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電力中央研究所報告 Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 の熱疲労 寿命評価 キーワード:先進超々臨界圧,ニッケル基超合金,熱疲労,寿命評価 報告書番号:Q15005 Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 は,先進超々臨界圧発電プラント(A-USC)の 有力な候補材料である.しかし,現在の 600℃級 USC プラントに対し A-USC での蒸気 温度は 700℃以上が指向されており,且つ Ni 基合金の熱膨張率も従来のフェライト系耐 熱鋼より大きいことから,厚肉部に適用した場合発生する熱応力が大きくなる可能性が ある.さらに,負荷調整用にプラントが頻繁に起動停止すると,温度変化に伴う熱疲労 損傷 1が大きくなる.したがって,A-USC プラントの実機部材としての健全性を確保 するためには,熱応力による疲労損傷を精緻に評価しなければならない. Alloy 740H および Alloy 617 の熱疲労試験条件下での変形および寿命特性を把握する とともに,高精度な熱疲労寿命評価法を検討する. 主な成果 Alloy 740H および Alloy 617 の薄肉円筒試験片を用い, 300-700℃の温度範囲, 0.01%/s 下での熱疲労試験を実施し、以下の知見を得た。 1)ひずみ範囲 0.7%Alloy 740H)および 0.5%Alloy 617)において,同位相 2の熱疲労寿命は逆位相 3と大きな差はなかったが,ひずみ範囲 1.0%Alloy 617)では 逆に短くなった.また,両材料ともに逆位相での熱疲労寿命は 700℃での等温疲労寿命 とほぼ同程度であった(図 1). 2Alloy 740H 300℃では繰返し硬化し,700℃では逆に繰返し軟化した.同位相お よび逆位相での寿命中期の応力-ひずみ関係は 300℃での結果と一致した.一方,Alloy 617 はいずれの温度でも顕著な繰返し硬化挙動を示したが,寿命中期の応力は 700℃の方 300℃より大きかった.また,同位相および逆位相での寿命中期の応力は 700℃での結 果より大きかった(図 2). 3700℃での等温疲労寿命を基準とし,ひずみ範囲およびひずみエネルギーの熱疲労寿 命評価への適用性を検討した.その結果、ひずみ範囲では、高ひずみ範囲の同位相での 疲労寿命を短寿命側に評価する傾向を示したが、ひずみおよび応力を考慮する全ひずみ エネルギー(WT)では、両材料の熱疲労寿命を良好な精度で推定することができた(図 3). 今後の展開 今後,クリープと疲労の重畳する負荷条件下での挙動を把握するとともに,高精度な クリープ疲労寿命評価法を開発する.

Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 · Alloy 740HおよびAlloy 617の熱疲労試験条件下での変形および寿命特性を把握する とともに,高精度な熱疲労寿命評価法を検討する.

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Page 1: Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 · Alloy 740HおよびAlloy 617の熱疲労試験条件下での変形および寿命特性を把握する とともに,高精度な熱疲労寿命評価法を検討する.

電力中央研究所報告

Ni基合金Alloy 740HおよびAlloy 617の熱疲労寿命評価

キーワード:先進超々臨界圧,ニッケル基超合金,熱疲労,寿命評価 報告書番号:Q15005

背 景 Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 は,先進超々臨界圧発電プラント(A-USC)の

有力な候補材料である.しかし,現在の 600℃級 USC プラントに対し A-USC での蒸気

温度は 700℃以上が指向されており,且つ Ni 基合金の熱膨張率も従来のフェライト系耐

熱鋼より大きいことから,厚肉部に適用した場合発生する熱応力が大きくなる可能性が

ある.さらに,負荷調整用にプラントが頻繁に起動停止すると,温度変化に伴う熱疲労

損傷注 1)が大きくなる.したがって,A-USC プラントの実機部材としての健全性を確保

するためには,熱応力による疲労損傷を精緻に評価しなければならない.

目 的

Alloy 740H および Alloy 617 の熱疲労試験条件下での変形および寿命特性を把握する

とともに,高精度な熱疲労寿命評価法を検討する.

主な成果

Alloy 740H および Alloy 617 の薄肉円筒試験片を用い,300℃-700℃の温度範囲,0.01%/s

下での熱疲労試験を実施し、以下の知見を得た。

(1)ひずみ範囲 0.7%(Alloy 740H)および 0.5%(Alloy 617)において,同位相注 2)で

の熱疲労寿命は逆位相注 3)と大きな差はなかったが,ひずみ範囲 1.0%(Alloy 617)では

逆に短くなった.また,両材料ともに逆位相での熱疲労寿命は 700℃での等温疲労寿命

とほぼ同程度であった(図 1).

(2)Alloy 740H は 300℃では繰返し硬化し,700℃では逆に繰返し軟化した.同位相お

よび逆位相での寿命中期の応力-ひずみ関係は 300℃での結果と一致した.一方,Alloy

617 はいずれの温度でも顕著な繰返し硬化挙動を示したが,寿命中期の応力は 700℃の方

が 300℃より大きかった.また,同位相および逆位相での寿命中期の応力は 700℃での結

果より大きかった(図 2).

(3)700℃での等温疲労寿命を基準とし,ひずみ範囲およびひずみエネルギーの熱疲労寿

命評価への適用性を検討した.その結果、ひずみ範囲では、高ひずみ範囲の同位相での

疲労寿命を短寿命側に評価する傾向を示したが、ひずみおよび応力を考慮する全ひずみ

エネルギー(WT)では、両材料の熱疲労寿命を良好な精度で推定することができた(図 3).

今後の展開 今後,クリープと疲労の重畳する負荷条件下での挙動を把握するとともに,高精度な

クリープ疲労寿命評価法を開発する.

火 力 発 電

Page 2: Ni 基合金 Alloy 740H および Alloy 617 · Alloy 740HおよびAlloy 617の熱疲労試験条件下での変形および寿命特性を把握する とともに,高精度な熱疲労寿命評価法を検討する.

注 1)熱サイクルと外力が重畳して破損する現象であり、熱機械的疲労とも呼称される. 注 2)温度と機械的負荷の位相が同じである熱疲労試験. 注 3)温度と機械的負荷の位相差が 180°である熱疲労試験.

研究担当者 張 聖徳(材料科学研究所 構造材料領域)

問い合わせ先

電力中央研究所 材料科学研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected]

ひずみ振幅 a, %

応力振幅 a

, MP

a Alloy 740H

300℃ 700℃ 同位相 逆位相

第1サイクル

寿命中期

Alloy 617

ひずみ振幅 a, %

応力振幅 a

, MP

a

300℃ 700℃ 同位相 逆位相

第1サイクル

寿命中期

ひずみ範囲

M,

%

○:平滑試験片,700℃ □:薄肉円筒試験片,700℃ △:薄肉円筒試験片,同位相 ▽:薄肉円筒試験片,逆位相 実線:700℃での疲労寿命回帰線

Alloy 617

ファクターオブ 2

疲労寿命 Nf

全ひずみエ

ネルギー W

T, M

Pa

Alloy 617

ファクターオブ 2

○:平滑試験片,700℃ □:薄肉円筒試験片,700℃ △:薄肉円筒試験片,同位相 ▽:薄肉円筒試験片,逆位相 実線:700℃での疲労寿命回帰線

疲労寿命 Nf

ひずみ

応力

全ひずみエネルギー

(WT)

図 2 Ni 基合金の熱疲労変形特性

図 3 ひずみ範囲およびひずみエネルギーによる Ni基合金の熱疲労寿命評価(Alloy 617)

図 1 Ni 基合金の熱疲労寿命と等温疲労寿命との比較

逆位相

温度

機械的ひずみ

時間

同位相

温度

機械的ひずみ

時間

M=0.5% M=1.0% ひずみ範囲

Alloy 617 等温疲労、300℃等温疲労、700℃熱疲労, 同位相

熱疲労, 逆位相

M=0.7% ひずみ範囲

Alloy 740H

疲労寿命 N

f

等温疲労、300℃等温疲労、700℃熱疲労, 同位相

熱疲労, 逆位相

報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。

[非売品・無断転載を禁じる] © 2016 CRIEPI 平成28年4月発行