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匿到 消化管アミ口イド-シスの 2 佐藤 幸一 1) 木村 1) i" E T 工乙 1) 長田 淳一 1) 藤井 義幸2) l 山、 J 1 )小松島赤卜字病院 内科 2 )小松島赤十字病院検査部 消化管アミロイドーシスの 2 例を経験した 。症例 I 67 歳、女性。慢性関節 リウマチで通院中 、下痢が持続したため 入院。Hb1O .5g/dl 、血清 Alb は1. 9g/dl と低下し、炎症反応も高値を示した。内視鏡検査では、十二指腸下行部に 微小隆起が散在し、結腸には浅い漬療が多発していた。症例 2 53 歳、女性。腹痛、下血のため入院。Hb8.7 g /dI j 血清 Alb2.0g/dl と低下し、内視鏡検査では、 S ;1 犬結腸を中心にびらん、出場が多発していた。生検ではいずれの症 変は1 1 詮|央し、栄養状態も Alb2.9g/dl と改善した。アミロイ ドー シスにおいて 消化管への アミロイド沈着は高率であ るが、実際に所見が認められるものは少なく 、その治療にも難渋することが多い。報告の 2 例は消化管病変、栄養状態 とも著しく改善し 、貴重な症例 と考え報告した。 キーワー ド:消化管アミ ロイド ーシス 、治療、中心静脈栄養 はじ めに 全身性アミ ロイドーシス において消化管へのアミ ロ イド沈着の頻度は高率であるが、実際にびらん、潰,虜 等の所見が認められるものは少ない。 また、治療は確 立 さ れ た も の はなく、 一般にその予後は不良とされて いる 。 今 回 私 た ち は 、 続 発 性 消 化管 ア ミ ロ イ ド ー シス に対して中心静脈栄養管理を行い、 著明な症状の改善 を示した 2 例を 経験した ので、 若干の文献的考察を加 えて報告する。 症例 1: 67 歳 、女 性 主訴 : -f 症例 既往歴 : 1993 年 よ り慢 性 関 節 リ ウ マ チ (RA)で当 科へ通院中。 家族歴 :特記すべきこ となし。 現病歴 : 1997{1 12 月初めよ り水様下痢が持続したた め、12 月終句より近院で入院加療を受けたが、改善 し ないため 、1998 321 日当院を受診し入院した。 入院時現症 :身長148cm 、体重39kg 、血圧l '/60mmHg VO L. 4 NO. 1 MARCH 1999 脈拍 llO/m 、整、体温 37.0 o C 、眼 l 験結膜に軽度貧 血 を認めた。 心音は清、呼吸音は下肺野にラ音を聴取 した 。腹部は平坦、 1 1 次で肝)J卑は触知しな か っ た が、上 腹部に圧痛を認めた。 検査成績 :尿検査では蛋白が 2+ で、 赤沈は63nml/ hと促 進 し て い た 。末 梢 血 液 で は Hb 10.5 g /dl RBC 375X 1Q1 /μl と軽度貧血があり 、血小板は4 1. 7XlO' l/μl とやや増加していた。血清総蛋白は4.4g/dl ,アルブ ミンは1. 9 g/dl と著しく低下していた。 CRP 8.4mg/ dl RAPA 5120 倍と著明に上昇していた。 上部内視鏡所見 (Fig.1) :卜二 指 腸 球 部 か ら下 行 部にかけて粘膜は粗造で小頼粒状隆起を多数認めた。 大腸内視鏡所見 (Fig.2) :上行結腸から下行結腸 にかけて不整形の潰揚が多発し一部狭窄部も認めた。 直腸部には漬場は認められなかったが、粘膜は粗造で 易出血性であった。 病理組織学的所見 :十二指腸下行部の粘膜生検にお いて、 Congo-Red 染色で血管周囲及び粘膜間質に赤 色に染まるアミ ロイド沈着が認め られた (Fig.3 a) が、過マンガン|駿カリウムの前処置を施すと、染色は 失われた (Fig.3b) 。このことよ り、沈着している ア ミロイドは AA 型であり、続発性消化管アミ ロイ ドーシスと考えられた。 消化管アミロイドーシスの 2 27

匿到 消化管アミ口イド-シスの 2例 · 匿到 消化管アミ口イド-シスの2例 佐藤 幸一1) 木村 聡1) 合i" E上T工乙 1) 長田 淳一1) 藤井 義幸2) l二

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匿到 消化管アミ口イド-シスの 2例

佐藤 幸一 1) 木村 聡 1) 合i" E上T工乙 1) 長田 淳一 1) 藤井 義幸2)l二 山、 J

1 )小松島赤 卜字病院 内科

2 )小松島赤十字病院検査部

要 旨

消化管アミロイドーシスの 2例を経験した。症例 Iは67歳、女性。慢性関節 リウマチで通院中、下痢が持続したため

入院。Hb1O.5g/dl、血清 Albは1.9g/dlと低下し、炎症反応も高値を示した。内視鏡検査では、十二指腸下行部に

微小隆起が散在し、結腸には浅い漬療が多発していた。症例2は53歳、女性。腹痛、下血のため入院。Hb8.7 g /dI、

j血清 Alb2.0g/dlと低下し、内視鏡検査では、 S;1犬結腸を中心にびらん、出場が多発していた。生検ではいずれの症

例にも粘膜下を I二~1 {、 に AA 型のアミロイド沈着が認め られた。 治療は中心静脈栄養 を中心と した治療により消化f首病

変は11詮|央し、栄養状態も Alb2.9g/dlと改善した。アミロイ ドー シスにおいて消化管へのアミロイド沈着は高率であ

るが、実際に所見が認められるものは少なく 、その治療にも難渋することが多い。報告の 2例は消化管病変、栄養状態

とも著しく改善し、貴重な症例と考え報告した。

キーワー ド:消化管アミ ロイドーシス、治療、中心静脈栄養

はじ めに

全身性アミ ロイドーシス において消化管へのアミ ロ

イド沈着の頻度は高率であるが、実際にびらん、潰,虜

等の所見が認められるものは少ない。 また、治療は確

立されたものはなく、 一般にその予後は不良とされて

いる。今回私たち は、続発性消化管アミロイドーシス

に対して中心静脈栄養管理を行い、 著明な症状の改善

を示した 2例を経験したので、 若干の文献的考察を加

えて報告する。

症例 1: 67歳、女性

主訴 :-f痢

症例

既往歴 :1993年 より慢性関節リウ マチ (RA)で当

科へ通院中。

家族歴 :特記すべきこ となし。

現病歴 :1997{1三12月初めよ り水様下痢が持続したた

め、12月終句より近院で入院加療を受けたが、改善 し

ないため、1998年 3月21日当院を受診し入院した。

入院時現症 :身長148cm、体重39kg、血圧l∞'/60mmHg、

VOL. 4 NO. 1 MARCH 1999

脈拍llO/m、整、体温 37.0oC、眼l験結膜に軽度貧

血を認めた。 心音は清、呼吸音は下肺野にラ音を聴取

した。腹部は平坦、 11次で肝)J卑は触知しなかったが、上

腹部に圧痛を認めた。

検査成績 :尿検査では蛋白が 2+で、 赤沈は63nml/

hと促進していた。末梢血液では Hb10.5 g /dl, RBC

375X 1Q1/μlと軽度貧血があり 、血小板は41.7XlO'l/μl

とやや増加していた。血清総蛋白は4.4g/dl,アルブ

ミンは1.9 g /dlと著しく低下していた。CRPは8.4mg/

dl、RAPAは5120倍と著明に上昇していた。

上部内視鏡所見 (Fig.1) :卜二指腸球部か ら下行

部にかけて粘膜は粗造で小頼粒状隆起を多数認めた。

大腸内視鏡所見 (Fig.2) :上行結腸から下行結腸

にかけて不整形の潰揚が多発し一部狭窄部も認めた。

直腸部には漬場は認められなかったが、粘膜は粗造で

易出血性であった。

病理組織学的所見 :十二指腸下行部の粘膜生検にお

いて、 Congo-Red染色で血管周囲及び粘膜間質に赤

色に染まるアミ ロイド沈着が認め られた (Fig.3 a)

が、過マンガン|駿カリウムの前処置を施すと 、染色は

失われた (Fig.3 b)。このことよ り、沈着している

ア ミロイドは AA型であり、続発性消化管アミ ロイ

ドーシスと考えられた。

消化管アミロイドーシスの 2例 27

Fig. 1 上部内視鏡所見 Fig.2 大腸内視鏡所見

Fig. 3 病理組織学的所見a 十二指腸下行部粘膜生検像 (congo-red染色)

b 過マンガン酸カリウム前処置後の congo-red染色

臨床経過 (Fig.4) : RAに続発した消化管アミロ

イドーシスと診断し、まず prednisoloneの増量 と食

事療法を行ない症状はやや改善したが、 ト分でないた

め、 4月4日より中心静脈栄養を行った。中心静脈栄

養は効果的で、下痢は消失するととも に、貧血や低ア

ルブミン血症も改善した。その後-11寺CRPが上昇し

たが、これは RAの増悪によるものと考えられ、プレ

ドニンを増量するとともに、メソトレキセート (MTX)

を追加し軽快した。 6月27日退院し現在通院中だが、

再発を認めず経過は良好である。

症例 2: 53歳、女性

主訴 :腹痛、下血

既往歴 ・家族歴 :特記すべきことなし

現病歴 :1997年 7月ころより l広が出現し胸膜炎、大

動脈弁閉鎖不全を指摘され近医へ通院していた。1998

28 ii制t管アミロイドーシスの 2例

症例 1 経過図

旧O.mgMizoribinc 仁二二二二二二二二二二a:二二二

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退院

3.0

2.0

1.0

7R

Fig.4

年2月ころよりは発熱、腹部膨満感も出現、 3月初旬

からは下血 も加わったため、 同院で大腸内視鏡検査を

行い、アミロイ ドーシスが疑われたため、当院を紹介

され3月19日入院した。

入院時現症 :身長157cm、体重46kg、血圧138/70mm

Hg、脈拍80/m、整、体温36.TC、眼験結jJ莫にII珪度貧

血lを認めた。心音は拡張期雑音がl陪かれたが、呼吸音

は異常なかった。腹部はやや膨|監し下腹部に圧痛あ

り、腹水も認められた。

検査成績赤沈は68mm/hと促進し、末梢[血液では

Hb 8. 7 g / dl, RBC 401 x 10'1/μlと貧血を認め、白血

球は14210/μ1,血小板も71.8X 104/μlと増 加 してい

た。血清総蛋白は5.5g /dl,アルブミンは2.0g /dlと

低下がみ られ、 CRPは18.0mg/dlと著明に上昇、リウ

マ トイド因子、抗核抗体は検出されなかった。

内視鏡所見 :胃 ・十二指腸に著変は認められなかっ

たが、大腸内視鏡検査では S状結腸にびらんや潰揚

が多発し (Fig.5)、直腸では粘膜が発赤、腫脹して

いた。

病理組織学的所見 :S状結腸からの生検において、

主として粘膜下にアミロイド沈着を認め、過マンガン

酸カリウムの前処置により処理されたことより、 AA

型のアミロイドであり、続発性消化管アミロイドーシ

スと考えられた。

|臨床経過 (Fig.6) :入院当初Jは食事療法、整腸剤

投与を行ったが改善せず、下痢は頻回となり、腹痛も

増強したため、 4月9日より中心静脈栄養を行った。

中心静脈栄養により下痢、腹痛、腹水貯留は改善する

とともに、貧血や低アルブミン血症も軽快し、 5月18

日の大腸内視鏡検査では、潰傷も消失していた。 5月

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal

Fig.5 大腸内視鏡所見

症例 2 経過図 IVH

下腹部痛

畷 a‘下宿

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Fig. 6

21日には中心静脈栄養を終了し徐々に経口摂取を増加

したが、順調に改善し 7月16日退院した。現在通院中

だが、再発を認めず経過は良好である。

考察

アミロイドーシスは全身諸臓器にアミロイド繊維が

沈着する原因不明の代謝性疾患である 1)。アミロイド

の沈着臓器は腎臓、肝臓、心臓、 IJ車臓をはじめあ らゆ

る臓器を侵し、そのため、多彩な臨床症状を呈する。

消化管もまた、アミロイドの好沈着部位で原発性およ

び続発性アミロイ ドーシ スではそれぞれ70%21、

59%引にアミロイドの浸潤が報告され、剖検例では、

90%りと高率の沈着を示す、しかし、実際に消化管に

所見が得られるのは非常に少ない。

アミロイドーシスの消化管所見は発赤、びらん、潰

傷、微細頼粒状隆起、結節状隆起など多彩な所見がみ

VOL. 4 NO. 1 MARCH 1999

られ、特に十二指腸では沈着するアミロイ ド蛋白の種

類によってその所見が異なることが注目されている。

AA型では粘膜固有層を中心に沈着するため微細頼粒

状隆起の多発からなる粗造な粘膜が認められるのに対

し、 AL型では粘膜下組織を中心に沈着するため、

Kerckring雛壁の肥厚や粘膜下腫癌様隆起の多発が認

められることが多いこと 5)が報告されている。本症例

でも、十二指腸で AA型に特徴的な微細頼粒状隆起

の多発からなる粗造な粘膜が認められた。上部内視鏡

検査は今後さらに増加すると考えられ、アミロイドー

シスという疾患も念頭においた観察が必要とおもわれ

る。

消化管アミ ロイドーシスの治療に関しては、沈着 し

たアミロイドを除去する確実な方法はなくこれまで免

疫抑制剤、副腎皮質ホルモン、 DMSO(dimethyl-

sulfoxide) 6)、コルヒチ ンなどが用いられてきたが効

果は不明で、一般にその予後は不良とされている。し

かし本症例においては、中心静脈栄養により症状、検

査所見ともに著明な改善が得られ、 7ヶ月後の現在両

症例とも再発は認められていない。消化管の症状に関

してはアミロイ ドーシスの血管壁への沈着に伴う微小

循環障害の影響が強く、本症の治療においては、絶食、

中心静脈栄養による高カロリー輸液による栄養管理及

び腸管の安静が最も重要であると思われた。

全土耐口

圭玉ロロ

続発性消化管アミロイドーシスの 2症例を経験し、

いずれの症例も中心静脈栄養により、自他覚症状とも

に著明な改善が得られたので報告した。

文献

1) Glenner GG: Amyloid deposits and amyloidosis:

the s-fibrilloses. N Eng J Med 302: 1283-1292,

1333-1343, 1980

2) Symmers, WStC: Primary amyloidosis: a review.

J. Clin. Path. 9 : 187-211, 1956

3) Dahlin DC: Secondary amyloidosis. Ann.Intern.

Med.31 : 105-119, 1949

4 )沓掛文子, 山根敏子,原 弘 :全身性アミロイドー

シスにおける消化管病変.広島医学 31 : 543-

548, 1978

消化管アミ ロイドーシスの 2例 29

50, 1994 5) Tada S, Iida M, Yao T et al : Endoscopic features

in amyloidosis of the small intestine : clinical and

morphologic di妊erencesbetween chemical types

of amyloid protein. Gastrointest Endosc 40: 45-

6 )磯部敬 :DMSOとアミロイ ド.日本臨床 37:

3278-3284, 1979

Two Cases of Digestive Amyloidosis

Koichi SAT01), Satoshi K1MURA 1), Keiko M1YA 1), Junichi NAGATA 1), Yoshiyuki FUJII2

)

1) Division ofInternal M巴dicin巴, Komatsushima Red Cross Hospital

2) Division of Pathology, Komatsushima R巴dCross Hospital

W巴巴xperiencetwo cases of digestive amyloidosis. The patient in Case 1 was a 67・year-oldwoman, who had been

treated by rheumatoid arthritis but was hospitalized due to persisting diarrhea. Both Hb and the serum Alb were

decr巴asedto 10.5 g/dl and 1.9 g/dl, respectively, and inflammatory reaction showed a high value. Endoscopic

examination revealed scattered microelevations in the duodenum and multiple occurrences of shallow ulc巴rsin the

colon. The patient in Case 2 was a 53-year-old woman, who was hospitalized due to abdominal pain and bloody stool

Hb and the serum Alb were decreased to 8.7 g/ml and 1.98 mg/dl, resp巴ctively,and endoscopic examination revealed

multiple occurrences of erosion and ulcer in the sigmoid colon. Type-AA amyloid deposition was shown in both cases

by biopsy. The digestive lesions were alleviated by treatments including central venous nutrition and th巴 stateof

nutrition was improved to Alb 2.9 g/dl. Although the incidence of amyloid deposition in the digestive tract is high in

amyloidosis, this finding is actually detected only in a few cases and treatment is often difficult. 1n the two reported

cases, both digestive lesions and nutritional stat巴improvedgreatly and considered worth r巴porting

Key words: digestive amyloidosis, therapy, central venous nutrition

Komatushima Red Cross Hospital Medical Journal4・27-30,1999

30 消化管アミロイドーシスの 2例 lくomatl1shimaRed Cross Hospital M巴dicalJOl1rnal