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松本直樹 新堀淳樹 津田敏隆, 京都大学生存圏研究所 (RISH)

松本直樹 新堀淳樹 津田敏隆 京都大学生存圏研究所 (RISH) · 南アジアTirunelveli 上空90kmにおける月平均 東西風 • 半年周期振動(SAO)が卓

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松本直樹 新堀淳樹 津田敏隆,京都大学生存圏研究所 (RISH)

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アジア・オセアニア域におけるMLTレーダーネットワーク

1990年以降アジア太平洋地域において、中間圏および下部熱圏(MLT)領域にあたる上空70-110kmの風速を観測する流星・MFレーダーが数多く運用されてきた。

本研究においては同一システムを持ち、赤道に沿って4000km離れた場所に設置されている二つの流星レーダー(Koto Tabang とBiak) を用いた

また南インドTirunelvelMFレーダーとジャワ島のPmeungpeuk MFレーダも用いた。

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NRL Chemical/DynamicaModel of the Middle Atmosphere (CHEM2D) a two-dimensional, zonally-averaged model(McCormack, 2003)

StratosphericQBO

StratosphericSAO

MesosphericSAO

逆位相

周期:22-30ヶ月

低緯度におけるQBOとSAOの基本的な性質

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南アジアTirunelveli 上空90kmにおける月平均東西風

• 半年周期振動(SAO)が卓越しているのが見て取れる。これに加え、1993,1995,1997,2000,2002年において2年ないし3年に一度、SAOの西向きフェイズが強まっていることがわかる。

• この現象はMesosphereic QBO (M-QBO) [Burrage et al., 1996]. とよばれている。

• またこの現象は M-QB Enhancement (M-QBE), とも呼ばれる。これは、S-QBOが周期的に発生するのに対し、この現象が2月から4月に西向きだけ発生することによる。 [N.V.Rao et al., 2012].

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短周期重力波の分散とMQBEの西向きフェイズが同時に発生する現象について

• 上図:Pameungpeuk上空88kmにおける2008,2009,2010年の1月から5月にかけての東西風速

• 下図:短周期重力波(20-120分)による風速の分散。太実線は5日移動平均線• 矢印に示すように、この二つのグラフにはよい対応が見られる。この結果

から重力波がMQBEを駆動しているのではないかという推察ができる。[N.V. Rao et al., 2012].

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本研究の目的

重力波がMSAOを駆動し、MQBEに影響を与えているのではないかと考えられている。そのため、重力波の運動量フラックス(u’w’)を計測する必要が出てくる。

Vincent and Reid (1983) は大型大気レーダーを用いて運動量フラックスを測定するbeam pair法を開発した。

Hocking (2005) は簡素な流星レーダーを用いてu’w’を計測する新しい方法を発表した。

本研究では、赤道域に設置されている二つの流星レーダー(Koto Tabang と Biak)によって2011-2013年の間に同時観測されたデータを用いてHocking法の有効性を確認する。

さらにKoto Tabang においては2002-2013の長期間にわたるデータがあるため、u’w’の長期変動特性についても議論する。

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Method(ビームペアを用いた方法)

θθ

V1

U’

W’V1,V2:視線方向風速

W’,U’:平均風からのずれV2

-U’

W’

V1=W’cosθ + U’sinθV2=W’cosθ - U’sinθ

V12=W’2cos2θ + 2U’W’sinθcosθ + U’2sin2θ

V22=W’2cos2θ – 2U’W’sinθcosθ + U’2sin2θ

Vincent and Reid 1983

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Method(ビームペアを用いた方法)

θθ

V1

U’

W’V1,V2:視線方向風速

W’,U’:平均風からのずれV2

-U’

W’

V1=W’cosθ + U’sinθV2=W’cosθ - U’sinθ

V12=W’2cos2θ + 2U’W’sinθcosθ + U’2sin2θ

V22=W’2cos2θ – 2U’W’sinθcosθ + U’2sin2θ

U’W’ = (V12-V2

2) /2sin2θ Vincent and Reid 1983

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流星を用いた運動量フラックスの測定法

VE,VW:視線方向風速W’,U’:平均風からのずれ

VE=W’cosθ + U’sinθVW=W’cosθ - U’sinθ

U’W’ = (V2W-V2

E) / 2sin2θ

しかし赤道域には現在MUレーダーが存在しない。→流星レーダーを用いて計測する方法が Hocking(2005) で提唱された。

θθ

流星エコー

枠内について積算

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Method(流星エコーを用いた方法)Λ = Σ(V’rad^2 – V’radm^2)^2 ・・・①とおく

V’rad :観測された視線方向速度と平均風から導かれた視線方向速度との差V’radm:未知数である風速摂動が(u’,v’,w’)だったと仮定したときの視線方向速度和は各流星エコーごとの値の和

すなわち V’radm = u’sinθcosφ + v’sinθsinφ + w’cosθであってθ,φは流星の位置を球面座標系で表したときの天頂角と方位角

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Method(流星エコーを用いた方法)Λ = Σ(V’rad^2 – V’radm^2)^2 ・・・①とおく

V’rad :観測された視線方向速度と平均風から導かれた視線方向速度との差V’radm:未知数である風速摂動が(u’,v’,w’)だったと仮定したときの視線方向速度和は各流星エコーごとの値の和

すなわち V’radm = u’sinθcosφ + v’sinθsinφ + w’cosθであってθ,φは流星の位置を球面座標系で表したときの天頂角と方位角

①のV’radmを展開して

Λ=Σ{(V’rad2)-(u’2sin2θcos2φ+v’2sin2θsin2φ+w’2cos2θ

+2u’v’sin2θsinφcosφ+2u’w’sinθcosθcosφ+2v’w’sinθcosθsinφ)}2

これらu’2 , v’2 , w’2 , u’v’ , u’w’ , v’w’ を求めたい。

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Method(流星エコーを用いた方法)Λ = Σ(V’rad^2 – V’radm^2)^2 ・・・①とおく

V’rad :観測された視線方向速度と平均風から導かれた視線方向速度との差V’radm:未知数である風速摂動が(u’,v’,w’)だったと仮定したときの視線方向速度和は各流星エコーごとの値の和

すなわち V’radm = u’sinθcosφ + v’sinθsinφ + w’cosθであってθ,φは流星の位置を球面座標系で表したときの天頂角と方位角

①のV’radmを展開して

Λ=Σ{(V’rad2)-(u’2sin2θcos2φ+v’2sin2θsin2φ+w’2cos2θ

+2u’v’sin2θsinφcosφ+2u’w’sinθcosθcosφ+2v’w’sinθcosθsinφ)}2

これらu’2 , v’2 , w’2 , u’v’ , u’w’ , v’w’ を求めたい。

「これら未知数はΛを最小化させるべきである」と仮定して、これら摂動量を変数と看做して微分して0とおくことで式を導く

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Method(流星エコーを用いた方法)Λ = Σ(V’rad^2 – V’radm^2)^2 ・・・①とおく

V’rad :観測された視線方向速度と平均風から導かれた視線方向速度との差V’radm:未知数である風速摂動が(u’,v’,w’)だったと仮定したときの視線方向速度和は各流星エコーごとの値の和

すなわち V’radm = u’sinθcosφ + v’sinθsinφ + w’cosθであってθ,φは流星の位置を球面座標系で表したときの天頂角と方位角

①のV’radmを展開して

Λ=Σ{(V’rad2)-(u’2sin2θcos2φ+v’2sin2θsin2φ+w’2cos2θ

+2u’v’sin2θsinφcosφ+2u’w’sinθcosθcosφ+2v’w’sinθcosθsinφ)}2

これらu’2 , v’2 , w’2 , u’v’ , u’w’ , v’w’ を求めたい。

「これら未知数はΛを最小化させるべきである」と仮定して、これら摂動量を変数と看做して微分して0とおくことで式を導く

u’2で微分したときの式

Σ{(V’rad2)-(u’2sin2θcos2φ+v’2sin2θsin2φ+w’2cos2θ

+2u’v’sin2θsinφcosφ+2u’w’sinθcosθcosφ+2v’w’sinθcosθsinφ)}sin2θcos2φ=0

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Method(流星エコーを用いた方法)すべての変数について微分して0とおいたものを並べると

この方法は、φ=180°,0°の場合を考えることでビームペアを用いた方法に帰着させることができる

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データ解析手法

まず2h*4kmのbinを定義する。このbinは中心高度を86kmから94kmまで2kmずつずらし、中心時間を1時間ずつずらして作る。

そして流星が30個以上観測されたbinについて、Hockingの方法に基づいてu’w’を計算する。

さらに一ヶ月ごとに月平均運動量フラックスを計算する。また、有効なbinが(1月730bin中)100個以上ある月については、特に精度よくu’w’が計算できた月とする。

計算された月平均運動量フラックスについて、スペクトル解析を行い、卓越周期を確認した。

Koto Tabangにおいては長期観測データがあるので、2002-2013において計算された月平均運動量フラックスを用いて長期変動を解析した。

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2011/12-2012/3 2013/6-2013/9の二つの期間において、u’w’の月平均データは精度よく計算されており、これらの変動がKTBとBIKでよく似ている

KTBとBIKにおけるu’w’の比較

-283.19

実線は有効bin数が100を超えているもの、破線はそれに満たないものを指す。

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Koto Tabang における2002-2013の月平均u’w’の長期変動解析に用いた全月数を左に示した

-583

281 498

233

480

243

-215

498

316

-283

203

-283

255

68

95

97

93

80

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86km

Koto Tabang 上空 86 - 94 kmにおけるu’w’月平均値の季節変動の卓越周期

青矢印は6ヶ月周期を示している。

88km

90km

92km

94km

X軸:周期(月)Y軸: power

u’w’のスペクトル解析の結果、86 kmと 92 kmにおいて6ヶ月周期が卓越していることがわかる。

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• 各月ごとにu’w’の値を平均して、季節変動を左図に示した。エラーバーは95%信頼区間を表す。

• 86kmと88kmでは2-4月/7-9月は東向き、5-7月/10-1月は西向きとなっていて、きれいな半年周期がみられる

• この傾向は90,92kmでもみられるが、不規則な変化がところどころでみられる

• 94km におけるu’w’ はほとんどの月で東向きとなった。しかし半年周期の季節変動は同様にみられた。

KTB上空86-94kmにおけるu’w’の季節変動

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まとめ

Hocking法を適用し、インドネシアの赤道直下に設置された二つの流星レーダー(Koto TabangとBiak)を用いて運動量フラックス(u’w’)を計算し見積もった。

2011/12-2012/3,2013/6-2013/9の二つの期間において、流星エコーの数が十分多く捕捉され、精度よくu’w‘が計測されたと考えられる。この期間において二つの観測所におけるu’w’の月平均値はよく似た変動をしていた。このことからHocking法の妥当性が示唆される。

Koto Tabangにおいては2002/11~2013/12までの長期間データが存在するので、u’w’の長期変動を解析した。スペクトル解析では半年周期の振動が確認された。

86-90 km におけるu’w’は 2-4月/7-9月において東向きであり、これはMSAOの位相と正反対である。94 kmでは u’w’ のコンポジット値はほぼ常に東向きであった。

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流星エコーを用いた方法の条件 MUレーダーであれば一様にビームを発することができるが、流

星飛跡を利用している流星レーダーでは流星が降ってきた場所のデータしか得ることができない。そのため、一定時間一定区画(bin)を区切ってその中に入った流星のデータを積算する。そしてペアとなるbinのデータを用いてMUレーダーと同じように運動量フラックスを計算する。

そのため、ペアとなるbinを作るためには流星がどの方角にも偏りなく降り注いでいることが必要。

MUレーダーでもビームペアの両端で平均風は同じであると仮定しなければならない。MUレーダー場合、ビームペアは天頂角10°程度に打ち出すので、高度90kmにおいてその広がりは半径16km程度であるから半径約16km圏内の風が一様であればよかった。

対して流星レーダーでは天頂角15°から45°の流星を拾うので、高度90kmにおいて半径約100kmの範囲内の風が一様であることが要請される。またbin内で流星データを積算するので、積算時間2時間~4時間のあいだ風が一様とみなせることが求められる。