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Clinical Question 2018年12月24日
施設名:飯塚病院総合診療科作成者:専攻医1年次 片迫 彩監修 :小杉 俊介、的野 多加志
破傷風
分野:感染症テーマ:診断、治療
破傷風を疑った時に適切なマネージメントができる
本日のGOAL
患者背景 高血圧、胃癌全摘術の既往のあるADL自立した80歳男性
現病歴X-9d 庭で作業中に柵に右手をぶつけ受傷したX-2d 右手の動かしにくさを自覚X-1d 開口障害、嚥下障害出現
X 近位受診、症状増悪傾向であり当院へ紹介
<追加病歴>破傷風予防接種歴:幼少期に行なったが最近は接種なしROS+) 開口障害、項部のこわばり、嚥下困難、光線過敏、眼瞼下垂ROS−) 発熱、悪寒、頭痛、頸部痛、呼吸困難感、麻痺、痙攣
症例
症例
既往歴 高血圧症、骨粗鬆症、胃癌全摘後、左手指切断後(25歳)
薬剤歴 カンデサルタン8mg1T1×、アムロジピン5mg1T1×、メコバラミン3T3×、セチリジン10mg1T1×、エディロール1C1×
家族歴 特記事項無し
生活歴 ADL:自立喫煙:20本/day(15年前より禁煙)飲酒:焼酎2合/dayアレルギー:なし
身体所見全身状態良好、意識清明
Vital signsBP 150/86mmHg PR 77/min RR 14/min SpO2 100%(RA) BT 36.7℃
頭頸部:眼瞼浮腫なし、眼結膜蒼白なし、眼球運動障害なし、顔面しわ寄せ可能、jolt accentrationなし、項部硬直あり、回旋制限あり頸部リンパ節腫脹なし、開口制限あり(1横指が限界)、流涎あり、齲歯あり
胸部:呼吸音左右差なし、心音Ⅰ→Ⅱ→Ⅲ-Ⅳ-、心雑音なし腹部:腸蠕動正常、平坦、筋緊張あり、圧痛なし四肢:左手母指以外切断、右手指の巧緻運動障害あり(離握手可能、指折り不可)
右手背に3cm大の肉芽を伴う表皮剥離あり、周囲の疼痛・腫脹なし
症例
血算 凝固
WBC 5800 /μl CK 108 lU/l PT 107.0 %
RBC 348x104 /μl T-Bil 0.7 mg/dl APTT 24.9 s
Hb 13.0 g/dl Alb 3.9 g/dl PT-INR 0.97
Hct 40.0 % Na 144 mEq/l D-dimer 1.0 μg/ml
Plt 19.6x104 /μl K 4.0 mEq/l
Cl 106 mEq/l
生化学 Ca 9.3 mEq/l
AST 36 lU/l IP 3.4 mg/dl
ALT 24 lU/l Mg 2.3 mg/dl
LDH 218 lU/l Glu 134 mg/dl
ALP 250 lU/l BUN 9 mg/dl
γ-GTP 24 lU/l Cr 0.58 mg/dl
CRP 0.10 mg/dl
入院時検査所見
#. 開口障害
#. 筋緊張
#. 項部硬直
#. 9日前に受傷した右手背表皮剥離
#. 意識レベル清明
Ploblem List
破傷風??破傷風を疑うシュチュエーションは??
入院後経過
Day1 Day28Day3
MNZ500mgq6h6日間
破傷風トキソイドHTIG 3000単位div
VAP→TAZ/PIPC 2.25q6h7日間
Day7 Day14 Day21
開口障害
項部硬直・筋強直
Day2 挿管
Day2 デブリドマン
症状・処置
薬剤
自律神経活性化発汗・血圧不安定・頻脈
抗菌薬
抗菌薬
鎮静
ミダゾラム持続静注
デクスメデトミジン持続静注
フェンタニル持続静注Mg製剤静注 破傷風トキソイド
(2回目)
Day18 気管切開Day3 経腸栄養開始
→ その後徐々に経過良好となり人工呼吸器離脱、リハビリテーション目的に転院した
入院後経過(Management)1. 毒素産生の抑制
<Source control>皮膚科コンサルト→右手背デブリドマン<抗菌薬>MNZ500mgq6h div開始
2. 毒素の中和破傷風ヒト免疫グロブリン3000単位div<ワクチン>来院時と4週間後に破傷風トキソイドを投与
3. 痙攣管理ミダゾラム(Day2〜) 目標RASSスケール:-1 〜 -3 ※筋弛緩薬は使用せず
4. 自律神経抑制デクスメデトミジン(Day8-25、一時上限まで使用)筋強直増強時にMg投与したが改善なく1日のみで中止
5. 人工呼吸器管理およびその他開口障害あり早期に挿管管理→気管切開<栄養>早期より経腸栄養開始、電解質チェック・補充<予防・管理>挿管管理しておりPPI投与、VTE予防でヘパリンCa皮下注
破傷風とは
グラム陽性嫌気性菌であるClostridium tetani による感染症
挫創や皮膚バリアが壊れたところから侵入する1)熱傷、出産時、臍帯の断端、術後の合併症で起こることが多い1)
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
疫学
日本:ここ最近年間120例前後、1.0人/100万人
アメリカ:0.1人/100万人(2001-2008年平均) 1)ヨーロッパ:0.2人/100万人2)
引用: https://www.niid.go.jp/niid/ja/survei/2085
-idwr/ydata/7312-report-ja2016-30.html
3) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
全世界死亡率:45-55%3)
米国では1947年以降ワクチン接種の普及により症例報告数が95%以上減少
1) Tetanus Surveillance - United States, 2001–2008, MMWR/April 1, 2011/Vol. 60/No. 122) Tetanus - Annual epidemiological report for 2016. Stockholm: ECDC; 2018.
先進国の中でも圧倒的に日本は多い!
日本では1968(S43)年〜三種混合ワクチン接種開始
※2018年時点で50歳以上の人は打っていないことになる
Clostridium tetani は二種類のtetanus toxinを産生する
tetanospasmin:
脊髄、脳幹、末梢神経、神経筋接合部、および筋肉に直接作用
→ 持続的な興奮放電・運動痙攣が起こる1)
tetanolysin:組織壊死により嫌気性環境を作り貪食作用を抑制
→ 菌の発育を促進する
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000)2) Lancet Infect Dis. 16(6):746 (2016)
病態
① 毒素受容体② 毒素の取り込み③ 逆行性軸索輸送へのソーティング④ シナプスを越えてのtranscytosis⑤ 細胞質への移送
①
②
③
④⑤
神経筋接合部
⑥ 脊髄前核に到達⑦ シナプス前膜を通り上位中枢に搬送
→ 大脳へ到達
最終的に
脳幹および脊髄、末梢神経におけるこれらのニューロンの細胞体で病原性を発揮!2)3)
2) Lancet Infect Dis. 16(6):746 (2016) 1) IASR Vol.30 No.3(No.349)March 2009
3) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
病態 〜破傷風に感染してから症状発症まで〜
引用:https://idsc.niid.go.jp/iasr/30/349/graph/df34923.gif
抑制性シナプスを遮断
→ 抑制性シナプスにおいて
GABAのシナプス間隙への
放出を防止1)
→ 筋痙攣が起こる
興奮性シナプスを遮断
→ 筋拘縮が起こる
引用:http://yakuaru.nows.jp/oral/155-155.html
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000)
最終的に
破傷風に典型的な筋痙攣・筋強直を起こす
病態 〜破傷風に感染してから症状発症まで〜
潜伏期間:3日〜21日(通常約8日)1)※一般的に、受傷部位が中枢神経より離れているほど潜伏期間が長い
潜伏期間が短いほどその後の経過が重症になる1)2)
引用:1) https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/tetanus.html
2) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
臨床経過
1/3の患者は怪我があまりにも軽微 or 特定の創傷や傷害を想起できない→ 侵入門戸が不明2)3) ex. 皮膚、歯、耳の感染症、筋肉内の注射など
破傷風の重篤度は発症前に予測することができる!→気道保護の時期および必要性に関する一助になる2)
3) Ann Intern Med. 154:329-335, 2011
第1期:開口障害(軽度)、首筋の張り、寝汗、歯ぎしり
第2期:開口障害増強、痙笑
第3期:強直性痙攣、腱反射亢進、病的反射、クローヌス
第4期:寛解期(筋強直・腱反射亢進は残存)
痙攣・心血管合併症:第1週で最多、次の2-4週間では徐々に改善する1)
痙攣は3-4週間持続、完全な回復には数カ月かかる
1) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
寛解期へ至るまで :症状は通常4-6週間持続する2)
2) Lancet Infect Dis. 16(6):746 (2016)
臨床経過
「改訂・感染症マニュアル」、厚生省保健医療局結核感染症課監修、マイガイア、1999 年を元に作成
オンセットタイム(第1期:開口障害〜第3期:全身性痙攣が始まるまでの時間)
48 時間以内であれば予後不良
破傷風の診断は臨床症状!1)2)
通常の検査による特異的診断は困難
→ 否定も肯定もできない1)2)
血液検査:正常または軽度上昇脳髄液検査:正常脳波・筋電図:正常 or 非特異的異常創部のGram染色:1/3の確率でグラム陽性桿菌陽性
(有症状でなければ有意ではない)
鑑別/診断
副咽頭間隙膿瘍
扁桃周囲膿瘍
歯性感染症
ベル麻痺低カルシウム血症によるテタニーストリキニーネ中毒悪性症候群Stiff man syndrome敗血症痙攣
灰白髄炎・ウイルス性脳脊髄炎髄膜脳炎(狂犬病など)・髄膜炎
その他鑑別
破傷風は◯ 開口障害・嚥下障害✖️ 嚥下時痛
破傷風は◯ 項部硬直✖️ 意識障害
2) Ann Intern Med. 154:329-335, 20111)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
Flowchart
TetanusManegement
Diagnosis Flowchart
開口障害、項部硬直
嚥下時痛あり
Killer sore throart
意識障害あり扁桃周囲膿瘍 急性喉頭蓋炎口腔底蜂窩織炎 咽後膿瘍Lemierre's 症候群
髄膜炎
その他 低カルシウム血症によるテタニーストリキニーネ中毒悪性症候群 敗血症 痙攣 ベル麻痺Stiff man syndrome
病歴聴取3週間(特に1週間)以内の受傷の有無 ※無くても否定できない
破傷風ワクチン接種状況
①S43年以前の生まれ(H30年時点で50歳以上)
②3回打っていないor 打ったか不明or 打ったが10年以上前
③3回打っているand 最終が10年以内
破傷風が疑わしい!各種培養採取集中治療科・感染症科へ連絡次項のFlowchartへ
その他の原因検索へ
2) Ann Intern Med. 154:329-335, 20111)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
1)2)を元に作成
Management Flowchart
皮膚科コンサルト
破傷風疑い
Source control
抗菌薬投与
抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与
Grade2以上 Grade1
挿管準備 挿管必要性継続審議
入院・暗室管理刺激は最小限に!
痙攣予防に対する鎮静
YES NO
評価継続
※その他管理も行う
挿管後
自律神経に対する対応
外来〜入院Management 入院後Management
1) Ann Intern Med. 154:329-335, 2011
1)を元に作成
自律神経症状の有無
重症度判定
1st STEP:重症度分類
1) Ann Intern Med. 154:329-335, 2011
1) を元に作成
Grade 1
また、喉頭痙攣から上気道閉塞を発症する可能性があるため、以下の指標を用いて重症度判定を!
上気道閉塞の重症度がGrade2以上→ 早期気管切開術の恩恵がある
or 分泌物の管理が困難になる と考えられる
潜伏期間(受傷〜症状出現まで)が重症度の指標になる1)
潜伏期間8日程度:Severe潜伏期間11日程度:Mild-Moderate
軽度開口障害・筋強直あり・呼吸不全・痙攣・嚥下障害なし
Ablett Classification of Tetanus Severity
Mild
SeverityGrade Symptoms
Grade 2 中等度開口障害、筋強直、短時間の痙攣、軽度嚥下障害呼吸器の関与、呼吸数>30/min
Moderate
Grade 3 重度開口障害、筋強直全般化、長時間の痙攣、重度嚥下障害無呼吸、心拍数>120/min、呼吸数>40/min
Severe
Grade 4 Grade 3に自律神経障害を合併Very Severe
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
光、物音、声、軽い触覚などの軽度の刺激でさえ筋痙攣を誘発する!
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
➢ 創部の Source Control 1)2)
➢ 抗生剤投与2)3)
MNZ 500mg q6-8h 7-10日間 注
PCG 200-400万単位 q4-6h 7-10日間(300万単位を4時間毎に投与することが多いまたは1800万単位を24時間持続静注)
注:1)の文献ではMNZ 500mg q6-8h 10-14日間の記載あり
900万単位を5%Tz500mlに溶かして12時間毎投与※PC-Gには100万単位あたり59.8mg(約1.53mEq)のK含有 1) Ann Intern Med. 154(5):329, 2011
適切な科に必ずデブリードメント依頼を!
GABAアンタゴニストとして破傷風の痙攣を悪化させる可能性もある2)
・外科的壊死術を含む局所創傷ケアは不可欠・異物を除去、傷口を十分に灌水、開放創へ・壊死組織の切除が必要となることも
2)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
1. 毒素産生の抑制
3) サンフォード感染症治療ガイドライン2018
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
HTIG(抗破傷風ヒト免疫グロブリン)の早期投与が必須!→ 未結合の毒素を中和し、中枢神経内の毒素の拡散を防止する1)
推奨投与量:3000-6000単位2)※日本の添付文書:テタノブリン静注IH→軽〜中等症例:1500-3000単位、重症例:3000-4500単位を投与
破傷風グロブリン筋注→5000単位以上を投与、ワクチンと別の腕に筋注する
<ワクチンに関して>
破傷風感染は急性疾患からの回復後に免疫を与えない!
→ 初診時含め計3回投与!
2回目を3-8週間後、3回目を6-12ヶ月後に打つ3)
1) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)2) Lancet Infect Dis. 16(6):746 (2016)
2. 毒素の中和
※日本の添付文書では3回目は6ヶ月以上12-18ヶ月の間
3) Recommendations and Reports / April 27, 2018 / 67(2);1–44
Booster効果としてその後も10年毎に投与する3)
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
➢ GABAA受容体遮断薬
➢ α2受容体作動薬
・ベンゾジアゼピンミダゾラム or ジアゼパム (効果は同等3))
・プロポフォール
・デクスメデトミジン
間接的に毒素に拮抗ベンゾが推奨!1)
間接的に交感神経抑制作用もある!
※ジアゼパムは安価で即効性があるため推奨しかし半減期が長く(72-96時間)蓄積するのが難点また静脈血栓症、依存も起きやすく長期鎮静傾向であり呼吸抑制や意識障害も生じる1)2)
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000) 2) Expert Rev. Anti-infect. Ther. 2(1), (2004) 3) Lancet Infect Dis. 16(6):746 (2016)
推奨:ベンゾジアゼピン系薬剤
3. 痙攣予防に対する鎮静
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
破傷風では基礎カテコールアミン濃度が上昇ノルアドレナリンはアドレナリンよりも著名に上昇自発的 or 刺激により10倍上昇する1)
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000)
β遮断薬単剤は避けるべき→プロプラノロールなど選択的β遮断薬は
相対的にα刺激が加わり突然死のリスク2)
2) Br. Med. J. 2, 254–255 (1978).
世界ではLabetolol が推奨されるが内服薬のみ日本ではαβ遮断薬の静注薬はない!
モルヒネ・マグネシウム製剤の投与を検討
β遮断薬と異なり低血圧・徐脈なし
4. 自律神経活性化に対する鎮静
モルヒネ 最も一般的に使用される <使用量>0.5-1.0mg/kg/h 1)
マグネシウム血管拡張作用、抗痙攣作用2)3)副腎と交換神経終末からのカテコールアミンの放出抑制・受容体反応性を低下2)3)血行動態不安定に対して使用したベラパミル使用量を大幅に減少させた4)鎮静薬としては不十分だが自律神経抑制薬としては有効5)
心血管系に作用し徐脈・低血圧へ、また鎮静作用もあり血行動態の不安定にも有効である1)2)
その他: アトロピン、クロニジン、硬膜外ブピバカインデクスメデトミジン(α2刺激薬)
自律神経抑制・痙攣抑制管理のための薬剤として唯一二重盲検化ランダム試験で有効とされている
1) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
4) Lancet. 368(9545):1436 (2006)3) 日救急医会誌 19:113-8 (2008)2) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000)
5) Intensive Care Medicine 11:5–12 (1985)
4. 自律神経活性化に対する鎮静
本症例では鎮静も兼ねて使用機序に関しては後述参照
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
低酸素、気道閉塞、低換気、肺炎および呼吸停止による
リスクがある患者を予測し早期の気道確保および挿管管理が必要1)
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000)
軽度から中程度の破傷風を発症すると予測される患者の診断から24時間以内に実施すべき2)長期管理が必要となるため早期に気管切開を行う2)
気管挿管は痙攣が始まる前、早期に行う!!
気管切開
気管吸引・喉頭痙攣防止・誤嚥予防に繋がり経管栄養開始も可能に2)
2) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
5. 人工呼吸器管理
暗室管理、刺激は最小限に!1)
治療項目1)1. 毒素産生の抑制
2. 毒素の中和
3. 痙攣予防に対する鎮静
4. 自律神経活性化に対する鎮静
5. 人工呼吸器管理
6. その他
まず・・・
1)Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
2nd STEP:入院管理
<栄養>消費カロリーは非常に高いため、早期の経腸栄養開始を目指す電解質を維持 → 不整脈管理に有用
<予防・管理>消化管出血 → PPI血栓塞栓症 → ヘパリン院内感染、褥瘡、気管狭窄
<その他>尿量確保・排便コントロール・皮膚トラブル
<リハビリテーション>長期の安静のため身体障害となる → 痙攣が落ち着けば早期に導入を!
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292–301
2) Expert Rev. Anti Infect. Ther. 6(3), 327–336 (2008)
6. その他
Take Home Message
破傷風を疑ったら
早期に治療開始!
挿管のタイミングを
逃さない!
補足スライド
予後の観点から見た日本の臨床経過に関するデータ
臨床経過〜日本のデータに関して〜
2000年7月〜2016年3月までにDPCを用いて後方視的研究を行った。※1200の急性期病院、約90%の三次医療機関をカバー。
抽出方法:破傷風新生児、産科破傷風、その他の破傷風の診断を受けた人Inclusion:抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与された人Exclusion:ヘビ咬傷・熱傷と診断された人、入院後3日以内に退院した人(退院後他の
救急病院へ搬送されている可能性があるため)
Primary outcome:院内死亡率Secondary outcome:入院期間、人工呼吸器管理期間・気管切開期間
Material & Methods
破傷風と診断された499人の患者における気管挿管、機械換気および気管切開を必要とする患者の割合、退院時状態を調査した。
Purpose
1. Characteristic患者の中央値年齢:74歳 (IQR 63-80歳)男性患者 :51.7%糖尿病患者 :10.4%入院患者の割合 :夏期が多い
2. Outcome
死亡率:6.8%Primary outcome
入院期間 35日 (IQR 18-57日)挿管・人工呼吸器管理:53.5%
Secondary outcome
その他
自宅退院 58.1%他の施設退院 35.1%
高齢になる程死亡率は高い!
気管切開試行:77.5%
挿管管理開始日中央値 入院2日 (IQR 1-3日)※80.1%が入院3日以内に開始
挿管管理期間中央値 23日 (IQR 15-36日)
3. Outcome -気管挿管が必要であった患者-
✓ 破傷風罹患率は高齢に多い!患者の約80%は60歳以上。日本の破傷風予防接種の現状(2013年の日本全国調査) 1)60歳以上の患者:破傷風トキソイド抗体(0.1IU / ml)の血清罹患率5%50歳以下の患者:80%〜100%の範囲
1) NationalEpidemiologicalSurveillanceofVaccine-PreventableDisease.https://www. niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/4513-tetanus-yosoku-serum2013.html
✓ 院内死亡率は比較的低かったが、生存患者の約3分の1が自宅以外の施設に退院した。
Discussion & Conclusion
C.Q. 痙攣防止に筋弛緩薬は必要?
パンクロニウム(長時間作用型)
カテコールアミンの再取り込みの阻害剤
自律神経失調(高血圧や頻脈)を悪化させる可能性がある1)
べクロニウム
心血管系の作用は少ないので推奨されているが短時間作用1)
ダントロレン
筋肉に直接作用する、痙攣抑制困難例で1例だけ報告がある2)
プロポフォール
筋痙攣・強直はコントロール可能となり筋弛緩薬を使用しなかった
ただ、鎮静作用が強く呼吸器に関しては強制換気が必要1)
※長時間作用の方が持続静注しなくて良いため望ましい1)
1) J Neurol Neurosurg Psychiatry 69:292–301 (2000) 2) Anesth Analg 64:538– 40 (1985)
Ans. 管理が困難であり、推奨はされないが使用するならプロポフォール
C.Q. 自律神経抑制薬として
マグネシウム製剤は有用か?
背景:Severe Tetanusの死因
人工呼吸器管理なし → 痙攣関連の呼吸不全
人工呼吸器管理あり → 自律神経障害
P:重症破傷風で入院した患者I:硫酸マグネシウムを持続投与した群C:投与しなかった群O:入院後7日間の人工呼吸器導入、筋痙攣、自律神経障害の
合併率を減らすか1) Lancet. 368(9545):1436 (2006)
この研究のPICO
ランダム化
二重盲検試験
ITT解析
Inclusion
Exclusion
・15歳以上で臨床的に破傷風と診断された人・喉頭痙攣による急性気道閉塞や呼吸を妨げる頻回の攣縮を
有する患者、または人工呼吸器管理が推奨される患者で4時間以内に気管切開を行った患者
・Mg投与が禁忌である患者ex. Cr>2mg/dl, 尿量
通常の破傷風管理に加えて7日間の
硫酸マグネシウム投与を行った
方法:30分かけて40mg/kg iv
≦45kg:1.5g/h
>45kg:2g/h div
破傷風の治療に加えて
血清濃度が2〜4mmol/Lに維持するように注入速度を変更
ちなみに・・・2-4mmol/Lは4.86-9.72mg/dl
筋痙攣の制御 :ジアゼパム静注(不十分な場合はピペクロニウム静注とフラッシュ)高用量のジアゼパム(>100mg /日)が必要な場合はミダゾラム静注併用
頻脈・自律神経障害(過度の発汗や血圧の変動):第一選択薬ベラパミル、必要に応じてモルヒネまたはジゴキシン
低血圧 :輸液負荷及び昇圧剤(ノルアドレナリンおよびドーパミン)で対応
✓ 創傷洗浄・創面切除✓ 抗生物質(メトロニダゾール)✓ 免疫グロブリン
このRCTでの破傷風に対して行った標準治療
合併症:低カルシウム血症および呼吸抑制カルシウム値はプラセボ群より有意に低かったが、臨床症状は伴わなかった。換気量も差がなかった。
突発的な心停止または低血圧があり投与中止になった症例も両者では差がなかった
ジアゼパムの必要量は変化なかったが、ミダゾラムとピペクロニウムの投与量が優位に低かった
※その他項目で両者で大きな優位差はなかった
Result
C.Q. 自律神経抑制薬としてデクスメデトミジンは有用か?
<機序>交感神経作用を抑制したい→ Ach or NAを低下させる
NAを減少させる機序①NAを枯渇させる②NA分泌阻害③α2受容体刺激
引用:薬がみえる vol.1
DEXはココに作用!
デクスメデトミジン(α2刺激薬)ネガティブフィードバック作用でNA分泌を抑制→ 間接的に交感神経作用を減弱させる
引用:ICU/CCUの薬の使い方, 考え方 ver.2
Ans. 機序的には有用かもしれない