10

昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

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Page 1: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一44一

カトマンズ盆地の天然ガス(その2

ガス鉱床)

名取博夫(燃料部)

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本島公司・永田松三(技術部)

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滝沢文教(地質部)

FuminoriTAKI囲AwA

ガス鉱床

カトマンズ市およびその近郊の水井戸にはガス徴の

検出されるものが多い.この地区の井戸は地表付近

の宙水を対象とする浅井戸(写真14)と細粒の湖成堆積

物(層相皿)の下位に伏在する粗粒の河川堆積物(層相I)中

の地層水を対象とする200m以上の深井戸との2種類

に大別できる。ガス徴はどちらにも見られるが深井

戸のものほど著しい。今回の調査では18本の井戸を

調べたカミ(図15)その全てにメタンカミ検出された.ガ

ス質産状だとの点からカトマンズ盆地のガスの多く

は若い陸水堆積物中の地層水に溶存する水溶性天然ガ

スであることカミ明らかになった.

構造性ガスやポケットガスについては堆積盆地の規

模層相の変化の激しさ等からみて実用規模の鉱床の

存在する可鯉性はほとんどないと考えられる.

カトマンズ市南部において深度約200mの水溶性ガ

ス貯留層に逢着したボーリングの多くはガスを伴った

泥水を猛噴するが急速に減衰し1両目中に安定した

自噴に移行する.正確な観測記録はないが内径1.5

インチの側管をもつ人力ボーリング井の場合で水量

200k1/dガス量100m3/d程度に減衰してから安定す

る模様である.開坑時に猛噴するのは貯留層中に遊離

ガスカミ存在することを示しており貯留層の上位にある

湖成の泥質堆積物が帽子岩の役目をして水溶性ガス層

上部に遊離ガスを貯留しているものであろう.

開坑時に最も強く自噴した井戸の1つはパタン市北

西約2kmのコブドーノレ(K.pud.1)に掘削された地下水

井(図15NPC-08-1)である.この井戸は人力ボー

リングにより!974年に掘削されたものであるが掘削

深度カミ185mに達したところで大量の泥水とガスを吹

き上げコントローノレ不可能と狂った.土砂等の投入に

よる密閉工事も効果なく周辺の農地や民家に泥水によ

る大きな被害を与えた.猛噴は数目後におさまったが

坑壁カミ侵食されて直径数mの池(写真15)カ拙現した.

自噴はその後も継続し1979年5月現在目産数10キロ

リットノレの水と数10立方メートルのガスの自噴が目撃

された.重力探査の結果(図6・7Mo。。趾。。s㎜・nd

M蛆U・,1980)によるとこの井戸は第四紀堆積物に覆

われた基盤岩の潜丘の北麓部に位置していることカミわか

る.したがってこの付近には小規模の層位トラッ

プが存在し遊離ガスの共存する異常高圧の水溶性ガス

層が形成されていたものと考えられる.

カトマンズ市内においては200m以深の水溶性ガス

鉱床とは別に浅層にもガス徴がみられる.例えば

図15土のNPC-14号井は1979年1月に1.5インチの

人力ボーリングにより掘削された水井戸であるが深度

17mでガス層に逢着した.ガスは金属音を伴って数分

間噴出し砂を10m以上噴き上げたカミ水は付随してい

なかった模様である.この井戸は沼沢性堆積物ある

いは湖成堆積物中の小規模のレンズ状砂層中のガスポケ

ットに逢着したものと推定される.

写真13調査の根拠地としたネパール商工省鉱山地質局の本館

写真14霊場としても重要な自噴泉盆地東部バクタプールにて�

Page 2: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一4δ一

図15位置

黒丸:調査坑井白丸:参考井

水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然

ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

であり鉱床として成立するためにはガス発生源とな

り得る有機物に富んだ母層と孔隙率および濠透率の高

つ貯留層か適当な深度に伏在することが必要である.

一定量の水中に溶存し得るガス量は圧力に比例して増

加するので一般に鉱床の深度カミ大きいほどガス水比

も大きくなりガスの生産性が高くなる.しかし開

発コストとの関連で深過ぎても鉱床としての価値は低

下する.

水溶性ガス鉱床の成立には特殊な地質構造の存在す

る必要はないがガスの溶存する地下水の流失を防げる

盆状構造ないし地下水の閉鎖系を形成するような地質構

造が必要である.地層中の有機物や下位層からのガ

X印:有機物分析用堆積物試料採集地点

スの供給が現在も進行しつつあり

流失分カミ絶えず補わ

写真15

''灘.

ガスと水口)猛蜘三より入力ボーうシグ罪の坑壁カミ侵食さオ.、

て出現した地鉄箱を浮かベガスを採取しているバ

タン市北酉コブトールにて�

Page 3: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

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閉鎖度にかかわりなく鉱床が成立する.

ガス水比産出するガスと水の坑口における体積

比をガス水比といい水溶性ガス鉱床のポテンジャノレを

示す最も重要な指標とされる.

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回16計算ガス水比に刺する産出ガス水比(Ra/Rtx100)

Ra:産出ガス水比Rt:メタンの飽和ガス水比

はカトマンズ市街地南部の深井戸に1:2前後の高いガ

ス水比が観測された(表4および図16).このガスおよび

水は地表下200m以深の層相I(河川堆積物)の粗粒堆

積物中から産出している.ガス水比から計算された貯

留層中のメタンの飽程度はほぼ100%に達しており

この地区にポテンジャリティ100%の優良な水溶性ガス

鉱床の形成されていることを示す(図16).飽和度カミ

100%に達する区域の面積は内輪に見積って4k皿2で

ある.

産出ガス鐙前述のようにカトマンズ市街地南部の深

井戸は開口時に猛噴するものの急速に減衰し1両目

中には安定した自噴に移行する.掘削後1年内外の

1.5インチ側管仕上げの人力ボーリング井の場合目産

50~70m3のガスと100~160k1の水を自噴している.

カトマンズ市内で測定した動力揚水井も含む10弁の合計

目産ガス量は約500m3である.

カトマンズ市南部地区のガスを伴う自噴井の多くは

掘削後数年以内に自噴を停止するといわれる.自噴停

止後もガスの産出は続くがその量はわずかなものであ

る.自噴の停止については潜水層内の圧力の減衰の

他に坑内への砂の堆積孔明管の肩づまり側管や孔

壁の崩壊等に原因のあることカ茎予想されるがこの地区

の場合は孔明管の目づまりや砂の堆積のような坑内ト�

Page 4: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

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図17遊離ガスの分析値をプロットした三角ダイアグラム

図18遊離ガス中の二酸化炭素(C02)の含有率(m1/1)

ラフノレによるところカミ大きいものと考えられる.深井

戸の多くは内径1.5インチの鉄管仕上げの人力ボーリ

ング井と6~8インチ鋼管仕上げのスピンドルボーリ

ング(写真16)井であるが減衰後に改修工事の行われ

た様子カミほとんどない.人力ボーリングについては側

管径カミ小さいため改修工事は困難であるが大口径の井

戸については改修工事を試みる必要カ三あろう.

ガス質カトマンズ盆地の地下水開発井の坑口から採

集された遊離ガスはおおむね次のような組成を示す.

メタン

ニ酸化炭素

窒素

酸素

水素

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硫化水素

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これらの値は日本の平均的な可燃性水溶性天然ガス

のものと比べ二酸化炭素の値が相対的に高く窒素の

値が低いことを特徴としている.メタンの値はほぼ

平均に近いとみなされよう.メタンの含有率は鉱床

のポテンジャノレをよく反映しガス水比に対応して変動

する優向カ茎認められる.

図17はカトマンズ盆地の18本の坑口遊離ガスの分析

値(表4)をプロットしたCH4C02およびN2そ

の他の成分を頂点とする三弁ダイヤグラムである.

ダイヤグラム上に表われた顕著な特徴はCH4-C02

領域からCH4-N2領域への集中である.CH4-

C02型はカトマンズ市街地南部のガスホテンシャルの

高い地区を代表しCH4-N2型はポテンシャルの低い

周辺地区のものである.

二酸化炭素の高い含有率(図18)は若い堆積物から

発生するガスに共通の特徴であり有機物がガス発生の

活力を保っているかあるいは現世に近い地質時代まで

活性を保っていたことを示す.

硫化水素の含有率もガスのポテンシャルとよく対応

する関係カミ認められる(図19および16)ことから硫化水

素も有機物に由来するものと考えられる.

酸素はサンプリング運搬貯蔵化学分析などの

写真16カトマンズ市唯一の機械掘り掘削会社(Nepa1Intematiom1

Dri1-ingCo.)の所有する掘削機HoleMaster1500.�

Page 5: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

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図19坑口における遊離ガス中の硫化水素(H2S)の含有率

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過程で混入した空気の存在を示すものであろう.

水素は新しく掘削された井戸から検出される傾向カミ

あり鉄製の側管と地下水との間の反応によって生成し

たものであろう.

若い堆積物中から産出する水溶性ガス中のエタン

(C.H。)はしばしば炭化水素に対する熟成の進んだ下位

層や基盤からもたらされる例が多いカミカトマンス盆地

においては井戸の深度に無関係に検出されることから

メタンと共に第四紀の堆積物に由来するものと考えられ

る(図20).

ヘリウムは深度200m以上の6弁から検出されてお

り浅井戸からは検出され泣い.これらのヘリウムは

基盤に貫入した花開岩類等に含まれるウラン(235U)およ

びトリウム(232Th)の壊変に伴って生成され地質時代

写真17ガスの室内分析に使用した鉱山地質局の分析室

図20遊離ガス中のエタン(C2Ho)の含有率(%)

を通じて岩石中に蓄積されていたものが断層破砕帯等

を通路として上昇し第四紀堆積物中の地層水に溶け込

んだものであろう.基盤から由来したことは浅井戸

に検出されたいことによってもうらづけられる.

メタンを体積比にして75~80%含むカトマンズ盆地の

ガスは6,500~7,oooた。a1/Nm3の発熱量を有し燃料

ガスとして適している.メタンは燃焼効率カミ高く人

体に有害な一酸化炭素(CO)などの発生も少荏い.

また比重が小さいので空気中において拡散しやすく

LPGのようだ爆発事故も少ない.したがって家庭燃

料としては理想的なガスであるといえよう.しかし

ガスホテンシャノレの高い地区のガスに含まれる硫化水素

は人体に有害なばかりで狂くガス管や燃焼器具をも

侵すので都市ガスとして使用する場合には取り除く

(脱硫する)必要がある.硫化水素は褐鉄鉱との接

触や過マンガン酸カリウム(KMnO、)の水溶液による

洗浄によって容易にかつ低コストで取り除くことカミ

できる(福田・永田1974).

付随水カトマンズ盆地のガス付随水は淡い褐緑色

を呈し炭酸による軽い酸味をもつ.わずかに水酸化

鉄の沈澱が見られ金気や硫化水素臭を感じさせるもの

もある.鉄イオンの多いものは空気に触れると酸化

して褐色に変色する.一般にガス水化カ浦いほど溶

解物が多くだり灌灘用には適するが飲用には適さな�

Page 6: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一49一

くなる.

図21は17点の付随水の分析値をプロッ

トした水質キーダイヤグラムである.

このダイヤグラムは2つの陰イオン軸

(SO.2一十C1一およびHCO。■)と2つの陽イ

オン軸(C.2++Mg2+およびN。十十K+)と

によって構成される.カトマンズ盆地

の付随水は左上の菱形ダイヤグラム中

の重炭酸カノレジウム〔C・(HCO。)。〕型の領

域に全てプロットされる.その領域

を取り出して拡大したのが下のダイアグ

ラムである.

この図に見られるようにHC03一(重

炭酸イオン)の高い比率を反映して17

点中の16点までがHC03一>95%の領

域に集中する.No.14が離れた位置

にあるのはC卜(塩素イオン)の高い比率

.による.さらにこれらの水質は陽

イオンの相互の比率を反映して線状に配

列しA~Fの5つのグノレープに分ける

ことができる.Aグループはアルカリ

成分(N。十十K+)の比が最も高い.Cグ

ノレープはアノレガリカ童低くアノレカリ土成

分(C.2++Mg2+)が最も高い.

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ガス付随水の水質キーダイアダラム大きな三角ダイアグラムは左上の菱形

ダイアグラムの重炭酸カノレジウム〔Ca(HC0呂)2〕型領域の下半部を拡大したもの

一般にアノレカリ成分の比率は天水の侵入による初期

の段階の地下水中に高くアルカリ土類の比率はその後

の地下水の移動に伴ってじょじょに増加する.

したがってCグループの水は天水に対して閉鎖系を

形成し最も長く地層中に滞留していたものと考えら

れる.この水質上の特徴は天然ガスの分布のバタ

ーンともよく一致するので水質の地化学的調査は

この地方の水溶性天然ガス鉱床の有力な探査手段とし

て適用できる.

重炭酸イオン(HCO畠一)の濃度は単独でも水溶性

ガス鉱床の有力狂インディケーターとたる.図22は

付随水中の重炭酸イオン濃度の分布を示したものであ

る.700皿g/1の等濃度線で囲まれたカトマンズ市街

地南部の高濃度区域が図16に示されるガスのポテンシ

ャルの高い区域とよく一致していることが分かる.

重炭酸の生成は天然ガスの発生と密接な関係にある.

有機物が分解するとCH迅N2C02H20などに分

かれるが発生したC02の1部は地下水に溶けて重

炭酸(HCO。')に変化する.したがって地下水中の

重炭酸は天然ガス探査の重要なインディケーターの

1つになるのである.

このような地下水中の溶存成分を通じてガス鉱床を

探査する地化学的方法はガス水比の測定により直接

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Page 7: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一50一

表5第四紀炭素質細粒堆積物および基盤岩(頁岩)の有機物分析値

分析:永田松三・西村當子

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Ext.……ビチーメン量(有機溶媒により抽出された全有機物量)

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Ar……芳香族炭化水素

O-N-S…酸素窒素いおう化合物

Res・…・・残潜

HyR…炭化水素量(P+Cp+Ar)

Co・…・・有機炭素

Ch/Co…石油化度(ChはHyR中に含まれる炭素量すなわちCh=o.86×HyR)

ガス鉱床のポテンジャリティを判定することの困難た地

域や測点に対する有力な探査手段とたる.

カトマンズ盆地においては上述の溶存物質の他にも

アンモニウムイオン(NH。十)やホウ酸(HBO。)などの濃

度カミガス鉱床のポテンジャノレを示す有力なインディケ

ーターになることが明らかになった.

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図23有機物分析結果に基づく根源砦評価チャート

No.60は基盤岩(頁岩)他は全て第四紀の炭素質細

粒堆積物

ガス母鰯図23はカトマンズ盆地の第四紀堆積物中

から採集した6点の有機物に富む泥質堆積物と基盤の

ビンフエディ層灘から採取した頁岩1点の分析結果(表

5)を工藤ほか4名(1976)による石油根源岩評価チ

ャートにプロットしたものである.また図24はビ

チューメンを炭化水素O-N・S化合物およびアノレミナ

柱の残澁の3つに分けて示した三角ダイアグラムである.

これらの図から69番のサンブノレ(層相皿の細砂層中の爽

み)は炭化水素の含有率が高く有機物の熟成も進ん

でおり低度に石油を発生する能力と充分なガスを発生

する能力とを備えていることが分かる.残り5点の泥

wdrooヨrho冊

69'⑧���

�30o㊥�27b62㊥圃蜜22240�百。

O-H-S㎝皿岬d・'R筥舳信

図24ビチューメンの比率を示す三角ダイアグラム

No.60は基盤岩(頁岩)他は金て第四紀の炭素質

細粒堆積物�

Page 8: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一51一

頁サンブノレ(24・と30・ほ層相I,22と27bは層相1I,62

は層相皿)はアノレミナ柱の残澁に富み熟成度が低く

重炭化水素を発生する能力はたいカミメタンを発生する

能力は充分に備えていることが明らかである.基盤か

ら採取した頁岩(N。.60)は石油ガス共に発生する

能力を欠如している.

このようにガスの発生能力を充分に備えた堆積物は

層相I(河川堆積物)層相n(湖成デルタ堆積物)層相

皿(湖成堆積物)のどのタイプの堆積物の中にもあるが

水溶性ガス鉱床との関連では層相Iの中のものが最も

重要である.

カトマンズ市街地南部の地表下200m以深のガス鉱床

は層相Iの中の有機物に営んだ堆積物から発生したメ

タンカミ同相の砂礫層の中の地下水中に静水圧に対応し

て溶存し成立しているものと考えられる.

飽和ガス埋蔵鑑カトマンズ市街地南部の200m以

深の貯留層から産出する水溶性ガスはガス水比ガス

質水質産状の間にきわめて良好な地球化学的調和カミ

保たれているので次のような条件を設けることによっ

て飽和ガス埋蔵量を計算することカミできる.

この計算飽和ガス埋蔵量は長野県諏訪湖ガス田の湖

岸地区の水溶性ガス鉱床規模にほぼ匹敵する.諏訪湖

南岸のガス田においては深度100~200mの鉱床から

およそ100年間にわたって生産カミ続げられ日産1,000m3

内外のガスが採取されている.

ガスの利用状況調査した坑井の中の数坑においては

小型ガスタンク(写真!8)が設けられてガスが採集さ

れ炊事用などの燃料ガスとして使用されている.1

弁当たりの利用率は低く1~数個のガスコンロに供給

されているにすぎない.タンクとコンロとの間はパイ

プで直結されており防爆用のプリベンターが欠如する

など保安上の配慮が不足している.

1弁のガス自噴量を50m3/dメタン含有率を75%

気圧を0・85atmとすると1弁当たりのメタン自噴量は

約32m3/dとなる.日本における標準家庭の1目の都

市ガス使用量はメタン換算で約1nユ3であるから32m3

のメタンは32戸分の使用量に相当する.カトマンズの

標準家庭においては暖房風呂給湯などに日本ほ

どガスを使うことは考完られないので日本の家庭32戸

分のガスはその何倍かの家庭の需要をまかたい得るこ

とに怒る.

ポテンシアルが100%を越える区域の面積・…4km2

貯留層の平均層厚・…60m

貯留層の孔隙率…・35%

平均ガス水比(G/W)・…!:2(=α5)

したがって

計算飽和ガス埋蔵量=4,000,O00×60xO.35×o.5

�����㌩

写真18ホテルの調理用ガスを採集するセパレー多一そNPG1O)

カトマンズ市中央部マラポテルにて

ガスの価格カトマンズ市においては燃料として薪

炭燈油の他にLPGも使用されている.したカミっ

てこれ等の燃料の単位熱量の価格を比較することによ

ってカトマンズ市において販売し得る天然ガスの価格

を計算することカミできる.

表6はカトマンズ市における各種燃料の単価と

10,000Kca1当たりの価格を示している.表中におけ

るメタンの価格は同量の熱量を発生するメタンの価格

写真19バタン市の国営工業団地における鋳物工房木炭火力により

みやげ用の仏像を作っている�

Page 9: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一52}

がLPGと等しいという条件に立

って求めた計算値である.

カトマンズ盆地の天然ガスのメ

タンの含有率を75%カトマンズ

市の標高1,300mの気圧を0.85atm

とすると同市において販売し得

る天然ガスの最低価格は1979年

6月現在で次の通りである.

表6カトマンズ市にお1ナる各種燃料の単価および10,000K631当りの価格の比較表

�発熱量�単価�Rs/1o,oo0Kcal

メタン�9,oo0Kca1/m3�Rs3,82/m$�Rs4.24

プロパン(LPG)�23,560Kca1/In割2kg/m8�Rs5.oo/kg�Rs4.24

燈油�10.5Kca1/99,400Kcal/1�Rs3.oo/1�Rs3.19

電力�860Kca1/KWH�Rs0,40/KWH�Rs4.65

木材�5,oo0Kca1/}9�Rso.30/kg�RsO.60

Rs3.82×o.75×o.85=Rs2,44/m3(=44.7円/m3)

ここで最低価格としたのはメタンを主成分とするガ

スはLPGよりも熱効率便利さ安全性放との点で優

れているからである.

Rs1.OO:18.6円

人力ボーリング

カトマンズ盆地においては人力による独特の方法に

より地下水井(写真21)が盛んに掘削されており低コ

ストの適合技術として注目に価する.現地滞在中には

残念ながら掘削中の現場を見学する機会には恵まれな

かったカミ原理はおよそ次のようなものであるといわれる.

下端を竹ヤリ状に切断した口径1.5インチの鉄管を掘

り管とし掘り管上部に別の鉄管を直角に縛り付けハン

ドノレとする.地表には3本の丸太でヤグラを組み横

棒を取り付けハンドルを乗せて支点とする.

掘削に当っては人力でハンドノレを上下にあおり掘

進に伴ってハンドノレを操作する人数を増やす.掘り

屑の除去には乾燥させた牛糞を混ぜた泥水を使用する.

牛糞混じりの泥水は掘削孔を中心として地表に掘っ

た泥水溜りに貯える.掘削時に1人力ミヤグラの上に

乗り掘り管の上端に手のひらを当て掘り管カミ上に向

う時は押さえ下降するときは開ける.この操作を繰

り返すことによって手のひらは手押しポンプの水止弁

の役割りをし掘り管が下降するときに掘り屑混じり

の泥水がその上端からオーバーフローし掘進を促す.

最後に掘り管を引き上げその一部にフィルターパイプ

写真20燃えるものなら何でも焚くバクタブールのお好み焼き屋

写真21ガスと水を勢いよく自噴する人力ボーリング井

�偃��

η真22人力ボーリング井の坑底に挿入されるインド製のフィルター

パイプ内径1.5インチの鉄製孔明管を真鎗の網で被い

更にその外側を薄い真鐵板で被っている�

Page 10: 昭和55年9月 - Geological Survey of Japan / AIST一4δ一 図15位置 黒丸:調査坑井白丸:参考井 水溶性天然ガス鉱床の成立条件可燃性の水溶性天然 ガスは地下水中に溶存するメタンを主成分とするガス

一53一

(写真22)を取り付け再び挿入し側管として使用する.

カトマンズ市および南接するパタン市内にはこの方

法によって掘った200mクラスの井戸が多数あり深い

ものでは230mを越える.掘削に要する時間は200m

井の場合1組5~6人3交替24時間作業として

早いものでは1週間で完成する.掘削費は工事費と

して約11,000ルピー鉄管およびフィノレター代として約

9,000ノレピー合計約20,000ルピー(約36万円)程度であ

る.

おわりに

カトマンズ盆地の天然ガスは第四紀の陸水堆積物中

に胚胎する小規模の水溶性天然ガスであり化学工業原

料たどを目的とする大規模開発の対象となり得るもので

はない.しかし板カミらこの鉱床は燃料亭膚の悪い人

口欄密なカトマンズ市街地の直下にあり地の利を得て

いるため民生用家内工業用などの燃料ガスとしての小

規模開発に対しては充分経済的価値を有するものと考

えられる.

長野県諏訪湖沿岸においてはカトマンズ盆地と規模

タイプ共に類似した水溶性ガス鉱床カミ商業的に開発さ

れ過去100年間にわたって日産10,O00m3内外のガ

スが生産されてきた.

カトマンズ市街地南部において仮に日産1,000m3

のガスカミ生産されれぱこの地方の生活水準からみて

2,000戸以上の家庭に燃料ガスを供給することができ

燃料亭庸の緩和生活向上にと寄与するところがきわ

めて大きい.

ネパール鉱山地質局ではこの鉱床の適正開発規模を

策定するため早速この地区において側管口径4インチ

深度300m程度の試験井を掘削し動力揚水による生産

テストを実施する計画を進めている.

写真23UNDP(国連開発計画)の鉱床探査チームカ…専有し

ている鉱山地質局の研究棟

今回の調査中に行った鉱床のポテンジャノレに関する調

査は時間的制約によりカトマンズ市南部を中心とす

る面積約60長m2の区域にとどまった.したがって今

後残る200友m2の第四紀陸水堆積物分布区域のポテン

シャルを既存地下水坑井の地化学調査等を通じて解明

する必要がある.またカトマンズ盆地は基盤地形

上から見る限り深部ほど閉鎖度が高く地下水の流動

が小さくなると予想されるため盆地深部に優良な水溶

性ガス鉱床の潜在することカミ期待される.したがって

第四紀陸水堆積物の厚く発達する地区において基盤に

達する試験井を掘削し盆地全域に発達の予想される深

部粗粒堆積物のガスホテンシャルを解明し盆地全体に

わたる適正な開発・利用規模を総合的に把握すること

も必要である.

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