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1 室内温熱環境測定法解説書(案) 日本建築学会環境工学委員会 温熱感小委員会 温熱感学術規準WG 目次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) 1.気温 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)測定方法 (4)簡易な校正方法 2.湿度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6) (1)一般事項 (2)測定方法と測定範囲・誤差・応答性等 (3)校正方法 3.風速 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)時定数と精度 (4)風速計の校正 (5)風向の確認 4.熱放射 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)簡易な校正方法 5.データ収録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(20) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)精度等の向上のために (4)温度・電圧ロガの温度校正 編集者一覧 はじめに 「室内温熱環境測定法規準」では、室内における温熱環境の快適性・不快性に関する判断・評価を行うための 物理的温熱環境要素の測定法について規定されている。本解説書は、「室内温熱環境測定法規準」で規定された気 温、湿度、風速、熱放射および測定値を電気的に記録するデータ収録について解説するものである。それぞれの 測定機器について固有の特性があるため、全てを包括して記すことは難しいが、基本的な測定機器の原理および 精度・誤差などについて記した。「室内温熱環境測定法規準」および本解説書に準じて温熱環境要素の測定を行い、 建築計画・設計・施工・維持管理する上で必要としている値を的確に得ることが望まれる。

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室内温熱環境測定法解説書(案)

日本建築学会環境工学委員会

温熱感小委員会 温熱感学術規準WG

目次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) 1.気温 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)測定方法 (4)簡易な校正方法 2.湿度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6) (1)一般事項 (2)測定方法と測定範囲・誤差・応答性等 (3)校正方法 3.風速 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)時定数と精度 (4)風速計の校正 (5)風向の確認 4.熱放射 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)簡易な校正方法 5.データ収録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(20) (1)一般事項 (2)測定機器 (3)精度等の向上のために (4)温度・電圧ロガの温度校正 編集者一覧 はじめに

「室内温熱環境測定法規準」では、室内における温熱環境の快適性・不快性に関する判断・評価を行うための

物理的温熱環境要素の測定法について規定されている。本解説書は、「室内温熱環境測定法規準」で規定された気

温、湿度、風速、熱放射および測定値を電気的に記録するデータ収録について解説するものである。それぞれの

測定機器について固有の特性があるため、全てを包括して記すことは難しいが、基本的な測定機器の原理および

精度・誤差などについて記した。「室内温熱環境測定法規準」および本解説書に準じて温熱環境要素の測定を行い、

建築計画・設計・施工・維持管理する上で必要としている値を的確に得ることが望まれる。

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1.気温 (1)一般事項 人間の温熱環境の知覚には,気温だけでなく湿度・風速・熱放射など多くの要素が関係するが,室内温熱環境

を記述する際に最も必要不可欠な温熱要素は気温であろう。他の温熱環境要素と比して古くから測定され,測定

器が発達しているが故に測りやすいのも大きな特徴といえる。 気温を測定するには,表1-1に示される種類の温度計などが用いられる。

表1-1 温度計の種類と特徴など

種 類 使用温度範囲 特 徴

水銀封入ガラス温度計 -50~650℃1) 比較的精度が良い。安定した測定が可能。 簡便。安価。

破損し易い。変動の測定は不可。 自動測定は不可。

バイメタル式 -50~500℃1) 簡便丈夫。自動制御利用可能。

変動の測定は不可。

白金測温抵抗体 -200~850℃4) 最も安定で,標準用。使用温度範囲広い。

連続測定可能。

サ-ミスタ測温体 -50~350℃2)

センサが小さく,応答速度が速い。

微小差の測定可能。連続測定可能。

熱電対

-270~1820℃6)

各種熱電対の使用範囲の最小値

~最大値を表示している。1種類

の熱電対でこの範囲を測定できる

わけではない。

安価。均質。熱伝導誤差大。

連続測定可。基準接点が必要。

本解説書では,気温測定に広く用いられているガラス製温度計,バイメタル式,白金測温抵抗体,サーミスタ

測温体,熱電対を用いた測定方法について詳細に述べることとする。

(2)測定機器

1)ガラス製温度計

簡易に,比較的精度が良く,長期間の安定した測定ができる。ガラス容器に水銀が封入されているものと有機

液体が封入されているものとがある。所定の精度を満たすものは標準温度計としても使われる。欠点としては,

破損しやすく振動や衝撃に弱いこと,自動測定ができないこと,応答が遅いため変動の測定には適さないことが

挙げられる。アスマン通風乾湿計にも用いられており,気象庁の検定を受けたものについては便宜上,他の温度

計の校正用として利用することができる。

2)バイメタル式

2種類の熱膨張率が異なる金属板を貼り付け,温度変化による金属板の変形を利用して,気温を測定する機器

である。そのため,応答が遅く変動の測定には適さないが,気温計測自体には電源を使用しないため,長期間の

温度自記記録計として用いられている。または,設備機器の自動制御センサ(サーミスタッド)として用いられ

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ている。

3)白金測温抵抗体

金属の電気抵抗値が温度によって変化することを利用するのが測温抵抗体である。抵抗素子としてニッケルや

銅を用いたものも存在するが,高純度の材質が得られる白金を用いたものが,最も安定性に優れた温度検出器で

ある。しばしば標準器として用いられるほか,データ収録装置において熱電対の室温式基準接点の温度測定に用

いられる。白金の抵抗値は小さいので,配線の導線抵抗が無視できない。測定回路はこのことを考慮して構成さ

れる。

4)サーミスタ測温体

サ-ミスタは金属(マンガン,ニッケル,コバルトなど)の酸化物からなる半導体で,温度が高くなるにつれ

て抵抗値が小さくなる素子である。サ-ミスタの電気抵抗値は,温度に対して負の相関があるが,その組成によ

り特性は異なる。抵抗値の測定には,白金測温抵抗体と同様に電源電流が必要である。感温部は比較的小さくで

きるので,広く用いられている。熱電対のように基準接点との温度差を検出する方式ではなく,センサ部の温度

と電気抵抗値の既知の関係を利用した測定方法であり,電池により駆動される携帯型の温度計にもよく利用され

ている。

5)熱電対

熱電対は,2種類の導体の一端を電気的に接続したものである。接続点(測温接点)を測定したい点に置き,

回路途中に置かれた基準接点の温度を一定(例えば氷点)に保つことで,両接点間の温度差に応じて発生する熱

起電力を電位差計などで測定し,温度に換算して検出する。結線方法の詳細については,「室内温熱環境測定法学

術規準」に図示されている。

熱電対の構成材料には数種あるが,+脚として銅,-脚としてコンスタンタン(銅とニッケルの合金)を用い

たT 型熱電対が常温での測定にはよく使用される。最近のデータ収録装置には,基準接点を一定温度に保つこと

をせず,装置の周辺空気や装置内のある点の温度を測定して基準接点を補償する室温式基準接点を採用したもの

が多い。しかし,データ収録装置の端子台と室温式基準接点との温度差が生じやすく誤差要因となるので,この

方式を採用する場合は,データ収録装置の端子台を断熱や熱放射の遮蔽などを行い定温に保つ必要がある。0.01

~0.1K 程度の温度差検出を目的とする場合は,氷点式基準接点 2)または電子冷却式基準接点2)を設ける方法が

推奨される。

線径や被覆材料については多様な熱電対が販売されており,目的に応じて選定する。熱電対の応答は比較的良

いが,応答遅れを小さくしたい場合は,細い線径のものを使う方が良い。市販品で線径 0.1mmφ以下のものがあ

るが,断線し易いため注意が必要である。線径0.2~0.3mmφでビニールにより被覆されたものが室内環境の測定

にはよく用いられる。測温接点の作成に当たっては,径の 100~150 倍の被覆を剥がし熱電対素線を露出させ,

はんだで接続するか,電気溶接を施す。二本の金属線が一点でつながっている状態が理想であるが,はんだ付け

をする場合は,作業のしやすさ,出来上がった熱電対の断線しにくさを考慮し,図1-1に示すような方法を推奨

する。すなわち,二本の金属線を捩り,先端部にはんだをつけ,二本の金属線の捩れ部分を2mm程度残して切断

し,測温接点とするという方法である。このとき,可能な限り密に捩ること,はんだの付着量を最小にし,はん

だを素早く流すことに留意する。はんだを付けずに捩っただけで使用すると,測定値が不安定になりやすい。二

本の金属線をしっかりと接続することが肝要である。また,測温接点の表面にホコリ等が付着すると,日射およ

び熱放射の吸収率上昇や絶縁の不良を引きおこす。繰り返し使用する場合,有機溶剤でふき取るなどして,測温

接点の表面をきれいにしておく必要がある。

熱電対と測定装置の間の周囲条件による悪影響を防止したい時に補償導線を用いるが,熱電対の種類に適合し

たものを用いる必要がある2)。

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①できるだけ密に捩る ②できるだけ素早く薄くはんだを付ける ③2mm程度残して先端を切る

図1-1 熱電対の測温接点の作成方法(はんだ付けの場合)

(3)測定方法

室温は一般に不均一であり,時間的に変動している。気温測定の目的が,居住域の温熱環境評価ならば,想定

される居住域を測定するべきであろう。規準では,居住域を「床と床上180cm の高さの間にあって,壁,窓また

は固定された空調設備から 60cm 離れた鉛直面で囲まれた空間とする」と定義し,測定位置は「その空間の中央

を基本とする。測定高さについては,床上110cm の位置を基本とする。この高さは椅座時の頭部,立位時の腹部

に当たるが,椅座時には10cm および60cm,立位時には10cm および170cm においても測定することが望ましい。」

と記述している。これを参考にして,目的に適合した空間分布の測定,所要の精度を満たした測定をすることが

重要である。

気温は,人体を含めた発熱源,気流速度,屋外気象条件などの影響を受け,水平方向と垂直方向の分布が生じ

る。特に,現場の実測では,壁面,ガラス面,居室の出入口近傍で温度の変化が著しい。従って,気温の分布を

考慮して室内の数ヶ所を測定する。

気温の分布を測定する場合には,測定により温度場を可能な限り変えないようにする。また,気温の変動を測

定する場合には,センサの熱容量が十分に小さい温度計を選ぶ必要がある。センサは対象空間内の空気以外から

熱放射の影響を受けるので,必要に応じて放射の遮蔽を施すことが肝心である。周辺空気の温度場及び流れの場

への影響が問題にならない程度であれば,センサ周辺の風速を上げることで熱放射の影響は小さくできる。また,

周囲表面の温度と気温との差が大きい場所では,熱放射の影響を防ぐため,センサに反射率の高い遮蔽装置(ア

ルミ箔など)を取り付けるなどの配慮が必要である。その他,測定空間への影響が少ない測定システムを選び,

また環境条件が経時変化する場合には測定器の応答性について検討する必要がある。感温部に5m/s 以上の風を

当て,熱放射の遮蔽を施した測定機器として,湿度の章で説明があるアスマン通風乾湿計があり,簡易に精度良

く気温を測定することができる。

(4)簡易な校正方法

実際に測定して得られた測定値には多かれ少なかれ誤差が含まれており,測定値と基準値との関係を明確にす

ることが必要である。そのためには温度計の校正が必要となる。温度計の校正とは,使用する温度計の示度と真

温度との関係を決定する作業のことである。校正を行うには,幾つかの水準の基準温度を実現し,その温度にお

ける温度計の示度を読み取ることが必須条件である。

校正には比較法と定点法とがある。比較法は,一定かつ均一な温度に保たれた恒温槽の温度を標準温度計(必

要とする精度で既に校正されている温度計)を用いて決定し,使用する温度計の示度と比較する。定点法は氷点,

水の沸点などの温度定点を実現し,その温度を基準として使用する温度計の示度を位置付ける方法である。標準

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温度計としては,ガラス製温度計,白金測温抵抗温度計が用いられる。

JIS においては,基準値とそれに対して許容される限界の値との差,或いは「ばらつき」が許容される限界の

値を「許容差」と定義し7),温度計の階級ないしはクラスを定めている。他の種類の熱電対6),白金測温抵抗体4),

サーミスタ測温体5)についても同様に許容差が定められている。

引用・参考文献

1) JIS Z 8710-1993 温度測定方法通則 2) JIS Z 8704-1993 温度測定方法―電気的方法 3)JIS C 1610-1995 熱電対用補償導線 4)JIS C 1604-1997 測温抵抗体 5)JIS C 1611-1995 サーミスタ測温体 6)JIS C 1602-1995 熱電対 7) JIS Z 8103-2000 計測用語

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2.湿度

(1)一般事項

1)湿度の定義

本規準では,湿度の表示および単位として,湿球温度,水蒸気圧,相対湿度,絶対湿度および露点温度の5つ

の用語と単位を示している。このうち,絶対湿度(kg/kgDA または kg/kg’)については,JIS1)や他分野(物理

学および気象学)と定義が異なっており,注意が必要である。JIS や他分野での「絶対湿度」は,単位体積を基

準とした水蒸気の質量(kg/m3)として定義されており,建築分野(ならびに機械分野)での「絶対湿度」について

は,「混合比」と呼ばれている。このJISでの「混合比」と「絶対湿度」の定義は,物理学や気象学のみならず,

我が国での学校教育や欧米各国の規格においても,同じ定義として採用されている。以上を考慮し,本規準では

建築分野での従来からの呼称である「絶対湿度」と共に,「混合比」の名称も併記した。なお,建築分野(ならび

に機械分野)での「絶対湿度」の呼称に対しては,「水蒸気混合比」あるいは「湿度混合比」を使うことも提案さ

れている2)。

2)飽和水蒸気圧

本規準では,飽和水蒸気圧ew(Pa)を求めるため算出式としてSONNTAGの式を採用した。この式はJISで採用さ

れているものである。この他の算出式としては,GOFF-GRATCH の式があるが,いずれを用いても本規準の実用上

はほとんど問題ない。しかし,SONNTAGや GOFF-GRATCHの式は,複雑で計算が容易ではない。

このような,複雑な飽和水蒸気式の代替として,次の簡易式3)を使用しても良い。

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

++

=54.237

52.361808.18exp3.133t

tew ・・・(1 )

ew:飽和水蒸気圧 [Pa]

t:温度 [℃ ]

この式は,GOFF-GRATCHの式から得られる値を基にしたもので,0~50℃の範囲で実用上の問題はない。

(2)測定方法と測定範囲・誤差・応答性等

1)アスマン通風乾湿計

アスマン通風乾湿計は,水の蒸発による温度低下を利用して湿度を測定するもので,温度計が正確であれば原

理的には校正を必要としない。したがって,他の湿度計(特に電子式湿度計)の校正用装置として使用されるこ

とがあるので,扱い方に注意する必要がある。特に湿球のウィック(ガーゼ)の濡らし方,温度計目盛の読みは,

測定者に依存するため誤差が生じやすい。また,ウィックの汚れ状態で湿球の示度が影響をうけるので,取り替

え時期などに注意が必要である。

JIS1)では,乾湿球温度差に0.1℃の誤差があった場合の相対湿度の誤差を表2-1のように示している。

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表2-1 乾湿球温度差に 0.1℃の誤差があるときの相対湿度の誤差 1) 単位(%rh)

乾球温度[℃] 相対湿度[%rh]

50 40 30 20 10 0

100 0.6 0.6 0.7 0.9 1.2 1.8

50 0.4 0.4 0.5 0.7 1.1 1.7

25 0.3 0.3 0.4 0.6 1.0 1.6

但し,湿球が氷結していないとき

乾湿球温度計から相対湿度を求めるには,乾湿計に付属している換算表やJISで示されている付表を使用する

場合と,乾湿計公式(SPRUNGの式)を使って算定する場合がある。換算表や付表では標準大気圧(101325Pa)で

の値が示されているが,乾湿計公式では異なる気圧に対しても計算可能となっている。表2-2に乾湿計公式に

おける大気圧の相対湿度の影響について例示した。理科年表 5)における日本各地の海面気圧の月別平年値をもと

に,標準大気圧(101325Pa)に対して,最高値(102210Pa)と最低値(100680Pa)について示した。また,海面

からの高度による大気圧変化(理科年表による)の相対湿度の影響を表2-3に示す。いずれも飽和水蒸気圧の

計算には簡易式を用いた。

表2-2 乾湿計公式における大気圧の相対湿度に対する影響

乾球温度[℃] 湿球温度[℃] 大気圧[Pa] 相対湿度[%rh]

25 18 102210 高い 50.2

25 18 101325 標準 50.3

25 18 100680 低い 50.4

表2-3 乾湿計公式における海面からの高度による大気圧変化の相対湿度に対する影響

高度[m] 乾球温度[℃] 湿球温度[℃] 大気圧[Pa] 相対湿度[%rh]

0 25 18 101325 50.3

200 25 18 98950 50.7

400 25 18 96610 51.0

600 25 18 94320 51.3

800 25 18 92080 51.7

通風乾湿計の測定時間は,規準書にも示すように,給水後の示度安定まで常温で約5~7分間を要する。

2)電気式湿度計

電気式湿度計は,アスマン通風乾湿計のように測定器自体が水蒸気を出すことはないので,比較的狭い室内で

の湿度測定が可能である。また,感湿素子部分が小型であること,相対湿度を直示すること,データロガ等に接

続して連続測定が可能であることなど,長所も多い。98%rh 程度の高湿度環境にも適用可能となっているが,不

安定になることがあるので注意が必要である。また,本規準でも指摘しているように,感湿素子部分には熱放射

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に対する考慮がほとんどなされていない。日射や室内に強い放射熱源がある場合は,アルミ箔等で熱放射を遮蔽

する必要がある。

応答性については,感湿素子によって異なるため,メーカー仕様書を事前に確認しておく必要がある。参考と

して,高分子湿度センサの応答特性を図2-19)に示す。

(3)電子式湿度計の校正方法

いわゆる電子式の湿度計は,連続測定が可能なことやデータの記録のしやすさ等もあり,利用する機会が多く

なってきた。湿度計の感湿素子の性能は,経時変化(劣化)するため適当な周期で校正する必要がある。校正の

周期は素子によって異なり,実験前に校正することはもちろんであるが,長期間連続して使用する場合も1年に

3~4回行うことが望ましい。校正にはその湿度計を使って測ろうとする空間,精度や応答時間を考慮して行う。

ここで言う「校正」とは,真値(あるいは基準値)を示す装置と個々の測定装置との差を求めて,校正直線(ま

たは曲線)を作成することであり,プローブや表示装置を機械的に調整するものではない。

1)アスマン通風乾湿計による方法

この電子式湿度計の校正の簡便な方法は,アスマン通風乾湿計との比較によるものである。校正に際して,注

意することは低湿度域での校正と,狭い室内での校正である。20%rh程度以下の周囲空気での測定には,通風乾

湿計の特性上,注意が必要である。また,湿度が一定な空気を比較的大量に必要とするため,狭い空間内や密閉

された空間で校正しようとすると周囲空気の湿度が徐々に上昇して,校正ができない場合が多い。また,感湿素

子が熱的に不安定なる状態,つまり日射や強い熱放射源が近くにあったり,感湿素子付近を手で持ったりしない

ようにする。

校正の湿度範囲は,目的の湿度範囲とその範囲の低湿側,高湿側の少なくとも3点以上で校正することを推奨

する。

2)飽和塩による方法

低湿度域での校正や特定の相対湿度を再現して校正する場合の最も簡単な方法は,飽和塩を用いることである。

これは,塩(えん)の飽和水溶液と平衡状態にある空気の相対湿度は,塩の種類と空気の温度で定まるという性

質を利用するものである。

代表的な塩の飽和水溶液と平衡状態にある空気の相対湿度を表2-4に示す。この表からも判るように,塩に

よっては,常温付近での温度依存が小さく,熱放射の影響に注意を払う以外は温度設定を厳密に要求しなくても

良いものもある。一方,塩化リチウムのように20℃以下では不安定になるものや,特定温度以外では校正用に使

えないものもあるので注意が必要である。JIS5)では,解説として表2-4に示した飽和塩によって実現される湿

度を温度の関数として表2-5のように示している。

1.52E-11

1.53E-11

1.54E-11

1.55E-11

1.56E-11

1.57E-11

1.58E-11

1.59E-11

1.60E-11

1.61E-11

1.62E-11

0 0.5 1 1.5 2

時間「sec]

キャパシタンス[pF]

図2-1 高分子センサの応答特性 9)

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湿度計1個を校正する場合は小さな容器を使って可能である。図2-2に示すように,まず,密閉できる蓋つ

きの透明ガラス製の広口ビン(大きめのジャム瓶などが利用できる)を用意し,蓋に感湿素子やプローブが入る

孔をあけ,アルミ粘着テープなどの断湿性のテープで塞いでおく。次に,このビンとは別のビーカなどで,塩と

蒸留水とで飽和水溶液を作る。この時必ず結晶が相当量残っている状態,すなわちシャーベット状になるように

しておく。(この飽和水溶液を作る際に,かなりの反応熱を出す塩があるので注意する。特に塩化リチウムの水溶

液をつくる場合は,蒸留水に少しずつ粉末を入れて溶かすようにすること。)次に,この飽和水溶液の塩結晶を非

金属のスプーンのようなものでビンに入れ,底に2~3cm程度の深さになるようにする。 蓋のアルミテープをはがして,素子を入れ,孔の隙間をアルミテープなどでふさぐ。30分から1時間程度経

てば平衡状態となり校正は終了する。

校正終了後は,水溶液および結晶をポリエチレン製のような錆びない密閉容器に移し,校正に使用したビンは

水洗いして良く乾燥させておく。

また,複数の湿度計を同時に校正するためには,市販の樹脂製透明デシケータ(内容積45リットル程度,大き

さ30×30×50cm)を利用して恒湿装置とすることができる。図2-3に示すように飽和水溶液を入れた浅い容器

を設置した密閉空間とする。飽和塩を入れる容器は浅くて面積が広い方が早く平衡状態になる。装置内にファン

を置き,飽和液面に送風するように攪拌すると30分から1時間程度で平衡状態となる。ファンはモータ部がデ

シケータの外側にある方が,モータの熱によって装置内の温度が不安定にならないので良いが,発熱の影響が無

視できるようなファンモータ(例えばコンピュータ用の小型ファン)であれば,飽和水溶液の皿の上から液面に

向かって送風するように設置しても良い。

ビンやデシケータのいずれを使うにしろ,それを置く室内の温度の時間変動が小さいことや,強い熱放射源が

近傍にないことが重要である。

これらの飽和塩を用いた湿度定点による校正についても,測定しようとする湿度の範囲を含めた,低湿側と高

湿側の少なくとも3点の湿度定点による測定を行って,校正直線を作成することを推奨する。

密閉蓋

感湿素子

広口のビン

シャーベット状の塩飽和水溶液

温度変動の小さい室内

密閉蓋

感湿素子

広口のビン

シャーベット状の塩飽和水溶液

温度変動の小さい室内

図2-2 飽和塩を用いた湿度校正例(広口ビン)

ファンモータ

感湿素子

落下防止網

シャーベット状の塩飽和水溶液の入ったトレー

温度変動の小さい室内

湿度計

デシケータファンモータ

感湿素子

落下防止網

シャーベット状の塩飽和水溶液の入ったトレー

温度変動の小さい室内

湿度計

デシケータ

図2-3 飽和塩を用いた湿度校正例(デシケータ)

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表2-4 塩の飽和水溶液と平衡にある空気の相対湿度4)

温度 [℃]

5 10 15 20 25 30 35 40 45

ふっ化セシウム - - 4.3±1.4 3.8±1.1 3.4±1.0 3.0±0.8 2.7±0.7 2.4±0.6 2.2±0.5

臭化リチウム 7.4±0.8 7.1±0.7 6.9±0.7 6.6±0.6 6.4±0.6 6.2±0.5 6.0±0.5 5.8±0.4 5.7±0.4

塩化リチウム 11.2~14.0 11.3~14.3 11.3~13.8 11.1~12.6 11.3±0.3 11.3±0.3 11.3±0.3 11.2±0.3 11.2±0.3

酢酸カリウム - 23.4±0.6 23.4±0.4 23.1±0,3 22.5±0.4. 21.6±0.6 - - -

塩化マグネシウム 33.6±0.3 33.5±0.3 33.3±0.3 33.1±0.2 32.8±0.2 32.4±0.2 32.1±0.2. 31.6±0.2 31.1±0.2

炭酸カリウム 43.1±0.5 43.1±0.4 43.2±0.4 43.2±0.4 43.2±0.4 43.2±0.5 - - -

臭化ナトリウム 63.5±0.8 62.2±0.6 60.7±0.6 59.1±0.5 57.6±0.4 56.0±0.4 54.6±0.4 53.2±0.5 52.0±0.5

よう化カリウム 73.3±0.4 72.1±0.4 71.0±0.3 69.9±0.3 68.9±0.3 67.9±0.3 67.0±0.3 66.1±0.3 65.3±0.3

塩化ナトリウム 75.7±0.3 75.7±0.3 75.6±0.2 75.5±0.2 75.3±0.2 75.1±0.2 74.9±0.2 74.7±0.2 74.5±0.2

塩化カリウム 87,7±0.5 86.8±0.4 85.9±0.4 85.1±0.3 84.2±0.3 83.6±0.3 83.0±0.3 82.3±0.3 81.7±0.3

硫酸カリウム 98.5±1.0 98.2±0.8 97.9±0.7 97.6±0.6. 97.3±0.5 97.0±0.4 96.7±0.4 96.4±0.4 96.1±0.4

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 10 20 30 40 50

温度 [℃]

相対湿度[%rh]

硫酸カリウム

塩化カリウム

塩化ナトリウム

よう化ナトリウム

臭化ナトリウム

炭酸カリウム

塩化マグネシウム

酢酸カリウム

塩化リチウム

臭化リチウム

ふっ化セシウム

図2-4 温度による湿度定点の変化(表2-4から作成)

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表2-5 塩の飽和水溶液と平衡状態にある空気の相対湿度U4)(温度関数表現) i

iitAU ∑

=

=3

0 (%rh)

温度範囲(℃)

塩 A0 A1 A2 A3 下限 上限

ふっ化セシウム 6.20938 -0.143381 0.123037×10-2 5.0 80.0

臭化リチウム 7.75437 -0.0654994 0.420737×10-3 0.0 100.0

塩化リチウム 11.2323 0.00824245 -0.214890×10-3 10.0 100.3

酢酸カリウム 22.4388 0.156288 -0.612868×10-2 11.2 31.0

塩化マグネシウム 33.6686 -0.00797397 -0.108988×10-2 0.0 99.4

炭酸カリウム 43.1315 0.00147523 0.0 30.0

臭化ナトリウム 64.719 -0.221990 -0.402414×10-2 -0.590331×10-4 0.0 80.0

よう化カリウム 74.5466 -0.253167 0.104383×10-2 5.0 90.0

塩化ナトリウム 75.5164 0.0398321 -0.265459×10-2 0.284800×10-4 0.0 80.0

塩化カリウム 88.619 -0.193340 0.899706×10-2 0.0 90.0

硫酸カリウム 98.7792 -0.0590502 0.5 52.3

引用・参考文献

1)日本工業規格:湿度-測定方法 JIS Z 8806-2001 2)稲松照子:湿度のおはなし,日本規格協会,1997 3)大澤徹夫:建築材料並びに構造体の透湿特性測定方法に関する研究 (学位論文),1983 4)日本工業規格:湿度計-試験方法 JIS B 7920-2000 5)文部科学省国立天文台編:理科年表 平成16年版,丸善,2003 6)芝亀吉:湿度と水分,コロナ社,1975 7)上田政文:湿度と蒸発,コロナ社,2000 8)土川忠浩,大澤徹夫:湿度測定機器に関する問題点,熱環境測定法(湿度測定)シンポジウム資料,人間

-生活環境系会議温熱環境測定委員会,1997 9)Lars Stormbom: VAISALA news ,No.137, pp15-20,1995

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3.風速 (1)一般事項

本規準では,風速を空気の単位時間当たりの移動距離,空気の流れの速度を示し,表示の単位はm/sとしてい

る。測定する空気の流れが十分早く周りからの影響が少ない場合は,測定される値は真の値に近いと考えられる。

しかし,室内環境が静穏な気流の状態と考えられる場合は,気温の変化の影響や人体,気温と異なる物体の熱的

影響を受けることから,非常に緩やかな風速を測定した値は真の値に対して誤差の見極めが難しいことも知られ

ている。人体に対する風速で,前方より気流がある場合,背中近傍では風速が同一の値ではなく,評価に用いる

のは平均値を採用していることが多い。一般的に風速計を選択する要素としては,まず素子に対する方向すなわ

ち指向性,次に風速が変化した時の応答性が良く即座に変動した値が記録されるかである。

風速測定では十分時間変化を追随した測定が可能か,また,風速の評価に関して次のような項目が挙げられる。

風速には平均風速,乱れ強さ,風速変化の波形ではステップ,ランプ,パルスなど,要素では変化幅,周波数,

揺らぎ,最大値などがあるが,基本的に使用機器の応答速度が速ければ,高い周波数の変動風速の測定にも使用

可能である。

風速計1)には熱式,超音波式,機械式(プロペラ,風杯),圧力式(ピトー管),レーザー光式などがある。こ

れら測定方法の違いにより,方向性を考慮した指向性の高い風速計と指向性が少なく風の乱れを考慮した平均的

な値が得られる風速計がある。

本解説書では一般的な室内環境の測定条件を考慮し測定値が自動記録される形式の熱式風速計と超音波風速計

の2種について述べる。

熱式は空気の流れにより,センサが冷却される熱量を直接もしくは電気的信号を介して風速に変換し測定する

方法である。加熱されるセンサとしてアルコールを用いたカタ風速計もあるが,ここではセンサ部分を電気的に

加熱する形式について述べる。センサとしては加熱部のセンサに堅牢な細い金属線を使用する場合と,サーミス

タ,ゲルマニウムなどの半導体を使用する場合がある。

市販品の種類は多く,非常に細い金属線を使用し,応答時間の非常に短い形式や,複数の金属線を同時に使用

し,各方向の値が測定できるものもある。比較的小型で実測などの使用に適した特徴があるが,一般的に加熱セ

ンサと気温測定センサの気流条件が同一になることが基本的な条件となる。したがって,センサの保護具は測定

する気流を乱さない形状になるよう考慮した形式や,目的に合わせてセンサ周辺気流の指向性を少なくするよう

に考慮した形式などがある。

種々の測定目的に応じた機器の選択を行う必要がある。指向性が重要でなく,平均的な値を必要とする場合は

熱式風速計が選択の対象となる。さらに,変動周波数が高く,瞬時値が必要な時は応答速度の速い測定機器が使

用できる。また,指向特性が立体的にすべての方向に均一に近い測定器もあり,選択時の機器性能との照合が重

要である。

超音波式は0m/sから数十m/sまでの風速が測定できる機器であり,センサの送受信器の間を伝搬する超音波の

伝搬時間の差から風速を測定するので,その間の平均的な風速が測定されることになる。従来の気象観測用の大

型測定機器に加えて室内環境測定に使用できる小型の超音波風速計がある。素子を複数有したものの他,1組の

センサで1方向の風速を測定する機器も市販され,小型でも空気が完全に止まった風速が無い状態を測定できる

ようになったことから,目的にあった機器の選択が広がった。

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(2) 測定機器

1)熱式風速計

熱式風速計は原理として気流の冷却力を利用しているた

め,気流の温度を測定し,流速測定の補正を行う必要があ

る。また,気流に大きな温度勾配のある場での測定では,

測定位置に注意を要する。加熱のため流速感度部自身が自

然対流を生じる。微弱な気流中では気流の方向(上向き,

下向き.水平など)により出力が異なる。さらに微弱な気

流中では自然対流の方が卓越し,その場の気流を表示でき

ない。また,気流の乱れの強さが測定結果に影響する。

図 3-1に熱式風速計の概要を示す。風速va と vwを測

定すると仮定し,同一風速がセンサを通過するとした図で

ある。一般に気温センサaと加熱センサ wがあり空気の温

度taを測定し,この例ではta+50℃となるように加熱素子

w の温度を twに保持することを目的に加熱し続けるために

wに電流を流す。

この時,風による冷却量は King の式2)によって表され

る。放熱量はセンサの表面温度と周囲温度との差に比例し,

物体への加熱量と放熱量とが等しくなる温度で平衡状態と

なる。

H=(A+B√v)(tw -ta)・・・・・・・・・・・ (3-1)

ここで,H:熱放散量(W/m2)

v:風速(m/s)

tw:加熱物体の温度(℃)

ta:気温(℃),非熱物体の温度(℃)

A,B:気体の性質,物体の形状,風速によって決まる定数

この熱放散量を風速センサの電流変化としてとらえ,電圧が一定ならば,抵抗を介することによって供給電流

を電圧に変換し出力するのが熱式風速計の測定原理である。

この概念図において,微風速を測定している状態でwのセンサが気温より50℃高い温度に加熱されているとw

周辺の空気は上昇し,a の周りの空気が上部へ移動することになる。センサ自体の加熱により対流を生じてしま

うことから,測定可能な最小風速は 0.05m/s 程度とされている。また,風 va と vwの風速が変化する場合には同

一条件とはならないので測定誤差が増大する。センサa とwの距離が離れ,風速が異なる可能性が高くなるよう

な条件,たとえば,人や物体の近傍の風速測定時にこの誤差が発生しやすい。この種の測定誤差を最小にするに

は,センサの方向と流れの方向を直交させ,できるだけ風速が同じになるようにセンサを設置し,測定するとい

った注意が必要である。

風 va と風vwの温度が変化する場合には,ta と twの条件が異なり誤差が増大する。このことは,人や物体の発

熱や冷却,ドラフトなど風の温度が大きく変化する時にこの誤差が発生しやすい。この種の測定誤差を最小にす

るには,均一な温度条件になるようにしなければならない。

応答時間が長い場合や風温度の変化が速い場合には,大きなセンサではその熱容量が大きいと変化に十分追従

図 3-1 熱式風速計の概要

w

a

気温t+50℃(tw)に加熱されている素子

気温測定素子

tw

ta

vw

va

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できないので誤差が大きくなる。また,センサの気温測定部分aと加熱温度測定部wの時定数が同一でないと誤

差が生じる。例えば,a と w の一方の時定数が小さいと,出力信号は非常に高速に変化し,高い周波数成分の風

速を測定しているような信号出力が記録されるので,測定目的の時定数を有した風速計を選択する注意が必要で

ある。

aとwが受ける熱放射が同一でないと誤差を生じる。例えば,wが天井面から気温よりも高い熱放射を受けた場

合は,加熱する熱量が少なくても50℃の温度差が保たれるため,出力信号は実際の風速より低い値が出力される。

逆に冷えた窓面の冷放射をwが受けた時には,より多く加熱しなければならないので風速が高く示されることに

なる。

同様に風速センサを手で持って測定した時には,手からの距離が近いセンサは熱放射の影響を多く受けるため,

手の温度が高い場合,気温が高く測定されるため,風速が低く出力されることがあるので注意を要する。この場

合の,確認事項は風速計の気温測定値である。他の同一場所で時刻が同じ条件の気温の測定値と同じかどうかを

比較する必要がある。

熱式風速計を屋外で使用する場合,天空の熱放射は天候に左右される。快晴時の天空の温度は非常に低いため,

図のような状態で測定するとwの一方が冷やされ,風速は高く示されるので,その場で風杯式やプロペラ式の値

と比較して確認する必要がある。日射を直接wが受けると風速は低い値を示す。

地表面が加熱され温度が高くなっている場合は,風速が低く表示されやすい。特に,前述の事項についてはセ

ンサが露出している形式では誤差が発生しやすい。

以上,基本的注意事項は次のように述べられている場合が多い。

「測定センサは熱的条件が同一になるように測定する。」

2)超音波風速計

超音波風速計の長所としては,3方向の風速成分の測定が可能,微風速3)までの測定が可能,応答性がよく,

風速と出力が直線関係にあり,風速が絶えず変化するような気流中でも測定できることがあげられる。小型の1

軸の超音波風速計が市販され,さらに使用範囲が拡大されつつある。

3方向を検知するものでも受感部間距離が8cm程度と小型化され,比較的狭い空間の測定が可能となった。プ

ローブの形や距離,角度など超音波振動子の位置が校正時と異なると誤差が生じるので,測定機器の移動や電気

的な信号処理に注意する必要がある。力が加わりプローブ間の距離が変化すると誤差が大きくなるので運搬や据

え付けに注意が必要である。また,超音波風速計は微風速域ではゼロ風速まで測定できる。

(3)時定数と精度

精度は,一般用風速計(T8202-1997)日本工業規格1)では,気温と熱放射が等しい時,標準試験温度範囲(18℃

~28℃)で結露しない条件で試験し,許容の風速が表示されることが条件となっている。

熱式風速計の気流温度変化による影響に関する規定として,原理上気流の温度変化が風速指示値に影響を及ぼ

すことが多いため,標準試験温度範囲(18℃~28℃)外の高温または低温の気流を測定できる風速計に対し,気

流温度変化による影響の試験が規定されている。

絶対値法では風洞装置を用い,風速検出部を試験温度と試験風速条件で測定し,風速の基準値との比較で指示

精度を調べる。誤差が0.05m/s以下の場合は,誤差を0.05m/sとする。試験風速は,測定風速範囲内の5点以上

とし,内1点は測定風速範囲の下限と上限の平均値に近く,他の2点はそれぞれ測定風速範囲の下限と上限にな

るべく近いことが示されている。

相対値法は公的機関で目盛が校正された風速計の指示値(基準値)と,試験温度の気流に対する風速計指示値

を比較する方法であり,上記と同様に指示精度を調べる。この方法は各温度での風速計の誤差(風速指示値と基

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準値の差)が明確に求められるので,理想的な試験方法であるとされている。

ただし,温度調節ができる風洞が必要となる。この方法で求めた誤差が許容される範囲では,指示精度の値は

±(指示値の5%+0.lm/s)となることが示されている。

しかし,通常の使用条件では,風の温度が変化した場合のみならず,周囲からの熱放射が気温と異なることが

多く,機器の熱放射をどのように受けるのかをあらかじめ使用機器について確認する必要があると考えられる。

室内気流は常に変動しており,通常は 0~1m/sであり,微風速域を精度よく測定できる機器を選択する必要

がある。評価値で平均風速を測定するには,機器の時定数を設定できる場合は、測定に必要な時定数を設定する。

それ以上の長い時間の平均風速が必要な場合は測定値の時間平均を計算する。仕様書に時定数の記述があるが、

一般に熱式風速計の時定数は2~4秒程度である。

高速で変動する風速の測定や気流の乱れを評価するには,分析したい周波数の周期の2分の1の以下の時間間

隔で測定すること、また、目的の周波数を分析できる時定数を有した風速計で測定しなければならない。JIS で

は一般風速計の応答時間は10秒以下であることとされている。熱式風速計は応答時間が0.2~3sec程度で一般の

測定では十分満足な値が得られる。精度については±0.05m/s と十分な性能を有しているものが多く,JIS の精

度は±(指示値の5%+0.1m/s)とされISO7726のクラスSを満足している。

(4)風速計の校正

一般に風速計を使用する頻度とそのメンテナンスが機器の精度を左右すると考えられる。特にセンサ性能を劣

化させる物質がある環境で熱式風速計を使用する場合は,精度を保持して測定できる期間が短くなるので使用状

況に応じた判断が必要と考える。

校正は初期の校正周期を3か月とする。校正の結果が公差の範囲内であれば調整しなくてよい。次回の校正で

も公差の範囲内であれば,校正周期を50%以内の範囲で延長してよい。公差に適合しないときは校正周期を半分

に短縮して精度保持につとめる必要がある。

風速計の校正には,較正風洞装置が用いられ,気温が均一で放射の影響を受けない環境において風洞や移動台車

に校正する風速計を取り付けて行う。各点の分布を確認した上で,ピトー管や校正済みの風速計を用いて比較す

る。

(5)風向の確認

風速測定機器の主風向をあらかじめ知ることによってセンサの方向を定めることができる。主風向を定める方

法は最高値を示す方向が適切であると考えられるが,目視により風の流れを可視化し,観測しやすくするために,

粒子状物質を流れのなかに流す。また,細く軽い糸やリボン状の繊維を置く方法がある。絹糸の一端を細い棒の

先端に固定すると他方が風下を示すので方向が確認しやすい。これをタフト法という。方向をあらかじめ確認し,

測定機器の風向のマークをこの方向にしたがい測定すると,風の主方向の風速を測定することができる。

また,これをグリッド状に複数配置することで面の風向を確認でき,風速測定機器のセンサの位置決定に役立

つ。煙などが使用しにくい場合は,絹の単繊維やその他,認識しやすい色の軽い繊維の組み合わせを使用すると

風向が確認しやすい。

引用・参考文献

1) 一般風速計: JIS T8202-1997 2)LV. King, Phil. Tran. Roy. Soc. 214,14,p.373,1914

3) 寺尾吉哉:市販微風速計の計測値の信頼性の評価,計量研究所報告,Vol.47, 21-24, 1998

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4.熱放射

(1)一般事項

熱放射とは,対流,伝導と並ぶ,顕熱の移動形態の一つであり,全ての物体は,その物体の表面温度に応じた

放射熱を射出している。室内環境においても例外ではなく,壁・天井・床,窓,照明器具,冷・暖房機器などの

室内を構成する種々の物体表面から放射熱を射出している。その放射熱の表示と単位は,物体表面からの熱流量

である放射熱量[W/m2]または,物体表面の温度である放射温度[℃またはK]として表される。

規準書では,熱放射の測定は,空間のある点に入射する熱放射を直接測定する方法と,空間のある点を囲む周

囲面の表面温度を測定する方法について記述されている。周囲面の表面温度から熱放射環境を把握するための指

標である平均放射温度を算出する際には,室内温熱環境設計学術規準に則り,有効放射面積率や形態係数を用い

て算出する必要がある。

熱放射を直接測定する方法では,グローブ温度計が広く用いられているため,規準書にて,グローブ温度計を

用いた測定方法を示した。グローブ温度計は時定数が大きく,熱放射の変化が大きな環境に用いることは不適切

であるという欠点を解消した高速対応のグローブ温度計1)の開発も行われているが,実験的検証が必要であるた

め,規準書における記述は行わなかった。また,熱放射の不均一さが温熱環境の快適性に影響を及ぼす場合は,

放射収支計2)を用いて熱放射の方向を考慮した熱放射ベクトルを把握する必要があるが,後述する表面温度の測

定により,熱放射を算出する方法を用いて熱放射ベクトルの算出が可能であるため,規準書における記述は行わ

なかった。

表面温度を測定する方法には,センサを物体表面に接触させて測定する方法(接触法)と,センサを物体表面

に接触させず測定する方法(非接触法)があり,接触法では,センサとして気温測定で用いられる測温抵抗体,

サーミスタ,熱電対が,非接触法では,赤外線温度計が用いられているため,規準書にて測定方法を示した。物

体の放射率が不明な場合,曲線部分を有する場合,室内を構成する材料が異なり正確さが要求される場合には接

触法が用いられるが,表面温度を乱すこととなり,特に高精度の測定では注意する必要がある。非接触法は,物

体表面に影響を与えることなく表面温度が測定できるが,測定対象物の放射率が不可欠である。ただし,平均放

射温度の算出など表面温度ではなく黒体としての表面温度が必要な時は,接触法の場合は放射率が必要であり,

非接触法の場合は放射率を1として測定する必要がある。

熱放射の測定は,精度を良くするために複数の測定方法を併用して測定することが望ましいが,図4-1 のフ

ローチャートに沿って,条件に適用した測定方法を選択することが可能である。

図4-1 熱放射を測定するためのフローチャート

熱放射環境の時間的変動または

空間的不均一が大きい グローブ温度計 No

Yes

空間を構成する材料の放射率が

既知

熱電対

No

Yes

赤外線放射温度計

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本解説書では,熱放射測定に広く用いられているグローブ温度計と,表面温度の測定法として,熱電対,赤外

線放射温度計を用いた測定方法について詳細に述べることとする。

(2)測定機器

1)グローブ温度計

放射温度または放射熱量を直接測定する方法では,グローブ温度計が広く用いられている。グローブ温度計は,

直径15cm の表面に艶消し黒色塗料を施した銅板中空球の中心に棒状温度計の検知部を挿入したものであり,無発

熱球の放射と対流による平衡温度を測定するものである。棒状温度計の替わりに,気温測定に用いる測温抵抗体,

サーミスタ,熱電対を用いることによって自動計測を行うことが可能である(気温の章を参照のこと)。以下に

取り扱い上の主な注意事項を示す。

①艶消し黒色塗料が剥がれもしくは汚れたものや形状が変形したものは,正確な示度を示さないため用いない。

②温度計の測温部が球体の中心になるようにゴム栓からの距離を調節し,ゴム栓で球内部の空気を密閉する。

③人体や周囲面からの熱放射を遮蔽するようなものが近くにあると,遮蔽物の見かけ上の大きさ(形態係数)

が大きくなり,グローブ温度計に影響を及ぼすため,測定位置を熟慮する。

④グローブ温度計は,銅の熱容量および球内空気の熱伝達抵抗により,応答速度が比較的遅い傾向があるため,

測定時間に留意する。測定点に設置したのち約15 分経過後から測定することとする。

グローブ温度(tg)と,気温(ta),風速(v)の測定値から,次式によって平均放射温度(tr)を計算できる。

この平均放射温度は,球体に対する平均放射温度であり,人体の形状を考慮した平均放射温度は,後述する表面

温度の測定と,放射率や二面間の幾何学的位置関係から決まる形態係数を用いて算出する必要がある。

tr = tg +2.37√v(tg-ta) (4-1)

ここに, tr: 球体に対する平均放射温度[℃]

tg: グローブ温度[℃]

ta: 気温[℃]

v: 風速[m/s]

温熱環境の評価に用いられる指標については,規準書では対象外であるため記述がないが,簡便的にグローブ温度

計の示度を温熱環境指標として用いることがあるため,温熱環境指標として用いるための条件を追記する。

式(4-1)より,平均放射温度が気温より低い場合には,風速が増すとグローブ温度の示度が高くなり,人の寒暑の体

感と対応しなくなる。そのため,平均放射温度が気温より高いという条件が必要である。

簡易的な作用温度の算出方法として,気温と平均放射温度の平均値を用いることがある。これは,式(4-1)の風速に

0.18m/sを代入することにより式(4-2)のように表すことができるためである。このことより,簡易的に算出された作用温

度は,静穏気流である条件が必要である。

tr = 2tg -ta

tg = ( tr + ta )/2 (4-2)

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2)熱電対

接触法では,安価で比較的精度が良い熱電対が広く用いられている。以下に表面温度を測定する場合に,特に注意

すべき事項を示す(熱電対の種類・径の選択,自作方法などについては,気温の測定の章を参照のこと)。

①熱放射の影響を受けないように,できるだけ細い径(0.1mm~0.2mm 程度)の熱電対を用いる。

②測定位置は,表面温度が異なると考えられる表面ごとに,その表面を代表する点を選択する。大きな壁面では,上

下方向に表面温度が分布している可能性があるため,同一面内で数点測定し,平均値を求めて表面温度とする。

③熱電対の導線を通して熱が伝わるため,径の100~150 倍の被覆を剥がし,測温部の温度が物体の温度と等しくな

るように熱電対の先端部分の測温部から径の40倍以上の長さを,測定する物体に確実に貼り付ける。先端部が剥がれ

ないように熱電対を測定点から約20cm,表面に沿って這わす。

④出力信号記録計(データロガ)との接続は,熱電対が露出している場合や被覆の絶縁抵抗が低下した場合に

は,熱電対にノイズ(対地雑音電圧や漏洩電流)が混入する可能性があるため,裸線ではなく電気絶縁性をも

ったコードを使用するのが望ましい。

3)赤外線放射温度計

非接触法では,赤外線温度計が広く用いられている。赤外線温度計には,表面のある点を測定するハンディ型

と,表面の温度分布を測定できるサーモグラフィ(熱画像)型の装置がある。以下に取り扱い上の主な注意事項

を示す。

①赤外線を測定するセンサは,赤外線の波長により感度が異なるため,測定する表面温度の波長域の感度が十

分である機器を使用することが望ましい。

②測定する物質の放射率を予め測定機器に入力する必要があるため,規準書の表などから放射率を知る必要が

ある。放射率が既知ではない時やサーモグラフィ型の測定機器で測定する一画面上に放射率の分布がある時は,

放射率を1として測定し,後に修正を加える。

③測定原理上,測定機器の温度を一定に保つほうが表面温度の測定精度を高めるため,本体部分を手などで保

持するのではなく,三脚などに固定して測定したほうが望ましい。同様な理由から,日射を当てないようにす

るなどの配慮が必要である。

さらに,サーモグラフィ型の装置の場合は,以下の取り扱い事項に注意すべきである。

④温度変化の激しい環境では誤差が生じやすいため応答速度の速い赤外線温度計を使用することが望ましい。

⑤測定対象の放射の迷光やゴーストが測定画面に写りこむことを防ぐ工夫が必要である。

赤外線放射温度計は,物体表面の温度を測定する機器ではあるが,実際の物体表面の放射率は1より小さく,

反射率が0ではないので,他面から入射する放射熱量を受ける。そのため,正確な温度を測定するには,測定対

象物の表面からの放射熱量を,放射率により補正する必要がある。物体の放射率は赤外線の波長,方向や表面の状態

により異なるため,放射率を同定するには注意が必要であるが,室内環境(短波長域の熱放射の割合が小さい)

の場合は,波長によらず放射率が等しい完全黒体または灰色体とみなし,規準書に示された各材料表面の放射率

の値が良く用いられている。

平均放射温度の算出を目的とする場合には放射率1で測定し,放射率が既知でない物や放射率の異なる物体を

組み合わせた対象物は接触法による温度測定との併用が必要である。

校正方法は,規準書で述べられている標準黒体を用いて校正されるべきであるが,測定者自身が校正を行うこ

とは難しいと考えられる。そのため,接触法との併用により,測定値の信頼性を高めることが重要である。

(3)簡易的な校正法 グローブ温度計の温度計と熱電対については、気温の章の簡易な校正法で述べてあるため、ここでは赤外線放

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射温度計について述べることとする。校正方法は、規準書で述べられている標準黒体を用いて校正されるべきで

あるが、測定者自身が校正を行うことは難しいと考えられる。そのため、放射率を簡易的に測定する JIS7)の測定方法の装置を用いて、放射率が既知である試料を測定することにより、赤外線放射温度計の校正が可能である。

引用・参考文献

1) 梶井宏修:高速応答新型グロ-ブ温度計,日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿),

pp.295-296,1987,10

2) 日本建築学会:建築環境工学実験用教材Ⅰ環境測定演習編,丸善,1982

3) 空気調和・衛生工学会空気調和設備委員会温冷感小委員会:温冷感シンポジウム温熱

環境測定法,1992

4) 日本建築学会環境工学委員会熱環境運営委員会:第23 回熱シンポジウム「温熱環境評

価の諸問題」,1993

5)熱環境測定法(熱放射)シンポジウム:熱環境測定法熱放射,1997

6)温度計測部会編:温度計測,(社)計測自動制御学会,1981

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5.データ収録

(1)一般事項

近年,ICメモリーに測定データを記憶させた後に読み出す形式や,測定と同時に値を表示するものがある。各

種センサ出力の形式では電圧がベースになるが,抵抗が変化することにより温度に変換するサーミスタや測温抵

抗体,電圧が出力になる半導体温度計,また,熱起電力の基準温度に相当する電圧を加える方式の熱電対入力な

どは,端子台の温度を検出し,相当する電圧を与えて差の電圧を熱電対の種類ごとに温度に変換して記録する。

基本的には精度良く電圧を測定することが重要である。

一般の電圧ロガの応答速度で穏やかな温度変化を測定する場合は問題にならないが,風速の速い変化を測定す

る場合はセンサの応答との関係で十分な精度が得られない場合がある1)。また,デジタルデータ信号の取り込み

時と次の取り込み時の間の変化は全く測定されないので,変化が捕らえられる短いサンプリング周期で,信号を

取り込むか,アナログの信号を積分してその間の変動をもらさず測定する方法が望ましい場合もある。

温度・電圧ロガは小型から据え置き型,高速の記録が可能なタイプ,0.5 秒に1回程度の低速でデータを記録

する形式は精度が高いなど,特徴や用途に応じて選択することができる。温度・電圧ロガの精度について,電圧

および外部に基準接点を置いた温度測定においては起電力によるエラーは少ない。しかし,内部基準接点補償を

含めた測定の場合,一般的に入力端子付近にある基準接点の温度を正確に測定する方法では,端子台の温度分布

などの影響によって精度向上が難しい場合が多い。温度補償は入力ボードに1点程度であり,数点を代表した温

度として用いるため,入力端子台の各点の温度分布の差が各入力点の誤差となる。一般に使用されているロガは

ほとんどがこの形式でPCに接続して使用する場合が多く誤差が生じやすい。これらの誤差を最小にするために各

点の入力端子の温度が同じになるよう熱伝導の良い金属で端子台を覆うようにし,端子ハンダの位置を温度差が

生じないように内部にして,取り付ける接点部分に熱起電力が少ない金を用いた測定機器2)もみられる。

(2)測定機器

温度入力は熱電対 JIS C1602-1995,測温抵抗体JIS C1604-1997を基本として,各種センサに対応した規格が

ある。我が国における電圧の国家標準は国家標準は総務省産業総合研究所(旧通産省工業技術院電子技術総合研

究所)や日本電気計器検定所を一次標準とし,これらの各校正機関が認定した業者による二次標準を経て各種の

標準電圧発生器が販売され,これら標準電圧発生器によりデータロガは校正される。

一般に,精度は比較する規準電圧の精度に左右され,高精度型は高速型より速度が下る傾向がある。低電圧の

測定は,端子の温度差により熱起電力の影響を受けやすいため,測定には端子の温度を同じにする注意が必要で

ある。

(3)精度等の向上のために

温熱環境要素測定値が精度よく測定されることによって,測定値の評価および環境制御が可能となる。精度等

の向上のためには供給する電源電圧の安定化が最も重要であり,高調波や低調波の影響の防止対策が必要である3)。データの欠測防止のため,一定電圧発生装置を内蔵したものや無停電電源装置を使用するなどの安全対策が

求められ,信号を有線または無線で送る場合には特にスパイクノイズの防止が重要である。現在では,光通信技

術により安定した測定信号の伝送が可能であり,インターネットを利用しての計測制御も可能である。

1)計測間隔と変動パターンの認識

A/Dシステムのサンプリング間隔が入力信号の周波数より低い場合には,測定された信号波形は正確に信号

を表示しない1)。この事象を「エイリアス」という。

図 5-1はエイリアスの発生概要を示す。通常,その信号を再現するには,測定しようとしている信号波形の

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最高周波数の少なくとも2倍の周波数でサンプリングする必要がある。10Hzのアナログ信号を正確に測定するた

めには,最低20Hz以上の周波数でサンプリングしなければならない。緩やかな変動でも同様のエラーが発生する

ので注意を要する。ロガによってはエイリアスが発生しない回路を組み込んだ高級品もあるが30秒や1分以上で

はその間の補正は有効でないので,十分短い測定間隔で測定した値を数値処理して平均値や標準偏差を求めるこ

とが望ましい。変動は少ないが,突発的に値の上昇や下降が起こる場合は,その他の方法としてアナログで積分

記録する方法がある。これは,測定した次のサンプリング時刻まで,常時,アナログ信号を積分し,データを取

り込む。この値は積分した時間に応じて平均値として取り扱うことができる。したがって,定常的な変動をも含

め,精度良く平均値を求める方法と考える。

2)ノイズ

アースは大地に接地することを意味し,大地とセンサの間の電圧をゼロとすることで,センサの値のみの測定

値が示されると考えて良い。

データロガを使用する場合は十分アースを取る必要がある。アースがなければコンセントの分電盤などのアー

スを確認し,これに接続することで、接続部位の電位をアース電位と同じにすることが出来る。したがって、測

定端子とアースの間に電流が流れていないかマルチメータなどで測定する注意が必要である。これは,特に熱電

対や微弱な電圧を測定する場合,導電性センサが裸の場合には金属を介して電流が流れ,測定端子とアースの間

の電圧を合わせて測定するので正しい計測ができないからである。

測定点とロガの間が長くなり,その間にモータをはじめとする磁界が発生するものがある場合や,スパイクノ

イズの発生源がある場合は,これを除去しなければデジタル測定の場合には大きな測定誤差を生じる。信号線に

ツイストペアー線を用いると互いに磁界をうち消す方向に磁界が発生するため,影響が少なくなる。また,静電

誘導を最小限にするためにはシールド線を使うことが望ましい4)。 センサのゼロ電位の出力を確認する方法として,単に測定機器の接続端子台の近くでショートさせてゼロの電

圧を確認して,補正することでエラーが多くなることもある。接続されるセンサの抵抗が大きい場合,例えば測

定器までの距離を延長して,数百オーム抵抗がある線を使用した時は相当する抵抗器を測定端子に接続して,ゼ

実際の波形

測定波形

時 間

サンプリング周波数によって波形が異なって測定されることになる

実際の波形

測定波形

時 間

サンプリング周波数によって波形が異なって測定されることになる 図 5-1 エイリアスの発生概要

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ロの電圧を示すかを確認し,その値を補正する必要がある。測定センサをはじめ測定機器が準備できれば一応「値」

は測定できるが,それらの信頼性向上には各要素の的確な要求に答える測定手法を考慮する必要がある。各種要

素を比較しようとしても測定の手法が大きく異なっていれば,比較ができず十分な情報を得られない結果となる。 3)その他(測定に影響を与える要因) 国際温度目盛ITS-90(1990年国際温度目盛)が1990年1月1日より採用された。温度の概念は熱力学温度が

基本であるが,熱力学温度の絶対測定ができないので測定技術の進歩と共に国際温度目盛を熱力学温度に近づけ

る改善を繰り返していることになる。

温度の校正は校正装置による定点法が一般的で,簡易的には氷点,水の沸点などがある。氷点は標準大気圧下

において水と氷の平衡状態を保ち,取り扱いに注意すれば±0.03℃の精度が得られる。一般的なロガの精度は熱

電対では±0.5℃から±0.2℃が多く,実際の測定では,端子温度や回路基板の温度の不均一により測定値の乱れ

は大きくなる。

測定機器の精度としては,ほとんどが機器を均一な温度環境において温度変化がない時,すなわち,端子台も

内部の配線も全て同じ温度になっている時に上記の精度が保証されることになっている。したがって,測定精度

を保つには使用者の注意深い温度管理が必要である。

水の沸点は大気圧による依存が大きく,正確さに難点が指摘されているが,補助的な定点として認知されてお

り,101.325kPaの水蒸気と水の平衡状態で99.974℃になる。また,沸点の温度変化は133Paの圧力変化に対して

約0.04℃の差を生じる。しかし,これらの精度を考慮し,測定する場合は温度差の測定を行い,出力信号を1000

倍程度まで増幅する方法などを用いることで変化を記録することが可能である。

(4)温度・電圧ロガの温度校正

電圧ロガとして使用する場合の電圧の測定値の校正は,電圧発生装置を用いて標準値と比較する方法が簡便で

ある。

ロガの温度校正は,はじめに熱電対の熱起電力特性を調べること,次にロガのデータ値を調べることである。

熱電対の校正とは,熱起電力特性が基準熱起電力に対してどの程度の偏りがあるかを正確な温度値を被校正熱

電対に与えて試験をするもので,基準の熱電対は定点法,金属線溶融法(ワイヤー法),比較法などで校正を行う。

ロガの校正では,温度に変換されたデータ値が熱起電力に対しての精度があるかを,標準電圧発生装置を用い

て使用する熱電対の種類に応じた熱起電力に相当する正確な電圧を発生させて校正する。

ロガは内部基準接点補償をしているので,入力電圧ゼロを与えた場合は,基準出力信号は接点補償の温度を示

すことになる。標準計測器で所定の電圧を与える場合,基準接点補償法による次の校正方法がある。

均一な温度環境に置かれ,ロガの入力端子温度が正確に測定されている場合には,校正する温度の熱電対の熱

起電力に相当する電圧から,標準電圧発生装置で使用熱電対の基準接点温度に相当する熱起電力を差し引いた電

圧を与えて校正する。

外部の基準接点補償を用いる方法では,氷点式基準接点,電子式基準接点または安定した温度の規準を用い,

ロガに校正済みの使用熱電対と同じか,または同種の熱電対用補償導線で接続し校正する。

標準電圧発生装置は,任意の電圧を設定すると値の±0.02~0.05%程度の精度で電圧を発生する。電圧発生器

の機種によっては,熱電対を指定して温度を設定すると,対応する規準熱起電力を発生させる。

外部に基準接点をおいて温度を電圧で読み取り,校正する方法では,正しく目盛を校正すれば測定器側に起因

するエラーは少ない。一方,内部基準接点補償を含めた校正の場合,一般的に入力端子台や基板の付近に置いた

基準接点の温度を正確に測定する方法では,端子台の温度分布,センサの熱容量の差などの影響によって,出力

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している基準電圧が一致しないため値が異なり,校正が難しい場合が多い。また,入力端子台の個々の温度が異

なる場合が多く,これが原因で各入力の誤差となる。

熱電対を指定して温度を設定すると,対応する規準熱起電力を発生する標準電圧発生器でも,センサをロガ毎

に異なる位置にある基準接点センサと同位置に取り付けることが困難であり,小型のガード型ロガの温度差など

もこれらが原因となっていることが多い。

A/D変換機器の特性から変換速度もしくは精度を求めるか,測定目的にあった精度を有する機器を選択する必要がある5)。 測定に関し注意項目の一例を次に示す。

①電界および磁界などの影響を軽減するには電気の流れが反対になる対の線が互いにねじれた線(ツイストペ

アー線)を用いるのがよい。平行線で測定するより、ノイズ信号の割合が少なくなる。

②各測定機器を一点アースとすることにより測定誤差は軽減される。そのためにもセンサ類の絶縁が有効であ

る。

③計測器と測定点までの距離が長く100m を超える場合は,誘導ノイズの影響を受けやすい。測定点とロガ

の間が長くなると,その長さによる抵抗に測定機器の入力端子間に流れる電流を乗じた電圧が発生するので,抵

抗が少なくなるようにできる限り線の長さを短くする。

④熱起電力の発生を押さえるために,測定器の温度はリード線も含めて温度が等しくなるように設置する。熱

電対を利用した温度測定などでは,端子台の温度が全て同じでなければ正しい値を表示しないので,測定接続端

子台の温度が同じになるようにする。

引用・参考文献

1)村瀬敏治:PCにおけるデータ収録システムでの正確な測定、熱環境測定法-電圧・温度ロガ-、熱環境測定

シンポジウム、pp.11-20、1998.5

2)神田宏樹:据え置き型ロガーの現状と今後の展開について、熱環境測定法-電圧・温度ロガ-、熱環境測定

シンポジウム、pp.5-9、1998.5

3)鈴木隆、竹腰守、松戸修、松田博文:実用A-D変換回路徹底研究、トランジスタ技術、pp.428-510、1990.12

4)梶井宏修:熱電対利用による表面温度測定、日本建築学会環境工学委員会熱運営委員会、第8回熱シンポジ

ウム報告集、pp.5-16、1978.8

5)相良岩男著:A/D・D/A変換回路入門、 日刊工業新聞社、pp.114‒128,2004.9