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地下水等総合観測点(安濃観測井)周辺の地下構造調査 山口 和雄*,塚本 斉,高橋 誠,小泉尚嗣(産総研), 伊東俊一郎(サンコーコンサルタント), 今吉 隆(阪神コンサルタンツ) Seismic surveys around the integrated groundwater observation station at Anou, Mie Prefecture Kazuo Yamaguchi * , Hitoshi Tsukamoto, Makoto Takahashi, Naoji Koizumi (AIST), Shunichiro Ito (Suncoh Consultant) and Takashi Imayoshi (Hanshin Consultants) Abstract: AIST has equipped fourteen groundwater observation stations between the Tokai and the Shikoku district with measuring instruments since 2006 to predict the Tonankai/Nankai earthquake. Three boreholes were drilled down to 30m, 200m, 600m at each station. The instruments are water thermometer, water gauge, strain gauge, angle meter, seismometer and GPS. These data are sent to AIST in real time and they are open in WEB site. Several surveys were conducted at each station. They are subsurface structure survey, core sampling and analysis, well logging, hydrogeological survey, stress measurement and so on. The subsurface structure surveys are seismic reflection survey or hydrophone VSP. We review the specification of the reflection surveys and report the result of recent seismic reflection survey at the Anou observation station, Mie Prefecture. 1. はじめに 産業技術総合研究所は,東南海・南海地震予測のた めに,東海~四国周辺に地下水等総合観測施設を 2006 年から順次整備し,2009 年度末までに 14 点を新しく 設けた( 1 図上) .それらの施設は,過去の南海地震前 後の地下水変化と最近の深部低周波微動および短期的 ゆっくり滑りの研究を考慮して,第 1 図下のような観 測システムとした.1 つの観測点に深さ 600m200m30m 3 本の井戸を掘削し,水位・水温・歪・傾斜・ 地震計と,近くに GPS 観測点がない場合は GPS を設 置した.観測データをリアルタイムで産総研に送り, それらは WEB で公開されている.新規整備に際して, 観測データの高度な解析のために,構造調査,深さ 600m までのコア採取・分析,検層,坑井とその周囲の 水文調査,種々の応力測定等も実施した( 以上,小泉他 (2009)) 本論文では,構造調査のうちの反射法地震探査の概 要を紹介し, 2009 年度に整備された三重県安濃観測井 周辺の反射法結果について報告する. 2. 構造調査の概要 構造調査は,原則として,成層構造が予想され何ら かの構造イメージが得られそうな地区では反射法地震 探査を,反射面が期待出来ない地区ではハイドロフォ VSP をそれぞれ実施した( 山口他,2009) .これまで 1 図 産総研の地下水等観測網と観測システム 赤丸と青丸:新規観測点,黒丸:従来の観測点 灰色の領域:深部低周波微動および短期的ゆっくり滑り が発生していると考えられる地域.小泉他(2009) より引 用. 講演番号 P-3 社団法人 物理探査学会第123回学術講演会論文集(2010) 246

地下水等総合観測点(安濃観測井)周辺の地下構造調査they are open in WEB site. Several surveys were conducted at each station. They are subsurface structure survey,

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地下水等総合観測点(安濃観測井)周辺の地下構造調査

山口 和雄*,塚本 斉,高橋 誠,小泉尚嗣(産総研), 伊東俊一郎(サンコーコンサルタント),

今吉 隆(阪神コンサルタンツ)

Seismic surveys around the integrated groundwater observation station at Anou, Mie Prefecture

Kazuo Yamaguchi*, Hitoshi Tsukamoto, Makoto Takahashi, Naoji Koizumi (AIST),

Shunichiro Ito (Suncoh Consultant) and Takashi Imayoshi (Hanshin Consultants)

Abstract: AIST has equipped fourteen groundwater observation stations between the Tokai and the Shikoku district with measuring instruments since 2006 to predict the Tonankai/Nankai earthquake. Three boreholes were drilled down to 30m, 200m, 600m at each station. The instruments are water thermometer, water gauge, strain gauge, angle meter, seismometer and GPS. These data are sent to AIST in real time and they are open in WEB site. Several surveys were conducted at each station. They are subsurface structure survey, core sampling and analysis, well logging, hydrogeological survey, stress measurement and so on. The subsurface structure surveys are seismic reflection survey or hydrophone VSP. We review the specification of the reflection surveys and report the result of recent seismic reflection survey at the Anou observation station, Mie Prefecture.

1. はじめに

産業技術総合研究所は,東南海・南海地震予測のた

めに,東海~四国周辺に地下水等総合観測施設を 2006

年から順次整備し,2009 年度末までに 14 点を新しく

設けた(第 1図上).それらの施設は,過去の南海地震前

後の地下水変化と最近の深部低周波微動および短期的

ゆっくり滑りの研究を考慮して,第 1 図下のような観

測システムとした.1 つの観測点に深さ 600m,200m,

30m の 3 本の井戸を掘削し,水位・水温・歪・傾斜・

地震計と,近くに GPS 観測点がない場合は GPS を設

置した.観測データをリアルタイムで産総研に送り,

それらはWEBで公開されている.新規整備に際して,

観測データの高度な解析のために,構造調査,深さ

600mまでのコア採取・分析,検層,坑井とその周囲の

水文調査,種々の応力測定等も実施した(以上,小泉他

(2009)).

本論文では,構造調査のうちの反射法地震探査の概

要を紹介し,2009 年度に整備された三重県安濃観測井

周辺の反射法結果について報告する.

2. 構造調査の概要

構造調査は,原則として,成層構造が予想され何ら

かの構造イメージが得られそうな地区では反射法地震

探査を,反射面が期待出来ない地区ではハイドロフォ

ン VSP をそれぞれ実施した(山口他,2009).これまで

第 1 図 産総研の地下水等観測網と観測システム

赤丸と青丸:新規観測点,黒丸:従来の観測点

灰色の領域:深部低周波微動および短期的ゆっくり滑り

が発生していると考えられる地域.小泉他(2009)より引

用.

講演番号 P-3 社団法人 物理探査学会第123回学術講演会論文集(2010)

246

に実施された構造調査の内容を第 1 表に示す.

反射法は,観測点の場所選定を目的としておらず,

観測点で得られる地下水や地震等の観測データの高度

な解析に資することを目的としている.そのため,反

射法の実施時期は観測点の場所が決まった後であり,

大半は坑井掘削期間中であった.調査測線はできるだ

け観測点近傍を通り周辺地質構造の走向に直交する方

向に配置したが,室戸,阿南,串本では測線と観測点

は数 100m から 1km 離れ,室戸の測線は地質構造と低

角で斜交する.著名な地質構造線として高知地区・阿

南地区に仏像構造線,飯高地区に中央構造線が存在し,

高知・飯高の測線はそれぞれの構造線を横切る.測線

長は地区の状況に応じて1.4kmから8.6km程度である.

調査仕様は,受振点間隔 10m,発震点間隔をその半

分の 5m,最大オフセット 600m以上を基準とした.こ

れは,探査深度を坑井深度の 30m から 600m 程度と想

定し,それに適した測点間隔やオフセットを採用した

ものである.震源装置は,深度 600m 以上の探査能力

を条件とし,油圧インパクタ,ミニバイブ,エンビロ

バイブを使用した.

得られたデータは CMP 重合法で解析し最終的に深

度断面まで作成した.反射断面の地質解釈では,既存

の地質データと坑井掘削で新規に得られた地質データ

や検層データを参照するとともに,データ取得時のノ

イズやデータ解析で生じたノイズにも留意した.

飯高,紀北,串本,阿南,室戸,高知,松山,西予

の 8 地区の調査結果は山口他(2009)を参照されたい.

第 2 図 三重県安濃観測点周辺の地質と反射測線

赤線がCMP 測線,数値はCMP 番号.

測線はV1,Q1,Q2 の 3 本.V1 とQ1 の範囲を←→

で示す.

基図として吉田他(1995)と宮村他(1981)を使用.

地点 地区 県名 手法 測線方向 震源 年度調査 CMP

N1 豊田 愛知 VSP 2007N2 飯高 三重 反射 南北 3.4 2.9 油圧インパクタ 2007

N3 紀北 三重 反射 南北 5.1 4.4 油圧インパクタ 2007N4 熊野 和歌山 反射 東西 2 1.7 油圧インパクタ 2006

N5 本宮 和歌山 反射 北西-南東 3.3 3.2 油圧インパクタ 2006N6 串本 和歌山 反射 南北 2 1.6 油圧インパクタ 2007

反射 南北 2 1.6 ミニバイブN7 阿南 徳島 反射 南北 4.2 3.5 油圧インパクタ 2007

N8 室戸 高知 反射 東西 2.5 2.2 ミニバイブ 2007N9 高知 高知 反射 南北 5 4.2 ミニバイブ 2007

N10 松山 愛媛 反射 東西 1.6 1.5 油圧インパクタ 2007反射 南北 1.6 1.3 油圧インパクタ

N11 西予 愛媛 反射 南北 3.2 2.7 油圧インパクタ 2007N12 土佐清水高知 VSP 2007

N13 須崎 高知 VSP 2009N14 安濃 三重 反射 東西 2.1 1.8 ミニバイブ 2009

南西-北東 8.6 7.8 エンビロバイブ南北 1.4 1.3 油圧インパクタ

VSP計 46.6 40.4

測線長km 第 1 表

各地区の構造調査の内容

串本は震源種類を変えて同

一測線で調査.

松山は直交 2測線で調査.

安濃は本文参照.

247

3. 三重県安濃地区の構造調査

最も新しく整備された三重県安濃観測点の周辺では,

構造調査としてハイドロフォンVSPと反射法の両方を

実施した.

構造調査は 2回に分けて行った(第 2 図,第 2 表).

1 回目の調査は,坑井が 600m付近まで掘削された直

後に VSP 調査(ゼロオフセット,ウォークアェイ)を実

施した.ウォークアェイVSPでは,観測井直近を通る

長さ 2.1km の地表範囲(測線V1)に発震点と受振点を設

定し,反射法の形態でのデータも同時に取得した.

2 回目の調査は,測線 V1 の東側約 1km を重ね,そ

の北東の亀山市天神までの平野・丘陵が分布する8.6km

の範囲(測線 Q1)と,さらに,安濃地区で測線 Q1 に交

差する南北 1.4kmの範囲(測線Q2)で反射法を実施した.

以下では,これらのうちの反射法結果について述べ

る.

4. 反射断面

第 3 図,第 4図に各測線のCMP 重合時間断面と深度

断面を示す.

V1とQ1では深度1km程度までの反射面が捉えられ

た.CMP440 より西は布引山地の花崗閃緑岩の分布域

であることと,周辺平野部の深層掘削で花崗岩類の基

盤が確認されていることから,調査域付近の基盤岩は

花崗岩類と推定される.反射断面によれば,基盤は,

一志断層を境に東方に急激に深くなると考えられる.

山麓沿い丘陵には中新統一志層群が分布し,東方の伊

勢平野の地下には鮮新統-更新統の東海層群が厚く分

布する.反射断面では,東海層群と推定される堆積層

の下位に傾斜不整合で成層する反射面が存在し,特に

CMP2600 より北東で顕著である.地表地質で推定され

た志茂登向斜と高野尾背斜の地下に褶曲が認められ,

地質図に断層や褶曲軸の記載はないが,CMP1600 付近

に撓曲状の構造が見られる.

Q2 ではCMP600 付近で浅くなる反射面が基盤上面,

その上が一志層群と考えられる.この反射面は南側で

深度 50m,CMP600 より北側に深くなり最深部で深度

100m程度である.

反射法結果から,花崗閃緑岩と一志層群の境界は西

傾斜ではなく,緩い東傾斜であることが判明した.こ

れはウォークアウェイVSP 結果とも整合する.

布引山地の花崗閃緑岩中に石英閃緑岩や領家変成岩

類が捕獲岩として産出する.CMP440 より西側の花崗

閃緑岩の分布域の地下に反射面らしきイベントが見ら

れる.これらイベントは花崗閃緑岩の岩体内の捕獲岩

からの反射を捉えたもの,あるいは,花崗閃緑岩内の

断裂構造に対応するもの,などと考えられる.

5. まとめ

産総研が進めている地下水等観測点整備事業の概要

を紹介し,事業の一環として三重県安濃観測点の周辺

で実施した反射法地震探査について報告した.

謝辞

調査実施に際してご協力いただいた津市役所,亀山

市役所,三重県庁に感謝します.

第2表

安濃地区の構造調査の諸元

測線名 測線V1 測線Q1 測線Q2測線長 2,125m 8,673m 1,400m

測線位置 坑井近傍~山麓 山麓~平野部 山麓沿い平野部探査深度 深度600mまで 深度1kmまで 深度100mまで

震源 ミニバイブ エンビロバイブ 油圧インパクタスイープ周波数 20~120Hz 10~100Hz

スイープ長 16秒 18秒発震点間隔 5m 5m 2.5m

発震点数 533点 1569点 533点垂直重合数 最大16回 最大20回 最大12回

受振点間隔 5m 10m 2.5m受振点数 426点 840点 550点

最大受振距離 600m以上 1,000m以上 200m以上展開 固定3パタン エンドシューティング 100ch+20ch

同時収録ch数 120ch以上 120ch以上 120ch以上収録装置 DSS12 GDAPS4 GDAPS4

水平重合数 60 60 60CMP間隔 2.5m 2.5m 1.25m

CMP測線長 1,833m 7,808m 1,315m

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参考文献

小泉尚嗣他(2009) 東南海・南海地震予測のための地下

水等総合観測点整備について,地質ニュース,662,

6-10.

山口和雄他(2009) 地下水等総合観測点周辺の地下構

造調査,地質ニュース,662,23-31.

吉田史郎他(1995) 津西部地域の地質.地域地質研究報

告(5 万分の 1 地質図幅),地質調査所,136p.

宮村学他(1981) 亀山地域の地質.地域地質研究報告(5

万分の 1 地質図幅),地質調査所,128p.

第 3 図 V1 測線 Q1 測線の反射断面

上:CMP 重合時間断面,下:深度断面

横軸は CMP 番号,CMP 間隔は 2.5m,縦横比は 1:1.

第 4 図 Q2 測線の反射断面

上:CMP 重合時間断面,下:深度断面

横軸は CMP 番号,CMP 間隔は 1.25m,縦横比は 1:1.

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