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文部科学省科学研究費助成事業「新学術領域研究」 領域略称:「配位アシンメトリ」 (平成 28-32 年度)領域番号 2802 配位アシンメトリー 対称配位圏設計と異方集積化が拓く 新物質科学 News Letter Vol. 9 February, 2018 Contents: ・研究紹介 A01 公募研究者 阿部 肇(富山大学大学院医学薬学研究部) 石田 真敏(九州大学大学院工学研究院応用化学部門) A02 公募研究者 稲見 栄一(千葉大学大学院工学研究院) 國武 雅司(熊本大学 先端科学研究部) A03 公募研究者 猪熊 泰英(北海道大学大学院工学研究院) 今村 穣(首都大学東京 理工学研究科) A04 公募研究者 小島隆彦(筑波大学数理物質系) ・トピックス 1)研究業績

NL vol9 51 「 配位アシンメトリー 」 News Letter Vol.9 201年2 v2 ¥$Î/ 研究紹介 スト非対称が スト研究 阿部 肇 富山大学大学院医学薬学研究部(薬学系)・

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文部科学省科学研究費助成事業「新学術領域研究」

領域略称:「配位アシンメトリ」 (平成 28-32 年度)領域番号 2802

配位アシンメトリー:

非対称配位圏設計と異方集積化が拓く

新物質科学

News Letter Vol. 9 February, 2018

Contents:

・研究紹介

A01 公募研究者 阿部 肇(富山大学大学院医学薬学研究部)

石田 真敏(九州大学大学院工学研究院応用化学部門)

A02 公募研究者 稲見 栄一(千葉大学大学院工学研究院)

國武 雅司(熊本大学 先端科学研究部)

A03 公募研究者 猪熊 泰英(北海道大学大学院工学研究院)

今村 穣(首都大学東京 理工学研究科)

A04 公募研究者 小島隆彦(筑波大学数理物質系)

・トピックス

1)研究業績

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❖研究紹介

スト 非対称 が スト 研究

阿部 肇

富山大学大学院医学薬学研究部(薬学系)・

A01 公募研究者

超分子化学の中に、ホスト・ゲスト化学と呼ばれる分野がある。そ

こでは、ある化学種を標的のゲストとし、それを認識、捕捉できるホ

スト分子を設計・開発し、会合体の高次構 の変化を追跡する。

本研究では左図1のように、側鎖に配位部位を導入した「ピリジ

ン-フェノール交互型フォルダマー[1]」を作り、内孔の糖質ゲスト

を入れ替えると錯体上の立体が制御できる系(左下図2)、すなわ

ち「糖質ゲスト → フォルダマーのらせん → 側鎖の錯体部位」と

非対称性が伝播する機構を構築する。このフォルダマーの主鎖は強

く糖質ゲストを認識することはすでに報告した (会合定数 Ka = 1 × 107 M−1 以上)[2]。その誘導体を合成し、ゲストとなる糖質、錯体中

心となる金属などをさまざまに振り、らせん構 のキラル特性、金

属を中心とする錯体部位のキラル制御や特性を調べる。実際に合成

したフォルダマー(図1、n = 5, R = I)を用いて定性的な実験を行ったところ、糖認識により誘起され

る CD スペクトル上に、金属塩の添加効果が CD の増強や消失、赤方偏移として現れた(図3)。

脚注・参考文献 [1] フォルダマー (foldamer) とは、一定の剛直性を持つポリマーやオリゴマーで、折りたたまれた (folding) ような高次構 をとるものをいう。本研究ではらせん構 をとるフォルダマーを扱う。 [2] Ohishi, Y.; Abe, H.; Inouye, M. Chem. Eur. J., 2015, 21, 16504−16511.

図1 配位性部位を側鎖に 持つフォルダマー

図2 糖認識によるらせんと錯体部位の制御系 図3 フォルダマーとオクチルグルコシドとの会

合体の誘起 CD に対する金属塩の添加効果 Foldamer (0.12 mM), octyl glucoside (0.60 mM), metal salt 15 eq, DCE, 25 °C, 1 mm.

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大 配位アシンメトリー

石田 真敏

九州大学大学院工学研究院応用化学部門・ シス 科学 ン ー

( )・助

A01 公募研究者

ヘリカル/らせん/メビウスリングなどの連続的に変化する形状の数学的幾何学理論に基づく物質科

学、およびその形状特有の高度機能を発現する分子科学が近年目覚ましく発展している。これらの

トポロジカルな構 モチーフを巧みに利用したキラル分子材料は、空間・次元性といった立体的概

念の研究を介して、キラルセンサー、強誘電性液晶ドーパント、不斉合成触媒等の特異なキラルマ

テリアル応用への道が拓かれつつある。 このような背景の下、本研究者が着目したのは、設計

自由度の高いπ共役分子を母骨格とした金属配位部位

を有するヘリカル分子である。本研究者らは、これまで

含窒素π共役系環状分子である「ポルフィリン」分子を

基盤とした新規π共役化合物の合成およびその光・電子

物性の評価、応用展開を行ってきており、特に巨大π電

子骨格を金属配位子として 大限利用することで、長寿

命近赤外発光性化合物や安定開殻ラジカル分子など、

「環拡張ポルフィリン(左図:5 つ以上のピロール環か

ら構成される巨大ポルフィリン誘導体)」を基盤とした

機能性π電子化合物の創製研究を推進してきた。[1]

本領域研究では、このような柔軟なπ共役骨格を三次

元的に捉え、金属イオンの配位によって、分子固有のπ軌道の重なりと形状を制御し、8 の字/メビ

ウス/らせんキラル構 に由来する特異な近赤外キラル光物性を発現

させることを目指している。現在までに 8 の字型オクタピロールπ

共役骨格を利用したレドックス活性な分子(右図)のキラル近赤外光

物性 [2]や、環状π共役構 の切断・結合の組み換えにより得られる

酸応答型ヘリカルBODIPY二量体の近赤外キラル光学材料創製につ

いて報告している。[3] これらの設計指針に基づいて、精密に制御さ

れたアシンメトリーなπ共役配位構 と近赤外光物性との相関につ

いて明らかにし、高次機能性化合物の創製に挑戦する。 [1] Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 7323; Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 12045; 他

[2] Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 14252. [3] Chem. Eur. J. 2018, in press.

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❖研究紹介

・ ク ス ー 化

稲見 栄一

千葉大学大学院工学研究院・

A02 公募研究者

本研究では、分子やナノクラスター(数個~数百個の原子・分子の集合体)に特定の機能を持たせ、

さらに、それらを組織化させることで高次機能の創出を目指している。このナノ機能デバイス実現

には、分子・ナノクラスター一つ一つの構 ・電子的性質およびそれに付随した特性(機能)を明らか

にする必要がある。さらに、それらを基板上で高度に集積化する技術も重要になる。このような研

究では、走査プローブ顕微鏡(SPM)が強力なツールになる。その理由は、SPM が物質表面を原子ス

ケールで観察できるだけなく、表面の原子や分子を個々に操作(原子・分子操作)できる点にある。 執筆者らはこれまでに、原子・分子操作を活用して、個々の原子からサイズ・組成が単原子レベル

で明確なナノクラスターを組み立て、それを室温ナノスイッチ素子として制御することに成功して

いる 1)。興味深いことに、このスイッチ動作におけるナノクラスターのペアはキラルの関係にある

(図 1)。つまり、SPM を活用することで、単一ナノクラスターのキラル変換を制御し、それを"その

場観察"できる。一方、実用的な分子デバイス実現という観点から、室温環境で安定な分子膜作成の

研究も行っている。一般に、分子を担持させる金属基板には貴金属が用いられる。この場合、基板

に物理吸着した分子は秩序膜を形成するが、室温では分子レベルで膜成長/崩壊が生じる 2)。そこで

近執筆者らは、スピントロニクスへの応用の観点から注目されている磁性金属[Fe(001)]基板 3, 4)

を活用して、有機分子の膜成長を試みた。その結果、SPM 観察から、π 共役分子(フタロシアニン)

が、室温で極めて安定な自己組織化単分子膜を形成することを見出した 2) (図 2)。今後は、上記のキ

ラルスイッチ素子を対象としたエナンチオ選択的な化学反応の研究、自己組織化の研究も進めて、

ナノクラスターを機能単位とした超大容量不揮発性メモリの創製を目指したい。 1) Nature Commun. 2015, 6, 6231. 2) Sci. Rep. 2018, 8, 353. 3) Nature Nanotech. 2011, 6, 185. 4) Phys. Rev. B 2016, 94, 195437.

図 1 キラルスイッチ素子 図 2 室温環境で安定な自己組織化単分子膜

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❖研究紹介

化 配位アシンメトリー 成

國武 雅司

熊本大学 先端科学研究部

A02 公募研究者

多孔性配位高分子(PCP)・金属有機構 体(MOF)を固体基板に固定化した SURMOF は、電極触

媒やナノデバイスへの応用が期待されている。高度な規則性を持って基板表面に固定された配位高

分子は、それ自体が配位アシンメトリーと言える。幾つかの SURMOF 構築の方法論が報告されて

いるが、我々は SURMOF 作成手法として、基板表面での"その場"再結晶化法を開発してきた。リ

ガンドと競争的に配位可能な揮発性分子(酢酸など)の共存下、熱処理することで、配位高分子の

再結晶を促す手法である。基板表面に塗布した MOF プリカーサを、平衡性を高める雰囲気下で熱

処理することで、広いスケールで規則性を維持した配位高分子構 (二次元 MOF ナノシート)を

自己組織的に成長させることができる。この配位高分子構 体のエピタキシャル成長技術を利用し

て、基板集積によるアシンメトリー配位高分子を研究している。 図1に酢酸雰囲気下での再結晶化に基づいて結晶性グラファイト基板表面上に構築したテレフ

タル酸(TPA)と銅イオンの SURMOF ナノシートの AFM 像の例を示した。単なる熱処理や水蒸

気下の熱処理とは異なり、酢酸平衡化処理では劇的に構 が変化し、MOF ナノシート構 が生じ

る。配位子交換 度を高めた平衡化処理によって生じる SURMOF ナノシートの形態は再結晶化条

件により大きく変化する。処理温度が高すぎると、生じたナノシートからの金属イオンの引き抜き

が起こり、虫食い状の構 が生じる。被覆率が低い時には小さな島状のナノシートが生じ、大きな

シートに成長できない。適当な処理温度まで平衡化条件を下げると、生じたナノシートのヘリの部

分でのみ、乖離と配位が起こるようになり、大きな MOF ナノシートへと成長させることができる。

さらに平衡処理条件そのものだけではなく、構 を固定化させるクエンチプロセスも重要である。

反応温度を徐々に下げてクエンチ

するよりも、酢酸を抜くことで平衡

を止める方が、二次元 MOF ナノシ

ートの成長制御において効果的で

あった。リガンドや金属イオンの種

類の違いにより、 適な平衡化温度

域は大きく異なっていたが、シート

構 の形態を制御する温度傾向は

一致しており、古典的な結晶化理論

に基づいた核発生と核成長のプロ

セスで理解することができる。

顔写真 約 4cm×3cm

図1 再結晶化条件の違いにより生じるTPA-Cu系 SURMOFナノ

シートのバリエーション

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リ ン配位 アシンメトリック

猪熊 泰英

北海道大学大学院工学研究院・

A03 公募研究者

錯体が作り出す空間・空隙へのゲスト分子の取り込みは、吸蔵や分離といったバルクでの応用を

経て、近年では分子の精密な配向や反応性の制御にまで展開されている。筆者らのグループでは、

細孔性の錯体単結晶内へ微量の分子を取り込み規則正しく配向させることで、それらの分子構 を

単結晶 X 線構 解析により決定するという解析手法の開発を行ってきた 1)。このとき、キラルな分

子が上手く配向することで絶対構 解析を行うことも可能になっている。このような応用において

重要となるのが、空間による分子認識である。すなわち、錯体骨格とゲスト分子間で非共有結合性

相互作用を駆使して錯体外部からゲスト分子の選択的取り込み、配向の制御まで行うしくみが必要

不可欠となる。そして、その中でも特に難しいのがエナンチオマーを認識して見分けることである。 筆者らは、D-マンノースを構成要素にした細孔性錯体結晶を合成することで、細孔性単結晶内に

キラルな分子認識空間を作り出し、プロピレンオキサイドの2つのエナンチオマーをそれぞれ異な

る位置に異なる配向で取り込み、絶対構 を単結晶 X 線構 解析で決定することに成功している2)。しかし、このキラル細孔は孔径が小さいため、より大きなキラル分子を取り込み配向制御する

ためにはキラル分子認識空間の新たな設計指針が必要になっている。 そこで筆者らは、タンパク質の induced-fit に似た強い分子認識を錯体空間で実現するために、よ

り柔軟な配位子を使って空間・空隙を作り出すことを発想した。しかし、柔軟な配位子では強い分

子認識が誘起できる反面、固体中で密にパッキングした分子性錯体となり大きな空隙が出来にくい

というデメリットがある。この問題を解決するために、柔軟な脂肪鎖上に多くの弱い配位性官能基

を配置することで配位空間を作

り出す取り組みを行っている。現

在、脂肪族ポリカルボニル化合物

を原料に、複数イソピラゾールを

ユニットが柔軟なアルキル鎖で

連結された脂肪族ポリイミン配

位子の合成に成功している。この

柔軟多点配位子を用いて、新たな

アシンメトリック分子認識空間

の構築を目指している。 1) Nature 2013, 495, 461-466. 2) Chem. Commun. 2016, 52, 7013-7015.

1. (a) 用 と

(b)本研究 配位 用

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❖研究紹介

一 理計 ・ ー 科学が 非対称配位 設計

今村 穣

首都大学東京 理工学研究科

A03 公募研究者

配位結合により構築された特異な機能性金属錯体ユニットを集積した超構 体材料が盛んに開

発されている。その中でも金属-有機構 体(metal-organic framework; MOF)の集積型錯体の開発が盛

んに進められている。これは、従来のゼオライトや活性炭と比較して、MOF では、構築ユニットで

ある金属イオン及び有機配位子が自在に設計・合成が可能であり、新奇な多機能な空間・反応場が

設計できるためと考えられる。一方、その自由度のため従来のアプローチを用いて網羅的に MOF材料を検討するのは困難である。我々は、全自動結晶構 ・電子構 シミュレータを用いて高次機

能非対称配位空間の設計指針を確立し、新しいキラルな高次機能 MOF 材料の提案を目指している。

シミュレータを用いることで、従来では不可能な大量の候補材料のスクリーニングが可能となる。

これまで、有機薄膜太陽電池材料やペロブスカイト太陽電池材料においても、同様の取り組みを行

ってきており新規材料の提案に成功している。1) ,2) 今回は、その経験を活かし、下図に示す新規 MOF材料のスキームの検証を行った。まず、総説などから MOF に用いられる金属イオンや有機配位子

のライブラリを生成し、それを用いて MOF の幾何的構 を自動生成した。次に、構 適化を行

ったところ、代表的な MOF 材料の構 が再現できることを確認した。今後は、多くの新規 MOF 材

料を生成し、得られた結果をマテリアルズインフォマティクスの手法を用いて解析する予定である。

終的には、高次機能非対称配位空間の新材料を提案し、実験グループと検証を行いたいと考えて

いる。

図 MOF 材料の自動生成スキーム 1) Y. Imamura, M. Tashiro, M. Katouda, and M. Hada, J. Phys. Chem. C, 121 (51), 28275 (2017). T. Matsui, Y. Imamura, I.Osaka, K. Takimiya, and T. Nakajima, J. Phys. Chem. C, 120 (15), 8305 (2016).

顔写真 約 4cm×3cm

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❖研究紹介

・ 化 応

小島隆彦

筑波大学数理物質系化学域

A04 公募研究者

水溶液中での高効率・高選択的酸化触媒反応の開発は、環境負荷の低い化学プロセスを構築する

上で重要である。我々は、ルテニウム錯体を触媒とする水溶液中での酸化触媒反応を開発し、その

反応機構に関する研究を行ってきた 1)。その中で、Ru(IV)-オキソ(RuIV=O)錯体の生成とキャラクタ

リゼーション、及び C-H 結合の酸化反応機構についての 度論的解析を中心課題としている 2)。こ

れまでに、水中での C-H 酸化反応の反応

機構は、アセトニトリル中での2次の 度

論に従う反応機構と異なり、水溶液中にも

かかわらず、基質とのアダクト形成を経由

して、エントロピー支配的な遷移状態形成

を伴う1次反応で進行することが明らか

となった(図1)3)。さらに、基質酸化反

応の反応 度定数が基質の C-H 結合の結

合解離エネルギーにほとんど依存しない

ことも示された 3)。 近では、N-ヘテロ環

状カルベン(NHC)部位を有するキレート

配位子を有する Ru(II)-アクア(RuII-OH2)錯体(図2)を酸性水溶液中でプロトン共役電子移動(PCET)酸化する

ことにより、RuIV=O 錯体と電子的に等価な前例のない Ru(III)-オキ

シル(RuIII-O•)錯体の生成を見出し、その強いラジカル性に基づく特

異な反応性を明らかにした 4)。なお、Ru=O 錯体の化学については、

近まとめた総説を参照願いたい 5)。 本研究では、これまでに得られた RuII-OH2錯体を触媒とする水溶

液中での基質酸化反応に関する知見を基に、キラルな置換基を導入

したピリジルアミン配位子を有する RuII-OH2 錯体を触媒とする水

溶液中での不斉酸化反応、特に C-H 酸化による不斉水酸化反応や

ラセミアルコールの 度論的分割反応の開発を目指している。現在、これまで用いてきたトリス(2

−ピリジルメチル)アミン(TPA)の2つのピリジン環の6位にアミド結合を介してキラルな置換基を

導入し、その RuII-OH2錯体の合成に取り組んでいる。 1) Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5772; Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 8449. 2) J. Am. Chem. Soc. 2011, 133,

11692; Chem. Sci. 2012, 3, 3421. 3) Chem. Sci. 2014, 5, 1429. 4) Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 14041. 5) Dalton

Trans. 2016, 45, 16727.

図1.水溶液中での RuIV=O 錯体によるアルコールの酸化反応機構 3)。

図2.NHC を配位子とするRuII-OH2 錯体の結晶構 4)。

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❖トピックス

・研究業績

新 1) 稲見 栄一 氏 (千葉大学大学院工学研究院・特任講師、A02 公募研究者)らの研究に関する記事

が、以下の新聞で報道されました。 ・日経産業新聞 2018 年 1 月 10 日「有機分子膜の厚さ 1000 分の 1 に」 ・日刊工業新聞 2018 年 1 月 15 日「鉄基板表面に強固な有機分子膜 千葉大が新手法」 ・日本経済新聞 2018 年 1 月 11 日「ディスプレー用の分子膜 厚さ 1/1000 に加工 千葉大などの

グループ」 ・マイナビニュース 2018 年 1 月 15 日「従来の 1000 分の 1 の厚さの有機分子膜を磁石のパワー

で実現」 ・OPTRONICS ONLINE 2018 年 1 月 16 日「千葉大ら,世界 薄の有機分子膜作成を実現」 ・毎日新聞 2018 年 2 月 8 日「0.0000003 ミリ!省エネになる世界 薄の有機分子膜を実現」

・千葉日報 2018 年 2 月 12 日「「世界 薄」の分子膜開発 300 万分の 1 ミリ 記憶媒体や画面省

エネ化 千葉大、実用性を確保」

1) 芳賀 正明 氏 (中央大学理工学部・教授、A02 公募研究者)が、以下の賞を受賞しました。 ・Shikata International Medal Award (志方国際メダル) (日本ポーラログラフ学会)、2017 年 11 月

20 日 2) 稲見 栄一 氏 (千葉大学大学院工学研究院・特任講師、A02 公募研究者)が、以下の賞を受賞し

ました。 ・APSMR Contribution Award (Asia Pacific Society for Materials Research)、2017 年 12 月 24 日 3) 廣戸 聡 氏 (名古屋大学大学院工学研究科・助教、A01 公募研究者)が、以下の賞を受賞しまし

た。 ・SPP/JPP Young Investigator Award (Society of Porphyrins and Phthalocyanines)

1) 石田 真敏 氏 (九州大学大学院工学研究院・助教、A01 公募研究者)らの論文(Inorg. Chem. 2017, 56, 13842)が、Cover Picture に選ばれました。(図 1)

2) 中嶋 琢也 氏 (奈良先端科学技術大学院物質創成科学研究科・准教授、A04 計画研究者)らの論

文(Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 15053)が、Back Cover Picture に選ばれました。(図 2) 3) 原野 幸治 氏 (東京大学大学院理学系研究科・特任准教授、A02 公募研究者)らの論文(J. Am. Chem.

Soc. 2018, 140, 62)が、Cover Picture に選ばれました。(図 3) 4) 根岸 雄一 氏 (東京理科大学理学部・教授、A01 公募研究者)らの論文(Nanoscale 2018, 10, 1641)

が、Back Cover に選ばれました。(図 4)

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5) 廣戸 聡 氏 (名古屋大学大学院工学研究科・助教、A01 公募研究者)らの論文(Chem. Sci. 2018, 9, 819)が、Inside Front Cover に選ばれました。(図 5)

6) 塩谷 光彦 氏 (東京大学大学院理学系研究科・教授、領域代表)らの論文(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 16470)が、Cover Picture に選ばれました。(図 6)

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新学術領域「配位アシンメトリ」 ース ー

9 号 平成 30 年 2 27 者: 彦(東京大学大学院理学系研究科)

集 者: 雅 (筑波大学数理物質系) http://asymmetallic.jp/