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法人税実務事例検討 グループ法人税制の適用における 完全支配関係の判定について EY税理士法人 顧問 税理士 石田 昌朗 本事例における留意点 グループ法人税制の寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入の適用における完全支配関 係の判定では、その寄附金の支出時に支払法人と受領法人との間に完全支配関係があるかどう かで判定する。 当社(同族会社)は製造業を主たる事業としており、当社の 100%子会社であるA社も当社 グループの製品を製造する製造業を営んでいます。 今般、A社の業績が思わしくないことや運転資金が不足していることから、外部からの資金 調達を検討しました。しかしながら、A社には繰越欠損金があることから借入れによる資金調 達は難しく、取引先B社(当社と資本関係はない)に打診したところ、A社の繰越欠損金を処 理した後であれば優先株式を引き受けてもらえることになり、B社を引受先とする第三者割当 による優先株式を発行しました。なお、この優先株式は残余財産の分配が優先されていますが、 無議決権であり、かつ、一定の期間を経過した後は発行法人であるA社に対し買取請求するこ とができることとされています。 したがって、A社の資金調達のためには、まず、当社がA社に対する貸付金の一部である1 億円を債権放棄し、その債権放棄が実行された後にB社が優先株式の払込みをすることとなり ました。 この場合において、当社からA社に対する債権放棄はグループ法人税制の適用を受けるとい うことでよろしいですか。 なお、当社の債権放棄は法人税基本通達9―4―2子会社等を再建する場合の無利息貸付 け等に該当しないものであることは理解しています。 ( 2 ) 平成 29年9月4日 第 6475号 第3種郵便物認可

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法人税実務事例検討

グループ法人税制の適用における

完全支配関係の判定について

EY税理士法人 顧問

税理士 石田 昌朗

本事例における留意点

グループ法人税制の寄附金の損金不算入及び受贈益の益金不算入の適用における完全支配関

係の判定では、その寄附金の支出時に支払法人と受領法人との間に完全支配関係があるかどう

かで判定する。

事 例

当社(同族会社)は製造業を主たる事業としており、当社の100%子会社であるA社も当社

グループの製品を製造する製造業を営んでいます。

今般、A社の業績が思わしくないことや運転資金が不足していることから、外部からの資金

調達を検討しました。しかしながら、A社には繰越欠損金があることから借入れによる資金調

達は難しく、取引先B社(当社と資本関係はない)に打診したところ、A社の繰越欠損金を処

理した後であれば優先株式を引き受けてもらえることになり、B社を引受先とする第三者割当

による優先株式を発行しました。なお、この優先株式は残余財産の分配が優先されていますが、

無議決権であり、かつ、一定の期間を経過した後は発行法人であるA社に対し買取請求するこ

とができることとされています。

したがって、A社の資金調達のためには、まず、当社がA社に対する貸付金の一部である1

億円を債権放棄し、その債権放棄が実行された後にB社が優先株式の払込みをすることとなり

ました。

この場合において、当社からA社に対する債権放棄はグループ法人税制の適用を受けるとい

うことでよろしいですか。

なお、当社の債権放棄は法人税基本通達9―4―2 子会社等を再建する場合の無利息貸付

け等 に該当しないものであることは理解しています。

(2 ) 国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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【当社の会計処理】

債権放棄損 100,000,000円 ╱ 貸付金 100,000,000円

【A社の会計処理】

借入金 100,000,000円 ╱ 債務免除益 100,000,000円

〔取引の概要図〕

Ⅰ 本事例における法令等の検討

1 寄附金の損金不算入及び受贈益の益

金不算入

内国法人がその内国法人との間に完全支

配関係がある他の内国法人に対して支出し

た寄附金の額は、その支出した内国法人の

各事業年度の所得の金額の計算上、損金の

額に算入しないこととされています(法法

37②)。

また、内国法人が各事業年度においてそ

の内国法人との間に完全支配関係がある他

の内国法人から受けた受贈益の額は、その

受贈益の額を受けた内国法人の各事業年度

の所得の金額の計算上、益金の額に算入し

ないこととされています(法法25の2①)。

2 寄附修正

完全支配関係がある子法人に寄附修正事

(3 )国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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由が生じた場合には、その親法人において

子法人株式の帳簿価額を修正して利益積立

金額を加算または減算する必要があります

(法令9①七)。

具体的な計算式は次のようになります。

【算式】

(子法人が受けた受贈益の益金不算入額×持分割合)-(子法人が支出した寄附金の損

金不算入額×持分割合)

受贈益の益金不算入額と寄附金の損金不算入額はグループ法人税制の適用があるも

のに限ります。

なお、寄附金の支出法人及び受贈益の受

領法人の直接の法人株主のみが寄附修正の

適用があり、間接に保有する法人株主にお

いては寄附修正の適用はありません。

この制度導入の趣旨について、「改正税

法のすべて(平成22年版)」(大蔵財務協

会)の208ページ以下を引用します。

法人が有する子法人の株式又は出資

について寄附修正事由が生ずる場合の

受贈益の額にその寄附修正事由に係る

持分割合を乗じて計算した金額から寄

附修正事由が生ずる場合の寄附金の額

にその寄附修正事由に係る持分割合を

乗じて計算した金額を減算した金額が、

利益積立金額の加算項目とされました

(法令9①七、9の2①五)。

一方、法人が有する子法人の株式に

ついて寄附修正事由が生じた場合には、

その株式のその寄附修正事由が生じた

直後の移動平均法により算出した一単

位当たりの帳簿価額は、その寄附修正

事由が生じた時の直前の帳簿価額にそ

の寄附修正事由による利益積立金額の

増加額を加算した金額をその株式の数

で除して計算した金額とすることとさ

れました(法令119の3⑥)。

すなわち、子法人が寄附金の損金不

算入及び受贈益の益金不算入の適用が

ある寄附金を支出した場合に、その株

主において、その寄附による純資産の

減少額相当分が寄附をした子法人の株

式の帳簿価額から減算(利益積立金額

も減算)されるとともに、受贈による

純資産の増加額相当分が受贈した子法

人の株式の帳簿価額に加算(利益積立

金額も加算)されるというものです。

これは、寄附金の損金不算入及び受

贈益の益金不算入の改正により、グル

ープ法人間の寄附について課税関係を

生じさせないこととなるため、これを

利用した株式の価値の移転が容易とな

り、これにより子法人株式の譲渡損を

作出する租税回避が えられることか

ら、これを防止するために、子法人株

式の帳簿価額を調整するものです。

この帳簿価額の修正は、グループの

頂点の法人まで連鎖的に行うことが制

度の整合性の観点から望ましいもので

はあるものの、事務負担に配慮し、直

接の株主段階のみ行うこととされてい

ます。

(4 ) 国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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この制度の対象となる「子法人」と

は、法人との間に完全支配関係がある

法人ですが、連結完全支配関係がある

法人は除かれています。これは、連結

法人の間の寄附については、投資簿価

修正の制度により対応できるためです。

したがって、連結法人についてこの制

度の適用がある寄附金は、連結完全支

配関係はないが完全支配関係がある法

人、すなわち、連結除外法人(法法4

の2)や外国法人が介在する完全支配

関係がある法人との間の寄附に限られ

ます。

グループの頂点の法人は、この

「子法人」の定義(法令9①七)に

該当しないため、損金不算入となる

寄附金の寄附者又は益金不算入とな

る受贈益の受贈者になる場合でも、

その株主において寄附修正は行わな

いこととなります。

3 完全支配関係について

国税庁では、『議決権のない株式を発行

した場合の完全支配関係・支配関係につい

て』と題する文書回答事例を公表しており、

その法人が複数の株式を発行していた場合

にはその発行済株式等のすべてを保有して

いなければ完全支配関係に該当しない旨を

明らかにしていますので一部抜粋します。

ここで、「完全支配関係」とは、一

の者が法人の発行済株式等の全部を直

接若しくは間接に保有する関係として

政令で定める関係(以下「当事者間の

完全支配の関係」といいます。)又は

一の者との間に当事者間の完全支配の

関係がある法人相互の関係とされてい

ます(法人税法第2条第十二号の七の

六)。そして、「発行済株式等」とは、

法人の発行済株式又は出資で当該法人

が有する自己の株式又は出資を除いた

ものとされているように(法人税法第

2条第十二号の七の五、六)、議決権

の有無に関する定めはありません。こ

のことは、「支配関係」についても同

様です(法人税法第2条第十二号の七

の五)。

したがって、仮に、法人の議決権株

式の全部を保有し、経営に係る意思決

定権を完全に掌握している状況にあっ

たとしても、完全支配関係又は支配関

係に該当するか否かの判定は、保有す

る発行済株式等の数により行うことと

なります。

本件株式移転について、本件株式移

転前に、A社はB社の発行済株式の全

部を保有していますので、A社とB社

の間には当事者間の完全支配の関係

(完全支配関係)があります。しかし

ながら、本件株式移転前に、A社はC

社の議決権株式の全部を保有している

ものの、C社の発行済株式の全部を保

有していませんので、A社とC社の間

には当事者間の完全支配の関係(完全

支配関係)はないこととなります。し

たがって、本件株式移転前にB社とC

社の間には、同一の者による完全支配

関係はないこととなります。

(5 )国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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〔参考図〕

Ⅱ 本事例における取扱いの検討

1 グループ法人税制の適用があるか

貴社とA社との間には100%の資本関係

があることから、グループ法人税制が適用

されます。また、A社がB社に第三者割当

増資を行い、B社がA社の発行する優先株

式を保有することとなった時点で、貴社と

A社との間で100%の資本関係がなくなり

ますが、今回の債権放棄は、優先株式を発

行するための条件として行われるものであ

り、その債権放棄が行われた時点では貴社

とA社との間には100%の資本関係がある

ことから、グループ法人税制が適用される

ことになります。

2 寄附修正の処理

貴社からA社への貸付金の債権放棄が寄

附金に該当することから、寄附修正事由と

なります。この場合、貴社が支出法人であ

り、A社が受領法人となり、A社の法人株

主である貴社は寄附修正を行うことになり

ます。

具体的には、A社の受贈益の益金不算入

額100,000,000円に持分割合を乗じて計算

することになりますが、貴社の持分割合が

100%であることから、100,000,000円を

A社の帳簿価額に利益積立金額として加算

することになります。

したがって、貴社が保有するA社株式の

一単位当たりの帳簿価額は、寄附修正の直

前の帳簿価額にこの寄附修正事由による利

益積立金の増加額1億円を加算した金額を

A社株式の数で除して計算することになり

ます(法令119の3⑥)。

(貴社)

【会計処理】

債権放棄損 100,000,000円 ╱ 貸付金 100,000,000円

【税務処理】

寄附金 100,000,000円 ╱ 貸付金 100,000,000円

A社株式 100,000,000円 ╱ 利益積立金 100,000,000円

【税務修正】

寄附金 100,000,000円 ╱ 債権放棄損 100,000,000円

A社株式 100,000,000円 ╱ 利益積立金 100,000,000円

寄附金1億円は全額損金不算入

(6 ) 国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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(A社)

【会計処理】

借入金 100,000,000円 ╱ 債務免除益 100,000,000円

【税務処理】

借入金 100,000,000円 ╱ 受贈益 100,000,000円

【税務修正】

なし

受贈益1億円は全額益金不算入

貴社の申告調整>

【別表4】

※ A社に対する1億円の債権放棄損は寄附金に該当し、グループ法人税制の適用により1

億円を寄附金の損金不算入として加算します。

【別表5⑴】

※ 貴社がA社の発行済株式のすべてを保有していることから1億円の寄附修正をします。

(7 )国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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〔取引の概要図〕

A社の申告調整>

【別表4】

※ 受贈益は会計上の利益に計上されているため、1億円を受贈益の益金不算入として減算

します。

(8 ) 国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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〔参 考〕 A社がB社に優先株式を発行した後に貴社がA社に対して債権放棄した場合

A社がB社に優先株式を発行した後に貴社がA社に対して1億円の債権放棄をした場合、そ

の債権放棄の時点では貴社はA社の発行する普通株式のすべてを保有していますが、A社の発

行する優先株式を保有していないことから、A社の発行済株式のすべてを保有しておらず、貴

社とA社との間に発行済株式のすべてを保有する100%の資本関係がないことから、グループ

法人税制の適用はありません。

したがって、貴社の債権放棄損は一般の寄附金として損金算入限度額の計算をすることにな

ります。

また、A社もグループ法人税制の適用がないことから受贈益の益金不算入の適用はなく、債

務免除益1億円を益金の額に算入することになります。

(貴社)

【会計処理】

債権放棄損 100,000,000円 ╱ 貸付金 100,000,000円

【税務処理】

寄附金 100,000,000円 ╱ 貸付金 100,000,000円

【税務修正】

寄附金 100,000,000円 ╱ 債権放棄損 100,000,000円

(A社)

【会計処理】

借入金 100,000,000円 ╱ 債務免除益 100,000,000円

【税務処理】

借入金 100,000,000円 ╱ 債務免除益 100,000,000円

【税務修正】

なし

( 9 )国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可

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貴社の申告調整>

【別表4】

※ 債権放棄損1億円は一般の寄附金として損金算入限度額の計算が必要になります。

〔取引の概要図〕

(了)

(10) 国 税 速 報平成29年9月4日 第6475号 第3種郵便物認可