハチジョウカグマ,ナンゴクホングウシダ,

ヤブソテツ,ツクシイワヘゴ,イワヘゴ,アラゲ

ミゾシダ,ヒカゲワラビ,ハカタシダ,ハクウン

ボク,タニワタリノキ,タラヨウ,イワタバコ,

8 月:加治木海岸線でヒメワラビ,カニクサ,ヤ

ブマメ,ヒメクズ,ツルマメ,イシミカワ,イノ

コズチ,タチスズメノヒエ,ナンゴクワセオバナ,

9 月:辻岳でベニシダ,フユノハナワラビ,トウ

ゲシバ,イノデ,コバノクロヅル,ミズキ,ハイ

イズセンリョウ,バクチノキ,10 月:高千穂河

原でツクシコウモリ,キリシマテンナンショウ,

マツブサ,ツクシイヌツゲ,ウメモドキ,ネジキ,

キリシマグミ,ヤマボウシ,シロモジ,ミズナラ,

ミヤマキリシマ,ノリウツギ,コバノクロヅル,

タンナサワフタギ,11 月:磯間嶽でクジャクフ

モトシダ,イシカグマ,フモトシダ,ヤマイタチ

シダ,コバノカナワラビ,ホソバカナワラビ,ベ

ニシダ,オオカグマ,コウシュウウヤク,イイギ

リ,チョウセンノギク,ソナレノギク,ツメレン

ゲ,サツママンネングサ,コゴメイワガサ,12 月:

熊ヶ岳でナチシダ,ナチクジャク,オオカグマ,

モクレイシ,アオモジ,ヤマビワ,ヤマモガシ,

オンツツジ,カゴノキ,ツチトリモチ,キッコウ

ハグマ,コクラン等が主な観察植物であった』

当会に入会ご希望の方は下記の事務局まで問

い合わせ下さい.

(細山田三郎 〒 890–0052 鹿児島市上之園町

10–2 Tel: 099–254–1605)

鹿児島県地学会は県内では唯一の地学関係者

の集まりとして,昭和 28 年に創立しました.現在,

170 名ほどの会員を擁し,年2回の講演会及び例

会,そして春と秋の地質見学会を開催しています.

また,会誌を発行するなど地学の普及活動につと

めています.

< 2007 年度>

■[講演会・総会]6 月 9 日(土)鹿児島大学教

育学部

1「九州・沖縄の大型脊椎動物化石-恐竜から

ゾウまで-」―仲谷英夫(鹿児島大学理学部)

2「桜島噴火に思う」―出水澤孝洋(鹿児島市

立黒神中学校)

■[春の地質見学会]6 月 10 日(日)「桜島(昭

和火口と各時代の溶岩流)」

桜島友の会の津田さんの案内で,活動を始め

た昭和火口の噴火口を黒神側から観察しました.

また有村地区の海岸で,大正・昭和・安永溶岩そ

れぞれの産状を比較しました.

■[秋の例会]11 月 17 日(土)鹿児島大学理学部

 1「出水平野の地質構造の特徴」―神 信裕(県

立野田女子高等学校)

2「物理部による桜島の研究」―玉龍高等学校

物理部

■[秋の地質見学会]11 月 25 日(日)「阿久根

多田層,長島,諸浦島の地形・地質の観察」

阿久根市折口で造成中の露頭に現れたレキ層

(多田層)と断層を観察しました.また,諸浦島

では砂岩・泥岩互層のスランプ構造やタマネギ状

風化の様子を観察しました.

< 2008 年度>

■[講演会]5 月 31 日(土)鹿児島大学教育学部

1「地学現象を身近に感じることができる教材

集」―山下 覚(県立開陽高等学校)

2「鹿児島県の火山の活動状況」―小林哲夫(鹿

児島大学理学部)

鹿児島県地学会 2007 ~ 2008 年の活動状況

Nature of Kagoshima 35: 72–73

Page 75: Nature of Kagoshima Vol. 35

73

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

■[春の地質見学会]6 月 1 日(日)「吉田貝層

の観察」

鹿児島市北部(吉田地区)の思川流域に露出

する火山岩類と国分層群を観察しました.また,

県の天然記念物に指定されたばかりの吉田貝層を

ガイアテックの担当者の案内で観察しました.

■[秋の例会]11 月 15 日(土)鹿児島大学理学部

鹿児島大学博物館で開催中の特別展「鹿児島

の活火山」と時期が重なったので,関連行事とし

て行われた講演会「火山の不思議と魅力」を聴講

しました.

■[秋の地質見学会]11 月 16 日(日)「霧島の

地形・地質の観察」

午前中は県立博物館の科学教室「霧島の自然

ウォッチング」に同行しました.午後は新湯温泉

付近の地形・地質や活動が活発化した新燃岳の様

子を観察しました.

■[会 誌]93 号

・平成 18 年鹿児島県北部豪雨災害による曽木

の滝の状況

・桜島火山に関する防災教育の現状と課題―

阪本昌弥(鹿児島市立玉龍高校)

・『桜島爆震記』に見る対象大噴火と防災―小

倉 順(県立加治木高校)

・2006 年 7 月鹿児島県北部豪雨災害を経験し

て―北原 義大(県立栗野工業高校)

・米ノ津川支流の河原の礫―五反田晴夫・右

田陽子・竹内智子(クレインパークいずみ)

・こだわりを育て , 時間 ・ 空間概念を構築する

学習内容の設定―有村和章 ( 鹿大附属小学校 )

・伊佐地方に降った薩摩隕石-落下から 120

年―成尾英仁(県立武岡台高校)

・博物館展示コーナー紹介―桑水流淳二(県

立博物館)

事務局:鹿児島県立博物館内 前田・鈴木

(前田利久 〒 890–0124 鹿児島市城山町 1–1

鹿児島県立博物館 Tel: 099–223–6050; fax: 099–

223–6080)

鹿児島県野生生物研究会は,昭和 47 年に鹿児

島市平川動物公園ならびに長崎鼻パーキングガー

デンの飼育係・獣医師の有志を中心に結成された

グループです.鹿児島県内の豊かな自然と動物た

ちを観察・研究する目的で活動をはじめました.

これまでに,アカウミガメの産卵,出水のツル,

タカ類の渡り,サンショウウオ類の生息調査,奄

美諸島の動物相等の調査・観察会等を実施してき

ました.また,国及び県等の生物生態調査に積極

的に参加し,野生生物の保護活動に努めています.

今回,鹿児島県自然愛護協会・団体会員に入

会いたしました.ご指導のほどよろしくお願いい

たします.

本会ならびに会員の 2008 年の活動について報

告します.

鹿児島県野生生物研究会の活動

Nature of Kagoshima 35: 73–74

カスミサンショウウオ.出水市野田町.2007 年 1 月 28 日.

カスミサンショウウオ調査.出水市野田町.2007 年 1 月 28日.

Page 76: Nature of Kagoshima Vol. 35

74

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 INFORMATION

1 月:放送大学公開講演会「鹿児島の渡り鳥」

にパネラーとして会員が参加.生態系調査協力と

して日置市・肝属川の鳥類調査に参加.

2 月:会員全員による出水平野カスミサンショ

ウウオ調査.生態系調査協力として薩摩町・沖永

良部島・霧島市の鳥類調査.指宿市・日置市・霧

島市・薩摩町の両生類・爬虫類・哺乳類調査に参

加.

3 月:生態系調査協力として沖永良部島・肝属

川の鳥類調査.肝付町の両生類・爬虫類・哺乳類・

鳥類調査に会員参加.

4 月:会員全員による大口市泉水平動植物調査

( 植物観察会・ヤマネ調査 ).

5 月:会員有志による藺牟田池ベッコウトンボ

観察会・栗野岳植物 ( ツクバネソウ他 ) 観察会.

イベント協力として沖永良部島松の前池でバード

ウォッチング指導.生態系調査協力として喜界島・

沖永良部島・霧島市の両生類・爬虫類・哺乳類・

鳥類調査に参加.

6 月:会員全員による大口市泉水平ヤマネ・ベッ

コウサンショウウオの調査.自然観察会として大

浦川のマングローブ観察,万之瀬川河口のハクセ

ンシオマネキの観察.生態系調査協力として霧島

市・指宿市・日置市・薩摩町の両生類・爬虫類・

哺乳類・鳥類調査に参加.

7 月:自然観察会としてえびの高原および白鳥

山登山.イベント協力として沖永良部島松の前池

で昆虫標本作製講習会.生態系調査協力として沖

永良部島・霧島市・指宿市・日置市の両生類・爬

虫類・哺乳類・鳥類調査に会員参加.

8 月:鹿児島大学高隈演習林でのキノコ観察会

に参加.川内川曽木の滝周辺の希少植物調査.

9 月:自然観察会として金峰山にてアカハラダ

カ観察.生態系調査協力として霧島市の両生類・

爬虫類・哺乳類・鳥類調査に会員参加.

10 月:自然観察会として紫尾山キノコ観察会.

生態系調査協力として喜界島の両生類・爬虫類・

哺乳類・鳥類調査に会員参加.

11 月:自然観察会としてえびの高原および大

浪の池登山.イベント協力として沖永良部島松の

前池で植樹祭「ドングリの森づくり」参加.生態

系調査協力として肝属川鳥類調査,沖永良部島の

両生類・爬虫類・哺乳類・鳥類調査に会員参加.

肝属川鳥類調査.

12 月:生態系調査協力として加治木町の両生

類・爬虫類・哺乳類・鳥類調査に会員参加.

鹿児島県野生生物研究会本部:〒 899–4395 

霧島市国分中央一丁目 12–42 第一幼児教育短期

大学鮫島研究室内

事務局:〒 895–0012 薩摩川内市平佐町 2416

番地 親和技術コンサルタント㈱ 宅間 Tel:

0996–25–3155.

(宅間友則 〒 895–0012 薩摩川内市平佐町

2416 番 地  親 和 技 術 コ ン サ ル タ ン ト ㈱ Tel:

0996–25–3155)ヤマネ巣箱設置状況.大口市泉水平.2008 年 6 月 29 日.

ヤマネ・植物観察会.大口市泉水平.2008 年 6 月 29 日.

Page 77: Nature of Kagoshima Vol. 35

75

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

鹿児島は南北 590 km,東西 271 km に広がりを

持ち,気候や地形,生物相などにおいて豊かな多

様性を有している.そのことは日本で初めての世

界自然遺産「屋久島」や,日本で初めての国立公

園「霧島屋久国立公園」を始めとする 13 の自然

公園があることにも現れている.そして,その豊

かな自然環境と人が永い間の関わりを持つ中で醸

成されてきた風土と文化がそこに存在している.

近年,鹿児島の環境が変わりつつある.鹿児

島地方気象台の観測では,鹿児島市の最近 100 年

間の気温上昇は 1.78℃とされている.ヒートアイ

ランド現象による上昇分が加わっているものの,

鹿児島市の市街地及びその周辺における気温が上

昇してきていることは間違いない〔100 年間の気

温上昇:世界平均 0.74℃(IPCC AR4),日本平均

1.07℃(気象庁)〕.

平均気温としてわずかな温度変化であっても,

産卵時期,孵化日数,開花時期などと関係の深い

積算温度で考えると,さまざまな生物の生活のリ

ズムに大きな影響を及ぼす可能性がある.植物の

開花時期のずれは,それに依存するゴール形成昆

虫の孵化時期との同調性を乱したり,花粉媒介昆

虫やミツ・果実に依存する鳥類等の生育リズムに

影響を与える可能性も示唆される.

平均気温の上昇とともに,冬の気温が下がら

ないという現象も観測されている.鹿児島地方気

地球温暖化と鹿児島の自然財団法人 鹿児島県環境技術協会

Nature of Kagoshima 35: 75–76 象台によると,日最低気温が 0℃を下回る「冬日」

は,1940 年代には年間約 30 日程度出現したが,

70 年代には 20 日を切り,2007 年以降観測されて

いない.冬の寒さは,植物の開花を促したり,水

域の垂直循環を発生させ水底の環境改善に貢献す

るものである.

キオビエダジャクやクロマダラソテツシジミ

等南方系昆虫の南九州における定着が取りざたさ

れたり,錦江湾における造礁サンゴの高水温によ

る白化現象やオニヒトデの越年個体の確認,奄美

や錦江湾における魚類の産卵行動の変化が確認さ

れるなど,気候変動との関係が示唆されるさまざ

まな生物相の変化が鹿児島で見られるようになっ

ている.異常気象レポート(気象庁,2006)では

過去 35 年間の鹿児島の海面上昇を年平均 5.6 mm

としており,砂浜域の縮小を引き起こしていると

いえる.このことは,砂浜生物やウミガメなどに

影響を与えていると考えられる.

将来にむけて,上記の生息環境の変化による

生物相への影響に加え,南方性動植物の侵入によ

る在来種・固有種への影響,媒介生物の生息域拡

大による熱帯性疾病の鹿児島への上陸,ジャポニ

カ米の収量減少,水域の垂直循環阻害による水質

悪化なども懸念されるところである.

今後,各セクターが連携しながら,さまざま

な角度から環境のモニタリングを行い,鹿児島の

自然を保全していくための緩和策と適応策につい

て真剣に検討していくべき時期にきている.環境

省では「いきものみっけ」事業が行われているが,

平成 21 年 8 月 21,22 日にかごしま県民交流セン

ターにおいて,この問題に関するシンポジウム等

鹿児島市の年平均気温の経年変化. 鹿児島市の冬日出現日数の経年変化.

Page 78: Nature of Kagoshima Vol. 35

76

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 INFORMATION

も計画されているので,是非ご参加頂きたい.

財団法人 鹿児島県環境技術協会 鹿児島県

地球温暖化防止活動推進センター [Kagoshima

Environmental Research and Service (KES),

Kagoshima Center for Crimate Change Actions

(KCCCA)]

( 清 水 建 司  〒 892–0186  鹿 児 島 市 山 下 町

14–50 かごしま県民交流センター 6 階 生命と

環境の学習館)

Page 79: Nature of Kagoshima Vol. 35

77

BUSINESS REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

■会誌「Nature of Kagoshima」

 1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会は,

1975 年から年会誌「自然愛護」を発行してきま

した.2007 年 3 月に発行された「自然愛護 33」

が最終号となり,昨年度から「自然愛護」を引き

継ぐかたちで「Nature of Kagoshima(別名:カゴ

シマネイチャー)」を発行しています.

 「Nature of Kagoshima」は,「自然愛護」と同様

に白黒印刷で冊子体が発行されます.しかし前者

ではフルカラーのオンラインバージョン(PDF)

も同時に発行しています.本協会のホームページ

から会誌を閲覧あるいはダウンロードすることが

できます.

 協会 HP:http://www.kagoshima-nature.org/

■会誌バックナンバーの購入

 会誌「自然愛護」のバックナンバーは,鹿児島

市都通り電停近くの「あづさ書店西駅店」にて販

売しております.各号 520 ~ 730 円.21 号以前

は品切れのため,複写となります.これまでのタ

イトルは下記の「あづさ書店西駅店」HP(http://

www4.synapse.ne.jp/nishiekiten/)に掲載されてい

ます.

 会誌「Nature of Kagoshima」のバックナンバー

は,鹿児島大学郡元キャンパス生協と事務局にて

販売しております.最新号は 1,000 円,バックナ

ンバーは 500 円で購入可能です.

■電子メールアドレス登録のお願い

 当協会からの助成金や原稿募集,その他自然に

関する情報の案内は,通常電子メールで行います.

会員のみなさまは電子メールアドレスの登録をお

願いします.事務局に「氏名」を書いたメールを

送って下されば登録致します.

事務局 E-mail: [email protected]

■会費の納入方法

 同封の郵便振込用通信欄に必要事項を記入の

上,会費を納入して下さい.また,郵便局にて下

記の口座に直接入金されても結構です.

 個人会員―会費 1,000 円.会誌 1 冊を受け取れ

ます.また,会誌に投稿することができます.

 団体会員 ― 会費 4,000 円.会誌 4 冊を受け取

れます.また,会誌に活動記録や宣伝を投稿する

ことができます.

 賛助会員―会費 10,000 円(個人),100,000 円(団

体・企業等).本協会の活動趣旨に賛同する個人

および団体.会誌に論文や活動報告を投稿するこ

とができます.団体の会員はさらに,会誌に 1 頁

の宣伝を掲載することもできます.

 郵便振替口座:01790–0–89973

 加入者名  :鹿児島県自然愛護協会

 今年度から会費は前納制になります.本誌に同

封されている振込み用紙に記載されている金額を

ご入金下さい.当協会の運営は皆様の会費により

成り立っております.会費の納入をよろしくお願

い致します.

■入会案内

 当協会に入会を希望する方は,協会ホームペー

ジ(http://www.kagoshima-nature.org/)で入会登録

を行って下さい.インターネットにアクセスでき

ない方は,以下の情報を記入したハガキあるいは

ファックスを事務局にお送り下さい.

①氏名 ②住所

③所属 ④電話番号

⑤ファックス番号 ⑥会員区分(個人・団体・賛助)

⑦専門または関心のある分野

            ※① , ② , ④ , ⑥は必修記入事項

事務局:

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30

鹿児島大学総合研究博物館内

鹿児島県自然愛護協会事務局 本村浩之

Tel: 099–285–8141 Fax: 099–285–7267

鹿児島県自然愛護協会 2008 年度会記

Nature of Kagoshima 35: 77–79

Page 80: Nature of Kagoshima Vol. 35

78

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 BUSINESS REPORTS

■会員名簿(2009 年 3 月 31 日現在)

個人会員(104 名)

青木 寛・池 俊人・池辺伸一郎・市川敏弘・一

條みろ・今井俊子・井村隆介・岩崎 保・上村美

智雄・浦嶋幸世・大木公彦・大塚閏一・大富 潤・

大野照好・大野隼夫・大野正男・大牟田一美・大

森美枝子・大屋 哲・岡崎幹人・荻原豪太・金井

賢一・金城ひろ子・鎌宮武義・亀崎直樹・川田代

尚子・菊川浩行・久木田拡・櫛下町鉦敏・國崎敏

廣・柊山卓也・倉重加代・桑原庸輔・槐島光次郎・

上妻敏基・児島正憲・小林哲夫・是枝哲郎・税所

俊郎・坂元隼雄・櫻井 真・酒匂晶子・酒匂 猛・

鮫島正道・重廣律男・四宮明彦・志村正子・新村

健・新村則夫・鈴木英治・鈴木廣志・曽根晃一・

高山真由美・田川日出夫・宅間友則・田中俊徳・

田中葉子・塚田公彦・塚原潤三・寺園俊英・寺田

竜太・堂園嘉和・徳永修治・富田克利・中島一誠・

中村正二・中村麻理子・仲谷英夫・西井上剛資・

根建心具・野元剛二・野呂忠秀・畑田建治・八田

明夫・原口百合子・東 政能・東 良幸・日高正

康・福田晴夫・福永敬大・福元しげ子・藤枝 繁・

二牟礼正博・船越公威・古川久美子・堀田 満・

松井宏方・松沼瑞樹・丸野勝敏・三浦知之・水久

保孝英・宮形佳孝・宮本旬子・目黒昌利・本村浩

之・森永満郎・森脇 広・柳田一郎・山崎三郎・

山中有一・山本智子・弓場哲郎・吉田朋弘・吉冨

キヨ子(五十音順)※ 2008 年度の新規会員 29 名

団体会員(23 団体)

大隅の照葉樹林を世界遺産にする会・鹿児島県環

境技術協会・鹿児島県地学会・鹿児島県天文協会・

鹿児島県ホタルを育てる会・鹿児島県野生生物研

究会・鹿児島昆虫同好会・かごしま市民環境会議・

鹿児島植物同好会・鹿児島大学総合研究博物館・

鹿児島渚を愛する会・環境教育 NPO 法人くすの

木自然館・環境省屋久島自然保護官事務所・クリー

ンアップかごしま事務局・クレインパークいずみ・

斯文堂(株)・住友金属㈱菱刈鉱山・ダイビングサー

ビス海案内・南方新社・メダカの学校・屋久島自

然案内「森と海」・屋久島野外活動総合センター

(有)・屋久島ヤクタネゴヨウ調査隊(五十音順)

賛助団体会員(2 団体)

新和技術コンサルタント 株式会社

株式会社 丸建技術

(五十音順)

 会員名簿へお名前の掲載を希望しない会員の方

は,事務局へご連絡下さい.

■鹿児島県自然愛護協会 2008 年度役員

会 長:   浦嶋幸世

理事長:   大塚閏一

理 事:   大野照好・税所俊郎・鮫島正道・

       田川日出夫・福田晴夫

監 査:   曽根晃一・船越公威

事務局長:  本村浩之

幹 事:   藤枝 繁

会 計:   日高正康

■原稿募集のお知らせ

 「Nature of Kagoshima, vol. 36」の原稿を募集い

たします.下記の投稿規定にしたがって原稿を作

成し,事務局にメールか CD でお送り下さい.締

切りは 2010 年 3 月 31 日(必着)です.団体会員

のみなさまも 2009 年度の活動報告などを積極的

にご投稿下さい.

■表紙・裏表紙写真の募集

 Nature of Kagoshima は,毎年会誌の表紙写真が

替わります.鹿児島の自然や生物の写真で,表紙

を飾るにふさわしいカラー写真を募集致します.

また,裏表紙には,掲載された研究論文・総説に

関わる写真が掲載されます.論文を投稿される著

者で,裏表紙の候補となる写真をお持ちの方は,

投稿時に写真もお送り下さい.表紙・裏表紙用の

写真は,JPEG か TIF 形式で保存した高解像度の

デジタル写真に,400 字程度の解説を付けて,

2010 年 3 月 31 日までに事務局にお送り下さい.

複数の応募があった場合,事務局で掲載の可否を

決定致します.

Page 81: Nature of Kagoshima Vol. 35

79

BUSINESS REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

■投稿規定

 本文や引用文献の体裁は自由ですが,Nature of

Kagoshima の最新巻を参考に,以下の点に留意し

て原稿の作成・投稿を行って下さい.

①数字や英語はすべて半角で入力して下さい.

②文章は MS Word あるいは一太郎で作成し,表

は別ファイルで上記ソフトを使用して作製して下

さい.

③図や写真は高解像度の JPEG か TIF(最低でも

300 dpi,幅 10 cm 程度)で保存し,文章ファイル

には組み込まずに,個別に送付して下さい.

④本文は原則日本語です.著者の氏名,住所・所

属,論文タイトルは,日本語と英語の両方を記入

して下さい.英語のタイトルは,依頼により事務

局で作成します.

⑤原稿,図,表はすべてデジタルで投稿願います.

スキャンする必要がある図については,事務局で

デジタル化を代行しますので,ご連絡下さい.

⑥個人投稿の場合,1 論文あたりの頁数に制限は

ありません.印刷で 4 頁までが無料で,5 頁目か

らは 1 頁ごとに 3000 円の超過頁掲載料が必要で

す(会員 2 名が共著で論文を発表する場合でも 5

頁目から超過頁掲載料が掛かります).団体会員

による投稿の場合は,1 頁が無料です.

■別刷り

 研究論文や総説を投稿した個人会員には,各論

文の PDF 別刷り(カラー)を無料でお送りします.

紙に印刷された別刷り(白黒印刷)は論文の頁数

に関わらず,50 部単位で以下の金額で購入する

ことが可能です.印刷別刷りは 1 部毎に論文タ

イトルと著者名が印刷された表紙が付きます.購

入希望者は,原稿の投稿時に事務局へご連絡下さ

い.なお,会誌出版後の別刷りの注文(追加注文

を含む)はできません.

 別刷りは,私費,公費のどちらでも購入が可能

です.別刷りは,会誌出版後に斯文堂株式会社よ

り直接著者に郵送されます.支払い方法の案内(例

えば,公費で注文した場合は,見積り・請求・納

品書)が同封されていますので,案内にしたがっ

て,入金をお願い致します.

 印刷別刷り金額表

 050 部  5000 円

 100 部  6000 円

 150 部  7000 円

 200 部  8000 円

 (200 部以上も 50 部追加ごとに 1000 円追加)

(本村浩之)

Page 82: Nature of Kagoshima Vol. 35

80

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009 BUSINESS REPORTS

編集後記

 「自然愛護」から引き継いだ新会誌「Nature of Kagoshima」の 2 回目の発行になります.2008 年 12 月に

協会のホームページを開設し,2009 年 3 月までの 4 ヶ月間に全国各地から 3600 件のアクセスがありました.

ホームページ開設に伴い,県内外からの多くの問い合わせや会員申込があり,当協会の認知度が年々高く

なってきていると感じます.今年度は鹿児島県の企業 2 社が賛助団体会員として協会の支援をして下さり,

また,個人会員の積極的な寄稿のおかげで今回は 82 頁の充実した会誌を発行することができました.

 会員のみなさまには,今後も会の運営にご協力よろしくお願い致します.

(事務局長 本村浩之)

Nature of Kagoshima Vol. 35カゴシマネイチャー 35 巻

 2009 年(平成 21 年)3 月 31 日 発行

 編集者 本村浩之

     〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30

     鹿児島大学総合研究博物館内

     鹿児島県自然愛護協会事務局

     TEL: 099–285–8141 FAX: 099–285–7267

 発行者 鹿児島県自然愛護協会

 印刷所 斯文堂株式会社

     〒 891–0122 鹿児島市南栄 2–12–6

     TEL: 099–268–8211 FAX: 099–269–5198

 © 鹿児島県自然愛護協会 2009  ISSN 1882–7551

Page 83: Nature of Kagoshima Vol. 35

81

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

Page 84: Nature of Kagoshima Vol. 35

82

Nature of Kagoshima Vol. 35, Mar. 2009

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Page 85: Nature of Kagoshima Vol. 35

Nature of Kagoshima VOL. 35 2009