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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2015年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」 完了報告書 「多職種連携を促進するワークショッププログラム『irori(いろり)』の開発・普及 ~効果的な多職種ワークショップ運営マニュアルの作成~」 申請者:大屋 亜希子 所属機関:一般社団法人サードパス 提出年月日:2016年8月23日

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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

2015年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」

完了報告書

「多職種連携を促進するワークショッププログラム『irori(いろり)』の開発・普及

~効果的な多職種ワークショップ運営マニュアルの作成~」

申請者:大屋 亜希子

所属機関:一般社団法人サードパス

提出年月日:2016年8月23日

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背景

医療が進展・高度化する一方、医療の地域格差、医療費増大などの課題に直面する我が国

では、医療連携の実現は急務である。また、患者中心の医療を実現するため、患者が主体と

なった意思決定とそれをサポートするための多職種の協働が必要とされてきている。その

実現には単なる連携システムの構築のみならず、患者を中心としたチーム医療を実現する

ための医療関係者全体のスキルアップが求められる。そのため、医療関係者同士や地域を含

めての「対話の場」の必要性が高まっており、介護福祉の分野では行政施策においても地域

ケア会議などの設置が推進され始めた。

実際近年では、全国の医療現場でも、医療者同士の多職種勉強会の取り組みや、市民向け

の医療講座開催などが草の根的に行われるようになってきているが、まだその中心は一方

向の情報伝達(レクチャー形式)が多く、双方向の交流を促すような形式のものは少ない。

原因の一つに、対話の場の運営者に求められるスキルは、それぞれの専門分野の知識やテク

ニカルスキルだけでなく、チームを運営する上で必要なリーダーシップや問題解決といっ

たノンテクニカルスキルの部分が大きいが、このようなスキルを学ぶ機会は、地域や施設、

職種による格差が大きく、学びの機会が限定的であることが挙げられる。また、多忙な医療

職が運営を担わざるをえないケースが多いため、なかなか新たな取り組みを取り入れにく

い環境にあることも、医療の現場において対話・連携が進みにくい一因と考えられる。既存

の職能団体(医師会、薬剤師会など)や行政によるトップダウンの連携活動だけでなく、現

場からのボトムアップによる対話の試みを促進するために、事例の蓄積から得られるノウ

ハウを共有していくことが必要と考える。

現在サードパスが定期開催している医療関係者向けのワークショップ「irori(いろり)」

は、ワークショップ参加者のスキルアップに加え、参加者同士の対話によるネットワーク構

築促進と、多職種連携に関する意識・行動変容を促すことを目的として実施しているプログ

ラムである。サードパスでは、各地に「irori」の手法を普及させることで、地域・現場のネ

ットワーク構築を促進し、ボトムアップ・対話型の情報の流れを生み出したいと考えている。

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目的

現在「irori(いろり)」ワークショップは、サードパスのスタッフが運営の主体を担って

いるが、本研究ではこの手法や運営のポイントを分析し、マニュアルの形式にまとめて公開

する。併せて、irori 以外に行われている医療現場での先行事例をヒアリングし、それらの

ノウハウを取り入れつつ、実践例としてマニュアル内で紹介する。また、サードパスで公開

している連携活動評価指標を用いた、ワークショップが実際の連携活動に効果を及ぼして

いるかどうかを可視化できる手法を提案する。

マニュアルと評価指標が広く活用されることで、より効果的なワークショップ形式の対

話の場が医療現場に普及していくことを期待している。それにより、顔の見えるネットワー

クの構築促進や、チーム医療や地域医療連携の実現といった、実際の医療現場の活性化にも

貢献できるものと考える。

方法

本研究は、以下の 3点の活動として実施された。実施期間は 2015年 8月~2016年 7月。

1.勉強会運営の現状と課題の把握

医療従事者・関係者へのヒアリングを通じて、現在自主的に行われている勉強会や研究会

の運営に於いて、どのような課題があるかを把握した。内容や参加状況の把握だけでなく、

運営に携わる事務局スタッフの作業負担や、告知案内の方法、会場運営などの事務作業に関

わる状況も把握し、それらを軽減できる方法をマニュアルに盛り込めるようにした。ヒアリ

ング対象者は、過去の「irori」ワークショップゲストスピーカー、医療関連 NPOスタッフ、

現場の医療従事者などであった。

2.マニュアル作成

サードパスで「irori」ワークショップの運営に携わってきたスタッフが、そのノウハウを

文章にまとめ、医療関係者の意見を取り入れながら、内容のブラッシュアップを図った。作

成したマニュアルは、Web 上での無償公開と、冊子体での有償(郵送料等の実費)配布の

形で、広く普及を促進した。

3.効果検証

サードパス主催のワークショップ参加者のアンケートを分析し、影響を検証した。また、

マニュアル公開と併せて、実施した勉強会が医療連携の促進に役立っているかどうかを検

証するための指標「連携活動調査指標(筒井孝子氏開発の調査票を基にサードパスにて作成、

使用許諾取得済み)」の調査票を公開した。

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結果

研究期間中を通して、医療関連のワークショップを主催している医療従事者・医療関係者

に、その現状や課題に関するヒアリングを行った。サードパス主催の「irori」ワークショッ

プ(月 1回開催)では、地域連携や多職種連携に取り組む方々にゲストスピーカーを依頼す

ることが多く、その機会に合わせてヒアリングを実施させていただいた。また、ワークショ

ップ参加者の中にも、それぞれの地域で活動を行っておられる方々も多く、同様にヒアリン

グに協力いただいた。その他、サードパスメンバーのネットワークを活かし、様々な職種・

立場の方にヒアリングさせていただくことができた。

医療現場で現在行われているワークショップは、様々な実施主体によって行われており、

対象や目的も様々であった。以下に実例として挙げられた会の一部を示す。

名称 目的 主導 参加対象者

市民(非医

療専門職)

参加の有無

世田谷区若手医師の会 知見共有、施設間連携 開業医 地域の開業医

なし

T大学病院 経営改善 院内多職種連携、業務改善

勤務医 院内の医療スタッフ

なし

Ryoma base 若手医師教育、スキル向上

若手医師 地域の若手医師・学生

なし

がん専門病院 薬薬連携の会

スキル向上、知見共有 病院薬剤師 病院と門前薬局薬剤師

なし

さいたま市民医療センターワークショップ

職場改善、メンタルヘルス向上

病院看護師 病院看護師 なし

高浜町 地域医療をまもる会

地域連携、市民参加 市民 市民、医療者、行政

有り

みんくるカフェ 医療者と市民の対話 在宅医・NPO

市民、医療者

有り

CAN net 市民教育 専門医・NPO

市民、医療者、介護職

有り

JPPaC ステークホルダー間の連携、医療教育

NPO 企業関係者 有り

港区ケア会議 地域多職種連携 ソーシャルワーカー

地域医療関係者

なし

和光市ケア会議 地域多職種連携、市民教育

行政担当者 地域医療・介護職

なし

がんチーム医療促進ワークショップ

院内多職種連携、スキル向上

製薬企業 がん専門医療スタッフ

なし

ノンテクニカルスキル研修

医療安全、院内多職種連携

医療安全管理者

院内の医療スタッフ

なし

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ヒアリングできた範囲に限ってではあるが、医療専門職と一般市民・患者が同じ場に参加

する機会は、あまり多くはないように見受けられる。一方で、医療専門職だけ、特に同じ職

種同士での勉強会は比較的多く実施されている。介護職や地域の多職種を交えての会は、主

に在宅医療に関わる関係者や行政の主催で行われていることが多いようである。これは、厚

生労働省が進めている地域包括ケア推進の流れに沿ったものと思われる。

ヒアリングの中で、医療現場でワークショップを開催する際のハードルとなるポイント

としては、運営者、参加者の多忙(時間、作業負担)、組織内で新たな取り組みを始める際

の承認プロセスが面倒、一緒に取り組む仲間の不在、キーパーソンの巻き込み方が分からな

い、などが挙げられた。

これらを踏まえて、マニュアルでは、具体的な運営の手順やワークショップの考え方の他

に、ハードルとなりうる点に如何に対処していくかというコツの部分を意識して盛り込む

ようにした。特に多く挙がっていたポイントについては、Q&Aの章を設け、アドバイス形

式で先行事例の対処法を伝える形とした。

マニュアルの構成は以下の通りである。完成したマニュアルは「医療現場のコミュニケー

ションと学びが活性化する『ワークショップ実践マニュアル』人が、現場が、もっといきい

きするための仕掛けのヒント」として、PDFと印刷冊子として公開した。

■ B5版

■ 表紙フルカラー/

本文モノクロ

■ 85ページ

内容 Contents

第1章:ワークショップって何だろう

●ワークショップの定義/●医療現場の課題とワークショップの意義/●なぜ

医療にワークショップが必要なの?

第2章:ワークショップを企画してみよう

●目的を考えよう!/●参加者はどんな人?/●仲間を見つけよう!

第3章:ワークショップを設計しよう

●ワークショップの構成を考えよう!/●ワークショップの流れをみてみよ

う!/●ワークショップの中身を考えよう!/●アイスブレイク手法を使って

みよう!/●話し合いの手法を知ろう!

第4章:ワークショップを準備しよう

●準備の流れ/●日程・時間を検討しよう!/●会場を確保しよう!/●予算を

考えよう!/●告知をしよう!/●運営の段取りを決めよう!/●準備物をチ

ェックしておこう!/●会場のセッティングをしよう!/●いよいよ当日! ワ

ークショップを楽しもう

第5章:ワークショップの振り返りをしよう

●振り返りの大切さ/●記録しておこう!/●レポートにまとめよう!/●アン

ケートをとっておこう!/●参考)連携活動評価指標

第6章:Q&A こんなとき、どうする?

第7章:全国の実践例を参考にしよう

●世田谷区若手医師の会 神津 仁さん)/●みんくるカフェ 孫 大輔さん)/

●港区医師会地域包括ケア研究会 成田 光江さん)/●たかはま地域医療サポ

ーターの会 井階 友貴さん)/●医療法人大誠会グループ内での継続研修 山

本 伸さん)

第8章:参考図書紹介・お役立ち情報

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マニュアルと併せて「連携活動評価指標」の調査票も PDFで公開した。連携活動評価指

標の調査票は、末尾(資料2、3)に掲載した。

また、マニュアル作成の作業と平行して、サードパス主催のワークショップの中で、マニ

ュアルにまとめた運営の手順や内容の妥当性を検証した。定期開催している「irori」ワーク

ショップは、毎回「満足度」「多職種の専門性を理解する上で役立ったか」「医療者同士もっ

と連携するべきだと感じたか」について、4 段階で評価してもらうアンケートを実施した。

実際に使用したアンケート票は、末尾(資料1)に掲載した。アンケートの回収数は延べ 95

枚であった。うち、回答のあったものの集計結果は、以下のグラフの通りとなった。

グラフ:「irori」ワークショップ アンケート結果

73

80%

18

20%

0

0%0

0%

「irori」ワークショップの満足度

とても満足

まあ満足

少し不満

とても不満

43

51%32

38%

9

11% 0

0%

Q:今回のワークショップは、多職種の専門性を

理解する上で役に立ちましたか

とても役に立った

まあ役に立った

あまり役に立たなかった

全く役に立たなかった

50

60%

23

28%

9

11%

1

1%

Q:今回のワークショップで、医療者同士もっと

連携するべきだと感じましたか

とても強く感じた

まあ必要だと感じた

あまり感じなかった

全く感じなかった

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表:研究期間中に開催した「irori」ワークショップと出張ワークショップ

開催日時 テーマ ゲストスピーカー

2015/08/29 在宅医療における患者参加とチーム医療 中村 哲生

さん

湘南なぎさ診療所 事務長

/在宅医療アドバイザー

2015/09/11 サードパス活動報告会 &医療の未来を考え

る ミニアイディアソン なし

2015/10/23

地域のステークホルダーをつなぐ技術とは

~チーム作りとファシリテーションを本気

で学ぶ!ノンテクニカルスキル講座~

佐藤 和弘

さん

メディカルアートディレク

ター/医療教育団体

Medipro!代表

2015/11/28

地域包括ケアにおける多機関・多職種協働

の場づくりを学ぶ ~都心の港区で、医師

会や行政との協働体制はどのように生まれ

たのか?~

成田 光江

さん

国際医療福祉大学 看護学

科 講師/成田 看護師・社

会福祉士事務所 所長

2015/12/04 地域医療構想と地域包括ケアシステムにつ

いて、高知県を例に学ぶ

伴 正海

さん

高知医療再生機構 企画広

報戦略担当 特任医師

2015/12/22 リエゾン・ファーマシー・セミナー なし

2016/01/17

Medical / Care × Workshop =?

~なぜ医療・介護領域でワークショップが

必要なのか 現場での実践例から~

和泉 裕之

さん

和泉ワークショップデザイ

ン事務所 代表/場創師

2016/02/08

ワンブロックでデザインする未来の医療と

コミュニティ ~医療×コミュニティデザ

インをテーマに、レゴ®シリアスプレイ®メ

ソッドを体験してみよう!~

山本 伸

さん

Toynon LLC代表・(社)ビ

ジネスモデルイノベーショ

ン協会理事

2016/03/17 患者が望む、地域医療構想と地域包括ケア

システムとは?

山口 育子

さん

NPO法人ささえあい医療

人権センターCOML理事

2016/03/18 リエゾン・ファーマシー・セミナー 栗原 理

さん

くすりの適正使用協議会/

くすりのしおりコンコーダ

ンス委員会

2016/04/07

住民・行政・医療者の三位一体による医療

づくりとまちづくり ~福井県高浜町のと

りくみから学ぶ 住民が守り育てる地域医

療~

井階 友貴

さん

福井大学医学部地域プライ

マリケア講座/高浜町和田

診療所 講師

2016/05/17

地域包括ケアにおける 医師・看護師・薬

剤師の役割 ~2016年診療報酬改定のポイ

ントから読み解く、これからの医療~

武藤 正樹

さん

国際医療福祉大学大学院

教授

2016/06/16

どうなる?これからの医療政策 その課題

と展望 ~国民皆保険制度の本質を理解

し、今後の医療政策のあり方を考える~

島崎 謙治

さん 政策研究大学院大学教授

2016/07/15 地域包括ケアの実現に向けて、私たちにで

きること

西川 亮

さん

NPO法人 Co.to.hana代表

/デザイナー

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ワークショップのアンケートでは、自由回答欄も設け、参加者の感想を記入してもらった。

ゲストスピーカーのミニレクチャーに関する感想が多かったが、多職種連携に関するもの

や、「irori」ワークショップの形式に関連した回答もいくつか見られた。

「irori」ワークショップアンケート自由回答から

(ワークショップ形式に関して)

・参加者同士のディスカッションが印象に残った

・背景の違う方々にお会いできて刺激を受けた

・色んな職業の方と色んな視点で議論することができて有意義でした

・たくさんの方と話し合いが出来、いろいろな意見を伺うことができて良かったです

・多様な意見に触れることができた点が良かったです

・皆さんとフランクに話ができたこと

・ワークの時間が少なく、議論が不完全燃焼の感がありました

・初めてだったのでなかなか慣れなかった

(解決したい医療課題として)

・医療職と介護職の相互理解、患者さんと医療職の診察時の意思疎通

・住民とのコミュニケーション

・こういった会に医師が加わってくれること

写真:

iroriワークショップの様子

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考察

「irori」ワークショップの実践を通して、参加者アンケートでは 80%が「とても満足」、

20%が「まあ満足」と回答した。また、多職種の専門性を理解する上で役に立ったかという

質問に対しては、89%が「とても役に立った」「まあ役に立った」と回答し、医療者同士も

っと連携するべきだと感じたかという質問には、88%が「とても強く感じた」「まあ必要だ

と感じた」と答えた。これらの結果から、今回の研究では、総じてワークショップ形式に対

する満足度は高く、連携に必要な相互理解を深めたり、連携への意欲を高めたりする上でも

効果的であることが示唆された。ワークショップという仕組みによって、フラットな関係性

に近づけられる点が、参加者同士の対話を深めることに寄与していると考えられる。

一方で、ワークショップ形式に不慣れな参加者にとっては、レクチャー部分の方が居心地

が良いと感じたり、話し合いの雰囲気になかなか慣れられない部分も見受けられた。この点

は、地域で様々な参加者を対象とする場合は、特に留意するべきポイントである。ワークシ

ョップマニュアルの中でも、参加を保証する場作りのコツや導入のアイスブレイクの重要

性は強調したが、より具体的な雰囲気作りの手法など今回のマニュアルでは十分盛り込め

なかった点についても、今後ノウハウをまとめられるように研究を重ねていきたい。

マニュアル作りにあたっての医療関係者へのヒアリングからは、医療現場においてワー

クショップが実施される場面が増えてきていることが伺えた。多職種連携の必要性を特に

感じているのは、在宅医療に関係するスタッフや行政関係者であり、ワークショップ形式の

勉強会もこのような場面から取り入れられつつあるようだった。継続的に行われている会

では、医師が主導者であったり、運営の中心として関わっていることが多く、またヒアリン

グ対象者からも、医師の参加が継続・発展のカギであるといった声が聞かれた。

昨今、企業の現場や地域コミュニティなどさまざまな場面で一層広がりを見せるワーク

ショップの手法だが、医療や介護の分野では、職種ごとに知識や専門性が細分化されており、

使われる手法や用語等が微妙に異なることからも、職種を越えたコミュニケーションや連

携は一筋縄ではいかないという側面を抱えている。そうした課題解決の入り口として、ワー

クショップというある種の「型」を活用することは、異なる立場の人たちが関わり合えるき

っかけ作りに有効であるという感触が得られた。特に、サードパスが運営する iroriでは医

療専門職以外の参加も多く、多様な人々が場を共にし、対話を通じて気づきや学びを深めて

いく様子を観察することができた。これは、今後の多職種連携のあり方に、ワークショップ

の手法が貢献できる可能性を示唆していると考えている。

患者や生活者が直面する課題が多様化・複雑化し、また医療介護を取り巻く環境もめまぐ

るしく変化する中で、現場にはより柔軟な思考や行動が求められることも多いと推察する。

在宅医療や地域包括ケアの取り組みが進められる中で、すべての地域や活動主体に適用で

きる画一的な成功モデルは存在しえない。だからこそ、それぞれの現場からもたらされる知

を互いに共有し、協働するための知恵やアイデアを創造する場が求められている。サードパ

スは、そうした場づくりの知恵や工夫をより多くの人たちに共有し、意欲ある人たちが気軽

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に一歩を踏み出せるような環境をつくっていきたい。そのためにも、irori やその他のワー

クショップを引き続き実践し、マニュアルの普及を通じて、その担い手や実践者も増やして

いきたい。

謝辞

本研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団より助成を受けて実施されました。活

動をサポートいただいたことに深く感謝致します。

マニュアルの執筆においては、山本伸さんに協力をいただきました。また、マニュアル内

の事例紹介では、吉玉孝士さん、神津仁さん、孫大輔さん、成田光江さん、井階友貴さんに、

取材協力と原稿内容の確認をいただきました。

最後に、ヒアリングに協力いただいた関係者の皆様、ワークショップの効果検証に協力い

ただいた参加者の皆様には、多大なるご協力をいただき誠にありがとうございました。

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104.

感想

今回、マニュアルとしてまとめる作業を通じて、サードパスが活動してきた目的や大切に

しているポイントを改めて振り返る良い機会になりました。貴重な機会をいただきました

ことに感謝致します。

また、医療現場でこれまで自主的に勉強会やワークショップを運営されてきた方々への

ヒアリングから、そういった取り組みが広まりにくい背景には、これまで想定していたよう

な課題(医療従事者の多忙さ、職種間の壁、運営スキルの不足など)の他に、意識面での壁

が大きいということを感じました。即ち、医療は制度上の規制が大きくその変化に合わせて

変化していくので、連携や情報共有などの取り組みは現場ではなく上(病院経営層や地域医

師会)が行うべき活動だといった意識や、目の前の患者さんに対処するのが医療者の本分で

あるからそれ以外の活動に時間を割くべきではないといった意識などが、表立って見えて

いなくても、現場の医療従事者の本音としてあるのではないかと感じるエピソードがいく

つか聞かれた点です。

そのような中で、サードパスが目指すようなボトムアップ・対話型の流れを作っていくに

は時間が必要だとは思いますが、今回の活動を通じて志を同じくする方とも多く出会うこ

とができましたので、それを励みに引き続き取り組んでいきたいと思います。今回作成した

マニュアルも、その一歩となればと願っています。

ありがとうございました。

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資料1 iroriワークショップアンケート票

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資料2 連携活動評価指標(事前質問票)

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資料3 連携活動評価指標(事後質問票)

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