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解 説�
日本の総合指数(NTP:Nippon Total Profitindex)は、泌乳能力と体型をバランス良く改良するために、乳成分率を下げず、乳量・乳成分量と長命連産性の改良量が最大となるよう考慮された指数であり、1995年に(社)日本ホルスタイン登録協会によって開発され、その翌年から公表されています。また、改良を効率的に進めるためには、遺伝的能力の高い種雄牛を少数精鋭で利用することが不可欠であるということから、1998年以降、検定済種雄牛をNTPでランキングしその上位40頭の集中的な利用を推奨しています。ここでは、NTPの利用によって国内乳用雌牛(牛群検定参加牛)の遺伝的能力がどのように変わってきたのかを確認してみます。また、2006年以降に公表を予定している長命性の遺伝的能力評価について解説します。
(独)家畜改良センター 改良部 情報分析課長 仲西孝敏
NTPNTPを利用しましょうを利用しましょう。。
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乳量EBV kg
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乳量EBVkg(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図1 検定牛の遺伝的能力の推移(乳量)�
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1.NTPの利用による遺伝的改良量の変化と輸入精液による影響
図1から図7に、各形質及びNTPに係る検定牛の遺伝的能力の推移を示しました。また、図の中には、推奨されたNTP上位40頭の利用による生産が始まったと考えられる、1999年以降に生まれた検定牛の年当たり遺伝的改良量とそれ以前に生まれた検定牛の遺伝的改良量を記載しています。乳脂量の年当たり遺伝的改良量は僅か
に低下していますが、それ以外の形質及びNTPについてはいずれも上昇していることから、これらの図を見る限り、NTP上位種雄牛の集中的な利用による効果が現れてきており、特に肢蹄得率において顕著であると考えられます。表1に、現在飼養されている検定牛に対
してNTP上位40頭の検定済種雄牛を利用した際に得られる年当たり遺伝的改良量を試算し、示しました。先ほどの図から得た1999年以降に生まれた検定牛の年当たり遺伝的改良量をこの試算値と比較してみると、特に泌乳形質において試算値よりも低くなっています。この原因は、検定牛が必ずしもNTP上位40頭の検定済種雄牛の交配によって得られたものだけではないこと、つまり、NTP40位を下回る国内検定済種雄牛や能力の低い輸入精液の利用に起因するものと考えられます。表2に、過去1年間に輸入された精液の国際評価値をもとに、輸入精液を利用した際に得られる遺伝的改良量を表1と同様に試算した値を示しました。これらの表や、過去1年間に輸入された精液の60%以上が国内検定済種雄牛のNTP40位相当に満たないものであったという実態を勘案すると、①検定牛の年当たり遺伝的改良量を低下させている原因の一つとして、NTPの低い輸入精液の利用が考えられる、②過去に輸入された精液による体型形質に係る年当たり遺伝的改良量は、国内検定
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乳脂量EBV kg
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乳量EBVkg(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図2 検定牛の遺伝的能力の推移(乳脂量)�
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乳蛋白質量EBV kg
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乳蛋白質量EBVkg(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図3 検定牛の遺伝的能力の推移(乳蛋白質量)�
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肢蹄得率EBV %�
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肢蹄得率EBV%(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図4 検定牛の遺伝的能力の推移(肢蹄得率)�
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解 説�
済種雄牛NTP上位40頭の内決定得点上位牛を利用することで得ることができる、と言えそうです。図8に、アメリカの種雄牛のTPIとNTP
(国際評価値)の関係を示していますが、このように、比較的相関は高く、総じてTPIが高ければNTPも高いということが言えます。しかし、個体毎にみると、TPIが1500ポイントのものでもNTPでは約600から約1600ポイントのものまで大きな幅があります。つまり、海外の評価結果は必ずしも日本の環境下で現す能力を示すものではないということを十分にご理解頂きたいと思います。今後、より高い遺伝的改良量を得るた
めには、国内検定済種雄牛のNTP上位牛の中から泌乳形質や体型形質などの改良目的に沿って利用する精液を選択し、あるいは、海外種雄牛を利用する場合であってもNTP(国際評価値)を確認の上厳選することが必要だと考えられます。
2.長命性の遺伝的能力評価
乳用牛の生産性をより一層向上させるためには、泌乳能力の向上や飼養管理の改善に加え、経営内により長く留まり生産することのできる牛群を揃えていくことが重要です。このことから、国内酪農家をはじめとする関係者からの、長命性に係る遺伝的能力評価の実施に対する要望が強くなっているようです。一般に長命性とは、生まれつきどの程
度長生きする素質(寿命)を持っているかということですが、乳用牛などの家畜の場合には、疾病等により死亡するほか、個々の経営体における経営的な判断等に基づき淘汰される場合が多く、寿命を全うすることは稀だといえます。したがって、乳用牛の場合には、寿命を評価するのではなく、どの程度の期間酪農経営に貢献し得るか、を評価することが適当だと考えられます。
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決定得点EBV 点�
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決定得点EBV点(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図6 検定牛の遺伝的能力の推移(決定得点)�
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NTP
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NTP(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図7 検定牛の遺伝的能力の推移(総合指数)�
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乳器得率EBV %�
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乳器得率EBV%(全国)�回帰(1991年~1998年生まれ)�回帰(1999年~2002年生まれ)�
(独)家畜改良センター2005-11月評価�
図5 検定牛の遺伝的能力の推移(乳器得率)�
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解 説�
頭の配置)及び血縁情報を用い、比較的新しい種雄牛の評価値も得ることができます。
(2)在群期間の遺伝率、信頼度
在群期間の遺伝率は、0.08と泌乳形質(0.266~0.323)や体型形質(0.09~0.46)と比べても低い値です。遺伝率が低いということは、両親から後代に伝わる程度が少ないということであり、つまり、在群期間は遺伝という要因よりも飼養環境等の要因によってほとんどが決定される形質であるといえます。また、前述のように在群期間に関連する他の形質から補って評価する手法を用いるということは、比較的新しい種雄牛の評価値も計算することができるメリットがある反面、得られた評価値の精度が落ちることは否めません。したがって、評価値の正確性の指標である信頼度は、総じて余り高くなりません。このため、在群期間の遺伝的能力評価が実現し公表されるようになったとしても、交配に用いる種雄牛の選択の指標としてはNTPを利用し、在群期間はあくまでも参考に横目で眺める程度に留める必要があります。(3)NTPと長命性の関係
NTPは、前述のとおり、我が国の乳用牛改良の方向性を示す指標として、泌乳形質(乳脂量及び乳蛋白質量)と体型形質(肢蹄得率及び乳器得率のほか乳房に係る線形5形質)から構成された指数であり、特に体型形質は長命性の改良に資することに配慮され、構成成分として加えられています。つまり、NTPを用い選抜・淘汰を繰り返すことによって、泌乳形質や体型形
どの程度の期間酪農経営に貢献し得るか、を評価するための指標としては、①一定期間内の産次数(淘汰又は死亡するまでの産次数)、②一定期間内の在群期間(淘汰又は死亡するまでの日数)、③一定期間内の生産期間(淘汰又は死亡するまでの搾乳日数の和)、を挙げることができます。しかし、これまでに検討した結果から、これら指標間には、表型相関0.94~0.95、遺伝相関0.96~0.99と比較的高い相関関係があるということが確認されており、どの指標を用いて遺伝的能力評価を行っても大きな違いはないと考えられます。ちなみに、インターブルによる長命性(Direct Longevity)の国際評価には16カ国が参加(2005年11月現在)していますが、各国の事情や考え方が反映されており、これら3種の指標のいずれかに統一されているわけではなく、在群期間と生産期間に概ね二分されています。しかし、泌乳や体型に係る遺伝的能力の高い雌牛は供卵牛として供用されることも多いため、在群期間は長くても産次数が少なく生産期間が短いというケースも考えられること等を勘案し、我が国ではより客観的に遺伝的能力評価が行えるよう在群期間を指標として採用すべく準備を進めています。
(1)在群期間の遺伝的能力評価に用いる情報
種雄牛の在群期間に係る遺伝的能力を評価するためには、直接的な情報として、娘牛がどれだけ経営体に留まっていたかという情報を利用するのは当然のことですが、この情報だけでは後代検定における候補種雄牛など比較的新しい種雄牛の評価を行うことができません。つまり、在群期間という情報は、淘汰される又は死亡する、或いは、一定の期間以上経営体に留まっているということがあってはじめて得ることのできる情報であり、新しい種雄牛の娘牛の多くは未だ現存しているため、在群期間という情報が無いからです。しかし、既に利用の終わった種雄牛の評価値が明らかになったとしても利用者は満足しないでしょう。このため、在群期間との関連が強いと思われる形質と在群期間の遺伝的な関係から間接的に評価する方法も併せて検討しています。具体的には、娘牛の在群期間に加え、娘牛の乳量と線形7形質(胸の幅、尻の角度、蹄の角度、後乳房の高さ、乳房の懸垂、乳房の深さ、前乳
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質に加え長命性も改良されます。具体的には、在群期間の年当たり改良量が+13日になると試算されおり、NTPと長命性との関係については是非ご理解頂きたいと考えています。
(4)在群期間に係る評価値の公表に向けて
長命性に係る遺伝的能力評価の実施に対する要望が強くなっており、評価値公表に向けて検討が進められているところですが、前述のように注意すべき点もあ
り、その利用に当たっては利用者の十分な理解が不可欠です。先に開催された乳用種雄牛後代検定推進事業に係る後代検定技術検討会(2005年11月)でも、在群期間に係る評価値の公表に当たっては、その適切な利用に向けた説明資料をあらかじめ準備するとともに、公表後も、利用者の理解を深める努力を継続すべきとの方針が示されました。今後、さらに技術的な検討も加えた上、2006年以降いずれかの時点で公表できる予定です。
解 説�
●ETニュースレターNo.29 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.28 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.27 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.26 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.25 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.24 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.23 ………………………1,800円●ETニュースレターNo.22 ………………………1,800円
価格は送料・税込み
●その他資料LIAJ News《当団機関紙》 ─隔月 発行─卵通信《当団の体外受精卵情報》 ─年4回発行─DIARY SIRE DIRECTORY 2005-11月2005 黒毛和種種雄牛案内
お問い合わせ、お申込みは、最寄りの種雄牛センター、または〒104-0031 東京都中央区京橋1-19-8 大野ビル(社)家畜改良事業団 事業部(電話 03-3561-8152 ファックス03-3561-8156)までお申しつけください。