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ISSN 1346-9029 研究レポート No.450 December 2017 木質バイオマスエネルギーの地産地消における課題と展望 遠野地域の取り組みを通じて- 上級研究員 渡邉 優子

No.450 December 2017 - Fujitsu木質バイオマスエネルギーの地産地消における課題と展望 -遠野地域の取り組みを通じて- 上級研究員 渡邉優子

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ISSN 1346-9029

研究レポート

No.450 December 2017

木質バイオマスエネルギーの地産地消における課題と展望

-遠野地域の取り組みを通じて-

上級研究員 渡邉 優子

木質バイオマスエネルギーの地産地消における課題と展望

-遠野地域の取り組みを通じて-

上級研究員 渡邉優子

【要旨】

多種多様な再生可能エネルギーが推進される中、地域経済成長につながる木質バイオマ

スエネルギーの熱利用が拡がっている。木質バイオマスから創り出す熱は、地産地消型エ

ネルギーとして注目されており、地域経済循環を実現できる切り札として期待されている。

しかし、日本の木質バイオマスエネルギー利用の実態は、大型・発電事業に偏重している。

このため、地産地消の基本原則である、①木質資源のカスケード利用、②熱利用、③小規

模分散型システムの構築、が図られておらず、地域資源をうまく活用できていない。

木質バイオマスエネルギーの地産地消の事例である遠野プロジェクトでは、エネルギー

の供給サイドの特徴として、付加価値の高い用途から低い用途へと、質に応じて段階的に

利用するカスケード型の木質バイオマスのサプライチェーンを構築するとともに、燃料と

なる残材の最適利用と付加価値化のために、残材の特性に応じた燃焼技術とのマッチング、

バイオマス事業と連携して林業効率化に向けたシステム転換等を行っている。また、需要

サイドの特徴として、公共施設から先導的に需要を創出し、民間への波及効果を狙ってい

る。そのほか、公共施設のコンパクト化による熱需要施設の集約化や、木質バイオマスボ

イラーの運転特性による需要施設側における配慮も特徴としてあげられる。

木質バイオマスエネルギー特有の課題は、原料の調達や配送と人材不足である。解決策

は、ステークホルダーを巻き込みながら、バイオマス燃料となる材が自然と集まるような

仕組みを構築するとともに、地域に既にある企業にも協力を呼びかけ、それぞれが得意分

野を生かし協業するといった、地域アライアンスを構築することである。

キーワード:木質バイオマスエネルギー、エネルギーの地産地消、地域経済活性化

【目次】

1 はじめに ............................................................................................................................ 1

2 木質バイオマスエネルギー:発電と熱 ............................................................................ 3

3 木質バイオマスエネルギー地産地消の基本原則 ............................................................. 5

3.1 木質資源のカスケード利用 ........................................................................................... 5

3.2 熱利用 ............................................................................................................................ 9

3.3 小規模分散型システムの構築 ...................................................................................... 13

4 木質バイオマスエネルギー地産地消システムのあるべき姿 ......................................... 15

4.1 エネルギーの供給サイドにおける特徴 ....................................................................... 15

4.2 エネルギーの需要サイドにおける特徴 ....................................................................... 19

5 岩手県遠野市における地産地消システム構築の事例 .................................................... 23

5.1 岩手県遠野市の概要 .................................................................................................... 23

5.2 遠野地域における木質バイオマスエネルギー ............................................................ 23

5.3 プロジェクトの概要 .................................................................................................... 23

5.4 遠野地域における木質バイオマスエネルギー地産地消システムの特徴 .................... 25

5.5 遠野地域のサプライチェーン構築にかかる課題と解決策 .......................................... 32

6 おわりに .......................................................................................................................... 36

参考文献 ............................................................................................................................... 38

1

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

H11

(1999)

H16

(2004)

H21

(2009)

H26

(2014)

174 273 301 367

396 431 452 478 531 615

838 924

1,218

1,461

1,701

2,023 1,945

1 はじめに

東日本大震災以後、多種多様な再生可能エネルギー(再エネ)の導入が進んでいる。2011

年 3 月の大震災とそれに伴う福島第一原発事故により、大規模電源に集中して依存する電

力システムの脆弱性が明らかとなった。これにより、日本のエネルギー政策は抜本的見直

しを迫られ、脱原発と大幅な省エネ・節電対策のため、エネルギーの地産地消となる再エ

ネ推進の機運が高まった。また、2012 年 7 月から開始された再エネの固定価格買取制度

(Feed-in Tariff, FIT)により、太陽光発電を中心に、再エネの導入が飛躍的に進んだ。2017

年 4月には、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が改

正(改正 FIT 法)され、これまで導入が進まなかったリードタイムが長い再エネ(地熱、

風力、中小水力、バイオマス)が促進されることとなった。経済産業省の「長期エネルギ

ー需給見通し(2015 年 7 月)」に示されたエネルギーミックス実現への取り組みが始まっ

たのである。さらに近年、FIT対象外の事業への補助・助成金は拡大傾向にある。FITを利

用しない自家消費の発電事業や元々FIT 対象外である熱供給事業1を対象にした補助・助成

金が目立ってきている。加えて、「パリ協定」(2016 年 11 月発効)により、地球温暖化の

切り札である CO2の排出削減効果を狙い、再エネが推進されている。

このように多種多様な再エネ推進が進む中で、地域経済との関連が強い木質バイオマス

エネルギーの利用も増えてきている。補助率が高いことも作用して、熱需要の多い公共の

温浴施設を中心に、木質バイオマスを燃料とするボイラー等の導入が進み、近年は、民間

の温泉施設や施設園芸等においても利用が拡がっており、全体の導入数は増加傾向にある

(図表 1参照)。

図表 1 木質資源利用ボイラー数の推移

1 冷水や温水等を一ヶ所でまとめて製造し、熱導管を通じて、個別あるいは複数の建物に熱を供給する事

業。再エネを活用した熱供給事業としては、バイオマスや地中熱が知られているが、その他、雪氷熱、

海水や河川水、下水等水温と外気温との温度差利用、太陽熱等があり、地産地消型再エネとして、近年

注目されている。

H27 (2015)

(出所)H26までは、林野庁「平成 27年度 森林・林業白書」、 H27は、林野庁「平成 27年 木質バイオマスエネルギー利用動向調査」

(台)

2

地産地消型の再エネとしては熱利用が注目されており、再エネにおける熱利用として親

和性が高いのがバイオマスエネルギーである。バイオマス先進国であるドイツやオースト

リアなどでは、地域の木質バイオマスを活用した地域熱供給網を整備し、エネルギーの地

産地消を実現している。日本では、木質バイオマスエネルギーの利用が進むものの、大型

発電事業に集中している。発生量が限られるバイオマス燃料は、大規模発電施設の立地が

相次げば、需要過多となる。自然の流れとして、限りあるバイオマス燃料の調達は困難と

なり、エネルギーの地産地消の実現は難しくなる。

本研究では、木質バイオマスエネルギーの地産地消において、事例から見えた課題を整

理し、その上で展望を論じることとする。木質バイオマスエネルギーの発電における課題

(2章)や地産地消における基本原則(3章)を整理した上で、木質バイオマスエネルギー

の地産地消に向けたシステムとしてあるべき姿を、エネルギーの供給・需要の両サイドか

ら分析する(4 章)。さらに、このシステムを踏まえた事例地である岩手県遠野市の取り組

みを紹介するとともに、要となる地産地消を目指したサプライチェーン構築における課題

の分析や解決に向けた試案の提言、留意点等を述べる(5 章)。最後に、他の自治体や地域

に対する示唆となるよう、地域の木質バイオマスエネルギーの地産地消システムを成立さ

せるために検討すべきポイント等についても言及したい(6章)。

本稿の執筆に当たり、岩手県遠野市林業振興課の新田和彦氏、遠野バイオエナジー株式

会社およびバイオエナジー・リサーチ&インベストメント株式会社代表取締役社長の梶山

恵司氏、バイオエナジー・リサーチ&インベストメント株式会社の北川弘美氏には、貴重

なコメントを頂いた。また、NPO法人エコロジー・アーキスケープの浦上健司氏に有益な

アドバイスを頂いた。さらに、遠野プロジェクトに関わったさまざまな方にも有意義なお

話を聞かせて頂き、本稿を執筆することができた。ここに記して感謝の意を表したい。

3

2 木質バイオマスエネルギー:発電と熱

木質バイオマスエネルギーとは、間伐材等林地残材や製材の副産物等工場残材を、チッ

プやペレットに燃料加工し、ボイラー等で燃やして熱供給や発電として利用するものであ

る。燃料・原料の収集が必要であることから地域と密接に関連した事業展開が望ましく、

林業から木材加工やバイオマス等関連産業への展開という裾野の拡がりから地域経済への

影響が大きい。

木質バイオマスエネルギーは、発電にも熱供給にも利用できるが、世界的に見ると、木

質を含むバイオマスエネルギーは熱利用が圧倒的(図表 2)である。欧州諸国では、林業・

木質バイオマス産業が進展し、熱利用により地域が潤っている。ドイツ、オーストリア、

デンマーク、スウェーデン等では、バイオマスを活用した地域熱供給網の整備により、地

域住民に大きな恩恵をもたらしている。例えば、地域外に流出していた燃料代がエネルギ

ーの地産地消により地域内で循環したり、林業・バイオマスの関連産業創出による雇用が

生まれたりと、地域内でエネルギーとお金が循環している。つまり、エネルギーの地産地

消が地域経済循環につながっているのである。

図表 2 バイオマスエネルギーにおける最終消費

(出所)世界バイオエネルギー協会(WBA: World Bioenergy Association)

「WBA世界バイオエネルギー統計 2016(2013年時点)」

日本の木質バイオマスエネルギーの利用は、FITの影響で大型の発電事業に偏重している。

その理由は、FITの特徴である、事業規模が拡大することで収益性が高まり、コストが割安

になるというスケールメリットや FIT の大型化モデル提示による大型プラントの誘発、熱

交通, 5% 発電, 3%

設備からの

供給熱, 2%

燃焼による

直接利用の熱,

90%

4

利用は FIT適用外のため取り組むインセンティブが少ないこと等である。欧州にも FIT制

度があるが、熱利用や熱電併給に対する支援があり、熱利用に取り組むインセンティブが

ある2。大型のバイオマス発電事業の一番大きな問題は、燃料となる木質資源量が地域賦存

量を上回り、燃料調達が困難になることによって事業継続が難しくなることである。木質

バイオマス発電には、5,000kWクラスで 5~7万トン程度の燃料が必要だと言われているが、

既存発電施設や木質バイオマスを活用する製紙会社等との間での木質燃料の取り合いから

燃料の急騰を招いたり3、燃料不足から稼動の休止や縮小となっているバイオマス発電施設

が数年前からある4と聞く。

さらに、大型発電事業は数十億円の資金が必要になることもあり、外部資本が中心とな

る。そのため、木質資源のある地域が介在する余地は少なく外部主導で進められ、地域に

もたらされる経済波及効果は運輸部門等限定的である。燃料が輸入バイオマス(パームヤ

シ殻等)であれば、為替リスクがある上に、国内林業との連携は無くなる。2015年度より、

2,000kW級未満の小規模発電への優遇措置として、未利用木材を燃料とした FITの買取価

格が 40円/kWhとなったが、2,000kW以上の買取価格が 32 円/kWh であるため、この

程度の差であれば、規模の経済性により大規模事業が進む傾向を変えるまでには至らない。

木質バイオマス発電における FIT認定量が 2016年度末から急増しているが、大半が輸入

バイオマスに依存した燃料調達計画となっており、事業の持続可能性に疑問符がつく。木

質バイオマス発電のコストの 7 割が燃料費と言われており、長期的に自立した電源として

成り立つためには FIT 終了後も見据え、燃料費を含めたコスト低減が必要である。しかし、

輸入バイオマスに依存している現状では、事業継続の見通しは非常に不透明である。一方

の木質バイオマスエネルギーの熱利用には、さまざまな面から多くの利点があり(詳細は

3.2に後述)、発電より熱利用を優先して検討することが求められる。

2 例えば、イギリスの再エネ熱利用促進策・RHI(Renewable Hear Incentive)やドイツの EEWärmeG(再

エネ熱法)および KWKG(CHP[Combined Heat & Power・Cogeneration]法)等がある。 3 日本経済新聞(2015年 8月 8日夕刊)によると、バイオマス発電施設の急増により、バイオマス発電

や製紙に使うチップ用丸太の全国平均価格は2015年7月に5,300円/㎥と前年同月比で13%高く、2013

年末に比べ 23%上昇している。特にバイオマス発電施設がある地域では、価格上昇率が高く、例えば宮

崎県では 1年に 70%、高知県では 26%上がったと報じている。なお、農林水産省「木材価格統計調査」

によると、2015年 7月に全国平均価格が 5,300円/㎥であるのは、木材チップ用素材価格(針葉樹丸太)

であるが、2017年 9月時点のその価格は、5,800円/㎥とさらに上昇している。 4 東京読売新聞(2009年 6月 24日夕刊)によると、読売新聞が 2009年 6月に全国 73の木質バイオマ

ス発電施設の事業者を対象とし、56事業者が回答した調査結果では、木質バイオマス発電施設の約 3割

が木質燃料の不足により、稼動休止や縮小をしている。

5

3 木質バイオマスエネルギー地産地消の基本原則

3.1 木質資源のカスケード利用

木質バイオマスエネルギーの地産地消を考えた場合、木質資源のカスケード利用が基本

である。カスケード利用とは、簡潔に言うと副産物利用である。木材(原木)を製材し、

建材化して住宅資材や家具等とし、さらに製材端材等は紙チップやボード材、家畜敷料と

して使い、それでも利用ができない部分をエネルギー転換して利用することが望ましい。

つまり、付加価値の高い用途から低い用途へと、副産物の質に応じて段階的に利用するこ

とが肝要である。そのため、バイオマス利用には、林地に放置されている枝葉や間伐材と

いった林地残材や、製材工場の副産物等残材の活用が重要となる。

副産物である残材をバイオマスエネルギーに変換していくことで、「ゴミ」を宝に変える

ことができる。ただし、残材の種類は、図表 3 に示したとおりさまざまであり、形状だけ

でなく、質が異なることで使い勝手が異なってくる。残材をバイオマスエネルギーとして

利用する際の質の高低は、主に水分と性状による。よく乾燥しており、形等が均一である

ものが高品質であり、濡れた状態で形にバラつきがあったり、葉や幹が混在していたりと

いうものは低品質となる。これらの特徴を見極めながら、種類別に集材方法や利用方法を

検討することで、副産物をエネルギー化し、価値をつけていくことが求められる。

図表 3 主な残材の種類

(出所)富士通総研作成

6

バイオマス利用が進む欧州では、熱需要家側において、残材の質に応じた燃料の使い分

けを行っている。小型バイオマスボイラー5(以下、小型ボイラー)には高品質な残材を、

大型バイオマスボイラー(以下、大型ボイラー)には低品質な残材という使い分けを行う

ことで、バイオマス燃料として、カスケード利用を徹底している。なぜなら、低品質な残

材をボイラー燃料として投入すると、ボイラーの効率低下や運転トラブルを引き起こす大

きな要因となるが、ボイラー規模が大きければ大きいほど受ける影響は少なくなるからで

ある。このため、高品質な残材は付加価値をつけて、燃料の質により、出力や効率性等が

左右されがちな小型ボイラー用に、低品質な残材は燃料の質による影響が少ない大型ボイ

ラー用と使い分けることで、残材を使い切ることが可能となる。

一方、日本では、バイオマス利用ができる残材の多くが、全く利用されないか、あるい

は有効利用されていないのが現状である。国内の多くのバイオマス発電施設では、丸太か

ら良質な部分のみを切り出して燃料としている。この影響もあり、エネルギー活用するこ

とで有償取引できる残材が放置されていたり、逆有償のゴミとなってしまったり、または

取引されたとしても低価格であったりと、付加価値が小さい状態となっている。そこで、

残材の種類別に、各特徴を整理するとともに、カスケード利用を進め付加価値化を図るた

めにはどうするべきかを検討する。なお、木質資源のカスケード利用のイメージは、図表 4

のとおりである。

5 小型バイオマスボイラーとは 1台 300kW 程度(2台組み合せて 600kW 程度)までで、それ以上が大型

と言われている。

7

図表 4 木質資源のカスケード利用イメージ

(出所)富士通総研作成

3.1.1 バーク(樹皮)

カスケード利用を語る上で特に重要なのが、木材加工の工程で発生する樹皮(以下、バ

ーク)である。国内のバーク利用について、堆肥や燃料等として一部利用される例がある

ものの、扱いにくい資源として、多くの地域で有効活用されておらず、産廃処理されるか

放置されているケースが多い。そのため、有価で販売できない木材加工の副産物は、原則

として産業廃棄物として扱われ、費用をかけて処理されることがほとんどである。多くの

製材工場では、産廃処理費用による経営圧迫に悩まされているところが多く、工場内にバ

ークが野積みという光景が散見される事態となっている。

バークを木質バイオマスボイラーの燃料とすることは可能であるが、バークと一口に言

8

っても、品質がさまざまである。発生時点での水分量が多く、形状にばらつきがあり、日

本の代表的な樹種であるスギについては繊維が硬く形状を整えにくい上に燃焼灰が多く固

まりやすい。このため、高度な燃焼技術を有するボイラーでないと、ボイラーに負荷をか

ける等の課題が発生する。バイオマス燃料としてバークを活用するには、燃焼技術とのマ

ッチングが必要となるが、その見極めには、日本では数が少ないバイオマスエネルギーの

コンサルタント等専門家の手を借りることも一案である。

欧州では、燃焼技術の発達やバイオマスの専門家の存在、燃料となる材の樹種が異なっ

ていることもあり、バーク 100%の燃料で稼動する木質バイオマスボイラーがよく見られる。

国内のバーク利用に向けては、先進する欧州の事例からノウハウを結集し、日本型のシス

テムとして構築していくことが求められる。

3.1.2 林地残材

間伐材等林地残材は、先端の細い枝や根元部分等製材にならない半端な部位が多くあり、

それらをチップ化することで徹底利用することが重要である。しかし、森林作業道や作業

システムの未整備の問題等があり、林地からの搬出コストがかかるため、現状は大半が放

置された状態である。つまり、インフラが無いと残材を集めにくいことが最大の課題であ

る。

欧州では、山側で、林地残材を燃料化しやすい効率的な林業システムが確立している。

林業と一体的にバイオマス事業を推進していく中で、森林作業道の整備や高性能林業機械

の利用、情報通信技術(ICT)による森林管理等効率的な林業システムを整備している。そ

うすることで林地残材を山から搬出しやすくし、バイオマス燃料としている。

国内でも、間伐材等未利用残材の搬出がしやすくなるよう、森林作業道の整備や高性能

林業機械の導入等作業システムの効率化を図ることが必要である。林業活性化と表裏一体

となるため、バイオマス事業単体ではなく、林業とともに事業化検討すべきである。

3.1.3 工場残材

工場残材については、特別なインフラが無くても集めやすいということから、多くが製

紙や木質ボードの原料、家畜敷料の他、バイオマス燃料としても活用されている。工場残

材はさまざまな形状があり、その特徴に応じた使い道を考えることで価値は高まるが、低

価格で取引される、あるいは費用をかけて処理されているケースもあり、価値が低い。例

えば、最も多い活用は製紙原料としてだが、バイオマス燃料とすれば、さらに価値が高ま

る可能性がある(詳細は、3.2.4に後述)。

また、バイオマス燃料とした場合でも、価値を高める活用とはなっていない。丸太の 5

割は残材となり、不純物が少なく、既に乾燥していて水分が少ないことなどから、多くが

9

扱いやすい燃料とできるため、利用の基本はチップ化である。その他、薪やペレット加工

等汎用性が広い。工場残材の価値を高めるためには、小型ボイラー用のチップやペレット

等高品質なバイオマス燃料として、燃料品質を問わない大型ボイラーの燃料価格より売価

を上げるといった付加価値をつけることができるが、実態は、大型ボイラー用の燃料とな

っている。

日本においても木質資源のカスケード利用を徹底するためには、副産物利用を基本に、

適“材”適所を図ることである。特に、有効活用されていないバークについては、欧州の

ように、燃焼技術とのマッチング等を考えた上でバイオマス利用して燃料化していくこと

で、エネルギーの地産地消のみならず、地域経済循環においても大きな意味を持つ。

3.2 熱利用

木質バイオマスエネルギーの利用にあたり、発電よりも熱利用が優先されるべきさまざ

まな利点がある。主な利点を以下にあげる。

3.2.1 高い効率性と低い環境負荷

熱利用は、エネルギー変換効率が高い。木質バイオマスのエネルギー変換効率は、一般

的に発電が 20%程度に対し、熱利用は約 80~95%とされている。また、発電の際に生じる

廃熱も同時に回収する熱電併給(コージェネレーション)でも、総合エネルギー効率は 75%

程度とすることができる。

他にも、発電より熱利用は優先されるべき利点がある。発電は、FITが未利用材を除き規

模に関わらず一律の買取価格となっている6ため、大規模になるほど収益性が高くコストが

低減するというスケールメリットや発電効率を追求した大型化が進んでいる。2章でも述べ

たように、大型発電事業は大量の木質燃料が必要となるが、膨大な未利用の残材を集めら

れる地域は木材生産地等に限られるため、木質資源の地域賦存量を上回ることで、燃料調

達に腐心する発電施設も少なくない。これらはコストに跳ね返る。また、カスケード利用

をせずに土木・建築・家具製作などに用いることが可能な材まで燃料化7される懸念がある。

国産材の調達が厳しいとなると、輸入材に頼る発電案件も出てくる。図表 5 のとおり、

バイオマス発電における FIT認定量の約 9割が、「一般木質・農作物残さ」を燃料としたも

のであるが、これは木質ペレット、パーム椰子殻、パーム油等、輸入バイオマスがメイン

6 2章で述べたとおり、2015年度より、バイオマス発電における未利用木材を燃料とした FITの買取価格

は、2,000kW 以上が 32円/kWh、2,000kW 級未満が 40円/kWhと差を設けているが大きな差ではな

い。また、未利用材以外は、規模別における価格設定はない。 7 NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書 2015」によると、発電用燃料として集め

ている未利用材の 7割以上が主伐・皆伐材という地域もあると言う。また、一般社団法人日本木質バイ

オマスエネルギー協会のレポート「迫られる「未利用木材」の再定義(2015.7.13)」によると、合板や

製紙原料等に使える B材や C材とエネルギー利用との競合が明らかに目立ち始めている、とある。

10

の燃料である。輸入バイオマスは、為替リスクや輸入元の方針転換(輸出における増税等)、

世界的なマーケットにおける資源の取り合い等不安定な要素が多い上、国内への経済波及

効果は運輸部門等限定的である。また、バイオマスはカーボンニュートラルと言われるが、

輸送に化石燃料が使われれば、その分、地球温暖化対策の効果は減少する。

図表 5 バイオマス発電の認定容量の推移(新規認定分)

(出所)資源エネルギー庁資料から富士通総研作成

熱は、エネルギー損失の問題から長距離の送熱に不向きだが、街区や集落等の近距離で

あれば、熱損失の少ない送熱システムを構築できる。また、さまざまな熱需要パターンの

施設を組み合せることで、熱需要を平準化しやすくなる。これにより、ボイラー等の設備

を無駄に大きくする必要が無くなり、地域の身の丈に合った適正な設備規模を検討するこ

とができる。欧州では、バイオマスを活用した地域熱供給が普及しており、地域内でエネ

ルギーとお金が循環している。また、地球温暖化対策としても成果をあげている。これら

より、熱利用を検討する価値は大きい。

3.2.2 地域が取り組みやすい技術

熱利用は、地域で取り組みやすい形態を選択できることから、地域が容易かつ自律的に

取り組めるため、地産地消を進める上で適している。熱を得るためには、ストーブもある

が、ボイラーを用いて温水あるいは蒸気の形態で獲得することができる。給湯や暖房で必

0

2,000,000

4,000,000

6,000,000

8,000,000

10,000,000

12,000,000

14,000,000

メタン発酵ガス

未利用木質(2,000kW未満)

未利用木質(2,000kW以上)

一般木質・農作物残さ

建設廃材

一般廃棄物・木質以外

(kW)

(各月末時点)

11

要とされる熱は、高温の蒸気でなく温水でも十分に可能である。温水のバイオマスボイラ

ーであれば、一般的に取扱者の資格が不要8であり、日常的なメンテナンス等は地域で担う

ことができる。こうした特徴から、欧州では一般家庭にも広く普及しているほど、簡便な

技術であり、地域が自前で対応できる範囲が大きい。

一方の発電は、地域自らが取り組むにあたり、さまざまな困難が伴う。大型発電施設で

は運転にかかる専門技術者が必要で、対応しなければならない規制も多い。近年ではこう

した制約の少ない小型ガス化発電も増えているが、技術が複雑で、地域での保守、メンテ

ナンスが困難である等課題が多く、地域での自律した展開はハードルが高い。

3.2.3 多い熱需要

日本には、風呂や温泉に入る文化がある等、給湯需要を中心に家庭や温浴、宿泊施設等

における熱需要が多い。民生部門の最終消費エネルギーに着目すると、熱利用は半分を占

める(図表 6)。ただし、その熱の多くは、化石燃料や電力等から作られている。今後、木

質バイオマスエネルギーを活用し、直接熱利用をすれば、エネルギーの地産地消が可能と

なる。また、当該部門の熱需要は農山部にも必ず存在するため、木質バイオマスエネルギ

ーの熱を活用することで、どのような地域でもエネルギーの地産地消が実現される可能性

がある。

図表 6 最終消費段階のエネルギー

(出所)「エネルギー・経済統計要覧 2017」(2015年度数値)」より富士通総研作成

8 労働安全衛生法(ボイラー及び圧力容器安全規則)において、ボイラーの種類や規模により必要な手続きが異なるが、温水ボイラーは基本的に取扱者の資格が必要となる。ただし、バイオマスボイラーは、

通常、労働安全衛生法に基づく温水ボイラーに該当しないよう、無圧改造をすることで、手続きが不要

となる。詳細は、http://www.mori-energy.jp/database/boiler/notice.html を参考にされたい。

12

注 1: 販売価格は、水分 35%チップ、工場着価格

注 2: 輸送費は、富士通総研が各種事業者にヒアリングした値だが、地域や立地条件により異なる

3.2.4 付加価値化

国内のチップ流通量を見ると、主に製紙用チップとして販売されているが、単価を見る

と、熱供給用の燃料チップが一番高価格となるケースが見られる。弊社の調査では、バイ

オマスのチップ販売価格は、製紙用より燃料用、さらに燃料用でも発電用より熱供給用が

高くなるとの結果が得られた(図表 7)。熱供給用の輸送費が一番低いのは地産地消ができ

るためであり、輸送費が高い製紙用チップは遠方まで運ぶケースが多いからである。

熱供給用の燃料チップ価格が製紙用チップより高いといっても、需要家にとって負担が

大きくなることはない。むしろ、化石燃料から木質バイオマス燃料への代替による燃料代

の削減が期待できる。例えば、2015年当時の値であるが、弊社の調査結果も踏まえて kWh

当たりの単価を比較すると、化石燃料の単価9に対して、チップの単価10は約 6 割となる。

しかも、化石燃料が地域外にお金が流出するのに対し、木質バイオマス燃料は、基本的に

地域内で資源とお金が循環するという、地域経済循環が生まれる。使えば使うほど、供給

側・需要側双方が潤うことになる。その上、国際市況商品である化石燃料の価格は乱高下

し、先行きも予測困難であるのに対し、地域から産出される木質バイオマス燃料は、価格

も安定していることから、長期的な見通しを立てることが可能である。さらには、温室効

果ガス(CO2)削減の利点も加わるのである。

図表 7 用途別チップ販売価格の比較(2015年調査時)

9 A重油の熱量は、省エネ法によると 39.1GJ/キロリットルであり、換算係数 3.6MJ/kWhを用いると、

約 10kWh/リットルとなる。A重油の単価は、資源エネルギー庁の 2014年から 2016年までの全国平

均単価(小型ローリー)から算出すると、平均額は約 66円/リットルとなる。よって約 6.6円/kWh

となる。 10 チップ(水分 35%)の熱量は、ドイツのバイエルン森林・林業局(LWF)2015の資料によると、3,140kWh

/トンとなる。上記図表 7より、熱供給用のチップ単価は、12,000円/トンである。よって約 3.8円/

kWhとなる。

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

熱供給用 発電用 製紙用

輸送費

実質売上高

(円/㌧)

(出所)富士通総研作成

13

3.3 小規模分散型システムの構築

多くの地域ではエネルギー支出で赤字となり、地域経済の重荷となっている。2015年 10

月、環境省は「地域経済循環分析11」を用い、自治体の 9割がエネルギー関連(電気、ガス、

ガソリン等)の支払いにより、地域外へ資金が流出しているという結果をとりまとめた。

2013 年のエネルギー価格で試算しているため、資源安の時期は改善するが、環境省はエネ

ルギーの支出が地域経済を圧迫している構造は続くとみており、その解決策として、エネ

ルギーの地産地消が有効だとしている。

そもそも再エネ導入推進の背景には、東日本大震災を契機に、エネルギーの大規模集中

型システムの脆弱性が顕在化したこともある。そのため、再エネ等多様な分散型エネルギ

ーを組み合わせることで、エネルギー供給におけるリスク分散を図り、特に供給地から需

要地が近い場合には、エネルギーの自給自足あるいは周辺地域を含めた広域圏等での利用

が可能になるエネルギーの地産地消を目指してきた。しかし、日本の再エネ事業は、FIT

の功罪相半ばであり、FITにより再エネ導入は飛躍的に伸びたが、事業の経済性にのみ焦点

があたり、メガソーラー等スケールメリットからの大規模事業が進められてきた。木質バ

イオマスエネルギーも同様に、大規模事業が主流である。貴重な地域資源を使い、エネル

ギー供給体制が地域内にあっても、創られたエネルギーは域外に流れ、地域で必要なエネ

ルギーは域外から購入することにより地域経済が疲弊してしまうという状況では、根本的

な問題の解決とならない。

地域への波及効果を高めるためには、地域の木質資源を地域内のエネルギーとして活用

し、地産地消を図ることである。富が地域に残り、それを循環させることで経済効果が相

乗的に増大するだけでなく、災害や国際情勢に左右されにくくなる。地域内にエネルギー

システムを構築することは、平常時のエネルギーコストの減少や災害時での地域エネルギ

ー自立においても有効である。また、限定的な範囲での需給マッチングを考えると、地域

の身の丈に合った、比較的小規模なシステムが想定される。加えて、近接地域へのエネル

ギー供給等熱負荷のピークの異なる複数の施設をつなぐことで、熱需要を平準化し、面的

なエネルギー活用も検討できる。地域において、エネルギー変換効率や地域内での持続的

な資源の管理・活用を踏まえると、小規模分散型の熱利用の優位性が見いだせる。

11 地域における経済構造について、生産や支出などから地域の強みや課題を探る分析手法。環境省は平成 27年版環境白書で、環境政策の観点から地域経済の有効な「健康診断ツール」として取り上げてお

り、2015年 4月から全市町村ごとに電気やガソリンなどエネルギーを地域外に売って得た収入と購入し

た支出分を推計し、収支を導いた。

14

図表 8 大規模・集中型事業から地域主導の小規模・分散型事業への転換

(出所)富士通総研作成

さらに、地域内でサプライチェーンを構築することで、地域内での経済波及効果を発揮

し、新たな産業創造につながる可能性も秘めている。需要家の中から、地域の木質燃料を

活用し生産した、環境に優しい製品という高付加価値化した商品を生み出すことも期待で

きる。再エネを活用した製品として有名なものには、風力発電 100%の「風で織るタオル」

(愛媛県今治市・IKEUCHI ORGANIC 株式会社)があるが、木質バイオマス燃料を活用

したことで高付加価値化を図っている商品もある。南アルプス市では、ハウス栽培の暖房

に、以前は重油等の化石燃料を使用していたが、木質バイオマス燃料(木質ペレット)に

代替することで CO2の削減を図り、トマト・さくらんぼ等を栽培し、「カーボン・オフセッ

ト農産物」として首都圏の百貨店等で販売した実績を持つ。このように、木質バイオマス

事業は、林業活性化や地域エネルギー事業に留まらず、産業振興を果たす効果にも期待が

高まる。

15

4 木質バイオマスエネルギー地産地消システムのあるべき姿

木質バイオマスエネルギーの地産地消の基本原則に則り、地産地消に向けたシステムを

検討する上で、エネルギーの供給・需要の両サイドにおける特徴をとりまとめる。

4.1 エネルギーの供給サイドにおける特徴

4.1.1 バイオマス利用のサプライチェーンの地域内構築

エネルギーの地産地消は、地域におけるエネルギー支出の赤字から脱却を図る一手にな

ると言われるが、この実現に向けては、地域内で木質バイオマス利用のためのサプライチ

ェーンを構築することが必要である。また、林業活性化による森林環境の改善も同時に行

うことも求められる。サプライチェーンの入り口となる林業を、産業として成立させるた

めには、間伐等を進めながら森林荒廃を防ぎ、質の良い森林資源が提供できるよう、持続

可能な森林経営をしていく必要がある。

バイオマス先進国であるドイツやオーストリアには、山林や加工場等の各発生ポイント

で生じた木質バイオマスの品質に応じて、用途や供給先を変え、木質資源を使い切るカス

ケード型のサプライチェーンが確立している。しかし日本では、山林から伐採した木質資

源の効率的な収集において、森林作業道が少ないことや林業機械の有効活用等課題があり、

各ポイントで未利用材が生じている。

残材の徹底利用と林業活性化を実現するためには、川上から川下まで一気通貫のシステ

ムとして、サプライチェーンを構築することが必要である。これにより、未利用分の林地

残材や工場残材等の利用を促進し、林業・木材産業の収益性改善や森林資源の管理・活用

を図り、地域経済の活性化への貢献を目指すことが重要である。

地域内でサプライチェーンを構築するにあたり、ハード面の整備を民間でできるところ

は少ないだろう。ただし、ソフト面は地域内での自律的な運営を考えると民間主導が望ま

しい。例えば、燃料基地やバイオマスボイラー、チッパー等設備類の整備については、行

政の補助金等を活用しながらも、燃料の収集や管理・販売等については、地域の林業関連

企業等を中心に地域エネルギー会社を設立する等して、運営していくことが望まれる。こ

の際、外部コンサル等から最低限のノウハウを入手することも考えられる。民間が積極的

に参加することにより、コスト意識を高め、地域の「ゴミ」を宝に変えていく仕組みを模

索することが自律的運営につながっていく。

16

4.1.2 残材の最適利用と付加価値化に向けた専門技術の導入検討

地域の残材の最適利用と付加価値化を目指すためには、木質資源のカスケード利用を徹

底することが必要である。カスケード利用の基本である副産物利用を進め、残材の適“材”

適所を果たすためには、専門技術がカギとなる。

①燃料の品質に応じたボイラーの選択

バイオマス利用が進む欧州では、先述のとおり、燃料の品質を問わない大型ボイラーに

はバークも含めた低品質な燃料を、燃料の品質を選ぶ小型ボイラーには乾燥したチップ・

ペレット等高品質な燃料という使い分けを行うことで、カスケード利用を徹底している。

この背景にはそれを適える燃焼技術を持つ木質バイオマスボイラーの活用がある。

特にバークは、樹幹部に比して低質12であるため国内では多くの地域で逆有償となってい

るものの、エネルギー活用ができて有償資源とできれば魅力である。しかし、国内の木質

バイオマスボイラーの多くは、バークを燃料利用できたとしても、燃焼灰が固まるクリン

カ現象による詰まりでボイラーに負荷がかかり、うまく稼動しないケースが多い。そのた

め、バークを燃料利用したとしても、メンテナンスのコストや手間がかかる。対して、欧

州の木質バイオマスボイラーは、燃焼技術が熟成しており、クリンカ防止にも有効な方式

を採用13している等の対応があり、バークを主燃料とする木質バイオマスボイラーについて

も、多くの導入実績を保有している。このような木質バイオマスボイラーを採用すること

により、“やっかいもの”扱いされていたバークを活用できるようになる。さらには、元々

大型ボイラーの燃料として活用されていた高品質の残材は、チップやペレットとして、よ

り付加価値の高い利用ができるようになる。

また、ボイラーの運転特性(詳細は 4.2.4)についての見極めも必要である。国内の木質

バイオマスボイラーの多くが連続運転タイプであるため、熱需要施設が欲する熱量や熱パ

ターンとの相性の良い組合せは限られる。しかし、欧州の小型ボイラーは、長年のノウハ

ウの蓄積により、オンオフが可能な断続運転タイプが多く、細かな熱パターンにも対応で

きる等、多様な熱需要に対応できる。さらに、運転監視・管理に人手がかからず、スマー

トフォン等モバイルでの運転監視や自動管理が可能なモデルも数多く存在する。さらには、

地域へのノウハウ移転が比較的簡易であることも重要なポイントである。

多様な残材をそれぞれの性質に応じてうまく使い分けるには、それを叶える燃焼技術を

持つ木質バイオマスボイラーとのマッチングが重要である。マッチングがうまくいけば、

バークのような逆有償の資源でも、燃料という新たな用途を見出したことで価値が見いだ

せる上に、発生源の製材工場の経費削減にも結びつく。そして、残材の特性に応じた最適

12 バークも樹幹部もエネルギー含有量は同程度であるが、バークの方が泥や水分が高く、灰分が多いため、燃焼をさせるために、エネルギーを要する。

13 例えば、クリンカ防止にも有効な揺動式ストーカ燃焼炉やウォーキングフロアを採用し、バークのような高含水率(最大 60%)で性状変動の激しい燃料でも高い燃焼効率を発揮できる。

17

な利用ができると同時に、付加価値化が図れるのである。

②地産地消システム構築にかかる専門家の支援

多様な残材を品質に応じて使い分けるには、残材の特性の理解やそれに応じた燃焼技術、

ボイラーのメーカー動向等の専門知識が必要となる。どのような専門性が必要なのかにつ

いて、バイオマス先進国であるドイツやオーストリア等の状況も鑑み、次にまとめた(図

表 9)。

図表 9 木質バイオマスエネルギーの活用における専門性

主な専門性 バイオマス先進国の対応状況

林業(森林環境含む)および製材工場等の事業把握 林業コンサルタント

サプライチェーン創生

燃料(残材)の引き上げ方法の検討

林業活性化の検討(作業道、林業機械等)

全体のコンセプトづくり バイオマスエネルギーコンサルタント・

エンジニア 対応する燃料(残材)の質や量の把握

燃料(残材)の品質管理

熱需要の把握(温度、時間帯等需要パターン)

燃焼技術(ボイラー)と熱需要や燃料とのマッチング

燃料導線の検討(運搬経路やボイラー内部含め)

コスト試算(イニシャル・ランニング含め)

システム設計(エンジニアリング) バイオマス専門ボイラーメーカー

メンテナンス

(出所)富士通総研作成

国内では、木質バイオマスボイラーを導入しても、効率的に木質バイオマスエネルギー

の有効活用ができていない地域も多い。この課題を解消するためには、上記のような専門

性を持つコンサルタント等専門家を介在させることで、適切なシステムを構築していくこ

とが可能となる。

18

4.1.3 効率的な林業システムへの転換

残材活用の優先順位は、地域の状況により変わってくる14が、基本的には、使いやすさや

手間、コストメリット等を考えると、林地残材よりも工場残材が優先される。しかしなが

ら、熱需要の開拓に伴って、工場残材だけでは賄いきれなくなった場合、例えば熱需要の

高い地域では林地残材の活用優先度を給えるなど、林地残材の活用の検討も必要となる(図

表 10参照)。

図表 10 地域における工場残材と林地残材の使い分け例

(出所)富士通総研作成

将来的な熱需要拡大に向けては、切捨て間伐等林地に放置されている林地残材の徹底利

用が重要であるが、そのためには、効率的な収集・運搬システムを構築することが喫緊の

課題となる。林地残材を効率的に搬出する一手法として、林内で自然乾燥させた間伐材や

枝葉等未利用材を、移動式チッパーにてその場でチップ化し、これをチップ需要施設やチ

ップヤードに輸送することが検討できる。

ただし、移動式チッパーの導入については、課題がある。小さなチッパーでは馬力が足

りず、うまくチップ化できないことがあるため、生産能力を考えると大型化する傾向にあ

る。そうなると、1台数千万円と非常に高額となってしまい、1事業体で償却していくこと

は困難である。欧州では、チッパー処理は委託形態が通常であり、広域利用することで、

チッパーの稼働率を高めている。日本でも、1事業体でチッパーを導入するのではなく、広

域連携を図ることでチッパー処理量を確保し、稼働率を高めていくことが必要である。

また、移動式チッパーの安全走行を考慮した森林作業道の整備の検討も一案である。林

業が盛んなドイツ等では、“屋根型道づくり”という森林作業道の整備が一般的である。長

期間活用するという前提で、路面の中央部を高くして排水性や耐久性を高めており、壊れ

14 域内に製材工場がない地域では、林地残材が優先される場合もある。

工場残材

林地残材

熱需要(=チップ販売量)

活用優先度

19

にくく維持管理コストが安くなるというメリットがある。国内でこの整備方法を取り入れ

ているのが、北海道鶴居村森林組合である。当森林組合は、2015 年度から欧州製林業機械

を導入して生産性を向上させた事業を実施している(図表 11参照)。

図表 11 北海道鶴居村森林組合が“屋根型道づくり15”を行い、

その上で欧州製林業機械が稼動する様子

(出所)筆者撮影

地域内に、燃料基地となるバイオマスセンターとしてチップヤードを整備することも検

討すべきである。ここではチップの品質管理(水分調整等)を行うだけでなく、近隣住民

からの自伐材等の受入・買取りを行う施設として機能させることもできる。

4.2 エネルギーの需要サイドにおける特徴

4.2.1 域内における熱需要の把握

木質バイオマスエネルギーの利用にあたっては、出口となる熱需要の把握が最も重要で

ある。日本では、入浴における風呂焚き等により、温暖な地域でも熱需要が存在する。そ

のため、全国的に最終消費段階のエネルギーにおける熱利用の割合は高い16が、域内の熱需

要の存在はある程度確かめておく必要がある。

一例として、地域におけるエネルギーの構成(石油製品、電気、熱等)を確認した上で、

エネルギーの消費量を推計する。民生部門のエネルギー消費量における石油製品は熱利用

に供していると仮定し、ある程度の熱量があるとなれば、熱供給事業の可能性が出てくる。

詳細は、事例において紹介する(5.4.2参照)。

15 鶴居村森林組合の屋根型道づくりについては、次が詳しい。

http://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/kanbatu/hojyojigyou/pdf/01-02-02.pdf 16 3.2.3図表 6のとおり、民生部門の最終消費エネルギーを見ると、熱利用は半分を占める。

20

4.2.2 公共先導型での需要創出

日本でバイオマスエネルギーの利用を進めるにあたり、木質バイオマスボイラーが化石

燃料ボイラーと比較して高額であることは課題である。国内の木質バイオマスエネルギー

の利用が進んで来たとはいえ、普及半ばであることもあり、日本におけるイニシャルコス

トは高い。ドイツ・オーストリア等熱供給事業が発達している国では、家庭用や小規模の

ボイラーを年間数千台生産する量産型メーカーもあり、業務用でも数百万円程度のボイラ

ーが数多く存在する。他方、業務用ボイラーを日本で購入すると、数千万円以上となる。

普及していくには公共先導型で進めていき、地域経済波及効果や環境効果を地域に浸透

させていくことが必要であろう。その中で、ベストプラクティスを積み重ねながら、市場

を拡大し、コストダウンを図っていくことで、民生利用につながっていくのではないかと

考える。このように、公共施設先導で需要創出を進めるメリットは、原油価格の状況にも

よるが、燃料の切替えによるランニングコストの削減や CO2削減等環境対策や教育の場と

しての活用のみならず、民間施設への木質バイオマスエネルギー導入の布石になる点であ

る。

木質バイオマスエネルギーの活用に合っている熱需要施設としては、木質バイオマスボ

イラーの特性(詳細は 4.2.4に後述)として、年間を通して安定した温熱需要がある施設が

適する。このため、温熱需要が終日見込まれる施設や、暖房需要だけでなく年間通した給

湯需要もあるといった季節変動がない温浴施設等が望ましい。例えば、公共施設や高齢者

福祉施設、旅館・ホテル等宿泊施設、温水プール、ハウス栽培施設等が当てはまる。

まずは、公共施設で木質バイオマスボイラーの特徴を確認することで、その実績を踏ま

え、地域内の民間施設等が導入を検討する等、民間への波及効果が出てくるだろう。木質

バイオマスエネルギーの推進を図るためには、公共施設だけでなく、民間施設にも理解と

協力を促し、地域全体として地産地消を拡大していくことが重要である。

4.2.3 熱需要施設の集約

木質バイオマスエネルギーに限らず、効率的なエネルギー利用を進めるためには、地理

的な条件も重要である。特に熱利用においては、熱需要施設の集積があれば、地域熱供給

網の検討は有効である。

熱は長距離輸送に向いていないため、単独の施設で利用するシステムを構築するケース

が多い。しかし、熱需要施設が集約されている場所では、熱導管を介して 1 つのボイラー

から複数施設に熱を供給したり、複数施設間で熱を融通し合う地域熱供給システムを構築

したりすることができる。これにより、高価なボイラー台数を減らすことによる整備費の

削減、熱需要の平準化による効率的な運用が期待できる。日本では高価な木質バイオマス

21

ボイラーは、イニシャルコストでは安い化石燃料ボイラー(業務用でも数百万円程度)に

歯が立たない。しかし、地域のエネルギー循環や地域経済波及効果、さらに熱需要施設が

集約された状況であれば、バイオマスの熱利用が優位性を発揮する。

4.2.4 熱需要施設における工夫

一般的な化石燃料ボイラーは、断続運転タイプである。熱需要施設が欲する温度まで一

気に上昇し、一定温度に達した段階で、稼動を停止し、温度が下がってきたら、また稼動

するという細かなオンオフが可能である。一方、国内にこれまで多く導入されてきた木質

バイオマスボイラーは、連続運転タイプである。ゆっくりと温度上昇し、急激な出力調整

が苦手であるため、一定の出力以上で運転させ、大容量の蓄熱を組み合せながら、連続し

て運転させることが望ましい(図表 12参照)。

図表 12 化石燃料ボイラーと木質バイオマスボイラーの熱出力のイメージ

(出所)富士通総研作成

近年では、化石燃料ボイラーと同様に、木質バイオマスボイラーでも、熱負荷に追随す

るオンオフ可能な断続運転タイプが国内で稼動を始めている。熱負荷の変動に細かく対応

できることが特長である。

いずれにしても、熱需要施設は、熱負荷を一時に集中させず、熱負荷の発生時間を分散

させる等の工夫をすることで、熱負荷の平準化が実現できる。これにより、ボイラーの最

大出力を抑えることができる。つまり、規模の適正化によるイニシャルコスト、施設の熱

需要規模に見合った効率的な運転によるランニングコストの削減を実現できる可能性があ

る。

木質バイオマスエネルギーを活用するにあたっては、木質バイオマスボイラーの運転特

22

性を鑑みた上で、それに応じた効率的なエネルギーの利用の仕方を検討した施設や事業の

運営の工夫が求められる。その意味では、運営側に対しても、木質バイオマスボイラーの

特徴やエネルギーの地産地消、地域への経済波及効果等も含め、木質バイオマスエネルギ

ー活用の意義を説く機会を十分に持つ必要がある。

23

5 岩手県遠野市における地産地消システム構築の事例

遠野市は、2014 年から木質バイオマスエネルギーのプロジェクトを、官民連携のもと、

推進している。当地は、豊かな森林資源に恵まれていることや寒冷地で温熱需要が多いこ

と等から、木質バイオマスエネルギーの地産地消システムの構築に適している。以下、こ

の事例における具体的な取り組みを紹介するとともに、課題や展望を整理する。

5.1 岩手県遠野市の概要

遠野市は、北上高地の中南部に位置し、人口は約 28,000人(2017年 3月末現在)、柳田

國男の「遠野物語」に代表される民話のふるさととして知られる。寒暖の差が激しく、過

去 30 年間の平均値として真夏でも約 23 度と過ごしやすいものの、冬は-3 度程度まで冷

え込み、最深積雪は 30センチ弱となっている。豊かな自然環境に恵まれ、米、野菜、ホッ

プ等の農業、畜産業等が営まれている。市域面積の 83.1%(68,581ha)が森林で、1990年

代後半から遠野木材工業団地(略称:遠野木工団地)の整備が進められ、木材産業の関連

企業が集積している。しかし、これら産業は、担い手の高齢化や後継者不足等の問題を抱

えている。

5.2 遠野地域における木質バイオマスエネルギー

遠野地域は、木質バイオマスエネルギーの熱利用を展開しやすい条件が整っている。遠

野木工団地があることで大量の残材が発生していることや、寒冷地のため多くの熱需要(暖

房・給湯等)が存在し、コスト面および環境政策面から、冬季における灯油・重油の代替

エネルギーとしてのニーズが多いためである。こうした背景から、既に一部の学校や公共

施設等に木質バイオマスボイラーによる熱利用が図られてきたが、清掃等のメンテナンス

が頻発したり、必要とする温度に達しない等の問題があり、一部では木質バイオマスエネ

ルギーは活用しづらいとの考えもあったようである。理由として、遠野地域には専門家が

不在で、地域全体に木質バイオマスエネルギーへの理解が進んでいなかったこともある。

5.3 プロジェクトの概要

2014 年、林業・バイオマスエネルギーの専門家による遠野地域の視察結果から、木質バ

イオマスエネルギーの活用拡大の可能性が示され、それに遠野市役所はじめ、遠野木工団

地内の林業・製材関係企業や地域住民等が賛同し、木質バイオマスの利用促進の流れが出

始めた。これを契機に、2014 年 12 月、遠野市は「新エネルギービジョン」を策定し、リ

24

ーディングプロジェクトに木質バイオマスエネルギーのプロジェクトを位置づけ、着実な

木質バイオマスの利用促進とエネルギーの地産地消を目指した。

図表 13 遠野市新エネルギービジョンの概要

(出所)遠野市 新エネルギービジョン概要版

さらに、遠野市は、木質バイオマスの利用促進とエネルギーの地産地消の実証を進める

べく、環境省・林野庁の「木質バイオマスエネルギーを活用したモデル地域づくり推進事

業」に応募し、採択された。この事業では、3章でも述べたように、木質資源のカスケード

利用として、遠野地域の林地残材や工場残材を徹底かつ適正に利用し、残材・未利用材に

よる木質バイオマスのサプライチェーン構築を目的としている。これにより、木材の付加

価値を大幅に向上させ、遠野木工団地を核とした遠野地域の林業・木材産業の競争力強化

を図ると同時に、脱炭素社会に向けて CO2削減も図るとした。本プロジェクトを通じて、

遠野地域のバイオマス利用量を拡大することで、これを触媒として遠野木工団地の収益性

改善・事業量拡大を図り、森林資源の地元利用を推進していき、最終的には、国内におけ

る林業・再エネによる木質バイオマスエネルギーの地産地消システムのモデル化を目指し

25

ている。

なお、推進体制としては、遠野市役所はじめ遠野木工団地内企業等、地域を主体とした

「遠野市木質バイオマス利活用検討協議会」を設立した。そして、林業部会、木材産業部

会、木材需要部会という 3 つの部会にて、それぞれの課題を検討し、川上から川下まで木

質バイオマスのサプライチェーンの構築に向けた実証プロジェクトを推進した。プロジェ

クト推進にあたっては、林業やバイオマスエネルギーのコンサルタントや木材利用関係の

学識者、欧州等バイオマスボイラーの専門メーカーも参画している。また、地域エネルギ

ー事業推進のために、民間の地域エネルギー会社「遠野バイオエナジー株式会社」を、プ

ロジェクトの一環として設立している。

図表 14 遠野市木質バイオマス利活用検討協議会

(出所)富士通総研作成

5.4 遠野地域における木質バイオマスエネルギー地産地消システムの特徴

本プロジェクトでは、遠野地域の森林および遠野木工団地内企業や近隣の製材工場から

出る残材・未利用材を活用し、木質バイオマスエネルギーの地産地消システムの構築を目

指している。以下、4章を踏まえ、遠野地域の取り組みの特徴を整理する。

なお、本プロジェクトにおいては、遠野市の温浴宿泊施設である「たかむろ水光園」に

断続運転が可能な欧州製の小型ボイラーを、遠野木工団地内にバークを主燃料とできる欧

州製の大型ボイラーを導入している。また、燃料基地となるチップヤードの整備および移

動式チッパー等も導入している。

26

5.4.1 遠野地域の供給サイドにおける取り組みのポイント

本プロジェクトでは、遠野地域の森林および遠野木工団地内企業や近隣の製材工場から

出る残材・未利用材を活用した木質バイオマスのサプライチェーンの構築を目指した。一

気通貫の木質バイオマスのサプライチェーン構築により、未利用分の林地残材や工場残材

等の利用促進を通じて、カスケード型のサプライチェーンを確立させ、林業・木材産業の

収益性改善、森林資源の管理・活用を図り、地域経済の活性化に貢献することを目指して

いる(図表 15参照)。

図表 15 遠野プロジェクトにおけるサプライチェーン構築

(出所)富士通総研作成

①残材の最適利用と付加価値化を目指した技術の選定

本プロジェクトでは、燃焼技術が既に熟成しており、多くの実績を持つ欧州製の木質バ

イオマスボイラーを活用することで、残材の最適利用と付加価値化を図っている。

遠野木工団地等遠野地域の製材工場では、丸太加工、製材品加工の過程で、バーク、木

片等の端材、おが屑、かんな屑等工場残材が大量に発生していた。バーク以外の工場残材

の多くは、製紙会社に原料として納品していたが、扱いやすい高品質なバイオマス燃料と

して、より付加価値を高められる可能性があった。また、一部は、木材乾燥用の大型ボイ

ラー(木材乾燥用の蒸気を得るための木くず炊きボイラー)の燃料として自工場で活用さ

れていたが、24 時間体制で運転管理する必要があり、その労務コストがかかっていた。ま

た、このボイラーはバークを燃料利用できず、遠野地域のバークは未利用であった。そこ

で本プロジェクトでは、残材の最適利用と付加価値化を目指し、それを適える燃焼技術を

持つ木質バイオマスボイラーを導入した。

第一弾として、バーク以外の工場残材の付加価値を高めるため、小型ボイラー(チップ

ボイラー、120kW×2 台)を市の温浴宿泊施設である「たかむろ水光園」に導入した(図

表 16)。「たかむろ水光園」には、当初、重油ボイラーが稼動していたが、新エネビジョン

等による再エネ推進や CO2削減等環境対策、ボイラーの老朽化による更新時期の到来等に

より、木質バイオマスボイラーの導入が決定した。

27

図表 16 「たかむろ水光園」における火入れ式の様子

(出所)筆者撮影

このボイラー導入で木質バイオマスエネルギーの地産地消が実現できたことにより、次

のような利点が出ている。まず、小型ボイラー燃料として、工場残材(バークは除く)を

使うことにより、従来、製紙原料等として納入していた価格より価値を向上させることが

できた。

小型ボイラー導入による燃料代削減の見込みとしては、年間 180 万円以上となる。施設

管理の体制により、当初の重油ボイラーをバックアップとして使用しており、一定の重油

を未だ使用している状況での削減額であるが、仮に 100%木質バイオマス燃料とした場合は

300万円程度となる。さらに化石燃料と異なり、地域経済循環が生まれる上、地域産の木質

バイオマス燃料は価格も安定していることから、長期的な見通しを立てられる。また、化

石燃料からの転換により、温室効果ガス(CO2)削減という環境面での利点も加わる。

次に、バークを主燃料にできる欧州製の大型ボイラー17(蒸気ボイラー、1500kW×1台)

17 本プロジェクトで導入した欧州製の木質バイオマスボイラーは、クリンカ防止にも有効な揺動式ストー

カ燃焼炉やウォーキングフロアを採用し、バークのような高含水率(最大 60%)で性状変動の激しい燃

料でも高い燃焼効率を発揮できるタイプであり、欧州で豊富な実績を有している。

28

を導入し、遠野木工団地内に設置した。遠野地域では、バークが有効利用されていなかっ

たが、バークを燃料利用できる木質バイオマスボイラーが無かったため導入した(図表 17)。

これにより、地域の“やっかいもの”扱いされていたバークを活用できるようになったと

同時に、元々燃料利用していた高品質の残材は、乾燥チップやペレットとしてより付加価

値の高い利用ができるようになる。

地域には多様な残材が存在している。それぞれの性質に応じて有効に使い切るためには、

海外等も含めて広い視野で技術選定していくことが重要である。

図表 17 野積みされた遠野木工団地のバークと団地内に設置された大型ボイラー

(出所)筆者撮影

②効率的な林業システムの検討

遠野地域では、使いやすさや手間、コストメリット等を考えると、工場残材の活用が優

先される。現在のチップ需要量は工場残材だけでも賄えるため、林地残材からのチップ化

が即時必要な状態ではない。しかし、熱需要の開拓とともに林地残材の活用が考えられる。

林地残材を効率的に搬出する一手法として、林内で自然乾燥させた間伐材や枝葉等未利

用材を、移動式チッパーにてその場でチップ化し、これをチップ需要施設やチップヤード

に輸送することも検討できる。特に、遠野地域の緩やかな傾斜地において、このシステム

は適している。そこで、本プロジェクトでは、欧州製の移動式チッパーを導入し、林地等

におけるチップ化をベースとした残材・未利用材からの燃料生産・運搬システムについて

も実証を行った(図表 18)。実証結果として、林地内で自然乾燥による水分率の変化につい

ては、伐木直後はWB50%18近くであったものが、約半年でWB35%を切るまでに下がって

いる。今回導入した小型ボイラーの適用水分率が WB40%以下であることから、十分対応

18 木質資源の含水率の表記方法には、乾量基準含水率(ドライベース:DB)と湿量基準含水率(ウェッ

トベース:WB)が存在する。本稿では、後者を採用しており、水分を含む木材(生木)の質量に占め

る水の割合を示すものである。

29

可能である。また、生産コストについて詳細は割愛するが、今回導入した移動式チッパー

の年間チップ生産能力は 20,000㎥/年とされており、林地におけるチップ生産・運搬コス

トの実証結果から、約 5,000 ㎥/年以上が採算ラインとなっている。このため、需要開拓

の状況を見極めながら、林業活性化を図ることが重要である。

また、移動式チッパーの安全走行を考慮した森林作業道の整備のため、“屋根型道づくり”

も検討している。先進地の北海道鶴居村森林組合に協力を仰ぎ、遠野森林組合等が視察に

出向き、その後の遠野におけるワークショップにてこの手法の詳細説明を受け、市有林内

で試験的に施工している。

さらに、遠野木工団地内に、燃料基地となるバイオマスセンターとしてチップヤードを

整備した。ここではチップの品質管理(水分調整等)を行うとともに、近隣住民からの自

伐材等の受入・買取りを行う施設としても機能させている。

図表 18 バイオマスセンター(燃料基地)の整備と移動式チッパーの導入

(出所)筆者撮影

5.4.2 遠野地域の需要サイドにおける取り組みのポイント

遠野地域は、寒冷地で温熱需要が多く、供されるエネルギーは、主に、灯油、ガソリン、

軽油等の石油製品、電気、熱、その他 LPガス等簡易ガスが利用されている。遠野市新エネ

ルギービジョン(2014 年 11 月)による「遠野市エネルギー消費量推計結果」では、遠野

市エネルギー消費量は 2,002×106MJとなっている。

その内、民生部門のエネルギー消費量について見てみると、874×106MJであり、市全体

の約4割を占めている。当該部門において消費されていると考えられる石油製品等(灯油、

30

重油、LPガス等)を熱利用に供していると仮定すると、その量は年間 524×106MJ 19とな

る。524×106MJ とは、灯油量で言うとドラム缶(200 リットル)7 万缶以上20となる。こ

れは、約 1万 3千世帯分の灯油量に相当21する大きな熱量であり、これを化石燃料や電気を

使わず、地域の木質バイオマスから直接得ることは、大きな価値がある。また、この熱量

を灯油価格で換算すると 14 億円以上22となり、この規模の地域経済的なポテンシャルがあ

ると言えよう。さらに、産業部門の石油製品等の消費においても、動力でなく熱を得るた

めに使用している分があることを踏まえると、さらに大きなポテンシャルを見いだすこと

ができる。

①公共先導型のバイオマス導入方針

遠野市では、公共施設から先導的に木質バイオマスボイラーを導入していく方針を立て

ている。重油・灯油ボイラーが導入されている既存の公共施設は、これまでにも、学校や

熱需要の大きな施設から順に木質バイオマスボイラーへの代替を行っており、今後も継続

していくこととしている。新規の公共施設は、当初から木質バイオマスボイラーの導入を

前提としており、2017年 9月に開庁した新市役所本庁舎にも冷暖房用として導入している。

市内には、既にチップボイラー等木質バイオマスボイラーを導入している民間施設も一部

あるが、他にも温熱需要の高い高齢者福祉施設が多いことから、遠野地域における、さら

なる木質バイオマスエネルギーの消費拡大が期待できる。

実際、本プロジェクトを契機に、遠野市内の民間施設へ木質バイオマスボイラーが導入

されている。市施設である「たかむろ水光園」の小型ボイラーが稼動してから、安定した

稼動と使い勝手の良さ、燃焼効率の高さ等、欧州では一般的に言われているバイオマスボ

イラーの特徴を確認することができており、その実績から、市内の民間福祉施設が小型ボ

イラーの導入をする等、民間への波及効果が出てきている。

②公共施設の集約化

遠野市の公共施設の配置の特徴として、地区ごとの中心部に施設を集約する、いわゆる

コンパクト化を図ってきた歴史があり、熱利用に適している。公共施設の集約化により、

熱導管で複数の施設をつなぎ、共有のバイオマスボイラーを利用する地域熱供給システム

の導入が検討できる。整備費の削減、熱需要の平準化による効率的な運転が期待できるた

19 遠野市新エネルギービジョン(2014年 11月)の推計元となっている、岩手県の最終エネルギー消費

(2012年)によると、民生部門のエネルギー消費量は 53,607×106MJで、うち石油製品と都市ガス(一

般ガス、簡易ガス)のエネルギー消費量は 31,712×106MJ であり、約 6割を占める。この構成比を遠野

市にも当てはめると、遠野市民生部門のエネルギー消費量 874×106MJ の 6割の 524×10

6MJ が石油製

品と都市ガスのエネルギー消費量と考えられる。 20 一般財団法人省エネルギーセンターによると、灯油の熱量は 36.7MJ/リットルとある。 21 資源エネルギー庁「平成 18年度灯油消費実態調査」によると、岩手県の年間灯油使用量は 1090.2リッ

トル/世帯とある。 22 経済産業省「石油製品小売市況調査(都道府県別)」によると、岩手県における灯油店頭価格は、1,803

円/18リットル(本プロジェクト開始に近い 2014年 11月 4日時点)とある。

31

め、遠野市でも地域熱供給システムの将来的な導入に向けた調査、研究を進めている。

地域熱供給システムの例のひとつとして、機械室から複数の施設に熱導管をつないでエ

ネルギー(温水や冷水)を供給する仕組み(図表 19参照)とすると、供給サイドでは機械

室等を集約することができ、需要サイドでは熱需要パターンの異なる施設を組み合わせる

ことで、需要を平準化することができる等の利点がある。また、地域熱供給網に限った話

ではないが、施設内の既存設備や配管等を活かすことも可能となる。

図表 19 複数の公共施設に対する地域熱供給システムのイメージ

(出所)遠野市「木質バイオマス利用拡大調査業務報告書」H29.2

③熱需要施設の運転パターン改善によるボイラーの適性規模化

本プロジェクトで「たかむろ水光園」に導入した小型ボイラーは、断続運転タイプであ

り、シミュレーション上は問題なく熱需要に対応できる想定であった。ところが実際には、

施設管理上の問題からやむなくバックアップとして置いていた既存の重油ボイラーが稼動

する日が多かった。これは、重油ボイラーの老朽化や性能の問題もあるが、より大きなも

のとしては、熱負荷が一時にかかるという施設運営に起因している。

施設の性質上、詳細を述べることは割愛するが、男女浴そうのお湯の張替えを同時刻に

行っているため、短時間に大量のエネルギーが必要となる。それに対応するための負荷は

相当なものであり、導入したバイオマスボイラーは細かな熱パターンに対応できる断続運

転タイプのバイオマスボイラーではあったが、それでも、対応し切れない状況が発生して

しまったのである。これを回避するためには、例えば男女別々にお湯の張替えを行うとい

チップサイロチップサイロ

新設機械室新設機械室

熱水 ( 行き )

地中断熱パイプ

ぬるま湯 ( 戻り )ぬるま湯 ( 戻り )

熱水 ( 行き )

地中断熱パイプ

蓄熱槽蓄熱槽

チップボイラチップボイラ

熱交換器熱交換器

公共施設 B

既存機械室既存機械室

公共施設 A

既存機械室既存機械室

32

う運用の改善で、重油ボイラーの稼動は避けられ、無駄に重油を消費することは無くなる。

従来、化石燃料ボイラーの導入時に規模を検討するにあたり、低価格のものが存在する

こともあり、余力を鑑みた規模の設定にしていたケースが多いように思う。つまり、適正

なボイラー規模の検討や効率的な運用を前提にしてこなかったのではないかと考えられる。

これを基本に、各地で木質バイオマスボイラーの規模を検討してしまった結果、元々、化

石燃料ボイラーより高額であることや連続運転タイプが基本といった運転特性の問題も含

めて、導入コストがさらに高額になるという悪循環を生んでしまっているのではないか。

しかし、効率的な運用を前提として、熱負荷の平準化に努めれば、小規模なボイラーでも

十分に熱需要を賄える。

木質バイオマスエネルギーを活用するにあたっては、施設運営者にも、バイオマスボイ

ラーの特徴を理解して頂く機会を設け、熱需要負荷の平準化等木質バイオマスエネルギー

に適した運営を求めることも重要である。

5.5 遠野地域のサプライチェーン構築にかかる課題と解決策

遠野地域における木質バイオマスのサプライチェーンの構築過程における主な課題につ

いて整理するとともに、解決策を検討した。

5.5.1 サプライチェーンに関わる人材の不足

バイオマス事業が他の再エネ事業と大きく異なる点の 1 つに、原料の調達や配送がある

が、その人材を確保することが困難なケースも出てくるだろう。

遠野プロジェクトでは、地域エネルギー会社である遠野バイオエナジーは、チップ生産・

販売、熱販売が主事業であるため、原料調達においては、持ち込んでもらうことを基本に

考えていた。工場残材の原料調達先である製材工場等は、経営圧迫の要因となるバーク等

の処理や、製紙原料より付加価値化された小型バイオマス燃料として買い取るという利点

を考えると、燃料基地であるチップヤードまで運搬してきてくれるだろうという見込みが

あったのである。しかし実際には、原料調達先の製材工場等は中小規模であるために人材

不足で、チップヤードまでの距離があるところ(片道 20-30 キロ程度)からは、持ち込む

ことも困難という事象が発生した。

今後の需要開拓に伴い、林業活性化も含めた林地残材の活用が重要性を増してくるが、

林地残材の引き上げに対応する人員の確保も実際には困難である。つまり、木質バイオマ

スエネルギーの原料となる残材が十分に発生していたとしても、運搬等人員の確保が困難

なために、原料調達が滞る可能性は否定できない。また、今後の需要開拓に伴い、チップ

生産活動や熱需要施設へのチップ配送においても人材不足は否めない。

これは、遠野地域に限らず、どの地域でも起こりうる問題である。木質バイオマスエネ

33

ルギー事業は、人手なしには成立しないのである。

5.5.2 人材不足解消に向けた一試案

解決に向けては、ステークホルダーを巻き込み、地域で協業していくといったアライア

ンスの構築が考えられる。前提としては、木質バイオマスエネルギーが地域のエネルギー

の地産地消を進め、それがいかに地域経済波及効果を生むかという理解を促すことが必要

である。その理解があれば、さまざまなステークホルダーを巻き込み、情報交流のテーブ

ルを設けたり、ともに学習しながら地域経済活性化に向けた取り組みを進めていくことが

できるのではないだろうか。ともすれば競合となる域内のエネルギー事業者とも手を取り

合いながら、木質バイオマスエネルギーの仲間として、新しい仕組みの創生を一緒に検討

していくことができる。そのためには、一定期間の啓発活動が必要であろう。

次に、近隣のエネルギー事業者を含め、トラックや運転手等配送インフラを持つ建設系

や設備系事業者を巻き込んで、チップ販売・配送をしてもらうためのシステムを作り上げ

ることである。新たな人材探しをすると手間も時間もかかるが、地域内で既に近しい業務

についている人材や事業者を探し、隙間時間や本来業務の合間で対応してもらうことを検

討してもらった方が効率的である。また、メンテナンスについても、地域の施工・整備事

業者にノウハウを移転することで対応してもらうことも考えられる。

地域エネルギーの競合事業者も巻き込んで地域アライアンスを組んだ例としては、北海

道十勝地方の木質ペレットの取り組みがある。木質ペレットの販売は、燃料販売を生業と

するガソリンスタンド(灯油販売)やプロパンガス販売店(LPガス販売)から反発を受け

る場合がある。十勝も同様であったが、そうだからこそ、取り組み初期段階から粘り強い

説得を続け、木質ペレットの燃料販売をガソリンスタンド等に任せたのである。木質ペレ

ットの製造は工場で行っているが、燃料販売は工場ではせず、「餅は餅屋」として、ペレッ

ト販売(燃料販売)については既存の燃料販売業者に任せる形をとった。こうすることで、

新たにペレットを運搬するためのトラック等のインフラを整備する必要はなくなる。また、

遠野プロジェクトとも連携している徳島の一般社団法人徳島地域エネルギーでも、概ね

50km 圏内で木質バイオマス地域アライアンスを形成するとともに、2016 年 4 月徳島県内

にバイオマス LABをオープンし、地元の木材が本当に燃やせるのかといった燃焼実験やバ

イオマスボイラーで作られた熱の体感、木質バイオマスについての研修等を行っている。

地域住民にも身近に木質バイオマスエネルギーを感じてもらうことも狙いである。

さらに、林地残材の調達における解決策のひとつとしては、原料となる材の搬出に関し

て、多様なチャネルを創出することが考えられる。例えば、全国的に「木の駅プロジェク

ト」が広まりを見せている。この取り組みは、林家等が自ら間伐を行い、軽トラック等で

間伐材を搬出し、地域住民やNPO等からなる実行委員会が「木の駅」にて地域商品券等地

域通貨と交換することで、林業の再生やバイオマス事業の推進と地域経済活性化を目指す

34

ものである。2009 年岐阜県恵那市の NPO から本格的に始まった同プロジェクトは、ポー

タルサイト(http://kinoeki.org/)でも 40地区の取り組みが紹介されており、実際にはより

多くの事業が動いている。また、森林所有者から森林管理・活用を委託、あるいは森林所

有者や地域住民自らが小型機械を手に間伐を手がける「自伐型林業」の動きも岩手県内で

出てきている。岩手県大槌町では、林業の担い手不足で放置されている森林整備を手掛け

る NPO法人「おおつち自伐林業振興会」を設立し、震災で職を失った人達を雇用し、伐採

した木材を売って収益を還元しているが、バイオマス熱供給事業まで手がけている。また、

岩手県気仙沼市では、地区住民で「八瀬・森の救援隊」を結成し、地区の市有林の管理を

副業として行っている。適度の間伐が土砂崩れの起きにくい山づくりにつながり、それが

下流にある居住地を水害から守ることになるとの信念からである。また、救援隊が切り出

した間伐材は地域のエネルギー会社が買い取り、木質バイオマス事業に活用するとともに、

その代金の半分は地域経済循環を狙い、地域通貨で支払われている。さらに、薪ストーブ

のユーザーが森林整備に関わる取り組みも増えてきている。遠野市内でも同様の取り組み

があり、住民へのチェーンソー講座や製材・木工講座等も行われている。

以上のように、森林管理や整備・活用に関する多様な取り組みが各地で萌芽してきてい

ることから、これらの取り組みと連携を図ることで、バイオマス原料となる材が自然と集

まるようにしていき、原料調達における人材不足の補完としていくことが肝要である。ま

た、地元の競合事業者とも手を取り合いながら、それぞれの得意分野を活かして分業化し、

地域住民にも理解を得ながら事業を推進していくことが重要である。

5.5.3 設備・機材選定や稼動における技術導入における留意点

遠野プロジェクトでは、欧州製の木質バイオマスボイラー導入にあたり、遠野地域の代

表者が木質バイオマス先進国への視察を行い、バイオマスエネルギーの熱利用の現状を認

識し、さらにボイラーメーカーのエンジニアの来日による研修会や、地域事業に合わせた

カスタマイズも行っていたが、調整すべき点はいくつかあった。例えば、バークを主燃料

とできる大型ボイラーについて、スギのバークを実際に使用したところ、繊維質が非常に

強く、絡み合ってしまうために流動性が少なくなってしまう事態が発生した。これは一定

想定されたことではあったが、季節的な性状の異なりも加わって、燃料搬送がうまくいか

ない時期があった。木材乾燥の学識者等専門家も入れた検討を行う中で、燃料の搬送容積

を増やす工夫やサイロからボイラーへの通過部の形状の変更により燃料が詰まりにくい構

造へと改善するとともに、燃料のバークを一定以下のサイズとするよう徹底する等燃料供

給についても配慮を行った結果、バーク 100%の燃料でも定格出力運転ができることが確認

された。

これらを踏まえると、計画時より実際に使用する燃料の性状(形状や水分など)の確認

の徹底はもとより、それにマッチングした設備や機材の選定、技術の導入が重要となる。

35

例えば、事前にバークを破砕して流動性を少しでも向上させる、あるいは季節的な含水率

変動に合わせてチップ混合比率の変更を行う等、燃料の品質改善の検討も望まれる。

36

6 おわりに

今回の遠野プロジェクトでは、これまで当該地域に導入されていない欧州製の木質バイ

オマスボイラーの導入ということもあり、関係者の合意形成を図るのが難しい場面も生じ、

短期間で体制を整えていくことは非常に困難であった。川上から川下までサプライチェー

ンを構築したことにより、そこに関わる人は当然のことながら多くなるため、さまざまな

人の思いもあり、複雑な問題も発生してくる。ボタンの掛け違えから、事業が停滞してし

まうこともある。その問題ひとつひとつについては、まさに走りながら考えていくという

時間軸での対応が求められたが、間近で見ていると、地域の力で乗り越える場面も多かっ

たように思う。地域に対する愛着が多いほどに、新しいものに対する不信感等が発生する

こともある。ただし、地域がより良くなるという目的については、誰もが疑わない。その

認識を間違わなければ、新しいものを取り入れながら前に進むことができる。木質バイオ

マスエネルギーは日本ではまだ新しいエネルギーであるが、エネルギーの地産地消を進め

る上では地域経済波及効果が大きく期待できる。

日本の木質バイオマス事業は、変わり始めている。木質バイオマスの基本である林業と

連携した残材の徹底利用と熱利用は、日本では長らく進んでこなかったが、遠野プロジェ

クトも含め、北海道下川町や岩手県紫波町など、地域の豊富な森林資源を活かした木質バ

イオマスの熱利用を成功させている欧州を見習ったさまざまな事例も出てきており、その

成果と課題を検証しながら、知見を深め、よりよいエネルギー利用の形を考えられる時期

に来ている。

特に、手本となる国としてオーストリアが着目されている。日本と同様の急峻な地形を

有しながら、豊富な森林資源をさまざまな形で活用し、木材製品を日本にまで輸出するな

ど林業先進国と呼ばれている。また、長年の取り組みを経て、世界最先端の林業・バイオ

マス事業を構築し、さまざまなノウハウを有している。2015 年 10 月、長野県とオースト

リア農林環境水資源管理省は、森林・林業、自然エネルギー、自然環境の分野での連携を

強化するための覚書を締結し、長野県は、森林県から林業県へと生まれ変わるために、オ

ーストリアと技術交流の推進を決定している。そして、2017年 5月、長野県で「バイオマ

スエキスポ」が開催され、オーストリア関係者も多数参加していた。筆者も、2016年、2017

年と参加したが、この 1 年で一番大きな変化は、高性能林業機械やボイラーの見本市が野

外で大々的に行われたことである。2016 年は、オーストリアの農林環境水資源管理省アン

ドレー・ルップレヒター大臣、今井林野庁長官、阿部長野県知事等が出席されており、会

場は盛況であったが、屋外ステージは無かったので、この 1年での活況ぶりに驚かされた。

再生可能な森林資源を最大限利用し、林業・木材産業・バイオマス利用の相互発展によ

り、豊かな地域づくりを欧州諸国では進めている。これらの取り組みを学び、森林を活か

した地域経済成長に向けて、日本の地域でも熱利用を基本とした木質バイオマス事業が一

層進むだろう。今一歩、エネルギーの地産地消を進めていくためには、エネルギー事業に

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直接関わっている人は当然のこと、その他の潜在化している意見も丁寧に集めながら、情

報共有を進め、問題を先送りしないことが重要である。しかし、川上から川下までのサプ

ライチェーンとなると、膨大な人数が存在する。そこで、例えば、サプライチェーンにお

けるマネジメントシステムの構築等も、エネルギー事業検討とともに検討していくべきで

はないだろうか。木質バイオマスエネルギーの地産地消の成否は、地域の力を結集しなが

ら、総力戦で進めていけるかどうか、その地域自身の覚悟が求められる。その覚悟さえあ

れば、木質バイオマスエネルギーの熱利用先進国のように、地域内でエネルギーとお金が

循環し、エネルギーの地産地消が地域経済循環へとつながっていくと信じている。

38

参考文献

相川高信(2014)「木質バイオマス事業 林業地域が成功する条件とは何か」全国林業改良

普及協会

相川高信ほか(2016)「木質バイオマス熱利用でエネルギーの地産地消」全国林業改良普及

協会

富士通総研、森林環境リアライズ、環境エネルギー普及(2013)「木質バイオマス導入・運

用にかかわる実務テキスト」

一般社団法人日本有機資源協会編著(2013)「バイオマス活用ハンドブック」環境新聞社

梶山恵司(2013)「木質バイオマスエネルギー利用の現状と課題」富士通総研研究レポート

No.409

久保山裕史ほか(2015)「特集 期待される木質バイオマスエネルギー」季刊森林総研No.31

熊崎実/沢辺攻編著(2013)「木質資源 とことん活用読本」農山漁村文化協会

小澤祥司・浦上健司(2013)「バイオマスエネルギー・ビジネス」七つ森書館

東京農業大学農山村支援センター(2015)「再生可能エネルギーを活用した地域活性化の

手引き~森林資源と山村地域のつながりの再生をめざして~」林野庁

(http://www.rinya.maff.go.jp/j/sanson/kassei/kenyukai.html)

研究レポート一覧

No.450 木質バイオマスエネルギーの地産地消における 課題と展望 -遠野地域の取り組みを通じて-

渡邉 優子(2017年12月)

No.449 観光を活用した地域産業活性化 :成功要因と将来の可能性

大平 剛史(2017年12月)

No.448 結びつくことの予期せざる罠 -ネットは世論を分断するのか?-

田中 辰雄浜屋 敏

(2017年10月)

No.447 地域における消費、投資活性化の方策 -地域通貨と新たなファンディング手法の活用-

米山 秀隆 (2017年8月)

No.446 日本における市民参加型共創に関する研究 -Living Labの取り組みから-

西尾 好司 (2017年7月)

No.445 ソーシャル・イノベーションの可能性と課題 -子育て分野の日中韓の事例研究に基づいて-

趙 瑋琳 (2017年7月)

No.444 縮小まちづくりの戦略 -コンパクトシティ・プラス・ネットワークの先進事例 米山 秀隆 (2017年6月)

No.443 ICTによる火災避難の最適化 -地域・市民による自律分散協調システム-

上田 遼 (2017年5月)

No.442 気候変動対策分野における新興国市場進出への企業支援 -インドにおける蓄電ビジネスを例に-

加藤 望 (2017年5月)

No.441 シニアの社会参加としての子育て支援 -地域のシニアを子育て戦略として迎えるための一考察 森田麻記子 (2017年5月)

No.440 産業高度化を狙う「中国製造2025」を読む 金 堅敏 (2017年5月)

No.439 エビデンスに基づくインフラ整備政策の実現に向けて ~教育用コンピュータの整備をモデルケースとした考察~

蛯子 准吏 (2017年4月)

No.438 人口減少下の地域の持続性 -エリアマネジメントによる再生-

米山 秀隆 (2017年4月)

No.437 SDGs時代の企業戦略 生田 孝史 (2017年3月)

No.436 電子政府から見た土地所有者不明問題 -法的課題の解決とマイナンバー-

榎並 利博 (2017年1月)

No.435 森林減少抑制による気候変動対策 -企業による取り組みの意義-

加藤 望(2016年12月)

No.434 ICTによる津波避難の最適化 -社会安全の共創に関する試論-

上田 遼(2016年11月)

No.433 所有者不明の土地が提起する問題 -除却費用の事前徴収と利用権管理の必要性-

米山 秀隆(2016年10月)

No.432 ネット時代における中国の消費拡大の可能性について 金 堅敏 (2016年7月)No.431 包括的富指標の日本国内での応用(一) 人的資本の計測とその示唆 楊 珏 (2016年6月)

No.430 ユーザー・市民参加型共創活動としてのLiving Labの現状と課題

西尾 好司 (2016年5月)

No.429 限界マンション問題とマンション供給の新たな道 米山 秀隆 (2016年4月)

No.428 立法過程のオープン化に関する研究 -Open Legislationの提案-

榎並 利博 (2016年2月)

No.427 ソーシャル・イノベーションの仕組みづくりと企業の 役割への模索-先行文献・資料のレビューを中心に-

趙 瑋琳李 妍焱

(2016年1月)

No.426 製造業の将来 -何が語られているのか?-

西尾 好司 (2015年6月)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/

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