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各種がん 患者 さん とご 家族 のために 144 にゅう がん 受診から診断、治療、経過観察 への

がん...1 1.がんと言われたあなたの心に 起こること がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自

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各種がん

患 者 さんとご 家 族 の 明日のために

144

乳に ゅ う

がん受診から診断、治療、経過観察への流れ

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この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

 がんの診療の流れ

「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく早く受診しましょう。

受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。

がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。

検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。

がんの疑い

受 診

検査・診断

治療法の選択

治 療

経過観察

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がんの冊子 乳がん

がんの診療の流れ1. がんと言われたあなたの心に起こること ........................... 1

2. 乳がんとは .............................................................................. 3

3. 検査と診断 .............................................................................. 6

4. 病期(ステージ) .................................................................... 11

5. 治療 ....................................................................................... 13

1 手術(外科治療) ........................................................... 14

2 放射線治療 .................................................................. 18

3 薬物療法 ...................................................................... 19

6. 経過観察 ............................................................................... 23

7. 転移 ....................................................................................... 24

8. 再発 ....................................................................................... 25

診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 26

セカンドオピニオンとは? ....................................................... 26

メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 27

 目 次

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1. がんと言われたあなたの心に 起こること

がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思いつめてしまっては、心にも体にもよくありません。

この一大事を乗りきるためには、がんと向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

あなたに心がけてほしいこと

■ 情報を集めましょうまず、自分の病気についてよく知ることです。担当医は最大

の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニオンを受けることも可能です(セカンドオピニオンについては26ページをご覧ください)。「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。

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2がんの冊子 乳がん

がんと言われたあなたの心に起こること1■ 病気に対する心構えを決めましょう

がんに対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、治るという固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に向き合うことに尽きるでしょう。

情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。

お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。

では、これから乳にゅう

がんについて学ぶことにしましょう。

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2. 乳がんとは

乳にゅうぼう

房は、乳腺と脂肪から構成されています(図1) 。乳腺には腺せんよう

葉と呼ばれる15 ~ 20個の組織の集まりがあり、腺葉は乳管と多数の小

しょうよう

葉から構成されています。乳汁は、この小葉でつくられ乳管を通って乳頭から分

ぶ ん ぴ

泌されます。

図1. 乳房と周囲の構造

大胸筋だいきょうきん

乳管小葉

乳頭脂肪組織

腺葉

乳がんの多くは乳管から発生し、「乳管がん」と呼ばれます。小葉から発生する乳がんは、「小葉がん」と呼ばれます。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理検査)すると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがありますが、あまり多くはありません。

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4がんの冊子 乳がん

2乳がんとは

乳がんが見つかるきっかけとしては、マンモグラフィなどによる乳がん検診を受けて疑いを指摘される場合や、あるいは自分で症状に気付く場合などが多いようです。

● 乳がんの症状自分で気付く症状としては、乳房のしこり、乳房のエクボなど皮膚の変化、乳房周辺のリンパ節の腫

れ、遠隔転移(骨、肺、胸膜、肝臓、脳など)の症状があります。がんの種類や性質によって、広がりやすさ、転移のしやすさは、大きく異なります。乳がんが進行すると腫瘍が大きくなり、注意深く触るとしこりがわかるようになります。ただし、しこりがあるからといって、すべてが乳がんというわけではありません。

乳頭から血の混じった分泌液が出ることもあります。乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、エクボのようなひきつれができたり、乳頭や乳輪部分に湿

しっしん

疹やただれができたり、時にはオレンジの皮のように皮膚がむくみ赤くなったりします。乳房のしこりがはっきりせず、乳房の皮膚が赤く、痛みや熱をもつ乳がんを「炎症性乳がん」と呼びます。

乳房周辺のリンパ節に転移すると、わきの下などにしこりができたり、リンパ液の流れがせき止められてしまうため、腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕がしびれたりすることがあります。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、負荷がかかる部位に骨転移がある場合は、骨折を起こす危険があります(病的骨折)。肺転移の場合は咳

せき

が出たり、息が苦しくなったりすることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいのですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなったりすることもあります。また、痛みや黄

おうだん

疸が出ることもあります。

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● 乳がんのリスク乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。すなわち、体内のエストロゲン濃度が高いこと、例えば閉経後の女性ホルモン補充療法などでも、リスクが高くなる可能性があるとされています。

また、閉経後の肥満、高齢での初産、成人期の高身長、早い初経年齢、遅い閉経年齢、出生時の体重が重い、などが乳がんの発症を増加させるリスク要因とされています。

この他、出産経験のない女性は出産経験のある女性よりも、また授乳経験のない女性は授乳経験のある女性よりも、乳がん発症リスクが高いことがわかっています。

生活習慣では、閉経後の女性では、運動によって乳がんのリスクを減少させるということは、ほぼ確実であるとされています。一方、飲酒習慣や喫煙により、リスクが高くなることもほぼ確実とされています。

その他、糖尿病も乳がんのリスクを高くすることがわかっています。

また、乳がんを発症した人の5 ~ 10%は、乳がんを発症しやすい遺伝子をもつと考えられています。その一方で、乳がんを発症した人の多く(90 ~ 95%)は、食生活などの環境因子の影響が複雑に関与していると考えられますので、一般的には遺伝以外の因子が主に関与していることになります。

乳がんとは2

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6がんの冊子 乳がん

検査と診断33. 検査と診断

乳がんが疑われると、しこりや病変の存在を視診・触診およびマンモグラフィ、超音波(エコー)検査などの画像検査で確認します。次に病変に針を刺して細胞や組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査・病理診断を行います。また病変の状態や広がりを調べるために、必要に応じてCT、MRI、腹部超音波、骨シンチグラフィ、PETなどの画像検査も行います。

● 妊娠中に乳がんと診断された場合検査や手術、薬物療法、放射線治療は、妊娠の時期によって、流産や胎児への影響を起こす危険性があります。担当医や家族と十分に相談をすることが必要です。

1 視診・触診

乳房を観察して、形状や左右差、皮膚の変化を調べます。次に指で乳房やわきの下に触れて、しこりの性質(硬さや動き方、大きさや形、個数など)を調べます。

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2 マンモグラフィ検査

病変の位置や広がりを調べるために行われる、乳腺専用のX線検査です。少ない被

ひ ば く

曝線量で乳房組織を鮮明に映し出すために、板状のプレートで乳房を挟んで圧迫し、うすく引き伸ばして撮影します(図2)。そのため、乳房を圧迫される痛みがありますが、視診・触診で発見しにくい小さな病変も見つけることができます。

画像の性質上、乳腺の発達している若い人では、病変が存在していても見つかりにくいことがあります。またマンモグラフィで高濃度乳房とされる症例(乳腺の密度が高く、マンモグラフィで白く見える部分が多い状態)では、超音波検査のほうが乳がんを検出できることが知られています。

3 超音波(エコー)検査

乳房内の病変の有無、しこりの性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べます。乳房の表面から超音波を発生する器械(探

てんしょくし

触子:プローブ)をあてて、超音波の反射の様子を画像で確認します。X線のように放射線による被曝の心配がありませんので、妊娠中でも検査が可能です。ベッドにあおむけに寝た姿勢で受けられる検査で、痛みもなく体に負担がありません。

図2. マンモグラフィ検査

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8がんの冊子 乳がん

3検査と診断

4 乳腺のCT検査、MRI検査

手術や放射線治療などを検討するとき、病変の広がりを調べるために行う検査です(図3) 。CTはX線を、MRIは磁気を使って体の内部を描き出します。

CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、医師に申し出てください。

5 全身のがんの広がりを検索するための検査

乳がんが転移しやすい遠隔臓器には、骨、肺、肝臓、脳などがあります。がんの乳腺以外への広がりを調べるために、必要に応じてCT、MRI、腹部超音波(エコー)、骨シンチグラフィ、PET-CT検査などの画像検査が行われます。

図3. CT検査の様子

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6 病理検査・病理診断(細胞診・組織診)

病変の一部を採取して、がんかどうかを顕微鏡で調べる検査です。がん細胞が含まれていれば、その細胞の種類や性質なども調べます。

細胞診検査は大きく分けて、乳頭からの分泌液を採取して行う分泌液細胞診と、病変に細い針を刺し、細胞を吸引して行う穿

せ ん し

刺吸引細胞診があります。体への負担が比較的少ない検査ではあるものの、偽陽性(がんではないのにがんと診断されてしまうこと)や偽陰性(がんであるのにがんではないと診断されてしまうこと)がまれにあるという欠点があります。

組織診検査は病理診断を確定するための検査で、生検と呼ばれています。組織診では局所麻酔をしてから病変の一部を採取します。注射針より少し太い針を使用する針生検、さらに太い針を使用するマンモトーム生検、皮膚を切開して組織を採取する外科的な生検があります。細胞診に比べて調べられる細胞や組織の量が多いので、より確実な診断と詳しい情報を得ることが可能になります。

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検査と診断3● サブタイプ分類

薬物療法の選択については、今までもホルモン受容体陽性やHER2(ハーツー)陽性などで検討されてきましたが、近年サブタイプ分類という考え方が定着してきました。サブタイプ分類はがん細胞の性質で分類する考え方です(表1)。

調べられる要素は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質で、ホルモン受容体(エストロゲン受容体[ER]とプロゲストロン受容体[PgR])、HER2、Ki67(けーあいろくじゅうなな)値(活動期にある乳がん細胞の占める割合)です。

表1. サブタイプ分類

サブタイプ分類ホルモン受容体

HER2 Ki67 値ER PgR

ルミナル A 型 陽性 陽性 陰性 低

ルミナル B 型(HER2 陰性) 陽性

弱陽性または

陰性陰性 高

ルミナル B 型(HER2 陽性) 陽性

陽性または

陰性陽性 低~高

HER2 型 陰性 陰性 陽性

トリプルネガティブ 陰性 陰性 陰性

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4. 病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いて「stage(ステージ)」ともいいます。病期分類には2種類あり、わが国の学会で主に行われている臓器別がん登録の「癌取扱い規約」による病期分類と、UICCと呼ばれる国際分類があります。わが国では、0期、Ⅰ期、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類されています。UICCでは、手術後の検査結果でⅠ期をさらにⅠA期とⅠB期に分けていますが、他はわが国の分類と同じです。

病期は、がんが乳房の中でどこまで広がっているか、リンパ節転移があるか、骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるかなどによって決まります(表2)。乳がんの治療方針は、この病期ごとにおおよその指針が決まっています。

また、病期やがんの性質によって、将来がんが再発するリスクをある程度推測することができます。手術によって切除された病変について病理検査・病理診断が行われ、がんの広がり、形態、性質を詳しく調べます。腫瘍の大きさ、広がり、年齢、異型度(グレード)、HER2タンパク質、ホルモン受容体、Ki67の情報などを基に、将来の再発リスク、追加治療の必要性が検討されます。

治療方針については、さらに糖尿病や心臓病など別の病気の有無、年齢や患者さん自身の希望なども考慮して決定していきます。

● 妊娠・出産について乳がんの治療は、治療後の妊娠や出産に影響を与えることがあります。将来出産を希望している場合には、まず、治療開始前にその希望を担当医に伝え、よく相談をしましょう。

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4. 病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いて「stage(ステージ)」ともいいます。病期分類には2種類あり、わが国の学会で主に行われている臓器別がん登録の「癌取扱い規約」による病期分類と、UICCと呼ばれる国際分類があります。わが国では、0期、Ⅰ期、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類されています。UICCでは、手術後の検査結果でⅠ期をさらにⅠA期とⅠB期に分けていますが、他はわが国の分類と同じです。

病期は、がんが乳房の中でどこまで広がっているか、リンパ節転移があるか、骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるかなどによって決まります(表2)。乳がんの治療方針は、この病期ごとにおおよその指針が決まっています。

また、病期やがんの性質によって、将来がんが再発するリスクをある程度推測することができます。手術によって切除された病変について病理検査・病理診断が行われ、がんの広がり、形態、性質を詳しく調べます。腫瘍の大きさ、広がり、年齢、異型度(グレード)、HER2タンパク質、ホルモン受容体、Ki67の情報などを基に、将来の再発リスク、追加治療の必要性が検討されます。

治療方針については、さらに糖尿病や心臓病など別の病気の有無、年齢や患者さん自身の希望なども考慮して決定していきます。

● 妊娠・出産について乳がんの治療は、治療後の妊娠や出産に影響を与えることがあります。将来出産を希望している場合には、まず、治療開始前にその希望を担当医に伝え、よく相談をしましょう。

病期(ステージ)4

表2. 乳がんの病期分類

0 期非浸潤がんといわれる乳管内にとどまっているがん、または乳頭部に発症するパジェット病(皮膚にできるがんの一種)で、極めて早期の乳がん

Ⅰ期 しこりの大きさが 2cm 以下で、リンパ節や別の臓器には転移していない

ⅡA期

しこりの大きさが 2cm 以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある。または、しこりの大きさが 2 ~ 5cm で、リンパ節や別の臓器への転移がない

ⅡB期

しこりの大きさが 2 ~ 5cm で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されずに可動性がある。または、しこりの大きさが 5cm を超えるが、リンパ節や別の臓器への転移がない

ⅢA期

しこりの大きさが 5cm 以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節に転移がある。あるいは、しこりの大きさが 5cm 以上で、わきの下または胸骨の内側のリンパ節への転移がある

ⅢB期 しこりの大きさやリンパ節への転移の有無に関わらず、皮膚にしこりが顔を出したり、崩れたり、むくんでいるような状態。炎症性乳がんもこの病期から含まれる

ⅢC期 しこりの大きさに関わらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある

Ⅳ期 別の臓器に転移している。乳がんの転移しやすい臓器:骨、肺、肝臓、脳など

日本乳癌学会編「臨床・病理 乳癌取扱い規約 2012 年(第17 版)」(金原出版)より作成

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5. 治療

乳がんの治療は、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法(内分泌[ホルモン]療法、化学療法、分子標的治療など)があります。それぞれの治療を単独で行う場合と、複数の治療を組み合わせる場合とがあります。がんの性質や病期、全身の状態、年齢、合併する他の病気の有無などに加え、患者さんの希望を考慮しながら、治療法を決めていきます。

図4は病期と治療法選択の目安を表にしたものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

図4. 乳がんの臨床病期と治療

乳房部分切除術または

乳房切除術±センチネルリンパ節生検

臨床病期

治療

乳房部分切除術 または 乳房切除術±センチネルリンパ節生検

±腋窩リンパ節郭清

薬物療法±手術

±放射線治療

±緩和ケア

±は患者さんの症状に

より行う場合と行わな

い場合があることを意

味します

0期 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期

病理組織診断(がんの広がり、形態、性質など)

放射線治療

薬物療法(内分泌療法・化学療法・分子標的治療)

術後のリスク判定

術前の薬物療法

日本乳癌学会編「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編 2013 年版」(金原出版)より作成

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14がんの冊子 乳がん

治療51 手術(外科治療)

乳がんの治療では、手術によってがんを取りきることが基本となります。手術は大きく分けて、「乳房部分切除術」と「乳房切除術」とがあります。

手術直後には、創きず

から体液を排出するドレーンという管が数日間入れられていることがあります。排液量が減ってきたら、管を抜きます。抜糸(最近では抜糸を必要としない縫い方や抜糸が不要のテープ、医療用接着剤を使用する病院も多くなってきています)のころには、創そのものからの痛みはかなり治まっています。

1) 乳房部分切除術

腫瘍の端から1 ~ 2cm離れたところで乳房を部分的に切除します。乳房部分切除術は病巣を確実に切除し、患者さんが美容的に満足できる乳房を残すことを目的に行います。乳房部分切除術を受けられる条件については明確なものはなく、がんの大きさや位置、乳房の大きさ、本人の希望などにもよるので、担当医とよく相談することが重要です。

しこりが大きい場合は、術前薬物療法によって腫瘍を縮小させてから手術を行います。

手術中には、切除した組織の断だんたん

端(切り口)のがん細胞の有無を顕微鏡で調べて、確実にがんが切除できていることを確認する必要があります(術中迅速病理診断)。がんが手術前の予想よりもはるかに広がっている場合は、乳房切除術に変更するか、もしくは追加切除術を行うこともあります。

通常、手術後に放射線照射を行い、切除後の乳房内再発を防ぎます。

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2) 乳房切除術

乳がんが広範囲に広がっている場合や複数のしこりが離れた場所に存在する多発性の場合は、最初から乳房を全部切除する乳房切除術を行います。

3) 乳房再建術

乳房切除術後に、患者さん自身のおなかや背中などから採取した組織(自家組織)またはシリコンなどの人工物を用いて、新たに乳房をつくることを乳房再建といいます。乳頭を形成することもできます。再建の時期については乳がんの手術と同時に行う場合(一次再建)と、数カ月から数年後に行う場合(二次再建)とがあります。再建手術は主に形成外科医が担当します。従来は自家組織を用いた移植の場合にのみ公的医療保険が適用されていましたが、現在はシリコン・インプラントなどの人工物を使う場合にも、保険の適用が拡大されています。しかし、現在でも、手術の内容や、病院によっては自費診療の場合があります。まずは担当医に再建の希望を伝え、よく相談しましょう。

4) わきの下のリンパ節郭かくせい

清(腋え き か

窩リンパ節郭清)

がん細胞はリンパ液の流れに乗って周辺のリンパ節に入り込み、転移を起こすことが知られています。しかし、現在の手術前の検査ではリンパ節にがんが転移しているかどうかは正確にはわかりません。そこで、乳がんの手術では、わきの下のリンパ節郭清(リンパ節を取り除く手術)を行い、転移の有無を調べてきました。リンパ節郭清を行うと、手術のあとに、腕が上がりにくい、しびれる、むくみといった症状が起こることがあります。このため、今日では手術前にリンパ節転移が明らかな場合にのみ、わきの下のリンパ節郭清が行われます。

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16がんの冊子 乳がん

5治療

● センチネルリンパ節生検がん細胞が最初に転移するリンパ節をセンチネル(見張り)リンパ節といいます(図5)。このリンパ節を摘出し、顕微鏡で検査を行い、転移がみられなければ、これ以外のリンパ節郭清を省略しても、再発率に影響がないことがわかっています。

センチネルリンパ節転移が1個でも陽性の場合には、腋窩リンパ節郭清を行っているのが現時点での標準治療です。しかし、近年、術前検査で腋窩リンパ節転移が陰性とされていた場合では、術後の薬物療法や放射線治療をしっかり行うことで、腋窩リンパ節郭清を省略できる可能性が報告されています。これを受け、リンパ節への転移病巣の大きさによって、その後の治療方針を決める病院もあります。長期的成績が出ていないため、いまだに慎重な判断が必要な状況です。

転移がある場合にリンパ節郭清をするかどうかは、手術後の治療方針との兼ね合いで決められる場合もありますので、詳しくは担当医にご質問ください。

図5. センチネル(見張り)リンパ節

わきの下のリンパ節

しこり

センチネル(見張り)リンパ節

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● 手術に伴う主な合併症について治療した側の腕が上がらない、腕を回せない、腕がだるい、痛む、しびれる、わきの皮膚が突っ張るといった症状がみられることがあります。胸の筋肉を切除した場合にはしばらく安静が必要ですが、動かさないでいると、肩や腕の関節や筋肉がこわばって動かしにくくなることがあります。担当医に相談の上、段階的に運動を取り入れていきましょう。

● リンパ浮ふ し ゅ

腫手術でリンパ節を切除したり、放射線治療を行ったりしたあとに、腕のリンパ液の流れが悪くなり、腕がむくむことがあります。これをリンパ浮腫といいます。そのようなときには、横になるときなどに腕や肩の位置が高くなるようにすると、むくみが軽くなることがあります。リンパ浮腫を発症後の治療としては、きつめのサポーターのような弾性スリーブやバンデージ(弾性包帯)などの弾性着衣を着用したり、リンパの流れを改善するマッサージを行ったりします。日常生活の注意点や工夫、日常的に行えるリンパ浮腫対策を、退院前に担当医や看護師に確認しておきましょう。

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18がんの冊子 乳がん

治療52 放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を体の外から照射して行われます。がん細胞を通過した放射線は、細胞の増殖を阻害し、がんを小さくする効果があります。放射線治療は放射線照射を行った部分だけに効果を発揮する局所療法です。

乳がんでは、手術のあと、温存した乳房やリンパ節・皮膚での再発を予防するために放射線治療が行われることが多くなっています。また、再発した場合に、がんの増殖や骨転移に伴う痛み、脳への転移による神経症状などを改善するために行われることもあります。

放射線を照射する範囲や量は、放射線治療を行う目的、病巣のある場所、病変の広さなどによって選択されます。多くの場合、外来での治療が可能です。

● 放射線治療の副作用について副作用は主に放射線のあたる部位にあらわれます。治療中や治療終了直後に、皮膚が日焼けをしたように赤くなることがあるので、強くこすったり、かいたりしないように気を付けましょう。皮膚の赤みは治療終了後1週間から2週間でほとんど改善します。治療後に皮膚が熱をもったり、黒ずんだりカサカサになることがありますが、多くは数年で元に戻ります。治療後しばらくたってから、まれに肺に炎症が起こることがあります。咳や微熱が続くときは担当医に伝えるようにしましょう。

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3 薬物療法

薬物療法には、「手術の前にがんを小さくする」「手術や他の治療を行ったあとにその効果を補う」「根治目的の手術が困難な進行がんや再発に対して、延命および生活の質を向上させる」などの目的があり、病期、リスクなどに応じて行われます。どのような薬物をどのように組み合わせて治療を行うかは、がんの広がりや性質、病理検査の結果などによって検討されます。どの薬剤を使うかは「サブタイプ分類」により、がん細胞の特性に合わせた薬物療法が選択されます(表3)。

表3. サブタイプ分類による術前・術後薬物療法選択サブタイプ分類 選択される薬物療法

ルミナル A 型 内分泌(ホルモン)療法、(化学療法)

ルミナル B 型(HER2 陰性) 内分泌(ホルモン)療法、化学療法

ルミナル B 型(HER2 陽性) 内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療、化学療法

HER2 型 分子標的治療、化学療法

トリプルネガティブ 化学療法

また、しこりの大きさやリンパ節転移の有無に加え、がん細胞の増殖に関わる要因から、再発の危険を予測することができます。そのため、再発の危険性が高い場合、より再発抑制効果の強い治療を行い、そのリスクの低減を図ります。ルミナルA型は再発の危険性が低く、内分泌(ホルモン)療法の効果が高いため、化学療法をしないことが多くなっています。

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治療5● 薬物療法後の妊娠・出産について

乳がんの薬物療法後、多くの方で、抗がん剤治療に伴って卵巣機能が抑制され、月経がみられなくなります。乳がん専門医と生殖専門医の協働の下、治療後の出産の可能性を高めるためのさまざまな取り組みが進められています。将来出産を希望している場合には、まず、治療開始前にその希望を担当医に伝え、よく相談をしましょう。

薬剤が高額であったり、投与期間が長かったりすることで、医療費が高額となる場合があります。治療の方針について担当医から話を聞いた上で、医療費に不安を感じた場合には、担当医や看護師、その他の医療スタッフなどにご相談ください。がん相談支援センターでも、利用可能な高額療養費制度など確認することができます。

1) 内分泌(ホルモン)療法

乳がんは「ホルモン受容体」(エストロゲン受容体[ER]とプロゲステロン受容体[PgR])のあるものと、ないものに分けることができます。「ホルモン受容体」のある乳がんでは、女性ホルモンががんの増殖に影響しているとされています。内分泌

(ホルモン)療法は女性ホルモンの分泌や働きを妨げることによって乳がんの増殖を抑える治療法で、ホルモン受容体のある乳がんであれば効果が期待できます。

内分泌(ホルモン)療法で使われる薬剤には、抗エストロゲン剤、選択的アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)などがあります。乳がんの手術後や転移性乳がんに用いられる抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を阻害します。選択的アロマ

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ターゼ阻害剤が作用する仕組みは、閉経後の女性に対してアロマターゼの働きを抑え、女性ホルモンの産生を抑えます。閉経前の女性の場合は、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)を併用することがあります。その他にも、プロゲステロン製剤などを使用する場合もあります。

治療の目的や使う薬の種類によって治療期間や効果の目安は変わりますが、手術後に行う場合は5年間から10年間の投与が標準です。

● 内分泌(ホルモン)療法の副作用について一般に、内分泌療法の副作用は化学療法に比べて軽いといわれていますが、顔面の紅潮やホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、発汗、動

ど う き

悸などの更年期障害のような症状が出る場合もあります。これらの症状の多くは治療を開始して数カ月で治まりますが、症状によっては使用するホルモン剤の種類を変更したり、症状を和らげる薬を投与したりすることもあります。また薬剤によっては高脂血症、血栓症、骨粗しょう症のリスクが高まることが知られているので、そのようなリスクを少なくするための治療を併用することもあります。

2) 化学療法

がん細胞は、正常細胞と違い、際限なく増殖し続けるという性質があります。化学療法では、抗がん剤の殺細胞効果により、細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで、がん細胞の増殖を抑えます。

術前化学療法として、手術を行うことが困難な場合や、しこりが大きいために乳房部分切除術ができない場合に、3カ月から半年ほどの化学療法を行うことがあります。この方法によっ

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5治療

て、手術や乳房部分切除術を受けられる人が増えています。術前化学療法で腫瘍が十分に縮小しない場合は、乳房切除術を行ったり、必要に応じて放射線治療や内分泌(ホルモン)療法を追加したりすることもあります。

術後化学療法を行う目的は、どこかに潜んでいる微小転移を死滅させることです。術後化学療法によって、再発率、死亡率が低下することが報告されており、早期の乳がんでは多くの場合、転移・再発を防ぐ目的で行われます。また作用が異なる複数の抗がん剤を使用することによって、がん細胞への効果が高まることが明らかになったことから、術後化学療法においては複数の抗がん剤を組み合わせて使用します。

● 化学療法の副作用について抗がん剤は正常な細胞にも作用するため、副作用があります。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあります。その他、全身のだるさ、吐き気、手足のしびれや感覚の低下、筋肉痛や関節痛、皮膚や爪の変化、肝臓の機能異常などが出ることもあります。

3) 分子標的治療

分子標的治療薬は、がんの増殖に関わっている分子を標的にして、その働きを阻害する薬で、さまざまな薬剤があります。抗 HER2 薬は、乳がんの増殖に関わっていると考えられている、細胞の表面にあるタンパク質(HER2)の働きを阻害する薬です。

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経過観察6● 分子標的治療の副作用について

分子標的治療薬はがん細胞だけを狙い撃ちにするため、副作用は軽いといわれますが、心臓機能の低下が起こることもあり、寒気や発熱など特有の症状が出ることもあります。

6. 経過観察

手術後の治療予定は、手術時の状態、手術で切除した組織の病理診断の結果、はじめの治療の効果などによって変わってきます。また、体調の回復具合や治療による副作用の程度などによっても異なります。継続して治療を行わない場合でも3カ月から6カ月ごとに、問診・視診・触診を中心とした診察を受けるために定期的に通院します。その後、体の状態をみながら、通院の間隔を6カ月に延ばし、5年過ぎたら1年間隔にするのが一般的です。担当医によく確認しておきましょう。

乳がんは手術後5年あるいは10年過ぎてから再発することもあります。定期的な診察を受けるだけでなく、治療後の胸や反対側の乳房の自己検診を継続的に行い、体調に変化を感じたときには医療機関に相談しましょう。

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7転移

7. 転移

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで次の病巣を形成することをいいます。乳がんは、転移が早い時期から起こりやすいタイプです。つまり、手術で乳がんを取りきったようでも、その時点で検査では見つけることの困難ながん細胞が、すでに別の臓器に移動している場合があります。

乳がんが最初に転移しやすい臓器としては、腫瘍の近くにあるリンパ節や骨、皮膚があります。遠く離れた臓器では肺、肝臓、脳への転移が起こることもあります。

肺や肝臓、脳などへの転移では、内分泌(ホルモン)療法や化学療法、分子標的治療などの薬物療法を中心にして、なるべく進行を遅らせることや、がんによるつらい症状を和らげることが目標となります。脳への転移に対しては放射線治療を組み合わせることもあります。骨への転移があるときには、痛みや骨折のリスクを減らす目的で骨吸収抑制薬(骨を破壊する細胞の機能を抑え、骨吸収を抑制する薬)が使われることがあります。また、痛みの症状緩和のために手術や放射線治療を組み合わせることもあります。

それぞれの患者さんによって転移の状態は異なるため、症状や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていきます。

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再発88. 再発

再発とは、治療の効果により目に見える大きさのがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。乳がんは治療後3年までに再発することが比較的多いのですが、5年から10年を経過して起こることもあります。

サブタイプ別では、ルミナルA型の再発率が他のサブタイプと比較して少なく、ルミナルB型(Ki67高値)はルミナルA型よりも再発リスクが高いとされています。

なお乳房部分切除術を行ったあとの乳房に起こる再発は「乳房内再発」、また乳房を全部摘出したあとの胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発は「局所・領域再発」といいます。これらの再発はその部分だけに起こっている可能性があり、遠隔臓器への転移(再発)とは治療方針が異なるので区別します。

乳房内再発や局所・領域再発だけの場合には、再度、切除が可能であれば手術を行って根治を目指します。状況によって薬物療法や放射線治療を組み合わせます。

それぞれの患者さんによって再発の状態は異なるため、症状や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていきます。

参考文献:日本乳癌学会編:臨床・病理 乳癌取扱い規約第17版,2012年;金原出版 日本乳癌学会編:科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編 (2)疫学・診断編2015年版;金原出版

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診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?

診断や治療の方針に納得できましたか?

治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。

まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、担当医に何でも質問してみましょう。診断を聞くときには、病期(ステージ)を確認しましょう。治療法は、病期によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。

診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。最初にかかった担当医に何でも相談でき、治療方針に納得できれば言うことはありません。

セカンドオピニオンとは?

担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンドオピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」と担当医に伝えましょう。

担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解していますので、快く資料をつくってくれるはずです。

がんの冊子 乳がん

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メモ/受診の前後のチェックリスト

受診の前後のチェックリスト□ あとで読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらった

り、自分でメモを取るようにしましょう。□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え

ましょう。□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい

て、聞いてみましょう。□ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。□ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。□ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどう

か確認しておきましょう。□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしてお

きましょう。□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒のほうが、理解できたり安心

できると思うなら、早めに頼んでおきましょう。□ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたけれ

ば、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。

メモ(    年   月   日)

● 診断時の年齢 [      ] 歳● 診断時の月経の状態  [ 順調・不順、閉経後 ]● がんの種類 [                 ]● 大きさ(広がり) [      ]cm(浸潤径 [   ]cm)● しこりの数 [      ] 個● 異型度(グレード) [      ]● ホルモン受容体 エストロゲン受容体(ER)[ 陽性・陰性 ]        プロゲステロン受容体(PgR)[ 陽性・陰性 ]● HER2 [ 陽性 ・ 陰性 ]● リンパ節への転移 [ あり、(  )個・ なし ]● 別の臓器への転移 [ あり ・ なし ]● 治療予定 手術(  年  月  日) 放射線治療 [ あり・なし ] 薬物療法 [ あり・なし ]

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編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター印刷・製本 図書印刷株式会社

2011 年 10 月 第 1 版第 1 刷 発行2015 年 7 月 第 2 版第 1 刷 発行

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患者必携がんになったら手にとるガイド普及新版*別冊 『わたしの療養手帳』もしも、がんが再発したら*

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協力者(五十音順):麻賀 創太(国立がん研究センター中央病院乳腺外科)片岡 明美(がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科)木下 貴之(国立がん研究センター中央病院乳腺外科)

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